(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178161
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】導波路テープ
(51)【国際特許分類】
G02B 6/124 20060101AFI20231207BHJP
G02B 6/34 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
G02B6/124
G02B6/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022104066
(22)【出願日】2022-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】522191473
【氏名又は名称】尾形 洋一
(72)【発明者】
【氏名】尾形 洋一
【テーマコード(参考)】
2H137
2H147
【Fターム(参考)】
2H137AB16
2H137BA34
2H137BA35
2H137BA42
2H137BA46
2H137BA55
2H137BA56
2H137BC25
2H137DB01
2H137EA02
2H147AB15
2H147AB16
2H147AB20
2H147AB36
2H147AC12
2H147BA01
2H147BB02
2H147BC03
2H147BC05
2H147BD03
2H147BE11
2H147BG04
2H147BG17
2H147DA19
2H147EA05D
2H147EA10D
2H147EA12D
2H147EA14D
2H147EA16A
2H147FA06
2H147FA08
2H147FC06
2H147FC08
(57)【要約】
【課題】人体を伝って光子を輸送できる生体導波路テープの試作ならびにその応用を提供する。
【解決手段】所定の位置に対して高分子ベースのテープ(18)を配置し、前記高分子テープの上には潮解性の山形ファセット基板を配置し、更に前記ファセット基板上には、SiO膜(15)によってサンドイッチされた誘電体あるいは金属ベースのナノ周期構造物(16)を配置し、リフトオフ手法を介して、前記高分子テープ(18)とナノ周期構造素子(16)の水素結合(17)からなる導波路テープを作製、前記導波路テープは光子を輸送する機能を備え、さらには、前記導波路テープは人体に貼り付けてイメージングシステムあるいは量子情報システムへの応用性を兼ね備えるのを特徴とする生体導波路素子デバイス(100)。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の位置に対して高分子ベースのテープを配置し、
前記高分子テープの上には潮解性の山形ファセット基板を配置し、更に前記ファセット基板上には、SiO膜によってサンドイッチされた誘電体あるいは金属をベースとしたナノ週構造物を配置し、リフトオフ手法を介して、
前記高分子テープと金属・誘電体ナノ周期構造物の水素結合等の組み合わせからなる導波路テープを作製、
前記導波路テープは光子を輸送する機能を備え、
さらには、前記導波路テープは人体に貼り付けてイメージングシステムあるいは量子情報システムへの応用性を兼ね備えるのを特徴とする生体導波路素子デバイス。
【請求項2】
請求項1に記載のデバイスは、
人体の皮膚、眼球、爪、あるいは体毛上に接着することが可能であり、また、柔軟性を帯びているために人体の関節部位に対しても接着が可能となる生体導波路素子デバイス。
【請求項3】
請求項1に記載のデバイスは、
切削加工が可能であり、加工により得られた形状は光子の伝送方向を変えたり、伝送する光子の状態を変えたりでき、使用状況に合わせて量子デバイスとしての価値が随所で設けられるような生体導波路素子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光子の伝達を目的とした誘電体ナノ周期構造物と高分子構造物からなる導波路テープの光学材料の試作、およびその生体利用に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、光子を伝送させる材料として石英からなる光ファイバーや銀コートされた中空ファイバーが用いられてきた(例えば、文献1参照)。ファイバーを用いれば、全反射(TIR)技術などを駆使して光子をファイバー先端から末端まで運ぶ(導波させる)ことが可能であった。
【0003】
近年では金属または誘電体周期構造物(グレーティング)からなる基板をブリッジとして使用し、同様に光子を端から端まで導波させることを可能にしている(例えば、文献2参照)。しかしながら、用いるのがファイバーにせよ基板にせよ、材料としてみればサイズや重量があったため、コンパクト化が一つの課題となることは間違いなかった。
【0004】
このような課題もあり、最近では薄膜式の導波路グレーティングの使用が期待されている。薄膜材料を用いれば薄くて、軽くて、丈夫なため、使用上あらゆる面で使い勝手が良い。一方で、新たな課題点として、材料に柔軟性を持たせたり、接着性を持たせたりして、設置における自由度を高める必要もある。人体の皮膚といった柔らかい場所にそれを貼り付けたりすることで、皮膚表面を伝う生体導波路素子としての応用が期待できる。究極的には、その生体導波路素子から光を取り出し、更に空中に集光点を創ることで、イメージングシステムにおける視線誘導光や空間照明光、量子情報システムにおける光子キーなどへの応用が期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2022/510319号広報 高速データを伝送している光ファイバによる分散型センシング
【特許文献2】特表2008/107141号広報 リング共振器とブラッググレーティングを用いた光波長検波物理量計測センサ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明では、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、人体を伝って光子を運ぶ生体導波路素子開発に向けて、薄くて軽く丈夫なだけでなく、柔軟性に富み、かつ接着も可能な導波路テープを試作することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の材料は、
図1に示すように導波路を構成する試料がテープ状であるという特徴をもつ。
【0008】
このような本発明の導波路テープは、
図2に示すような断面を有し、上部はグレーティング材料、下部はポリマー材料からなる複合材料とする。
【0009】
光学的には、光子をテープ上で伝送可能な導波路としての特徴を有する。機械的には、柔軟性と接着性に富み、自由な場所に自由な形で貼り付け可能であるという機能をもつ。
【0010】
また、本発明の一態様では、光子を単に伝送させるだけでなく、分岐させたり、ループさせたり、集光・拡散させたり、増強させたり、あるいは全く別の状態の光に変えたりするなどの機能を便宜備える。
【0011】
また、本発明の一態様では、光子を走らせる部位は人体でいうところの皮膚に限らず、爪、目玉、体毛の何れかであっても良く、それらは生体導波路としての活用状況に便宜合わせて選択できるものとする。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、生体導波路素子開発を目指し、薄くて軽くて丈夫で、かつ柔軟性や接着性に富んだ導波路テープを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1実施形態に係る導波路テープ100の概要を示す立体図である。
【
図2】第1実施形態に係る導波路テープ100の断面ブロック図である。
【
図3】本発明のイメージングシステムへの応用を見据えた視線誘導光や空間照明光生成のメカニズム図である。
【
図4】本発明の量子情報システムへの応用を見据えた光子暗号キー生成のメカニズム図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付すものとし、適宜重複した説明は省略する。
図1および
図2はそれぞれ、本実施形態に係る材料の概要を示すイラストと断面図である。
図1に示すように、本実施形態の材料は、金属・誘電体グレーティングからなる導波路構造と高分子からなるテープ構造の組み合わせで構成された導波路テープである。
図2に示すように、導波路テープの断面は上から、SiO膜、金属誘電体グレーティング層、SiO膜、高分子層で構成され、最下部の高分子層は皮膚などへの水素結合等を介した接着を可能とする。
【0015】
導波路テープは、
図1に示すように、柔軟性と接着性を帯びた高分子からなる無色透明のテープ構造の上にサブマイクロメートル周期をもつグレーティングからなる導波路構造が接着された複合材料である。
【0016】
導波路テープの使用には、
図1に示すように光を導波路テープ表面のグレーティング部に特定の角度をつけて入射するだけで良い。そうすることで、光子は
図1で示すようなテープの左側から右側にテープを伝って移動することが可能である。伝送路は
図2(a)のようなテープ表面のグレーティング層であっても、
図2(b)のような内部のポリマー層であっても良く限定はしない。どちらの場合においても、伝送後は、テープ右側に何等かの光射出口を設けることで光の取り出しを可能とする。
【0017】
導波路テープの原理では、光がテープ上部のグレーティングに照射されるとき、一般的に知られる表面伝搬現象あるいは回折現象を利用する。表面伝搬現象を用いるならば、
図2(a)に示すように、グレーティングに照射された光はまずグレーティング層の左から右へ導波していく。その後、グレーティング右側に何等かの構造変化を持たせる、あるいは何等かの光学素子を配置することにより、光を外部に取り出すことが可能になる。また、回折現象を用いるならば、
図2(b)に示すように、グレーティングに照射された光は下部のポリマーテープに侵入し、そこでのTIR導波を介し、テープ左から右方向へ導波していく。その後、対方向に接着したもう一つのグレーティングで回折し、光を外部に取り出すことが可能となる。
【0018】
導波路テープの作製手法では、
図2に示す断面構造を用いて説明する。まず最上部のグレーティングの作製にはファセット基板を用いる。ファセット基板は透明度の高いfcc構造有するNaClを用いることが望ましい。NaCl(110)基板を用いるならば、加工・研磨後の初期表面は平坦となるが、電子ビーム(EB)蒸着装置を用いてホモエピタキシャル成長膜を形成させた場合、(100)と(010)からなる安定面が新たに析出し、
図2に示すような山型のファセット構造を析出することができる(以下、論文[a-c]参照)。仮に、より深い傾斜をもつ波型のファセット構造を析出させたい場合は、基板の切り口を(210)や(410)などに変えた上で同様にホモエピタキシャル成長させて使用すれば良く、初期表面の選択においてはさほど限定しない。
参照論文;
[a]T.Kitahara,A.Sugawara,H.Sano,and G.Mizutani,Appl.Surf.Sci.,219,271-275(2003)
[b]N.Hayashi,K.Aratake,R.Okushio et al.,Appl.Surf.Sci.,253,8933-8938(2007)
[c]Y.Ogata,N.A.Tuan,S.Takase,and G.Mizutani,Surf.Inter.Anal.,42,1663-1666(2010)
【0019】
前述したファセット構造のラフな確認には反射高速電子線回折(RHEED)装置を用いるのが良い。RHEEDとは、試料表面すれすれ(~2度)で電子線を照射し回折させ、スクリーン上に投影される光学パターンから表面形状を理解する技術である。本試料の表面形状では、ファセット斜面から垂直に立つ逆格子ベクトル由来の十字型輝線が確認されることになり、その結果を見て山型ファセットが構成したと言及することができる。ちなみに、波型ファセットの場合は十字線が若干傾くことが予想される。(以下、論文[d]参照)
[d]Y.Ogata and G.Mizutani,Appl.Phys.Lett.,103,093107(2013)
【0020】
山形ファセット形状の高さに関しては、本発明上では大きく限定はしないが、仮に入射ビームに532nmの光を用いるならば、250nm以下であることが導波の上で望ましく、溝周期においても限定はしないが、上記条件の場合、500~1000nmが導波をさせる上で望ましい。これらの構造パラメーターはホモエピタキシャル膜作製時に蒸着量や加熱温度、真空度などを増減させることで調整は可能である。最終的な表面形状の確認には原子間力顕微鏡(AFM)や透過型電子顕微鏡(TEM)を活用するのが望ましい。AFMやTEMはともに表面ナノ構造体をナノオーダーで観察および解析することに力を発揮するため、本試料においては溝の高さや周期が決定できる。
【0021】
次に、山型ファセット構造上にSiO膜を数nm厚蒸着し、表面の形状を保護する。その後、数10nm厚分、金属を斜め電子ビーム(EB)蒸着し、ナノグレーティング導波路構造物を作製する。その後、再度、SiO膜を数nm厚蒸着し、ナノ周期構造物を大気から保護する[b]。
【0022】
ナノグレーティング導波路の下地となるNaCl基板は潮解性があり、水中で完全に溶解する。そこで、得られた試料を別に用意した市販のあるいは調合した高分子構成のテープ上に配置し、水中でリフトオフする。そうすることで、ナノグレーティング導波路素子と高分子テープからなる導波路テープが完成する。
【0023】
上記で、適したリフトオフ基板としてNaClを提案したが、KCl、RbCl、CsCl、FrClのように、NaClと同じfcc構造であり潮解性を示すならば、+1価の原子種は問わない。
【0024】
作製した導波路テープの応用としては、
図2に示すように、人体の特に、皮膚、爪、眼球、体毛といった部位に貼り付けて光子を目標点まで輸送し、イメージングシステムとして、あるいは量子情報システムとして起用することを考慮している。
【0025】
イメージングシステムとしての起用であれば、
図3に示すように、眼球の下のまぶた付近に導波路テープを貼り付け、それを用いて視線上に光を射出・集光させ、視線誘導光として応用することが可能である。視線誘導光を用いて目標物を視ることにより、照準機器や空間照明としての新たなる活用が期待でき、目標物の位置や形状の認識がしやすくなるという利点を兼ね備える。
【0026】
また、量子情報システムとしての起用であれば、
図4に示すように、指の側面に導波路テープを貼り付け、それを用いて光を指先近傍で射出・集光させ、ユーザー認証デバイスなどにかざして使う光子キーとしての役割を果たせる。光子キーを用いてユーザー認証を行う場合、テープでの導波過程で光子状態、例えば軌道角運動量やスピンや偏光、を変えて暗号化し、セキュリティーレベルを高める利点を兼ね備える。
【0027】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について以下で説明する。第1実施形態と重複する内容は説明を省略する。第1実施形態では導波路テープの構造と代表的な使用例を示したが、本実施形態では導波路テープを加工・工夫し、新たな人体への使用例を模索・提案する。
【0028】
第2実施形態では、導波路テープを加工することにより導波路を、A.複数分岐化、B.テーパー形状化、させて輸送方向を変えたり、導入時や導波中に、C.波長可変、D.カスケードプラズモン増強、させて光子状態を変えたりするのを提案する。A-Dの各方式をテープ上で実現できるならば、波面制御における量子物理学的な新たな知見および活用方法が与えられると期待する。以下には、A-Dそれぞれの働きを記した。
【0029】
A.の複数分岐方式では、テープ構造に柔軟性があることを利用して、テープにハサミなどで切れ込みを入れて3次元的な分岐を創ることを提案する。光子の到達地点が複数ある場合は、それらに対応するよう複数に分岐させる。皮膚への接着を想定したとき、何等かの目的に即し、血管の上を伝うような形で使用するのが望ましい。割った片方のテープ末端をテープ始点と繋げて輪っかを作り、リング共振構造化しても良く、この場合は選択波長の光のみを放射できる特性を新たに追加できる。この場合は、手首に巻く光学フィルター効果付きアクセサリーとしての活用が可能性としてある。
【0030】
B.のテーパー形状方式では、テープの側部を広がる形あるいは狭まる形にカットして、導波路構造の長軸方向を縮小あるいは拡張していき、導波中の光学密度分布を調整するのを目的とする。導波路終端においては外部へ光を放出されることとなるが、その際、テーパー縮小の場合は集光特性が、テーパー拡張の場合は放射特性が付加される。テープ構造の柔軟性や接着性を利用するならば、テープを指側面に貼り付け、光を伝送させ、集光特性を利用し、空間照明光や量子センサーとして使用するような使い方がある。
【0031】
C.の波長変換効果では、グレーティングの材料をGaAsやLNなどの非線形材料に変更して入射口あるいは導波中で波長変換したり、上述したようなリング共振構造を作って入射口あるいは導波中で波長変換したりすることが可能である。テープ構造の柔軟性や接着性を用いて非線形ファイバーのような形で使用して、遠隔的な波長変換も可能である。例えばそれは、レーザーユニットの光パラメトリック発生器/増幅器(OPG/OPA)に適用し、装置の小型化に貢献できるかもしれない。
【0032】
D.のカスケードプラズモン増強効果では、テープ構造の柔軟性を利用して、グレーティング列を内弧の字に曲げて、導波路のグレーティングコーナー間距離を短くし、その領域に集まる電場増強を高め、伝送する電場効率を向上させることが可能である。例えばテープを肘のような部位に接着するならば、肘を曲げた時に光学損失が大きくなり伸ばした時に損失が小さくなる、といった使い方があり、何等かの量子スイッチとしての活路を見出させる。
【0035】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0036】
100…導波路テープ構成
11…高分子テープ
12…グレーティング導波路
13…入射ビーム
14…出射ビーム
15…SiO膜
16…誘電体または金属ナノ構造体
17…水素結合方式あるいは他の弱い結合方式
18…高分子
19…眼球
20…レーザー光源
21…プリズム
22…導波路テープ
23…グラス
24…集光点
25…指