(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178194
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】シール用樹脂組成物およびシール
(51)【国際特許分類】
C08L 101/12 20060101AFI20231207BHJP
C08L 71/10 20060101ALI20231207BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20231207BHJP
C08K 7/06 20060101ALI20231207BHJP
C08L 79/08 20060101ALI20231207BHJP
F16J 9/28 20060101ALI20231207BHJP
F16J 15/3284 20160101ALI20231207BHJP
C09K 3/10 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
C08L101/12
C08L71/10
C08K3/04
C08K7/06
C08L79/08 B
C08L79/08 C
F16J9/28
F16J15/3284
C09K3/10 Z
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023021927
(22)【出願日】2023-02-15
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-10-18
(31)【優先権主張番号】P 2022091237
(32)【優先日】2022-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 諭史
(72)【発明者】
【氏名】安田 健
【テーマコード(参考)】
3J043
3J044
4H017
4J002
【Fターム(参考)】
3J043AA12
3J043BA06
3J043CA02
3J043CB13
3J043DA02
3J044AA01
3J044AA08
3J044BA06
3J044CB24
3J044DA16
4H017AA04
4H017AB17
4H017AD01
4H017AE05
4J002AA011
4J002BD152
4J002CH091
4J002CM041
4J002DA016
4J002DA026
4J002FA046
4J002FD010
4J002FD016
4J002FD090
4J002FD172
4J002GJ02
4J002GM00
(57)【要約】
【課題】高温かつ高圧のガス中で使用可能なシール用樹脂組成物およびシールを提供する。
【解決手段】シール用樹脂組成物は、ガスを密封するためのピストンリング1に用いられる樹脂組成物であって、シール用樹脂組成物の成形体を動的粘弾性測定したとき、温度30℃における貯蔵弾性率をE
1’、温度200℃における貯蔵弾性率をE
2’とすると、E
1’およびE
2’がそれぞれ4.0×10
8Pa以上であり、シール用樹脂組成物の成形体の損失正接tanδのピーク温度が150℃以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスを密封するためのシールに用いられるシール用樹脂組成物であって、
前記シール用樹脂組成物の成形体を動的粘弾性測定したとき、温度30℃における貯蔵弾性率をE1’、温度200℃における貯蔵弾性率をE2’とすると、E1’およびE2’がそれぞれ4.0×108Pa以上であることを特徴とするシール用樹脂組成物。
【請求項2】
前記シール用樹脂組成物の成形体の損失正接tanδのピーク温度が150℃以上であることを特徴とする請求項1記載のシール用樹脂組成物。
【請求項3】
前記E1’と前記E2’の関係が、E2’/E1’=0.70以上1.0以下なる数式を満足することを特徴とする請求項1または請求項2記載のシール用樹脂組成物。
【請求項4】
前記シール用樹脂組成物のベース樹脂が、芳香族ポリエーテルケトン樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、または、ポリアミドイミド樹脂であることを特徴とする請求項1または請求項2記載のシール用樹脂組成物。
【請求項5】
前記芳香族ポリエーテルケトン樹脂は、ガラス転移点が150℃以上であることを特徴とする請求項4記載のシール用樹脂組成物。
【請求項6】
前記シール用樹脂組成物には硫黄原子の含有量が200ppm以下の炭素材料が配合され、該炭素材料が炭素繊維、黒鉛、およびコークス粉からなる群から選択される少なくとも1種以上であって、前記シール用樹脂組成物全体に対して前記炭素材料が合計で5体積%~50体積%含まれることを特徴とする請求項1または請求項2記載のシール用樹脂組成物。
【請求項7】
前記シール用樹脂組成物の成形体は、硫黄原子の含有量が250ppm以下であることを特徴とする請求項1または請求項2記載のシール用樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1または請求項2記載のシール用樹脂組成物の成形体からなることを特徴とするシール。
【請求項9】
前記シールが、水素ガスを圧縮する往復式圧縮機のピストンリングであることを特徴とする請求項8記載のシール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスを密封するためのシールに用いられるシール用樹脂組成物およびシールに関するものであり、特に、水素ガス用往復式圧縮機のピストンリングに用いられる樹脂組成物およびピストンリングに関する。
【背景技術】
【0002】
水素ステーションでは、水素ガス用往復式圧縮機、水素ガスを貯蔵するための蓄圧器、燃料電池自動車(FCV)に水素ガスを供給するためのディスペンサーなどにおいて、水素を密封するためのシールが多数使用されている。また、FCVでは、高圧水素タンク内の水素を減圧し、減圧したガスを燃料電池に供給するための減圧弁などにシールが使用されている。そのため、水素ガスの密封性が高く、高圧の水素ガス中で長期間使用可能なシールが要求されている。
【0003】
特に水素ステーションの水素ガス用往復式圧縮機でシールとして使用されるピストンリングは、高温かつ高圧の過酷環境に耐える必要があり、このような環境に長期間曝露しても寸法変化しにくく、物性変化も小さいことが要求される。代表的な水素ガス用往復式圧縮機は、ピストンとシリンダーを含む構造であり、シリンダーに対してピストンが往復動することによって、水素ガスを圧縮する仕組みである。このような往復式圧縮機では、ピストンとシリンダーとの間の隙間において水素ガスをシールする目的で、従来から環状のピストンリングが使用されている。ピストンリングはピストンに設けられた環状溝に装着される。この場合、ピストンリングの外周面がシリンダーの内周面と接触し、かつ、ピストンリングの側面が環状溝の側面と接触することにより、水素ガスがシールされる。使用されるピストンリングには、高温かつ高圧の過酷環境でのさらなる耐摩耗性の向上が求められている。水素ステーションにおいて、圧縮機の使用温度は、例えば、非特許文献1では約150℃~200℃とされている。
【0004】
水素ガス用往復式圧縮機、および、そのピストンリングとしては、例えば特許文献1が開示されている。特許文献1には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂と、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂およびポリイミド(PI)樹脂のうち一方の樹脂との合計量が全体の50質量%以上であり、かつ、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂を含まない、樹脂製のピストンリングが記載されている。特許文献1では、ピストンリングの引張強度を15MPaよりも大きく且つ100MPa未満の範囲内にすることで、その範囲外のピストンリングよりも長期の運転期間に亘ってシール性を維持できるとしている。
【0005】
また、特許文献2には、水素ガス用往復式圧縮機に用いられる摺動部材として、ピストン部材およびシリンダライナの一方の部材に設けられ、他方の部材(被摺動部材)に対して相対的に摺動する樹脂製のリング状の摺動部材が記載されている。特許文献2では、摺動部材および被摺動部材の両方の摺動面に、非晶質炭素膜を形成することで、摺動部材の摩耗による交換寿命を伸ばすことができるとしている。なお、非晶質炭素膜は、表面部分の方がその内側の部分よりも炭素の含有量が多くなっている。この非晶質炭素膜は硫黄を含まないことが好ましいとされている。また、摺動部材は、例えば、圧縮機に組み込む前に水素雰囲気で曝露する処理をした脱硫処理部材であることが好ましいとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-180600号公報
【特許文献2】特許第6533631号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】70MPa水素スタンド技術基準検討委員会報告書、高圧ガス保安協会、2012年2月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1では、ピストンリングの種々の特性のうち引張強度に着目し、これを適切な範囲内に調整することにより、PPS樹脂を添加しない場合であってもピストンリングの高いシール性を長期間に亘って維持可能になるとしている。なお、「引張強度(引張強さ)」は、JIS K7161(プラスチック-引張特性の試験方法 第1部:通則)に基づいて測定される値であってもよいとしている。
【0009】
しかしながら、水素ガス用往復式圧縮機において、樹脂製のピストンリングは高温かつ高圧の過酷環境で使用されることから、耐圧性、耐摩耗性の観点では、高温下における樹脂の物性(強度、弾性率など)が、室温領域における物性より重要になる。また、樹脂は粘弾性体であることから、粘弾性特性も考慮する必要があると考えられる。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、高温かつ高圧のガス中、特に水素ガス中で使用可能なシール用樹脂組成物およびシールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のシール用樹脂組成物は、ガスを密封するためのシールに用いられるシール用樹脂組成物であって、上記シール用樹脂組成物の成形体を動的粘弾性測定したとき、温度30℃における貯蔵弾性率をE1’、温度200℃における貯蔵弾性率をE2’とすると、E1’およびE2’がそれぞれ4.0×108Pa以上であることを特徴とする。なお、本明細書における「成形体」とは、射出成形、圧縮成形、押し出し成形などの周知の方法により成形された成形体、もしくは、これらの成形体を機械加工したものを指し、シール製品(ピストンリング、弁体、弁座、グランドパッキン、リップシールなど)も含まれる。また、本明細書における「ガス」とは一般的な気体を意味する概念であり、気体燃料なども含まれる。例えば、水素、天然ガス、アンモニアなどのガスであってもよい。
【0012】
上記シール用樹脂組成物の成形体の損失正接tanδのピーク温度が150℃以上であることを特徴とする。
【0013】
上記E1’と上記E2’の関係が、E2’/E1’=0.70以上1.0以下なる数式を満足することを特徴とする。
【0014】
上記シール用樹脂組成物のベース樹脂が、芳香族ポリエーテルケトン樹脂、熱可塑性PI樹脂、または、ポリアミドイミド(PAI)樹脂であることを特徴とする。さらに、上記芳香族ポリエーテルケトン樹脂は、ガラス転移点が150℃以上であることを特徴とする。
【0015】
上記シール用樹脂組成物には硫黄原子の含有量が200ppm以下の炭素材料が配合され、該炭素材料が炭素繊維、黒鉛、およびコークス粉からなる群から選択される少なくとも1種以上であって、上記シール用樹脂組成物全体に対して上記炭素材料が合計で5体積%~50体積%含まれることを特徴とする。
【0016】
上記シール用樹脂組成物の成形体は、硫黄原子の含有量が250ppm以下であることを特徴とする。
【0017】
本発明のシールは、上記シール用樹脂組成物の成形体からなることを特徴とする。また、上記シールが、水素ガスを圧縮する往復式圧縮機のピストンリングであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明のシール用樹脂組成物は、該シール用樹脂組成物の成形体を動的粘弾性測定したとき、温度30℃における貯蔵弾性率をE1’、温度200℃における貯蔵弾性率をE2’とすると、E1’およびE2’がそれぞれ4.0×108Pa以上であり、より好ましくは、損失正接tanδのピーク温度が150℃以上である。該成形体はE2’およびtanδのピーク温度が高いことから、高温下においても、変形しにくく、摩耗しにくいことから、例えば高温かつ高圧の水素ガス中で使用されるシールとして好適である。特に、水素ガスを圧縮する往復式圧縮機のピストンリングとして好適である。
【0019】
また、E1’とE2’の関係が、E2’/E1’=0.70以上1.0以下なる数式を満足するので、温度による弾性率変化が小さく、シールに適用することで、室温付近から高温までの幅広い温度範囲で安定したシール性を維持できる。
【0020】
往復式圧縮機で圧縮した水素ガスをFCVに充填する場合、水素ガス中に硫黄成分が混入されると、燃料電池の性能低下を引き起こすおそれがあるところ、上記シール用樹脂組成物の成形体は、硫黄原子の含有量が200ppm以下の炭素材料が配合され、また、上記シール用樹脂組成物全体に対して硫黄原子の含有量が250ppm以下であるので、上記特許文献2に例示されているような特殊な雰囲気での脱硫処理をすることなく、水素ガス中への硫黄成分の混入を低減でき、FCVにおける燃料電池の性能低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明のシール用樹脂組成物からなるピストンリングの一例の斜視図である。
【
図2】本発明のシール用樹脂組成物からなるピストンリングを用いた水素ガス用往復式圧縮機の一例の断面図である。
【
図3】実施例4における動的粘弾性測定結果(温度と貯蔵弾性率E’の関係)である。
【
図4】実施例4における動的粘弾性測定結果(温度と損失正接tanδの関係)である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明者は、樹脂組成物の成形体を動的粘弾性測定したときの温度30℃における貯蔵弾性率E1’、温度200℃における貯蔵弾性率E2’が所定の範囲内の樹脂組成物、更には、損失正接tanδが所定の範囲内であることや、E1’とE2’の比率が所定の数式を満足する樹脂組成物が、高温(例えば100℃~200℃程度)かつ高圧の水素ガス中での使用に好適なシール用樹脂組成物となることを見出した。本発明はこのような知見に基づくものである。
【0023】
本発明のシール用樹脂組成物は、その樹脂組成物の成形体を動的粘弾性測定したとき、温度30℃における貯蔵弾性率をE1’、温度200℃における貯蔵弾性率をE2’とすると、E1’およびE2’がそれぞれ4.0×108Pa以上であることが好ましい。上記E1’およびE2’が4.0×108Pa未満であると、上記樹脂組成物の成形体を、例えば高圧の水素ガスを密封するためのシールとして用いたとき、使用中の変形が大きくなり、所定のシール性を満足できないおそれがある。
【0024】
本明細書において、貯蔵弾性率E’、損失弾性率E”、および損失正接tanδは、上記シール用樹脂組成物の成形体を用いて、引張りモード、測定周波数10Hzの動的粘弾性測定によって得られる測定値である。
【0025】
温度30℃における貯蔵弾性率E1’は1.0×109Pa以上がより好ましく、2.0×109Pa以上がさらに好ましい。一方、E1’は、例えば1.0×1010Pa以下であり、6.0×109Pa以下であってもよい。
【0026】
温度200℃における貯蔵弾性率E2’は1.0×109Pa以上がより好ましく、2.0×109Pa以上がさらに好ましい。一方、E2’は、例えば1.0×1010Pa以下であり、6.0×109Pa以下であってもよい。
【0027】
損失正接tanδは、損失弾性率E”を貯蔵弾性率E’で除した値であり、tanδ=(E”/E’)の関係がある。損失正接tanδは、各温度の貯蔵弾性率E’および損失弾性率E”を用いて算出される。損失正接tanδのピーク温度は、各温度の貯蔵弾性率E’および損失弾性率E”から各温度のtanδを算出しプロットして得られるtanδ曲線において、tanδが極大となる温度である(例えば
図4参照)。
【0028】
損失正接tanδのピーク温度は特に限定されないが、150℃以上であることが好ましく、170℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることがさらに好ましく、250℃以上であってもよい。損失正接tanδのピーク温度の上限は特に限定されないが、例えば400℃以下であり、300℃以下であってもよい。また、損失正接tanδのピーク値は、例えば0.03~0.30である。
【0029】
また、本発明のシール用樹脂組成物は、E2’/E1’=0.30以上1.0以下なる数式を満たすことが好ましい。この範囲内であると、30℃~200℃における成形体の弾性率変化が抑えられ、この温度範囲において安定したシール性を維持しやすくなる。より好ましくは、E2’/E1’=0.50以上1.0以下なる数式を満たし、さらに好ましくは、E2’/E1’=0.70以上1.0以下なる数式を満たす。また、E2’/E1’=0.80以上1.0以下なる数式を満たしてもよい。E2’/E1’は、1.0未満であってもよい。
【0030】
水素ガス用往復式圧縮機は、例えば30℃程度から200℃程度の範囲において水素ガスの圧縮動作を繰り返す場合がある。そのため、室温領域における貯蔵弾性率に対する高温領域における貯蔵弾性率の比を上記のように規定することで、30℃の貯蔵弾性率E1’から200℃の貯蔵弾性率E2’への低下率を抑えることができる。その結果、室温領域から高温領域までの幅広い温度範囲で安定したシール性を維持しやすくなる。
【0031】
上述した貯蔵弾性率E’、損失弾性率E”、および損失正接tanδなどの動的粘弾性特性は、例えば、動的粘弾性測定装置「DMS6100」(株式会社日立ハイテクサイエンス)を用いて、上記樹脂組成物からなる短冊状試験片にて、チャック間距離20mm、引張りモード、測定周波数10Hz、歪振幅10μm(正弦波)、昇温速度2℃/分の条件で測定することができる。測定結果として各温度に対するE’、E”、およびtanδが得られ、所定の温度(30℃、200℃)に対応する貯蔵弾性率E’として、E1’、E2’がそれぞれ得られる。短冊状試験片の大きさは特に限定されないが、例えば、2mm×5mm×45mmであってもよい。
【0032】
以下に、本発明のシール用樹脂組成物の具体的な組成について説明する。
【0033】
本発明のシール用樹脂組成物は、ベース樹脂を主成分としている。このベース樹脂の種類は限定されず、上述した樹脂組成物の成形体のE1’、E2’、tanδのピーク温度、および、(E2’/E1’)を所望の範囲にさせやすい樹脂が好ましい。具体的には、tanδのピーク温度を高くするため、ベース樹脂としてガラス転移点が高い樹脂を選択することが好ましい。ガラス転移点の測定には周知の方法を用いることができる。例えば、動的粘弾性測定におけるtanδのピーク温度をガラス転移点とみなす場合があるほか、示差走査熱量測定(DSC)などによっても測定することができる。本発明では、上記ベース樹脂として、DSCによって測定されるガラス転移点が140℃以上であることが好ましい。
【0034】
ガラス転移点が高いとtanδのピーク温度が高くなり、貯蔵弾性率E’はtanδのピーク温度付近まで大きく低下することなく、維持されやすい。tanδのピーク温度を150℃以上とする観点から、ベース樹脂として、例えば、芳香族ポリエーテルケトン樹脂、熱可塑性PI樹脂、熱硬化性PI樹脂、PAI樹脂を用いることができる。また、E2’/E1’=0.70以上1.0以下なる数式を満足させる観点から、ベース樹脂のDSCによって測定されるガラス転移点が200℃以上であることが特に好ましい。
【0035】
上述したE1’、E2’、およびtanδのピーク温度は、上記シール用樹脂組成物の成形体を、高温かつ高圧のガス中で曝露した前後で、変化が少ないことが好ましい。例えば、上記シール用樹脂組成物の成形体を圧力82MPa、温度200℃のガス中に192時間曝露したとき、曝露前を基準としてE1’、E2’の変化率が±20%以内であることが好ましく、±10%以内であることがより好ましい。また、tanδのピーク温度の変化率は±10%以内であることが好ましく、±5%以内であることがより好ましい。上記ガスは例えば水素ガスである。
【0036】
また、上記ベース樹脂は、射出成形可能な樹脂であることが好ましい。射出成形可能であると、設計自由度が高くなり、様々な形状のシールに対応できる。
【0037】
上述したE1’、E2’、tanδのピーク温度、および、(E2’/E1’)について所望の範囲を満足させやすく、かつ、射出成形可能な樹脂としては、例えば、芳香族ポリエーテルケトン樹脂、熱可塑性PI樹脂、PAI樹脂が挙げられる。
【0038】
芳香族ポリエーテルケトン樹脂は、ベンゼン環をエーテル基とケトン基で結合した樹脂の総称であり、ポリアリールエーテルケトン樹脂とも呼称されている。芳香族ポリエーテルケトン樹脂として、PEEK樹脂、ポリエーテルケトン(PEK)樹脂、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)樹脂、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)樹脂などが挙げられる。
【0039】
芳香族ポリエーテルケトン樹脂を用いる場合、コストの観点からはPEEK樹脂が好ましい。PEEK樹脂は下記の式(1)に示す化学構造であり、DSCによって測定されるPEEK樹脂のガラス転移点は143℃である。本発明ではPEEK樹脂の平均分子量、分子量分布などは限定されずに使用することができる。PEEK樹脂のせん断速度1000/s、温度400℃における溶融粘度は特に限定されないが、例えば、ピストンリングの場合、該溶融粘度は、ISO 11443準拠の測定方法において200Pa・s~550Pa・sであることが好ましい。この範囲内とすることで、射出成形による成形加工を可能としながら、耐摩耗性を十分に確保しやすくなる。上記溶融粘度は、300Pa・s~500Pa・sがより好ましい。
【0040】
【0041】
高温下の耐摩耗性の観点からは、PEEK樹脂よりガラス転移点が高い芳香族ポリエーテルケトン樹脂がより好ましく、DSCによって測定されるガラス転移点が150℃以上の芳香族ポリエーテルケトン樹脂が特に好ましい。具体的には、PEK樹脂(ガラス転移点160℃)、PEKK樹脂(ガラス転移点160~165℃)、PEKEKK樹脂(ガラス転移点170℃)などを使用できる。例えば、PEK樹脂は、下記の式(2)に示す化学構造である。
【0042】
【0043】
芳香族ポリエーテルケトン樹脂のDSCによって測定されるガラス転移点が150~160℃である場合、せん断速度1000/s、温度400℃における溶融粘度がISO 11443準拠の測定方法において100Pa・s~550Pa・sであってもよい。この範囲内とすることで、射出成形による成形加工を可能としながら、例えば往復式圧縮機に用いるピストンリングとしての耐摩耗性を十分に確保しやすくなる。また、芳香族ポリエーテルケトン樹脂のDSCによって測定されるガラス転移点が160~170℃である場合、せん断速度1000/s、温度420℃における溶融粘度が100Pa・s~550Pa・sであってもよい。この範囲内とすることで、射出成形による成形加工を可能としながら、例えば往復式圧縮機に用いるピストンリングとしての耐摩耗性を十分に確保しやすくなる。
【0044】
本発明の樹脂組成物には、種類、溶融粘度の異なる複数の芳香族ポリエーテルケトン樹脂を混合して使用することもできる。芳香族ポリエーテルケトン樹脂には、上記式(1)、式(2)に示すように分子構造に硫黄原子は含まれていないが、重合時に使用される溶媒(例えばジフェニルスルホンなど、分子構造に硫黄原子を含む溶媒)を不純物として含有している場合がある。
【0045】
PEEK樹脂の具体的な市販品として、ビクトレックスジャパン株式会社製:PEEK 90P、PEEK 150P、PEEK 380P、PEEK 450P、PEEK 650P、ポリプラ・エボニック株式会社製:VESTAKEEP 1000P、VESTAKEEP 2000P、VESTAKEEP 3000P、VESTAKEEP 4000P、VESTAKEEP 5000Pなどを使用することができる。また、PEEK樹脂であっても、一般的なガラス転移点143℃のPEEK樹脂よりも耐熱性の高い特殊なPEEK樹脂を用いることができる。このような市販品として、ガラス転移点170℃であるソルベイスペシャルティポリマーズジャパン株式会社製:キータスパイア(登録商標)PEEK XT-920 FPなどが挙げられる。
【0046】
PEK樹脂の具体的な市販品として、ビクトレックスジャパン株式会社製:HT P22を用いることができ、PEKEKK樹脂としてビクトレックスジャパン株式会社製:ST P45を用いることができ、PEKK樹脂としてアルケマ株式会社製:Kepstan(登録商標)PEKK 6000シリーズ、7000シリーズ、8000シリーズを用いることができる。
【0047】
熱可塑性PI樹脂としては、ガラス転移点、融点が高く、かつ射出成形などの溶融成形が可能な樹脂が好ましい。具体的には、下記式(3)に示すように、分子構造の繰り返し単位中に、熱的特性、機械的強度などに優れたイミド基が芳香族基を取り囲みながらも、熱などのエネルギーが加えられることにより適度な溶融特性を示すエーテル結合部分を複数個有する構造のイミド系樹脂がよく、機械的特性、剛性、耐熱性、射出成形性を満足させるため、エーテル結合部を繰り返し単位中に2個有する熱可塑性PI樹脂が好ましい。
【0048】
【化3】
(式中、Xは直接結合、炭素数1~10の炭化水素基、六フッ素化されたイソプロピリデン基、カルボニル基、チオ基およびスルホン基からなる群より選ばれた基を表し、R
1~R
4は水素、炭素数1~5の低級アルキル基、炭素数1~5の低級アルコキシ基、塩素または臭素を表し、互いに同じであっても異なっていてもよい。Yは炭素数2以上の脂肪族基、環式脂肪族基、単環式芳香族基、縮合多環式芳香族基、芳香族基が直接または架橋基により相互に連結された非縮合多環式芳香族基からなる群から選ばれた4価の基を表す。)
【0049】
熱可塑性PI樹脂の市販品としては、三井化学株式会社製オーラム(登録商標)、三菱ガス化学株式会社製サープリム(登録商標)などが挙げられる。この2種類のうち、上記式(3)を満たすオーラムはガラス転移点250℃、融点388℃であり、極めて耐熱性に優れるため、特に好ましい。オーラムは、上記式(3)におけるXが直接結合であり、R1~R4が全て水素である。本発明の樹脂組成物に使用可能なオーラムのグレードとしては、例えば、PD250、PD400、PD450、PD500などが挙げられる。
【0050】
PAI樹脂は、高分子主鎖内にイミド結合とアミド結合とを有する樹脂である。例えば、PAI樹脂として、下記式(4)に示すように、イミド結合、アミド結合が芳香族基を介して結合している芳香族系PAI樹脂を用いることができる。
【0051】
【化4】
(式中、R
1は少なくとも1つのベンゼン環を含む3価の芳香族基を表し、R
2は2価の有機基を表し、R
3は水素、メチル基またはフェニル基を表す。)
【0052】
このような芳香族系PAI樹脂は、芳香族第一級ジアミン、例えばジフェニルメタンジアミンと芳香族三塩基酸無水物、例えばトリメリット酸無水物のモノまたはジアシルハライド誘導体から製造されるPAI樹脂、芳香族三塩基酸無水物と芳香族ジイソシアネート化合物、例えばジフェニルメタンジイソシアネートとから製造されるPAI樹脂などがある。
【0053】
PAI樹脂の市販品としては、ソルベイスペシャルティポリマーズジャパン株式会社製トーロン(登録商標)などが挙げられる。本発明の樹脂組成物に使用可能なトーロンのグレードとしては、4000Tなどが挙げられる。
【0054】
また、上記ベース樹脂は、ベース樹脂単体の成形体のJIS K7126-1準拠のガス透過度が、例えば7.0×10-12mol/(m2・s・Pa)以下であり、4.0×10-12mol/(m2・s・Pa)以下であることが好ましい。例えば、ガス透過度が4.0×10-12mol/(m2・s・Pa)を超えるベース樹脂を用いると、高温かつ高圧のガス中で上記樹脂組成物の成形体の寸法変化や物性変化が大きくなるおそれがある。上記ガス透過度は、1.0×10-12mol/(m2・s・Pa)~3.5×10-12mol/(m2・s・Pa)がより好ましい。上記ガスは例えば水素ガスである。
【0055】
シール用樹脂組成物において、ベース樹脂は、樹脂組成物全体に対して50体積%~95体積%含まれることが好ましく、60体積%~90体積%含まれることがより好ましく、70体積%~80体積%含まれることがさらに好ましい。
【0056】
本発明のシール用樹脂組成物は、強度、弾性率、摩擦摩耗特性などを向上させる目的で、芳香族ポリエーテルケトン樹脂、熱可塑性PI樹脂、PAI樹脂などのベース樹脂に、炭素材料を配合することが好ましい。本明細書における「炭素材料」は、結晶性の有無およびその度合いは限定されず、非意図的であれば硫黄原子を含有していてもよい。炭素材料としては、炭素繊維、黒鉛、コークス粉などが挙げられ、これらの中から1種類の炭素材料を単独で配合しても、複数の種類を組み合わせて配合してもよい。当該炭素材料に含まれる硫黄原子の含有量は200ppm以下であることが好ましく、100ppm以下であることがより好ましく、50ppm以下であることが特に好ましい。また、ベース樹脂に、固体潤滑剤であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂を配合してもよい。本発明のシール用樹脂組成物において、炭素材料とPTFE樹脂の少なくとも一方を配合することが好ましく、炭素材料とPTFE樹脂の両方を配合することがより好ましい。なお、摩擦摩耗特性はシールがピストンリングなどの運動シールである場合に重要である。
【0057】
炭素材料に含まれる硫黄原子の含有量(使用する各々の炭素材料全量(100質量%)に対する質量%)は、周知の分析方法で測定できる。例えば、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)を用いてもよい。より高精度に測定する目的で、トリプル四重極型誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS/MS)を用いてもよい。分析の前処理方法としては、例えば、マイクロ波試料前処理装置にて酸分解して得られた分解液をろ過し、上澄みを分析サンプルとして得る方法が挙げられる。分解残渣に硫黄原子が含まれないことは、蛍光X線分析装置など既知の分析方法で確認することができる。
【0058】
炭素繊維は、原材料から分類されるピッチ系またはPAN系のいずれのものであってもよい。焼成温度は限定されるものではなく、2000℃またはそれ以上の高温で焼成されて黒鉛化品、1000~1500℃程度で焼成された炭化品のどちらであってもよい。また、チョップドファイバーおよびミルドファイバーのどちらであってもよいが、摩擦摩耗特性の観点からは繊維長の短いミルドファイバーを用いることが好ましい。
【0059】
本発明に使用できる市販品のミルドファイバーとしては、ピッチ系炭素繊維として、クレハ社製:クレカ M-101S、M-101F、M-101T、M-104T、M-107T、M-201S、M-201Fなどが挙げられる。また、PAN系炭素繊維として、帝人株式会社製:HT M800 160MU、HT M100 40MU、東レ株式会社製:トレカ MLD-30、MLD-300などが挙げられる。
【0060】
なお、ピッチ系炭素繊維の場合、原料のピッチは不純物として硫黄を含有している。また、PAN系炭素繊維の場合も、表面処理に硫酸を用いる場合、硫黄が残留することがある。炭素繊維としては、ピッチ系炭素繊維に比べて硫黄原子の含有量が比較的少ないPAN系炭素繊維を用いることが好ましい。
【0061】
本発明に用いる炭素繊維の平均繊維長は、特に限定されないが、20μm~200μmの短繊維であることが好ましい。平均繊維長が20μm未満であると耐摩耗性向上の効果が得られにくく、200μmを超えると摺動時に折損した炭素繊維が摺動面に入り込みやすくなり、シリンダーなどを損傷摩耗させやすい。なお、本明細書における平均繊維長は数平均繊維長である。
【0062】
黒鉛は、固体潤滑剤であり、樹脂組成物の摩擦摩耗特性を向上できる。また、黒鉛としては、天然黒鉛、人造黒鉛のいずれを用いてもよい。粒子の形状は、鱗片状、粒状、球状などがあるが、いずれを用いてもよい。本発明に使用できる市販品の黒鉛としては、天然黒鉛である日本黒鉛工業株式会社製:ACP、人造黒鉛であるイメリス・ジーシー・ジャパン株式会社製:TIMREX KS6、KS25、KS44などが挙げられる。このほか、樹脂粒子を焼成して得られた球状黒鉛(または球状カーボン)を用いてもよく、例えばフェノール樹脂粒子を焼成して得られるエア・ウォーター・ベルパール株式会社製:ベルパールC800、C2000などを使用できる。黒鉛の50%粒子径(D50)は限定されないが、3μm~50μmが好ましく、10μm~30μmがより好ましい。50μmを超えると、樹脂組成物の引張伸び特性が低下するおそれがある。
【0063】
コークス粉は樹脂組成物の耐摩耗性を向上できる。コークス粉のD50は限定されないが、3μm~50μmが好ましく、10μm~30μmがより好ましい。50μmを超えると、樹脂組成物の引張伸び特性が低下するおそれがある。
【0064】
上記シール用樹脂組成物は、炭素繊維、黒鉛、コークス粉などの炭素材料を少なくとも1種類以上含み、樹脂組成物全体に対して炭素材料を合計で5体積%~50体積%含むことが好ましく、5体積%~35体積%含むことがより好ましく、5体積%~25体積%含むことがさらに好ましい。炭素材料の合計の配合量が5体積%未満であると耐摩耗性向上の効果が得られにくく、35体積%を超えると樹脂組成物の溶融粘度が高くなり、薄肉部がある成形品の場合には射出成形しにくくなる。50体積%を超えると、溶融粘度が極めて高くなり、射出成形そのものが困難になる。炭素材料として、例えば、炭素繊維および黒鉛を組み合わせて用いることができる。
【0065】
PTFE樹脂は固体潤滑剤であり、樹脂組成物の摩擦摩耗特性を向上できる。PTFE樹脂として、懸濁重合法によるモールディングパウダー、乳化重合法によるファインパウダー、再生PTFEのいずれを採用してもよい。樹脂組成物の流動性を安定させるためには、成形時のせん断により繊維化し難く、溶融粘度を増加させ難い再生PTFEを採用することが好ましい。再生PTFEとは、熱処理(熱履歴が加わったもの)粉末、γ線または電子線などを照射した粉末のことである。例えば、モールディングパウダーまたはファインパウダーを熱処理した粉末、また、この粉末をさらにγ線または電子線を照射した粉末、モールディングパウダーまたはファインパウダーの成形体を粉砕した粉末、また、その後γ線または電子線を照射した粉末、モールディングパウダーまたはファインパウダーをγ線または電子線を照射した粉末などのタイプがある。γ線または電子線を照射後にさらに熱処理を加えたタイプもある。PTFE樹脂のD50は、特に限定されるものではないが10μm~50μmとすることがより好ましい。
【0066】
本発明に使用できる市販品のPTFE樹脂としては、株式会社喜多村製:KTL-610、KTL-610A、KTL-450、KTL-350、KTL-8N、KTL-8F、KTL-400H、三井ケマーズフロロプロダクツ株式会社製:テフロン(登録商標)7-J、TLP-10、AGC株式会社製:フルオンG163、L150J、L169J、L170J、L172J、L173J、L182J、ダイキン工業株式会社製:ポリフロンM-15、スリーエムジャパン株式会社製:ダイニオンTF9205、TF9207などが挙げられる。また、パーフルオロアルキルエーテル基、フルオロアルキル基、またはその他のフルオロアルキルを有する側鎖基で変性されたPTFE樹脂であってもよい。上記の中でγ線または電子線などを照射したPTFE樹脂としては、株式会社喜多村製:KTL-610、KTL-610A、KTL-450、KTL-350、KTL-8N、KTL-8F、AGC株式会社製:フルオンL169J、L170J、L172J、L173J、L182Jなどが挙げられる。
【0067】
上記シール用樹脂組成物は、PTFE樹脂を樹脂組成物全体に対して5体積%~25体積%含むことが好ましい。PTFE樹脂の配合量が5体積%未満であると、摩擦摩耗特性の向上効果が得られにくく、25体積%を超えると樹脂組成物の引張伸び特性が低下するおそれがある。PTFE樹脂の配合量は10体積%~20体積%がより好ましい。
【0068】
本発明のシール樹脂組成物に配合するPTFE樹脂、黒鉛、コークス粉の50%粒子径(D50)は、粒子径分布を累積分布としたとき、累積値が50%となる点の粒子径であり、レーザー光散乱法を利用した粒子径分布測定装置を用いて測定することができる。
【0069】
上記シール樹脂組成物には、上記炭素材料、上記PTFE樹脂のほかに、本発明の効果を阻害しない程度に周知の樹脂用添加剤を配合してもよい。添加剤としては、例えば、ガラス繊維、アラミド繊維、無機物(マイカ、タルク、炭酸カルシウム、窒化ホウ素など)、ウィスカ(炭酸カルシウム、チタン酸カリウムなど)、着色剤(酸化鉄、酸化チタン、カーボンブラックなど)、他の樹脂成分などが挙げられる。上記樹脂用添加剤の硫黄原子の含有量が200ppmを超える場合、上記樹脂組成物全体に対して、この添加剤の配合量を3体積%以下にすることが好ましい。また、上記樹脂組成物には、200ppmを超えて硫黄原子を含有する炭素材料が含まれてもよいが、その炭素材料の含有量は、樹脂組成物全体に対して3体積%以下であることが好ましい。上記シール用樹脂組成物は、二硫化モリブデン、二硫化タングステンなどの硫化物を含まないことが好ましい。
【0070】
以上より、本発明のシール用樹脂組成物の特に好ましい形態は、E1’およびE2’がそれぞれ4.0×108Pa以上(好ましくは2.0×109Pa以上))、tanδのピーク温度が150℃以上、かつ、E2/E1=0.50以上1.0以下を満足する射出成形可能な樹脂組成物であって、上記樹脂組成物全体に対して、上記炭素材料を合計で5体積%~35体積%含み、かつ、PTFE樹脂を5体積%~25体積%含む樹脂組成物である。
【0071】
上述したシール用樹脂組成物からなるシールは、高圧のガス中で好適に使用される。30MPa~120MPaの高圧で使用され、好ましくは65MPa~110MPaで使用され、さらに好ましくは80MPa~100MPaで使用される。シールが水素ガス用往復式圧縮機のピストンリングの場合、このような圧力範囲で、かつ、無潤滑条件で使用され、水素ステーションの水素ガス用往復式圧縮機の吐出圧として代表的な仕様である82MPaの水素ガス中で使用されるシールとして特に好適である。また、FCVのタンク内圧力として代表的な仕様である70MPaの水素ガス中で使用されるシールとしても特に好適である。
【0072】
上記樹脂組成物をピストンリングに用いる場合の実施形態を以下に記載する。
【0073】
上記樹脂組成物を構成する各材料を、必要に応じて、ヘンシェルミキサー、アキシャルミキサー、ボールミキサー、リボンブレンダーなどにて混合した後、二軸混練押出し機などの溶融押出し機にて溶融混練し、成形用ペレットを得ることができる。なお、炭素材料、PTFE樹脂、上述の樹脂用添加剤の投入は、二軸押出し機などで溶融混練する際にサイドフィードを採用してもよい。この成形用ペレットを用いて射出成形によりピストンリングを成形することができる。射出成形素材を用いて追加工または全加工を行い、所定のピストンリング形状に仕上げてもよい。
【0074】
本発明の樹脂組成物を用いたピストンリングおよびピストンリングを適用した往復式圧縮機の一例を
図1および
図2に基づいて説明する。
図1は、ピストンリングの一例を示した斜視図である。
図1に示すように、ピストンリング1は断面が略矩形の環状体である。リング内周面1bとリングの両側面1cとの角部は直線状、曲線状の面取りが設けられていてもよく、シールリングを射出成形で製造する場合、該部分に金型からの突出し部分となる段部を設けてもよい。
【0075】
また、ピストンリング1は、一箇所の合い口1aを有するカットタイプのリングであり、弾性変形により拡径してピストンの環状溝に装着される。ピストンリング1は、合い口1aを有することから、使用時においてガスの圧力によって拡径されて、外周面1dがシリンダーの内周面と密着する。合い口1aの形状については、限定されるものではなく、ストレートカット型、アングルカット型などにすることも可能であるが、シール性に優れることから、
図1に示す複合ステップカット型を採用することが好ましい。
なお、本発明のピストンリングは、
図1に示すような単一の部材からなるピストンリングに限定されず、複数の部材を組み合わせることで円環状になるピストンリングであってもよい。
【0076】
図2は、
図1のピストンリングを用いた水素ガス用往復式圧縮機の一例の断面図である。水素ガス用往復式圧縮機は、水素ステーションなどに設置され、圧縮された水素ガスはFCV、水素エンジン車への充填などに用いられる。水素ガス用往復式圧縮機の圧縮機構部2は、シリンダー3とピストン4からなり、ピストン4はピストンロッド5に接続されている。ピストン4の外周面には、ピストンリング1を装着するための環状溝が複数配置されており、ピストンリング1が弾性変形により拡径して各環状溝に1つずつ組み込まれる。ピストンに装着されるピストンリングの数は特に限定されず、
図2では6個のシールリングが装着されている。水素ガスは圧縮室6に導入され、ピストン4がシリンダー3に対して往復動することによって圧縮された後、外部に排出される。
【0077】
以下には、本発明のシール用樹脂組成物を用いてシールとして、ピストンリングを製造する方法について説明する。なお、ピストンリングに限らず、他のシールも同様にして製造できる。
【0078】
上記シール用樹脂組成物が芳香族ポリエーテルケトン樹脂を主成分とする場合、射出成形素材、射出成形素材から削り出したピストンリング、射出成形で製造したピストンリングのうち、いずれかの状態で熱処理を実施することが好ましい。この熱処理は、最高温度150℃~330℃の温度(より好ましくは200℃~250℃の温度)で行うことが好ましい。ジフェニルスルホンの融点が127℃であること、また芳香族ポリエーテルケトン樹脂はガラス転移点以上であれば分子鎖が動きやすく、ジフェニルスルホンを蒸発によって除去しやすいことから、熱処理の最高温度は150℃以上であることが好ましい。最高温度が150℃未満であると、硫黄の含有量の低減効果が得られにくく、最高温度が250℃を超えると、射出成形の後に熱処理する場合は変形が起こりやすくなる。また、ピストンリングの使用温度よりも高い温度であることがより好ましく、該使用温度よりも30℃以上高い温度であることがさらに好ましい。また、最高温度で保持する時間は特に限定されないが、例えば4時間~8時間である。この熱処理はピストンリング中の硫黄の低減に有効であり、ピストンリングの使用中に発生する硫黄含有ガスを予め低減できる。なお、芳香族ポリエーテルケトン樹脂中に残留するジフェニルスルホンを蒸発により除去できる点でも有効である。
【0079】
また、上記熱処理は大気中で行うことが好ましい。例えば、上記特許文献2では、摺動部材の脱硫処理方法として水素雰囲気で曝露する処理が例示されているが、大気中ではなく特殊な雰囲気での曝露であることから、特殊な曝露装置が必要であり、水素を扱うため火災や爆発に対する安全対策が必要であり、高コストとなる。これに対して、上記熱処理を大気中で行うことで、水素雰囲気への曝露(脱硫処理)など、特殊な雰囲気での熱処理を必要としないことから特殊な曝露装置を必要とせず、厳重な安全対策が不要で低コストになる。
【0080】
射出成形素材、射出成形素材から削り出したピストンリング、射出成形で製造したピストンリングのいずれかについて、上記熱処理を実施した後、DSC測定を行うと、昇温過程において、熱処理なしの場合にはみられない吸熱ピーク(以下、熱履歴による吸熱ピークという)が現れる。熱履歴による吸熱ピークは、熱処理の最高温度と同等か、もしくは少し高い温度(+20度以内)に現れるため、熱処理の最高温度の推定が可能である。上記ピストンリングは、上記熱処理に起因して、示差走査熱量測定の昇温過程における150℃~330℃の範囲(好ましくは200℃~250℃の範囲)に熱履歴による吸熱ピークを有していることが好ましい。この場合、当該ピストンリングは、芳香族ポリエーテルケトン樹脂の融点に由来する吸熱ピーク以外にも、150℃~330℃の範囲に吸熱ピークを有している。なお、DSCによる測定は、例えば昇温速度15度/分、窒素ガス中の条件で行うことができる。
【0081】
上記樹脂組成物が熱可塑性PI樹脂を主成分とする場合、射出成形素材、射出成形素材から削り出したピストンリング、射出成形で製造したピストンリングのうち、いずれかの状態で結晶化処理(熱処理)を実施することが好ましい。例えば、熱可塑性PI樹脂として、上述の三井化学株式会社製オーラムを使用する場合、射出成形時にはほとんど結晶化しないため、結晶化処理によって結晶化度を高めてもよい。結晶化処理の条件は、例えば、大気中または窒素中にて、最高温度280~320℃とし、最高温度で2時間以上保持してもよい。結晶化処理後の結晶化度は20%~40%であることが好ましい。結晶化度の測定方法は、DSCで結晶の融解熱量を測定するなどの周知の方法で測定できる。
【0082】
上記樹脂組成物がPAI樹脂を主成分とする場合、射出成形素材、射出成形素材から削り出したピストンリング、射出成形で製造したピストンリングのうち、いずれかの状態でポストキュア(熱処理)を実施することが、機械的強度の点から好ましい。ポストキュアの条件は、例えば、大気中にて、最高温度250℃~260℃とし、最高温度で15時間以上保持してもよい。
【0083】
上記熱処理、上記結晶化処理、上記ポストキュアは、樹脂組成物にわずかに含まれる活性な硫黄を除去するという点でも、実施することが好ましい。
【0084】
熱可塑性PI樹脂は、PEEK樹脂の場合に残留するジフェニルスルホンの含有がないことから硫黄原子の含有量が少なく、また、PAI樹脂に比べると熱処理時間を短く設定できることから、本発明のシール用樹脂組成物のベース樹脂として特に好ましい。
【0085】
本発明のシール用樹脂組成物からなる成形体(ピストンリングなど)に含まれる硫黄原子の含有量は、例えば、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)で測定することができる。より高精度に測定する目的で、トリプル四重極型誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS/MS)を用いてもよい。分析の前処理方法としては、例えば、マイクロ波試料前処理装置にて酸分解して得られた分解液をろ過し、上澄みを分析サンプルとして得る方法が挙げられる。分解残渣に硫黄原子が含まれないことは、蛍光X線分析装置など既知の分析方法で確認することができる。
【0086】
本発明のシール用樹脂組成物からなる成形体(ピストンリングなど)に含まれる硫黄原子の含有量は、樹脂組成物全量(100質量%)に対して0.1質量%以下であることが好ましく、0.050質量%以下であることがより好ましく、0.025質量%(250ppm)以下であることがさらに好ましく、0.020質量%(200ppm)以下であることが特に好ましい。
【実施例0087】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0088】
実施例1~実施例4、比較例1、比較例2
PEEK樹脂、PEK樹脂、熱可塑性PI樹脂、PTFE樹脂、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)樹脂をベース樹脂に用いて、表1の配合割合(体積%)で樹脂組成物を作製した。実施例1の樹脂組成物は、充填剤として、PTFE樹脂を含む一方で、炭素材料を含んでいない。実施例2および実施例4の樹脂組成物は、充填剤として、PTFE樹脂と炭素材料(炭素繊維と黒鉛の組み合わせ)を含むものであり、実施例3の樹脂組成物はPTFE樹脂と炭素繊維を含むものである。
【0089】
各樹脂組成物に用いた原材料を以下に示す。硫黄原子の含有量はICP-MS/MSによる測定で、炭素繊維(CF-1)および炭素繊維(CF-2)は200ppm以下であった。黒鉛は、ICP-MS/MSによる測定で硫黄原子の含有量が50ppm以下であるものを選定した。
【0090】
(1)PEEK樹脂〔PEEK〕
ビクトレックスジャパン株式会社:PEEK 450P(ガラス転移点143℃、溶融粘度350Pa・s(せん断速度1000/s、温度400℃))
(2)PEK樹脂〔PEK〕
ビクトレックスジャパン株式会社:HT P22(ガラス転移点152℃、溶融粘度190Pa・s(せん断速度1000/s、温度400℃))
(3)熱可塑性PI樹脂〔TPI〕
三井化学株式会社:PD400
(4)PTFE樹脂〔PTFE-1〕
三井ケマーズフロロプロダクツ株式会社:テフロン(登録商標)7-J
(5)PFA樹脂〔PFA〕
三井ケマーズフロロプロダクツ株式会社:テフロン(登録商標)420HP-J
(6)PTFE樹脂〔PTFE-2〕
株式会社喜多村:KTL-450(D50:22μm)
(7)炭素繊維〔CF-1〕
株式会社クレハ:クレカ M-107T(平均繊維長400μm)
(8)炭素繊維〔CF-2〕
帝人株式会社:HT M100 40MU(平均繊維長40μm)
(9)黒鉛〔GRP〕
イメリス・ジーシー・ジャパン株式会社:TIMREX KS25(D50:10μm)
【0091】
実施例1~実施例4、比較例2の樹脂組成物は、原材料を乾式混合した粉末を用いて二軸混練押し出し機によりペレットを作製し、射出成形によりASTM D638準拠の4号ダンベル試験片(厚さ3.2mm)を成形した。
【0092】
PEEK樹脂組成物(実施例1および実施例2)、PEK樹脂組成物(実施例3)からなる4号ダンベル試験片は、最高温度200℃、最高温度での保持時間4時間で熱処理した。また、熱可塑性PI樹脂組成物(実施例4)からなる4号ダンベル試験片は、最高温度320℃、最高温度での保持時間2時間で結晶化処理した。熱処理または結晶化処理した4号ダンベル試験片の中央部から、2mm×5mm×45mmの短冊状試験片を機械加工によって削り出した。PFA樹脂組成物(比較例2)からなる4号ダンベル試験片は、上記熱処理または上記結晶化処理を実施せず、同様の短冊状試験片を機械加工によって削り出した。
【0093】
実施例1~実施例4の4号ダンベル試験片について、硫黄原子の含有量は、次の手順で測定した。4号ダンベル試験片を凍結粉砕し、マイクロ波試料前処理装置にて酸分解して得られた分解液をろ過して、上澄みを分析サンプルとして得た。この分析サンプルをICP-MS/MSにより分析した。なお、分解残渣に硫黄原子が含まれないことは、蛍光X線分析装置によって確認した。
【0094】
なお、射出成形できない比較例1のPTFE樹脂組成物は、原材料を乾式混合した粉末を用いて圧縮成形、焼成することにより得た焼成体から、2mm×5mm×45mmの短冊状試験片を機械加工によって削り出した。
【0095】
<動的粘弾性測定>
実施例1~実施例4、比較例1、比較例2の短冊状試験片を用いて、動的粘弾性測定装置「DMS6100」(株式会社日立ハイテクサイエンス)にて、引張りモード、チャック間距離20mm、測定周波数10Hz、歪振幅10μm(正弦波)、昇温速度2℃/分の条件で温度に対する動的粘弾性特性を測定した。tanδのピーク温度、30℃における貯蔵弾性率E1’、200℃における貯蔵弾性率E2’、および、E2’/E1’を、硫黄原子の測定結果とともに表1に示す。
【0096】
また、実施例4について、温度と貯蔵弾性率E’の関係を
図3に示し、温度とtanδの関係を
図4に示す。
図3に示すように、貯蔵弾性率E’は30℃から200℃の温度範囲においてあまり低下せず維持されていることが分かる。また、
図4に示すtanδ曲線より、実施例4のtanδのピーク温度は273℃と算出された。
【0097】
<摩擦摩耗試験>
実施例1~実施例4、比較例2の樹脂組成物について、上述のペレットを用いて射出成形によりφ8×20mmの射出成形素材を成形した。PEEK樹脂組成物(実施例1、実施例2)、PEK樹脂組成物(実施例3)は、最高温度200℃、最高温度での保持時間4時間で熱処理した。また、熱可塑性PI樹脂組成物(実施例4)は、最高温度320℃、最高温度での保持時間2時間で結晶化処理した。
上記熱処理または上記結晶化処理を行った後、機械加工によってφ3×13mmのピン試験片を得た。なお、射出成形できない比較例1のPTFE樹脂組成物は、原材料を乾式混合した粉末を用いて圧縮成形、焼成することにより得た焼成体から、同様のピン試験片を機械加工によって削り出した。
ピン試験片を用いて、
図5に示すピンオンディスク試験機を用いて摩擦摩耗試験を行った。
図5に示すように、試験機の回転ディスク8の表面に3つのピン試験片7の試験面を下記の面圧で押し付けた状態で、温度150℃の大気雰囲気で回転ディスク8を回転させた。具体的な試験条件は以下のとおりであり、回転ディスク8の材質はSUS304である。なお、この試験条件は水素ガス用往復式圧縮機でのピストンリングの使用条件を想定している。
(試験条件)
周速 :4.8m/min
面圧 :4MPa
潤滑 :なし(ドライ)
温度 :150℃
時間 :50時間
試験終了後、試験前後におけるピン試験片7の高さの変化量をそれぞれ測定し、3本の平均値から比摩耗量を算出した結果を表1に示す。
【0098】
【0099】
表1に示すように、PEEK樹脂組成物(実施例1および実施例2)、PEK樹脂組成物(実施例3)、熱可塑性PI樹脂組成物(実施例4)は、E1’、E2’が4.0×108以上であり、更に、tanδのピーク温度が150℃以上であった。このように、実施例1~4の樹脂組成物からなる成形体は、E2’およびtanδのピーク温度が高いことから、高温下で変形しにくく、シールとして好適に使用でき、特に水素ガスを圧縮する往復式圧縮機のピストンリングとして好適である。また、実施例4はE2’/E1’が0.70以上1.0以下の範囲を満足している。これにより、温度による弾性率変化が小さく、シールに適用することで、室温付近から高温までの幅広い温度範囲で安定したシール性を維持できるため、シールとして特に好適である。
【0100】
比較例1、比較例2の樹脂組成物からなる成形体のE2’は、実施例1のE2’の1/2以下であることから、例えば、水素ガス用往復式圧縮機に用いられるピストンリングのような、高温下で使用されるシールに適用すると、使用中の変形、摩耗が大きくなるおそれがある。E2’が4.0×108Pa以上である実施例1~実施例4は、比較例1、比較例2よりも耐摩耗性に優れ、特に、E2’が2.0×109Pa以上である実施例3、実施例4は、耐摩耗性に一層優れる結果であった。
【0101】
また、実施例1~実施例4の樹脂組成物からなる成形体は、硫黄原子の含有量が200ppm以下であり、特に実施例3、実施例4は100ppm以下であった。
本発明のシール用樹脂組成物は、ガスを密封するためのシールに使用することができる。高温下で変形しにくく、また、温度による弾性率変化が小さいため、水素ガス用シールに適用することで、室温付近から高温までの幅広い温度範囲で安定したシール性を維持でき、特に高温かつ高圧の水素ガス中で使用される水素ガス用往復式圧縮機のピストンリングに好適である。
前記シール用樹脂組成物のベース樹脂が、芳香族ポリエーテルケトン樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、または、ポリアミドイミド樹脂であることを特徴とする請求項1または請求項2記載のシール用樹脂組成物。