(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178279
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】融雪レドーム
(51)【国際特許分類】
H01Q 1/42 20060101AFI20231207BHJP
G01S 7/03 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
H01Q1/42
G01S7/03 246
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023115426
(22)【出願日】2023-07-13
(62)【分割の表示】P 2022151506の分割
【原出願日】2022-09-22
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-08-31
(31)【優先権主張番号】P 2022090369
(32)【優先日】2022-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000175766
【氏名又は名称】三恵技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109243
【弁理士】
【氏名又は名称】元井 成幸
(72)【発明者】
【氏名】池増 竜帆
(72)【発明者】
【氏名】古林 宏之
【テーマコード(参考)】
3D225
5J046
5J070
【Fターム(参考)】
3D225AA11
3D225AD22
5J046RA03
5J046RA07
5J046RA14
5J070AE01
(57)【要約】
【課題】レドームに必要とされる電磁波透過性を確保しつつ、より低い消費電力で確実に融雪を行うことができると共に、長期間に亘って安定した融雪機能を発揮できる。
【解決手段】電磁波透過性の第1の基材3と電磁波透過性の第2の基材4とがソリッドの合成樹脂でそれぞれ形成され、視認側に配置される第1の基材3と第2の基材4との間に配線されたヒーター線5が第1の基材3と第2の基材4によって封止され、第2の基材4の視認側と逆側の面に発泡樹脂材7のような電磁波透過性断熱材が積層配置されて固着されている融雪レドーム1。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波透過性の第1の基材と電磁波透過性の第2の基材とがソリッドの合成樹脂でそれぞれ形成され、
視認側に配置される前記第1の基材と前記第2の基材との間に配線されたヒーター線が前記第1の基材と前記第2の基材によって封止され、
前記第2の基材の視認側と逆側の面に電磁波透過性断熱材が積層配置されて固着され、
前記電磁波透過性断熱材が発泡樹脂材であり、
前記発泡樹脂材の積層方向の板厚d3(mm)が下記式(1)を充足することを特徴とする融雪レドーム。
(λ0×N)/2n3-0.5(mm)≦d3≦(λ0×N)/2n3+0.5(mm)・・・(1)
〔式(1)中、λ0は融雪レドームに照射されるレーダー装置の電磁波の波長、n3は発泡樹脂材の屈折率、Nは正の整数を表す〕
【請求項2】
前記電磁波透過性断熱材の1m2あたりの熱抵抗が0.0055K/W以上であることを特徴とする請求項1記載の融雪レドーム。
【請求項3】
前記電磁波透過性断熱材の1m2あたりの熱抵抗が0.020K/W以上であることを特徴とする請求項2記載の融雪レドーム。
【請求項4】
前記発泡樹脂材の発泡倍率が2倍以上であると共に、電磁波照射領域における前記発泡樹脂材の積層方向の板厚が1mm以上であることを特徴とする請求項1記載の融雪レドーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車載レーダー装置の前側に設けられる車載レーダー装置用レドームのようなレドームに係り、特に融雪機能を有する融雪レドームに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車載レーダー装置用レドームとして、ヒーター線が配線される融雪機能を有するレドームが知られており、このようなレドームとして特許文献1に開示されているレドームがある。
【0003】
このレドームは、合成樹脂製の第1の基材と合成樹脂製の第2の基材とが積層配置されて固着され、第1の基材の第2の基材との固着面側に凹溝が形成され、ヒーター線が凹溝に嵌められて凹溝に沿って配線されるものである。そして、特許文献1には、第1の基材の合成樹脂と第2の基材の合成樹脂には発泡樹脂を用いてもよいことが開示されている(特許文献1の段落[0007]、[0025]参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1のレドームにおいて、視認側と逆側に配置される第2の基材を発砲樹脂で形成する場合には、発砲樹脂の断熱性によって、より低い消費電力でレドームを高温に加熱してレドームの視認側に付着した雪や氷を確実に融雪することができる。しかしながら、発泡樹脂で形成された第2の基材は、ソリッドの合成樹脂で形成される第2の基材に比べて防水性と耐久性に劣るため、長期間に亘って安定した融雪機能を発揮することが困難となる。そのため、より低い消費電力で必要とされる融雪を行うことができると共に、長期間に亘って安定した融雪機能を発揮することができるレドームが望まれている。
【0006】
本発明は上記課題に鑑み提案するものであって、レドームに必要とされる電磁波透過性を確保しつつ、より低い消費電力で確実に融雪を行うことができると共に、長期間に亘って安定した融雪機能を発揮することができる融雪レドームを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の融雪レドームは、電磁波透過性の第1の基材と電磁波透過性の第2の基材とがソリッドの合成樹脂でそれぞれ形成され、視認側に配置される前記第1の基材と前記第2の基材との間に配線されたヒーター線が前記第1の基材と前記第2の基材によって封止され、前記第2の基材の視認側と逆側の面に電磁波透過性断熱材が積層配置されて固着されていることを特徴とする。
これによれば、レドームに必要とされる電磁波透過性を確保しつつ、電磁波透過性断熱材の断熱性によって、より低い消費電力でレドームを高温に加熱することができ、レドームの視認側に付着した雪や氷を確実に融雪することができる。更に、レドームの温度ムラを抑制し、より均一にレドームを温めることができ、電磁波照射領域でより均一性の高い融雪を行うことができる。また、ソリッドの合成樹脂で形成された第1の基材と第2の基材によってヒーター線を封止することにより、ヒーター線による加熱構造の防水性と耐久性を長期間に亘って安定して確保することができ、長期間に亘って安定した融雪機能を発揮することができる。また、電磁波透過性断熱材を第2の基材に対して離間配置せずに、第2の基材に固着することにより、電磁波透過性断熱材と第2の基材との間の界面の数を減らし、レーダー装置からレドームに垂直方向或いは斜め方向に入射する電磁波の電磁波透過性をより高めることができると共に、電磁波透過性断熱材と第2の基材との間の空気の対流や入れ替わりで断熱性が低下することを防止することができる。
【0008】
本発明の融雪レドームは、前記電磁波透過性断熱材が発泡樹脂材であることを特徴とする。
これによれば、電磁波透過性と断熱性の双方の特性がより高いレドームを確実に得ることができる。
【0009】
本発明の融雪レドームは、前記発泡樹脂材の積層方向の板厚d3(mm)が、以下の式(1)を充足することを特徴とする。
(λ0×N)/2n3-0.5(mm)≦d3≦(λ0×N)/2n3+0.5(mm)・・・(1)
〔式(1)中、λ0は融雪レドームに照射されるレーダー装置の電磁波の波長、n3は発泡樹脂材の屈折率、Nは正の整数を表す〕
これによれば、レドームの非常に優れた電磁波透過性を実現し、電磁波透過性と断熱性の双方の特性がより高いレドームを確実に得ることができる。
【0010】
本発明の融雪レドームは、前記電磁波透過性断熱材の1m2あたりの熱抵抗が0.0055K/W以上であることを特徴とする。
これによれば、電磁波透過性断熱材を第2の基材に積層配置しない構造に比べて、同一の融雪効果を得るために必要とされる消費電力を約10%程度削減することができる。
【0011】
本発明の融雪レドームは、前記電磁波透過性断熱材の1m2あたりの熱抵抗が0.020K/W以上であることを特徴とする。
これによれば、電磁波透過性断熱材を第2の基材に積層配置しない構造に比べて、同一の融雪効果を得るために必要とされる消費電力を約29%程度削減することができる。
【0012】
本発明の融雪レドームは、前記発泡樹脂材の発泡倍率が2倍以上であると共に、電磁波照射領域における前記発泡樹脂材の積層方向の板厚が1mm以上であることを特徴とする。
これによれば、レドームに必要とされる電磁波透過性を確保しつつ、断熱性を確実に向上し、同一の融雪効果を得るために必要とされる消費電力削減効果を確実に高めることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の融雪レドームによれば、レドームに必要とされる電磁波透過性を確保しつつ、より低い消費電力で確実に融雪を行うことができると共に、長期間に亘って安定した融雪機能を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明による実施形態の融雪レドームの正面図。
【
図3】発泡樹脂材の発泡樹脂の密度と誘電正接との関係及び発泡樹脂材の発泡樹脂の密度と複素比誘電率実部との関係の実験結果を示すグラフ。
【
図4】発泡樹脂材の板厚と電磁波透過率との関係の実験結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
〔実施形態の融雪レドーム〕
本発明による実施形態の融雪レドーム1は、例えば車両のバンパーに取り付けられるバンパーカバー等として用いられる車載レーダー装置用レドームであり、
図1及び
図2に示すように、電磁波透過性の基体2を備える。基体2は、融雪レドーム1の外表面側である視認側に配置される第1の基材3と、第1の基材3の視認側と逆側である後側に配置される第2の基材4と、第2の基材の視認側と逆側である後側に配置される電磁波透過性断熱材に相当する発泡樹脂材7とから構成されている。第1の基材3と第2の基材4は積層配置して固着され、第2の基材4と発泡樹脂材7は積層配置して固着されている。第1の基材3と第2の基材4と発泡樹脂材7はそれぞれ絶縁性で電磁波透過性の合成樹脂で形成されている。融雪レドーム1には、発泡樹脂材7側から、図示省略する車載レーダー装置のようなレーダー装置で電磁波が照射される。
【0016】
第1の基材3と、第2の基材4は、それぞれソリッドの合成樹脂で形成されている。第1の基材3と、第2の基材4には、異種の合成樹脂又は同種の合成樹脂を用いることができ、複素誘電率に基づき定義される屈折率nが相互に整合する、又は、屈折率nが略同一或いは近接する材料で第1の基材3と第2の基材4を形成すると、電磁波の透過性能向上の観点から好適である。第1の基材3と第2の基材4の近接する屈折率の数値範囲としては、第1の基材3と第2の基材4の屈折率の相違が0~10%の範囲内とすると良好である。
【0017】
電磁波透過性断熱材に相当する発泡樹脂材7には、第1の基材3と第2の基材4の双方と、複素誘電率に基づき定義される屈折率nが相互に整合する、又は、屈折率nが略同一或いは近接するものを用いると電磁波の透過性能向上の観点から好適である。第1の基材3と発泡樹脂材7の近接する屈折率の数値範囲としては、第1の基材3と発泡樹脂材7の屈折率の相違が0~10%の範囲内とすると良好であり、又、第2の基材4と発泡樹脂材7の近接する屈折率の数値範囲としては、第2の基材4と発泡樹脂材7の屈折率の相違が0~10%の範囲内とすると良好である。
【0018】
ここでの屈折率nは比誘電率実数部ε’rと比誘電率虚数部ε”rから数式1として定義される量である。 透過性の観点から適用周波数における虚数部と実数部の比から数式2として定義される誘電正接(ロスタンジェント)tanδの大きさは0.1以下とすると好適である。また比誘電率実部の大きさは3以下とすると好適である。誘電正接と非誘電率実部の大きさをこれらの数値以下とすることにより、レドームに必要とされる反射率と内部損失の低減を確実にすることが可能となる。
【0019】
【0020】
【0021】
第1の基材3のソリッドの合成樹脂と、第2の基材4のソリッドの合成樹脂には、本発明の趣旨の範囲内で適宜の合成樹脂を用いることが可能であり、例えばポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル系樹脂、ポリカーボネート(PC)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリル-スチレン-アクリレート共重合(ASA)、アクリロニトリル-エチレンプロピルラバー-スチレン共重合体(AES)、ポリプロピレン(PP)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)等の1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて第1の基材3或いは第2の基材4に用いると良好であり、又、添加剤を含有させてもよい。
【0022】
電磁波透過性断熱材に相当する発泡樹脂材7には、本発明の趣旨の範囲内で適宜の合成樹脂を用いることが可能であり、例えばポリフェニレンエーテル(PPE)、変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)、ポリウレタン(PUR)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、フェノール樹脂(PF)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ユリア樹脂(UF)、シリコーン(SI)、ポリイミド(PI)、メラミン樹脂 (MF)、ポリスチレン系樹脂(PS)、ポリアミド系樹脂(PA)、アクリル系樹脂、フッ素系樹脂、ポリエステル系樹脂等を用いると良好であり、又、添加剤を含有させてもよい。前記発泡樹脂材7に用いられる合成樹脂の中でも、発泡樹脂材7の複素屈折率を低減する観点から極性が小さい樹脂であることが好ましく、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリイミド系樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられる。中でも、加工性、コスト、難燃性の観点も考慮すると、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂が好ましい。
【0023】
電磁波透過性断熱材或いはこれに相当する発泡樹脂材7には、1m2あたりの熱抵抗が0.0055K/W以上の材料を用いると発泡樹脂材7を第2の基材4に積層配置しない構造に比べて、例えば同一の融雪効果を得るために必要とされる消費電力を約10%以上削減することができて好適である。更に、1m2あたりの熱抵抗が0.020K/W以上の材料を用いると例えば同一の融雪効果を得るために必要とされる消費電力を約29%以上削減することができて好適である。1m2あたりの熱抵抗が大きいほど断熱性が高くなるため消費電力の低減効果が大きくなるが、後述の数式3で示されるように熱抵抗を大きくするためには厚みを大きくするか、熱伝導率を小さくする必要がある。熱伝導率は材料に固有の値のため、厚みを大きくすると熱抵抗値を大きくできる。しかし、実使用上の制約があること、上述の式(1)に示されるように厚みと電磁波透過性に大きな相関があること、一般に厚みを大きくするほど電磁波の吸収率が大きくなり電磁波透過性が悪化することから、厚みを大きくすることは難しい。上記の観点から、1m2あたりの熱抵抗値は、0.0055K/W以上であり、0.010K/W以上が好ましく、0.015K/W以上がより好ましく、さらに好ましくは0.020K/W以上である。上限は特に規定されないが、2.000K/W以下が好ましく、1.5000K/W以下がより好ましく、さらに好ましくは1.000K/W以下である。
【0024】
発泡樹脂材7の発泡倍率は2倍以上、電磁波照射領域における発泡樹脂材7の積層方向の板厚は1mm以上とすると、断熱性を確実に向上し、同一の融雪効果を得るために必要とされる消費電力削減効果を確実に高めることができて好適である。また、実用上の観点、機械強度を向上させる観点、断熱性を向上させる観点、電磁波透過性を向上させる観点から、発泡樹脂材7の発泡倍率は好ましくは20倍以下、より好ましくは15倍以下である。また、同様の観点から電磁波照射領域における発泡樹脂材7の積層方向の板厚は50mm以下とすることが好ましく、より好ましくは30mm以下である。
【0025】
尚、融雪レドーム1における第1の基材3と第2の基材4と電磁波透過性断熱材に相当する発泡樹脂材7の電磁波透過方向における厚さに関し、第1の基材3の厚さと第2の基材4の厚さと発泡樹脂材7の厚さの比や、第1の基材3の厚さや、第2の基材4の厚さや、発泡樹脂材7の厚さや、第1の基材3と第2の基材4と発泡樹脂材7で構成される基体2の厚み(総厚)は、車載レーダー装置用レドームのようなレドームとして所要の電磁波透過性を確保できれば、適宜の範囲に設定することが可能である。
【0026】
また、電磁波透過性断熱材に相当する発泡樹脂材7は、電磁波照射方向において、電磁波照射領域Rの全体に亘って重なるように設けると、必要な電磁波透過性を確実に得ることができて好適であり、更には、基体2におけるヒーター線5の配線領域の全体に亘り且つ電磁波照射領域Rの全体よりも大きい範囲に発泡樹脂材7を設けるとより好適である。
【0027】
融雪レドーム1には、ヒーター線5が電磁波透過性の基体2の面方向に配線されている。ヒーター線3を構成する導電性材料には、本発明の趣旨の範囲内で適宜の導電性材料を用いることが可能であり、例えば銅、銀、銀メッキ銅、銅銀合金、銅ニッケル合金、ニッケルクロム合金、鉄クロム合金、ITO膜のような透明導電膜、又はカーボン繊維等とすると良好である。又、ヒーター線の形態は問わず、線材、導電インク、導電フィラー等を利用することができる。
【0028】
図示例のヒーター線5は、板状の基体2が拡がる方向に沿って蛇行し、折り返すように配線されて一連で延びて形成されており、基体2のレーダー装置による電磁波照射領域Rとその外側においてヒーター線5の直線部が基体2の面方向に沿って間隔を開けて並設されていると共に、隣り合うヒーター線5の直線部に流れる電流の方向が互いに略反平行或いは反平行となるように設定されている。
【0029】
また、ヒーター線5は、第1の基材3と第2の基材4との間に埋設されており、第1の基材3と第2の基材4とで挟持されるようにして、第1の基材3と第2の基材4とで構成される基体2に内設されて封止されている。本実施形態では、第1の基材3の第2の基材4との固着面側に凹溝31が形成されていると共に、第2の基材4の第1の基材3との固着面側に凹溝31と対向するように別の凹溝41が形成されており、ヒーター線5は、第1の基材3の凹溝31と第2の基材4の別の凹溝41とに嵌められて凹溝31及び別の凹溝41に沿って配線されている。尚、変形例として、ヒーター線が配線された樹脂フィルムを第1の基材と第2の基材との間に設け、第1の基材と第2の基材と樹脂フィルムを介して固着することにより、ヒーター線を第1の基材と第2の基材によって封止する構造としてもよい。
【0030】
更に、第1の基材3の固着面側には凹溝31と連設されるようにして位置決め凹部32が形成されており、位置決め凹部32には、ヒーター線5に電気的に接続されるワイヤーハーネス接続部6の少なくとも一部が収容されている。ワイヤーハーネス接続部6の接続端子61と、ヒーター線5の端部51は、例えば凹溝31に対応する位置でワイヤーハーネス接続部の接続端子61が第2の基材4側となるように重ねて配置され、電気的に接続されている。
【0031】
そして、本実施形態における第2の基材4は、第1の基材3に重なるように射出成形された射出成形材で構成されており、射出成形材の第2の基材4が第1の基材3に成形溶着で固着されている。射出成形材の第2の基材4と第1の基材3の内部には、ヒーター線5が埋設されて封止されていると共に、ワイヤーハーネス接続部6が埋設されて封止されている。第1の基材3と第2の基材4から構成される基体2からはワイヤーハーネス接続部6から延びる電気ケーブル62が導出されている。尚、第1の基材3と第2の基材4との固着は、成形溶着以外にも適用可能な範囲で適宜の方法で固着することが可能であり、例えば接着層を介する接着、又は熱融着等で固着することも可能であるが、電磁波透過性の低下をより確実に防止する観点から、溶着或いは熱融着のように第1の基材3と第2の基材4を直接固着する構成とすることが好ましい。
【0032】
また、本実施形態における電磁波透過性断熱材に相当する発泡樹脂材7は、電磁波透過性の低下をより確実に防止する観点から、第2の基材4に溶着或いは熱融着等によって直接固着されている。尚、発泡樹脂材7は、例えば接着層を介する接着等で第2の基材4に固着することも可能である。
【0033】
本実施形態の融雪レドーム1によれば、レドームに必要とされる電磁波透過性を確保しつつ、電磁波透過性断熱材に相当する発泡樹脂材7の断熱性によって、より低い消費電力でレドームを高温に加熱することができ、レドームの視認側に付着した雪や氷を確実に融雪することができる。更に、レドームの温度ムラを抑制し、より均一にレドームを温めることができ、電磁波照射領域でより均一性の高い融雪を行うことができる。また、ソリッドの合成樹脂で形成された第1の基材3と第2の基材4によってヒーター線5を封止することにより、ヒーター線5による加熱構造の防水性と耐久性を長期間に亘って安定して確保することができ、長期間に亘って安定した融雪機能を発揮することができる。
【0034】
また、電磁波透過性断熱材に相当する発泡樹脂材7を第2の基材4に対して離間配置せずに、第2の基材4に固着することにより、発泡樹脂材7と第2の基材4との間の界面の数を減らし、レーダー装置からレドームに垂直方向或いは斜め方向に入射する電磁波の電磁波透過性をより高めることができると共に、発泡樹脂材7と第2の基材4との間の空気の対流や入れ替わりで断熱性が低下することを防止することができる。また、電磁波透過性断熱材を発泡樹脂材7とすることにより、電磁波透過性と断熱性の双方の特性がより高いレドームを確実に得ることができる。
【0035】
〔本明細書開示発明の包含範囲〕
本明細書開示の発明は、発明として列記した各発明、実施形態の他に、適用可能な範囲で、これらの部分的な内容を本明細書開示の他の内容に変更して特定したもの、或いはこれらの内容に本明細書開示の他の内容を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な内容を部分的な作用効果が得られる限度で削除して上位概念化して特定したものを包含する。そして、本明細書開示の発明には下記変形例や追記した内容も含まれる。
【0036】
例えば本発明の融雪レドームにおける電磁波透過性断熱材は、本発明の趣旨の範囲内で適宜であり、上記実施形態の発泡樹脂材7以外に、例えばコルク材等としてもよい。また、本発明の融雪レドームは、車載レーダー装置用レドームとして用いると好適であり、又、本発明の融雪レドームを車載レーダー装置用レドームとする場合には適宜種別の車両実装部品とすることが可能であり、バンパーカバーに限定されず、例えばエンブレム形状のレドーム等としても好適である。また、本発明の融雪レドームは、適宜のレーダー装置を保護する、車載レーダー装置用レドーム以外のレドームとして用いても良好である。また、ヒーター線5の電磁波透過性の基体2の面方向における配線の仕方は、蛇行配線以外に、同心円状に配線するなど適宜である。
【0037】
〔実施例の融雪レドームの消費電力低減効果の実験結果〕
次に、本発明による実施例の融雪レドームと比較例の融雪レドームの消費電力低減効果に関する実験結果について説明する。この実験では、上記実施形態の第1の基材3に形成された凹溝31と第2の基材4の別の凹溝41に沿ってヒーター線5を配線し、第1の基材3と第2の基材4を接着し、第2の基材4に発泡樹脂材7又はコルク材の電磁波透過性断熱材を積層配置して接着した構造の融雪レドーム1を各実施例とした。また、上記実施形態の第1の基材3に形成された凹溝31と第2の基材4の別の凹溝41に沿ってヒーター線5を配線し、第1の基材3と第2の基材4を接着し、第2の基材4に発泡樹脂材7或いはコルク材の電磁波透過性断熱材を積層配置しない構造の融雪レドームを比較例とした。
【0038】
各実施例と比較例では110mm×50mmの矩形の融雪エリアを設定し、融雪エリアにおいてヒーター線5を蛇行配線した。ヒーター線5の線幅は0.06mm、並行配置されたヒーター線5の相互間のピッチは7.00mmとした。ヒーター線5の材料には銅を用いた。
【0039】
各実施例と比較例における第1の基材3と第2の基材4は、それぞれ比誘電率実部ε’r=2.67、tanδ=0.005を有するABS樹脂で形成し、第1の基材3の板厚と第2の基材4の板厚をそれぞれ1.2mm、積層状態の第1の基材3と第2の基材4の総板厚を2.4mmとした。
【0040】
また、実施例1-1~1-5及び実施例2-1~2-4における電磁波透過性断熱材に相当する発泡樹脂材7は変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE樹脂、旭化成株式会社製、製品名:サンフォースBE)で形成した。実施例1-1~1-5では発泡樹脂材7の板厚を2mmとし、発泡樹脂材7の発泡倍率をそれぞれ10倍、8倍、6倍、4倍、2倍とした。実施例2-1~2-4では発泡樹脂材7の発泡倍率を4倍とし、発泡樹脂材7の板厚をそれぞれ1mm、2mm、3mm、4mmとした。また、実施例3における電磁波透過性断熱材に相当するコルク材には、JEJアステージ製、シート中粒、比誘電率実部ε’r=1.75、tanδ=0.029のコルク材を用い、その板厚は2mmとした。
【0041】
そして、各実施例と比較例のレドームに対して、電磁波透過性断熱材或いは第2の基材4側から、レーダー装置で電磁波(周波数:76.5GHz、波長:3.92mm)を照射して電磁波透過率を測定した。
【0042】
また、環境温度-5℃、風速100km/hの風が各実施例と比較例のレドーム正面に当たる環境下におき、第1の基材3の表面(レドーム正面)の温度の評価を行った。前述の環境下で十分時間が経過し、表面温度が15℃で定常状態になった際のヒーター線5に印加されている電圧とヒーター線5の電流値から各実施例と比較例の消費電力を求め、電磁波透過性断熱材が無い比較例に対する消費電力低減効果(%)を算出した。
【0043】
また、電磁波透過性断熱材に相当する実施例1-1~1-5及び実施例2-1~2-4の発泡樹脂材7と実施例3のコルク材の熱伝導率(W/mk)をJIS A1412に基づいて測定し、1m2当たりの熱抵抗(K/W)を以下の数式3によって算出した。数式3中、Rは電磁波透過性断熱材の熱抵抗、tは電磁波透過性断熱材の厚み、λは電磁波透過性断熱材の熱伝導率、Sは電磁波透過性断熱材の面積を示す。ただし,Sについては、一般性を持たせるため、ここでは1m2とした。これらの実験結果を下記表1、表2に示す。
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
上記表1、表2の実験結果から、実施例と比較例のレドームのいずれも例えば車載レーダー装置用レドームに必要とされる電磁波透過率-1.0dBをクリアしていることが分かる。そして、第1の基材3と第2の基材4と電磁波透過性断熱材の積層構造を有する各実施例の融雪レドームでは、電磁波透過性断熱材に1m2あたりの熱抵抗が0.020K/W以上の材料を用いると、比較例に比べて、同一の融雪効果を得るために必要とされる消費電力を29%以上削減できることが分かる。
【0048】
また、発泡樹脂材7の発泡倍率は2倍以上、発泡樹脂材7或いはコルク材で構成される電磁波透過性断熱材の積層方向の板厚は1mm以上とすると、断熱性を確実に向上し、同一の融雪効果を得るために必要とされる消費電力削減効果を確実に高められることが分かる。
【0049】
〔本発明の融雪における電磁波透過性断熱材の好適な板厚範囲〕
次に、本発明の融雪レドームにおける電磁波透過性断熱材に相当する発泡樹脂材の好適な板厚範囲について説明する。
図3は発泡樹脂材の発泡樹脂の密度と誘電正接との関係及び発泡樹脂材の発泡樹脂の密度と複素比誘電率実部との関係の実験結果を示すグラフである。この実験では、第1の基材と第2の基材を積層した状態の板厚に相当する板厚2.4mmのABS樹脂の裏面にm-PPE樹脂の発泡樹脂材を密接して積層配置し、この積層板に対して、発泡樹脂材側から垂直方向に76.5GHzの電磁波を照射し、透過波と反射波からニコルソン・ロス法により、発泡樹脂材の複素比誘電率の数値を得た。
図3中の黒点は発泡樹脂材の複素比誘電率実部の測定値を示し、白点は発泡樹脂材の誘電正接の測定値を示す。
【0050】
図3の複素比誘電率のフィッティング関数は下記数式4となる。下記数式4においてεfは発泡樹脂の複素比誘電率、ε’fは発泡樹脂の複素比誘電率の実部、ε”fは発泡樹脂の複素比誘電率の虚部、εpは発泡前の複素比誘電率、εgは発泡樹脂を構成する気体の複素比誘電率を示す。
図3の上部の点線は実験結果から数式4を用いて計算された複素比誘電率実部のフィッティング結果である。このとき、εgには空気の複素比誘電率εg = 1+i0を代入し計算した。
【0051】
【0052】
また,発泡樹脂材の比誘電率虚部ε”fについても同様に数式4で計算される。さらに、数式5を用いることで、発泡樹脂における誘電正接tanδが計算され、
図3下部の点線のようなフィッティング結果が得られる。
【0053】
【0054】
そして、発泡樹脂材の屈折率n3は下記数式6で示され、電磁波透過率が極小(電磁波透過損失が極小)となる発泡樹脂材の板厚d3は下記数式7で示される。下記数式7において、λ0は照射される電磁波の波長、Nは正の整数であり、76.5GHzの電磁波におけるλ0は約3.92mmである。
【0055】
【0056】
【0057】
図4に発泡樹脂材の板厚と電磁波透過率との関係の実験結果を示す。この実験では、第1の基材と第2の基材を積層した状態の板厚に相当する板厚2.4mmのABS樹脂の裏面にm-PPE樹脂の発泡樹脂材を密接して積層配置し、この積層板に対して、発泡樹脂材側から垂直方向に76.5GHzの電磁波を照射し、積層板の発泡樹脂材の電磁波透過率を測定して実験結果を得た。発泡樹脂材には、発泡倍率が2倍、4倍、6倍、8倍、10倍のものを用い、それぞれの発泡倍率の発泡樹脂材が積層された積層板の電磁波透過率を測定した。
図4から、発泡樹脂材の発泡倍率に応じて、それぞれ上記数式6の条件を充足する時に、電磁波透過率が極小(電磁波透過損失が極小)となる発泡樹脂材の板厚となることが分かる。
【0058】
上記実験結果から、視認側に配置され、ソリッドの合成樹脂で形成された電磁波透過性の第1の基材3と、ソリッドの合成樹脂で形成された電磁波透過性の第2の基材4と、電磁波透過性断熱材に相当する発泡樹脂材7が順に積層配置される融雪レドーム1では、発泡樹脂材の板厚d3は、(λ0×N)/2n3-0.5(mm)≦d3≦(λ0×N)/2n3+0.5(mm)の条件を充足するように設定すると好適である(λ0:融雪レドーム1に照射されるレーダー装置の電磁波の波長、n3:発泡樹脂材の屈折率、N:正の整数)。更に、この発泡樹脂材の板厚d3は、(λ0×N)/2n3-0.25(mm)≦d3≦(λ0×N)/2n3+0.25(mm)の条件を充足するように設定するとより好適である。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、例えば車載レーダー装置用レドームのようなレーダー装置のレドームとして利用することができる。
【符号の説明】
【0060】
1…融雪レドーム 2…基体 3…第1の基材 31…凹溝 32…位置決め凹部 4…第2の基材 41…別の凹溝 5…ヒーター線 51…端部 6…ワイヤーハーネス接続部 61…接続端子 62…電気ケーブル 7…発泡樹脂材 R…電磁波照射領域