IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 凸版印刷株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-化粧シート 図1
  • 特開-化粧シート 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178429
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】化粧シート
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/36 20060101AFI20231207BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
B32B27/36
B32B27/00 E
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023183072
(22)【出願日】2023-10-25
(62)【分割の表示】P 2019093577の分割
【原出願日】2019-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】河西 優衣
(72)【発明者】
【氏名】戸賀崎 浩昌
(57)【要約】
【課題】本発明の解決しようとする課題は、表面硬度が高く耐傷性に優れ、しかも加工性や生産性においても優れた化粧シートを提案するものである。
【解決手段】ポリブチレンテレフタレート樹脂を含む厚さ60μm以上200μm以下の熱可塑性樹脂基材シート1上に、絵柄模様層2、透明熱可塑性樹脂層6、及び表面保護層7がこの順序に積層された化粧シート10であって、前記透明熱可塑性樹脂層にはエンボス9が形成されており、透明熱可塑性樹脂層の厚さは70μm以上150μm以下であり、前記表面保護層は電離放射線硬化型樹脂を含むことを特徴とする化粧シートである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリブチレンテレフタレート樹脂を含む厚さ60μm以上200μm以下の熱可塑性樹脂基材シート上に、絵柄模様層、透明熱可塑性樹脂層、及び表面保護層がこの順序に積層された化粧シートであって、
前記透明熱可塑性樹脂層にはエンボスが形成されており、透明熱可塑性樹脂層の厚さは70μm以上150μm以下であり、
前記表面保護層は電離放射線硬化型樹脂を含むことを特徴とする化粧シート。
【請求項2】
前記透明熱可塑性樹脂層は、前記絵柄模様層側に形成され第1の樹脂を含んで形成される第1の樹脂層と、
前記第1の樹脂層上に形成され、前記第1の樹脂とは異なる第2の樹脂を含んで形成される第2の樹脂層とを備え、
前記第1の樹脂は透明マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂であり、前記第2の樹脂は透明ポリプロピレン樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の化粧シート。
【請求項3】
前記第1の樹脂層の厚さは、10μm以上であり、且つ、前記透明熱可塑性樹脂層全体の厚さの20%以下であることを特徴とする請求項2に記載の化粧シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧シートに関し、特に表面硬度や耐熱性、耐摩耗性等の諸物性に加え、加工性、生産性に優れ、トイレブースや腰壁用途等表面硬度が必要とされる場所に用いることができる化粧シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、耐傷付き性や耐摩耗性が必要とされる部分に使用される化粧材としては、特許文献1に記載されたようなメラミン樹脂化粧板等の熱硬化性樹脂化粧板が用いられていた。しかしメラミン樹脂化粧板は、平面プレス機を用いて枚葉で生産されるため、サイズが限定され、使用に当たっての歩留まりが悪く、価格的にも高価であるという問題があった。
【0003】
一方現在表面化粧シートとして広く用いられているポリオレフィン系樹脂を用いた化粧シートは、生産性やコストにおいて優位であるが、表面硬度や耐摩耗性においては十分でなく、トイレブースや腰壁といった用途には使用することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-198904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の解決しようとする課題は、表面硬度が高く耐傷性に優れ、しかも加工性や生産性においても優れた化粧シートを提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するための手段として、請求項1に記載の発明は、ポリブチレンテレフタレート樹脂を含む厚さ60μm以上200μm以下の熱可塑性樹脂基材シート上に、絵柄模様層、透明熱可塑性樹脂層、及び表面保護層がこの順序に積層された化粧シートであって、前記透明熱可塑性樹脂層にはエンボスが形成されており、透明熱可塑性樹脂層の厚さは70μm以上150μm以下であり、前記表面保護層は電離放射線硬化型樹脂を含むことを特徴とする化粧シートである。
【0007】
本発明に係る化粧シートは、基材シートとしてポリブチレンテレフタレート樹脂を含む熱可塑性樹脂基材シートを用いたことにより、各種物性を満足するものとなった。
【0008】
また、請求項2に記載の発明は、前記透明熱可塑性樹脂層が、前記絵柄模様層側に形成され第1の樹脂を含んで形成される第1の樹脂層と、前記第1の樹脂層上に形成され、前記第1の樹脂とは異なる第2の樹脂を含んで形成される第2の樹脂層とを備え、前記第1の樹脂は透明マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂であり、前記第2の樹脂は透明ポリプロピレン樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の化粧シートである。
【0009】
また、請求項3に記載の発明は、前記第1の樹脂層の厚さが、10μm以上であり、且つ、前記透明熱可塑性樹脂層全体の厚さの20%以下であることを特徴とする請求項2に記載の化粧シートである。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る化粧シートは、基材シートとして従来用いられていたポリエチレン樹脂フィルムに替えてポリブチレンテレフタレート樹脂を含む熱可塑性樹脂シートを使用したことにより、表面硬度や耐傷性等、トイレブースや腰板の表面材として要求される各種物性を満足することができた。
【0011】
請求項2に記載の発明のように、透明熱可塑性樹脂層を2層に分け、絵柄模様層側にマレイン酸変性ポリプロピレン樹脂を含む第1の樹脂層を配置し、第1の樹脂層上にポリプロピレン樹脂を含む第2の樹脂層を配置した場合には、透明熱可塑性樹脂層の絵柄模様層への密着性が向上する。
【0012】
さらに請求項3に記載の発明のように、第1の樹脂層の厚さを、10μm以上とし、且つ透明熱可塑性樹脂層全体の厚さの20%以下とした場合には、密着性を確保しつつ、高価なマレイン酸変性ポリプロピレン樹脂が少なくて済むので、経済的に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明に係る化粧シートの一実施態様における層構成を模式的に示した断面説明図である。
図2図2は、本発明に係る化粧シートの他の実施態様における層構成を模式的に示した断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下図面を参照しながら本発明に係る化粧シートについて詳細に説明する。図1は、本発明に係る化粧シート10の一実施態様における層構成を模式的に示した断面説明図である。本発明に係る化粧シート10は、ポリブチレンテレフタレート樹脂を含む厚さ60μm以上200μm以下の熱可塑性樹脂基材シート1上に、絵柄模様層2、透明熱可塑性樹脂層6、及び表面保護層7がこの順序に積層された化粧シートであって、透明熱可塑性樹脂層6にはエンボス9が形成されており、透明熱可塑性樹脂層6の厚さは70μm以上150μm以下であり、表面保護層7は電離放射線硬化型樹脂を含むことを特徴とする化粧シートである。
【0015】
熱可塑性樹脂基材シート1に用いる合成樹脂としては、ポリブチレンテレフタレート樹脂を主体として、これに必要に応じて、他の合成樹脂としてポリエチレンテレフタレート樹脂、熱可塑性ポリエステルエラストマー、エポキシ系化合物、アクリル系樹脂等を添加することができる。
【0016】
熱可塑性樹脂基材シート1は、上記の合成樹脂成分に、着色顔料、各種添加剤等を添加して分散均一化し、シート状に成形したものである。着色顔料としては、耐光性を考慮して、二酸化チタン、カーボンブラック、酸化鉄等の無機顔料や、フタロシアニンブルー、キナクリドン等各種有機高級顔料を用いることが望ましい。添加剤としては、必要に応じて無機充填剤、滑剤、難燃剤、可塑剤、熱安定剤、酸化防止剤等が用いられる。
【0017】
熱可塑性樹脂基材シート1の表面には、絵柄模様層2が印刷形成される。印刷方法としては、グラビア印刷、インクジェット印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷等の印刷法が用いられる。印刷インキとしては、それぞれの印刷法に適した印刷インキを用いる。
【0018】
次に絵柄模様層2の表面に必要に応じて接着剤層3を介して透明熱可塑性樹脂層6を形成する。透明熱可塑性樹脂層6に用いる熱可塑性樹脂としては、低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)、高密度ポリエチレン樹脂(HDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(LLDPE)、ポリプロピレン樹脂(PP)、ポリオレフィン系エラストマー等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)、ポリエチレンナフタレート樹脂(PEN)等のポリエステル系樹脂、ポリメチルメタアクリレート樹脂(PMMA)、エチレン-酢酸ビニル系共重合樹脂(EVA)、アイオノマー樹脂、ポリブテン系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ナイロン-6、ナイロン-66等のポリアミド系樹脂、ポリスチレン系樹脂(PS)、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリ塩化ビニリデン樹脂(PVDC)、ポリカーボネート樹脂(PC)、フッ素系樹脂、ウレタン系樹脂等の合成樹脂を用いることができる。
【0019】
透明熱可塑性樹脂層6の表面には、エンボス9を形成することにより、化粧シートの表面に立体感を与え、意匠性を向上させることができる。エンボス9は、透明熱可塑性樹脂層6のみに留まらず、他の層に及んでも良い。エンボス9を形成する方法としては、各層を貼り合せた後に全体を加熱してエンボスロールを押し当てる後エンボス方法や、透明熱可塑性樹脂層をTダイから押し出してエンボスロールに押し当てる押し出し同時エンボス法等を用いることができる。
【0020】
透明熱可塑性樹脂層6の厚さは70μm以上、150μm以下とするのが良い。70μm未満では、耐摩耗性、耐傷性能が不十分となる恐れがある。一方透明熱可塑性樹脂層6の厚さが150μmを超えると製造時の生産性が劣り、コスト的にも不利である。
【0021】
熱可塑性樹脂基材シート1と透明熱可塑性樹脂層6との厚さの合計値は、150μm以上300μm以下とするのが良い。150μm未満では耐傷性が劣る恐れがあり、300μmを超える場合には、加工性や製造時の生産性に問題が生じる可能性がある。
【0022】
透明熱可塑性樹脂層6の表面には、表面保護層7を設ける。表面保護層7は、化粧シート10の表面物性を向上させるものであり、化粧シート表面に耐傷性や耐汚染性、滑り性等を付与し、艶、触感等に影響する。表面保護層7としては、紫外線硬化型塗料や電子線硬化型塗料等の電離放射線硬化型塗料を用いる。
【0023】
図2は、本発明に係る化粧シート10の他の実施態様における層構成を模式的に示した断面説明図である。この例では、透明熱可塑性樹脂層6は、絵柄模様層2側に形成され第1の樹脂を含んで形成される第1の樹脂層4と、第1の樹脂層上に形成され、第1の樹脂とは異なる第2の樹脂を含んで形成される第2の樹脂層5とを備え、第1の樹脂は透明マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂であり、第2の樹脂は透明ポリプロピレン樹脂であることを特徴とする。
【0024】
このように絵柄模様層2に対する接着性に優れた第1の樹脂層4を設けることにより、絵柄模様層2上の透明樹脂層全体の密着性が高まり、より優れた物性を発揮することが可能となる。2層からなる透明熱可塑性樹脂層6を形成する方法としては、2軸押出機を用いて第1の樹脂層と第2の樹脂層を2層同時に押し出して貼り合わせる方法が適している。図2では、接着剤層3が用いられているが、絵柄模様層2の材質によっては、これを省略することもできる。
【0025】
第1の樹脂層4の厚さは10μm以上とし、透明熱可塑性樹脂層全体の厚さの20%以下とするのが望ましい。10μm未満では接着性の効果が十分発揮されない恐れがある。20%を超える場合には、接着効果としては飽和しており、むしろコスト面で不利である。以下実施例に基づいて本発明に係る化粧シートについてさらに具体的に説明する。
【実施例0026】
<実施例1>
熱可塑性樹脂基材シート1として厚さ150μmのポリブチレンテレフタレート樹脂シートを用い、表面側にグラビア印刷法によって木目模様を印刷して絵柄模様層2を形成した。続いてこの絵柄模様層2上に、接着剤層3を介して溶融した2層の透明熱可塑性樹脂を多軸エクストルーダーを用いてTダイより押し出して透明熱可塑性樹脂層6を形成した。第1の樹脂としては、透明マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂を用い、第2の樹脂としては、ポリプロピレン樹脂100重量部にフェノール系酸化防止剤を0.2重量部、ヒンダードアミン系光安定剤を0.3重量部、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を0.5重量部添加した透明樹脂を用いた。
【0027】
2層からなる透明熱可塑性樹脂層6を形成するのと同時に全層を導管エンボス版とゴムロールでニップして、図2に示したような熱可塑性樹脂基材シート1、絵柄模様層2、接着剤層3、透明熱可塑性樹脂層6からなる積層体を得た。第1の樹脂層の厚さは15μm、第2の樹脂層の厚さは75μmとした。
【0028】
この積層体のエンボス面に表面処理を施した後、表面保護層としてウレタン系樹脂100重量部に対してベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤0.5重量部、ヒンダードアミン系光安定剤を1重量部添加した樹脂組成物をグラビアコートで乾燥後の塗布量が7g/mとなるように塗布乾燥し、さらにアクリル系紫外線硬化型樹脂をグラビアコートで7g/mとなるように塗布し、直ちに紫外線を照射して硬化させて表面保護層7とした。
【0029】
熱可塑性樹脂基材シート1の裏面に表面処理を施した後、ポリオール100重量部に対してシリカ10重量部、イソシアネート3重量部を添加したものをプライマー塗工液としてグラビアコートで乾燥後の塗布量が1g/mとなるように塗布、乾燥しプライマー層8とした。以上により、化粧シート10が完成した。
【0030】
<実施例2>
熱可塑性樹脂基材シートの厚さを200μmとした以外は、実施例1と同様にして化粧シートを得た。
【0031】
<実施例3>
熱可塑性樹脂基材シートの厚さを60μmとした以外は、実施例1と同様にして化粧シートを得た。
【0032】
<実施例4>
透明熱可塑性樹脂層の厚さを150μmとした以外は、実施例1と同様にして化粧シートを得た。但し、第1の樹脂層の厚さは15μm、第2の樹脂層の厚さは135μmとした。
【0033】
<実施例5>
熱可塑性樹脂基材シートの厚さを150μmとし、透明熱可塑性樹脂層の厚さを70μmとした以外は、実施例1と同様にして化粧シートを得た。但し、第1の樹脂層の厚さは15μm、第2の樹脂層の厚さは55μmとした。
【0034】
<比較例1>
熱可塑性樹脂基材シートとして、厚さ150μmのポリオレフィン系樹脂シートを用いた以外は、実施例1と同様にして化粧シートを得た。
【0035】
以上得られた6種類の化粧シートを、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョン型接着剤を用いて厚さ6mmのMDF(中密度木質繊維板)に貼り合わせて化粧板とした。
化粧シートと化粧板を用いて以下の評価試験を実施した。
【0036】
<耐傷性>
化粧板を、JIS K 5600に規定する鉛筆硬度試験機にかけ、傷の付き方を確認した。
◎:7H以上
〇:3H~6Hで傷なし
△:F~2Hで傷なし
×:Fより柔らかいレベルで傷なし
【0037】
<加工性>
化粧シートを化粧板に加工する際に選定可能な方法について確認した。
◎:インラインでのロールラミネート可能
〇:インラインでのロールラミネートは可能だが加工にやや慎重性を要する
△:インラインでのロールラミネートは可能だが加工にかなりの慎重性を要する
×:ロールラミネート不可。枚葉での貼り合わせのみ可能
【0038】
<生産性>
透明熱可塑性樹脂層を押し出し積層する際の生産のし易さを確認した。
◎:安定して生産可能
〇:◎よりは生産に気を配る必要があるが、安定して生産可能
△:ロングラン生産時、経時でロールとられ等の可能性があり、生産に慎重性を要する
×:皺の発生やロールとられ等があり、生産は非常に困難
以上の評価結果を表1にまとめた。
【0039】
【表1】
【0040】
この結果から分かるように、本発明に係る化粧シートは、シートの生産性や化粧板に加工する際の加工性に優れ、従来の構成である比較例1に比べて耐傷性が改善されていることが分かる。
【符号の説明】
【0041】
1・・・熱可塑性樹脂基材シート
2・・・絵柄模様層
3・・・接着剤層
4・・・透明熱可塑性樹脂層(第1の樹脂層)
5・・・透明熱可塑性樹脂層(第2の樹脂層)
6・・・透明熱可塑性樹脂層
7・・・表面保護層
8・・・プライマー層
9・・・エンボス
10・・・化粧シート
図1
図2