(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178503
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】記録装置及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/175 20060101AFI20231207BHJP
【FI】
B41J2/175 303
B41J2/175 133
B41J2/175 115
B41J2/175 309
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023185010
(22)【出願日】2023-10-27
(62)【分割の表示】P 2019073081の分割
【原出願日】2019-04-05
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉川 宏和
(72)【発明者】
【氏名】高坂 圭
(72)【発明者】
【氏名】楢▲崎▼ 哲也
(57)【要約】
【課題】従来の電極を用いた方法でインクタンク内のインク有無を判定すると、インク消費がないにも係らず、気圧変化や温度変化によるインクタンク内の空気の膨張・収縮でインク液面が変化し、インク有無の判定が誤ってしまうことがある。
【解決手段】インクタンクからのインクの消費に従って、そのインク残量をカウントし、該カウントによって得られたカウント値を更新してカウンタに保持する一方、インク残量の検知の実行の前に前記インクタンクへのインクの補充があったかどうかを検出する。そして、インク残量の検知が実行された場合、インクの有無の検知結果を記憶している不揮発性メモリから前回の検知結果を読出し、前回の検知結果と今回の検知結果との推移を検証する。さらに、その検証から得られた前記推移と、前記検出の結果とに基づいて、前記カウンタが保持するカウント値のリセットとカウントの動作を制御する。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを貯留するとともに、注入口よりインクの補充が可能なインクタンクと、
前記インクタンクから供給されたインクを用いて記録媒体にインクを吐出する記録ヘッドと、
前記インクタンクに所定量のインクが有るか無いかを検知する検知手段と、を有する記録装置であって、
前記検知手段による検知結果を記憶する不揮発性の記憶手段と、
前記インクタンクからのインクの消費に従って、前記インクタンクのインク残量をカウントするカウント手段と、
前記カウント手段によるカウント値を更新して保持する第1のカウンタと、
前記検知手段による検知が実行された場合、前記不揮発性の記憶手段から前回の検知結果を読出し、該前回の検知結果と今回の検知結果との推移を検証する検証手段と、
前記検知手段による検知の実行の前に、前記インクタンクへのインクの補充があったかどうかを検出する検出手段と、
前記検証手段により得られた前記推移と、前記検出手段による検出の結果とに基づいて、前記第1のカウンタが保持するカウント値のリセットと前記カウント手段によるカウントの動作を制御する制御手段とを有することを特徴とする記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は記録装置及びその回復方法に関し、特に、例えば、インクジェット方式に従った記録ヘッドからインクを吐出して記録を行う記録装置及びそのインク残量検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従前より、注入口を通じてユーザがインクを補充可能なインクタンクを備えるインクジェット記録装置(以下、記録装置)において、そのインクタンク内にインクが所定量あるか否かをインクタンク内のセンサによって検知する構成が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1は、次のような構成を備えた記録装置を開示している。即ち、インク消費量を算出する算出部と、その算出部が算出したインク消費量に基づいて更新されるカウント値を記憶する記憶部と、インクタンク内の所定の位置にインクが有るか否かを検出するための一対の電極とを備える。そして、制御部が一対の電極間の電圧を測定することによりインクの有無を検出し、制御部はカウント値を初期値に戻す前にインクが有りと判定した場合にはカウント値を初期値に戻すよう制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の記録装置では、次のような問題があった。即ち、インクタンク内の気圧や温度などの変化によって、インクタンク内の空気が膨張・収縮し、実際のインク量には変化がないにも拘わらずインク液面レベルに変化が生じ、その変化にセンサが反応してしまう。その結果、インク消費量に基づいて更新されるカウント値に誤差が生じる。
【0006】
本発明は上記従来例に鑑みてなされたもので、環境の変化に係らず、インクタンク内のインク残量を正確に検出することが可能な記録装置及びそのインク残量検知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明の記録装置は次のような構成からなる。
【0008】
即ち、インクを貯留するとともに、注入口よりインクの補充が可能なインクタンクと、前記インクタンクから供給されたインクを用いて記録媒体にインクを吐出する記録ヘッドと、前記インクタンクに所定量のインクが有るか無いかを検知する検知手段と、を有する記録装置であって、前記検知手段による検知結果を記憶する不揮発性の記憶手段と、前記インクタンクからのインクの消費に従って、前記インクタンクのインク残量をカウントするカウント手段と、前記カウント手段によるカウント値を更新して保持する第1のカウンタと、前記検知手段による検知が実行された場合、前記不揮発性の記憶手段から前回の検知結果を読出し、該前回の検知結果と今回の検知結果との推移を検証する検証手段と、前記検知手段による検知の実行の前に、前記インクタンクへのインクの補充があったかどうかを検出する検出手段と、前記検証手段により得られた前記推移と、前記検出手段による検出の結果とに基づいて、前記第1のカウンタが保持するカウント値のリセットと前記カウント手段によるカウントの動作を制御する制御手段とを有することを特徴とする。
【0009】
また本発明を別の側面から見れば、インクを貯留するとともに、注入口よりインクの補充が可能なインクタンクと、前記インクタンクから供給されたインクを用いて記録媒体にインクを吐出する記録ヘッドと、前記インクタンクに所定量のインクが有るか無いかを検知する検知手段と、を有する記録装置のインク残量検知方法であって、前記インクタンクからのインクの消費に従って、前記インクタンクのインク残量をカウントし、該カウントによって得られたカウント値を更新してカウンタに保持するカウント工程と、前記検知手段による検知の実行の前に、前記インクタンクへのインクの補充があったかどうかを検出する検出工程と、前記検知手段による検知が実行された場合、前記検知手段による前記インクの有無の検知結果を記憶している不揮発性メモリから前回の検知結果を読出し、該前回の検知結果と今回の検知結果との推移を検証する検証工程と、前記検証工程において得られた前記推移と、前記検出工程における検出の結果とに基づいて、前記カウンタが保持するカウント値のリセットと前記カウント工程によるカウントの動作を制御する制御工程とを有することを特徴とするインク残量検知方法を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、前回のインク有無検知と今回のインク有無検知の変化の推移を考慮するので、実際のインク残量とカウント値との間の誤差を抑え、インクタンクのインク残量を正確に把握することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の代表的な実施例であるインクジェット記録ヘッドを備えた記録装置の構成概略を示す斜視図である。
【
図2】
図1に示した記録装置の内部機構の概要を示す斜視図である。
【
図3】
図1に示した記録装置のインク供給系の一例を模式的に示す断面図である。
【
図4】
図1に示した記録装置のインク補充の一例を模式的に示す断面図である。
【
図5】
図1に示した記録装置の制御構成を示すブロック図である。
【
図6】実施例1に従うインク残量検知処理を示すフローチャートである。
【
図7】実施例1に従うインク所定量有無検知処理を示すフローチャートである。
【
図8】実施例1に従うインク残量の状況を携帯機器に表示した画面を示す図である。
【
図9】実施例2に従うインク残量検知処理を示すフローチャートである。
【
図10】実施例3に従うインク残量検知処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には、複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられても良い。さらに添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0013】
なお、この明細書において、「記録」(「プリント」という場合もある)とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わない。また人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、または媒体の加工を行う場合も表すものとする。
【0014】
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能なものも表すものとする。
【0015】
さらに、「インク」(「液体」と言う場合もある)とは、上記「記録(プリント)」の定義と同様広く解釈されるべきものである。従って、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成または記録媒体の加工、或いはインクの処理(例えば記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固または不溶化)に供され得る液体を表すものとする。
【0016】
またさらに、「ノズル(「記録素子」と言う場合もある)」とは、特にことわらない限り吐出口ないしこれに連通する液路およびインク吐出に利用されるエネルギーを発生する素子を総括して言うものとする。
【0017】
以下に用いる記録ヘッド用の素子基板(ヘッド基板)とは、シリコン半導体からなる単なる基体を指し示すものではなく、各素子や配線等が設けられた構成を差し示すものである。
【0018】
さらに、基板上とは、単に素子基板の上を指し示すだけでなく、素子基板の表面、表面近傍の素子基板内部側をも示すものである。また、本発明でいう「作り込み(built-in)」とは、別体の各素子を単に基体表面上に別体として配置することを指し示している言葉ではなく、各素子を半導体回路の製造工程等によって素子板上に一体的に形成、製造することを示すものである。
【0019】
<記録装置の概要説明(
図1~
図4)>
図1は本発明の代表的な実施例であるインクジェット記録ヘッド(以下、記録ヘッド)を用いて記録を行う記録装置10の機構概要を示す斜視図である。
図1に示すように、記録装置10は、キャリッジ104に着脱自在に搭載されインクを吐出する記録ヘッド(不図示)と、記録ヘッドへインクを供給するための供給チューブ111と、インクを収容するインクタンクを有する。
【0020】
そのインクタンクとして、記録装置10はブラックインクを収容するインクタンク105、シアンインクを収容するインクタンク106、マゼンタインクを収容するインクタンク107、イエロインクを収容するインクタンク108の4つを備える。さらに、インクタンク105を覆う第1カバー109、インクタンク106、107、108を覆う第2カバー110を有する。キャリッジ104は、記録装置10に設置されたガイドレールに沿ってX方向に往復移動が可能に支持されている。キャリッジ104は、キャリッジモータ(不図示)によって駆動されるキャリッジベルト(不図示)を介して、記録媒体に記録を行う際に記録領域を往復移動する。
【0021】
また、記録装置10は、記録媒体を給送する給送部102と、記録媒体をX方向とは直交するY方向に搬送する搬送部103と、記録される画像品位を保持するために記録ヘッドのインク吐出性能を維持するように回復動作を行う回復機構部112とを有する。回復機構部112は、記録領域の外側であって、キャリッジ104の移動領域内に配される。
【0022】
なお、キャリッジに搭載される記録ヘッドは、熱エネルギーを利用してインクを吐出するインクジェット方式に従う記録ヘッドであり、熱エネルギーを発生するための電気熱変換素子を複数備えている。この方式によれば、電気熱変換素子に印加されるパルス信号によって熱エネルギーを発生し、この熱エネルギーによってインク内部に膜沸騰を生じさせ、更に膜沸騰の発泡圧力を利用して、吐出口よりインクを吐出して記録を行う。
【0023】
図2は
図1に示したのと同じ内部機構を有する記録装置の外観斜視図である。
【0024】
図2において、(a)は記録装置10に積載された原稿の画像を読取可能な読取部(ADF)を有するスキャナユニットを搭載したアクセスカバー301が設けられている様子を示している。アクセスカバー301は記録装置10の本体に対して開閉可能に軸支されている。記録装置10の前面には、ユーザが記録装置10に対して指令入力などの操作が可能な操作部4を備える。操作部4は、記録装置10のエラーやインクタンク105のインク量を表示可能な表示パネルも含む。また、(b)はアクセスカバー301を開け、ユーザがインクを注入する際の状態を示している。アクセスカバー301はその開閉を検知する開閉検知センサ(不図示)と連動しており、ユーザがアクセスカバー301を開けるとセンサが反応し、インクを入れることが可能な状態と判断する。(c)はインクタンク105のインクタンクキャップ211を覆う第1カバー109とインクタンク106のキャップ212とインクタンク107のキャップ213とインクタンク108のキャップ214とを覆う第2カバー110が設けられた様子を示している。即ち、第2カバー110は、複数のインクタンクに設けられた各キャップを一体的に覆う。なお、スキャナユニットを搭載しないアクセスカバー301であってもよい。
【0025】
インクをインクタンクの内部に注入する際、ユーザは、
図3(c)に示すように、第1カバー109、第2カバー110を持ち上げる操作を行う(開ける)必要がある。そして、ユーザは各インクタンクのキャップを取り外すことでインクを注入することが可能となる。
【0026】
図3は記録装置のインク供給系の要部の構造を模式的に示す断面図である。ここでは、ブラックインク(BK)に対応した例を用いて説明し、他のインクに関しても同様の構成を備えるものとする。
【0027】
図3に示されるように、記録ヘッド100は、供給チューブ111を介して、ブラックインクを収容するインクタンク105に連通している。インクタンク105は、内部にブラックインクを貯留し、内部を大気と連通させるための大気連通口202に繋がる大気連通路を構成する大気連通チューブ201が取り付けられている。供給チューブ11及び大気連通チューブ201は、エラストマ等の可撓性を備えた材料により構成される。インクタンク105の上部には、インクを注入するためのインク注入口210が設けられている。また、インク注入口210には、注入口を封止するためのタンクキャップ211が取り付けられている。さらに、タンクキャップ211を覆う第1カバー109が取り付けられている。
【0028】
供給チューブ111及び大気連通チューブ201には、インク及び空気の連通を遮断するバルブユニット209が設けられている。バルブユニット209は、第1カバー109と連動し、ユーザが第1カバー109を開けることで、供給チューブ111及び大気連通チューブ201をそれぞれ閉塞(遮断)する閉塞状態となる。そして、ユーザがタンクキャップ211を取り外すことでインク注入口210からインクタンク105内へインクを注入することが可能となる。反対に、ユーザが第1カバー109を閉じることで、バルブユニット209は開放状態となり、供給チューブ111及び大気連通チューブ201はそれぞれ開放される。
【0029】
ブラックインクを吐出する複数の吐出口から形成される吐出口列101BKからブラックインクが消費されていくにつれ、インクタンク105内のインク液面205が下降していく。インクタンク105には、インク残量を検知するために用いられる2つの電極203、204が備えられている。これら電極は残検ピンとも称する。この2つの電極間に微弱な電流を流した際の電圧値を検出し、その電圧値をA/D変換してデジタル値を取得する。そして、そのデジタル値に基づいて、インクタンク105内のインク液面205が、
図3中にLで示した鉛直方向位置よりも下方にあるか否かが検知される。なお、
図3に示す位置Lは、2つの電極203、204の下端の位置に相当する。
【0030】
具体的には、インクタンク105内のインク液面205が位置Lと同じ位置あるいは上方にある場合に、2つの電極203、204間に微弱な電流を流すと、インクを介して電流が流れるため、その際の検出電圧値は低く、デジタル値は小さい。一方、インクタンク105内のインク液面205が位置Lよりも下方にある場合には、インクを介して2つの電極203、204間に電流が流れないため、微弱な電流を流す際の検出電圧値は高くなり、取得されるデジタル値も大きくなる。
【0031】
このようにして、インクタンク105内のインク液面205が位置Lよりも下方であるか否かを検知することができる。つまり、この構成により、インクタンク105内に貯留されたインク量が所定量を下回ったか否かを検知することができる。以下、このような検知動作を、インク残検あるいは残検と称する。また、その検知結果のことを残検結果とも称する。加えて、位置Lを、残検位置と称する。
【0032】
位置Lは、位置Eから「供給チューブ111内および記録ヘッド100内にインクを充填させるための回復動作(リフレッシュ動作)で消費する量」以上となるように定められた高さに設定される。このため、インク液面205が位置Lを下回り、リフレッシュ動作でのインク消費量を下回ったと判断されると、その回復動作は実行できなくなるが、リフレッシュ動作よりも消費量が少ない記録動作や回復動作は継続可能である。
【0033】
また、位置Eは、インクタンク105の気液交換部207から「インクを消費する際にインク供給経路内に空気が入らないために最低限必要なインク量」以上となるように定められた高さである。インクタンク105内のインクが無くなった状態でインクを消費し続けると、供給チューブ111を含むインク供給経路内に空気が混入する。そして、空気は供給チューブ111を介して記録ヘッド100に入り、吐出口101BKに到達すると、インクが吐出できなくなり、吐出不良が発生してしまう。
【0034】
それを防止するため、この実施例ではインク消費量をカウントするカウンタによって、位置Lから下方に位置するインク残量を管理し、そのカウンタが閾値に到達した時に、記録動作や回復動作など、インク消費に関わる動作を一時停止させる。この場合、インク液面205が位置L以上になるようにユーザがインク補充を行うか、ユーザが任意で一時停止を解除することで、記録動作や回復動作を再開できる。
【0035】
また、記録装置10は、記録ヘッド100の吐出口101BKからインクが漏出することを防ぐため、インクタンク105の気液交換部207を、記録ヘッド100の吐出口101BKよりも鉛直方向(Z方向)に高さHだけ低い位置に設けている。即ち、吐出口101BKに高さH分の水頭差による負圧をかける構成としている。なお、気液交換部207はインクのメニスカスが保たれる開口面積で構成される。また、インクタンク105の下部には、バッファ室206が設けられている。バッファ室206は、インクを収容するインク収容室208内の空気が気圧変動や温度変化等によって膨張したときに、気液交換部207のメニスカスを破壊して押し出されたインクを収容することができる。これによって、インクが大気連通路のチューブ201を通ってインクタンク105から漏出するのを防止する。
【0036】
図4はインクタンクにインクを補充する際の動作を模式的に示す断面図である。
【0037】
ここでもブラックインク(BK)に対応した例を用いて説明し、他のインクに関しても同様の構成を有するものとする。
【0038】
図4(a)に示すように、インク注入口210は、インク導入路と空気導入路の二つの流路に分かれている。さて、
図4(b)に示すように、ブラックインクが入ったインクボトル305を挿入すると、インク導入路を介してインクボトル305のインクがインク収容室208内へ流入する。また、空気導入路を介してインク収容室208内の空気がインクボトル305へ流出する。即ち、インクタンク105のインク収容室208内の空気とインクボトル305内のブラックインクが置換される気液交換によって、インクタンク105へのインクの供給が行われる。インクの補充が進むと、
図4(c)に示されるように、空気導入路の口がインク液面205で塞がれるため、インクタンク105からインクボトル305への空気の流出が出来なくなり、気液交換が停止する。そのため、インク液面205が鉛直方向(Z方向)における位置Fまで到達すると、インクの注入が自動的にストップし、インク満タン状態となる。なお、
図3にも同様に位置Fが一点鎖線で示されている。
【0039】
また、上記では、インクタンクが記録装置に固定され、チューブを介してインクが供給される構成を例に挙げて説明しているが、インクタンクが記録ヘッドと共にキャリッジに搭載される、いわゆるオンキャリッジの構成にも適用可能である。即ち、キャリッジに搭載されるインクタンクにインク注入口が設けられており、ユーザがインクボトルからインクを注入する形態であってもよい。
【0040】
図5は
図1に示した記録装置の制御構成を示すブロック図である。
【0041】
図5において、ホストコンピュータ(以下、ホスト)450は、PCや携帯機器などの情報処理装置であって、例えば、PCからUSBインタフェース等により記録装置10と接続されている。また、プリンタドライバ451は、ホスト450にインストールされたソフトウェアであり、記録装置10が備える種々の機能や仕様に対応している。プリンタドライバ451は、ユーザによるプリント指令に応じて、ユーザ所望の文書や写真等の画像データに基づいてプリントデータを生成し、これを記録装置10へと送信する。
【0042】
受信バッファ401は、ホスト450から記録装置10へと送信されたプリントデータ等を保持するためのバッファである。受信バッファ401に保持されたプリントデータ等は、CPU402によりRAM403に転送されて一次的に記憶される。
【0043】
記録装置10は、吐出口列からの吐出や回復動作によって消費されるインク量を、吐出インク液滴数に1滴あたりの体積を乗じた値や回復消費量からカウントするカウンタを備えている。CPU402は、そのカウンタによるインク吐出回数のカウントや、そのカウント値に基づく制御も実行する。
【0044】
また、ROM404は、記録装置10の各種制御に必要なプログラムや固定データ等を記憶する。NVRAM405は、記録装置10の電源がオフされるときにも保持すべき情報を記憶するための不揮発性メモリである。前記カウンタによるカウント値は、記録媒体の毎排出後、クリーニングシーケンス終了後、ソフトオフ後等のタイミングでNVRAM405へ書き込まれ、保存される。
【0045】
ヘッドドライバ406は記録ヘッド100を駆動するためのドライバである。モータドライバ407は、キャリッジモータや搬送モータ、キャップを上下動させるためのモータ等の各種モータ417を駆動するためのドライバである。センサコントローラ408は、アクセスカバー301の開閉検知センサを含む各種センサ418の動作を制御するためのコントローラである。UI部コントローラ409は、記録装置10のUI部419を制御するためのコントローラである。UI部419には、各種情報を表示するためのLEDやLCDなどからなる表示パネル(表示部)や、ユーザからの操作を受け付けるための操作部4を含む。CPU402は、RAM403、ROM404、NVRAM405、その他の構成要素と連携して、演算、制御、判定、設定等の各種処理動作を実行する。
【0046】
次に、以上の構成を備える記録装置が実行するインク残量検知処理のいくつかの実施例について説明する。
【実施例0047】
図6は実施例1に従うインク残量検知の処理を示すフローチャートである。なお、上述のようにインクタンクの構造やインク供給機構やインク残検については全てのインクについて共通なので、ここでは1つのインクタンク(ブラックインクを収容するインクタンク105)の処理についてのみ説明する。
【0048】
実施例1では、インク残量検知に関係して2つのカウンタとして、カウンタAとカウンタBとを用いる。カウンタAはインクタンク105内にインクが所定量以上「有」と判断されているときに、インク消費量に応じてインク液面205が
図3中に示した位置Lになり、インクが所定量以上「無」と判断されるまでのカウントに用いる。一方、カウンタBはインクタンク105内にインクが所定量以上「無」と判断されているときに、インクの消費量に応じて、インク液面205が
図3中に示した位置L付近から位置E付近までのインク消費量をカウントするのに用いる。
【0049】
まず、ステップS101ではインク残量検知がスタートすると、インクタンクにインクが所定量有るか無いかを調べる。これをインク所定量有無検知という。インク所定量有無検知の詳細については
図7を参照して後述する。
【0050】
次に、ステップS102では、前回のインク所定量有無検知の結果をNVRAM405から読出し、その結果「無」(所定量インク無)であるかどうかを調べる。ここで、前回の結果が「無」(Yes)であれば、処理はステップS103に進み、「有」(No)であれば、処理はステップS104に進む。そして、ステップS103でもステップS104でも、ステップS101で実行した今回のインク所定量有無検知の結果が「有」であるかどうかを調べる。
【0051】
ステップS103において、今回の結果が「有」(Yes)であれば、処理はステップS105に進み、検知直前にアクセスカバー301をクローズしたかどうかを調べる。ここで、アクセスカバー301をクローズした場合(Yes)、CPU402はユーザがアクセスカバー301を開けてインクを補充したと判断し、処理はステップS107に進む。そして、ステップS107では、カウンタAを初期値(残量100%、インク液面205は位置F)にリセットして、カウンタAによるカウントをスタートさせる。これに対して、検知直前にアクセスカバー301をクローズしていない場合(No)場合、CPU402はインクタンク105内の空気が温度或いは気圧の変化により収縮してインク液面205が上昇したと判断し、処理はステップS108に進む。そして、ステップS108では、カウンタBを初期値(インク液面205は位置L)にリセットして、カウンタBによるカウントをスタートさせる。
【0052】
また、ステップS103において、今回の結果が「無」(No)であれば、CPU402は、インクタンク105のインクを消費したと判断し、処理はステップS106に進み、カウンタBによるカウントをそのまま継続する。
【0053】
さて、ステップS104において、今回の結果が「有」(Yes)であれば、処理はステップS109に進み、カウンタAによるカウントをそのまま継続する。これに対して、今回の検知結果が「無」(No)であれば、処理はステップS108に進み、カウンタBを初期値にリセットして、カウンタBによるカウントをスタートさせる。
【0054】
ステップS106~S109のいずれかの処理を実行後、処理はステップS110において、今回のインク所定量有無の検知結果をNVRAM405に保存し、ステップS111では、カウント値に応じてインク残量の表示を変更して、処理を終了する。
【0055】
図7は
図6のステップS101に示したインク所定量有無検知の詳細な処理を示すフローチャートである。
【0056】
まず、ステップS201では、残検ピンにより検知されA/D変換による得られたデジタル値(AD値)を取得する。次に、ステップS202では、取得したAD値が閾値(TH)以上であるかどうかを調べる。
【0057】
ここで、AD値≧THであれば(Yes)、処理はステップS203に進み、インクは所定量「無」と判断する。これに対して、AD値<THであれば(No)、処理はステップS204に進み、インクは所定量「有」と判断する。
【0058】
図8はインターネットを介して、記録装置とホストとして携帯機器を接続した場合に、携帯機器に表示されるインク残量の表示画面を示す図である。
【0059】
図8には、推定インクレベルとしてインク残量がカウント値に応じて段階的に表示される様子が示されている。ここでは、インク液面205が
図3中に示した位置Fにあるときを残量100%とし、位置Eを残量0%とする。「BK」はブラックインクが十分にある状態を示しており、このときカウンタAは初期値(残量100%)で、長方形でインク残量を示したバー内は黒色で塗られた状態となる。インクが残検ピンを下回っている状態から、アクセスカバーを開けインクを補充してインクが残検ピンに触れる状態になったとき(ステップS107)、ステップS111においてインク残量を示したバー内は黒色で塗られた状態に変化する。これによって、記録装置10は残量が「増えた」旨をユーザに通知することができる。
【0060】
このように、記録装置10は、ユーザが保持する携帯機器などの表示画面にインク残量を表示させる表示制御機能も備えている。なお、
図8では携帯電話の表示画面にインク残量を表示する形態を示すが、これに限らず、記録装置10の操作部4の表示パネルに表示してもよい。さらには、表示に限らず、音声などによってインク残量をユーザに通知する形態であってもよい。
【0061】
「C」はシアンインクが位置E付近まで減った可能性があることを示しており、「×(ばつ)」マークで警告している。このとき、カウンタBは閾値に到達している。「M」はマゼンタインクを半分以上使ったことを示し、バーにおいて半分が黒色で塗られている。これは、全体の50%を切ったところまでカウンタAのカウント値が進んでいる状態である。「Y」はイエロインクが残り少ないことを示しており、インク量が、例えば、10%を切ったところまでカウンタBが進んでいる状態で、感嘆符「!」でユーザに注意喚起している。
【0062】
この実施例において、インク残量検知は、以下のタイミングで実行する。即ち、
(ア)ソフトパワーオン時、
(イ)カバークローズ後、
(ウ)クリーニングシーケンス終了後、
(エ)クリーニングシーケンス中におけるポンプによる吸引回復直後、
(オ)クリーニング実行前、
(カ)キャッピング後、
(キ)記録媒体の毎排出時、
である。
【0063】
例えば、“(カ)キャッピング後”の残検結果が「無」とNVRAM405に保存された状態で、記録装置10をソフトオフする。ソフトオフ状態(ただし電源接続されているハードオン状態)で、ユーザがアクセスカバー301を開けてインクを位置Fまで補充後、アクセスカバー301を閉じるとソフトオフ中のためタイミング(イ)における残検は出来ない。しかしながら、アクセスカバー301のセンサは動作しているので、“カバークローズした”ことを検出できる。その後、ユーザがソフトオンすると“(ア)ソフトパワーオン時”の状態となるため、インク残量検知を実行する。このような場合、前回のインク所定量有無検知において(カ)のタイミングにおける検知結果が「無」で、今回のインク所定量有無検知において(ア)のタイミングにおける検知結果が「有」である。さらに、検知直前のソフトオフ中にカバークローズしているので、
図6に示したフローチャートに従えば、処理はステップS107において、カウンタAを初期値にリセットして、カウンタAによるカウントをスタートさせる。
【0064】
また、“(カ)キャッピング後”の残検結果が「無」とNVRAM405に保存された状態で、記録装置10をソフトオフし、そのソフトオフ中に気温が低下し、インク収容室208内の空気が収縮するとインク液面205が上昇するケースを検討する。もしインク液面205が位置Lよりも高くなった場合、ユーザがソフトオンして残検を実行すると、次のようになる。即ち、前回のインク所定量有無検知において(カ)のタイミングにおける検知結果が「無」で、今回のインク所定量有無検知において(ア)のタイミングにおける検知結果が「有」となる。ここで、検知直前にアクセスカバー301のクローズをセンサ検知していないので、
図6に示したフローチャートに従えば、処理はステップS108において、カウンタBを初期値にリセットして、カウンタBによるカウントをスタートさせる。
【0065】
従って以上説明した実施例に従えば、インクタンク内の気圧や温度などが変化し、インクタンク内の空気が膨張・収縮し、実際のインク量には変化がないにも拘わらずインク水位が変化しても、実際のインク量とカウント値との誤差を抑えることができる。
実施例1では、消費されるインク量をカウントするためにカウンタA、Bの2つのカウンタを備える構成としたが、ここでは、1つのカウンタを用いてインク残量検知を行う例について説明する。
即ち、前回のインク所定量有無検知の結果が「無」で今回のそれが「無」である場合、処理はステップS106’において、カウンタによるカウントをそのまま継続する。また、前回のインク所定量有無検知の結果が「無」で今回のそれが「有」であり、かつ検知直前にアクセスカバー301のクローズをした場合、CPU402はユーザがアクセスカバー301を開けてインクを補充したと判断する。そして、処理はステップS107’において、カウンタを初期値にリセットして、カウンタによるカウントをスタートさせる。
さらに前回のインク所定量有無検知の結果が「無」で今回のそれが「有」であり、かつ検知直前にアクセスカバー301のクローズをしなかった場合、CPU402はインクタンク内の空気が温度や気圧の変化で収縮してインク液面205が上昇したと判断する。そして、処理はステップS108’において、カウンタを値「X」にセットして、カウンタによるカウントをスタートさせる。ここで、カウント値「X」とは、インクタンク内の位置Lのインク量に相当するようカウント値である。
またさらに、前回のインク所定量有無検知の結果が「有」で今回のそれが「無」である場合、CPU402はインクを消費したと判断し、処理はステップS108’において、カウンタを値「X」にセットして、カウンタによるカウントをスタートさせる。
最後に、前回のインク所定量有無検知の結果が「有」で今回のそれが「有」である場合、処理はステップS109’において、カウンタによるカウントをそのまま継続する。