(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178505
(43)【公開日】2023-12-15
(54)【発明の名称】無処理版用現像液および現像された無処理版の製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 7/32 20060101AFI20231208BHJP
B41N 1/14 20060101ALI20231208BHJP
B41C 1/10 20060101ALI20231208BHJP
G03F 7/00 20060101ALI20231208BHJP
【FI】
G03F7/32
B41N1/14
B41C1/10
G03F7/00 503
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084503
(22)【出願日】2022-05-24
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】000219912
【氏名又は名称】東京インキ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】長幡 大輔
【テーマコード(参考)】
2H084
2H114
2H196
【Fターム(参考)】
2H084CC05
2H114AA04
2H114DA25
2H114DA27
2H114GA01
2H196AA06
2H196BA01
2H196EA04
2H196GA04
2H196GA05
2H196GA15
2H196GA17
(57)【要約】
【課題】本発明は、無処理版を、印刷機の版胴に装着して、湿し水と印刷インキを供給することによる機上現像処理(印刷前作業)を行わずに、画像部の現像状態の確認ができる、すなわち、印刷機の版胴に装着する前で、しかも湿し水も印刷インキも使用せずに現像処理ができる無処理版用の現像液を提供することを目的とする。
【解決手段】無処理版を現像するための無処理版用現像液であって、エタノールと、有機酸およびリン酸系化合物のうち少なくとも一つと、を含むことを特徴とする無処理版用現像液。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無処理版を現像するための無処理版用現像液であって、
エタノールと、有機酸およびリン酸系化合物のうち少なくとも一つと、を含むことを特徴とする無処理版用現像液。
【請求項2】
さらに、メタノール、イソプロピルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、ノルマルブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec-ブチルアルコールおよびtert-ブチルアルコールのうち少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1に記載の無処理版用現像液。
【請求項3】
前記有機酸が、ぎ酸、酢酸、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、フタル酸、安息香酸、こはく酸、酒石酸、しゅう酸、プロピオン酸およびマレイン酸のうち少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の無処理版用現像液。
【請求項4】
画像部と非画像部を有する現像前の無処理版を準備する工程と、
前記現像前の無処理版の表面に、請求項1または2に記載の無処理版用現像液を接触させる工程と、
前記無処理版表面の画像部を現像する工程と、を含むことを特徴とする現像された無処理版の製造方法。
【請求項5】
画像部と非画像部を有する現像前の無処理版を準備する工程と、
前記現像前の無処理版の表面に、請求項3に記載の無処理版用現像液を接触させる工程と、
前記無処理版表面の画像部を現像する工程と、を含むことを特徴とする現像された無処理版の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オフセット印刷に使用する無処理版用現像液に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータ情報からのディジタル信号に基づき、平版印刷版を製版するCTP(コンピュータ・ツゥ・プレート)印刷版は、レーザを用いて直接感光材料を露光し、現像液を用いて現像処理を行うことが一般的に行われている。しかし、現像処理に伴い発生する廃液の処理が環境負荷となる。最近では地球環境保護を重視する市場要望が強く、印刷版製版システムに対しても改善を強く望まれている。
【0003】
そこで、現像処理などで処理液を使用せずに平版印刷版を製版する方法が多数提案されている。これらは液体を用いた現像処理を行わないことでプロセスレス印刷版と呼ばれており、このタイプの印刷版としては、レーザ光を用いたアブレーションにより画像部あるいは非画像部を除去するタイプや、インクジェット方式にて画像部を形成するタイプ、熱溶融性や熱可塑性の微粒子を用いて画像部を形成するタイプなどが提案されている。このようなプロセスレス印刷版(無処理版)は、露光済みの印刷版を印刷機の版胴に装着し、版胴を回転しながら湿し水とインキを供給することによって、印刷版の非画像部を除去する機上現像と呼ばれる方法により、通常の印刷過程の中で現像処理が完了する。
【0004】
しかし、上記無処理版は、上記の印刷機の版胴に装着し、現像処理(印刷前作業)を行うまで、画像部の目視による管理、確認が困難であるという問題点がある。
【0005】
このような問題を解決するために、特許文献1には、CTP装置において無処理版を使用する際に、当該無処理版に目視可能な版情報を直接付加することを特徴とする印刷版管理方法が開示され、無処理版に目視可能な版情報を直接付加することができ、視覚的に確認可能とするものが提案されている。
【0006】
しかし、印刷版の裏面に無処理版の情報を印刷し、一方で版情報を印刷機に入力しておき、印刷版の情報を読み取り装置を用いて読み取り、一方の印刷機に入力した版情報と一致するかどうかを判別するための印刷版の管理方法であって、実際の印刷版の現像の状態(画像部の状態)を管理、確認するものではない。また、その記載も示唆もない。
【0007】
また、機上現像は、まず最初に版全面に印刷インキが総ベタで供給されるため、機上現像処理中に印刷インキが転移した用紙(損紙、ヤレ紙などともいう)は廃棄しなければならなかったり、さらに湿し水も同時に供給されるため、強度の低い用紙(特に、新聞用紙、非塗工紙、微塗工紙など)では、版からブランケットに転移した印刷インキの粘着性(タックともいう)により、ブランケット上に用紙が巻き付き、用紙切れを発生したりするおそれがある。このため、印刷機上での現像処理を介さずに、現像処理を手動で完了した印刷版を印刷機に装着して、印刷作業を行ないたいというニーズがある。
【0008】
特許文献1には、上記のような印刷インキも湿し水を使用せずに手動で現像処理を行なうことができる現像液および現像方法についての記載も示唆もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は、無処理版を、印刷機の版胴に装着して、湿し水と印刷インキを供給することによる機上現像処理(印刷前作業)を行わずに、画像部の現像状態の確認ができる、すなわち、印刷機の版胴に装着する前で、しかも湿し水も印刷インキも使用せずに現像処理ができる無処理版用の現像液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、鋭意検討した結果、エタノールと、有機酸およびリン酸系化合物のうち少なくとも一つと、を含むことにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、
(1)無処理版を現像するための無処理版用現像液であって、
エタノールと、有機酸およびリン酸系化合物のうち少なくとも一つと、を含むことを特徴とする無処理版用現像液、
(2)さらに、メタノール、イソプロピルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、ノルマルブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec-ブチルアルコールおよびtert-ブチルアルコールのうち少なくとも一つを含むことを特徴とする(1)に記載の無処理版用現像液、
(3)前記有機酸が、ぎ酸、酢酸、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、フタル酸、安息香酸、こはく酸、酒石酸、しゅう酸、プロピオン酸およびマレイン酸のうち少なくとも一つを含むことを特徴とする(1)または(2)に記載の無処理版用現像液、
(4)画像部と非画像部を有する現像前の無処理版を準備する工程と、
前記現像前の無処理版の表面に、(1)または(2)に記載の無処理版用現像液を接触させる工程と、
前記無処理版表面の画像部を現像する工程と、を含むことを特徴とする現像された無処理版の製造方法、
(5)画像部と非画像部を有する現像前の無処理版を準備する工程と、
前記現像前の無処理版の表面に、(3)に記載の無処理版用現像液を接触させる工程と、
前記無処理版表面の画像部を現像する工程と、を含むことを特徴とする現像された無処理版の製造方法、
である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、印刷機の版胴に装着する前で、しかも湿し水もインキも使用せずに現像処理ができる無処理版用の現像液を提供できる。また、当該現像液を用いて作製した無処理版は、従来品の無処理版と同等の印刷適性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、本実施形態は、本発明を実施するための一形態に過ぎず、本発明は本実施形態によって限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更実施の形態が可能である。
【0015】
本発明の無処理版用現像液は、エタノールと、有機酸およびリン酸系化合物のうち少なくとも一つと、を含むことが好ましい。
【0016】
本発明の無処理版用現像液は、エタノールを含むことが好ましい。前記エタノールの含有量は、無処理版用現像液に対して、5~80質量%であることが好ましく、15~60質量%であることがより好ましく、25~45質量%であることがさらに好ましい。5質量%より少ないと、現像性が低下することにより、非画像部の感光層が残存し、視認性が低下するおそれがある。80質量%を超えると、有機酸およびリン酸系化合物が析出する傾向となり、画像部の発色性が低下するおそれがある。
【0017】
さらに、メタノール、イソプロピルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、ノルマルブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec-ブチルアルコールおよびtert-ブチルアルコールのうち少なくとも一つを含むことがより好ましい。なかでも、メタノールがより好ましい。
【0018】
前記メタノール、イソプロピルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、ノルマルブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec-ブチルアルコールおよびtert-ブチルアルコールのうち少なくとも一つを含めばよいが、2つ以上を併用してもよい。これらの含有量は、無処理版用現像液に対して、0.5~20質量%であることが好ましく、1.5~15質量%であることがより好ましく、3~10質量%であることがさらに好ましい。0.5質量%より少ないと、現像性が低下することにより、非画像部の感光層が残存し、視認性が低下するおそれがある。20質量%を超えると、有機酸およびリン酸系化合物が析出する傾向となり、画像部の発色性が低下するおそれがある。
【0019】
特に、前記エタノールとメタノールとを併用することがより好ましい。エタノールとメタノールとを併用する場合、エタノールとメタノールとの含有割合は、エタノール/メタノール=99/1~50/50であることが好ましく、98/2~70/30であることがより好ましく、96/4~85/15であることがさらに好ましい。エタノールの含有割合が、エタノールの割合が99を超えると、有機酸およびリン酸系化合物が析出する傾向となり、画像部の発色性が低下するおそれがある。50より少ないと、現像性が低下することにより、非画像部の感光層が残存し、視認性が低下するおそれがある。
【0020】
本発明の無処理版用現像液は、有機酸およびリン酸系化合物のうち少なくとも一つを含むことが好ましい。これらは、2つ以上を併用してもよい。
前記有機酸は、ぎ酸、酢酸、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、フタル酸、安息香酸、こはく酸、酒石酸、しゅう酸、プロピオン酸およびマレイン酸のうち少なくとも一つを含むことが好ましい。なかでも、クエン酸、リンゴ酸がより好ましい。これらは、2つ以上を併用してもよい。
【0021】
前記有機酸の含有量は、無処理版用現像液に対して、1~20質量%であることが好ましく、3~15質量%であることがより好ましく、5~10質量%であることがさらに好ましい。1質量%より少ないと、画像部の発色性が低下するおそれがある。20質量%を超えると、版上に有機酸の結晶が析出する傾向となり、べたつきが多くなり、洗浄性が劣るおそれがある。
【0022】
前記リン酸系化合物は、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、フィチン酸、オルトリン酸、ピロリン酸、ポリリン酸(トリリン酸、テトラリン酸など)、メタリン酸、ウルトラリン酸などが挙げられ、なかでも、リン酸、フィチン酸がより好ましい。これらは、2つ以上を併用してもよい。
【0023】
前記リン酸系化合物の含有量は、無処理版用現像液に対して、1~20質量%であることが好ましく、3~15質量%であることがより好ましく、5~10質量%であることがさらに好ましい。1質量%より少ないと、画像部の発色性が低下するおそれがある。20質量%を超えると、版上にリン酸系化合物の結晶が析出する傾向となり、べたつきが多くなり、洗浄性が劣り、現像性が劣るおそれがある。
【0024】
前記有機酸と前記リン酸系化合物を併用する場合は、無処理版用現像液に対して、前記有機酸と前記リン酸系化合物の含有量を合計して、1~20質量%であることが好ましく、3~15質量%であることがより好ましく、5~10質量%であることがさらに好ましい。
【0025】
本発明の無処理版用現像液は、さらに、グリコールエーテルを含むことが好ましい。グリコールエーテルとしては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールターシャリーブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ2-エチルヘキシルエーテル、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、エチレングリコールモノアリルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノベンジルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノイソブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートなどが挙げられ、なかでも、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートがより好ましく、特に、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールがさらに好ましい。これらは、2つ以上を併用してもよい。
【0026】
前記グリコールエーテルの含有量は、無処理版用現像液に対して、5~60質量%であることが好ましく、10~40質量%であることがより好ましく、20~30質量%であることがさらに好ましい。5質量%より少ないと、現像性が低下することにより、非画像部の感光層が残存し、視認性が低下するおそれがある。60質量%を超えると、有機酸およびリン酸系化合物が析出する傾向となり、画像部の発色性が低下するおそれがある。
【0027】
本発明の無処理版用現像液は、水を含むことが好ましい。前記水は、特に制限はなく、水道水、井水、蒸留水、イオン交換水、純水などを用いることができる。なかでも、蒸留水、イオン交換水、純水を使用することがより好ましい。
【0028】
前記水の含有量は、前記した各成分の残余であるが、無処理版用現像液に対し、0 ~94質量%であることが好ましく、30~80質量%であることがより好ましく、50~70質量%であることがさらに好ましい。10質量%より少ないと、有機酸およびリン酸系化合物が析出する傾向となり、画像部の発色性が低下するおそれがある。94質量%を超えると、現像性が低下することにより、非画像部の感光層が残存し、視認性が低下するおそれがある。
【0029】
本発明の無処理版用現像液は、その他の成分として、非イオン性界面活性剤を含んでもよい。非イオン性界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル類、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、ポリオキシプロピレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシプロピレン脂肪酸エステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、グリセリン脂肪酸エステル類などのほか、ポリオキシエチレンとポリオキシプロピレン共重合体をアルキルエーテル化、アルキルフェニルエーテル化、脂肪酸エステル化、ソルビタン脂肪酸エステル化した活性剤などを挙げることができる。なかでも、特にポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ジアルキルスルホコハク酸エステル類が好ましく、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルがより好ましい。これらは、2つ以上を併用してもよい。
【0030】
本発明の現像された無処理版の製造方法は、画像部と非画像部を有する現像前の無処理版を準備する工程と、前記現像前の無処理版の表面に、前記無処理版用現像液を接触させる工程と、前記無処理版表面の画像部を現像する工程と、を含むことが好ましい。
無処理版は、露光済みの印刷版を印刷機の版胴に装着し、版胴を回転しながら湿し水と印刷インキを供給することによって、印刷版の非画像部を除去する機上現像と呼ばれる方法で、通常の印刷過程の中で現像処理が完了するように設計された印刷版である。
しかし、前記したように損紙やヤレ紙は廃棄しなければならず、さらに湿し水も同時に供給されるため、強度の低い用紙(特に、新聞用紙、非塗工紙、微塗工紙など)では、版からブランケットに転移した印刷インキの粘着性により、ブランケット上に用紙が巻き付き、用紙切れを発生したりするおそれがあることから、本発明では、印刷機上での現像処理を介さずに、現像処理を手動で完了することができ、こうして作製した印刷版を印刷機に装着して、印刷作業を行なうことができる。
【0031】
前記画像部と非画像部を有する現像前の無処理版を準備する工程は、通常に行われる製版工程である感光層を形成した現像前の印刷版を準備する工程であれば、いずれでもよい。
【0032】
前記準備工程で作製した現像前の無処理版の表面に、前記無処理版用現像液を接触させる工程は、前記無処理版用現像液が前記感光層に接触する方法であれば、いずれでもよく、例えば、ローラーによる塗布、ウエスやスポンジによる塗布、スキージやスクレーパなどによる塗布などが挙げられ、なかでも、次の工程の無処理版表面の画像部を現像する工程を連続して、スムーズに行なうことができることから、スポンジによる塗布が好ましい。スポンジによる塗布は、前記無処理版用現像液を十分な量を取り、前記感光層上に伸ばしながら、塗布し、これを版面全体に万遍なく行なうことが好ましい。
【0033】
前記無処理版表面の画像部を現像する工程は、例えば、前記のように無処理版用現像液を版面全体に万遍なく塗布することで、現像ができ、さらに適宜水を加えて、場合によってはきれいなスポンジなどで、余分な現像液および非画像部分の余分な感光膜を拭き取る工程を含むものである。
【0034】
こうすることで、印刷機に装着し、版胴を回転しながら湿し水と印刷インキを供給する機上現像処理による印刷版の非画像部除去をすることなく、現像処理が完了するため、機上現像処理中の損紙やヤレ紙の発生がなくなり、また用紙切れのおそれもない。さらに、本発明の無処理版用現像液を用いる無処理版の製造方法によれば、現像性、発色性も優れることから、印刷版の現像の状態(画像部の状態)を目視でき、印刷版の管理、確認が容易となる。
【0035】
以下、参考形態の例を付記する。
(1)無処理版を現像するための無処理版用現像液であって、
エタノールと、有機酸およびリン酸系化合物のうち少なくとも一つと、を含むことを特徴とする無処理版用現像液。
(2)さらに、メタノール、イソプロピルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、ノルマルブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec-ブチルアルコールおよびtert-ブチルアルコールのうち少なくとも一つを含むことを特徴とする(1)に記載の無処理版用現像液。
(3)前記エタノールとメタノールとの含有割合が、エタノール/メタノール=99/1~50/50であることを特徴とする(2)に記載の無処理版用現像液。
(4)前記有機酸が、ぎ酸、酢酸、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、フタル酸、安息香酸、こはく酸、酒石酸、しゅう酸、プロピオン酸およびマレイン酸のうち少なくとも一つを含むことを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載の無処理版用現像液。
(5)前記有機酸およびリン酸系化合物のうち少なくとも一つが、クエン酸、リンゴ酸、およびリン酸のなかから選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載の無処理版用現像液。
(6)さらに、グリコールエーテルを含むことを特徴とする(1)~(5)のいずれかに記載の無処理版用現像液。
(7)画像部と非画像部を有する現像前の無処理版を準備する工程と、
前記現像前の無処理版の表面に、(1)~(6)のいずれかに記載の無処理版用現像液を接触させる工程と、
前記無処理版表面の画像部を現像する工程と、を含むことを特徴とする現像された無処理版の製造方法。
【実施例0036】
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、例中、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を示す。
【0037】
[無処理版用現像液の作製]
<実施例1>
ネオコールC(日本アルコール販売(株)製)39g、クエン酸10g、イオン交換水61gを添加し、攪拌して、現像液1を作製した。同様に、表1~表3の処方にしたがって、現像液2~23を作製した。
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】
使用した材料は、次のものである。
ネオコールC:エタノール83.5%、メタノール3.5%、ノルマルプロピルアルコール6.5%、水6.5%を含む混合アルコール、日本アルコール販売(株)製
ネオコールR7:エタノール86.2%、メタノール2.6%、イソプロピルアルコール1.5%、ノルマルプロピルアルコール9.5%、水0.2%を含む混合アルコール、日本アルコール販売(株)製
ネオコールME:エタノール80.4%、メタノール11.8%、水7.8%を含む混合アルコール、日本アルコール販売(株)製
ネオコールCP:エタノール82.5%、イソプロピルアルコール13.6%、水3.9%を含む混合アルコール、日本アルコール販売(株)製
ソルミックスAP7 :エタノール85.597%、イソプロピルアルコール4.9%、ノルマルプロピルアルコール9.5%、水0.03%を含む混合アルコール、日本アルコール販売(株)製
クエン酸:クエン酸フソウ(無水)、扶桑化学工業(株)製
リンゴ酸:リンゴ酸フソウ、扶桑化学工業(株)製
リン酸:85%リン酸、片倉コープアグリ(株)製
ソルフィット:3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、(株)クラレ製
【0042】
現像液について、保存安定性、現像性、発色性を評価し、表4に示した。
【0043】
[保存安定性]
作製した現像液を、200mlのガラス瓶に取り、冷蔵庫で1週間静置したときの各現像液の状態を目視にて観察し、評価した。現像液の状態について、分離や沈殿がみられないものが、保存安定性が良好と判断した。分離と沈殿について、○:作製直後と変化がない、△:わずかに分離、沈殿がみられる(実用上問題ない)、×:完全に分離するあるいは沈殿が多くみられる、の3段階で評価した。保存安定性が「×」の評価だったものは、よく振蕩して、均一に混合した状態にして、以下の評価を行なった。
【0044】
[現像性]
作製した現像液を、スポンジに50ml含ませ、無処理版に作製した感光層の0~100%の網濃度階調部分を拭き、数回これを繰り返し、最後に現像液および水を拭き取った。
最後の拭き取りまでの拭いた回数を記録し、さらに版面上の非画像部の状態を、コンフォーカル顕微鏡(レーザーテック(株)製)にて観察し、現像性を評価した。拭き取り回数が少なく、非画像部の感光層の残存量が少ないものが、現像性が良好と判断した。
現像性について、◎:拭き取りが5回未満で、非画像部の感光層がまったく残っていない、○:拭き取りが5回未満で、非画像部の感光層がほぼ残っていない、△:拭き取りが5回以上10回未満で、非画像部の感光層がやや残っている(実用レベル)、×:拭き取りが10回以上で、非画像部の感光層が残っている、の4段階で評価した。
【0045】
[発色性]
作製した現像液を、スポンジに50ml含ませ、無処理版に作製した感光層の0~100%の網濃度階調部分を拭き、数回これを繰り返し、最後に現像液および水を拭き取った。
版面上の画像部の状態を、目視にて観察し、発色性を評価した。画像部の感光層が目視で確認できるものが、発色性が良好と判断した。発色が良好で、画像部が目視ではっきり確認できるものを3点、発色はやや弱いが、画像部がはっきり確認できるものを2点、発色は弱いが、画像部が確認できるものを1点、画像部を目視で確認することが困難なものを0点とし、観察者を5人とし、その平均(小数点第二位以下を四捨五入)を取った。
発色性について、◎:観察者5人の平均点が3.0~2.6、○:観察者5人の平均点が2.4~2.0、△:観察者5人の平均点が1.8~1.4(実用レベル)、×:観察者5人の平均点が1.2~0.8、××:観察者5人の平均点が0.6~0、の5段階で評価した。
【0046】
【0047】
表1および表2の現像液について、下記の手順にて手現像を行ない、さらに印刷試験を行ない、印刷物を作製した。なお、前記現像性評価が「×」のものは、手現像処理は行わなかった。
<手現像>
無処理版:コダック合同会社製 SONORA CX2 厚み0.3mm
露光済みの無処理版を清浄で平坦な机上に置き、きれいなスポンジに作製した無処理版用現像液を十分な量を取り、無処理版の表面に塗布しながら、現像液が少なくなったら、再度スポンジに取り、これを繰り返し、現像処理を行なった。万遍なく伸ばしたら、きれいなスポンジに水を適量取り、無処理版表面を軽くこすりながら、非画像部の感光膜と余分な現像液を拭き取り、無処理版表面をきれいにした。
<印刷試験>
印刷機:(株)小森コーポレーション製 システム35S 4色オフセット輪転機
印刷回転数:600rpm
印刷インキ:東京インキ(株)製 ガイア墨、藍、紅、黄
用紙:日本製紙(株)製 オーロラS 紙厚44μm 坪量48g/m2
前記手現像した無処理版を印刷機に装着し、印刷を開始した。参考例として、機上現像処理をした無処理版を用いた印刷試験も行なった。
印刷試験では、印刷開始時の刷り出し適性、および連続印刷時における地汚れ性、耐刷性を評価し、表5に示した。
【0048】
[刷り出し適性]
上記印刷試験時において、印刷開始から本紙(OKと評価できる印刷物)に到達するまでの印刷枚数を評価した。印刷枚数が少ないものが、刷り出し性が良好と判断した。刷り出し性について、◎:500枚未満、○:500枚以上1000枚未満、△:1000枚以上3000枚未満、×:3000枚以上、の4段階で評価した。
【0049】
[地汚れ性]
上記印刷試験時において、印刷開始後、8万部連続印刷した際の印刷物の状態を目視により観察し、非画像部の汚れ具合を評価した。印刷物の非画像部の汚れが少ないものが、地汚れ性が良好と判断した。地汚れ性について、〇:非画像部の汚れがまったくみられない、△:非画像部の汚れがややみられる(実用レベル)、×:非画像部の汚れがはっきりみられる、の3段階で評価した。
【0050】
[耐刷性]
上記印刷試験時において、印刷開始後、8万部連続印刷した際の印刷物の状態を目視により観察し、画像部のかすれ(欠損)具合を評価した。印刷物の画像部のかすれ(欠損)が少ないものが、無処理版の画像現像部への影響が少なく、耐刷性が良好と判断した。耐刷性について、〇:画像現像部への影響がまったくない、△:画像現像部への影響が部分的にみられる(実用レベル)、×:画像現像部全体にかすれがみられる、の3段階で評価した。
【0051】
【0052】
表4より、実施例1~18の無処理版用現像液は、保存安定性、現像性、および発色性について良好であることが明確である。比較例1~3のエタノールを含まない現像液は、現像性および発色性が劣り、非画像部の感光層が残りやすく、また画像部の感光層が確認できないことが明確である。比較例4の有機酸およびリン酸系化合物のうち、どちらも含まない現像液も、現像性および発色性が劣ることが明確である。他のアルコールを使用し、有機酸およびリン酸系化合物のうち、どちらも含まない比較例5においては、現像性および発色性が劣ることに加えて、保存安定性も劣ることが明確である。
実印刷試験の結果である表5より、実施例1~18の無処理版用現像液を用いて手現像した無処理版は、従来の機上現像処理をした無処理版(参考例)と同等以上の印刷適性を有することが明確である。