(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178540
(43)【公開日】2023-12-18
(54)【発明の名称】回転電気機械
(51)【国際特許分類】
H02K 1/278 20220101AFI20231211BHJP
【FI】
H02K1/278
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022091281
(22)【出願日】2022-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391002487
【氏名又は名称】学校法人大同学園
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】弁理士法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 龍司
(72)【発明者】
【氏名】藪見 崇生
(72)【発明者】
【氏名】梶原 崇至
(72)【発明者】
【氏名】加納 善明
【テーマコード(参考)】
5H622
【Fターム(参考)】
5H622AA03
5H622CA02
5H622CA07
5H622CA10
5H622CB04
5H622PP03
5H622PP18
(57)【要約】
【課題】ロータの表面に永久磁石が備えられた回転電気機械において、高トルクを確保しながら、コギングトルクの抑制と永久磁石の減磁の抑制を両立することができる回転電気機械を提供する。
【解決手段】ロータの回転軸に直交する断面において、ステータのティース21bは、内周面21cが、回転軸を中心とする円弧形状を有し、ロータの永久磁石Mは、ロータの径方向外側の外側端縁M1が、回転軸を中心とする円弧形状を有するとともに、径方向内側の内側端縁M2が、回転軸を中心とする円弧よりも径方向内側に凸となった形状を有し、外側端縁M1と内側端縁M2の間の厚さが、磁極の中央Cの位置で最も厚くなった中央肉厚形状を、磁極ごとに独立して有するとともに、ロータの周方向に沿って外側の領域ほど、径方向外側で磁極の中央Cに向かう方向に磁化方向が傾斜した、集中配向をとる、回転電気機械1とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のティースを有する中空筒状のステータコアと、前記ティースに巻き回されたコイルと、を有するステータと、
ロータコアと、前記ロータコアの外周面に固定され、複数の磁極を構成する永久磁石と、を有し、前記ステータの中空部に配置されたロータと、を備え、
前記ロータの回転軸に直交する断面において、
前記ステータの前記ティースは、内周面が、前記回転軸を中心とする円弧形状を有し、
前記ロータの前記永久磁石は、
前記ロータの径方向外側の外側端縁が、前記回転軸を中心とする円弧形状を有するとともに、前記径方向内側の内側端縁が、前記回転軸を中心とする円弧よりも前記径方向内側に凸となった形状を有し、前記外側端縁と前記内側端縁の間の厚さが、前記磁極の中央の位置で最も厚くなった中央肉厚形状を、前記磁極ごとに独立して有するとともに、
前記ロータの周方向に沿って外側の領域ほど、前記径方向外側で前記磁極の中央に向かう方向に磁化方向が傾斜した、集中配向をとる、回転電気機械。
【請求項2】
前記内側端縁は、直線状である、請求項1に記載の回転電気機械。
【請求項3】
前記内側端縁は、前記径方向内側へと膨出している、請求項1に記載の回転電気機械。
【請求項4】
前記回転電気機械はさらに、前記ロータの外周に、非磁性材料よりなる円筒形の保護管を有しており、
前記永久磁石の前記外側端縁は、前記保護管の内周面に沿っている、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の回転電気機械。
【請求項5】
前記回転軸に対する前記永久磁石の前記外側端縁の開角が、前記回転軸に対する前記ティースの前記内周面の開角に対して、±10%の範囲に収まっている、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の回転電気機械。
【請求項6】
前記ロータにおいて、前記ロータコアは、隣接する前記磁極の間に、両側の前記永久磁石に接して、前記永久磁石の前記内側端縁よりも前記径方向外側に突出した凸部を有する、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の回転電気機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電気機械に関し、さらに詳しくは、ロータコアの表面に永久磁石を備えたロータを有する回転電気機械に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ロータとステータを備えた回転電気機械の1種に、ロータコアの表面に永久磁石が固定されたロータを有する表面磁石型(SPM)モータがある。SPMモータに対しては、所望の特性を得るために、永久磁石の形状や配置、磁化配向等に関する検討が行われている。例えば、特許文献1においては、トルク低下を抑制しつつコギングトルクを低減し、かつトルクリップルを低減する観点から、SPMモータにおけるマグネット部(永久磁石)と磁性部(強磁性体)の配置および形状が検討されている。また、特許文献2においては、トルクを低減する観点から、モータに供給する電流を台形波とするとともに、磁極のそれぞれを容易磁化方向がステータ側に向かって集中するように配向(集中配向)させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2019/069539号
【特許文献2】特開2020-191692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1,2等に例示されるように、SPMモータにおいて、永久磁石の形状や配置、磁化配向等を工夫することで、コギングトルクの低減や出力トルクの向上等、重要視される特性を高めることが可能である。しかし、高い出力トルクを確保しながら、コギングトルクの低減と永久磁石の減磁の抑制を両立することは難しい。例えば、発明者らの検討で明らかになったように、特許文献1で用いられているものに類似した平凸形状(かまぼこ形状)の永久磁石を用いる場合には、永久磁石の形状や磁化配向の詳細によっては、トルクの確保やコギングトルクの向上を十分に達成できない場合が生じる(
図6の「モデル1」および
図9の「平凸」参照)。また、特許文献2に開示されているような円弧形状の永久磁石に対して集中配向を適用した場合には、コギングトルクの低減が難しいうえ、永久磁石の減磁の抑制も難しくなる(
図9の「円弧」および
図10(a)参照)。高い出力トルクを確保しながら、コギングトルクの低減と永久磁石の減磁の抑制をともに達成することは、永久磁石の使用量を抑制しつつ、必要なトルクの確保と、振動・騒音の低減を実現する観点から、重要となる。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、ロータの表面に永久磁石が備えられた回転電気機械において、高トルクを確保しながら、コギングトルクの抑制と永久磁石の減磁の抑制を両立することができる回転電気機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明にかかる回転電気機械は、以下の構成を有する。
[1]本発明にかかる回転電気機械は、複数のティースを有する中空筒状のステータコアと、前記ティースに巻き回されたコイルと、を有するステータと、ロータコアと、前記ロータコアの外周面に固定され、複数の磁極を構成する永久磁石と、を有し、前記ステータの中空部に配置されたロータと、を備え、前記ロータの回転軸に直交する断面において、前記ステータの前記ティースは、内周面が、前記回転軸を中心とする円弧形状を有し、前記ロータの前記永久磁石は、前記ロータの径方向外側の外側端縁が、前記回転軸を中心とする円弧形状を有するとともに、前記径方向内側の内側端縁が、前記回転軸を中心とする円弧よりも前記径方向内側に凸となった形状を有し、前記外側端縁と前記内側端縁の間の厚さが、前記磁極の中央の位置で最も厚くなった中央肉厚形状を、前記磁極ごとに独立して有するとともに、前記ロータの周方向に沿って外側の領域ほど、前記径方向外側で前記磁極の中央に向かう方向に磁化方向が傾斜した、集中配向をとる。
【0007】
[2]ここで、前記[1]の態様において、前記内側端縁は、直線状であるとよい。
[3]あるいは、前記[1]の態様において、前記内側端縁は、前記径方向内側へと膨出しているとよい。
【0008】
[4]前記[1]から[3]のいずれか1つの態様において、前記回転電気機械はさらに、前記ロータの外周に、非磁性材料よりなる円筒形の保護管を有しており、前記永久磁石の前記外側端縁は、前記保護管の内周面に沿っているとよい。
【0009】
[5]前記[1]から[4]のいずれか1つの態様において、前記回転軸に対する前記永久磁石の前記外側端縁の開角が、前記回転軸に対する前記ティースの前記内周面の開角に対して、±10%の範囲に収まっているとよい。
【0010】
[6]前記[1]から[5]のいずれか1つの態様において、前記ロータにおいて、前記ロータコアは、隣接する前記磁極の間に、両側の前記永久磁石に接して、前記永久磁石の前記内側端縁よりも前記径方向外側に突出した凸部を有するとよい。
【発明の効果】
【0011】
上記[1]の発明にかかる回転電気機械においては、ロータの回転軸に直交する断面において、永久磁石が、所定の中央肉厚形状を有し、かつ磁化配向が集中配向をとっている。この永久磁石の形状と磁化配向の効果により、回転電気機械において、高トルクが得られるとともに、正弦波に近い波形を有するエアギャップ磁束密度分布が形成され、コギングトルクが抑制される。また、磁極の周方向外側の領域において、永久磁石のパーミアンス係数が高くなり、減磁が抑制される。
【0012】
上記[2]の態様においては、永久磁石の内側端縁が直線状になっており、永久磁石が平凸形状(かまぼこ形状)の断面を有している。このような永久磁石は、回転電気機械において、トルク向上、コギングトルクの抑制、減磁の抑制のそれぞれに、高い効果を示す。また、簡便に製造することができる。
【0013】
上記[3]の態様においては、永久磁石の内側端縁が径方向内側へと膨出しており、永久磁石が両凸形状(瞳形状)を有している。このような永久磁石は、上記平凸形状の永久磁石と同様に、回転電気機械において、トルク向上、コギングトルクの抑制、減磁の抑制のそれぞれに、高い効果を示す。特に、永久磁石の中央部の厚みが大きくなっていることにより、減磁の抑制に優れた効果が得られる。
【0014】
上記[4]の態様においては、ロータの外周に保護管が設けられている。ロータの回転軸を中心とする円筒形状に保護管を形成し、永久磁石の外側端縁もロータの回転軸を中心とする円弧形状とすれば、保護管の内周面に永久磁石の外側端縁が沿うことになる。保護管は遠心力による永久磁石の飛散を防止する役割を果たす。この保護管の内周面に外側端縁を沿わせた形状に永久磁石を設計することが、高トルクを確保しながら、コギングトルクの抑制と永久磁石の減磁の抑制を両立できる回転電気機械を得るための簡便な指標となる。
【0015】
上記[5]の態様においては、永久磁石の外側端縁の開角が、ステータコアのティースの開角に対して±10%の範囲に収まっている。このように、永久磁石の開角がティースの開角に近接していることで、コギングトルクの抑制に優れた効果が得られる。
【0016】
上記[6]の態様においては、隣接する磁極の間の位置において、ロータコアに凸部が設けられている。この凸部は、永久磁石の位置ずれを防止するとともに、永久磁石の磁束の経路をステータのティースに向かう方向に形成させ、磁束の有効利用を促進するのに効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる、等ギャップ平凸形状の永久磁石を備えたモータの構成を示す横断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態にかかるモータの一部を抜き出した断面図である。
図1の拡大図に相当する。
【
図3】不等ギャップ平凸形状の永久磁石を備えた、従来形態のモータの一部を抜き出した断面図である。
【
図4】(a)不等ギャップ平凸形状の永久磁石にパラレル配向を適用したモデル1、および(b)等ギャップ平凸形状の永久磁石に集中配向を適用したモデル2について、磁束密度分布を示している。
【
図5】モデル1~3について、(a)エアギャップにおける磁束密度の波形、および(b)エアギャップ磁束密度における基本波成分の強度を比較する図である。
【
図6】永久磁石の体積を揃えた場合について、(a)最大トルク、および(b)コギングトルクを、モデル1~3で比較する図である。
【
図7】最大トルクを揃えた場合について、(a)最大トルク、および(b)コギングトルクを、モデル1~3で比較する図である。
【
図8】永久磁石の形状を異ならせた3とおりのモータの構成を示す断面図である。永久磁石の形状が、(a)は円弧形状、(b)は等ギャップ平凸形状、(c)は等ギャップ両凸形状となっている。
【
図9】
図8の3とおりの永久磁石を用いた場合について、(a)最大トルク、および(b)コギングトルクを比較する図である。それぞれ、集中配向の場合とパラレル配向の場合を示している。
【
図10】磁石形状および磁化配向が異なる4つの形態について、パーミアンス係数の分布を示す図である。(a)~(c)は、それぞれ
図8(a)~(c)の形状を有する永久磁石に集中配向を適用した形態を示し、(d)は、
図3の不等ギャップ平凸形状の永久磁石にパラレル配向を適用した形態を示している。
【
図11】等ギャップ平凸形状の永久磁石に集中配向を適用した形態において、ステータの開角(θ
S)に対する永久磁石の開角(θ
M)の比率を変化させた場合について、(a)最大トルクの変化、および(b)コギングトルクの変化を示す図である。それぞれ、集中配向の配向角度として、3とおりの角度を採用している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態にかかる回転電気機械について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0019】
[回転電気機械の構成]
本発明の一実施形態にかかる回転電気機械としてのモータ1の概略を、回転軸Oに直交する断面図で、
図1に示す。また、
図1の一部を拡大したものを
図2に示す。以降では、回転電気機械がモータである場合を中心に説明するが、発電機である場合にも、同様の構成を適用することができる。
【0020】
モータ1は、表面磁石型(SPM)モータとして構成されている。モータ1は、中空筒状のステータ20と、ステータ20の中空部内に、同軸状に、軸回転可能に支持されたロータ10と、を有している。
【0021】
以下では、特記しない限り、各部の構造(形状および配置)、および磁化方向は、
図1,2に示したように、ロータ10の回転軸Oに直交する断面において示すものとする。また、「径方向」、「周方向」、「外周」、「内周」、「外側」、「内側」等、方向を示す語は、特記しないかぎり、ロータ10についての方向を指すものとする。また、「円弧」や「直線」、「直交」等、部材の形状や配置を表す語には、幾何的に厳密な概念のみならず、この種のモータにおいて許容される範囲の誤差を含むものとする。
【0022】
ステータ20は、ステータコア21と、コイル22とを有している。ステータコア21は、複数層の電磁鋼板を積層してなるものであり、略円環形状のバックヨーク部21aと、バックヨーク部21aから円環形状の内側に向かって突出した複数のティース21bを、一体に備えている。そして、各ティース21bに、コイル22が巻き回されている。各ティース21bの内周面21cは、ロータ10の回転軸Oを中心とした円弧形状を有している。
【0023】
ロータ10は、略円柱状の外形を有するロータコア11と、ロータコア11の外周面に固定された複数の永久磁石Mと、を有している。ロータ10の外周には、保護管30が設けられている。保護管30は、非磁性ステンレス鋼等、非磁性材料よりなる円筒状の部材として構成されている。さらに、ロータコア11の中心には、中空部が形成され、シャフト40が挿通されている。ロータ10をステータ20の中空部に同軸状に収容した状態で、ステータ20とロータコア11の外周面の間には、エアギャップGが確保される。エアギャップGは空気によって占められる。
【0024】
ロータ10においては、複数の永久磁石Mがそれぞれ磁極を構成しており、磁極ごとに永久磁石Mが独立して配置されている。つまり、複数の永久磁石Mが相互にロータ10の周方向に離間して配置されている。磁極ごとに、永久磁石Mの極性が交互に異なっている。ロータ10における極数(永久磁石Mの数)、およびステータ20におけるスロット数(ティース21bの数)は、モータとして機能する限りにおいて、特に限定されるものではない。図示した形態においては、極数が10、スロット数が12となっており、本実施形態にかかるモータ1において、この組み合わせを好適に採用することができる。
【0025】
[ロータの構成の概略]
以下、ロータ10の構造について説明する。ロータコア11は、複数の電磁鋼板を積層して構成されており、略円柱形状を有している。ロータコア11の外周面には、永久磁石Mが固定されている。永久磁石Mは、ロータ10全体としての最外周に露出している。ロータコア11の外周面に対して、永久磁石Mは、適宜、接着剤を介して固定されており、接着剤および保護管30の働きにより、ロータ10が回転する時に、遠心力によって永久磁石Mが飛散しないようになっている。
【0026】
複数の永久磁石Mは、磁極ごとに独立して、後に詳細に説明する中央肉厚形状を有している。図示した形態では、各永久磁石Mは、中央肉厚形状の中でも、平凸形状(かまぼこ形状)をとっている。また、各永久磁石Mは、集中配向をとっている。集中配向においては、
図2中に片矢印で示すように、永久磁石Mの中で、周方向に沿って外側の領域ほど、磁化方向が、径方向外側(ステータ側)で磁極の中央Cに向かう方向に傾斜している。つまり、周方向に沿った永久磁石Mの各領域において、磁化方向が、径方向外側に向かって、磁極の中央Cへと収束している。好ましくは、各永久磁石Mの周方向に沿った各部において、磁化方向が単一の配向焦点へと収束するものであるとよい。この場合に、配向角度θ
oは、特に限定されるものではないが、図示した10極のロータ10の場合、40~80°の範囲を好適に例示することができる。配向角度θ
oは、永久磁石Mの内周側の端部と配向焦点を結ぶ直線が、磁極の中央軸(磁極の中央Cを通るロータ10の径方向の直線)に直交する方向との間になす角度として定義される。
【0027】
永久磁石Mの種類は、特に限定されるものではないが、金属磁石であることが好ましい。つまり、表面近傍を除き、意図的に添加された金属酸化物や有機化合物を含まず、金属磁石材料のみよりなっていることが好ましい。さらには、金属磁石材料の微結晶粒より構成された熱間塑性加工磁石であることが好ましい。熱間塑性加工磁石は、中央肉厚形状への成形、および着磁による集中配向の形成を、比較的簡便に行うことができる。
【0028】
本実施形態にかかるモータ1は、永久磁石Mが中央肉厚形状を有するとともに、磁化配向が集中配向をとることで、高トルクを確保しながら、コギングトルクの抑制と永久磁石Mの減磁(自己減磁)の抑制を両立することができる。次項以降にて、永久磁石Mの形状の詳細、また永久磁石Mの形状および磁化配向によるモータ1の特性への影響について説明する。
【0029】
ロータ10において、ロータコア11は、隣接する各磁極の間の位置に、凸部11aを有していることが好ましい。凸部11aは、周方向に沿って両側の永久磁石Mの内側端縁M2よりも、径方向外側に突出した部位として、ロータコア11に一体に設けられており、両側の永久磁石Mに接している。図示した形態では、凸部11aは、両側の永久磁石Mの周方向端縁M3に接している。凸部11aは、永久磁石Mが周方向に位置ずれを起こさないようにする回り止めの役割を果たすとともに、次に詳しく説明する永久磁石Mの形状の効果による有効磁束の向上を補助する役割を果たす。
【0030】
[永久磁石の形状の詳細]
本実施形態にかかるモータ1において、ロータ10に設けられる複数の永久磁石Mはそれぞれ、所定の中央肉厚形状を有している。つまり、永久磁石Mにおいて、径方向外側の端縁である外側端縁M1が、ロータ10の回転軸Oを中心とする円弧形状を有している。一方、径方向内側の端縁である内側端縁M2は、ロータ10の回転軸Oを中心とする円弧よりも径方向内側に凸となった形状を有している。そして、外側端縁M1と内側端縁M2の間の厚さ、つまり中央軸Cに沿った外側端縁M1と内側端縁M2の間の距離が、磁極の中央Cの位置で最も大きくなっている。
【0031】
永久磁石Mの外側端縁M1は、ロータ10の回転軸Oを中心とする円弧形状を有していることにより、同じくロータ10の回転軸Oを中心とした円弧形状を有しているステータコア21のティース21bの内周面21cと、同心円弧の関係をとる。そのため、永久磁石Mとステータコア21の間のエアギャップGの距離(中央軸Cに沿った長さ)が、
図2中に両矢印で示すように、永久磁石Mの周方向全域において、ほぼ等しくなる。このことから、本実施形態における永久磁石Mの形状を、等ギャップ中央肉厚形状と称することができる。さらに、ロータ10の外周に円筒形の保護管30が設けられている場合には、永久磁石Mの外側端縁M1が保護管30の内周面に沿った形状をとることになる。
【0032】
永久磁石Mの内側端縁M2は、
図8(a)に示す円弧形状の永久磁石の場合のように、外側端縁M1と同心状の円弧形状をとっているのではなく、そのような同心状の円弧形状よりも、ロータ10の径方向内側に凸(永久磁石M自体の形状としては外側に凸)となっている。内側端縁M2は、外側端縁M1と同心状の円弧形状よりも径方向内側に向かって凸となり、かつ磁極の中央Cで永久磁石Mに最も大きな厚みを与える限りにおいて、径方向外側に向かって湾曲していても、直線状になっていても、径方向内側へと膨出していても、いずれでも構わない。ただし、内側端縁M2は、直線状、または径方向内側へと膨出した形状であることが好ましい。また、内側端縁M2を含む永久磁石M全体の形状が、中央軸Cに関して対称であることが好ましい。
【0033】
内側端縁M2が直線状である場合には、永久磁石Mは、
図1,2および
図8(b)に示したとおり、平凸形状(かまぼこ形状)を有することになる。一方、内側端縁M2が径方向内側へと膨出した形状である場合には、永久磁石Mは、
図8(c)に示すように、両凸形状(瞳形状)を有することになる。永久磁石Mが平凸形状をとる場合にも、両凸形状をとる場合にも、後に説明するように、高トルクの確保、コギングトルクの抑制、永久磁石Mの減磁の抑制の各特性に優れたモータを与えるものとなる。しかし、両凸形状の場合の方が、永久磁石Mの減磁の抑制に高い効果を示す。一方、平凸形状の場合の方が、永久磁石Mの製造性が高くなる。永久磁石Mが両凸形状をとる場合に、内側端縁M2の曲率半径は、特に指定されるものではないが、外側端縁M1の曲率半径と同じ、またはそれよりも大きいことが好ましい。また、内側端縁M2の膨出形状は、円弧形状をとっていることが好ましい。
【0034】
上記のように、永久磁石Mの厚みは、周方向に沿って、磁極の中央Cの位置で最も大きくなっている。好ましくは、永久磁石Mの厚みが、磁極の中央Cで最も大きく、その両側で、周方向に沿って外側に向かうほど単調に小さくなっているものであるとよい。永久磁石Mが、中央軸Cに対して対称な平凸形状または両凸形状をとる場合には、永久磁石Mの厚みは、磁極の中央Cにおいて最も大きく、その両側で、周方向に沿って外側に向かうほど単調に小さくなる。なお、永久磁石Mの厚みは、永久磁石Mの周方向の位置によらず、上記のとおり、中央軸Cの方向に沿った幾何的な厚みを指す。
【0035】
さらに、永久磁石Mの開角θM(回転軸Oに対する外側端縁M1の中心角)が、ステータ20の開角θS(回転軸Oに対するティース21bの内周面21cの中心角)と同程度になっていることが好ましい。すると、後に説明するように、コギングトルクの低減に優れた効果が得られる。具体的には、永久磁石Mの開角が、ステータ20の開角に対して、±10%の範囲に収まっていることが好ましい(0.90≦θM/θS≦1.10)。永久磁石Mの開角が、ステータ20の開角に対して、±5%の範囲、さらには±2%の範囲に収まっていると、より好ましい。
【0036】
[永久磁石の形状および磁化配向とモータの特性]
本実施形態にかかるモータ1においては、上記のように、永久磁石Mが、外側端縁M1がロータ10の回転軸Oを中心とする円弧形状をとる一方で、内側端縁M2が回転軸Oを中心とする円弧形状よりも径方向内側に凸な形状を有し、磁極の中央Cで厚さが最も大きくなった等ギャップ中央肉厚形状を有している。かつ、永久磁石Mの磁化方向が、集中配向をとっている。それら永久磁石Mの形状および磁化配向の効果により、モータ1において、高トルクを確保しながら、コギングトルクの抑制と永久磁石Mの減磁の抑制を両立することができる。
【0037】
中央部が厚くなった中央肉厚形状の永久磁石は、従来からもモータに用いられているが、
図3に示す従来形態のモータ1’のように、永久磁石mの外側端縁m1が、ロータ10の回転軸Oを中心とした円弧形状ではなく、それよりも曲率半径が小さい円弧形状をとるものであった。特許文献1にもそのような形状の永久磁石が開示されている。この場合には、ステータコア21のティース21bの内周面21cの円弧形状と、永久磁石mの外側端縁m1の円弧形状が、相互に同心状とならないので、永久磁石mとステータコア21の間のエアギャップGの距離が周方向に沿って等しくならず、中央軸Cの位置から周方向外側に向かうほど、エアギャップGが広くなる(
図3に両矢印にて表示)。つまり、永久磁石mの形状を、不等ギャップ中央肉厚形状と称することができる。より詳細には、
図3に示した形態の永久磁石mは、内側端縁m2が直線状となっており、不等ギャップ平凸形状と称することができる。
【0038】
このように、永久磁石mが不等ギャップ中央肉厚形状をとる場合に、
図3中に片矢印で示すように、磁化方向を永久磁石mの全域で中央軸Cに平行とすると(パラレル配向)、エアギャップGに形成される磁束密度の波形(ステータ20をスロットを持たない平滑鉄心として得られる波形;以下同)が、正弦波に近いものとなり、コギングトルクを小さく抑えることができる。一般に、磁化方向に沿って、永久磁石の厚さをl
m、エアギャップの距離をl
gとした時に、周方向に沿ったエアギャップ内の各位置における磁束密度は、l
m/l
gの値を反映するが、
図3のように、パラレル配向させた不等ギャップ中央肉厚形状の永久磁石mを用いる場合には、周方向に沿って永久磁石mの中央Cに向かうほど、l
gが小さくなるとともに、l
mが大きくなる分布をとり、l
m/l
gの値が、永久磁石mの周方向の全域において、なだらかに変化するからである(
図5(a)のモデル1の参照)。
【0039】
しかし、永久磁石mが不等ギャップ中央肉厚形状をとる場合には、永久磁石mにおいて、周方向外側の領域ほど、永久磁石mがステータ20に対して遠くなり、永久磁石mの磁束を、エアギャップ磁束として有効に利用することができなくなる。換言すると、永久磁石mの動作点が低磁束密度の領域に存在することになる。エアギャップ磁束として利用されない分の磁束は、漏れ磁束となって(
図4(a)参照)、トルクの発生に有効に寄与しない。そのため、高トルクが得られにくくなる。
【0040】
そこで、不等ギャップ中央肉厚形状の代わりに、本実施形態にかかるモータ1のように、外側端縁M1がロータ10の回転軸Oを中心とした円弧形状となった、等ギャップ中央肉厚形状を有するものとして、永久磁石Mを設計すれば、永久磁石Mの周方向外側の領域においても、中央部と同様に、エアギャップGを短くし、ステータ20に対して永久磁石Mを近づけることができる。これにより、漏れ磁束を低減し(
図4(b)参照)、永久磁石Mの磁束を、エアギャップ磁束として有効利用することができる。換言すると、永久磁石Mの動作点を高磁束密度の領域に設定することができる。すると、モータ1のトルクを高めることができる。また、所定のトルクを賄うために必要な永久磁石Mの量を、不等ギャップ中央肉厚形状の永久磁石mを用いる場合よりも少なくすることができる。後に示す実施例での試算によると、不等ギャップ中央肉厚形状の永久磁石mを用いる場合と比較して、永久磁石を16%減量しても、同等のトルクを得ることができる。
【0041】
このように、永久磁石Mを等ギャップ中央肉厚形状とすることで、トルクの向上を図ることはできる。しかし、この等ギャップ中央肉厚形状の永久磁石Mに対して、
図3の不等ギャップ中央肉厚形状の場合と同様に、パラレル配向の磁化を適用すると、コギングトルクが大きくなってしまう。上記のように、エアギャップGの各位置における磁束密度は、l
m/l
gの値を反映するが、等ギャップ中央肉厚形状の永久磁石Mを用いる場合には、永久磁石Mの周方向全域で、エアギャップGの距離l
gが等しいため、磁束密度が、永久磁石Mの厚さl
mをほぼそのまま反映するものとなるからである。つまり、エアギャップGにおける磁束密度波形が、磁極の中央Cの位置から、永久磁石Mの周方向の寸法に対応する位置くらいまでは、緩やかにしか変化しないが、それよりも離れた位置で急激に変化し、矩形波に近い形状をとるようになる(
図5(a)のモデル3参照)。
【0042】
そこで、等ギャップ中央肉厚形状の永久磁石Mに適用する磁化の方向を、パラレル配向ではなく、集中配向とすることで、エアギャップGにおける磁束密度波形を正弦波に近づけ、コギングトルクを低減することができる。上記のように、エアギャップGにおける磁束密度波形は、lm/lgの値を反映するが、その値を定めるエアギャップGの距離lgおよび永久磁石の厚さlmは、磁化方向に沿ったものであり、等ギャップ中央肉厚形状の永久磁石Mにおいて、集中配向を適用することで、中央軸Cから周方向外側に向かうほど、中央軸Cに対する磁化の傾斜角が大きくなり、実寸としての永久磁石Mの厚さよりもlmの値が大きくなる。永久磁石Mの体積Vmは磁化の傾斜角を変えても変化しないので、磁石の断面積をSmとした時に、Vm=lm×Smは維持される。つまり、磁化配向を傾けることでlm/lgの増大により動作点磁束密度は増加するが、等価磁石断面積Sm(磁化方向に直交する永久磁石Mの端面の面積)は減少する。集中配向磁石では、中央軸Cの位置から周方向に離れる際のlm/lgの増加よりも、永久磁石Mの等価断面積Smの減少の方が大きく、かつ磁化配向が中央軸Cの位置から周方向に離れる際に連続的に変化するため、エアギャップGにおける磁束密度が緩やかに変化・減少し、正弦波に近い分布をとる。すると、パラレル配向を適用する場合よりも、エアギャップGにおける磁束密度波形が正弦波に近づき、コギングトルクが低減される。
【0043】
このように、等ギャップ中央肉厚形状の永久磁石Mを用い、集中配向を適用することで、不等ギャップ中央肉厚形状の永久磁石mを用いる場合に比べて、得られるトルクを向上させるとともに、コギングトルクの増大を抑制することができる。また、ロータコア11に凸部11aを設けておけば、磁束の有効利用によるトルクの増大に、さらに高い効果が得られる。集中配向を有する永久磁石Mの磁束が、永久磁石Mとステータコア21のティース21bとを結ぶ方向に分布しやすくなり、磁束の経路において空気が占める領域を低減できるからである。
【0044】
さらに、集中配向を適用するに際して、永久磁石Mを中央肉厚形状としておくことで、永久磁石Mの減磁を抑制する効果が得られる。永久磁石Mの減磁は、パーミアンス係数が高いほど起こりにくく、パーミアンス係数は、磁化方向に沿った永久磁石Mの厚さlmが大きいほど、大きくなる。つまり、永久磁石Mが集中配向をとる場合に、磁化方向が大きく傾斜した周方向外側の領域ほど、パーミアンス係数の増大による減磁抑制の効果が発現しやすい一方、周方向に沿って中央軸Cに近い領域においては、減磁が起こりやすい傾向がある。しかし、永久磁石Mを、内側端縁M2がロータ10の回転軸Oを中心とする円弧よりも径方向内側に凸な形状をとる中央肉厚形状に設計し、周方向中央部における永久磁石Mの肉厚(実際の寸法としての厚さ)を大きくしておくことで、中央部における減磁を抑制することができる。このように、永久磁石Mにおいて、集中配向の適用による周方向外側の領域におけるパーミアンス係数増大の効果と、中央肉厚形状の適用による中央部における減磁の抑制の両方の効果により、永久磁石M全体として、減磁が効果的に抑制される。永久磁石Mを平凸形状とした場合、さらに両凸形状とした場合には、中央部において、肉厚の確保による減磁抑制の効果が、高く得られる。
【0045】
上記のように、等ギャップ中央肉厚形状の永久磁石Mを用いる際に、コギングトルクの抑制は、磁化配向を集中配向とすることによって実現されるが、それに加えて、永久磁石Mの開角をステータ20の開角に対して、±10%程度の範囲で近接させておくことで、コギングトルクの抑制効果が、さらに高くなる。ロータ10がステータ20に対して回転する際に、永久磁石Mは、回転方向前方に存在するティース21bから、回転方向に引き寄せられる方向のトルクを受けるとともに、回転方向後方に存在するティース21bから、回転方向と反対に引き戻される方向のトルクを受ける。これら2方向のトルクが、モータ1のトルク波形に影響するが、永久磁石Mの開角がステータ20の開角に等しい場合に、それら2方向のトルクのバランスの効果により、回転角に対するトルク波形が、連続的な波形をとりやすくなる。つまり、トルクにおける高調波成分の寄与が小さくなり、コギングトルクが低減される。
【実施例0046】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。ここでは、永久磁石の形状および磁化配向によって、モータの特性がどのように変化するかを検証した。
【0047】
<1>従来形態との比較
まず、
図3に示した従来形態のように、永久磁石が不等ギャップ平凸形状を有し、磁化がパラレル配向をとる場合と、
図1,2に示した本発明の実施形態のように、永久磁石が等ギャップ平凸形状を有し、磁化が集中配向をとる場合とで、モータの特性を比較した。
【0048】
[解析方法]
モデル1として、
図3に示したとおり、SPMモータにおいて、永久磁石が不等ギャップ平凸形状を有し、磁化がパラレル配向を取る形態のモデルを作成した。ロータコアおよびステータ、保護管の構成は、
図1に示したものと同じにした。また、モデル2として、永久磁石の形状と磁化配向の方向のみを、モデル1から変更することで、
図1,2に示したとおり、永久磁石が等ギャップ平凸形状を有し、磁化が集中配向をとる形態のモデルを作成した。さらに、モデル3として、モデル2の集中配向をパラレル配向に変更したモデルを作成した。
【0049】
そして、各モデルに対して、シミュレーションを行い、磁束分布密度およびトルク特性の解析を行った。シミュレーションは、有限要素法(FEM)を用いた電磁界解析によって行った。
【0050】
シミュレーションに用いたパラメータを、モデル1について、下の表1にまとめる。表1に示した磁石寸法について、Wは永久磁石の幅(中央軸に直交する方向の寸法)を示し、tは永久磁石の厚さ(磁極の中央における厚さ)を示し、Lは永久磁石の長さ(ロータの回転軸に沿った寸法)を示している。モデル2,3のシミュレーションとしては、モデル1に永久磁石の体積を揃えた形態と、最大トルクを揃えた形態の2とおりを実施した。モデル2,3における磁石寸法としては、体積を揃える形態については、W=11.20mm、t=1.90mmとした。一方、最大トルクを揃える形態については、W=9.20mm、t=1.85mmとした。また、いずれのモデルについても、永久磁石の開角とステータの開角とを同じに揃えた。モデル2における集中配向の配向角度は、70°とした。
【0051】
【0052】
[解析結果]
図4(a),(b)にそれぞれ、永久磁石の体積を揃えた場合のモデル1とモデル2について、磁束密度分布を示す。
図4(a)に示したように、不等ギャップ平凸形状の永久磁石にパラレル配向を適用した場合には、破線で囲って示すとおり、永久磁石の端部で、磁束が永久磁石の側方に向かって出ており、漏れ磁束が発生している。一方、
図4(b)に示したように、等ギャップ平凸形状の永久磁石に集中配向を適用した場合には、永久磁石において、磁束の漏れが見られない。破線で囲って示すとおり、永久磁石の端部でも、磁束がステータの方向に向かって伸びており、トルクの発生に寄与する有効磁束となりうる。このように、モデル2の場合の方が、モデル1の場合よりも、有効磁束の割合が大きくなっており、高トルクが得られることが示唆される。
【0053】
図5(a)に、永久磁石の体積を揃えた場合のモデル1~3について、エアギャップの磁束密度波形(ステータをスロットを持たない平滑鉄心とした場合に得られる波形)を示す。これによると、不等ギャップ平凸形状の永久磁石にパラレル配向を適用したモデル1では、磁束密度波形が正弦波に近い緩やかな山状の分布を有している。一方、パラレル配向のまま永久磁石を等ギャップ平凸形状に変更したモデル3では、正弦波からかけ離れ、矩形波に近い磁束密度波形が得られている。さらに、等ギャップ平凸形状の永久磁石に集中配向を適用したモデル2においては、モデル1には及ばないものの、モデル3よりは正弦波に近い磁束密度波形が得られている。つまり、等ギャップ平凸形状の永久磁石において、磁化配向を、パラレル配向から集中配向に変更することで、エアギャップにおける磁束密度波形が正弦波化することが分かる。磁束密度波形の正弦波化は、コギングトルクの低減につながる。
【0054】
さらに、
図5(a)において、モデル2の波形をモデル1の波形と詳細に比較すると、ピークトップにおける磁束密度はほぼ変わらないものの、ピークトップの両側の領域で、モデル2の方が磁束密度が大きくなっている。
図5(b)に、各モデルについて、エアギャップ磁束密度の基本波成分の強度を示しているが(モデル1の強度を1としている)、モデル2の方が、モデル1よりも基本波成分の強度が8%大きくなっており、
図5(a)の波形において見られた磁束密度の大きさの差が、定量的に確認される。このように、エアギャップ磁束密度が、モデル2においてモデル1よりも大きくなっていることは、
図4(a),(b)の磁束密度分布の比較において、モデル2の方が有効磁束の割合が大きくなっていることと対応しており、モデル2において高トルクが得られることを示唆している。
【0055】
図6(a),(b)にそれぞれ、永久磁石の体積を揃えた場合のモデル1~3について得られた最大トルクおよびコギングトルクの比較を示す。いずれも、モデル1における値を1として規格化して表示している。
図6(a)において、最大トルクの値は、モデル2において、モデル1よりも7%高くなっている。これは、
図4(a),(b)の磁束密度分布の比較、および
図5(a)の磁束密度波形の比較で見られたように、モデル2の方で有効磁束の割合が大きくなっていることと対応している。モデル3においても、モデル2と同程度の高い最大トルクが得られている。
【0056】
図6(b)のコギングトルクの値を見ると、モデル3においては、モデル1の30倍以上と、コギングトルクが大幅に増大している。これに対し、モデル2では、コギングトルクがモデル1に対して6倍以下と、モデル3の場合よりも小幅な増大に抑えられている。これは、
図5(a)の磁束密度波形において、モデル3よりもモデル2の方で、正弦波に近い波形が得られていることと対応している。
【0057】
このように、永久磁石の体積を揃えた場合のモデル1~3の対比から、永久磁石を不等ギャップ平凸形状から等ギャップ平凸形状に変更することで、有効磁束の増大によって、トルクが向上されることが分かる。さらに、その不等ギャップ平凸形状の永久磁石に対して、パラレル配向ではなく、集中配向を適用することで、エアギャップ磁束が正弦波に近づき、不等ギャップ平凸形状にパラレル配向を適用する場合には及ばないものの、コギングトルクが小さく抑えられることが分かる。
【0058】
ここまでの永久磁石の体積を揃えた場合の解析から、等ギャップ平凸形状の永久磁石を用いることで、高トルクが得られることが明らかになっており、永久磁石の体積を減らしたとしても、不等ギャップ平凸形状の永久磁石を用いる場合と同等のトルクが得られる。そこで、次に、モデル2,3の永久磁石の体積を変化させることで、モデル1~3の間で最大トルクを揃えた場合について、解析の結果を比較する。永久磁石の体積は、モデル2,3の等ギャップ平凸形状において、モデル1の不等ギャップ平凸形状よりも16%小さくなった。
【0059】
図7(a),(b)にそれぞれ、最大トルクを揃えた場合について、3つのモデルにおける最大トルクおよびコギングトルクの比較を示す。
図7(a)の最大トルクは、3つのモデルでほぼ1に揃っており、永久磁石の体積の調整により、意図したとおりに最大トルクを揃えられていることが、確認される。
図7(b)のコギングトルクを見ると、モデル3では、モデル1の13.1倍と、大幅に大きな値となっているのに対し、モデル2では、モデル1に比べて増大はしているものの、72%増と、2倍以下の値に抑えられている。
【0060】
以上より、永久磁石を等ギャップ平凸形状とすることで、不等ギャップ平凸形状の場合よりも、永久磁石の体積を16%減らしても、同等のトルクが得られることが確認される。さらに、等ギャップ平凸形状の永久磁石に適用する磁化配向を集中配向とすれば、パラレル配向とする場合と比較して、コギングトルクを大幅に低減でき、不等ギャップ平凸形状の永久磁石にパラレル配向を適用した場合と比較して、70%程度の増大に抑えることができる。このように、永久磁石を等ギャップ平凸形状とし、集中配向を適用することで、高トルクの確保とコギングトルクの抑制を両立することができる。
【0061】
<2>内側端縁の形状による差異
上記<1>の試験により、永久磁石の外側端縁がロータの回転軸を中心とした円弧形状をとる等ギャップ平凸形状を採用することで、高トルクの確保とコギングトルクの抑制を達成できることが明らかになった。次に、永久磁石の外側端縁がそのような円弧形状をとる場合に、内側端縁の形状を変更すると、モータの特性がどのように変化するのかを検証した。
【0062】
[解析方法]
解析モデルとして、
図8に示すように、永久磁石が、(a)円弧形状、(b)(等ギャップ)平凸形状、(c)(等ギャップ)両凸形状をとる場合の3とおりのモデルを準備した。平凸形状の場合のモデルを、上記<1>の解析に用いたモデル2と同様とし、円弧形状および両凸形状の場合については、そこから永久磁石の形状を変化させた。永久磁石の幅Wは、3つのモデルの全てについて、9.20mmとした。この幅は、永久磁石の開角がステータの開角に等しくなる幅に対応する。永久磁石の厚さtは、(a)円弧形状で2.07mm、(b)平凸形状で2.16mm、(c)両凸形状で2.34mmとした。この厚さtの違いによって、永久磁石の体積が3つの場合で揃っている。両凸形状においては、内側端縁の曲率半径を、外側端縁の曲率半径と同じにした。
【0063】
上記の永久磁石の形状を3とおりに変化させたモデルに対して、上記<1>の解析と同じ方法を用いて、モータの特性に関するシミュレーションを行った。永久磁石の磁化配向としては、集中配向とパラレル配向の2とおりを適用した。集中配向における配向角度は、いずれのモデルでも70°とした。
【0064】
[解析結果]
図9(a),(b)に、3とおりの永久磁石形状に対して、集中配向およびパラレル配向を適用した場合のそれぞれについて、最大トルクおよびコギングトルクの大きさを示している。いずれも、上記試験<1>のモデル1、つまり不等ギャップ平凸構造にパラレル配向を適用した従来形態について得られた値を1として、規格化表示している。
【0065】
図9(a)の最大トルクの比較を見ると、永久磁石が円弧形状、平凸形状、両凸形状のいずれをとる場合にも、従来形態を超える最大トルクが得られている。従来形態の場合と永久磁石の体積が異なるため、最大トルクの値そのものには大きな意味はないが、永久磁石の形状が、上記<1>の解析で詳細に検討した等ギャップ平凸形状から、円弧形状や等ギャップ両凸形状に変化しても、不等ギャップ平凸形状の場合との比較の観点で、等ギャップ平凸形状の場合と同程度の高トルクが得られることが確認される。3つの形状の間で最大トルクを比較すると、わずかな差ではあるが、高トルクの方から、両凸形状、平凸形状、円弧形状となっている。また、集中配向とパラレル配向を比較すると、平凸形状および両凸形状の場合に、わずかながら、集中配向の方で、高トルクが得られている。
【0066】
図9(b)のコギングトルクの比較を見ると、円弧形状の場合と、平凸形状および両凸形状の場合とで、挙動に大きな差が見られる。円弧形状の場合には、集中配向、パラレル配向のいずれの場合についても、従来形態と比較して、コギングトルクが5倍以上に大きくなっている。一方、平凸形状および両凸形状の場合には、パラレル配向では、従来形態と比較して、コギングトルクが12倍以上と大幅に増大しているが、集中配向とすることで、コギングトルクが従来形態よりも低い水準に抑制されている。この結果より、永久磁石の形状を、平凸形状や両凸形状のように、内側端縁がロータの回転軸を中心とする円弧形状よりも径方向内側に凸となった中央肉厚形状とし、かつ磁化方向を集中配向とすることで、コギングトルクの抑制に高い効果が得られることが分かる。特に、中央部の肉厚が相対的に大きくなった両凸形状を採用することで、コギングトルク抑制の効果が高くなっている。なお、平凸形状の場合の最大トルクおよびコギングトルクの値が、
図6(a),(b)に示した<1>の解析のモデル2,3の場合と異なっているのは、磁石寸法の違いによるものである。
【0067】
次に、
図10(a)~(c)に、上記3とおりの永久磁石に対してそれぞれ集中配向を適用した場合について、パーミアンス係数の分布を示す。合わせて、
図10(d)に、従来形態、つまり不等ギャップ平凸形状の永久磁石にパラレル配向を適用した場合のパーミアンス係数の分布も示している。パーミアンス係数が低いほど、その箇所の減磁耐力が低くなり、減磁が起こりやすいことを示す。
【0068】
図10(d)の従来形態については、永久磁石の径方向内側(図の下側)の箇所に、パーミアンス係数の著しい不均一分布は、形成されていない。しかし、
図10(a)~(c)の集中配向を適用した3つの形態においてはいずれも、
図10(a)に代表して破線で囲んで表示するように、永久磁石の径方向内側の箇所に、周囲と比較してパーミアンス係数が局所的に低くなった箇所が生じている。これらの箇所においては、永久磁石の減磁が起こりやすい。3つ形態を相互に比較すると、永久磁石が円弧形状をとる(a)の場合に、径方向内側の箇所のパーミアンス係数が低くなっており(中央部で1.44)、そのようにパーミアンス係数が低くなった箇所の局在性も強くなっている。そのため、中央部における永久磁石の減磁が起こりやすくなっている。(b)の平凸形状の場合には、(a)の場合と比較して、径方向内側の箇所のパーミアンス係数がやや高くなっており(中央部で1.52)、パーミアンス係数が低くなった箇所の局在性も緩和されている。(c)の両凸形状の場合には、径方向内側の箇所のパーミアンス係数がさらに高くなっており(中央部で1.74)、パーミアンス係数が低くなった箇所の局在性もさらに緩和されている。これらの結果から、両凸形状、平凸形状、円弧形状の順に、径方向内側の箇所における局所的なパーミアンス係数の低下が起こりにくくなっており、減磁が抑制されることが分かる。
【0069】
以上のように、永久磁石の外側端縁がロータの回転軸を中心とした円弧形状をとる場合に、内側端縁がロータの回転軸を中心とした円弧形状よりも径方向内側に凸な形状をとり、永久磁石の中央部が肉厚になった中央肉厚形状を採用し、さらに集中配向を適用することで、高トルクを確保しながら、コギングトルクを低減することができる。永久磁石の減磁も、小さく抑えることができる。中央部の肉厚が特に大きくなった両凸形状を採用すれば、高トルク化、コギングトルクの抑制、減磁の抑制のそれぞれにおいて、特に高い効果が得られる。
【0070】
<3>永久磁石とステータの開角の関係
最後に、永久磁石の開角と、ステータの開角の関係が、モータの特性にどのような影響を与えるのかを調査した。
【0071】
[解析方法]
上記<1>の解析で用いたモデル2(等ギャップ平凸形状の永久磁石を使用;集中配向)を基本として、永久磁石の開角(外側端縁の開角)を変更しながら、<1>と同様のシミュレーションによって、最大トルクおよびコギングトルクの見積もりを行った。永久磁石の厚さtは1.85mmに固定し、幅Wを開角に応じて変化させた。ステータの開角(ティースの内周面の開角)は固定した。集中配向における配向角度は、60°、65°、70°の3とおりとした。
【0072】
[解析結果]
図11(a),(b)に、開角比率(ステータ開角θ
Sに対する磁石開角θ
Mの比率;θ
M/θ
S)と、最大トルクおよびコギングトルクの関係を、それぞれ示す。いずれも、上記試験<1>のモデル1、つまり不等ギャップ平凸形状の永久磁石にパラレル配向を適用した従来形態について得られた値を1として、規格化表示している。
【0073】
図11(a)の最大トルクは、開角比率に対して、単調増加している。これは、開角比率の増加に伴い、永久磁石の体積が増加することによる。一方、
図11(b)のコギングトルクは、開角比率1(正確には0.99)の位置に極小点を有している。つまり、永久磁石の開角がステータの開角と等しくなった時に、最もコギングトルクが低減されることが分かる。この挙動は集中配向の配向角度によらず、生じている。
【0074】
開角比率が極小点を中心に±10%となる範囲では、コギングトルクを従来形態の25倍以下に抑えることができる。これは、
図6(b)に示したモデル3、つまり等ギャップ平凸形状の永久磁石にパラレル配向を適用する場合よりも、低い水準となっている。さらに、開角比率が極小点を中心に±5%、また±2%となる範囲では、それぞれ、コギングトルクを、従来形態の15倍以下、また10倍以下に抑えることができる。
【0075】
以上、本発明の実施形態について説明した。本発明は、これらの実施形態に特に限定されることなく、種々の改変を行うことが可能である。