(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178545
(43)【公開日】2023-12-18
(54)【発明の名称】放射性物質の標識方法
(51)【国際特許分類】
A61K 51/00 20060101AFI20231211BHJP
A61K 51/08 20060101ALI20231211BHJP
【FI】
A61K51/00 200
A61K51/08 200
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022091289
(22)【出願日】2022-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 有佳子
【テーマコード(参考)】
4C085
【Fターム(参考)】
4C085HH03
4C085KA29
4C085KB82
(57)【要約】
【課題】放射性物質が非キレートタンパク質に非特異的に吸着することを抑制すること。
【解決手段】キレート剤が結合したタンパク質と放射性物質とを含む反応溶液内において、放射性物質をキレート剤に結合させて、タンパク質に放射性物質を標識させる放射性物質の標識方法であって、反応溶液内に、金属元素を捕捉可能な金属捕捉剤を追加する。金属捕捉剤の添加量を、タンパク質のモル数の1mol倍以上、好適には、100mol倍以上とし、タンパク質のモル数の1000mol倍未満とする。金属捕捉剤は、金属配位部または金属イオン配位部を有するキレート剤であり、タンパク質は極性アミノ酸側鎖または高次構造を有するタンパク質である。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キレート剤が結合したタンパク質と放射性物質とを含む反応溶液内において、前記放射性物質を前記キレート剤に結合させて、前記タンパク質に前記放射性物質を標識させる放射性物質の標識方法であって、
前記反応溶液内に、金属元素を捕捉可能な金属捕捉剤を追加する
ことを特徴とする放射性物質の標識方法。
【請求項2】
前記金属捕捉剤の添加量を、前記タンパク質のモル数の1mol倍以上とする
ことを特徴とする請求項1に記載の放射性物質の標識方法。
【請求項3】
前記金属捕捉剤の添加量を、前記タンパク質のモル数の100mol倍以上とする
ことを特徴とする請求項1に記載の放射性物質の標識方法。
【請求項4】
前記金属捕捉剤の添加量を、前記タンパク質のモル数の1000mol倍未満とする
ことを特徴とする請求項1に記載の放射性物質の標識方法。
【請求項5】
前記金属捕捉剤は、金属配位部または金属イオン配位部を有するキレート剤である
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の放射性物質の標識方法。
【請求項6】
前記タンパク質は、極性アミノ酸側鎖または高次構造を有する
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の放射性物質の標識方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性物質をタンパクに標識する放射性物質の標識方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、放射性物質は、医用イメージングなどに用いられることがあり、ペプチドや抗体などのタンパク質や高分子化合物に標識させて、陽電子断層撮影法(PET)による撮像のためのトレーサとして使用することができる。
【0003】
特許文献1には、ミルキングにより所望とする放射性核種を製造する場合に、溶離液中の不純物核種を除去するために精製を行うが、精製工程における放射能収率の低下が不可避であるという問題が提起されている。特許文献1には、放射能収率の低下を抑制するために、キレート官能基化ターゲティング薬剤、いわゆるキレート抗体と、放射性金属との反応時に、単糖類や二糖類からなる金属阻害剤を添加して、糖と不純物金属との錯体を形成することにより不純物金属を除去する技術が開示されている。
【0004】
特許文献2には、RI標識抗体を生成した後、陰イオン交換樹脂、陽イオン交換樹脂、またはキレート樹脂を第一層にし、ゲルろ過樹脂を第二層にしたカラムを用いて精製することにより、遊離および非キレート結合により結合した放射性金属を除去する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6552622号公報
【特許文献2】米国特許第4472509号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、本発明者は、上述した従来技術による医用イメージングの検討に伴って、タンパク質の中の抗体などのタンパク質に対してキレート化処理を行い、キレート化された抗体(以下、キレート抗体)への放射性物質の標識について種々検討を行った。本発明者は、検討に伴って、キレート化されていない抗体(以下、非キレート抗体)に放射性物質が非特異的に吸着する場合が存在することを発見した。
【0007】
非キレート抗体を含む非キレートタンパク質に放射性物質が非特異的に吸着すると、時間経過に伴って、放射性物質がタンパク質から脱離する可能性が生じる。この場合、キレートタンパク質に放射性物質を標識させた薬剤を医用イメージングなどに用いる場合に、正確な画像の撮像、すなわち腫瘍などの可視化が困難になるという問題が生じる。また、医用イメージングのために、人体などの体内に放射性物質を導入した場合に、人体内の所望しない部分でタンパク質から放射性物質が脱離することを回避する必要もある。この検討により本発明者は、放射性物質が非キレートタンパク質に非特異的に吸着する現象を抑制して、キレートタンパク質に放射性物質を標識する標識方法の開発が必要であるという課題を見出した。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、その目的は、放射性物質が非キレートタンパク質に非特異的に吸着することを抑制できる放射性物質の標識方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係る放射性物質の標識方法は、キレート剤が結合したタンパク質と放射性物質とを含む反応溶液内において、前記放射性物質を前記キレート剤に結合させて、前記タンパク質に前記放射性物質を標識させる放射性物質の標識方法であって、前記反応溶液内に、金属元素を捕捉可能な金属捕捉剤を追加することを特徴とする。
【0010】
本発明の一態様に係る放射性物質の標識方法は、上記の発明において、前記金属捕捉剤の添加量を、前記タンパク質のモル数の1mol倍以上とすることを特徴とする。
【0011】
本発明の一態様に係る放射性物質の標識方法は、上記の発明において、前記金属捕捉剤の添加量を、前記タンパク質のモル数の100mol倍以上とすることを特徴とする。
【0012】
本発明の一態様に係る放射性物質の標識方法は、上記の発明において、前記金属捕捉剤の添加量を、前記タンパク質のモル数の1000mol倍未満とすることを特徴とする。
【0013】
本発明の一態様に係る放射性物質の標識方法は、上記の発明において、前記金属捕捉剤は、金属配位部または金属イオン配位部を有するキレート剤であることを特徴とする。
【0014】
本発明の一態様に係る放射性物質の標識方法は、上記の発明において、前記タンパク質は極性アミノ酸側鎖または高次構造を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る放射性物質の標識方法によれば、放射性物質が非キレートタンパク質に非特異的に吸着することを抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明者が見出した課題を説明するための、タンパク質に対してキレート化処理をしていない場合のキレート導入数の質量分析結果を示すグラフである。
【
図2】
図2は、本発明者が見出した課題を説明するための、タンパク質に対してキレート化処理を行った場合のキレート導入数の質量分析結果を示すグラフである。
【
図3】
図3は、キレート化処理によって得られるキレート抗体および非キレート抗体を示す図である。
【
図4】
図4は、本発明者が見出した非キレート抗体への非特異的吸着の機構を説明するための図である。
【
図5】
図5は、従来技術による標識方法によって生じる本発明者が見出した課題を説明するための図である。
【
図6】
図6は、本発明の一実施形態において用いられる、抗体への標識状況を示すTLC測定法を説明するための放射能強度の測定結果の例を示す図である。
【
図7】
図7は、3種類の非キレート抗体への放射性物質の標識直後の標識状況を示すTLC測定法による放射能強度の測定結果のグラフである。
【
図8】
図8は、3種類の非キレート抗体への放射性物質の脱塩後の標識状況を示すTLC測定法による放射能強度の測定結果のグラフである。
【
図9】
図9は、本発明の一実施形態による標識方法を説明するための図である。
【
図10】
図10は、非キレート抗体に対して、金属捕捉剤としてEDTAを導入して放射性物質の標識を行った場合における標識直後の標識状況を、EDTAの添加量ごとに示すTLC測定法による放射能強度の測定結果のグラフである。
【
図11】
図11は、非キレート抗体に対して、金属捕捉剤としてEDTAを導入して放射性物質の標識を行った場合における精製後の標識状況を、EDTAの添加量ごとに示すTLC測定法による放射能強度の測定結果のグラフである。
【
図12】
図12は、非キレート抗体に対して、金属捕捉剤としてDTPAを導入して放射性物質の標識を行った場合における標識直後の標識状況を、DTPAの添加量ごとに示すTLC測定法による放射能強度の測定結果のグラフである。
【
図13】
図13は、非キレート抗体に対して、金属捕捉剤としてDTPAを導入して放射性物質の標識を行った場合における精製後の標識状況を、DTPAの添加量ごとに示すTLC測定法による放射能強度の測定結果のグラフである。
【
図14】
図14は、キレート化処理を行った抗体に対して、金属捕捉剤としてEDTAを導入して放射性物質の標識を行った場合における標識直後の標識状況を、EDTAの添加量ごとに示すTLC測定法による放射能強度の測定結果のグラフである。
【
図15】
図15は、キレート化処理を行った抗体に対して、金属捕捉剤としてEDTAを導入して放射性物質の標識を行った場合における精製後の標識状況を、EDTAの添加量ごとに示すTLC測定法による放射能強度の測定結果のグラフである。
【
図16】
図16は、キレート化処理を行った抗体に対して、金属捕捉剤としてDTPAを導入して放射性物質の標識を行った場合における標識直後の標識状況を、DTPAの添加量ごとに示すTLC測定法による放射能強度の測定結果のグラフである。
【
図17】
図17は、キレート化処理を行った抗体に対して、金属捕捉剤としてDTPAを導入して放射性物質の標識を行った場合における精製後の標識状況を、DTPAの添加量ごとに示すTLC測定法による放射能強度の測定結果のグラフである。
【
図18】
図18は、本発明の一実施形態によるキレート化処理方法の具体的な方法の一例を説明するための図である。
【
図19】
図19は、本発明の一実施形態による放射性物質をキレート抗体に標識させるための放射性物質の標識方法の具体的な一例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。また、本発明は以下に説明する一実施形態によって限定されるものではない。まず、本発明の一実施形態を説明するにあたり、本発明者が見出した課題を解決するために行った実験および鋭意検討について説明する。
【0018】
すなわち、本発明者は、上述した特許文献1,2に記載された技術について検討を行った。例えば、特許文献1には、金属阻害剤はキレート化された抗体(以下、キレート抗体)と化学的に結合してよい、と記載されている。しかしながら、抗体可変部への金属阻害剤の結合は、抗体の活性低下を引き起こす可能性があるため、回避する必要がある。また、例えば、特許文献2においては、精製カラムの第二層として、ゲルろ過カラムによる精製、すなわち分子サイズによって分離する技術を提案している。しかしながら、この精製工程によって溶液が希釈されて抗体濃度が低下するという問題が生じる。抗体濃度の低下に対しては、必要濃度に増加するまで溶液を濃縮する濃縮工程が別途必要になるため、精製作業の手間やコストが増加するという問題が生じる。
【0019】
ここで、従来技術によって分子サイズによる分離と濃縮とを並行して実行可能な遠心分離による精製が可能であったとしても、本発明者が行った実験によれば、キレート樹脂による精製に関して、例えばEDTAを含む溶媒を用いて遠心分離による精製を行った場合に、偶発的な結合が残存することが確認された。この実験によって本発明者は、キレート樹脂による精製では除去できない放射性核種が存在する可能性を見出した。
【0020】
本発明者の知見に基づく既往の研究から、タンパク質である抗体にキレート剤を導入する際の反応条件によってキレート導入数が変化することが知られる。本発明者は、任意の抗体をモデル物質としてキレート導入の反応条件について検討を行った。すなわち、まず、抗体リシン側鎖へ導入する汎用的な方法によってキレート化処理を行って、キレート抗体を合成した。この反応を以下の反応式(1)に示す。
【0021】
【0022】
本発明者は、キレート導入の反応条件を評価するために、抗体に対してキレート化処理をしていないサンプルと、キレート化処理を行ったサンプルの質量分析を行い、キレート導入数の推定を行った。
図1および
図2はそれぞれ、本実施形態による課題を説明するための、抗体に対してキレート化処理をしていない場合およびキレート化処理を行った場合の質量分析結果を示すグラフである。
図1に示すように、抗体にキレート化処理を行っていない、いわゆる非キレート抗体においては、質量分析によって、非キレート抗体の質量数に由来して単峰のピークが表出する。
【0023】
本発明者は、
図18に示す方法に基づいて、抗体に対してキレート化処理を行ったサンプルの質量分析を行い、
図1の質量分析結果と比較したところ、
図2に示すように、キレート剤が導入されていないことを示す非キレート抗体のピークが存在していることが確認された。すなわち、1つの抗体に結合されるキレート剤の分子の個数(以下、キレート導入数)を推定するため質量分析を行った。また、
図2から、キレート導入数が1抗体当たり例えば約0.42個となって、1個を下回る場合がある一方、抗体にキレート分子が2個結合したことに由来するピークが存在しないことが確認された。なお、キレート導入数は以下の(5)式により導出可能である。また、
図3は、キレート化処理によって得られるキレート抗体および非キレート抗体を示す図である。
キレート導入数(平均標識数)
=Σ{(標識数nのピーク強度)×n}/Σ(標識数nのピーク強度)…(5)
【0024】
質量分析によって非キレート抗体のピークが表出した場合は、キレート抗体と非キレート抗体とが混在していることになる。この質量分析結果に基づいて本発明者は、キレート抗体の生成においては、キレート剤の分子が結合されて、キレートが導入された抗体(以下、キレート抗体)(標識数1)と、キレート剤の分子が結合されずに、キレートが導入されていない抗体(非キレート抗体)(標識数0)とが混在することを発見した。すなわち、
図2に示す質量分析結果は、キレート抗体と非キレート抗体とが混在している状態を示す質量分析の結果である。換言すると、
図2に示す質量分析結果から、抗体にキレート化処理を行っても、
図3に示すようにキレート化されていない非キレート抗体が残存して、キレート抗体と混在していることを実験的に知見した。
【0025】
また、診断薬として使用するためには、抗体にキレート剤を導入する場合、キレート導入数の増加に伴う抗体活性の低下を考慮する必要がある。抗体活性の低下は、抗原への結合位置(
図3中、抗原結合部位)である抗体可変部付近に導入されたキレート剤によって、抗原への結合が阻害されることに起因する。そこで、抗体活性を低下させないために、キレート剤の添加量を低減したり、特異的標識を行ったりする方法が考えられる。ここで、特異的標識においては、抗体可変部付近へのキレート剤の結合を回避できる一方、キレート導入数を多くすることが困難になる。すなわち、添加量の低減や特異的標識を行うと、抗体がキレート化しにくくなるため、非キレート抗体の存在量が多くなり、キレート導入数が1未満になる可能性が増加する。上述したように、キレート導入数が1未満になる状態とは、
図3に示すように、キレート化処理を行った後においても、キレート抗体と非キレート抗体とが混在した状態のことである。
【0026】
しかしながら、非キレート抗体とキレート抗体の分子量の差はわずかであるため、キレート抗体と非キレート抗体との両者を分離することは極めて困難である。そのため、キレート抗体と非キレート抗体とが混在した状態で、例えば反応式(2)に示す標識反応によって、放射性物質をキレート抗体に標識させることになる。なお、反応式(2)は、放射性物質(放射性元素)として、例えばジルコニウム(以下、Zrまたは89Zrともいう)を採用した例を示す。また、キレート抗体と非キレート抗体とを、抗体アフィニティによって分離する方法も考えられるが、回収する際に溶液を酸性にするため、抗体活性を下げる可能性がある。
【0027】
【0028】
キレート化処理を行った抗体を含む溶液に放射性物質を導入すると、例えば反応式(2)に示すようにして、標識反応が生じる。ここで、非キレート抗体にはキレートが存在しないため、本来であれば、例えば
89Zrなどの放射性物質は非キレート抗体に結合しないはずである。しかしながら、本発明者が検討を行ったところ、非特異的に吸着する
89Zrが存在することを確認した。非特異的吸着が起こる理由として、数千個のアミノ酸からなる抗体表面の側鎖に非特異的に放射性物質が吸着、または抗体の高次構造に取り込まれた可能性があると考える。
図4は、本発明者が非キレート抗体への非特異的吸着の機構を説明するための図である。すなわち、抗体を含むタンパク質への放射性物質の非特異的吸着の発生機構を示す。
【0029】
例えば10
5Daオーダの分子量を有する抗体の表面に、極性アミノ酸側鎖が存在すると、
図4に示すように、例えば
89Zrなどの放射性物質は、アミノ酸側鎖(
図4においては、アスパラギン酸の側鎖)に非特異的に吸着する可能性がある。ここで、極性アミノ酸側鎖を構成するアミノ酸としては、例えば、グリシン(-H)、アラニン(-CH
3)、アスパラギン酸(-CH
2-COOH)、グルタミン酸(-(CH
2)
2-COOH)、およびリシン(-(CH
2)
4-NH
2)などが挙げられる。なお、括弧内は側鎖の構造を示す。
【0030】
図5は、従来技術による標識方法によって生じる本発明者が見出した課題を説明するための図である。
図5に示すように、抗体に対してキレート化処理を行うと、キレート抗体と非キレート抗体とが混在した状態になる。キレート抗体と非キレート抗体とが混在した状態において放射性物質を標識させると、放射性物質10がキレート分子11に捕捉されて、キレート抗体に標識されるとともに、非キレート抗体の表面に放射性物質が非特異的吸着する。抗体の表面への放射性物質の非特異的吸着は、放射性物質が抗体表面に不安定に付着した状態である。本発明者の知見によれば、抗体に非特異的に吸着した放射性物質(以下、非特異的吸着物質)は、キレート分子に配位した放射性物質よりも不安定である。そのため、非特異的吸着物質は、徐々に抗体から脱離する可能性が考えられる。抗体から放射性物質が脱離すると、医用イメージングなどにおける腫瘍の可視化の阻害や、腫瘍外組織への集積による不要な被ばくの問題が生じる。
【0031】
ここで、本発明者は、非キレート抗体への放射性物質の標識実験を行った。具体的に本発明者は、薄層クロマトグラフィ測定法(TLC測定法)によって放射能強度を測定した。本実施形態において採用するTLC測定法の条件は、具体的に、TLCペーパー(TLCプレート)として、iTLC-SG用紙(アジレント・テクノロジー社製)、展開液として濃度が例えば50mmol/Lのリン酸緩衝塩溶液(PBS;pH7.0)を用い、スポット液量を5μLとした。本実施形態によるTLC測定法においては、TLCペーパーの所定位置(溶液スポット位置)に、抗体に対して放射性物質として例えば89Zrを反応させた溶液を滴下して展開させた後、TLCペーパーに対して展開方向に沿って放射能強度を測定した。
【0032】
図6は、本実施形態において用いられる、抗体への標識状況を示すTLC測定法を説明するための放射能強度の測定結果の例を示す図である。
図6に示す例では、抗体に結合した放射性物質は溶液スポット位置の近傍に展開され、抗体に結合していない放射性物質は展開終了位置の近くに展開される。すなわち、本実施形態によるTLC測定法においては、放射性物質が結合した抗体が多い場合には溶液スポット位置の近傍にピークが存在することになる。
【0033】
次に、従来公知の放射性物質の標識方法によって、キレート化処理を行っていない非キレート抗体に放射性物質を標識させて、上述したTLC測定法により、放射能強度を測定した。
図7および
図8はそれぞれ、3種類の非キレート抗体への放射性物質の標識直後および脱塩後の標識状況を示す、TLC測定法による放射能強度の測定結果のグラフである。
図7に示す非キレート抗体A,B,Cはそれぞれ、抗体Aがパニツムマブ、抗体Bがトラスツズマブ、抗体Cがセツキシマブである。
【0034】
図7から、溶液スポット位置に留まる抗体と同じ位置に放射能が確認されたことより、非特異的吸着物質が存在することが確認され、非キレート抗体へ放射性物質が非特異的に吸着することが分かる。また、
図8から、非キレート抗体への非特異的吸着は、汎用される緩衝溶液、具体的に例えば濃度が0.5MのHEPESによって入念に洗浄しても残存し、精製しても放射性物質が非キレート抗体に残存することが分かる。すなわち、
図7および
図8から、非キレート抗体に放射性物質を標識させた場合、標識反応後や入念に精製した場合であっても、非キレート抗体に放射性物質が非特異的に吸着することが確認された。以上のように、本発明者は、非キレート抗体に放射性物質が標識されることを発見して、キレート抗体と非キレート抗体とが混在した状態において、放射性物質の標識を行うと、非キレート抗体に放射性物質が非特異的に吸着する可能性がある課題を見出した。
【0035】
以上の課題の発見に伴って、本発明者は、非キレート抗体への放射性物質の非特異的吸着を抑制する方法について、種々鋭意検討を行った。本発明者は鋭意検討の結果、キレート抗体に放射性物質を標識する際の反応溶媒に金属捕捉剤を添加する方法を案出した。なお、金属捕捉剤は、金属捕獲剤やメタルスカベンジャーとも称される。
図9は、本実施形態によるキレート化処理および放射性物質の標識方法を説明するための図である。
図9に示すように、抗体をキレート化処理した場合に、キレート抗体と非キレート抗体とが混在した場合であっても、標識反応において金属捕捉剤を添加することにより、放射性物質の非キレート抗体への吸着を抑制して、非特異的吸着を抑制する。
【0036】
また、金属捕捉剤の生体に与える影響を抑制するとともに、放射能収率を維持するためには、金属捕捉剤の添加量は可能な限り少量が望ましい。そこで、本発明者は、非キレート抗体を用いて、金属捕捉剤を、抗体の0.1mol倍、1mol倍、10mol倍、100mol倍、1000mol倍と変えて、非キレート抗体に対する放射性物質の非特異的吸着を測定した。ここで、金属捕捉剤としては、以下の化学式(3)に示すエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、および以下の化学式(4)に示すジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)を採用した。
【0037】
【0038】
図10および
図11はそれぞれ、非キレート抗体に対して、金属捕捉剤としてEDTAを導入して放射性物質の標識を行った場合における、標識直後および精製後の標識状況を、EDTAの添加量ごとに示すTLC測定法による放射能強度の測定結果のグラフである。
図12および
図13は、非キレート抗体に対して、金属捕捉剤としてDTPAを導入して放射性物質の標識を行った場合における標識直後および精製後の標識状況を、DTPAの添加量ごとに示すTLC測定法による放射能強度の測定結果のグラフである。
【0039】
図10および
図12から、非キレート抗体に放射性物質を標識させた後においては、金属捕捉剤の添加量が増加するのに従って、抗体に吸着しない放射性物質が増加することが確認された。また、
図10および
図12と
図7とを比較すると、金属捕捉剤の添加量を1mol倍以上とすれば、標識後において金属捕捉剤による非特異的吸着が抑制されていることが分かる。さらに、
図11および
図13から、非キレート抗体に放射性物質を標識させた後に脱塩によって精製した後においては、金属捕捉剤の添加量を100mol倍以上にすることにより、非キレート抗体に対する放射性物質の非特異的吸着を抑制できることが分かる。すなわち、金属捕捉剤の添加量を抗体の1mol倍以上、好適には100mol倍以上とすることにより、非特異的吸着を抑制できることが確認された。そのため、金属捕捉剤の添加量は、抗体の1mol倍以上、好適には100mol倍以上である。
【0040】
本発明者はさらに、キレート抗体への放射性物質の標識反応において金属捕捉剤の添加量について検討を行った。本発明者は、キレート化処理が行われた溶液を用いて、金属捕捉剤を、抗体の0.1mol倍、1mol倍、10mol倍、100mol倍、1000mol倍と変えて、キレート抗体に対する放射性物質の非特異的吸着を測定した。
図14および
図15はそれぞれ、キレート化処理を行った抗体に対して、金属捕捉剤としてEDTAを導入して放射性物質の標識を行った場合における標識直後および精製後の標識状況を、EDTAの添加量ごとに示すTLC測定法による放射能強度の測定結果のグラフである。
図16および
図17はそれぞれ、キレート化処理を行った抗体に対して、金属捕捉剤としてDTPAを導入して放射性物質の標識を行った場合における標識直後および精製後の標識状況を、DTPAの添加量ごとに示すTLC測定法による放射能強度の測定結果のグラフである。
【0041】
図14および
図16から、金属捕捉剤の添加量を100mol倍からさらに増加させるのに伴って、標識後に抗体に結合していない放射性物質が増加することが確認された。すなわち、
図14および
図16に示す標識反応後のTLC測定法による測定結果から、反応溶媒中に金属捕捉剤が存在しても放射性物質の抗体への標識は行われるが、金属捕捉剤の増加に伴って抗体に結合しない放射性物質の存在が認識されることが分かる。すなわち、標識反応において、金属捕捉剤を過剰に添加すると、放射性物質のキレート抗体への標識が阻害されることが分かる。特に、
図14および
図16における1000mol倍の項目から、金属捕捉剤の添加量を抗体に対して1000mol倍以上にすると、全ての放射性物質が抗体に結合しない状態であることが分かる。また、同様に
図15および
図17から、標識反応を行った後に精製した場合においても、金蔵捕捉剤の添加量を抗体の1000mol倍以上にすると、抗体に結合する放射性物質が確認されないことが分かる。
【0042】
以上のようにして本発明者は、放射性物質のキレート抗体への非特異的吸着を抑制するためには、金属捕捉剤を添加することが好ましいことを見出した。さらに本発明者は、放射性物質の抗体などのタンパク質への標識を好適に行う場合には、金属捕捉剤の添加量を抗体の1mol倍以上、好適には、100mol倍以上が好ましく、所望とするキレート抗体への標識を考慮すると、1000mol倍未満が好ましいことを見出した。
【0043】
以上の検討から、キレート抗体と放射性物質との反応溶媒中に金属捕捉剤を添加することにより、非キレート抗体やキレート抗体への不安定な非特異的吸着を抑制可能であることが分かる。これにより、放射性物質を医用イメージングなどに用いる場合に、放射性物質が標識された薬剤を投与された患者の生体内において、放射性物質の脱離を抑制でき、患者の被ばくを抑制できる。また、金属捕捉剤は、官能基を有さないため、例えば、特許文献1に記載されたような抗体との結合による活性低下をそもそも発生しないという効果も奏する。
【0044】
実験では抗体を対象にしたが、上述した抗体への放射性物質の非特異的吸着は、抗体における極性アミノ酸側鎖の存在やタンパク質の複雑な高次構造に起因していることから、極性アミノ酸側鎖や高次構造を有するタンパク質であれば、同様の課題が存在し、本実施形態と同様にして解決可能である。そのため、本実施形態による放射性物質の標識方法、すなわち非特異的吸着の抑制方法については、アミノ酸側鎖を有する種々のタンパク質に対して汎用的に適用可能である。さらに、上述した放射性物質のタンパク質への非特異的吸着の発生機構は、アミノ酸側鎖を有するタンパク質を標識可能な放射性物質であれば、同様の機構に基づいて発生することから、本実施形態による放射性物質の標識方法である非特異的吸着の抑制方法は、イオン化可能なあらゆる放射性物質に汎用的に適用可能である。
【0045】
(金属捕捉剤)
ここで、金属元素を捕捉可能な金属捕捉剤としては、以下の表1、表2、および表3に示す各種の金属捕捉剤を用いることが可能である。金属捕捉剤としては、上述した非特異的吸着の発生要因に基づくと、金属配位部や金属イオン配位部を有する化合物であれば種々の化合物が有効に採用可能である。また、官能基を備えた誘導体も含まれる。これらの金属捕捉剤として代表的には、上述した(3)式に示すEDTA(エチレンジアミン四酢酸)や(4)式に示すDTPA(ジエチレントリアミン五酢酸)、CDTA(シクロヘキサンジアミン四酢酸)、DFO(デフェロキサミン)、DOTA(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-テトラ酢酸)、またはNOTA(1,4,7-トリアザシクロノナン-1,4,7-トリ酢酸)などが用いられ、例えば、p-SCN-Bn-EDTAなどのEDTA誘導体、p-SCN-Bn-DTPAなどのDTPA誘導体、p-SCN-Bn-DFOなどのDFO誘導体、DOTA-GAなどのDOTA誘導体、またはTACNやTETAなどのNOTA誘導体なども用いることができる。
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
(タンパク質)
また、本明細書においてタンパク質は、ペプチド、ポリペプチド、抗体、抗体断片、核酸、アプタマー、およびヌクレオチドを含む物質である。また、本実施形態において使用されるタンパクの分子量としては、103Da以上であれば良く、典型的には105Da以上、好適には1.4×105kDa以上である。すなわち、放射性物質(放射性元素)の非特異的吸着における吸着とは、担持、導入、または修飾などの意味を含むものである。そのため、タンパクの分子量が105Daオーダである場合には、本発明による非特異的吸着を抑制する効果をより一層奏するものと考えられる。
【0050】
(抗体)
そのため、タンパク質の一種である抗体としては、アクトクスマブ、アダリムマブ、アテゾリズマブ、アデュカヌマブ、アニフロルマブ、アバゴボマブ、アビツズマブ、アベルマブ、アマツキシマブ、アスクリンバクマブ、アレムツズマブ、アリロクマブ、アンルキンズマブ、イクセキズマブ、イクルクマブ、イサツキシマブ、イトリズマブ、イノツズマブ、イピリムマブ、イブリモツマブ、イムガツズマブ、インテツムマブ、インフリキシマブ、ウステキヌマブ、ウブリツキシマブ、エクリズマブ、エトロリズマブ、エナバツズマブ、エノブリツズマブ、エタラシズマブ、エビナクマブ、エボロクマブ、エルデルマブ、エロツズマブ、エンフォルツマブ、オクレリズマブ、オカラツズマブ、オキセルマブ、オクレリズマブ、オザネズマブ、オテリキシズマブ、オピシヌマブ、オビヌツズマブ、オファツムマブ、オマリズマブ、オララツマブ、カツマクソマブ、カナキヌマブ、ガニツマブ、カルルマブ、カンツズマブ、ガンテネルマブ、ギレンツキシマブ、キリズマブ、グセルクマブ、クラザキズマブ、クレネズマブ、ゲボキズマブ、ゲムツズマブ、コナツムマブ、ゴミリキシマブ、ゴリムマブ、コンシズマブ、サリルマブ、ザルツムマブ、シクスツムマブ、ジヌツキシマブ、シファリムマブ、シムツズマブ、シルクマブ、スパルタリズマブ、セクキヌマブ、セツキシマブ、セビルマブ、セリバンツマブ、ソフィツズマブ、ダクリズマブ、ダセツズマブ、タバルマブ、ダラツムマブ、タリズマブ、チルドラキズマブ、ツコツズマブ、デニンツズマブ、デノスマブ、テフィバズマブ、テプリズマブ、テプロツムマブ、デムシズマブ、デュピルマブ、デュルバルマブ、デュシジツマブ、トシツモマブ、トシリズマブ、ドロジツマブ、トラスツズマブ、トラロキヌマブ、トレメリムマブ、トレボグルマブ、ナタリズマブ、ニボルマブ、ニモツズマブ、ネシツムマブ、ネスバクマブ、ネモリズマブ、バシリキシマブ、パテクリズマブ、パトリツマブ、パニツムマブ、バヌシズマブ、パリビズマブ、バンチクツマブ、ピジリズマブ、ビマグルマブ、ビメキズマブ、ファシヌマブ、フィクラツズマブ、フェザキヌマブ、フランボツマブ、フレソリムマブ、ブレンツキシマブ、ブリアキヌマブ、フルラヌマブ、ブロンチクツシズマブ、ベドリズマブ、ペキセリズマブ、ペムブロリズマブ、ベリムマブ、ペルツズマブ、ベンラリズマブ、ポラツズマブ、マパツムマブ、マブリリムマブ、マルゲツキシマブ、ミラツズマブ、メポリズマブ、モガムリズマブ、モタビズマブ、ベズロトクスマブ、ベドリズマブ、ベバシズマブ、ペムブロリズマブ、ベンラリズマブ、ビマグルマブ、ビメキズマブ、ブロソズマブ、ブレンツシキマブ、ラブリズマブ、ラムシルマブ、リゲリズマブ、リツキシマブ、リリルマブ、リロツムマブ、ルプリズマブ、ルミリキシマブ、ルムレツズマブ、レファネズマブ、レブリキズマブ、レンジルマブ、ロキベトマブ、ロバツムマブ、ロモソズマブ、およびロンタリズマブからなる群より選ばれた抗体を採用できる。
【0051】
また、以下に挙げる抗体のうちの、分子量が105Daオーダの抗体を採用することも可能である。すなわち、抗体としては、アブリルマブ、アデカツムマブ、アフェリモマブ、アフリズマブ、アルツモマブ・ペンテテート、アマツキシマブ、アナツモマブ・マフェナトクス、アネツマブ・ラブタンシン、アポリズマブ、アルシツモマブ、アチヌマブ、アセリズマブ、、ビシロマブ、、ビバツズマブ・メルタンシン、ピンツモマブ、ノフェツモマブ、セデリズマブ、シタツズマブ、クレノリキシマブ、クリバツズマブ・テトラキセタン、コドリツズマブ、コルツキシマブ、ダロツズマブ、ダピロリズマブ・ペゴル、デクトレクマブ、デルロツキシマブ・ビオチン、デツモマブ、ジリダブマブ、ドルリモマブ・アリトクス、デュリゴツマブ、エクロメキシマブ、エドバコマブ、エドレコロマブ、エファリズマブ、エフングマブ、エルゲムツマブ、エルシリモマブ、エマクツズマブ、エミベツズマブ、エンリモマブ・ペゴル、エノキズマブ、エノチクマブ、エンシツキシマブ、エピツモマブ、エプラツズマブ、エルツマクソマブ、エタネルセプト、エクスビビルマブ、ファノレソマブ、ファーレツズマブ、フェルビズマブ、フィジツムマブ、フィリブマブ、フレチクマブ、フォラルマブ、フォラビルマブ、フツキシマブ、ガリキシマブ、ガビリモマブ、イゴボマブ、イマルマブ、イムシロマブ、インダツキシマブ、インデュサツマブ、イノリモマブ、イラツムマブ、ケリキシマブ、ラベツズマブ、ラムブロリズマブ、レマレソマブ、レルデリムマブ、レキサツムマブ、リビビルマブ、リファスツズマブ・ベドチン、リロトマブ・サテトラキセタン、リンツズマブ、ロデルシズマブ、ロルボツズマブ、ルカツムマブ、マスリモマブ、マツズマブ、メテリムマブ、ミンレツモマブ、ミルベツキシマブ、ミツモマブ、モロリムマブ、モキセツモマブ・パスドトクス、ナコロマブ、ナミルマブ、ナプツモマブ、ネバクマブ、ノフェツモマブ、オヅリモマブ、オロキズマブ、オンツキシズマブ、オポルツズマブ、オレゴボマブ、オルチクマブ、オトレルツズマブ、パギバキシマブ、パンコマブ、パノバクマブ、パルサツズマブ、パスコリズマブ、パソツキシズマブ、ペムツモマブ、ピナツズマブ・ベドチン、ピンツモマブ、プリリキシマブ、プリトキサキシマブ、プリツムマブ、ラドレツマブ、ラルパンシズマブ、レスリズマブ、リヌクマブ、ロベリズマブ、サツモマブ、セトキサキシマブ、シブロツズマブ、パギバキシマブ、パンコマブ、パノバクマブ、パルサツズマブ、パスコリズマブ、パソツキシズマブ、ペムツモマブ、ピナツズマブ・ベドチン、ピンツモマブ、プリリキシマブ、プリトキサキシマブ、プリツムマブ、ラドレツマブ、ラルパンシズマブ、レスリズマブ、リヌクマブ、ロベリズマブ、サツモマブ、セトキサキシマブ、シブロツズマブ、ソラネズマブ、ソリトマブ、ソネプシズマブ、ソンツズマブ、スタムルマブ、スレソマブ、スビズマブ、タカツズマブ・テトラキセタン、タネズマブ、タプリツモマブ・パプトクス、タレクスツマブ、テリモマブ、テナツモマブ、テネリキシマブ、テシドルマブ、テツロマブ、チガツズマブ、トラリズマブ、トベツマブ、ツコツズマブ、ツビルマブ、ウレルマブ、ウルトキサズマブ、バンドルツズマブ、バルリルマブ、バルリルマブ、バテリズマブ、ベセンクマブ、ビジリズマブ、ボロシキシマブ、ザノリムマブ、ザツキシマブ、およびジラリムマブから、分子量に基づいて選ばれた抗体を採用できる。
【0052】
(放射性核種)
また、上述した一実施形態による放射性物質として採用可能な放射性核種を、周期表順に以下に示す。なお、例えば「89Zr」は、「Zr-89」などと表記する。すなわち、放射性核種としては、Sc-44、Sc-46、Sc-47、Sc-48、Sc-49、Cr-51、Mn-51、Mn-52m、Mn-52、Mn-54、Fe-52、Fe-55、Co-55、Co-56、Co-58、Ni-57、Cu-60、Cu-62、Cu-64、Cu-67、Cu-68、Zn-62、Zn-63、Zn-65、Ga-66、Ga-67、Ga-68、Ga-72、Ga-73、As-71、As-72、Se-73、Rb-82、Sr-83、Sr-89、Y-86、Y-90、Zr-89、Mo-99、Tc-94m、Tc-99m、Rh-101m、Rh-105、Pd-103、Pd-106、In-111、In-113m、In-114、Cs-129、Cs-137、Pr-239、Pm-149、Sm-153、Tb-149、Tb-152、Tb-161、Ho-166、Yb-169、Lu-177、Re-186、Re-188、Re-189、Ir-192、Au-198、Tl-201、Bi-207、Bi-211、Bi-212、Bi-213、Ra-212、Ra-223、Ra-224、Ra-226、Ac-225、Ac-227、Th-227、Th-229などを採用することができる。
【0053】
(放射性物質の標識方法)
次に、本実施形態による放射性物質の標識方法について説明する。
図18は、本実施形態によるキレート化処理方法の具体的な方法の一例を説明するための図である。
図19は、本実施形態による放射性物質をキレート抗体に標識させるための放射性物質の標識方法の具体的な一例を説明するための図である。
【0054】
図18に示すように、本実施形態によるキレート化処理においては、例えばマイクロチューブなどを用いて、ペプチドや抗体などのタンパク質などに、例えば反応式(1)などに従って、キレート剤を反応させる。すなわち、マイクロチューブに、タンパク質としての抗体とキレート化用緩衝溶液とを導入する。ここで、タンパク質の濃度としての抗体の濃度は例えば1mg/mLである。なお、キレート化用緩衝溶液としては例えば、温度が37℃、pHが9.0~9.6程度のアルカリ溶液として、濃度が0.1mol/Lの炭酸水素ナトリウム(NaHCO
3)水溶液を用いる。その後、溶媒置換を行った後、キレート剤を含むキレート溶液をマイクロチューブに導入する。続いて、抗体およびキレート剤が導入されたマイクロチューブにおいて、抗体のインキュベーションを行う。その後、マイクロチューブに、放射性物質の標識用の緩衝溶媒として、pHが7程度の中性緩衝溶液を導入する。中性緩衝溶液としては例えば、濃度が0.5mol/LのHEPES(4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid)が用いられるが、限定されない。その後、精製処理を行うことにより、反応溶液中に抗体にキレート分子が結合したキレート抗体が生成される。なお、上述したように、反応溶液においてはキレート分子が結合していない非キレート抗体も含まれている。
【0055】
次に、
図19に示すように、キレート抗体を含む溶液と、放射性物質の標識用緩衝溶液と、放射性物質の精製溶液と、金属捕捉剤とを導入する。なお、これらの導入順は限定されない。また、キレート抗体と放射性物質と金属捕捉剤とのモル比率は例えば、キレート抗体:放射性物質:金属捕捉剤=1000:1:抗体の1.0mol倍以上1000mol倍未満とする。すなわち、金属捕捉剤の添加量は、抗体のモル数の1.0mol倍以上1000mol倍未満とする。ここで、抗体の濃度は例えば1mg/mLであり、放射性物質の標識用緩衝溶媒としては、pHが7程度、温度が20℃程度、濃度が0.5mol/LのHEPESが用いられるが、限定されない。これにより、マイクロチューブ内において、キレート抗体と放射性物質を含む溶液とが混合されて、上述した反応式(2)に示すように、放射性物質をキレート抗体に標識させる反応(標識反応)が行われる。
【0056】
その後、マイクロチューブ内において反応溶液をインキュベーションさせた後、TLC測定法によって、標識後のTLC測定による放射能強度の測定を行う。これにより、
図7に示すような放射能強度の分布が得られる。次に、マイクロチューブに精製用の緩衝溶液を導入する。精製用の緩衝溶媒としては、pHが7程度、濃度が0.5mol/LのHEPESが用いられるが、限定されない。これにより、放射性物質が標識されたキレート抗体に対して、精製、すなわち脱塩が行われ、最終製品としての放射性物質が標識された抗体が生成される。放射性物質が標識された抗体に対して、TLC測定法によって放射能強度の測定を行うことによって、例えば、
図8に示すような、放射能強度の分布が得られる。
【0057】
以上説明した一実施形態による放射性物質の標識方法によれば、放射性物質を抗体などのタンパクに標識させる場合に、抗体などのタンパク質をキレート化処理した後、キレートタンパクと放射性物質との混合溶液に、金属捕捉剤を追加で添加していることにより、キレートタンパクに対する非特異的吸着を抑制できるので、放射性物質をキレートタンパクやキレート抗体に強固に標識させることができ、タンパクや抗体からの放射性物質の脱離などを抑制することができる。
【0058】
以上、本発明の一実施形態について具体的に説明したが、本発明は、上述の一実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。例えば、上述の一実施形態において挙げた数値や材料はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる数値や材料を用いても良く、本発明は、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述および図面により限定されることはない。
【符号の説明】
【0059】
10 放射性物質
11 キレート分子