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▶ シヤチハタ株式会社の特許一覧

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  • 特開-電波抑制シート 図1
  • 特開-電波抑制シート 図2
  • 特開-電波抑制シート 図3
  • 特開-電波抑制シート 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178549
(43)【公開日】2023-12-18
(54)【発明の名称】電波抑制シート
(51)【国際特許分類】
   H05K 9/00 20060101AFI20231211BHJP
【FI】
H05K9/00 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022091293
(22)【出願日】2022-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】390017891
【氏名又は名称】シヤチハタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078101
【弁理士】
【氏名又は名称】綿貫 達雄
(74)【代理人】
【識別番号】100085523
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 文夫
(74)【代理人】
【識別番号】230117259
【弁護士】
【氏名又は名称】綿貫 敬典
(72)【発明者】
【氏名】石川 宏敏
【テーマコード(参考)】
5E321
【Fターム(参考)】
5E321AA23
5E321BB21
5E321BB25
5E321BB33
5E321BB41
5E321BB57
5E321GG11
(57)【要約】
【課題】1GHz~5GHzの周波数帯のみならず1GHz以下の電波に対しても優れた吸収特性を持ち、しかも難燃性、放熱性、強度のある電波抑制シートを提供する。
【解決手段】カーボンナノチューブを含有するシリコーンゴムと、金属網とをシート状に一体成型した電波抑制シートである。金属網のメッシュ数が10以上であり、線径が1mm以下であることが好ましく、金属網としてステンレス網を用いることができる。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブを含有するシリコーンゴムと、金属網とをシート状に一体成型した電波抑制シート。
【請求項2】
前記金属網のメッシュ数が10以上であり、線径が1mm以下である請求項1に記載の電波抑制シート。
【請求項3】
前記金属網がステンレス網である請求項1または2に記載の電波抑制シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周波数が1GHz以下の電波に対しても優れた吸収特性を持つ電波抑制シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、無線LAN等に代表されるマイクロ波を利用した電子機器が広く普及しており、これらの電子機器から放射される電波が他の電子機器にノイズを発生させたり、人体に影響を及ぼすおそれがあることが問題とされている。そこで従来から、電子機器に貼り付けて用いる電波抑制シートの研究が行われている。本発明者は、カーボンナノチューブが電波抑制機能を持つことに着目し、シリコーンゴムに15~30質量%のカーボンナノチューブを配合した材質の電波抑制シートを先に開発し、特許文献1として特許取得済みである。
【0003】
この電波抑制シートは、特許文献1に記載の通り周波数が1GHz~5GHzの電波を抑制する効果を持つ。しかし周波数が1GHz以下の電波については、電波抑制効果が低いという問題があった。なお、電波抑制効果を高めるためにカーボンナノチューブの配合率を高めることが考えられるが、このシートはゴムを母材としているために元々難燃性が低く、カーボンナノチューブを増量すると可燃性が更に高まり、電子機器の内部等の難燃性を要求される部位に使用できなくなるという問題があった。
【0004】
また特許文献2には、ポリ塩化ビニル等の熱可塑性樹脂に鉄ニッケル合金等の粉末を配合した絶縁性軟磁性体層を、金網と一体化した電波干渉抑制体が開示されている。特許文献2の実施例には、周波数が1GHz以下の電波に対して電波抑制効果があることが示されている。しかし周波数が1GHzを越える電波についての抑制効果についての記載はなく、難燃性についての記載もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5720358号公報
【特許文献2】特開平7-212079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って本発明の目的は上記した従来の問題点を解決し、1GHz~5GHzの周波数帯のみならず1GHz以下の電波に対しても優れた吸収特性を持ち、しかも難燃性のある電波抑制シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するためになされた本発明の電波抑制シートは、カーボンナノチューブを含有するシリコーンゴムと、金属網とをシート状に一体成型したことを特徴とするものである。
【0008】
なお、前記金属網のメッシュ数が10以上であり、線径が1mm以下であることが好ましい。また、前記金属網がステンレス網であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、1GHz~5GHzの周波数帯のみならず1GHz以下の電波に対しても優れた吸収特性を持ち、しかも難燃性の電波抑制シートを提供することができる。また本発明の電波抑制シートは、柔軟性と強度を併せ持つ利点があるため、各種の電子機器に適用し易い利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例で用いた第1シートの伝送減衰率を示すグラフである。
図2】実施例で用いた第2シートの伝送減衰率を示すグラフである。
図3】実施例で用いた第3シートの伝送減衰率を示すグラフである。
図4】実施例で用いた第4シートの伝送減衰率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施形態を説明する。
カーボンナノチューブ(CNT)は、炭素原子だけで構成された直径が0.4~200nmの円筒状のナノ炭素材料である。その化学構造は、グラファイト層を丸めてつなぎ合わせたものとして表される。カーボンナノチューブが電波遮断機能を持つことは従来から知られており、カーボンナノチューブをセメント中に配合した電波遮断壁や、樹脂中に配合した電波遮断材なども研究されている。
【0012】
しかし本発明では、シートを形成する母材としてシリコーンゴムを選択し、カーボンナノチューブの粉末を配合した。シリコーンゴムを選択したのは、薄いフィルム状に成形し易いことと、他のゴムと比べてカーボンナノチューブとの相性がよく、カーボンナノチューブを均一に分散させ易いためである。
【0013】
シリコーンゴムへのカーボンナノチューブの配合率は、5~30質量%とすることが好ましい。カーボンナノチューブの配合率がこの範囲を下回ると電波抑制特性が低下し、逆に配合率がこの範囲を上回ると可燃性が更に高まり、電子機器の内部に用い難くなるとともに、コスト高となるからである。
【0014】
シリコーンゴムにカーボンナノチューブを配合した材料は、前記したとおり周波数が1GHz~5GHzの電波を抑制する効果を持つ。しかし周波数が1GHz以下の電波については、その抑制効果が不十分である。そこで本発明では、カーボンナノチューブを含有するシリコーンゴムと、目の細かい金属網とをシート状に一体成型することにより、この課題を解決した。
【0015】
この金属網としては、メッシュ数が10以上であり、線径が1mm以下のものを用いることが好ましい。メッシュ数は1インチ当たりの目の個数を意味し、10メッシュは目開きが約2mmに相当する。メッシュ数が10未満であったり、線径が1mmを超えると金属網の剛性が高まるため、柔軟性が失われるとともに、電波抑制シートを薄いフィルム状に成形することが難しくなる。
【0016】
シリコーンゴムにカーボンナノチューブを配合した材料と金属網とを一体成型する方法は特に限定されるものではないが、例えば、シリコーンゴムにカーボンナノチューブを配合した材料を予めシート状に成形したうえで、そのシートと金属網とを重ねて金型内でプレス成型する方法を採用することができる。シートの厚みは特に限定されるものではないが、後述する実施例では0.5mm程度である。
【0017】
また金属網の材質も特に限定されるものではないが、強度や耐食性、価格等の観点からステンレス製の金網が最も好ましい。以下に示す実施例では、SUS304の平織メッシュを用いた。その線径は0.12mmであり、80メッシュ(目開き0.198mm、開口率38.7%)、平均厚み0.22mmである。
【0018】
このように、シリコーンゴムにカーボンナノチューブを配合した材料を金属網と一体化することにより、1GHz以下の周波数領域においても特異的に大きな電波抑制効果が発揮される。またシリコーンゴムにカーボンナノチューブを配合した材料を金属網と一体化することにより、難燃性と放熱性(熱放射性・熱伝導性)が高まるうえ、強度を高めることができた。以下に電波抑制特性等を測定した実験データを示す。
【実施例0019】
先ず4種類のシートを作成した。
第1シートは、シリコーンゴムのみから成るブランクシートであり、その厚さは0.5mmである。第2シートは、上記した金属網である。第3シートは、シリコーンゴムに25質量%のカーボンナノチューブを配合したシートであり、特許文献1に記載のシートに相当するものである。第4シートは本発明品であり、第2シートと第3シートを積層し、プレスして一体化させたものである。これらの4種類のシートの熱放射率、熱伝導率、引張強度を測定した結果を表1に示す。また、表1中に、測定結果を×、△、〇、◎の4段階で評価して記入した。CNTはカーボンナノチューブを意味する。
【0020】
【表1】
【0021】
本発明の第4シートは熱放射性と熱伝導率が大きいため、電子機器の内部の発熱部位にも適用することができる。この場合大きな放熱効果を発揮し、近年大きな問題となっている熱対策に極めて有用である。また本発明の第4シートは引張強度が大きいため、引張荷重がかかる用途にも使用することができる。
【0022】
次にこれらの4種類のシートを用い、IEC62333に規定されるマイクロストリップライン法により40MHz~5GHzの周波数域における電波の伝送減衰率を測定した。この方法は、伝送線路を伝わる伝導ノイズが、シートを装着したときにどの程度減衰するかを測定する方法である。4種類のシートの測定結果を、図1図4のグラフに示した。各グラフの横軸は周波数(GHz)、縦軸は伝送減衰率(dB)である。
【0023】
図1はシリコーンゴムのみからなる第1シートのデータであり、伝送減衰効果はほとんど認められない。図2は金属網のみからなる第2シートのデータであり、3~5GHzの周波数域において10dB程度の伝送減衰率が観測されたに留まる。図3は特許文献1の電波抑制シートである第3シートのデータであり、周波数が低くなると伝送減衰率が大きく低下しており、1 GHz以下の周波数域においては15dB以下となっている。図4は本発明のシートのデータである。
【0024】
これらの測定結果から、シリコーンゴムにカーボンナノチューブを配合した第3シートは、1~5GHzの周波数域における電波抑制効果に優れるが、1GHz以下の周波数域における電波抑制効果は不十分であるのに対して、カーボンナノチューブを含有するシリコーンゴムと金属網とを一体成型した本発明の第4シートは、1~5GHzの周波数域のみならず、1GHz以下の周波数域においても優れた電波抑制効果を持つことが確認できた。
【0025】
以上の測定により得られた評価を、表2にまとめた。表2に示したように、本発明の電波抑制シートは電波抑制特性のみならず、難燃性、放熱性、強度についても高く評価されるものである。
【0026】
【表2】
図1
図2
図3
図4