(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178550
(43)【公開日】2023-12-18
(54)【発明の名称】音響処理装置及び音響処理方法
(51)【国際特許分類】
H04R 3/04 20060101AFI20231211BHJP
H04S 7/00 20060101ALI20231211BHJP
【FI】
H04R3/04
H04S7/00 370
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022091294
(22)【出願日】2022-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000001487
【氏名又は名称】フォルシアクラリオン・エレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100078880
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100183760
【弁理士】
【氏名又は名称】山鹿 宗貴
(72)【発明者】
【氏名】桑山 千尋
(72)【発明者】
【氏名】加科 優希
【テーマコード(参考)】
5D162
5D220
【Fターム(参考)】
5D162AA09
5D162BA06
5D162CA11
5D162DA22
5D220AA24
5D220AB02
5D220AB03
5D220AB04
(57)【要約】
【課題】特定の周波数成分を補正するのに適した音響処理装置を提供すること。
【解決手段】音響処理装置は、オーディオ信号から第1の周波数成分を抽出する第1抽出部と、オーディオ信号から第1の周波数成分と異なる第2の周波数成分を抽出する第2抽出部と、第2の周波数成分の振幅レベルが所定の閾値を超えるか否かを判定する振幅レベル判定部と、振幅レベルが所定の閾値を超えると、所定レベル以上の振幅レベルが継続する時間を測定する継続時間測定部と、継続時間測定部により測定された継続時間に応じて、複数種類のフィルタ部のなかから、第2の周波数成分に対して適用するフィルタ部を決定する、適用フィルタ決定部と、適用フィルタ決定部により決定されたフィルタ部を第2の周波数成分に対して適用することによって得た周波数成分と第1の周波数成分とを合成する合成部と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オーディオ信号から第1の周波数成分を抽出する第1抽出部と、
前記オーディオ信号から前記第1の周波数成分と異なる第2の周波数成分を抽出する第2抽出部と、
前記第2の周波数成分の振幅レベルが所定の閾値を超えるか否かを判定する振幅レベル判定部と、
前記振幅レベルが前記所定の閾値を超えると、所定レベル以上の前記振幅レベルが継続する時間を測定する継続時間測定部と、
前記継続時間測定部により測定された継続時間に応じて、複数種類のフィルタ部のなかから、前記第2の周波数成分に対して適用するフィルタ部を決定する、適用フィルタ決定部と、
前記適用フィルタ決定部により決定されたフィルタ部を前記第2の周波数成分に対して適用することによって得た周波数成分と前記第1の周波数成分とを合成する合成部と、を備える、
音響処理装置。
【請求項2】
前記複数種類のフィルタ部は、前記第2の周波数成分のなかで低域となる周波数成分をカットする第1のフィルタ部を含み、
前記適用フィルタ決定部は、前記継続時間が所定時間以上の場合、前記複数種類のフィルタ部のなかから前記第1のフィルタ部を、前記第2の周波数成分に対して適用するフィルタ部として決定する、
請求項1に記載の音響処理装置。
【請求項3】
前記複数種類のフィルタ部は、前記第2の周波数成分のなかで特定の周波数成分を抑圧する第2のフィルタ部を含み、
前記適用フィルタ決定部は、前記継続時間が所定時間未満の場合、前記複数種類のフィルタ部のなかから前記第2のフィルタ部を、前記第2の周波数成分に対して適用するフィルタ部として決定する、
請求項1に記載の音響処理装置。
【請求項4】
前記第2のフィルタ部は、ピーキングフィルタ部であり、
前記ピーキングフィルタ部は、前記第2の周波数成分のなかで振幅がピークとなるピーク周波数を検出し、検出されたピーク周波数を前記ピーキングフィルタ部の中心周波数とする、
請求項3に記載の音響処理装置。
【請求項5】
前記ピーキングフィルタ部は、前記ピーク周波数のピークレベルをもとに、前記中心周波数における抑圧レベルを設定する、
請求項4に記載の音響処理装置。
【請求項6】
オーディオ信号から第1の周波数成分を抽出し、
前記オーディオ信号から前記第1の周波数成分と異なる第2の周波数成分を抽出し、
前記第2の周波数成分の振幅レベルが所定の閾値を超えるか否かを判定し、
前記振幅レベルが前記所定の閾値を超えると、所定レベル以上の前記振幅レベルが継続する時間を測定し、
前記測定された継続時間に応じて、複数種類のフィルタ部のなかから、前記第2の周波数成分に対して適用するフィルタ部を決定し、
前記決定されたフィルタ部を前記第2の周波数成分に対して適用することによって得た周波数成分と前記第1の周波数成分とを合成する、処理を、コンピュータに実行させる、
音響処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響処理装置及び音響処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、録音レベルが高い楽曲を再生すると、低域が聴感上不自然に強い音になったり歪んだりすることがあり、また、収束性の悪いサウンドシステムでは低域の余韻だけが長い間残ってしまいユーザに違和感を与えることがある。
【0003】
このような低域の音質を改善するため、例えばイコライザによりオーディオ信号の周波数特性を補正する技術が用いられることがある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、イコライザを用いた場合、広い周波数帯域に亘って(言い換えると、低域以外の、本来補正したくない周波数帯域まで)補正されることにより、例えば音のバランスが悪くなる場合がある。
【0006】
本発明は上記の事情に鑑み、特定の周波数成分を補正するのに適した音響処理装置及び音響処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態に係る音響処理装置は、オーディオ信号から第1の周波数成分を抽出する第1抽出部と、オーディオ信号から第1の周波数成分と異なる第2の周波数成分を抽出する第2抽出部と、第2の周波数成分の振幅レベルが所定の閾値を超えるか否かを判定する振幅レベル判定部と、振幅レベルが所定の閾値を超えると、所定レベル以上の振幅レベルが継続する時間を測定する継続時間測定部と、継続時間測定部により測定された継続時間に応じて、複数種類のフィルタ部のなかから、第2の周波数成分に対して適用するフィルタ部を決定する、適用フィルタ決定部と、適用フィルタ決定部により決定されたフィルタ部を第2の周波数成分に対して適用することによって得た周波数成分と第1の周波数成分とを合成する合成部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一実施形態によれば、特定の周波数成分を補正するのに適した音響処理装置及び音響処理方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る音響システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る音響処理装置の機能ブロック図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る音響処理装置に含まれる残響検出部及びフィルタ補正部で実行される処理を示すフローチャートである。
【
図4A】本発明の一実施形態において音源より出力されるオリジナルのオーディオ信号の振幅特性を示す図である。
【
図4B】本発明の一実施形態においてLPF(Low Pass Filter)処理後のオーディオ信号の振幅特性を示す図である。
【
図4C】本発明の一実施形態においてLPF処理後のオーディオ信号の振幅特性を示す図である。
【
図5】
図4Cに示されるピークを含むそれぞれの波形に対応する残響時間を示す図である。
【
図6】本発明の一実施形態においてHPF(High Pass Filter)処理が適用された場合のオーディオ信号の周波数特性を示す図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係るピーキングフィルタ部の抑圧レベルの設定例を説明する図である。
【
図8】本発明の一実施形態においてピーキングフィルタ処理が適用された場合のオーディオ信号の周波数特性を示す図である。
【
図9】本発明の別の一実施形態に係るフィルタ補正部の機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の説明は、本発明の一実施形態に係る音響処理装置及び音響処理方法に関する。
【0011】
図1は、本発明の一実施形態に係る音響システム1の構成を示すブロック図である。
図1に示されるように、音響システム1は、音源10、音響処理装置20及びサウンドシステム30を備える。
【0012】
音源10は、例えば、デジタルオーディオデータを格納したCD(Compact Disc)、SACD(Super Audio CD)等のディスクメディアや、HDD(Hard Disk Drive)、USB(Universal Serial Bus)等のストレージメディアである。
【0013】
音響処理装置20は、コンピュータの一例であり、例えば、LSI(Large Scale Integration)として構成される。音響処理装置20は、CPU(Central Processing Unit)21、RAM(Random Access Memory)22及びフラッシュROM(Read Only Memory)23を含む。
【0014】
CPU21は、例えばシングルプロセッサ又はマルチプロセッサであり、少なくとも1つのプロセッサを含む。複数のプロセッサを含む構成とした場合、CPU21は、単一の装置としてパッケージ化されたものであってもよく、音響処理装置20内で物理的に分離した複数の装置で構成されてもよい。
【0015】
CPU21は、例えば、制御部、ECU(Engine Control Unit)、MPU(Micro Processor Unit)又はMCU(Micro Controller Unit)と呼ばれてもよい。
【0016】
RAM22は、データやプログラムを一時的に保持する。RAM22には、フラッシュROM23から読み出されたプログラムやデータ、その他、通信に必要なデータが保持される。
【0017】
フラッシュROM23は、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable ROM)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)等の不揮発性の半導体メモリである。フラッシュROM23には、CPU21が各種処理を行うために使用するプログラム及びデータが格納される。
【0018】
CPU21は、フラッシュROM23に格納されたプログラム及びデータを読み出し、RAM22をワークエリアとして用いることにより、音響処理装置20を統括的に制御する。すなわち、CPU21がプログラムを実行することにより、音響処理装置20が動作する。
【0019】
概説すると、CPU21は、ワークエリアに展開されたプログラムを実行することにより、音源10より入力されるオーディオ信号から第1の周波数成分を抽出するとともに第1の周波数成分と異なる第2の周波数成分を抽出し、第2の周波数成分の振幅レベルが所定の閾値を超えるか否かを判定し、振幅レベルが所定の閾値を超えると、所定レベル以上の振幅レベルが継続する時間を測定し、測定された継続時間に応じて、複数種類のフィルタ部のなかから、第2の周波数成分に対して適用するフィルタ部を決定し、決定されたフィルタ部を第2の周波数成分に対して適用することによって得た周波数成分と第1の周波数成分とを合成する。これにより、オーディオ信号のうち、特定の周波数成分(第2の周波数成分)が良好に補正される。
【0020】
例えば第2の周波数成分が低域成分の場合、かかる補正により、例えば、低域が強すぎて聴感上不自然な音になるのを避けることができ、また、低域が歪むのを避けることができる。また、収束性の悪いサウンドシステムであっても、低域の余韻だけが長い間残るのを避けることができる。
【0021】
サウンドシステム30は、D/Aコンバータ、アンプ、スピーカ等を含む。サウンドシステム30は、音響処理装置20より入力される補正後のオーディオ信号をアナログ信号に変換し、変換されたアナログ信号をアンプで増幅してスピーカから出力する。これにより、例えば音源10の楽曲が再生される。
【0022】
図2は、音響処理装置20の機能ブロック図である。
図2に示されるように、音響処理装置20は、機能ブロックとして、HPF部210、LPF部220、残響検出部230、フィルタ補正部240及び合成部250を含む。
【0023】
HPF部210は、HPFを含む第1抽出部の一例である。HPF部210は、音源10より入力されるオーディオ信号から、高域成分H(第1の周波数成分の一例)を抽出して合成部250に出力する。HPF部210において、カットオフ周波数は、予め設定されてもよく、また、ユーザ操作により任意に設定されてもよい。
【0024】
LPF部220は、LPFを含む第2抽出部の一例である。LPF部220は、音源10より入力されるオーディオ信号から、低域成分L(第2の周波数成分の一例)を抽出して残響検出部230に出力する。LPF部220においても、カットオフ周波数は、予め設定されてもよく、また、ユーザ操作により任意に設定されてもよい。
【0025】
残響検出部230は、振幅レベル判定部231及び適用フィルタ決定部232を含む。残響検出部230は、低域成分Lの残響レベル及び残響時間を検出するとともに、低域成分Lに対して適用すべきフィルタ部を決定する。
【0026】
振幅レベル判定部231は、LPF部220より入力される低域成分Lの振幅レベルが閾値X(所定の閾値の一例)を超えるか否かを判定する。振幅レベル判定部231は、LPF部220より入力される低域成分L(便宜上「低域成分L1」と記す。)を合成部250に出力する。但し、低域成分Lの振幅レベルが閾値Xを超えたときに限り、振幅レベル判定部231は、閾値Xを超えてから一定時間分の低域成分L(便宜上「低域成分L2」と記す。)を適用フィルタ決定部232に出力する。
【0027】
適用フィルタ決定部232は、継続時間測定部233を含む。継続時間測定部233は、振幅レベル判定部231より入力される低域成分L2の継続時間を測定する。この継続時間は、LPF部220より入力される低域成分Lにおいて、低域成分Lの振幅レベルが所定の閾値を超えた後に、所定レベル以上の振幅レベルが継続する時間であり、レベルの高い低域成分L2の残響時間ともいえる。以下、この継続時間は「残響時間RT」と記す。
【0028】
本実施形態において、残響時間RTは、例えば残響時間RT60の考えに基づき、振幅レベルが閾値Xを超えたときのピークから60dB減衰するまでの時間としてもよい。この場合、ピークから60dB下がった振幅レベルが上記「所定レベル」である。継続時間測定部233は、残響時間RT20やRT30をもとに、ピークから20dBや30dB減衰するまでの時間を測定し、測定された時間に基づいて残響時間RTを推定してもよい。
【0029】
適用フィルタ決定部232は、継続時間測定部233により測定された残響時間RTに応じて、複数種類のフィルタ部のなかから、低域成分L2に対して適用するフィルタ部を決定する。本実施形態において、複数種類のフィルタ部は、フィルタ補正部240に含まれる第1のフィルタ部と第2のフィルタ部である。
【0030】
適用フィルタ決定部232は、残響時間RTが所定時間t以上の場合、第1のフィルタ部を適用フィルタ部として決定する。適用フィルタ決定部232は、振幅レベル判定部231より入力される低域成分L2のうち、所定時間t以上の残響時間RTに対応する期間の低域成分L2aを、フィルタ補正部240のHPF部241(第1のフィルタ部の一例)に出力する。
【0031】
適用フィルタ決定部232は、残響時間RTが所定時間t未満の場合、第2のフィルタ部を適用フィルタ部として決定する。適用フィルタ決定部232は、振幅レベル判定部231より入力される低域成分L2のうち、所定時間t未満の残響時間RTに対応する期間の低域成分L2bを、フィルタ補正部240のピーキングフィルタ部242(第2のフィルタ部の一例)に出力する。
【0032】
このように、適用フィルタ決定部232は、継続時間測定部233により測定された残響時間RTに応じて、複数種類のフィルタ部のなかから、低域成分L2に対して適用するフィルタ部を決定する。より詳細には、適用フィルタ決定部232は、残響時間RTが所定時間t以上の場合、複数種類のフィルタ部のなかから第1のフィルタ部を、低域成分L2に対して適用するフィルタ部として決定する。また、適用フィルタ決定部232は、残響時間RTが所定時間t未満の場合、複数種類のフィルタ部のなかから第2のフィルタ部を、低域成分L2に対して適用するフィルタ部として決定する。
【0033】
第1のフィルタ部の一例であるHPF部241は、所定時間t以上の残響時間RTに対応する期間の低域成分L2aのなかで低域となる周波数成分をカットし、当該低域がカットされた低域成分L2a’を合成部250に出力する。
【0034】
第2のフィルタ部の一例であるピーキングフィルタ部242は、所定時間t未満の残響時間RTに対応する期間の低域成分L2bのなかで特定の周波数成分を抑圧し、特定の周波数成分が抑圧された低域成分L2b’を合成部250に出力する。より詳細には、ピーキングフィルタ部242は、低域成分L2bのなかで振幅がピークとなるピーク周波数fpを検出し、検出されたピーク周波数fpをピーキングフィルタ部242の中心周波数fcとする。また、ピーキングフィルタ部242は、ピーク周波数fpのピークレベルをもとに、中心周波数fcにおける抑圧レベルを設定する。
【0035】
合成部250は、適用フィルタ決定部232により決定されたフィルタ部を低域成分L2に対して適用することによって得た周波数成分と高域成分Hとを合成する。より詳細には、合成部250は、高域成分Hと低域成分L1と合成し、又は、高域成分Hと低域成分L2a’とを合成し、若しくは高域成分Hと低域成分L2b’とを合成する。
【0036】
合成部250は、合成後のオーディオ信号をサウンドシステム30に出力する。これにより、低域の音質が改善された楽曲が再生される。
【0037】
図3は、音響処理装置20に含まれる残響検出部230及びフィルタ補正部240で実行される処理を示すフローチャートである。例えば、音源10の楽曲の再生が開始されると、
図3に示される処理の実行が開始される。
【0038】
残響検出部230の振幅レベル判定部231は、LPF部220より入力される低域成分Lの振幅レベルが閾値Xを超えるか否かを判定する(ステップS101)。
【0039】
図4Aは、音源10より出力されるオリジナルのオーディオ信号を示す図である。また、
図4B及び
図4Cは、LPF部220より出力される低域成分L(すなわち、LPF処理後のオーディオ信号)を示す図である。附言するに、
図4Cは、LPF部220より出力される低域成分Lの絶対値(信号が複数チャンネルの場合はその平均値)を示す。
図4A~
図4Cの各図中、縦軸は、振幅(正規化された値のため単位なし)を示し、横軸は、時間(単位:秒)を示す。
【0040】
図4Aと
図4B及び
図4Cとを比較すると判るように、音源10より出力されるオリジナルのオーディオ信号に対してLPF処理を施すことにより、低域に含まれるピークが検出しやすくなっている。
【0041】
図4C中、振幅レベルが閾値Xを超えるピークに逆三角形マークを付す。便宜上、逆三角形マークが付されたピークを「ピークP」と記す。
図5は、ピークPを含むそれぞれの波形に対応する残響時間RTを示す図である。
図5中、縦軸は、残響時間RT(単位:秒)を示し、横軸は、ピークPを含む波形のそれぞれに便宜上割り当てた番号を示す。
【0042】
LPF部220より入力される低域成分Lの振幅レベルが閾値X以下の場合(ステップS101:NO)を説明する。この場合、低域成分Lの振幅レベルが小さいため、低域が聴感上強い音になりにくく、また、低域の歪みも発生しにくい。また、収束性の悪いサウンドシステムであっても、低域の余韻だけが長い間残るということも起こりにくい。
【0043】
そのため、振幅レベルが低い低域成分L1は、フィルタ補正部240でのフィルタ処理を施されることなく、合成部250に出力される。合成部250にて、高域成分Hと低域成分L1とが合成されて、サウンドシステム30に出力される。音源10の楽曲が終了していれば(ステップS107:YES)、本フローチャートの処理は終了し、音源10の楽曲が終了していなければ(ステップS107:NO)、本フローチャートの処理はステップS101に戻る。
【0044】
LPF部220より入力される低域成分Lの振幅レベルが閾値Xを超える場合(ステップS101:YES)を説明する。この場合、低域成分Lの振幅レベルが大きいため、低域が聴感上不自然に強い音になったり歪んだりすることがあり、また、収束性の悪いサウンドシステムでは低域の余韻だけが長い間残ってしまうことがある。
【0045】
そこで、閾値Xを超えてから一定時間分の低域成分L2は、フィルタ補正部240でのフィルタ処理を施すため、適用フィルタ決定部232に出力される。但し、残響時間RTによって、低域が強いことによる音質劣化への影響度合いが異なる。この影響度合いを考慮して低域を適切に補正しなければ、例えば低域を抑圧しすぎることによる音質の劣化が起こり得る。
【0046】
従って、適用フィルタ決定部232の継続時間測定部233は、低域成分L2の残響時間RTが所定時間t以上か否かを判定する(ステップS102)。
【0047】
低域成分L2の残響時間RTが所定時間t以上の場合(ステップS102:YES)を説明する。この場合、低域のエネルギーが収束するまでに時間がかかる。そのため、低域の量感を全体的に減らすことが望ましい。従って、適用フィルタ決定部232は、HPF部241を適用フィルタとして決定する。この結果、HPF部241には、低域成分L2のうち、所定時間t以上の残響時間RTに対応する期間の低域成分L2aが入力される。
【0048】
HPF部241は、低域成分L2aに含まれるピークPにおける中心周波数を算出し(ステップS103)、算出された中心周波数を中心としたバターワース型HPFを形成して低域成分L2aに対して適用する(ステップS104)。これにより、低域成分L2aは、HPF部241で設定されたカットオフ周波数以下の低域成分がカットされる。カット後の低域成分L2a’は、合成部250に出力される。
【0049】
合成部250にて、高域成分Hと低域成分L2a’とが合成されて、サウンドシステム30に出力される。音源10の楽曲が終了していれば(ステップS107:YES)、本フローチャートの処理は終了し、音源10の楽曲が終了していなければ(ステップS107:NO)、本フローチャートの処理はステップS101に戻る。
【0050】
図6は、HPF部241によるフィルタ補正を適用した場合のオーディオ信号の周波数特性を示す図である。
図6中、符号A1~A5が付されたグラフは、各処理段階におけるオーディオ信号の周波数特性を示す。グラフA1~A5の縦軸は、ゲイン(単位:dB)を示し、横軸は、周波数(単位:Hz)を示す。
【0051】
グラフA1に示されるオリジナルのオーディオ信号は、HPF部210で低域がカットされ(グラフA2参照)、また、LPF部220で高域がカットされる(グラフA3参照)。
【0052】
LPF部220を通過後の低域成分L2aは、HPF部241で低域がカットされる(グラフA4参照)。カット後の低域成分L2a’と高域成分Hとが合成部250で合成されることにより、実質的に低域だけが全体的に抑圧されたオーディオ信号が生成される(グラフA5参照)。
【0053】
このように、低域成分がHPF部241でカットされるため、低域の量感を全体的に適度に減らしつつ低域のエネルギーの収束を早めることができる。また、オーディオ信号の高域成分Hの周波数特性が実質的に変わらないため、音のバランスへの影響を抑えつつ楽曲の音質が改善する。
【0054】
本実施形態では、HPF部241がバターワース型HPFを形成する。そのため、高域成分Hと低域成分L2a’とを合成した際のリップルの発生が抑えられる。
【0055】
低域成分L2の残響時間RTが所定時間t未満の場合(ステップS102:NO)を説明する。この場合、低域では、アタック音のような音圧が瞬間的に高い音が支配的である。そのため、低域の量感を全体的に減らさず、アタックが強い低域部分だけを補正することが望ましい。従って、適用フィルタ決定部232は、ピーキングフィルタ部242を適用フィルタとして決定する。この結果、ピーキングフィルタ部242には、所定時間t未満の残響時間RTに対応する期間の低域成分L2bが入力される。
【0056】
ピーキングフィルタ部242は、低域成分L2bに含まれるピークPの周波数(ピーク周波数fp)を検出し(ステップS105)、検出されたピーク周波数fpを中心周波数fcとしたピーキングフィルタを形成して低域成分L2bに対して適用する(ステップS106)。これにより、低域成分L2bの中心周波数fc付近が局所的に抑圧され、抑圧後の低域成分L2b’が合成部250に出力される。
【0057】
ピーキングフィルタ部242は、ピーク周波数fpのピークレベル(言い換えるとピークPのレベル)をもとに、中心周波数fcにおける抑圧レベルを設定する。
【0058】
図7は、ピーキングフィルタ部242の抑圧レベルの設定例を説明するための図である。
図7の例では、ピークP1及びP2が閾値Xを超える一方、ピークP3が閾値X以下となっている。ピークP1~P3を含むそれぞれの波形に対応する残響時間RTは、何れも所定時間t未満である。
【0059】
本実施形態では、波形全体のなかから、閾値Xを超えるピークのなかで最大となるピークレベルが検出され、検出された最大ピークレベルをもとに、調整係数が設定される。設定された調整係数は、閾値Xを超えるピークを含む各波形に対して適用される。
【0060】
図7の例では、最大ピークレベルが-2dBである(ピークP1参照)。最大ピークレベルが-2dBの場合の、ターゲットとなる最大音圧レベルを、-7dBとする。
【0061】
この場合のピーキングフィルタの調整係数は、-5dB(=-7dB-(-2dB))となる。そのため、ピークP1を含む波形は、ピークP1のレベル(-2dB)が-7dBとなるように抑圧される(符号P1’参照)。同様に、ピークP2を含む波形も抑圧されて、ピークP2のレベル(-4dB)が-9dBとなる(符号P2’参照)。閾値X以下であるピークP3を含む波形については、ピーキングフィルタがかけられない。
【0062】
合成部250にて、高域成分Hと低域成分L2b’とが合成されて、サウンドシステム30に出力される。音源10の楽曲が終了していれば(ステップS107:YES)、本フローチャートの処理は終了し、音源10の楽曲が終了していなければ(ステップS107:NO)、本フローチャートの処理はステップS101に戻る。
【0063】
図8は、ピーキングフィルタ部242によるフィルタ補正を適用した場合のオーディオ信号の周波数特性を示す図である。
図8中、符号B1~B5が付されたグラフは、各処理段階におけるオーディオ信号の周波数特性を示す。グラフB1~B5の縦軸は、ゲイン(単位:dB)を示し、横軸は、周波数(単位:Hz)を示す。
【0064】
グラフB1に示されるオリジナルのオーディオ信号は、HPF部210で低域がカットされ(グラフB2参照)、また、LPF部220で高域がカットされる(グラフB3参照)。
【0065】
LPF部220を通過後の低域成分L2bは、ピーキングフィルタ部242で低域が局所的に抑圧される(グラフB4参照)。局所的な抑圧後の低域成分L2b’と高域成分Hとが合成部250で合成されることにより、実質的に低域内の局所的な部分(ピークを含む音圧が高い部分)だけが抑圧されたオーディオ信号が生成される(グラフB5参照)。
【0066】
このように、低域成分のなかで音圧が高い局所的な部分だけがピーキングフィルタ部242で抑圧されるため、聴感上強い低域を適度に抑圧できるとともに歪みの発生を抑えられ、また、低域の量感が過度に減弱されない。そのため、音のバランスへの影響を抑えつつ楽曲の音質が改善する。
【0067】
以上が本発明の例示的な実施形態の説明である。本発明の実施形態は、上記に説明したものに限定されず、本発明の技術的思想の範囲において様々な変形が可能である。例えば明細書中に例示的に明示される実施形態等又は自明な実施形態等を適宜組み合わせた内容も本願の実施形態に含まれる。
【0068】
例えば、上記の実施形態では、ピーキングフィルタ部242が低域成分L2bを局所的に抑圧しているが、本発明の構成はこれに限らない。別の実施形態では、音のバランスの改善のため、ピーキングフィルタ部242が低域成分L2bを局所的に増強する構成も考えられる。
【0069】
フィルタ補正部240の構成は、
図2に示されるものに限らない。一例として、HPF部241の後段に、ピーキングフィルタ部を追加した構成も本発明の範疇である。
【0070】
図9は、別の一実施形態に係るフィルタ補正部1240の機能ブロック図を示す図である。
図9に示されるように、フィルタ補正部1240は、HPF部241及びピーキングフィルタ部242に加えて、LPF部243、HPF部244及び加算器245を含む。
【0071】
図9に示されるように、適用フィルタ決定部232より入力される低域成分L2aは、HPF部241と並列に配置されたLPF部243にも入力される。低域成分L2aに含まれるピークPにおける中心周波数が算出され、算出された中心周波数を中心としたバターワース型HPFがHPF部241で形成されて低域成分L2aに対して適用されるとともに、同じ中心周波数を中心としたバターワース型LPFがLPF部243で形成されて低域成分L2aに対して適用される。
【0072】
HPF部244は、LPF部243より入力される低域成分L3a内における低域成分をカットし、カット後の低域成分L4aを出力する。加算器245は、HPF部241より入力される低域成分L2a’と、HPF部244より入力される低域成分L4aと、を合成し、合成後の低域成分L5aを合成部250に出力する。
【0073】
別の一実施形態では、LPF部220を通過した低域成分L2aに対してLPF部243にて更にLPF処理を施すことにより、対象となる低域をより緻密に抑圧して、音質のより一層の改善を達成することができる。
【符号の説明】
【0074】
1 :音響システム
10 :音源
20 :音響処理装置
21 :CPU
22 :RAM
23 :フラッシュROM
30 :サウンドシステム
210 :HPF部
220 :LPF部
230 :残響検出部
231 :振幅レベル判定部
232 :適用フィルタ決定部
233 :継続時間測定部
240 :フィルタ補正部
241 :HPF部
242 :ピーキングフィルタ部
250 :合成部