(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178557
(43)【公開日】2023-12-18
(54)【発明の名称】エレベーター
(51)【国際特許分類】
B66B 5/26 20060101AFI20231211BHJP
B66B 5/00 20060101ALN20231211BHJP
【FI】
B66B5/26
B66B5/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022091307
(22)【出願日】2022-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】籾山 亮太
(72)【発明者】
【氏名】大黒屋 篤
(72)【発明者】
【氏名】加藤 紀幸
(72)【発明者】
【氏名】鳥居 遼太郎
【テーマコード(参考)】
3F304
【Fターム(参考)】
3F304BA22
3F304DA53
(57)【要約】
【課題】乗りかごを低速運転によって下降させなくても、ストッパー機構による乗りかごの固定を解除することができるエレベーターを提供する。
【解決手段】エレベーターは、ガイドレールに対して乗りかごを固定したロック状態と、ガイドレールに対して乗りかごの固定を解除したアンロック状態とに切り替え可能なストッパー機構を備える。ストッパー機構は、ガイドレールに固定された被係合部材と、乗りかごに設けられた係合部材と、を有する。被係合部材の第1の接触面と係合部材の第2の接触面は、それぞれ傾斜面になっている。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗りかごと、
前記乗りかごの昇降をガイドするガイドレールと、
前記ガイドレールに対して前記乗りかごを固定したロック状態と、前記ガイドレールに対して前記乗りかごの固定を解除したアンロック状態とに切り替え可能なストッパー機構と、
を備えるエレベーターであって、
前記ストッパー機構は、前記ガイドレールに固定された被係合部材と、前記乗りかごに設けられた係合部材と、を有し、前記被係合部材に前記係合部材を係合することにより前記ロック状態となり、前記被係合部材から前記係合部材を離脱させることにより前記アンロック状態となる機構であり、
前記被係合部材は、第1の接触面を有し、
前記係合部材は、前記ロック状態において前記第1の接触面に接触する第2の接触面を有し、
前記第1の接触面及び前記第2の接触面は、前記係合部材の水平移動によって前記被係合部材から前記係合部材を離脱させるときの、前記係合部材の移動方向の下流側が上流側よりも高い傾斜面になっている
エレベーター。
【請求項2】
前記被係合部材は、貫通孔を有し、
前記係合部材は、前記ロック状態において前記貫通孔の上端面に接触する
請求項1に記載のエレベーター。
【請求項3】
水平面に対する前記傾斜面の傾斜角度は、5度以上、30度以下である
請求項1に記載のエレベーター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベーターに関する。
【背景技術】
【0002】
機械室レスエレベーターにおいては、エレベーターの保守点検作業を乗りかごの上から行う。その際、エレベーターの危険な動きを規制するための機構として、ガイドレールに対して乗りかごを固定するストッパー機構が知られている(例えば、特許文献1を参照)。このストッパー機構は、ガイドレールに固定された被係合部材と、乗りかごに設けられた係合部材とを備え、被係合部材の所定部位に係合部材を下から接触させることにより、ガイドレールに対して乗りかごを固定する構成になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された技術では、乗りかごの位置を容易に調整できるように、上下方向に移動可能な調整プレートを被係合部材にボルトによって取り付ける必要がある。このため、特許文献1に記載された技術を採用すると、部品点数が増加してしまう。
【0005】
一方、被係合部材に形成された長孔にストッパーピンを挿入し、このストッパーピンの外周面を長孔の上端面に接触させる構成を採用した場合は、上述した調整プレートが不要となるため、部品点数の増加を避けることができる。ただし、この構成には、次のような不都合がある。
【0006】
ストッパー機構によって乗りかごを固定する場合は、釣り合い重りによる引き上げ力を受けた状態でストッパーピンが長孔の上端面に接触する。このため、ストッパーピンと長孔との接触面に強い摩擦力が発生し、そのままでは長孔からストッパーピンを引き抜くことができなくなる。したがって、ストッパー機構による乗りかごの固定を解除する場合は、一旦、乗りかごを低速運転によって下降させることにより、長孔の上端面からストッパーピンを分離する必要がある。また、乗りかごを低速運転によって下降させる場合は、ストッパーピンが長孔の下端面にぶつかって被係合部材がダメージを受けないよう、乗りかごを慎重に下降させる必要がある。
【0007】
本発明の目的は、乗りかごを低速運転によって下降させなくても、ストッパー機構による乗りかごの固定を解除することができるエレベーターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、たとえば、特許請求の範囲に記載された構成を採用する。
本願は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一つを挙げるならば、乗りかごと、乗りかごの昇降をガイドするガイドレールと、ガイドレールに対して乗りかごを固定したロック状態と、ガイドレールに対して乗りかごの固定を解除したアンロック状態とに切り替え可能なストッパー機構と、を備えるエレベーターである。ストッパー機構は、ガイドレールに固定された被係合部材と、乗りかごに設けられた係合部材と、を有し、被係合部材に係合部材を係合することによりロック状態となり、被係合部材から係合部材を離脱させることによりアンロック状態となる機構である。被係合部材は、第1の接触面を有し、係合部材は、ロック状態において第1の接触面に接触する第2の接触面を有する。第1の接触面及び第2の接触面は、係合部材の水平移動によって被係合部材から係合部材を離脱させるときの、係合部材の移動方向の下流側が上流側よりも高い傾斜面になっている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、乗りかごを低速運転によって下降させなくても、ストッパー機構による乗りかごの固定を解除することができる。
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明によって明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態に係るエレベーターの側面図である。
【
図2】本実施形態に係るエレベーターの上面図である。
【
図3】本実施形態に係る第1ストッパー機構の正面図である。
【
図4】本実施形態に係る第1ストッパー機構の上面図である。
【
図5】本実施形態に係る第1被係合部材をストッパーピンの挿入方向から見た図である。
【
図6】本実施形態に係る第1被係合部材の上面図である。
【
図7】本実施形態に係る第2被係合部材をストッパーピンの挿入方向から見た図である。
【
図8】本実施形態において、第1被係合部材にストッパーピンを係合させた状態を示す縦断面図である。
【
図10】ストッパー機構をアンロック状態からロック状態に切り替える場合の手順を説明する図である。
【
図11】第1被係合部材とストッパーピンとの係合状態を模式的に示す図である。
【
図12】被係合部材に設けられる貫通孔の形状例をストッパーピンの挿入方向から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。本明細書及び図面において、実質的に同一の機能又は構成を有する要素については、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0012】
まず、本実施形態に係るエレベーターの概略構成について、
図1及び
図2を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係るエレベーターの側面図である。
図2は、本実施形態に係るエレベーターの上面図である。なお、
図2においては、後述するロープ5を省略している。
【0013】
図1及び
図2に示すように、エレベーター1は、建築構造物2内に形成された昇降路3に設置されている。エレベーター1は、人や荷物を載せる乗りかご4と、釣り合い重り(図示省略)と、ロープ5と、巻上機6と、制御盤70とを備えている。ロープ5は、巻上機6のシーブに巻き掛けられている。巻上機6は、乗りかご4を昇降させるための駆動源である。ロープ5は、巻上機6の駆動にしたがって駆動することにより、乗りかご4と釣り合い重りを互いに反対方向に昇降させる。制御盤70は、乗りかご4の昇降速度の制御や運行管理制御、その他の必要な制御を行う。
【0014】
ここで、本実施形態に係るエレベーター1は、機械室が設けられていない、いわゆる機械室レスエレベーターである。制御盤70及び巻上機6は、建築構造物2が有する梁などに固定されている。また、制御盤70及び巻上機6は、例えば昇降路3の上部に配置される。なお、以下の説明においては、昇降路3内の水平面における一方向をX方向と定義し、水平面上でX方向に直交する方向をY方向と定義する。また、乗りかご4が昇降路3内を昇降する方向(上下方向)をZ方向と定義する。
【0015】
エレベーター1は、2つのガイドレール7を備えている。各々のガイドレール7は、昇降路3内でZ方向と平行に配置されている。また、2つのガイドレール7は、乗りかご4を挟んで対向するように、X方向に所定の距離をあけて設置されている。
【0016】
ガイドレール7は、レールベース部7aを有する。レールベース部7aは、略平板状に形成されている。レールベース部7aは、レール内面7bと、レール外面7cと、を有している。レール内面7bは、X方向に直交し、乗りかご4と対向する平面である。レール外面7cは、X方向に直交し、レール内面7bと反対側に位置する平面である。レール内面7bのY方向の略中央部には、レール突条部8が形成されている。レール突条部8は、レールベース部7aのレール内面7bから乗りかご4に向かってX方向に突出している。
【0017】
乗りかご4を正面から見て右側に位置するガイドレール7のレールベース部7aには、第1被係合部材51が固定されている。第1被係合部材51は、第1ストッパー機構9aを構成する部材である。また、乗りかご4を正面から見て左側に位置するガイドレール7のレールベース部7aには、第2被係合部材52が固定されている。第2被係合部材52は、第2ストッパー機構9bを構成する部材である。なお、第1ストッパー機構9a、第2ストッパー機構9b及び第1被係合部材51、第2被係合部材52の詳細については、後述する。
【0018】
乗りかご4は、中空の略直方体状に形成されているかご室10と、かご室10を囲む略四角枠状のかご枠11と、有する。かご室10は、前後方向がY方向と一致し、左右方向がX方向と一致するように配置される。かご室10の前面には、開閉可能な扉12が設置されている。
【0019】
かご枠11は、下枠13、上枠14及び2つの縦枠15を有している。下枠13は、かご室10の下方でX方向に延在している。下枠13には、かご室10の下面が固定されている。また、下枠13のX方向の両端部における下部には、プーリー16が設けられている。プーリー16には、ロープ5が巻き掛けられている。
【0020】
また、下枠13における各プーリー16の前方には、下ガイド部17が設けられている。下ガイド部17には、ガイドレール7のレール突条部8が挿入される溝(図示省略)が形成されている。
【0021】
2つの縦枠15は、下枠13のX方向の両端部から垂直に起立している。上枠14は、かご室10の上方でX方向に延在している。上枠14のX方向の両端部は、それぞれに対応する縦枠15の上端部に固定されている。
【0022】
図2に示すように、上枠14は、略長方形の平板状に形成された上面部20を有する。上面部20の長手方向はX方向と平行であり、上面部20の短手方向はY方向と平行である。上面部20の長手方向、すなわちX方向の両端部には、図示しないブラケットを介して、上ガイド部21が設けられている。上ガイド部21と下ガイド部17には、それぞれ溝が形成され、各々の溝にガイドレール7のレール突条部8が挿入されている。これにより、乗りかご4は、ガイドレール7にガイドされて上下方向に昇降する構成になっている。
【0023】
上面部20の短手方向、すなわちY方向の両端部は、それぞれ下方に折り曲げられて、前面部22及び後面部23を形成している。前面部22及び後面部23は、いずれもX-Z平面に平行な面(言い換えると、Y方向に直交する平面)である。前面部22は、後面部23よりも、かご室10の前側に配置されている。
【0024】
前面部22のX方向の右端部には、ストッパーピンユニット30が固定されている。ストッパーピンユニット30は、上述した第1被係合部材51と共に、第1ストッパー機構9aを構成する部材である。一方、前面部22のX方向の左端部には、ストッパーピンユニット31が固定されている。ストッパーピンユニット31は、上述した第2被係合部材52と共に、第2ストッパー機構9bを構成する部材である。なお、第1ストッパー機構9a、第2ストッパー機構9b及びストッパーピンユニット30、31の詳細については、後述する。
【0025】
次に、本実施形態に係るストッパー機構の構成について、
図3~
図7を参照して説明する。
本実施形態のエレベーター1は、ストッパー機構として、第1ストッパー機構9aと、第2ストッパー機構9bとを備えている。
図3は、本実施形態に係る第1ストッパー機構の正面図である。
図4は、本実施形態に係る第1ストッパー機構の上面図である。
図5は、本実施形態に係る第1被係合部材をストッパーピンの挿入方向から見た図である。
図6は、本実施形態に係る第1被係合部材の上面図である。
図7は、本実施形態に係る第2被係合部材をストッパーピンの挿入方向から見た図である。
【0026】
まず、第1ストッパー機構9aが備えるストッパーピンユニット30及び第2ストッパー機構9bが備えるストッパーピンユニット31について説明する。ストッパーピンユニット31及びストッパーピンユニット30は、左右対称に構成されている。このため、本明細書においては、ストッパーピンユニット30の構成について説明し、ストッパーピンユニット31の構成については説明を省略する。
【0027】
図3及び
図4に示すように、ストッパーピンユニット30は、ストッパーピン32と、ストッパーピン32を支持する支持部33と、を備えている。ストッパーピン32は、係合部材の一例として、乗りかご4に設けられている。ストッパーピン32は、丸棒状の部材である。ストッパーピン32は、乗りかご4の昇降方向に交差する方向であるX方向に移動可能な状態で支持部33に支持されている。また、ストッパーピン32は、ストッパーピン32の軸心を中心に回転可能な状態で支持部33に支持されている。
【0028】
ストッパーピン32の一端部は、エレベーター1の保守点検作業を行う場合に、第1被係合部材51と係合した状態になる。ストッパーピン32の他端部の付近には、係止ピン34が設けられている。係止ピン34は、ストッパーピン32の外周面から径方向外側に突出する状態で配置されている。
【0029】
支持部33は、乗りかご4の上枠14に固定されている。支持部33は、第1支持部35と、第2支持部36と、を備えている。第1支持部35は、平板状の係止板部37及び第1固定板部38を備えている。係止板部37の後面(かご室10の後側の面)と第1固定板部38の前面(かご室10の前側の面)とは、Y方向で対向している。また、第1支持部35は、係止板部37及び第1固定板部38の下端部に連続し、第1支持部35の底面を形成する平板状の下面部39を備えている。
【0030】
第1固定板部38は、上枠14の前面部22にボルト締結によって固定されている。係止板部37には、第1係止溝37a及び第2係止溝37bが形成されている。第1係止溝37a及び第2係止溝37bは、係止板部37の上端部からZ方向の略中央部にわたって切り欠かれて形成されている。また、第1係止溝37a及び第2係止溝37bは、X方向に所定の距離を隔てて形成されている。第1係止溝37aは、第2係止溝37bよりもかご室10の内側に配置されている。ストッパーピン32の係止ピン34は、第1係止溝37a又は第2係止溝37bに係止される。
【0031】
第2支持部36は、平板状の第2固定板部40を有する。第2固定板部40は、Y方向に直交する一面40aと、その反対側の他面40bとを有し、他面40bが上枠14の前面部22に接している。第2固定板部40は、上枠14の前面部22にボルト締結によって固定されている。
【0032】
第2固定板部40のX方向の両端部には、一面40a側(かご室10の前側)にY方向に沿って延びる第1支持板部41と第2支持板部42が形成されている。第1支持板部41は、第2支持板部42よりもかご室10の内側に配置されている。第1支持板部41は、第1支持部35のX方向の外側の端部に接触している。
【0033】
第1支持板部41及び第2支持板部42は、平板状に形成されている。また、第1支持板部41及び第2支持板部42は、X方向で対向する状態に配置されている。第1支持板部41の中央部と第2支持板部42の中央部には、それぞれ支持孔43が形成されている。この支持孔43には、ストッパーピン32が挿入される。ストッパーピンユニット30を組み立てる場合、ストッパーピン32の一端部は、第1支持部35側から、第1支持板部41の支持孔43、第2支持板部42の支持孔43の順で挿入される。
【0034】
これにより、ストッパーピン32は、水平方向(X方向)に移動可能で、且つ、ストッパーピン32の軸心を中心に回転可能に支持される。また、ストッパーピン32の水平移動は、ストッパーピン32の係止ピン34が第1係止溝37a又は第2係止溝37bに係止されることによって規制される。
【0035】
エレベーター1の通常運転時は、係止ピン34を第1係止溝37aに係止する。このとき、ストッパーピン32の一端部は、昇降路3内の他の部材と干渉して乗りかご4の昇降を邪魔しない程度に、第2支持板部42の支持孔43から僅かに突出している(
図4)。しかしながら、ストッパーピン32のX方向の移動が規制されているので、乗りかご4の昇降中に、ストッパーピン32の一端部が第2支持板部42の支持孔43から更に突出することはない。このため、ストッパーピン32が第2支持板部42の支持孔43から過度に突出して、昇降路3内の他の部材と干渉することを抑制できる。
【0036】
一方、エレベーター1の保守点検作業時において、作業者は、第1係止溝37aに係止されている係止ピン34を第1係止溝37aから外す。具体的には、作業者は、係止ピン34の位置が上方に移動するように、ストッパーピン32を、軸心を中心に約90度回転させる。
【0037】
次いで、作業者は、ストッパーピン32をX方向に沿って第1被係合部材51側へ移動させ、ストッパーピン32の先端側を第1被係合部材51の長孔55(
図5)に挿入する。また、作業者は、係止ピン34を第2係止溝37bに係止させる。具体的には、作業者は、係止ピン34が第2係止溝37bに挿入されるように、ストッパーピン32を、軸心を中心に約90度回転させる。これにより、ストッパーピン32のX方向の移動が規制されるので、保守点検作業時に、ストッパーピン32が移動して、第1被係合部材51との係合が解除されてしまうことを抑止できる。なお、ストッパーピン32と第1被係合部材51の係合状態については、後段で詳しく説明する。
【0038】
次に、第1ストッパー機構9aにおける第1被係合部材51について、
図1、
図2、
図5及び
図6を参照して説明する。
図5は、本実施形態に係る第1被係合部材をストッパーピンの挿入方向から見た図である。
図6は、本発実施形態に係る第1被係合部材の上面図である。なお、
図5において、右側はかご室10の前側であり、左側はかご室10の後側である。
【0039】
まず、第1被係合部材51は、
図1に示すように、かご室10を正面から見て右側のガイドレール7の上部に固定されている。第1被係合部材51は、
図2に示すように、制御盤70の近くに配置されている。第1被係合部材51は、クリップ部材54によってガイドレール7に固定されている。クリップ部材54は、複数のボルトによる締結力によって第1被係合部材51をガイドレール7に固定している。第1被係合部材51は、
図5及び
図6に示すように、平板状の部材である。
【0040】
第1被係合部材51には長孔55が形成されている。長孔55は、
図5に示すように、クリップ部材54の位置を避けて形成されている。長孔55は、第1被係合部材51を厚み方向(X方向)に貫通する貫通孔である。また、貫通孔としての長孔55は、乗りかご4の昇降方向に長い孔、すなわち縦長の孔である。長孔55は、第1被係合部材51の上下方向の略中央部に設けられている。長孔55の幅方向(Y方向)の寸法は、ストッパーピン32の直径よりもやや大きく設定されている。これにより、ストッパーピン32は、長孔55に対して抜き差し可能に構成されている。エレベーター1の保守点検作業時には、ストッパーピン32が長孔55に挿入される。
【0041】
上記構成からなる第1ストッパー機構9aにおいては、後述するように第1被係合部材51にストッパーピン32を係合することにより、ガイドレール7に対して乗りかご4を固定したロック状態となる。このロック状態は、第1被係合部材51に設けられた長孔55にストッパーピン32を挿入して、長孔55の上端面にストッパーピン32の外周面を接触させることで得られる。この場合、第1被係合部材51の長孔55の上端面は第1の接触面に相当し、ストッパーピン32の外周面は第2の接触面に相当する。また、第1ストッパー機構9aにおいては、第1被係合部材51からストッパーピン32を離脱させることにより、ガイドレール7に対して乗りかご4の固定を解除したアンロック状態となる。このアンロック状態は、第1被係合部材51の長孔55からストッパーピン32を引き抜くことで得られる。
【0042】
次に、第2ストッパー機構9bにおける第2被係合部材52について、
図1、
図2及び
図7を参照して説明する。
図7は、本実施形態に係る第2被係合部材をストッパーピンの挿入方向から見た図である。なお、
図7においては、左側がかご室10の前側であり、右側がかご室10の後側になっている。
【0043】
図2及び
図7に示すように、第2被係合部材52は、第2被係合部材52と、複数のクリップ部材54とを備えている。第2被係合部材52は、第2被係合部材52の形状と第1被係合部材51の形状とが異なる以外は、第1被係合部材51と同様である。このため、以下の説明において、第1被係合部材51と同様の構成については同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0044】
第2被係合部材52は、
図1に示すように、かご室10を正面から見て左側のガイドレール7の上部に固定されている。第2被係合部材52は、
図2に示すように、巻上機6の近くに配置されている。第2被係合部材52は、クリップ部材54によってガイドレール7に固定されている。クリップ部材54は、複数のボルトによる締結力によって第2被係合部材52をガイドレール7に固定している。第2被係合部材52は、第1ブラケット部58と、第2ブラケット部59と、連結ブラケット部60とを一体に有している。第1ブラケット部58は、略平板状に形成されている。第1ブラケット部58は、クリップ部材54によってガイドレール7に固定されている。第1ブラケット部58のY方向の一端部(かご室10の前側の端部)には、折曲部61が設けられている。折曲部61は、第1ブラケット部58の一端部をかご室10から離れる方向に折り曲げて形成されている。
【0045】
第2ブラケット部59は、第1ブラケット部58の下方に所定の距離をあけて配置されている。第2ブラケット部59は、第1ブラケット部58と同様に、クリップ部材54によってガイドレール7に固定されている。また、第2ブラケット部59のY方向の一端部(かご室10の前側の端部)には、折曲部62が設けられている。折曲部62は、第2ブラケット部59の一端部をかご室10から離れる方向に折り曲げて形成されている。
【0046】
連結ブラケット部60は、Z方向に延びる縦長の平板状に形成されている。連結ブラケット部60の上端部は、第1ブラケット部58の折曲部61に固定されている。連結ブラケット部60の下端部は、第2ブラケット部59の折曲部62に固定されている。連結ブラケット部60は、X方向において、かご室10と対向する状態に配置されている。連結ブラケット部60には、長孔55が形成されている。長孔55は、連結ブラケット部60を厚み方向(X方向)に貫通する貫通孔である。また、貫通孔としての長孔55は、乗りかご4の昇降方向に長い孔、すなわち縦長の孔である。第1被係合部材51の長孔55と第2被係合部材52の長孔55は、ほぼ同一の水平軸上に位置するように配置されている。
【0047】
上記構成からなる第2ストッパー機構9bにおいては、後述するように第2被係合部材52にストッパーピン32を係合することにより、ガイドレール7に対して乗りかご4を固定したロック状態となる。このロック状態は、第2被係合部材52設けられた長孔55にストッパーピン32を挿入して、長孔55の上端面にストッパーピン32の外周面を接触させることで得られる。この場合、第2被係合部材52の長孔55の上端面は第1の接触面に相当し、ストッパーピン32の外周面は第2の接触面に相当する。また、第2ストッパー機構9bにおいては、第2被係合部材52からストッパーピン32を離脱させることにより、ガイドレール7に対して乗りかご4の固定を解除したアンロック状態となる。このアンロック状態は、第2被係合部材52の長孔55からストッパーピン32を引き抜くことで得られる。
【0048】
ここで、第2ストッパー機構9bにおいて、第2被係合部材52に設けられた長孔55と、この長孔55に対して抜き差し可能なストッパーピン32との関係は、前述した第1ストッパー機構9aにおいて、第1被係合部材51に設けられた長孔55と、この長孔55に対して抜き差し可能なストッパーピン32との関係と同じである。このため、本実施形態においては、第1被係合部材51の長孔55とストッパーピン32との関係について説明し、第2被係合部材52の長孔55とストッパーピン32との関係については説明を省略する。
【0049】
図8は、本実施形態において、第1被係合部材51にストッパーピン32を係合させた状態(ロック状態)を示す縦断面図である。
図9は、
図8におけるA-A断面図である。
図8及び
図9に示すように、第1被係合部材51には長孔55が形成されている。長孔55の上端面55aは、第1の接触面に相当する。一方、ストッパーピン32の先端部分32aは、第1被係合部材51の長孔55に挿入されている。ストッパーピン32の先端部分32aの外周面(以下、「ストッパー外周面」ともいう。)32bは、第2の接触面に相当する。ストッパー外周面32bは、ストッパーピン32の先端(
図8におけるストッパーピン32の左端)に近づくほど外径が小さい、いわゆる先細形状のテーパー面になっている。
【0050】
ここで、
図8に示すロック状態において、ストッパー外周面32bが接触する長孔55の上端面55aは、ストッパーピン32の水平移動によって第1被係合部材51からストッパーピン32を離脱させるときの、ストッパーピン32の移動方向x2の下流側(
図8の右側)が上流側(
図8の左側)よりも高い傾斜面になっている。また、
図8に示すロック状態において、長孔55の上端面55aに接触するストッパー外周面32bは、ストッパーピン32の水平移動によって第1被係合部材51からストッパーピン32を離脱させるときの、ストッパーピン32の移動方向x2の下流側が上流側よりも高い傾斜面になっている。つまり、長孔55の上端面55aとストッパーピン32の外周面32bは、同じ方向に傾斜している。また、長孔55の上端面55aとストッパーピン32の外周面32bは、同じ角度で傾斜している。
【0051】
なお、
図2及び
図3においては、ストッパーピン32の先端部分(係止ピン34と反対側のピン端部)における傾斜面(テーパー面)の表現を省略している。
【0052】
次に、本実施形態に係るストッパー機構をアンロック状態からロック状態に切り替える場合の手順について、
図10を参照して説明する図である。
本実施形態のエレベーター1は、前述したとおり機械室レスエレベーターである。このため、例えば、制御盤70や巻上機6などの保守点検作業を行う作業員は、一般的に、かご室10内又はかご室10の天井の上に乗って作業を行う。
【0053】
その際、作業中にエレベーター1の乗りかご4が制御不能又は予測不能な危険な動きをしないよう、乗りかご4の動きを機械的装置によって規制する必要がある。本実施形態のエレベーター1は、この機械的装置として機能するストッパー機構(第1ストッパー機構9a及び第2ストッパー機構9b)を備えている。
【0054】
まず、エレベーター1の保守点検作業を行うのに先立って、作業員は、エレベーター1を動作させる。このとき、作業員は、エレベーター1を操作することで、乗りかご4を所定の位置に移動させる。また、作業員は、
図10Aに示すように、第1ストッパー機構9aのストッパーピン32が第1被係合部材51の長孔55に対向し、且つ、第2ストッパー機構9bのストッパーピン32が第2被係合部材52の長孔55に対向するように、乗りかご4の位置を調整する。このとき、ストッパーピン32は、長孔55の長手方向(Z方向)のほぼ中央部に位置決めされる。また、作業員は、乗りかご4の位置調整を終えた後、巻上機6のブレーキを作動させる。
【0055】
次に、作業員は、第1ストッパー機構9aにおいて、ストッパーピン32の係止ピン34を第1係止溝37aから外した状態で、
図10Bに示すようにストッパーピン32をx1方向に移動させることにより、ストッパーピン32の先端部分32aを第1被係合部材51の長孔55に挿入する。また、作業員は、ストッパーピン32の係止ピン34を第2係止溝37bに係止させることにより、X方向におけるストッパーピン32の水平移動を規制する。同様に、作業員は、第2ストッパー機構9bにおいて、ストッパーピン32の係止ピン34を第1係止溝37aから外した状態で、ストッパーピン32を移動させることにより、ストッパーピン32の先端部分32aを第2被係合部材52の長孔55に挿入する。また、作業員は、ストッパーピン32の係止ピン34を第2係止溝37bに係止させることにより、X方向におけるストッパーピン32の水平移動を規制する。
【0056】
次に、作業員は、巻上機6のブレーキを開放する。そうすると、乗りかご4には、図示しない釣り合い重りによる引き上げ力にしたがって上昇する。このとき、ストッパーピン32は、乗りかご4と一緒に上昇する。そして、
図10Cに示すように、ストッパーピン32の外周面32bが長孔55の上端面55aに接触すると、乗りかご4の上昇が停止する。これにより、乗りかご4の位置はガイドレール7に対して固定された状態、すなわちロック状態になる。作業員は、このロック状態のもとで保守点検作業を行う。このため、保守点検作業中は、第1ストッパー機構9a及び第2ストッパー機構9bによって乗りかご4の移動を規制して、作業員の安全を確保することができる。
【0057】
一方、保守点検作業を終えた作業員は、まず、ロック状態のままで巻上機6のブレーキを作動させる。次に、作業員は、第1ストッパー機構9aにおいて、ストッパーピン32の係止ピン34を第2係止溝37bから外した状態で、
図8に示すようにストッパーピン32をx2方向に移動させる。このとき、長孔55の上端面55aとこれに接触しているストッパーピン32の外周面32bとの間には、前述した釣り合い重りによる引き上げ力によって摩擦力が生じる。以下、この点について詳しく説明する。
【0058】
図11は、第1被係合部材51とストッパーピン32との係合状態を模式的に示す図である。
まず、ストッパーピン32をx2方向に移動させる場合は、長孔55の上端面55aとストッパーピン32の外周面32bとの接触界面に摩擦力Fが生じる。また、長孔55の上端面55aとストッパーピン32の外周面32bとの接触界面には、摩擦力Fの向きと直角をなす方向に垂直抗力Nが働く。この垂直抗力Nは、釣り合い重りによる引き上げ力によってストッパーピン32の外周面32bが長孔55の上端面55aに押し付けられることによって発生する。また、摩擦力Fの大きさは、垂直抗力Nの大きさに比例する。このため、ロック状態のもとでストッパーピン32をx2方向に移動させる場合は、摩擦力Fが小さいほど、長孔55からストッパーピン32を引き抜きやすくなる。
【0059】
ここで、
図11に示すように、水平面に対する傾斜面(55a,32b)の傾き角度を「θ」とし、釣り合い重りによる引き上げ力と逆向きに発生する垂直荷重を「mg」とする。そうした場合、垂直荷重mgは、傾斜面に平行な分力mgsinθと、傾斜面に垂直な分力mgcosθとに分解される。また、摩擦力Fの大きさは、分力mgsinθの大きさと同じになり、垂直抗力Nの大きさは、分力mgcosθの大きさと同じになる。よって、上記接触界面における摩擦係数μは、μ=F/Nの関係式により、μ=tanθとなる。そして、この摩擦係数μは、長孔55の上端面55a及びストッパーピン32の外周面32bが水平面と平行である場合、すなわちθ=0度の場合に比べて小さくなる。
【0060】
したがって、本実施形態のように、長孔55の上端面55aとストッパーピン32の外周面32bを、それぞれ傾き角度θを有する傾斜面とすることにより、長孔55からストッパーピン32を引き抜きやすくなる。このため、作業員は、ロック状態のままストッパーピン32をx2方向に移動させて、長孔55からストッパーピン32を引き抜く(離脱させる)ことができる。これにより、乗りかご4は、ガイドレール7に対して乗りかご4の固定が解除された状態、すなわちアンロック状態になる。
【0061】
その後、作業員は、ストッパーピン32の係止ピン34を第1係止溝37aに係止させることにより、X方向におけるストッパーピン32の水平移動を規制する。次に、作業員は、巻上機6のブレーキを開放する。これにより、エレベーター1の通常運転を再開させることができる。
【0062】
このように本実施形態のエレベーター1において、作業員は、乗りかご4を低速運転によって下降させなくても、ストッパー機構(9a,9b)による乗りかご4の固定を解除して、ストッパー機構(9a,9b)をアンロック状態に戻すことができる。これにより、長孔55からストッパーピン32を引き抜く場合に、乗りかご4を下降させる手間を省くことができる。このため、ストッパー機構(9a,9b)をロック状態からアンロック状態に戻すための作業時間を短縮することができる。
【0063】
また、従来においては、ストッパーピン32の外周面32bが長孔55の下端面にぶつからないよう、作業員は、乗りかご4を慎重に下降させる必要があるが、本実施形態によれば、そのような慎重な運転操作を作業員に強いることがない。よって、作業員の精神的な負担を軽減することができる。
【0064】
また、水平面(X-Y平面)に対する傾斜面(55a,32b)の傾き角度θは、小さすぎると十分な摩擦低減効果が得られず、大きすぎるとストッパー機構(9a,9b)によるロック状態の安定性を損なうおそれがある。このため、上記の傾き角度θは、好ましくは、5度以上であり、より好ましくは、10度以上である。また、上記の傾き角度θは、好ましくは、30度以下であり、より好ましくは、20度以下である。このように傾き角度θを規定することにより、ストッパー機構(9a,9b)によるロック状態の安定性を確保したうえで、長孔55からのストッパーピン32の引き抜きを簡易化することができる。
【0065】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更を加えることが可能である。
【0066】
たとえば、上記実施形態においては、係合部材の一例としてストッパーピン32を挙げているが、係止部材はピン形状に限らず、種々の形状を採用することができる。
【0067】
また、上記実施形態においては、被係合部材に貫通孔を設け、この貫通孔の上端面を第1の接触面としているが、第1の接触面は貫通孔の上端面に限らず、例えば上記特許文献1に記載されている調整プレートの下端面であってもよい。つまり、本発明は、調整プレートを備えたエレベーターと、調整プレートを備えていないエレベーターの両方に適用可能である。ただし、部品点数を削減するうえでは、上記実施形態のエレベーター1のように、調整プレートを備えていない構成が好ましい。
【0068】
また、上記実施形態においては、被係合部材に設けられる貫通孔の一例として長孔55を挙げているが、貫通孔は長孔に限らず、例えば
図12に示すように、ストッパーピン32の外径よりも大きな内径を有する円形の孔56であってもよい。この場合は、ロック状態において、円形の孔56の上端面56aにストッパーピン32の外周面32bが接触することになる。また、貫通孔は、ストッパーピン32の外周面32bが接触する貫通孔の上端面のみが傾斜面(テーパー面)になっていてもよいし、貫通孔の内周面が全周にわたって傾斜面になっていてもよい。
【0069】
また、上記実施形態のエレベーター1は、機械室が設けられていない、いわゆる機械室レスエレベーターであるが、本発明は、機械室が設けられているエレベーターにも適用可能である。
【0070】
また、上記実施形態においては、第1ストッパー機構9a及び第2ストッパー機構9bを上枠14のX方向の両端部に設けているが、本発明はこれに限らず、第1ストッパー機構9a及び第2ストッパー機構9bを下枠13のX方向の両端部に設けてもよい。
【符号の説明】
【0071】
1…エレベーター、4…乗りかご、7…ガイドレール、9a…第1ストッパー機構、9b…第2ストッパー機構、32…ストッパーピン(係合部材)、32b…外周面(第2の接触面)、51…第1被係合部材(被係合部材)、52…第2被係合部材(被係合部材)、55…長孔(貫通孔)、55a…上端面(第1の接触面)