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特開2023-178558エレベーターのロープ検査システム、及び、エレベーターのロープ検査方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178558
(43)【公開日】2023-12-18
(54)【発明の名称】エレベーターのロープ検査システム、及び、エレベーターのロープ検査方法
(51)【国際特許分類】
   B66B 5/00 20060101AFI20231211BHJP
【FI】
B66B5/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022091308
(22)【出願日】2022-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(71)【出願人】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内山 允史
(72)【発明者】
【氏名】栗山 哲
(72)【発明者】
【氏名】川俣 良太
(72)【発明者】
【氏名】中村 元美
【テーマコード(参考)】
3F304
【Fターム(参考)】
3F304BA08
3F304ED13
(57)【要約】
【課題】撮像したロープ画像を用いて、ロープに油固着を含む異常が発生しているかを判定することが可能なエレベーターのロープ検査システム及び、エレベーターのロープ検査方法を提供する。
【解決手段】エレベーターの昇降路内に配置されたロープを撮影する撮像装置と、撮像装置から送信されてきた画像の明瞭度を検出すると共に、明瞭度に基づいて、ロープの画像が、明瞭であるか否かを判定する明瞭度判定部とを備える。明瞭度判定部において、画像が明瞭であると判定された場合に、画像に基づいて、ロープに異常があるか否かを判定する異常判定部を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベーターの昇降路内に配置されたロープを撮影する撮像装置と、
前記撮像装置から送信されてきた画像の明瞭度を検出すると共に、前記明瞭度に基づいて、前記ロープの画像が、明瞭であるか否かを判定する明瞭度判定部と、を備え、
前記明瞭度判定部は、前記明瞭であるか否かの判定に基づいて、前記ロープに異常があるか否かの判定を行う
エレベーターのロープ検査システム。
【請求項2】
前記明瞭度判定部は、エッジ検出フィルタを用いて検出された前記画像のエッジ検出値に基づいて明瞭度を検出し、前記明瞭度が閾値以上であるか否かによって、前記画像が明瞭であるか否かを判定する
請求項1に記載のエレベーターのロープ検査システム。
【請求項3】
前記明瞭度判定部は、前記画像が明瞭で無いと判定した場合には、前記ロープに油固着があると判定する
請求項2に記載のエレベーターのロープ検査システム。
【請求項4】
前記明瞭度判定部は、前記画像が明瞭で無いと判定した場合には、前記画像が明瞭で無い原因は、前記ロープへの油固着、かご揺れ、ロープ揺れ、又は、前記撮像装置におけるピンボケであると判定する
請求項2に記載のエレベーターのロープ検査システム。
【請求項5】
前記撮像装置において前記画像と連続して撮影され、かつ、前記画像の撮影時における露光時間よりも短い露光時間で撮影された他の画像と、前記画像と、を用いて差分画像を作成し、前記差分画像から、前記画像が明瞭で無いと判定された原因を判定する差分判定部とをさらに備える
請求項2に記載のエレベーターのロープ検査システム。
【請求項6】
前記差分判定部は、前記画像が明瞭で無いと判定された原因が、前記ロープへの油固着、かご揺れ、ロープ揺れ、又は、前記撮像装置におけるピンボケのいずれかであるかを判定する
請求項5に記載のエレベーターのロープ検査システム。
【請求項7】
前記差分判定部は、前記差分画像に映った前記ロープ以外の背景領域において、エッジ検知フィルタを用いたエッジ検出を行い、前記背景領域のエッジ検出量が所定の閾値以上である場合には、前記画像が明瞭で無いと判定された原因がかご揺れであると判定する
請求項6に記載のエレベーターのロープ検査システム。
【請求項8】
前記差分判定部は、前記差分画像に映ったロープ領域において、エッジ検知フィルタを用いたエッジ検出を行い、前記ロープ領域のエッジ検出量が所定の閾値以上である場合には、前記画像が明瞭で無いと判定された原因がロープ揺れであると判定する
請求項7に記載のエレベーターのロープ検査システム。
【請求項9】
前記差分判定部は、前記画像が明瞭で無いと判定された原因が、かご揺れ及びロープ揺れのいずれでもないと判定した場合には、前記撮像装置においてフォーカス調整が為されているか否かを判定し、為されていない場合には、前記画像が明瞭で無いと判定された原因は、ピンボケであると判定する
請求項8に記載のエレベーターのロープ検査システム。
【請求項10】
前記差分判定部において、前記画像が明瞭で無いと判定された原因が、ピンボケではないと判定された場合には、前記差分判定部は、前記画像が明瞭で無いと判定された原因は、前記ロープへの油固着であると判定する
請求項9に記載のエレベーターのロープ検査システム。
【請求項11】
さらに、
前記画像が明瞭で無いと判定された原因が、前記かご揺れ又は前記ロープ揺れであると判定された場合において、前記差分画像を用いて、前記かご揺れ又は前記ロープ揺れにおける揺れの収束時間を算出する収束時間算出部を備える
請求項10に記載のエレベーターのロープ検査システム。
【請求項12】
エレベーターの昇降路内に配置されたロープを撮像装置によって撮影し、
前記撮像装置から送信されてきた画像の明瞭度を検出すると共に、前記明瞭度に基づいて、前記ロープの画像が、明瞭であるか否かを判定し、
前記画像が明瞭であると判定された場合においては、前記画像に基づいて、前記ロープに異常があるか否かを判定する
エレベーターのロープ検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベーターのロープ検査システム、及び、エレベーターのロープ検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベーターの保守作業においては、現場作業の安全性向上に向けて、点検員が行っている作業を機械化するニーズがある。また、膨大な台数のエレベーターを保守するためには、点検作業効率を高める必要がある。これらのニーズに対応するために、エレベーターの塔内にカメラを設置し、従来、点検員が目視で行っていた点検を機械化する必要がある。
【0003】
特許文献1には、エレベーターメンテナンスのための画像分析システムを備えるエレベーターシステムが開示されている。特許文献1では、エレベーターシステムは、昇降路内のかご、カメラ、ネットワーク、及び、ネットワークを介してカメラと通信する画像分析システムを備えている。そして、画像分析システムでは、カメラで撮像された現在の画像と、参照画像とを照らし合わせ、差分を検出することで、差分画像に応じたメンテナンス情報をユーザーに通知する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2018/0346286号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、エレベーターにおいては、使用年数を経るに従い、ロープに染み込んでいる潤滑油に埃等が付着することで、ロープ表面に油固着が発生する。
【0006】
これに対し、特許文献1に開示された技術では、ロープに油固着が発生している場合、異常と判断されないという問題がある。
【0007】
また、乗りかごの振動によるかご揺れや、ロープ揺れ、又は、撮像装置のフォーカス調整が為されていないことに起因するピンボケ等によっても、明瞭な画像が得られない場合がある。この場合においても、正確な判定結果を得られない可能性がある。
【0008】
そこで、本発明は、撮像したロープ画像を用いて、画像が明瞭であるか否かを判定することが可能なエレベーターのロープ検査システム及び、エレベーターのロープ検査方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明のエレベーターのロープ検査システムは、エレベーターの昇降路内に配置されたロープを撮影する撮像装置を備える。また、撮像装置から送信されてきた画像の明瞭度を検出すると共に、明瞭度に基づいて、ロープの画像が、明瞭であるか否かを判定する明瞭度判定部とを備える。前記明瞭であるか否かの判定に基づいて、前記ロープに異常があるか否かの判定を行う。
【0010】
また、本発明のエレベーターのロープ検査システムは、エレベーターの昇降路内に配置されたロープを撮影する。そして、撮像装置から送信されてきた画像の明瞭度を検出すると共に明瞭度に基づいて、ロープの画像が、明瞭であるか否かを判定する。そして、画像が明瞭であると判定された場合においては、その画像に基づいて、ロープに異常があるか否かを判定する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ロープに異常が発生しているか否かを判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1の実施形態に係る一実施形態に係るロープ検査システムが適用されたエレベーターの概略構成図である。
図2】本発明の第1の実施形態に係るロープ検査システムの制御系の構成を示すブロック図である。
図3】本発明の第1の実施形態に係るロープ検査方法を示すフローチャートである。
図4】本発明の第2の実施形態に係るロープ検査システム100が適用されたエレベーター200の概略構成図である。
図5】本発明の第2の実施形態に係るロープ検査システム100の制御系の構成を示すブロック図である
図6】本発明の第2の実施形態に係るロープ検査方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係るエレベーターのロープ検査システム、及び、ロープ検査方法の一例を、図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下の例に限定されるものではない。以下で説明する各図において、共通の部材には同一の符号を付している。
【0014】
1.第1の実施形態
1-1.エレベーターのロープ検査システムの構成
図1は、本発明の第1の実施形態(以下、本実施形態と記す)に係るロープ検査システムが適用されたエレベーターの概略構成図である。また、図2は、本実施形態に係るロープ検査システムの制御系の構成を示すブロック図である。
【0015】
本実施形態のエレベーター1は、図1に示すように、昇降路7内を昇降する乗りかご5と、ロープ6と、ロープ検査システム10とを備える。
【0016】
[昇降路]
昇降路7は、乗りかご5が昇降するための空間であり、建物内部の各階を上下方向に貫いて設けられている。昇降路7の内壁面には、乗りかご5の昇降を案内するガイドレール(図示を省略する)が取り付けられている。また、昇降路7の壁面における各階に相当する高さ位置には、各階に通じる乗場ドア(図示を省略する)が設けられている。
【0017】
[乗りかご]
乗りかご5は、ロープ6を介して、釣合おもり(図示を省略する)と連結され、昇降路7内を昇降する。この乗りかご5は、昇降路7内の壁面に設けられたガイドレール(図示を省略する)に案内され、昇降路7内の上下方向に昇降する。後述するが、乗りかご5の前面には、乗場ドアに対応する位置に、かごドア(図示を省略する)が設けられており、各階に乗りかごが5停止した際に、かごドア及び乗場ドアが開くことで、乗りかご5への人や荷物の乗り降りが行われる。
【0018】
[ロープ]
ロープ6は、その中腹部分が乗りかご5のかご下プーリ(図示を省略する)に巻き掛けられていると共に、図示を省略する巻上機及び釣合いおもりに接続されている。ロープ6が図示を省略する巻上機により巻き上げられることにより、乗りかご5が昇降動作する。
【0019】
[ロープ検査システム]
ロープ検査システム10は、撮像装置2と、画像処理装置3と、出力装置4とを備える。
【0020】
撮像装置2は、昇降路7内において、ロープ6を撮像可能な位置に固定されており、本実施形態では、昇降路7の底部(ピット付近)に固定されている。撮像装置2の設置箇所としては、昇降路7の底部に限られるものではなく昇降路7の側壁や、天井付近等、種々の変更が可能である。撮像装置2は、有線接続又は無線接続によって、画像処理装置3に接続されている。撮像装置2は、所定のタイミングにおいて、ロープ6の画像を撮像し、撮像装置2で撮像された画像の画像データは画像処理装置3に送信される。
【0021】
撮像装置2としては、一般的に用いられている可視光カメラの他、近赤外線、中赤外線、又は、遠赤外線等、その他の波長を捉えるカメラを適用することができる。
【0022】
画像処理装置3は、撮像装置2から送信されてきた画像情報に対して所定の画像処理を行い、ロープ6における異常の有無を判定する。本実施形態では、画像処理装置3は、昇降路7内における撮像装置2付近に設置する例としているが、その他、エレベーター管理会社等の遠隔地に設置してもよく、また、出力装置4と一体に構成する等、種々の変更が可能である。画像処理装置3は、撮像装置2及び出力装置4と、有線接続又は無線接続によって接続されており、撮像装置2及び出力装置4の間でデータの送受信を行う。
【0023】
画像処理装置3は、図2に示すように、明瞭度判定部31及び異常判定部32を備えている。明瞭度判定部31は、撮像装置2から受信したロープ6の画像を解析し、撮影されたロープ6の画像が明瞭であるか否かを判定する。異常判定部32は、明瞭度判定部31において、ロープ6の画像が明瞭であると判定された場合に、ロープ6に異常が発生しているか否かを判定する。明瞭度判定部31における判定方法、及び、異常判定部32における判定方法を含む、ロープ検査方法については後で詳述する。
【0024】
出力装置4は、画像処理装置3から送信されたロープ6の異常に関する判定結果を出力する装置である。出力装置4は、画像処理装置3と無線接続又は有線接続によって接続されており、画像処理装置3との間でデータの送受信を行う。出力装置4としては、例えば、管理会社等で管理者に操作されるパーソナルコンピューターであってもよいが、保守員Pが作業現場に移動する際に携帯しやすい携帯電話端末やスマートフォン、タブレット端末等の個人端末で構成されることが好ましい。
【0025】
出力装置4は、図示を省略するが、画像処理装置3から送信された判定結果を表示することのできる表示部の他、保守員Pが入力可能な入力部を備える。出力装置4では、例えば、保守員Pの入力操作に応じて、画像処理装置3からの判定結果を出力する。これにより、保守員Pは、ロープ6の保守作業時に必要な情報を、随時、出力装置4から得ることができる。
【0026】
1-2.エレベーターのロープ検査方法
次に、本実施形態のロープ検査システム10によって実施されるロープ検査方法について説明する。図3は、本実施形態のロープ検査方法を示すフローチャートである。なお、図3に示すフローチャートは、明瞭度判定部31における明瞭度判定方法、及び、異常判定部32における異常判定方法を含むものである。
【0027】
まず、撮像装置2によって、昇降路7内のロープ6を撮影し、ロープ6の画像データを取得する(ステップS1)。撮像装置2におけるロープ6の撮影タイミングは、例えば、画像処理装置3から送信されてくる信号に基づいて決定される。また、保守員Pが、出力装置4から検査開始の信号を送信し、その信号に基づいて撮像装置2がロープ6の画像を撮影する構成としてもよい。さらには、撮像装置2は、所定の時間毎にロープ6を撮影する構成としてもよい。いずれの場合においても、乗りかご5が停止した後のタイミングでロープ6の撮影が為される。取得された撮影画像(画像データ)は、画像処理装置3に送信される。
【0028】
次に、画像処理装置3は、明瞭度判定部31において、撮像装置2から送信されてきた撮影画像を解析し、明瞭度を算出する(ステップS2)。明瞭度の算出方法としては、エッジ検出フィルタを用いたエッジ検出により、明瞭度を数値化して算出する方法が挙げられる。この場合、撮影画像内におけるロープが映った領域のみを抽出し、そのロープ領域におけるエッジ検出を行う。エッジ検出に用いられるエッジ検出フィルタとしては、例えば、ラプラシアンフィルタ、ソーベルフィルタ等、種々の空間フィルタを適用することができる。
【0029】
ところで、エッジ検出フィルタを用いて抽出されるエッジ検出値は、画像におけるエッジ(輪郭)のシャープさを数値的に表したものである。したがって、ロープ領域のエッジ検出値の合計を算出することで、輪郭が明瞭に撮影されているか否かを示す明瞭度を定量的に評価することができる。このように、明瞭度判定部31では、エッジ検出フィルタによって抽出されたロープ領域のエッジ検出値の合計(エッジ検出量)を算出することで、明瞭度を算出する。
【0030】
なお、本実施形態では、エッジ検出量を求めて明瞭度を判定する構成としたが、その他、画像の色度から明瞭度を判定する構成としてもよい。
【0031】
次に、明瞭度判定部31は、ステップS2で算出された明瞭度が所定の閾値以上であるか否かを判定する(ステップS3)。なお、明瞭度の度合いは、撮像装置2における撮影条件(撮影環境、露光時間等)によって変わる。また、ステップS3で用いられる明瞭度の閾値は、ロープ6に『油固着』が有るか否かを判定するために用いられる値である。このため、ステップS3において設定される閾値は、現場毎に最適な値が設定されるものであり、かつ、ロープ6に油固着が有るか否かの判定基準に基づいて設定される。
【0032】
ステップS3において「NO」と判定された場合、すなわち、明瞭度が閾値よりも低い(明瞭でない)と判定された場合には、明瞭度判定部31は、ロープ6に『油固着』があると判定する(ステップS6)。そして、明瞭度判定部31は、ロープ6に『油固着』があるとする判定結果を出力装置4に送信する(ステップS5)。
【0033】
一方、ステップS3において「YES」と判定された場合、すなわち、明瞭度が閾値以上である(明瞭である)と判定された場合には、異常判定部32において、異常判定を行う(ステップS4)。異常判定部32において行われる異常判定では、撮影画像を元に、ロープ6が正常であるか、『油固着』以外の異常があるか、の判定が行われる。『油固着』以外の異常としては、例えば、ロープ6に付着した『錆』、及び、『ストランド切れ』が挙げられる。異常判定部32において、ロープ6に『錆』が付着しているか否かの錆検知を行う場合には、撮影画像から色相情報を検出することで錆検知を行うことができる。
【0034】
また、異常判定部32において、『ストランド切れ』が有るか否かのストランド異常検知を行う場合には、まず、撮影画像に映っているロープ領域における自己相関関数を算出する。そして、算出した自己相関関数からロープ6の断面の微分値を算出し、周期性の有無を判定することでストランド切れの有無を判定することができる。このように、異常判定部32では、自己相関関数を用いて撮像画像に映っているロープ6が周期性を有しているか否かを検出することができる。そして、異常判定部32は、周期性がある場合には、『ストランド切れ』が無いと判定され、周期性が無い場合には『ストランド切れ』が有ると判定することができる。
【0035】
異常判定部32において、『錆』の付着もなく、『ストランド切れ』もないと判定された場合には、異常なしと判定される。そして、異常判定部32において、『油固着』以外の異常の有無、及び、異常の種類に関する情報が検出された後、異常判定部32は、その判定結果を出力装置4に送信する(ステップS5)。
【0036】
以上のようにして、本実施形態では、撮影画像を用いたロープ6の異常検査が行われる。本実施形態において、出力装置4に送信された判定結果は、随時保守員Pに表示される。保守員Pは、表示された判定結果を元にロープ6の保守を行うことができる。
【0037】
ところで、本実施形態では、撮像装置2と画像処理装置3が昇降路7底部に固定されていたため、ロープ6を撮影できる範囲が限られていた。これに対し、例えば、撮像装置2を乗りかご5の上部に設置することによってロープ6を撮影できる範囲を広げることができる。
【0038】
しかしながら、この場合、前述したような、乗りかご5の駆動に伴う『ロープ揺れ』や乗りかご5の停止動作による『かご揺れ』よって発生する撮影画像のブレが大きくなる。『ロープ揺れ』の場合には、ロープが上下または左右方向に移動することにより、画像データのロープ6部分にブレが発生する。『かご揺れ』の場合には、かご停止動作により、乗りかご5上部に設置された撮像装置2が揺れ、揺れた状態で撮影を行うことで画像データ全体にブレが発生する。ブレの生じた画像では、ロープ表面の素線やストランドの輪郭が不明瞭となるため、正常なロープ画像より明瞭度が低下する。ゆえに、明瞭度が低下した原因が『油固着』であるか、『ロープ揺れ』であるか、『かご揺れ』であるかの区別ができなくなる。加えて、撮影画像がピンボケしていた場合も同様に明瞭度が低下するため、区別ができない。
【0039】
以下に、本発明の第2の実施形態として、撮影画像が不明瞭である原因が、『油固着』、『かご揺れ』、『ロープ揺れ』、『ピンボケ』のいずれかであるかを判定(特定)可能なロープ検査システムについて説明する。
【0040】
2.第2の実施形態
2-1.ロープ検査システム構成
図4は、本発明の第2の実施形態に係るロープ検査システム100が適用されたエレベーター200の概略構成図である。また、図5は、本実施形態に係るロープ検査システム100の制御系の構成を示すブロック図である。図4及び図5において、図1及び図2に対応する部分には同一符号を付し、重複説明を省略する。
【0041】
第2の実施形態におけるロープ検査システム100は、図4に示すように、撮像装置20と、画像処理装置30と、出力装置4とを備える。
【0042】
撮像装置20は、昇降路7内において、ロープ6を撮像可能な位置に固定されており、第2の実施形態では、乗りかご5の上部に固定されている。撮像装置20は、有線接続又は無線接続によって、画像処理装置30に接続されている。撮像装置20は、所定のタイミングにおいて、ロープ6の画像を撮像し、撮像装置20で撮像された画像の画像データは画像処理装置30に送信される。
【0043】
図5に示すように、撮像装置20は、露光時間を異ならせた複数枚(第2の実施形態では2枚)の画像を連続して撮影する。そして、露光時間を異ならせて取得したそれぞれの撮影画像(第1撮影画像21、第2撮影画像22)のデータを画像処理装置30に送信する。
【0044】
ここでは、第1撮影画像21は、第2撮影画像22よりも露光時間を長く設定して撮影した画像であるものとする。第1撮影画像21は、例えば、昇降路7内の暗い環境においてもロープ6の明瞭度を判定できる程度に撮像可能なように設定された露光時間で撮影された画像である。また、第2撮影画像22は、『かご揺れ』や『ロープ揺れ』に起因する画像ブレを抑えることができる程度に設定された露光時間で撮影された画像である。第2の実施形態では、例えば、第1撮影画像21における露光時間は、1/15秒とし、第2撮影画像22における露光時間は、1/100秒とする。
【0045】
第2の実施形態においても第1の実施形態と同様、撮像装置20として、一般的に用いられている可視光カメラの他、近赤外線、中赤外線、又は、遠赤外線等、その他の波長を捉えるカメラを適用することができる。
【0046】
画像処理装置30は、撮像装置20から送信されてきた第1撮影画像21及び第2撮影画像22の画像情報に対して所定の画像処理を行い、ロープ6における異常の有無を判定する。本実施形態では、画像処理装置30は、昇降路7内における撮像装置20付近に設置する例としているが、その他、エレベーター管理会社等の遠隔地に設置してもよく、また、出力装置4と一体に構成する等、種々の変更が可能である。画像処理装置30は、撮像装置20及び出力装置4と、有線接続又は無線接続によって接続されており、撮像装置20及び出力装置4の間でデータの送受信を行う。
【0047】
画像処理装置30は、図5に示すように、明瞭度判定部31及び異常判定部32の他、差分判定部33及び収束時間算出部34を備える。
【0048】
差分判定部33は、撮像装置20から送信されてきた第1撮影画像21及び第2撮影画像22を用いて、明瞭度判定部31において、画像が明瞭でないと判定された画像の不明瞭原因の特定を行う。不明瞭原因の特定を行う場合には、かご揺れ判定、ロープ揺れ判定、ピンボケ判定、及び油固着判定を順に行う。これらの判定手順については後で詳述する。
【0049】
収束時間算出部34は、差分判定部33において、『かご揺れ』、又は、『ロープ揺れ』があると判定された場合において、揺れが収束する時間を算出する。収束時間算出部34では、第1撮影画像21と第2撮影画像22との差分画像から揺れの周期を算出し、算出された揺れの周期に基づいて揺れの収束時間を算出する。
【0050】
2-2.ロープ検査方法
次に、第2の実施形態に係るロープ検査システムを用いたロープ検査方法について説明する。図6は、第2の実施形態に係るロープ検査方法を示すフローチャートである。
【0051】
まず、撮像装置20によって、昇降路7内のロープ6を撮影し、ロープ6の画像データを取得する(ステップS11)。撮像装置20におけるロープ6の撮影タイミングは、図3のステップS1と同様である。なお、ステップS11では、露光時間を異ならせた2つの画像データ(第1撮影画像21、第2撮影画像22)を連続して取得する。そして、ステップS11取得された第1撮影画像21及び第2撮影画像22のうち、第1撮影画像21の画像データが画像処理装置30に送信される。
【0052】
次に、画像処理装置30は、明瞭度判定部31において、撮像装置20から送信されてきた第1撮影画像21を解析し、明瞭度を算出する(ステップS12)。明瞭度の算出方法としては、図3のステップS2と同様に、第1撮影画像21のエッジ検出を行う方法を用いることができる。なお、ステップS12における明瞭度判定では、第1撮影画像21及び第2撮影画像22のうち、露光時間が長く設定された第1撮影画像21が用いられる。したがって、昇降路7内の暗い環境においても明瞭度の判定が可能な程度の明るさを有する第1撮影画像21を用いて明瞭度を算出することができる。このため、画像が暗いという明瞭度の低下の原因を排除することができる。
【0053】
次に、明瞭度判定部31は、算出された明瞭度が所定の閾値以上であるか否かを判定する(ステップS13)。ステップS13における判定基準は、図3のステップS3における判定基準と同じである。
【0054】
ステップS13において「YES」と判定された場合、すなわち、明瞭度判定部31において、算出された明瞭度が閾値以上であると判定された場合には、異常判定部32において、異常判定を行う(ステップS14)。ステップS14における異常判定は、図3のステップS4と同様である。すなわち、異常判定部32において行われる異常判定では、第1撮影画像21を元に、ロープ6が正常であるか、『油固着』以外の異常があるか、の判定が行われる。油固着以外の異常としては、例えば、ロープ6に付着した錆、及び、ストランド切れが挙げられる。
【0055】
異常判定部32において、油固着以外の異常の有無、及び、異常の種類に関する情報が検出された後、異常判定部32は、その判定結果を出力装置4に送信する(ステップS15)。
【0056】
一方、ステップS13において「NO」と判定された場合、すなわち、明瞭度判定部31で算出された明瞭度が所定の閾値よりも低いと判定された場合には、明瞭度判定部31は、ロープへの油固着、かご揺れ、ロープ揺れ、又は、撮像装置におけるピンボケのいずれかの不明瞭原因があると判定する。そして、ステップS13において「NO」と判定された場合には、ステップS16に進む。ステップS16から後段のフローでは、不明瞭原因の特定を行う。
【0057】
ステップS16では、差分判定部33が、撮像装置20から第1撮影画像21及び第2撮影画像22の画像データを取得し、第1撮影画像21と第2撮影画像22との差分画像を作成する(ステップS16)。第2撮影画像22は、第1撮影画像21よりも露光時間を短くして撮影された画像である。したがって、第2撮影画像22は、第1撮影画像21に比較して、画像は暗いが被写体ブレが低減された画像となる。したがって、第1撮影画像21と第2撮影画像22との差分画像から、第1撮影画像21内において被写体のブレが発生している領域や、ブレの幅に関する情報を得ることができる。
【0058】
なお、本実施形態では、ステップS16において、第1撮影画像21及び第2撮影画像22の画像データを取得する例とした。しかしながら、すでに、第1撮影画像21については前段で取得しているため、第2撮影画像22のみ取得する例としてもよい。さらに、ステップS11の段階で第1撮影画像21及び第2撮影画像22を取得する例としてもよい。ステップS13において、「NO」と判定された場合にのみ、第2撮影画像22を取得する構成とすることで、データ通信料の削減を図ることができる。
【0059】
ステップS16において、差分画像を作成した後、差分判定部33は、差分画像における背景領域のエッジ検出を行う(ステップS17)。ここで、背景領域とは、画像内のロープ6以外の領域を示す。また、ステップS17におけるエッジ検出も、図3のステップS2におけるエッジ検出と同様の手法を用いて行うことができる。
【0060】
次に、差分判定部33は、差分画像における背景領域のエッジ検出量が、閾値以上であるか否かを判定する(ステップS18)。ここで、エッジ検出量は、ステップS3で算出された明瞭度と同様にして算出されるものである。また、ステップS18で用いられる閾値は、撮影環境等に応じて設定される値である。
【0061】
ところで、『かご揺れ』が発生した場合には、撮影した画像全体にブレが生じるため、ロープ6のみならず、背景領域に映った昇降路7内におけるロープ6以外の部材もずれて撮影される。したがって、『かご揺れ』が発生した場合には、差分画像における背景領域で検出されるエッジ検出値が、『かご揺れ』が無い場合に比較して高くなる。このため、ステップS18では、差分画像における背景領域で検出されるエッジ検出値が所定の閾値以上であるか否かを判定することで、明瞭度が低くなった原因が『かご揺れ』であるか、それ以外の理由であるかの切り分けを行うことができる。
【0062】
ステップS18において「YES」と判定された場合、すなわち、差分画像の背景領域におけるエッジ検出量が所定の閾値以上であると判定された場合には、差分判定部33は、明瞭度が低い原因(不明瞭原因)は『かご揺れ』であると判断する(ステップS19)。そして、ステップS19において、明瞭度が低い原因が『かご揺れ』であると判断された場合には、ステップS23に進む。ステップS23については後で詳述する。
【0063】
一方、ステップS18において「NO」と判定された場合、すなわち、差分画像の背景領域におけるエッジ検出量が、所定の閾値よりも低いと判定された場合には、ステップS20に進む。
【0064】
ステップS20では、差分判定部33は、差分画像におけるロープ領域のエッジ検出を行う(ステップS20)。ここで、ロープ領域とは、画像内のロープ6が映った領域を示す。また、ステップS20におけるエッジ検出も、図3のステップS3におけるエッジ検出と同様の手法を用いて行うことができる。
【0065】
次に、差分判定部33は、差分画像におけるロープ領域のエッジ検出量が、閾値以上であるか否かを判定する(ステップS21)。ここで、エッジ検出量は、図3のステップS3で算出された明瞭度と同様にして算出されるものである。また、ステップS21で用いられる閾値は、撮影環境等に応じて設定される値である。
【0066】
ところで、『ロープ揺れ』が発生した場合には、撮影された画像のうち、ロープ6のみにブレが生じるため、露光時間を異ならせて撮影した第1撮影画像21と第2撮影画像22とではロープ6がずれて撮影される。したがって、『ロープ揺れ』が発生した場合には、差分画像におけるロープ領域で検出されるエッジ検出量が、『ロープ揺れ』が無い場合に比較して高くなる。さらに、ステップS21の段階では、既に、明瞭度の低下の原因として、『かご揺れ』は除かれている。このため、ステップS21では、差分画像におけるロープ領域で検出されるエッジ検出量が所定の閾値以上であるか否かを判定することで、明瞭度が低くなった原因が『ロープ揺れ』であるか、それ以外の理由であるかの切り分けを行うことができる。
【0067】
ステップS21において「YES」と判定された場合、すなわち、差分画像のロープ領域におけるエッジ検出量が所定の閾値以上であると判定された場合には、差分判定部33は、明瞭度が低い原因は『ロープ揺れ』であると判断する(ステップS22)。そして、ステップS22において、明瞭度が低い原因が『ロープ揺れ』であると判断された場合には、ステップS23に進む。
【0068】
ステップS23では、収束時間算出部34が、差分画像に基づいて『かご揺れ』又は『ロープ揺れ』の収束時間を算出する。例えば、差分画像から画像ブレの周期を算出し、その周期に基づいて『かご揺れ』又は『ロープ揺れ』の収束時間を算出する。
【0069】
ステップS23において、収束時間が算出された後、収束時間算出部34は、収束時間に関する情報を撮像装置20に送信する。撮像装置20では、収束時間算出部34から収束時間に関する情報が送信されてきた場合には、その収束時間経過後に再度、ステップS11からのフローを開始する。これにより、『かご揺れ』又は『ロープ揺れ』が収束した後に、再度、ロープ異常の検出を行うことができる。
【0070】
一方、ステップS21において「NO」と判定された場合、すなわち、差分画像の背景領域におけるエッジ検出量が、所定の閾値よりも低いと判定された場合には、ステップS24に進む。
【0071】
ステップS24では、差分判定部33は、撮像装置20から送信されてくる情報に基づいて、撮像装置20におけるフォーカス調整が未実施であるか否かを判定する。ステップS24において、「YES」と判断された場合には、差分判定部33は、明瞭度が低い原因は『ピンボケ』であると判断する(ステップS25)。そして、差分判定部33は、その判断結果を撮像装置20に送信する。
【0072】
その後、撮像装置20では、差分判定部33から送信されてきた情報に基づいて、撮像装置20におけるフォーカス調整を行う(ステップS26)。そして、再度、ステップS11からのフローを開始する。
【0073】
一方、ステップS24において、「NO」と判断された場合、すなわち、差分判定部33において、フォーカス調整が既に実施されていると判断された場合には、ステップS27に進む。
【0074】
ステップS27では、差分判定部33は、明瞭度が低い原因は『油固着』であると判断する。その後、差分判定部33は、明瞭度が低い原因が『油固着』であるという判断結果を出力装置4に送信する(ステップS15)。
【0075】
以上のように、第2の実施形態では、撮影された画像の明瞭度が低い原因が、『かご揺れ』、『ロープ揺れ』、『ピンボケ』である場合には、再度、その原因を排除した状態で、異常検出を行うことができる。また、撮影された画像の明瞭度が低い原因が、『かご揺れ』、『ロープ揺れ』又は『ピンボケ』のいずれでもない場合には、ロープ6に『油固着』があることを検出することができる。
【0076】
また、上述の実施形態では、乗りかごを吊り下げる主ロープの異常を検査する場合を例に説明したが、主ロープの他、コンペンロープ等、他のロープの異常検査に適用することができる。
【0077】
上述した実施形態は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。例えば、実施形態の構成の一部を他の構成に置き換えることが可能であり、また、実施形態の構成について他の構成を加えることも可能である。また、実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0078】
1…エレベーター、2…撮像装置、3…画像処理装置、4…出力装置、5…乗りかご、6…ロープ、7…昇降路、10…ロープ検査システム、20…撮像装置、21…第1撮影画像、22…第2撮影画像、30…画像処理装置、31…明瞭度判定部、32…異常判定部、33…差分判定部、34…収束時間算出部、100…ロープ検査システム、200…エレベーター
図1
図2
図3
図4
図5
図6