(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178562
(43)【公開日】2023-12-18
(54)【発明の名称】商品取引支援装置および商品取引支援方法
(51)【国際特許分類】
H04L 9/32 20060101AFI20231211BHJP
G06Q 10/08 20230101ALI20231211BHJP
【FI】
H04L9/32 200A
H04L9/32 200D
H04L9/32 200F
G06Q10/08
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022091314
(22)【出願日】2022-06-06
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】000155469
【氏名又は名称】株式会社野村総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100216677
【弁理士】
【氏名又は名称】坂次 哲也
(72)【発明者】
【氏名】川口 将司
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049AA16
(57)【要約】
【課題】商品の流通において、第三者により商品の真正性が毀損されるのを防止するとともに、利用者が柔軟な構成で容易に商品の真正性を検証することを可能とする。
【解決手段】商品2を格納可能な商品保持部11と、商品2に付されたICチップ21の内容を読み取ることができるICリーダー13を有する制御部12とを有し、制御部12は、商品保持部11に格納された商品2を取り出せないようロックし、利用者端末3から送信されたチャレンジをICチップ21に送信し、これに対してICチップ21から送信されたプルーフを利用者端末3に送信し、利用者からのアンロックの要求を受けて、利用者に対応するウォレットにNFT22を送付し、商品保持部11に格納された商品2を取り出せるようアンロックする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の主体から第2の主体への商品の受渡しを支援する商品取引支援装置であって、
前記商品を格納可能な構造を有する商品保持部と、
前記商品保持部に格納された前記商品に付されたICチップの内容を読み取ることができるICリーダーを有する制御部と、を有し、
前記制御部は、
前記商品保持部に格納された前記商品を取り出せないようロックし、
前記第2の主体に係る情報処理装置から送信された前記商品の真正性を検証するためのチャレンジを受信した場合にこれを前記ICリーダーを介して前記ICチップに送信し、これに対して前記ICチップから前記ICリーダーを介して送信されたプルーフを受信した場合にこれを前記情報処理装置に送信し、
前記第2の主体によるアンロックの要求を受けて、前記ブロックチェーン上で、前記第2の主体に対応するウォレットに前記NFTを送付し、送付が完了した場合に、前記商品保持部に格納された前記商品を取り出せるようアンロックする、商品取引支援装置。
【請求項2】
請求項1に記載の商品取引支援装置において、
前記制御部は、前記商品に係るものとして生成された秘密鍵と公開鍵のペアのうちの前記秘密鍵と、前記公開鍵の生成に用いられた所定の値とが格納されたICチップが付された前記商品が前記商品保持部に格納されたときの前記ICリーダーによる前記ICチップの内容の読取りと、ブロックチェーン上において前記商品取引支援装置に対応するウォレットへの前記公開鍵が属性として設定されたNFTの送付が完了すると、前記商品保持部に格納された前記商品を取り出せないようロックする商品取引支援装置。
【請求項3】
請求項1に記載の商品取引支援装置において、
前記商品保持部は、施錠/解錠が可能な扉を有する箱型の構造物からなる、商品取引支援装置。
【請求項4】
請求項1に記載の商品取引支援装置において、
前記商品保持部は、前記ICリーダーを複数備え、複数の前記商品を格納することが可能である、商品取引支援装置。
【請求項5】
請求項1に記載の商品取引支援装置において、
前記商品保持部を複数備える、商品取引支援装置。
【請求項6】
第1の主体から第2の主体への商品の受渡しを支援する商品取引支援方法であって、
前記第1の主体に係る第1の情報処理装置が、前記商品に係る秘密鍵と公開鍵のペアを発行する第1のステップと、
前記商品を格納可能な構造を有する商品取引支援装置が、前記公開鍵の生成に用いられた所定の値と前記秘密鍵とが格納されたICチップが付された前記商品が格納されると、前記ICチップの内容を読み取る第2のステップと、
前記第1の情報処理装置が、ブロックチェーン上で、前記商品に係るNFT(非代替性トークン)を発行して属性に前記公開鍵を設定し、前記商品取引支援装置に対応するウォレットに前記NFTを送付する第3のステップと、
前記商品取引支援装置が、前記ICチップの内容の読取りと前記ウォレットにおける前記NFTの送付が完了した場合に、格納された前記商品を取り出せないようロックする第4のステップと、
前記第2の主体に係る第2の情報処理装置が、前記商品の真正性を検証する第5のステップと、
前記商品の真正性が検証された場合に、前記商品取引支援装置が、前記第2の主体によるアンロックの要求を受けて、前記ブロックチェーン上で、前記第2の主体に対応するウォレットに前記NFTを送付し、送付が完了した場合に、前記商品を取り出せるようアンロックする第6のステップと、を有し、
前記第5のステップでは、前記第2の情報処理装置が、チャンレンジを生成して前記商品取引支援装置に送信し、前記商品取引支援装置が前記チャレンジを前記商品に付された前記ICチップに送信する第7のステップと、
前記ICチップが、前記チャレンジと前記秘密鍵および前記所定の値に基づいて所定の計算によりプルーフを算出して前記商品取引支援装置に送信し、前記商品取引支援装置が前記プルーフを前記第2の情報処理装置に送信する第8のステップと、
前記第2の情報処理装置が、前記チャレンジと前記公開鍵に基づいて所定の計算により前記プルーフの値を検証する第9のステップと、を有する、商品取引支援方法。
【請求項7】
請求項6に記載の商品取引支援方法において、
前記第2のステップで生成する前記公開鍵は、前記秘密鍵に基づいて生成される第1の前記公開鍵と、乱数に基づいて生成される第2の公開鍵を含み、
前記第8のステップでは、さらに、乱数に基づいて第3の公開鍵を生成し、前記NFTに設定されている前記第2の公開鍵を前記第3の公開鍵によって更新する、商品取引支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、商品の取引・流通の技術に関し、特に、商品の真正性を検証可能とする商品取引支援装置および商品取引支援方法に適用して有効な技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
利用者が購入等により取得する現物商品には、生産・製造等がされてから市場に出るまでの間に多段階の運搬・流通経路を経るものや、中古品など市場において転々流通するものがある。このような商品を取得する利用者にとっては、当該商品が真正品であるのか否かを確認できることが重要となる。
【0003】
商品の真正性を確認可能とする技術に関して、例えば、特開2002-104617号公報(特許文献1)には、従来の保証書や鑑定書等に代えて、社会的に信用力の高い信用保証機関を設置し、その管理の下に製造された極めて偽造が困難な商品識別具としてのICタグを各商品に取り付け、ICタグに記録されている情報と、商品の製造から流通に至る過程を信用保証機関のデータベースで集中管理し、専用の検査端末機により信用保証機関の情報システムに接続することによって商品などの真贋を判定することで、商品が本物であることを保証する仕組みが記載されている。
【0004】
また、特許第5816393号公報(特許文献2)には、ネットオークション等の電子商取引において、真正品と偽物との判別が可能となるような商品の特徴部分の画像の撮影をユーザに対して要求し、ユーザにおいて撮影された撮影画像と真正画像とに基づく評価結果を出力することで、偽物が取引の対象とされることを抑制可能とする仕組みが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-104617号公報
【特許文献2】特許第5816393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したような従来技術によれば、利用者が取得した商品の真正性を検証することが可能となる。
【0007】
しかし、例えば特許文献1に記載されたような技術では、その仕組みを実現するのに中央集権的な信用保証機関を設けることが必要となってしまう。また、商品が所有者・管理者から次の所有者・管理者に引き渡されるまでの間(例えば、搬送中など)で第三者が商品を改変したりICタグを別の商品に付け替えたりして商品の真正性を毀損するのを防止することは困難である。
【0008】
また、特許文献2に記載されたような技術では、商品を取得した利用者がその外観を写真撮影する必要がある上に、外観によって真贋判定が可能なブランド品などに商品の対象が限定されてしまう。また、当該商品がどのように転々流通してきたかの経路・経緯を把握することは困難である。
【0009】
そこで本発明の目的は、実物の商品の流通において、第三者により商品の真正性が毀損されるのを防止するとともに、利用者が柔軟な構成で容易に商品の真正性を検証することを可能とする商品取引支援装置および商品取引支援方法を提供することにある。
【0010】
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記載および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、以下のとおりである。
【0012】
本発明の代表的な実施の形態である商品取引支援装置は、第1の主体から第2の主体への商品の受渡しを支援する商品取引支援装置であって、前記商品を格納可能な構造を有する商品保持部と、前記商品保持部に格納された前記商品に付されたICチップの内容を読み取ることができるICリーダーを有する制御部と、を有する。
【0013】
前記制御部は、前記商品保持部に格納された前記商品を取り出せないようロックし、前記第2の主体に係る情報処理装置から送信された前記商品の真正性を検証するためのチャレンジを受信した場合にこれを前記ICリーダーを介して前記ICチップに送信し、これに対して前記ICチップから前記ICリーダーを介して送信されたプルーフを受信した場合にこれを前記情報処理装置に送信し、前記第2の主体によるアンロックの要求を受けて、前記ブロックチェーン上で、前記第2の主体に対応するウォレットに前記NFTを送付し、送付が完了した場合に、前記商品保持部に格納された前記商品を取り出せるようアンロックする。
【0014】
また、本発明は、上記のような商品取引支援装置を用いた商品取引支援方法にも適用することができる。
【発明の効果】
【0015】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば、以下のとおりである。
【0016】
すなわち、本発明の代表的な実施の形態によれば、実物の商品の流通において、第三者により商品の真正性が毀損されるのを防止することができる。また、利用者が柔軟な構成で容易に商品の真正性を検証することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施の形態である商品取引支援装置の構成例について概要を示した図である。
【
図2】(a)、(b)は、本発明の一実施の形態における商品保持部の具体的な例について概要を示した図である。
【
図3】本発明の一実施の形態における商品の移転と真正性の検証の手法の例について概要を説明する図である。
【
図4】本発明の一実施の形態における商品の製造から商品保持部への格納と施錠までの処理の流れの例について概要を示した図である。
【
図5】本発明の一実施の形態における商品の次の所有者への引渡しまでの処理の流れの例について概要を示した図である。
【
図6】本発明の一実施の形態における商品の真正性の検証処理の流れの例について概要を示した図である。
【
図7】本発明の一実施の形態における商品の移転の例について概要を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一部には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。一方で、ある図において符号を付して説明した部位について、他の図の説明の際に再度の図示はしないが同一の符号を付して言及する場合がある。
【0019】
<概要>
近年、ブロックチェーン技術を利用した技術として、NFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)の利用が拡がりつつある。NFTを利用することで、複製が容易なデジタル資産について、それがオリジナルであるということと、その所有者が誰であるということを証明することが可能である。
【0020】
本発明の一実施の形態である商品取引支援装置(スマートボックス)および商品取引支援方法は、現実の資産(商品)を箱等に収納するなどにより保持するとともに、当該商品にNFTを関連付けることで、当該商品の真正性とその流通や取引の過程を証明して利用者が検証可能とする仕組みを実現するものである。そして、当該商品を箱等に収納し、真正性の検証や代金の支払い等の所定の条件を満たすまで当該商品を取り出せないようにロックすることで、取引間において当該商品の真正性が毀損されるのを抑止するものである。
【0021】
なお、以下に説明する本実施の形態では、売買を念頭に、取引の対象を商品として説明しているが、売買以外の物品の取引や単純な受渡しなども当然に含まれる。
【0022】
<構成>
図1は、本発明の一実施の形態である商品取引支援装置の構成例について概要を示した図である。商品取引支援装置1は、例えば、商品保持部11と制御部12から構成され、制御部12を介して、利用者が保持するスマートフォン等の利用者端末3と通信し、インターネット上のブロックチェーン4にアクセスすることが可能な構成を有する。
【0023】
商品保持部11は、商品2を収納する等により拘束することができる箱型等の形状の構造物により実装される。後述する制御部12により、図示しない施錠/解錠(ロック/アンロック)機構を制御して、商品2を取り出せないように保持・拘束したり、解放して取り出せるようにしたりする。商品2を保持/解放することができる構造であれば箱型の形状に限られず、トレー状の構造や、フックやバンド等で固定するだけの構造など適宜の構造とすることができる。商品保持部11の具体的な例については後述する。
【0024】
制御部12は、例えば、商品保持部11を構成する構造物に設置された集積回路やデバイス等により実装され、上述したように商品保持部11の施錠/解錠を制御して商品2を保持/解放する機能を有する。また、ICリーダー13、通信部14およびウォレット管理部15などの各部を有し、NFTを利用した商品2の真正性の検証に係る各種機能を実現する。
【0025】
ICリーダー13は、NFC(Near Field Communication)規格により非接触でICカードやICチップの内容を読み取るリーダー装置であり、本実施の形態では、制御部12の制御により、商品保持部11に保持された商品2に付されているICチップ21の内容を読み取るものである。通信部14は、無線LANやBluetooth(登録商標)等の無線通信により利用者端末3と通信を行う装置であり、制御部12の制御により、利用者端末3からの要求を受け取ったり、ICリーダー13が読み取ったデータを利用者端末3に送信したりする。ウォレット管理部15は、ブロックチェーン4上における対象の商品取引支援装置1に係るデータを閲覧・操作等するウォレット機能を有するソフトウェアとして実装される。この機能を介して商品取引支援装置1はブロックチェーン4上のNFT22にアクセスすることができる。
【0026】
図2は、本発明の一実施の形態における商品保持部11の具体的な例について概要を示した図である。上述したように、商品2を収納等して保持/解放する商品保持部11としては、例えば箱型の形状の構造物(スマートボックス)とすることができるが、具体的な例としては、
図2(a)に示すように、コインロッカーのような形状として構成し、その中の個々のロッカーをそれぞれ独立した個別の商品保持部11として構成することができる。この場合、図示するように、コインロッカー全体を1つの商品取引支援装置1として複数の商品保持部11を備える構成としてもよいし、個々のロッカーをそれぞれ独立した商品取引支援装置1とする構成としてもよい。
【0027】
個々のロッカー(商品保持部11)は、例えば、
図2(b)に示すように、扉を開けた上で内部に商品2を収納することができる。扉の施錠/解錠は図示しない制御部12により制御される。商品2が置かれる底面部分にはICリーダー13が設置されていて、商品2の底面付近に付されたICチップ21の内容を読み取ることができる。なお、図中では便宜上ICチップ21が商品2の側面部分に付されているものとして表しているが、底面部分や商品2の内部などICリーダー13により読取り可能な位置に付されていてもよい。また、ICリーダー13についても、底面付近に設置される構成に限られず、側面や天井面に設置される構成であってもよい。また、図示するような1つのロッカー内に1つの商品2を格納するという構成に限られず、1つの商品保持部11内に複数のICリーダー13を設置して複数の商品2を格納できる構成としてもよい。
【0028】
なお、本実施の形態では、商品2にICチップ21を別途付する構成としているが、このような構成に限られず、商品2に対応した情報を記録し、接触/非接触で読み取ることができる構成であれば、例えば、商品2自体が標準で備えるICチップやメモリその他の記録媒体を用いる構成としてもよい。
【0029】
<権利の移転と真正性の検証手法>
図3は、本発明の一実施の形態における商品2の移転と真正性の検証の手法の例について概要を説明する図である。商品2の製造者5が、ICチップ21を取り付けた商品2を商品取引支援装置1の商品保持部11(
図3の例では箱型の形状を有する)に格納する。これとともに、製造者5は、ブロックチェーン4上で当該商品2に対応するNFT22を発行して、商品取引支援装置1のウォレットに送付する。これにより、商品2およびNFT22の所有権は製造者5から商品取引支援装置1に移ることになり、商品取引支援装置1は、商品保持部11を施錠等して商品2を取り出せないようにロックする。なお、商品取引支援装置1の運用主体と製造者5との関係によっては、商品2の所有権自体は製造者5が引き続き保有しつつ、その管理主体や管理場所、管理権限(以下では「管理権」と総称する場合がある)のみが商品取引支援装置1に移転する場合もあり得る。
【0030】
この商品2を購入等により取得しようとする利用者は、当該商品2が、NFT22と紐付いた真正なものであることを検証したいと考える。本実施の形態では、商品保持部11に保持された商品2の真正性を検証するため、詳細は後述するが、真正な商品2(に付されたICチップ21)にしか答えられないような質問(チャレンジ)を商品取引支援装置1に対して投げ、正しい回答(プルーフ)が返されるか否かを判定するという、いわゆるゼロ知識証明のプロトコルにより真正性を検証する。
【0031】
真正性が検証されると、利用者は、商品取引支援装置1の仕様に応じた所定の手段により代金を支払う。これにより、ブロックチェーン4上のNFT22が自身のウォレットに送られるとともに、商品取引支援装置1が商品保持部11を解錠等して、利用者が商品2を取り出せるようにする。
【0032】
なお、代金の支払手段は特に限定されず、例えば、商品取引支援装置1が
図2(a)に示したようなコインロッカー型である場合は、当該ロッカーが備える支払手段(現金、電子マネー等)により支払ってもよいし、ブロックチェーン4上で商品取引支援装置1のウォレット、あるいは取引用に用意されたスマートコントラクトに仮想通貨(暗号資産)を送金することで支払ってもよい。別の手段で予め支払っておくことでバウチャーのQRコード(登録商標、以下同様)等を取得しておき、これを商品取引支援装置1の図示しない読取り部に読み取らせたり、バウチャーのデータを送信したりすることで支払いが完了していることを示す構成であってもよい。
【0033】
<処理の流れ>
図4は、本発明の一実施の形態における商品2の製造から商品保持部11への格納と施錠までの処理の流れの例について概要を示した図である。図の左側では物理世界での処理、右側ではブロックチェーン4上での処理の流れを示している。
【0034】
まず、製造者5が商品2を製造する(S01)。本実施の形態では真正品を新たに製造するものとしているが、特定の中古品を新たに流通させるものとしてその真正性(対象の商品2が当該特定の中古品であること)を検証可能とするものであってもよい。
【0035】
製造者5は、製造した真正な商品2に対して、自身の情報処理システムにより、公知の公開鍵暗号化方式で秘密鍵(Pri)と公開鍵(Pub)のペア鍵を発行する(S02)。具体的には、例えば、シュノアプロトコルによるゼロ知識証明を用いる場合、生成元gと素数pを設定し、乱数rを生成し、秘密鍵Priも乱択した上で、公開鍵Pub1、Pub2を、それぞれ、
Pub1=g^Pri mod p
Pub2=g^r mod p
の各式により求める(以下では、公開鍵Pub1とPub2のセットをPubと記載する場合がある)。そして、発行した秘密鍵Pri(および生成元g、素数p、乱数rの各値)をICチップ21に格納した上で、当該ICチップ21を商品2に取り付ける(S03)。
【0036】
一方、製造者5は、自身の情報処理システムにより、ブロックチェーン4上でNFT22を新たに作成・発行(Mint/ミント)する(S04)。このとき、当該NFT22のスマートコントラクト内の属性としてステップS02で発行した公開鍵Pubを付与する。なお、本実施の形態では、いわゆるリプレイ攻撃等に対するセキュリティを高めるため、NFT22には、公開鍵PubのうちPub2をNFT22の所有者により更新することができるコントラクトが実装されているものとする。
【0037】
ミントしたNFT22は、商品2を格納する商品取引支援装置1のウォレットに送付する(S05)。これにより商品2とNFT22とが関連付けられる。なお、商品2の購入者や商品取引支援装置1など、商品2を最初に引き渡す相手がすでに決まっている場合は、NFT22の管理権が当該相手に移っている状態でミントするようにしてもよい。また、本実施の形態では、公開鍵PubをNFT22に登録する構成としているが、これに限られるものではなく、商品2に関連付けられるブロックチェーン4上の情報という形で記録する構成とすることができる。
【0038】
ICチップ21を取り付けた商品2を製造者5が商品取引支援装置1の商品保持部11に格納し、商品取引支援装置1のICリーダー13によりICチップ21の内容を正しく読み取ることができると(S06)、商品取引支援装置1の制御部12が商品保持部11を施錠して、商品2を取り出せないようにする(S07)。以上の一連の処理により、商品2の管理権(もしくは所有権)、すなわち商品2の物理的な支配と、対応するNFT22の保持の主体が、製造者5から商品取引支援装置1に移ることになる。
【0039】
図5は、本発明の一実施の形態における商品2の次の所有者への引渡しまでの処理の流れの例について概要を示した図である。ここでは、商品保持部11に商品2を格納して施錠された状態の商品取引支援装置1から、商品2の購入者等である次の所有者が商品2を取り出して取得するまでの処理の流れの例を示している。
図4と同様に、図の左側では物理世界での処理、右側ではブロックチェーン4上での処理の流れを示している。
【0040】
商品取引支援装置1に保持された商品2の次の所有者となる利用者は、まず、利用者端末3により、対象の商品2の真正性、すなわち、ブロックチェーン4上のNFT22が対象の商品2のものであるか否かを検証する(S11)。この検証処理の具体的な内容については後述するが、例えば、上述したようにいわゆるゼロ知識証明のプロトコルにより行うことができる。
【0041】
対象の商品2の真正性が確認できると、次の所有者は、商品取引支援装置1に対して所定の手段での解錠要求を行う(S12)。例えば、商品2の代金の支払いに係る処理を行うことで解錠要求とすることができ、上述したように、予め代金を支払っておくことで取得したバウチャーのQRコードを商品取引支援装置1が備える図示しない読取り部に読み取らせたり、利用者端末3を操作してブロックチェーン4上で商品取引支援装置1のウォレット、あるいは取引用に用意されたスマートコントラクトに代金の仮想通貨(暗号資産)を送金したり等の行為を解錠要求とすることができる。
【0042】
有効なバウチャーのQRコードが読み取られた場合や、ブロックチェーン4上で十分な額の代金が支払われた場合等、解錠要求が所定の条件を満たす場合、ブロックチェーン4上では、商品取引支援装置1のウォレットから、次所有者のウォレットに対象のNFT22を送付するとともに(S13)、NFT22の送付が完了する、すなわち、取引・決済が確定(例えば、ファイナリティを満たす)となるまで待機する(S14)。NFT22の送付が完了した場合は、商品取引支援装置1の制御部12が商品保持部11を解錠し(S15)、次所有者が商品2を取り出せるように解放する。以上の一連の処理により、次所有者が商品取引支援装置1から商品2を取り出すことができ、商品2の物理的な支配と、対応するNFT22の保持の主体が、商品取引支援装置1から次所有者に移ることになる。
【0043】
図6は、本発明の一実施の形態における商品2の真正性の検証処理(
図5のステップS11)の流れの例について概要を示した図である。本実施の形態では、上述したように、商品2の真正性の検証は、真正な商品2(に付されたICチップ21)にしか答えられないような質問(チャレンジ)を商品取引支援装置1に対して投げ、正しい回答(プルーフ)が返されるか否かを判定するといういわゆるゼロ知識証明のプロトコルにより行う。
【0044】
まず、商品取引支援装置1に保持された商品2の次の所有者となる利用者(の利用者端末3)は、チャレンジcとして用いる乱数を生成し(S111)、これを商品取引支援装置1の通信部14を介して制御部12に送信する(S112)。制御部12は、受信したチャレンジcを、ICリーダー13を介して商品2に付されたICチップ21に送信する(S113)。
【0045】
ICチップ21では、受信したチャレンジcと、
図4のステップS02において生成され自身が保持している秘密鍵Pri、乱数r、および素数pから、プルーフPfを、
Pf=r-Pri×c
の式により計算する(S114)。このとき、ゼロ知識証明のプロトコルとしては必須ではないが、いわゆるリプレイ攻撃等に対するセキュリティを高めるための追加的処理として、Pfを計算する前に乱数r’を生成した上で、公開鍵Pub2’を、
Pub2’=g^r’ mod p
の式により計算し、ウォレット管理部15によりNFT22の属性におけるPub2をPub2’の値で更新した上で、上記のPfの計算式におけるrをr’に置換してPfを計算するようにしてもよい。
【0046】
その後、プルーフPfをICリーダー13を介して商品取引支援装置1の制御部12に送信する(S115)。
【0047】
制御部12は、受信したプルーフPfを通信部14を介して利用者端末3に送信する(S116)。プルーフPfを受信した利用者端末3は、NFT22から公開鍵Pubを取得し、以下の等価検証、
(g^Pf)×(Pub1^c) mod p==Pub2
が真となるか否かを検証する(S117)。すなわち、gが底でPfが指数である累乗計算の結果と、公開鍵Pub1のc乗とを乗算したものが、公開鍵Pub2と一致していることを確認する。一致した場合、チャレンジcに対して正しいプルーフPfが返されたということで、商品取引支援装置1の商品保持部11に保持されている商品2の真正性(商品2とNFT22の管理権(もしくは所有権)とが紐づくこと)が確認できたことになる。なお、公開鍵Pub1、Pub2は、ブロックチェーン4上のNFT22に書き込まれているため、次の所有者となる利用者(の利用者端末3)は、任意にこれらを取得することができる。
【0048】
また、商品保持部11の堅牢さが信頼できる場合、Fiat-Shamirヒューリスティックによる非対話式ゼロ知識証明を用いても良いことは、当業者にとって自明である。
【0049】
<変形例>
上述した例では、商品2の製造者5がロッカーのような形で構成された商品取引支援装置1を介して利用者に商品2を販売等により引き渡す場合の例を示したが、商品取引支援装置1は所定の場所に固定的に設置されている必要はなく、商品取引支援装置1自体が商品2の運搬も兼ねて移動するような構成であってもよい。また、商品2を購入する利用者が商品2を受け取るまでに流通経路上で多段の商品2の受け渡しが行われる構成であってもよい。
【0050】
図7は、本発明の一実施の形態における商品2の移転の例について概要を説明する図である。
図7の例では、製造者5が製造した商品2が、箱状の商品保持部11を有する商品取引支援装置1aに格納されて、利用者端末3aを有する利用者に引き渡され、さらに商品取引支援装置1bに格納されて、利用者端末3bを有する利用者に引き渡され、さらに商品取引支援装置1cに格納されて、利用者端末3cを有する利用者に引き渡された場合の例を示している。当該商品2およびこれに係るNFT22の管理権(もしくは所有権)は、製造者5→商品取引支援装置1a→利用者端末3a→商品取引支援装置1b→利用者端末3b→商品取引支援装置1c→利用者端末3cに順次移転していく。
【0051】
また、図中の例では、商品取引支援装置1aはトラック等により運搬され、商品取引支援装置1bは船舶により運搬され、移動することを示している。利用者端末3cを有する購入者は、ロッカーとして固定的に設置された商品取引支援装置1cから商品2を受け取る。なお、図中の例のように、商品取引支援装置1が車両や船舶等により運搬されて移動する構成に限られず、商品取引支援装置1自体が自律的に移動して商品2を運搬する機能を有する構成であってもよい。
【0052】
利用者端末3cを有する購入者は、商品取引支援装置1cに格納された商品2の真正性を検証した上で商品2を取得することができるとともに、対応するNFT22の取引履歴を参照することで、どのような流通経路を経て来たかを確認することができる。また、商品取引支援装置1が移動する構成の場合、例えば、制御部12にGPS(Global Positioning System)の位置情報を随時取得して記録する機能を設けることにより、商品2の移動経路についてもNFT22もしくはオフチェーンに記録して参照可能とすることができる。
【0053】
利用者端末3cを有する購入者は、例えば、製造者5が製造した時点もしくは出品者が出品した時点での商品2をECサイトなどを介して見て購入を決定してもよいし、転々流通した後に商品取引支援装置1cに格納されている状態の商品2を実際に見て購入を決定してもよい。
【0054】
購入者が取得しようとする商品2が、特定の中古品などの特定物(一点物、代替不可能品)である場合は、主に、商品取引支援装置1に格納されている商品2が対象の特定物と一致する(対象の特定物そのものである)ことをNFT22に書き込まれた情報に基づいて検証することになると考えられる。また、商品2が大量生産された不特定物のうちの1つ(代替可能品)である場合は、主に、当該商品2が購入者が選択したものと一致するそのものであることより、正規の製造者5により製造されたものであることをNFT22の取引履歴等から確認することになると考えられる。
【0055】
以上に説明したように、本発明の一実施の形態である商品取引支援装置1およびこれを用いた商品取引支援方法によれば、商品2を商品保持部11に収納する等により保持するとともに、当該商品2にNFT22を関連付けることで、当該商品2の真正性とその流通や取引の過程を証明して利用者が検証可能とする仕組みを実現することができる。そして、当該商品2を商品保持部11に収納し、真正性の検証や代金の支払い等の所定の条件を満たすまで当該商品2を取り出せないように施錠(ロック)することで、取引間において当該商品2の真正性が毀損されるのを抑止することができる。
【0056】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。また、上記の実施の形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、上記の実施の形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0057】
また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部または全部を、例えば、集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリやハードディスク、SSD等の記録装置、またはICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【0058】
また、上記の各図において、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、必ずしも実装上の全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際にはほとんど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、商品の真正性を検証可能とする商品取引支援装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0060】
1…商品取引支援装置、1a~1c…商品取引支援装置、2…商品、3…利用者端末、3a~3c…利用者端末、4…ブロックチェーン、5…製造者、
11…商品保持部、12…制御部、13…ICリーダー、14…通信部、15…ウォレット管理部、
21…ICチップ、22…NFT
【手続補正書】
【提出日】2022-11-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の主体から第2の主体への商品の受渡しを支援する商品取引支援装置であって、
前記商品を格納可能な構造を有する商品保持部と、
前記商品保持部に格納された前記商品に付されたICチップの内容を読み取ることができるICリーダーを有する制御部と、を有し、
前記制御部は、
前記第1の主体に係る第1の情報処理装置において前記商品に係るものとして生成された秘密鍵と公開鍵のペアのうちの前記秘密鍵と、前記公開鍵の生成に用いられた所定の値とが格納されたICチップが付された前記商品が前記商品保持部に格納されたときの前記ICリーダーによる前記ICチップの内容の読取りと、前記第1の情報処理装置によるブロックチェーン上の前記商品取引支援装置に対応するウォレットへの前記公開鍵が属性として設定されたNFTの送付が完了すると、前記商品保持部に格納された前記商品を取り出せないようロックし、
前記第2の主体に係る第2の情報処理装置から送信された前記商品の真正性を検証するためのチャレンジを受信した場合に、前記ICリーダーを介して前記チャレンジを前記ICチップに送信し、これに対して前記ICチップから前記チャレンジと前記秘密鍵および前記所定の値に基づいて所定の計算により算出されたプルーフを前記ICリーダーを介して受信した場合に、前記プルーフを前記第2の情報処理装置に送信し、
前記チャレンジと前記公開鍵に基づいて所定の計算により前記プルーフの値を検証した前記第2の情報処理装置からのアンロックの要求を受けて、前記ブロックチェーン上で、前記第2の主体に対応するウォレットに前記NFTを送付し、送付が完了した場合に、前記商品保持部に格納された前記商品を取り出せるようアンロックする、商品取引支援装置。
【請求項2】
請求項1に記載の商品取引支援装置において、
前記商品保持部は、施錠/解錠が可能な扉を有する箱型の構造物からなる、商品取引支援装置。
【請求項3】
請求項1に記載の商品取引支援装置において、
前記商品保持部は、前記ICリーダーを複数備え、複数の前記商品を格納することが可能である、商品取引支援装置。
【請求項4】
請求項1に記載の商品取引支援装置において、
前記商品保持部を複数備える、商品取引支援装置。
【請求項5】
第1の主体から第2の主体への商品の受渡しを支援する商品取引支援方法であって、
前記第1の主体に係る第1の情報処理装置が、前記商品に係る秘密鍵と公開鍵のペアを発行する第1のステップと、
前記商品を格納可能な構造を有する商品取引支援装置が、前記公開鍵の生成に用いられた所定の値と前記秘密鍵とが格納されたICチップが付された前記商品が格納されると、前記ICチップの内容を読み取る第2のステップと、
前記第1の情報処理装置が、ブロックチェーン上で、前記商品に係るNFT(非代替性トークン)を発行して属性に前記公開鍵を設定し、前記商品取引支援装置に対応するウォレットに前記NFTを送付する第3のステップと、
前記商品取引支援装置が、前記ICチップの内容の読取りと前記ウォレットにおける前記NFTの送付が完了した場合に、格納された前記商品を取り出せないようロックする第4のステップと、
前記第2の主体に係る第2の情報処理装置が、前記商品の真正性を検証する第5のステップと、
前記商品の真正性が検証された場合に、前記商品取引支援装置が、前記第2の主体によるアンロックの要求を受けて、前記ブロックチェーン上で、前記第2の主体に対応するウォレットに前記NFTを送付し、送付が完了した場合に、前記商品を取り出せるようアンロックする第6のステップと、を有し、
前記第5のステップでは、前記第2の情報処理装置が、チャレンジを生成して前記商品取引支援装置に送信し、前記商品取引支援装置が前記チャレンジを前記商品に付された前記ICチップに送信する第7のステップと、
前記ICチップが、前記チャレンジと前記秘密鍵および前記所定の値に基づいて所定の計算によりプルーフを算出して前記商品取引支援装置に送信し、前記商品取引支援装置が前記プルーフを前記第2の情報処理装置に送信する第8のステップと、
前記第2の情報処理装置が、前記チャレンジと前記公開鍵に基づいて所定の計算により前記プルーフの値を検証する第9のステップと、を有する、商品取引支援方法。
【請求項6】
請求項5に記載の商品取引支援方法において、
前記第2のステップで生成する前記公開鍵は、前記秘密鍵に基づいて生成される第1の前記公開鍵と、乱数に基づいて生成される第2の公開鍵を含み、
前記第8のステップでは、さらに、乱数に基づいて第3の公開鍵を生成し、前記NFTに設定されている前記第2の公開鍵を前記第3の公開鍵によって更新する、商品取引支援方法。