(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178571
(43)【公開日】2023-12-18
(54)【発明の名称】容積形圧縮機及び冷蔵庫
(51)【国際特許分類】
F04B 39/02 20060101AFI20231211BHJP
F04B 39/04 20060101ALI20231211BHJP
F04B 39/00 20060101ALI20231211BHJP
F04C 29/02 20060101ALI20231211BHJP
F04C 29/12 20060101ALI20231211BHJP
F04C 29/00 20060101ALI20231211BHJP
F25D 19/00 20060101ALI20231211BHJP
【FI】
F04B39/02 W
F04B39/04 G
F04B39/00 A
F04C29/02 361Z
F04C29/12 E
F04C29/12 A
F04C29/00 U
F25D19/00 540Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022091330
(22)【出願日】2022-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】399048917
【氏名又は名称】日立グローバルライフソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 和広
(72)【発明者】
【氏名】永田 修平
(72)【発明者】
【氏名】清野 博光
(72)【発明者】
【氏名】中村 考作
【テーマコード(参考)】
3H003
3H129
【Fターム(参考)】
3H003AA05
3H003AB04
3H003AC03
3H003AD02
3H003BD13
3H003BH05
3H003CD06
3H129AA04
3H129AA13
3H129AA33
3H129AB03
3H129BB03
3H129CC15
3H129CC26
3H129CC38
(57)【要約】
【課題】冷凍サイクルの運転効率を向上でき、信頼性も向上できる容積形圧縮機及び冷蔵庫を得る。
【解決手段】容積形圧縮機は、密閉容器と、圧縮要素と、密閉容器の底部の油貯溜部と、吐出冷媒から油を分離する油分離器と、分離された油を油貯溜部に戻す返油経路を備える。返油経路は、油分離器により分離された分離油を貯溜する一時油貯溜室と、一時油貯溜室に設けられたフロートと、フロートの上下運動に連動して開閉するフロート弁と、フロート弁の開閉により、一時油貯溜室に溜まった油を油貯溜部に戻す返油通路と、フロート弁の開閉にかかわらず、一時油貯溜室に溜まった油を油貯溜部に連続的に少量ずつ戻す副流路を備えている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉容器と、この密閉容器内に収納された圧縮要素と、前記密閉容器の底部に設けられ油を貯溜する油貯溜部と、前記圧縮要素から吐出された冷媒から油を分離する油分離手段と、前記油分離手段により分離された油を前記油貯溜部に戻す返油経路を備える容積形圧縮機であって、
前記返油経路は、
前記油分離手段により分離された分離油を一時的に貯溜する一時油貯溜室と、
前記一時油貯溜室に設けられ溜まった油の量に応じて上下動するフロートと、
前記フロートの上下運動に連動して開閉するフロート弁と、
前記フロート弁の開閉により、前記一時油貯溜室に溜まった油を前記油貯溜部に戻す返油通路と、
前記フロート弁の開閉にかかわらず、前記一時油貯溜室に溜まった油を前記油貯溜部に連続的に少量ずつ戻す副流路を備えていることを特徴とする容積形圧縮機。
【請求項2】
請求項1に記載の容積形圧縮機であって、
前記油貯溜部は、前記一時油貯溜室よりも低い圧力に保持され、
前記副流路の通路面積は前記返油通路の通路面積よりも小さく形成されており、前記副流路を流れる単位時間当たりの流量は、前記フロート弁が開のときに前記返油通路を流れる単位時間当たりの流量よりも少なくなるように構成されていることを特徴とする容積形圧縮機。
【請求項3】
請求項2に記載の容積形圧縮機であって、
前記フロート弁は柱状体で構成され、
前記返油経路は、
前記一時油貯溜室の底部に設けられ、前記フロート弁が往復動するフロート弁穴を備えるフロート弁ホルダと、
前記フロート弁の外側面に対向するように前記フロート弁穴の内側面に設けられた周方向の溝である弁穴周状溝と、
前記フロート弁の内部に設けられ前記一時油貯溜室と常時連通する連通孔と、
前記フロート弁の外側面に設けられ前記連通孔が開口する開口部と、
前記フロート弁ホルダに設けられ、前記弁穴周状溝と前記油貯溜部とを連通するための油戻し孔と、を備えていることを特徴とする容積形圧縮機。
【請求項4】
請求項3に記載の容積形圧縮機であって、
前記副流路は、前記フロート弁の外側面または前記フロート弁穴の内側面の少なくとも何れかに設けられ、前記一時油貯溜室と前記弁穴周状溝とを連通する連通溝により構成されていることを特徴とする容積形圧縮機。
【請求項5】
請求項3に記載の容積形圧縮機であって、
前記フロート弁と前記フロート弁穴との間には所定量以上の油が流通可能な隙間が形成され、
前記副流路は、前記フロート弁と前記フロート弁穴との間に形成された前記隙間により構成され、前記一時油貯溜室と前記弁穴周状溝とが前記隙間を介して連通するように構成されていることを特徴とする容積形圧縮機。
【請求項6】
請求項4または5に記載の容積形圧縮機であって、
前記フロート弁の移動方向の一端面と前記フロート弁穴との間の空間は前記一時油貯溜室に連通していることを特徴とする容積形圧縮機。
【請求項7】
請求項6に記載の容積形圧縮機であって、
前記フロート弁の外周面には前記開口部と連通する周方向の溝である弁体周状溝が形成されていることを特徴とする容積形圧縮機。
【請求項8】
請求項7に記載の容積形圧縮機であって、
前記一時油貯溜室の油面の高さにかかわらず、前記一時油貯溜室と前記弁穴周状溝とが、前記副流路を構成する前記連通溝または前記隙間を介して常時連通し、
前記一時貯溜室の油面の高さが所定以上の場合は、前記一時油貯溜室と前記弁穴周状溝とが、フロート弁の内部に形成された前記連通孔を介して連通することを特徴とする容積形圧縮機。
【請求項9】
容積形圧縮機、放熱器、膨張手段及び蒸発器を備え、これらの機器を冷媒配管により順次接続して冷凍サイクルを構成している冷蔵庫であって、前記容積形圧縮機として請求項1~5の何れか一項に記載の容積形圧縮機を用いていることを特徴とする冷蔵庫。
【請求項10】
請求項9に記載の冷蔵庫であって、
前記冷凍サイクルに使用される冷媒はイソブタンであり、前記容積形圧縮機は低圧方式のロータリ圧縮機であることを特徴とする冷蔵庫。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容積形圧縮機に係り、特に、油を含む吐出冷媒から分離された油を油貯溜部に戻す返油手段を備えた容積形圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
油を貯溜した油貯溜部の油を、作動流体を圧縮する圧縮室に注入し、圧縮後の作動流体(吐出冷媒)から油を分離して再び油貯溜部に戻す返油手段を備えた容積形圧縮機としては、特開2010-65586号公報(特許文献1)に記載されたものがある。
【0003】
この特許文献1のものでは、圧縮室へ供給する油を貯溜する油貯溜部と、前記圧縮室で圧縮されて吐出された作動流体から油を分離する油分離手段と、該油分離手段によって分離された分離油を前記油貯溜部へ戻す返油手段を備えている。また、前記返油手段は、前記油分離手段で分離された油を一時的に溜める返油室と、該返油室に設けたフロート弁を備え、該フロート弁の上下動に連動して前記返油室の油を、断続的に前記油貯溜部に戻すように構成されている。
【0004】
また、別の従来技術としては、特開平5-195949号公報(特許文献2)に記載されたものがある。この特許文献2のものでは、機内の高圧領域に配設された油分離室と、該油分離室に連設された分離油回収用の油溜室と、該油溜室の底部に形成された弁座面に開口して油溜室と機内の低圧領域とを連通する還油孔と、上記高低両圧力領域の差圧に応じて前記還油孔の流量を制御する弁手段とを備え、圧縮機の稼動状況に適合した返油を自動的に行うようにしたものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-65586号公報
【特許文献2】特開平5-195949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1のものでは、返油室(一時油貯溜室)に溜まった分離油を、フロート弁の上下運動に連動して油貯溜部と連通する連通口を開閉し、前記返油室の油を断続的に油貯溜部に戻す構成が示されている。即ち、前記返油室の油面上昇に伴い、フロート弁が所定の高さになった時、フロート弁で塞がれていた連通口が開き、返油室の分離油を油貯溜部に戻すようにしている。
【0007】
しかし、フロート弁が開くことにより、高圧の返油室が低圧の油貯溜部と連通することになり、冷凍サイクルの高圧と低圧の圧力バランスが崩れ、冷凍サイクル運転への擾乱が発生し、冷凍サイクル運転が不安定になる。このため、最適な運転条件からずれることにより運転効率が低下するという課題がある。
【0008】
上記特許文献2のものには、高圧領域の油溜室と分離油を戻す低圧領域とを連通する還油孔を微細な孔で形成して常時連通する構成にすると、微細な孔加工をするための工具の折損事故が頻発することが記載されている。このため引用文献2のものでは、前記還油孔に、高低両圧力領域の差圧に応じて空隙(開口面積)が変化するばね用鋼板からなる円形状の弁手段が備えられている。
【0009】
この弁手段は、高低両圧力領域の差圧が小さい起動時には前記空隙が大きくなり、多量の油を低圧領域に流し、差圧が大きくなる定常運転時には、前記空隙が小さくなって油の流れが停止されるか少量の油が流れるように構成されている。
【0010】
しかし、引用文献2に記載されたものは、定常運転時間が短い車両空調用に考案されたものであり、定常運転が長い機器(例えば、冷蔵庫等)に適用した場合、起動時には多量の油が還油され、定常運転時には還油量が少なくなるため、定常運転時間が長くなると可動部への給油不足が発生して信頼性が低下する課題がある。また、定常運転時には、弁手段の弧状周面と弁座面がほぼ線当り状に接触するため空隙がなくなるか、空隙が微少となるため、弁の弾性変形のばらつきによって返油量にばらつきが発生し易いという課題もある。
【0011】
本発明の目的は、冷凍サイクルの運転効率を向上でき、信頼性も向上できる容積形圧縮機及び冷蔵庫を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明は、密閉容器と、この密閉容器内に収納された圧縮要素と、前記密閉容器の底部に設けられ油を貯溜する油貯溜部と、前記圧縮要素から吐出された冷媒から油を分離する油分離手段と、前記油分離手段により分離された油を前記油貯溜部に戻す返油経路を備える容積形圧縮機であって、前記返油経路は、前記油分離手段により分離された分離油を一時的に貯溜する一時油貯溜室と、前記一時油貯溜室に設けられ溜まった油の量に応じて上下動するフロートと、前記フロートの上下運動に連動して開閉するフロート弁と、前記フロート弁の開閉により、前記一時油貯溜室に溜まった油を前記油貯溜部に戻す返油通路と、前記フロート弁の開閉にかかわらず、前記一時油貯溜室に溜まった油を前記油貯溜部に連続的に少量ずつ戻す副流路を備えていることを特徴とする。
【0013】
本発明の他の特徴は、容積形圧縮機、放熱器、膨張手段及び蒸発器を備え、これらの機器を冷媒配管により順次接続して冷凍サイクルを構成している冷蔵庫であって、前記容積形圧縮機として上述した容積形圧縮機を用いていることにある。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、冷凍サイクルの運転効率を向上でき、信頼性も向上できる容積形圧縮機及び冷蔵庫を得ることができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の容積形圧縮機の実施例1を示す縦断面図である。
【
図3】
図1に示す油分離器を拡大して示す拡大縦断面図である。
【
図4】
図3に示すフロート弁とフロート弁ホルダの部分の断面図である。
【
図5】
図3に示すフロート弁とフロート弁ホルダの部分の別の例を示す断面図である。
【
図6】
図3に示すフロート弁が最下位置となった場合の油分離器の要部断面図である。
【
図7】フロート弁が上方に移動し開状態になった場合の油分離器の要部断面図である。
【
図8】本発明の実施例2を示す図で、
図3に相当する図である。
【
図9】本発明の実施例3を示す図で、
図1に示す容積形圧縮機を搭載した冷蔵庫の例を示す縦断面図である。
【
図10】
図9に示す冷蔵庫における容積形圧縮機付近の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の具体的実施例を、図面を用いて説明する。なお、各図において同一符号を付した部分は同一或いは相当する部分を示している。
【実施例0017】
本発明の容積形圧縮機の実施例1を
図1~
図7を用いて説明する。
まず、本実施例1の容積形圧縮機の全体構成を、
図1及び
図2を用いて説明する。
図1は本実施例1の容積形圧縮機の全体構成を示す縦断面図、
図2は
図1のII-II線矢視断面図である。
【0018】
図1において、100は容積形圧縮機としてのロータリ圧縮機であり、このロータリ圧縮機は縦型で、密閉容器1内にモータ要素(電動機)2および圧縮要素(圧縮機構部)3が収納され、密閉容器1の底部には油貯溜部4が設けられ、ここには冷凍機油が貯溜されている。モータ要素2の固定子21と回転子22は中心軸が一致するように配置され、回転子22には前記圧縮要素3を駆動するための回転軸5が嵌合固定されている。即ち、前記回転軸5には偏心軸部5aが設けられ、この偏心軸部5aには前記圧縮要素3のローラ32が回転自在に嵌合されており、前記回転軸5が回転すると前記偏心軸部5aを介して前記ローラ32が、
図1、
図2に示すように、シリンダ31内を偏心運動する。
【0019】
前記シリンダ31の円筒状のシリンダ室内を、吸入室と圧縮室に区切るために、ベーン35が設けられ、ベーン後端部に設けたばね36により、ベーン35はローラ32の外周面に常時当接しながら、シリンダ31の半径方向に往復運動を繰り返す。なお、前記回転軸5は主軸受33と副軸受34により支持されている。
【0020】
密閉容器1の側面にはガス冷媒を吸入する吸入パイプ6が設けられ、密閉容器1内の空間(モータ室)11に開口している。吸入パイプ6を通って密閉容器1内の空間11に流入したガス冷媒は、該空間11に一旦吐き出された後、
図2に示すシリンダ31の吸入通路31aと接続された吸入継ぎパイプ6aを通って、シリンダ室内31bに吸い込まれる。シリンダ室内31bに吸い込まれたガス冷媒は、ローラ32の偏心運動に伴い圧縮された後、吐出口(図示せず)から吐出室33aに吐出され、吐出パイプ7を通って密閉容器1外に流出する。なお、密閉容器1内の空間11は吸入圧力(低圧)となっている。
【0021】
密閉容器1底部の油貯溜部4の冷凍機油は、回転軸5の下端に設けられている遠心ポンプや粘性ポンプ等のポンプ(図示せず)により、回転軸5に設けられた給油通路(図示せず)を通って、主軸受33、副軸受34、ローラ32の内周側に供給される。また、シリンダ室内31b内の側面、即ち副軸受34のシリンダ室内側の側面には、回転軸5の1回転につきローラ32の内側と外側に交互に開口する給油ポケット34aが設けられている。ローラ32の内周側に供給された油は、前記給油ポケット34aを介して、シリンダ室31bへ間欠的に供給され、シリンダ室31b内の各部のシール及び潤滑を行う。
【0022】
シリンダ室31b内に供給された油は、圧縮されて高圧となったガス冷媒と共に、吐出パイプ7を通って密閉容器1外に流出する。圧縮されたガス冷媒と共に流出した油を回収して前記密閉容器1内下部の油貯溜部4に戻すため、油分離器(油分離手段)80が設けられている。前記吐出パイプ7aは油分離器80の上部に接続され、ガス冷媒と油の混合流体は前記油分離器80内の上部に吐出されてガス冷媒と油に分離され、油を分離したガス冷媒は油分離器80の上部に設けられている流出パイプ7bから冷凍サイクルを構成している放熱器(凝縮器側)に供給される。一方、ガス冷媒から分離された油は、油分離器80を構成している油分離容器(以下、単に容器ともいう)81の底部の一時油貯溜室81b(
図3参照)に溜り、その後、油分離器80内に設けられたフロート82及びフロート弁83の作用により、フロート弁ホルダ84に形成された油戻し孔84b(
図3参照)及び油戻しパイプ7cを介して、ガス冷媒から分離された高圧の油を、密閉容器1底部の低圧の前記油貯溜部4に差圧により戻される。
【0023】
次に、
図1に示す油分離器80について、
図3~
図5を用いて詳細に説明する。
図3は
図1に示す油分離器80を拡大して示す拡大縦断面図、
図4は
図3に示すフロート弁とフロート弁ホルダの部分の断面図、
図5は
図3に示すフロート弁とフロート弁ホルダの部分の別の例を示す断面図である。
【0024】
図3に示すように、油分離器80は油分離部80aと、一時油貯溜部80bと、油戻し弁部80cとから構成されている。
前記油分離部80aは、油分離器容器81の上部側面に吐出パイプ7と接続された流入パイプ7aが挿入されると共に、容器81上部に流出パイプ7bが挿入されている。流入パイプ7aから流入した油を含むガス冷媒は、容器81の内周と流出パイプ7bの外周の間を旋回し、遠心力の作用で、密度の大きい油は容器81の内周側面に付着することにより、ガス冷媒から分離される。油が分離されたガス冷媒は、流出パイプ7bを通って外部の冷凍サイクルに流出する。
【0025】
容器81の内周側面に付着した分離油は、重力の作用により側面に沿って落下し、容器81の下部の一時油貯溜室81bに溜まる。一時油貯溜室81bには、溜まった分離油に浮くフロート82が収容されている。また、容器81の底部には、フロート82の下部に連結され該フロート82の上下運動に連動して作動する円柱状(柱状体)のフロート弁83が設けられている。
【0026】
さらに、前記容器81の底部には前記一時油貯溜室81bに開口するように、フロート弁ホルダ84が接続され、このフロート弁ホルダ84には前記フロート弁83が挿入されて往復動(上下動)する円柱状(柱状体)のフロート弁穴84hが形成されている。なお、前記フロート弁83や前記フロート弁穴84hを本実施例では円柱状に構成しているが、円柱状に限るものではなく、四角柱などの角柱状の柱状体に構成しても良い。これらフロート弁83及びフロート弁ホルダ84により前記油戻し弁部80cが構成されている。
【0027】
円柱状の前記フロート弁83には、その外側面の下部側に円周溝(弁体周状溝)83aが形成されている。また、
図4に示すように、フロート弁83には、その上部側に、前記一時油貯溜室81bと常時連通する水平貫通孔(連通孔)83bが設けられ、フロート弁83の下部側には、前記円周溝83aに連通する水平貫通孔(連通孔)83cが、前記円周溝83aと同じ高さの位置に設けられている。さらに、フロート弁83には、該フロート弁83の底部から下部側の水平貫通孔83cを貫通し、上部側の前記水平貫通孔83bまで到達する垂直穴(連通孔)83dが、フロート弁83の内部中央に垂直方向(上下方向)に設けられている。前記円周溝83aは、一時油貯溜室81bと常時連通する連通孔(水平貫通孔83b,83c、垂直穴83d)がフロート弁83の外側面に開口する開口部となっている。
【0028】
フロート弁83に設けられている前記水平貫通孔83bと前記垂直穴83dにより、フロート弁穴84hにおけるフロート弁83下部の空間は、一時油貯溜室81bと常に連通し同じ圧力となる。したがって、フロート弁83の上面と下面に作用する圧力は同じとなり、フロート弁83に圧力差による力は発生しないから、フロート82とフロート弁83に作用する重力方向の力は、これらの質量による力と、浮力による反対方向の力となる。
【0029】
さらに、円柱状のフロート弁83の外側面には、フロート弁83に設けた上部側の水平貫通孔83bと下部側の円周溝83aとを連通する連通溝83e1,83e2がフロート弁83の中心軸に対して対称の位置に二カ所垂直方向(上下方向)に設けられている。二つの前記連通溝83e1,83e2を対称位置に設けた理由は、連通溝83e1,83e2で発生する圧力によりフロート弁83に作用する力をバランスさせるためである。これにより、フロート弁穴84hの中心にフロート弁83の中心を位置させて、フロート弁83とフロート弁穴84hとの円周方向隙間を均一に保つことができ、フロート弁83の動作を滑らかにすることができる。
【0030】
なお、フロート弁83とフロート弁穴84hとの円周方向隙間の部分には油が保持されてシールされ、この隙間を流れる油の漏れ量は少なく、前記連通溝83e1,83e2を介して常時少量或いは微量の油が前記円周溝84aに流れるように構成されている。また、前記連通溝83e1,83e2を流れる油量は、連通溝83e1,83e2の通路断面積により調整できる。
【0031】
一方、フロート弁ホルダ84のフロート弁穴84hの内側面(内周面)の上部側には円周溝(弁穴周状溝)84aが形成されている。また、前記円周溝84aと前記油戻しパイプ7c(
図1参照)を連通する油戻し孔84bが前記フロート弁ホルダ84に形成されており、これら油戻し孔84bと油戻しパイプ7cにより、返油経路としての返油通路が構成されている。
【0032】
ここで、
図3に示すフロート弁83及びフロート弁ホルダ84により構成された油戻し弁部80cの
図4とは異なる例を
図5により説明する。
図4では前記連通溝83e1,83e2をフロート弁83に設けた上部側の水平貫通孔83bと下部側の円周溝83aとを連通するようにフロート弁83の外側面に設けている。これに対し
図5に示す例では、フロート弁穴84hの内側面上部に、一時油貯溜室81b(
図3参照)とフロート弁穴84hの内側面上部側に設けた円周溝84aとを連通するように、垂直方向の連通溝84e1,84e2が対称位置に二カ所設けられている。
【0033】
なお、前記連通溝84e1,84e2を対称位置に二カ所設けているが、三か所以上設けても良く、連通溝84e1,84e2で発生する圧力によりフロート弁83に作用する力がバランスするように構成すると良い。また、この例では、
図4に示す連通溝83e1,83e2をフロート弁83に設けていないが、
図5の例においても、フロート弁83側にも連通溝83e1,83e2を設けるように構成しても良い。他の構成は
図4に示すものと同様である。
油戻し弁部80cを
図5のように構成しても、
図4と同様の効果が得られる。
【0034】
次に、フロート弁83の動作について、
図6及び
図7を用いて説明する。
図6は
図3に示すフロート弁83が最下位置となった場合の油分離器の要部断面図、
図7はフロート弁83が上方に移動し開状態になった場合の油分離器の要部断面図である。
【0035】
図6において、一点鎖線A-Aは、フロート82とフロート弁83の合計質量と釣り合う油面高さである。油分離器容器81内の油面が油面高さA以下ではフロート82は浮上せず、フロート弁83は最下部(最下位置)に位置している。この
図6に示す状態の時には、一時油貯溜室81b内の油は、連通溝83e1,83e2を介してフロート弁ホルダ84の円周溝84aに少量ずつ流れ、この円周溝84aから油は油戻し孔84bを通り、
図1に示す油戻しパイプ7cを通って、圧縮機100底部の油貯溜部4へ常時連続的に少量ずつ戻される。本実施例では、前記連通溝83e1,83e2は給油経路の副流路を構成しており、前記一時油貯溜室81bの油面高さが低い場合には、前記副流路を介して一時油貯溜室81bの油を連続的に少量ずつ油貯溜部4に戻すように構成されている。
【0036】
なお、フロート弁83とフロート弁ホルダ84の部分を、上述した
図5に示すように構成した場合には、フロート弁穴84hの内側面に形成されている連通溝84e1,84e2が、給油経路の副流路を構成することになる。
【0037】
このように、前記副流路は、前記フロート弁83の外側面または前記フロート弁穴84hの内側面の少なくとも何れかに設けられ、前記一時油貯溜室81bと前記弁穴周状溝84aとを連通する前記連通溝83e1,83e2または前記連通溝84e1,84e2により構成されている。
【0038】
図7に示すように、油分離容器81内の油面が上昇し、
図6に示す油面高さAよりも高くなると、フロート82とフロート弁83は油面高さと共に上昇し、フロート82とフロート弁83の合計質量と釣り合う油面高さの位置もA´-A´の位置に上昇する。
【0039】
図7に示すように、フロート弁83が上昇して、その円周溝83aがフロート弁ホルダ84の円周溝84aと連通すると、フロート弁83は開状態となる。フロート弁83が開状態になると、一時油貯溜室81b内の油は、水平貫通孔83b、垂直穴83d、水平貫通孔83c、円周溝83aを通り、フロート弁ホルダ84の円周溝84aに入る。ここから油は、油戻し孔84bを通り、
図1に示す油戻しパイプ7cを通って、一時油貯溜室81bよりも低い圧力に保持されている圧縮機100底部の油貯溜部4へ多量戻される。本実施例では、
図7に示すように、フロート弁8の開閉により、一時油貯溜室81bの油が油貯溜部4に多量戻される返油通路が返油経路の主流路として構成されている。
【0040】
本実施例では、油分離器(油分離手段)80により分離された油を油貯溜部4に戻す返油経路が、前記返油通路(主流路)による返油経路と前記副流路による返油経路を備えており、前記副流路の通路面積は前記返油通路の通路面積よりも小さく形成されている。これにより、前記副流路を流れる単位時間当たりの流量は、前記フロート弁が開のときに前記返油通路を流れる単位時間当たりの流量よりも少なくなるように構成されている。
【0041】
本実施例では、
図7に示すような、フロート弁83の開閉により多量の油が戻される返油通路(主流路)による油戻しの他に、
図6に示すような、連通溝(副流路)83e1,83e2を介して常時少量ずつ油を圧縮機100底部の油貯溜部4に戻すことができるので、フロート弁83が開くことによる多量の油戻しの頻度を減らすことができる。
【0042】
油分離器80内の高圧の油が圧縮室底部の低圧の油貯溜部4に多量戻されると、圧縮機100内の空間11の圧力が一時的に上昇するので、多量の油戻しの頻度が高くなると空間11の圧力変動が大きくなる。このため、冷凍サイクルの高圧と低圧の圧力バランスが崩れ、冷凍サイクル運転への擾乱が発生し、冷凍サイクル運転が不安定となって冷凍サイクルの運転効率が低下する。
【0043】
本実施例によれば、油分離器80内の油を圧縮室底部の油貯溜部4に常時少量ずつ戻すようにしているので、多量の油戻しの回数を少なくすることができ、圧縮機100内の空間11の圧力変動を小さく抑えることができる。従って、冷凍サイクルの高圧と低圧の圧力バランスを保持して、最適な運転条件からずれることを抑制できるから運転効率を向上することができる。
【0044】
また、一時油貯溜室81bに所定の油が溜まった時点で、フロート弁が開いて油を戻すので、圧縮機底部の油貯溜部4の油量が少なくなることも防止でき、給油不足により信頼性が低下するという問題もない。
【0045】
さらに、本実施例によれば、常時連続的に油を戻すために上述した連通溝(副流路)83e1,83e2を設けているが、連通溝83e1,83e2は、フロート弁83の表面に溝加工を施せば良いので、上述した特許文献2に記載のような微細な孔加工をする必要がなく、加工刃具の折損事故も起こり難い。また、少量の油戻しは、寸法ばらつきの小さい流路面積をもつ連通溝を通して行われるため、特許文献2に記載のような弾性変形を利用した弁を使用して戻し油量の調整をする場合に比べて、戻し油量のばらつきを小さく抑えることもできる。
【0046】
油戻し弁部80cを
図5のように構成した場合でも、
図4の構成としたものと同様の効果が得られ、しかも連通溝(副流路)84e1,84e2はフロート弁ホルダ84の上端から円周溝84aの部分まで設けるだけで良いので、連通溝の長さを短くできる効果も得られる。
本実施例2においては、フロート弁83の外側面とフロート弁穴84hの内側面との間に形成される前記隙間に関し、フロート弁ホルダ84の上端部側(円周溝84aより上方側)の隙間85は、弁穴周状溝(円周溝)84aと弁体周状溝(円周溝)83aとの間に形成される隙間86及び弁体周状溝83aより下方側の隙間87よりも大きく形成されている。前記隙間86,87は、油が保持されてシールされる程度の小さな隙間であり、前記隙間85は常時少量の油が流通可能な程度の大きな隙間に構成されている。
これにより、一時油貯溜室81b内の油を、フロート弁83とフロート弁穴84hとの前記隙間(副流路)85を介して、フロート弁ホルダ84の円周溝84aから油戻し孔84bへ流し、さらに油戻しパイプ7cを経由して圧縮機100の油貯溜部4に常時少量ずつ流すことができる。