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  • 特開-車両の伝動機構用ケースの構造 図1
  • 特開-車両の伝動機構用ケースの構造 図2
  • 特開-車両の伝動機構用ケースの構造 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178598
(43)【公開日】2023-12-18
(54)【発明の名称】車両の伝動機構用ケースの構造
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/04 20100101AFI20231211BHJP
   F16H 57/027 20120101ALI20231211BHJP
【FI】
F16H57/04 H
F16H57/027
F16H57/04 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022091376
(22)【出願日】2022-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(74)【代理人】
【識別番号】100096644
【弁理士】
【氏名又は名称】中本 菊彦
(72)【発明者】
【氏名】譚 国棟
【テーマコード(参考)】
3J063
【Fターム(参考)】
3J063AA02
3J063BB39
3J063BB46
3J063XG02
3J063XG42
(57)【要約】
【課題】構造を複雑化することなくケース内の圧力を調整することが可能な車両の伝動機構用ケースの構造を提供する。
【解決手段】モータ3およびオイル10を収容するモータ室7と、モータ室7と並んで配置され、変速機5およびオイル10を収容する変速機室9とを備え、モータ室7または変速機室9の内部を大気に連通させる車両1の伝動機構用ケース6の構造であって、モータ室7と変速機室9とを連通し、かつ車両1が水平状態にあるときのオイル10の油面よりも低い位置に形成される連通流路13と、モータ室7と変速機室9との一方の収容室7,9の鉛直方向で上側に設けられ、一方の収容室7,9の内部空間と外部空間とを連通するブリーザ装置12とを備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータおよびオイルを収容するモータ室と、
前記モータ室と並んで配置され、変速機および前記オイルを収容する変速機室とを備え、
前記モータ室または前記変速機室の内部を大気に連通させる車両の伝動機構用ケースの構造であって、
前記モータ室と前記変速機室とを連通し、かつ前記車両が水平状態にあるときの前記オイルの油面よりも低い位置に形成される連通流路と、
前記モータ室と前記変速機室との一方の収容室の鉛直方向で上側に設けられ、前記一方の収容室の内部空間と外部空間とを連通するブリーザ装置とを備えている
ことを特徴とする車両の伝動機構用ケースの構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両のモータおよび変速機が収容される伝動機構用ケースの構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電動機およびトルクコンバータを収容するモータ収容ケースと、自動変速機を収容する変速機収容ケースとを有するケースを備えた車両のブリーザ装置が開示されている。これらのモータ収容ケースおよび変速機収容ケースは、一体的に締結されているとともに、それぞれが気密になるように仕切られている。また、モータ収容ケースおよび変速機収容ケースには、各ケースの内部空間を外部空間に連通して主に各ケース内の圧力の上昇を防ぐためのモータブリーザ穴および変速機ブリーザ穴がそれぞれに設けられている。これらのモータブリーザ穴および変速機ブリーザ穴は、三方継手を介して圧力を大気へ逃がすための換気装置であるブリーザプラグに連通されている。具体的には、三方継手の第1接続部には変速機ブリーザ穴が連結され、第2接続部にはホース継手を介してモータブリーザ穴が連結され、第3接続部にはブリーザホースを介してブリーザプラグが連結されている。そのため、三方継手によって、変速差収容ケース内の空気と、モータ収容ケース内の空気とが一体化されてブリーザプラグから大気中に開放される。特許文献1によれば、この構成により、モータブリーザ穴および変速機ブリーザ穴のそれぞれがブリーザホースなどを介してブリーザプラグに連結されている場合と比べて、ブリーザホースの本数を少なくすることができるので、ブリーザプラグまでの経路が簡素化され、車両に搭載する際の経路構成の自由度が向上する、としている。
【0003】
特許文献2には、湿式油圧クラッチを収容するクラッチ室と、そのクラッチ室に車両の長手方向(前後方向)で隣接して設けられ、油冷式のモータを収容するモータ室とを有するハウジングを備えたハイブリッド電気自動車のクラッチ及びモータハウジング構造が開示されている。特許文献2に記載の装置では、モータ室はさらにモータのロータを収容するロータ室と、モータのステータを収容するステータ室とに分かれており、ステータ室のステータのみを作動油によって冷却するように仕切られている。ハウジング内において、そのステータ室の上部には、クラッチ室と連通するモータ冷却作動油供給弁室(連通路)が形成されている。この連通路は、ハウジングの上部に凹設されていて、上からボルトによって脱着可能な蓋体によって閉塞されている。また、ステータ室の長手方向でクラッチ室と反対側には、作動油をオイルポンプに案内するための環状回収路が形成されている。さらに、この連通路と車両の短手方向(横方向)にオフセットした位置に、ハウジング外と連通するエアブリーザが設けられている。特許文献2によれば、この構成により、クラッチ室およびステータ室のそれぞれにブリーザ室およびエアブリーザを設けた場合と比較して、部品点数および組み付けの工数を削減して、クラッチ室およびステータ室の圧力上昇時にエアをハウジング外に排出することができる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-108933号公報
【特許文献2】特開2011-126320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された装置では、モータ収容ケースおよび変速機収容ケースのいずれにも穴を設けてそれぞれにホースおよび三方継手を取り付けているので、それらの部品が他の部品と干渉しないように配置や配策する必要があり、ケース外の構成が複雑になってしまう可能性がある。この点において特許文献2に記載の装置では、クラッチ室とステータ室とがハウジング内の上部で連通され、かつステータ室と連通するエアブリーザによってクラッチ室およびステータ室の空気をハウジング外に排出するように構成されている。そのため、ハウジング外にホースや継手を配置する必要がないので、ハウジング外の構成を複雑化することなくブリーザ機構を設けることができる。しかしながら、特許文献2の装置では、作動油や異物等の浸入を抑制するように連通路を凹設して蓋体を取り付けて形成している。つまり、空気の流通を阻害しないように連通路を形成しなければならず、ハウジング内の構造が複雑化するおそれがあった。
【0006】
この発明は、上記の技術的課題に着目してなされたものであって、構造を複雑化することなくケース内の圧力を調整することが可能な車両の伝動機構用ケースの構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、上記の目的を達成するために、モータおよびオイルを収容するモータ室と、前記モータ室と並んで配置され、変速機および前記オイルを収容する変速機室とを備え、前記モータ室または前記変速機室の内部を大気に連通させる車両の伝動機構用ケースの構造であって、前記モータ室と前記変速機室とを連通し、かつ前記車両が水平状態にあるときの前記オイルの油面よりも低い位置に形成される連通流路と、前記モータ室と前記変速機室との一方の収容室の鉛直方向で上側に設けられ、前記一方の収容室の内部空間と外部空間とを連通するブリーザ装置とを備えていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
この車両の伝動機構用ケースの構造によれば、モータ室および変速機室にはオイルが収容されており、モータ室と変速機室とを連通して、そのオイルが流通可能な連通流路が設けられている。そして、内部空間と外部空間とを連通して内圧を調整するためのブリーザ装置がモータ室と変速機室との一方の収容室の鉛直方向の上側に設けられている。そのため、モータ室や変速機室の内圧が変化した場合には、その連通流路によって各ケースの内圧の変化に応じた量のオイルが互いのケースを流通する。さらに、流通したオイルの量および変化した一方の収容室内の気体の体積変化に応じてブリーザ装置から空気が排出あるいは吸入される。したがって、モータ室と変速機室とのそれぞれにブリーザ装置を設ける場合と比較して、少ない部品点数でモータ室および変速機室の内圧を調整することができる。また、車両が水平状態で、モータ室および変速機室に滞留しているオイルの油面より低い位置に設けられた連通流路により、内圧の変化に応じてモータ室と変速機室との間でオイルが移動する構成なので、上述したようなモータ室と変速機室との空気を連通させつつオイルの浸入を防ぐように連通路を設ける構成と比較して、連通する部位の構成を簡素にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】この発明の実施形態における伝動機構用ケースが搭載された車両を示す図であって、車両が水平な地点において停止し、かつ静止した状態を示す図である。
図2図1に示す車両の前方側が下向きに傾斜したときの伝動機構用ケースおよびオイルの状態を説明するための図である。
図3図1に示す車両の後方側が下向きに傾斜したときの伝動機構用ケースおよびオイルの状態を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、この発明を図に示す実施形態に基づいて説明する。なお、以下に説明する実施形態はこの発明を具体化した場合の一例に過ぎないのであって、この発明を限定するものではない。
【0011】
この発明の実施形態における伝動機構用ケースの構造が適用される車両の一例を図1に示してある。図1に示す車両1は、駆動力源としてエンジン2およびモータ3と、それらの駆動力源のトルクを増幅して伝達するトルクコンバータ4と、トルクコンバータ4から伝達されたトルクを図示しない駆動輪に伝達するための変速機5を備えたハイブリッド車両である。車両1では、図1に示すように、モータ3、トルクコンバータ4、および変速機5が伝動機構用ケース6(以下、単にケース6と称する)に収容されている。なお、車両1は、エンジン2側が車両1の前方側であり、変速機5側が車両1の後方側となっている。
【0012】
エンジン2は、例えば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関であり、出力の調整、ならびに、始動および停止などの作動状態が電気的に制御するように構成される。ガソリンエンジンであれば、スロットルバルブの開度、燃料の供給量または噴射量、点火の実行および停止、ならびに、点火時期などが電気的に制御される。また、ディーゼルエンジンであれば、燃料の噴射量、燃料の噴射時期、あるいは、スロットルバルブの開度などが電気的に制御される。このエンジン2の出力側にモータ3が設けられている。
【0013】
モータ3は、電気エネルギを機械的エネルギに変換する、もしくは、機械的エネルギを電気エネルギに変換する。モータ3は、例えば、永久磁石式の同期電動機であり、コイル(図示なし)を備えた環状のステータ3aと、ステータ3aの内周側で同心円状に配置され、外周部に永久磁石(図示なし)が取り付けられたロータ3bとによって構成されている。モータ3には、インバータ(図示せず)を介して、バッテリ(図示せず)が接続されている。バッテリに蓄えられている電力をモータ3に供給し、モータ3を原動機として機能させて駆動トルクを出力することができる。また、モータ3を発電機として機能させ、その際に発生する電力をバッテリに蓄えるように構成してもよい。すなわち、モータ3は、原動機としての機能と発電機としての機能とを兼ね備えた、いわゆるモータ・ジェネレータであってもよい。
【0014】
そのモータ3の出力側に、フルード(オイル)によってトルクを伝達するトルクコンバータ4が設けられている。このトルクコンバータ4は、従来のトルクコンバータと同様に構成することができる。すなわち、モータ3の出力側に連結されたポンプインペラ(図示せず)と、ポンプインペラに対向して配置され、トランスミッションの入力側に連結されたタービンランナ(図示せず)と、ポンプインペラとタービンランナとの間に配置されたステータ(図示せず)とによって構成されている。トルクコンバータ4は、ポンプインペラによって生じさせられた流体流を受けて、タービンランナが回転することによってトルクが伝達されるように構成されている。また、ステータは、ポンプインペラとタービンランナとの速度比に応じてオイルの流動方向を変化させる、あるいは流動方向を維持するように構成されている。
【0015】
変速機5は、エンジン2およびモータ3、すなわち、駆動力源と駆動輪との間に設けられており、駆動力源と駆動輪との間で、駆動力源の出力トルクを伝達する。図1に示すように、変速機5は、トルクコンバータ4を介して、エンジン2およびモータ3の出力側に連結されおり、エンジン2およびモータ3と駆動輪との間で、エンジン2またはモータ3の出力トルクを駆動輪側に伝達する。そして、変速機5は、変速比を適宜に変更できる装置であって、図示しないギヤの噛み合いやクラッチなどの係合および解放等を組み合わせることによって変速比または変速段を変更する。なお、変速機5から出力されたトルクは、変速機5の出力軸からプロペラシャフト、ディファレンシャルギヤおよびドライブシャフト(いずれも図示なし)などを介して駆動輪に伝達される。
【0016】
上記のように構成されたモータ3、トルクコンバータ4および変速機5は、ケース6に収容されている。ケース6は、外部に対して遮蔽されており、そのケース6の内部では、モータ3、トルクコンバータ4および変速機5のそれぞれが互いに仕切られた状態でケーシングされている。すなわち、ケース6は、図1に示すように、モータ3を収容するモータケース(モータ室)7と、トルクコンバータ4を収容するトルクコンバータケース8と、変速機5を収容する変速機ケース(変速機室)9とによって構成されている。図1に示すように、エンジン2の出力側(車両1の前方側)からモータケース7、トルクコンバータケース8および変速機ケース9の順で、水平方向(車両1の前後方向)に並んで配置されている。
【0017】
また、モータケース7および変速機ケース9内には、例えばモータ3のコイルエンド(図示なし)や、変速機5を構成するクラッチおよびギヤ(いずれも図示なし)などを冷却あるいは潤滑するためのオイル10が滞留している。具体的には、このオイル10は、図1に示すように、車両1が水平な地点で停止し、かつ静止した状態、つまり車両Veが水平状態にある場合の油面高さ、すなわち静的油面の高さが、モータ3におけるステータ3aの鉛直方向下側の一部が浸かる程度の油面高さで滞留している。また、オイル10は、変速機ケース9内の下部に設けられ、オイル10の一部をケース6内の他の部位に供給するためのバルブボディ11が浸かる程度の油面高さで滞留している。なお、図示は省略しているが、トルクコンバータケース8の内部には上述したようにトルクを伝達するためのフルード(オイル)が封入されている。したがって、トルクコンバータケース8は、ケース6内で隣接するモータケース7および変速機ケース9や、ケース6の外部に対しても全体的に遮蔽された状態で保持されている。
【0018】
また、変速機ケース9におけるトルクコンバータケース8側、つまり車両1の前方側の鉛直方向で上側の上面には、ブリーザ装置12が設けられている。ブリーザ装置12は、変速機ケース9の内部空間と外部空間とを連通するものであって、温度上昇等によるケース6内の過剰な圧力の上昇を抑制するためのものである。言い換えれば、ブリーザ装置12は、モータケース7および変速機ケース9の内部を大気に連通させるように構成されている。このブリーザ装置12は、通気孔のような構成であってよく、例えば、変速機ケース9を鉛直方向に貫通する孔に円筒形状の部材を一体化させた構成であってよい。そのように構成されている場合には、その通気孔から水や異物が侵入することを防止するために、通気孔を覆うとともに外気と連通する孔を有するカバーを設けると良い。すなわち、変速機ケース9の内部空間が大気とつながるように構成されていればよく、変速機ケース9内の圧力の上昇、あるいは低下に応じて適宜調圧することができるように構成されていればよい。
【0019】
さらに、ケース6におけるモータケース7および変速機ケース9の鉛直方向で下側には、互いのケース7,9内を連通する連通流路13が形成されている。具体的には、連通流路13は、モータケース7および変速機ケース9の底面より僅かに高い位置であって、かつトルクコンバータケース8の下側を通って形成されている。言い換えれば、トルクコンバータケース8の下部を貫通するように形成されている。この連通流路13は、ケース6の内圧の変化に応じてオイル10が滞りなく流通できる程度で、かつ車両1の傾きや揺れ等によって短時間でオイル10がモータケース7と変速機ケース9との一方のケース(一方の収容室)7,9に偏って滞留してしまうことを防ぐことができる程度の流量となるように設計されている。また、連通流路13は、図1に示すように、車両1が水平な地点に停止して静止している状態において、モータケース7および変速機ケース9の下部に滞留しているオイル10の油面より低い位置に形成されている。したがって、車両1が水平な地点に在る場合には、連通流路13内は常にオイル10で満たされており、かつモータケース7内と変速機ケース9内とでオイル10が共有されている。
【0020】
なお、ケース6内の各ケース7,8,9同士の接合部分や、モータケース7とエンジン2の出力側との連結部分等には、主にオイル10や異物等の侵入を防ぐためのシール部材(図示なし)が設けられている。このシール部材には、上述した連通流路13により、例えばモータケース7内の温度上昇によって上昇したモータケース7の内圧に応じて変速機ケース9側に押し出されたオイル10の量に応じた内圧が生じる。したがって、シール部材は、そのような内圧の上昇などの変化にも耐えられるような構成となっている。
【0021】
また、連通流路13によってモータケース7と変速機ケース9とに滞留するオイル10が互いのケース6内を相互に行き来できるため、車両1が登り坂や下り坂を走行したり、あるいはそのような地点で停車したりする場合には、オイル10が一方のケース7,9に偏ることになり、各ケース7,9内における油面が変化する。その一例として、図2には、車両1が下り坂の地点に在る状態を示し、図3には、車両1が上り坂の地点に在る状態を示してある。車両1が下り坂に在る場合には、図2に示すように、モータケース7側にオイル10が偏るとともに、モータケース7および変速機ケース9の車両1前方側の下部には、オイル10によって高い水頭圧が生じる。あるいは、車両1が上り坂に在る場合には、図3に示すように、変速機ケース9側にオイル10が偏るとともに、モータケース7および変速機ケース9の車両1後方側の下部には、オイル10によって高い水頭圧が生じる。したがって、このような位置の近傍に設けられているシール部材は、そのような水頭圧にも耐えられるように設計されている。
【0022】
このように構成された車両1において、例えばモータ3が稼働することによりモータケース7内の温度が上昇すると、それに伴い、モータケース7および変速機ケース9に存在するオイル10や空気の熱膨張によって内圧も上昇する。そのため、モータケース7では、その内圧の上昇に応じて滞留するオイル10の一部が連通流路13を介して変速機ケース9側に押し出される。また、変速機ケース9では、変速機ケース9における温度上昇によって上昇する内圧と、連通流路13を介して押し出されてきたオイル10の体積とに応じて、変速機ケース9内の空気がブリーザ装置12を介して外部空間に押し出される。反対に、ケース6が急激に冷却された場合には、モータケース7および変速機ケース9に存在するオイル10や空気の体積が小さくなることによって内圧が低下する。そのため、モータケース7では、冷却によって小さくなったオイル10および空気の体積に応じて変速機ケース9側の下部に滞留しているオイル10の一部を吸い込む。そして、変速機ケース9では、モータケース7側に吸い込まれたオイル10の体積と、変速機ケース9内の冷却によって小さくなったオイル10および空気の体積とに応じてケース6の外部空間の空気を吸い込む。このようにして、モータケース7および変速機ケース9内の圧力が調整される。
【0023】
また、図2に示すように、車両1が下り坂を走行している場合には、車両1の傾きによってモータケース7側にオイル10が偏って収容される。この場合には、モータケース7側にオイル10が偏って収容されるものの、連通流路13の形成されている高さや、モータケース7の幅方向の大きさ、および封入されているオイル10の量などにより、連通流路13にはオイル10が満たされた状態になっている。反対に、図3に示すように、車両1が上り坂の地点に在る場合には、変速機ケース9側にオイル10が偏って収容される。変速機ケース9は、モータケース7に対して幅方向に大きく形成されているものの、連通流路13の高さや封入されているオイル10の量、あるいは連通流路13の断面積などによって、直ちに空気が連通流路13を通過することが抑制される。したがって、モータケース7および変速機ケース9の内圧が変化した場合には、上述した調圧作用と同様の調圧が行われる。なお、このような構成は連通流路13に空気が侵入することを抑制するものではない。つまり、モータケース7もしくは変速機ケース9の一方にオイル10が寄ることによって連通流路13を空気が流通した状態で内圧が変化した場合には、連通流路13を内圧に応じた空気が流通する。また、その状態から車両1が水平になるとオイル10が各ケース7,9の内圧に応じた油面高さまで戻る。すなわち、連通流路13を空気が流通したとしても、オイル10が流通している場合と同様に、モータケース7および変速機ケース9の内圧を調整することができる。
【0024】
このように構成された車両1によれば、モータケース7および変速機ケース9の下部にはオイル10が滞留しており、モータケース7と変速機ケース9とを連通して、その滞留したオイル10が流通可能な連通流路13が設けられている。また、内部空間と外部空間とを連通して内圧を調整するためのブリーザ装置12が変速機ケース9のみに設けられている。そのため、モータケース7や変速機ケース9の内圧が変化した場合には、その連通流路13によって各ケース7,9の内圧の変化に応じた量のオイル10が互いのケース7,9を流通する。さらに、流通したオイル10の量や変化した変速機ケース9内の気体の体積変化に応じてブリーザ装置12から空気が排出あるいは吸入される。したがって、モータケース7と変速機ケース9とのそれぞれにブリーザ装置12を設ける場合と比較して、少ない部品点数でモータケース7および変速機ケース9のいずれのケース7,9の内圧を調整することができる。また、車両1が水平状態で、モータケース7および変速機ケース9に滞留しているオイル10の油面より低い位置に設けられた連通流路13により、内圧の変化に応じてモータケース7と変速機ケース9との間でオイル10が移動する構成なので、上述したようにオイル10の浸入を防ぎつつモータケース7と変速機ケース9との空気を連通させるように連通路を設ける構成と比較して、連通する部位の構成を簡素にすることができる。
【0025】
以上、この発明の実施形態について説明したが、この発明は上述した例に限定されないのであって、この発明の目的を達成する範囲で適宜変更してもよい。例えば、上述した車両1は、少なくともモータ3およびオイル10を収容するモータケース7と変速機5およびオイル10を収容する変速機ケース9とを備えていればよく、複数のモータ3およびそれらを収容するモータケース10を備えたハイブリッド車両1であってもよい。また、ブリーザ装置12は、変速機ケース9に設けられることに限らず、モータケース7に設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0026】
1 車両
3 モータ
5 変速機
6 ケース(伝動機構用ケース)
7 モータケース(モータ室)
9 変速機ケース(変速機室)
10 オイル
12 ブリーザ装置
13 連通流路
図1
図2
図3