(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178610
(43)【公開日】2023-12-18
(54)【発明の名称】デジタル保護リレーおよびその保全管理システム
(51)【国際特許分類】
H02H 3/05 20060101AFI20231211BHJP
【FI】
H02H3/05 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022091394
(22)【出願日】2022-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】関 周一
【テーマコード(参考)】
5G142
【Fターム(参考)】
5G142AA16
5G142AC06
5G142BB07
5G142BC02
5G142CC08
5G142GG02
5G142GG07
5G142GG09
(57)【要約】
【課題】予防保全が可能な常時監視機能を備えたデジタル保護リレーを提供する。
【解決手段】デジタル保護リレー100において、演算処理部30は、アナログ入力部20によってデジタル変換された電気量の測定値を用いて保護リレー演算を実行する。演算処理部30は、保護リレー演算の空き時間に、少なくとも入力変換部10およびアナログ入力部20について常時監視処理を実行する。演算処理部30は、常時監視処理において、デジタル変換された電気量の測定値を用いて算出した判定値が閾値を超えているという異常判定条件が規定時間継続した場合に、入力変換部10またはアナログ入力部20を故障と判定し、異常判定条件の継続時間が規定時間に到達しなかった場合に、入力変換部10またはアナログ入力部20の劣化度合いを表す情報を記録する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のチャンネルを介して入力された電力系統の電気量の測定値をレベル変換する入力変換部と、
前記入力変換部によってレベル変換された前記電気量の測定値をデジタル変換するアナログ入力部と、
前記デジタル変換された電気量の測定値を用いて保護リレー演算を実行する演算処理部とを備え、
前記演算処理部は、前記保護リレー演算の空き時間に、少なくとも前記入力変換部および前記アナログ入力部について常時監視処理を実行し、
前記演算処理部は、前記常時監視処理において、前記デジタル変換された電気量の測定値を用いて算出した判定値が閾値を超えているという異常判定条件が規定時間継続した場合に、前記入力変換部または前記アナログ入力部を故障と判定し、前記異常判定条件の継続時間が前記規定時間に到達しなかった場合に、前記入力変換部または前記アナログ入力部の劣化度合いを表す情報を記録する、デジタル保護リレー。
【請求項2】
前記劣化度合いを表す情報は、前記異常判定条件の継続時間を含む、請求項1に記載のデジタル保護リレー。
【請求項3】
前記劣化度合いを表す情報は、前記異常判定条件が満たされてから前記規定時間が経過するまでの間に得られた複数の前記判定値を含む、請求項1に記載のデジタル保護リレー。
【請求項4】
前記演算処理部は、前記判定値が前記閾値に到達したか否かに拘わらず、前記劣化度合いを表す情報として定期的に前記判定値を記録する、請求項1に記載のデジタル保護リレー。
【請求項5】
前記劣化度合いを表す情報を送信するための通信装置をさらに備える、請求項1~4のいずれか1項に記載のデジタル保護リレー。
【請求項6】
請求項5に記載のデジタル保護リレーと、
保守拠点に設けられ、前記デジタル保護リレーから前記劣化度合いを表す情報を受信する監視用サーバとを備える、デジタル保護リレーの保全管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、デジタル保護リレーおよびその保全管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
保護リレーの高い信頼性を担保するために、ハードウェア自身に自己診断によって不良を検知する常時監視機能が搭載されている。常時監視のための演算は、リレー演算周期のうちのリレー演算処理の隙間時間を活用して実行される。
【0003】
具体的に、特開2008-118747号公報(特許文献1)の段落[0002]に記載されているように、監視項目別に定められた異常検出条件に従って異常が確認されると、外部警報が出力される。出力された外部警報は、遠方監視制御盤等を通じて保守拠点に通知される。保守拠点の保守員は外部警報を受けると、例え休日夜間等であっても異常の発生したデジタル保護リレー装置のもとへ急行し、異常内容等の確認を行なった上で、復旧処置を実施している。
【0004】
一旦不良が発生すると、上記のように緊急対応による原因調査・復旧作業が必要となってしまうため、不良を過剰に検出し過ぎないような対策が必要である。このため、デジタル保護リレーの検査項目の中には、不良症状が一定時間継続した場合にのみ異常を報知するように設定されているものがある(たとえば、非特許文献1の2.14表)。上記の継続時間としては、たとえば、10秒、15秒、20秒、60秒等が設定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】保護リレーシステム基本技術調査専門委員会編、「保護リレーシステム基本技術体系」、電気学会技術報告第641号、1997年7月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
不良症状の継続時間が上記の設定時間に満たず、すぐ消えてしまうような一過性故障の場合には、外部警報が出力されないだけでなく、記録にも残らない。このため、従来の常時監視機能は、基本的に事後保全であり、予防保全は想定されていない。
【0008】
上記の特許文献1では、異常検出条件の閾値には満たないが、装置の部品が劣化したと判定できる判定値を設定して、装置の部品が判定値に至るとメンテナンス情報を通知するという予防保全方法が提案されている。しかしながら、一旦部品の劣化が発生すると異常検出条件の閾値を超える場合が多く、正常状態と異常状態との間に適切な劣化判定条件を設定するのは容易でない。
【0009】
本開示は、上記の問題点を考慮してなされたものであり、その目的の1つは、予防保全が可能な常時監視機能を備えたデジタル保護リレーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一実施形態のデジタル保護リレーは、入力変換部と、アナログ入力部と、演算処理部とを備える。入力変換部は、複数のチャンネルを介して入力された電力系統の電気量の測定値をレベル変換する。アナログ入力部は、入力変換部によってレベル変換された電気量の測定値をデジタル変換する。演算処理部は、デジタル変換された電気量の測定値を用いて保護リレー演算を実行する。演算処理部は、保護リレー演算の空き時間に、少なくとも入力変換部およびアナログ入力部について常時監視処理を実行する。演算処理部は、常時監視処理において、デジタル変換された電気量の測定値を用いて算出した判定値が閾値を超えているという異常判定条件が規定時間継続した場合に、入力変換部またはアナログ入力部を故障と判定し、異常判定条件の継続時間が規定時間に到達しなかった場合に、入力変換部またはアナログ入力部の劣化度合いを表す情報を記録する。
【発明の効果】
【0011】
上記の実施形態によれば、常時監視処理において、異常判定条件の継続時間が規定時間に到達しなかった場合に、監視対象である入力変換部またはアナログ入力部の劣化度合いを表す情報を記録することによって、予防保全が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】デジタル保護リレーの構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】実施の形態1のデジタル保護リレーにおいて常時監視手順を示すフローチャートである。
【
図4】判定値の時間変化の一例とそれに基づく故障判定結果を概念的に示す図である。
【
図5】実施の形態2の保護リレー装置において常時監視手順を示すフローチャートである。
【
図6】零相監視の場合に
図5のステップS70Aにおいて格納されるデータの一例を示す図である。
【
図7】実施の形態3のデジタル保護リレーにおいて定期的に実行される監視手順を説明するためのフローチャートである。
【
図8】演算処理部の不揮発性メモリに格納される情報を表形式で示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、各実施の形態について図面を参照して詳しく説明する。なお、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して、その説明を繰り返さない。
【0014】
実施の形態1.
[デジタル保護リレーの概略構成]
図1は、デジタル保護リレーの構成の一例を示すブロック図である。
図1を参照して、デジタル保護リレー100は、入力変換部10と、アナログ入力部20と、演算処理部30と、IO(Input and Output)部40と、バス50と、電源装置51と、電源監視装置52と、通信装置53とを備える。以下、各要素の構成および動作を簡単に説明する。
【0015】
入力変換部10は、複数のチャンネルの各々に対して設けられた入力変換器11(11A,11B)を含む。
図1では代表的に2チャンネルのみ示されている。
【0016】
入力変換器11の各々は、電線路1に設けられた電圧変成器(VT:Voltage Transformer)2によって検出された電圧信号または電線路1に設けられた電流変成器(CT:Current Transformer)3によって検出された電流信号を、デジタル保護リレー100の内部での信号処理に適した信号レベルに変換する。入力変換器11として、たとえば、補助変成器(補助変圧器、補助変流器)が用いられる。
【0017】
なお、電線路1は三相交流の電線路(すなわち、送電線または配電線)として構成されているが、
図1では図解を容易にするために1本の線で表示している。したがって、電圧変成器2および電流変成器3の各々は、実際には相ごとに設けられており、これに対応して入力変換器11も相ごとに3チャンネル分が設けられている。
【0018】
アナログ入力部20は、チャンネルごとに設けられたアナログフィルタ21(21A,21B)と、チャンネルごとに設けられたサンプルホールド回路(S/H:Sample and Hold)22(22A,22B)と、マルチプレクサ(MUX:Multiplexer)23と、アナログデジタル変換器(ADC:Analog to Digital Converter)24と、基準電圧源25とを含む。
【0019】
アナログフィルタ21は、アナログデジタル変換器24でのサンプリングによる折り返し誤差を避けるために設けられる。アナログフィルタ21は、理想的にはサンプリング周波数の1/2以上を減衰させる低域通過フィルタであってもよいし、実用的には電力系統の定格周波数からサンプリング周波数の間で大きな減衰が得られるものであってもよい。
【0020】
サンプルホールド回路22は、チャンネルごとの電圧信号または電流信号をサンプリングして保持する。サンプルホールド回路22は必ずしも設けられていなくてもよい。マルチプレクサ23は、各チャンネルのサンプルホールド回路22に保持された値を順次選択する。アナログデジタル変換器24は、マルチプレクサ23によって選択された値をAD変換する。
【0021】
演算処理部30は、中央処理装置(CPU:Central Processing Unit)31と、メモリ32とを含む。メモリ32は、主記憶として用いられるROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)、ならびに補助記憶として用いられる電気的に書き換え可能な不揮発性メモリなどを含む。
【0022】
演算処理部30は、リレー演算処理を実行するとともに、リレー演算処理の空き時間を使って常時監視処理を実行する。演算処理部30のこれらの機能は、メモリ32に格納されたプログラムを中央処理装置31が実行することによって実現される。
【0023】
IO部40は、複数のデジタル出力回路(D/O:Digital Output)41および複数のデジタル入力回路(D/I:Digital Input)42を含む。
図1では、代表的に1つのデジタル出力回路41と1つのデジタル入力回路42とが示されている。
【0024】
デジタル出力回路41は、デジタル保護リレー100の外部にデジタル信号(すなわち、ハイレベルおよびロウレベルを有する論理値)を出力する。たとえば、デジタル出力回路41は、電線路1に設けられた遮断器(CB:Circuit Breaker)4を開路するためのトリップ回路43にトリップ信号を出力する。なお、演算処理部30は、バス50およびデジタル出力回路41を介してトリップ回路43の断線を検出可能である。
【0025】
デジタル入力回路42は、デジタル保護リレー100の外部からデジタル信号(すなわち、ハイレベルおよびロウレベルを有する論理値)を受信する。たとえば、デジタル入力回路42は、電線路1に設けられた遮断器4および開閉器(不図示)の開閉状態を表す接点情報を受信する。
【0026】
電源装置51は、デジタル保護リレー100の各部に電力を供給する。電源監視装置52は、電源装置51から出力される電圧および電流の各々が規定範囲内にあるかどうかを監視する。
【0027】
通信装置53は、保守拠点に設けられた監視用サーバ54との間で情報のやりとりを行う。たとえば、演算処理部30は、通信装置53を介して監視用サーバ54に常時監視処理の結果を出力する。デジタル保護リレー100と監視用サーバ54とによって保全管理システムが構築される。
【0028】
[常時監視機能の概要]
演算処理部30は、デジタル保護リレー100の入力部から出力部までの全体を、ハードウェアのブロック単位で常時監視する。常時監視演算は、リレー演算周期のうち、リレー演算以外の空き時間を利用して実行される。たとえば、電力系統の定格周波数を50Hzとして電気角30度ごとにリレー演算を実行すると、リレー演算の周期は約1.67ミリ秒である。したがって、常時監視の周期も約1.67ミリ秒になる。
【0029】
図2は、常時監視項目の例を表形式で示す図である。
図2の表は、たとえば、非特許文献1(「保護リレーシステム基本技術体系」、電気学会技術報告第641号、1997年7月)の2.14表に基づくものである。
図2に示す常時監視項目の例では、演算処理部30は、異常検出条件が一定時間継続した場合に異常と判定する。
【0030】
具体的に、逆相監視では、演算処理部30は、電力系統の三相電圧および三相電流を測定値として取り込み、対称座標法による逆相電圧および逆相電流の大きさを判定値として算出する。演算処理部30は、判定値として算出した逆相電圧および逆相電流の大きさが閾値を超えているという異常判定条件が一定時間継続しているか否かを判定する。
【0031】
零相監視では、演算処理部30は、電力系統の三相電圧および三相電流を測定値として取り込み、対称座標法による零相電圧および零相電流の大きさを判定値として算出する。演算処理部30は、判定値として算出した零相電圧および零相電流の大きさが閾値を超えているという異常判定条件が一定時間継続しているか否かを判定する。
【0032】
AD変換の精度チェックでは、演算処理部30は、基準電圧源25の出力電圧をマルチプレクサ23によって選択し、アナログデジタル変換器24によってAD変換された値を測定値として取り込む。演算処理部30は、基準電圧源25の出力電圧のAD変換値と期待値との誤差を判定値として算出する。演算処理部30は、判定値として算出したAD変換誤差の大きさが閾値を超えているという異常判定条件が一定時間継続しているか否かを判定する。
【0033】
D/I入力監視では、演算処理部30は、異なるデジタル入力回路42を介して、同一接点(遮断器、開閉器)の開閉状態の情報を検出する。演算処理部30は、検出した同一接点の接点情報が不一致であるという異常判定条件が一定時間継続しているか否かを判定する。
【0034】
D/O出力監視では、演算処理部30は、デジタル出力回路41を介して出力した開閉指令の結果を、デジタル入力回路42によって検出する。演算処理部30は、出力された開閉指令とその結果とが不一致であるという異常判定条件が一定時間継続しているか否かを判定する。
【0035】
トリップ回路監視では、演算処理部30は、トリップコイルに動作最小電流よりも十分に小さい電流を流したときに、高抵抗となってその電流を検出できないという断線状態(異常判定条件)が一定時間継続しているか否かを判定する。
【0036】
電源監視では、電源装置51の出力電圧の測定結果と期待値との誤差の大きさが閾値を超えているという異常判定条件が、一定時間継続しているか否かを判定する。
【0037】
このように、上記の常時監視機能では、演算処理部30は、監視対象に関係する電気量または論理値を測定し、測定した電気量または論理値に基づく異常判定条件が一定時間継続しているか否かを判定する。演算処理部30は、異常判定条件が一定時間継続している場合に、監視対象の部品またはユニットが故障であると判定する。
【0038】
[劣化検出機能]
次に、監視対象である部品またはユニットが故障にまで至らない場合に、その劣化の程度を検出する予防保全方法について説明する。
【0039】
図3は、実施の形態1のデジタル保護リレーにおいて常時監視手順を示すフローチャートである。常時監視機能は、保護リレー演算の演算周期ごとに保護リレー演算の空き時間に実行される。
【0040】
ステップS10において、
図1の演算処理部30は、監視対象のユニットに関連する電気量(すなわち、電圧または電流)または論理値を測定し、測定値を取り込む。たとえば、
図2の逆相監視および零相監視の場合には、電力系統の三相電圧または三相電流が測定値として取り込まれ、AD変換の精度チェックの場合には基準電圧源25の出力電圧が測定値として取り込まれる。D/I入力監視およびD/O出力監視の場合には、デジタル入力回路42を介して、“1”または“0”の論理値が測定値として取り込まれる。トリップ回路の監視の場合には、監視対象のトリップコイルを流れる電流が測定値として取り込まれ、電源監視では、電源装置51の出力電圧が測定値として取り込まれる。
【0041】
次のステップS20において、演算処理部30は、取り込んだ測定値に基づいて判定値を演算する。たとえば、
図2の逆相監視の場合には、逆相電圧および逆相電流の大きさが判定値として演算され、零相監視の場合には、零相電圧および零相電流の大きさが判定値として演算される。A/D変換の精度チェックの場合には、測定値と期待値との誤差の大きさが判定値として演算される。D/I入力監視では、異なる第1および第2のデジタル入力回路42を介して取り込まれた論理値の差が判定値として演算される。D/O出力監視では、デジタル出力回路41を介して出力した論理値と、デジタル入力回路42を介して取り込まれた論理値との差が判定値として演算される。トリップ回路監視の場合には、測定した電流値が判定値として用いられる。電源監視の場合には、測定値と期待値との誤差の大きさが判定値として演算される。
【0042】
その次のステップS30において、演算処理部30は、ステップS20で演算した判定値が閾値を超えているか、すなわち、異常判定条件が満たされているか否かを判定する。判定値が閾値以下の場合、すなわち、異常判定条件が満たされていない場合には(ステップS30でNO)、演算処理部30は常時監視処理を終了する。
【0043】
一方、判定値が閾値を超えている場合には(ステップS30でYES)、次のステップS40において演算処理部30は、判定値が閾値を超えている状態が一定時間継続するか、すなわち、異常判定条件が満たされた状態が一定時間継続するか否かを判定する。
図3の場合、一定時間として、たとえば20秒の規定時間が選択されている。
【0044】
判定値が閾値を超えている状態が一定時間継続した場合には(ステップS40でYES)、ステップS50において演算処理部30は、監視対象のユニットが故障であると判定し、故障と判定した監視項目および故障発生日時などの故障情報を不揮発性メモリに保持する。さらに、その次のステップS60において、演算処理部30は、デジタル保護リレー100の外部に警報を出力する。具体的には、演算処理部30は、デジタル出力回路41を介して警報を監視制御盤などに通知する。さらに監視制御盤などから保守拠点に異常警報が通知される。
【0045】
一方、判定値が閾値を超えている状態が一定時間継続しなかった場合には(ステップS40でNO)、ステップS70において演算処理部30は、監視対象の劣化状態を表す情報として、異常判定条件の継続時間を、監視項目および日時などの情報とともに不揮発性メモリに記録する。
【0046】
次のステップS80において、演算処理部30は、不揮発性メモリに記憶した情報を保守拠点に設けられた監視用サーバ54に送信する。以上によって、常時監視手順が終了する。
【0047】
図4は、判定値の時間変化の一例とそれに基づく故障判定結果を概念的に示す図である。
図4を参照して、時刻t1において判定値が閾値THを超えたとする。この時点では、故障判定結果はロウ(L)レベルであり、故障確定に至っていない。
【0048】
時刻t2において、判定値が閾値THを超えた状態が規定時間(この場合、20秒)を超える。これにより、故障判定結果はハイ(H)レベルになって故障確定に至る。
【0049】
一方、時刻t2に到達する前の時刻t3において(時刻t1から19秒経過)、判定値が閾値(TH)以下に戻った場合には故障確定には至らない。この場合、演算処理部30は、判定値が閾値THを超えた状態の継続時間を、監視対象の劣化状態を表す予防保全のための情報として記録する。
【0050】
[実施の形態1の効果]
以上の常時監視手順によれば、異常判定条件が満たされた状態が規定時間継続せずに、故障と判定されない場合であっても、監視対象の劣化状態を表す情報が記録される。したがって、部品の劣化が進行している様相をとらえ、劣化度合いを診断できる。たとえば、保守拠点の監視用サーバ54は、蓄積された複数回の異常継続時間の記録に基づいて部品の交換時期を予測してもよく、この予測にはAI(Artificial Intelligence)技術を用いてもよい。これにより、装置の故障が確定する前の予防保全が可能になるので、突発的な部品の交換を防ぎ、設備更新を計画的に実施できる。
【0051】
さらに、前述の特許文献1(特開2008-118747号公報)との比較において、本実施の形態の場合には、故障判定のための閾値とは別に劣化判定のための判定基準を用いる必要がないというメリットがある。このような判定基準を設定することは、実際上困難であるからである。
【0052】
なお、上記では、不揮発性メモリに記憶した故障情報または予防保全のための情報を、保守拠点に設けられた監視用サーバ54に送信するようにしたが、必ずしも情報送信は必要ない。たとえば、保守拠点の保守員が定期的にデジタル保護リレー100の設定場所に出向き、不揮発性メモリから情報を取り出すようにしてもよいし、デジタル保護リレー100の所有者が定期的に不揮発性メモリから情報を取り出すようにしてもよい。
【0053】
また、電力系統の電気量(電圧および電流)を利用する監視項目(たとえば、
図2の逆相監視および零相監視)の場合には、測定値には、電力系統からの影響(フリッカ、機器高調波、電圧変動、周波数変動等)も含まれる。したがって、デジタル保護リレーの劣化診断のみならず、電力系統に起因する不要警報発報またはリレー誤動作を未然に防止できる。
【0054】
実施の形態2.
実施の形態2では、異常判定条件が満たされた状態が規定時間継続せずに、故障と判定されない場合の記録される監視対象の劣化度合いを表す情報が、実施の形態1の場合と異なる。以下、図面を参照して具体的に説明する。
【0055】
図5は、実施の形態2の保護リレー装置において常時監視手順を示すフローチャートである。
図5の常時監視手順はステップS70に代えてステップS70Aが設けられている点で
図3のフローチャートと異なる。
【0056】
具体的に、異常判定条件が満たされた状態が規定時間(
図5の場合、20秒)継続しなかった場合(ステップS40でNO)、演算処理部30は処理をステップS70Aに進める。ステップS70Aにおいて、演算処理部30は、判定値が閾値を超えてから(すなわち、異常判定条件が満たされてから)上記の規定時間内の判定値のデータを、監視項目および日時とともに不揮発性メモリに記録する。ここで、常時監視の周期(たとえば、1.67ミリ秒)ごとに判定値を記録すると記録するデータ量が多すぎるので、演算処理部30は、たとえば、1秒ごとに間引いて判定値のデータを記録する。
図5のその他の点は
図3の場合と同様であるので、同一または相当するステップには同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0057】
図6は、零相監視の場合に
図5のステップS70Aにおいて格納されるデータの一例を示す図である。20秒の規定時間のうち最初の5秒だけ、判定値(零相電流)が閾値0.2Aを超えている。残りの15秒間の間は、判定値は閾値を超えていない。
図6の場合、判定値のデータは、1秒ごとに間引いて記録される。
【0058】
以上のとおり、実施の形態2の保護リレー装置における常時監視によれば、実施の形態1の場合と同様に、異常判定条件が満たされた状態が規定時間継続せずに、故障と判定されない場合であっても、監視対象の劣化状態を表す情報が記録される。したがって、部品の劣化が進行している様相をとらえ、劣化度合いを診断できる。
【0059】
特に、実施の形態1の場合には、判定値が閾値を超えた状態の継続時間のみ記録するので、監視対象の劣化度合いを診断するには、繰り返し多くの情報を集めなければならなかった。一方、実施の形態2の場合には、1回の情報には、規定時間内での判定値の時間変化が含まれる。したがって、実施の形態1の場合よりも短い期間に得られた複数の情報に基づいて劣化度合いを診断できる。
【0060】
なお、実施の形態1と実施の形態2とを組み合わせて実行してもよい。すなわち、異常判定条件が満たされた状態が規定時間継続しなかった場合には、演算処理部30は、監視対象の劣化度合いを表す情報を記録する。ここで、劣化度合いを表す情報は、異常判定条件の継続時間であってもよいし、異常判定条件が満たされてから規定時間内に取得された監視対象に関する複数の測定値または複数の判定値であってもよいし、これらの両方であってもよい。
【0061】
実施の形態3.
実施の形態3のデジタル保護リレーでは、判定値が閾値を超えていなくても、予め定めた期間ごとに監視対象に関係する電気量の測定値または判定値が記録される。実施の形態3の監視手順は、実施の形態1および実施の形態2の常時監視手順に組み合わせて実行される。以下、図面を参照して具体的に説明する。
【0062】
図7は、実施の形態3のデジタル保護リレーにおいて定期的に実行される監視手順を説明するためのフローチャートである。
【0063】
ステップS100において、演算処理部30は、監視対象の定期的な測定日であるか否かを判定する。測定日は、たとえば1年毎など監視対象の標準的な寿命に応じて定められる。
【0064】
監視対象の定期的な測定日である場合(ステップS100でYES)、ステップS110において、演算処理部30は、監視対象に関連する電気量(すなわち、電圧または電流)または論理値を測定して測定値を取り込む。次のステップS120において、演算処理部30は、取り込んだ測定値に基づいて判定値を演算する。ここで、ステップS110およびS120は、
図3および
図5のステップS10およびS20と同じである。すなわち、
図7の監視手順は、
図3および
図5の常時監視手順に組み合わせて実行されるものである。
【0065】
次のステップS130において、演算処理部30は、監視項目および測定日とともに測定値または判定値を不揮発性メモリに記憶する。その次のステップS140において、演算処理部30は、不揮発性メモリに記憶した情報を保守拠点に設けられた監視用サーバ54に送信する。
【0066】
その次のステップS150は、保守拠点の監視用サーバ54は、定期的に受信した監視対象の測定値または判定値を経時変化を出力する。監視用サーバ54は、測定値または判定値の経時変化に基づいて部品の劣化が進行している様相をとらえ、劣化度合いを診断できる。
【0067】
図8は、演算処理部の不揮発性メモリに格納される情報を表形式で示す図である。不揮発性メモリには、監視項目、測定日、および判定値(零相電流)が格納される。
【0068】
図9は、
図8の情報をグラフで表示した図である。このように、監視対象の測定値または判定値を定期的に取り込んで経時変化として表すことによって、判定値が閾値に達していなくても経時的な劣化度合いを判定可能になる。
【0069】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものでないと考えられるべきである。この出願の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0070】
以下、本開示の諸態様を付記としてまとめて記載する。
(付記1)
複数のチャンネルを介して入力された電力系統の電気量の測定値をレベル変換する入力変換部と、
前記入力変換部によってレベル変換された前記電気量の測定値をデジタル変換するアナログ入力部と、
前記デジタル変換された電気量の測定値を用いて保護リレー演算を実行する演算処理部とを備え、
前記演算処理部は、前記保護リレー演算の空き時間に、少なくとも前記入力変換部および前記アナログ入力部について常時監視処理を実行し、
前記演算処理部は、前記常時監視処理において、前記デジタル変換された電気量の測定値を用いて算出した判定値が閾値を超えているという異常判定条件が規定時間継続した場合に、前記入力変換部または前記アナログ入力部を故障と判定し、前記異常判定条件の継続時間が前記規定時間に到達しなかった場合に、前記入力変換部または前記アナログ入力部の劣化度合いを表す情報を記録する、デジタル保護リレー。
(付記2)
前記劣化度合いを表す情報は、前記異常判定条件の継続時間を含む、付記1に記載のデジタル保護リレー。
(付記3)
前記劣化度合いを表す情報は、前記異常判定条件が満たされてから前記規定時間が経過するまでの間に得られた複数の前記判定値を含む、付記1または2に記載のデジタル保護リレー。
(付記4)
前記演算処理部は、前記判定値が前記閾値に到達したか否かに拘わらず、前記劣化度合いを表す情報として定期的に前記判定値を記録する、付記1~3のいずれか1項に記載のデジタル保護リレー。
(付記5)
前記劣化度合いを表す情報を送信するための通信装置をさらに備える、付記1~4のいずれか1項に記載のデジタル保護リレー。
(付記6)
付記5に記載のデジタル保護リレーと、
保守拠点に設けられ、前記デジタル保護リレーから前記劣化度合いを表す情報を受信する監視用サーバとを備える、デジタル保護リレーの保全管理システム。
【符号の説明】
【0071】
1 電線路、2 電圧変成器、3 電流変成器、4 遮断器、10 入力変換部、11 入力変換器、20 アナログ入力部、21 アナログフィルタ、22 サンプルホールド回路、23 マルチプレクサ、24 アナログデジタル変換器、25 基準電圧源、30 演算処理部、31 中央処理装置、32 メモリ、40 部、41 デジタル出力回路、42 デジタル入力回路、43 トリップ回路、50 バス、51 電源装置、52 電源監視装置、53 通信装置、54 監視用サーバ、100 デジタル保護リレー。