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特開2023-178620造形システムの造形条件選定方法及び造形条件選定プログラム、並びに造形システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178620
(43)【公開日】2023-12-18
(54)【発明の名称】造形システムの造形条件選定方法及び造形条件選定プログラム、並びに造形システム
(51)【国際特許分類】
   B22F 10/85 20210101AFI20231211BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20231211BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20231211BHJP
   B33Y 50/00 20150101ALI20231211BHJP
   B33Y 50/02 20150101ALI20231211BHJP
   B22F 10/28 20210101ALI20231211BHJP
【FI】
B22F10/85
B33Y10/00
B33Y30/00
B33Y50/00
B33Y50/02
B22F10/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022091411
(22)【出願日】2022-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】椎原 克典
(72)【発明者】
【氏名】荒木 翔太
(72)【発明者】
【氏名】辻 大輔
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA03
4K018AA06
4K018AA14
4K018AA24
4K018BA02
4K018BA03
4K018BA08
4K018BA13
4K018CA44
4K018EA51
4K018EA60
(57)【要約】
【課題】造形品の表面品質を向上させることが可能な造形条件を事前に設定することができること。
【解決手段】造形装置が造形条件に基づいて造形品を造形する造形システムの造形条件選定方法であって、造形条件と造形品の造形形状及び造形品質との組合せデータを保存してデータベースを構築する第1ステップS1と、造形形状と要求された造形品質とに適合する造形条件をデータベースから抽出すると共にこの抽出した造形条件に対応する溶融断面を造形モデルのデータに配置し(S21)、溶融断面の裏面と造形モデルの輪郭補助線との乖離量を演算し(S22)、この乖離量が仕様値以内となる溶融断面をデータベースから選定して造形モデルのデータに再配置する(S23)第2ステップS2と、第2ステップで再配置された溶融断面に対応する造形条件を含む造形条件にて造形装置が造形を行なう第3ステップS3と、を有するものである。
【選択図】図17
【特許請求の範囲】
【請求項1】
造形装置が造形条件に基づいて造形品を造形する造形システムの造形条件選定方法であって、
前記造形条件と前記造形品の造形形状及び造形品質との組合せデータを保存してデータベースを構築する第1ステップと、
造形形状と要求された造形品質とに適合する造形条件を前記データベースから抽出すると共にこの抽出した造形条件に対応する溶融断面を造形モデルのデータに配置し、前記溶融断面の裏面と前記造形モデルの輪郭形状との乖離量を演算し、この乖離量が仕様値以内となる溶融断面を前記データベースから選定して前記造形モデルのデータに再配置する第2ステップと、
前記第2ステップで再配置された溶融断面に対応する造形条件を含む造形条件にて前記造形装置が造形を行う第3ステップと、を有することを特徴とする造形システムの造形条件選定方法。
【請求項2】
前記第3ステップで造形品を造形したときの造形条件と前記造形品の造形形状及び造形品質との組合せデータを、データベースに保存してこのデータベースを拡張する第4ステップを、更に有することを特徴とする請求項1に記載の造形システムの造形条件選定方法。
【請求項3】
前記第1ステップにおいてデータベースに保存される組合せデータの造形条件、造形形状及び造形品質のデータは、造形試験によるデータまたはシミュレーションによるデータであることを特徴とする請求項1または2に記載の造形システムの造形条件選定方法。
【請求項4】
前記第1ステップにおいてデータベースに保存される造形品質には、溶融断面の輪郭形状、ビード幅及び溶け込み深さが含まれることを特徴とする請求項1または2に記載の造形システムの造形条件選定方法。
【請求項5】
前記第2ステップにおける造形モデルの輪郭形状は、溶融断面の裏面に接し且つ前記造形モデルの輪郭線に平行な輪郭補助線、または前記溶融断面の裏面に接する前記溶融モデルの輪郭線であることを特徴とする請求項1または2に記載の造形システムの造形条件選定方法。
【請求項6】
前記第2ステップにおいて再配置する溶融断面は、造形モデルの輪郭線の最外周側に配置されて基準溶融断面よりも断面積の小さな溶融断面、または前記基準溶融断面よりも断面積が大きく再配置数が最小になる溶融断面であることを特徴とする請求項1または2に記載の造形システムの造形条件選定方法。
【請求項7】
前記第2ステップにおいて再配置すべき溶融断面の選定及び再配置は、自動で行うことを特徴とする請求項1または2に記載の造形システムの造形条件選定方法。
【請求項8】
前記第2ステップにおける溶融断面の再配置後に、前記溶融断面の断面積を変化させた位置で造形モデルを分割し、それぞれの分割領域で造形条件を演算することを特徴とする請求項1または2に記載の造形システムの造形条件選定方法。
【請求項9】
前記造形装置は、金属または非金属材料を用いたパウダーベッド方式による積層造形によって造形品を造形することを特徴とする請求項1または2に記載の造形システムの造形条件選定方法。
【請求項10】
造形装置が造形条件に基づいて造形品を造形する造形システムであって、
前記造形条件と前記造形品の造形形状及び造形品質との組合せデータが保存されて構築されるデータベースを記録する記録部と、
造形形状と要求された造形品質とに適合する造形条件を前記データベースから抽出すると共にこの抽出した造形条件に対応する溶融断面を造形モデルのデータに配置し、前記溶融断面の裏面と前記造形モデルの輪郭形状との乖離量を演算し、この乖離量が仕様値以内となる溶融断面を前記データベースから選定して前記造形モデルのデータに再配置させ、この再配置された溶融断面に対応する造形条件を含む造形条件にて前記造形装置に造形を行わせる演算部と、を有して構成されたことを特徴とする造形システム。
【請求項11】
造形装置が造形条件に基づいて造形品を造形する造形システムの造形条件選定プログラムであって、
コンピュータに、
前記造形条件と前記造形品の造形形状及び造形品質との組合せデータを保存してデータベースを構築するステップ、
造形形状と要求された造形品質とに適合する造形条件を前記データベースから抽出すると共にこの抽出した造形条件に対応する溶融断面を造形モデルのデータに配置し、前記溶融断面の裏面と前記造形モデルの輪郭形状との乖離量を演算し、この乖離量が仕様値以内となる溶融断面を前記データベースから選定して前記造形モデルのデータに再配置するステップ、
前記ステップで再配置された溶融断面に対応する造形条件を含む造形条件にて前記造形装置に造形を行わせるステップ、を実行させることを特徴とする造形システムの造形条件選定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、造形システムの造形条件選定方法、及びこの方法をコンピュータにより実行させるための造形条件選定プログラム、並びに造形条件選定方法の実施により造形を行なう造形システムに関する。
【背景技術】
【0002】
3次元プリンタ等の造形装置で用いられるパウダーベッド法(粉末床溶融結合法)による積層造形(Additive Manufacturing:AM造形;付加造形)は、材料粉末をテーブル上に敷き詰め、集光特性の高いレーザ光を使用することで、鋳物等と比較し、微細で高精度且つ複雑な形状を製造可能な技術である。この積層造形は、近年、試作のみならず、航空分野や医療分野等の幅広い分野で活用が進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-163618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
金属材料を用いたパウダーベッド法による積層造形は、造形装置に搭載されるレーザ発生装置の出力、駆動精度、及び使用する金属材料の種類の影響を受け、且つ造形形状の影響も受けるため、造形条件の汎用性が低く、造形対象により造形条件を選定する必要がある。このため、例えば特許文献1では、造形条件に基づくシミュレーションにより造形品の要求品質の判定を自動で行い、判定結果をユーザに提示する旨が記載されている。
【0005】
しかしながら、この特許文献1では、シミュレーションにより造形品の形状評価ステップまで実施した上で、選定された条件を前提に造形条件を選定しているため、造形条件の選定に時間を要し、しかも適用できる条件範囲も狭い。また、形状評価ステップで造形不可となった場合には、造形条件の変更の裕度が狭く、造形条件の初期設定の評価から行う必要があるので、造形条件の選定に多大な時間を要する。
【0006】
本発明の実施形態は、上述の事情を考慮してなされたものであり、造形品の表面品質を向上させることが可能な造形条件を事前に設定することができる造形システムの造形条件選定方法及び造形条件選定プログラム、並びに造形システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態における造形システムの造形条件選定方法は、造形装置が造形条件に基づいて造形品を造形する造形システムの造形条件選定方法であって、前記造形条件と前記造形品の造形形状及び造形品質との組合せデータを保存してデータベースを構築する第1ステップと、造形形状と要求された造形品質とに適合する造形条件を前記データベースから抽出すると共にこの抽出した造形条件に対応する溶融断面を造形モデルのデータに配置し、前記溶融断面の裏面と前記造形モデルの輪郭形状との乖離量を演算し、この乖離量が仕様値以内となる溶融断面を前記データベースから選定して前記造形モデルのデータに再配置する第2ステップと、前記第2ステップで再配置された溶融断面に対応する造形条件を含む造形条件にて前記造形装置が造形を行う第3ステップと、を有することを特徴とするものである。
【0008】
本発明の実施形態における造形システムは、造形装置が造形条件に基づいて造形品を造形する造形システムであって、前記造形条件と前記造形品の造形形状及び造形品質との組合せデータが保存されて構築されるデータベースを記録する記録部と、造形形状と要求された造形品質とに適合する造形条件を前記データベースから抽出すると共にこの抽出した造形条件に対応する溶融断面を造形モデルのデータに配置し、前記溶融断面の裏面と前記造形モデルの輪郭形状との乖離量を演算し、この乖離量が仕様値以内となる溶融断面を前記データベースから選定して前記造形モデルのデータに再配置させ、この再配置された溶融断面に対応する造形条件を含む造形条件にて前記造形装置に造形を行わせる演算部と、を有して構成されたことを特徴とするものである。
【0009】
本発明の実施形態における造形システムの造形条件選定プログラムは、造形装置が造形条件に基づいて造形品を造形する造形システムの造形条件選定プログラムであって、コンピュータに、前記造形条件と前記造形品の造形形状及び造形品質との組合せデータを保存してデータベースを構築するステップ、造形形状と要求された造形品質とに適合する造形条件を前記データベースから抽出すると共にこの抽出した造形条件に対応する溶融断面を造形モデルのデータに配置し、前記溶融断面の裏面と前記造形モデルの輪郭形状との乖離量を演算し、この乖離量が仕様値以内となる溶融断面を前記データベースから選定して前記造形モデルのデータに再配置するステップ、前記ステップで再配置された溶融断面に対応する造形条件を含む造形条件にて前記造形装置に造形を行わせるステップ、を実行させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態によれば、造形品の表面品質を向上させることが可能な造形条件を事前に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施形態に係る造形システムとしての積層造形システムの構成を示すブロック図。
図2図1の制御装置の構成を示すブロック図。
図3図1の積層造形システムにより積層造形される造形品(造形対象及びサポート)を示す斜視図。
図4】造形に供される材料の溶融断面を示し、(A)が単一の溶融断面を示す模式図、(B)が一層分の溶融断面を示す模式図。
図5】各造形条件と造形品の表面粗さとの関係を示すグラフ。
図6】造形品(造形モデル)の側面がベースプレート表面に対し直角の場合における造形モデルへの溶融断面の配置状況を示す模式図。
図7】造形品(造形モデル)の側面がベースプレート表面に対し60度の場合における造形モデルへの溶融断面の配置状況を示す模式図。
図8】造形品(造形モデル)の側面がベースプレート表面に対し45度の場合における造形モデルへの溶融断面の配置状況を示す模式図。
図9】造形品(造形モデル)の側面がベースプレート表面に対し30度の場合における造形モデルへの溶融断面の配置状況を示す模式図。
図10】造形品(造形ノズル)の側面がベースプレート表面に対し15度の場合における造形モデルへの溶融断面の配置状況を示す模式図。
図11】造形品(造形モデル)の側面がベースプレート表面に対し30度の場合における造形モデルへの溶融断面の再配置を含めた配置状況の一例を示す模式図。
図12】造形品(造形ノズル)の側面がベースプレート表面に対し30度の場合における造形モデルへの溶融断面の再配置を含めた配置状況の他の例を示す模式図。
図13】造形品(造形モデル)の側面がベースプレート表面に対し15度の場合における造形モデルへの溶融断面の再配置を含めた配置状況の一例を示す模式図。
図14】造形品(造形モデル)の側面がベースプレート表面に対し15度の場合における造形モデルへの溶融断面の再配置を含めた配置状況の他の例を示す模式図。
図15】造形品(造形モデル)の側面がベースプレート表面に対し15度の場合における造形モデルへの溶融断面の再配置を含めた配置状況を示し、造形モデルの輪郭線が溶融断面の裏面に接する場合の模式図。
図16図13における溶融断面の再配置後にスライスデータを分割した一例を示す模式図。
図17図1の積層造形システムによる造形工程を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態を、図面に基づき説明する。
図1は、一実施形態に係る造形システムとしての積層造形システムの構成を示すブロック図である。この図1に示す積層造形システム10は、例えばパウダーベッド法(粉末床溶融結合法)による積層造形(Additive Manufacturing:AM造形;付加造形)により造形品を積層造形するシステムである。ここで、パウダーベッド法は、テーブル上に材料粉末を一層毎に敷き詰め、集光特性の高いレーザ光により材料粉末を溶融させ、固化させた層を積み上げて造形する方式である。
【0013】
上記積層造形システム10は、造形装置11、制御装置12、表示装置13及び入力装置14を有して構成される。造形装置11は、集光特性の高いレーザ光Lを発生するレーザ発生装置15と、このレーザ発生装置15からのレーザ光Lを、ベースプレート17に敷き詰められた粉末層18へ向けて照射経路に沿って照射させるスキャナ16と、を備える。
【0014】
つまり、造形装置11は、例えば図示しない貯蔵部から供給されてベースプレート17上に層状に敷き詰められた材料粉末の粉末層18に、造形条件に基づいてレーザ光Lを照射して、3次元形状の造形品20(図3)を積層造形する。この造形品20は、造形対象21及びサポート22からなり、サポート22が造形対象21をベースプレート17上で支持する。造形対象21は、例えば立方体や直方体、球体などの形状の製品または部品である。また、材料粉末は、鉄、銅、アルミニウム、チタンなどの金属材料粉末、またはセラミック等の非金属材料の粉末である。
【0015】
上記造形条件は、レーザ発生装置15からのレーザ光Lの出力(レーザ出力)、スキャナ16によるレーザ光Lのスキャン速度、造形品20のコンター範囲20Aを形成する際のレーザ光Lの照射回数(コンター回数)が含まれる。レーザ出力は、造形品20に対し外周を造形するコンター範囲20Aと、内部を造形するハッチング範囲20Bとにおいて変更されるのが一般的である。同様に、レーザ光Lのスキャン速度についても、造形品20のコンター範囲20Aとハッチング範囲20Bとにおいて変更されるのが一般的である。また、コンター回数は、造形品20のコンター範囲20Aに対するレーザ光Lのビーム径を調整することにより変更される。
【0016】
制御装置12は、積層造形システム10の全体の制御、即ち造形装置11のレーザ発生装置15及びスキャナ16を制御する。なお、この制御装置12については後に詳説する。また、表示装置13は例えばモニタ等のディスプレイであり、造形装置11のレーザ出力、スキャン速度、コンター回数等の造形条件、造形品20の造形形状及び造形品質に関する情報を表示する。また、入力装置14は、例えばキーボード及びマウスなどであり、表示装置13に表示される情報に基づいて、造形条件、造形形状及び造形品質に関する情報を入力する。
【0017】
制御装置12はコンピュータにて構成され、図2に示すように、記憶部23、取得部24、レーザ制御部25、位置制御部26、演算部27及び表示制御部28を有する。
【0018】
取得部24は、造形装置11の各種の情報、例えばレーザ発生装置15からのレーザ出力、スキャナ16からのスキャン速度及びコンター回数などの造形条件に関する情報等を取得する。また、レーザ制御部25は、演算部27にて後述の如く演算された造形条件に従って、レーザ発生装置15によるレーザ出力及びレーザ光Lのビーム径等を制御する。
【0019】
位置制御部26は、演算部27にて後述の如く演算された造形条件に従って、スキャナ16によるレーザ光Lのスキャン速度及び照射位置を制御する。更に、この位置制御部26は、ベースプレート17の移動を制御する。また、表示制御部28は、造形条件、造形形状及び造形品質(例えば表面粗さ、溶融断面など)に関する情報を表示装置13に表示させる。
【0020】
記憶部23には、造形条件と造形品20の造形形状と造形品20の造形品質との組合せデータが保存されて構築されるデータベースが記憶される。取得部24により入力された造形条件と、入力装置14により入力された造形形状及び造形品質とは、演算部27により組合せデータとなって記憶部23に保存される。
【0021】
上記組合せデータのうち造形品20の造形品質は、充填率、図3に示す造形品20の天面29及び側面30の表面粗さ、並びに図4に示す積層された各層の溶融断面31の寸法(溶融断面31の輪郭形状M、ビード幅W、溶け込み深さT、1層積層高さH、1層ビード幅V、隣接する溶融断面31のピッチP等)である。
【0022】
上述の造形品質及び造形形状のデータは、造形試験もしくは実際の製品造形により造形された造形品20の外観品質評価、及び上記造形品20の断面の外観品質評価によって得られるほか、シミュレーションによっても得られるデータである。
【0023】
上述の組合せデータには、図5に示すように、造形条件に対する造形品質(例えば造形品20の造形対象21の天面29及び側面30の表面粗さ)の感度評価データが含まれる。この図5は、例えば99.5%以上の充填率が可能な造形条件を中心条件とし、レーザ出力、スキャン速度及びコンター回数の造形条件を変動パラメータとして任意形状の造形品20を造形する造形試験を行い、この造形品20の造形対象21の天面29及び側面30の表面粗さを評価指標とする感度評価の結果を示したものである。
【0024】
即ち、符号G1はレーザ出力と天面29の表面粗さとの関係を、符号G2はスキャン速度と天面29の表面粗さとの関係を、符号G3はコンター回数と天面29の表面粗さとの関係を、符号G4はレーザ出力と側面30の表面粗さとの関係を、符号G5は、スキャン速度と側面30の表面粗さとの関係を、符号G6はコンター回数と側面30の表面粗さとの関係を、それぞれ示すグラフである。例えば、造形品20の造形対象21の天面29の表面粗さは、G1に示すようにレーザ出力が低から中になるに従って増加し、レーザ出力が中から高になるに従って抑制される。また、造形品20の造形対象21の側面30の表面粗さは、G4に示すように、レーザ出力が低から中になる間では増加が抑制され、レーザ出力が中から後になるに従って増加する。
【0025】
このように、造形品20の造形対象21における天面29と側面30の表面粗さは、レーザ出力等の造形条件によって感度が異なる。従って、造形品20の造形部位ごとに最表面(最も外側の面)となる造形形状を把握した上で、造形条件の選定が必要になる。
【0026】
制御装置12の演算部27は、入力装置14から入力された造形品20の造形形状と要求された造形品質とに適合する造形条件を記憶部23のデータベースから抽出して、造形品20をコンピュータ上で模擬した造形モデルのデータに割り当てる造形条件抽出割当機能と、上述の抽出した造形条件に対応する溶融断面31を造形モデルのデータに配置する溶融断面配置機能と、溶融断面31の裏面と造形モデルの輪郭形状との乖離量を演算する乖離量演算機能と、上記乖離量が仕様値以内になる溶融断面31を記憶部23のデータベースから選定して造形モデルに再配置させる溶融断面再配置機能と、再配置された溶融断面31に対応する造形条件を含む造形条件にて造形装置11に積層造形を実行させる造形機能と、を有する。
【0027】
造形条件抽出割当機能では、造形形状と要求された造形品質とに適合する造形条件の範囲を、表示制御部28を介して表示装置13に表示させ、操作者により最適な造形条件を抽出させてもよく、または造形形状と要求された造形品質とに最も適合する造形条件を演算部27が自動で抽出してもよい。
【0028】
溶融断面配置機能により溶融断面31が造形モデルに配置された例を、図6図10に示す。これらの図において、符号Nは、造形品20における造形対象21の側面30及びサポート22の側面を模擬した造形モデルの最外周の輪郭線、符号Uは、ベースプレート17を模擬したベースプレート表面である。また、符号Eは、溶融断面31の裏面に接し且つ造形モデルの最外周の輪郭線Nに平行な、造形モデルの輪郭形状としての輪郭補助線である。この溶融断面配置機能は演算部27により自動で実行され、また、造形モデルの最外周の輪郭線N、ベースプレート表面U及び輪郭補助線Eも演算部27により自動で設定される。
【0029】
乖離量演算機能では、図6図8に示すように、ベースプレート17に対する造形品20の側面の角度(図3の角度α)が直角(α=90°)、60度(α=60°)及び45度(α=45°)の各場合に、溶融断面31の裏面と輪郭補助線Eとの乖離量が存在しないか、または仕様値以内であると判断する。これに対し、図9及び図10に示すように、ベースプレート17に対する造形品20の側面の角度が30度(α=30°)、15度(α=15°)の場合には、溶融断面31の裏面と輪郭補助線Eとの乖離量Qが仕様値を超えていると判断する。この乖離量Qが仕様値を超えている場合には、その部位が表示制御部28を介して表示装置13に表示される。この乖離量演算機能は演算部27により自動で実施される。
【0030】
溶融断面再配置機能において記憶部23のデータベースから選定され造形モデルに再配置させる溶融断面31は、図11図13図15及び図16に示すように、造形モデルの最外周側に配置されて、他の位置に配置された基準溶融断面31Aよりも断面積が小さな修正溶融断面31B、または図12及び図14に示すように、基準溶融断面31Aよりも断面積が大きく且つ再配置数が最小になる修正溶融断面31Cである。
【0031】
これらの修正溶融断面31B及び31Cの選定及び再配置は、仕様値を超えた乖離量Qとなる溶融断面31の部位が表示された表示装置13の画面を参照して、操作者が入力装置14を用いて実施してもよく、または演算部27が自動で実行してもよい。
【0032】
ここで、図15においては、図11図14の輪郭補助線Eに代えて、造形品20における造形対象21の側面30及びサポート22の側面を模擬した造形モデルの最外周の輪郭線Nが、溶融断面31の裏面に接する、造形モデルの輪郭形状としての造形モデルの輪郭線Fとなっている。従って、この造形モデルの輪郭線Fと溶融断面31の裏面との乖離量Qが仕様値以内になる溶融断面31(修正溶融断面31Bまたは31C)が記憶部23のデータベースから選定され、造形モデルに再配置されることになる。
【0033】
造形機能において、再配置された溶融断面に対応する造形条件を含む造形条件は、再配置された修正溶融断面31B、31Cに対応する造形条件と、基準溶融断面31Aに対応する造形条件とである。この造形機能では、これらの造形条件は、図16に示すように、造形モデルまたはスライスデータを分割することで、分割領域ごとに演算される。なお、上記スライスデータは、積層造形を行なうために造形モデルから各層毎に作成されるデータである。
【0034】
つまり、この造形機能では、図16に示すように、溶融断面の断面積が異なる位置を境界として造形モデルまたはスライスデータを複数に分割、例えば1層分のスライスデータZを2分割して分割スライスデータX、Yとする。そして、この造形機能では、分割スライスデータXにて基準溶融断面31Aに対応する造形条件を、分割スライスデータYにて修正溶融断面31Bまたは31Cに対応する造形条件をそれぞれ演算し、これらの造形条件に基づいて造形を行う。
【0035】
上述の造形モデルまたはスライスデータの分割、並びに各分割領域(例えば分割スライスデータX、Y)での造形条件の演算は、制御装置12の演算部27により自動で実施される。また、造形条件に基づく積層造形は、制御装置12の演算部27からの指示に基づきレーザ制御部25及び位置制御部26により実施される。
【0036】
以上のように構成された積層造形システム10の造形条件選定方法を含む造形工程(造形ステップ)、及び積層造形システム10の造形条件選定プログラムを含む造形プログラムを、主に図17を参照して説明する。
【0037】
第1ステップS1は、造形条件と造形品20の造形形状及び造形品質との組合せデータを、制御装置12の記憶部23に保存してデータベースを構築する工程である。具体的には、操作者により入力装置14を用いて入力された造形条件に基づいて、造形装置11のレーザ発生装置15及びスキャナ16が任意形状の造形品20を造形試験により積層造形する(S11)。次に、この造形試験により造形された造形品20に対し、操作者が外観品質評価及び断面の外観品質評価を行って、充電率や表面粗さ、溶融断面の各寸法等の造形品質及び造形形状を取得する(S12)。
【0038】
このようにして造形試験により取得された造形品20の造形形状及び造形品質が、制御装置12の演算部27により、造形試験時の造形条件と共に組合せデータとして、制御装置12の記憶部23に入力され保存されてデータベースが構築される。また、制御装置12の演算部27は、記憶部23のデータベースに基づいて、造形条件に対する造形品質の感度評価を行い(S13)、この評価結果(例えば図5)も組合せデータの一部となる。
【0039】
第2ステップS2は、造形品20の造形形状と要求される造形品質とに適合する造形条件を、操作者または制御装置12の演算部27が記憶部23のデータベースから抽出し、この抽出した造形条件を造形モデルのデータに割り当てる工程である。この造形条件の割当工程では、同時に、抽出した造形条件に対応する溶融断面31を、演算部27が造形モデルに配置する(S21)。次に、演算部27は、造形モデルの輪郭補助線E(図7図14図16)または造形モデルの輪郭線F(図15)と溶融断面31の裏面との乖離量Qを演算し、この乖離量Qが仕様値以内であるか、または超えているかを判定する(S22)。乖離量Qが仕様値を超えている場合には、操作者または演算部27は、乖離量Qが仕様値以内となる溶融断面31を記憶部23のデータベースから選定して、造形モデルに再配置する(S23)。
【0040】
第3ステップS3は、再配置された溶融断面31(修正溶融断面31B、31C)に対応する造形条件を演算部27が記憶部23のデータベースから抽出し、この造形条件と、溶融断面31(基準溶融断面31A)に対応する造形条件とに基づいて、制御装置12のレーザ制御部25及び位置制御部26が、実際の製品である造形品20を積層造形する工程である。
【0041】
第4ステップS4は、第3ステップで積層造形された造形品20の造形品質を操作者が測定し、入力装置14を用いて制御装置12に入力したとき、この制御装置12の演算部27が、この測定により得られた造形品質と上記造形品20の造形形状と上記造形品20を積層造形したときの造形条件とを、組合せデータとして記憶部23のデータベースに保存して、このデータベースを拡張する工程である。この組合せデータの保存及びデータベースの拡張は、造形品20を造形した後に直ちに実施するほか、造形品20を既に造形したときに取得したデータ(造形条件、造形形状、造形品質の各データ)を用いて実施してもよい。
【0042】
以上のように構成されたことから、本実施形態によれば、次の効果(1)~(3)を奏する。
(1)積層造形システム10の造形条件選定方法では、制御装置12の演算部27が、例えば図11及び図13に示すように、造形形状と要求された造形品質とに適合する造形条件の溶融断面31を造形モデルのデータに配置したとき、溶融断面31の裏面と造形モデルの輪郭補助線Eとの乖離量Qが仕様値以内となる溶融断面31(修正溶融断面31B)をデータベースから選定して造形モデルのデータに再配置し、この再配置された溶融断面に対応する造形条件を含む造形条件にて積層造形を行っている。このため、この積層造形による造形品20(図3)の表面には、造形モデルの輪郭補助線Eと溶融断面31の裏面との乖離量Qの影響が無くなるので、造形品20の表面品質を向上させることが可能な造形条件を、実際の製品の造形前に設定することができる。
【0043】
(2)積層造形システム10の造形条件選定方法では、実際の製品の造形品20を積層造形したときの造形条件と、この造形品20の造形形状及び測定可能な位置での造形品質とが組合せデータとして、制御装置12の記憶部23におけるデータベースに保存されて、このデータベースが拡張される。このため、造形条件に対する造形品質の感度評価の精度を、実際の製品である造形品20の造形毎に向上させることができる。更に、造形形状と要求された造形品質とに適合する造形条件を記憶部23のデータベースから抽出したり、再配置された溶融断面31(修正溶融断面31B、31C)に対応する造形条件を選定したりする際の造形条件の選択範囲を拡大することができる。
【0044】
(3)造形試験により積層造形された造形品20に対し、外観品質評価及び断面の外観品質評価を行なうことで、造形品20の外部の造形品質(例えば造形対象21の天面29及び側面30の表面粗さなど)と、造形品20の内部の造形品質(例えば充填率、溶融断面31の寸法など)を計測し評価することができる。このため、記憶部23におけるデータベースの構築時間を短縮することができる。
【0045】
ここで、図1及び図2に示す制御装置12は、取得部24、レーザ制御部25、位置制御部26、演算部27及び表示制御部28がCPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)などのプロセッサにて構成され、記憶部23がROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)などにて構成される。また、表示装置13はモニタ等のディスプレイにて、入力装置14はキーボード及びマウスにてそれぞれ構成される。従って、制御装置12、表示装置13及び入力装置14は通常のコンピュータを利用したハードウェアで実現可能であり、造形条件選定プログラムを含む造形プログラムにより動作させることが可能である。
【0046】
そして、造形プログラムは、ROM等に予め組み込んで提供される。もしくは、このプログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD-ROM、CD-R、メモリカード、DVD、フレキシブルディスク(FD)等のコンピュータで読み取り可能な記憶媒体に記憶されて提供するようにしてもよい。また、造形プログラムは、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせて提供するようにしてもよい。
【0047】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組合せを行うことができ、また、それらの置き換えや変更、組合せは、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0048】
10…積層造形システム(造形システム)、11…造形装置、12…制御装置、15…レーザ発生装置、16…スキャナ、20…造形品、23…記憶部、27…演算部、31…溶融断面、31A…基準溶融断面、31B、31C…修正溶融断面、E…輪郭補助線(造形モデルの輪郭形状)、F…造形モデルの輪郭線(造形モデルの輪郭形状)、N…造形モデルの最外周の輪郭線、X、Y…分割スライスデータ、Z…スライスデータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17