(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178636
(43)【公開日】2023-12-18
(54)【発明の名称】指標値推定装置、推定システム、指標値推定方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/11 20060101AFI20231211BHJP
【FI】
A61B5/11 230
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022091434
(22)【出願日】2022-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109313
【弁理士】
【氏名又は名称】机 昌彦
(74)【代理人】
【識別番号】100149618
【弁理士】
【氏名又は名称】北嶋 啓至
(72)【発明者】
【氏名】井原 和紀
(72)【発明者】
【氏名】福司 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】オウ シンイ
(72)【発明者】
【氏名】黄 晨暉
(72)【発明者】
【氏名】梶谷 浩司
(72)【発明者】
【氏名】二瓶 史行
(72)【発明者】
【氏名】野崎 善喬
(72)【発明者】
【氏名】中原 謙太郎
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038VA05
4C038VA12
4C038VB14
4C038VC20
(57)【要約】
【課題】日常生活において、膝の状態を示す指標値を適宜推定できる指標値推定装置等を提供する。
【解決手段】ユーザの足の動きに関するセンサデータから抽出された、ユーザの膝の状態を示す指標値の推定に用いられる特徴量を含む特徴量データを取得するデータ取得部と、特徴量データの入力に応じた指標値を出力する推定モデルを記憶する記憶部と、取得された特徴量データを推定モデルに入力することで得られた出力を、ユーザの膝の状態を示す指標値として推定する推定部と、推定されたユーザの膝の状態を示す指標値に関する情報を出力する出力部と、を備える指標値推定装置とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザの足の動きに関するセンサデータから抽出された、前記ユーザの膝の状態を示す指標値の推定に用いられる特徴量を含む特徴量データを取得するデータ取得手段と、
前記特徴量データの入力に応じた指標値を出力する推定モデルを記憶する記憶手段と、
取得された前記特徴量データを前記推定モデルに入力することで得られた出力を、前記ユーザの膝の状態を示す前記指標値として推定する推定手段と、
推定された前記ユーザの膝の状態を示す前記指標値に関する情報を出力する出力手段と、を備える指標値推定装置。
【請求項2】
前記記憶手段は、
複数の被験者の歩行に関する検証で得られた前記センサデータから抽出された膝の状態を示す前記指標値の推定に用いられる特徴量を説明変数とし、複数の前記被験者の歩行に関する検証で実測された膝の状態を示す前記指標値の実測値を目的変数とする教師データを用いた学習によって生成された前記推定モデルを記憶し、
前記推定手段は、
前記ユーザに関して取得された前記特徴量データを前記推定モデルに入力することで得られた出力を、前記ユーザの膝の状態を示す前記指標値として推定する請求項1に記載の指標値推定装置。
【請求項3】
前記記憶手段は、
膝の状態を示す前記指標値として膝関節屈曲角度に関するパラメータを推定する前記推定モデルを記憶し、
前記推定手段は、
前記ユーザに関して取得された前記特徴量データを前記推定モデルに入力することで得られた前記膝関節屈曲角度に関するパラメータを、前記ユーザの膝の状態を示す前記指標値として推定する請求項2に記載の指標値推定装置。
【請求項4】
前記記憶手段は、
一歩行周期の前記膝関節屈曲角度の時系列データに表れる二つのピークに関連する前記膝関節屈曲角度に関するパラメータを推定する前記推定モデルを記憶し、
前記推定手段は、
前記ユーザの歩行に応じて取得された前記特徴量データを前記推定モデルに入力し、前記推定モデルから出力された前記ユーザの前記指標値に応じて、前記ユーザの膝の状態を示す前記指標値を推定する請求項3に記載の指標値推定装置。
【請求項5】
前記記憶手段は、
一歩行周期の前記膝関節屈曲角度の時系列データに表れる二つのピークのうち遊脚相に表れるピークのタイミングと、爪先離地のタイミングとの時間的関係を含む前記膝関節屈曲角度に関するパラメータを推定する前記推定モデルを記憶し、
前記推定手段は、
前記ユーザの歩行に応じて取得された前記特徴量データを前記推定モデルに入力し、前記推定モデルから出力された前記ユーザの前記指標値に応じて、前記ユーザの膝の状態を示す前記指標値を推定する請求項3に記載の指標値推定装置。
【請求項6】
前記記憶手段は、
膝の状態を示す前記指標値として膝の運動の円滑さを示すコストを推定する前記推定モデルを記憶し、
前記推定手段は、
前記ユーザに関して取得された前記特徴量データを前記推定モデルに入力することで得られた膝の運動の円滑さを示す前記コストを、前記ユーザの膝の状態を示す前記指標値として推定する請求項2に記載の指標値推定装置。
【請求項7】
前記記憶手段は、
立脚相に含まれる複数の区間の各々に関して、膝の状態を示す前記指標値として膝の運動の円滑さを示す前記コストを推定する前記推定モデルを記憶し、
前記推定手段は、
前記複数の区間のうち少なくともいずれかの区間に関して、前記ユーザに関して取得された前記特徴量データを前記推定モデルに入力することで得られた膝の運動の円滑さを示す前記コストを、前記ユーザの膝の状態を示す前記指標値として推定する請求項6に記載の指標値推定装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の指標値推定装置と、
膝の状態を示す指標値の推定対象であるユーザの履物に設置される計測装置とを備え、
前記計測装置は、
空間加速度および空間角速度を計測し、計測した前記空間加速度および前記空間角速度を用いて足の動きに関するセンサデータを生成し、生成した前記センサデータを出力するセンサと、
歩容の特徴を含む前記センサデータの時系列データを取得し、前記センサデータの時系列データから一歩行周期分の歩行波形データを抽出し、抽出された前記歩行波形データを正規化し、正規化された前記歩行波形データから、膝の状態を示す前記指標値の推定に用いられる特徴量を、時間的に連続する少なくとも一つの歩行フェーズによって構成される歩行フェーズクラスターから抽出し、抽出された特徴量を含む特徴量データを生成し、生成された前記特徴量データを前記指標値推定装置に出力する特徴量データ生成手段と有する推定システム。
【請求項9】
コンピュータが、
ユーザの足の動きに関するセンサデータから抽出された、前記ユーザの膝の状態を示す指標値の推定に用いられる特徴量を含む特徴量データを取得し、
前記特徴量データの入力に応じた指標値を出力する推定モデルに、取得された前記特徴量データを前記推定モデルに入力し、
前記推定モデルに入力することで得られた出力を、前記ユーザの膝の状態を示す前記指標値として推定し、
推定された前記ユーザの膝の状態を示す前記指標値に関する情報を出力する指標値推定方法。
【請求項10】
ユーザの足の動きに関するセンサデータから抽出された、前記ユーザの膝の状態を示す指標値の推定に用いられる特徴量を含む特徴量データを取得する処理と、
前記特徴量データの入力に応じた指標値を出力する推定モデルに、取得された前記特徴量データを前記推定モデルに入力する処理と、
前記推定モデルに入力することで得られた出力を、前記ユーザの膝の状態を示す前記指標値として推定する処理と、
推定された前記ユーザの膝の状態を示す前記指標値に関する情報を出力する処理と、をコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、膝の状態を示す指標値を推定する指標値推定装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘルスケアへの関心の高まりに伴って、歩容に応じた情報を提供するサービスに注目が集まっている。例えば、靴等の履物に実装されたセンサによって計測されたセンサデータを用いて、歩容を解析する技術が開発されている。センサデータの時系列データには、身体状態と関連する歩行イベントに伴った特徴が表れる。歩行イベントに伴った特徴を含む歩行データを解析することによって、対象者の身体状態を推定できる。例えば、対象者の膝の状態を推定できれば、変形性膝関節症などの疾患の早期発見や予防が可能になる。
【0003】
特許文献1には、足踏み時の膝部位の動きに着目して、ユーザの膝状態を判定する膝状態判定システムについて開示されている。特許文献1のシステムは、複数のセンサ機器と膝状態推定装置を備える。複数のセンサ機器は、腰、両脚の大腿部、および両脚の下腿部の各々に装着される。複数のセンサ機器は、ユーザの足踏みに伴う大腿部および下腿部の回旋運動によって生じた角速度を計測する。複数のセンサ機器は、計測された角速度を反映した回旋角速度を、膝状態判定装置に送信する。膝状態判定装置は、センサ機器から送信されるデータを解析することにより、ユーザの膝状態の判定を行う。具体的には、膝状態判定装置は、両脚の大腿部および下腿部に装着された各センサ機器から出力された重力方向の軸周りのヨー方向成分を用いて、ユーザの膝の異常判定を行う。
【0004】
特許文献2には、運動時の状態の推定に用いられる検出装置について開示されている。特許文献2の装置は、加速度センサや角速度センサなどのセンサを含む。特許文献2の装置は、被験者の膝または膝の周囲に取り付けられる。特許文献2の装置によって検出された加速度は、膝の状態の推定に用いられる。特許文献2には、検出された加速度を用いて、変形性膝関節症の程度や予後を推定することが開示されている。
【0005】
非特許文献1~4には、変形性膝関節症などの疾患に関連する膝の状態の検証例については、種々の報告がなされている。非特許文献1には、変形性膝関節症などの膝疾患診断手法の構築に関して報告されている。非特許文献1には、歩容パターンに影響を与える因子として、身長、脚長、関節可動域、および下肢アライメントがあげられている。非特許文献2には、変形性膝関節症患者にみられるlateral thrustを定量評価する目的で、複数の被験者に対して行われた歩行分析に関する検証結果が報告されている。非特許文献3には、複数の被験者に関して、変形性膝関節症に起因する歩行異常性を評価した結果について報告されている。非特許文献4には、歩行時の両足支持期間における膝屈曲速度に影響を与える筋肉について検証した結果が報告されている。非特許文献4には、爪先離地において膝屈曲速度が十分であれば、遊脚相において適正な膝屈曲が得られると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-106948号公報
【特許文献2】特開2022-051451号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】石川雄己ら, “個体別モデリングを用いた膝疾患診断手法の構築への提案-変形性膝関節症発症メカニズム解明に向けて-”, Proceedings of the 2012 JSME Conference on Robotics and Mechatronics, Hamamatsu, Japan, May 27-29, (2012), pp. 2P1-I02(1)- 2P1-I02(2).
【非特許文献2】小村孝ら, “内側型変形性膝関節症患者の歩行分析に関する研究”,神戸大学医学部紀要, 61(4), (2001), pp. 89-94.
【非特許文献3】山科俊輔, “保存療法中の変形性膝関節症患者を対象とした観察による歩行異常性評価法の開発および身体活動量低減との関連性の検証”, 吉備国際大学博士学位論文, 2019.
【非特許文献4】S. R. Goldberg, et al., Journal of Biomechanics, 37, (2004), pp.1189-1196.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の手法では、身体に装着された複数のセンサによって計測された角速度を用いて、ユーザの膝状態を推定する。特許文献1の手法では、腰や脚の複数箇所にセンサを装着する必要がある。そのため、特許文献1の手法は、日常生活において、ユーザの膝状態を推定する用途には適用しにくい。
【0009】
特許文献2の手法では、被験者の膝または膝の周囲に取り付けられ加速度センサによって計測される加速度や角速度を用いて、膝の状態を推定することが開示されている。特許文献2の手法では、膝または膝の周囲に、柔軟性を有する補助具によってセンサを装着する。そのため、特許文献2の手法では、センサの装着位置が日々変動しやすいため、ユーザの膝状態を適宜推定する用途には適用しにくい。
【0010】
非特許文献1~4のように、大掛かりな設備を用いれば、変形性膝関節症などの疾患を詳細に検証できる。しかし、非特許文献1~4のような手法は、大掛かりな設備が必要になるため、日常生活において膝状態を推定する用途には適用しにくい。
【0011】
本開示の目的は、日常生活において、膝の状態を示す指標値を適宜推定できる指標値推定装置等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示の一態様の指標値推定装置は、ユーザの足の動きに関するセンサデータから抽出された、ユーザの膝の状態を示す指標値の推定に用いられる特徴量を含む特徴量データを取得するデータ取得部と、特徴量データの入力に応じた指標値を出力する推定モデルを記憶する記憶部と、取得された特徴量データを推定モデルに入力することで得られた出力を、ユーザの膝の状態を示す指標値として推定する推定部と、推定されたユーザの膝の状態を示す指標値に関する情報を出力する出力部と、を備える。
【0013】
本開示の一態様の指標値推定方法においては、ユーザの足の動きに関するセンサデータから抽出された、ユーザの膝の状態を示す指標値の推定に用いられる特徴量を含む特徴量データを取得し、特徴量データの入力に応じた指標値を出力する推定モデルに、取得された特徴量データを推定モデルに入力し、推定モデルに入力することで得られた出力を、ユーザの膝の状態を示す指標値として推定し、推定されたユーザの膝の状態を示す指標値に関する情報を出力する。
【0014】
本開示の一態様のプログラムは、ユーザの足の動きに関するセンサデータから抽出された、ユーザの膝の状態を示す指標値の推定に用いられる特徴量を含む特徴量データを取得する処理と、特徴量データの入力に応じた指標値を出力する推定モデルに、取得された特徴量データを推定モデルに入力する処理と、推定モデルに入力することで得られた出力を、ユーザの膝の状態を示す指標値として推定する処理と、推定されたユーザの膝の状態を示す指標値に関する情報を出力する処理と、をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、日常生活において、膝の状態を示す指標値を適宜推定できる指標値推定装置等を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】第1の実施形態に係る推定システムの構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】第1の実施形態に係る推定システムが備える計測装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】第1の実施形態に係る計測装置の配置例を示す概念図である。
【
図4】第1の実施形態に係る計測装置に設定されるローカル座標系と世界座標系の関係の一例について説明するための概念図である。
【
図5】第1の実施形態に係る計測装置に関する説明で用いられる人体面について説明するための概念図である。
【
図6】第1の実施形態に係る計測装置に関する説明で用いられる歩行周期について説明するための概念図である。
【
図7】第1の実施形態に係る計測装置が計測するセンサデータの時系列データの一例について説明するためのグラフである。
【
図8】第1の実施形態に係る計測装置が計測するセンサデータの時系列データから抽出される歩行波形データの正規化の一例について説明するための図である。
【
図9】第1の実施形態に係る推定システムが備える指標値推定装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図10】第1の実施形態に係る推定システムが推定する膝関節屈曲角度に関するパラメータについて説明するためのグラフである。
【
図11】第1の実施形態に係る推定システムが推定する膝関節屈曲角度に関するパラメータの推定に用いられる特徴量の一例をまとめた表である。
【
図12】第1の実施形態に係る推定システムが推定する膝関節屈曲角度に関するパラメータの推定に用いられる特徴量の一例をまとめた表である。
【
図13】第1の実施形態に係る推定システムが推定する膝関節屈曲角度に関するパラメータの推定に用いられる特徴量の一例をまとめた表である。
【
図14】第1の実施形態に係る推定システムが推定する膝関節屈曲角度に関するパラメータの推定に用いられる特徴量の一例をまとめた表である。
【
図15】第1の実施形態に係る推定システムが推定する膝関節屈曲角度に関するパラメータの推定に用いられる特徴量の一例をまとめた表である。
【
図16】第1の実施形態に係る推定システムが備える計測装置の動作の一例について説明するためのフローチャートである。
【
図17】第1の実施形態に係る推定システムが備える指標値推定装置の動作の一例について説明するためのフローチャートである。
【
図18】第1の実施形態に係る推定システムの適用例について説明するための概念図である。
【
図19】第2の実施形態に係る推定システムの構成の一例を示すブロック図である。
【
図20】第2の実施形態に係る推定システムが推定するAngular Jerk Costについて説明するためのグラフである。
【
図21】第2の実施形態に係る推定システムが備える計測装置の動作の一例について説明するためのフローチャートである。
【
図22】第2の実施形態に係る推定システムが備える指標値推定装置の動作の一例について説明するためのフローチャートである。
【
図23】第2の実施形態に係る推定システムの適用例について説明するための概念図である。
【
図24】第3の実施形態に係る指標値推定装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図25】各実施形態の制御や処理を実行するハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。ただし、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい限定がされているが、発明の範囲を以下に限定するものではない。なお、以下の実施形態の説明に用いる全図においては、特に理由がない限り、同様箇所には同一符号を付す。また、以下の実施形態において、同様の構成・動作に関しては繰り返しの説明を省略する場合がある。
【0018】
(第1の実施形態)
まず、第1の実施形態に係る推定システムについて図面を参照しながら説明する。本実施形態の推定システムは、ユーザの歩行に応じた足の動きに関するセンサデータを計測する。本実施形態の推定システムは、計測されたセンサデータを用いて、そのユーザの膝の状態を示す指標値を推定する。本実施形態では、膝の状態を示す指標値として、膝関節屈曲角度に関するパラメータを推定する例をあげる。膝関節屈曲角度は、膝関節を中心として、大腿部と下腿部とがなす角度である。本実施形態において、膝関節屈曲角度は、進行方向の面内(矢状面内)における角度を示す。
【0019】
(構成)
図1は、本実施形態に係る推定システム1の構成の一例を示すブロック図である。推定システム1は、計測装置10と指標値推定装置13を備える。本実施形態においては、計測装置10と指標値推定装置13が別々のハードウェアに構成される例について説明する。例えば、計測装置10は、膝の状態を示す指標値の推定対象である被験者(ユーザ)の履物等に設置される。例えば、指標値推定装置13の機能は、被験者(ユーザ)の携帯する携帯端末にインストールされる。以下においては、計測装置10および指標値推定装置13の構成について、個別に説明する。
【0020】
〔計測装置〕
図2は、計測装置10の構成の一例を示すブロック図である。計測装置10は、センサ11と特徴量データ生成部12を有する。本実施形態においては、センサ11と特徴量データ生成部12が一体化された例をあげる。センサ11と特徴量データ生成部12は、別々の装置として提供されてもよい。例えば、特徴量データ生成部12は、指標値推定装置13の側に組み込まれてもよい。その場合、計測装置10は、センサ11によって計測されたセンサデータを、指標値推定装置13に対して送信する。
【0021】
図2のように、センサ11は、加速度センサ111と角速度センサ112を有する。
図2には、加速度センサ111と角速度センサ112が、センサ11に含まれる例をあげる。センサ11には、加速度センサ111および角速度センサ112以外のセンサが含まれてもよい。センサ11に含まれうる加速度センサ111および角速度センサ112以外のセンサについては、説明を省略する。
【0022】
加速度センサ111は、3軸方向の加速度(空間加速度とも呼ぶ)を計測するセンサである。加速度センサ111は、足の動きに関する物理量として、加速度(空間加速度とも呼ぶ)を計測する。加速度センサ111は、計測した加速度を特徴量データ生成部12に出力する。例えば、加速度センサ111には、圧電型や、ピエゾ抵抗型、静電容量型等の方式のセンサを用いることができる。加速度センサ111として用いられるセンサは、加速度を計測できれば、その計測方式に限定を加えない。
【0023】
角速度センサ112は、3軸周りの角速度(空間角速度とも呼ぶ)を計測するセンサである。角速度センサ112は、足の動きに関する物理量として、角速度(空間角速度とも呼ぶ)を計測する。角速度センサ112は、計測した角速度を特徴量データ生成部12に出力する。例えば、角速度センサ112には、振動型や静電容量型等の方式のセンサを用いることができる。角速度センサ112として用いられるセンサは、角速度を計測できれば、その計測方式に限定を加えない。
【0024】
センサ11は、例えば、加速度や角速度を計測する慣性計測装置によって実現される。慣性計測装置の一例として、IMU(Inertial Measurement Unit)があげられる。IMUは、3軸方向の加速度を計測する加速度センサ111と、3軸周りの角速度を計測する角速度センサ112を含む。センサ11は、VG(Vertical Gyro)やAHRS(Attitude Heading)などの慣性計測装置によって実現されてもよい。また、センサ11は、GPS/INS(Global Positioning System/Inertial Navigation System)によって実現されてもよい。センサ11は、足の動きに関する物理量を計測できれば、慣性計測装置以外の装置によって実現されてもよい。
【0025】
図3は、両脚の靴100の中に、計測装置10が配置される一例を示す概念図である。
図3の例では、足弓の裏側に当たる位置に、計測装置10が設置される。例えば、計測装置10は、靴100の中に挿入されるインソールに配置される。例えば、計測装置10は、靴100の底面に配置されてもよい。例えば、計測装置10は、靴100の本体に埋設されてもよい。計測装置10は、靴100から着脱できてもよいし、靴100から着脱できなくてもよい。計測装置10は、足の動きに関するセンサデータを計測できさえすれば、足弓の裏側ではない位置に設置されてもよい。また、計測装置10は、ユーザが履いている靴下や、ユーザが装着しているアンクレット等の装飾品に設置されてもよい。また、計測装置10は、足に直に貼り付けられたり、足に埋め込まれたりしてもよい。
図3には、両脚の靴100に計測装置10が設置される例を示す。計測装置10は、片足の靴100に設置されてもよい。
【0026】
図3の例では、計測装置10(センサ11)を基準として、左右方向のx軸、前後方向のy軸、上下方向のz軸を含むローカル座標系が設定される。x軸は左方を正とし、y軸は後方を正とし、z軸は上方を正とする。センサ11に設定される軸の向きは、両足で同じでもよく、両足で異なっていてもよい。例えば、同じスペックで生産されたセンサ11が両足の靴100の中に配置される場合、両脚の靴100に配置されるセンサ11の上下の向き(Z軸方向の向き)は、同じ向きである。その場合、左足に由来するセンサデータに設定されるローカル座標系の3軸と、右足に由来するセンサデータに設定されるローカル座標系の3軸とは、左右で同じにある。
【0027】
図4は、足弓の裏側に設置された計測装置10(センサ11)に設定されるローカル座標系(x軸、y軸、z軸)と、地面に対して設定される世界座標系(X軸、Y軸、Z軸)について説明するための概念図である。世界座標系(X軸、Y軸、Z軸)では、進行方向に正対した状態のユーザが直立した状態で、ユーザの横方向がX軸方向(左向きが正)、ユーザの背面の方向がY軸方向(後ろ向きが正)、重力方向がZ軸方向(鉛直上向きが正)に設定される。なお、
図4の例は、ローカル座標系(x軸、y軸、z軸)と世界座標系(X軸、Y軸、Z軸)の関係を概念的に示すものであり、ユーザの歩行に応じて変動するローカル座標系と世界座標系の関係を正確に示すものではない。
【0028】
図5は、人体に対して設定される面(人体面とも呼ぶ)について説明するための概念図である。本実施形態では、身体を左右に分ける矢状面、身体を前後に分ける冠状面、身体を水平に分ける水平面が定義される。なお、
図5のように、足の中心線を進行方向に向けて直立した状態では、世界座標系とローカル座標系が一致する。本実施形態においては、x軸を回転軸とする矢状面内の回転をロール、y軸を回転軸とする冠状面内の回転をピッチ、z軸を回転軸とする水平面内の回転をヨーと定義する。また、x軸を回転軸とする矢状面内の回転角をロール角、y軸を回転軸とする冠状面内の回転角をピッチ角、z軸を回転軸とする水平面内の回転角をヨー角と定義する。
【0029】
図2のように、特徴量データ生成部12(特徴量データ生成装置とも呼ぶ)は、取得部121、正規化部122、抽出部123、生成部125、および送信部127を有する。例えば、特徴量データ生成部12は、計測装置10の全体制御やデータ処理を行うマイクロコンピュータまたはマイクロコントローラによって実現される。例えば、特徴量データ生成部12は、CPU(Central Processing Unit)やRAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ等を有する。特徴量データ生成部12は、加速度センサ111および角速度センサ112を制御して、角速度や加速度を計測する。例えば、特徴量データ生成部12は、被験者(ユーザ)の携帯する携帯端末(図示しない)の側に実装されてもよい。
【0030】
取得部121は、加速度センサ111から、3軸方向の加速度を取得する。また、取得部121は、角速度センサ112から、3軸周りの角速度を取得する。例えば、取得部121は、取得された角速度および加速度等の物理量(アナログデータ)をAD変換(Analog-to-Digital Conversion)する。なお、加速度センサ111および角速度センサ112によって計測された物理量(アナログデータ)は、加速度センサ111および角速度センサ112の各々においてデジタルデータに変換されてもよい。取得部121は、変換後のデジタルデータ(センサデータとも呼ぶ)を正規化部122に出力する。取得部121は、図示しない記憶部に、センサデータを記憶させるように構成されてもよい。センサデータには、デジタルデータに変換された加速度データと、デジタルデータに変換された角速度データとが少なくとも含まれる。加速度データは、3軸方向の加速度ベクトルを含む。角速度データは、3軸周りの角速度ベクトルを含む。加速度データおよび角速度データには、それらのデータの取得時間が紐付けられる。また、取得部121は、加速度データおよび角速度データに対して、実装誤差や温度補正、直線性補正などの補正を加えてもよい。
【0031】
正規化部122は、取得部121からセンサデータを取得する。正規化部122は、センサデータに含まれる3軸方向の加速度および3軸周りの角速度の時系列データから、一歩行周期分の時系列データ(歩行波形データとも呼ぶ)を抽出する。
【0032】
図6は、右足を基準とする一歩行周期において検出される歩行イベントについて説明するための概念図である。
図6の横軸は、右足の一歩行周期を100パーセント(%)として正規化された歩行周期である。右足の踵が地面に着地した時点を起点(0%)とし、次に右足の踵が地面に着地した時点を終点(100%)とする。一歩行周期に含まれる複数のタイミングの各々が、歩行フェーズである。片足の一歩行周期は、立脚相と遊脚相とに大別される。
図6の例では、立脚相が60%を占め、遊脚相が40%を占めるように、歩行周期が正規化される。立脚相は、立脚初期T1、立脚中期T2、立脚終期T3、遊脚前期T4に細分される。遊脚相は、遊脚初期T5、遊脚中期T6、遊脚終期T7に細分される。一歩行周期の歩行波形は、踵が地面に着地した時点を起点としなくてもよい。例えば、一歩行周期の歩行波形の起点は、立脚相の中央の時点などに設定されてもよい。
【0033】
歩行イベントE1は、一歩行周期の始まりの踵接地(HC:Heel Contact)を表す。踵接地は、遊脚相において地面から離れていた右足の踵が、地面に着地する事象である。歩行イベントE2は、反対足爪先離地(OTO:Opposite Toe Off)を表す。反対足爪先離地は、右足の足裏の接地面が接地した状態で、左足の爪先が地面から離れる事象である。歩行イベントE3は、踵持ち上がり(HR:Heel Rise)を表す。踵持ち上がりは、右足の足裏の接地面が接地した状態で、右足の踵が持ち上がる事象である。歩行イベントE4は、反対足踵接地(OHC:Opposite Heel Contact)を表す。反対足踵接地は、左足の遊脚相において地面から離れていた左足の踵が、地面に着地する事象である。歩行イベントE5は、爪先離地(TO:Toe Off)を表す。爪先離地は、左足の足裏の接地面が接地した状態で、右足の爪先が地面から離れる事象である。歩行イベントE6は、足交差(FA:Foot Adjacent)を表す。足交差は、左足の足裏の接地面が接地した状態で、左足と右足が交差する事象である。歩行イベントE7は、脛骨垂直(TV:Tibia Vertical)を表す。脛骨垂直は、左足の足裏が接地した状態で、右足の脛骨が地面に対してほぼ垂直になる事象である。歩行イベントE8は、一歩行周期の終わりの踵接地(HS:Heel Strike)を表す。歩行イベントE8は、歩行イベントE1から始まる歩行周期の終点に相当するとともに、次の歩行周期の起点に相当する。
【0034】
図7は、進行方向加速度(Y方向加速度)の時系列データ(実線)から、踵接地HCや爪先離地TOを検出する一例について説明するための図である。踵接地HCのタイミングは、進行方向加速度(Y方向加速度)の時系列データに表れる極大ピークの直後の極小ピークのタイミングである。踵接地HCのタイミングの目印になる極大ピークは、一歩行周期分の歩行波形データの最大ピークに相当する。連続する踵接地HCの間の区間が、一歩行周期である。爪先離地TOのタイミングは、進行方向加速度(Y方向加速度)の時系列データに変動が表れない立脚相の期間の後に表れる極大ピークの立ち上がりのタイミングである。
図7には、ロール角(X軸周り角速度)の時系列データ(破線)も示す。ロール角が最小のタイミングと、ロール角が最大のタイミングとの中点のタイミングが、立脚中期に相当する。例えば、歩行速度や、歩幅、分回し、内旋/外旋、底屈/背屈などのパラメータ(歩容パラメータとも呼ぶ)は、立脚中期を基準として求めることもできる。
【0035】
正規化部122は、抽出された一歩行周期分の歩行波形データの時間を、0~100%(パーセント)の歩行周期に正規化(第1正規化とも呼ぶ)する。0~100%の歩行周期に含まれる1%や10%などのタイミングを、歩行フェーズとも呼ぶ。また、正規化部122は、第1正規化された一歩行周期分の歩行波形データに関して、立脚相が60%、遊脚相が40%になるように正規化(第2正規化とも呼ぶ)する。立脚相は、足の裏側の少なくとも一部が地面に接している期間である。遊脚相は、足の裏側が地面から離れている期間である。歩行波形データを第2正規化すれば、特徴量が抽出される歩行フェーズのずれを低減できる。
【0036】
図8は、正規化部122によって正規化された歩行波形データの一例について説明するための図である。正規化部122は、進行方向加速度(Y方向加速度)の時系列データから、踵接地HCと爪先離地TOを検出する。正規化部122は、連続する踵接地HCの間の区間を、一歩行周期分の歩行波形データとして抽出する。正規化部122は、第1正規化によって、一歩行周期分の歩行波形データの横軸(時間軸)を、0~100%の歩行周期に変換する。
図8には、第1正規化後の歩行波形データを破線で示す。第1正規化後の歩行波形データ(破線)では、爪先離地TOのタイミングが60%からずれている。
【0037】
図8の例において、正規化部122は、歩行フェーズが0%の踵接地HCから、その踵接地HCに後続する爪先離地TOまでの区間を0~60%に正規化する。また、正規化部122は、爪先離地TOから、爪先離地TOに後続する歩行フェーズが100%の踵接地HCまでの区間を60~100%に正規化する。その結果、一歩行周期分の歩行波形データは、歩行周期が0~60%の区間(立脚相)と、歩行周期が60~100%の区間(遊脚相)とに正規化される。
図8には、第2正規化後の歩行波形データを実線で示す。第2正規化後の歩行波形データ(実線)では、爪先離地TOのタイミングが60%に一致する。
【0038】
図7~
図8には、進行方向加速度(Y方向加速度)に基づいて、一歩行周期分の歩行波形データを抽出/正規化する例を示した。正規化部122は、進行方向加速度(Y方向加速度)以外の加速度/角速度に関しては、進行方向加速度(Y方向加速度)の歩行周期に合わせて、一歩行周期分の歩行波形データを抽出/正規化する。また、正規化部122は、3軸周りの角速度の時系列データを積分することで、3軸周りの角度の時系列データを生成してもよい。その場合、正規化部122は、3軸周りの角度に関しても、進行方向加速度(Y方向加速度)の歩行周期に合わせて、一歩行周期分の歩行波形データを抽出/正規化する。
【0039】
正規化部122は、進行方向加速度(Y方向加速度)以外の加速度/角速度に基づいて、一歩行周期分の歩行波形データを抽出/正規化してもよい(図面は省略)。例えば、正規化部122は、垂直方向加速度(Z方向加速度)の時系列データから、踵接地HCや爪先離地TOを検出してもよい。踵接地HCのタイミングは、垂直方向加速度(Z方向加速度)の時系列データに表れる急峻な極小ピークのタイミングである。急峻な極小ピークのタイミングにおいては、垂直方向加速度(Z方向加速度)の値がほぼ0になる。踵接地HCのタイミングの目印になる極小ピークは、一歩行周期分の歩行波形データの最小ピークに相当する。連続する踵接地HCの間の区間が、一歩行周期である。爪先離地TOのタイミングは、垂直方向加速度(Z方向加速度)の時系列データが、踵接地HCの直後の極大ピークの後に変動の小さい区間を経た後に、なだらかに増大する途中の変曲点のタイミングである。また、正規化部122は、進行方向加速度(Y方向加速度)および垂直方向加速度(Z方向加速度)の両方に基づいて、一歩行周期分の歩行波形データを抽出/正規化してもよい。また、正規化部122は、進行方向加速度(Y方向加速度)および垂直方向加速度(Z方向加速度)以外の加速度や角速度、角度等に基づいて、一歩行周期分の歩行波形データを抽出/正規化してもよい。
【0040】
抽出部123は、正規化部122によって正規化された一歩行周期分の歩行波形データを取得する。抽出部123は、一歩行周期分の歩行波形データから、膝の状態を示す指標値の推定に用いられる特徴量を抽出する。例えば、抽出部123は、予め設定された条件に基づいて、時間的に連続する歩行フェーズを統合した歩行フェーズクラスターから、歩行フェーズクラスターごとの特徴量を抽出する。歩行フェーズクラスターは、少なくとも一つの歩行フェーズを含む。歩行フェーズクラスターには、単一の歩行フェーズも含まれる。膝の状態を示す指標値の推定に用いられる特徴量が抽出される歩行波形データや歩行フェーズについては、後述する。
【0041】
生成部125は、歩行フェーズクラスターを構成する歩行フェーズの各々から抽出された特徴量(第1特徴量)を取得する。生成部125は、取得した第1特徴量に特徴量構成式を適用して、歩行フェーズクラスターごとの特徴量(第2特徴量)を生成する。特徴量構成式は、歩行フェーズクラスターごとの特徴量(第2特徴量)を生成するために、予め設定された計算式である。例えば、特徴量構成式は、四則演算に関する計算式である。例えば、特徴量構成式を用いて算出される第2特徴量は、歩行フェーズクラスターに含まれる各歩行フェーズにおける第1特徴量の積分平均値や算術平均値、傾斜、ばらつきなどである。例えば、抽出部123は、歩行フェーズクラスターを構成する歩行フェーズの各々から抽出された第1特徴量の傾斜やばらつきを算出する計算式を、特徴量構成式として適用する。例えば、歩行フェーズクラスターが単独の歩行フェーズで構成される場合は、傾斜やばらつきを算出できないため、積分平均値や算術平均値などを計算する特徴量構成式を用いればよい。
【0042】
また、生成部125は、歩容に関するパラメータ(歩容パラメータとも呼ぶ)を計算する。生成部125は、歩行波形データから導出される特徴量を用いて、歩容パラメータを計算する。例えば、生成部125は、歩容パラメータとして、ストライド長や、背屈の最大値(背屈最大)、一歩行周期における立脚相の割合、一歩行周期における遊脚相の割合、爪先高さの最大値(最大爪先高さ)、ストライド時間を計算する。歩容パラメータは、指標値推定装置13において計算されてもよい。
【0043】
ストライド長は、一歩行周期の始点である踵接地のタイミングから、終点である踵接地のタイミングまでの区間における、水平面内における移動距離に相当する。例えば、生成部125は、空間加速度を二階積分して得られる水平面内における軌跡の起点と終点との間の距離を、ストライド長として計算する。背屈の最大値(背屈最大)は、水平面に対する足裏の角度の最大値に相当する。例えば、生成部125は、空間角速度を積分して得られる空間角度を、背屈最大として計算する。立脚相の割合は、一歩行周期の起点である踵接地のタイミングから、爪先離地のタイミングまでの期間を、一歩行周期の期間で割った値である。第2正規化されている場合、立脚相の割合は0.6(60%)である。遊脚相の割合は、爪先離地のタイミングから、一歩行周期の終点である踵接地のタイミングまでの期間を、一歩行周期の期間で割った値である。第2正規化されている場合、遊脚相の割合は0.4(40%)である。爪先高さの最大値(最大爪先高さ)は、垂直方向高さの最大値である。例えば、生成部125は、垂直方向加速度を二階積分して得られる垂直方向高さの最大値を、最大爪先高さとして計算する。ストライド時間は、一歩行周期の始点である踵接地のタイミングから、終点である踵接地のタイミングまでの時間に相当する。例えば、生成部125は、進行方向加速度を積分して得られる一歩行周期における進行方向速度の平均値(平均歩行速度)で、ストライド長を割ることによって、ストライド時間を計算する。上述の算出方法は、一例であって、歩容パラメータの算出方法を限定するものではない。
【0044】
送信部127は、生成部125によって生成された歩行フェーズクラスターごとの特徴量データを出力する。送信部127は、生成された歩行フェーズクラスターの特徴量データを、その特徴量データを使用する指標値推定装置13に送信する。例えば、送信部127は、無線通信を介して、データ中継装置15に特徴量データを送信する。例えば、送信部127は、Bluetooth(登録商標)やWiFi(登録商標)などの規格に則した無線通信機能(図示しない)を介して、データ中継装置15に特徴量データを送信するように構成される。なお、送信部127の通信機能は、Bluetooth(登録商標)やWiFi(登録商標)以外の規格に則していてもよい。
【0045】
〔指標値推定装置〕
図9は、指標値推定装置13の構成の一例を示すブロック図である。指標値推定装置13は、データ取得部131、記憶部132、推定部133、および出力部135を有する。
【0046】
データ取得部131は、計測装置10から特徴量データを受信する。データ取得部131は、受信された特徴量データを推定部133に出力する。データ取得部131は、計測装置10の送信部127と共通の通信方式で通信する。データ取得部131は、無線通信を介して、特徴量データを計測装置10から受信する。例えば、データ取得部131は、Bluetooth(登録商標)やWiFi(登録商標)などの規格に則した無線通信機能(図示しない)を介して、特徴量データを計測装置10から受信するように構成される。データ取得部131の通信機能は、Bluetooth(登録商標)やWiFi(登録商標)以外の規格に則していてもよい。また、データ取得部131は、ケーブルなどの有線を介して特徴量データを計測装置10から受信するように構成されてもよい。
【0047】
記憶部132は、歩行波形データから抽出された特徴量データを用いて、膝の状態を示す指標値を推定する推定モデルを記憶する。記憶部132は、複数の被験者の膝関節屈曲角度に関する特徴量データと、膝の状態を示す指標値との関係を学習した推定モデルを記憶する。例えば、記憶部132は、複数の被験者に関して学習された、膝関節屈曲角度に関するパラメータを推定する推定モデルを記憶する。膝関節屈曲角度に関するパラメータの詳細については、後述する。
【0048】
推定モデルは、製品の工場出荷時や、推定システムをユーザが使用する前のキャリブレーション時等のタイミングで、記憶部132に記憶させておけばよい。例えば、外部のサーバ等の記憶装置に保存された推定モデルを用いるように構成してもよい。その場合、その記憶装置と接続されたインターフェース(図示しない)を介して、推定モデルを用いるように構成すればよい。
【0049】
推定部133は、データ取得部131から特徴量データを取得する。推定部133は、取得された特徴量データを用いて、膝の状態を示す指標値として膝関節屈曲角度に関するパラメータの推定を実行する。推定部133は、記憶部132に記憶された推定モデルに特徴量データを入力する。推定部133は、推定モデルから出力される膝の状態を示す指標値(膝関節屈曲角度に関するパラメータ)に応じた推定結果を出力する。クラウドやサーバ等に構築された外部の記憶装置に保存された推定モデルを用いる場合、推定部133は、その記憶装置と接続されたインターフェース(図示しない)を介して、推定モデルを用いるように構成される。
【0050】
出力部135は、推定部133による膝の状態を示す指標値(膝関節屈曲角度に関するパラメータ)の推定結果を出力する。例えば、出力部135は、被験者(ユーザ)の携帯端末の画面に、膝の状態を示す指標値の推定結果を表示させる。例えば、出力部135は、推定結果を使用する外部システム等に対して、その推定結果を出力する。指標値推定装置13から出力された膝の状態を示す指標値の使用に関しては、特に限定を加えない。
【0051】
例えば、指標値推定装置13は、被験者(ユーザ)が携帯する携帯端末(図示しない)を介して、クラウドやサーバに構築された外部システム等に接続される。携帯端末(図示しない)は、携帯可能な通信機器である。例えば、携帯端末は、スマートフォンや、スマートウォッチ、携帯電話等の通信機能を有する携帯型の通信機器である。例えば、指標値推定装置13は、無線通信を介して、携帯端末に接続される。例えば、指標値推定装置13は、Bluetooth(登録商標)やWiFi(登録商標)などの規格に則した無線通信機能(図示しない)を介して、携帯端末に接続される。なお、指標値推定装置13の通信機能は、Bluetooth(登録商標)やWiFi(登録商標)以外の規格に則していてもよい。例えば、指標値推定装置13は、ケーブルなどの有線を介して、携帯端末に接続されてもよい。膝の状態を示す指標値の推定結果は、携帯端末にインストールされたアプリケーションによって使用されてもよい。その場合、携帯端末は、その携帯端末にインストールされたアプリケーションソフトウェア等によって、推定結果を用いた処理を実行する。
【0052】
〔膝関節屈曲角度に関するパラメータ〕
次に、膝関節屈曲角度に関するパラメータと特徴量データとの相関関係について、検証結果を交えて説明する。以下においては、72人(男性36人、女性36人)の被験者に対して行われた検証例をあげる。以下の検証例では、歩行における膝関節屈曲角度に関するパラメータの実測値と推定値との相関を検証した。以下の検証では、スマートアパレルを着用し、計測装置10が搭載された靴を履いた被験者に、5mの直線経路を2往復歩行させた。実測値は、スマートアパレルを着用した被検者の膝屈曲関節角度を、モーションキャプチャの手法で計測することで得られた。予測値は、実測値の計測と同時に、被験者が履く靴に搭載された計測装置10によって計測されたセンサデータを用いて推定された推定値である。以下において、実測値と推定値との相関は、級内相関係数ICC(Intraclass Correlation Coefficients)の値で検証される。
【0053】
図10は、一歩行周期における膝関節屈曲角度の時系列データの一例を示すグラフである。
図10の横軸は、踵接地のタイミングを起点とし、その次の踵接地のタイミングを終点とする歩行周期である。歩行周期は、0~100%に正規化される。また、歩行周期は、立脚相が60%の期間になり、遊脚相が40%の期間になるように正規化される。
【0054】
図10のように、一歩行周期における膝関節屈曲角度の時系列データには、二つのピークが表れる。二つのピークの間には、一つの谷が表れる。第1ピークは、立脚初期T1から立脚中期T2への移行期間に表れる。第1ピークのタイミングは、反対足爪先離地OTOのタイミングとほぼ一致する。第2ピークは、遊脚初期T5から遊脚中期T6への移行期間に表れる。第2ピークのタイミングは、足交差FAのタイミングとほぼ一致する。
【0055】
図10には、膝の状態を示す指標値の一例として、膝関節屈曲角度に関するパラメータを示す。本実施形態では、膝関節屈曲角度に関するパラメータとして、第1角度パラメータF1、第2角度パラメータF2、第3角度パラメータF3、第4角度パラメータF4、歩行周期パラメータG、および時間パラメータTを推定する例をあげる。
【0056】
非特許文献4には、脳性麻痺患者における歩行中の膝関節屈曲角度が減少する現象であるStiff-knee Gaitについて記載されている(非特許文献4:S. R. Goldberg, et al., Journal of Biomechanics, 37, (2004), pp.1189-1196.)。Stiff-knee Gaitは、「遊脚相における膝関節屈曲角度の減少を呈する跛行」と定義される。近年では、膝関節疾患により生じる異常歩行に対しても、Stiff-knee Gaitという用語が用いられる。Stiff-knee Gaitでは、足尖の引っ掛かりによる転倒リスクの増大や、歩行速度/歩行エネルギー効率の低下が起こる。変形性膝関節症においても、膝関節屈曲角度の減少を生じることがある。Stiff-knee Gaitの有無は、変形性膝関節症などの疾患を判定するためのパラメータとして、利用できる可能性がある。非特許文献4には、爪先離地における膝の屈曲速度が不十分な場合、Stiff-knee Gaitになり、遊脚層における膝関節屈曲角度が低下する可能性があると報告されている。
【0057】
第1角度パラメータF1は、第1ピークのタイミングにおける膝関節屈曲角度から、二つのピーク間の谷のタイミングにおける膝関節屈曲角度を引いた値である。膝に疾患がある場合、二つのピーク間の谷が不明確になる傾向がある。そのため、膝に疾患がある場合、第1角度パラメータF1が小さくなる。
【0058】
第2角度パラメータF2は、第2ピークのタイミングにおける膝関節屈曲角度から、二つのピーク間の谷のタイミングにおける膝関節屈曲角度を引いた値である。膝に疾患がある場合、二つのピーク間の谷が不明確になる傾向がある。そのため、膝に疾患がある場合、第2角度パラメータF2が小さくなる。
【0059】
第3角度パラメータF3は、第2ピークのタイミングにおける膝関節屈曲角度から、爪先離地のタイミングにおける膝関節屈曲角度を引いた値である。膝に疾患がある場合、膝関節屈曲角度が減少する傾向がある。そのため、膝に疾患がある場合、第3角度パラメータF3が小さくなる。
【0060】
第4角度パラメータF4は、第2ピークのタイミングにおける膝関節屈曲角度である。膝に疾患がある場合、遊脚相における膝関節屈曲角度が減少する傾向がある。そのため、膝に疾患がある場合、第4角度パラメータF4が小さくなる。
【0061】
歩行周期パラメータGは、爪先離地のタイミングから、第2ピークのタイミングまでの時間的距離(歩行周期)である。膝に疾患がある場合、爪先離地のタイミングにおける膝速度が低下する傾向がある。そのため、膝に疾患がある場合、歩行周期パラメータGが大きくなる。
【0062】
時間パラメータTは、爪先離地のタイミングから、第2ピークのタイミングまでの時間である。膝に疾患がある場合、爪先離地のタイミングにおける膝速度が低下する傾向がある。そのため、膝に疾患がある場合、時間パラメータTが大きくなる。
【0063】
図11~
図15は、膝関節屈曲角度に関するパラメータの推定に用いられた特徴量をまとめた対応表である。
図11~
図15の対応表は、特徴量の番号、特徴量の抽出元(歩行波形データと歩容パラメータ)、および歩行フェーズクラスターに含まれる歩行フェーズ(%)を対応付ける。膝関節屈曲角度に関するパラメータの推定に用いられる特徴量は、実測値と推定値との相関性に基づいて選定された。以下の膝関節屈曲角度に関するパラメータの推定に用いられる特徴量は、一例であって、膝関節屈曲角度に関するパラメータの推定に用いられる特徴量を限定するものではない。
【0064】
図11は、第1角度パラメータF1の推定に用いられた特徴量をまとめた対応表である。第1角度パラメータF1の推定には、特徴量F1-1~11が用いられた。特徴量F1-1は、左右方向加速度(X方向加速度)の時系列データに関する歩行波形データAxの歩行フェーズ94%から抽出された。特徴量F1-2は、進行方向加速度(Y方向加速度)の時系列データに関する歩行波形データAyの歩行フェーズ79-81%の区間から抽出された。特徴量F1-3は、垂直方向加速度(Z方向加速度)の時系列データに関する歩行波形データAzの歩行フェーズ1%、33%、43%から抽出された。特徴量F1-4は、冠状面内(Y軸周り)における角速度の時系列データに関する歩行波形データGyの歩行フェーズ39-40%の区間から抽出された。特徴量F1-5は、水平面内(Z軸周り)における角速度の時系列データに関する歩行波形データGzの歩行フェーズ62-63%の区間から抽出された。特徴量F1-6は、矢状面内(X軸周り)における角度(姿勢角)の時系列データに関する歩行波形データExの歩行フェーズ68-72%、88-93%の区間から抽出された。特徴量F1-7は、矢状面内(Y軸周り)における角度(姿勢角)の時系列データに関する歩行波形データEyの歩行フェーズ6-21%、23-28%の区間から抽出された。特徴量F1-8は、歩容パラメータに含まれるストライド長である。特徴量F1-9は、歩容パラメータに含まれる背屈の最大値(背屈最大)である。特徴量F1-10は、歩容パラメータに含まれる、一歩行周期における立脚相の割合である。特徴量F1-11は、歩容パラメータに含まれる、一歩行周期における遊脚相の割合である。第1角度パラメータF1の実測値と推定値との級内相関係数ICCは、0.4893であった。
【0065】
例えば、第1角度パラメータF1を推定する推定モデルは、特徴量F1-1~11の入力に応じて、膝の状態を示す指標値の指標である第1角度パラメータF1を出力する。そのような推定モデルは、第1角度パラメータF1の推定に用いられる特徴量F1-1~11を説明変数とし、第1角度パラメータF1を目的変数とする教師データを用いた学習で生成される。
【0066】
図12は、第2角度パラメータF2の推定に用いられた特徴量をまとめた対応表である。第2角度パラメータF2の推定には、特徴量F2-1~8が用いられた。特徴量F2-1は、左右方向加速度(X方向加速度)の時系列データに関する歩行波形データAxの歩行フェーズ93%から抽出された。特徴量F2-2は、進行方向加速度(Y方向加速度)の時系列データに関する歩行波形データAyの歩行フェーズ12%、78-84%の区間から抽出された。特徴量F2-3は、垂直方向加速度(Z方向加速度)の時系列データに関する歩行波形データAzの歩行フェーズ25-26%から抽出された。特徴量F2-4は、冠状面内(Y軸周り)における角速度の時系列データに関する歩行波形データGyの歩行フェーズ70%の区間から抽出された。特徴量F2-5は、矢状面内(X軸周り)における角度(姿勢角)の時系列データに関する歩行波形データExの歩行フェーズ38-44%、63-86%の区間から抽出された。特徴量F2-6は、水平面内(Z軸周り)における角度(姿勢角)の時系列データに関する歩行波形データEzの歩行フェーズ9-11%の区間から抽出された。特徴量F2-7は、歩容パラメータに含まれる爪先高さの最大値(最大爪先高さ)である。特徴量F2-8は、歩容パラメータに含まれるストライド時間である。第2角度パラメータF2の実測値と推定値との級内相関係数ICCは、0.4732であった。
【0067】
例えば、第2角度パラメータF2を推定する推定モデルは、特徴量F2-1~8の入力に応じて、膝の状態を示す指標値の指標である第2角度パラメータF2を出力する。そのような推定モデルは、第2角度パラメータF2の推定に用いられる特徴量F2-1~8を説明変数とし、第2角度パラメータF2を目的変数とする教師データを用いた学習で生成される。
【0068】
図13は、第3角度パラメータF3の推定に用いられた特徴量をまとめた対応表である。第3角度パラメータF3の推定には、特徴量F3-1~2が用いられた。特徴量F3-1は、垂直方向加速度(Z方向加速度)の時系列データに関する歩行波形データAzの歩行フェーズ33%、75-77%から抽出された。特徴量F3-2は、矢状面内(X軸周り)における角度(姿勢角)の時系列データに関する歩行波形データExの歩行フェーズ52-82%の区間から抽出された。第3角度パラメータF3の実測値と推定値との級内相関係数ICCは、0.5944であった。
【0069】
例えば、第3角度パラメータF3を推定する推定モデルは、特徴量F3-1~2の入力に応じて、膝の状態を示す指標値の指標である第3角度パラメータF3を出力する。そのような推定モデルは、第3角度パラメータF3の推定に用いられる特徴量F3-1~2を説明変数とし、第3角度パラメータF3を目的変数とする教師データを用いた学習で生成される。
【0070】
図14は、第4角度パラメータF4の推定に用いられた特徴量をまとめた対応表である。第4角度パラメータF4の推定には、特徴量F4-1~2が用いられた。特徴量F4-1は、左右方向加速度(X方向加速度)の時系列データに関する歩行波形データAxの歩行フェーズ68%から抽出された。特徴量F4-2は、矢状面内(Y軸周り)における角度(姿勢角)の時系列データに関する歩行波形データEyの歩行フェーズ75-86%の区間から抽出された。第4角度パラメータF4の実測値と推定値との級内相関係数ICCは、0.3345であった。
【0071】
例えば、第4角度パラメータF4を推定する推定モデルは、特徴量F4-1~2の入力に応じて、膝の状態を示す指標値の指標である第4角度パラメータF4を出力する。そのような推定モデルは、第4角度パラメータF4の推定に用いられる特徴量F4-1~2を説明変数とし、第4角度パラメータF4を目的変数とする教師データを用いた学習で生成される。
【0072】
図15は、歩行周期パラメータGおよび時間パラメータTの推定に用いられた特徴量をまとめた対応表である。歩行周期パラメータGの推定には、特徴量G-1~3が用いられた。時間パラメータTの推定には、特徴量T-1~3が用いられた。特徴量G-1および特徴量T-1は、左右方向加速度(X方向加速度)の時系列データに関する歩行波形データAxの歩行フェーズ87%から抽出された。特徴量G-2および特徴量T-2は、水平面内(Z軸周り)における角度(姿勢角)の時系列データに関する歩行波形データEzの歩行フェーズ76-78%の区間から抽出された。特徴量G-3および特徴量T-3は、矢状面内(X軸周り)における角度(姿勢角)の時系列データに関する歩行波形データExの歩行フェーズ1-3%、67-83%の区間から抽出された。歩行周期パラメータGの実測値と推定値との級内相関係数ICCは、0.4818であった。時間パラメータTの実測値と推定値との級内相関係数ICCは、0.7122であった。
【0073】
例えば、歩行周期パラメータGを推定する推定モデルは、特徴量G-1~3の入力に応じて、膝の状態を示す指標値の指標である歩行周期パラメータGを出力する。そのような推定モデルは、歩行周期パラメータGの推定に用いられる特徴量G-1~3を説明変数とし、歩行周期パラメータGを目的変数とする教師データを用いた学習で生成される。
【0074】
例えば、時間パラメータTを推定する推定モデルは、特徴量T-1~3の入力に応じて、膝の状態を示す指標値の指標である時間パラメータTを出力する。そのような推定モデルは、時間パラメータTの推定に用いられる特徴量T-1~3を説明変数とし、時間パラメータTを目的変数とする教師データを用いた学習で生成される。
【0075】
特徴量データの入力に応じて、膝関節屈曲角度に関するパラメータに関する推定結果が出力されれば、推定モデルの推定結果には限定を加えない。例えば、記憶部132には、重回帰予測法を用いて、膝関節屈曲角度に関するパラメータを推定する推定モデルが記憶される。例えば、記憶部132には、個々の特徴量データに積算される係数(重み)が記憶される。記憶部132に記憶された係数(重み)は、それらが対応付けられた特徴量データに積算される。係数(重み)が積算された特徴量データの総和が、膝関節屈曲角度に関するパラメータに相当する。
【0076】
(動作)
次に、推定システム1の動作の一例について図面を参照しながら説明する。ここでは、推定システム1に含まれる計測装置10および指標値推定装置13について、個別に説明する。計測装置10に関しては、計測装置10に含まれる特徴量データ生成部12の動作について説明する。
【0077】
〔計測装置〕
図16は、計測装置10に含まれる特徴量データ生成部12の動作について説明するためのフローチャートである。
図16のフローチャートに沿った説明においては、特徴量データ生成部12を動作主体として説明する。
【0078】
図16において、まず、特徴量データ生成部12は、足の動きに関するセンサデータの時系列データを取得する(ステップS101)。
【0079】
次に、特徴量データ生成部12は、センサデータの時系列データから一歩行周期分の歩行波形データを抽出する(ステップS102)。特徴量データ生成部12は、センサデータの時系列データから踵接地および爪先離地を検出する。特徴量データ生成部12は、連続する踵接地間の区間の時系列データを、一歩行周期分の歩行波形データとして抽出する。
【0080】
次に、特徴量データ生成部12は、抽出された一歩行周期分の歩行波形データを正規化する(ステップS103)。特徴量データ生成部12は、一歩行周期分の歩行波形データを0~100%の歩行周期に正規化する(第1正規化)。さらに、特徴量データ生成部12は、第1正規化された一歩行周期分の歩行波形データの立脚相と遊脚相の比を60:40に正規化する(第2正規化)。
【0081】
次に、特徴量データ生成部12は、正規化された歩行波形から、膝関節屈曲角度に関するパラメータの推定に用いられる歩行フェーズから特徴量を抽出する(ステップS104)。特徴量データ生成部12は、予め構築された推定モデルに入力される特徴量を抽出する。
【0082】
次に、特徴量データ生成部12は、抽出された特徴量を用いて、歩行フェーズクラスターごとの特徴量を生成する(ステップS105)。
【0083】
次に、特徴量データ生成部12は、歩行フェーズクラスターごとの特徴量を統合して、一歩行周期分の特徴量データを生成する(ステップS106)。
【0084】
次に、特徴量データ生成部12は、生成された特徴量データを指標値推定装置13に出力する(ステップS107)。
【0085】
〔指標値推定装置〕
図17は、指標値推定装置13の動作について説明するためのフローチャートである。
図17のフローチャートに沿った説明においては、指標値推定装置13を動作主体として説明する。
【0086】
図17において、まず、指標値推定装置13は、膝関節屈曲角度に関するパラメータの推定に用いられる特徴量データを取得する(ステップS131)。
【0087】
次に、指標値推定装置13は、取得した特徴量データを、膝関節屈曲角度に関するパラメータを推定する推定モデルに入力する(ステップS132)。
【0088】
次に、指標値推定装置13は、推定モデルからの出力(推定値)に応じて、ユーザの膝関節屈曲角度に関するパラメータを推定する(ステップS133)。
【0089】
次に、指標値推定装置13は、推定されたパラメータに関する情報を出力する(ステップS134)。例えば、膝関節屈曲角度に関するパラメータは、ユーザの携帯する端末装置(図示しない)に出力される。例えば、膝関節屈曲角度に関するパラメータは、パラメータを用いた処理を実行するシステムに出力される。
【0090】
(適用例)
次に、本実施形態に係る適用例について図面を参照しながら説明する。以下の適用例において、靴100に配置された計測装置10によって計測された特徴量データを用いて、ユーザが携帯する携帯端末にインストールされた指標値推定装置13の機能が、膝の状態を示す指標値に関する情報を推定する例を示す。
【0091】
図18は、計測装置10が配置された靴100を履いて歩行するユーザの携帯する携帯端末160の画面に、指標値推定装置13による推定結果を表示させる一例を示す概念図である。
図18は、ユーザの歩行中に計測されたセンサデータに応じた特徴量データを用いて推定された、膝関節屈曲角度に関するパラメータの推定結果に応じた情報を、携帯端末160の画面に表示させる例である。
【0092】
図18は、膝の状態を示す指標値である膝関節屈曲角度に関するパラメータの推定結果に応じた情報が、携帯端末160の画面に表示される例である。
図18の例では、推定結果に応じて、「遊脚相における膝関節屈曲角度が小さい傾向があります。」という情報が、携帯端末160の表示部に表示される。また、
図18の例では、膝の状態を示す指標値である膝関節屈曲角度に関するパラメータの推定値に応じて、「病院で診察を受けることをお薦めします。」という推薦情報が、携帯端末160の表示部に表示される。例えば、診察可能な病院のサイトへのリンク先や電話番号を、携帯端末160の画面に表示させてもよい。携帯端末160の表示部に表示された情報を確認したユーザは、推薦情報に応じて病院に行くことによって、膝に関する疾病の診察を受けることができる。
【0093】
以上のように、本実施形態の推定システムは、計測装置および指標値推定装置を備える。計測装置は、センサと特徴量データ生成部を備える。センサは、加速度センサと角速度センサを有する。センサは、加速度センサを用いて、空間加速度を計測する。センサは、角速度センサを用いて、空間角速度を計測する。センサは、計測した空間加速度および空間角速度を用いて、足の動きに関するセンサデータを生成する。センサは、生成したセンサデータを特徴量データ生成部に出力する。特徴量データ生成装置は、足の動きに関するセンサデータの時系列データを取得する。特徴量データ生成装置は、センサデータの時系列データから一歩行周期分の歩行波形データを抽出する。特徴量データ生成装置は、抽出された歩行波形データを正規化する。特徴量データ生成装置は、正規化された歩行波形データから、膝の状態を示す指標値の推定に用いられる特徴量を、時間的に連続する少なくとも一つの歩行フェーズによって構成される歩行フェーズクラスターから抽出する。特徴量データ生成装置は、抽出された特徴量を含む特徴量データを生成する。特徴量データ生成装置は、生成された特徴量データを出力する。
【0094】
指標値推定装置は、データ取得部、記憶部、推定部、および出力部を備える。データ取得部は、ユーザの足の動きに関するセンサデータから抽出された、ユーザの膝の状態を示す指標値の推定に用いられる特徴量を含む特徴量データを取得する。記憶部は、特徴量データの入力に応じた指標値を出力する推定モデルを記憶する。記憶部は、膝の状態を示す指標値として膝関節屈曲角度に関するパラメータを推定する推定モデルを記憶する。推定部は、取得された特徴量データを推定モデルに入力することで得られた出力を、ユーザの膝の状態を示す指標値として推定する。出力部は、推定されたユーザの膝の状態を示す指標値に関する情報を出力する。推定部は、ユーザに関して取得された特徴量データを推定モデルに入力することで得られた膝関節屈曲角度に関するパラメータを、ユーザの膝の状態を示す指標値として推定する。
【0095】
本実施形態の推定システムは、ユーザの足の動きに関するセンサデータから抽出された特徴量を用いて、ユーザの膝の状態を示す指標値を推定する。そのため、本実施形態によれば、膝の状態を示す指標値を計測するための専用器具を用いずに、日常生活において、膝の状態を示す指標値として、膝関節屈曲角度に関するパラメータを適宜推定できる。
【0096】
日常の歩行において、膝は重要な機能を持つ。変形性膝関節症のような膝に関する疾患は、関節炎等による疼痛を発生させ、日常生活のQoL(Quality of Life)に悪影響を与える要因になりうる。それらの疾患には、早期発見や予防が重要である。しかし、それらの疾患の診断には、専門の装置による計測や、専門家による診断が必要である。そのため、日常の生活において、それらの疾患を早期発見/予防をすることは難しい。本実施形態の手法によれば、日常生活で計測されるセンサデータを用いて、膝関節屈曲角度に関するパラメータを適宜推定できる。推定されたパラメータの値が健常な範囲から大きく外れる場合、膝に疾患がある可能性がある。本実施形態の手法で得られたパラメータは、膝の疾患を診断するための補助情報として利用できる。すなわち、本実施形態の手法によれば、日常生活において、膝に関する疾患を早期発見/予防するための指標値を推定できる。
【0097】
本実施形態の一態様において、記憶部は、複数の被験者の歩行に関する検証で得られた特徴量を説明変数とし、複数の被験者の歩行に関する検証で実測された指標値の実測値を目的変数とする教師データを用いた学習によって生成された推定モデルを記憶する。推定部は、ユーザに関して取得された特徴量データを推定モデルに入力することで得られた出力を、ユーザの膝の状態を示す指標値として推定する。本態様によれば、複数の被験者に関する検証で得られた特徴量と指標値の実測値とを学習させた推定モデルを用いることで、統計的な観点から、膝の状態を示す指標値を推定できる。
【0098】
本実施形態の一態様において、記憶部は、一歩行周期の膝関節屈曲角度の時系列データに表れる二つのピークに関連する膝関節屈曲角度に関するパラメータを推定する推定モデルを記憶する。推定部は、ユーザの歩行に応じて取得された特徴量データを推定モデルに入力し、推定モデルから出力されたユーザの指標値に応じて、ユーザの膝の状態を示す指標値を推定する。本態様では、膝関節屈曲角度の時系列データに表れるピークに関連付けて、膝関節屈曲角度に関するパラメータを推定する。そのため、本態様によれば、歩行における膝の動きがより反映された指標値を推定できる。
【0099】
本実施形態の一態様において、記憶部は、一歩行周期の膝関節屈曲角度の時系列データに表れる二つのピークのうち遊脚相に表れるピークのタイミングと、爪先離地のタイミングとの時間的関係を含む膝関節屈曲角度に関するパラメータを推定する推定モデルを記憶する。推定部は、ユーザの歩行に応じて取得された特徴量データを推定モデルに入力し、推定モデルから出力されたユーザの指標値に応じて、ユーザの膝の状態を示す指標値を推定する。本態様では、膝関節屈曲角度の時系列データの遊脚相に表れるピークのタイミングと、爪先離地のタイミングとの時間的関係を、膝関節屈曲角度に関するパラメータとして推定する。そのため、本態様によれば、遊脚相における膝の動きがより反映された指標値を推定できる。
【0100】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態に係る推定システムについて図面を参照しながら説明する。本実施形態では、膝の状態を示す指標値として、膝の運動の円滑さを示すコストを推定する例をあげる。本実施形態においては、膝の運動の円滑さを示すコストとして、膝屈曲角度の三階微分である角躍度の二乗値を歩行周期に含まれる特定期間において積算した値に相当するAJC(Angular Jerk Cost)を推定する例をあげる。
【0101】
(構成)
図19は、本実施形態に係る推定システム2の構成の一例を示すブロック図である。推定システム2は、計測装置20と指標値推定装置23を備える。計測装置20は、第1の実施形態の計測装置10と同様の構成ある。指標値推定装置23は、第1の実施形態の指標値推定装置13と同様の構成である。計測装置20および指標値推定装置23は、膝の状態を示す指標値の推定に用いられる特徴量の抽出元が、第1の実施形態とは異なる。
以下においては、計測装置20および指標値推定装置23の詳細構成については、説明を省略する。
【0102】
角躍度の評価に対する解釈は、二つに大別される。1つは、筋力が大きく発揮されていると、角躍度の値が大きくなるという解釈である。もう1つは、運動の円滑さが減少していると、角躍度の値が大きくなるという解釈である。変形性膝関節症を発症している被検者は、膝の疼痛や可動域の制限などの要因による膝関節の機能や歩行障害などに起因して、立脚初期において適切な運動学的対応が困難となる。そのような被験者は、床反力を小さくすることによって膝関節の角加速度変化を小さくし、膝の疼痛を回避するために運動の円滑さを保証するような対応を取っていると推定される。本実施形態では、膝の疼痛を回避するための補償動作に応じて運動の円滑さが増大し、角躍度が低下するものと想定する。通常、膝角度の動きは、等加速度運動ではない。しかし、膝の痛みを和らげるための補償動作が取られると、膝角度の動きが等加速度運動に近くなる傾向がある。
【0103】
図20は、角躍度の時系列データの一例を示すグラフである。本実施形態では、一歩行周期の0~60%の区間(立脚相)に含まれる複数の対象区間の各々におけるAJCを推定する。本実施形態では、立脚相に含まれる第1区間P
1、第2区間P
2、第3区間P
3、および第4区間P
4ごとに、AJCを推定する。第1区間P
1は、初期接地IC(Initial Contact)から荷重反応期LR(Load Reaction period)までの区間である。初期接地ICは、踵接地HC直後のタイミングである。荷重反応期LRは、歩行周期が約15%のタイミングである。第2区間P
2は、荷重反応期LRからミッドスタンスMSまでの区間である。ミッドスタンスMSは、立脚中期T2から立脚終期T3への移行のタイミングである。ミッドスタンスMSは、立脚相の中央のタイミングである。第3区間P
3は、ミッドスタンスMSからターミナルスタンスTSまでの区間である。ターミナルスタンスTSは、立脚終期T3から遊脚前期T4への移行のタイミングである。
【0104】
第1の実施形態と同様に、計測装置20は、被験者の靴に搭載される。計測装置20は、3軸方向の加速度(空間加速度)と3軸周りの角速度(空間角速度)を含むセンサデータを計測する。計測装置20は、計測されたセンサデータを正規化して、一歩行周期分の時系列データ(歩行波形データとも呼ぶ)を抽出する。計測装置20は、歩行波形データから、AJCの推定に用いられる特徴量を抽出する。計測装置20は、第1区間P1、第2区間P2、第3区間P3、および第4区間P4ごとに、特徴量を抽出する。例えば、計測装置20は、第1区間P1、第2区間P2、第3区間P3、および第4区間P4の各々から、第1区間P1、第2区間P2、第3区間P3、および第4区間P4の各々の特徴量を抽出する。計測装置20は、抽出された特徴量を用いて、歩行フェーズクラスターごとの特徴量データを生成する。計測装置20は、生成された歩行フェーズクラスターの特徴量データを、その特徴量データを使用する指標値推定装置23に送信する。
【0105】
指標値推定装置23は、計測装置20から特徴量データを受信する。指標値推定装置23は、計測装置20と共通の通信方式で通信する。指標値推定装置23は、歩行波形データから抽出された特徴量データを用いて、AJCを推定する推定モデルを記憶する。指標値推定装置23は、複数の被験者のAJCに関する特徴量データと、AJCとの関係を学習した推定モデルを記憶する。例えば、指標値推定装置23は、複数の被験者に関して学習された、AJCを推定する推定モデルを記憶する。
【0106】
指標値推定装置23は、取得された特徴量データを用いて、膝の状態を示す指標値としてAJCの推定を実行する。指標値推定装置23は、記憶された推定モデルに特徴量データを入力する。指標値推定装置23は、推定モデルから出力される膝の状態を示す指標値(AJC)に応じた推定結果を出力する。クラウドやサーバ等に構築された外部の記憶装置に保存された推定モデルを用いる場合、指標値推定装置23は、その記憶装置と接続されたインターフェース(図示しない)を介して、推定モデルを用いるように構成される。
【0107】
指標値推定装置23は、膝の状態を示す指標値(AJC)の推定結果を出力する。例えば、指標値推定装置23は、被験者(ユーザ)の携帯端末の画面に、膝の状態を示す指標値の推定結果を表示させる。例えば、指標値推定装置23は、推定結果を使用する外部システム等に対して、その推定結果を出力する。指標値推定装置23から出力された膝の状態を示す指標値の使用に関しては、特に限定を加えない。
【0108】
続いて、各区間において推定されるAJCと特徴量データとの相関関係について、検証結果を交えて説明する。以下においては、第1の実施形態と同様に、72人(男性36人、女性36人)の被験者に対して行われた検証例をあげる。AJCの推定に用いられる特徴量は、実測値と推定値との相関性に基づいて選定された。第1区間P1における実測値と推定値との級内相関係数ICCは、0.2453であった。第2区間P2における実測値と推定値との級内相関係数ICCは、0.4418であった。第3区間P3における実測値と推定値との級内相関係数ICCは、0.6114であった。第4区間P4における実測値と推定値との級内相関係数ICCは、0.6185であった。実測値と推定値との級内相関係数ICCは、区間に応じて、異なる値であった。第1区間P1においては、計測装置20の動きが複雑であり、センサデータにノイズが含まれやすい。その結果、実測値と推定値と級内相関係数ICCが低下したものと推定される。一方、第3区間P3および第4区間P4においては、計測装置20の動きが安定し、実測値と推定値と級内相関係数ICCが比較的良好であったものと推定される。
【0109】
(動作)
次に、推定システム2の動作の一例について図面を参照しながら説明する。ここでは、推定システム2に含まれる計測装置20および指標値推定装置23について、個別に説明する。
【0110】
〔計測装置〕
図21は、計測装置20の動作について説明するためのフローチャートである。
図21のフローチャートに沿った説明においては、計測装置20を動作主体として説明する。
【0111】
図21において、まず、計測装置20は、足の動きに関するセンサデータの時系列データを取得する(ステップS201)。
【0112】
次に、計測装置20は、センサデータの時系列データから一歩行周期分の歩行波形データを抽出する(ステップS202)。計測装置20は、センサデータの時系列データから踵接地および爪先離地を検出する。計測装置20は、連続する踵接地間の区間の時系列データを、一歩行周期分の歩行波形データとして抽出する。
【0113】
次に、計測装置20は、抽出された一歩行周期分の歩行波形データを正規化する(ステップS203)。計測装置20は、一歩行周期分の歩行波形データを0~100%の歩行周期に正規化する(第1正規化)。さらに、計測装置20は、第1正規化された一歩行周期分の歩行波形データの立脚相と遊脚相の比を60:40に正規化する(第2正規化)。
【0114】
次に、計測装置20は、正規化された歩行波形から、AJCの推定に用いられる歩行フェーズから特徴量を抽出する(ステップS204)。計測装置20は、予め構築された推定モデルに入力される特徴量を抽出する。
【0115】
次に、計測装置20は、抽出された特徴量を用いて、歩行フェーズクラスターごとの特徴量を生成する(ステップS205)。
【0116】
次に、計測装置20は、歩行フェーズクラスターごとの特徴量を統合して、一歩行周期分の特徴量データを生成する(ステップS206)。
【0117】
次に、計測装置20は、生成された特徴量データを指標値推定装置23に出力する(ステップS207)。
【0118】
〔指標値推定装置〕
図22は、指標値推定装置23の動作について説明するためのフローチャートである。
図22のフローチャートに沿った説明においては、指標値推定装置23を動作主体として説明する。
【0119】
図22において、まず、指標値推定装置23は、AJCの推定に用いられる特徴量データを取得する(ステップS231)。
【0120】
次に、指標値推定装置23は、取得した特徴量データを、AJCを推定する推定モデルに入力する(ステップS232)。
【0121】
次に、指標値推定装置23は、推定モデルからの出力(推定値)に応じて、AJCを推定する(ステップS233)。
【0122】
次に、指標値推定装置23は、推定されたAJCに関する情報を出力する(ステップS234)。例えば、AJCは、ユーザの携帯する端末装置(図示しない)に出力される。例えば、AJCは、パラメータを用いた処理を実行するシステムに出力される。
【0123】
(適用例)
次に、本実施形態に係る適用例について図面を参照しながら説明する。以下の適用例において、靴200に配置された計測装置20によって計測された特徴量データを用いて、ユーザが携帯する携帯端末にインストールされた指標値推定装置23の機能が、膝の状態を示す指標値に関する情報を推定する例を示す。
【0124】
図23は、計測装置20が配置された靴200を履いて歩行するユーザの携帯する携帯端末260の画面に、指標値推定装置23による推定結果を表示させる一例を示す概念図である。
図23は、ユーザの歩行中に計測されたセンサデータに応じた特徴量データを用いて推定された、AJCの推定結果に応じた情報を、携帯端末260の画面に表示させる例である。
【0125】
図23は、膝の状態を示す指標値であるAJCの推定結果に応じた情報が、携帯端末260の画面に表示される例である。
図23の例では、推定結果に応じて、「AJCが小さい傾向があります。」という情報が、携帯端末260の表示部に表示される。また、
図23の例では、膝の状態を示す指標値であるAJCの推定値に応じて、「膝を強化する運動をお薦めします。トレーニングAが最適です。下記の動画をご覧ください。」というAJCの推定結果に応じた推薦情報が、携帯端末260の表示部に表示される。携帯端末260の表示部に表示された情報を確認したユーザは、推薦情報に応じて、トレーニングAの動画を参照して運動することによって、膝の状態の改善につながるトレーニングを実践できる。
【0126】
以上のように、本実施形態の推定システムは、計測装置および指標値推定装置を備える。計測装置は、センサと特徴量データ生成部を備える。センサは、加速度センサと角速度センサを有する。センサは、加速度センサを用いて、空間加速度を計測する。センサは、角速度センサを用いて、空間角速度を計測する。センサは、計測した空間加速度および空間角速度を用いて、足の動きに関するセンサデータを生成する。センサは、生成したセンサデータを特徴量データ生成部に出力する。特徴量データ生成装置は、足の動きに関するセンサデータの時系列データを取得する。特徴量データ生成装置は、センサデータの時系列データから一歩行周期分の歩行波形データを抽出する。特徴量データ生成装置は、抽出された歩行波形データを正規化する。特徴量データ生成装置は、正規化された歩行波形データから、膝の状態を示す指標値の推定に用いられる特徴量を、時間的に連続する少なくとも一つの歩行フェーズによって構成される歩行フェーズクラスターから抽出する。特徴量データ生成装置は、抽出された特徴量を含む特徴量データを生成する。特徴量データ生成装置は、生成された特徴量データを出力する。
【0127】
指標値推定装置は、データ取得部、記憶部、推定部、および出力部を備える。データ取得部は、ユーザの足の動きに関するセンサデータから抽出された、ユーザの膝の状態を示す指標値の推定に用いられる特徴量を含む特徴量データを取得する。記憶部は、特徴量データの入力に応じた指標値を出力する推定モデルを記憶する。記憶部は、膝の状態を示す指標値として膝の運動の円滑さを示すコストを推定する推定モデルを記憶する。推定部は、取得された特徴量データを推定モデルに入力することで得られた出力を、ユーザの膝の状態を示す指標値として推定する。出力部は、推定されたユーザの膝の状態を示す指標値に関する情報を出力する。推定部は、ユーザに関して取得された特徴量データを推定モデルに入力することで得られた膝の運動の円滑さを示すコストを、ユーザの膝の状態を示す指標値として推定する。
【0128】
本実施形態の推定システムは、ユーザの足の動きに関するセンサデータから抽出された特徴量を用いて、ユーザの膝の状態を示す指標値を推定する。そのため、本実施形態によれば、膝の状態を示す指標値を計測するための専用器具を用いずに、日常生活において、膝の状態を示す指標値として、膝の運動の円滑さを示すコストを適宜推定できる。
【0129】
本実施形態の手法によれば、日常生活で計測されるセンサデータを用いて、膝の運動の円滑さを示すコストを適宜推定できる。推定されたコストの値が健常な範囲から大きく外れる場合、膝に疾患がある可能性がある。本実施形態の手法で得られたパラメータは、膝の疾患を診断するための補助情報として利用できる。すなわち、本実施形態の手法によれば、日常生活において、膝に関する疾患を早期発見/予防するための指標値を推定できる。
【0130】
本実施形態の一態様において、記憶部は、立脚相に含まれる複数の区間の各々に関して、膝の状態を示す指標値として膝の運動の円滑さを示すコストを推定する推定モデルを記憶する。推定部は、複数の区間のうち少なくともいずれかの区間に関して、ユーザに関して取得された特徴量データを推定モデルに入力することで得られた膝の運動の円滑さを示すコストを、ユーザの膝の状態を示す指標値として推定する。本態様では、立脚相における膝の運動の円滑さを示すコストを、膝の状態を示す指標値として推定する。膝の疼痛を我慢しながら歩行する人物は、立脚相において膝の運動が円滑になる傾向がある。そのため、本態様によれば、膝に異常があるユーザを検出可能な指標値を推定できる。
【0131】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態に係る指標値推定装置について図面を参照しながら説明する。本実施形態の指標値推定装置は、第1~第2の実施形態の推定システムに含まれる指標値推定装置を簡略化した構成である。
【0132】
図24は、本実施形態に係る指標値推定装置33の構成の一例を示すブロック図である。指標値推定装置33は、データ取得部331、記憶部332、推定部333、および出力部335を備える。
【0133】
データ取得部331は、ユーザの足の動きに関するセンサデータから抽出された、ユーザの膝の状態を示す指標値の推定に用いられる特徴量を含む特徴量データを取得する。記憶部332は、特徴量データの入力に応じた指標値を出力する推定モデルを記憶する。推定部333は、取得された特徴量データを推定モデルに入力することで得られた出力を、ユーザの膝の状態を示す指標値として推定する。出力部335は、推定されたユーザの膝の状態を示す指標値に関する情報を出力する。
【0134】
以上のように、本実施形態では、ユーザの足の動きに関するセンサデータから抽出された特徴量を用いて、ユーザの膝の状態を示す指標値を推定する。そのため、本実施形態によれば、膝の状態を示す指標値を計測するための専用器具を用いずに、日常生活において、膝の状態を示す指標値を適宜推定できる。
【0135】
(ハードウェア)
ここで、本開示の各実施形態に係る制御や処理を実行するハードウェア構成について、
図25の情報処理装置90を一例としてあげて説明する。なお、
図25の情報処理装置90は、各実施形態の制御や処理を実行するための構成例であって、本開示の範囲を限定するものではない。
【0136】
図25のように、情報処理装置90は、プロセッサ91、主記憶装置92、補助記憶装置93、入出力インターフェース95、および通信インターフェース96を備える。
図25においては、インターフェースをI/F(Interface)と略記する。プロセッサ91、主記憶装置92、補助記憶装置93、入出力インターフェース95、および通信インターフェース96は、バス98を介して、互いにデータ通信可能に接続される。また、プロセッサ91、主記憶装置92、補助記憶装置93、および入出力インターフェース95は、通信インターフェース96を介して、インターネットやイントラネットなどのネットワークに接続される。
【0137】
プロセッサ91は、補助記憶装置93等に格納されたプログラムを、主記憶装置92に展開する。プロセッサ91は、主記憶装置92に展開されたプログラムを実行する。本実施形態においては、情報処理装置90にインストールされたソフトウェアプログラムを用いる構成とすればよい。プロセッサ91は、各実施形態に係る制御や処理を実行する。
【0138】
主記憶装置92は、プログラムが展開される領域を有する。主記憶装置92には、プロセッサ91によって、補助記憶装置93等に格納されたプログラムが展開される。主記憶装置92は、例えばDRAM(Dynamic Random Access Memory)などの揮発性メモリによって実現される。また、主記憶装置92として、MRAM(Magnetoresistive Random Access Memory)などの不揮発性メモリが構成/追加されてもよい。
【0139】
補助記憶装置93は、プログラムなどの種々のデータを記憶する。補助記憶装置93は、ハードディスクやフラッシュメモリなどのローカルディスクによって実現される。なお、種々のデータを主記憶装置92に記憶させる構成とし、補助記憶装置93を省略することも可能である。
【0140】
入出力インターフェース95は、規格や仕様に基づいて、情報処理装置90と周辺機器とを接続するためのインターフェースである。通信インターフェース96は、規格や仕様に基づいて、インターネットやイントラネットなどのネットワークを通じて、外部のシステムや装置に接続するためのインターフェースである。入出力インターフェース95および通信インターフェース96は、外部機器と接続するインターフェースとして共通化してもよい。
【0141】
情報処理装置90には、必要に応じて、キーボードやマウス、タッチパネルなどの入力機器が接続されてもよい。それらの入力機器は、情報や設定の入力に使用される。なお、タッチパネルを入力機器として用いる場合は、表示機器の表示画面が入力機器のインターフェースを兼ねる構成としてもよい。プロセッサ91と入力機器との間のデータ通信は、入出力インターフェース95に仲介させればよい。
【0142】
また、情報処理装置90には、情報を表示するための表示機器を備え付けてもよい。表示機器を備え付ける場合、情報処理装置90には、表示機器の表示を制御するための表示制御装置(図示しない)が備えられていることが好ましい。表示機器は、入出力インターフェース95を介して情報処理装置90に接続すればよい。
【0143】
また、情報処理装置90には、ドライブ装置が備え付けられてもよい。ドライブ装置は、プロセッサ91と記録媒体(プログラム記録媒体)との間で、記録媒体からのデータやプログラムの読み込み、情報処理装置90の処理結果の記録媒体への書き込みなどを仲介する。ドライブ装置は、入出力インターフェース95を介して情報処理装置90に接続すればよい。
【0144】
以上が、本発明の各実施形態に係る制御や処理を可能とするためのハードウェア構成の一例である。なお、
図25のハードウェア構成は、各実施形態に係る制御や処理を実行するためのハードウェア構成の一例であって、本発明の範囲を限定するものではない。また、各実施形態に係る制御や処理をコンピュータに実行させるプログラムも本発明の範囲に含まれる。さらに、各実施形態に係るプログラムを記録したプログラム記録媒体も本発明の範囲に含まれる。記録媒体は、例えば、CD(Compact Disc)やDVD(Digital Versatile Disc)などの光学記録媒体で実現できる。記録媒体は、USB(Universal Serial Bus)メモリやSD(Secure Digital)カードなどの半導体記録媒体によって実現されてもよい。また、記録媒体は、フレキシブルディスクなどの磁気記録媒体、その他の記録媒体によって実現されてもよい。プロセッサが実行するプログラムが記録媒体に記録されている場合、その記録媒体はプログラム記録媒体に相当する。
【0145】
各実施形態の構成要素は、任意に組み合わせてもよい。また、各実施形態の構成要素は、ソフトウェアによって実現されてもよいし、回路によって実現されてもよい。
【0146】
以上、実施形態を参照して本発明を説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【符号の説明】
【0147】
1、2 推定システム
10、20 計測装置
11 センサ
12 特徴量データ生成部
13、23、33 指標値推定装置
111 加速度センサ
112 角速度センサ
121 取得部
122 正規化部
123 抽出部
125 生成部
127 送信部
131、331 データ取得部
132、332 記憶部
133、333 推定部
135、335 出力部