(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178667
(43)【公開日】2023-12-18
(54)【発明の名称】作業車
(51)【国際特許分類】
A01B 69/00 20060101AFI20231211BHJP
【FI】
A01B69/00 301
A01B69/00 303A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022091476
(22)【出願日】2022-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】目野 鷹博
(72)【発明者】
【氏名】吉水 健悟
(72)【発明者】
【氏名】久保田 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】寺田 真也
(72)【発明者】
【氏名】内山 大輔
【テーマコード(参考)】
2B043
【Fターム(参考)】
2B043AA10
2B043AB20
2B043BA02
2B043BB06
2B043DC03
2B043EE01
2B043EE05
2B043EE06
(57)【要約】
【課題】搭載機器の制御状態に関する制御状態表示情報を情報表示器で表示している間に車両に発生したエラーに関するエラー表示情報を適切に情報表示器に表示することができる作業車を提供。
【解決手段】作業車は、各種情報を表示する情報表示器26と、発生したエラーを示すエラー表示情報を生成して情報表示器26に与えるメインECU5と、搭載機器の制御状態に関する制御状態表示情報を生成して情報表示器26に与えるサブECU8を備え、サブECU8は、制御状態表示情報の表示の中断が可能な中断可能期間メインECU5に与え、メインECU5は、制御状態表示情報を情報表示器26で表示させるかどうかを判定する作業車。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
各種情報を表示する情報表示器と、
車両に発生したエラーを検知し、前記エラーを示すエラー表示情報を生成して前記情報表示器に与えるメインECUと、
搭載機器を制御し、前記搭載機器の制御状態に関する制御状態表示情報を生成して前記情報表示器に与えるサブECUを備えた作業車であって、
前記サブECUは、前記制御状態表示情報の表示の中断が可能な中断可能期間を決定して、前記中断可能期間を前記メインECUに与え、
前記メインECUは、前記制御状態表示情報を前記情報表示器で表示させるかどうかを判定する作業車。
【請求項2】
前記制御状態表示情報が連続するコマ表示情報または動画情報などを含む連続表示情報であり、前記サブECUは、前記連続表示情報における連続性が破綻しないタイミングで前記中断可能期間を決定する請求項1に記載の作業車。
【請求項3】
前記メインECUは、前記中断可能期間において前記制御状態表示情報に代えて前記エラー表示情報を優先的に前記情報表示器で表示する請求項1または2に記載の作業車。
【請求項4】
前記メインECUによって検知された前記エラーが、前記サブECUによる前記搭載機器の制御が困難となる制御困難エラーである場合、前記メインECUは、前記サブECUからの前記制御状態表示情報を前記情報表示器で表示することを禁止する請求項1または2に記載の作業車。
【請求項5】
前記メインECUによって検知された前記エラーが、前記サブECUによる前記搭載機器の制御が可能な制御可能エラーである場合、前記中断可能期間以外においても、前記制御可能エラーの検知直後の一定期間は前記制御可能エラーを表示する請求項1または2に記載の作業車。
【請求項6】
前記サブECUによって制御される前記搭載機器は自動操舵機器であり、前記制御状態表示情報は、自動操舵制御のガイダンスであり、前記メインECUによって検知される前記エラーには、自動操舵が困難となる自動操舵不能エラーが含まれている請求項1または2に記載の作業車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種情報を表示する情報表示器を備えた作業車に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、自動操舵走行時に自動操舵走行画面を表示する表示装置を備えた農作業機が開示されている。目標走行経路ラインが、自動操舵走行画面の左右方向の中央位置に表示されている。走行機体を示すアイコンが、自動操舵走行画面の中央位置に表示され、このアイコンを基準にして走行機体の走行方向の偏角を示す偏角ラインと偏角を角度で示すインジケータ部が表示されている。さらに、自動操舵走行画面の上部には、目標走行経路に対する走行機体の偏差を表示する偏差表示部と速度表示部が形成されている。偏差表示部には偏差を示す数値と、偏差を視覚的にバーグラフ部が形成される。
【0003】
特許文献2には、操作者が特別な操作を行うことなしに、その表示内容が自動的に切り替わる車載用表示装置が開示されている。この車載用表示装置は、車両が移動状態である場合、表示内容を静止画像で表示、または無表示とし、車両が停止状態である場合、表示内容を静止画像で表示、動画の表示、または無表示とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-019833号公報
【特許文献2】特開2017-185846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1による表示装置では、自動操舵走行には、操舵制御に関するガイダンスが表示されるので、運転者は、このガイダンスを注視することで、安全に自動操舵走行を行うことができる。自動操舵走行中に運転者に報知すべき情報として、操舵制御に関するガイダンスだけではなく、燃料残量エラー、水温エラー、充電エラー、GPS測定エラーなどのエラー情報もあるが、このようなエラー情報を、操舵制御に関するガイダンスに代えて表示したり、操舵制御に関するガイダンスの上に重ねて表示したりすれば、肝心の操舵制御に関するガイダンスが十分に運転者に伝わらないという問題が生じる。
【0006】
特許文献2による表示装置では、表示内容が車両状態によって自動的に切り替えられるが、その切替条件となる車両状態が車両停止と車両走行であり、車両に発生したエラーを表示装置に表示することは考慮されていない。
【0007】
上記実情に鑑み、本発明の目的は、搭載機器の制御状態に関する制御状態表示情報を情報表示器で表示している間に車両に発生したエラーに関するエラー表示情報を適切に情報表示器に表示することができる作業車を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による作業車は、各種情報を表示する情報表示器と、車両に発生したエラーを検知し、前記エラーを示すエラー表示情報を生成して前記情報表示器に与えるメインECUと、搭載機器を制御し、前記搭載機器の制御状態に関する制御状態表示情報を生成して前記情報表示器に与えるサブECUを備え、前記サブECUは、前記制御状態表示情報の表示の中断が可能な中断可能期間を決定して、前記中断可能期間を前記メインECUに与え、前記メインECUは、前記制御状態表示情報を前記情報表示器で表示させるかどうかを判定する。
【0009】
この構成では、サブECUは、搭載機器の制御状態に関する制御状態表示情報を生成し、この制御状態表示情報を運転者に報知するために、制御状態表示情報は情報表示器に表示される。さらに、サブECUは、制御状態表示情報の表示の中断が可能な中断可能期間を決定して、当該中断可能期間をメインECUに与える。エラー情報を含む車両のおける種々の重要な情報が集まってくるメインECUが、当該情報に基づいて車両に発生したエラーを検知すると、エラーを示すエラー表示情報を生成する。このエラー表示情報を、制御状態表示情報の表示に割り込んで、情報表示器で表示させる際、サブECUから取得した中断可能期間を考慮する。これにより、制御状態表示情報がエラー表示情報のために、意味なく分断され、運転者が制御状態表示情報を適切に理解することができなくなるという問題が回避される。
【0010】
制御状態表示情報が連続してコマ送りされるコマ表示情報や動画情報の場合、そのシーンの変わり目や、情報のつなぎ目のところでは、多少表示が途切れても、運転者は、当該制御状態表示情報が意味する内容を理解することができる。このため、本発明では、前記制御状態表示情報が連続するコマ表示情報または動画情報などを含む連続表示情報であり、前記サブECUは、前記連続表示情報における連続性が破綻しないタイミングで前記中断可能期間を決定する。
【0011】
運転者は、情報表示器に表示された制御状態表示情報を見ることで、搭載機器の制御状態をチェックすることができる。また、運転者は、情報表示器に表示されたエラー表示情報を見て、ガス欠が迫っていること、冷却水温度が高くなってきていること、特定制御系にエラーが生じていることを知ることができる。したがって、制御状態表示情報とエラー表示情報とどちらか一方だけを表示し続けるよりは、適切なタイミングで切り替えられながら表示されることが好ましい。このことから、本発明では、前記メインECUは、前記中断可能期間において前記制御状態表示情報に代えて前記エラー表示情報を優先的に前記情報表示器で表示する。
【0012】
エラー表示情報として表示されるエラーが、サブECUによって生成される制御状態表示情報の対象となる搭載機器に関するエラーであれば、当該制御状態表示情報は誤情報となっている可能性が高く、その表示は意味がないだけでなく、不都合を引き起こす可能性もある。このことから、本発明では、前記メインECUによって検知された前記エラーが、前記サブECUによる前記搭載機器の制御が困難となる制御困難エラーである場合、前記メインECUは、前記サブECUからの前記制御状態表示情報を前記情報表示器で表示することを禁止する。
【0013】
エラー表示情報として表示されるエラーが、サブECUによって生成される制御状態表示情報の対象となる搭載機器の動作に影響を与えないエラー、例えば、ガス欠が迫っていることや冷却水温度が高くなってきていることであれば、できる限り、制御状態表示情報は表示されることが好ましい。もちろん、メインECUによって検知されたエラーは、運転者に報知する必要があるので、制御状態表示情報の表示中断が可能な中断可能期間で表示される。ただし、検知されたエラーは、少なくとも1度は、できるだけ早い機会に運転者に報知することが望ましい。このことから、本発明では、前記メインECUによって検知された前記エラーが、前記サブECUによる前記搭載機器の制御が可能な制御可能エラーである場合、制御状態表示情報の表示中断が可能な中断可能期間以外においても、前記制御可能エラーの検知直後の一定期間は前記制御可能エラーを表示する。
【0014】
自動操舵によって自動走行する作業車では、車両が目標走行経路から逸脱せずに、走行していることを、運転者は監視する必要がある。何らかの原因で、車両が目標走行経路から逸脱した場合には、運転者が手動で操舵して、目標走行経路に復帰させるか、あるいは緊急停車させる。車両が目標走行経路から逸脱せずに、走行していることは、特許文献1で開示されているような自動操作制御ガイダンス(制御状態表示情報の一種)によって、運転者は確認することができる。このような自動操作制御ガイダンスとしては、連続的にコマ送りされるイラスト画像が用いられるので、上述した制御状態表示情報の表示方式が好適に適用される。このことから、本発明では、前記サブECUによって制御される前記搭載機器は自動操舵機器であり、前記制御状態表示情報は、自動操舵制御のガイダンスであり、前記メインECUによって検知される前記エラーには、自動操舵が困難となる自動操舵不能エラーが含まれている。自動操舵不能エラーの代表的なエラーは、GPS等の衛星測位における受信電波不良である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】田植機の全体構成を例示する左側面図である。
【
図5】直線経路の走行と自動旋回走行とを説明する図である。
【
図6】作業走行の一例を示すフローチャートである。
【
図8】制御状態表示情報とエラー表示情報との情報の流れを示す模式図である。
【
図9】制御状態表示情報の表示の流れを説明する模式図である。
【
図10】エラー表示情報の表示の流れを説明する模式図である。
【
図11】制御状態表示情報とエラー表示情報との表示優先度を説明する模式図である。
【
図12】制御状態表示情報の中断可能期間を示すチャート図である。
【
図13】制御状態表示情報の表示途中にエラー表示情報を挟み込む制御を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、作業車の一例として、圃場を作業走行する田植機について説明する。
【0017】
ここで、理解を容易にするために、本実施形態では、特に断りがない限り、「前」(
図1,
図2に示す矢印Fの方向)は機体前後方向(走行方向)における前方を意味し、「後」(
図1,
図2に示す矢印Bの方向)は機体前後方向(走行方向)における後方を意味するものとする。また、左右方向または横方向は、機体前後方向に直交する機体横断方向(機体幅方向)を意味し、「左」(
図2に示す矢印Lの方向)および「右」(
図2に示す矢印Rの方向)は、それぞれ、機体の左方向および右方向を意味するものとする。
【0018】
〔全体構造〕
図1,
図2に示すように、田植機は、乗用型で四輪駆動形式の機体1を備える。機体1は、機体1の後部に昇降揺動可能に連結された平行四連リンク形式のリンク機構13、リンク機構13を揺動駆動する油圧式の昇降シリンダ13a、リンク機構13の後端部領域にローリング可能に連結される苗植付装置3を備える。苗植付装置3は昇降シリンダ13aによって昇降される作業装置の一例であり、他の作業装置として、施肥装置や薬剤散布装置が搭載されてもよい。
【0019】
機体1は、エンジン2と走行機構RMとを備え、走行機構RMは、車輪12および主変速装置である油圧式の無段変速装置9からなる。無段変速装置9は、例えばHST(Hydro-Static Transmission)であり、モータ斜板およびポンプ斜板の角度を調節することにより、エンジン2から出力される駆動力を変速する。車輪12は、操舵機構12Cによって操舵される左右の前輪12Aと、操舵不能な左右の後輪12Bとを有する。エンジン2および無段変速装置9は、機体1の前部に搭載される。エンジン2からの動力は、無段変速装置9等を介して前輪12A、後輪12B、作業装置等に供給される。
【0020】
苗植付装置3は、一例として8条植え形式に構成される。苗植付装置3は、苗載せ台21、8条分の植付機構22、5つのフロート15等を備える。なお、この苗植付装置3は、各条クラッチ(植付クラッチ23)の制御により、2条植え、4条植え、6条植え等の形式に変更可能である。
【0021】
苗載せ台21は、8条分のマット状苗を載置する台座である。苗載せ台21は、マット状苗の左右幅に対応する一定ストロークで左右方向に往復移動し、苗載せ台21が左右のストローク端に達する毎に、苗載せ台21上の各マット状苗を苗載せ台21の下端に向けて所定ピッチで縦送りする。
【0022】
8個の植付機構22は、ロータリ式で、植え付け条間に対応する一定間隔で左右方向に配置される。そして、各植付機構22は、植付クラッチ23が動力伝達クラッチ位置に移行されることによりエンジン2から駆動力が伝達され、苗載せ台21に載置された各マット状苗の下端から一株分の苗を切り取って、整地後の泥土部に植え付ける。これにより、苗植付装置3は、苗載せ台21に載置されたマット状苗から苗を取り出して水田の泥土部に植え付けることができる。
【0023】
フロート15は苗植付作業の際に圃場を整地する。各フロート15は、2条分の植付機構22と対応付けて設けられる。
【0024】
機体1は、その前後方向中間領域に運転部14を備える。運転部14は、
図3に示すように、前輪操舵用のステアリングホイール10、無段変速装置9の変速操作を行うことで車速を調節する主変速レバー31、苗植付装置3の昇降操作と植付クラッチ23の入切(動力伝達クラッチ位置と動力遮断クラッチ位置との間の切り替え)を操作する作業操作レバー11等を備える。ステアリングホイール10、主変速レバー31、作業操作レバー11、および情報報知部33は、ステアリングホイール10の下方に配置された運転パネル30に設けられる。情報報知部33には、液晶ディスプレイである情報表示器26が含まれている。また、ブザーやランプなどの情報報知部33は、運転パネル30以外の場所にも設けられている。さらに、ステアリングホイール10の後方には、オペレータ(運転者・作業者)用の運転座席16が配置されている。運転部14の前方に予備苗支持フレーム17が設けられ、予備苗支持フレーム17に予備苗収納装置17Aが支持されている。
【0025】
図1と
図2に示すように、予備苗支持フレーム17には、測位ユニット90が設けられる。測位ユニット90は、機体1の位置および方位を算出するための測位データを出力する。測位ユニット90には、全地球航法衛星システム(GNSS)の衛星からの電波を受信する衛星測位モジュール90Aと、機体1の三軸の傾きや加速度を検出する慣性計測モジュール90Bが含まれている。
【0026】
また、
図3に示すように、運転パネル30には、開始位置操作具18、終了位置操作具19、旋回準備操作具20が設けられる。開始位置操作具18は、後述するティーチング走行における始点を決定する際に操作される。終了位置操作具19は、ティーチング走行における終点を決定する際に操作される。旋回準備操作具20は後述の自動旋回走行において用いられる操作具である。開始位置操作具18、終了位置操作具19、および旋回準備操作具20は、入力操作が可能な操作具であればよく、例えば、押しボタンである。
【0027】
〔作業走行〕
田植機が圃場を田植作業する作業走行について、
図1,
図2を参照しながら、
図4を用いて説明する。
【0028】
本実施形態における田植機は、手動走行および自動走行を選択的に行うことができる。手動走行は、運転者が手動で、ステアリングホイール10、主変速レバー31、作業操作レバー11等の作業走行操作具を操作して作業走行を行うものである。自動走行は、田植機が自動制御で走行および作業を行うものであり、旋回走行を挟んで、後述の直線経路IPLに沿った往復直進作業走行を行う。この際の旋回走行は、走行経路が生成されず、あらかじめ定められた所定の手順で自動制御される。
【0029】
田植機が田植作業を行う際には、圃場が外周領域OAと内部領域IAに区分けされ、それぞれに応じた作業走行が行われる。
【0030】
内部領域IAでは、圃場の一つの辺に略平行な複数の経路を旋回経路で繋ぐ直線経路(内部往復経路)IPLが生成される。直線経路IPLは、内部領域IAの全体をくまなく走行する走行経路であり、旋回走行が行われる度に、次に走行する直線経路IPLが生成される。
【0031】
外周領域OAで自動作業走行が行われる場合、畦RWによって囲まれた圃場の外周に沿って外周領域OA内を周回する、内側周回経路IRLと外側周回経路ORLの2つの走行経路が生成される。内側周回経路IRLと外側周回経路ORLとを作業走行することにより、外周領域OAの全体の作業走行が行われる。なお、外周領域OA内を周回する走行経路は、内側周回経路IRLと外側周回経路ORLとの2つに限らず、1以上の走行経路であればよい。
【0032】
〔直線経路の自動操舵走行〕
次に、
図1~
図4を参照しながら、
図5を用いて直線経路IPLにおける自動操舵走行(自動作業走行)について説明する。
【0033】
まず、内部領域IAの一端から他端に向けて手動走行を行うティーチング走行が行われる。ティーチング走行において、運転者は、作業走行を開始する位置で開始位置操作具18を操作し、ティーチング走行の始点PAを登録する。そして、運転者は、手動操作で直線状の作業走行(手動走行)を行い、作業走行の終了位置に到達すると終了位置操作具19を操作し、ティーチング走行の終点PBを登録する。なお、終点PBは、作業走行の終了位置から、苗植付装置3の上昇される間に直進走行された位置であってもよい。
【0034】
この始点PAと終点PBとを結ぶ直線が基本直線RLであり、基本直線RL、および、基本直線RLに平行な方向である基準方位RDの少なくともいずれかが登録される。
【0035】
次に、往復作業走行を行うために、運転者は所定の操作を行い、後述の自動旋回走行によって、機体1を180°旋回させる。
【0036】
自動旋回走行の終了位置が直進走行の開始位置PSSとなり、開始位置PSSを通り、基本直線RLに平行な(基準方位RDの方向の)直線が次に走行する直線経路IPLとして生成される。
【0037】
そして、運転者は直線経路IPLに沿った自動操舵走行を開始させる。その後、直線経路IPLに沿った自動操舵走行と自動旋回走行とが繰り返され、自動旋回走行が終了する度に、次の直線経路IPLが生成されて、内部領域IA全体にわたる往復走行が行われる。
【0038】
〔自動旋回走行〕
次に、
図1~
図5を参照しながら、
図6を用いて自動旋回走行について説明する。
【0039】
自動旋回走行は、所定の人為操作が行われることにより開始される。自動旋回走行は外周領域OAで行われるが、特に、畦RWから所定の距離だけ圃場の内側の領域で行われる。自動旋回走行は走行経路に沿って行われるのではなく、車輪12等の走行装置が所定の手順で制御されることにより、あらかじめ定められた所定の手順で行われる。
【0040】
例えば、自動旋回走行は、直線経路IPLでの作業走行が終了し、開始位置PSで所定の人為操作が行われると、まず、前輪12Aがあらかじめ定められた所定の操舵角度、例えば、最大操舵角度に操作されて旋回走行が行われる。
【0041】
〔作業走行の工程〕
次に、
図6を用いて作業走行の工程について説明する。
【0042】
圃場での作業を行う際には、まず、走行切替操作具(非図示)が操作されて、自動走行に切り替えられているか否かが判定される(
図6のステップ#1)。
【0043】
自動走行に切り替えられていない場合(
図6のステップ#1 No)、手動走行が選択されているため、運転者は、手動操作により作業走行を行う。手動作業走行の際に上述のティーチング走行が行われる(
図6のステップ#2)。
【0044】
自動走行に切り替えられている場合(
図6のステップ#1 Yes)、走行制御モードが自動直進モードに設定される(
図6のステップ#3)。これにより、自動操舵での直線経路IPLに沿った作業走行(自動直進走行)が行われる(
図6のステップ#4)。
【0045】
自動直進走行中に、旋回準備操作が行われたか否かが判定され(
図6のステップ#5)、旋回準備操作が行われるまで自動直進走行が継続される。旋回準備操作は、レバーやボタン等を用いて行うことができる。
【0046】
旋回準備操作が行われると(
図6のステップ#5 Yes)、走行制御モードは自動直進モードから旋回準備モードに切り替わる(
図6のステップ#6)。そして、旋回準備モードにおける自動直進走行中に、開始位置操作具18または終了位置操作具19が操作されたか否かが判定され(
図6のステップ#7)、開始位置操作具18または終了位置操作具19が操作されるまで旋回準備モードにおける自動直進走行が継続される。
【0047】
そして、開始位置操作具18または終了位置操作具19が操作されると(
図6のステップ#7 Yes)、走行制御モードは、旋回準備モードから自動旋回モードに切り替わり(
図6のステップ#8)、操作された開始位置操作具18または終了位置操作具19に応じた方向に、あらかじめ定められた所定の手順で自動旋回走行が行われる(
図6のステップ#9)。
【0048】
旋回走行が終了すると、走行制御モードは自動直進モードに切り替わり、ステップ#3からステップ#9の工程が繰り返される。そして、内部領域IA(
図4参照)での作業走行が終了すると、自動走行または手動走行で外周領域OA(
図4参照)の作業走行が行われる。
【0049】
次に、
図7と
図8とを用いて、この田植機の制御系を説明する。
図7は、制御系全体の機能ブロック図を示している。
図8は、表示情報の生成と表示に関係する機能部を示す機能ブロック図である。
【0050】
制御系は、本体制御ユニット5と、自動走行制御ユニット8とを備えている。本体制御ユニット5は、ECUと呼ばれるコンピュータユニットから構成されており、ここではメインECUと称する。自動走行制御ユニット8もECUと呼ばれるコンピュータユニットから構成されており、ここではメインECUと称する。本体制御ユニット5と、自動走行制御ユニット8とは、車載LANによってデータ交換可能に接続されている。
【0051】
本体制御ユニット5は、作業制御ユニット6、走行制御ユニット7、入出力信号処理部50、報知制御部51、エラー検知部52、エラー種別判定部53、エラー表示情報生成部54を備えている。
【0052】
作業制御ユニット6は、苗植付装置3などの作業装置の動作を制御する機能を有する。走行制御ユニット7は、走行機構RMに制御信号を与えて、機体1の走行を制御する。
【0053】
入出力信号処理部50は、各種操作具からの操作信号や各種センサからの検出信号を入力し、必要な前処理を行って制御系の各機能部に与えるとともに、制御系からの制御指令や制御信号を田植機の動作機器や制御機器に出力する。例えば、作業操作レバー11からの操作信号は、入出力信号処理部50で操作指令に変換され、作業制御ユニット6に与えられ、苗植付装置3の昇降や植付クラッチ23の入り切りに用いられる。
【0054】
報知制御部51は、メインECUである本体制御ユニット5やサブECUである自動走行制御ユニット8などの制御ユニットにおいて生成された報知情報を受け取って、情報表示器26を通じて当該情報の報知を行う。報知情報には、エラー検知部52によって検知されるエラー情報と、自動走行制御ユニット8によって生成される制御状態情報とが含まれている。制御状態情報には、制御状態を表示するための制御状態表示情報、制御状態を文字で表示する制御状態文字情報、制御状態を音声で報知する制御状態音声情報などが含まれている。制御状態表示情報には、動画やコマ画像や静止画像などが含まれている。制御状態文字情報には、エラーメッセージなどを表示するエラー表示情報などが含まれている。エラー検知部52によって検知されるエラー情報には、燃料残量エラー、水温エラー、充電エラー、GPS測定エラーなどが含まれる。エラー種別判定部53は、そのようなエラー情報の種別を判定する。特に、エラー種別判定部53は、自動走行制御ユニット8によって利用される搭載機器としての自動操舵機器の制御が困難となる制御困難エラー(例えば、測位ユニット90における測位不能エラー)を、他のエラーと区別する機能も有する。
【0055】
エラー表示情報生成部54は、エラー検知部52によって検知されたエラー情報に基づいて、情報表示器26で表示するためのエラー表示情報を生成する。エラー表示情報生成部54によって生成されたエラー表示情報及び、自動走行制御ユニット8によって生成された制御状態表示情報は、報知制御部51に与えられる。報知制御部51は、エラー表示情報と制御状態表示情報とが同時に与えられた場合には、後で詳しく説明される優先表示ルールに基づいて、少なくともいずれか一方を情報表示器26である液晶ディスプレイで表示する。
【0056】
自動走行制御ユニット8は、機体位置算出部81、経路生成部82、自動作業走行管理部83、自動旋回走行管理部85、操舵制御部86、制御状態表示情報生成部87、中断可能期間決定部88を備えている。
【0057】
機体位置算出部81は、測位ユニット90から受信した測位データに基づいて、圃場における機体位置を断続的または連続的に算出する。
【0058】
経路生成部82は、上述のティーチング走行において、基本直線RLおよび基準方位RDの少なくともいずれかを算出する。そして、経路生成部82は、算出された基本直線RLまたは基準方位RDを用いて、旋回走行が行われる度に、次に走行する直線経路IPLを生成する。なお、経路生成部82は、圃場作業の最初に、外周領域OAと内部領域IAに区分けされ圃場に対して、全ての走行経路を生成することも可能である。この場合、機体1は、経路生成部82によって順次設定される走行経路を目標走行経路として、自動走行する。
【0059】
自動作業走行管理部83は、機体位置に基づいて直線経路IPLに沿った自動作業走行を管理する。
【0060】
自動旋回走行管理部85は、旋回準備モードにおいて、開始位置操作具18または終了位置操作具19に対する人為操作されると、自動旋回モードに移行させると共に、開始位置操作具18または終了位置操作具19に対応する方向に、あらかじめ定められた所定の手順で機体1を旋回させる。例えば、開始位置操作具18が操作されると、自動旋回走行管理部85は所定の手順で機体1を右に旋回させ、終了位置操作具19が操作されると、自動旋回走行管理部85は所定の手順で機体1を左に旋回させる。なお、開始位置操作具18または終了位置操作具19の操作に応じた旋回方向は左右逆でもよいが、開始位置操作具18が操作されると左旋回され、終了位置操作具19が操作されると右旋回される場合、旋回準備操作具20に対して、開始位置操作具18を左側に配置させ、終了位置操作具19を右側に配置させることが好ましい。
【0061】
操舵制御部86は、機体位置算出部81によって算出された機体位置および経時的な機体位置から算出される機体方位を、経路生成部82によって生成された基本直線RLおよび基準方位RDと比較し、その誤差が小さくなるように機体1を操舵する操作量を算出して走行制御ユニット7に与える。
【0062】
制御状態表示情報生成部87は、制御状態表示情報の1つとして、基本直線RL(目標走行経路)に対する機体1の偏差と走行方向の偏角とを経時的に変化するコマ画像である連続表示情報(アニメーション)を生成する。この制御状態表示情報が情報表示器26に表示されると、運転者は、このアニメーションにより、機体1の目標走行経路に対する位置や姿勢を容易に理解することができる。つまり、この制御状態表示情報は、自動操舵制御のガイダンスとして利用される。
【0063】
情報表示器26には、制御状態表示情報だけでなく、エラー表示情報生成部54によって生成されたエラー表示情報なども表示される。液晶ディスプレイの表示エリアは小さいので、液晶ディスプレイに表示される表示情報は、選択される必要がある。この表示情報の選択は、報知制御部51によって行われる。
【0064】
報知制御部51に登録されている優先表示ルールに基づく、エラー表示情報及び制御状態表示情報の情報表示器26での表示処理が、
図9から
図10に示されている。
図9には、サブECUの制御状態表示情報生成部87で生成された制御状態表示情報が、メインECUに送られ、報知制御部51を通じて、情報表示器26に転送され、情報表示器26に表示される表示情報の流れが示されている。
図9のような表示情報の流れは、メインECUのエラー表示情報生成部54でエラー表示情報が生成されていないことが条件となっている。
【0065】
図10には、サブECUの制御状態表示情報生成部87で生成された制御状態表示情報の表示が、メインECUにより阻止され、メインECUのエラー表示情報生成部54で生成されたエラー表示情報が情報表示器26に送られ、液晶ディスプレイに表示される表示情報の流れが示されている。
図10のような表示情報の流れは、生成されたエラー表示情報が、測位ユニット90における測位不能エラー(サブECUによる搭載機器の制御が困難となる制御困難エラーの一種)であり、これにより目標走行経路に対する位置や姿勢を示す制御状態表示情報の信頼性がなくなっていることが条件となっている。また、エラー表示情報が、自動操舵が困難となる自動操舵不能エラーである場合も、制御状態表示情報は無用となるので、その表示は禁止される。エラー表示情報が、制御状態表示情報の信頼性や自動操舵の続行等に影響がないものであれば、エラー表示情報と制御状態表示情報が交互に表示されるか、あるいは、制御状態表示情報とエラー表示情報との表示重要度から判定され、いずれか一方が表示されるように構成してもよい。
【0066】
図11には、サブECUの制御状態表示情報生成部87で生成された制御状態表示情報の表示と、エラー表示情報生成部54で生成されたエラー表示情報とが、交互に、液晶ディスプレイに表示される表示情報の流れが示されている。その際、サブECUの中断可能期間決定部88が、制御状態表示情報の表示の中断が可能な中断可能期間を決定して、メインECUに与える。この中断可能期間は、例えば、制御状態表示情報が連続するコマ表示情報または動画情報などを含む連続表示情報の場合、連続表示情報における連続性が破綻しないタイミングで設定される。そのような中断可能期間は、例えば、
図12に示すような、中断可能期間(割り込み禁止期間)と中断不可期間(割り込み許可期間)とからなるパルス信号の形態で、メインECUに与えることができる。
図13に、そのようなパルス信号に基づいて、制御状態表示情報の表示途中にエラー表示情報が挟み込まれて、情報表示器26に表示される様子が示されている。
【0067】
なお、エラー表示情報が、自動操舵の続行が可能であるエラー(サブECUによる搭載機器の制御が可能な制御可能エラーの一種)である場合には、中断可能期間以外においても、制御可能エラーの検知直後の一定期間は制御可能エラーを表示するように構成してもよい。
【0068】
〔自動旋回操舵制御の途中停止〕
自動旋回走行管理部85により自動旋回操舵制御が管理されているが、自動旋回走行が行われている途中において、運転者が自動旋回操舵制御の停止を要求する場合がある。しかしながら、このような運転者の要望を満たすため、何らかの操作(旋回準備操作具20を再度操作など)により自動旋回操舵制御を途中で停止させた場合、自動旋回操舵制御で行われている畦等との干渉回避する機能も停止するので、不都合が生じる。このため、自動旋回走行管理部85は、自動旋回操舵制御の途中停止の操作が行われた場合、自動旋回操舵制御を停止させるだけではなく、エンジン停止や、走行機構RMの中立操作などを行って、機体1を停止させる。その後、運転者は、注意しながら、手動操作で旋回走行を続行させることができる。
【0069】
〔自動旋回走行における昇降制御と植付クラッチ制御〕
実用的な自動旋回走行技術では、自動旋回機能を使用するには「自動旋回機能を”ON”に設定する」「自動植付機能を”ON”に設定する」「ラインマーカ(非図示)の操作を”自動制御”に設定する」というような前提条件が要求される。しかしながら、自動走行に慣れていない運転者の場合、これらの条件設定をする可能性がある。その場合、自動旋回走行の開始操作を実行しても、自動旋回走行は開始されない。このような問題を回避するため、次のような処方策が講じられる。
(1)「直線経路IPLに沿った自動操舵走行(直進アシスト走行)の実行→自動旋回走行の実行」という操作を実施した場合に限り、上述したような自動旋回機能の前提条件が成立していなくとも自動旋回制御を実行し、自動昇降前提条件が成立していなくとも自動昇降制御(苗植付装置3の昇降)を実行する。
(2)自動旋回走行の開始時点において、「植付クラッチ23がON状態でない」または「ラインマーカがセット状態でない」ことが検知されても、「自動旋回走行を行う」つまり「次の直線経路IPLに沿った自動作業走行が継続されるはず」とみなして、植付クラッチ23を強制的にONに設定または維持し、ラインマーカを自動的に作業状態に設定または維持する。
(3)自動旋回走行は直線経路IPLに沿った自動操舵走行(直進アシスト走行)から連続して使用されるものであるので、直進アシスト走行の開始条件(例えば、植付部下降状態など)も、自動旋回走行における自動昇降制御の前提条件として利用される。
【0070】
なお、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【0071】
〔別実施の形態〕
(1)上述した実施形態では、表示情報が表示される情報表示器26として、液晶ディスプレイが用いられたが、その他のディスプレイが用いられてもよい。また、LED群やランプ群と一体化された複合ディスプレイが用いられてもよい。
【0072】
(2)上記各実施形態において、本体制御ユニット5(メインECU)や自動走行制御ユニット8(サブECU)は、
図7に示すような機能部から構成されるものに限定されず、任意の機能部の組み合わせから構成されてもよい。例えば、制御ユニットの各機能部はさらに細分化されても良く、逆に、各機能部の一部または全部がまとめられてもよい。また、各制御ユニットの機能は、複数の制御ユニット(タブレットコンピュータなども含む)に分割されてもよい。
【0073】
(3)上記各実施形態において、走行機構RMは、車輪12に限らず、クローラ等で構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、田植機やコンバインやトラクタなどの圃場作業機、多目的車両、芝刈機、建機などの作業車に適用することができる。
【符号の説明】
【0075】
1 :機体
3 :苗植付装置
5 :本体制御ユニット(メインECU)
6 :作業制御ユニット
7 :走行制御ユニット
8 :自動走行制御ユニット(サブECU)
11 :作業操作レバー
12C :操舵機構
20 :旋回準備操作具
23 :植付クラッチ
26 :情報表示器
51 :報知制御部
52 :エラー検知部
54 :エラー表示情報生成部
86 :操舵制御部
87 :制御状態表示情報生成部
88 :中断可能期間決定部
90 :測位ユニット