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特開2023-178699ガラス溶融炉及びガラス物品の製造方法
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  • 特開-ガラス溶融炉及びガラス物品の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178699
(43)【公開日】2023-12-18
(54)【発明の名称】ガラス溶融炉及びガラス物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 5/42 20060101AFI20231211BHJP
【FI】
C03B5/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022091529
(22)【出願日】2022-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100129148
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 淳也
(72)【発明者】
【氏名】荒川 浩士
(72)【発明者】
【氏名】馬見 秀雄
(57)【要約】
【課題】ガラス溶融炉の損耗を抑制する。
【解決手段】ガラス溶融炉2は、ガラス原料GRを加熱して溶融ガラスGMを生成する溶融窯6を備える。溶融窯6は、底部9と、側壁部8a~8dとを備える。ガラス溶融炉2は、溶融窯6の底部9を冷却する冷却構造7を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス原料を加熱して溶融ガラスを生成する溶融窯を備えるガラス溶融炉であって、
前記溶融窯は、底部と、側壁部とを備え、
前記底部を冷却する冷却構造を備える、
ことを特徴とするガラス溶融炉。
【請求項2】
前記冷却構造は、水冷式である、
ことを特徴とする請求項1に記載のガラス溶融炉。
【請求項3】
前記溶融窯の前記底部は、前記溶融ガラスに接する電鋳レンガと、前記電鋳レンガの下方に配置される焼成レンガとを備える、
ことを特徴とする請求項2に記載のガラス溶融炉。
【請求項4】
前記電鋳レンガは、前記焼成レンガよりも前記溶融ガラスに対する耐浸食性が高い、
ことを特徴とする請求項3に記載のガラス溶融炉。
【請求項5】
前記焼成レンガは、前記電鋳レンガよりも電気絶縁性が高い、
ことを特徴とする請求項3又は4に記載のガラス溶融炉。
【請求項6】
前記冷却構造は、冷却水を収容する水槽と、前記焼成レンガを支持する支持レンガとを備え、
前記支持レンガは、前記水槽内に配置されるとともに、前記冷却水の流路を構成する、
ことを特徴とする請求項3又は4に記載のガラス溶融炉。
【請求項7】
前記冷却水の前記流路は、前記水槽の中央部から側方に向かって前記冷却水を流動させる、
ことを特徴とする請求項6に記載のガラス溶融炉。
【請求項8】
前記水槽に収容される前記冷却水の水面の上限位置は、前記焼成レンガにおける側面の上下方向の範囲内に設けられる、
ことを特徴とする請求項6に記載のガラス溶融炉。
【請求項9】
前記溶融窯の前記側壁部は、前記溶融ガラスを加熱する電極を備える、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のガラス溶融炉。
【請求項10】
前記溶融ガラスを成形する成形部を備え、前記成形部は、前記溶融ガラスをオーバーフローさせる構造を備える、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のガラス溶融炉。
【請求項11】
前記成形部は、前記溶融ガラスをロール成形させる構造を備える、ことを特徴とする請求項1又は2に記載のガラス溶融炉。
【請求項12】
底部を備える溶融窯によってガラス原料を加熱して溶融ガラスを生成する溶融工程と、前記溶融ガラスをガラス物品に成形する成形工程と、を備えるガラス物品の製造方法であって、
前記溶融工程では、前記溶融窯の内部において、温度の高い第一溶融ガラスが位置する上部領域と、前記溶融窯の前記底部を冷却することで温度の低い第二溶融ガラスが位置する下部領域と、を形成し、
前記成形工程では、前記溶融窯から供給される前記第一溶融ガラスから前記ガラス物品を成形する、
ことを特徴とするガラス物品の製造方法。
【請求項13】
前記第一溶融ガラスの温度と前記第二溶融ガラスの温度との差は、300℃以上600℃以下である、
ことを特徴とする請求項12に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項14】
前記溶融窯の内部における前記第一溶融ガラスの量は、前記溶融窯の内部における前記第二溶融ガラスの量よりも多い、
ことを特徴とする請求項12又は13に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項15】
前記溶融ガラスは、ガラス組成として、質量%でアルカリ酸化物を1%以上含む、
ことを特徴とする請求項12又は13に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項16】
前記アルカリ酸化物は、LiOである、
ことを特徴とする請求項15に記載のガラス物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス溶融炉及びガラス溶融炉を用いてガラス物品を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、ガラス物品を製造する方法では、ガラス溶融炉に供給されたガラス原料を加熱して溶融ガラスを生成する溶融工程と、溶融ガラスをガラス溶融炉から排出して、所定の形状に成形する成形工程とが行われている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2019/004434号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アルカリ酸化物、特にLiOを多く含有する溶融ガラスをガラス溶融炉で生成する場合には、ガラス溶融炉が溶融ガラスに浸食され、ガラス溶融炉の寿命が著しく短くなるおそれがあった。特に、ガラス溶融炉の底部が耐火物の場合、この耐火物が溶融ガラスに浸食されると、溶融ガラスの生地漏れにつながり、生産性を悪化させるおそれがあった。
【0005】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、ガラス溶融炉の損耗を抑制することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記の課題を解決するためのものであり、ガラス原料を加熱して溶融ガラスを生成する溶融窯を備えるガラス溶融炉であって、前記溶融窯は、底部と、側壁部とを備え、前記底部を冷却する冷却構造をさらに備えることを特徴とする。
【0007】
かかる構成によれば、溶融窯の底部を冷却構造によって冷却することで、底部に触れる溶融ガラスの温度を低下させることができる。これにより、溶融窯の底部の近傍位置における溶融ガラスの粘度を高め、この溶融ガラスの浸食性を抑制することで、底部の損耗を抑制することが可能となる。
【0008】
本発明に係るガラス溶融炉において、前記冷却構造は、水冷式であってもよい。これにより、溶融窯の中の溶融ガラスの底部を効率良く冷却することができる。
【0009】
本発明に係るガラス溶融炉において、前記溶融窯の前記底部は、前記溶融ガラスに接する電鋳レンガと、前記電鋳レンガの下方に配置される焼成レンガとを備えてもよい。
【0010】
本発明に係るガラス溶融炉において、前記電鋳レンガは、前記焼成レンガよりも前記溶融ガラスに対する耐浸食性が高くてもよい。
【0011】
本発明に係るガラス溶融炉において、前記焼成レンガは、前記電鋳レンガよりも電気絶縁性が高くてもよい。
【0012】
本発明に係るガラス溶融炉において、前記冷却構造は、冷却水を収容する水槽と、前記焼成レンガを支持する支持レンガとを備えてもよく、前記支持レンガは、前記水槽内に配置されるとともに、前記冷却水の流路を構成してもよい。
【0013】
本発明に係るガラス溶融炉において、前記冷却水の前記流路は、前記水槽の中央部から側方に向かって前記冷却水を流動させてもよい。
【0014】
本発明に係るガラス溶融炉において、前記水槽に収容される前記冷却水の水面の上限位置は、前記焼成レンガにおける側面の上下方向の範囲内に設けられてもよい。
【0015】
本発明に係るガラス溶融炉において、前記溶融窯の前記側壁部は、前記溶融ガラスを加熱する電極を備えてもよい。
【0016】
本発明に係るガラス溶融炉において、前記溶融ガラスを成形する成形部を備え、前記成形部は、前記溶融ガラスをオーバーフローさせる構造を備えてもよいし、前記溶融ガラスをロール成形させる構造を備えてもよい。
【0017】
本発明は上記の課題を解決するためのものであり、底部を備える溶融窯によってガラス原料を加熱して溶融ガラスを生成する溶融工程と、前記溶融ガラスをガラス物品に成形する成形工程と、を備えるガラス物品の製造方法であって、前記溶融工程では、前記溶融窯の内部において、温度の高い第一溶融ガラスが位置する上部領域と、前記溶融窯の前記底部を冷却することで温度の低い第二溶融ガラスが位置する下部領域と、を形成し、前記成形工程では、前記溶融窯から供給される前記第一溶融ガラスから前記ガラス物品を成形する、ことを特徴とする。
【0018】
かかる構成によれば、溶融工程において、溶融窯の底部を冷却構造によって冷却することで、溶融窯の底部の近傍に、低温の第二溶融ガラスを含む下部領域を形成することができる。低温の第二溶融ガラスは、粘度が高いため、溶融窯の底部において流動し難くなる。したがって、本方法では、溶融窯の底部の近傍位置における第二溶融ガラスの粘度を高め、溶融ガラスの浸食性を抑制することで、底部の損耗を抑制することが可能となる。
【0019】
本発明に係るガラス物品の製造方法において、前記第一溶融ガラスの温度と前記第二溶融ガラスの温度との差は、好ましくは300℃以上、より好ましくは350℃以上、更に好ましくは400℃以上、好ましくは600℃以下、より好ましくは550℃以下、更に好ましくは500℃以下である。前記第一溶融ガラスの温度と前記第二溶融ガラスの温度との差が300℃未満であると、溶融窯の底部の近傍位置における第二溶融ガラスの粘度を高めることが困難になり、溶融ガラスによる溶融窯の底部の浸食性を抑制することができず、底部の損耗を抑制することが困難になる。一方、前記第一溶融ガラスの温度と前記第二溶融ガラスの温度との差が600℃を超えると、第一溶融ガラスが位置する上部領域と第二溶融ガラスが位置する下部領域の界面近傍に過度な温度差が生じることで、溶融窯に過度の負担をかけ、溶融窯の寿命を低下させる虞がある。
【0020】
本発明に係るガラス物品の製造方法において、前記溶融窯の内部における前記第一溶融ガラスの量は、前記溶融窯の内部における前記第二溶融ガラスの量よりも多くてもよい。
【0021】
本発明に係るガラス物品の製造方法において、前記溶融ガラスは、ガラス組成として、質量%でアルカリ酸化物を1%以上含んでもよい。この場合において、前記アルカリ酸化物は、LiOであってもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ガラス溶融炉の損耗を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】ガラス物品の製造装置を示す断面図である。
図2図1のII-II矢視線に係る断面図である。
図3図1のIII-III矢視線に係る断面図である。
図4】冷却構造の他の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。図1乃至図4は、本発明に係るガラス物品の製造方法及び製造装置の一実施形態を示す。
【0025】
図1は、ガラス物品の製造装置1を示す。製造装置1は、ガラス溶融炉2と、ガラス溶融炉2にガラス原料GRを供給する原料供給装置3と、溶融ガラスGMを成形する成形部4と、成形されたガラス物品Gaを破砕する破砕装置5と、を備える。
【0026】
ガラス溶融炉2は、ガラス原料GRを加熱して溶融ガラスGMを生成する溶融窯6と、溶融窯6を冷却する冷却構造7と、を備える。
【0027】
図1及び図2に示すように、溶融窯6は、側壁部8a~8dと、底部9と、天壁部10と、を備える。
【0028】
側壁部8a~8dは、溶融窯6の内部を例えば長方形に区画する。側壁部8a~8dは、第一側壁部8aと、第二側壁部8bと、第一側壁部8aと第二側壁部8bとを繋ぐ第三側壁部8c及び第四側壁部8dと、を含む。各側壁部8a~8dは、耐火物により構成される。なお、図1乃至図3において、溶融窯6の長手方向を符号Xで示し、この長手方向Xに直交する溶融窯6の幅方向を符号Yで示す。
【0029】
第一側壁部18aは、溶融窯6にガラス原料GRを供給するための原料供給口11を備える。原料供給口11は、原料供給装置3に接続されている。
【0030】
第二側壁部8bは、第一側壁部8aと対向している。第二側壁部8bは、溶融ガラスGMを排出するための排出口12を備える。排出口12は、成形部4に接続されている。
【0031】
図2に示すように、第三側壁部8cは、第四側壁部8dと対向している。第三側壁部8c及び第四側壁部8dは、溶融窯6内のガラス原料GR及び溶融ガラスGMを加熱するための電極13a,13bを有する。本実施形態では、第三側壁部8cに複数の電極13aが設けられ、第四側壁部8dには、第三側壁部8cの電極13aと同数の電極13bが設けられている。溶融窯6は、第三側壁部8cの電極13aと第四側壁部8dの電極13bとの間で通電することで、ガラス原料GRを溶融させ、生成された溶融ガラスGMを加熱し続ける。
【0032】
底部9は、溶融ガラスGMに接触し得る第一層14と、第一層14の下方に配置される第二層15と、を含む。第一層14は、例えば電鋳レンガにより構成される。第一層14における溶融ガラスGMに対する耐浸食性は、第二層15よりも高い。第一層14の厚さは、50~300mmであることが好ましい。
【0033】
第二層15は、例えば焼成レンガにより構成される。第二層15の電気絶縁性は、第一層14よりも高い。第二層15の熱伝導率は、1.0~2.0[W/(m・K)]であることが好ましい。第二層15の厚さは、30~150mmであることが好ましい。
【0034】
天壁部10は、溶融窯6の上部に設けられている。天壁部10は、この天壁部10と溶融ガラスGMとの間に気相が形成されるように、その高さが設定されている。
【0035】
冷却構造7は、溶融窯6の底部9を冷却するために、この底部9の下方に配置されている。冷却構造7は水冷式であり、冷却水を収容する水槽16と、冷却水を水槽16に供給する供給装置17とを備える。
【0036】
図1及び図3に示すように、水槽16は、側壁部18a~18dと、底壁部19とを備える。
【0037】
側壁部18a~18dは、平面視において、水槽16を長方形状に区画する。水槽16は、その長手方向が、溶融窯6の長手方向Xと一致するように配置されている。以下、水槽16の長手方向及び幅方向について、溶融窯6の長手方向及び幅方向と同様に、符号X,Yを用いて説明する場合がある。
【0038】
側壁部18a~18dは、第一側壁部18aと、第一側壁部18aに対向する第二側壁部18bと、第一側壁部18aと第二側壁部18bとを繋ぐ第三側壁部18c及び第四側壁部18dと、を含む。
【0039】
底壁部19は、冷却水の供給口20と、冷却水の排出口21と、溶融窯6を支持するための支持レンガ22と、を備える。
【0040】
供給口20は、底壁部19の複数箇所に設けられている。供給口20は、水槽16の幅方向Yにおける中央部寄りの位置に設けられている。供給口20は、底壁部19から上方に突出する管状部を有する。
【0041】
排出口21は、底壁部19において、供給口20から離れた位置に設けられている。排出口21は、水槽16の第一側壁部18aの近傍位置に設けられている。排出口21は、底壁部19から上方に突出する管状部を有する。本実施形態では、底壁部19に一つの排出口21が設けられているが。排出口21の数は、本実施形態に限定されない。
【0042】
排出口21は、所定の高さを有しており、この高さによって水槽16内を流れる冷却水の水面の高さが決定される。水槽16に収容される冷却水の水面の上限位置ULPは、第二層15における側面15cの上下方向の範囲内に設定されることが好ましい。換言すると、冷却水の水面の上限位置ULPは、第二層15の上面15aの高さ位置よりも下方に設定されることが好ましい。これにより、冷却水が底部9の第一層14の側面に接触することによる漏電を防止することができる。
【0043】
図1に示すように、支持レンガ22は、溶融窯6の底部9の下方に配置されている。支持レンガ22は、水槽16の底壁部19に設置されるとともに、溶融窯6の底部9における第二層15の下面15bに接触することで、溶融ガラスGMの底部9を支持している。
【0044】
支持レンガ22は、冷却水の流路を構成する流路構成部材としても機能する。図3に示すように、支持レンガ22により構成される冷却水の流路23~26は、第一流路23と、第二流路24と、第三流路25と、第四流路26とを含む。
【0045】
第一流路23は、水槽16の幅方向Yにおける中央部から側方の第三側壁部18cに向かって延びる直線状の流路である。第一流路23は、支持レンガ22に形成される一対の側面22a,22bによって構成される、一対の側面22a,22bは、水槽16の幅方向Yに沿って形成される直線状の面である。
【0046】
第一流路23の一端部は、支持レンガ22の一部により閉塞されている。第一流路23の他端部は、第三側壁部18cに向かって開放されている。この構成により、第一流路23は、供給装置17の供給口20から供給された冷却水を、溶融窯6の底部9における第二層15の下面15bに接触させた状態で、水槽16の幅方向Yに沿って、側方の第三側壁部18c向かって流動させることができる。
【0047】
第二流路24は、水槽16の幅方向Yにおける中央部から側方の第四側壁部18dに向かって延びる直線状の流路である。第二流路24は、支持レンガ22に形成される一対の側面22c,22dによって構成される。一対の側面22c,22dは、水槽16の幅方向Yに沿って形成される直線状の面である。
【0048】
第二流路24の一端部は、支持レンガ22の一部により閉塞されている。第二流路24の他端部は、第四側壁部18dに向かって開放されている。この構成により、第二流路24は、供給装置17の供給口20から供給された冷却水を、溶融窯6の底部9における第二層15の下面15bに接触させた状態で、水槽16の幅方向Yに沿って、側方の第四側壁部18dに向かって流動させることができる。
【0049】
第三流路25は、第一流路23と繋がっている。第三流路25は、水槽16内において、支持レンガ22と第三側壁部18cとの間の空間に形成されている。第三流路25は、第一流路23から流れ出た冷却水を、水槽16の長手方向Xに沿って、排出口21に向かって流動させることができる。
【0050】
第四流路26は、第二流路24と繋がっている。第四流路26は、水槽16内において、支持レンガ22と第四側壁部18dとの間の空間に形成されている。第四流路26は、第二流路24から流れ出た冷却水を、水槽16の長手方向Xに沿って、排出口21に向かって流動させることができる。
【0051】
供給装置17は、ポンプ等の手段によって、水槽16内に対して冷却水を循環供給することができる。供給装置17は、供給口20に接続される給水管と、排出口21に接続される排水配管とを含む。
【0052】
原料供給装置3は、スクリューフィーダ等の送り機構によって、原料を混合しながら溶融窯6の内部に供給するように構成される。
【0053】
成形部4は、第一側壁部18aの排出口12に繋がる移送部4aと、移送部4aを流れる溶融ガラスGMを溢れ出させるオーバーフロー構造としてのオーバーフロー溝4bとを有する。成形部4は、移送部4aを流れる溶融ガラスGMをオーバーフロー溝4bの上部から溢れ出させ、この溶融ガラスGMを下方に滴下させることで、溶融ガラスGMを冷却する。溶融ガラスGMが冷却されることで、ガラス物品Gaが成形される。
【0054】
破砕装置5は、成形部4の下方に配置されている。破砕装置5は、ガラス物品Gaを粉末状に破砕することができる。
【0055】
以下、上記の製造装置1を使用してガラス物品Gaを製造する方法について説明する。ガラス物品Gaの製造方法は、溶融窯6によってガラス原料GRを加熱することで溶融ガラスGMを生成する溶融工程と、溶融ガラスGMからガラス物品Gaを成形する成形工程と、を備える。
【0056】
溶融工程では、原料供給装置3からガラス原料GRを溶融窯6に供給する。ガラス原料GRは、溶融窯6の原料供給口11から溶融窯6の内部に供給される。溶融窯6は、電極13a,13bによる通電加熱によってガラス原料GRを加熱する。これにより、ガラス原料GRから溶融ガラスGMが生成される。
【0057】
溶融工程では、冷却構造7によって溶融窯6の底部9を冷却する(冷却工程)。冷却構造7は、供給口20から冷却水を水槽16に供給する。冷却水は、水槽16内の流路23~26に沿って供給口20から排出口21に向かって水槽16内を流れる。
【0058】
具体的には、冷却水は、第一流路23及び第三流路25を流れて排出口21に到達する。また、冷却水は、第二流路24及び第四流路26を流れて排出口21に到達する。冷却水は、第一流路23及び第二流路24を流れる際に、溶融窯6の底部9における第二層15の下面15bに接触し、この第二層15を冷却する。
【0059】
この冷却により、溶融窯6の内部では、底部9の近傍に位置する溶融ガラスGMの温度が低下することになる。すなわち、溶融工程では、溶融窯6の内部において、温度の高い第一溶融ガラスGM1が位置する上部領域UAと、溶融窯6の底部9を冷却することで温度の低い第二溶融ガラスGM2が位置する下部領域LAと、を形成する。
【0060】
上部領域UAに存在する第一溶融ガラスGM1の温度は、例えば1000℃以上155
0℃以下である。下部領域LAに存在する第二溶融ガラスGM2の温度は、例えば700℃以上1000℃未満である。第一溶融ガラスGM1の温度と、第二溶融ガラスGM2の温度との差は、300℃以上600℃以下であることが好ましい。
【0061】
溶融ガラスGMは、ガラス組成として、質量%でアルカリ酸化物を1%以上含むことが好ましい。アルカリ酸化物は、例えばLiOである。
【0062】
溶融窯6内における第一溶融ガラスGM1の量は、溶融窯6内における第二溶融ガラスGM2の量よりも多い。下部領域LAにおける第二溶融ガラスGM2の粘度は、上部領域UAにおける第一溶融ガラスGM1の粘度よりも高い。
【0063】
上部領域UAは、溶融窯6の排出口12とつながっている。これにより、溶融窯6の排出口12からは、第一溶融ガラスGM1のみが排出されることになる。
【0064】
成形工程では、溶融窯6から供給される第一溶融ガラスGM1からガラス物品Gaを成形する。溶融窯6の排出口12から流出した第一溶融ガラスGM1は、成形部4のオーバーフロー溝4bから溢れ出て、成形部4の側面を伝って下方に流れる。その後、第一溶融ガラスGM1は、成形部4から落下することで、ガラス物品Gaとなる。ガラス物品Gaは、破砕装置5によって、より細かく粉末状に破砕される。成形部4の他の形態としては、第一溶融ガラスGM1を金属製のロールで挟み込み、引き伸ばすロール成形を用いることができる。これにより、フィルム状のガラス物品を得ることができる。
【0065】
図4は、ガラス溶融炉における冷却構造の他の例を示す。この例における冷却構造7は、支持レンガ22の構成が図1乃至図3の例と異なる。支持レンガ22は、長尺状に構成される複数の支持レンガを含む。各支持レンガ22は、その長手方向が水槽16の長手方向Xと一致するように、水槽16内に配置されている。複数の支持レンガ22は、水槽16の幅方向Yに沿って、間隔をおいて配置されている。供給装置17の供給口20は、隣り合う二つの支持レンガ22の間に配されている。
【0066】
上記の構成により、隣り合う二つの支持レンガ22の間、水槽16の第三側壁部18cと支持レンガ22との間、及び水槽16の第四側壁部18dと支持レンガ22との間には、供給口20から供給された冷却水を水槽16の長手方向Xに沿って排出口21まで流動させる流路27が構成されている。
【0067】
上記の構成に限らず、長さの異なる複数の支持レンガ22を、水槽16の長手方向X又は幅方向Yに沿って配置してもよい。これにより、多様の形状の流路を水槽16内に形成することができる。
【0068】
以上説明した本実施形態に係るガラス溶融炉2及びガラス物品Gaの製造方法によれば、溶融工程において、溶融窯6の底部9を冷却構造7によって冷却することで、底部9の近傍位置における第二溶融ガラスGM2の粘度を高めることができる。これにより、溶融窯6の底部9の近傍位置における第二溶融ガラスGM2の浸食性を抑制することで、底部9の損耗を抑制することが可能となる。
【0069】
また、溶融窯6の電鋳レンガの成分が第一溶融ガラスGM1に混入することによるガラス物品Gaのガラス特性の変化を可及的に抑制することができる。さらに、例えばLAS系のガラス物品を製造する場合に、分相ガラスの分相性の変化や結晶化ガラスの結晶性の変化を抑制することも可能となる。
【実施例0070】
以下、本発明に係る実施例について説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0071】
本発明者は、本発明の効果を確認するために、溶融窯の底部の耐火物の浸食量を測定する試験を行った。
【0072】
具体的には、質量%表記で、SiO 50%、B 30%、BaO 15%、LiO 5%となるガラス物品甲を得るガラス原料と、B 50%、SiO 30%、BaO 10%、Al 10%となるガラス物品乙を得るガラス原料、を用意し、表1に示す実施例と比較例の条件で、本発明に係るガラス物品の製造方法及び製造装置の実施形態に基づき溶融を行った。なお、いずれの実施例、比較例とも、溶融時間は6000時間であり、第一溶融ガラスの温度は、溶融窯の深さ方向における上部領域の厚さの中間位置(厚さの1/2となる内部位置)で測定し、第二溶融ガラスの温度は、溶融窯の深さ方向における下部領域の厚さの中間位置(厚さの1/2となる内部位置)で測定した。
【表1】

【0073】
表1に示すように、第二溶融ガラスの温度を第一溶融ガラスに比べ下げることで、溶融窯の底部の耐火物の浸食量を顕著に抑制できた。この効果は、溶融窯の底部の近傍位置における第二溶融ガラスの粘度が高いことにより、溶融窯の底部の耐火物の浸食性を抑制できたためと考察する。
【0074】
なお、本発明は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、上記した作用効果に限定されるものでもない。本発明は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0075】
2 ガラス溶融炉
4 成形部
4b オーバーフロー溝
6 溶融窯
7 冷却構造
8a 溶融窯の第一側壁部
8b 溶融窯の第二側壁部
8c 溶融窯の第三側壁部
8d 溶融窯の第四側壁部
9 溶融窯の底部
13a 電極
13b 電極
14 第一層(電鋳レンガ)
15 第二層(焼成レンガ)
16 水槽
22 支持レンガ
23 第一流路
24 第二流路
Ga ガラス物品
GM 溶融ガラス
GM1 第一溶融ガラス
GM2 第二溶融ガラス
GR ガラス原料
LA 下部領域
UA 上部領域
ULP 冷却水の水面の上限位置
図1
図2
図3
図4