(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178704
(43)【公開日】2023-12-18
(54)【発明の名称】燃料電池システムに対する耐久試験の結果を推定するシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
G06N 20/00 20190101AFI20231211BHJP
H01M 8/04992 20160101ALI20231211BHJP
H01M 8/04664 20160101ALI20231211BHJP
H01M 8/04313 20160101ALI20231211BHJP
【FI】
G06N20/00
H01M8/04992
H01M8/04664
H01M8/04313
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022091535
(22)【出願日】2022-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岸田 圭史
(72)【発明者】
【氏名】山下 浩一郎
【テーマコード(参考)】
5H127
【Fターム(参考)】
5H127AC06
5H127BA02
5H127BA22
(57)【要約】
【課題】燃料電池システムが経験する使用条件にかかわらず、燃料電池システムの耐久性を推定することのできる技術を提供する。
【解決手段】システムは、第1の使用条件で第1の期間に亘って実際に実施された耐久試験の結果を、学習用データとして記憶する第1の記憶装置と、第1の記憶装置に記憶された学習用データを用いて機械学習する機械学習モデルであって、耐久試験が第2の使用条件で実施された場合の結果を推定する当該機械学習モデルを有する第1の演算装置と、を備える。第1の使用条件は、燃料電池システムの劣化に影響を与える所定の動作パラメータが、当該動作パラメータの全ての変域に亘って等頻度で出現する使用条件である。第2の使用条件は、動作パラメータが、変域の少なくとも一部において非等頻度で出現する使用条件である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池システムに対する耐久試験の結果を推定するシステムであって、
第1の使用条件で第1の期間に亘って実際に実施された前記耐久試験の結果を、学習用データとして記憶する第1の記憶装置と、
前記第1の記憶装置に記憶された前記学習用データを用いて機械学習する機械学習モデルであって、前記耐久試験が第2の使用条件で実施された場合の結果を推定する前記機械学習モデルを有する第1の演算装置と、
を備え、
前記第1の使用条件は、前記燃料電池システムの劣化に影響を与える所定の動作パラメータが、当該動作パラメータの全ての変域に亘って等頻度で出現する使用条件であり、
前記第2の使用条件は、前記動作パラメータが、前記変域の少なくとも一部において非等頻度で出現する使用条件である、
システム。
【請求項2】
前記第2の使用条件で前記の第1の期間よりも短い第2の期間に亘って実際に実施された前記耐久試験の結果を、第1の評価用データとして記憶する第2の記憶装置と、
前記第1の演算装置によって推定された前記第2の期間以内の結果を、前記第2の記憶装置に記憶された前記第1の評価用データと対比評価する第2の演算装置と、をさらに備える請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記第2の記憶装置はさらに、第3の使用条件で前記第1の期間に亘って実際に実施された前記耐久試験の結果を、第2の評価用データとして記憶しており、
前記第1の演算装置はさらに、前記第2の記憶装置に記憶された前記第2の評価用データを用いて、前記耐久試験が前記第3の使用条件で前記第2の期間以降まで実施された場合の結果を推定し、
前記第2の演算装置はさらに、前記第1の演算装置によって推定された前記第3の使用条件での前記結果を、前記第2の記憶装置に記憶された前記第2の評価用データと対比評価する、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記第2の記憶装置はさらに、第4の使用条件で前記の前記第2の期間に亘って実際に実施された前記耐久試験の結果を、第3の評価用データとして記憶し、
前記第1の演算装置はさらに、前記第2の記憶装置に記憶された前記第3の評価用データを用いて、前記耐久試験が前記第4の使用条件で前記第2の期間以内まで実施された場合の結果を推定し、
前記第2の演算装置はさらに、前記第1の演算装置によって推定された前記第4の使用条件での前記結果を、前記第2の記憶装置に記憶された前記第3の評価用データと対比評価する、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
燃料電池システムに対する耐久試験の結果を推定する方法であって、
第1の使用条件で第1の期間に亘って実際に実施された前記耐久試験の結果を、第1の記憶装置に学習用データとして記憶させる工程と、
前記第1の記憶装置に記憶された前記学習用データを用いて機械学習する機械学習モデルであって、第1の演算装置が有する前記機械学習モデルに、前記耐久試験が第2の使用条件で実施された場合の結果を推定させる工程と、
を備え、
前記第1の使用条件は、前記燃料電池システムの劣化に影響を与える所定の動作パラメータが、当該動作パラメータの全ての変域に亘って等頻度で出現する使用条件であり、
前記第2の使用条件は、前記動作パラメータが、前記変域の少なくとも一部において非等頻度で出現する使用条件である、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、燃料電池システムに対する耐久試験の結果を推定するシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両に搭載されたバッテリを、他の製品にリユースする技術が記載されている。この技術では、リユース前のバッテリの作動データと、リユース後のバッテリの作動データとの両者を収集し、収集された作動データを学習用データとする機械学習によって、バッテリの耐久性(寿命)を推定する機械学習モデルを作成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、例えば車両等の新製品を公衆へ提供する前には、その車両に搭載される燃料電池システムの耐久試験を事前に実施する必要がある。しかしながら、燃料電池システムの寿命まで耐久試験を実施すると、膨大な時間を費やす必要がある。この課題を解決する手段の一つとして、上記した特許文献1のように、機械学習を施した推定モデルを用いることによって、燃料電池システムの耐久性を推定することが考えられる。
【0005】
しかしながら、同一の燃料電池システムであっても、それが搭載される車両の種類や用途に応じて、燃料電池システムが経験する使用条件は様々に相違する。即ち、燃料電池システムには、様々な動作パラメータ(例えば、電流、電圧の変化速度、外気温度等)が存在するが、搭載される車両の種類や用途に応じて、各動作パラメータが取り得る値の範囲や出現頻度は相違する。そして、これらの動作パラメータは、燃料電池システムの劣化に影響を与える。従って、従来の思想では、燃料電池が経験する使用条件(例えば、搭載される車両の種類や用途)に応じて、機械学習を施した推定モデルを個別に用意することが必要とされている。
【0006】
本明細書では、燃料電池システムが経験する使用条件にかかわらず、燃料電池システムの耐久性を推定することのできる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書が開示する技術は、燃料電池システムに対する耐久試験の結果を推定するシステムに具現化される。第1の態様では、システムは、第1の使用条件で第1の期間に亘って実際に実施された耐久試験の結果を、学習用データとして記憶する第1の記憶装置と、第1の記憶装置に記憶された学習用データを用いて機械学習する機械学習モデルであって、耐久試験が第2の使用条件で実施された場合の結果を推定する機械学習モデルを有する第1の演算装置と、を備えてもよい。この場合、第1の使用条件は、燃料電池システムの劣化に影響を与える所定の動作パラメータが、当該動作パラメータの全ての変域に亘って等頻度で出現する使用条件であってもよく、第2の使用条件は、動作パラメータが、変域の少なくとも一部において非等頻度で出現する使用条件であってもよい。
【0008】
上記したシステムでは、第1の使用条件において実際に実施された耐久試験の結果が、学習用データとして記憶される。そして、当該学習用データを用いた機械学習を施すことにより、第2の使用条件における燃料電池システムの耐久性(詳しくは、耐久試験の結果)を推定する機械学習モデルが作成される。第1の使用条件では、燃料電池システムの劣化に影響を与える所定の動作パラメータが、当該動作パラメータの全ての変域に亘って等頻度で出現する。このような偏りのない耐久試験の結果を用いることで、様々な使用条件にも幅広く対応し得る汎用性の高い機械学習モデルを用意することができる。これにより、第2の使用条件の内容にかかわらず、即ち、燃料電池システムが経験する使用条件にかかわらず、燃料電池システムの耐久性を推定することができる。
【0009】
第2の態様では、上記の第1の態様において、システムは、第2の使用条件での第1の期間よりも短い第2の期間に亘って実際に実施された耐久試験の結果を、第1の評価用データとして記憶する第2の記憶装置と、第1演算装置によって推定された第2の期間以内の結果を、第2の記憶装置に記憶された第1の評価用データと対比評価する第2の演算装置とをさらに備えてもよい。このような対比評価が実行されることにより、例えばユーザは、本システムによる推定の妥当性を客観的に確認することができる。仮に、信頼度が基準値よりも低い場合には、第2の使用条件の実際の耐久試験の結果を学習させ、第1の演算装置に機械学習モデルを修正させてもよい。
【0010】
第3の態様では、上記の第2の態様において、第2の記憶装置はさらに、第3の使用条件で第1の期間に亘って実際に実施された耐久試験の結果を、第2の評価用データとして記憶してもよく、第1の演算装置はさらに、第2の記憶装置に記憶された第2の評価用データを用いて、耐久試験が第3の使用条件で第2の期間以降まで実施された場合の結果を推定してもよく、第2の演算装置はさらに、第1の演算装置によって推定された第3の使用条件での結果を、第2の記憶装置に記憶された第2の評価用データと対比評価してもよい。このような対比評価が実行されることにより、例えばユーザは、本システムによる推定の妥当性を客観的に確認することができる。仮に、推定精度が基準値よりも低い場合には、第3の使用条件の実際の耐久試験の結果を学習させ、第1の演算装置に機械学習モデルを修正させてもよい。
【0011】
第4の態様では、上記の第3の態様において、第2の記憶装置はさらに、第4の使用条件での第2の期間に亘って実際に実施された耐久試験の結果を、第3の評価用データとして記憶してもよく、第1の演算装置はさらに、第2の記憶装置に記憶された第3の評価用データを用いて、耐久試験が第4の使用条件で第2の期間以内まで実施された場合の結果を推定してもよく、第2の演算装置はさらに、第1の演算装置によって推定された第4の使用条件での結果を、第2の記憶装置に記憶された第3の評価用データと対比評価してもよい。このような対比評価を実施することにより、例えばユーザは、本システムによる推定の妥当性を、複数の使用条件について客観的に確認することができる。
【0012】
本明細書が開示する技術は、燃料電池システムに対する耐久試験の結果を推定する方法に具現化される。方法は、第1の使用条件で第1の期間に亘って実際に実施された耐久試験の結果を、第1の記憶装置に学習用データとして記憶させる工程と、第1の記憶装置に記憶された学習用データを用いて機械学習する機械学習モデルであって、第1の演算装置が有する機械学習モデルに、耐久試験が第2の使用条件で実施された場合の結果を推定させる工程と、を備えてもよい。この場合、第1の使用条件は、燃料電池システムの劣化に影響を与える所定の動作パラメータが、当該動作パラメータの全ての変域に亘って等頻度で出現する使用条件であってもよく、第2の使用条件は、動作パラメータが、変域の少なくとも一部において非等頻度で出現する使用条件であってもよい。このような構成によると、第2の使用条件の内容にかかわらず、即ち、燃料電池システムが経験する使用条件にかかわらず、燃料電池システムの耐久性を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例1の推定システムの構成を示すブロック図。
【
図2】各使用条件において実施した耐久試験時間を示す図
【
図3】等頻度使用条件における電流(I)に対する累積時間(t)を示すグラフ。
【
図4】第1製品使用条件における電流(I)に対する累積時間(t)を示すグラフ。
【
図5】第2製品使用条件における電流(I)に対する累積時間(t)を示すグラフ。
【
図6】第3製品使用条件における電流(I)に対する累積時間(t)を示すグラフ。
【
図7】第4製品使用条件における電流(I)に対する累積時間(t)を示すグラフ。
【
図8】第1演算装置の学習モデルについて説明する図。
【
図10】等頻度(特にジニ係数)について説明する図。
【
図12】実施例2の推定システムの構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(実施例1)
図1を参照して、本実施例の推定システム10の構成について説明する。本推定システム10は、燃料電池システムに対する耐久試験の結果を推定する。一例ではあるが、推定システム10により推定される燃料電池システムは、車両に搭載されるものである。
【0015】
図1に示されるように、推定システム10は、計測装置12と通信可能に接続されている。計測装置12は、燃料電池システムの耐久試験を実施する装置である。計測装置12は、センサによって計測された各種パラメータの値を所定の時間毎に取得し、燃料電池システムを制御するための制御信号(例えば目標電流等)などとともに、時刻情報と関連付けて時系列データとして記憶する。ここでの各種パラメータとは、燃料電池システムの電圧、電流、電圧速度、温度、ガス流量、ガス圧力等を指す。計測装置12は、これらの燃料電池システムの耐久試験の結果を学習用データD1及び評価用データD2として推定システム10に伝送する。
【0016】
推定システム10は、第1記憶装置14と、第2記憶装置16と、第1演算装置18と、第2演算装置20と、を備える。第1記憶装置14は、計測装置12及び第1演算装置18と通信可能に接続されている。第1記憶装置14は、メモリを有する。第1記憶装置14は、計測装置12から提供された学習用データD1を記憶する。第1記憶装置14は、記憶した学習用データD1を第1演算装置18に伝送する。第2記憶装置16は、計測装置12及び第2演算装置20と通信可能に接続されている。第2記憶装置16は、メモリを有する。第2記憶装置16は、計測装置12から提供された評価用データD2を記憶する。第1記憶装置14は、記憶した学習用データD1を第1演算装置18に伝送する。
【0017】
第1演算装置18は、メモリ及びCPUを有する。第1演算装置18は、メモリに予め記憶したプログラムに基づいて各種処理をCPUに実行させる。第1演算装置18は、メモリに記憶された学習モデル19を有する。第1演算装置18は第1記憶装置14から受け取った学習用データD1を学習モデル19に機械学習させる。第1記憶装置14は、学習モデル19を用いて、燃料電池システムの耐久試験の結果を推測する。第1演算装置18は、第2演算装置20と通信可能に接続されている。第1演算装置18は、学習モデル19によって推定した耐久試験の結果を、第2演算装置20に伝送する。
【0018】
第2演算装置20は、メモリ及びCPUを有する。第2演算装置20は、メモリに予め記憶したプログラムに基づいて各種処理をCPUに実行させる。第2演算装置20は、第1演算装置18から受け取った耐久試験の推定結果を、第2記憶装置16から受け取った評価用データD2と対比評価する。具体的には、第2演算装置20は、第1演算装置18による耐久試験の推定結果と、評価用データD2との、誤差を出力する。
【0019】
図2~
図7を参照して、学習用データD1及び評価用データD2について説明する。燃料電池システムの耐久試験の結果は、燃料電池システムが経験する使用条件(車量の種類や、用途、使用環境等)に影響される。即ち、これらの使用条件によって、燃料電池システムの劣化に影響を与える様々な動作パラメータ(以降、劣化パラメータと称する)がとり得る値の範囲や出現頻度(即ち累積時間)は相違する。劣化パラメータは、例えば電流、電圧の変化速度、外気温度等である。
【0020】
図2に示されるように、学習用データD1には、等頻度使用条件の耐久試験データ(以降、単にデータと記す)を含む。等頻度使用条件のデータは、等頻度使用条件で第1の期間(T1)に亘って実施された耐久試験の結果である。第1の期間(T1)は、燃料電池システムにおける耐久試験の試験期間として必要とされる期間である。等頻度使用条件とは、燃料電池システムにおける劣化パラメータの全ての変域に等頻度で出現する使用条件である。等頻度使用条件では、
図3に示すように、例えば、劣化パラメータの一つである電流(I)は、取り得る値の範囲のすべての変域に亘って、累積時間(t)が等しい。
【0021】
評価用データD2には、第1製品使用条件、第2製品使用条件、第3製品使用条件、及び第4製品使用条件の各データが含まれる。第1製品使用条件のデータは、第1製品使用条件で第1の期間(T1)に亘って実施された耐久試験の結果である。第1製品使用条件は、電流(I)は、例えば、
図4に示すように、比較的低い電流範囲において累積時間(t)が長く、比較的高い電流範囲において累積時間(t)が短い。ここでの比較的低い電流範囲は、電流(I)の取り得る値の範囲の全ての変域のうち、最大電流値の半分よりも低い電流範囲を意味し、比較的高い電流範囲は、電流(I)の取り得る値の範囲の全ての変域のうち、最大電流値の半分の値よりも高い電流範囲を意味する。
【0022】
第2~第4製品使用条件のデータは、第2~第4製品使用条件で第2の期間(T2)に亘ってそれぞれ実施された耐久試験の結果である。第2の期間(T2)は、第1の期間よりも短い。第2の期間(T2)は、例えば第1の期間の10分の1の期間である。第2製品使用条件では、電流(I)は、例えば
図5に示すように、比較的低い電流範囲において累積時間が短く、比較的高い電流範囲において累積時間(t)が長い。第3製品使用条件では、電流(I)は、例えば
図6に示すように、最大電流値の半分の値で最も累積頻度(t)が長い。第4製品使用条件では、電流(I)は、例えば
図7に示すように、最大電流値の半分値付近で累積時間(t)が比較的長い。第4製品使用条件の分布は、第1~第3使用条件と比較して、ブロードな分布を有する。
【0023】
上記したように、第1~第4製品使用条件は、劣化パラメータ(例えば、電流)が、その変域の少なくとも一部において非等頻度で出現する使用条件である。また、第1、第2、第3及び第4製品使用条件は、互いに異なる出現頻度の使用条件である。ここで、「等頻度使用条件」、「第1製品使用条件」、「第2製品使用条件」、「第3製品使用条件」は、本明細書が開示する技術における「第1の使用条件」、「第3の使用条件」、「第2の使用条件」、「第4使用条件」のそれぞれ一例である。
【0024】
図8を参照して、学習モデル19について説明する。第1演算装置18の学習モデル19は、推定したい製品使用条件、例えば第2製品使用条件が入力されると、第2製品使用条件の耐久性試験の結果の推定値を出力する。入力パラメータ(使用条件)には、電流値、温度、及び電圧変化速度、作動時間などが含まれる。ここで出力パラメータ(耐久試験の結果)は、例えば、燃料電池システムの電流が所定値のときの燃料電池システムの電圧値である。当該電圧値が高いほど、燃料電池システムの耐久性は高いと判断され、当該電圧値が低いほど、燃料電池システムの耐久性は低いと判断される。学習モデル19は、第1記憶装置14から読み込んだ学習用データD1の一部のデータを用いて、使用条件の入力を与えられたときに、その出力の推定値と実際に実施した耐久試験の結果との誤差が最小になるように最適化されてもよい。また、学習モデル19の汎化性能を確保するために、学習用データD1の一部のデータが検証用として第1演算装置18に確保されてもよい。この場合、その確保されたデータが過学習の回避に利用されてもよい。
【0025】
学習モデル19の出力パラメータは、特定の電流値のときの電圧値に限定されず、特定の温度/ガス供給量のときの電圧値といった特定の条件をあわせたときの電圧値であってよい。出力パラメータは、燃料電池システムの劣化度合を表す指標値であればよい。変形例では、出力パラメータが、例えば特定の条件で水素に圧力を負荷した場合に、ガスタンクからリークするガス量であってもよい。
【0026】
本実施形態では、学習モデル19として、ElasticNetを採用している。但し、学習モデル19は、特に限定されず、ElasticNetとは別の回帰(例えばRidge回帰、Lasso回帰等)、ニューラルネットワークといった他の機械学習モデルを採用してもよい。
【0027】
第2演算装置20は、第1演算装置18の学習モデル19によって推定された第2製品使用条件の耐久試験の結果と、第2記憶装置16に記憶された評価用データD2の第2製品使用条件のデータとを対比評価することができる。この場合、第2の期間(T2)までの推定された第2製品使用条件の耐久試験の結果と、第2の期間(T2)まで実際に実施された第2製品使用条件のデータとを比較し、第2演算装置20はこれら2値間の誤差を出力する。これにより、ユーザは、短期間のデータではあるが、推定システム10による耐久試験の結果の推定の妥当性(信頼度)を客観的に確認することができる。仮に、推定の妥当性が基準値よりも低い、即ち出力した誤差が、基準値よりも大きい場合には、第2の製品使用条件の実際の耐久試験の結果を機械学習させ、第1演算装置18に機械学習モデルを修正させてもよい。ここでの誤差は、平均二乗誤差(Mean Squared Error)又は平方根平均二乗誤差(RMSE)であってよい。また、推定システム10は、第2製品使用条件だけでなく、第1製品使用条件、第3製品使用条件、又は第4製品使用条件の耐久性の結果を推定する。この場合、同一の使用条件での第2の期間(T2)までの推定された耐久試験の結果と、第2の期間(T2)までの実際に実施された耐久性試験のデータとを比較して、対比評価する。このような対比評価を実施することにより、例えばユーザは、本システムによる推定の妥当性を、複数の使用条件について客観的に確認することができる。
【0028】
また、第2演算装置20は、第1演算装置18の学習モデル19によって第1製品使用条件の耐久試験の結果を推定する。従って、第2演算装置20は、第1演算装置18の学習モデル19によって推定された第1製品使用条件の耐久試験の結果と、第2記憶装置16に記憶された評価用データD2の第1製品使用条件のデータとを対比評価することができる。この場合、第1の期間(T1)までの推定された第1製品使用条件の耐久試験の結果と、第1の期間(T1)まで実際に実施された第1製品使用条件のデータとを比較し、第2演算装置20はこれら2値間の誤差を出力する。これにより、ユーザは、耐久試験に必要とされる期間についても、推定システム10による耐久試験の結果の推定の妥当性(信頼度)を客観的に確認することができる。
【0029】
本推定システム10は、本結果は期間こそ短いものの四つの使用条件による耐久試験の結果の推定の妥当性(信頼度)の確認が可能である。従って、ユーザは、これら四つの使用条件による誤差傾向から前述した第1製品使用条件の第1の期間(T1)、即ち耐久試験の全期間のデータによる推定の妥当性も確認することができる。
【0030】
ここで、
図11及び
図12を参照して、等頻度について説明する。本明細書における等頻度とは、「当該パラメータの分散がA/2以上2A以下である。ここでいうAは、当該パラメータが取り得る変域(作動保証範囲)で一様分布となる場合の分散(上限-下限)^2/12とする。」かつ「当該パラメータの値がデータ中に1つ以上のデータが存在する集合の頻度のジニ係数が0.5以下である」と定義される。前者はデータの変化の幅が一様分布と同程度のオーダーであることを表す。後者は、ジニ係数がとり得る値は0から1であり、ジニ係数が0.5以下であることは、データが特定の値に偏在していないことを表す。好ましくは、機械学習の結果の信頼性の観点から、製品を特定したときの使用条件が事前にわからないため、劣化パラメータが取り得る値の変域に亘って一様分布であるとよい。この場合、当該パラメータの分散はAであり、かつ、ジニ係数は0である。なお、分散についてはデータによりどのような値にもなり得るため、絶対値により範囲をさだめるのではなくオーダー(桁)として一様分布に近くなるようにさだめるべきである。即ち、比(対数で等間隔)で範囲を決めるのがよい。劣化パラメータは互いに独立に指定できない場合もある。例えば電流と電圧は他の条件を固定した場合、一方が決まれば他方はIV特性により決定され試験条件によりそれぞれを同時に任意の値に指定できない。特にIV特性が非線形な場合には同時に一様分布を実現することは不可能である。このような場合は区分された時間帯の中でそれぞれのパラメータの頻度分布が同程度になるような条件でデータを取得し、それらの連続体/集合体を学習用データD1として用いることができる。
【0031】
一般に、車両の新製品を市場で販売する前には、その車両に搭載される燃料電池システムの耐久試験を事前に実施する必要がある。しかしながら、燃料電池システムの寿命まで耐久試験を実施すると、膨大な時間を費やす必要がある。この課題を解決する手段の一つとして、機械学習を施した推定モデルを用いることによって、燃料電池システムの耐久性を推定することが考えられる。
【0032】
しかしながら、同一の燃料電池システムであっても、それが搭載される車両の種類や用途に応じて、燃料電池システムが経験する使用条件は様々に相違する。即ち、燃料電池システムには、様々な動作パラメータ(例えば、電流、電圧の変動変化速度、外気温度等)が存在するが、搭載される車両の種類や用途に応じて、各動作パラメータが取り得る値の範囲や出現頻度は相違する。そして、これらの動作パラメータは、燃料電池システムの劣化に影響を与える。従って、従来の思想では、燃料電池が経験する使用条件(例えば、搭載される車両の種類や用途)に応じて、機械学習を施した推定モデルを個別に用意することが必要とされている。
【0033】
上記した課題を鑑みて、本実施例における推定システム10では、等頻度使用条件において実際に実施された耐久試験の結果が、学習用データD1として記憶される。そして、学習用データD1を用いた機械学習を施すことにより、例えば第2製品使用条件における燃料電池システムの耐久性(詳しくは、耐久試験の結果)を推定する学習モデル19が作成される。等頻度使用条件では、燃料電池システムの劣化に影響を与える所定の劣化パラメータが、当該劣化パラメータの全ての変域に亘って等頻度で出現する。このような偏りのない耐久試験の結果を用いることで、様々な使用条件にも幅広く対応し得る汎用性の高い学習モデル19を用意することができる。これにより、第2製品使用条件の内容にかかわらず、即ち、燃料電池システムが経験する使用条件にかかわらず、燃料電池システムの耐久性を推定することができる。
【0034】
従って、耐久試験の結果の推定を所望する使用条件が、第2製品使用条件に代えて、例えば第1製品使用条件、第3製品使用条件、第4製品使用条件等の他の使用条件であっても、所望する使用条件での燃料電池システムの耐久性を推定することができる。
【0035】
次いで、
図11を参照して、推定システム10が実行する耐久性の推定処理(推定方法)の手順について説明する。ここでは、仮に、燃料電池システムの耐久性を推定したい使用条件は、第2製品使用条件とする。先ず、ステップS12において、推定システム10は、記憶工程を実行する。記憶工程では、推定システム10が、第1記憶装置14に等頻度使用条件の学習用データD1を記憶させる。次いで、ステップS14において、推定システム10は、機械学習工程を実行する。機械学習工程では、推定システム10が、第1演算装置18に、S12で第1記憶装置14に記憶させた学習用データD1を学習モデル19に機械学習させる。次いで、ステップS16において、推定システム10は推定工程を実行する。推定工程では、推定システム10が、第1演算装置18に、第2製品使用条件での耐久試験の結果を推定させる。具体的には、学習モデル19に第2製品使用条件を入力することにより、学習モデル19に、第2製品使用条件の耐久試験の結果の推定値を出力させる。以上のステップS12~S16から、第2製品使用条件の耐久性が推定される。
【0036】
本実施例の推定システム10では、第2記憶装置16には、第1~第4製品使用条件の4つの使用条件による耐久試験の結果が記憶されている。第2記憶装置16に記憶される耐久試験の結果は、四つの仕様条件に限定されず、二つ、三つ、又は五つ以上の使用条件による耐久試験の結果が記憶されていてもよい。好ましくは、耐久試験の結果は多いほど推定の妥当性を正しく検証することができる。また、実際に実施した耐久試験の結果の耐久試験の期間も第1の期間(T1)に近いほど推定の妥当性を正しく検証することができる。但し、耐久試験の期間は短い場合であっても、本技術は有効である。
【0037】
(実施例2)
図12を参照して、本実施例の推定システム100の構成について説明する。
図12に示すように、推定システム100は、記憶装置114と、演算装置118とを備える。実施例2の記憶装置114は、実施例1の第1記憶装置14及び第2記憶装置16が一体に構成された装置である。実施例2の演算装置118は、実施例1の第1演算装置18及び第2演算装置20が一体に構成された装置である。即ち、記憶装置114は、実施例1の第1記憶装置14及び第2記憶装置16と同等の機能を有しており、演算装置118は、実施例1の第1演算装置18及び第2演算装置20と同等の機能を有する。従って、実施例2の推定システム100は、実施例1の二つの記憶装置14、16と、二つの演算装置18、20とが、それぞれ一体の装置として構成される点を除き、実施例1の推定システム10と同様に構成される。これにより、本実施例の推定システム100の構成であっても、燃料電池システムが経験する使用条件にかかわらず、燃料電池システムの耐久性を推定することができる。
【0038】
以上、本明細書が開示する技術の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書、又は、図面に説明した技術要素は、単独で、あるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組合せに限定されるものではない。本明細書又は図面に例示した技術は、複数の目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0039】
10、100:推定システム
12:計測装置
14、16、114:記憶装置
18、20、118:演算装置
19:学習モデル
D1:学習用データ
D2:評価用データ