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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178726
(43)【公開日】2023-12-18
(54)【発明の名称】造形計画支援装置およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/04 20060101AFI20231211BHJP
   B23K 9/095 20060101ALI20231211BHJP
   B23K 9/127 20060101ALI20231211BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20231211BHJP
   B33Y 50/02 20150101ALI20231211BHJP
【FI】
B23K9/04 G
B23K9/04 Z
B23K9/095 505C
B23K9/127 508B
B33Y30/00
B33Y50/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022091575
(22)【出願日】2022-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】近口 諭史
(72)【発明者】
【氏名】黄 碩
(57)【要約】
【課題】複数の溶接ビードを積層する場合に、造形計画と実際の形状との乖離が生じにくい精緻な造形計画を作成する。
【解決手段】造形計画支援装置は、造形物の目標形状を複数のビードモデルに分割して、それぞれのビードモデルに沿って溶接ビードを形成する狙い位置を定めた複数のパスを取得するパス情報取得部31と、パスに沿って各層の溶接ビードを形成する際に、溶接ビードと、パスにより規定されたその溶接ビードに隣接する周囲の溶接ビードとの位置関係が満足される溶接条件を設定する溶接条件設定部33と、溶接条件に基づいて溶接ビードの輪郭を予測する輪郭予測部35と、造形物を構成する溶接ビードのうち、最下層以外の溶接ビードを形成するときの溶接ビードの狙い位置を、その溶接ビードの下層の溶接ビードの輪郭上に位置するようにパスと溶接条件の少なくとも一方を補正した制御情報を出力する制御情報出力部37と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マニピュレータに保持された溶加材を熱源装置によって溶融させて形成する溶接ビードが繰り返し積層されてなる造形物の造形において、前記造形物を構成する前記溶接ビードの造形条件を決定する造形計画支援装置であって、
前記造形物の目標形状を複数層に分割した各層を、前記溶接ビードに対応した形状の複数のビードモデルに分割して、それぞれのビードモデルに沿って前記溶接ビードを形成する狙い位置を定めた複数のパスを取得するパス情報取得部と、
前記パスに沿って前記各層の前記溶接ビードを形成する際に、前記溶接ビードと、前記パスにより規定された当該溶接ビードに隣接する周囲の溶接ビードとの位置関係が満足される溶接条件を設定する溶接条件設定部と、
前記溶接条件に基づいて前記溶接ビードの輪郭を予測する輪郭予測部と、
前記造形物を構成する前記溶接ビードのうち、最下層以外の前記溶接ビードを形成するときの前記溶接ビードの狙い位置を、当該溶接ビードの下層の溶接ビードの前記輪郭上に位置するように前記パスと前記溶接条件の少なくとも一方を補正した制御情報を出力する制御情報出力部と、
を備える造形計画支援装置。
【請求項2】
前記下層の溶接ビードに積層される上層の前記溶接ビードの積層方向に延びるビード延設線と、前記下層の溶接ビードの予測された前記輪郭との交点が前記上層の溶接ビードの前記狙い位置に設定されている、
請求項1に記載の造形計画支援装置。
【請求項3】
前記制御情報出力部は、前記パスを固定した条件下で前記下層の溶接ビードの輪郭が当該溶接ビードの上層の溶接ビードの前記狙い位置を含むように、前記下層の溶接ビードの溶接条件を設定する、
請求項1に記載の造形計画支援装置。
【請求項4】
前記溶接条件設定部は、前記溶接ビードの狙い位置が前記パスにより規定される狙い位置からの移動を許容する条件下で、前記溶接ビードの前記溶接条件を設定する、請求項1に記載の造形計画支援装置。
【請求項5】
前記溶接条件設定部は、前記下層の溶接ビードの輪郭に前記溶接ビードの狙い位置を含ませる前記溶接条件に設定できない場合に、前記パスにより規定される狙い位置同士の間隔とは異なる間隔となる位置に前記溶接ビードの狙い位置を設定してから、再び前記狙い位置を含むように前記下層の溶接ビードの溶接条件を設定する、
請求項4に記載の造形計画支援装置。
【請求項6】
前記パス情報取得部は、前記造形物の最上部の表面上に溶接ビードを形成する仮想パスを求め、
前記溶接条件設定部は、前記仮想パスの前記狙い位置が当該狙い位置の下層の溶接ビードの前記輪郭に含まれるように前記下層の溶接ビードの溶接条件を設定する、
請求項1から5のいずれか1項に記載の造形計画支援装置。
【請求項7】
前記仮想パスの前記狙い位置は、前記造形物の最終形状に対して余肉が付与された表面上に設定される、
請求項6に記載の造形計画支援装置。
【請求項8】
前記輪郭予測部は、
前記複数のビードモデルのうち、前記ビードモデル同士が上下に重なるビード積層部において、ビード形成時に生じる溶融金属の下層への垂れ落ち量を、前記溶接ビードの前記溶接条件に応じて予測する垂れ落ち量予測部と、
予測した前記垂れ落ち量に応じて前記ビード積層部における前記ビードモデルそれぞれのビード高さを補正するビード高さ補正部と、
補正された前記ビード高さを基に前記輪郭を出力する輪郭出力部とを含む、
請求項1に記載の造形計画支援装置。
【請求項9】
マニピュレータに保持された溶加材を熱源装置によって溶融させて形成する溶接ビードが繰り返し積層されてなる造形物の造形において、前記造形物を構成する前記溶接ビードの造形条件を決定する造形計画支援機能を実現させるためのプログラムであって、
コンピュータに、
前記造形物の目標形状を複数層に分割した各層を、前記溶接ビードに対応した形状の複数のビードモデルに分割して、それぞれのビードモデルに沿って前記溶接ビードを形成する狙い位置を定めた複数のパスを取得するパス情報取得機能と、
前記パスに沿って前記各層の前記溶接ビードを形成する際に、前記溶接ビードと、前記パスにより規定された当該溶接ビードに隣接する周囲の溶接ビードとの位置関係が満足される溶接条件を設定する溶接条件設定機能と、
前記溶接条件に基づいて前記溶接ビードの輪郭を予測する輪郭予測機能と、
前記造形物を構成する前記溶接ビードのうち、最下層以外の前記溶接ビードを形成するときの前記溶接ビードの狙い位置を、当該溶接ビードの下層の溶接ビードの前記輪郭上に位置するように前記パスと前記溶接条件の少なくとも一方を補正した制御情報を出力する制御情報出力機能と、
を実現させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造形計画支援装置およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、3Dプリンタを用いた積層造形による部品製造のニーズが高まっており、金属材料を用いた造形の実用化に向けて研究開発が進められている。例えば特許文献1には、金属の溶接ワイヤを溶融して形成される溶接ビードを積層して、三次元構造物を造形する三次元造形装置が開示されている。
このような溶接ビードの積層による造形では、下層の溶接ビードに積層する上層の溶接ビードを斜め方向に積み上げてオーバーハング形状を造形する場合など、主に重力方向への溶融金属の垂れによって上層の溶接ビードが目標高さに到達しないことがある。また、そのまま積層工程を繰り返すと、造形物全体として高さ方向に大きな誤差を生じるばかりか、三次元形状そのものが崩れてしまうことがある。
そこで、特許文献1の三次元造形装置では、下層の溶接ビードに上層の溶接ビードを斜め方向に積層する際に、積層方向(伸延方向)の中心線から適切な量を補正した位置に上層の溶接ビードを形成して、狙った傾斜角のオーバーハング形状を有する造形物を造形している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-160217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような造形物の製造においては、3次元のCADデータで表される造形物の形状を複数層にスライスして、層毎に設計した溶接ビードの狙い位置を表すビード形成パス(以下、「パス」という)、及び溶接条件を決定する造形計画を作成する。しかし、作成した造形計画に基づいて溶接ビードを形成していくと、実際に積層される造形物の形状が計画形状からずれていくことがある。そのような造形計画に基づく溶接ビードの形成時には、トーチを造形物等にぶつけたり、造形物とトーチの間隔が開きすぎてアークスタートのエラーを引き起こしたりするなど、造形の継続に支障をきたすおそれを生じる。特に、特許文献1に挙げるようなオーバーハング形状を有する造形物を製造する際は、溶接ビードの狙い位置の微調整が難しい。そのため、造形計画に基づいて設定される溶接ビードの狙い位置と、実際のビード形状とが不整合にならないよう、造形計画を精緻に行うことが望まれている。
【0005】
そこで本発明は、複数の溶接ビードを積層する場合に、造形計画と実際の形状との乖離が生じにくい精緻な造形計画を作成できる造形計画支援装置及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記の構成からなる。
(1) マニピュレータに保持された溶加材を熱源装置によって溶融させて形成する溶接ビードが繰り返し積層されてなる造形物の造形において、前記造形物を構成する前記溶接ビードの造形条件を決定する造形計画支援装置であって、
前記造形物の目標形状を複数層に分割した各層を、前記溶接ビードに対応した形状の複数のビードモデルに分割して、それぞれのビードモデルに沿って前記溶接ビードを形成する狙い位置を定めた複数のパスを取得するパス情報取得部と、
前記パスに沿って前記各層の前記溶接ビードを形成する際に、前記溶接ビードと、前記パスにより規定された当該溶接ビードに隣接する周囲の溶接ビードとの位置関係が満足される溶接条件を設定する溶接条件設定部と、
前記溶接条件に基づいて前記溶接ビードの輪郭を予測する輪郭予測部と、
前記造形物を構成する前記溶接ビードのうち、最下層以外の前記溶接ビードを形成するときの前記溶接ビードの狙い位置を、当該溶接ビードの下層の溶接ビードの前記輪郭上に位置するように前記パスと前記溶接条件の少なくとも一方を補正した制御情報を出力する制御情報出力部と、
を備える造形計画支援装置。
(2) マニピュレータに保持された溶加材を熱源装置によって溶融させて形成する溶接ビードが繰り返し積層されてなる造形物の造形において、前記造形物を構成する前記溶接ビードの造形条件を決定する造形計画支援機能を実現させるためのプログラムであって、
コンピュータに、
前記造形物の目標形状を複数層に分割した各層を、前記溶接ビードに対応した形状の複数のビードモデルに分割して、それぞれのビードモデルに沿って前記溶接ビードを形成する狙い位置を定めた複数のパスを取得するパス情報取得機能と、
前記パスに沿って前記各層の前記溶接ビードを形成する際に、前記溶接ビードと、前記パスにより規定された当該溶接ビードに隣接する周囲の溶接ビードとの位置関係が満足される溶接条件を設定する溶接条件設定機能と、
前記溶接条件に基づいて前記溶接ビードの輪郭を予測する輪郭予測機能と、
前記造形物を構成する前記溶接ビードのうち、最下層以外の前記溶接ビードを形成するときの前記溶接ビードの狙い位置を、当該溶接ビードの下層の溶接ビードの前記輪郭上に位置するように前記パスと前記溶接条件の少なくとも一方を補正した制御情報を出力する制御情報出力機能と、
を実現させるためのプログラム。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、複数の溶接ビードを積層する場合に、造形計画と実際の形状との乖離が生じにくい精緻な造形計画を作成できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、積層造形システムの全体構成を示す概略図である。
図2図2は、造形制御装置15の機能ブロック図である。
図3図3は、造形計画支援装置により造形計画を決定する手順を示すフローチャートである。
図4A図4Aは、積層体を造形する溶接ビードのパスを決定する手順の一例を、溶接ビードの長手方向に直交する断面で示す説明図である。
図4B図4Bは、積層体を造形する溶接ビードのパスを決定する手順の一例を、溶接ビードの長手方向に直交する断面で示す説明図である。
図4C図4Cは、積層体を造形する溶接ビードのパスを決定する手順の一例を、溶接ビードの長手方向に直交する断面で示す説明図である。
図5図5は、パスの狙い位置と下層の溶接ビードの輪郭との関係を示す説明図である。
図6図6は、隣接するビード間の重なりを考慮したモデルの一例を示す説明図である。
図7図7は、下層側へ溶接金属が垂れた形状を再現したモデルの一例を示す説明図である。
図8図8は、予測した輪郭と溶接ビードを形成する狙い位置との関係を示す説明図である。
図9図9は、図8に示す溶接ビードの狙い位置と予測した輪郭との関係を一部拡大して示す模式図である。
図10図10は、最終層の表面に仮想的な狙い位置を設けた場合の、予測した輪郭と溶接ビードを形成する狙い位置との関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。ここで示す積層造形システムは、マニピュレータに保持された溶加材(溶接ワイヤ)を熱源装置によって溶融させて溶接ビードを形成し、形成された溶接ビードを所望の形状に繰り返し積層して、溶接ビードが積層されてなる造形物を造形するものである。造形計画支援装置は、このような造形物を造形するための、溶接ビードの狙い位置となる形成パス、及び溶接条件等の造形条件を決定して造形計画を作成することを支援する。
【0010】
<積層造形システムの構成>
上記の造形計画支援装置により計画作成が支援された造形計画に基づき動作させる、積層造形システムの一構成例を説明する。
図1は、積層造形システムの全体構成を示す概略図である。
積層造形システム100は、造形制御装置15と、マニピュレータ17と、溶加材供給装置19と、マニピュレータ制御装置21と、熱源制御装置23とを含んで構成される。
【0011】
マニピュレータ制御装置21は、マニピュレータ17と、熱源制御装置23とを制御する。マニピュレータ制御装置21には不図示のコントローラが接続されて、マニピュレータ制御装置21の任意の操作がコントローラを介して操作者から指示可能となっている。
【0012】
マニピュレータ17は、例えば多関節ロボットであり、先端軸に設けたトーチ11には、溶加材Mが連続供給可能に支持される。トーチ11は、溶加材Mを先端から突出した状態に保持する。トーチ11の位置及び姿勢は、マニピュレータ17を構成するロボットアームの自由度の範囲で3次元的に任意に設定可能となっている。マニピュレータ17は、6軸以上の自由度を有するものが好ましく、先端の熱源の軸方向を任意に変化させられるものが好ましい。マニピュレータ17は、図1に示す4軸以上の多関節ロボットの他、2軸以上の直交軸に角度調整機構を備えたロボット等、種々の形態であってもよい。
【0013】
トーチ11は、不図示のシールドノズルを有し、シールドノズルからシールドガスが供給される。シールドガスは、大気を遮断し、溶接中の溶融金属の酸化、窒化などを防いで溶接不良を抑制する。本構成で用いるアーク溶接法としては、被覆アーク溶接又は炭酸ガスアーク溶接等の消耗電極式、TIG(Tungsten Inert Gas)溶接又はプラズマアーク溶接等の非消耗電極式のいずれであってもよく、造形対象に応じて適宜選定される。ここでは、ガスメタルアーク溶接を例に挙げて説明する。消耗電極式の場合、シールドノズルの内部にはコンタクトチップが配置され、電流が給電される溶加材Mがコンタクトチップに保持される。トーチ11は、溶加材Mを保持しつつ、シールドガス雰囲気で溶加材Mの先端からアークを発生する。
【0014】
溶加材供給装置19は、トーチ11に向けて溶加材Mを供給する。溶加材供給装置19は、溶加材Mが巻回されたリール19aと、リール19aから溶加材Mを繰り出す繰り出し機構19bとを備える。溶加材Mは、繰り出し機構19bによって必要に応じて正方向又は逆方向に送られながらトーチ11へ送給される。繰り出し機構19bは、溶加材供給装置19側に配置されて溶加材Mを押し出すプッシュ式に限らず、ロボットアーム等に配置されるプル式、又はプッシュ-プル式であってもよい。
【0015】
熱源制御装置23は、マニピュレータ17による溶接に要する電力を供給する溶接電源である。熱源制御装置23は、溶加材Mを溶融、凝固させるビード形成時に供給する溶接電流及び溶接電圧を調整する。また、熱源制御装置23が設定する溶接電流及び溶接電圧等の溶接条件に連動して、溶加材供給装置19の溶加材供給速度が調整される。
【0016】
溶加材Mを溶融させる熱源としては、上記したアークに限らない。例えば、アークとレーザーとを併用した加熱方式、プラズマを用いる加熱方式、電子ビーム又はレーザーを用いる加熱方式等、他の方式による熱源を採用してもよい。電子ビーム又はレーザーにより加熱する場合、加熱量を更に細かく制御でき、形成するビードの状態をより適正に維持して、積層構造物の更なる品質向上に寄与できる。また、溶加材Mの材質についても特に限定するものではなく、例えば、軟鋼、高張力鋼、アルミ、アルミ合金、ニッケル、ニッケル基合金など、造形物Wの特性に応じて、用いる溶加材Mの種類が異なっていてよい。
【0017】
造形制御装置15は、上記した各部を統括して制御する。
【0018】
上記した構成の積層造形システム100は、造形物Wの造形計画に基づいて作成された造形プログラムに従って動作する。造形プログラムは、多数の命令コードにより構成され、造形物の形状、材質、入熱量等の諸条件に応じて、適宜なアルゴリズムに基づいて作成される。この造形プログラムに従って、トーチ11を移動させつつ、送給される溶加材Mを溶融及び凝固させると、溶加材Mの溶融凝固体である線状の溶接ビードBがベース13上に形成される。つまり、マニピュレータ制御装置21は、造形制御装置15から提供される所定のプログラムに基づいてマニピュレータ17、熱源制御装置23を駆動させる。マニピュレータ17は、マニピュレータ制御装置21からの指令により、溶加材Mをアークで溶融させながらトーチ11を移動させて溶接ビードBを形成する。このようにして溶接ビードBを順次に形成、積層することで、目的とする形状の造形物Wが得られる。
【0019】
図2は、造形制御装置15の機能ブロック図である。造形制御装置15は、パス情報取得部31と、溶接条件設定部33と、輪郭予測部35と、制御情報出力部37と、を含んで構成され、造形計画支援装置として機能する。各部の詳細については後述するが、概略的な機能は次のとおりである。
【0020】
パス情報取得部31は、造形物の目標形状を複数層に分割した各層を、溶接ビードに対応した形状の複数のビードモデルに分割して、それぞれのビードモデルに沿って溶接ビードを形成する狙い位置を定めた複数のパスの情報を取得する。
【0021】
溶接条件設定部33は、取得されたパスに沿って各層の溶接ビードを形成する際に、その溶接ビードと、定められたパスにより規定されるその溶接ビードに隣接する周囲の溶接ビードとの位置関係を満足するように、溶接条件を設定する。つまり、定めたられたパスに適正な大きさの溶接ビードが形成されるように溶接条件を設定する。
【0022】
輪郭予測部35は、設定した溶接条件に基づいて、パスに沿って形成する溶接ビードの輪郭を、ビード形状を模したモデルを用いて予測する。
【0023】
制御情報出力部37は、溶接ビードを形成するときの狙い位置を、その溶接ビードの下層の溶接ビードの予測された輪郭に応じて、パスと溶接条件の少なくとも一方を補正した制御情報を出力する。この制御情報により造形計画を修正することで、より適正な造形計画を作成できる。
【0024】
上記の造形制御装置15は、例えば、PC(Personal Computer)などの情報処理装置を用いたハードウェアにより構成される。造形制御装置15の各機能は、不図示の制御部が不図示の記憶装置に記憶された特定の機能を有するプログラムを読み出し、これを実行することで実現される。記憶装置としては、揮発性の記憶領域であるRAM(Random Access Memory)、不揮発性の記憶領域であるROM(Read Only Memory)等のメモリ、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等のストレージを例示できる。また、制御部としては、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processor Unit)などのプロセッサ、又は専用回路等を例示できる。造形制御装置15は、上記した形態のほか、ネットワーク等を介して積層造形システム100から遠隔から接続される他のコンピュータであってもよい。
【0025】
<造形計画の支援手順>
図3は、造形計画支援装置により造形計画を決定する手順を示すフローチャートである。図4A図4B図4Cは、積層体を造形する溶接ビードのパスを決定する手順の一例を、溶接ビードの長手方向に直交する断面で示す説明図である。
まず、造形物の形状をCADデータ等の形状データから取得する。そして、図4Aに示すように、作製する造形物の目標形状Soを所定の溶接ビードのビード高さHに応じて複数の層L1,L2,L3,L4に分割する。分割層数、ビード高さは任意に設定でき、形状を分割する具体的な方法は特に限定されず、公知の手段を採用できる。
【0026】
分割した各層L1,L2,L3,L4を、図4Bに示すように、溶接ビードの断面形状に対応するように、複数の矩形ビードモデルBM0に分割する。これにより、それぞれの層L1,L2,L3,L4が複数の矩形ビードモデルBM0に分割される。この矩形ビードモデルBM0の分割時においては、各矩形ビードモデルBM0でビード長手方向の直交断面におけるビード断面積を一定にする等、条件を指定してもよい。
【0027】
分割された複数の矩形ビードモデルBM0を、図4Cに示すように、一例として示す単純な幾何図形である半円形状に当てはめる。ここでは、各矩形ビードモデルBM0を底辺41と円弧43を有する半円形状のビードモデルBMに変更する。ビードモデルBMの形状は任意であるが、予め溶接条件とビード形状の関係をデータベースとして管理している場合には、そのデータベースを参照して設定してもよい。
【0028】
そして、得られた半円形状の代表位置として、例えば底辺41の中点を溶接ビードの狙い位置Pに設定する。中点である狙い位置Pは、図4Cの奥行き方向に連続するビードモデルBMの長手方向に沿った点群となる線であり、この線が溶接ビードを形成するパスPSとなる。パスPSは、複数のビードモデルBMそれぞれに設定される。パスPSには、溶接ビードを形成する狙い位置の情報と、溶接ビードの計画高さ(ビード高さH)の情報が含まれる。なお、ビードモデルBMを造形形状の全体に当てはめてパスPSを求める以外にも、造形形状の一部を部分的に生成したパスPSを並列に複製して、造形形状全体のパスPSを求めることでもよい。
【0029】
図2に示すパス情報取得部31は、上記のように求めたパスPSの情報を取得する(S1)。パスPSは、パス情報取得部31が演算して求めてもよく、他のコンピュータ等により求めたものを読み込んでよい。
【0030】
次に、溶接条件設定部33は、狙い位置であるパスPSを基に溶接ビードの溶接条件を設定する(S2)。具体的には、パスPSの位置関係から溶接ビードの断面積(又は体積)を求める。
図5は、パスPSの狙い位置Pと下層の溶接ビードの輪郭との関係を示す説明図である。なお、図5には、下層の溶接ビードの狙い位置をP、その溶接ビードの輪郭45を破線で示している。積層される溶接ビードのうち、下層の溶接ビードのビード断面積が小さすぎると上層側の溶接ビードの狙い位置Pが下層の溶接ビードから浮いた位置となる(図5の左上)。また、下層の溶接ビードのビード断面積が大きすぎると上層の溶接ビードの狙い位置Pが下層の溶接ビード内に埋まった位置となる(図5の右上)。そのような位置関係となる造形計画では、造形の継続に支障をきたすため、下層の溶接ビードに積層する溶接ビードは、少なくとも下層の溶接ビードのビード表面(輪郭45)と、上層の溶接ビードの狙い位置Pとの間の距離が最小となるビード断面積に設定するのが望ましい。つまり、積層する溶接ビードの狙い位置を、下層の溶接ビードの輪郭45上に位置するように設定するとよい。
【0031】
溶接条件設定部33は、上記のように上層の溶接ビードのビード断面積(体積)を求め、このビード断面積を実現する溶接条件を設定する。溶接条件としては、例えば、溶接電流、溶接電圧、トーチの移動速度(運棒速度)、溶加材の送給速度等が挙げられる。溶接条件を設定するには、一例として、溶着断面積、ビード高さ、ビード幅等のパラメータと溶接条件とを関連づけて保存したデータベースから、求めたビード断面積に最も近い条件となる溶接条件を探索してもよい。また、上記したデータベースを基に近似式を作成して、その近似式に必要なビード断面積に対応するビード高さ、ビード幅の情報を与えて解くことで溶接条件を算出してもよい。
【0032】
例えば、ビード高さHは式(1)から求め、ビード幅LWは式(2)から求めてもよい。
H =C+C+C+C +C +C ・・・式(1)
LW=D+D+D+D +D +D ・・・式(2)
:トーチ移動速度
:溶加材送給速度
~C:係数
~D:係数
【0033】
なお、ビードモデルBMにより求めた狙い位置P同士の間隔が広すぎる又は狭すぎるために、上記した下層の溶接ビードの輪郭45に溶接ビードの狙い位置Pを含ませる溶接条件を特定できないことが生じ得る。その場合には、狙い位置Pの削除又は追加を行った後に、改めて溶接条件を探索してもよい。つまり、複数のパスPSにより規定される狙い位置P同士の間隔とは異なる間隔となる位置に、溶接ビードの狙い位置Pを設定し、再び下層の溶接ビードの輪郭45にその狙い位置Pが含まれる溶接条件を探索する。こうすることで、狙い位置Pを下層の溶接ビードの輪郭45に含ませることが可能な溶接条件を容易に特定できる。
【0034】
次に、輪郭予測部35が、ステップS1で取得した狙い位置と、ステップS2で探索した溶接条件を基に、溶接ビードの輪郭を更に正確に予測する(S3)。予測の手法としては、ビード形状を模したモデルの情報を予め用意しておき、そのモデル情報に狙い位置と溶接条件をパラメータとして与えることで、特定のモデル形状を設定し、これにより得られたモデル形状の輪郭を、予測される溶接ビードの輪郭として扱う。このときに使用されるモデルの形状としては、上記した半円形状に準じた形状のほか、隣接するビード間の重なりを考慮したモデル、下層側へ溶融金属が垂れた形状を再現したモデル等、溶接ビードを実際に積層した際に生じる現象を再現したものでもよい。
【0035】
図6は、隣接するビード間の重なりを考慮したモデルの一例を示す説明図である。図6は、溶接ビードの長手方向に直交する断面における3つのモデル形状を示している。各モデルは、基準となるパスP1のモデルBM1の断面形状が台形であり、モデルBM1にはパスPS2のモデルBM2が隣接して設けられ、モデルBM2にはパスPS3のモデルBM3が隣接して設けられている。モデルBM2,BM3は、図6の左側に配置されるモデルに一部をオーバーラップさせている。具体的には、モデルBM2,BM3は、基本的にモデルBM1と同じ台形形状であり、モデルBM1側とは反対側となる台形の底辺の一端を中心に、断面形状をそのままに維持して時計回りに所定角度を回転させて、台形の底辺を傾斜させている。そして、モデルBM2がモデルBM1と重なる部分はモデルBM1の領域とし、モデルBM1に含まれないモデルBM2の下方領域をモデルBM2の領域に含ませる。同様に、モデルBM3がモデルBM2と重なる部分はモデルBM2の領域とし、モデルBM2に含まれないモデルBM3の下方領域をモデルBM3の領域に含ませる。
【0036】
その結果、モデルBM2の形状は、モデルBM1の一方の斜辺に寄り添う多角形状(5角形)となり、モデルBM3の形状は、モデルBM2の一方の斜辺に寄り添う多角形状(5角形)となる。このように、各BM1,BM2,BM3は、実際の溶接ビードの断面形状に近似した形状となる。
【0037】
図7は、下層側へ溶接金属が垂れた形状を再現したモデルの一例を示す説明図である。図7も溶接ビードの長手方向に直交する断面におけるモデル形状を示している。
ベース13に積層された断面形状が台形のモデルBM1と、モデルBM1より上層のモデルBM2,BM3,・・・,BMn(nは整数)のうち、上層の台形ビードモデルBM2,BM3,・・・,BMnについては、底辺41の両端部に、下方へ延びる垂れ部47A,47Bを追加している。垂れ部47A,47Bは、それぞれ底辺41の端部を一辺とする三角形であり、前述した溶着ビードの溶接条件とパスに応じて、その形状と面積が設定される。垂れ部47Aと垂れ部47Bとは、互いに同じ形状でもよく、互いに異なる形状でもよい。また、垂れ部47A,47Bは、一対を設ける以外にも、台形のモデルBM1の底辺41のいずれか一方の端部のみに設けてもよい。
【0038】
垂れ部47A,47Bを設けたモデルBM2,BM3,・・・,BMnを、積層計画用のビードモデルに設定することで、溶接ビードのビード高さが、溶接ビードに生じる溶融金属の垂れ下がりによる影響を受けにくくなる。これにより、オーバーハング部などの溶接ビードの溶融金属が垂れやすい条件下でも、輪郭の予測形状と実際の形状とが整合されやすくなる。
【0039】
上記のようなモデルを用いて、溶接条件に応じたモデルサイズに設定したときのモデルの輪郭を予測する。
【0040】
例えば、図7に示す台形と垂れ部を有するモデルの場合を考えると、輪郭予測部35は、図2に示すように、垂れ落ち量予測部51、ビード高さ補正部53、輪郭出力部55を備え、各部によって輪郭を予測する。つまり、垂れ落ち量予測部51は、ビード形成時に溶加材が溶融して生じる溶融金属の下層への垂れ落ち量を、溶接ビードの溶接条件に応じて予測する。ビード高さ補正部53は、予測した垂れ落ち量に応じてビード積層部におけるビードモデルそれぞれのビード高さを補正する。輪郭出力部55は、補正されたビード高さを基に輪郭を出力する。垂れ落ち量の予測は、例えば種々の溶接条件と垂れ量との関係を表すデータベースを予め用意しておき、このデータベースから求めてもよい。
【0041】
次に、図2に示す制御情報出力部37は、上記の設定されたモデルから予想した輪郭を基にして、隣接する溶接ビードを形成する狙い位置を決定する(S4)。
図8は、予測した輪郭と溶接ビードを形成する狙い位置との関係を示す説明図である。なお、図8には、概略的な溶接ビードの積層目標形状57も示している。また、ここで示す輪郭は説明を簡単にするために略半円形状の曲線で示しているが、輪郭の形状は前述した台形、多角形等の他の形状でもよい。
【0042】
溶接ビードを積層する際の複数のパスに対する輪郭を予測した結果、図8の修正前の状態のように、パスPS2、パスPS3までの狙い位置P2,P3は、下層側のパスにおける輪郭45上に位置している。しかし、パスPS3の輪郭45はパスPS4の狙い位置と交差していない。このようなパスPS4が存在すると、その上に溶接ビードを積層するパスでは、実際に溶接ビードが形成される位置と、設定したパスPSのビード形成位置とにずれが生じる。そして、最上層のパスでは、各層のずれが累積して、大きなずれが生じることがある。
【0043】
そこで、図8の修正後の状態のように、パスPS3の輪郭45とその上層の狙い位置とが交差していない場合には、そのパスPS4の上層の狙い位置P4を下層のパスPS3の輪郭45上に変更する。つまり、パスPS4に対応する狙い位置P4の高さを、パス同士の間隔となる高さHからHaに変更する。
【0044】
上記した修正後の狙い位置Pは、例えば、下層の溶接ビードに積層される上層の溶接ビードの積層方向に延びるビード延設線Lsと、下層の溶接ビードの予測された輪郭45との交点を上層の溶接ビードの狙い位置に設定してもよい。その場合、オーバーハング部の形成に必要な傾斜角を正確に保持できる。また、上層ビードの溶着位置が一意に求められる。
【0045】
また、積層方向が傾斜する場合には、造形物の傾斜形状を正確に維持させるため、狙い位置Pを更に調整してもよい。
図9は、図8に示す溶接ビードの狙い位置と予測した輪郭との関係を一部拡大して示す模式図である。図9に示す場合には、狙い位置PiのパスPSiの上層となるパスPSi+1では、前述したモデルから求めた狙い位置Pi+1が設定される。この狙い位置Pi+1を、パスPSiの予測された輪郭45との交点に狙い位置Pai+1を修正する。このように、ビード延設線Lsが鉛直方向から傾斜角度θで傾斜して、予測した輪郭45が鉛直方向から偏る場合(θ>0)には、狙い位置Pai+1を、その偏り方向の逆方向(矢印S方向)に移動させた狙い位置Pbi+1に修正してもよい。つまり、狙い位置をビード延設線Lsと交差する位置から、そのパスPSi+1の輪郭45に沿って左側に移動させる。これによれば、溶接ビードを積層した造形物が、自重によって積層方向の傾斜角度θが増加する方向に倒れることを抑制できる。
【0046】
以上のS2~S4のステップを、各パス(全パス数:N)に対して繰り返すことで(S5,S6)、溶接条件と狙い位置とを順次に決定する。なお、輪郭の予測や溶接条件の設定が冗長となる場合は、すべてのパスでS2~S4の処理を実行する必要はなく、他のパスの溶接条件や狙い位置の修正量をそのまま適用してもよい。
【0047】
次に、制御情報出力部37は、N層目(最終層)の溶接条件を設定する(S7)。
図8に示す場合の最終層(パスPSN)に相当する溶接ビードの輪郭45は、その溶接ビードより上層の溶接ビードが存在しないため、前述した輪郭を狙い位置に交差させる条件を使用できない。そこで、最終層については、上層の仮想的な狙い位置を設けてもよい。
【0048】
図10は、最終層の表面に仮想的な狙い位置を設けた場合の、予測した輪郭と溶接ビードを形成する狙い位置との関係を示す説明図である。
図10の最終層となるパスPS5の溶接ビードは、狙い位置P5で形成される。このパスPS5では、本来、上層側の狙い位置が存在しないが、積層目標形状57の最上部の表面上で仮想パスPS6の狙い位置P6を仮想的に設定する。そして、この狙い位置P6がパスPS5の輪郭45上に含まれるように輪郭45を決定する。これにより、パスPS5についても他のパスと同様に溶接条件を設定できる。
【0049】
なお、仮想パスPS6に設定する狙い位置P6は、例えばビード延設線Lsが積層目標形状57の最上部の表面に達する点としてもよい。また、積層目標形状57は、必ずしも製品となる造形部の外縁形状ではなく、必要な余肉量を付加した形状でもよい。つまり、仮想パスの狙い位置を、造形物の最終形状に対して余肉が付与された表面上に設定することで、余肉も考慮して溶接条件を調整できる。
【0050】
また、上記した最終層の高さに適合する溶接条件が見つからない場合は、新たな狙い位置を追加して、適合する溶接条件を設定してもよい。
制御情報出力部37は、上記のように設定された狙い位置を、図1に示すトーチ11の運棒位置となるパスとして、溶接条件とともに制御情報として出力する。
【0051】
以上説明した本構成の造形計画支援装置によれば、造形物を構成する溶接ビードのうち、最下層以外の溶接ビードを形成するときの狙い位置を、その溶接ビードの下層の溶接ビードの輪郭上に位置するように、パスと溶接条件の少なくとも一方を補正した制御情報を出力する。その制御情報により造形計画を修正すれば、予測した溶接ビードの輪郭上に、その上層の溶接ビードの狙い位置が常に位置するように、溶接ビードの形成条件が最適化される。よって、上層の溶接ビードの狙い位置が、下層の溶接ビードの内部に埋まったり、下層の溶接ビードの上方で宙に浮いたりするような位置関係となって、造形が中断する事態を生じない造形計画を作成できる。
【0052】
また、設定されたパスを固定した条件下で、下層の溶接ビードの輪郭が上層の溶接ビードの狙い位置を含むように下層の溶接ビードの溶接条件を設定してもよい。その場合には、調整するパラメータの数が制限されるため、処理を高速化でき、造形計画の作成時間を短縮できる。
【0053】
一方、溶接ビードの狙い位置がパスにより規定される狙い位置からの移動を許容する条件下で、溶接ビードの溶接条件を設定してもよい。その場合には、溶接条件の調整幅を拡大でき、より柔軟に溶接条件を調整できる。
【0054】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせること、及び明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0055】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) マニピュレータに保持された溶加材を熱源装置によって溶融させて形成する溶接ビードが繰り返し積層されてなる造形物の造形において、前記造形物を構成する前記溶接ビードの造形条件を決定する造形計画支援装置であって、
前記造形物の目標形状を複数層に分割した各層を、前記溶接ビードに対応した形状の複数のビードモデルに分割して、それぞれのビードモデルに沿って前記溶接ビードを形成する狙い位置を定めた複数のパスを取得するパス情報取得部と、
前記パスに沿って前記各層の前記溶接ビードを形成する際に、前記溶接ビードと、前記パスにより規定された当該溶接ビードに隣接する周囲の溶接ビードとの位置関係が満足される溶接条件を設定する溶接条件設定部と、
前記溶接条件に基づいて前記溶接ビードの輪郭を予測する輪郭予測部と、
前記造形物を構成する前記溶接ビードのうち、最下層以外の前記溶接ビードを形成するときの前記溶接ビードの狙い位置を、当該溶接ビードの下層の溶接ビードの前記輪郭上に位置するように前記パスと前記溶接条件の少なくとも一方を補正した制御情報を出力する制御情報出力部と、
を備える造形計画支援装置。
この造形支援装置によれば、パス情報取得部が造形物の目標形状に対応するパスを取得し、溶接条件設定部が各パスの溶接ビードを形成する溶接条件を設定する。その溶接条件に基づいて輪郭予測部が溶接ビードの輪郭を予測して、制御情報出力部が、上層と下層の溶接ビードが適正な狙い位置で適正な大きさで形成されるパスと溶接条件の情報を制御情報として出力する。これにより、常に安定して正確な造形が行える造形計画を作成できる。
【0056】
(2) 前記下層の溶接ビードに積層される上層の前記溶接ビードの積層方向に延びるビード延設線と、前記下層の溶接ビードの予測された前記輪郭との交点が前記上層の溶接ビードの前記狙い位置に設定されている、(1)に記載の造形計画支援装置。
この造形支援装置によれば、造形物がオーバーハング部を有する場合に、このオーバーハング部の形成に必要な傾斜角を正確に保持できる。また、上層ビードの溶着位置が一意に求められる。
【0057】
(3) 前記制御情報出力部は、前記パスを固定した条件下で前記下層の溶接ビードの輪郭が当該溶接ビードの上層の溶接ビードの前記狙い位置を含むように、前記下層の溶接ビードの溶接条件を設定する、(1)又は(2)に記載の造形計画支援装置。
この造形支援装置によれば、調整するパラメータの数が制限されるため、補正処理を高速に行え、造形計画作成の処理時間を短縮できる。
【0058】
(4) 前記溶接条件設定部は、前記溶接ビードの狙い位置が前記パスにより規定される狙い位置からの移動を許容する条件下で、前記溶接ビードの前記溶接条件を設定する、(1)又は(2)に記載の造形計画支援装置。
この造形支援装置によれば、溶接条件の調整幅を拡大でき、より柔軟に溶接条件を調整できる。
【0059】
(5) 前記溶接条件設定部は、前記下層の溶接ビードの輪郭に前記溶接ビードの狙い位置を含ませる前記溶接条件に設定できない場合に、前記パスにより規定される狙い位置同士の間隔とは異なる間隔となる位置に前記溶接ビードの狙い位置を設定してから、再び前記狙い位置を含むように前記下層の溶接ビードの溶接条件を設定する、(4)に記載の造形計画支援装置。
この造形支援装置によれば、狙い位置をより確実に下層の溶接ビードの輪郭に含ませることができる。
【0060】
(6) 前記パス情報取得部は、前記造形物の最上部の表面上に溶接ビードを形成する仮想パスを求め、
前記溶接条件設定部は、前記仮想パスの前記狙い位置が当該狙い位置の下層の溶接ビードの前記輪郭に含まれるように前記下層の溶接ビードの溶接条件を設定する、(1)から(5)のいずれか1つに記載の造形計画支援装置。
この造形支援装置によれば、最上層の溶接ビードを下層の溶接ビードの場合と同様に、溶接条件を設定できる。
【0061】
(7) 前記仮想パスの前記狙い位置は、前記造形物の最終形状に対して余肉が付与された表面上に設定される、(6)に記載の造形計画支援装置。
この造形支援装置によれば、余肉を考慮した溶接条件を設定できる。
【0062】
(8) 前記輪郭予測部は、
前記複数のビードモデルのうち、前記ビードモデル同士が上下に重なるビード積層部において、ビード形成時に生じる溶融金属の下層への垂れ落ち量を、前記溶接ビードの前記溶接条件に応じて予測する垂れ落ち量予測部と、
予測した前記垂れ落ち量に応じて前記ビード積層部における前記ビードモデルそれぞれのビード高さを補正するビード高さ補正部と、
補正された前記ビード高さを基に前記輪郭を出力する輪郭出力部とを含む、(1)から(7)のいずれか1つに記載の造形計画支援装置。
この造形支援装置によれば、オーバーハング部などの溶接ビードの溶融金属が垂れやすい条件下でも、輪郭の予測形状と実際の形状とが整合されやすくなる。
【0063】
(9) マニピュレータに保持された溶加材を熱源装置によって溶融させて形成する溶接ビードが繰り返し積層されてなる造形物の造形において、前記造形物を構成する前記溶接ビードの造形条件を決定する造形計画支援機能を実現させるためのプログラムであって、
コンピュータに、
前記造形物の目標形状を複数層に分割した各層を、前記溶接ビードに対応した形状の複数のビードモデルに分割して、それぞれのビードモデルに沿って前記溶接ビードを形成する狙い位置を定めた複数のパスを取得するパス情報取得機能と、
前記パスに沿って前記各層の前記溶接ビードを形成する際に、前記溶接ビードと、前記パスにより規定された当該溶接ビードに隣接する周囲の溶接ビードとの位置関係が満足される溶接条件を設定する溶接条件設定機能と、
前記溶接条件に基づいて前記溶接ビードの輪郭を予測する輪郭予測機能と、
前記造形物を構成する前記溶接ビードのうち、最下層以外の前記溶接ビードを形成するときの前記溶接ビードの狙い位置を、当該溶接ビードの下層の溶接ビードの前記輪郭上に位置するように前記パスと前記溶接条件の少なくとも一方を補正した制御情報を出力する制御情報出力機能と、
を実現させるためのプログラム。
このプログラムによれば、造形物の目標形状に対応するパスを取得し、各パスの溶接ビードを形成する溶接条件を設定する。その溶接条件に基づいて溶接ビードの輪郭を予測して、上層と下層の溶接ビードが適正な狙い位置で適正な大きさで形成されるパスと溶接条件の情報を制御情報として出力する。これにより、常に安定して正確な造形が行える造形計画を作成できる。
【符号の説明】
【0064】
11 トーチ
13 ベース
15 造形制御装置
17 マニピュレータ
19 溶加材供給装置
19a リール
19b 繰り出し機構
21 マニピュレータ制御装置
23 熱源制御装置
31 パス情報取得部
33 溶接条件設定部
35 輪郭予測部
37 制御情報出力部
41 底辺
43 円弧
45 輪郭
47A,47B 垂れ部
51 垂れ落ち量予測部
53 ビード高さ補正部
55 輪郭出力部
57 積層目標形状
100 積層造形システム
So 目標形状
B 溶接ビード
BM ビードモデル
L1,L2,L3,L4 層
M 溶加材
PS1,PS2,PS3 パス
Ls ビード延設線
P、P 狙い位置
W 造形物
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7
図8
図9
図10