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特開2023-178737巻線界磁式回転電機及び巻線界磁式回転電機用のロータの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178737
(43)【公開日】2023-12-18
(54)【発明の名称】巻線界磁式回転電機及び巻線界磁式回転電機用のロータの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 3/44 20060101AFI20231211BHJP
   H02K 15/12 20060101ALI20231211BHJP
【FI】
H02K3/44 B
H02K15/12 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022091592
(22)【出願日】2022-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】安澤 光正
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敏友紀
(72)【発明者】
【氏名】塩月 康頌
【テーマコード(参考)】
5H604
5H615
【Fターム(参考)】
5H604AA05
5H604AA08
5H604BB01
5H604BB10
5H604BB14
5H604CC02
5H604CC05
5H604CC15
5H604CC16
5H604PB04
5H615AA01
5H615BB01
5H615BB07
5H615BB14
5H615BB16
5H615PP02
5H615PP12
5H615RR07
5H615SS44
(57)【要約】
【課題】巻線界磁式回転電機において、カバー部材の強固な固定構造を効率的に実現する。
【解決手段】ステータコア及びステータコイルを有するステータと、ステータと同軸かつ径方向に隙間を設けて配置されるロータとを備え、ロータは、シャフト部と、シャフト部に同軸で固定されるロータコアと、ロータコアのティース部に巻回される界磁巻線と、界磁巻線の軸方向端部を覆うカバー部材と、軸方向両側のカバー部材の間に、かつ、ロータコアまわりに、形成されるモールド樹脂部とを有し、モールド樹脂部は、軸方向両側の前記カバー部材のうちの少なくともいずれか一方に対して、軸まわりの周方向に視て重複する位置に、カバー部材に周方向両側が接合する周方向の接合部を有する、巻線界磁式回転電機が開示される。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータコア及びステータコイルを有するステータと、
前記ステータと同軸かつ径方向に隙間を設けて配置されるロータとを備え、
前記ロータは、
シャフト部と、
前記シャフト部に同軸で固定されるロータコアと、
前記ロータコアのティース部に巻回される界磁巻線と、
前記界磁巻線の軸方向端部を覆うカバー部材と、
軸方向両側の前記カバー部材の間に、かつ、前記ロータコアまわりに、形成されるモールド樹脂部とを有し、
前記モールド樹脂部は、軸方向両側の前記カバー部材のうちの少なくともいずれか一方に対して、軸まわりの周方向に視て重複する位置に、前記カバー部材に周方向両側が接合する周方向の接合部を有する、巻線界磁式回転電機。
【請求項2】
軸方向両側の前記カバー部材は、それぞれ、軸方向端面に軸方向の貫通孔を有し、
前記周方向の接合部は、前記貫通孔内に延在する、請求項1に記載の巻線界磁式回転電機。
【請求項3】
前記貫通孔は、前記モールド樹脂部を形成するための樹脂材を注入する際の注入孔を形成する、請求項2に記載の巻線界磁式回転電機。
【請求項4】
前記貫通孔は、軸方向に垂直な平面で切断した際の断面積が、軸方向外側で軸方向内側よりも大きい、請求項2又は3に記載の巻線界磁式回転電機。
【請求項5】
前記モールド樹脂部は、軸方向両側の前記カバー部材のそれぞれに対して、軸方向に視て互いに重複する位置に、前記カバー部材に軸方向内側が接合する軸方向の接合部を更に有する、請求項1から3のうちのいずれか1項に記載の巻線界磁式回転電機。
【請求項6】
ロータコアと、前記ロータコアのティース部に巻回される界磁巻線と、前記界磁巻線の軸方向端部を覆うカバー部材とを有するロータ用ワークを準備する工程と、
前記ロータ用ワークにおける軸方向両側の前記カバー部材の間に、かつ、前記ロータコアまわりに、樹脂材を注入する樹脂注入工程とを含み、
軸方向両側の前記カバー部材は、それぞれ、軸方向端面に軸方向の貫通孔であって、軸方向に垂直な平面で切断した際の断面積が、軸方向外側で軸方向内側よりも大きい軸方向の貫通孔を有し、
前記樹脂注入工程は、軸方向一方側の前記カバー部材の前記貫通孔から前記樹脂材を注入しつつ、軸方向両側の前記カバー部材のそれぞれの前記貫通孔内に前記樹脂材を至らせることを含む、巻線界磁式回転電機用のロータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、巻線界磁式回転電機、及び巻線界磁式回転電機用のロータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
巻線界磁式回転電機において、界磁巻線の軸方向端部を覆うカバー部材(保持カラー)を、軸方向内側の留め部まで、力をかけて嵌め合わせることで、ロータコアに固定的に支持させる技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2019-536411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来技術では、カバー部材の固定構造が不十分となり、ロータ回転中等に発生しうる各種入力に起因して、カバー部材が他のロータ要素(例えば、ロータコアやシャフト部)に対して軸方向外側に移動してしまう可能性や、カバー部材が他のロータ要素に対して回転してしまう可能性がある。
【0005】
そこで、1つの側面では、本開示は、巻線界磁式回転電機において、カバー部材の強固な固定構造を効率的に実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの側面では、ステータコア及びステータコイルを有するステータと、
前記ステータと同軸かつ径方向に隙間を設けて配置されるロータとを備え、
前記ロータは、
シャフト部と、
前記シャフト部に同軸で固定されるロータコアと、
前記ロータコアのティース部に巻回される界磁巻線と、
前記界磁巻線の軸方向端部を覆うカバー部材と、
軸方向両側の前記カバー部材の間に、かつ、前記ロータコアまわりに、形成されるモールド樹脂部とを有し、
前記モールド樹脂部は、軸方向両側の前記カバー部材のうちの少なくともいずれか一方に対して、軸まわりの周方向に視て重複する位置に、前記カバー部材に周方向両側が接合する周方向の接合部を有する、巻線界磁式回転電機が提供される。
【発明の効果】
【0007】
1つの側面では、本開示によれば、巻線界磁式回転電機において、カバー部材の強固な固定構造を効率的に実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施例による回転電機用の駆動装置を含む車両駆動システムを示す構成図である。
図2】回転電機の断面の一部を示す概略的な断面図である。
図3】回転電機のロータの斜視図である。
図4】軸方向に垂直な面で切断した際のロータの断面図である。
図5】軸方向に視たロータの平面図である。
図6図5のラインA-Aに沿った断面図である。
図7図6のQ1部の拡大図である。
図8】モールド樹脂部によるカバー部材に対する廻り止め機能の説明図である。
図9】モールド樹脂部によるカバー部材に対する移動規制機能(軸方向外側への移動を規制する機能)の説明図である。
図10】本実施例のロータの製造方法の流れを概略的に示すフローチャートである。
図11図10に示す製造方法における樹脂注入工程の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら各実施例について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率はあくまでも一例であり、これに限定されるものではなく、また、図面内の形状等は、説明の都合上、部分的に誇張している場合がある。
【0010】
図1は、本実施例による回転電機用の駆動装置5を含む車両駆動システム1を示す構成図である。図2は、回転電機3の断面の一部を示す概略的な断面図である。
【0011】
車両駆動システム1は、低圧バッテリ2Aと高圧バッテリ2Bを含む2電源構成であり、回転電機3と、駆動装置5とを含む。
【0012】
低圧バッテリ2Aは、例えば鉛バッテリであり、定格電圧が例えば12Vである。
【0013】
高圧バッテリ2Bは、例えばリチウムイオンバッテリであり、低圧バッテリ2Aより定格電圧が有意に高く、例えば定格電圧が40V以上である。本実施例では、一例として、高圧バッテリ2Bの定格電圧は、300V以上であるとする。なお、高圧バッテリ2Bは、燃料電池等の形態であってもよい。
【0014】
回転電機3は、巻線界磁型であり、ロータ310と、ステータ320とを含む。ロータ310は、ステータ320の径方向内側に、ステータ320と同軸かつ径方向に隙間を設けて配置される。ロータ310は、ロータコア312と、ロータ巻線316とを有する。ロータコア312は、シャフト部(図示せず)に同軸で固定される。なお、ロータコア312は、図2に示すように、径方向外側に突出するティース部3122を有し、ティース部3122に、ロータ巻線316を形成する導体線が巻回される。また、ステータ巻線322は、図2に示すように、ステータコア321のティース部3210まわりに巻装される。ロータ310の更なる詳細は、後述する。
【0015】
駆動装置5は、マイクロコンピュータ50(以下、「マイコン50」と称する)と、電気回路部60とを含む。
【0016】
マイコン50は、例えばECU(Electronic Control Unit)として実現されてよい。マイコン50は、CAN(controller area network)のようなネットワーク6を介して、車両内の各種の電子部品(他のECUやセンサ)に接続される。
【0017】
マイコン50は、ネットワーク6を介して、上位ECU(図示せず)からの制御指令等の各種指令を受信する。マイコン50は、制御指令に基づいて、電気回路部60を介して回転電機3を制御する。マイコン50は、低圧バッテリ2Aからの電力に基づいて、動作する。
【0018】
電気回路部60は、平滑コンデンサ62と、電力変換回路部63と、給電回路部64とを含む。
【0019】
平滑コンデンサ62は、高圧バッテリ2Bの高電位側ライン20と低電位側ライン22の間に設けられる。平滑コンデンサ62の両端には、パッシブ放電用の抵抗R0が接続されてよい。
【0020】
電力変換回路部63は、インバータの形態であり、例えば3相のブリッジ回路を形成する。電力変換回路部63は、高電位側ライン20と低電位側ライン22の間に、平滑コンデンサ62に対して並列となる態様で、接続される。電力変換回路部63は、高電位側のアームの各スイッチング素子SW3と低電位側のアームの各スイッチング素子SW4を備える。マイコン50は、駆動回路部52を介して各スイッチング素子SW3、SW4を制御する。
【0021】
給電回路部64は、ブリッジ回路部641と、駆動回路部642とを含む。
【0022】
ブリッジ回路部641は、高電位側ライン20と低電位側ライン22の間に、平滑コンデンサ62及びパッシブ放電用の抵抗R0に対して並列となる態様で、接続される。ブリッジ回路部641は、対のスイッチング素子SW1、SW2と、対のダイオードD1、D2を含む。
【0023】
スイッチング素子SW1は、ダイオードD1の高電位側のカソードに接続される態様で、ダイオードD1に直列に接続される。スイッチング素子SW1とダイオードD1の間には、ロータ巻線316の一端が接続される。また、スイッチング素子SW2は、ダイオードD2の低電位側のアノードに接続される態様で、ダイオードD2に直列に接続される。スイッチング素子SW2とダイオードD2の間には、ロータ巻線316の他端が接続される。以下、対のスイッチング素子SW1、SW2のうちの、スイッチング素子SW1及びそれに関連する構成には、区別のために、「高電位側」を付す場合があり、スイッチング素子SW2及びそれに関連する構成には、「低電位側」を付す場合がある。
【0024】
対のスイッチング素子SW1、SW2は、駆動回路部642を介して、オン/オフ状態が切り替えられる。対のスイッチング素子SW1、SW2は、駆動回路部642による制御下で、ロータ巻線316に対する通電状態を変化させる。スイッチング素子SW1、SW2は、例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)であるが、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field-Effect Transistor)等のような他の形態であってもよい。
【0025】
駆動回路部642は、マイコン50からの制御信号に基づいて、高電位側のスイッチング素子SW1のゲートを駆動するとともに、マイコン50からの制御信号に基づいて、低電位側のスイッチング素子SW2のゲートを駆動する。
【0026】
次に、図3以降を参照して、本実施例の回転電機3におけるロータ310の特徴的な構成を説明する。
【0027】
図3は、回転電機3のロータ310の斜視図である。図4は、軸方向に垂直な面で切断した際のロータ310の断面図である。図5は、軸方向に視たロータ310の平面図であり、図6は、図5のラインA-Aに沿った断面図である。図7は、図6のQ1部の拡大図である。なお、図3では、後述する径方向カバー319及びモールド樹脂部317の図示が省略されている。また、図5では、後述するモールド樹脂部317の図示が省略されている。
【0028】
以下の説明において、軸方向とは、ロータ310の回転軸Iが延在する方向を指し、径方向とは、回転軸Iを中心とした径方向を指す。従って、径方向外側とは、回転軸Iから離れる側を指し、径方向内側とは、回転軸Iに向かう側を指す。また、軸方向外側とは、ステータ320の軸方向の中心から離れる側を指し、軸方向内側とは、ステータ320の軸方向の中心に近づく側を指す。また、周方向とは、回転軸Iまわりの回転方向に対応する。
【0029】
ロータ310は、ステータ320(図2参照)の径方向内側に、ステータ320と同軸かつ径方向に隙間を設けて配置される。ロータ310は、ロータコア312と、エンドプレート313と、シャフト部314と、ロータ巻線316と、モールド樹脂部317と、カバー部材318と、径方向カバー319と、を有する。
【0030】
ロータコア312は、シャフト部314に同軸で固定される。ロータコア312は、例えば電磁鋼板を積層して形成されてよい。ロータコア312は、図4に示すように、径方向外側に突出するティース部3122を有し、ティース部3122に、ロータ巻線316を形成する導体線が巻回される。この場合、周方向でティース部3122間に形成されるスロット3123(図3及び図4参照)内には、ロータ巻線316を形成する導体線が延在する。
【0031】
エンドプレート313は、図6に示すように、ロータコア312の軸方向端面を覆う態様で設けられる。なお、以下の説明において、ロータコア312の軸方向端面とは、エンドプレート313の軸方向外側の表面と実質的に同義であってよい。
【0032】
ロータ巻線316は、スロット収容部3161と、軸方向端部3162とを含む。
【0033】
スロット収容部3161は、スロット3123内に延在する。軸方向端部3162は、ロータコア312の軸方向端面から軸方向に突出する。なお、ロータ巻線316の軸方向端部3162は、図6に示すように、径方向内側よりも径方向外側の方が軸方向外側に突出する形態であってもよい。
【0034】
本実施例では、ロータ巻線316は、モールド樹脂部317により覆われる。すなわち、ロータ巻線316は、絶縁性を有する樹脂材により封止される。具体的には、スロット収容部3161は、スロット3123内に延在するモールド樹脂部317に接合し、軸方向端部3162は、カバー部材とステータコア321との間に延在するモールド樹脂部317に接合する。
【0035】
モールド樹脂部317は、樹脂材(絶縁材料)により形成される。モールド樹脂部317は、上述したように、ロータ巻線316を封止する。モールド樹脂部317は、ロータ巻線316を固定するとともに、ロータ巻線316に係る電気的絶縁性を高める機能を有する。
【0036】
モールド樹脂部317は、スロット樹脂部3171と、コイルエンド樹脂部3172とを含む。なお、スロット樹脂部3171及びコイルエンド樹脂部3172は、連続的な一体物である。
【0037】
スロット樹脂部3171は、ロータコア312のスロット3123内に延在する。スロット樹脂部3171は、径方向外側は径方向カバー319に接合し、かつ、ロータ巻線316のスロット収容部3161に接合するとともに、スロット収容部3161まわりでロータコア312(スロット3123を形成する表面)に接合する。すなわち、スロット樹脂部3171は、径方向外側が径方向カバー319により覆われたロータコア312のスロット3123内に充填(注入)して形成される。
【0038】
コイルエンド樹脂部3172は、ロータコア312の軸方向端面よりも軸方向外側に延在し、カバー部材318及びロータ巻線316の軸方向端部3162等に接合する。また、コイルエンド樹脂部3172は、シャフト部314に径方向内側で接合する。コイルエンド樹脂部3172は、シャフト部314まわりで全周にわたって設けられる。コイルエンド樹脂部3172は、軸方向外側及び周方向外側がカバー部材318により覆われたロータコア312の軸方向端面よりも外側の空間内に充填(注入)して形成される。
【0039】
本実施例では、後述するようにモールド樹脂部317は、射出成形により形成される。従って、スロット樹脂部3171及びコイルエンド樹脂部3172は、上述したように一体物である。モールド樹脂部317は、上述したように、スロット樹脂部3171がロータコア312のスロット3123内に延在する。従って、モールド樹脂部317は、ロータコア312に対して回転不能となる態様で、ロータコア312に対して強固に支持される。また、モールド樹脂部317は、上述したように、軸方向両側のコイルエンド樹脂部3172が、軸方向に視て、ロータコア312に重複する。従って、モールド樹脂部317は、ロータコア312に対して軸方向に移動不能となる態様で、ロータコア312に強固に支持される。このようにして、本実施例では、モールド樹脂部317は、ロータコア312に対して強固に、回転不能かつ軸方向に移動不能に支持される。
【0040】
カバー部材318は、モールド樹脂部317より熱伝導性の高い材料により形成され、好ましくは、アルミ等のような熱伝導性の高い材料により形成される。この場合、カバー部材318を介してロータ巻線316の軸方向端部3162の熱を外部に放出しやすくすることができる。カバー部材318は、モールド樹脂部317を介してロータ巻線316の軸方向端部3162を覆う。すなわち、モールド樹脂部317は、カバー部材318とロータ巻線316の間に延在する。カバー部材318は、好ましくは、図6等に示すように、ロータコア312と略同様の外径を有し、軸方向に視て、ロータコア312全体を覆う。
【0041】
本実施例では、カバー部材318の軸方向外側でシャフト部314に圧入される圧入リング(図示せず)又はその類のストッパ部材やナットなどの締結部材が、設けられることはない。すなわち、カバー部材318は、シャフト部314に対して圧入リング(図示せず)等を介して強固に軸方向外側に移動不能に支持(固定)されることはない。ここで、「強固に」とは、カバー部材318を軸方向外側に移動させる方向の力(モールド樹脂部317からカバー部材318を離脱させる方向)の力のうちの、設計上求められる上限の力に対しても、固定状態が維持される態様を表す。なお、例えば、圧入リングを利用する場合、カバー部材318は、シャフト部314に対して圧入リング(図示せず)を介して強固に軸方向外側に移動不能に支持(固定)できる。すなわち、圧入リングは、カバー部材318の軸方向外側でシャフト部314に強固に圧入されることで、シャフト部314に対するカバー部材318の軸方向の移動(特に軸方向外側の移動)を防止できる。
【0042】
また、本実施例では、カバー部材318とシャフト部314との間に、キー溝により結合部やスプライン結合部(図示せず)又はその類の廻り止め部(機械的な廻り止め部)が、設けられることはない。すなわち、カバー部材318は、シャフト部314に対して直接的且つ強固に回転不能に支持(固定)されることはない。同様に、「強固に」とは、シャフト部314に対してカバー部材318を回転させる方向の力のうちの、設計上求められる上限の力(又はトルク)に対しても、固定状態が維持される態様を表す。なお、キー溝により結合部やスプライン結合部を利用する場合、カバー部材318は、シャフト部314に対して強固に回転不能に支持できる。
【0043】
なお、本実施例において、カバー部材318とシャフト部314との間の径方向のクリアランスは、実質的に0であってよい。例えば、カバー部材318は、径方向内側においては、シャフト部314に対して圧入等により固定されてもよい。また、カバー部材318は、径方向外側においては、エンドプレート313に対して径方向外側からの圧入等により固定されてもよい。なお、これらの圧入の場合、カバー部材318は、シャフト部314に対して、ある程度、回転不能となるものの、必要な固定力(廻り止めのための固定力)を確保することは難しい。例えば、カバー部材318がシャフト部314やエンドプレート313よりも線膨張係数が大きい場合、高温時に、カバー部材318とエンドプレート313との間の固定力(廻り止めのための固定力)が比較的小さくなりやすい。
【0044】
このようにして、本実施例によれば、カバー部材318は、シャフト部314に対して圧入リング又はその類やナット等の締結部材を介して軸方向外側に移動不能に強固に支持(固定)されることもなければ、シャフト部314に対して直接的且つ強固に、回転不能に強固に支持(固定)されることもない。これにより、圧入リング等を不要とすることで部品の低減を図るともに、キー溝やスプラインの加工コスト等を低減できる。
【0045】
次に、図3から図7を引き続き参照しつつ、図8及び図9を参照して、カバー部材318の固定構造について詳説する。図8は、モールド樹脂部317によるカバー部材318に対する廻り止め機能の説明図であり、軸方向に視たロータ310の一部を示す平面図である。図9は、モールド樹脂部317によるカバー部材318に対する移動規制機能(軸方向外側への移動を規制する機能)の説明図であり、図7と同様の拡大図である。以下では、特に言及しない限り、カバー部材318とは、軸方向両側のカバー部材318のうちの、任意の一方を表す。なお、軸方向両側のカバー部材318は、基本的に、軸方向に垂直な面に関して、対称な構成を有してよい。ただし、変形例では、以下の説明は、軸方向両側のカバー部材318のうちの一方側だけに適用され、他方のカバー部材は、異なる構成を有してもよい。
【0046】
本実施例では、カバー部材318は、モールド樹脂部317を介して、ロータコア312に対して強固に、回転不能且つ軸方向外側に移動不能に支持される。
【0047】
具体的には、本実施例では、モールド樹脂部317は、カバー部材318に対して、周方向に視て重複する位置に、周方向の接合部3174(以下、「周方向接合部3174」と称する)を有する。周方向接合部3174は、カバー部材318に、周方向両側(周方向接合部3174の周方向両側)が接合する。モールド樹脂部317は、上述したように、ステータコア321に対して強固に、回転不能に支持される。従って、カバー部材318は、モールド樹脂部317の周方向接合部3174を介して、ステータコア321に対して強固に、回転不能に支持される。このようにして、本実施例では、モールド樹脂部317の周方向接合部3174を備えることで、キー溝やスプライン等を利用せずに、カバー部材318に対する廻り止め機能を実現できる。
【0048】
より具体的には、本実施例では、カバー部材318は、軸方向端面に軸方向の貫通孔3182を有し、貫通孔3182内に、モールド樹脂部317の周方向接合部3174が延在する。この場合、カバー部材318がモールド樹脂部317(及びそれに伴いステータコア321)に対して相対回転しようとすると、周方向接合部3174を介して反力(当該相対回転を阻止する方向の反力)が発生し、当該相対回転が防止される。すなわち、モールド樹脂部317は、周方向接合部3174を介して、ステータコア321に対して強固に、カバー部材318を回転不能に支持できる。
【0049】
また、本実施例では、図8に示すように、例えばカバー部材318がモールド樹脂部317に対して矢印R81の方向に回転しようとしたとき、カバー部材318が周方向接合部3174により反力F81を受けることで、当該回転が規制される。また、カバー部材318がモールド樹脂部317に対して矢印R82の方向に回転しようとしたとき、カバー部材318が周方向接合部3174により反力F82を受けることで、当該回転が規制される。このようにして、本実施例では、周方向接合部3174の周方向両側がカバー部材318に接合するので、カバー部材318の回転方向がいずれであっても、廻り止め機能が実現される。
【0050】
なお、周方向接合部3174は、周方向に分散して複数設けられてもよい。この場合、周方向接合部3174の1つあたりに受け持つべき反力(相対回転を阻止する方向の反力)を低減でき、周方向接合部3174における応力集中等を効果的に低減できる。
【0051】
本実施例では、周方向接合部3174(及び貫通孔3182)は、軸方向に視て、ティース部3122に重複する態様で、ティース部3122ごとに設けられる。従って、例えば、図4に示す例では、周方向接合部3174(及び貫通孔3182)は、4つ設けられる。ただし、周方向接合部3174(及び貫通孔3182)の数や配置は、これに限られず、多様な態様で設定可能である。
【0052】
ここで、カバー部材318の貫通孔3182は、後述するように、モールド樹脂部317を形成するための樹脂材を注入する際の注入孔を形成してよい。これにより、注入孔とは別の貫通孔を形成する場合に生じうる不都合(例えば、射出成形の際に当該別の貫通孔から樹脂材の漏れが生じうる不都合)を防止できる。なお、この場合、周方向接合部3174(及び貫通孔3182)の数や配置は、射出成形に係る製造性を高める観点から適合されてもよい。
【0053】
また、本実施例では、モールド樹脂部317は、カバー部材318に対して、軸方向に視て重複する位置に、軸方向の接合部3176(以下、「軸方向接合部3176」と称する)を有する。軸方向接合部3176は、カバー部材318に軸方向内側(軸方向接合部3176の軸方向内側)が接合する。モールド樹脂部317は、上述したように、ステータコア321に対して強固に、軸方向外側に移動不能に支持される。従って、カバー部材318は、モールド樹脂部317の軸方向接合部3176を介して、ステータコア321に対して強固に、軸方向外側に移動不能に支持される。本実施例では、軸方向接合部3176は、軸方向に垂直な平面で切断した際の断面積が、軸方向外側で軸方向内側よりも拡大する。この場合、軸方向に視て、軸方向接合部3176のうちの、軸方向内側の部分は、カバー部材318に重複することで、軸方向外側への移動(カバー部材318に対する移動)が係止される。
【0054】
具体的には、カバー部材318がモールド樹脂部317に対して軸方向外側(矢印R90)に移動しようとしたとき、カバー部材318が軸方向接合部3176により反力F90を受けることで、当該移動が規制される。なお、この際、軸方向接合部3176におけるカバー部材318に接合する側(すなわち軸方向内側)が、反力F90をカバー部材318に与える際の作用面(接触面)となる。
【0055】
本実施例では、周方向接合部3174は、軸方向接合部3176を兼ねる態様で形成される。具体的には、貫通孔3182は、軸方向に垂直な平面で切断した際の断面積が、軸方向外側で軸方向内側よりも拡大する。すなわち、貫通孔3182は、座ぐり形状の形態であり、軸方向外側の大径孔31821と、軸方向内側の小径孔31822とを含む。これにより、貫通孔3182内に延在する(貫通孔3182内に充填される)周方向接合部3174も、軸方向に垂直な平面で切断した際の断面積が、軸方向外側で軸方向内側よりも拡大する。すなわち、周方向接合部3174は、軸方向外側の大径部31741と、軸方向内側の小径部31742とを含む。このようにして、本実施例では、周方向接合部3174は、カバー部材318が、ロータコア312に対する2種類の自由度(回転方向及び軸方向の移動)を同時に規制できる。
【0056】
なお、貫通孔3182(及びそれに伴い軸方向接合部3176)の断面積の変化態様であって、軸方向の各位置での断面図の変化態様は、線形的あってもよいし、非線形的であってもよい。例えば、貫通孔3182(及びそれに伴い軸方向接合部3176)の断面積の変化は、図7に示すような段差により非線形的に実現されてもよいが、傾斜面又はこれらの組み合わせにより実現されてもよい。
【0057】
次に、図10を参照して、本実施例のロータ310の製造方法について説明する。
【0058】
図10は、本実施例のロータ310の製造方法の流れを概略的に示すフローチャートである。図11は、図10に示す製造方法における樹脂注入工程の説明図である。以下で説明する本製造方法は、ここでの参照により、その開示内容が本願に組み込まれる国際特許公開第2021/065613号に開示されるような各種装置を実質的に同様の態様で利用して実現されてよい。
【0059】
本製造方法は、まず、モールド樹脂部317を形成する前の状態のロータ用ワークを準備する準備工程(ステップS81)を含む。モールド樹脂部317を形成する前の状態のロータ用ワークは、例えば、完成品のロータ310に対して、実質的にモールド樹脂部317を備えていないだけの相違を有してもよい。
【0060】
ついで、本製造方法は、治具(図示せず)に、ステップS81で準備したロータ用ワークをセット(配置)する工程(ステップS82)を含む。治具は、任意であるが、例えば、上記の国際特許公開第2021/065613号に開示されるような治具であってよい。
【0061】
ついで、本製造方法は、予熱用加熱装置(図示せず)を用いて、ステップS82で治具にセットしたロータ用ワークを予熱する工程(ステップS83)を含む。予熱用加熱装置は、任意であるが、上記の特許公開第2021/065613号に開示されるような予熱用加熱装置であってよい。この場合、予熱用加熱装置は、治具にセットしたロータ用ワークを、第1温度T1(例えば50℃)以上第2温度T2(例えば120℃)未満で加熱することにより予熱してよい。なお、第1温度T1とは、後述する樹脂材の溶融する温度(溶融が開始される温度)である。また、第2温度T2とは、樹脂材が硬化(熱硬化)する温度(硬化(熱硬化)が開始される温度)であるとともに第1温度T1よりも大きい温度である。
【0062】
ついで、本製造方法は、樹脂注入装置(図示せず)を用いて、ステップS83で予熱したロータ用ワーク内に樹脂材を注入する樹脂注入工程(ステップS84)を含む。「ロータ用ワーク内」とは、ロータ用ワークにおける軸方向両側のカバー部材318の間に形成される実質的に閉じた空間(例えば、貫通孔3182以外では閉じた空間)を指す。なお、ロータ用ワーク内は、径方向外側では、上述した径方向カバー319により閉塞される。
【0063】
樹脂注入工程において、樹脂注入装置(射出ユニット)は、上述した各貫通孔3182が樹脂材の注入孔となるように、ロータ用ワークの各貫通孔3182に対して樹脂注入部(図示せず)が位置付けられる。樹脂注入装置は、各貫通孔3182を介してロータ用ワーク内に第1温度T1以上で溶融した樹脂材を注入する。なお、樹脂注入装置の詳細構造は、任意であるが、上記の特許公開第2021/065613号に開示されるような詳細構造であってよい。
【0064】
注入する樹脂材は、モールド樹脂部317を形成するための材料である。図10に示す例では、注入する樹脂材は、第1温度T1において溶融するとともに、第1温度T1よりも高い第2温度T2において硬化してよい。樹脂材は、例えば、特開2000-239642号公報に記載されているような樹脂材(合成樹脂材)が用いられてよい。この場合、樹脂材は、ウレトジオン環を100eq/T以上有する第1化合物を10%以上100%以下と、分子末端に活性水素基を有する第2化合物を0%以上90%以下と、グリシジル基を有する第3化合物を0%以上90%以下とを含有し、かつ、第1~第3化合物のいずれにも分子末端にイソシアネート基を含まないことを特徴とする反応性ホットメルト接着剤組成物を含む。特開2000-239642号公報に記載されている樹脂材は、常温では固形状(フレーク状、ペレット状、または、粉状など)であり、加熱されて、樹脂材の温度が第1温度T1に到達することにより融解(軟化)する。また、この樹脂材は、第1温度T1に保持されている状態では、硬化することはない。そして、この樹脂材は、第1温度T1よりも高い第2温度T2に到達することにより硬化する。
【0065】
本実施例では、樹脂注入工程は、図11に模式的に示すように、軸方向一方側のカバー部材318の貫通孔3182から樹脂材を注入しつつ(矢印R111)、軸方向両側のカバー部材318のそれぞれの貫通孔3182内に樹脂材を至らせることを含む。この際、軸方向一方側のカバー部材318の貫通孔3182に位置付けられる樹脂注入部や、軸方向他方側のカバー部材318の貫通孔3182に位置付けられる樹脂排出部は、貫通孔3182全体に樹脂材が充填されるように配置されてよい。すなわち、樹脂注入部や樹脂排出部は、上述した周方向接合部3174が形成されるように配置されてよい。なお、樹脂排出部は、治具又は金型の一部であってよい。また、樹脂排出部は、軸方向他方側のカバー部材318の貫通孔3182から一定量の樹脂材を排出するように構成されてもよいし、軸方向他方側のカバー部材318の貫通孔3182から樹脂材が漏れ出ないように(すなわち樹脂材を堰き止めるように)構成されてもよい。
【0066】
ついで、本製造方法は、樹脂注入装置(図示せず)の樹脂注入部(図示せず)を軸方向外側に移動させて、退避させる工程(ステップS85)を含む。
【0067】
ついで、本製造方法は、硬化用加熱装置(図示せず)を利用して、ステップS84でロータ用ワーク内に注入した樹脂材を熱硬化させる熱硬化工程(ステップS86)を含む。熱硬化工程は、樹脂材が硬化する第2温度T2以上で加熱することを含む。硬化用加熱装置は、任意であり、予熱用加熱装置とは別の装置であってもよい。
【0068】
このような製造方法によれば、上述した貫通孔3182を利用して、モールド樹脂部317を形成するための樹脂材を、ロータ用ワーク内へと効率的に注入できる。
【0069】
以上、各実施例について詳述したが、特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。また、前述した実施例の構成要素を全部又は複数を組み合わせることも可能である。
【0070】
例えば、上述した実施例では、周方向接合部3174は、軸方向接合部3176を兼ねる態様で形成されるが、別々に形成されてもよい。例えば、貫通孔3182は、軸方向の各位置で同じ断面積(すなわち一定の断面積)を有してよく、貫通孔3182内の接合部は、周方向接合部3174だけを形成してよい。この場合、軸方向接合部3176は、例えばカバー部材318の外周壁の内側に径方向内側の突起部を形成することで、形成されてもよい。
【符号の説明】
【0071】
3・・・回転電機(巻線界磁式回転電機)、320・・・ステータ、321・・・ステータコア、322・・・ステータ巻線(ステータコイル)、310・・・ロータ、312・・・ロータコア、3122・・・ティース部、314・・・シャフト部、316・・・ロータ巻線(界磁巻線)、317・・・モールド樹脂部、3174・・・周方向接合部(周方向の接合部)、3176・・・軸方向接合部(軸方向の接合部)、318・・・カバー部材、3182・・・貫通孔
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
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図10
図11