(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178762
(43)【公開日】2023-12-18
(54)【発明の名称】三相用コモンモードチョークコイル
(51)【国際特許分類】
H01F 37/00 20060101AFI20231211BHJP
H01F 5/02 20060101ALI20231211BHJP
【FI】
H01F37/00 N
H01F37/00 A
H01F37/00 E
H01F37/00 C
H01F5/02 J
H01F5/02 H
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022091645
(22)【出願日】2022-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】514172895
【氏名又は名称】CKS株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】507215367
【氏名又は名称】TMP株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】弁理士法人インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120189
【弁理士】
【氏名又は名称】奥 和幸
(74)【代理人】
【識別番号】100173510
【弁理士】
【氏名又は名称】美川 公司
(72)【発明者】
【氏名】佐竹 右幾
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 勉
(57)【要約】
【課題】従来よりも更なる高出力化及びノイズの高減衰化が可能な三相用コモンモードチョークコイルを提供する。
【解決手段】コイルが巻回される巻線軸1と、共通軸2と、巻線軸1の端部と共通軸2の端部とを接続する天面3と、をそれぞれに備えたコアC1等であって、各巻線軸1の天面3に接続された端部と反対の端部同士、及び、各共通軸2の天面3に接続された端部と反対の端部同士がそれぞれ突合するように、三個ずつが対向して配置される六個の同形状のコアC1等と、ボビンと、突合された各巻線軸1にボビンを介してそれぞれ巻回される三個のコイルと、を備え、各コイルに電流が流されたとき、各巻線軸1内、各天面3内及び各共通軸2内を通る一の連続した閉ループとして磁束Mが発生し、当該閉ループをなす磁束Mにより、三相用コモンモードチョークコイルとして備えるべきコモンモードインダクタンス及びノーマルモードインダクタンスを発生させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性のボビンを介してコイルが巻回され且つ柱状の第1軸と、
前記第1軸と平行で且つ柱状の第2軸と、
前記第1軸の端部と、当該端部に対応した前記第2軸の端部と、を接続する板状の接続部であって、前記コイルに流れる電流により発生する磁束を前記第1軸及び前記第2軸に通すための接続部と、
をそれぞれに備えたコアであって、各前記第1軸の前記接続部に接続された前記端部と反対の端部同士、及び、各前記第2軸の前記接続部に接続された前記端部と反対の端部同士がそれぞれ突合するように、三個ずつが対向して配置される六個の同形状のコアと、
前記第1軸が内側に通され且つ前記コイルが外側に巻回される前記ボビンと、
突合された各前記第1軸に前記ボビンを介してそれぞれ巻回される三個の前記コイルと、
を備え、
各前記コイルに前記電流がそれぞれ流されたとき、各前記第1軸内、各前記接続部内及び各前記第2軸内を通る一の連続した閉ループとして前記磁束が発生し、
当該閉ループをなす前記磁束により、三相用コモンモードチョークコイルとして備えるべきコモンモードインダクタンス及びノーマルモードインダクタンスを発生させることを特徴とする三相用コモンモードチョークコイル。
【請求項2】
請求項1に記載の三相用コモンモードチョークコイルにおいて、
一の前記コアに備えられた少なくとも前記第1軸及び前記第2軸の、前記磁束の方向に垂直な断面の面積が同一であることを特徴とする三相用コモンモードチョークコイル。
【請求項3】
請求項2に記載の三相用コモンモードチョークコイルにおいて、
一の前記コアに備えられた前記接続部の前記断面の面積が、当該一のコアに備えられた前記第1軸及び前記第2軸の前記断面の面積と同一であることを特徴とする三相用コモンモードチョークコイル。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の三相用コモンモードチョークコイルにおいて、
各前記第2軸が、
当該第2軸が備えられた前記コアに備えられた前記第1軸より細い円柱部と、
当該円柱部から当該コアの中心側に延びた板状部と、
からなることを特徴とする三相用コモンモードチョークコイル。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の三相用コモンモードチョークコイルにおいて、
各前記第1軸をそれぞれ通すと共に当該第1軸が備えられた前記コアの位置を各前記コアごとに決定する三個の第1軸孔であって、当該各第1軸がそれぞれ通される三個の前記ボビンにそれぞれ接続された第1軸孔と、
各前記第2軸をそれぞれ通すと共に当該第2軸が備えられた前記コアの位置を各前記コアごとに決定する三個の第2軸孔と、
を備える枠体を更に備え、
各前記第1軸孔及び各前記第2軸孔並びに各前記ボビンが一体成型されて当該枠体が形成されていることを特徴とする三相用コモンモードチョークコイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三相用コモンモードチョークコイルの技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
電子部品としてのチョークコイルは様々な装置に広く用いられている。このようなチョークコイルの例としては、例えば下記特許文献1及び特許文献2に記載されたものがある。
【0003】
このとき、下記特許文献1に開示されているチョークコイルは、第1脚部、第2脚部及び第3脚部並びにこれら3本の脚部の両端をそれぞれ連結する連結部を備えた第1磁気コアと、第1磁気コアの連結部同士を接続する第2磁気コアと、U相巻線、V相巻線及びW相巻線と、を備えている。そして、第1脚部には、一方の端部から他方の端部に向かって順に第1U相巻線、第1V相巻線及び第1W相巻線が巻かれており、第2脚部には、一方の端部から他方の端部に向かって順に第2W相巻線、第2U相巻線及び第2V相巻線が巻かれており、第3脚部には、一方の端部から他方の端部に向かって順に第3V相巻線、第3W相巻線及び第3U相巻線が巻かれている。
【0004】
一方、下記特許文献2に開示されているチョークコイルは、トロイダルコイル型3相コモンモードチョークコイルであって、トロイダルコアをX形中央仕切板及び仕切台のある4個の巻回区画に分割した絶縁ケースとし、対向する2個の巻回区画に1個の巻線を中途で中央仕切板の中心の溝を渡して巻き回す構成とされている。また、他方の対向する巻回区画の一方に1個の巻線が巻き回されている。更に、巻回区画の残り1個には巻回内仕切を設けて1個の巻回を巻線内仕切から巻き始め、中途で巻線内仕切を越えて戻し、巻線内仕切に向かって巻き回すことで、トロイダルコイル型3相コモンモードチョークコイルとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2020/144795公報
【特許文献2】実開平4-96830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、昨今の電子部品に対する高出力化及びノイズの高減衰化等の要請を鑑みると、上記特許文献1及び特許文献2に開示されている各チョークコイルからの更なる高出力化及びノイズの高減衰化が望まれる。
【0007】
また、例えば産業用の電源供給システムの入力段に用いられるフィルタ用のチョークコイルに関しては、いわゆる三相用で且つ大電流に用いられるチョークコイルにおけるノイズの高減衰化の要請が特に強い。
【0008】
そこで本発明は、上記の各要請に鑑みて為されたもので、その課題の一例は、従来よりも更なる高出力化及びノイズの高減衰化が可能な三相用コモンモードチョークコイルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、絶縁性のボビンを介してコイルが巻回され且つ柱状の第1軸と、前記第1軸と平行で且つ柱状の第2軸と、前記第1軸の端部と、当該端部に対応した前記第2軸の端部と、を接続する板状の接続部であって、前記コイルに流れる電流により発生する磁束を前記第1軸及び前記第2軸に通すための接続部と、をそれぞれに備えたコアであって、各前記第1軸の前記接続部に接続された前記端部と反対の端部同士、及び、各前記第2軸の前記接続部に接続された前記端部と反対の端部同士がそれぞれ突合するように、三個ずつが対向して配置される六個の同形状のコアと、前記第1軸が内側に通され且つ前記コイルが外側に巻回される前記ボビンと、突合された各前記第1軸に前記ボビンを介してそれぞれ巻回される三個の前記コイルと、を備え、各前記コイルに前記電流がそれぞれ流されたとき、各前記第1軸内、各前記接続部内及び各前記第2軸内を通る一の連続した閉ループとして前記磁束が発生し、当該閉ループをなす前記磁束により、三相用コモンモードチョークコイルとして備えるべきコモンモードインダクタンス及びノーマルモードインダクタンスを発生させるように構成される。
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、第1軸、第2軸及び接続部をそれぞれに備えると共に第1軸同士及び第2軸同士がそれぞれ突合するように対向して配置される六個の同形状のコアと、ボビンと、三個のコイルと、を備え、各コイルに電流がそれぞれ流されたとき、各第1軸内、各接続部内及び各第2軸内を連続して通る一の閉ループとして磁束が発生し、当該閉ループをなす磁束により、三相用コモンモードチョークコイルとしてのコモンモードインダクタンス及びノーマルモードインダクタンスが発生する。よって、ノーマルモードインダクタンスとコモンモードインダクタンスの双方を発生させることが可能な大容量向けの三相用コモンモードチョークコイルを、従来の三相用コモンモードチョークコイルよりも大型化することなく実現でき、例えば三相用ノイズフィルタとしての高出力化及びノイズの高減衰化が可能となる。
【0011】
上記の課題を解決するために、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の三相用コモンモードチョークコイルにおいて、一の前記コアに備えられた少なくとも前記第1軸及び前記第2軸の、前記磁束の方向に垂直な断面の面積が同一であるように構成される。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の作用に加えて、一のコアに備えられた少なくとも第1軸及び第2軸の磁束の方向に垂直な断面の面積が同一であるので、必要なノーマルモードインダクタンスを確実に発生させることができる。
【0013】
上記の課題を解決するために、請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の三相用コモンモードチョークコイルにおいて、一の前記コアに備えられた前記接続部の前記断面の面積が、当該一のコアに備えられた前記第1軸及び前記第2軸の前記断面の面積と同一であるように構成される。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、請求項2に記載の発明の作用に加えて、一のコアに備えられた接続部の断面の面積が、当該一のコアに備えられた第1軸及び第2軸の断面の面積と同一であるので、必要なノーマルモードインダクタンスを更に確実に発生させることができる。
【0015】
上記の課題を解決するために、請求項4に記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の三相用コモンモードチョークコイルにおいて、各前記第2軸が、当該第2軸が備えられた前記コアに備えられた前記第1軸より細い円柱部と、当該円柱部から当該コアの中心側に延びた板状部と、からなるように構成される。
【0016】
請求項4に記載の発明によれば、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の発明の作用に加えて、各第2軸が、当該第2軸が備えられたコアに備えられた第1軸より細い円柱部と、当該円柱部から当該コアの中心側に延びた板状部と、からなるので、各モードのインダクタンスを発生させることができる三相用チョークコイルを小型化することができる。
【0017】
上記の課題を解決するために、請求項5に記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれかに記載の三相用コモンモードチョークコイルにおいて、各前記第1軸をそれぞれ通すと共に当該第1軸が備えられた前記コアの位置を各前記コアごとに決定する三個の第1軸孔であって、当該各第1軸がそれぞれ通される三個の前記ボビンにそれぞれ接続された第1軸孔と、各前記第2軸をそれぞれ通すと共に当該第2軸が備えられた前記コアの位置を各前記コアごとに決定する三個の第2軸孔と、を備える枠体を更に備え、各前記第1軸孔及び各前記第2軸孔並びに各前記ボビンが一体成型されて当該枠体が形成されている。
【0018】
請求項5に記載の発明によれば、請求項1から請求項4のいずれかに記載の発明の作用に加えて、各第1軸がそれぞれ通され且つ対応するボビンに接続された三個の第1軸孔と、各第2軸がそれぞれ通される三個の第2軸孔と、各ボビンと、が一体成型されてなる枠体を更に備えるので、各モードのインダクタンスを発生させることができる三相用チョークコイルを簡易に組み立てることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、第1軸、第2軸及び接続部をそれぞれに備えると共に第1軸同士及び第2軸同士がそれぞれ突合するように対向して配置される六個の同形状のコアと、ボビンと、三個のコイルと、を備え、各コイルに電流がそれぞれ流されたとき、各第1軸内、各接続部内及び各第2軸内を連続して通る一の閉ループとして磁束が発生し、当該閉ループをなす磁束により、三相用コモンモードチョークコイルとしてのコモンモードインダクタンス及びノーマルモードインダクタンスが発生する。
【0020】
従って、ノーマルモードインダクタンスとコモンモードインダクタンスの双方を発生させることが可能な大容量向けの三相用コモンモードチョークコイルを、従来の三相用コモンモードチョークコイルよりも大型化することなく実現でき、例えば三相用ノイズフィルタとしての高出力化及びノイズの高減衰化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施形態の三相用コモンモードチョークコイルに用いられている各コアの構造を示す外観斜視図である。
【
図2】実施形態の三相用コモンモードチョークコイルの組立時における六個のコアの位置関係を示す外観斜視図である。
【
図3】実施形態のコア一個分の構造を示す図であり、(a)は当該構造を示す平面図であり、(b)は当該構造を示す正面図であり、(c)は当該構造を示す左側面図であり、(d)は当該構造を示す右側面図であり、(e)は当該構造を示す底面図であり、(f)は当該構造を示す外観斜視図である。
【
図4】実施形態の三相用コモンモードチョークコイル全体の構造(各コア及び各コイルのみ)を示す外観斜視図である。
【
図5】実施形態の三相用コモンモードチョークコイル全体の構造を示す組み立て図である。
【
図6】実施形態の三相用コモンモードチョークコイル全体の組立後の構造を示す外観斜視図である。
【
図7】実施形態の三相用コモンモードチョークコイル等の等価回路を示す図であり、(a)は従来の三相用コモンモードチョークコイルの等価回路であり、(b)は実施形態の三相用コモンモードチョークコイルの等価回路である。
【
図8】実施形態の三相用コモンモードチョークコイルとしての効果を示す図であり、(a)は当該効果としての直流駆動電流とノーマルモード成分との関係を示すグラフ図であり、(b)は当該効果としての駆動周波数とインピーダンス及びインダクタンスとの関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。なお以下に説明する実施形態は、例えば産業用電源供給システムの入力段に用いられる三相用コモンモードチョークコイルに対して本発明を適用した場合の実施形態である。
【0023】
初めに、本発明の実施形態の三相用コモンモードチョークコイルに用いられるコアの構造等について、
図1乃至
図3を用いて説明する。なお、
図1は実施形態の三相用コモンモードチョークコイルに用いられている各コアの構造を示す外観斜視図であり、
図2は当該三相用コモンモードチョークコイルの組立時における六個のコアの位置関係を示す外観斜視図であり、
図3は当該コア一個分の構造を示す図である。
【0024】
実施形態の三相用コモンモードチョークコイル(以下、単に「コモンモードチョークコイル」と称する)CKでは、
図1及び
図2にそれぞれの外観が示される三個のコアC1乃至コアC3と、同様に外観が示される三個のコアC11乃至コアC13と、が、それぞれに備えられた巻線軸1の端面同士及び共通軸2の端面同士がそれぞれ対向して突合するように、例えば左右に組み合わされて用いられる(
図2白矢印参照)。このとき、コアC1乃至コアC3及びコアC11乃至コアC13は、相互に同形状とされており、それぞれ、巻線軸1、共通軸2及び天面3を備えている。なお以下の説明において、実施形態のコアC1乃至コアC3及びコアC11乃至コアC13に共通の事項を説明する場合、これらを纏めて単に「コアC1等」と称する。
【0025】
ここで、コアC1等のそれぞれを形成する材料は、当該コアC1等が用いられるコモンモードチョークコイルCKの発振周波数(換言すれば、必要とされるコアC1等の透磁率)及び製造コスト等に基づいて決定され、より具体的に例えば、フェライト材料等が用いられる。
【0026】
図1及び
図2に外観斜視図を示し、更に
図3に平面図等を示すように、実施形態のコアC1等は、コモンモードチョークコイルCKが収められるべき例えば図示しない基板上の空間に合せて外縁の形状が成型されている平板状の天面3と、それぞれが柱状の巻線軸1及び共通軸2と、が一体成形されて形成されている。そして
図1及び
図2に示すように、上記コアC1等の対応する軸同士(即ち、例えば、
図1に示すコアC1の巻線軸1の端面と同じくコアC13の巻線軸1の端面同士、及び同じくコアC1の共通軸2の端面とコアC11の共通軸2の端面同士)が対向して突合するように、コアC1乃至コアC3とコアC11乃至コアC13とがそれぞれ例えば左右に組み合わされて(
図2白矢印参照)、コモンモードチョークコイルCKに用いられる。
【0027】
なお、上述の構成において、巻線軸1が本発明の「第1軸」の一例に相当し、共通軸2が本発明の「第2軸」の一例に相当し、天面3が本発明の「接続部」の一例に相当する。
【0028】
一方、実施形態のコアC1乃至コアC13それぞれの巻線軸1には、後述する実施形態のボビンを介して、コモンモードチョークコイルCKとして必要な三個の後述する実施形態のコイルが、それぞれ一個ずつ巻回される。そして、実施形態のコアC1乃至コアC13では、
図1に破線で示すように、上記コイルに電流が流れることによりコモンモードチョークコイルCK内に発生する磁束Mが、各コアC1等を通じて連続するように当該コアC1乃至コアC13が組み合わされる。すなわち、当該磁束Mが、
図1に破線で示すように、コアC1の巻線軸1内→コアC1の天面3内→コアC1の共通軸2内→コアC11の共通軸2内→コアC11の天面3内→コアC11の巻線軸1内→コアC2の巻線軸1内→コアC2の天面3内→コアC2の共通軸2内→コアC12の共通軸2内→コアC12の天面3内→コアC12の巻線軸1内→コアC3の巻線軸1内→コアC3の天面3内→コアC3の共通軸2内→コアC13の共通軸2内→コアC13の天面3内→コアC13の巻線軸1→コアC1の巻線軸1内、のように連続して形成されるように、相互に同形状のコアC1乃至コアC3及びコアC11乃至コアC13が、対向する共通軸2同士及び対向する巻線軸1同士が突合して組み合わされる(
図1及び
図2参照)。この結果、磁束Mとしては、コアC1内→コアC11内→コアC2内→コアC12内→コアC3内→コアC13内→コアC11内を順に通る、いわゆる閉ループを構成する。そして、当該閉ループを構成してコアC1内等に磁束Mが形成されることにより、結果として、コモンモードチョークコイルCKとしてのコモンモードインダクタンスが発生する。
【0029】
一方、コモンモードチョークコイルCKでは、コアC1乃至コアC3及びコアC11乃至コアC13それぞれの中を通る磁束Mの全長(総延長)が、コモンモードチョークコイルCKとして有すべきノーマルモードインダクタンスに対応している。なお以下の説明では、当該磁束Mの全長(総延長)を、単に「磁路長」と称する。
【0030】
ここで、コモンモードチョークコイルCKにおける上記ノーマルモードインダクタンスの大きさは、一のコアC1等の少なくとも巻線軸1及び共通軸2それぞれにおける磁束Mの方向に垂直な断面積と、後述する実施形態のコイルW1乃至コイルW3それぞれの巻き数と、上記磁路長(換言すれば、コアC1等が上記突合して組み合わされた状態における各巻線軸1及び各共通軸2それぞれの中心軸間の距離)によって決定される。そこでコモンモードチョークコイルCKでは、所望される大きさの当該ノーマルモードインダクタンスを発生させるべく、コアC1等それぞれの大きさ及び形状が、必要な長さの上記磁路長が得られるような大きさ及び形状とされている。これに加えてコモンモードチョークコイルCKでは、同様に必要な大きさのノーマルモードインダクタンスを発生させるべく、コアC1等それぞれの大きさ及び形状が、上記磁束Mの方向に垂直な断面積が少なくとも当該巻線軸1及び共通軸2について必要な大きさで全て同一となるような大きさ及び形状とされている。このとき、一のコアC1等の天面3における磁束Mの方向に垂直な断面積は、当該巻線軸1及び共通軸2の当該断面積と同一であってもよいし、これより小さくてもよい。
【0031】
次に、一の共通軸2の形状の詳細について説明する。すなわち、
図1乃至
図3(特に
図3(a)及び
図3(f)参照)に示すように、当該共通軸2は、当該共通軸2が備えられたコアC1等の巻線軸1より細い円柱部21と、当該円柱部21から当該コアC1等の中心側に延びた板状部22と、により構成されている。そして、当該円柱部21と当該板状部22とを合せた磁束Mの方向に垂直な断面積が、上述したように当該コアC1等における少なくとも巻線軸1の当該断面積と同一とされている。
【0032】
次に、上述してきたコアC1等の組合せを含むコモンモードチョークコイルCK全体の構成について、
図4乃至
図6を用いて更に説明する。なお、
図4はコモンモードチョークコイルCK全体の構造(各コア及び各コイルのみ)を示す外観斜視図であり、
図5はコモンモードチョークコイルCK全体の構造を示す組み立て図であり、
図6はコモンモードチョークコイルCK全体の組立後の構造を示す外観斜視図である。
【0033】
先ず、後述する実施形態のボビンを除いた状態を
図4に示すように、コモンモードチョークコイルCKでは、
図1乃至
図3で説明した態様で組み合わされたコアC1乃至コアC3及びコアC11乃至コアC13それぞれの巻線軸1に上記三個のコイルW1乃至コイルW3が上記ボビンを介して巻回され、それぞれの端部が端子T1乃至端子T3として外部に引き出される。このとき、コイルW1乃至コイルW3を構成する導線は、その断面が円形状の導線の他に、
図4乃至
図6に例示するような平角線でもよい。また、コイルW1乃至コイルW3それぞれにおける上記導線の巻き数は、コモンモードチョークコイルCKとして所望されるノーマルモードインダクタンスの大きさに基づき、一のコアC1等における磁束Mの方向に垂直な上記断面積と、上記磁路長と、に基づいて決定される。
【0034】
次に、実施形態のボビンを含むコモンモードチョークコイルCK全体の構成について、
図5及び
図6を用いて説明する。
【0035】
図5に示すように、コモンモードチョークコイルCKは、対向して突合された状態でコアC1等の巻線軸1と当該各巻線軸1に巻回されるコイルW1乃至コイルW3との間に介在することとなるボビンBを備えた円板状の枠体B1及び枠体B2を備えている。より具体的に、枠体B1及び枠体B2のそれぞれは、各コアC1等の巻線軸1をそれぞれ通すと共に当該巻線軸1が備えられた各コアC1等の位置をコアC1等ごとに決定する三個の巻線軸孔H1であって当該各巻線軸1がその内部にそれぞれ通される三個の円筒形状のボビンBがそれぞれ接続された巻線軸孔H1と、各コアC1等の共通軸2をそれぞれ通すと共に当該共通軸2が備えられたコアC1等の位置をコアC1等ごとに決定する三個の共通軸孔H2であって当該各共通軸2がその内部にそれぞれ通される三個の筒状の挿入部ISがそれぞれ接続された共通軸孔H2と、を備えて構成されている。このとき、各巻線軸孔H1及び各共通軸孔H2並びに各ボビンB及び各挿入部ISが例えば樹脂材料等を用いて一体成型されて、枠体B1及び枠体B2が形成されている。更に、各ボビンBの内径は対応する巻線軸1が挿入可能な長さとされており、各ボビンBの外径はコイルW1乃至コイルW3内に挿入可能な長さとされている。更にまた、共通軸孔H2の平面形状及び挿入部ISの共通軸2の中心軸の方向に垂直な断面の形状は、対応する共通軸2が挿入可能な形状とされている。
【0036】
なお、上記巻線軸孔H1が本発明の「第1軸孔」の一例に相当し、上記共通軸孔H2が本発明の「第2軸孔」の一例に相当する。
【0037】
そして
図5に示すように、コモンモードチョークコイルCKでは、対応するボビンBがコイルW1乃至コイルW3の内側にそれぞれ挿入されるように、上述した構成を有する枠体B1及び枠体B2が当該コイルW1乃至コイルW3を挟み込んで固定され(
図5ハッチング矢印参照)、更にその外側から、対応する巻線軸1及び共通軸2が各巻線軸孔H1及び各共通軸孔H2内にそれぞれ挿入されるように、各コアC1等が枠体B1及び枠体B2に挿入されて固定される(
図5白抜き矢印参照)。
【0038】
以上の態様の組立により、最終的には、
図6に示すように、相互に対向して突合された三個の巻線軸1にボビンBを介してコイルW1乃至コイルW3がそれぞれ巻回されており、更に当該各巻線軸1と共にそのコアC1等に備えられた共通軸2が対向して突合されたコモンモードチョークコイルCKが形成される。そして、各コイルW1乃至コイルW3それぞれの端子T1乃至端子T3が必要な回路に接続されることで、コモンモードチョークコイルCKが、例えば産業用の電源供給システムの入力段に用いられるフィルタとして用いられる。
【実施例0039】
次に、上記コアC1等を含む実施形態のコモンモードチョークコイルCKにおいて、
(i)当該コモンモードチョークコイルCKに発生する磁束Mの磁路長、
(ii)一のコアC1等の少なくとも巻線軸1及び共通軸2それぞれにおける磁束Mの方向に垂直な断面積、及び
(iii)コイルW1乃至コイルW3それぞれの巻き数、
の三つが、コモンモードチョークコイルCKとして有すべきノーマルモードインダクタンスに対応していることによる効果等を示す実施例について、
図7及び
図8を用いて具体的に説明する。
【0040】
なお、
図7はコモンモードチョークコイルCK等の等価回路を示す図であり、
図8は当該コモンモードチョークコイルCKとしての効果を示す図である。ここで
図8は、当該効果についての本願の発明者による実験結果(シミュレーション結果)を示す図である。このとき
図8に結果を示す実験では、コモンモードチョークコイルCKに用いるコアC1等の材料として透磁率が7000マイクロヘンリーのフェライト材料を用い、コイルW1乃至コイルW3それぞれの巻回数が各々17回とされ、磁束Mの方向に垂直な巻線軸1の直径が16ミリメートルとされている。そして、当該巻線軸1、天面3及び共通軸2について磁束Mの方向に垂直な断面積は全て同一とされている。
【0041】
すなわち、透過回路として
図7に例示する三個の交流入力部IN、コンデンサCDIN1及びコンデンサCDIN2、コンデンサCDOUT1及びコンデンサCDOUT2並びに三個の交流出力部OUTを備える三相用の入力フィルタ回路を用いて広周波数帯域(数キロヘルツ乃至30メガヘルツ程度)に渡って雑音を低減させる際に、ノーマルモードインダクタンスとコモンモードインダクタンスの双方を発生させようとする場合、従来は、
図7(a)に例示するような、ノーマルモードチョークコイルCKX1、ノーマルモードチョークコイルCKX2及びノーマルモードチョークコイルCKX3、並びにコモンモードチョークコイルCKX4の四つのチョークコイルが必要とされ、これに伴って入力フィルタ回路自体も大型化せざるを得なかった。これに対し、実施形態のコモンモードチョークコイルCKの場合は、上記(i)乃至(iii)が当該コモンモードチョークコイルCKとして有すべきノーマルモードインダクタンスの大きさに基づいていることにより、
図7(b)に例示するように、一つのコモンモードチョークコイルCKを設けるのみで、コモンモードインダクタンスに加えて、必要な値のノーマルモードインダクタンスが得られる。これにより、二つのモードのインダクタンスを発生させることが可能で且つ産業用の電源供給システムの入力段等の大電力用途として使用可能な三相用コモンモードチョークコイルにおけるノイズの高減衰化を実現することができるのである。
【0042】
一方、上記コアC1等を含む実施形態のコモンモードチョークコイルCKにおける(i)乃至(iii)が、コモンモードチョークコイルCKとして有すべきノーマルモードインダクタンスの大きさに基づいていることによる効果については、本願の発明者らにより、
図8にそれぞれ例示する実験結果が得られている。
【0043】
このとき、
図8(a)に直流(DC)駆動電流とノーマルモード成分としてのインダクタンスとの関係を示すように、コモンモードチョークコイルCKの場合に、駆動電流に対する平坦性のよいノーマルモードインダクタンスが発生していることが判る。このとき
図8(a)では、磁束Mの磁路長との関係については、当該磁路長が短いほど直流駆動電流の値が大きくなるまでノーマルモードインダクタンスとしての平坦性が伸びていることが判る(
図8(a)クロスハッチング矢印参照)。
【0044】
一方、
図8(b)に駆動周波数とインピーダンス及びインダクタンスとの関係を示すように、実施形態のコモンモードチョークコイルCKについては、本願の発明者により以下の実験結果が得られている。
(ア)コモンモードチョークコイルCKのノーマルモードインダクタンス成分は、巻線軸1及び共通軸2における磁束Mの方向に垂直な断面積を大きくすると、より広い直流駆動電流の範囲に渡って直流重畳特性が平坦となる(すなわち、直流重畳特性が高周波数側に延びている)。
(イ)コモンモードチョークコイルCKにおいては、磁束Mの磁路長を変化させた場合でも、コモンモードインダクタンス成分は大きくは変化しない。
(ウ)コモンモードチョークコイルCKにおける駆動周波数とインピーダンスとの関係については、駆動周波数が500キロヘルツである時をピークにインピーダンスは一旦下がるが、駆動周波数が2乃至3メガヘルツ辺りで再度上昇し始め、駆動周波数が7乃至8メガヘルツ近辺でインピーダンスが再度ピーク値となる(
図8(b)の「(1)」の部分参照)。このコモンモードチョークコイルCKの駆動周波数-インピーダンス特性は、従来の三相用コモンモードチョークコイルを含む一般的なラインフィルタでは観測されない特性であり、実施形態のコモンモードチョークコイルCK特有の構造によるものである。なお、従来の三相用チョークコイルの場合は、
図8(b)に「(2)」として示す破線のような特性を有する。
(エ)コモンモードチョークコイルCKの駆動周波数とコモンモードインダクタンス成分との関係については、
図8(b)に「(3)」として示すように、駆動周波数が2乃至6メガヘルツの近辺で、再度、コモンモードインダクタンス成分が発生する。
【0045】
以上の
図8に示す実施形態のコモンモードチョークコイルCKの特性(特に
図8(b)として示す当該コモンモードチョークコイルCKの特性)は、従来の三相用コモンモードチョークコイル等のコモンモードインダクタンス成分と比較した場合、駆動周波数が10メガヘルツ近辺のノイズ(伝導ノイズ)が大幅に減衰(改善)することを示している。また、
図8(b)の「(1)」の部分で示されるインピーダンス特性と、
図8(b)の「(3)」の部分で示されるコモンモードインダクタンスの特性と、により、コモンモードチョークコイルCKにおいて特に高周波領域でのノイズの高減衰化が実現できていることが判る。
【0046】
以上実施形態及び実施例として説明したように、実施形態のコモンモードチョークコイルCKの構造によれば、巻線軸1、共通軸2及び天面3をそれぞれに備えると共に巻線軸1同士及び共通軸2同士がそれぞれ突合するように対向して配置される六個の同形状のコアC1等と、ボビンBと、三個のコイルW1乃至コイルW3と、を備え、コイルW1乃至コイルW3に電流がそれぞれ流されたとき、各巻線軸1内、各天面3内及び各共通軸2内を連続して通る一の閉ループとして磁束Mが発生し、当該閉ループをなす磁束Mにより、コモンモードチョークコイルCKとしてのコモンモードインダクタンス及びノーマルモードインダクタンスが発生する。よって、ノーマルモードインダクタンスとコモンモードインダクタンスの双方を発生させることが可能な大容量向けのコモンモードチョークコイルCKを、従来の三相用コモンモードチョークコイルよりも大型化することなく実現でき、例えば三相用ノイズフィルタとしての高出力化及びノイズの高減衰化が可能となる。
【0047】
また、一のコアに備えられた少なくとも巻線軸1及び共通軸2の磁束の方向に垂直な断面の面積が同一であるので、必要なノーマルモードインダクタンスを確実に発生させることができる。
【0048】
なお、一のコアC1等に備えられた天面3の断面の面積が、当該一のコアC1等に備えられた巻線軸1及び共通軸2の断面の面積と同一である場合は、必要なノーマルモードインダクタンスを更に確実に発生させることができる。
【0049】
更に、各共通軸2が、当該共通軸2が備えられたコアC1等に備えられた巻線軸1より細い円柱部21と、当該円柱部21から当該コアC1等の中心側に向けて延びた板状部22と、からなるので、各モードのインダクタンスを発生させることができるコモンモードチョークコイルCKを小型化することができる。
【0050】
更にまた、各巻線軸1がそれぞれ通され且つ対応するボビンBに接続された三個の巻線軸1孔と、各共通軸2がそれぞれ通される三個の共通軸2孔と、各ボビンBと、が一体成型されてなる枠体B1及び枠体B2を更に備えるので、各モードのインダクタンスを発生させることができるコモンモードチョークコイルCKを簡易に組み立てることができる。
以上それぞれ説明したように、本発明は三相用コモンモードチョークコイルの分野に利用することが可能であり、特に大容量化及びノイズの高減衰化を目的とする三相用コモンモードチョークコイルの分野に適用すれば、特に顕著な効果が得られる。