(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178764
(43)【公開日】2023-12-18
(54)【発明の名称】転舵軸付ハブユニット、操舵システムおよび車両
(51)【国際特許分類】
B62D 7/18 20060101AFI20231211BHJP
B62D 7/09 20060101ALI20231211BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20231211BHJP
【FI】
B62D7/18
B62D7/09
B62D5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022091647
(22)【出願日】2022-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】宇都宮 聡
【テーマコード(参考)】
3D034
3D333
【Fターム(参考)】
3D034BA04
3D034BA07
3D034BC04
3D034BC15
3D034BC26
3D034BC28
3D034BD03
3D034BD06
3D034CA07
3D034CC04
3D034CC09
3D034CC12
3D034CC13
3D034CD13
3D333CB02
3D333CB37
3D333CB41
3D333CB42
3D333CC05
3D333CC10
3D333CC15
3D333CC18
3D333CD16
3D333CD17
3D333CE04
3D333CE06
3D333CE24
(57)【要約】
【課題】信頼性および組立性の向上を図ることができる転舵軸付ハブユニット、操舵システムおよび車両を提供する。
【解決手段】転舵軸付ハブユニットBrは、車輪9を回転支持するハブベアリング15を有するハブユニット本体2と、ナックルに設けられハブユニット本体2を上下方向に延びる転舵軸心A回りに回転自在に支持するユニット支持部材3とを備える。ハブユニット本体2は、ハブベアリング15の外輪19に設けられた円環部16aの外周から上下にそれぞれ突出する転舵軸部16b,16cを有し、上下の転舵軸部16b,16cが回転支持部材4,4を介してユニット支持部材3に転舵軸心A回りに回転自在に支持される。回転支持部材4は、上側の転舵軸部16bに設けられた固定側軸受38を有し、固定側軸受38はハブベアリング15に作用するラジアル方向の両方向の荷重を受ける。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を回転支持するハブベアリングを有するハブユニット本体と、懸架装置の足回りフレーム部品に設けられ前記ハブユニット本体を上下方向に延びる転舵軸心回りに回転自在に支持するユニット支持部材とを備え、前記ハブユニット本体は、前記ハブベアリングの外方部材またはこの外方部材に設けられた円環部の外周から上下にそれぞれ突出する転舵軸部を有し、前記上下の転舵軸部が回転支持部材を介して前記ユニット支持部材に前記転舵軸心回りに回転自在に支持される転舵軸付ハブユニットであって、
前記回転支持部材は、前記上下の転舵軸部のいずれか一方に設けられた固定側軸受を有し、この固定側軸受は、前記ハブベアリングに作用するラジアル方向の両方向の荷重を受ける転舵軸付ハブユニット。
【請求項2】
請求項1に記載の転舵軸付ハブユニットにおいて、前記固定側軸受に予圧を与える予圧付与手段を備えた転舵軸付ハブユニット。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の転舵軸付ハブユニットにおいて、前記回転支持部材は、前記上下の転舵軸部の他方に設けられた自由側軸受を有し、この自由側軸受は、前記ハブベアリングに作用するラジアル方向の荷重に直交するラジアル荷重のみを受ける転舵軸付ハブユニット。
【請求項4】
請求項3に記載の転舵軸付ハブユニットにおいて、前記自由側軸受は針状ころ軸受である転舵軸付ハブユニット。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の転舵軸付ハブユニットにおいて、前記固定側軸受は、互いに逆向きの接触角を有する一対の円すいころ軸受または一対のアンギュラ玉軸受である転舵軸付ハブユニット。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載の転舵軸付ハブユニットと、前記ハブユニット本体を前記転舵軸心回りに回転駆動させる操舵用アクチュエータとを備えた操舵機能付ハブユニット。
【請求項7】
請求項6に記載の操舵機能付ハブユニットと、この操舵機能付ハブユニットの前記操舵用アクチュエータを制御する制御装置とを備えた操舵システムであって、前記制御装置は、与えられた操舵角指令信号に応じた電流指令信号を出力する操舵制御部と、この操舵制御部から入力された電流指令信号に応じた電流を出力して前記操舵用アクチュエータを駆動制御するアクチュエータ駆動制御部とを有する操舵システム。
【請求項8】
請求項1または請求項2に記載の転舵軸付ハブユニットを用いて前輪および後輪のいずれか一方または両方が支持された車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転舵軸付ハブユニット、操舵システムおよび車両に関し、走行状況に合わせ左右の車輪を適切な操舵角に制御することで、燃費の改善および走行安定性等の向上を図る技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な車両の操舵装置は機械的に車輪と接続されているため、一般的には固定された単一のステアリングジオメトリしか採ることができず、アッカーマンジオメトリとパラレルジオメトリとの中間的なジオメトリに設定されることが多い。しかし、この場合、低速域では左右輪の舵角差が不足して外輪の舵角が過大となり、高速域では内輪の舵角が過大となる。このように内外輪の車輪横力配分に不要な偏りがあると、走行抵抗の悪化による燃費悪化及びタイヤの早期摩耗の原因となり、また、内外輪を効率的に利用できないので、コーナリングのスムーズさが損なわれるといった課題がある。
【0003】
そこで補助的な操舵機能を備えた技術(特許文献1,2)が提案されている。
特許文献1では、モータを2個使ってタイヤのトー角とキャンバー角を複雑に制御している。
特許文献2は、転舵軸に対しハブベアリングを片持ち支持しているため、剛性が低下し、過大な走行Gの発生によってステアリングジオメトリが変化してしまう可能性がある。転舵軸上に減速機を設けた場合、モータを含めてサイズが大きくなる。全体のサイズが大きくなると、車輪の内周部に全体を配置することが困難となる。減速比の大きい減速機を設けた場合、応答性が悪化する。
【0004】
特許文献3では、操舵機能付きのハブユニットを車両の前輪に適用した例が示されている。同特許文献3の
図1に示すように、ハブベアリング部の外輪の外周面には、上下方向に突出する転舵軸部が設けられている。上下の転舵軸部は、ハブベアリング部を上下に挟むように配置される一対の円すいころ軸受によりユニット支持部材に支持される。一対の円すいころ軸受は、互いに接触角が逆向きにセットされ、予圧をかけることで車輪の支持剛性を高め、操縦安定性の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】独国特許出願公開第102012206337号明細書
【特許文献2】特開2014-61744号公報
【特許文献3】特開2019-59385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図12に示すように、従来、転舵軸部を支持する軸受(「転舵軸支持軸受」と称す)は、ハブベアリング59の外輪60から上下に突出する転舵軸部61,61にそれぞれ一対設けられ、ハブベアリング59を上下に挟むように対称に配置される。転舵軸支持軸受は、車輪の支持剛性を高めるために予圧がかけられる。但し、走行中の路面からの外力によって予圧が抜けないように、静止時に受ける荷重に動的な変動を加味した大きさの予圧を転舵軸支持軸受に与える。このため、予圧としては、静止一輪荷重の2~3倍のような比較的大きな荷重となる。
【0007】
従来の転舵軸支持軸受の配置では、予圧はハブベアリング59に対して上下方向の引張荷重F1として作用する。これと共にその引張荷重F1の反力は、ユニット支持部材62の転舵軸支持軸受を保持する部分62aを内側に曲げる力F2として作用する。予圧力が大きくなると周辺部位に以下の影響が懸念される。
【0008】
・ 上下の転舵軸部61,61に引張荷重が作用し、転舵軸支持軸受間に挟まれるハブベアリング59が縦断面で楕円状に変形する。
・ ユニット支持部材62の転舵軸支持軸受を保持する部分62aが内側に撓むため、予圧の調整が難しく組立性の課題が生じる。
・ ユニット支持部材62の転舵軸支持軸受を保持する部分62aが内側に撓むため、転舵軸支持軸受の内外輪間でミスアライメントが発生し、転舵軸支持軸受の転走面にエッジ当りが生じやすくなる。
・ ユニット支持部材62の転舵軸支持軸受を保持する部分62aが内側に撓み、付け根の部分に応力が発生するため、過大な外力が入力された場合に強度が低下する懸念がある。
【0009】
本発明の目的は、信頼性および組立性の向上を図ることができる転舵軸付ハブユニット、操舵システムおよび車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の転舵軸付ハブユニットは、車輪を回転支持するハブベアリングを有するハブユニット本体と、懸架装置の足回りフレーム部品に設けられ前記ハブユニット本体を上下方向に延びる転舵軸心回りに回転自在に支持するユニット支持部材とを備え、前記ハブユニット本体は、前記ハブベアリングの外方部材またはこの外方部材に設けられた円環部の外周から上下にそれぞれ突出する転舵軸部を有し、前記上下の転舵軸部が回転支持部材を介して前記ユニット支持部材に前記転舵軸心回りに回転自在に支持される転舵軸付ハブユニットであって、
前記回転支持部材は、前記上下の転舵軸部のいずれか一方に設けられた固定側軸受を有し、この固定側軸受は、前記ハブベアリングに作用するラジアル方向の両方向の荷重を受ける。
【0011】
この構成によると、上下の転舵軸部のいずれか一方に設けられた固定側軸受が、ハブベアリングに作用するラジアル方向の両方向の荷重を受ける。このため、固定側軸受の予圧力はいずれか一方の転舵軸部に設けた固定側軸受間にのみ作用し、ハブユニット本体およびユニット支持部材における上下の回転支持部材を保持する部分(「転舵軸支持軸受保持部」と称す)には作用しない。
よって、上下の転舵軸部に引張荷重が作用せずハブユニット本体の変形を抑制することができる。上下の転舵軸支持軸受保持部には前記引張荷重の反力も作用しないことから、予圧の調整等を伴う組立作業を簡易化できるうえ、転舵軸支持軸受の内外輪間のミスアライメント等を抑制しさらに転舵軸支持軸受保持部の一部に応力が発生することを抑制し得る。したがって、転舵軸付ハブユニットの信頼性および組立性の向上を図ることができる。
【0012】
前記固定側軸受に予圧を与える予圧付与手段を備えてもよい。予圧付与手段により固定側軸受に予圧を与えることで回転支持部品および転舵軸部の剛性を高めて車輪の支持剛性を高め、正確な操舵を行うことが可能となる。よって、操縦安定性の向上を図ることができる。一方の転舵軸部に設けた固定側軸受間のみに予圧を与えるため、上下の転舵軸支持軸受保持部の撓みがなく固定側軸受への予圧調整を簡易化し得る。
【0013】
前記回転支持部材は、前記上下の転舵軸部の他方に設けられた自由側軸受を有し、この自由側軸受は、前記ハブベアリングに作用するラジアル方向の荷重に直交するラジアル荷重のみを受けるものでもよい。この場合、自由側軸受に予圧を与える手段等が不要となる分スペースを低減することができる。これにより転舵軸付ハブユニットを設置する汎用性を高めることが可能となる。
前記自由側軸受は針状ころ軸受であってもよい。この場合、負荷荷重を高くハブユニット全体のコンパクト化を図れる。
【0014】
前記固定側軸受は、互いに逆向きの接触角を有する一対の円すいころ軸受または一対のアンギュラ玉軸受であってもよい。固定側軸受として、逆向きの接触角を有する一対の円すいころ軸受を採用した場合、例えば、同サイズの一対のアンギュラ玉軸受等よりも負荷容量を高め、固定側軸受の剛性をより確実に高めることができる。最大負荷等の使用条件によっては一対のアンギュラ玉軸受を採用することができる。
【0015】
本発明の操舵機能付ハブユニットは、本発明の上記いずれかの構成の転舵軸付ハブユニットと、前記ハブユニット本体を前記転舵軸心回りに回転駆動させる操舵用アクチュエータを備える。この場合、ハブベアリングを有するハブユニット本体を、操舵用アクチュエータの駆動により、転舵軸心回りに自由に回転させることができ、車両の走行状況に応じて、例えば、車輪のトー角を任意に変更することができる。
【0016】
本発明の操舵システムは、前記操舵用アクチュエータを備えた操舵機能付ハブユニットと、この操舵機能付ハブユニットの前記操舵用アクチュエータを制御する制御装置とを備えた操舵システムであって、前記制御装置は、与えられた操舵角指令信号に応じた電流指令信号を出力する操舵制御部と、この操舵制御部から入力された電流指令信号に応じた電流を出力して前記操舵用アクチュエータを駆動制御するアクチュエータ駆動制御部とを有する。
【0017】
操舵制御部は、与えられた操舵角指令信号に応じた電流指令信号を出力する。アクチュエータ駆動制御部は、操舵制御部から入力された電流指令信号に応じた電流を出力して操舵用アクチュエータを駆動制御する。したがって、運転者のハンドル操作による操舵に付加して車輪角度を任意に変更することができる。
【0018】
本発明の車両は、本発明の上記いずれかの構成の転舵軸付ハブユニットを用いて前輪および後輪のいずれか一方または両方が支持される。このため、本発明の転舵軸付ハブユニットにつき前述した各効果が得られる。前輪は一般的に操舵輪とされるが、操舵輪に、本発明の転舵軸付ハブユニットを適用した場合は、走行中におけるトー角調整に効果的である。後輪は一般的に非操舵輪とされるが、非操舵輪に適用した場合は、非操舵輪の若干の操舵によって低速走行時における最小回転半径の低減および高速走行時における車両安定性の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の転舵軸付ハブユニットは、上下の転舵軸部のいずれか一方に設けられた固定側軸受が、ハブベアリングに作用するラジアル方向の両方向の荷重を受ける。このため、従来、ハブベアリングの外方部材およびユニット支持部材の転舵軸支持軸受保持部に作用していた予圧力の影響を排除することができ、信頼性および組立性の向上が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る操舵機能付ハブユニットの斜視図である。
【
図2】同操舵機能付ハブユニットの水平断面図である。
【
図5】同操舵機能付ハブユニット等の縦断面図である。
【
図6A】同操舵機能付ハブユニットの固定側軸受等を示す拡大断面図である。
【
図6B】同操舵機能付ハブユニットの自由側軸受等を示す拡大断面図である。
【
図7】本発明の第2の実施形態に係る操舵機能付ハブユニット等の縦断面図である。
【
図8】本発明の第3の実施形態に係る操舵機能付ハブユニット等の縦断面図である。
【
図9】本発明のいずれかの実施形態の操舵機能付ハブユニットを備えた車両の模式平面図である。
【
図10】本発明のいずれかの実施形態の操舵機能付ハブユニットを備えた車両の他の例の模式平面図である。
【
図11】本発明のいずれかの実施形態の操舵機能付ハブユニットを備えた車両のさらに他の例の模式平面図である。
【
図12】従来例の操舵機能付ハブユニット等の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[第1の実施形態]
本発明の実施形態に係る操舵機能付ハブユニットを
図1ないし
図6Bおよび
図9と共に説明する。
図1に示すように、操舵機能付ハブユニット1は、転舵軸付ハブユニットBrと、操舵用アクチュエータ5とを備える。転舵軸付ハブユニットBrは、ハブユニット本体2と、ユニット支持部材3とを含む。足回りフレーム部品であるナックル6に一体にユニット支持部材3が設けられている。
【0022】
ユニット支持部材3のインボード側に、操舵用アクチュエータ5が設けられ、ユニット支持部材3のアウトボード側に、ハブユニット本体2が設けられる。ハブユニット本体2と操舵用アクチュエータ5とはジョイント部8により連結されている。通常、ジョイント部8は、防水、防塵のために図示外のブーツが取り付けられている。
操舵機能付ハブユニット1を車両に搭載した状態で、車両の車幅方向外側をアウトボード側といい、車両の車幅方向中央側をインボード側という。操舵機能付ハブユニット1を単に、ハブユニット1と言う場合がある。
【0023】
ハブユニット本体2は、上下方向に延びる転舵軸心A回りに回転自在なように、上下二箇所で
図5の回転支持部材4,4を介してユニット支持部材3に支持されている。転舵軸心Aは、車輪9の回転軸心Oとは異なる軸心であり、主な操舵を行うキングピン軸とも異なっている。通常の車両は、車両走行の直進安定性の向上を目的としてキングピン角度が10~20度で設定されているが、この実施形態の操舵機能付ハブユニット1は、前記キングピン角度とは別の角度(軸)の転舵軸を有する。
【0024】
<操舵機能付ハブユニット1の設置箇所>
この操舵機能付ハブユニット1は、この実施形態では操舵輪、具体的には
図9に示すように、車両10の前輪9Fのステアリング装置11による操舵に付加して左右輪個別に微小な角度(約±5deg)を操舵させる機構として、懸架装置12のナックル6に一体に設けられる。但し、操舵輪の操舵機能付ハブユニット1において、車両制御の要求によっては、前記微小な角度に限らず例えば10°~20°等の比較的大きな角度を左右輪個別に採ることもある。後述する
図10、
図11に示す操舵機能付ハブユニット1についても同様である。
【0025】
図9のように、ステアリング装置11は、車体に取り付けられ、運転者のハンドル11aの操作、または図示外の自動運転装置、運転支援装置の指令等によって動作し、その進退する
図2に示すタイロッド14が、ユニット支持部材3のステアリング結合部6d(後述する)に連結されている。ステアリング装置11は、ラック・ピニオン式等とされるが、どのタイプのステアリング装置でも構わない。
図9の懸架装置12は、例えば、ショックアブソーバをナックル6に直接固定するストラット式サスペンション機構を適用しているが、ダブルウィッシュボーン式サスペンション機構、マルチリンク式サスペンション機構、その他のサスペンション機構を適用してもよい。
【0026】
<ハブユニット本体2>
図2に示すように、ハブユニット本体2は、車輪9の支持用のハブベアリング15と、転舵軸部付き円環部であるアウターリング16と、操舵力受け部であるアーム部17と、
図3に示すブレーキキャリパ取付部22とを備える。
図3のV-V線断面図である
図5のように、ハブベアリング15は、内方部材である内輪18と、外方部材である外輪19と、内外輪18,19間に介在したボール等の転動体20とを有し、車体側の部材と車輪9とを繋ぐ役目をしている。
【0027】
ハブベアリング15は、図示の例では、外輪19が固定輪、内輪18が回転輪、転動体20が複列のアンギュラ玉軸受とされている。内輪18は、ハブフランジ18aaを有しアウトボード側の軌道面を構成するハブ輪部18aと、インボード側の軌道面を構成する内輪部18bとを有する。ハブフランジ18aaに車輪9のホイール9aがブレーキロータ21aと重なり状態でボルト固定されている。内輪18は回転軸心O回りに回転する。
【0028】
アウターリング(転舵軸部付き円環部)16は、外輪19の外周面に嵌合された円環部16aと、円環部16aの外周から上下に突出して設けられたトラニオン軸状の転舵軸部16b,16cとを有する。上下の転舵軸部16b,16cは転舵軸心Aに同軸に設けられる。上下の転舵軸部16b,16cは、外輪19の外周から上下に突出して設けられたトラニオン軸状であってもよい。
【0029】
図2に示すアーム部17は、ハブベアリング15の外輪19に補助的な操舵力を与える作用点となる部位であり、アウターリング16または外輪19の外周の一部に一体に突出する。アーム部17は、ジョイント部8を介して、操舵用アクチュエータ5の直動出力部となる出力ロッド25aに回転自在に連結されている。これにより、操舵用アクチュエータ5の出力ロッド25aが進退(直進運動)することで、ハブユニット本体2が転舵軸心A回りに回転、つまり補助操舵させられる。
【0030】
図4のブレーキキャリパ取付部22は、
図2に示す外輪19に一体にアーム状に突出して形成されている。ブレーキ21のブレーキキャリパ21bは、
図3に示す上下二箇所のブレーキキャリパ取付部22に取り付けられる。よって、
図2に示すハブベアリング15、アウターリング16、アーム部17およびブレーキキャリパ取付部22は一体に操舵する。
【0031】
<ユニット支持部材等>
車体の一部であるナックル6(
図1)には、
図5に示す回転支持部材4,4が取り付けられており、各回転支持部材4は、上下の転舵軸部16b,16cのいずれか一方(この例では上側の転舵軸部16b)に設けられた固定側軸受38と、他方(この例では下側の転舵軸部16c)に設けられた自由側軸受39とを有する。上下の転舵軸部16b,16cは、車輪9のホイール9a内に位置する。この例では、各転舵軸部16b,16cがホイール9a内の幅方向中間付近に配置される。したがって、転舵軸心Aは、車輪9の回転軸心Oに直交し、且つホイール9a内の幅方向中間付近に位置する。
【0032】
ユニット支持部材3は、ユニット支持部材本体3Aと、ユニット支持部材結合体3Bとを有する。
図1において、ユニット支持部材3を二点鎖線で表す。
図5に示すように、ユニット支持部材本体3Aのアウトボード側端に、略リング形状のユニット支持部材結合体3Bが着脱自在に固定されている。ユニット支持部材結合体3Bのインボード側側面のうち上下の部分には、部分的な凹球面状の嵌合孔形成部がそれぞれ形成されている。ユニット支持部材本体3Aのアウトボード側端のうち上下の部分には、部分的な凹球面状の嵌合孔形成部がそれぞれ形成されている。ユニット支持部材本体3Aのアウトボード側端にユニット支持部材結合体3Bが固定され、各上下の部分につき、嵌合孔形成部が互いに組み合わされることにより、全周に連なる嵌合孔が形成される。各嵌合孔に固定側軸受38および自由側軸受39の各外輪が嵌合されている。
【0033】
<固定側軸受>
図6Aのように、固定側軸受38は、互いに逆向きの接触角を有する一対の円すいころ軸受38A,38Aが背面合わせで組み合わされる。固定側軸受38は、ハブベアリング15(
図5)に作用するラジアル方向の両方向の荷重Faと、ハブベアリング15(
図5)に作用するラジアル方向の荷重に直交するラジアル荷重Frを受ける。前記両方向の荷重Faは、固定側軸受38で受ける荷重としては両方向のアキシアル荷重である。固定側軸受38が配設される上側の転舵軸部16bは、自由側軸受39(
図6B)が配設される下側の転舵軸部16cに対し、軸方向に所定長さ長く形成され且つ後述の雌ねじ部が形成された非対称の構造である。
【0034】
一対の円すいころ軸受38A,38Aは、2個の内輪40,40が内輪間座41を介して上側の転舵軸部16bの外周に嵌合され、各内輪40に対応する2個の外輪42,42がユニット支持部材3に嵌合されている。ユニット支持部材3の外輪嵌合面には、径方向内方に突出する環状凸部43が設けられ、環状凸部43の軸方向両側面に、各外輪42の背面を当接させている。内外輪40,42間に複数の転動体である円すいころ44が設けられ、これら円すいころ44が保持器45により保持されている。
【0035】
<予圧付与手段>
ハブユニット1(
図5)は、固定側軸受38に予圧を与える予圧付与手段46を備えている。予圧付与手段46は、ボルト23と押圧部材24とを有する。上側の転舵軸部16bの先端部には、転舵軸心Aに同心の雌ねじ部47が形成され、雌ねじ部47にボルト23が螺合される。一対の円すいころ軸受38A,38Aのうち、上側の円すいころ軸受38Aの内輪端面に円板状の押圧部材24を介在させ、雌ねじ部47に螺合するボルト23により、内輪端面に押圧力を付与することで、固定側軸受38に予圧を与えている。車両の重量と路面からの荷重がハブユニット1(
図5)に作用した場合でも予圧が抜けないように初期予圧が設定されている。
【0036】
<自由側軸受>
図6Bのように、自由側軸受39は、ハブベアリング15(
図5)に作用するラジアル方向の荷重に直交するラジアル荷重Frのみを受ける針状ころ軸受39Aである。換言すれば、自由側軸受39は、ハブベアリング15(
図5)に作用するアキシアル方向の荷重のみを受ける。針状ころ軸受39Aは、軸受の断面高さが小さくスペース効率に優れかつ回転抵抗が小さい。針状ころ軸受39Aは、外輪48と、複数の針状ころ49と、これら針状ころ49を保持する保持器50とを有するクローズエンド形である。外輪48は、ユニット支持部材3の下側の外輪嵌合孔に嵌合され、薄い鋼板から絞り加工で有底円筒状に成形されている。複数の針状ころ49は、外輪48の内周面と、下側の転舵軸部16cの外周との間に円周方向に沿って介在される。外輪48の軸方向一端側の底面は転舵軸部16cの先端面に臨む。外輪48の軸方向他端側の開口端は、転舵軸部16cの基端部に所定の隙間δを介して対向する。
【0037】
<カバー部材、シール等>
図6Aのように、ユニット支持部材3のうち、固定側軸受38の外輪嵌合面における上部に、固定側軸受38および予圧付与手段46を覆う有底略円筒状のカバー部材51が設けられ、固定側軸受38、自由側軸受39(
図6B)およびハブベアリング15(
図5)等に外部から粉塵および水が浸入することを防ぐ。
【0038】
ユニット支持部材3は、第1および第2のシール部材S1,S2(
図6B)を有する。
ユニット支持部材3の上側の外輪嵌合孔のうち、上側の転舵軸部16bの基端部付近に、第1のシール部材S1が設けられている。第1のシール部材S1は、上側の外輪嵌合孔に嵌合される芯金52と、芯金52に固定される複数(この例では3つ)のリップ54とを有する。芯金52は、外輪嵌合孔に嵌合固定される円筒部と、この円筒部の軸方向一端から径方向内方に延びるフランジ部とで断面L字形状に形成される。フランジ部に複数のリップ54が固着され、これらリップ54が円環部16aの外周面および内輪外周面に摺接する。
【0039】
図6Bのように、ユニット支持部材3には、下側の外輪嵌合孔に繋がるシール嵌合孔55が形成されている。シール嵌合孔55は、外輪嵌合孔よりも大径でかつ外輪嵌合孔と同心で下側の転舵軸部16cの基端部付近に形成される。シール嵌合孔55に、第2のシール部材S2が設けられている。第2のシール部材S2は、シール嵌合孔55に嵌合固定されるシール基部56と、シール基部56に固定される複数(この例では3つ)のリップ57とを有する。これらリップ57が円環部16aの外周面および下側の転舵軸部16cの基端部に摺接する。
図5のように、上側の固定側軸受38のみに予圧付与手段46を備えたため、カバー部材51、第1および第2のシール部材S1,S2を設けるスペースを確保でき、カバー部材51、第1および第2のシール部材S1,S2によりハブベアリング15等への防塵および防水効果をさらに高め得る。
【0040】
<操舵用アクチュエータ>
図2に示すように、操舵用アクチュエータ5は、ハブユニット本体2を転舵軸心A回りに回転駆動させる機能を有する。操舵用アクチュエータ5は、回転駆動源であるモータ26と、モータ26の回転を減速する減速機27と、この減速機27の正逆の回転出力を出力ロッド25aの往復の直進運動に変換する直動機構25とを備える。モータ26は、例えば永久磁石型同期モータとされるが、直流モータであっても、誘導モータであってもよい。
【0041】
<減速機27>
減速機27は、ベルト伝達機構等の巻き掛け式伝達機構または歯車列等を用いることができ、同図の例ではベルト伝達機構が用いられている。減速機27は、ドライブプーリ27a,ドリブンプーリ27bと、これらプーリ27a,27bに掛け渡されたベルト27cとを有する平行軸式の減速機である。モータ26のロータ軸26bにドライブプーリ27aが結合され、直動機構25のナット部(後述する)35にドリブンプーリ27bが設けられている。このドリブンプーリ27bは、ロータ軸26bに平行に配置されている。モータ26の駆動力は、ドライブプーリ27aからベルト27cを介してドリブンプーリ27bに伝達される。
【0042】
<直動機構25>
直動機構25は、台形ねじまたは三角ねじ等の滑りねじ式の送りねじ機構を用いることができ、この例では台形ねじ33aの滑りねじを用いた送りねじ機構33が用いられている。前記滑りねじの内部には、グリースが封入されている。この直動機構25は、送りねじ機構33、回転支持軸受28と、図示外の回り止め部品、およびこれらの構成部品を覆うアクチュエータケース34を有する。
【0043】
送りねじ機構33は、ナット部35と、ねじ軸である出力ロッド25aと、すべり軸受37とを有する。出力ロッド25aは、前記回り止め部品によってユニット支持部材3に対して回り止めされている。ナット部35は、この外周部の軸方向中間部にドリブンプーリ27bが設けられて軸方向両側の回転支持軸受28,28によりユニット支持部材3に回転自在に支持されている。このナット部35の内周に雌ねじ部が設けられている。出力ロッド25aの外周には、ナット部35の前記雌ねじ部に噛み合う雄ねじ部が設けられている。
【0044】
ナット部35の軸方向一端には、出力ロッド25aが摺動可能に貫通するすべり軸受37が設けられている。すべり軸受37は、出力ロッド25aの軸方向の移動をガイドすると共に、タイヤ側からの外力が出力ロッド25aに入力された場合、出力ロッド25aにラジアル方向およびモーメント方向の力が負荷されることを防止する。
【0045】
回転支持軸受28として、この例では、二個の円すいころ軸受が、ドリブンプーリ27bを介して、正面合わせで組み合わされている。これらの回転支持軸受28,28の配置は、背面合わせ、正面合わせのどちらでもよいが、組付け性やシム等による予圧調整の容易さより、正面合わせの配置が好ましい。なお、回転支持軸受28をアンギュラ玉軸受としてもよい。この場合にも、回転支持軸受28,28の配置は、背面合わせ、正面合わせのどちらでもよい。
【0046】
直動機構25は、前記台形ねじの滑りねじを用いた送りねじ機構33を備えるため、タイヤ9bからの逆入力の防止効果を高め得る。モータ26、減速機27および直動機構25を備えた操舵用アクチュエータ5は、サブアセンブリとして組み立てられてケース6bにボルト等により着脱自在に取り付けられる。操舵機能付ハブユニット1は、ケース6bから操舵用アクチュエータ5を離脱した転舵軸付ハブユニットBrの状態で市場において取引可能である。
【0047】
本実施形態の操舵用アクチュエータ5は、モータ26、減速機27および直動機構25を備えているが、減速機が省略される場合もある。つまりモータ26の駆動力を、減速機を介さず直接に直動機構25へ伝達する機構も可能である。直動機構25には、本実施形態に示す台形ねじの他、ボールねじまたはラックアンドピニオン機構等、回転運動を直動運動に変換可能な機構が使用できる。
【0048】
<センサ等>
車輪9の角度をより正確に制御するためには、モータ26の回転角度または直動機構25の位置(移動量)を把握することが求められる。この操舵機能付ハブユニット1には、前記回転角度または前記移動量である変位量を検出する変位量検出手段として、以下の位置センサ、角度センサが設けられている。
【0049】
アクチュエータケース34には、直動機構25の位置を検出する図示外の位置センサが設けられている。位置センサは、出力ロッド25aの軸方向の移動量である変位量を検出し位置センサ値(検出値)として出力可能である。例えば、アクチュエータケース34内に固定された基板に、位置センサが固定されている。位置センサは、磁気式、光学式、静電容量式等の各種のセンサを用いることができるが、この実施形態では、磁気センサが用いられている。
【0050】
<角度センサ>
モータ26のモータケースには、モータ26の回転角度である変位量を検出し角度センサ値(検出値)を出力可能な角度センサ53が設けられている。この角度センサ53は、ロータ軸26bに嵌合固定された被検出部53aと、この被検出部53aの半径方向外方でモータケースに固定されて被検出部53aを検出するセンサ部53bとを有する。この角度センサ53として例えばレゾルバが適用される。
【0051】
<その他の機構的構成>
図1のユニット支持部材本体3Aは、ショックアブソーバの取り付け部となるショックアブソーバ取り付け部6c、およびステアリング装置11(
図2)の結合部となるステアリング装置結合部6dを有する。ショックアブソーバ取り付け部6cおよびステアリング装置結合部6dは、ユニット支持部材本体3Aに一体に形成されている。ユニット支持部材本体3Aの外表面部における上部に、ショックアブソーバ取り付け部6cが突出するように形成されている。ユニット支持部材本体3Aの外表面部における側面部には、ステアリング装置結合部6dが突出するように形成されている。
【0052】
<作用効果>
以上説明した
図2の操舵機能付ハブユニット1によれば、車輪9を回転支持するハブベアリング15を含むハブユニット本体2を、操舵用アクチュエータ5の駆動により、転舵軸心A回りに自由に回転させることができる。ハブユニット本体2は、操舵用アクチュエータ5の出力ロッド25aをモータ26の駆動により進退させることで、出力ロッド25aに連結されたアーム部17を介して回転させられる。
【0053】
操舵用アクチュエータ5によりハブベアリング15を転舵軸心A回りに一定の範囲で自由に回転させることができ、車両の走行状況に応じて、例えば、車輪9のトー角を任意に変更することができる。
この操舵機能付ハブユニット1の構成を前輪に適用した場合、ステアリング装置11(
図9)により運転者のハンドル11a(
図9)の操作で、車輪9はナックル6(
図9)およびユニット支持部材3と共に操舵されるが、この操舵に付加する形で転舵軸心A回りに僅かな角度の補助操舵を車輪毎に独立して行える。補助操舵の角度については、車両の運動性能の向上、走行の安定性等の向上を図るにつき、僅かな角度で足り、補助操舵可能角度が±5度以下であっても十分に足りる。補助操舵の角度は操舵用アクチュエータ5の制御により行う。
【0054】
旋回走行時に、走行速度に応じて左右輪の舵角差を変えることができる。例えば、高速域の旋回走行においてはパラレルジオメトリとし、低速域の旋回走行においてはアッカーマンジオメトリとする等、走行中にステアリングジオメトリを変化させることができる。このように走行中に車輪角度を任意に変更することができるため、車両の運動性能を向上させ、安定して走行することが可能となる。さらに、左右輪の操舵角度を適切に変えることで、旋回走行における車両の旋回半径を小さくし、小回り性能を向上させることもできる。直線走行時にも、それぞれの場面に合わせてトー角を調整することで、低速時には燃費を悪化させることなく、高速時には走行安定性を確保する等調整が可能である。
【0055】
操舵機能付ハブユニット1の構成を後輪に適用した場合は、ハブユニット全体は操舵しないが、操舵機能により、前輪と同様に僅かな角度の操舵を車輪毎に独立して行える。後輪の舵角を前輪と同じ位相にすると、操舵時に発生するヨーを抑え、車両の安定性を高めることができる。さらに直線走行時にも左右独立でトー角を調整することで、燃費の向上および走行安定性を確保することができる。
【0056】
操舵の剛性感および安定性を高め、正確な修正操舵を行うためには、転舵軸部の剛性を高める必要があり、
図5に示す上側の転舵軸部16bに設けられた固定側軸受38として、
図6Aのように、接触角が互いに逆向きとなる一対の円すいころ軸受38A,38Aが適用され、一対の円すいころ軸受38A,38Aに予圧を与えることで剛性を高めている。
【0057】
<本実施形態と従来構造との対比>
ここで、
図5に示す第1の実施形態と、
図12に示す従来例の構造を対比して、両者の違いを説明する。従来例では、接触角が互いに逆向きとなる上下一対の円すいころ軸受58,58に、支持剛性を高めるべくそれぞれ予圧が与えられている。ハブベアリング59の外輪60から突出する上下の転舵軸部61,61に、一対の円すいころ軸受58,58がハブベアリング59を挟むように上下対称に設けられている。予圧の力F1は、ハブベアリング59の外輪60を上下に引張る方向に作用する。これと共に、その反力F2がユニット支持部材62の転舵軸支持軸受を保持する部分(転舵軸支持軸受保持部)62aを内側に曲げる力として作用し、これらの力は以下の(1)~(4)の懸念を伴う。
【0058】
(1)上下の転舵軸部61,61に引張荷重が作用し、ハブベアリング59の外輪60が楕円状に変形する。このため、ハブベアリング59の転動体接触面圧が局所的に増大し、転動疲労寿命に影響を及ぼす可能性がある。ハブベアリング59の軌道溝の変形が、ハブベアリング回転時の音響および振動に影響を及ぼす可能性がある。
(2)ユニット支持部材62の転舵軸支持軸受保持部62aが内側に撓む。このため、転舵軸支持軸受の予圧力を調整する際、調整用シムの厚さを、転舵軸支持軸受保持部62aが内側に撓む分見込む必要がある。しかし、撓み量の推定が難しく、予圧力調整の精度に影響を及ぼす可能性がある。
【0059】
(3)転舵軸支持軸受保持部62aが内側に撓むため、転舵軸支持軸受である円すいころ軸受58の内輪(軸)と外輪(ハウジング)の間でミスアライメント(傾き)が生じる。これにより転舵軸支持軸受の転走面と転動体の当りがエッジ当りになりやすく、転動疲労寿命に影響を及ぼす可能性がある。
(4)転舵軸支持軸受保持部62aが内側に撓み、付け根の部分に初期応力が発生する。そのため、縁石乗上げ等、路面から過大な外力が入力された場合に、より大きな応力が付け根の部分に生じる。したがって、強度を補うため、より強固に設計し、体格が大きくなる。
【0060】
一方、
図5に示す第1の実施形態では、接触角が互いに逆向きとなる一対の円すいころ軸受38A,38Aが、ハブベアリング15の外輪19から突出する上下の転舵軸部16b,16cにおける、上側の転舵軸部16bに隣接する形で設けられ、支持剛性を高めるべく予圧が与えられる。円すいころ軸受38A,38Aを背面合わせに配置し、車両の重量と路面からの荷重がハブユニット1に作用した場合でも予圧抜けが無いように初期予圧が設定されている。これと共に、下側の転舵軸部16cには、ラジアル方向の荷重を受ける針状ころ軸受39Aが設けられている。
【0061】
本構成により、回転支持部品4および転舵軸部16b,16cの剛性を落とすことなく、ハブベアリング15の外輪19およびユニット支持部材3における、回転支持部材4,4の保持部に作用する力を無くし、上記の懸念(1)~(4)を払拭することで、操舵機能付ハブユニット1の信頼性および組立性の向上を図ることが可能となる。
【0062】
詳述すると、上側の転舵軸部16bに設けられた固定側軸受38が、両方向のアキシアル荷重を受ける。このため、固定側軸受38の予圧力は一方の転舵軸部16bに設けた固定側軸受間にのみ作用し、ハブユニット本体2および転舵軸支持軸受保持部には作用しない。よって、上下の転舵軸部16b,16cに引張荷重が作用せずハブユニット本体2の変形を抑制することができる。上下の転舵軸支持軸受保持部には前記引張荷重の反力も作用しないことから、予圧の調整等を伴う組立作業を簡易化できるうえ、固定側軸受38である円すいころ軸受38Aの内外輪間のミスアライメント等を抑制しさらに転舵軸支持軸受保持部の一部に応力が発生することを抑制し得る。したがって、操舵機能付ハブユニット1の信頼性および組立性の向上を図ることができる。
【0063】
予圧付与手段46により固定側軸受38に予圧を与えることで回転支持部品4および転舵軸部16bの剛性を高めて車輪9の支持剛性を高め、正確な操舵を行うことが可能となる。よって、操縦安定性の向上を図ることができる。一方の転舵軸部16bに設けた固定側軸受間のみに予圧を与えるため、上下の転舵軸支持軸受保持部の撓みがなく固定側軸受38への予圧調整を簡易化し得る。固定側軸受38として、逆向きの接触角を有する一対の円すいころ軸受38A,38Aを採用した場合、例えば、同サイズの一対のアンギュラ玉軸受等よりも負荷容量を高め、固定側軸受38の剛性をより確実に高めることができる。
【0064】
回転支持部材4は、下側の転舵軸部16cに設けられた自由側軸受39を有し、自由側軸受39はラジアル荷重のみを受ける。この場合、自由側軸受39に予圧を与える手段等が不要となる分スペースを低減することができる。これにより操舵機能付ハブユニット1を設置する汎用性を高めることが可能となる。自由側軸受39が針状ころ軸受39Aである場合、負荷荷重が高くハブユニット全体のコンパクト化を図れる。
【0065】
本構成では、予圧を与え、ラジアル荷重およびアキシアル荷重を受け止める固定側軸受38を上側の転舵軸部16bに配置し、ラジアル荷重のみを受け止める自由側軸受39を下側の転舵軸部16cに配置したが、車両のレイアウトまたはサスペンションの形式によっては、上下逆に配置してもよい(図示せず)。後述する他の実施形態についても同様である。
【0066】
<他の実施形態について>
以下の説明においては、各実施形態で先行して説明している事項に対応している部分には同一の参照符号を付し、重複する説明を略する。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、特に記載のない限り先行して説明している実施形態と同様とする。同一の構成は同一の作用効果を奏する。各実施形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0067】
[第2の実施形態:
図7]
上側の転舵軸部16bに配置した一対の円すいころ軸受38A,38Aを、
図7のように、1つの複列円すいころ軸受38Bに代えてもよい。ユニット支持部材3における、上側の転舵軸部16bに対向する外輪嵌合面には、複列円すいころ軸受38Bの外輪42の上端面が当接する環状凸部63が設けられている。外輪42の下端面は、止め輪64により外輪嵌合面に位置決めされる。予圧付与手段46は、フランジ付きのボルト23Aであって、内輪40の端面にフランジを当接させた状態で雌ねじ部47にボルト23Aを螺合することで内輪40の端面に押圧力を付与し得る。これにより固定側軸受である複列円すいころ軸受38Bに予圧を与え得る。
【0068】
第2の実施形態の構成によると、固定側軸受として複列円すいころ軸受38Bを採用した。このため、軸方向の寸法が短縮化され、より転舵軸部16b,16cのレイアウトが容易に行えると共に、予圧管理が軸受単体の予圧管理で予め可能なため、アッセンブリの組立状態での調整が不要となり、生産性および信頼性の向上が期待できる。
本構成では、第1の実施形態と同様に、フランジ無しのボルトの頭部と内輪40の端面との間に円板状の押圧部材を介在させて複列円すいころ軸受38Bに予圧を与えてもよい。
【0069】
[第3の実施形態:
図8]
図8に示すように、上側の転舵軸部16bに、固定側軸受38として複列アンギュラ玉軸受38Cを配置してもよく、一対のアンギュラ玉軸受を背面合わせで組み合わせて配置してもよい。
固定側軸受38は、円すいころ軸受に限るものではなく、ラジアル荷重および両方向のアキシアル荷重を受け止めるアンギュラ玉軸受、球面滑り軸受等の他形式の軸受を用いることも可能であり、車格(重量)、最大負荷(外力)、使用環境(路面)等によって適宜選択されることが好ましい。
下側の転舵軸部16cに、自由側軸受として深溝玉軸受、円筒ころ軸受、単列のアンギュラ玉軸受、球面滑り軸受等を配置することも可能である。
【0070】
<非操舵輪への適用について>
操舵機能付ハブユニット1は、非操舵輪に対して用いてもよい。例えば、
図10に示すように、前輪操舵の車両において、後輪9Rを支持する懸架装置12Rの車輪用軸受設置部となる足回りフレーム部品6Rに設定し、後輪操舵に用いてもよい。非操舵輪の操舵機能付ハブユニット1において、車両制御の要求によっては、前述の微小な操舵角度に限らず例えば10°~20°等の比較的大きな角度を左右輪個別に採ることもある。
その他
図11に示すように、操舵機能付ハブユニット1を、操舵輪である左右の前輪9F,9Fおよび非操舵輪である左右の後輪9R,9Rにそれぞれ用いてもよい。
【0071】
<操舵システムについて>
図1に示すように、操舵システムは、いずれかの実施形態に係る操舵機能付ハブユニット1と、操舵機能付ハブユニット1の操舵用アクチュエータ5を制御する制御装置29とを備える。制御装置29は、操舵制御部30と、アクチュエータ駆動制御部31とを有する。操舵制御部30は、上位制御部32から与えられた補助操舵角指令信号(操舵角指令信号)に応じた電流指令信号を出力する。
【0072】
上位制御部32は操舵制御部30の上位の制御手段であり、上位制御部32として、例えば、車両全般を制御する電気制御ユニット(Vehicle Control Unit,略称VCU)が適用される。アクチュエータ駆動制御部31は、操舵制御部30から入力された電流指令信号に応じた電流を出力して操舵用アクチュエータ5を駆動制御する。アクチュエータ駆動制御部31は、モータ26のコイルに供給する電力を制御する。アクチュエータ駆動制御部31は、例えば、図示外のスイッチ素子を用いたハーフブリッジ回路を構成し、前記スイッチ素子のON-OFFデューティ比によりモータ印加電圧を決定するPWM制御を行う。これにより、運転者のハンドル操作による操舵に付加して、車輪を微小に角度変化することができる。直線走行時にも、それぞれの場面に合わせてトー角の量を調整し得る。
【0073】
操舵用アクチュエータは、モータを備えていない構成としてもよい。具体的には、操舵用アクチュエータは、例えば、油圧、空圧等により駆動するアクチュエータを採用し得る。
操舵システムは、運転者のハンドル操作に代えて、図示外の自動運転装置、運転支援装置の指令等によって操舵用アクチュエータ5,5を動作させてもよい。
【0074】
以上、本発明の実施形態を説明したが、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0075】
1…操舵機能付ハブユニット、2…ハブユニット本体、3…ユニット支持部材、4…回転支持部材、5…操舵用アクチュエータ、6…ナックル(足回りフレーム部品)、6R…足回りフレーム部品、9…車輪、9F…前輪、9R…後輪、10…車両、12,12R…懸架装置、15…ハブベアリング、16a…円環部、16b,16c…転舵軸部、19…外輪(外方部材)、29…制御装置、30…操舵制御部、31…アクチュエータ駆動制御部、38…固定側軸受、38A…円すいころ軸受、39…自由側軸受、39A…針状ころ軸受、46…予圧付与手段、Br…転舵軸付ハブユニット