(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178765
(43)【公開日】2023-12-18
(54)【発明の名称】操舵機能付ハブユニット、操舵システムおよび車両
(51)【国際特許分類】
B62D 5/04 20060101AFI20231211BHJP
B62D 7/14 20060101ALI20231211BHJP
【FI】
B62D5/04
B62D7/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022091648
(22)【出願日】2022-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】石原 教雄
【テーマコード(参考)】
3D034
3D333
【Fターム(参考)】
3D034AA04
3D034BA04
3D034BC04
3D034BC26
3D034BC28
3D034BD03
3D034BD06
3D034CA07
3D034CC04
3D034CC09
3D034CC12
3D034CC13
3D034CD13
3D333CB02
3D333CB28
3D333CB39
3D333CB42
3D333CC03
3D333CC10
3D333CC15
3D333CE04
(57)【要約】
【課題】システムのエネルギー損失および部品点数を抑え、コストを低減しつつハブユニット全体を小型化することで、ばね下重量の増加を抑えて乗り心地の悪化を防ぐことができる操舵機能付ハブユニット、操舵システムおよび車両を提供する。
【解決手段】ハブユニット1は、車輪9を回転支持するハブベアリング15を有するハブユニット本体2と、懸架装置の足回りフレーム部品に設けられハブユニット本体2を転舵軸心A回りに回転自在に支持するユニット支持部材3と、ハブユニット本体2を転舵軸A心回りに回転駆動させる操舵用アクチュエータ5とを備える。操舵用アクチュエータ5は、モータ26と、モータ回転軸26aの回転運動を直動運動に変換するための変換部25cを含む変換機構25とを有する。モータ回転軸26aと、変換機構25の変換部25cの回転軸とを同一直線上に配置した。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を回転支持するハブベアリングを有するハブユニット本体と、懸架装置の足回りフレーム部品に設けられ前記ハブユニット本体を転舵軸心回りに回転自在に支持するユニット支持部材と、前記ハブユニット本体を前記転舵軸心回りに回転駆動させる操舵用アクチュエータと、を備え、前記操舵用アクチュエータは、モータと、モータ回転軸の回転運動を直動運動に変換するための変換部を含む変換機構とを有する操舵機能付ハブユニットであって、
前記モータ回転軸と、前記変換部の回転軸とが同一直線上に配置されている操舵機能付ハブユニット。
【請求項2】
請求項1に記載の操舵機能付ハブユニットにおいて、前記モータは中空モータであり、前記変換機構がモータケース内に収容された操舵機能付ハブユニット。
【請求項3】
請求項2に記載の操舵機能付ハブユニットにおいて、前記中空モータは、ブラシレスモータまたはブラシ付きモータである操舵機能付ハブユニット。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の操舵機能付ハブユニットにおいて、前記変換機構は、前記モータ回転軸の中空孔に圧入されたナット部と、前記ナット部に螺合して進退可能なねじ軸とを有する操舵機能付ハブユニット。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の操舵機能付ハブユニットと、この操舵機能付ハブユニットの前記操舵用アクチュエータを制御する制御装置とを備えた操舵システムであって、前記制御装置は、与えられた操舵角指令信号に応じた電流指令信号を出力する操舵制御部と、この操舵制御部から入力された電流指令信号に応じた電流を出力して前記操舵用アクチュエータを駆動制御するアクチュエータ駆動制御部とを有する操舵システム。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載の操舵機能付ハブユニットを用いて前輪および後輪のいずれか一方または両方が支持された車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵機能付ハブユニット、操舵システムおよび車両に関し、走行状況に合わせ左右の車輪を適切な操舵角に制御することで、燃費の改善および走行安定性等の向上を図る技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車両において補助的な操舵機能を備えた技術(特許文献1,2)が提案されている。
しかし特許文献1では、アクチュエータを2個使って複雑な構成となっており、全体のサイズが大きくなり重くなる。
特許文献2は、転舵軸に対しハブベアリングを片持ち支持しているため、剛性が低下し、過大な走行Gの発生によってステアリングジオメトリが変化してしまう可能性がある。
転舵軸上に減速機を設けた場合、モータを含めてサイズが大きくなる。全体のサイズが大きくなると、車輪の内周部に全体を配置することが困難となる。減速比の大きい減速機を設けた場合、応答性が悪化する。
【0003】
従来の補助的な操舵機能を備えた機構は、車両において車輪のトー角またはキャンバー角を任意に変更することを目的としているため、モータおよび減速機構が複数必要になり複雑な構成となっている。従来の機構は、剛性を確保することが困難であり、剛性を確保するためには大型とする必要があり重くなる。
キングピン軸と転舵軸が一致する場合は、構成要素部品がハブユニットの後方(車体側)に配置されるために、全体のサイズが大きくなり重くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】独国特許出願公開第102012206337号明細書
【特許文献2】特開2014-61744号公報
【特許文献3】特開2019-6226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のように、モータを複数個使用する場合、モータ個数の増大によるコスト増が生じるだけでなく、ユニット全体が重くなり、ばね下重量が増えることで乗り心地が悪化する恐れがある。
【0006】
特許文献3は、操舵用アクチュエータとして、モータと、このモータの回転を減速する減速機を平行に配置している。このため、減速機のタイミングベルト等の張力により、モータ軸支持ベアリングにラジアル方向の負荷が掛かってしまい、モータ出力を損失する恐れがある。特許文献3では、構成部品の部品点数も多いため、ハブユニット全体が重くなり、ばね下重量が増えることで乗り心地が悪化する恐れがある。
【0007】
本発明の目的は、システムのエネルギー損失および部品点数を抑え、コストを低減しつつハブユニット全体を小型化することで、ばね下重量の増加を抑えて乗り心地の悪化を防ぐことができる操舵機能付ハブユニット、操舵システムおよび車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の操舵機能付ハブユニットは、車輪を回転支持するハブベアリングを有するハブユニット本体と、懸架装置の足回りフレーム部品に設けられ前記ハブユニット本体を転舵軸心回りに回転自在に支持するユニット支持部材と、前記ハブユニット本体を前記転舵軸心回りに回転駆動させる操舵用アクチュエータと、を備え、前記操舵用アクチュエータは、モータと、モータ回転軸の回転運動を直動運動に変換するための変換部を含む変換機構とを有する操舵機能付ハブユニットであって、
前記モータ回転軸と、前記変換部の回転軸とが同一直線上に配置されている。
前記「同一直線上に配置」は、例えば、モータ回転軸、変換部の寸法精度等に起因する同軸度公差を許容する。
【0009】
この構成によると、モータ回転軸と、変換機構の変換部の回転軸とが同一直線上に配置されたため、モータと減速機を平行に配置した従来技術等よりも、構造を簡単化してシステムのエネルギー損失および部品点数を抑えコストを低減しつつハブユニット全体を小型化することができる。ハブユニット全体を小型化できるため、ばね下重量の増加を抑えて乗り心地の悪化を防ぐことができる。
【0010】
前記モータは中空モータであり、前記変換機構がモータケース内に収容されてもよい。この場合、モータおよび変換機構を有する操舵用アクチュエータを準組立品として容易に取り扱うことができ、ハブユニットの組立を簡単化できる。また、モータと減速機を平行に配置した従来技術等よりも、部品点数の低減を図れるうえコンパクト化することができる。
【0011】
前記中空モータは、ブラシレスモータまたはブラシ付きモータであってもよい。中空モータとしてブラシレスモータを適用した場合、例えば、ロータの回転角度をきめ細かく制御することが可能となる。中空モータとしてブラシ付きモータを適用した場合、小型化が容易である。
【0012】
前記変換機構は、前記モータ回転軸の中空孔に圧入されたナット部と、前記ナット部に螺合して進退可能なねじ軸とを有してもよい。この場合、操舵用アクチュエータを確実にコンパクト化することができ、車両の他の部品との干渉を防ぐことができる。これにより操舵機能付きハブユニットの汎用性を高めることができる。
【0013】
本発明の操舵システムは、本発明の上記いずれかの構成の操舵機能付ハブユニットと、この操舵機能付ハブユニットの前記操舵用アクチュエータを制御する制御装置とを備えた操舵システムであって、前記制御装置は、与えられた操舵角指令信号に応じた電流指令信号を出力する操舵制御部と、この操舵制御部から入力された電流指令信号に応じた電流を出力して前記操舵用アクチュエータを駆動制御するアクチュエータ駆動制御部とを有する。
【0014】
この構成によると、操舵制御部は、与えられた操舵角指令信号に応じた電流指令信号を出力する。アクチュエータ駆動制御部は、操舵制御部から入力された電流指令信号に応じた電流を出力して操舵用アクチュエータを駆動制御する。したがって、運転者のハンドル操作による操舵に付加して車輪角度を任意に変更することができる。
【0015】
本発明の車両は、本発明の上記いずれかの構成の操舵機能付ハブユニットを用いて前輪および後輪のいずれか一方または両方が支持される。このため、本発明の操舵機能付ハブユニットにつき前述した各効果が得られる。前輪は一般的に操舵輪とされるが、操舵輪に、本発明の操舵機能付ハブユニットを適用した場合は、走行中におけるトー角調整に効果的である。後輪は一般的に非操舵輪とされるが、非操舵輪に適用した場合は、非操舵輪の若干の操舵によって低速走行時における最小回転半径の低減および高速走行時における車両安定性の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の操舵機能付ハブユニットは、モータ回転軸と、変換機構の変換部の回転軸とを同一直線上に配置したため、モータと減速機を平行に配置した従来技術等よりも、構造を簡単化してシステムのエネルギー損失および部品点数を抑えコストを低減しつつハブユニット全体を小型化することができる。ハブユニット全体を小型化できるため、ばね下重量の増加を抑えて乗り心地の悪化を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る操舵機能付ハブユニットの外観を示す斜視図である。
【
図2】同操舵機能付ハブユニットおよびその周辺の構成を示す水平断面図である。
【
図6】本発明の第2の実施形態の操舵機能付ハブユニットの要部の概略断面図である。
【
図7】本発明のいずれかの実施形態の操舵機能付ハブユニットを備えた車両の模式平面図である。
【
図8】本発明のいずれかの実施形態の操舵機能付ハブユニットを備えた車両の他の例の模式平面図である。
【
図9】本発明のいずれかの実施形態の操舵機能付ハブユニットを備えた車両のその他の例の模式平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[第1の実施形態]
本発明の実施形態に係る操舵機能付ハブユニットを
図1ないし
図5および
図7と共に説明する。
図1に示すように、操舵機能付ハブユニット1は、ハブユニット本体2と、ユニット支持部材3と、操舵用アクチュエータ5とを備える。
図7に示すように、本実施形態では、操舵機能付ハブユニット1は、トーションビーム式の懸架装置12Rで支持される左右の後輪9R,9Rを各輪独立して操舵する機能を有し、前輪操舵付きの車両10の後輪9R,9Rに適用される。懸架装置は、トーションビーム式のサスペンションに限定されるものではなく、マルチリンク式サスペンション等他のサスペンションを適用可能である。
【0019】
操舵機能付ハブユニット1は、ハンドル11aの操作等による左右の前輪9F,9Fの操舵と共に、左右の後輪9R,9Rを微小な角度(約±5deg)独立して操舵可能である。但し、操舵機能付ハブユニット1において、車両制御の要求によっては、前記微小な角度に限らず例えば10°~20°等の比較的大きな角度を左右輪個別に採ることもある。
【0020】
懸架装置12Rの左右両側部には、
図1に示すユニット支持部材3がそれぞれ取り付けられている。例えば、
図7に示す懸架装置12Rにおける左右のトレーリングアームの取付部(足回りフレーム部品)12Raに、
図1のユニット支持部材3がそれぞれ取り付けられる。
図2に示すように、ユニット支持部材3は、例えば、平板状の部材から成る。ユニット支持部材3のインボード側ISに、操舵用アクチュエータ5が設けられ、ユニット支持部材3のアウトボード側OSに、ハブユニット本体2が設けられる。操舵機能付ハブユニット1を車両に搭載した状態で、車両の車幅方向外側をアウトボード側OSといい、車両の車幅方向中央側をインボード側ISという。操舵機能付ハブユニット1を単に、ハブユニット1と言う場合がある。
【0021】
ハブユニット本体2と操舵用アクチュエータ5とはジョイント部8により連結されている。通常、ジョイント部8は、防水、防塵のためにブーツが取り付けられている。
図5に示すように、ハブユニット本体2は、車輪の回転軸心Oに直交し且つ上下方向に延びる転舵軸心A回りに回転自在なように、上下二箇所で転舵軸支持軸受4,4を介してユニット支持部材3に支持されている。
図2に示すように、車輪9はホイール9aとタイヤ9bとを備える。
【0022】
<ハブユニット本体2について>
ハブユニット本体2は、車輪9を回転支持するハブベアリング15と、
図5に示す上下の転舵軸部16b,16bと、
図2に示す操舵力受け部であるアーム部17とを備える。ハブベアリング15は、内方部材である内輪18と、外方部材である外輪19と、これら内外輪18,19間に介在したボール等の転動体20と、転動体20を保持する保持器Rtとを有し、車体側の部材と車輪9とを繋ぎ、車輪9を滑らかに回転させる。
【0023】
ハブベアリング15は、外輪19が固定輪、内輪18が回転輪となり、転動体20が複列とされたアンギュラ玉軸受とされている。内輪18は、ハブフランジ18aaを有しアウトボード側の軌道面を構成するハブ輪部18aと、インボード側の軌道面を構成する内輪部18bとを有する。ハブフランジ18aaに、車輪9のホイール9aがブレーキロータ21aと重なり状態でボルト固定されている。内輪18は回転軸心O回りに回転する。
【0024】
図5に示す上下の転舵軸部16b,16bは、外輪19の外周から上下に突出して設けられたトラニオン軸状である。本例では、上下の転舵軸部16b,16bは、外輪19に一体に形成されている。前記「一体に形成されている」とは、各転舵軸部16bと外輪19とが、複数の要素を結合したものではなく単一の材料から例えば鍛造、機械加工等により単独の物の一部として成形されたことを意味する。
外輪19の外周面に嵌合された円環部を備え、この円環部の外周から上下に突出して設けられたトラニオン軸状の転舵軸部16b,16bであってもよい。
【0025】
図2に示すように、ブレーキは、ブレーキロータ21aと、図示外のブレーキキャリパとを有する。前記ブレーキキャリパは上下二箇所のブレーキキャリパ取付部22(
図3)に取付けられる。上下二箇所のブレーキキャリパ取付部22は、外輪19の外周面におけるインボード側端部からアーム状に突出して設けられている。よってハブベアリング15とブレーキキャリパ取付部22は、一体に操舵する。
【0026】
<転舵軸支持軸受>
図5に示すように、各転舵軸支持軸受4は転がり軸受であり、転がり軸受の例として円すいころ軸受が適用されている。円すいころ軸受は、内方部材である内輪4aと、外方部材である外輪4bと、複数の転動体である円すいころ4cと、保持器4dとを有する。内輪4aは転舵軸部16bの外周に嵌合され、外輪4bは保持部材Bhに嵌合されている。内外輪4a,4b間に複数の円すいころ4cが介在し、これら円すいころ4cは保持器4dにより保持される。各転舵軸支持軸受4は、
図2に示すホイール9a内の幅方向中間付近に配置される。
【0027】
図5のように、上下の転舵軸部16b,16bは、それぞれユニット支持部材3に設けられた上下の保持部材Bh,Bhの軸受嵌合凹部13,13にそれぞれ嵌合する上下一対の転舵軸支持軸受4,4を介して、ユニット支持部材3に支持されている。各保持部材Bhは、外輪4bの外周面が嵌合される略円筒形状の保持部材本体部Bbを有する。
【0028】
図1に示すように、上下の保持部材Bh,Bhには、上下の保持部材本体部Bb,Bb同士を互いに連結する一対のビームBm,Bmが設けられている。各ビームBmはそれぞれ上下方向に延び、
図4に示す長手方向上端部が上側の保持部材本体部Bbのねじ部にボルト33で締結され、
図1に示す長手方向下端部が下側の保持部材本体部Bbのねじ部にボルト33で締結される。これにより転舵軸部16b(
図5)の剛性をより高め得る。
【0029】
図5に示すように、各転舵軸部16bには、転舵軸心Aに沿って延びる雌ねじ部がそれぞれ形成され、この雌ねじ部に螺合するボルト23が設けられている。ボルト23は、フランジ付きのボルト23であって、内輪4aの端面にフランジを当接させた状態で前記雌ねじ部に螺合することで内輪4aの端面に押圧力を付与し得る。これにより各転舵軸支持軸受4にそれぞれ予圧を与えることで各転舵軸支持軸受4の剛性を高め得る。車両の重量がハブユニット1に作用した場合でも初期予圧が抜けないように押圧力が設定される。
【0030】
転舵軸支持軸受4は、円すいころ軸受に限るものではなく、最大負荷等の使用条件によってはアンギュラ玉軸受、球面滑り軸受等の他の形式の軸受を用いることも可能である。その場合も、上記と同様に予圧を与えることができる。フランジ無しのボルトの頭部と内輪4aの端面との間に円板状の押圧部材であるシム(図示せず)を介在させ、前記雌ねじ部に螺合するボルトにより、内輪4aの端面に押圧力を付与することで、各転舵軸支持軸受4にそれぞれ予圧を与えてもよい。
【0031】
<操舵用アクチュエータ5>
図2に示すように、操舵用アクチュエータ5は、ハブユニット本体2を転舵軸心A回りに回転駆動させる機能を有する。操舵用アクチュエータ5は、モータ26と、このモータ26のモータ回転軸(「モータ出力軸」とも称される)26aの回転運動を直動運動に変換するための変換部25cを含む変換機構25とを有する。モータ26の回転駆動力は、減速機を介さず直接に直動機構である変換機構25に伝達される。
【0032】
<中空モータ>
モータ26は、モータ回転軸26aが中空構造でモータケース46に内蔵される中空モータである。モータ26としては、例えば、直流電動機であるブラシ付きモータが適用される。モータ26は、ユニット支持部材3に取り付けられるモータケース46と、モータケース46の内周面に固定されるステータ26bと、ステータ26bの径方向内方にラジアルギャップを介して位置するモータ回転軸(ロータ)26aとを有する。
【0033】
モータ回転軸26aは、モータケース46内に嵌合された転がり軸受34a,34bにより正逆に回転自在に支持される。モータ26は、モータ回転軸26aが車輪9の回転軸心Oと平行になるようにユニット支持部材3に支持される。モータ26はブラシレスモータを適用してもよい。その他モータ26は、例えば、永久磁石型同期モータまたは誘導モータであってもよい。
【0034】
<変換機構>
変換機構25はモータケース46内に収容される。変換機構25は、例えば、台形ねじの滑りねじ式の送りねじ機構38と、回転固定部材43とを有する。送りねじ機構38は、モータ回転軸26aの中空孔26aaに圧入されたナット部(変換部)25cと、ナット部25cの内周に螺合して軸方向に進退可能なねじ軸25aとを有する。
【0035】
この例では、ナット部25cが、モータ26の回転運動を直動運動に変換するための変換部に相当する。モータ回転軸26aの中空孔26aaにナット部25cの外周面が圧入されたことにより、モータ回転軸26aとナット部25cとは、単一の軸であるねじ軸25aに螺合状態で同軸に配置される。つまりモータ回転軸26aと、ナット部25cの回転軸とが同一直線上に配置される。
【0036】
特許文献3の従来構成では、モータ回転軸を回転支持する転がり軸受とは別に、ナット部を回転支持する転がり軸受が必要であるが、本実施形態ではモータ回転軸26aにナット部25cが圧入されて固定されたため、ナット部専用の転がり軸受が不要となる。換言すれば、モータ回転軸用の転がり軸受34a,34bをナット部25cの回転支持用の転がり軸受として兼用し得る。台形ねじにはグリースが塗布されている。ナット部25cおよびねじ軸25aは、台形ねじを構成するねじ溝およびねじ山を有するため、タイヤ9bからの逆入力の防止効果を高め得る。
【0037】
回転固定部材43は、出力ロッドであるねじ軸25aを、変換機構25の固定部分であるモータケース46に対して回り止めする軸状部材である。回転固定部材43は、ねじ軸25aの軸方向に直交する方向に延びるように、ねじ軸25aに貫通状に嵌合固定されている。回転固定部材43の外周における軸方向両端部には、すべり軸受が嵌合されている。
【0038】
モータケース46内には、各すべり軸受の外周面を、ねじ軸25aの軸方向に沿ってそれぞれ案内する案内溝35が形成されている。回転固定部材43は、すべり軸受を介して、モータケース46の案内溝35に摺動自在に接触する。よって回転固定部材43を、すべり軸受を介してモータケース46の案内溝35に沿って摺動させることで、ねじ軸25aを軸方向に往復運動させ得る。
【0039】
モータ26および変換機構25を備えた操舵用アクチュエータ5は、準組立品として組み立てられユニット支持部材3にボルト等により着脱自在に取り付けられる。ユニット支持部材3には、モータケース46をユニット支持部材3における所定位置に支持する嵌合孔36が形成され、ねじ軸25aの先端部の進退を許す貫通孔ha等が形成されている。変換機構25は、台形ねじに代えて三角ねじを用いてもよく、その他図示外のボールねじ式またはラックアンドピニオン機構等の変換機構としてもよい。変換機構としてラックアンドピニオン機構を採用した場合、ピニオンギヤが、モータの回転運動を直動運動に変換するための変換部に相当する。
【0040】
<センサ類>
車輪9の角度を正確に制御するためには、例えば、モータ26の回転角度または変換機構25のねじ軸25aの軸方向位置を把握することが求められる。そこでハブユニット1には、以下の位置センサおよび角度センサのいずれか一方または両方が設けられる。
位置センサは、例えば、モータケース46に設けられ、変換機構25のねじ軸25aの軸方向の移動量を検出し位置センサ値として出力可能である。位置センサは、磁気式、光学式、静電容量式等の各種のセンサを用いることができる。
【0041】
モータ26の回転角度を検出する角度センサは、例えば、モータ回転軸26aに固定された被検出部と、この被検出部に所定のギャップを隔ててモータケース46に固定され前記被検出部を検出するセンサ部とを有する。角度センサとして、例えば、レゾルバが適用される。
【0042】
<作用効果>
以上説明したハブユニット1によれば、車輪9を支持するハブベアリング15を含むハブユニット本体2を、操舵用アクチュエータ5の駆動により、転舵軸心A回りに自由に回転させることができる。ハブユニット本体2は、操舵用アクチュエータ5のねじ軸25aをモータ26の駆動により進退させることで、ねじ軸25aにジョイント部8を介して連結されたアーム部17により転舵軸心A回りに回転させられる。
【0043】
操舵用アクチュエータ5によりハブベアリング15を転舵軸心A回りに一定の範囲で自由に回転させることができ、車両の走行状況に応じて、例えば、車輪9のトー角を任意に変更することができる。
ハブユニット1の構成を前輪に適用した場合、
図8のステアリング装置11により運転者のハンドル11aの操作で、
図2に示す車輪9はナックル6(
図8)およびユニット支持部材3と共に操舵されるが、この操舵に付加する形で転舵軸心A回りに僅かな角度の補助操舵を車輪毎に独立して行える。補助操舵の角度については、車両の運動性能の向上、走行の安定性等の向上を図るにつき、僅かな角度で足り、補助操舵可能角度が±5度以下であっても十分に足りる。補助操舵の角度は操舵用アクチュエータ5の制御により行う。
【0044】
旋回走行時に、走行速度に応じて左右輪の舵角差を変えることができる。例えば、高速域の旋回走行においてはパラレルジオメトリとし、低速域の旋回走行においてはアッカーマンジオメトリとする等、走行中にステアリングジオメトリを変化させることができる。このように走行中に車輪角度を任意に変更することができるため、車両の運動性能を向上させ、安定して走行することが可能となる。左右輪の操舵角度を適切に変えることで、旋回走行における車両の旋回半径を小さくし、小回り性能を向上させることもできる。
直線走行時にも、それぞれの場面に合わせてトー角を調整することで、低速時にはタイヤを前後方向に真直ぐに向け抵抗を小さくし燃費を悪化させることなく、高速時にはタイヤ角度をトーインとし走行安定性を確保する等調整が可能である。
【0045】
ハブユニット1の構成を後輪に適用した場合は、後輪の舵角を前輪と同じ位相にすると、操舵時に発生するヨーを抑え、車両の安定性を高めることができる。さらに直線走行時にも左右独立でトー角を調整することで、走行安定性を確保することができる。
これらの機構により車両の運動性能を向上させることを目的としているが、乗り心地の悪化を防ぐためには、ばね下重量の増加を抑えることが望ましい。
【0046】
ハブユニット1によると、モータ回転軸26aと、変換機構25のナット部25cの回転軸とが同一直線上に配置されたため、モータと減速機を平行に配置した従来技術等よりも、構造を簡単化してシステムのエネルギー損失および部品点数を抑えコストを低減しつつハブユニット全体を小型化することができる。ハブユニット全体を小型化できるため、ばね下重量の増加を抑えて乗り心地の悪化を防ぐことができる。
【0047】
モータ26は中空モータであり、変換機構25がモータケース46内に収容されている。このため、モータ26および変換機構25を有する操舵用アクチュエータ5を準組立品として容易に取り扱うことができ、ハブユニット1の組立を簡単化できる。また、モータと減速機を平行に配置した従来技術等よりも、部品点数の低減を図れるうえコンパクト化することができる。
【0048】
ハブユニット1によると、モータ26の回転を減速する減速機が不要となるうえ、モータ回転軸用の転がり軸受34a,34bをナット部25cの回転支持用の転がり軸受として兼用し得る。このため、部品点数の低減を図り減速機付きの従来構成よりも応答性の向上を図れる。
ナット部25cを直接回転支持する軸受を省略できるため、ねじ軸25aの短縮化を図ると共にねじ軸25aの一端部を支持するすべり軸受等が不要となる。このため、部品点数の低減を図り操舵用アクチュエータ5のコンパクト化を図れる。またナット部25cを直接回転支持する軸受を省略できるため、同軸受に予圧を付与する手段が不要となる。これにより部品点数の低減を図り操舵用アクチュエータ5のコンパクト化を図れる。
したがって、ハブユニット1全体のサイズをコンパクト化できるため、車輪9の内周部にハブユニット1を配置することが容易となりハブユニット1の汎用性を高めることが可能となる。
【0049】
<他の実施形態について>
以下の説明においては、各実施形態で先行して説明している事項に対応している部分には同一の参照符号を付し、重複する説明を略する。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、特に記載のない限り先行して説明している実施形態と同様とする。同一の構成は同一の作用効果を奏する。各実施形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0050】
[第2の実施形態:
図6(中実軸型モータ)]
中空モータに代えて、
図6に示すように、中実軸型モータ26Aを採用してもよい。この例では、中実軸型モータ26Aのモータケース46から軸方向に突出するモータ回転軸26aに同軸にナット部25cの基端部が連結されている。この実施形態においても、モータ回転軸26aと、ナット部25cの回転軸とが同一直線上に配置される。モータ回転軸26aにナット部25cが一体に設けられてもよい。前記「一体に設けられ」とは、モータ回転軸26aとナット部25cとが、複数の要素を結合したものではなく単一の材料から例えば鍛造、機械加工等により単独の物の一部または全体として成形されたことを意味する。
図6の構成によると、第1の実施形態に対し操舵用アクチュエータが軸方向に長くなるものの略同様の作用効果を奏する。
【0051】
図8に示すように、前輪操舵の車両において、操舵機能付ハブユニット1は、操舵輪である左右の前輪9Fに装備されてもよい。この場合、ユニット支持部材3(
図1)が、懸架装置12のナックル(足回りフレーム部品)6に一体または別体に設けられる。前記操舵機能付ハブユニット1の転舵軸心Aは、主な操舵を行うキングピン軸とは異なっている。通常の車両は、車両走行の直進安定性の向上を目的としてキングピン角度が10~20度で設定されているが、この実施形態の操舵機能付ハブユニット1は、前記キングピン角度とは別の角度(軸)の転舵軸を有する。
【0052】
図9に示すように、操舵機能付ハブユニット1を、操舵輪である左右の前輪9F,9Fおよび非操舵輪である左右の後輪9R,9Rにそれぞれ用いてもよい。
【0053】
<操舵システムについて>
図1に示すように、操舵システムは、いずれかの実施形態に係る操舵機能付ハブユニット1と、この操舵機能付ハブユニット1の操舵用アクチュエータ5を制御する制御装置29とを備える。制御装置29は、操舵制御部30と、アクチュエータ駆動制御部31とを有する。操舵制御部30は、上位制御部32から与えられた補助操舵角指令信号(操舵角指令信号)に応じた電流指令信号を出力する。
【0054】
上位制御部32は操舵制御部30の上位の制御手段であり、この上位制御部32として、例えば、車両全般を制御する電気制御ユニット(Vehicle Control Unit,略称VCU)が適用される。アクチュエータ駆動制御部31は、操舵制御部30から入力された電流指令信号に応じた電流を出力して操舵用アクチュエータ5を駆動制御する。アクチュエータ駆動制御部31は、モータ26のコイルに供給する電力を制御する。このアクチュエータ駆動制御部31は、例えば、図示外のスイッチ素子を用いたハーフブリッジ回路を構成し、前記スイッチ素子のON-OFFデューティ比によりモータ印加電圧を決定するPWM制御を行う。これにより、運転者のハンドル操作による操舵に付加して、車輪を微小に角度変化することができる。直線走行時にも、それぞれの場面に合わせてトー角の量を調整し得る。
【0055】
操舵システムは、運転者のハンドル操作に代えて、図示外の自動運転装置、運転支援装置の指令等によって操舵用アクチュエータ5,5を動作させてもよい。
以上、本発明の実施形態を説明したが、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0056】
1…操舵機能付ハブユニット、2…ハブユニット本体、5…操舵用アクチュエータ、9…車輪、9F…前輪、9R…後輪、10…車両、12,12R…懸架装置、12Ra…取付部(足回りフレーム部品)、15…ハブベアリング、25…変換機構、25a…ねじ軸(軸)、25c…ナット部(変換部)、26…モータ、26a…モータ回転軸、26aa…中空孔、29…制御装置、30…操舵制御部、31…アクチュエータ駆動制御部、46…モータケース