(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178770
(43)【公開日】2023-12-18
(54)【発明の名称】路面損傷検出装置、路面損傷検出方法、及び路面損傷検出プログラム
(51)【国際特許分類】
G08G 1/00 20060101AFI20231211BHJP
E01C 23/01 20060101ALI20231211BHJP
【FI】
G08G1/00 J
E01C23/01
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022091657
(22)【出願日】2022-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 陽介
(72)【発明者】
【氏名】小渕 達也
【テーマコード(参考)】
2D053
5H181
【Fターム(参考)】
2D053AA32
2D053AB03
2D053FA02
5H181AA01
5H181BB04
5H181BB13
5H181BB20
5H181FF04
5H181FF05
5H181FF07
5H181MC16
(57)【要約】
【課題】路面損傷を適切に検出することが可能な路面損傷検出装置、路面損傷検出方法、及び路面損傷検出プログラムを得る。
【解決手段】計算サーバ10は、検出した複数の車両200の各々の挙動を示す物理量の単位時間あたりの変動の、第1所定期間における複数の車両200の各々による複数の最大値の、複数の車両200についての平均値である区間平均変動、及び第1所定期間における複数の最大値の最大値である区間最大変動の各々を、第1所定期間よりも長い第2所定期間で集計し、集計した結果からノイズ成分を除去した結果に基づいて路面損傷箇所を検出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の車両の各々の挙動を示す物理量を各々検出する物理量検出部と、
前記物理量検出部が検出した物理量の単位時間あたりの変動の、第1所定期間における平均値である区間平均変動、及び前記第1所定期間における最大値である区間最大変動の各々を、前記第1所定期間よりも長い第2所定期間で集計する演算集計部と、
前記演算集計部による集計結果からノイズ成分を除去するフィルタリング部と、
前記フィルタリング部が出力した結果に基づいて路面損傷箇所を検出する路面損傷検出部と、
を含む路面損傷検出装置。
【請求項2】
前記フィルタリング部は、移動平均、ガウスフィルタ、及び深層学習によるフィルタを含むフィルタによって前記演算集計部による集計結果からノイズ成分を除去する請求項1に記載の路面損傷検出装置。
【請求項3】
前記路面損傷検出部は、前記フィルタリング部が出力した結果に含まれる、前記区間平均変動が所定の第1閾値以上で、かつ前記フィルタリング部が出力した結果に含まれる、前記区間最大変動が前記第1閾値より大きな所定の第2閾値以下の場合に路面損傷の可能性があると判定する請求項2に記載の路面損傷検出装置。
【請求項4】
前記路面損傷検出部は、前記フィルタリング部が出力した結果に含まれる、前記区間平均変動の前記第1所定期間単位での変化量が所定の変化量閾値以上の場合、及び前記第2所定期間における前記区間最大変動と前記区間平均変動との差が所定の第3閾値以上の場合のいずれかの場合に急激な路面損傷が生じたと判定する請求項3に記載の路面損傷検出装置。
【請求項5】
前記路面損傷検出部は、前記フィルタリング部が出力した結果に含まれる、前記区間平均変動の時系列での変化が、下に凸の曲線状を呈して増大する場合に路面が経年劣化していると判定し、平坦な場合は前記路面の状態は変化なしと判定し、階段状に変化している場合は前記路面の切削工事、補修、及び舗装の張替えのいずれかが実施されたと判定する請求項3に記載の路面損傷検出装置。
【請求項6】
前記物理量検出部は、前記車両の車輪速を前記物理量として検出する車輪速センサである請求項4又は5に記載の路面損傷検出装置。
【請求項7】
前記車輪速センサは、前記車両が備える4つの車輪の各々の車輪速を検出し、
前記路面損傷検出部は、前記第1所定期間において、左右一方の車輪の車輪速の単位時間あたりの変動の前記複数の車両についての平均値と、左右他方の車輪の車輪速の単位時間あたりの変動の前記複数の車両についての平均値との差が、所定の第4閾値以上の場合に、路面損傷があると判定する請求項6に記載の路面損傷検出装置。
【請求項8】
前記物理量検出部は、前記車両の姿勢角の角速度、及び前記車両の加速度を前記物理量として検出する慣性計測装置である請求項4又は5に記載の路面損傷検出装置。
【請求項9】
前記物理量検出部は、前記車両の操舵角を前記物理量として検出する操舵角センサである請求項4又は5に記載の路面損傷検出装置。
【請求項10】
前記物理量検出部は、前記車両の減速を示すスロットル開度を前記物理量として検出するスロットルセンサである請求項4又は5に記載の路面損傷検出装置。
【請求項11】
前記物理量検出部は、前記車両の減速を示すブレーキペダルの踏力を前記物理量として検出するブレーキペダルセンサである請求項4又は5に記載の路面損傷検出装置。
【請求項12】
複数の車両の各々の挙動を示す物理量を各々検出する工程と、
前記検出した物理量の単位時間あたりの変動の、第1所定期間における平均値である区間平均変動、及び前記第1所定期間における最大値である区間最大変動の各々を、前記第1所定期間よりも長い第2所定期間で集計する工程と、
前記集計した結果からノイズ成分を除去するフィルタリング部と、
前記ノイズ成分を除去した結果に基づいて路面損傷箇所を検出する工程と、
を含む路面損傷検出方法。
【請求項13】
コンピュータを、
複数の車両の各々の挙動を示す物理量の単位時間あたりの変動の、第1所定期間における平均値である区間平均変動、及び前記第1所定期間における最大値である区間最大変動の各々を、前記第1所定期間よりも長い第2所定期間で集計する演算集計部、前記演算集計部による集計結果からノイズ成分を除去するフィルタリング部、並びに前記フィルタリング部が出力した結果に基づいて路面損傷箇所を検出する路面損傷検出部、
として機能させる路面損傷検出プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の車両の挙動に係る時系列データから路面の損傷個所を検出する路面損傷検出装置、路面損傷検出方法、及び路面損傷検出プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
道路の路面は、車両の走行等により劣化し、走行車両の車輪によって路面が進行方向に溝状に変形する轍掘れ、又は舗装が部分的に剥離して生じるポットホール等の損傷が生じ得る。特に、ポットホールは、走行車両のタイヤをパンクさせる原因になるのみならず、事故の原因にもなり得るので、逸早く発見して補修することが求められる。
【0003】
しかしながら、ポットホール等の路面損傷の発見は、主として人員が道路を点検することに依存しており、効率的とは言い難く、発生した路面損傷を迅速に発見することが容易ではない。
【0004】
特許文献1には、複数の車両の車輪速の変化に基づいて路面損傷を検出する路面損傷検出装置、路面損傷検出方法、及びプログラムの発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の発明は、主として、車輪速の最大変動が閾値以上であるか否かで路面損傷を検出している。車輪速の最大変動は、路面損傷とは別の、砂利等の一時的な落下物、マンホール、側溝の蓋、及び踏切等の構造物、並びに車両の回避挙動等によっても検出され得る。従って、路面損傷の場合と路面損傷ではない場合とを識別することが困難になるおそれがあった。
【0007】
本発明は、上記事実を考慮し、路面損傷を適切に検出することが可能な路面損傷検出装置、路面損傷検出方法、及び路面損傷検出プログラムを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために請求項1に記載の路面損傷検出装置は、複数の車両の各々の挙動を示す物理量を各々検出する物理量検出部と、前記物理量検出部が検出した物理量の単位時間あたりの変動の、第1所定期間における平均値である区間平均変動、及び前記第1所定期間における最大値である区間最大変動の各々を、前記第1所定期間よりも長い第2所定期間で集計する演算集計部と、前記演算集計部による集計結果からノイズ成分を除去するフィルタリング部と、前記フィルタリング部が出力した結果に基づいて路面損傷箇所を検出する路面損傷検出部と、を含む。
【0009】
請求項1に記載の路面損傷検出装置によれば、分析データをフィルタ処理することにより、ノイズ成分となり得る路面損傷とは別の、砂利等の一時的な落下物、マンホール、側溝の蓋、及び踏切等の構造物、並びに車両の回避挙動等によっても検出され得る顕著な物理量の変動を抑制したデータに基づいて路面損傷を検出することができる。
【0010】
請求項2に記載の路面損傷検出装置は、前記フィルタリング部は、移動平均、ガウスフィルタ、及び深層学習によるフィルタを含むフィルタによって前記演算集計部による集計結果からノイズ成分を除去する請求項1に記載の路面損傷検出装置。
【0011】
請求項2に記載の路面損傷検出装置によれば、フィルタ処理によって、処理前のデータを平滑化することにより、路面損傷の誤検出を抑制する。
【0012】
請求項3に記載の路面損傷検出装置は、前記路面損傷検出部は、前記フィルタリング部が出力した結果に含まれる、前記区間平均変動が所定の第1閾値以上で、かつ前記フィルタリング部が出力した結果に含まれる、前記区間最大変動が前記第1閾値より大きな所定の第2閾値以下の場合に路面損傷の可能性があると判定する。
【0013】
請求項3に記載の路面損傷検出装置によれば、車両の挙動を示す物理量の区間平均変動を所定の閾値と比較することにより、路面損傷の可能性を判定できる。
【0014】
請求項4に記載の路面損傷検出装置は、前記路面損傷検出部は、前記フィルタリング部が出力した結果に含まれる、前記区間平均変動の前記第1所定期間単位での変化量が所定の変化量閾値以上の場合、及び前記第2所定期間における前記区間最大変動と前記区間平均変動との差が所定の第3閾値以上の場合のいずれかの場合に急激な路面損傷が生じたと判定する。
【0015】
請求項4に記載の路面損傷検出装置によれば、車両の挙動を示す物理量の変化の態様に基づいて、急激な路面損傷の発生を検出できる。
【0016】
請求項5の路面損傷検出装置は、前記路面損傷検出部は、前記フィルタリング部が出力した結果に含まれる、前記区間平均変動の時系列での変化が、下に凸の曲線状を呈して増大する場合に路面が経年劣化していると判定し、平坦な場合は前記路面の状態は変化なしと判定し、階段状に変化している場合は前記路面の切削工事、補修、及び舗装の張替えのいずれかが実施されたと判定する。
【0017】
請求項5に記載の路面損傷検出装置によれば、車両の挙動を示す物理量の時系列変化の態様によって、路面損傷、又は路面の工事の有無を判定できる。
【0018】
請求項6の路面損傷検出装置は、前記物理量検出部は、前記車両の車輪速を前記物理量として検出する車輪速センサである。
【0019】
請求項6に記載の路面損傷検出装置によれば、車両が普遍的に備える車輪速センサで検出した車輪速に基づいて路面損傷を検出することができる。
【0020】
請求項7の路面損傷検出装置は、前記車輪速センサは、前記車両が備える4つの車輪の各々の車輪速を検出し、前記路面損傷検出部は、前記第1所定期間において、左右一方の車輪の車輪速の単位時間あたりの変動の前記複数の車両についての平均値と、左右他方の車輪の車輪速の単位時間あたりの変動の前記複数の車両についての平均値との差が、所定の第4閾値以上の場合に、路面損傷があると判定する。
【0021】
請求項7に記載の路面損傷検出装置によれば、4輪で独立して検出した車輪速の、左右の車輪での差異に基づいて路面損傷を検出することができる。
【0022】
請求項8の路面損傷検出装置は、前記物理量検出部は、前記車両の姿勢角の角速度、及び前記車両の加速度を前記物理量として検出する慣性計測装置である。
【0023】
請求項8に記載の路面損傷検出装置によれば、車両の姿勢角の角速度、及び当該車両の加速度の各々の時系列データに基づいて路面損傷を検出することができる。
【0024】
請求項9の路面損傷検出装置は、前記物理量検出部は、前記車両の操舵角を前記物理量として検出する操舵角センサである。
【0025】
請求項9に記載の路面損傷検出装置によれば、車両の操舵角の時系列データに基づいて路面損傷を検出することができる。
【0026】
請求項10の路面損傷検出装置は、前記物理量検出部は、前記車両の減速を示すスロットル開度を前記物理量として検出するスロットルセンサである。
【0027】
請求項10に記載の路面損傷検出装置によれば、車両の減速を示すスロットル開度に基づいて路面損傷を検出することができる。
【0028】
請求項11の路面損傷検出装置は、前記物理量検出部は、前記車両の減速を示すブレーキペダルの踏力を前記物理量として検出するブレーキペダルセンサである。
【0029】
請求項11に記載の路面損傷検出装置によれば、車両の減速を示すブレーキペダルの踏力に基づいて路面損傷を検出することができる。
【0030】
上記目的を達成するために請求項12の路面損傷検出方法は、複数の車両の各々の挙動を示す物理量を各々検出する工程と、前記検出した物理量の単位時間あたりの変動の、第1所定期間における平均値である区間平均変動、及び前記第1所定期間における最大値である区間最大変動の各々を、前記第1所定期間よりも長い第2所定期間で集計する工程と、前記集計した結果からノイズ成分を除去するフィルタリング部と、前記ノイズ成分を除去した結果に基づいて路面損傷箇所を検出する工程と、を含む。
【0031】
請求項12に記載の路面損傷検出方法によれば、分析データをフィルタ処理することにより、ノイズ成分となり得る路面損傷とは別の、砂利等の一時的な落下物、マンホール、側溝の蓋、及び踏切等の構造物、並びに車両の回避挙動等によっても検出され得る顕著な物理量の変動を抑制したデータに基づいて路面損傷を検出することができる。
【0032】
上記目的を達成するために請求項13の路面損傷検出プログラムは、コンピュータを、複数の車両の各々の挙動を示す物理量の単位時間あたりの変動の、第1所定期間における平均値である区間平均変動、及び前記第1所定期間における最大値である区間最大変動の各々を、前記第1所定期間よりも長い第2所定期間で集計する演算集計部、前記演算集計部による集計結果からノイズ成分を除去するフィルタリング部、並びに前記フィルタリング部が出力した結果に基づいて路面損傷箇所を検出する路面損傷検出部、として機能させる。
【0033】
請求項13に記載の路面損傷検出プログラムによれば、分析データをフィルタ処理することにより、ノイズ成分となり得る路面損傷とは別の、砂利等の一時的な落下物、マンホール、側溝の蓋、及び踏切等の構造物、並びに車両の回避挙動等によっても検出され得る顕著な物理量の変動を抑制したデータに基づいて路面損傷を検出することができる。
【発明の効果】
【0034】
以上説明したように、本発明に係る路面損傷検出装置、路面損傷検出方法、及び路面損傷検出プログラムによれば、路面損傷を適切に検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】本実施形態に係る路面損傷検出装置の構成を示す概略図である。
【
図3】本実施形態に係る計算サーバの具体的な構成の一例を示すブロック図である。
【
図4】本実施形態に係る計算サーバのCPUの機能ブロック図である。
【
図5】本実施形態に係る計算サーバの処理の一例を示したフローチャートである。
【
図6】区間平均変動の第2所定期間における時系列変化の一例を示した概略図である。
【
図7】区間最大変動の第2所定期間における時系列変化の一例を示した概略図である。
【
図8】車両の左右の車輪の車輪速の相違に基づいて路面損傷を検出する場合の説明図である。
【
図9】本実施形態に係る路面損傷検出装置の処理の一例を示したシーケンス図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、
図1を用いて、本実施形態に係る路面損傷検出装置100について説明する。
図1に示した路面損傷検出装置100は、ネットワークへの常時接続機能を備えた、いわゆるコネクテッドカーである複数の車両200からデータを取得する通信装置110と、通信装置110が受信したデータを蓄積するデータストレージ120と、データストレージ120に蓄積したデータに基づいて、路面損傷を検出する計算サーバ10と、計算サーバ10が検出した路面損傷の情報を閲覧可能な端末130を含む。
【0037】
データストレージ120は、後述するように、データベースを備えたデータサーバであり、計算サーバ10は、高度な演算処理を高速で実行できるコンピュータである。データストレージ120及び計算サーバ10の各々は、単体のサーバでもよいが、処理負荷を分散できるクラウドでもよい。データストレージ120及び計算サーバ10は、同一のサーバでもよい。端末130は、必須の構成ではなく、例えば、計算サーバ10にキーボード、及びマウス等の入力装置と、ディスプレイ等の出力装置が備わっていれば省略してもよい。
【0038】
図2は、車両200の構成を示したブロック図である。車両200は、演算装置14の演算に必要なデータ及び演算装置14による演算結果を記憶する記憶装置18と、人工衛星(以下、「衛星」と略記)から発信される信号を用いて位置推定を行うGNSS(Global Navigation Satellite System)装置20と、車速センサ24が検出した車輪速、IMU(慣性計測装置)26が検出した車両200の姿勢角の角速度及び加速度、操舵角センサ28が検出した車両200の操舵角、スロットルセンサで検出した車両200のスロットル開度、ブレーキペダルセンサ32で検出した車両200のブレーキペダルの踏力、並びにV2X通信部34が無線通信で取得した情報が各々入力される入力装置12と、入力装置12から入力された入力データ及び記憶装置18に記憶されたデータに基づいて、車輪速等の車両200の挙動を示す情報を算出すると共に、当該情報をGNSS装置20等で検出した車両200の位置情報に紐づけて出力する演算装置14と、演算装置14での演算結果をV2X通信部34に出力する出力装置16と、で構成されている。車速センサ24は、車両200の4つの車輪速を各々検出可能に構成されている。また、車両200には、ブレーキペダルセンサ32に加えて、ブレーキのマスタシリンダ内の圧力を検出するマスタシリンダセンサを別途備えていてもよい。
【0039】
前述のように車両200は、いわゆるコネクテッドカーであるが、コネクテッドカーでなくとも、車両200に搭載された搭載機器から送信された走行データを分析・活用する、いわゆるトランスログ等の後付けの通信機器、及び走行データを取得する各種センサを後付けした車両でもよい。
【0040】
図3は、本発明の実施形態に係る計算サーバ10の具体的な構成の一例を示すブロック図である。計算サーバ10は、コンピュータ40を含んで構成されている。コンピュータ40は、CPU(Central Processing Unit)42、ROM(Read Only Memory)44、RAM(Random Access Memory)46、及び入出力ポート48を備える。一例としてコンピュータ40は、高度な演算処理を高速で実行できる機種であることが望ましい。
【0041】
コンピュータ40では、CPU42、ROM44、RAM46、及び入出力ポート48がアドレスバス、データバス、及び制御バス等の各種バスを介して互いに接続されている。入出力ポート48には、各種の入出力機器として、ディスプレイ50、マウス52、キーボード54、ハードディスク(HDD)56、及び各種ディスク(例えば、CD-ROMやDVD等)58から情報の読み出しを行うディスクドライブ60が各々接続されている。
【0042】
また、入出力ポート48には、ネットワーク62が接続されており、ネットワーク62に接続された各種機器と情報の授受が可能とされている。本実施形態では、ネットワーク62には、データベース(DB)122が接続されたデータサーバであるデータストレージ120が接続されており、DB122に対して情報の授受が可能とされている。
【0043】
DB122には、通信装置110を介して取得した複数の車両200の時系列データ等が記憶される。DB122へのデータの記憶は、通信装置110を介する以外に、コンピュータ40やネットワーク62に接続された他の機器によって登録するようにしてもよい。
【0044】
本実施形態では、データストレージ120に接続されたDB122に、複数の車両200の時系列データ等が記憶されるものとして説明するが、コンピュータ40に内蔵されたHDD56や外付けのハードディスク等の外部記憶装置にDB122の情報を記憶するようにしてもよい。
【0045】
コンピュータ40のHDD56には、路面損傷を検出するプログラム等がインストールされている。本実施形態では、CPU42が当該プログラムを実行することにより、データストレージから取得したデータに基づいて路面損傷を検出する。
【0046】
本実施形態の路面損傷検出に係るプログラムをコンピュータ40にインストールするには、幾つかの方法があるが、例えば、当該プログラムをセットアッププログラムと共にCD-ROMやDVD等に記憶しておき、ディスクドライブ60にディスクをセットし、CPU42に対してセットアッププログラムを実行することによりHDD46に当該プログラムをインストールする。または、公衆電話回線又はネットワーク62を介してコンピュータ40と接続される他の情報処理機器と通信することで、HDD46に当該プログラムをインストールするようにしてもよい。
【0047】
図4は、計算サーバ10のCPU42の機能ブロック図を示す。計算サーバ10のCPU42が路面損傷検出に係るプログラムを実行することで実現される各種機能について説明する。路面損傷検出に係るプログラムは、分析データの準備をする前処理機能、取得した分析データの変動、当該変動の平均値、及び当該変動の最大値等を算出する集計機能、集計機能で処理したデータにフィルタを適用してノイズ等を除去するフィルタリング機能、並びに路面損傷を検出する判定機能を備えている。CPU42がこの各機能を有する機械学習に係るプログラムを実行することで、CPU42は、
図4に示すように、前処理部72、集計部74、フィルタリング部76、及び判定部78として機能する。
【0048】
図5は、本実施形態に係る路面損傷検出装置100を構成する計算サーバ10の処理の一例を示したフローチャートである。ステップS100では、データストレージ120から分析データを取得する。
【0049】
ステップS102では、前処理部72において、分析データの準備が行われる。ステップS102における分析データの準備は、具体的には、不特定多数の車両200により収集された時系列データのうち、車両200の位置情報に紐づけられた車両200の4輪の車輪速等の情報を、第1所定期間(例えば1日)に分けて取得すると共に、 第1所定期間よりも長期の第2所定期間(例えば30日)分取得する等の処理である。以下、本実施形態では、4輪の車輪速を、路面損傷検出に供する分析データの代表として説明するが、これに限定されない。例えば、IMU26が検出した車両200の姿勢角の角速度及び加速度等であってもよいし、操舵角センサ28、スロットルセンサ30及びブレーキペダルセンサ32で検出した車両200の挙動に係る情報でもよい。また、第1所定期間は、1日ではなく、2日~7日間でもよく、第2所定期間は、30日ではなく、31日~180日等でもよい。
【0050】
ステップS104では、集計部74が、第1所定期間毎、又は車両200のトリップ毎に、車両200の4輪の車輪速の変動を各車輪毎に算出する。車輪速は、低速時では路面損傷を検出する際の有効な資料となり難いので、本実施形態では、所定速度以上の車輪速の情報を路面損傷を検出するための分析データとして供する。所定速度は、例えば15km/h等であるが、制限速度が高い高速道路等の路面損傷を検出場合は、より大きな速度であってもよい。
【0051】
本実施形態では、車輪速変動に基づいて路面損傷を検出する。車輪速変動は、下記の式(1)に示したように、単位時間Δtあたりの車輪速の変化Δ(車輪速)をハイパスフィルタ(HPF)で処理してノイズを除去したものの絶対値(ABS)である。
車輪速変動=ABS(HPF(Δ(車輪速)/Δt)) …(1)
【0052】
また、ステップS104において、車輪速変動最大値は、4輪の車輪速変動のうち、各時刻毎に複数の車両200の(4輪の中の)最大値を選定した時系列データとして定義され、算出される。
【0053】
ステップS106では、集計部74が、車輪速変動と場所との対応付けを行う。前述のように、本実施形態では、車両200の車輪速の情報は、車両200が備えるGNSS装置20等によって検出した車両200の位置情報と紐付けられている。ステップS106では、車輪速変動を場所に対応付けるための道路区間情報を取得する。ステップS106では、主として、以下のような手順で道路区間情報を取得する。
(1)対象エリア(例:豊田市全域)を、評価区間(例:10m×10m)に分割する。
(2)対象エリア(例:豊田市全域)の道路リンク情報(道路の起点終点の座標)を取得する。
【0054】
GNSSによる測位は往々にして誤差を含むので、後述するステップS108で、(2)の道路リンク情報を参照することにより、GNSSに測位の誤差を補正する。道路リンク情報は、データストレージ120に予め格納していてもよいし、通信装置110等を介して外部のサーバ等から取得してもよい。また、(1)で対象エリアを10m×10m程度の評価区間に分割するのは、演算負荷を軽減するためである。計算サーバ10の演算能力が高い場合は、評価区間を10m×10mよりも拡大してもよい。
【0055】
ステップS108では、集計部74が、路面状態指標の算出を行う。具体的には、車輪速変動と道路区間とを、ステップS106で取得した道路リンク情報に含まれる緯度経度座標を用いて紐付けて、評価区間ごとに路面状態指標を算出する。本実施形態における路面状態指標は、複数の車両200における車輪速変動最大値の平均値である区間平均変動と、複数の車両200における車輪速変動最大値の最大値である区間最大変動等である。具体的には、区間平均変動は、複数の車両200の各々における車輪速変動最大値の合計を、複数の車両200の台数で除算して得た商であり、区間最大変動は、全車両200の車輪速変動最大値の最大値である。
【0056】
ステップS108では、路面状態指標として、複数の車両200の各々における4輪の各々の車輪速変動の複数の車両200についての平均値と、複数の車両200の各々における4輪の各々について車輪速変動の最大値も算出する。
【0057】
ステップS108では、上述のような路面状態指標の算出を、「第2所定期間÷第1所定期間(例えば30)」回分繰り返す。
【0058】
ステップS110では、集計部74は、経時変化データを作成する。具体的には、ステップS108で算出した、例えば30日分の路面状態指標を、経時変化データとして記憶装置であるHDD56又はデータストレージ120等に格納する。
【0059】
ステップS112では、時系列データである経時変化データのノイズ成分を除去又は抑制して、真の路面状態に対応した物理量とするために、フィルタリング部76がフィルタ処理を行う。ステップS112で適用するフィルタは、例えば、移動平均、ガウスフィルタ、及びLSTM(Long short-term memory)等の深層学習等である。移動平均には、単純移動平均、加重移動平均、及び指数移動平均等が存在するが、時系列データからノイズ成分を除去して、当該時系列データを平滑化できるのであれば、いずれの移動平均であってもよい。また、単純移動平均、加重移動平均、及び指数移動平均では、直近の所定数(n個)のデータについて平均値を算出するが、所定数nについても、移動平均処理後の時系列データの態様が路面損傷の検出に適した状態となるように設定する。路面損の検出に適した状態は、
図6、及び
図7に示したように、時系列データが平滑化されながらも、第1所定期間毎の変化が確認できる程度の状態である。
【0060】
ステップS112では、上述の移動平均のみならず、ガウスフィルタ又はLSTM等を用いてもよい。移動平均、ガウスフィルタ、及びLSTMのいずれかを用いるかは、各々のフィルタを時系列データに適用した結果が、
図6、及び
図7に示したように、時系列データが平滑化されながらも、第1所定期間毎の変化が確認できる程度の状態であるか否かによって判断してもよい。
【0061】
また、道路仕様(幹線道路か、生活道路かというような道路規格の違い、又は路面の荒れ度合い等)、さらには道路の使用環境(週末は交通量が増える、若しくは減る等の週次変動、又は月末は交通量が増える、若しくは減る等の月次変動等)に応じて、上記のフィルタを選択してもよい。さらには、選択したフィルタのパラメータ(移動平均であれば所定数n、加重移動平均であれば所定数n又は重み)を道路仕様、又は使用環境に応じて設定してもよい。
【0062】
図6は、区間平均変動の第2所定期間における時系列変化の一例を示した概略図である。
図6に示した破線は、第2所定期間における区間平均変動のフィルタ処理前の生データ202であり、実線は、第2所定期間における区間平均変動のフィルタ処理後データ204である。
図6に示した例では、フィルタに加重移動平均を採用している。
図6に示したように、フィルタ処理後データ204は、生データ202に対して平滑化され、ノイズ成分が除去又は抑制されたことが窺える。
【0063】
図7は、区間最大変動の第2所定期間における時系列変化の一例を示した概略図である。
図7に示した破線は、第2所定期間における区間最大変動のフィルタ処理前の生データ300であり、実線は、第2所定期間における区間最大変動のフィルタ処理後データ302である。
図7に示した例では、フィルタに加重移動平均を採用している。
図7に示したように、フィルタ処理後データ302は、生データ300に対して平滑化され、ノイズ成分が除去又は抑制されたことが窺える。
【0064】
ステップS114では、判定部78が路面損傷区間の特定を行う。具体的には、
図6に示した区間平均変動のフィルタ処理後データ204が、所定の第1閾値212以上で、かつ
図7に示した区間最大変動のフィルタ処理後データ302が、第1閾値212より大きな所定の第2閾値310以下の場合に路面損傷の可能性があると判定する。
【0065】
区間平均変動のフィルタ処理後データ204が、所定の第1閾値212よりも小さい場合は、路面は十分にきれいな状態であると判断でき、ポットホール等が発生するリスクは少ないと判断できる。また、区間最大変動のフィルタ処理後データ302が、第1閾値212より大きな所定の第2閾値310より大きい場合は、道路の切削工事等で、路面が荒れている、又は一時的に砂利敷きになっている状態であると推定されるので、かかる場合も、ポットホール等路面損傷が生じている場合に含めない。一例として、第1閾値212は、路面が平滑な場合での区間平均変動のフィルタ処理後データ204に基づいて、第2閾値310は、道路の切削工事等で、路面が荒れている場合での区間最大変動のフィルタ処理後データ302に基づいて具体的に決定する。
【0066】
判定部78は、
図6に示した区間平均変動の前日からの変化量(すなわち、第1所定期間単位での変化量)が所定の変化量閾値210以上の場合、及び第2所定期間内の同日(同じ第1所定期間)における区間最大変動と区間平均変動との差が所定の第3閾値以上の場合のいずれかの場合に急激な路面損傷が生じたと判定する。一例として、変化量閾値210及び第3閾値の各々は、急激に路面損傷が生じた場合のデータの変化に基づいて具体的に決定する。
【0067】
また、判定部78は、区間平均変動の波形から路面損傷を特定してもよい。例えば、区間平均変動の時系列での変化が、右肩上がり、又は指数関数的に増大している場合は、路面の経年変化が生じていると判定する。右肩上がりの変化は、区間平均変動の時系列での変化を示す曲線が下に凸の状態で増大する場合である。数学的に下に凸の曲線は、当該曲線を示す関数の二階導関数の値が正を示す。しかしながら、
図6に示した区間平均変動は、離散的なデータなので、微分不能である。一例として本実施形態では、
図6に示したような区間平均変動の時系列での変化に、曲線あてはめを行って近似的に得た微分可能な関数の二階導関数を調べることで、区間平均変動の時系列での変化を示す曲線が下に凸であるか否かを判定する。
【0068】
また、判定部78は、区間平均変動の時系列での変化を示す曲線が、平坦な場合は、路面の状態は変化なしと判定し、階段状に変化している場合は、路面の切削工事、補修、及び舗装の張替えのいずれかが実施されたと判定する。以上の波形による判定の機構は、例えば、LSTM等の深層学習によって構築することができる。
【0069】
さらに、判定部78は、車両200の左右の車輪における車輪速変動の差に基づいて路面損傷を検出してもよい。
図8は、車両200の左右の車輪の車輪速の相違に基づいて路面損傷を検出する場合の説明図である。
図8に示したように、路面損傷有りの場合は、路面損傷無しの場合に比して、車輪速変動が大きくなる。一例として、本実施形態では、第1所定期間において、左右一方の車輪速の変動の複数の車両200についての平均値と、左右他方の車輪速の変動の複数の車両200についての平均値との差が、所定の第4閾値以上の場合に、路面損傷があると判定する。路面に発生するポットホール等の損傷は、差し渡し15cm~20cm程度なので、左右どちらかの車輪でしか検出できない場合があるからである。一例として、第4閾値は、左右いずれかの車輪がポットホール等の路面損傷が乗り上げた場合のデータの変化に基づいて具体的に決定する。
【0070】
以上説明したように、本実施形態では、一例として車両200の車輪速の変動に基づいて路面損傷を検出した。路面損傷の検出には、車両200の車輪速の変動に限定されない。前述したように、IMU26で検出した車両200の姿勢角の角速度、及び加速度の時系列データを分析データとして扱ってもよい。以下、路面のポットホール等に車両200の車輪が乗り上げた際の車両200の姿勢角の角速度、及び加速度のデータのうち、路面損傷の影響を有意に受けやすいデータとして、例えば、Z軸方向(車両200の鉛直方向)の車両200の加速度を分析データとした場合を説明する。
【0071】
かかる場合に、集計部74は、第1所定期間毎、又は車両200のトリップ毎に、車両200のZ軸方向の加速度の変動(以下、「加速度変動」と略記)を算出する。加速度変動は、下記の式(2)に示したように、単位時間Δtあたりの加速度の変化Δ(加速度)をハイパスフィルタ(HPF)で処理してノイズを除去したものの絶対値(ABS)である。
加速度変動=ABS(HPF(Δ(加速度)/Δt)) …(2)
【0072】
また、集計部74は、加速度変動最大値は、加速度変動のうち、各時刻毎に複数の車両200の最大値を選定した時系列データとして定義し、算出する。
【0073】
上記のように算出した加速度変動、及び加速度変動最大値は、集計部74において、車輪速変動の場合と同様に、場所(道路リンク情報)との対応付けを行い、路面状態指標の算出を行う。具体的には、加速度変動と道路区間とを、道路リンク情報に含まれる緯度経度座標を用いて紐付けて、評価区間ごとに路面状態指標を算出する。本実施形態における路面状態指標は、複数の車両200における加速度変動最大値の平均値である区間平均加速度変動と、複数の車両200における加速度変動最大値の最大値である区間最大加速度変動等である。具体的には、区間平均加速度変動は、複数の車両200の各々における加速度変動最大値の合計を、複数の車両200の台数で除算して得た商であり、区間最大加速度変動は、全車両200の車輪速変動最大値の最大値である。
【0074】
算出した区間平均加速度変動、及び区間最大加速度変動は、フィルタリング部で、ノイズ成分を除去又は抑制するフィルタ処理を行う。適用するフィルタは、前述のように、移動平均、ガウスフィルタ、及びLSTM等の深層学習等である。
【0075】
フィルタ処理の結果、区間平均加速度変動は、
図6に示したフィルタ処理後データ204のように、区間最大加速度変動は、
図7に示したフィルタ処理後データ302のように、各々平滑化され、ノイズ成分が除去又は抑制される。
【0076】
そして、判定部78は、平滑化された区間平均加速度変動、及び区間最大加速度変動に基づいて路面損傷区間の特定を行う。具体的には、区間平均加速度変動のフィルタ処理後データが、所定の第1閾値以上で、かつ区間最大加速度変動のフィルタ処理後データが、第1閾値より大きな所定の第2閾値以下の場合に路面損傷の可能性があると判定する。
【0077】
区間平均加速度変動のフィルタ処理後データが、所定の第1閾値よりも小さい場合は、路面は十分にきれいな状態であると判断でき、ポットホール等が発生するリスクは少ないと判断できる。また、区間最大加速度変動のフィルタ処理後データが、第1閾値より大きな所定の第2閾値より大きい場合は、道路の切削工事等で、路面が荒れている、又は一時的に砂利敷きになっている状態であると推定されるので、かかる場合も、ポットホール等路面損傷が生じている場合に含めない。
【0078】
判定部78は、区間平均加速度変動の前日からの変化量(すなわち、第1所定期間単位での変化量)が所定の変化量閾値以上の場合、及び第2所定期間内の同日(同じ第1所定期間)における区間最大加速度変動と区間平均加速度変動との差が所定の第3閾値以上の場合のいずれかの場合に急激な路面損傷が生じたと判定する。
【0079】
また、判定部78は、区間平均加速度変動の波形から路面損傷を特定してもよい。例えば、区間平均変動の時系列での変化が、右肩上がり、又は指数関数的に増大している場合は、路面の経年変化が生じていると判定する。
【0080】
また、判定部78は、区間平均加速度変動の時系列での変化を示す曲線が、平坦な場合は、路面の状態は変化なしと判定し、階段状に変化している場合は、路面の切削工事、補修、及び舗装の張替えのいずれかが実施されたと判定する。
【0081】
以上のように、IMU26が検出した、車両200のZ軸方向の加速度に基づいて、路面損傷の検出を行うことができる。IMU26は、Z軸方向の加速度のほかに、X軸方向(車両200の前後方向)の加速度、Y軸方向(車両200の横方向)の加速度、車両200のピッチ方向の角速度、ロール方向の角速度、及びヨー方向の角速度を各々検出可能なので、これらの加速度の変動、及び角速度の変動を用いて路面損傷の検出を行ってもよい。
【0082】
また、路面損傷の検出には、前述のように、操舵角センサ28、スロットルセンサ30及びブレーキペダルセンサ32で検出した車両200の挙動に係る情報を供してもよい。かかる場合は、例えば、操舵角センサ28で検出した車両200の操舵角の変動に基づいて、路面損傷を検出する。運転者が前方に路面損傷を認めると、多くの場合、回避運動を試みるからである。また、運転者が前方に路面損傷を認めると、多くの場合、車両200を減速させることから、スロットルセンサ30で検出したスロットル開度が減少方向に変動した場合、又はブレーキペダルセンサ32で検出したブレーキペダルの踏力が増大方向に変動した場合における各々の変動量から路面損傷を検出してもよい。
【0083】
図9は、本実施形態に係る路面損傷検出装置100の処理の一例を示したシーケンス図である。ステップS1では、複数の車両200から、車速センサ24で検出した車輪速のデータ、IMU26で検出した車両200の姿勢角の角速度、及び加速度のデータ、操舵角センサ28で検出した車両200の操舵角のデータ、スロットルセンサ30で検出した車両200のスロットル開度のデータ、並びにブレーキペダルセンサ32で検出したブレーキペダルの踏力のデータ等が送信される。
【0084】
ステップS2では、通信装置110が、複数の車両200から送信されたデータを受信し、ステップS3では、受信したデータを、データストレージ120に送信する。
【0085】
ステップS4では、データストレージ120が受信したデータを蓄積する。データストレージ120は、ステップS5で、蓄積したデータを計算サーバ10に送信する。
【0086】
ステップS6では、計算サーバ10は、蓄積データを受信する。そして、ステップS7では、計算サーバ10は、例えば、車輪速変動を算出する。路面損傷検出にIMU26が検出したデータを用いるのであれば、車両200の姿勢角の角速度の変動、又は車両200の加速度の変動を算出する。また、車両200の操舵角センサ28、スロットルセンサ30又はブレーキペダルセンサ32の各々が検出した時系列データの変動を算出する。
【0087】
ステップS8では、計算サーバ10は、車輪速変動と場所(道路リンク情報)との対応付けを行う。ステップS8では、車両200の姿勢角の角速度の変動と場所、車両200の加速度の変動と場所、車両200の操舵角センサ28、スロットルセンサ30又はブレーキペダルセンサ32の各々が検出した時系列データの変動と場所とを、対応付けてもよい。
【0088】
ステップS9では、計算サーバ10は、路面状態指標の算出を行う。具体的には、車輪速変動(又は車両200の姿勢角の角速度の変動、車両200の加速度の変動、若しくは車両200の挙動の変動)と道路区間とを、ステップS8で取得した道路リンク情報に含まれる緯度経度座標を用いて紐付けて、評価区間ごとに路面状態指標を算出する。
【0089】
ステップS10では、計算サーバ10は、経時変化データを作成する。作成した経時変化データは記憶装置であるHDD56又はデータストレージ120等に格納する。
【0090】
ステップS11では、計算サーバ10は、時系列データである経時変化データのノイズ成分を除去又は抑制するためのフィルタ処理を行う。
【0091】
ステップS12では、計算サーバ10は、路面損傷区間の特定を行い、ステップS13では、路面損傷区間データをデータストレージ120に送信する。
【0092】
ステップS14では、データストレージ120は、路面損傷区間データを受信し、ステップS15で受信した路面損傷区間データを蓄積する。
【0093】
ステップS16では、端末130から、路面損傷区間データ閲覧要求が送信される。路面損傷区間データ閲覧要求は、計算サーバ10を介してもよい。計算サーバ10のHDD56等に路面損傷区間データが記憶されている場合は、計算サーバ10に路面損傷区間データ閲覧要求を送信してもよい。
【0094】
ステップS17では、データストレージ120は、端末130からの路面損傷区間データ閲覧要求に応じて、路面損傷区間データを送信する。
【0095】
ステップS18では、端末130は、データストレージ120から路面損傷区間データを受信する。
【0096】
以上説明したように、本実施形態は、多数の車両200から得た、いわゆるビッグデータに基づいて、路面損傷を検出する。本実施形態で路面損傷の検出に供するビッグデータは、複数の車両200の各々における、車速センサ24で検出した車両200の4輪の車輪速の変動、IMU26が検出した車両200の姿勢角の角速度の変動及び加速度の変動、操舵角センサ28で検出した車両200の操舵角の変動、スロットルセンサ30で検出したスロットル開度の変動、並びにブレーキペダルセンサ32で検出したブレーキペダル踏力の変動等の車両200の挙動に係る物理量である。本実施形態では、かかる物理量の変動を所定の閾値と比較することにより、路面損傷を検出する。
【0097】
各々のセンサからの出力に基づいて算出した、例えば車輪速の変動等の物理量の生データは、路面損傷の誤検出の原因になり得るノイズ成分を含む。本実施形態では、移動平均、ガウスフィルタ、及びLSTM等のフィルタを適用し、生データを平滑化することにより、ノイズ成分を抑制する。かかるフィルタ処理により、本実施形態では、路面損傷とは別の、砂利等の一時的な落下物、マンホール、側溝の蓋、及び踏切等の構造物、並びに車両の回避挙動等によっても検出され得る顕著な物理量の変動を抑制している。
【0098】
また、ノイズ成分の発生要因には、車両200の回避挙動、若しくは路面への落下物等による物理量の一時的な変動と、マンホール、側溝の蓋、及び踏切等の構造物による物理量の恒久的な変動とが考えられる。本実施形態では、当該物理量を複数の異なる閾値と比較する、又は物理量の時系列での波形の変化を検討することにより、路面損傷の検出に際するノイズ成分の影響を抑制している。
【0099】
例えば、フィルタ処理後のデータに含まれる、検出した物理量の単位時間あたりの変動の、第1所定期間における複数の車両の各々による複数の最大値の、前記複数の車両についての平均値である区間平均変動が所定の第1閾値以上で、かつフィルタ処理後のデータに含まれる、第1所定期間における車両200の挙動を示す物理量の変動の複数の車両200における最大値である区間最大変動が、第1閾値より大きな所定の第2閾値以下の場合に路面損傷の可能性があると判定する。第1閾値は、路面が平滑な状態を想定しており、車両200の挙動を示す物理量の変動が第1閾値よりも小さいのであれば、路面損傷は存在しないと判断できる。また、第2閾値は、道路工事等で路面が極端に荒れた場合を想定しており、車両200の挙動を示す物理量の変動が第2閾値よりも大きな場合は、当該変動は路面損傷ではなく、道路工事に起因するものであると推定できる。
【0100】
また、フィルタ処理後のデータに含まれる、区間平均変動の第1所定期間単位での変化量が所定の変化量閾値以上の場合、及び同一の第1所定期間における区間最大変動と区間平均変動との差が所定の第3閾値以上の場合のいずれかの場合に急激な路面損傷が生じたと判定する。このように、本実施形態では、車両200の挙動を示す物理量の変化の態様に基づいて、急激な路面損傷の発生を検出できる。
【0101】
また、区間平均変動の時系列での変化が、下に凸の曲線状を呈して増大する場合に路面が経年劣化していると判定し、平坦な場合は前記路面の状態は変化なしと判定し、階段状に変化している場合は前記路面の切削工事、補修、及び舗装の張替えのいずれかが実施されたと判定する。このように、本実施形態では、車両200の挙動を示す物理量の時系列変化の態様によって、路面損傷、又は路面の工事の有無を判定できる。
【0102】
さらに本実施形態では、車両200の挙動を示す物理量が、4輪で独立して検出した車輪速の変動の平均値の場合、左右の車輪での差異に基づいて路面損傷を検出することができる。
【0103】
なお、特許請求の範囲に記載の「物理量検出部」は、明細書の発明の詳細な説明に記載の「車速センサ24」、「IMU26」、「操舵角センサ28」、「スロットルセンサ30」及び「ブレーキペダルセンサ32」に各々該当する。また、特許請求の範囲に記載の「演算集計部」は、明細書の発明の詳細な説明に記載の「集計部74」に、同「路面損傷検出部」は、明細書の発明の詳細な説明に記載の「判定部78」に該当する。
【0104】
なお、上記各実施形態でCPUがソフトウェア(プログラム)を読み込んで実行した処理を、CPU以外の各種のプロセッサが実行してもよい。この場合のプロセッサとしては、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の製造後に回路構成を変更可能なPLD(Programmable Logic Device)、及びASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路等が例示される。また、処理を、これらの各種のプロセッサのうちの1つで実行してもよいし、同種又は異種の2つ以上のプロセッサの組み合わせ(例えば、複数のFPGA、及びCPUとFPGAとの組み合わせ等)で実行してもよい。また、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造は、より具体的には、半導体素子等の回路素子を組み合わせた電気回路である。
【0105】
また、上記各実施形態では、プログラムがディスクドライブ60等に予め記憶(インストール)されている態様を説明したが、これに限定されない。プログラムは、CD-ROM(Compact Disk Read Only Memory)、DVD-ROM(Digital Versatile Disk Read Only Memory)、及びUSB(Universal Serial Bus)メモリ等の非一時的(non-transitory)記憶媒体に記憶された形態で提供されてもよい。また、プログラムは、ネットワークを介して外部装置からダウンロードされる形態としてもよい。
【0106】
(付記項1)
メモリと、
前記メモリに接続された少なくとも1つのプロセッサと、
を含み、
前記プロセッサは、
検出した複数の車両の各々の挙動を示す物理量の単位時間あたりの変動の、第1所定期間における平均値である区間平均変動、及び前記第1所定期間における最大値である区間最大変動の各々を、前記第1所定期間よりも長い第2所定期間で集計し、前記集計した結果からノイズ成分を除去し、前記ノイズ成分を除去した結果に基づいて路面損傷箇所を検出する、
ように構成されている情報処理装置。
【符号の説明】
【0107】
10 計算サーバ
12 入力装置
14 演算装置
16 出力装置
18 記憶装置
20 GNSS装置
24 車速センサ
28 操舵角センサ
30 スロットルセンサ
32 ブレーキペダルセンサ
34 V2X通信部
40 コンピュータ
42 CPU
44 ROM
46 RAM
48 入出力ポート
50 ディスプレイ
52 マウス
54 キーボード
60 ディスクドライブ
62 ネットワーク
72 前処理部
74 集計部
76 フィルタリング部
78 判定部
100 路面損傷検出装置
110 通信装置
120 データストレージ
130 端末
200 車両
202 生データ
204 フィルタ処理後データ
210 変化量閾値
212 第1閾値
300 生データ
302 フィルタ処理後データ
310 第2閾値