(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178782
(43)【公開日】2023-12-18
(54)【発明の名称】クレーン荷役物の重量推定方法及びクレーン荷役物重量推定装置
(51)【国際特許分類】
B66C 13/16 20060101AFI20231211BHJP
【FI】
B66C13/16 F
B66C13/16 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022091675
(22)【出願日】2022-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】508296738
【氏名又は名称】富士電機機器制御株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】近藤 勝浩
(72)【発明者】
【氏名】小林 玄宙
(57)【要約】
【課題】クレーンにより吊り上げる荷役物の重量を推定するクレーン荷役物の重量推定方法及びクレーン荷役物重量推定装置を提供する。
【解決手段】(a)クレーンにより荷役物を吊り上げる時に、モータに供給される電流を、吊り上げを開始して一定期間にわたってサンプリングして、複数の電流値を時系列に取得する工程と、(b)取得した前記複数の電流値が、一度上昇後下降してから安定したことを判定する工程と、(c)安定後の前記複数の電流値に基づいて、判定電流値を算出する工程と、(d)前記判定電流値に基づいて、前記荷役物の重量を推定する工程と、を含むクレーン荷役物の重量推定方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)クレーンにより荷役物を吊り上げる時に、モータに供給される電流を、吊り上げを開始して一定期間にわたってサンプリングして、複数の電流値を時系列に取得する工程と、
(b)取得した前記複数の電流値が、一度上昇後下降してから安定したことを判定する工程と、
(c)安定後の前記複数の電流値に基づいて、判定電流値を算出する工程と、
(d)前記判定電流値に基づいて、前記荷役物の重量を推定する工程と、
を含む、
クレーン荷役物の重量推定方法。
【請求項2】
前記(b)工程において、一度上昇後下降した後における前記複数の電流値のそれぞれが、所定の範囲内にある場合に、前記複数の電流値が安定したと判定する、
請求項1に記載のクレーン荷役物の重量推定方法。
【請求項3】
前記(d)工程において、前記荷役物として重量が既知である基準物を複数種類吊り上げたときの前記判定電流値に基づいて作成した前記重量と前記判定電流値との関係に基づいて、前記荷役物の重量を推定する、
請求項1に記載のクレーン荷役物の重量推定方法。
【請求項4】
前記(d)工程において、前記関係を保存するテーブルにより、前記判定電流値に基づいて前記荷役物の重量を推定する、
請求項3に記載のクレーン荷役物の重量推定方法。
【請求項5】
前記(d)工程において、前記関係を示す関係式により、前記判定電流値に基づいて前記荷役物の重量を推定する、
請求項3に記載のクレーン荷役物の重量推定方法。
【請求項6】
前記(c)工程において、安定後の前記複数の電流値に含まれる複数の電流値を平均して、前記判定電流値を算出する、
請求項1に記載のクレーン荷役物の重量推定方法。
【請求項7】
クレーンにより荷役物を吊り上げる時に、モータに供給される電流を、吊り上げを開始して一定期間にわたってサンプリングし、複数の電流値を時系列に取得する計測部と、
前記複数の電流値を処理する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
(a)前記複数の電流値が、一度上昇後下降してから安定したことを判定する工程と、
(b)安定後の前記複数の電流値に基づいて、判定電流値を算出する工程と、
(c)前記判定電流値に基づいて、前記荷役物の重量を推定する工程と、
を実行する、
クレーン荷役物重量推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、クレーン荷役物の重量推定方法及びクレーン荷役物重量推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、トラックのシャーシ上にクレーン装置を搭載し、クレーンの使用時は付装されたアウトリッガにより安定を保つトラッククレーンが開示されている。また、特許文献1には、トラッククレーンが、アウトリッガの脚と接地面との間に配設した荷重を計測する圧力センサと、同圧力センサからの信号を受けて警報を発する警報信号発生器とを備えることが開示されている。
【0003】
特許文献2には、電動機の電流値を検出する電流検出器と、電流検出器からの負荷上昇時の電流値と無負荷上昇時の電流値との差分に基づいて重量換算する演算手段と、から構成した事を特徴とする荷役装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-011880号公報
【特許文献2】特開平07-285798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
クレーンにおいて、吊り上げる荷役物の重量が定格により定まる重量(定格重量)を超えると、安全装置が作動する。また、荷役物の重量が定格重量未満であっても、荷役物を移動時に、慣性力が働き、クレーンにかかる重量が定格重量を超える場合がある。クレーンにおける安全装置が動作すると、フォークリフト等を用いて、荷役物を除去しなければならない。荷役物を除去している間は、クレーンを使用することができず、クレーンの使用率が低下する。したがって、クレーンにより吊り上げる荷役物の重量を精度よく求めることが求められている。
【0006】
本開示は、クレーンにより吊り上げる荷役物の重量を推定するクレーン荷役物の重量推定方法及びクレーン荷役物重量推定装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一の態様によれば、(a)クレーンにより荷役物を吊り上げる時に、モータに供給される電流を、吊り上げを開始して一定期間にわたってサンプリングして、複数の電流値を時系列に取得する工程と、(b)取得した前記複数の電流値が、一度上昇後下降してから安定したことを判定する工程と、(c)安定後の前記複数の電流値に基づいて、判定電流値を算出する工程と、(d)前記判定電流値に基づいて、前記荷役物の重量を推定する工程と、を含むクレーン荷役物の重量推定方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本開示のクレーン荷役物の重量推定方法及びクレーン荷役物重量推定装置によれば、クレーンにより吊り上げる荷役物の重量を推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本実施形態に係るクレーン荷役物重量推定装置の使用状態を説明する図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係るクレーン荷役物重量推定装置の構成の概要を説明する図である。
【
図3】
図3は、本実施形態に係るクレーン荷役物重量推定装置における処理を説明するフロー図である。
【
図4】
図4は、本実施形態に係るクレーン荷役物重量推定装置における処理を説明する図である。
【
図5】
図5は、本実施形態に係るクレーン荷役物重量推定装置における処理を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示のクレーン荷役物の重量推定方法及びクレーン荷役物重量推定装置の具体例を、以下に図面を参照して説明する。なお、本開示はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0011】
なお、各実施形態に係る明細書及び図面の記載に関して、実質的に同一の又は対応する機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省略する場合がある。また、理解を容易にするために、図面における各部の縮尺は、実際とは異なる場合がある。
【0012】
平行、直角、直交、水平、垂直、上下、左右及び前後等の方向には、実施形態の効果を損なわない程度のずれが許容される。角部の形状は、直角に限られず、弓状に丸みを帯びてもよい。平行、直角、直交、水平及び垂直には、それぞれ略平行、略直角、略直交、略水平及び略垂直が含まれてもよい。
【0013】
例えば、略平行は、2つの線又は2つの面が互いに完全に平行でなくても、製造上許容される範囲内で互いに平行として扱うことができることを意味する。他の略直角、略直交、略水平及び略垂直のそれぞれについても、略平行と同様に、2つの線又は2つの面の相互の位置関係が製造上許容される範囲内であればそれぞれに該当することが意図される。
【0014】
<クレーン1>
最初に、本実施形態に係るクレーン荷役物重量推定装置100が取り付けられるクレーン1について説明する。
図1は、本実施形態に係るクレーン荷役物重量推定装置100の使用状態を説明する図である。
【0015】
クレーン1は、クレーン電源10と、モータ20と、ワイヤ巻き取り機30と、を備える。
【0016】
クレーン電源10は、モータ20に電力を供給する。クレーン電源10は、三相交流をモータ20に供給する。クレーン電源10は、操作ボタン11が押されると、モータ20に電力を供給する。
【0017】
クレーン電源10は、三相交流のR相、S相及びT相を、それぞれ配線Lr、配線Ls及び配線Ltを介して、モータ20に供給する。
【0018】
モータ20は、クレーン電源10から供給された電力を回転運動に変換する。モータ20は、いわゆる三相モータである。モータ20は、クレーン電源10から電力が供給されるとシャフト20aを回転させる。
【0019】
ワイヤ巻き取り機30は、モータ20から供給される動力によりワイヤ30aの巻き取り及び巻き戻しを行う。ワイヤ巻き取り機30は、シャフト20aの回転を減速する減速機、ワイヤ30aを巻き取るためのドラム等を備える。
【0020】
ワイヤ30aには、フック30cが取り付けられたプーリ30bが取り付けられる。モータ20が回転すると、ワイヤ巻き取り機30によりワイヤ30aが巻き取り又は巻き戻しされる。ワイヤ巻き取り機30によりワイヤ30aが巻き取り又は巻き戻しされると、プーリ30bが上下方向を上向き又は下向きに移動する。プーリ30bが上下方向に沿って上向きに移動すると、荷役物CAGが吊り上げられる。また、プーリ30bが上下方向に沿って下向きに移動すると、荷役物CAGが吊り下げられる。
【0021】
<クレーン荷役物重量推定装置100>
クレーン荷役物重量推定装置100は、クレーン1に吊り上げられる荷役物CAGの重量を推定する。クレーン荷役物重量推定装置100は、配線Lr、配線Ls及び配線Ltに取り付けられる。クレーン荷役物重量推定装置100は、配線Lr、配線Ls及び配線Ltのいずれかに流れる電流を測定する。また、クレーン荷役物重量推定装置100は、配線Lr、配線Ls及び配線Ltのいずれかに流れる電流を測定した電流値に基づいて、荷役物CAGの重量を推定する。
【0022】
図2は、本実施形態に係るクレーン荷役物重量推定装置100の構成の概要を説明する図である。クレーン荷役物重量推定装置100は、制御部101と、計測部102と、報知部103と、を備える。
【0023】
制御部101は、クレーン荷役物重量推定装置100全体を制御する。また、制御部101は、計測部102から取得した複数の電流値に基づいて、荷役物CAGの重量を推定する。
【0024】
計測部102は、配線Lr、配線Ls及び配線Ltのいずれかに流れる電流を測定する。
図2では、計測部102は配線Lrを流れる電流を測定する。計測部102は、計測素子102aを備える。計測素子102aは、例えば、変流器(カレントトランス)である。計測部102は、計測素子102aで測定した電流を、吊り上げを開始してから所定の期間、例えば、5秒間、サンプリングする。サンプリング周期は、例えば、数ミリ秒から数百ミリ秒の範囲に含まれる時間の周期である。
【0025】
なお、
図2では、計測部102は、配線Lrを流れる電流を測定しているが、計測部102は、配線Ls又は配線Ltのいずれかに流れる電流を測定してもよい。また、計測部102は、配線Lr、配線Ls及び配線Ltから2本の配線を選択して、2本の配線のそれぞれに流れる電流を測定してもよい。2本の配線に流れる電流を測定する場合、例えば、2本の配線のそれぞれに流れる電流の電流値を平均してもよい。さらに、計測部102は、配線Lr、配線Ls及び配線Ltのそれぞれの配線に流れる電流を測定してもよい。3本の配線に流れる電流を測定する場合、例えば、3本の配線のそれぞれに流れる電流の電流値を平均してもよい。いいかえると、計測部102は、配線Lr、配線Ls及び配線Ltの少なくとも1本の配線に流れる電流を測定する。
【0026】
計測部102は、所定の期間、電流をサンプリングすることにより、時系列に並ぶ複数の電流値を取得する。計測部102は、取得した複数の電流値を制御部101に出力する。制御部101は、計測部102から複数の電流値を取得する。そして、制御部101は、取得した複数の電流値に基づいて、荷役物CAGの重量を推定する。
【0027】
報知部103は、例えば、表示灯、警報灯等である。報知部103は、吊り上げる荷役物CAGの重量が、設定された設定値より重い場合に、点灯する。報知部103において、表示灯、警報灯等が点灯することにより、クレーン1を操作する操作者に、吊り上げる荷役物CAGの重量が、設定された設定値より重いことを報知する。
【0028】
なお、報知部103は、クレーン荷役物重量推定装置100が備える筐体に取り付けられていてもよいし、クレーン荷役物重量推定装置100にケーブルを介して外付けしてもよい。
【0029】
また、クレーン荷役物重量推定装置100は、コントローラ110に接続される。また、コントローラ110は、コンピュータ120に接続される。
【0030】
コントローラ110は、クレーン荷役物重量推定装置100から電流値のデータを取得する。そして、コントローラ110は取得した電流値のデータをコンピュータ120において実行されるWebブラウザ等において表示できるようにグラフ化等を行う。コントローラ110は、コンピュータ120により表示できる形式に変換して、クレーン荷役物重量推定装置100が測定した結果を見える化する。
【0031】
また、コントローラ110は、クレーン荷役物重量推定装置100の設定を行う。コントローラ110は、例えば、警告を行う荷役物CAGの重量の基準値を設定する。また、コントローラ110は、電流値から重量に変換するテーブル又は電流値と重量との関係を示す関係式をクレーン荷役物重量推定装置100に設定する。なお、コントローラ110がクレーン荷役物重量推定装置100の設定を行う際には、コンピュータ120をユーザインタフェイスとして用いてもよい。
【0032】
<クレーン荷役物重量推定装置100における処理>
次に、クレーン荷役物重量推定装置100における処理について説明する。クレーン荷役物重量推定装置100における処理について説明することにより、クレーン荷役物の重量推定方法に含まれる各工程について説明する。
図3は、本実施形態に係るクレーン荷役物重量推定装置100における処理を説明するフロー図である。
【0033】
(ステップS10)
処理を開始すると、クレーン荷役物重量推定装置100における制御部101は、操作ボタン11が押されたかどうか判断する(ボタンが押されたかどうか判断する工程)。操作ボタン11が押された場合(ステップS10のYes)、制御部101は、ステップS20に進む。操作ボタン11が押されていない場合(ステップS10のNo)、制御部101は、ステップS10に戻って処理を繰り返す。
【0034】
制御部101は、操作ボタン11が押されたかどうかの情報を、例えば、クレーン1を制御する制御装置から取得してもよい。また、制御部101は後述する突入電流を検出して、操作ボタン11が押されたことを判定してもよい。
【0035】
(ステップS20)
操作ボタン11が押されると、クレーン荷役物重量推定装置100における計測部102は、モータ20に供給される電流を測定する(モータに供給される電流を測定する工程)。計測部102は、計測素子102aが設置された配線(配線Lr)を流れる電流を計測する。計測部102は、計測素子102aで測定した電流を所定の期間、例えば、5秒間、サンプリングする。すなわち、計測部102は、クレーン1により荷役物CAGを吊り上げるときに、モータ20に供給される電流をサンプリングする。計測部102は、吊り上げを開始して一定期間にわたってサンプリングして、複数の電流値を時系列に取得する。
【0036】
(ステップS30)
次に、制御部101は、計測部102が取得した複数の電流値が、一度上昇後下降してから安定したことを判定する。
図4は、本実施形態に係るクレーン荷役物重量推定装置100における処理を説明する図である。
図4に示すグラフにおける横軸は時間(単位:秒)、縦軸は測定した電流値(単位:アンペア)を表す。なお、横軸の時間は、操作ボタン11を押してから経過した時間を示す。すなわち、
図4において、横軸の時間は、操作ボタン11を押し始めた瞬間を0秒としている。
【0037】
図4は、荷役物CAGとして、350キログラムのおもりを用いた場合の結果である。線L1は、計測部102において測定した結果を表す。操作ボタン11を押してから略0.5秒後に電流が流れ始める。そして、期間P1において、最初に、電流値は20アンペア程度までが急激に上昇し、その後、8アンペア程度まで急激に減少する。期間P1における電流は、いわゆる、突入電流である。すなわち、計測部102で測定する電流値は、一度上昇後下降する。そして、操作ボタン11を押してから略1.5秒後以降の期間P2において、電流は安定する。
【0038】
計測部102で測定する電流値は、一度上昇後下降してから安定する。制御部101は、複数の電流値に基づいて、電流値が一度上昇後下降してから安定したことを判定する。
【0039】
制御部101は、取得した前記複数の電流値が、一度上昇して最大値まで達した後に、下降したことを判定する。すなわち、期間P1において、制御部101は、一度上昇後下降したことを判定する。本実施形態に係るクレーン荷役物重量推定装置100は、期間P1において測定した電流値については、重量の推定には使用しない。
【0040】
そして、制御部101は、一度上昇後下降してから電流が安定したことを判断する。制御部101は、所定の期間(判定期間)において電流値が一定の範囲内に収まったと判断した場合に、電流が安定したと判断する。すなわち、制御部101は、期間P2において、電流が安定したと判断する。
【0041】
計測部102は、数ミリ秒から数百ミリ秒の範囲に含まれるサンプリング周期により、電流を測定して複数の電流値を取得することから、制御部101は、計測部102で測定する電流値が一度上昇後下降して安定したことを判定できる。
【0042】
(ステップS40)
次に、クレーン荷役物重量推定装置100における制御部101は、計測部102が取得した安定後の複数の電流値に基づいて、判定電流値を算出する(判定電流値を算出する工程)。
【0043】
制御部101は、期間P2における複数の電流値に基づいて、荷役物CAGに重量を推定するための判定電流値を算出する。例えば、制御部101は、期間P2における複数の電流値における平均値を判定電流値とする。
【0044】
(ステップS50)
次に、クレーン荷役物重量推定装置100における制御部101は、判定電流値に基づいて、荷役物CAGの重量を推定する(判定電流値に基づいて荷役物の重量を推定する工程)。
【0045】
制御部101は、判定電流値を荷役物CAGの重量に変換する。制御部101は、例えば、荷役物CAGとして重量が既知である基準物を複数種類吊り上げたときの判定電流値に基づいて作成した重量と判定電流値との関係に基づいて、荷役物CAGの重量を推定する。制御部101は、判定電流値から荷役物CAGの重量を、例えば、判定電流値と重量との関係を保存したテーブルにより算出してもよいし、判定電流値と重量との関係を示す関係式により算出してもよい。
【0046】
図5は、本実施形態に係るクレーン荷役物重量推定装置100における処理を説明する図である。より具体的には、
図5は、判定電流値と重量との関係を示す関係式を説明するグラフである。
図5に示すグラフにおける横軸は判定電流値(単位:アンペア)、縦軸は重量(単位:キログラム)を表す。
【0047】
線L2は、事前に既知の重量の荷役物CAGを測定した結果を示す。線L3は、線L2に示す結果を、判定電流値を説明変数、重量を目的変数として、判定電流値の二次多項式で回帰分析を行った近似曲線を示す。
【0048】
線L2における点は、事前に、350、500、850、100、1350、1500、1850及び2050キログラムの荷役物CAG(基準物)を吊り上げたときのそれぞれの判定電流値を示す。すなわち、線L2における点は、重量が既知である基準物を複数種類吊り上げたときの判定電流値を示す。線L2は、350、500、850、100、1350、1500、1850及び2050キログラムの荷役物CAGを吊り上げたときのそれぞれの判定電流値を示す点を直線で結んだ線である。
【0049】
線L3は、線L2で示した350、500、850、100、1350、1500、1850及び2050キログラムの荷役物CAGを吊り上げたときのそれぞれの判定電流値の結果を回帰分析して二次多項式で近似した近似曲線である。当該近似曲線を式1に示す。
【0050】
【0051】
なお、yは重量、xは判定電流値を示す。このときの相関係数R2は、0.9982である。
【0052】
なお、関係式は、上記で説明した近似曲線に限らず、例えば、重量が既知である基準物を複数種類吊り上げたときの判定電流値の間を直線により補間してもよい。
【0053】
(ステップS60)
次に、クレーン荷役物重量推定装置100における制御部101は、ステップS50で推定した荷役物CAGの重量が、予め定められた設定値より重いかどうか判定する(推定した重量が設定値より重いかどうか判定する工程)。推定した荷役物CAGの重量が、予め定められた設定値より重い場合(ステップS60のYes)、制御部101は、ステップS70に処理を進める。推定した荷役物CAGの重量が、予め定められた設定値と等しいか軽い場合(ステップS60のNo)、制御部101は、ステップS80に処理を進める。
【0054】
なお、予め定められた設定値は、例えば、クレーン1の定格重量としてもよい。また、荷役物CAGが移動するときの慣性力を考慮して、予め定められた設定値は、例えば、クレーン1の定格重量より慣性力を考慮して低い値に設定してもよい。
【0055】
(ステップS70)
ステップS70において、推定した荷役物CAGの重量が、予め定められた設定値より重い場合(ステップS70のYes)、報知部103より周囲に重量が予め設定された設定値より重いことを報知する(報知部より報知する工程)。制御部101は、報知部103に周囲に荷役物CAGの重量が超過していることを報知するように制御をする。報知部103は、例えば、表示灯、警報灯等を点灯させることにより、周囲に報知する。
【0056】
(ステップS80)
次に、クレーン荷役物重量推定装置100における制御部101は、処理を終了するかどうか判定する(処理を終了するかどうか判定する工程)。処理を終了する場合(ステップS80のYes)、制御部101は、処理を終了する。処理を終了しない場合(ステップS80のNo)、制御部101は、ステップS10に戻って処理を繰り返す。
【0057】
<まとめ>
本実施形態に係るクレーン荷役物重量推定装置100によれば、クレーン設備において、吊り上げ操作時の電気的データ(電流値)を計測して荷役物CAGの重量を推定できる。本実施形態に係るクレーン荷役物重量推定装置100は、収集した電流値データから荷役物CAGの重量を算出する。
【0058】
例えば、従来は、重量が不明な荷役物の重量計測は、クレーンスケール(はかり)を用いて計測していた。クレーンスケール(はかり)は精度を保つために定期的に校正が必要である。したがって、クレーンスケール(はかり)を用いた場合は校正費用がかかる。また、荷役物とクレーンフックとの間に計量器を接続するため、クレーン操作が複雑になる。
【0059】
本実施形態に係るクレーン荷役物重量推定装置100によれば、クレーン電源からモータへの電流値をサンプリングして、サンプリングした電流値から重量を推定する。すなわち、クレーン荷役物重量推定装置100は、電流値を重量に換算して、荷役物の重量を推定する。したがって、本実施形態に係るクレーン荷役物重量推定装置100によれば、荷役物とクレーンフックとの間に、機器を追加することなく、重量を推定できる。
【0060】
また、本実施形態に係るクレーン荷役物重量推定装置100によれば、吊り上げ操作時に、予め設定された電流値を超えた場合は警報を出力できる。本実施形態に係るクレーン荷役物重量推定装置100によれば、荷役物の重さが予め定められた基準重量より重い場合に、報知部103における表示灯、警報灯等により、周囲に警告できる。
【0061】
さらに、本実施形態に係るクレーン荷役物重量推定装置100によれば、電流値と重量との関係を、荷役物として重量が既知である基準物を複数種類吊り上げたときの判定電流値に基づいて作成することにより、クレーンのそれぞれにあわせて調整できる。すなわち、本実施形態に係るクレーン荷役物重量推定装置100によれば、使用するクレーンにあわせて、電流値と重量との関係を調整できる。
【0062】
さらにまた、本実施形態に係るクレーン荷役物重量推定装置100によれば、電流値と重量との関係をソフトウェア上の係数を変更することにより変更できる。すなわち、クレーン荷役物重量推定装置100によれば、スケール校正をソフトウェア上の係数変更で実施できる。
【0063】
また、本実施形態に係るクレーン荷役物重量推定装置100によれば、取得した電流値が一度上昇後下降してから安定したことを判定することによって、クレーンが動作を開始するときの突入電流の影響を抑制できる。また、クレーン荷役物重量推定装置100によれば、クレーンごとに突入電流にバラツキがあっても、正しく判定電流値を計測できる。
【0064】
さらに、本実施形態に係るクレーン荷役物重量推定装置100によれば、長期間稼働したクレーン設備の仕様電流の増大傾向を捉えて劣化判定できる。
【0065】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。上記の実施形態は、添付の請求の範囲及びその主旨を逸脱することなく、様々な形態で省略、置換、変更されてもよい。
【符号の説明】
【0066】
1 クレーン
10 クレーン電源
11 操作ボタン
20 モータ
20a シャフト
30 ワイヤ巻き取り機
30a ワイヤ
30b プーリ
30c フック
100 クレーン荷役物重量推定装置
101 制御部
102 計測部
102a 計測素子
103 報知部
110 コントローラ
120 コンピュータ
CAG 荷役物