(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178800
(43)【公開日】2023-12-18
(54)【発明の名称】動物の体調管理装置及び動物の体調管理方法並びに動物の体調推定システム
(51)【国際特許分類】
A01K 29/00 20060101AFI20231211BHJP
【FI】
A01K29/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022091712
(22)【出願日】2022-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英介
(74)【代理人】
【識別番号】100101144
【弁理士】
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100101694
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 明茂
(74)【代理人】
【識別番号】100124774
【弁理士】
【氏名又は名称】馬場 信幸
(72)【発明者】
【氏名】大木 恒雄
(57)【要約】
【課題】対象となる動物の体を手術により傷付けることなく、動物の生理現象を高精度に測定でき、しかも、測定作業者の削減が期待できる動物の体調管理装置及び動物の体調管理方法並びに動物の体調推定システムを提供する。
【解決手段】猫1の頸に装着される筺体10と、筺体10に内蔵されて猫1の生理現象を測定するセンサモジュール15と、センサモジュール15からの測定データをゲートウェイに送信する通信モジュール20と、センサモジュール15と通信モジュール20に電力を給電する電源22とを備え、筺体10から中空の凸字体14が突出して猫1の体表面2に接触可能であり、センサモジュール15は、猫1の体表温を測定する第一の温度センサ17と、雰囲気温度を測定する第二の温度センサ19とを備え、第一の温度センサ17が凸字体14に内蔵される。猫1に温度センサを埋め込まないので、手術により傷付けるおそれを払拭できる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象動物に取り付けられる筺体と、対象動物の生理現象を測定するセンサモジュールと、このセンサモジュールからの測定データをゲートウェイに送信する通信モジュールと、センサモジュールと通信モジュールに電力を給電する電源とを含み、
筺体に対象動物の体表面に接触可能な凸字体が設けられ、
センサモジュールは、少なくとも、対象動物の体表温を測定する第一の温度センサと、雰囲気温度を測定する第二の温度センサとを含み、第一の温度センサが筺体の凸字体に内蔵されることを特徴とする動物の体調管理装置。
【請求項2】
ゲートウェイとの間で通信する推定判定手段を含み、この推定判定手段は、少なくとも、ゲートウェイから送信されて来た第一、第二の温度センサの測定値の差を演算する機能と、この測定値の差に基づいて対象動物の深部体温の変化を推定する機能と、この推定した対象動物の深部体温と閾値とを比較する機能と、比較の結果、推定した対象動物の深部体温が閾値を越えた場合には、対象動物の体調が不良であると判定してその旨を報知手段に報知させる機能とを実現する請求項1記載の動物の体調管理装置。
【請求項3】
ゲートウェイとの間で通信する推定判定手段を含み、この推定判定手段は、対象動物が所定の同一区域内に複数存在する場合、少なくとも、送信されて来た第一、第二の温度センサの測定値の差を演算する機能と、この測定値の差に基づいて対象動物の深部体温を推定する機能と、第一、第二の温度センサの測定値の相関関係を求める機能と、この相関関係から各対象動物の体表温のマハラノビス距離を演算する機能と、このマハラノビス距離と閾値とを比較する機能と、比較の結果、マハラノビス距離が閾値を越えるときには、報知手段を動作させる機能とを実現する請求項1記載の動物の体調管理装置。
【請求項4】
筺体の凸字体が複数の錐台であり、この複数の錐台の少なくともいずれかの錐台が中空に形成されてセンサモジュールの第一の温度センサを内蔵する請求項1、2、又は3記載の動物の体調管理装置。
【請求項5】
請求項1、2、又は3記載の動物の体調管理装置を用いることを特徴とする動物の体調管理方法。
【請求項6】
対象動物に取り付けられる筺体と、対象動物の生理現象を測定するセンサモジュールと、このセンサモジュールからの測定データをゲートウェイに送信する通信モジュールと、センサモジュールと通信モジュールに電力を給電する電源と、ゲートウェイとの間で通信する推定判定手段とを含み、
筺体に対象動物の体表面に接触可能な中空の凸字体が設けられ、
センサモジュールは、少なくとも、対象動物の体表温を測定する第一の温度センサと、雰囲気温度を測定する第二の温度センサと、対象動物の心拍数を測定する心拍センサとを含み、第一の温度センサが筺体の凸字体に内蔵されており、
推定判定手段は、対象動物の体調を表す体表温、深部体温、及び心拍数の実測値を教師データとし、これら体表温、深部体温、及び心拍数から対象動物の体調の良否を推定する推定モデルを機械学習により生成するモデル生成手段と、第一の温度センサと心拍センサが測定した測定値を受け付ける受付手段と、この受付手段が受け付けた第一の温度センサの測定値を解析して対象動物の深部体温を取得する特徴量取得手段と、モデル生成手段により生成された推定モデルを用い、受付手段が受け付けた対象動物の体表温の測定値及び対象動物の心拍数の測定値と特徴量取得手段が取得した対象動物の深部体温とから、対象動物の体調良否を推定して出力する処理手段とを有することを特徴とする動物の体調推定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、愛玩動物、家畜、野生動物等の生理現象を測定することにより、動物の体調、生理情報、受胎、分娩情報等を安定して得ることのできる動物の体調管理装置及び動物の体調管理方法並びに動物の体調推定システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
センサは、ある対象の情報を収集し、機械が取り扱うことのできる信号に置き換える素子や装置であり、製造業の製造、生産技術、品質、保守、メンテナンス、研究、設計、開発部門等で利用されるが、動物を取り扱う分野においても利用される。例えば、ペットを取り扱う分野においては、対象となるペットの体調を管理するため、温度センサ等が使用される(特許文献1参照)。また、畜産分野においても、対象となる家畜の健康を管理するため、温度センサ等が使用される(特許文献2、3参照)。野生動物による獣害対策の分野においては、対象となる野生動物の生態を把握するため、多種多様なセンサが使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007‐236251号公報
【特許文献2】特表2020‐505798号公報
【特許文献3】特開2020‐110096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、動物にセンサを利用する場合、例えば動物の体に温度センサ等を埋め込んで生理現象を温度センサ等で測定する場合には、高精度な測定が期待できるものの、手術により動物の体を傷付け、切開手術の縫合跡が残るおそれがある。これに対し、動物の生理現象を非接触のセンサで測定する場合には、手術により動物の体を傷付けるおそれがないものの、測定精度が低下し、しかも、測定の度に測定者が必要になる。
【0005】
本発明は上記に鑑みなされたもので、対象となる動物の体を手術により傷付けることなく、動物の生理現象を高精度に測定することができ、しかも、測定作業者の削減が期待できる動物の体調管理装置及び動物の体調管理方法並びに動物の体調推定システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明においては上記課題を解決するため、対象動物に取り付けられる筺体と、対象動物の生理現象を測定するセンサモジュールと、このセンサモジュールからの測定データをゲートウェイに送信する通信モジュールと、センサモジュールと通信モジュールに電力を給電する電源とを含み、
筺体に対象動物の体表面に接触可能な凸字体が設けられ、
センサモジュールは、少なくとも、対象動物の体表温を測定する第一の温度センサと、雰囲気温度を測定する第二の温度センサとを含み、第一の温度センサが筺体の凸字体に内蔵されることを特徴としている。
【0007】
なお、ゲートウェイとの間で通信する推定判定手段を含み、この推定判定手段には、少なくとも、ゲートウェイから送信されて来た第一、第二の温度センサの測定値の差を演算する機能と、この測定値の差に基づいて対象動物の深部体温の変化を推定する機能と、この推定した対象動物の深部体温と閾値とを比較する機能と、比較の結果、推定した対象動物の深部体温が閾値を越えた場合には、対象動物の体調が不良であると判定してその旨を報知手段に報知させる機能とを実現させることができる。
【0008】
また、ゲートウェイとの間で通信する推定判定手段を含み、この推定判定手段には、少なくとも、ゲートウェイから送信されて来た第一、第二の温度センサの測定値の差を演算する機能と、この測定値の差に基づいて対象動物の深部体温の変化を推定する機能と、この推定した対象動物の深部体温を報知手段に報知させる機能とを実現させることができる。
【0009】
また、ゲートウェイとの間で通信する推定判定手段を含み、この推定判定手段には、対象動物が所定の同一区域内に複数存在する場合、少なくとも、送信されて来た第一、第二の温度センサの測定値の差を演算する機能と、この測定値の差に基づいて対象動物の深部体温を推定する機能と、第一、第二の温度センサの測定値の相関関係を求める機能と、この相関関係から各対象動物の体表温のマハラノビス距離を演算する機能と、このマハラノビス距離と閾値とを比較する機能と、比較の結果、マハラノビス距離が閾値を越えるときには、報知手段を動作させる機能とを実現させることもできる。
【0010】
また、筺体の凸字体が複数の錐台であり、この複数の錐台の少なくともいずれかの錐台が中空に形成されてセンサモジュールの第一の温度センサを内蔵すると良い。
また、凸字体の内部とセンサモジュールの第一の温度センサとの間には、0℃あるいは20℃の熱伝導率が0.2W/mK以上6W/mK以下の充填材を充填することが可能である。
【0011】
また、本発明においては上記課題を解決するため、請求項1、2、又は3記載の動物の体調管理装置を用いる動物の体調管理方法であることを特徴としている。
【0012】
また、本発明においては上記課題を解決するため、対象動物に取り付けられる筺体と、対象動物の生理現象を測定するセンサモジュールと、このセンサモジュールからの測定データをゲートウェイに送信する通信モジュールと、センサモジュールと通信モジュールに電力を給電する電源と、ゲートウェイとの間で通信する推定判定手段とを含み、
筺体に対象動物の体表面に接触可能な中空の凸字体が設けられ、
センサモジュールは、少なくとも、対象動物の体表温を測定する第一の温度センサと、雰囲気温度を測定する第二の温度センサと、対象動物の心拍数を測定する心拍センサとを含み、第一の温度センサが筺体の凸字体に内蔵されており、
推定判定手段は、対象動物の体調を表す体表温、深部体温、及び心拍数の実測値を教師データとし、これら体表温、深部体温、及び心拍数から対象動物の体調の良否を推定する推定モデルを機械学習により生成するモデル生成手段と、第一の温度センサと心拍センサが測定した測定値を受け付ける受付手段と、この受付手段が受け付けた第一の温度センサの測定値を解析して対象動物の深部体温を取得する特徴量取得手段と、モデル生成手段により生成された推定モデルを用い、受付手段が受け付けた対象動物の体表温の測定値及び対象動物の心拍数の測定値と特徴量取得手段が取得した対象動物の深部体温とから、対象動物の体調良否を推定して出力する処理手段とを有することを特徴としている。
【0013】
ここで、特許請求の範囲における対象動物には、少なくとも各種のペット(例えば、犬、猫、兎等)や家畜(例えば、牛、馬、豚、未、山羊等)、害獣(例えば、鹿、猪、キョン、日本ザル、ハクビシン等)が含まれる。また、筺体の凸字体には、少なくとも各種の柱体(例えば、円柱や角柱等)や錐台等が含まれる。この凸字体は、中空の有底筒形が主ではあるが、筒形を特に排除するものではない。凸字体に第一の温度センサを内蔵する場合、凸字体内と第一の温度センサとの間に、空気よりも熱伝導率が高い(0℃の熱伝導率が0.0241W/mKを越える)充填材を充填することができる。このような充填材としては、熱伝導率が0.2W/mKのシリコーンゲル等からなる所定のゲル、接着剤、熱伝導性充填剤等があげられる。
【0014】
センサモジュールの第一、第二の温度センサが測定する温度や測定値は、セルシウス温度や絶対温度で表すことができる。このセンサモジュールは、第一、第二の温度センサの他、温湿度センサ、湿度センサ、気圧センサ、活動量計、心拍センサ等のセンサで対象動物の生理現象を測定するモジュールでも良い。また、推定判定手段は、例えばネットワークのクラウドシステムにおけるコンピュータ機器やモバイル端末、ソフトウェア等が該当する。報知手段には、少なくともコンピュータ機器やモバイル端末、ブザー、警告灯等があげられる。
【0015】
本発明によれば、対象動物の体にセンサを埋め込んで対象動物の生理現象を測定するものではないので、手術により対象動物を傷付けるおそれを払拭することができる。また、凸字体に取り付けられた第一の温度センサが対象動物の体に近接して体表温を測定するので、測定精度の低下を抑制し、体表温の測定毎に測定者が必要になることが少ない。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、対象となる動物の体を手術により傷付けることなく、動物の生理現象を高精度に測定することができ、しかも、測定作業者の削減が期待できるという効果がある。
【0017】
請求項2記載の発明によれば、対象動物の体表温が周囲の環境温度の変化に左右されることがあるのに鑑み、第一、第二の温度センサの測定値の差を演算するので、対象動物の深部体温を高精度に推定し、対象動物の体調を適切に管理することができる。
【0018】
請求項3記載の発明によれば、マハラノビス距離が閾値を越える場合には、対象動物の体調が不良であると判定して報知手段が動作するので、対象動物を同一の区域に他の動物と共に預けたり、飼育したとしても、ウイルス感染に伴う発熱、重篤化、死亡等の問題を防止することができる。
【0019】
請求項4記載の発明によれば、錐台中の第一の温度センサが対象動物に近接して体表温を測定するので、測定精度の低下を抑制し、しかも、体表温を測定する度に測定者が必要になることが少ない。また、各錐台の先端部が尖っておらず、平坦なので、対象動物の体表面を傷付けるおそれが少ない。
【0020】
請求項6記載の発明によれば、リアルタイムで対象動物の体調を適切に管理することが可能となり、対象動物を飼育する者の負担軽減が期待できる。また、データに基づいて対象動物の食材の検討が可能となり、飼育や畜産の低コスト化が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明に係る動物の体調管理装置の実施形態における猫の頸に筺体を装着して使用する状態を模式的に示す斜視説明図である。
【
図2】本発明に係る動物の体調管理装置の実施形態における通信システムを模式的に示す説明図である。
【
図3】本発明に係る動物の体調管理装置の実施形態を模式的に示す断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態を説明すると、本実施形態における動物の体調管理装置は、
図1ないし
図3に示すように、ペットである猫1の頸に装着される筺体10と、この筺体10に内蔵されて猫1の生理現象をセンサで測定するセンサモジュール15と、このセンサモジュール15からの測定データをゲートウェイ21に送信する無線タイプの通信モジュール20と、センサモジュール15と通信モジュール20に電力をそれぞれ給電する電源22と、ゲートウェイ21との間で通信して猫1の体調の良否を判定する推定判定手段23とを備え、国連サミットで採択されたSDGs(国連の持続可能な開発のための国際目標であり、17のグローバル目標と169のターゲット(達成基準)からなる持続可能な開発目標)の目標9の達成に貢献する。
【0023】
猫1は、成猫の場合、体温が人間よりも少し高く、平熱が一般的には38℃~39℃である。しかしながら、子猫の場合には平熱がもう少し高く、高齢の猫1の場合には平熱が低くなるという特徴を有する。したがって、猫1の体調の良否を推定判定手段23により判定する場合には、猫1の年齢を踏まえて判定される。
【0024】
筺体10は、
図1や
図3に示すように、例えば上部が開口した箱形の下部筺体11と、この下部筺体11の開口上部に着脱自在に嵌合されて被覆する蓋形の上部筺体12とを備え、これら下部筺体11と上部筺体12が所定の樹脂(ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂等)によりそれぞれ成形されており、下部筺体11が猫用の首輪13に装着されて猫1の体表面2に接触可能とされる。筺体10、下部筺体11、上部筺体12、下部筺体11及び上部筺体12の材料は、樹脂でも良いが、所定のエラストマー(例えば、シリコーン系エラストマー等)、好ましくは熱可塑性エラストマー(例えば、ポリスチレン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー等)等でも良い。
【0025】
筺体10の下部筺体底面からは猫1の体表面2に密接可能な複数の凸字体14が並んで突出し、各凸字体14が先細りの円錐台形の錐台14aに形成されており、錐台14aが先端部の閉じた中空とされる。この複数の凸字体14の材料は、筺体10同様、樹脂でも良いし、所定のエラストマー、好ましくは熱可塑性エラストマー等でも良い。複数の凸字体14は、同じ高さ(長さ)でも良いが、何らこれに限定されるものではなく、一部の錐台14aがやや高く、残部の錐台14aがやや低いことが好ましい。また、錐台14aの先端部は、防水性や防塵性向上の観点から閉塞されるが、特に支障を来さなければ、開口形成されても良い。猫用の首輪13は、特に限定されるものではなく、例えば綿素材やリネン素材等を用いた市販のベルトが流用される。
【0026】
センサモジュール15は、
図3に示すように、筺体10中に内蔵されるプリント配線板16と、このプリント配線板16に電気的に接続されて猫1の体表温を連続して測定する複数の第一の温度センサ17と、プリント配線板16に電気的に接続されて雰囲気温度を連続して測定する第二の温度センサ19とを備えて形成される。第一の温度センサ17が用いられるのは、猫1の健康を管理する上で、最も基本的で重要な情報であるのが体温と心拍数だからである。複数の第一の温度センサ17の少なくとも一部、好ましくは全部は、筺体10の錐台14a中に内蔵されて猫1の体表面2に錐台14aの先端部を介して近接する。
【0027】
第一の温度センサ17は、複数の錐台14aのいずれにも内蔵可能であるが、猫1の体表面2に近接して体表温を高精度に測定する観点から、背の高い長い錐台14aに内蔵されることが好ましい。内蔵される第一の温度センサ17と背の高い錐台14aとの間の空気層には、第一の温度センサ17の応答性低下を防止するため、空気よりも熱伝導率が高い充填材(例えば、ポッティング用シリコーンゲル、熱伝導シリコーンゴム、放熱用オイルコンパウンド、液状シリコーンゴム等)18が充填されることが好ましい。この充填材18の1atm(1013.25hPa)のときの熱伝導率は、0℃で0.0241W/mKを越える値、20℃で0.0257W/mKを越える値、40℃で0.0272W/mKを越える値が望ましい。
【0028】
このような充填材18の製品例としては、熱伝導率が1.6W/mKの一液型液状シリコーンゴム接着剤であるKE‐4961‐W〔信越化学工業株式会社製:製品名〕、熱伝導率が2.4W/mKの一液型液状シリコーンゴム接着剤であるKE‐4962‐W〔信越化学工業株式会社製:製品名〕、熱伝導率が2.4W/mKの一液型液状シリコーンゴム接着剤であるG‐1000〔信越化学工業株式会社製:製品名〕等があげられる。また、熱伝導率が4.5W/mKの放熱用シリコーンオイルコンパウンドであるG‐751〔信越化学工業株式会社製:製品名〕、熱伝導率が6W/mKの放熱用シリコーンオイルコンパウンドであるX‐23‐7921‐5〔信越化学工業株式会社製:製品名〕、熱伝導率が3W/mKの放熱用シリコーンオイルコンパウンドであるG‐779〔信越化学工業株式会社製:製品名〕等があげられる。
【0029】
このような第一の温度センサ17としては、温度変化により抵抗が変化するサーミスタタイプや熱電対タイプがあげられる。また、猫1の体から発せられる赤外線を集光して検出素子を暖め、この検出素子の温度変化を測定して猫1の体表温の僅かな変化を連続測定可能な赤外線タイプ等でも良い。これに対し、第二の温度センサ19は、特に限定されるものではないが、例えば筺体10内の雰囲気温度の測定に好適なサーミスタタイプや熱電対タイプが使用される。
【0030】
通信モジュール20は、
図3に示すように、特に限定されるものではないが、例えば第一、第二の温度センサ17・19の測定データを変調信号にする変調部、無線通信の搬送波として利用可能なRF信号の周波数で発振する発振部、RF信号の電力を増幅するPA部、不要な周波数成分を除去するフィルタ部、及びゲートウェイ21に電波を放射する内蔵タイプのアンテナ部を備えたモジュールが使用され、センサモジュール15のプリント配線板16に実装される。
【0031】
ゲートウェイ21は、
図2に示すように、通信プロトコルが異なるなるネットワーク同士がデータをやり取りする場合に、中継する機能を備えた機器である。このゲートウェイ21は、通信モジュール20のアンテナ部からの電波を受信して通信プロトコルを変換し、通信モジュール20と推定判定手段23の円滑な通信を実現する。
【0032】
電源22は、
図3に示すように筺体10中に交換可能に内蔵される。この電源22は、特に限定されるものではないが、例えば必要数のアルカリ電池やボタン電池等があげられる。
【0033】
推定判定手段23は、
図2に示すように、例えばネットワークのクラウドシステムにおけるモバイル端末24等からなり、このモバイル端末24には専用のソフトウェアがインストールされる。この推定判定手段23は、無線タイプのゲートウェイ21から連続して送信されて来た第一、第二の温度センサ17・19の測定値の絶対値の差を演算する機能と、この測定値の絶対値の差に基づいて猫1の深部体温の変化を推定する機能と、この推定した猫1の深部体温と閾値とを比較する機能と、比較の結果、推定した猫1の深部体温が閾値未満の場合には、猫1の体調が良好であると判定してその旨を推定した猫1の深部体温と共に報知手段に報知させる機能と、比較の結果、推定した猫1の深部体温が閾値を越えた場合には、猫1の体調が不良であると判定してその旨を推定した猫1の深部体温と共に報知手段に報知させる機能とを実現する。
【0034】
第一、第二の温度センサ17・19の測定値の絶対値の差を演算するのは、猫1の体表温が周囲の温度変化に左右されることが少なくないからである。また、閾値は、猫1の平熱が38℃~39℃であるのに鑑み、例えば39.5℃あるいは40℃に設定される。この閾値の設定に際しては、猫1の体表温と周囲の温度との相関関係や相関係数等を考慮することができる。
【0035】
報知手段は、例えば専用のソフトウェアがインストールされたモバイル端末24からなり、猫1の体調が良好であると判定された場合には、画像表示部に「体温は38.3℃です。平熱です」等と表示するよう機能する。これに対し、猫1の体調が不良であると判定された場合には、画像表示部に「体温は41℃です。平熱ではなく、何らかの病気の可能性があります」等と点滅表示したり、警告音を鳴らすよう機能する。
【0036】
なお、推定判定手段23には、ゲートウェイ21から連続して送信されて来た第一、第二の温度センサ17・19の測定値の絶対値の差を演算する機能と、この測定値の絶対値の差に基づいて猫1の深部体温の変化を推定する機能と、この推定した猫1の深部体温を報知手段に報知させる機能とを実現させても良い。
【0037】
上記構成において、飼育している猫1の体調を管理したい場合には、猫1の頸に筺体10を首輪13を介して装着すれば良い。すると、猫1の体表面2に筺体10の複数の錐台14aが体毛層を貫通して密接し、猫1の体表面2に近接した第一の温度センサ17が猫1の体表温を連続して測定するとともに、第二の温度センサ19が筺体10中の雰囲気温度を連続して測定する。この際、筺体10の先細りの錐台14aに第一の温度センサ17が挿入して保護されているので、猫1の体毛層により体表温の高精度な測定に支障を来すのを有効に防止することができる。
【0038】
第一、第二の温度センサ17・19により測定された測定値は、通信モジュール20により無線タイプのゲートウェイ21に連続して送信され、このゲートウェイ21から推定判定手段23に連続して送信される。推定判定手段23は、ゲートウェイ21から連続して送信されて来た第一、第二の温度センサ17・19の測定値の絶対値の差を演算し、この測定値の絶対値の差に基づいて猫1の深部体温の変化を推定し、この推定した猫1の深部体温と閾値とを比較する。
【0039】
比較の結果、推定した猫1の深部体温が閾値未満の場合には、猫1の体調が良好であると判定して良好の旨をモバイル端末24の画像表示部に表示する。これに対し、比較した結果、推定した猫1の深部体温が閾値を越えた場合には、猫1の体調が不良であると判定して不良の旨をモバイル端末24の画像表示部に表示したり、警告音で報知する。
【0040】
上記構成によれば、猫1の体に温度センサを埋め込んで深部体温を測定するものではないので、手術により猫1の体を傷付けるおそれを有効に払拭することができ、動物愛護の精神に資することができる。また、錐台14a中の第一の温度センサ17が猫1の体に近接して体表温を連続測定するので、測定精度の低下を有効に防止し、しかも、体表温を測定する度に飼育する者が測定者として必要になることがない。また、錐台14aと第一の温度センサ17との間に空気層が介在すると、断熱性が高くなり、第一の温度センサ17の検出精度の低下が懸念されるが、錐台14a内と第一の温度センサ17との間の空気層に空気よりも熱伝導率が高い充填材18が充填されるので、第一の温度センサ17の測定精度が低下するおそれを有効に払拭することができる。
【0041】
また、各錐台14aの先端部が尖っておらず、平坦面なので、猫1の体表面2を何ら傷付けるおそれがない。また、猫1の体表温が周囲の環境温度の変化に左右されるのに鑑み、第一、第二の温度センサ17・19の測定値の絶対値の差を演算するので、猫1の深部体温を高精度に推定することができる。さらに、通信モジュール20が無線タイプなので、通信設備の簡素化やランニングコストの削減を図ることが可能となる。
【0042】
ところで、ペットの猫1は、飼い主の自宅で飼育されるが、飼い主が仕事で長期出張する場合等には、専用のホテルや動物病院の同一の部屋に他の飼い主の猫1と共に預けられることがある。この場合、一匹でも猫風邪等で発病すると、他の猫1にウイルス感染して発熱し、重篤化したり、幼若猫では死亡するという問題が生じる。このような問題は、同一の畜舎で複数の家畜が集中して多頭飼育される場合にも発生し、深刻な事態を招くこととなる。
【0043】
このような問題を解消する場合には、推定判定手段23に実現させる機能が変更される。この実施形態における推定判定手段23は、例えば猫1が所定の同一区域内に複数存在する場合、ゲートウェイ21から連続して送信されて来た第一、第二の温度センサ17・19の測定値の絶対値の差を演算する機能と、この測定値の絶対値の差に基づいて猫1の深部体温の変化を推定する機能と、第一、第二の温度センサ17・19の測定値の相関関係を連続して求める機能と、この相関関係から各猫1の体表温のマハラノビス距離を演算する機能と、このマハラノビス距離と閾値とを比較する機能と、比較の結果、マハラノビス距離が閾値未満の場合には、猫1の体調が良好であると判定してその旨と推定した猫1の深部体温を報知手段に報知させる機能と、比較の結果、マハラノビス距離が閾値を越える場合には、猫1の体調が不良であると判定してその旨と推定した猫1の深部体温を報知手段に報知させる機能とを実現する。
【0044】
第一、第二の温度センサ17・19の測定値の相関関係は、猫1の体表温と雰囲気温度のデータと、相関係数の式の組み合わせにより求めることができる。また、マハラノビス距離は、異常検知のホテリング管理図や主成分分析等に用いられる考え方で、相関関係を考慮した距離である。このマハラノビス距離を用いれば、所定の同一区域内に猫1が複数存在しても、発熱等の異常を容易に検出することができる。マハラノビス距離は、一般的には計算用ソフトウェアの分析ツール等により求めることができる。また、報知手段については、上記実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0045】
本実施形態においても上記実施形態と同様の作用効果が期待でき、しかも、マハラノビス距離が閾値を越える場合には、猫1の体調が不良であると判定して報知手段が動作するので、例え自宅で飼育している猫1を専用のホテルや動物病院の同一部屋に他の飼い主の猫1と共に預けても、ウイルス感染に伴う発熱、重篤化、死亡等の問題を有効に防止することができる。
【0046】
さて、センサモジュール15には第一、第二の温度センサ17・19が配設されるが、猫1の健康管理をより確実にしたい場合には、必要に応じ、多種類のセンサが選択的に配設される。例えば、センサモジュール15には、筺体10内のプリント配線板16に接続されて湿度を連続的に測定して猫1の熱中症やダニ発生の予防に資する湿度センサ、筺体10内のプリント配線板16に接続されて気圧を連続的に測定して猫1の健康管理に資する気圧センサ、プリント配線板16に接続されて猫1の活動量を連続的に測定して猫1の体重管理に資する活動量センサ、及びプリント配線板16に接続されて猫1の心拍数を連続的に測定して猫1の健康管理に資する心拍センサの少なくともいずれかが配設される。これら湿度センサ、気圧センサ、活動量センサ、心拍センサは、筺体10やその凸字体14に内蔵可能であるが、筺体10とは別に筺体10の外部に装着されても良い。
【0047】
センサモジュール15に湿度センサが接続される場合、推定判定手段23は、ゲートウェイ21から連続して送信されて来た第一、第二の温度センサ17・19の測定値の絶対値の差を演算する機能と、この測定値の絶対値の差に基づいて猫1の深部体温の変化を推定する機能と、推定した猫1の深部体温とゲートウェイ21から連続して送信されて来た湿度センサの測定値との相関関係を連続的に求める機能と、この相関関係から猫1の体調の良否を判定してその旨を推定された猫1の深部体温と共に報知手段に報知させる機能とを実現する。
【0048】
また、センサモジュール15に気圧センサが接続される場合、推定判定手段23は、ゲートウェイ21から連続して送信されて来た第一、第二の温度センサ17・19の測定値の絶対値の差を演算する機能と、この測定値の絶対値の差に基づいて猫1の深部体温の変化を推定する機能と、推定した猫1の深部体温とゲートウェイ21から連続して送信されて来た気圧センサの測定値との相関関係を連続的に求める機能と、この相関関係から猫1の体調の良否を判定してその旨を推定された猫1の深部体温と共に報知手段に報知させる機能とを実現する。
【0049】
また、センサモジュール15に活動量センサが接続される場合、推定判定手段23は、ゲートウェイ21から連続して送信されて来た第一、第二の温度センサ17・19の測定値の絶対値の差を演算する機能と、この測定値の絶対値の差に基づいて猫1の深部体温の変化を推定する機能と、推定した猫1の深部体温とゲートウェイ21から連続して送信されて来た活動量センサの測定値との相関関係を連続的に求める機能と、この相関関係から猫1の体重の良否を判定してその旨を推定された猫1の深部体温と共に報知手段に報知させる機能とを実現する。
【0050】
また、センサモジュール15に心拍センサが接続される場合、推定判定手段23は、ゲートウェイ21から連続して送信されて来た第一、第二の温度センサ17・19の測定値の絶対値の差を演算する機能と、この測定値の絶対値の差に基づいて猫1の深部体温の変化を推定する機能と、推定した猫1の深部体温とゲートウェイ21から連続して送信されて来た心拍センサの測定値との相関関係を連続的に求める機能と、この相関関係から猫1の体調の良否を判定してその旨を推定された猫1の深部体温と共に報知手段に報知させる機能とを実現する。
【0051】
推定判定手段23は、第一の温度センサ17と心拍センサを用い、AI関連技術により機械学習するタイプでも良い。このタイプの推定判定手段23は、例えば対象動物が飼育している猫1の場合、猫1の体調を表す体表温、深部体温、及び心拍数の実測値を教師データとし、これら体表温、深部体温、及び心拍数から猫1の体調の良否を推定する推定モデルを機械学習により生成するモデル生成手段と、第一の温度センサ17及び心拍センサが測定した測定値を受け付ける受付手段と、この受付手段が受け付けた第一の温度センサ17の測定値を解析して猫1の深部体温を取得する特徴量取得手段と、モデル生成手段により生成された推定モデルを用い、受付手段が受け付けた猫1の体表温の測定値、及び猫1の心拍数の測定値と特徴量取得手段が取得した猫1の深部体温とから、猫1の体調良否を推定して報知手段で出力する処理手段とを有することが好ましい。
【0052】
推定判定手段23は、専用のソフトウェア、例えばNeural Network〔ソニー株式会社製:製品名〕、Matrix Flow〔株式会社MatrixFlow製:製品名〕、Deep Analyzer〔ギリア株式会社製:製品名〕等により形成される。また、心拍センサは、筺体10に内蔵されても良いし、筺体10とは別に筺体10の外部に装着されても良い。
【0053】
猫1の深部体温と心拍数を教師データとするのは、猫1の体温と心拍数とには統計的に一定の関係が存在するからである。すなわち、猫1は、平熱が38℃~39℃、正常な心拍数が1分間当たり120~160回程度であるが、猫風邪や心臓病等で深部体温が上昇すると、心拍数が200以上に上昇することがある。この事実に基づくと、猫1の深部体温と心拍数とには、一定の相関関係が存在するといえるので、猫1の体表温を解析することで取得した深部体温と、体表温及び心拍数の測定値を教師データとして公知の機械学習アルゴリズムを用いた機械学習により、高い精度の出力が可能な推定モデルを生成することができる。
【0054】
この実施形態の推定判定手段23によれば、リアルタイムで猫1の体調を正確に管理することが可能となり、猫1を飼育する者の負担軽減が大いに期待できる。また、データに基づいて猫1のフードの選択が可能となり、飼育の低コスト化が期待できる。
【0055】
なお、上記実施形態では対象動物として猫1を示したが、何らこれに限定されるものではなく、例えば犬、牛、未、鹿等でも良い。また、猫1の頸に筺体10を首輪13を介して装着したが、対象動物の耳、前足、後足、背、腹、尾等に筺体10をベルトやウェア等を介して装着しても良い。また例えば、牛に筺体10を装着する場合、牛の体調管理に利用する他、牛の受胎適正時期や分娩時期等の把握に利用しても良い。また、上記実施形態の筺体10は、平面矩形でも良いが、平面多角形や平面円形等でも良い。この筺体10には、猫1の居場所を迅速に把握するため、GPSモジュールを内蔵しても良い。
【0056】
また、上記実施形態では筺体10の下部筺体11の底面と複数の凸字体14とを一体成形したが、何らこれに限定されるものではない。例えば、下部筺体11と複数の凸字体14とを別々に成形し、下部筺体11の底面に複数の凸字体14を接着し、筺体10のうち、少なくとも下部筺体11の底面と各凸字体14の接合部をコーティングして防水性を付与することができる。また、筺体10の錐台14aは、先端部が閉じた中空の角錐台でも良いし、先端部が開口した中空筒形の角錐台とすることもできる。また、複数の錐台14a中に第一の温度センサ17を内蔵して測定精度を向上させることができる。
【0057】
さらに、推定判定手段23には必要に応じ、ゲートウェイ21から連続して送信されて来る第一の温度センサ17の測定値の絶対値の差を演算する機能と、この測定値の絶対値の差に基づいて猫1の深部体温の変化を推定する機能と、この推定した猫1の深部体温と閾値とを比較する機能と、比較の結果、推定した猫1の深部体温が閾値未満の場合には、猫1の体調が良好であると判定してその旨を報知手段に報知させる機能と、比較の結果、推定した猫1の深部体温が閾値を越えた場合には、猫1の体調が不良であると判定して報知手段に報知させる機能とを実現させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明に係る動物の体調管理装置及び動物の体調管理方法並びに動物の体調推定システムは、ペットを取り扱う分野や畜産分野等で使用される。
【符号の説明】
【0059】
1 猫(対象動物)
2 体表面
10 筺体
14 凸字体
14a 錐台
15 センサモジュール
17 第一の温度センサ
18 充填材
19 第二の温度センサ
20 通信モジュール
21 ゲートウェイ
22 電源
23 推定判定手段
24 モバイル端末(推定判定手段、報知手段)