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特開2023-178807建築用断熱材、建築用断熱材の製造方法、及び、木造建築物の断熱方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178807
(43)【公開日】2023-12-18
(54)【発明の名称】建築用断熱材、建築用断熱材の製造方法、及び、木造建築物の断熱方法
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/80 20060101AFI20231211BHJP
   E04B 1/76 20060101ALI20231211BHJP
【FI】
E04B1/80 C
E04B1/76 500F
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022091722
(22)【出願日】2022-06-06
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-07-26
(71)【出願人】
【識別番号】513038196
【氏名又は名称】丸谷 博男
(71)【出願人】
【識別番号】509231525
【氏名又は名称】磯貝 左千夫
(74)【代理人】
【識別番号】110002435
【氏名又は名称】弁理士法人井上国際特許商標事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077919
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 義雄
(74)【代理人】
【識別番号】100172638
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 隆治
(74)【代理人】
【識別番号】100153899
【弁理士】
【氏名又は名称】相原 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100159363
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 淳子
(72)【発明者】
【氏名】丸谷 博男
(72)【発明者】
【氏名】磯貝 左千夫
【テーマコード(参考)】
2E001
【Fターム(参考)】
2E001DD01
2E001FA03
2E001GA01
2E001GA03
2E001HC11
2E001JC04
2E001JD00
(57)【要約】
【課題】 建築物の壁面や柱位置に応じて断熱材の形状をフィットさせることができ、より大きな断熱性能を得ることができる断熱材、その製造方法、及び、断熱方法を提供する。
【解決手段】 断熱材100が、直方体状を呈する袋部材10と、袋部材10に収容されたおが屑20と、を有し、添加剤30として、おが屑20にホウ酸もしくはホウ砂のいずれか一方、又は、その両方が添加されているものとする。また、この断熱材100の製造方法において、おが屑20を、加圧、振動、又は、使用時と同じ姿勢による所定時間の載置により沈下させるステップを有するものとする。さらに、木造建築物の断熱方法において、上記製造方法により製造した断熱材100を、構造用面材210で補強した壁内に充填するステップを有するものとする。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直方体状を呈する袋部材と、
前記袋部材に収容されたおが屑と、を有し、
前記おが屑にホウ酸もしくはホウ砂のいずれか一方、又は、その両方が添加されている建築用断熱材。
【請求項2】
直方体状を呈する袋部材を製造するステップと、
おが屑に空気を送り込み攪拌するステップと、
前記攪拌したおが屑に、ホウ酸もしくはホウ砂のいずれか一方、又は、その両方を添加するステップと、
前記添加したおが屑を前記袋部材の内部空間に収容するステップと、
前記袋部材に収容したおが屑を、加圧、振動、又は、使用時と同じ姿勢による所定期間の載置により沈下させるステップと、
前記沈下したおが屑が収容された前記袋部材を封止するステップと、
を有する建築用断熱材の製造方法。
【請求項3】
木造建築物の断熱方法であって、
直方体状を呈する袋部材を製造するステップと、
おが屑に空気を送り込み攪拌するステップと、
前記攪拌したおが屑に、ホウ酸もしくはホウ砂のいずれか一方、又は、その両方を添加するステップと、
前記添加したおが屑を袋部材の内部空間に収容するステップと、
前記袋部材に収容したおが屑を、加圧、振動、又は、使用時と同じ姿勢による所定期間の載置により沈下させるステップと、
前記沈下したおが屑が収容された前記袋部材を封止するステップと、
前記木造建築物の壁を構造用面材で補強するステップと、
前記構造用面材で補強した壁内に前記袋部材を充填するステップと、
を有する木造建築物の断熱方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の断熱に用いられる建築用断熱材、建築用断熱材の製造方法、及び、木造建築物の断熱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物の壁面等を断熱するための断熱材が知られている。断熱材に用いられる原料として、おが屑、かんな屑、木の破砕粉など、木材原料を活用するものが知られている。木材原料は、他の材料に比して、断熱性能が高く(熱の伝導が小さく)、吸湿性があり、環境負荷が小さいため、断熱材に適しているといえる。
【0003】
特許文献1には、おが屑と、おが屑を収容する仕切り容器と、を備えた断熱材が開示されている。この容器は、防湿性段ボールで構成されている。特許文献2には、かんな屑と、かんな屑を収容する収容部材と、を備えた断熱材が開示されている。この収容部材は、2つのシート材を貼り合わせ、生じた空間にかんな屑を収容するようになっている。特許文献3には、木の破砕粉を密封缶詰めした断熱器具が開示されている。特許文献4には、保温物質としてのおが屑チップが封入された、医療用清拭布が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-061054号公報(請求項2、段落0013等)
【特許文献2】特開平10-205019号公報(請求項2、段落0026等)
【特許文献3】特開2011-38390号公報(請求項1等)
【特許文献4】特開平8-140886号公報(請求項3等)
【発明の概要】
【0005】
上述した特許文献1乃至3の断熱材では、おが屑、かんな屑、木の破砕粉は、それぞれ容器に収容される。当該容器は、形状変形ができないか、変形できたとしても全体として可撓性を有するに留まる。このため、断熱材として壁面に充填する際に、充填するスペースの寸法がシビアになり、誤差を考慮してスペースを大きめに設定すると、断熱材が充填されていないスペースが生じ、断熱性能が低下する。したがって、断熱材の充填現場において、寸法調整が容易となるものが望まれている。また、特許文献4では、おが屑を袋状体内に封止する技術が開示されているが、断熱材として建築物の壁面に充填することは、示唆されていない。
【0006】
また、近年、木質繊維を活用した断熱材も開発されてきている。しかしながら、断熱材用に木質繊維を加工するためには特殊な設備が必要であり、また、木質繊維を板状に固める加工や、ブローイング工法を用いる必要が生じる。このため、断熱材の製造や施工が容易ではなく、また、製造された断熱材の断熱性能も向上する余地がある。以上のことから、断熱材を配置する部分の寸法に柔軟に対応させることができ、十分な断熱性能を得ることができる断熱材が求められている。
【0007】
本発明の目的は、断熱材を配置する部分の寸法に柔軟に対応させることができ、十分な断熱性能を得ることができる建築用断熱材、建築用断熱材の製造方法、及び、木造建築物の断熱方法を、提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の建築用断熱材は、
直方体状を呈する袋部材と、
前記袋部材に収容されたおが屑と、を有し、
前記おが屑にホウ酸もしくはホウ砂のいずれか一方、又は、その両方が添加されているものとする。
【0009】
本発明の建築用断熱材の製造方法は、
直方体状を呈する袋部材を製造するステップと、
おが屑に空気を送り込み攪拌するステップと、
前記攪拌したおが屑に、ホウ酸もしくはホウ砂のいずれか一方、又は、その両方を添加するステップと、
前記添加したおが屑を前記袋部材の内部空間に収容するステップと、
前記袋部材に収容したおが屑を、加圧、振動、又は、使用時と同じ姿勢による所定期間の載置により沈下させるステップと、
前記沈下したおが屑が収容された前記袋部材を封止するステップと、
を有するものとする。
【0010】
本発明の木造建築物の断熱方法は、
直方体状を呈する袋部材を製造するステップと、
おが屑に空気を送り込み攪拌するステップと、
前記攪拌したおが屑に、ホウ酸もしくはホウ砂のいずれか一方、又は、その両方を添加するステップと、
前記添加したおが屑を袋部材の内部空間に収容するステップと、
前記袋部材に収容したおが屑を、加圧、振動、又は、使用時と同じ姿勢による所定期間の載置により沈下させるステップと、
前記沈下したおが屑が収容された前記袋部材を封止するステップと、
前記木造建築物の壁を構造用面材で補強するステップと、
前記構造用面材で補強した壁内に前記袋部材を充填するステップと、
を有するものとする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、断熱材を配置する部分の寸法に柔軟に対応させることができ、十分な保温効果を得ることができる建築用断熱材、建築用断熱材の製造方法、及び、木造建築物の断熱方法を、提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係る断熱材の斜視図である。
図2】(a)は図1に示す断熱材が備える袋部材の斜視図、及び、(b)は袋部材におが屑及び添加剤が収容される際の状態を示す斜視図である。
図3】本発明の実施形態に係る断熱材の製造方法を説明するためのフローチャートである。
図4図3のフローチャートにて製造された断熱材、ウッドファイバーブロー、及び、ウッドファイバーのそれぞれに対し温度計測した場合の、温度変化のタイムチャートである。
図5】本発明の実施形態に係る断熱材を建築物の壁に充填する工程を示す斜視図である。
図6】本発明の実施形態に係る断熱材を内装材にて封止する工程を示す斜視図である。
図7】本発明の実施形態に係る断熱材を用い、建築物の壁面を断熱する一連のプロセスが完了した際の状態を示す図である。(a)が斜視図、(b)が縦断面図である。
図8】本発明の実施形態に係る断熱材を用い、建築物の壁面を断熱する方法を説明するためのフローチャートである。
図9】本発明の実施形態に係る断熱材を用い、建築物の壁面を断熱する方法を説明するためのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係る建築用断熱材、建築用断熱材の製造方法、及び、木造建築物の断熱方法の各実施形態について説明する。なお、図中に適宜示される矢印における左・右、上・下、前・後は、断熱材の製造者や、施工者から見た左方向・右方向、上方向・下方向、手前方向・奥手方向に、それぞれ対応している。
【0014】
<断熱材の構成、断熱材の製造方法>
図1に示すように、本発明の実施形態に係る断熱材100は、袋部材10、おが屑20、及び、添加剤30を備えている。袋部材10には、おが屑20及び添加剤30が収容されている。袋部材10に収容することで、改修工事において壁を剥がした時に、おが屑20等がこぼれ出て(崩れ出て)しまうのを防ぐことができる。断熱材100は、例えば、木造住宅など建築物の壁面等に充填される。断熱材100は、当該壁面を介しての熱移動を抑制するために用いるものである。
【0015】
断熱材100は、袋部材10に、おが屑20及び添加剤30が収容されている状態において、略直方体形状を呈する。断熱材100においては、左右方向の横幅101、前後方向の奥行102、及び、上下方向の高さ103が、それぞれ規定される。また、上端部には、封止部104が、設けられている。封止部104は、後述する開口12(図2(a)参照)を、封止した際に形成される。横幅101、奥行102、及び、高さ103は、建築物の壁面への充填を考慮し、例えば、柱の間隔に応じて調整されてもよい。より具体的には、例えば、横幅101が420mm、奥行102が105mm、高さ103が900mmであることが好ましい。ただし、寸法はこれに限定されず、特に高さについては、50mm、又は、100mm間隔で、異なる大きさのものを複数種類、用いることが好ましい。また、横幅101は、一般的な主柱と間柱の間隔に合わせて、372.5mm、380mm、387.5mm、410mm、417.5mm、425mmとしても良く、これら複数種類を用意して用いても良い。また、奥行き102は、主柱と間柱の奥行に合わせて、120mmとしても良い。
【0016】
おが屑20は圧力を加えることにより変形するため、断熱材100は、袋部材10に、おが屑20及び添加剤30が収容されている状態において、外部からの押圧により寸法の調整が可能である。また、外部からの押圧がない無荷重状態では、断熱材100の形状は略直方体状であるが、外部からの押圧により多少の変形も可能である。したがって、壁等に充填する際、充填するスペースの寸法や形状に応じて、断熱材100を変形させ、断熱材100の形状をフィットさせることができる。
【0017】
図2(a)に示すように、袋部材10は、内部空間11、開口12、及び、マチ部13を備えている。開口12は、袋部材10の最上端において、内部空間11と外部とが連通可能なよう構成されている。内部空間11は、開口12以外とは、外部と連通不能となっている。従って、内部空間11に内容物を収容する場合には、開口12は導入口として用いられる。開口12は、内部空間11に内容物が収容された後に、当該内容物が漏出しないよう、封止可能となっている。
【0018】
マチ部13は、袋部材10に、おが屑20及び添加剤30が収容されている状態において、奥行102が形成し易いように構成されている。袋部材10は、マチ部13を備えていることが好ましい。袋部材10は、不織布から形成されることが好ましい。不織布を用いることで、空気の出入りを可能とし、また、ある程度の伸び縮みを可能とすることができる。その他の材料としては、柔軟かつ丈夫であり、袋として収容機能を奏するものであれば、これに限定されないが、通気性の高い素材とすることで、おが屑20の調湿機能を利用することが可能となる。
【0019】
図2(b)に示すように、おが屑20及び添加剤30は、予め混合された後に袋部材10に収容される。おが屑20及び添加剤30の混合物は、開口12を介して、内部空間11の底から上部に向かって詰められていく。そして、十分に収容された後に、開口12を封止することで、封止部104が形成される。収容されるおが屑20は、木材の粉砕により生成し、生成後に空気の送り込みにより撹拌されたものである。おが屑20の原料としては、建築用木材のプレカット等で生じる副産物を用いてもよいし、汚物処理等に利用される市販のおが屑を用いてもよい。間伐材由来のおが屑を活用することで、低環境負荷で断熱材100を製造することができる。
【0020】
添加剤30は、本実施形態では、ホウ酸及びホウ砂を含んでいる。なお、ホウ酸及びホウ砂のうち、何れか一方が含まれるようにしてもよい。ここにおいて、ホウ酸は、ホウ素(B)のオキソ酸(HBO)である。ホウ砂は、ホウ酸塩鉱物(例えば、Na(OH)・8HO等)である。添加剤30は、粉末形状を呈しており、おが屑20と容易に混合可能である。
【0021】
添加剤30は、抗菌剤、及び、殺虫剤としての機能を奏する。下記表1に示すように、各木材劣化生物に対し、毒性閾値がそれぞれ知られている。毒性閾値は、ホウ酸換算濃度(BAE:Boric Acid Equivalent)で表されている。添加剤30の使用量を、各木材劣化生物に対応する毒性閾値に合わせ調整すると好適である。例えば、1.0kg/m3BAE以上、3.0kg/m3BAE以下の範囲で設定することができる。
【0022】
(表1)
イエシロアリ: 3.0kg/m BAE
ヤマトシロアリ: 2.9kg/m BAE
アメリカカンザイシロアリ:1.0~1.5kg/m BAE
ヒラタクイムシ: 1.2kg/m BAE
腐朽菌類: 1.0kg/m BAE
【0023】
次に、本発明の実施形態に係る断熱材100の製造方法を説明する。図3は、断熱材100の製造方法の一例を示すフローチャートである。断熱材100の製造は、製造工場等の製造場所900(図9を参照)にて、一連のプロセスを実行することが好ましいが、断熱材100を使用するプレハブ工場や建築現場で製造することもできる。ステップ300からプロセスが開始され、続くステップ301にて、木材を粉砕し、おが屑20を生成する。次に、ステップ302にて、生成したおが屑20に空気を送り込み、おが屑20を撹拌する。次に、ステップ303にて、撹拌されたおが屑20と、添加剤30とを混合する。
【0024】
次に、ステップ304にて、混合したおが屑20、及び、添加剤30を、袋部材10の内部空間11に収容する。収容する際には、図2(a)に示すように、袋部材10の上端の開口12を開いておき、図2(b)に示すように、開口12の上側から、おが屑20及び添加剤30を詰める。この際、圧力及び振動のいずれか又はその両方を付与することが好ましい。圧力の付与としては、詰め込み方向(本例では下方向)に沿って、内部空間11のおが屑20及び添加剤30に対し、圧力を付与すると好適である。振動の付与としては、おが屑20及び添加剤30を詰め込みつつ、収容途中の袋部材10に外側から振動を付与すると好適である。圧力又は振動を付与することにより、短時間でおが屑20の密度が高めることができる。おが屑20の密度を高めることで、建築物への充填の後に時間の経過に伴っておが屑20が沈下し、壁の内部空間11の上部に断熱材が入っていない空間が生じるのを防ぐことができる。このような空間が生じた場合、壁体内の結露の原因となり、カビの発生や腐朽菌(木材を腐食させる菌)の発生につながる。おが屑20及び添加剤30を十分に収容した後、開口12を封止し、封止部104を形成する。
【0025】
次に、ステップ305にて、収容済の袋部材10を、壁内に充填された状態(使用時)と同じ姿勢で搭載台に載置する。搭載台としては、例えば、パレット等があげられる。収容済の袋部材10は、所定期間載置されて、製造場所900にて保管される。これにより、予め、おが屑20及び添加剤30を内部空間11にて沈下させておき、断熱材100が壁面に充填された後に、更に沈下することを長期間抑制できる。載置により沈下が生じた場合、封止部104による封止を再度行っても良いし、おが屑20の量を調整しても良い。なお、圧力の付与、振動の付与、及び、袋部材10の搭載台への載置のうち、本実施形態のように全てを実行してもよいし、これに代えて、2つ、又は、1つのみを実行してもよい。時間の経過による沈下を許容する場合には、いずれも行わないものとしても良い。次いで、ステップ306にて、断熱材100の製造を完了する。
【0026】
図4は、本実施形態の断熱材100、及び、2つの比較例における、温度変化を示すタイムチャートである。グラフAは、図3のフローチャートを経て製造された断熱材100(「ウッドパウダー」と称呼することもある)の性能を、示している。グラフBは、木質繊維のブローイング工法にて得られた断熱材(「ウッドファイバーブロー」と称呼することもある)の性能を、示している。グラフCは、木質繊維を固めた断熱材(「ウッドファイバー」と称呼することもある)の性能を、示している。
【0027】
グラフA,B,Cは、高温の発熱体に、各断熱材の一面を対向させた状態で、外気の影響の最も少ない中間部にて温度計測し、所定時間毎に計測温度をログしたものである。なお、温度計測に用いられる発熱体の温度、各断熱材の厚みは、グラフA,B,Cの計測において、それぞれ同一である。
【0028】
グラフA,B,Cの計測初期における温度は、それぞれ略16度であった。他方、計測末期である時間=300分におけるグラフAの温度、グラフBの温度、グラフCの温度は、それぞれ略33度、略38度、略42度であった。このことから、各グラフにおける時間に対する温度の勾配は、グラフA,B,Cの順番で大きくなっていくことが判明した。
【0029】
この温度計測においては、時間に対する温度の勾配が小さいほど、断熱性能が高い(熱の伝導が小さい)と言える。従って、各断熱材の中で、ウッドパウダーの断熱性能が最も高い。以上より、袋部材10におが屑20及び添加剤30が収容された状態の断熱材100の断熱性能は、木質繊維を原料として形成された断熱材が有する断熱性能よりも高い。従って、木質繊維を原料として形成された断熱材を利用する場合に比して、より大きな断熱性能を得ることができる。
【0030】
<断熱材を用いた壁面の断熱方法>
次に、本発明の実施形態に係る断熱材100を用い、建築物の壁面200を断熱する方法を説明する。図5乃至図7に示すように、建築物の壁面200を断熱する場合、上述の製造方法により製造された断熱材100に加え、構造用面材210、及び、内装材220等が用いられる。壁面200には、主柱201、桁・胴差202、及び、間柱203が、それぞれ設けられている。主柱201及び間柱203は上下方向に延びており、桁・胴差202は水平方向に延びている。間柱203は、隣り合う主柱201の間に配置されている。一対の主柱201の間に間柱203を複数本配置しても良い。主柱201及び間柱203は、桁・胴差202に対してそれぞれ直交している。なお、本実施形態では、構造用面材210を配置し、筋交いを設けないことで、断熱材100を充填しやすいものとしているが、必要に応じて筋交いを共用してもよい。
【0031】
構造用面材210は、略矩形板状を呈しており、主柱201、桁・胴差202、及び、間柱203に固定され、主に水平方向の荷重に対して壁面200を補強する機能を有する。構造用面材210の寸法は、隣り合う主柱201、及び、桁・胴差202にて区画される領域に合わせ、調整する。断熱材100の寸法は、主柱201及び間柱203の間に介装されるよう調整する。内装材220は、略矩形板状を呈しており、主柱201、桁・胴差202、及び、間柱203の前側(建物の内側)に固定される。また、内装材220は、断熱材100を後側面(建物の外側の面)で支える。内装材220の寸法は、隣り合う主柱201、及び、桁・胴差202にて区画される領域に合わせ、調整する。
【0032】
図8は、断熱材100を用いた壁面200の断熱方法の一例を示すフローチャートである。壁面200を断熱する場合、ステップ800からプロセスが開始され、続くステップ801にて、壁の組立場所910,920(図9を参照)とは別の場所(工場など)にて、断熱材100を製造することが好ましいが、これに限らず、壁の組立場所910,920において断熱材100の製造を行っても良い。
【0033】
次に、ステップ802にて、製造された断熱材100を、断熱材100の製造場所900から壁の組立場所910,920に運搬する。図9の上側に示す壁の組立場所910は、建築現場と同一である。図9の下側に示す壁の組立場所920は、例えば、ツーバイフォー工法に用いる壁版の組立工場等であり、建築現場930とは異なる。壁が組立場所920で組み立てられる場合、組立後には、組立場所920から建築現場930に壁部材が運搬される。
【0034】
図8のフローチャートに戻り、ステップ803にて、壁の組立場所910,920において、壁面200を構造用面材210で補強する。より具体的には、図5に示すように、構造用面材210の前側面(室内側)が露出するように、構造用面材210の四辺を主柱201及び桁・胴差202の後側(建物の外側)に固定する。
【0035】
次に、ステップ804にて、運搬された断熱材100を、壁の内側に充填する。充填は、例えば、柱を建てた状態で行う場合には、断熱材100を下から積み上げることで行うことができる。一方、壁部材をプレハブ化する場合には、例えば、壁部材を水平方向に配置した状態で断熱材100を充填することもできる。ただし、おが屑20の沈下を防止するため、壁部材を使用時の姿勢に立てた状態で断熱材100を充填することが好ましい。断熱材100を充填した状態で、壁内に隙間が生じた場合には、羊毛(ウール)等の充填材を充填することが好ましい。羊毛(ウール)は、手でちぎったり現場での加工が容易で、柔軟に詰め込むことができるため、多少の施工誤差に柔軟に対応することができる。
【0036】
次に、ステップ805にて、充填された断熱材100を、内装材220にて封止する。より具体的には、図6及び図7(a)に示すように、内装材220の後側面(建物の外側の面)を、断熱材100の前側面(室内側面)に対向さて、内装材220の四辺を主柱201及び桁・胴差202の前側(室内側)に固定する。
【0037】
ステップ806にて、建築物の壁面200の断熱が完了する。これにより、図7(a)に示すように、壁面200に充填された断熱材100は、内装材220に覆われた状態となる。図7(a)の縦断面図である図7(b)に示すように、断熱材100は、構造用面材210にて補強された壁面200と、内装材220との間に、介装される。従って、壁面200における熱移動が、断熱材100によって抑制される。
【0038】
<実施形態の効果>
以上に説明したように、本発明の実施形態に係る断熱材100は、袋部材10の内部空間11に、おが屑20及び添加剤30が収容されたものである。したがって、断熱材100は、外部からの押圧により寸法調整が可能である。また、充填時の押圧等で断熱材100を変形させ、壁面や柱位置に応じて、断熱材100の形状をフィットさせることができる。従って、充填現場における施工が容易となる。また、ウッドファイバーを原料として形成された断熱材を利用する場合に比して、より大きな断熱性能を得ることができる。
【0039】
また、本発明の実施形態では、断熱材100は、ホウ酸若しくはホウ砂のいずれか一方、又は、その両方を含む添加剤30を備えている。添加剤30の使用量を、各木材劣化生物に対応する毒性閾値に合わせ調整することで、所望の抗菌効果、及び、殺虫効果を有する断熱材100を得ることができる。
【0040】
また、本発明の実施形態では、断熱材100の製造方法において、袋部材10に収容する前に、撹拌されたおが屑20と、添加剤30とが混合される。このため、おが屑20中に、添加剤30を偏りなく分散させることができる。
【0041】
また、本発明の実施形態では、断熱材100の製造方法において、混合されたおが屑20及び添加剤30が、袋部材10の内部空間11に収容される。ウッドファイバーを原料とする断熱材のように原料を固めたり、ブローイング工法を採用する必要がないため、簡易に断熱材100を製造し、施工することができる。
【0042】
また、本発明の実施形態では、断熱材100の製造方法において、混合されたおが屑20及び添加剤30を袋部材10の内部空間11に収容する際、圧力及び振動が付与される。これにより、おが屑20の密度が高まり、断熱材100が壁面に充填された後に、おが屑20及び添加剤30が内部空間11にて沈下することを、長期間抑制できる。
【0043】
また、本発明の実施形態では、断熱材100の製造方法において、混合されたおが屑20及び添加剤30を袋部材10の内部空間11に収容した後、収容済の袋部材10が、搭載台に所定期間載置される。これにより、予め、おが屑20及び添加剤30を内部空間11にて沈下させておき、断熱材100が壁面に充填された後に、更に沈下することを長期間抑制できる。
【0044】
また、本発明の実施形態では特に、断熱材100を用いた壁面200の断熱方法において、予め製造され運搬されてきた断熱材100を、壁面200に充填することで断熱が可能となる。断熱材100の充填の際は、断熱材100を積み上げる手法が採れるため、施工が容易となる。
【0045】
また、本発明の実施形態では、断熱材100を用いた壁面200の断熱方法において、壁面200が構造用面材210にて補強される。断熱材100を充填するスペースを確保するために、筋交いを設けない方が好ましいが、この場合であっても、構造用面材210の補強により、壁面200の水平方向の荷重に対する耐力を落とすことなく、壁面200を断熱することができる。
【0046】
以上、実施形態を示して本発明をより詳細かつ具体的に説明したが、実施形態は単なる例示説明であり、本発明を限定するものではない。
【符号の説明】
【0047】
10…袋部材、20…おが屑、30…添加剤、100…断熱材、200…建築物の壁面、210…構造用面材、300~306…ステップ、800~806…ステップ、A…グラフ、B…グラフ、C…グラフ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9