(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178812
(43)【公開日】2023-12-18
(54)【発明の名称】インクジェット捺染装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20231211BHJP
D06P 5/30 20060101ALI20231211BHJP
C09D 11/322 20140101ALI20231211BHJP
C09D 11/54 20140101ALI20231211BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20231211BHJP
【FI】
B41J2/01 201
D06P5/30
C09D11/322
C09D11/54
B41J2/01 123
B41M5/00 114
B41M5/00 132
B41M5/00 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022091728
(22)【出願日】2022-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100168583
【弁理士】
【氏名又は名称】前井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】東谷 勝弘
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4H157
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA05
2C056EB13
2C056EC07
2C056EC36
2C056EC37
2C056FA10
2C056HA42
2H186AB03
2H186AB39
2H186AB41
2H186AB44
2H186AB46
2H186AB59
2H186BA08
2H186DA17
2H186FB10
2H186FB15
2H186FB48
2H186FB55
4H157AA03
4H157BA15
4H157CA12
4H157CB02
4H157FA04
4H157FA23
4H157GA06
4H157HA13
4J039AD03
4J039AD09
4J039AE06
4J039BD02
4J039CA06
4J039FA03
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】様々な素材の捺染対象に対して、滲みの発生を抑制しつつ、発色性に優れる画像を形成できるインクジェット捺染装置を提供する。
【解決手段】インクジェット捺染装置は、捺染対象の画像形成領域に画像を形成するインクジェット捺染装置であって、前記画像形成領域に前処理液を吐出する前処理ヘッドと、前記画像形成領域にインクジェット用インクを吐出する記録ヘッドと、前記画像形成領域において、前記前処理ヘッドによって前記前処理液が吐出されてから前記記録ヘッドによって前記インクジェット用インクが吐出されるまでの時間間隔Xを制御する制御部とを備える。前記制御部は、前記捺染対象が特定素材である場合の前記時間間隔Xが、前記捺染対象が前記特定素材以外の素材である場合の前記時間間隔Xよりも短くなるように制御する。前記特定素材は、起毛素材、羊毛素材、又は獣毛素材である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
捺染対象の画像形成領域に画像を形成するインクジェット捺染装置であって、
前記画像形成領域に前処理液を吐出する前処理ヘッドと、
前記画像形成領域にインクジェット用インクを吐出する記録ヘッドと、
前記画像形成領域において、前記前処理ヘッドによって前記前処理液が吐出されてから前記記録ヘッドによって前記インクジェット用インクが吐出されるまでの時間間隔Xを制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記捺染対象が特定素材である場合の前記時間間隔Xが、前記捺染対象が前記特定素材以外の素材である場合の前記時間間隔Xよりも短くなるように制御し、
前記特定素材は、起毛素材、羊毛素材、又は獣毛素材である、インクジェット捺染装置。
【請求項2】
前記インクジェット捺染装置は、シリアル方式であり、
前記インクジェット捺染装置は、前記前処理ヘッド及び前記記録ヘッドを収容するキャリッジを備え、
前記制御部は、前記キャリッジの走査速度を制御することで前記時間間隔Xを制御する、請求項1に記載のインクジェット捺染装置。
【請求項3】
前記捺染対象が前記特定素材であるか否かの情報を入力する入力部を更に備え、
前記制御部は、前記入力部から入力された前記情報を取得する、請求項1又は2に記載のインクジェット捺染装置。
【請求項4】
前記インクジェット用インクは、顔料と、アニオン性を有する分散剤とを含有し、
前記前処理液は、バインダー樹脂粒子を含有する樹脂エマルションであり、
前記バインダー樹脂粒子は、バインダー樹脂を含み、
前記樹脂エマルションは、
カチオン界面活性剤を更に含有する強制乳化型樹脂エマルションであるか、又は
前記バインダー樹脂がカチオン性を有する自己乳化型樹脂エマルションである、請求項1又は2に記載のインクジェット捺染装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット捺染装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット捺染装置においては、例えば、顔料及び分散剤を含有するインクジェット用インクが用いられることがある。インクジェット捺染装置には、滲みの発生を抑制しつつ、発色性に優れる画像を形成できることが要求される。そのため、インクジェット捺染装置においては、捺染対象に予め前処理液を吐出することで前処理を行うことがある。これにより、捺染対象に顔料が定着し易くなる。一例として、樹脂粒子を含有する前処理液を用いたインクジェット捺染方法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、一部の素材を捺染対象とする場合には、特許文献1に記載のインクジェット捺染方法を用いても、滲みの発生を抑制しつつ、発色性に優れる画像を形成することは困難である。
【0005】
本発明の目的は、上記課題に鑑みてなされたものであり、様々な素材の捺染対象に対して、滲みの発生を抑制しつつ、発色性に優れる画像を形成できるインクジェット捺染装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るインクジェット捺染装置は、捺染対象の画像形成領域に画像を形成するインクジェット捺染装置であって、前記画像形成領域に前処理液を吐出する前処理ヘッドと、前記画像形成領域にインクジェット用インクを吐出する記録ヘッドと、前記画像形成領域において、前記前処理ヘッドによって前記前処理液が吐出されてから前記記録ヘッドによって前記インクジェット用インクが吐出されるまでの時間間隔Xを制御する制御部とを備える。前記制御部は、前記捺染対象が特定素材である場合の前記時間間隔Xが、前記捺染対象が前記特定素材以外の素材である場合の前記時間間隔Xよりも短くなるように制御する。前記特定素材は、起毛素材、羊毛素材、又は獣毛素材である。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るインクジェット捺染装置によれば、様々な素材の捺染対象に対して、滲みの発生を抑制しつつ、発色性に優れる画像を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】インクジェット捺染装置の要部の一例を示す側面図である。
【
図3】
図1に要部を示すインクジェット捺染装置の制御ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下において、体積中位径(D50)の測定値は、何ら規定していなければ、動的光散乱式粒径分布測定装置(マルバーン社製「ゼータサイザーナノZS」)を用いて測定された値である。
【0010】
本明細書では、アクリル及びメタクリルを包括的に「(メタ)アクリル」と総称する場合がある。本明細書に記載の各成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0011】
<インクジェット捺染装置>
以下、本発明の実施形態に係るインクジェット捺染装置を説明する。本発明のインクジェット捺染装置は、捺染対象の画像形成領域に画像を形成するインクジェット捺染装置であって、画像形成領域に前処理液を吐出する前処理ヘッドと、画像形成領域にインクジェット用インク(以下、単にインクと記載することがある)を吐出する記録ヘッドと、画像形成領域において、前処理ヘッドによって前処理液が吐出されてから記録ヘッドによってインクが吐出されるまでの時間間隔Xを制御する制御部とを備える。制御部は、捺染対象が特定素材である場合の時間間隔Xが、捺染対象が特定素材以外の素材である場合の時間間隔Xよりも短くなるように制御する。特定素材は、起毛素材、羊毛素材、又は獣毛素材である。
【0012】
ここで、羊毛素材及び獣毛素材とは、羊毛又は獣毛を含む素材である。羊毛素材及び獣毛素材において、羊毛及び獣毛の含有割合としては、例えば、50質量%以上であり、80質量%以上が好ましい。獣毛とは、羊以外の哺乳類に由来する動物繊維を示す。獣毛としては、例えば、山羊毛(例えば、カシミア及びモヘヤ)、ラマ毛、ビクーニャ毛、アルパカ毛、ラクダ毛、兎毛(例えば、アンゴラ)及び馬毛が挙げられる。起毛素材とは、起毛処理が施された素材である。起毛素材としては、例えば、ラシャ及びフランネルが挙げられる。起毛処理の一例としては、針布又はアザミを巻きつけたローラーを回転させながら、上述のローラーに素材(生地等)を接触させる方法が挙げられる。上述の処理により、素材の表面のスパン糸から繊維が引っ掻き出され、起毛素材が得られる。
【0013】
本発明の発明者は、様々な素材の捺染対象の中でも、特定素材については、前処理を行ったとしても滲みの発生と発色性の低下とが発生し易いという知見を得た。そして、本発明の発明者は、特定素材において滲みの発生と発色性の低下とが発生し易い理由として、特定素材では前処理のムラが発生しているという仮説を立てた。
【0014】
起毛素材において前処理のムラが発生すると判断される理由を説明する。起毛素材は、前処理液の吸収性が部位毎に相違すると判断される。詳しくは、起毛素材に前処理を行うと、起毛された繊維の先端部に付着した前処理液はそのまま繊維の表面に残留する一方で、それ以外の部位に付着した前処理液は起毛素材の内部に浸透する。そのため、起毛素材に前処理を行うと、前処理液が繊維の表面に残留していない領域が起毛素材の表面に部分的に発生する。その結果、起毛素材は、前処理のムラが発生すると判断される。
【0015】
羊毛素材又は獣毛素材において前処理のムラが発生すると判断される理由を説明する。羊毛又は獣毛は、ケラチンというタンパク質を主成分とする。そして、羊毛又は獣毛は、毛の中心構造を形成する皮質部分(コルテックス)と、皮質部分を被覆する鱗片状の表皮部分(スケール)とにより構成される。このうち、表皮部分は、水をはじく性質を有する。そのため、羊毛素材又は獣毛素材に前処理を行うと、素材の表面の大部分の領域では前処理液がはじかれる一方で、素材の表面の一部の領域では周囲からはじかれた前処理液が集合して液滴を形成する。これにより、羊毛素材又は獣毛素材に前処理を行うと、素材の表面に前処理液が付着していない領域と、素材の表面に前処理液の水滴が付着している部分とが発生する。その結果、羊毛素材又は獣毛素材は、前処理のムラが発生すると判断される。
【0016】
本発明の発明者は、特定素材に捺染する場合には、他の素材に捺染する場合と比較し、前処理液を吐出してからインクを吐出するまでの時間間隔Xを短くすることにより、滲みの発生を抑制しつつ、発色性に優れる画像を形成できるという知見を得た。これは、時間間隔Xを短くすると、特定素材において前処理のムラが発生するよりも前にインクが吐出されることになり、前処理のムラに起因する影響を抑制できるためである。本発明のインクジェット捺染装置は、上述の知見に基づくものである。本発明のインクジェット捺染装置は、制御部により、特定素材である場合の時間間隔Xを、特定素材以外の素材である場合の時間間隔Xよりも短くなるように制御する。その結果、本発明のインクジェット捺染装置は、特定素材を用いる場合に、前処理のムラに起因する滲みの発生と発色性の低下とを抑制できる。また、本発明のインクジェット捺染装置は、他の素材を用いる場合においても、前処理を行うことで、滲みの発生を抑制しつつ、発色性に優れる画像を形成できる。
【0017】
以下、図面に基づいて本発明のインクジェット捺染装置について更に詳細に説明する。
図1は、本発明のインクジェット捺染装置の要部の一例を示す。
図1に要部を示すインクジェット捺染装置は、シリアル方式のインクジェット捺染装置である。
図1のインクジェット捺染装置は、捺染対象Tの上方に配設されるキャリッジ1と、キャリッジ1を保持するシャフト2と、制御部5と、入力部6と、記憶部7とを主に備える。X軸は、副走査方向の軸を示す。Y軸は主走査方向の軸を示す。Z軸は、鉛直方向の軸を示す。捺染対象Tは、搬送方向Aに搬送される。
【0018】
[キャリッジ]
図2は、キャリッジ1の詳細を示す。キャリッジ1は、シャフト2によって保持されている。キャリッジ1は、シャフト2に沿ってY軸に往復移動が可能である。
【0019】
キャリッジ1は、捺染対象Tに前処理液を吐出する前処理ヘッド3と、捺染対象Tにインクを吐出する4個の記録ヘッド4とを有する。キャリッジ1は、一定の走査速度で走査方向Bに移動しながら、捺染対象Tの画像形成領域に前処理及び画像形成を行う。詳しくは、キャリッジ1は、走査方向Bに移動しながら、捺染対象Tにおいて前処理が必要な個所(画像形成領域)の直上に前処理ヘッド3が到達すると、前処理ヘッド3から捺染対象Tに前処理液を吐出する。これにより、捺染対象Tに前処理液が付着し、前処理が行われる。同様に、キャリッジ1は、走査方向Bに移動しながら、捺染対象Tにおいてインクの吐出が必要な個所の直上に記録ヘッド4が到達すると、記録ヘッド4からインクを吐出する。これにより、捺染対象Tにインクが付着し、画像形成が行われる。キャリッジ1は、シャフト2の一方の端部(
図2では左端)に到達するまで、上述の一連の動作を行う。次に、キャリッジ1がシャフト2の一方の端部に到達すると、キャリッジ1は、シャフト2の他方の端部に到達するまで、走査方向Bと逆方向に移動する。それと共に、インクジェット捺染装置は、捺染対象Tを搬送方向Aに搬送する。次に、キャリッジ1は、再度、走査方向Bに移動しながら、前処理及び画像形成を行う。インクジェット捺染装置は、これらの一連の動作を繰り返すことにより、捺染対象Tの画像形成領域に画像を形成する。
【0020】
上述の前処理及び画像形成において、捺染対象Tの特定の一点に着目して説明する。上述の特定の一点では、まず前処理ヘッド3から吐出された前処理液が付着した後、一定の時間差(時間間隔X)の後、記録ヘッド4から吐出された各インクが付着する。時間間隔Xは、前処理ヘッド3が上述の特定の一点の直上に到達した後に、記録ヘッド4が上述の特定の一点の直上に到達するまでの時間に等しい。つまり、時間間隔Xは、ヘッド幅d及びキャリッジ1の移動速度(走査速度)によって決定される(時間間隔X=ヘッド幅d/走査速度)。通常、画像形成中のキャリッジ1の走査速度は一定である。また、ヘッド幅dも通常は一定である。そのため、時間間隔Xは、捺染対象Tの全ての領域において共通である。
【0021】
ここで、ヘッド幅dとは、前処理ヘッド3において前処理液が吐出される開口部(オリフィス)の中心と、4つの記録ヘッド4のうち最後に吐出される記録ヘッド4(
図2では走査方向Bにおいて最後尾に位置する第4記録ヘッド4d)においてインクが吐出される開口部の中心との平面視での距離をいう。
【0022】
ヘッド幅dとしては、5mm以上100mm以下が好ましく、15mm以上40mm以下がより好ましい。走査速度としては、500mm/秒以上1500mm/秒以下が好ましく、1000mm/秒以上1300mm/秒以下がより好ましい。捺染対象Tが特定素材である場合の時間間隔Xとしては、5ミリ秒以上50ミリ秒以下が好ましく、10ミリ秒以上30ミリ秒以下がより好ましい。捺染対象Tが特定素材である場合の時間間隔X(以下、αとする)に対する捺染対象Tが特定素材以外の素材である場合の時間間隔X(以下、βとする)の比(β/α)としては、1.1倍以上4.0倍以下が好ましく、1.3倍以上2.0倍以下がより好ましい。
【0023】
[前処理ヘッド]
前処理ヘッド3は、前処理液を吐出するヘッドである。前処理ヘッド3には、前処理液が供給される。前処理ヘッド3の種類としては、特に限定されないが、例えば、ピエゾ方式ヘッド及びサーマルインクジェット方式ヘッドが挙げられる。
【0024】
[記録ヘッド]
記録ヘッド4は、第1記録ヘッド4a、第2記録ヘッド4b、第3記録ヘッド4c及び第4記録ヘッド4dを有する。一例として、第1記録ヘッド4a、第2記録ヘッド4b、第3記録ヘッド4c及び第4記録ヘッド4dは、それぞれ、マゼンタインクを吐出するマゼンタ用記録ヘッド、シアンインクを吐出するシアン用記録ヘッド、イエローインクを吐出するイエロー用記録ヘッド及びブラックインクを吐出するブラック用記録ヘッドである。記録ヘッド4の種類としては、特に限定されないが、例えば、ピエゾ方式ヘッド及びサーマルインクジェット方式ヘッドが挙げられる。
【0025】
[制御部]
制御部5は、プロセッサーによって構成される。プロセッサーとしては、例えば、CPU(Central Processing Unit)が挙げられる。制御部5は、制御プログラムを実行することにより、インクジェット捺染装置の各部(特に、キャリッジ1、前処理ヘッド3及び記録ヘッド4)の動作を制御する。また、制御部5は、画像形成処理用の集積回路を備える。画像形成処理用の集積回路は、例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)によって構成される。制御部5は、インクジェット捺染装置の各部を動作させることにより、インクジェット捺染を行わせる。
【0026】
[入力部]
入力部6は、捺染に関する情報をユーザーが入力するための部材である。入力部6としては、例えば、操作ボタン及びタッチパネルが挙げられる。入力部6には、捺染対象Tが特定素材であるか否かの情報を少なくとも入力する。
【0027】
[記憶部]
記憶部7は、データを記憶する。記憶部7は、ストレージデバイス及び半導体メモリーによって構成される。ストレージデバイスとしては、例えば、HDD(Hard Disk Drive)及びSSD(Solid State Drive)が挙げられる。半導体メモリーとしては、例えば、RAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)が挙げられる。記憶部7は、制御プログラムを記憶する。制御プログラムには、捺染対象Tが特定素材である場合におけるキャリッジ1の適切な走査速度のデータと、捺染対象Tが特定素材以外の素材である場合におけるキャリッジ1の適切な走査速度のデータとが含まれる。
【0028】
図3は、
図1に要部を示すインクジェット捺染装置の制御ブロック図である。
図3に示すように、制御部5は、キャリッジ1と、前処理ヘッド3と、記録ヘッド4と、入力部6と、記憶部7とにそれぞれ接続される。
図3に示すように、制御部5は、判定部51を含む。判定部51は、記憶部7に記憶されたコンピュータープログラムを実行するプロセッサーである。
【0029】
入力部6は、捺染に関する情報(特に、捺染対象Tが特定素材であるか否かの情報)が入力されると、その情報を制御部5へ送信する。制御部5は、入力部6から送信された情報を取得する。制御部5は、情報に応じて、キャリッジ1の走査速度を決定する。詳しくは、制御部5は、捺染対象Tの素材が特定素材であるという情報を取得した場合のキャリッジ1の走査速度を、捺染対象Tの素材が特定素材以外の素材であるという情報を取得した場合のキャリッジ1の走査速度よりも早くなるように制御する。これにより、制御部5は、捺染対象Tの素材が特定素材である場合の時間間隔Xを、捺染対象Tの素材が特定素材以外の素材である場合の時間間隔Xよりも短くするように制御する。
【0030】
上述の通り、捺染対象Tが特定素材である場合は、前処理液及びインクの時間間隔Xを短くすることにより、滲みの発生を抑制しつつ、発色性に優れる画像を特定素材に形成できる。
【0031】
図1に要部を示すインクジェット捺染装置は、制御部5が上述の通りキャリッジ1の走査速度を調整することにより、捺染対象Tの素材が特定素材である場合においても、特定素材以外の他の素材である場合においても、滲みの発生を抑制しつつ、発色性に優れる画像を形成できる。
【0032】
以上、本発明のインクジェット捺染装置の一例について、図面に基づいて説明した。しかし、本発明のインクジェット捺染装置は、
図1に要部を示すインクジェット捺染装置に限定されない。
【0033】
詳しくは、
図1に要部を示すインクジェット捺染装置は、シリアル方式のインクジェット捺染装置である。しかし、本発明のインクジェット捺染装置は、ライン方式のインクジェット捺染装置であってもよい。本発明のインクジェット捺染装置がライン方式である場合、本発明のインクジェット捺染装置は、制御部が捺染対象の搬送速度を制御することで時間間隔Xを制御できる。
【0034】
また、
図1に要部を示すインクジェット捺染装置は、1個の前処理ヘッド3と、4個の記録ヘッド4とを備える。しかし、本発明のインクジェット捺染装置が備える前処理ヘッドの個数は、2個以上でもよい。また、本発明のインクジェット捺染装置が備える記録ヘッドの個数は、1~3個又は5個以上でもよい。例えば、本発明のインクジェット捺染装置は、2個の前処理ヘッドと、1個以上の記録ヘッドと、前処理ヘッド及び記録ヘッドを収容するキャリッジとを備えてもよい。この場合、キャリッジには、走査方向に沿って、1個の前処理ヘッド、1個以上の記録ヘッド、及び1個の前処理ヘッドがこの順番で収容される。2個の前処理ヘッドのうち、一方の前処理ヘッドはキャリッジの往復運動における往路で前処理液を吐出し、他方の前処理ヘッドは復路で前処理液を吐出する。このような構成が採用された本発明のインクジェット捺染装置は、キャリッジの往復運動における往路及び復路の何れにおいても前処理及び画像形成を行うことが可能となる。
【0035】
更に、
図1に要部を示すインクジェット捺染装置は、前処理ヘッド3及び記録ヘッド4がキャリッジ1に収容されている。しかし、本発明のインクジェット捺染装置は、キャリッジを備えず、前処理ヘッド及び記録ヘッドが互いに独立していてもよい。更に、本発明のインクジェット捺染装置において、入力部及び記憶部は任意構成である。更に、本発明のインクジェット捺染装置は、他の部材(例えば、画像形成後の捺染対象を加熱する加熱部)を更に備えてもよい。以下、本発明のインクジェット捺染装置に用いるインク及び前処理液の好ましい一例について説明する。
【0036】
[インク]
インクは、顔料と、アニオン性を有する分散剤とを含有することが好ましい。また、インクは、水、水溶性有機溶媒及びノニオン界面活性剤のうち少なくとも1つを更に含有することが好ましい。
【0037】
(顔料)
顔料は、例えば、溶媒に分散して存在する。インクの色濃度、色相、又は安定性を向上させる観点から、顔料のD50としては、30nm以上250nm以下が好ましく、70nm以上160nm以下がより好ましい。
【0038】
顔料としては、例えば、黄色顔料、橙色顔料、赤色顔料、青色顔料、紫色顔料、及び黒色顔料が挙げられる。黄色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー(74、93、95、109、110、120、128、138、139、151、154、155、173、180、185、及び193)が挙げられる。橙色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントオレンジ(34、36、43、61、63、及び71)が挙げられる。赤色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド(122及び202)が挙げられる。青色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー(15、より具体的には15:3)が挙げられる。紫色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントバイオレット(19、23、及び33)が挙げられる。黒色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブラック(7)が挙げられる。
【0039】
インクにおける顔料の含有割合としては、1.0質量%以上12.0質量%以下が好ましく、3.0質量%以上7.0質量%以下がより好ましい。顔料の含有割合を1.0質量%以上とすることで、形成される画像の画像濃度を向上できる。また、顔料の含有割合を12.0質量%以下とすることで、インクの流動性を向上できる。
【0040】
(アニオン性を有する分散剤)
アニオン性を有する分散剤としては、例えば、アニオン界面活性剤、ポリカルボン酸、及びポリカルボン酸の塩が挙げられる。ポリカルボン酸の塩としては、例えば、ポリカルボン酸アンモニウム塩、ポリカルボン酸アミン塩及びポリカルボン酸金属塩(例えば、ポリカルボン酸ナトリウム塩)が挙げられる。アニオン性を有する分散剤としては、ポリカルボン酸アミン塩が好ましい。
【0041】
アニオン界面活性剤としては、例えば、脂肪酸石けん(例えば、ステアリン酸ナトリウム及びドデカン酸ナトリウム)、及びスルホン酸塩化合物(例えば、ドデシル硫酸ナトリウム及びドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)が挙げられる。
【0042】
ポリカルボン酸としては、例えば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸、ポリフタル酸、及び(メタ)アクリル酸とマレイン酸との共重合体が挙げられる。
【0043】
ポリカルボン酸アミン塩に含まれるアミンとしては、例えば、1級アルキルアミン、2級アルキルアミン及び3級アルキルアミンが挙げられる。1級アルキルアミン、2級アルキルアミン及び3級アルキルアミンが有するアルキル基としては、例えば、炭素原子数1以上4以下のアルキル基(例えば、メチル基及びエチル基)が挙げられる。
【0044】
インクにおいて、アニオン性を有する分散剤の含有割合としては、0.5質量%以上7.0質量%以下が好ましく、1.5質量%以上3.5質量%以下がより好ましい。アニオン性を有する分散剤の含有割合を0.5質量%以上とすることで、インクにおける顔料の分散性を向上できる。アニオン性を有する分散剤の含有割合を7.0質量%以下とすることで、インクの吐出性を向上できる。
【0045】
(水)
インクにおける水の含有割合としては、50.0質量%以上90.0質量%以下が好ましく、60.0質量%以上80.0質量%以下が好ましい。
【0046】
(水溶性有機溶媒)
水溶性有機溶媒としては、例えば、グリコール化合物、多価アルコールのエーテル化合物、ラクタム化合物、含窒素化合物、アセテート化合物、チオジグリコール、グリセリン及びジメチルスルホキシドが挙げられる。
【0047】
グリコール化合物としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール及びテトラエチレングリコールが挙げられる。
【0048】
多価アルコールのエーテル化合物としては、例えば、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、及びプロピレングリコールモノメチルエーテルが挙げられる。
【0049】
ラクタム化合物としては、例えば、2-ピロリドン及びN-メチル-2-ピロリドンが挙げられる。
【0050】
含窒素化合物としては、例えば、1,3-ジメチルイミダゾリジノン、ホルムアミド及びジメチルホルムアミドが挙げられる。
【0051】
アセテート化合物としては、例えば、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートが挙げられる。
【0052】
水溶性有機溶媒としては、グリコール化合物が好ましく、ジエチレングリコールがより好ましい。
【0053】
インクが水溶性有機溶媒を含有する場合、インクにおける水溶性有機溶媒の含有割合としては、5.0質量%以上50.0質量%以下が好ましく、15.0質量%以上30.0質量%以下がより好ましい。
【0054】
(ノニオン界面活性剤)
ノニオン界面活性剤は、インクに含まれる各成分の相溶性及び分散安定性を向上させる。また、ノニオン界面活性剤は、捺染対象に対するインクの浸透性(濡れ性)を向上させる。
【0055】
ノニオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンドデシルエーテル、ポリオキシエチレンヘキサデシルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートエーテル、モノデカノイルショ糖、及びアセチレングリコールのエチレンオキシド付加物が挙げられる。ノニオン界面活性剤としては、アセチレングリコールのエチレンオキシド付加物が好ましい。
【0056】
インクがノニオン界面活性剤を含有する場合、インクにおけるノニオン界面活性剤の含有割合としては、0.1質量%以上5.0質量%以下が好ましく、0.5質量%以上2.0質量%以下がより好ましい。
【0057】
(他の成分)
インクは、必要に応じて、公知の添加剤(より具体的には、例えば、溶解安定剤、乾燥防止剤、酸化防止剤、粘度調整剤、pH調整剤及び防カビ剤)を更に含有してもよい。
【0058】
[インクの調製方法]
インクは、例えば、顔料分散液と、水と、必要に応じて配合される他の成分(例えば、水溶性有機溶媒及びノニオン界面活性剤)とを攪拌機により均一に混合することにより調製できる。顔料分散液は、顔料と、アニオン性を有する分散剤とを含有する。インクの調製では、各成分を均一に混合した後、遠心分離処理により異物及び粗大粒子を除去してもよい。遠心分離処理の条件としては、例えば、遠心速度を5000rpm以上20000rpm以下、遠心時間を30秒以上5分以下とすることができる。
【0059】
(顔料分散液)
顔料分散液は、顔料と、アニオン性を有する分散剤とを含有する分散液である。顔料分散液の分散媒としては、水が好ましい。顔料分散液は、水溶性有機溶媒を更に含有することが好ましい。
【0060】
顔料分散液における顔料の含有割合としては、例えば、5.0質量%以上25.0質量%以下である。顔料分散液におけるアニオン性を有する分散剤の含有割合としては、例えば、2.0質量%以上10.0質量%以下である。顔料分散液が水溶性有機溶媒を含有する場合、顔料分散液における水溶性有機溶媒の含有割合としては、例えば、2.0質量%以上10.0質量%以下である。
【0061】
顔料分散液は、顔料と、アニオン性を有する分散剤と、分散媒(例えば、水)と、必要に応じて添加される成分(例えば、水溶性有機溶媒)とをメディア型湿式分散機により湿式分散することで調製できる。メディア型湿式分散機による湿式分散では、メディアとして、例えば、小粒径ビーズ(例えば、D50が0.5mm以上1.5mm以下のビーズ)を用いることができる。ビーズの材質としては、特に限定されないが、硬質の材料(例えば、ガラス及びジルコニア)が好ましい。
【0062】
インクの製造において顔料分散液を使用する場合、インクの全原料に対する顔料分散液の割合としては、例えば、25.0質量%以上60.0質量%以下である。
【0063】
[前処理液]
前処理液は、バインダー樹脂粒子を含有する樹脂エマルションであることが好ましい。バインダー樹脂粒子は、バインダー樹脂を含む。樹脂エマルションは、カチオン界面活性剤を更に含有する強制乳化型樹脂エマルションであるか、又はバインダー樹脂がカチオン性を有する自己乳化型樹脂エマルションであることが好ましい。前処理液は、水、水溶性有機溶媒及びノニオン界面活性剤のうち少なくとも1つを更に含有することが好ましい。
【0064】
ここで、自己乳化型樹脂エマルション及び強制乳化型樹脂エマルションについて説明する。自己乳化型樹脂エマルションは、バインダー樹脂粒子を含有する。自己乳化型樹脂エマルションが含有するバインダー樹脂粒子は、乳化剤、分散剤及び界面活性剤が存在しない状態においても水中に分散可能である。自己乳化型樹脂エマルションが含有するバインダー樹脂粒子は、通常、親水基(例えば、カチオン基)を有するバインダー樹脂を含む。強制乳化型樹脂エマルションは、乳化剤、分散剤及び界面活性剤のうち少なくとも一つと、バインダー樹脂粒子とを含有する。強制乳化型樹脂エマルションが含有するバインダー樹脂粒子は、乳化剤、分散剤及び界面活性剤のうち何れも存在しない状態では水中に分散できない。強制乳化型樹脂エマルションが含有するバインダー樹脂粒子は、通常、疎水性が比較的高いバインダー樹脂を含む。
【0065】
樹脂エマルションは、カチオン界面活性剤を更に含有する強制乳化型樹脂エマルションであることが好ましい。強制乳化型樹脂エマルションが含有するバインダー樹脂は、通常、疎水性が比較的高いバインダー樹脂を含む。そのため、樹脂エマルションが強制乳化型樹脂エマルションである場合、形成される画像の表面に比較的高い疎水性を付与できる。その結果、画像の摩擦堅ろう度(特に、湿潤摩擦堅ろう度)を向上できる。
【0066】
(バインダー樹脂粒子)
バインダー樹脂粒子は、バインダー樹脂を含む。バインダー樹脂粒子におけるバインダー樹脂の含有割合としては、80質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、100質量%が更に好ましい。
【0067】
バインダー樹脂粒子のD50としては、30nm以上500nm以下が好ましく、100nm以上400nm以下がより好ましく、150nm以上350nm以下が更に好ましい。バインダー樹脂粒子のD50を30nm以上500nm以下とすることで、前処理液を吐出する際にノズル詰まりの発生を抑制できる。
【0068】
前処理液におけるバインダー樹脂粒子の含有割合としては、1.0質量%以上15.0質量%以下が好ましく、3.0質量%以上10.0質量%以下がより好ましい。バインダー樹脂粒子の含有割合を1.0質量%以上とすることで、滲みの発生を更に効果的に抑制しつつ、形成される画像の発色性を更に向上できる。バインダー樹脂粒子の含有割合を15.0質量%以下とすることで、前処理液をノズルで吐出する際にノズル詰まりが発生することを抑制できる。
【0069】
(バインダー樹脂)
バインダー樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル樹脂、スチレン樹脂、ポリビニル樹脂、ポリエステル樹脂、アミノ樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアミド樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂及びこれらの樹脂の単量体を含む共重合体(例えば、スチレン-(メタ)アクリル樹脂)が挙げられる。バインダー樹脂としては、ポリエステル樹脂、スチレン-(メタ)アクリル樹脂又はウレタン樹脂が好ましい。
【0070】
(ポリエステル樹脂)
樹脂エマルションが強制乳化型樹脂エマルションである場合、ポリエステル樹脂は、カチオン基を有しないことが好ましい。樹脂エマルションが自己乳化型樹脂エマルションである場合、ポリエステル樹脂は、カチオン基を有することが好ましい。カチオン基としては、例えば、4級アンモニウムカチオン基が挙げられる。
【0071】
ポリエステル樹脂は、1種以上の多価アルコールと1種以上の多価カルボン酸とを縮重合させることで得られる。ポリエステル樹脂を合成するための多価アルコールとしては、例えば、2価アルコール(例えば、ジオール化合物、及びビスフェノール類)、及び3価以上のアルコールが挙げられる。ポリエステル樹脂を合成するための多価カルボン酸としては、例えば、2価カルボン酸及び3価以上のカルボン酸が挙げられる。なお、ポリエステル樹脂の合成では、多価カルボン酸の代わりに、縮重合によりエステル結合を形成できる多価カルボン酸誘導体(例えば、多価カルボン酸の無水物、及び多価カルボン酸ハライド)を使用してもよい。
【0072】
ジオール類としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、2-ブテン-1,4-ジオール、1,5-ペンタンジオール、2-ペンテン-1,5-ジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジプロピレングリコール、1,4-ベンゼンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、及びポリテトラメチレングリコールが挙げられる。
【0073】
ビスフェノール類としては、例えば、ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物、及びビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物が挙げられる。
【0074】
3価以上のアルコールとしては、例えば、ソルビトール、1,2,3,6-ヘキサンテトロール、1,4-ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4-ブタントリオール、1,2,5-ペンタントリオール、グリセロール、ジグリセロール、2-メチルプロパントリオール、2-メチル-1,2,4-ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、及び1,3,5-トリヒドロキシメチルベンゼンが挙げられる。
【0075】
2価カルボン酸としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、マロン酸、コハク酸、アルキルコハク酸(例えば、n-ブチルコハク酸、イソブチルコハク酸、n-オクチルコハク酸、n-ドデシルコハク酸、及びイソドデシルコハク酸)、及びアルケニルコハク酸(例えば、n-ブテニルコハク酸、イソブテニルコハク酸、n-オクテニルコハク酸、n-ドデセニルコハク酸、及びイソドデセニルコハク酸)が挙げられる。
【0076】
3価以上のカルボン酸としては、例えば、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、2,5,7-ナフタレントリカルボン酸、1,2,4-ナフタレントリカルボン酸、1,2,4-ブタントリカルボン酸、1,2,5-ヘキサントリカルボン酸、1,3-ジカルボキシ-2-メチル-2-メチレンカルボキシプロパン、1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸、テトラ(メチレンカルボキシ)メタン、1,2,7,8-オクタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、及びエンポール三量体酸が挙げられる。
【0077】
カチオン基を有するポリエステル樹脂を合成する場合、ポリエステル樹脂の原料として、多価アルコールと、多価カルボン酸と、カチオン基を有する化合物とを用いることが好ましい。カチオン基を有する化合物としては、例えば、カチオン基と、ヒドロキシ基及びカルボキシ基のうち少なくとも1つとを有する化合物(以下、カチオン化合物(A)と記載することがある)が挙げられる。カチオン化合物(A)は、例えば、カチオン性を有する末端基、又はカチオン基を有する繰り返し単位をポリエステル樹脂に付与する。
【0078】
カチオン化合物(A)としては、例えば、カルニチン、アセチルカルニチン、N,N,N-トリメチルグリシン(グリシンベタイン)、N,N,N-トリエチルグリシン、N,N,N-トリプロピルグリシン、N,N,N-トリイソプロピルグリシン、N,N,N-トリメチル-γ-アミノ酪酸、N,N,N-トリメチルアラニン、N,N,N-トリエチルアラニン、N,N,N-トリイソプロピルアラニン、N,N,N-トリメチル-2-メチルアラニン、N,N,N-トリメチルアンモニオプロピオネート及びプロリンベタインが挙げられる。カチオン化合物(A)は、塩化合物(例えば、塩酸塩)であってもよい。塩化合物であるカチオン化合物(A)としては、例えば、ベタイン塩酸塩(グリシンベタインの塩酸塩)が挙げられる。カチオン化合物(A)としては、ベタイン塩酸塩が好ましい。
【0079】
ポリエステル樹脂の原料がカチオン化合物(A)を含む場合、ポリエステル樹脂の原料におけるカチオン化合物(A)の含有割合としては、0.1質量%以上10.0質量%以下が好ましく、1.0質量%以上3.0質量%以下がより好ましい。
【0080】
ポリエステル樹脂がカチオン基を有しない場合、ポリエステル樹脂の原料は、テレフタル酸と、エチレングリコールと、1,6-ヘキサンジオールと、安息香酸無水物とを含むことが好ましい。
【0081】
ポリエステル樹脂がカチオン基を有する場合、ポリエステル樹脂の原料は、テレフタル酸と、ベタイン塩酸塩と、エチレングリコールと、1,6-ヘキサンジオールと、安息香酸又は安息香酸無水物とを含むことが好ましい。
【0082】
(スチレン-(メタ)アクリル樹脂)
スチレン-(メタ)アクリル樹脂は、スチレンに由来する単位と、(メタ)アクリル酸又は(メタ)アクリル酸エステルに由来する単位とを含む樹脂である。
【0083】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが挙げられる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル及び(メタ)アクリル酸ラウリルが挙げられる。
【0084】
スチレン-アクリル樹脂としては、スチレンとアクリル酸ブチルとアクリル酸ラウリルとメタクリル酸メチルとアクリル酸2-エチルヘキシルとの共重合体が好ましい。
【0085】
(カチオン界面活性剤)
カチオン界面活性剤としては、例えば、アミン塩界面活性剤及び4級アンモニウム塩界面活性剤が挙げられる。アミン塩界面活性剤としては、例えば、炭素原子数10以上25以下のアルキル基を有するアルキルアミン酢酸塩(例えば、ステアリルアミンアセテート)が挙げられる。4級アンモニウム塩界面活性剤としては、例えば、炭素原子数10以上25以下のアルキル基を有するアルキルトリメチルアンモニウム塩(例えば、セチルトリメチルアンモニウムクロライド)が挙げられる。カチオン界面活性剤としては、4級アンモニウム塩界面活性剤が好ましく、セチルトリメチルアンモニウムクロライドがより好ましい。
【0086】
前処理液がカチオン界面活性剤を含有する場合、前処理液におけるカチオン界面活性剤の含有割合としては、0.1質量%以上3.0質量%以下が好ましく、0.3質量%以上1.0質量%以下がより好ましい。カチオン界面活性剤の含有割合を0.1質量%以上とすることで、バインダー樹脂粒子の分散性を向上できる。カチオン界面活性剤の含有割合を3.0質量%以下とすることで、形成される画像の摩擦堅ろう度を向上できる。
【0087】
(水)
前処理液における水の含有割合としては、50.0質量%以上90.0質量%以下が好ましく、60.0質量%以上80.0質量%以下がより好ましい。
【0088】
(水溶性有機溶媒)
水溶性有機溶媒としては、例えば、上述のインクの説明において例示した水溶性有機溶媒と同様のものが挙げられる。水溶性有機溶媒としては、グリコール化合物が好ましく、ジエチレングリコールがより好ましい。
【0089】
前処理液が水溶性有機溶媒を含有する場合、前処理液における水溶性有機溶媒の含有割合としては、5.0質量%以上50.0質量%以下が好ましく、20.0質量%以上40.0質量%以下がより好ましい。
【0090】
(ノニオン界面活性剤)
ノニオン界面活性剤は、前処理液の表面張力を調整する。ノニオン界面活性剤としては、例えば、上述のインクの説明において例示したノニオン界面活性剤と同様のものが挙げられる。ノニオン界面活性剤としては、アセチレングリコールのエチレンオキシド付加物が好ましい。
【0091】
前処理液がノニオン界面活性剤を含有する場合、前処理液におけるノニオン界面活性剤の含有割合としては、0.1質量%以上5.0質量%以下が好ましく、0.5質量%以上2.0質量%以下がより好ましい。ノニオン界面活性剤の含有割合を0.1質量%以上5.0質量%以下とすることで、前処理液の吐出性を向上できる。
【0092】
[前処理液の調製方法]
前処理液は、例えば、バインダー樹脂粒子を含有する原料エマルションに、必要に応じて他の成分(例えば、水、水溶性有機溶媒及びノニオン界面活性剤)を添加した後、攪拌機により均一に混合することにより調製できる。原料エマルションは、カチオン界面活性剤を更に含有する強制乳化型樹脂エマルションであるか、バインダー樹脂がカチオン性を有する自己乳化型樹脂エマルションである。
【0093】
(原料エマルション)
原料エマルションの分散媒としては、例えば、水を用いることができる。自己乳化型樹脂エマルションである原料エマルションは、バインダー樹脂及び分散媒を含む混合物を加圧加熱しながら攪拌することで調製できる。上述の混合物におけるバインダー樹脂の含有割合としては、例えば、15.0質量%以上45.0質量%以下である。強制乳化型樹脂エマルションである原料エマルションは、バインダー樹脂、分散媒及びカチオン界面活性剤を含む混合物を加圧加熱しながら攪拌することで調製できる。上述の混合物におけるバインダー樹脂の含有割合としては、例えば、15.0質量%以上45.0質量%以下である。上述の混合物におけるカチオン界面活性剤の含有割合としては、例えば、1.0質量%以上6,0質量%以下である。
【0094】
原料エマルションの調製条件としては、例えば、処理温度を100℃以上150℃以下、処理時間を1時間以上4時間以下とすることができる。
【0095】
前処理液の調製において原料エマルションを使用する場合、前処理液の全原料に対する原料エマルションの割合としては、例えば、10.0質量%以上25.0質量%以下である。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明に係るインクジェット捺染装置は、捺染物の製造に用いることができる。
【符号の説明】
【0097】
1 キャリッジ
2 シャフト
3 前処理ヘッド
4 記録ヘッド
4a 第1記録ヘッド
4b 第2記録ヘッド
4c 第3記録ヘッド
4d 第4記録ヘッド
5 制御部
51 判定部
6 入力部
7 記憶部