(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178816
(43)【公開日】2023-12-18
(54)【発明の名称】包装用積層体及び包装袋
(51)【国際特許分類】
B32B 27/32 20060101AFI20231211BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20231211BHJP
【FI】
B32B27/32 E
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022091733
(22)【出願日】2022-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】弁理士法人小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】箕輪 和代
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E086AB01
3E086AD01
3E086BA04
3E086BA15
3E086BB02
3E086BB05
3E086BB41
3E086BB51
3E086BB85
4F100AA17D
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4F100YY00C
(57)【要約】
【課題】ポリプロピレンを主構成とする場合であっても、シール部分をシールした際に適度なシール強度を維持しつつ、シール部で破袋した際には、最内層(内容物側の層)間で層間剥離する包装用積層体を提供する。
【解決手段】基材層と、中間層と、シーラント層とを少なくとも備えた包装用積層体であって、基材層、中間層およびシーラント層がポリプロピレンを主要成分として構成されており、積層体全体の90%以上がポリプロピレンであり、積層体のシーラント層同士をヒートシールした時のヒートシール強度が30N~40Nである、ことを特徴とする、包装用積層。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、中間層と、シーラント層とを少なくとも備えた包装用積層体であって、
前記基材層、前記中間層および前記シーラント層がポリプロピレンを主要成分として構成されており、積層体全体の90%以上がポリプロピレンであり、
前記積層体のシーラント層同士をヒートシールした時のヒートシール強度が30N~40Nであることを特徴とする、包装用積層体。
【請求項2】
前記基材層又は中間層が、少なくとも一方の表面に積層された無機酸化物層と、無機酸化物層上に積層されたガスバリア性被覆層とを備え、
前記ガスバリア性被覆層が、水酸基含有高分子化合物、金属アルコキシド、シランカップリング剤、及びそれらの加水分解物からなる群より選択される少なくとも1種を含有するガスバリア性被覆層形成用組成物を用いて形成される、請求項1に記載の包装用積層体
【請求項3】
前記包装用積層体がレトルト包装用積層体である、請求項1に記載の包装用積層体。
【請求項4】
前記包装用積層体がレトルト包装用積層体である、請求項2に記載の包装用積層体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の包装用積層体を製袋してなる、包装袋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は包装用積層体及び包装袋に関する。
【背景技術】
【0002】
耐熱性及び強靭性に優れた二軸延伸PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムをベースフィルムとし、シーラント層としてポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンフィルムを積層した積層体が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
世界でプラスチックごみ問題が注目される中、循環型社会の実現にむけて環境配慮型包装材料の需要がますます高まっている。包装材料に関し、グローバル企業の多くがより優れたプラスチック資源循環に向けた目標を設定し、さまざまな施策を打ち出している。また、米国では、PE(ポリエチレン)の回収から再利用までのリサイクルルートが整備され始めているなど、世界的にモノマテリアル(単一素材)を前提とするリサイクルへの取り組みが加速しつつある。すなわち、従来、様々な異種材料を組み合わせることで高性能化を図ってきた包装用の積層体においても、モノマテリアル化が求められるようになってきている。
【0005】
レトルト用途の従来のマルチマテリアル(複合素材)の包装材料をモノマテリアル化する場合、シーラント特性の観点からPP(ポリプロピレン)単一素材の包装材料への変更が考えられる。しかし、包装材料をモノマテリアル化する場合、最内層(内容物側の層)と最外層とで融点が非常に近いものになる。特に、レトルト用途の場合、レトルト条件で開封しないために最内層であるシーラントの融点をある程度高める必要があるため、最外層との融点の差がさらに小さくなる。
【0006】
最外層は製袋時のヒートシール工程において最も熱がかかる部分であるため、熱融着しにくいフィルムが用いられるが、ヒートシール工程で最内層であるシーラントを融着させるために高い温度をかけると、最外層が熱収縮により変形してしまい、袋が歪み、搬送性が低下したり、内容物封入時の作業性が低下したりするなどの問題が発生する。
【0007】
そのため、ヒートシール工程の温度を下げると、シール部の密着性が低下しシール強度が低下する。また、温度を上げるとシール強度が向上するも、上述したように包装袋が歪んだりする。また、包装袋がシール部から落下した際に破袋しシール部と非シール部との境目で切れ、フィルムが積層されたシート部がエッジ形状になり、安全性が低下する懸念や、見栄えが悪く積層シート不良や外観不良などの懸念がある。
【0008】
本開示は上記事情に鑑みてなされたものであり、ポリプロピレンを主構成とする場合であっても、シール部分をシールした際に適度なシール強度を維持しつつ、シール部で破袋した際には、最内層(内容物側の層)間で層間剥離する包装用積層体を提供することを目的とする。本開示はまた、当該包装用積層体を用いた包装袋を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る一側面は、基材層と、中間層と、シーラント層とを少なくとも備えた包装用積層体であって、基材層、中間層およびシーラント層がポリプロピレンを主要成分として構成されており、積層体全体の90%以上がポリプロピレンであり、積層体のシーラント層同士をヒートシールした時のヒートシール強度が30N~45Nである。
【0010】
上記構成によれば、包装袋への歪みなどの外観への影響が抑えられ、シール性を保持しつつ、破袋時にはシール部分のシーラント層間で層間剥離させることができる。
【0011】
上記積層体は、上記基材層の少なくとも一方の表面上、又は、上記中間層の少なくとも一方の表面上に積層された無機酸化物層と、上記無機酸化物層上に積層されたガスバリア性被覆層とを更に備え、上記ガスバリア性被覆層が、水酸基含有高分子化合物、金属アルコキシド、シランカップリング剤、及び、それらの加水分解物からなる群より選択される少なくとも1種を含有するガスバリア性被覆層形成用組成物を用いて形成されていてよい。
【0012】
上記積層体は、レトルトパウチ用であってよい。
【0013】
本開示の一側面は、上記の包装用積層体を製袋してなる包装袋を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、ポリプロピレンを主構成とする場合であっても、製袋時の変形を低減できる包装用積層体を提供することができる。また、本開示によれば、当該包装用積層体を用いた包装袋を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る包装用積層体を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、場合により図面を参照しつつ本開示の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。また、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0017】
<包装用積層体>
図1は、一実施形態に係る包装用積層体(以下、単に「積層体」とも言う)を示す模式断面図である。
図1に示す積層体100は、基材層11、中間層12及びシーラント層13をこの順に備える。基材層11及び中間層12、並びに中間層12及びシーラント層13は、それぞれ接着剤層Sで接着されていてよい。基材層11、中間層12及びシーラント層13は、いずれもポリプロピレンを含む。基材層11、中間層12及びシーラント層13は、ポリプロピレンフィルムを含んでいてよい。積層体100は、例えば水蒸気や酸素に対するガスバリア性向上の観点から、無機酸化物層を備えていてよい。無機酸化物層は、基材層の少なくとも一方の表面上、又は、中間層の少なくとも一方の表面上に設けられていてよい。積層体100は、無機酸化物層上に設けられたガスバリア性被覆層を備えていてよい。
【0018】
[基材層11]
基材層は支持体の一つとなる層であり、ポリプロピレンを含む。基材層はポリプロピレンフィルムを含んでいてよく、ポリプロピレンフィルムからなるものであってよい。
【0019】
ポリプロピレンフィルムは、ポリプロピレンを、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の酸無水物、不飽和カルボン酸のエステル等を用いてグラフト変性して得られる酸変性ポリプロピレンフィルム等であってもよい。また、ポリプロピレンとしては、ホモポリプロピレン樹脂(PP)、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-エチレンブロック共重合体、プロピレン-αオレフィン共重合体などのポリプロピレン系樹脂等を使用することができる。
【0020】
基材層を構成するポリプロピレンフィルムは、延伸フィルムであってよく、無延伸フィルムであってよい。但し、耐衝撃性、耐熱性、耐水性、寸法安定性等の観点から、ポリプロピレンフィルムは延伸フィルムであってよい。これにより、製袋時のヒートシール工程において基材層が熱融着することを抑制することができる。また、レトルト処理やボイル処理を施す用途に、積層体をより好適に用いることができる。延伸方法としては特に限定されず、インフレーションによる延伸、または一軸延伸、二軸延伸など、寸法が安定したフィルムが供給可能であれば、どのような方法でもよい。
【0021】
基材層の厚さは特に限定されない。用途に応じ、当該厚さを6~200μmとすることができるが、優れた耐衝撃性と優れたガスバリア性とを得る観点から、9~50μmであってよく、12~38μmであってよく、20~30μmであってよい。
【0022】
基材層の積層面に、バリア性能を損なわない範囲でコロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理などの各種前処理を施したり、易接着層などのコート層を設けたりしても構わない。
【0023】
[密着層]
積層体が基材層上に無機酸化物層を備える場合、基材層の、無機酸化物層を積層する面には密着層(アンカーコート層)が設けられてよい。密着層が基材層上に設けられることにより、基材層と無機酸化物層との密着性能向上と、基材層表面の平滑性向上との二つの効果を得ることができる。なお、平滑性が向上することで無機酸化物層を欠陥なく均一に成膜し易くなり、高いバリア性を発現し易い。密着層はアンカーコート剤を用いて形成することができる。
【0024】
アンカーコート剤としては、例えば、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂等が挙げられる。アンカーコート剤としては、耐熱性及び層間接着強度の観点から、ポリエステル系ポリウレタン樹脂が好ましい。
【0025】
密着層の厚さは特に限定されないが、0.01~5μmの範囲であることが好ましく、0.03~3μmの範囲であることがより好ましく、0.05~2μmの範囲であることが特に好ましい。密着層の厚さが上記下限値以上であると、より十分な層間接着強度が得られる傾向にあり、他方、上記上限値以下であると所望のガスバリア性が発現し易い傾向にある。
【0026】
密着層を基材層上に塗工する方法としては、公知の塗工方法が特に制限なく使用可能であり、浸漬法(ディッピング法)、スプレー、コーター、印刷機、刷毛等を用いる方法が挙げられる。また、これらの方法に用いられるコーター及び印刷機の種類並びにそれらの塗工方式としては、ダイレクトグラビア方式、リバースグラビア方式、キスリバースグラビア方式、オフセットグラビア方式等のグラビアコーター、リバースロールコーター、マイクログラビアコーター、チャンバードクター併用コーター、エアナイフコーター、ディップコーター、バーコーター、コンマコーター、ダイコーター等を挙げることができる。
【0027】
密着層の塗布量としては、アンカーコート剤を塗工して乾燥した後の1m2あたりの質量が0.01~5g/m2であることが好ましく、0.03~3g/m2であることがより好ましい。アンカーコート剤を塗工して乾燥した後の1m2あたりの質量が上記下限以上であると、成膜が十分となる傾向にあり、他方、上記上限以下であると十分に乾燥し易く溶剤が残留し難い傾向にある。
【0028】
密着層を乾燥させる方法としては、特に限定されないが、自然乾燥による方法や、所定の温度に設定したオーブン中で乾燥させる方法、上記コーター付属の乾燥機、例えばアーチドライヤー、フローティングドライヤー、ドラムドライヤー、赤外線ドライヤー等を用いる方法を挙げることができる。さらに、乾燥の条件としては、乾燥させる方法により適宜選択することができ、例えばオーブン中で乾燥させる方法においては、温度60~100℃にて、1秒間~2分間程度乾燥することが好ましい。
【0029】
密着層として、上記ポリウレタン樹脂に代えて、ポリビニルアルコール系樹脂を用いることができる。ポリビニルアルコール系樹脂としては、ビニルエステル単位がケン化されてなるビニルアルコール単位を有するものであればよく、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)が挙げられる。
【0030】
PVAとしては、例えば、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル等のビニルエステルを、単独で重合し、次いでケン化した樹脂が挙げられる。PVAは、共重合変性又は後変性された変性PVAであってもよい。変性PVAは、例えばビニルエステルと、ビニルエステルと共重合可能な不飽和モノマーを共重合させた後にケン化することで得られる。ビニルエステルと共重合可能な不飽和モノマーとしては、例えばエチレン、プロピレン、イソブチレン、α-オクテン、α-ドデセン、α-オクタデセン等のオレフィン;3-ブテン-1-オール、4-ペンチン-1-オール、5-ヘキセン-1-オール等のヒドロキシ基含有α-オレフィン;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、ウンデシレン酸等の不飽和酸;アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル;ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸;アルキルビニルエーテル、ジメチルアリルビニルケトン、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、ビニルエチレンカーボネート、2,2-ジアルキル-4-ビニル-1,3-ジオキンラン、グリセリンモノアリルエーテル、3,4-ジアセトキシ-1-ブテン等のビニル化合物;塩化ビニリデン、1,4-ジアセトキシ-2-ブテン、ビニレンカーボネート等が挙げられる。
【0031】
PVAの重合度は300~3000が好ましい。重合度が300より小さいとバリア性が低下し易く、また3000超であると粘度が高すぎて塗工適性が低下し易い。PVAのケン化度は90モル%以上が好ましく、95モル%以上がより好ましく、99モル%以上がさらに好ましい。また、PVAのケン化度は100モル%以下であっても、99.9モル%以下であってもよい。PVAの重合度及びケン化度は、JIS K 6726(1994)に記載の方法に準拠して測定できる。
【0032】
EVOHは、一般にエチレンと、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル等の酸ビニルエステルとの共重合体をケン化して得られる。
【0033】
EVOHの重合度は300~3000が好ましい。重合度が300より小さいとバリア性が低下し易く、また3000超であると粘度が高すぎて塗工適性が低下し易い。EVOHのビニルエステル成分のケン化度は90モル%以上が好ましく、95モル%以上がより好ましく、99モル%以上がさらに好ましい。また、EVOHのケン化度は100モル%以下であっても、99.9モル%以下であってもよい。EVOHのケン化度は、核磁気共鳴(1H-NMR)測定を行い、ビニルエステル構造に含まれる水素原子のピーク面積と、ビニルアルコール構造に含まれる水素原子のピーク面積とから求められる。
【0034】
EVOHのエチレン単位含有量は10モル%以上であり、15モル%以上がより好ましく、20モル%以上がさらに好ましく、25モル%以上が特に好ましい。また、EVOHのエチレン単位含有量は65モル%以下が好ましく、55モル%以下がより好ましく、50モル%以下がさらに好ましい。エチレン単位含有量が10モル%以上であると、高湿度下におけるガスバリア性あるいは寸法安定性を良好に保つことができる。一方、エチレン単位含有量が65モル%以下であると、ガスバリア性を高めることができる。EVOHのエチレン単位含有量は、NMR法により求めることができる。
【0035】
密着層としてポリビニルアルコール系樹脂を用いる場合、密着層の形成方法としては、ポリビニルアルコール系樹脂溶液を用いた塗布や、多層押出等が挙げられる。
【0036】
[無機酸化物層]
積層体が無機酸化物層を備える場合、無機酸化物層に含まれる無機酸化物としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化錫等が挙げられる。透明性及びバリア性の観点から、無機酸化物としては、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、及び酸化マグネシウムからなる群より選択されてよい。また、加工時に引っ張り延伸性に優れる観点から、無機酸化物層を酸化ケイ素を用いた層とすることが好ましい。無機酸化物層を用いることにより、積層体のリサイクル性に影響を与えない範囲のごく薄い層で、高いバリア性を得ることができる。
【0037】
無機酸化物層のO/Si比は1.7以上であることが望ましい。O/Si比が1.7以上であると金属Siの含有割合が抑制されて良好な透明性が得られ易い。また、O/Si比は2.0以下であることが好ましい。O/Si比が2.0以下であるとSiOの結晶性が高くなって無機酸化物層が硬くなり過ぎることを防ぐことができ、良好な引張り耐性が得られる。これにより、ガスバリア性被覆層を積層する際に無機酸化物層にクラックが発生することを抑制することができる。また、包装袋に成形後もボイルやレトルト処理時の熱により基材層又は中間層が収縮することがあるが、O/Si比が2.0以下であることで無機酸化物層が上記収縮に追従し易く、バリア性の低下を抑制することができる。これらの効果をより十分に得る観点から、無機酸化物層のO/Si比は1.75以上1.9以下であることが好ましく、1.8以上1.85以下であることがより好ましい。
【0038】
無機酸化物層のO/Si比は、X線光電子分光法(XPS)により求めることができる。例えば、測定装置はX線光電子分光分析装置(日本電子株式会社製、商品名:JPS-90MXV)にて、X線源は非単色化MgKα(1253.6eV)を使用し、100W(10kV-10mA)のX線出力で測定することができる。O/Si比を求めるための定量分析には、それぞれO1sで2.28、Si2pで0.9の相対感度因子を用いることができる。
【0039】
無機酸化物層の膜厚は、10nm以上50nm以下であることが好ましい。膜厚が10nm以上であると、十分な水蒸気バリア性を得ることができる。また、膜厚が50nm以下であると、薄膜の内部応力による変形によりクラックが発生することを抑制し、水蒸気バリア性の低下を抑制することができる。なお、膜厚が50nmを超えると、材料使用量の増加、及び膜形成時間の長時間化等に起因してコストが増加し易いため、経済的観点からも好ましくない。上記と同様の観点から、無機酸化物層の膜厚は、20nm以上40nm以下であることがより好ましい。
【0040】
無機酸化物層は、例えば真空成膜で形成することができる。真空成膜では、物理気相成長法あるいは化学気相成長法を用いることができる。物理気相成長法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。化学気相成長法としては、熱CVD法、プラズマCVD法、光CVD法等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0041】
上記真空成膜では、抵抗加熱式真空蒸着法、EB(Electron Beam)加熱式真空蒸着法、誘導加熱式真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、デュアルマグネトロンスパッタリング法、プラズマ化学気相堆積法(PECVD法)等が特に好ましく用いられる。但し、生産性を考慮すれば、現時点では真空蒸着法が最も優れている。真空蒸着法の加熱手段としては電子線加熱方式や抵抗加熱方式、誘導加熱方式のいずれかの方式を用いることが好ましい。
【0042】
[ガスバリア性被覆層]
積層体は無機酸化物層上にガスバリア性被覆層を備えてよい。ガスバリア性被覆層は、水酸基含有高分子化合物、金属アルコキシド、シランカップリング剤、及び、それらの加水分解物からなる群より選択される少なくとも1種を含有するガスバリア性被覆層形成用組成物を用いて形成された層であってよい。
【0043】
ガスバリア性被覆層は、ガスバリア性を持った被膜層であり、水酸基含有高分子化合物、金属アルコキシド、シランカップリング剤、及び、それらの加水分解物からなる群より選択される少なくとも1種を含む水溶液或いは水/アルコール混合溶液を主剤とするガスバリア性被覆層形成用組成物(以下、コーティング剤ともいう)を用いて形成することができる。コーティング剤は、レトルト処理等の熱水処理後のガスバリア性をより十分に維持する観点から、少なくともシランカップリング剤又はその加水分解物を含有することが好ましく、水酸基含有高分子化合物、金属アルコキシド及びそれらの加水分解物からなる群より選択される少なくとも1種と、シランカップリング剤又はその加水分解物とを含有することがより好ましく、水酸基含有高分子化合物又はその加水分解物と、金属アルコキシド又はその加水分解物と、シランカップリング剤又はその加水分解物とを含有することが更に好ましい。コーティング剤は、例えば、水溶性高分子である水酸基含有高分子化合物を水系(水或いは水/アルコール混合)溶媒で溶解させた溶液に、金属アルコキシドとシランカップリング剤とを直接、或いは予め加水分解させるなどの処理を行ったものを混合して調製することができる。
【0044】
ガスバリア性被覆層を形成するためのコーティング剤に含まれる各成分について詳細に説明する。コーティング剤に用いられる水酸基含有高分子化合物としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デンプン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム等が挙げられる。これらの中でもポリビニルアルコール(PVA)をガスバリア性被覆層のコーティング剤に用いた場合、ガスバリア性が特に優れるので好ましい。
【0045】
ガスバリア性被覆層は、優れたガスバリア性を得る観点から、下記一般式(I)で表わされる金属アルコキシド及びその加水分解物からなる群より選択される少なくとも1種を含む組成物から形成されることが好ましい。
M(OR1)m(R2)n-m …(I)
上記一般式(I)中、R1及びR2はそれぞれ独立に炭素数1~8の1価の有機基であり、メチル基、エチル基等のアルキル基であることが好ましい。MはSi、Ti、Al、Zr等のn価の金属原子を示す。mは1~nの整数である。なお、R1又はR2が複数存在する場合、R1同士又はR2同士は同一でも異なっていてもよい。
【0046】
金属アルコキシドとして具体的には、テトラエトキシシラン〔Si(OC2H5)4〕、トリイソプロポキシアルミニウム〔Al(OCH(CH3)2)3〕などが挙げられる。テトラエトキシシラン及びトリイソプロポキシアルミニウムは、加水分解後、水系の溶媒中において比較的安定であるので好ましい。
【0047】
シランカップリング剤としては、下記一般式(II)で表される化合物が挙げられる。
Si(OR11)p(R12)3-pR13 …(II)
上記一般式(II)中、R11はメチル基、エチル基等のアルキル基を示し、R12はアルキル基、アラルキル基、アリール基、アルケニル基、アクリロキシ基で置換されたアルキル基、又は、メタクリロキシ基で置換されたアルキル基等の1価の有機基を示し、R13は1価の有機官能基を示し、pは1~3の整数を示す。なお、R11又はR12が複数存在する場合、R11同士又はR12同士は同一でも異なっていてもよい。R13で示される1価の有機官能基としては、グリシジルオキシ基、エポキシ基、メルカプト基、水酸基、アミノ基、ハロゲン原子で置換されたアルキル基、又は、イソシアネート基を含有する1価の有機官能基が挙げられる。
【0048】
シランカップリング剤として具体的には、ビニルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、グリシドオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等のシランカップリング剤などが挙げられる。
【0049】
また、シランカップリング剤は、上記一般式(II)で表される化合物が重合した多量体であってもよい。多量体としては三量体が好ましく、より好ましくは1,3,5-トリス(3-トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレートである。これは、3-イソシアネートアルキルアルコキシシランの縮重合体である。この1,3,5-トリス(3-トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレートは、イソシア部には化学的反応性はなくなるが、ヌレート部の極性により反応性は確保されることが知られている。一般的には、3-イソシアネートアルキルアルコキシランと同様に接着剤などに添加され、接着性向上剤として知られている。よって1,3,5-トリス(3-トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレートを、水酸基含有高分子化合物に添加することにより、水素結合によりガスバリア性被覆層の耐水性を向上させることができる。3-イソシアネートアルキルアルコキシランは反応性が高く、液安定性が低いのに対し、1,3,5-トリス(3-トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレートは、ヌレート部はその極性により水溶性ではないが、水系溶液中に分散しやすく、液粘度を安定に保つことができる。また、耐水性能は3-イソシアネートアルキルアルコキシランと1,3,5-トリス(3-トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレートとは同等である。
【0050】
1,3,5-トリス(3-トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレートは、3-イソシアネートプロピルアルコキシシランの熱縮合により製造されるものもあり、原料の3-イソシアネートプロピルアルコキシシランが含まれる場合もあるが、特に問題はない。さらに好ましくは、1,3,5-トリス(3-トリアルコキシシリルプロピル)イソシアヌレートであり、より好ましくは1,3,5-トリス(3-トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートである。このメトキシ基は加水分解速度が速く、またプロピル基を含むものは比較的安価に入手し得ることから1,3,5-トリス(3-トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートは実用上有利である。
【0051】
また、コーティング剤には、ガスバリア性を損なわない範囲で、イソシアネート化合物、あるいは、分散剤、安定化剤、粘度調整剤、着色剤などの公知の添加剤を必要に応じて加えることも可能である。
【0052】
ガスバリア性被覆層の厚さは、50~1000nmであることが好ましく、100~500nmであることがより好ましい。ガスバリア性被覆層の厚さが50nm以上であると、より十分なガスバリア性を得ることができる傾向があり、1000nm以下であると、十分な柔軟性を保持できる傾向がある。
【0053】
ガスバリア性被覆層を形成するためのコーティング液は、例えば、ディッピング法、ロールコート法、グラビアコート法、リバースグラビアコート法、エアナイフコート法、コンマコート法、ダイコート法、スクリーン印刷法、スプレーコート法、グラビアオフセット法等により塗布することができる。このコーティング液を塗布してなる塗膜は、例えば、熱風乾燥法、熱ロール乾燥法、高周波照射法、赤外線照射法、UV照射法、またはそれらの組み合わせにより乾燥させることができる。
【0054】
上記塗膜を乾燥させる際の温度は、例えば、温度50~150℃とすることができ、温度70~100℃とすることが好ましい。乾燥時の温度を上記範囲内とすることで、無機酸化物層やガスバリア性被覆層にクラックが発生することをより一層抑制でき、優れたバリア性を発現することができる。
【0055】
ガスバリア性被覆層は、ポリビニルアルコール系樹脂及びシラン化合物を含むコーティング剤を用いて形成されてよい。コーティング剤には、必要に応じて酸触媒、アルカリ触媒、光重開始剤等を加えてよい。
【0056】
ポリビニルアルコール系樹脂は上記のとおりである。また、シラン化合物としては、シランカップリング剤、ポリシラザン、シロキサン等が挙げられ、具体的には、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等が挙げられる。
【0057】
[中間層12]
中間層は、基材層で説明した材料またはフィルムにより形成することができる。また、上述した密着層、無機酸化物層、ガスバリア性被覆層は、中間層の少なくとも一方の表面上に設けてもよい。積層体が中間層を備えることで、中間層を備えない場合と比較して、製袋時の積層体の変形をより低減することができる。
【0058】
中間層の厚さは、基材層の厚さと同様であってよいが、これらの層の厚さの比(基材層の厚さ/中間層の厚さ)は、1.00以上であってよく、1.00超であってよく、1.25以上であってよく、1.50以上であってよい。基材層はヒートシール時にヒートシールバーに直接接する又は近接する部分であり、積層体の各層の中でも特に熱がかかる部分であるため、ヒートシール時に熱収縮しやすい。そのため、中間層よりも基材層を厚くすることで、基材層の熱収縮を抑制することができる。
【0059】
[印刷層]
積層体は、印刷層を備えていてよい。印刷層は、基材層の少なくとも一方の表面上、又は、中間層の少なくとも一方の表面上に設けることができる。印刷層は、内容物に関する情報の表示、内容物の識別、あるいは包装袋の意匠性向上を目的として、積層体の外側から見える位置に設けられる。印刷方法及び印刷インキは特に制限されず、既知の印刷方法及び印刷インキの中からフィルムへの印刷適性、色調などの意匠性、密着性、食品容器としての安全性などを考慮して適宜選択される。印刷方法としては、例えば、グラビア印刷法、オフセット印刷法、グラビアオフセット印刷法、フレキソ印刷法、インクジェット印刷法などを用いることができる。中でもグラビア印刷法は生産性や絵柄の高精細度の観点から、好ましく用いることができる。
【0060】
印刷層の密着性を高めるため、印刷層を設ける層の表面には、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理などの各種前処理を施したり、易接着層などのコート層を設けたりしても構わない。印刷層を設ける層の表面は、基材層又は中間層の表面、ガスバリア性被覆層の表面が挙げられる。
【0061】
[接着剤層S]
接着剤層を介して、基材層と中間層とを積層することができる。接着剤の材料としては、例えば、ポリエステル-イソシアネート系樹脂、ウレタン樹脂、ポリエーテル系樹脂などを用いることができる。包装袋をレトルト用途に使用するには、レトルト耐性のある2液硬化型のウレタン系接着剤を好ましく用いることができる。なお、環境配慮の点からは、接着剤は3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン(GPTMS)を含まなくてもよい。
【0062】
[シーラント層13]
シーラント層は、積層体においてヒートシールによる封止性を付与する層であり、ポリプロピレンを含む。シーラント層はポリプロピレンフィルムを含んでいてよく、ポリプロピレンフィルムからなるものであってよい。
【0063】
ポリプロピレンフィルムは、ポリプロピレンを、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の酸無水物、不飽和カルボン酸のエステル等を用いてグラフト変性して得られる酸変性ポリプロピレンフィルム等であってもよい。また、ポリプロピレンとしては、ホモポリプロピレン樹脂(PP)、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-エチレンブロック共重合体、プロピレン-αオレフィン共重合体などのポリプロピレン系樹脂等を使用することができる。
【0064】
シーラント層を構成するポリプロピレンフィルムは、ヒートシールによる封止性を高める観点から、無延伸フィルムであってよい。
【0065】
シーラント層を構成するポリプロピレンフィルムには、難燃剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、酸化防止剤、光安定剤、粘着付与剤等の各種添加材が添加されてよい。
【0066】
シーラント層の厚さは、内容物の質量や、包装袋の形状などにより定められるが、概ね30~150μmの厚さであってよく、50~80μmの厚さであってよい。
【0067】
シーラント層の形成方法としては、上述のポリプロピレンからなるフィルム状のシーラント層を一液硬化型もしくは二液硬化型ウレタン系接着剤等の接着剤で貼りあわせるドライラミネート法、フィルム状のシーラント層を無溶剤接着剤を用いて貼りあわせるノンソルベントドライラミネート法、上述したポリプロピレンを加熱溶融させ、カーテン状に押し出し、貼りあわせるエクストルージョンラミネート法等、いずれも公知の積層方法により形成することができる。
【0068】
上記形成方法の中でも、レトルト処理、特に120℃以上の高温熱水処理に対する耐性が高く好ましいのは、ドライラミネート法である。一方、包装袋を85℃以下の温度で処理する用途に用いるのであれば、ラミネート方式は特に制限されない。
【0069】
上記積層体は、ポリプロピレンを主構成とし、高温のレトルト処理が可能であることから、レトルトパウチ用途に好適に用いることができる。
【0070】
<包装袋>
包装袋は、上述した積層体を製袋してなるものである。包装袋は、1枚の積層体をシーラント層が対向するように二つ折りにした後、3方をヒートシールすることによって袋形状としたものであってもよく、2枚の積層体をシーラント層が対向するように重ねた後、4方をヒートシールすることによって袋形状としたものであってもよい。包装袋は、内容物として食品、医薬品等の内容物を収容し、レトルト処理やボイル処理などの加熱殺菌処理を施すことができる。
【0071】
レトルト処理は、一般に食品、医薬品等を保存するために、カビ、酵母、細菌などの微生物を加圧殺菌する方法である。通常は、食品等を包装した包装袋を、105~140℃、0.15~0.30MPaで10~120分の条件で加圧殺菌処理をする。レトルト装置は、加熱蒸気を利用する蒸気式と加圧加熱水を利用する熱水式があり、内容物となる食品等の殺菌条件に応じて適宜使い分ける。ボイル処理は、食品、医薬品等を保存するため湿熱殺菌する方法である。通常は、内容物にもよるが、食品等を包装した包装袋を、60~100℃、大気圧下で、10~120分の条件で湿熱殺菌処理を行う。ボイル処理は、通常、熱水槽を用いて100℃以下で処理を行う。方法としては、一定温度の熱水槽の中に浸漬し一定時間処理した後に取り出すバッチ式と、熱水槽の中をトンネル式に通して処理する連続式がある。
【0072】
上記包装袋は特に、120℃以上の温度でレトルト処理を施す用途に好適に用いることができる。
【0073】
本開示に係る積層体は、積層体全体の90%以上がポリプロピレンであり、シーラント層同士をヒートシールしたときのシール強度が30N~40Nである。シーラント騒動視のシール強度がこの範囲内であれば、包装袋を構成したときに、包装袋としての形状を維持しやすく、破袋時にシーラント層間で層間剥離させることができる。また、本開示に係る包装用積層体は、実質的に全てポリプロピレンフィルムとすることができるため、単一素材からなる(モノマテリアルの)包装材料として、リサイクル性に優れる。
【実施例0074】
本開示を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本開示はこれらの例に限定されるものではない。
【0075】
<基材層、中間層及びシーラント層の準備>
基材層及び中間層として、延伸ポリプロピレン(OPP)フィルム(厚さ20μm)を準備した。また、シーラント層として、無延伸ポリプロピレン(CPP)フィルム(厚さ60μm)を準備した。
【0076】
<密着層形成用組成物の調製>
アクリルポリオールとトリレンジイソシアネートとを、アクリルポリオールのOH基の数に対してトリレンジイソシアネートのNCO基の数が等量となるように混合し、全固形分(アクリルポリオール及びトリレンジイソシアネートの合計量)が5質量%になるよう酢酸エチルで希釈した。希釈後の混合液に、さらにβ-(3,4エポキシシクロヘキシル)トリメトキシシランを、アクリルポリオール及びトリレンジイソシアネートの合計量100質量部に対して5質量部となるように添加し、これらを混合することで密着層形成用組成物(アンカーコート剤)を調製した。
【0077】
<ガスバリア性被覆層形成用組成物の調製>
下記のA液、B液及びC液を、それぞれ65/25/10の質量比で混合することで、ガスバリア性被覆層形成用組成物を調製した。
A液:テトラエトキシシラン(Si(OC2H5)4)17.9gとメタノール10gに0.1N塩酸72.1gを加えて30分間攪拌して加水分解させた固形分5質量%(SiO2換算)の加水分解溶液。
B液:ポリビニルアルコールの5質量%水/メタノール溶液(水:メタノールの質量比は95:5)。
C液:1,3,5-トリス(3-トリアルコキシシリルプロピル)イソシアヌレートを水/イソプロピルアルコールの混合液(水:イソプロピルアルコールの質量比は1:1)で固形分5質量%に希釈した加水分解溶液。
【0078】
(実施例1)
中間層OPPのコロナ処理面に、上記密着層形成用組成物をグラビアロールコート法にて塗工し、60℃で乾燥及び硬化させ、塗布量が0.1g/m2であるポリエステル系ポリウレタン樹脂からなる密着層を形成した。次に、電子線加熱方式による真空蒸着装置により、厚さ30nmの酸化ケイ素からなる透明な無機酸化物層(シリカ蒸着層)を形成した。シリカ蒸着層としては、蒸着材料種を調整し、O/Si比が1.8である蒸着層を形成した。O/Si比は、X線光電子分光分析装置(日本電子株式会社製、商品名:JPS-90MXV)にて、X線源は非単色化MgKα(1253.6eV)を使用し、100W(10kV-10mA)のX線出力で測定した。O/Si比を求めるための定量分析には、それぞれO1sで2.28、Si2pで0.9の相対感度因子を用いて行った。
【0079】
次に、無機酸化物層上に、上記ガスバリア性被覆層形成用組成物をグラビアロールコート法にて塗工し、オーブン中、張力20N/m、乾燥温度120℃の条件で加熱乾燥させ、厚さ0.3μmのガスバリア性被覆層を形成した。これにより、中間層/密着層/無機酸化物層/ガスバリア性被覆層の積層構造を有するガスバリアフィルムを得た。
【0080】
次に、上記ガスバリアフィルムのガスバリア性被覆層上に、基材層OPPを、2液型の接着剤(三井化学株式会社製、商品名:主剤A525/硬化剤A52)を介してドライラミネート法によってラミネートし、また中間層の非コロナ処理面にシーラント層を同様にラミネートした。これにより、基材層/接着剤層/ガスバリア性被覆層/無機酸化物層/密着層/中間層/接着剤層/シーラント層の積層構造を有する積層体を製造した。得られた積層体におけるポリプロピレンの含有量は90質量%以上であった。
【0081】
2枚の積層体をシーラント層が対向するように重ねた後、4方をヒートシールすることによって袋形状の包装袋を作製した。この際のヒートシールは、1MPa×0.3sec、シール温度を145℃で実施した。
【0082】
(実施例2)
シール温度を150℃で実施した以外は実施例1と同様にして、包装袋を製造した。
【0083】
(実施例3)
シール温度を152℃で実施した以外は実施例1と同様にして、包装袋を製造した。
【0084】
(実施例4)
シール温度を155℃で実施した以外は実施例1と同様にして、包装袋を製造した。
【0085】
(比較例1)
シール温度を142℃で実施した以外は実施例1と同様にして、包装袋を製造した。
【0086】
(比較例2)
シール温度を160℃で実施した以外は実施例1と同様にして、包装袋を製造した。
【0087】
<シール強度の測定方法>
2枚の積層体をシーラント層が対向するように重ねた後、15mm幅で長さ6cmに切り出した。切り出した2枚の積層体を長さ方向の一端から、長さ方向に2cm程度までヒートシールしてシール強度測定用のサンプルを作製した。シール条件は、上記の実施例1~4及び比較例1~2で示したとおりとした。得られたサンプルをテンシロン(SHIMADZU社製、AGS-X、100mm/min)でシール強度を測定した。
【0088】
【0089】
表1に示すように、実施例1~4に係る積層体は、シーラント面同士をヒートシールしたときのシール強度が30N~40Nであり、剥離試験時にシーラント層間で剥離した。比較例1では、シール強度が低く、内容物を充填したときにシール部分が破壊され、包装袋としての形状を維持することができなかった。比較例2では、シール強度が高いために、剥離試験時にシール部分と未シール部分とで積層体が切れ、フィルムが貼り合わされた部分がエッジ形状に残った。