(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178832
(43)【公開日】2023-12-18
(54)【発明の名称】空気入りタイヤの設計方法
(51)【国際特許分類】
B60C 19/00 20060101AFI20231211BHJP
G06F 30/15 20200101ALI20231211BHJP
G06F 30/23 20200101ALI20231211BHJP
【FI】
B60C19/00 Z
G06F30/15
G06F30/23
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022091766
(22)【出願日】2022-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】牧野 彰太
【テーマコード(参考)】
3D131
5B146
【Fターム(参考)】
3D131BB03
3D131BC55
3D131LA33
5B146AA05
5B146DC04
5B146DJ02
5B146DJ07
5B146DJ14
(57)【要約】
【課題】 空気入りタイヤを効率よく設計することが可能な方法を提供する。
【解決手段】 空気入りタイヤを設計するための方法である。この方法は、コンピュータが、制約条件を満たす候補タイヤモデルを生成するステップa、候補タイヤモデルの平衡形状を計算してそれを記憶するステップb、候補タイヤモデルの第1性能を数値計算するステップc、第1性能を予め定められた条件と比較するステップd、及び、ステップdで条件を満たす場合、候補タイヤモデルを出力するステップeを繰り返しながら複数の候補タイヤモデルを取得する。ステップbの後、当該候補タイヤモデルの平衡形状が、それよりも先に計算された平衡形状と同一か否かを判断するステップfと、ステップfの結果が肯定的である場合に、当該候補タイヤモデルについては、少なくともステップc及びdを実行することなく、ステップaを実行する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気入りタイヤを設計するための方法であって、
a)コンピュータが、予め定められた制約条件を満たす空気入りタイヤの有限要素モデルである候補タイヤモデルを生成するステップ、
b)前記コンピュータが、前記候補タイヤモデルの平衡形状を計算してそれを記憶するステップ、
c)前記コンピュータが、前記候補タイヤモデルの第1性能を数値計算するステップ、
d)前記コンピュータが、前記第1性能を予め定められた条件と比較するステップ、及び、
e)前記ステップdで、前記条件を満たす場合、前記候補タイヤモデルを出力するステップ、
を繰り返しながら複数の候補タイヤモデルを取得するとともに、
前記コンピュータが、前記ステップbの後、当該候補タイヤモデルの平衡形状が、それよりも先に計算された平衡形状と同一か否かを判断するステップfと、
前記ステップfの結果が肯定的である場合に、当該候補タイヤモデルについては、少なくとも前記ステップc及びdを実行することなく、ステップaを実行する、
空気入りタイヤの設計方法。
【請求項2】
前記第1性能は、台上試験で取得可能なタイヤ性能を含む、請求項1に記載の空気入りタイヤの設計方法。
【請求項3】
前記タイヤ性能は、縦バネ定数及び横バネ定数の少なくとも1つを含む、請求項2に記載の空気入りタイヤの設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤの設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、空気入りタイヤの設計方法が記載されている。この方法では、タイヤ断面形状又はタイヤ構造を決定する設計変数を定めるステップと、制約条件を考慮しながら目的関数の最適値を与える設計変数の値を求めるステップと、目的関数の最適値を与える設計変数に基づいてタイヤを設計するステップとが実施される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような最適化手法では、設計変数が互いに異なる空気入りタイヤを複数設計することができる。しかしながら、設計変数が互いに異なっていたとしても、平衡形状が同一となる空気入りタイヤでは、それらの性能も同一となる傾向がある。このため、それらの空気入りタイヤの性能を計算すると、同一性能の空気入りタイヤを重複して性能計算することとなり、設計効率が低下するという問題があった。
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、空気入りタイヤを効率よく設計することが可能な方法を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、空気入りタイヤを設計するための方法であって、
a)コンピュータが、予め定められた制約条件を満たす空気入りタイヤの有限要素モデルである候補タイヤモデルを生成するステップ、
b)前記コンピュータが、前記候補タイヤモデルの平衡形状を計算してそれを記憶するステップ、
c)前記コンピュータが、前記候補タイヤモデルの第1性能を数値計算するステップ、
d)前記コンピュータが、前記第1性能を予め定められた条件と比較するステップ、及び、
e)前記ステップdで、前記条件を満たす場合、前記候補タイヤモデルを出力するステップ、
を繰り返しながら複数の候補タイヤモデルを取得するとともに、前記コンピュータが、前記ステップbの後、当該候補タイヤモデルの平衡形状が、それよりも先に計算された平衡形状と同一か否かを判断するステップfと、前記ステップfの結果が肯定的である場合に、当該候補タイヤモデルについては、少なくとも前記ステップc及びdを実行することなく、ステップaを実行する、空気入りタイヤの設計方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の空気入りタイヤの設計方法は、上記の構成を採用することにより、空気入りタイヤを効率よく設計することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】空気入りタイヤの設計方法を実行するためのコンピュータを示す斜視図である。
【
図3】空気入りタイヤの設計方法の処理手順を示すフローチャートである。
【
図4】候補タイヤモデルを生成するステップaの処理手順を示すフローチャートである。
【
図9】候補タイヤモデルの平衡形状の計算及び記憶するステップbの処理手順を示すフローチャートである。
【
図10】候補タイヤモデルの平衡形状を示す断面図である。
【
図11】候補タイヤモデル及び路面モデルを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態が図面に基づき説明される。図面は、発明の内容の理解を助けるために、誇張表現や、実際の構造の寸法比とは異なる表現が含まれることが理解されなければならない。また、各実施形態を通して、同一又は共通する要素については同一の符号が付されており、重複する説明が省略される。さらに、実施形態及び図面に表された具体的な構成は、本発明の内容理解のためのものであって、本発明は、図示されている具体的な構成に限定されるものではない。
【0010】
本実施形態の空気入りタイヤを設計方法(以下、単に「設計方法」ということがある。)では、コンピュータが用いられる。
【0011】
[コンピュータ]
図1は、空気入りタイヤの設計方法を実行するためのコンピュータを示す斜視図である。コンピュータ1は、本体1a、キーボード1b、マウス1c及びディスプレイ装置1dを含んで構成されている。この本体1aには、例えば、演算処理装置(CPU)、ROM、作業用メモリ、磁気ディスクなどの記憶装置、及び、ディスクドライブ装置1a1、1a2が設けられている。また、記憶装置には、本実施形態の設計方法を実行するためのソフトウェア等が予め記憶されている。
【0012】
[空気入りタイヤ]
図2は、空気入りタイヤ(以下、単に「タイヤ」ということがある。)2を示す断面図である。本実施形態のタイヤ2は、例えば、重荷重用タイヤとして構成されている。なお、タイヤ2は、重荷重用タイヤに限定されるわけではなく、例えば、乗用車用タイヤや、自動二輪車用タイヤ等として構成されてもよい。本実施形態のタイヤ2には、コードプライ3と、ゴム部分15とが含まれている。
【0013】
本実施形態のコードプライ3は、カーカスプライ6Pと、ベルトプライ7Pとが含まれている。なお、コードプライ3は、例えば、カーカスプライ6P及びベルトプライ7Pの一方のみであってもよいし、他のコードプライ(例えば、バンドプライ(図示省略)等)がさらに含まれてもよい。
【0014】
本実施形態のカーカスプライ6Pは、カーカス6を構成している。本実施形態のカーカス6は、トレッド部2aからサイドウォール部2bを経てビード部2cのビードコア5に延びており、トロイド状に形成されている。カーカス6は、少なくとも1枚、本実施形態では1枚のカーカスプライ6Pで構成されている。
【0015】
本実施形態のカーカスプライ6Pは、例えば、タイヤ赤道Cに対して80~90度の角度で配列されたカーカスコード(図示省略)が設けられている。カーカスコードとしては、例えば、芳香族ポリアミドや、レーヨンなどの有機繊維コードが用いられる。
【0016】
本実施形態のベルトプライ7Pは、ベルト層7を構成している。本実施形態のベルト層7は、カーカス6のタイヤ半径方向外側、かつ、トレッド部2aの内部に配されている。本実施形態のベルト層7は、4枚のベルトプライ7Pから構成されているが、特に限定されない。
【0017】
本実施形態のベルトプライ7Pは、ベルトコード(図示省略)が、タイヤ周方向に対して、例えば10~35度の角度で傾けて配列されている。これらのベルトプライ7Pは、ベルトコードが互いに交差する向きに重ね合わされている。ベルトコードとしては、例えば、スチール、アラミド又はレーヨン等が好適に採用されうる。
【0018】
本実施形態のゴム部分15には、例えば、トレッドゴム15a、サイドウォールゴム15b、インナーライナーゴム15c、ビードエーペックスゴム15d及びクリンチゴム15eが含まれる。
【0019】
トレッドゴム15aは、ベルト層7のタイヤ半径方向外側に配されている。サイドウォールゴム15bは、カーカス6のタイヤ軸方向外側に配されている。インナーライナーゴム15cは、カーカス6の内側に配されている。ビードエーペックスゴム15dは、ビードコア5からタイヤ半径方向外側に延びている。クリンチゴム15eは、ビード部2cのタイヤ軸方向の外側に配されている。
【0020】
ところで、特許文献1の設計方法では、最適化手法に基づいて、設計変数が互いに異なるタイヤ2を複数設計することができる。しかしながら、設計変数が互いに異なっていたとしても、平衡形状が同一となるタイヤ2では、それらの性能も同一となる傾向がある。ここで、「平衡形状」とは、充填される内圧とつり合いのとれた形状の相似形であり、インフレート前後でタイヤ全体が均一に膨らむようなタイヤ2の形状である。このような形状が、内圧充填前のタイヤ2の形状とされることで、内圧充填時(インフレート時)のタイヤ2の歪を均一にでき、耐久面で有利となる。
【0021】
平衡形状が同一となるタイヤ2がそれらの性能も同一になる理由としては、平衡形状が同じタイヤであれば、その形状から均一に膨らんだインフレート形状も同様の形状になると考えられるためである。これらのタイヤ2の性能を計算すると、同一性能のタイヤ2を重複して性能計算することとなり、設計効率が低下するという問題がある。
【0022】
[空気入りタイヤの設計方法(第1実施形態)]
図3は、空気入りタイヤの設計方法の処理手順を示すフローチャートである。本実施形態の設計方法では、ステップa~eを繰り返しながら、タイヤ2(
図2に示す)の設計に採用可能な(第1性能が条件を満たす)複数の候補タイヤモデルが取得される。そして、本実施形態の設計方法では、複数の候補タイヤモデルの取得過程において、同一性能の候補タイヤモデル(空気入りタイヤ)の重複した数値計算を抑制することで、タイヤ2が効率よく設計される。
【0023】
[候補タイヤモデルの生成(ステップa)]
本実施形態の設計方法では、先ず、コンピュータ1(
図1に示す)が、予め定められた制約条件を満たすタイヤ2の有限要素モデルである候補タイヤモデルを生成する(ステップa)。
図4は、候補タイヤモデルを生成するステップaの処理手順を示すフローチャートである。
【0024】
[基本タイヤモデルの生成(ステップa1)]
本実施形態のステップaでは、先ず、基本タイヤモデルが生成される(ステップa1)。本実施形態において、基本タイヤモデルは、内圧充填前の状態で生成される。
図5は、基本タイヤモデル21を示す断面図である。
図6は、カーカスプライモデル26の分解斜視図である。
図7は、ベルトプライモデル27の分解斜視図である。
【0025】
図5~7に示されるように、本実施形態のステップa1では、タイヤ2(
図2に示す)が、有限個の要素F(i)(i=1、2、…)、及び、要素G(i)(i=1、2、…)で離散化される。これにより、ステップa1では、基本タイヤモデル21が生成される。モデリング対象のタイヤ2には、例えば、タイヤ部材のプロファイル等が確定していない試作段階のものが採用されうる。このようなタイヤ2は、一般的なCAD等のソフトウェアを用いて予め設計されうる。
【0026】
本実施形態の基本タイヤモデル21は、3次元モデルとして定義されている。なお、基本タイヤモデル21は、3次元モデルに限定されるわけではなく、2次元モデルとして定義されてもよい。基本タイヤモデル21のモデリングには、従来のシミュレーション方法と同様に、メッシュ化ソフトウェア(例えば、Altair社製のHypermesh等)が用いられる。
【0027】
要素F(i)及び要素G(i)は、数値解析法により取り扱い可能なものである。数値解析法としては、例えば有限要素法、有限体積法、差分法、又は、境界要素法を適宜採用できるが、本実施形態では有限要素法が採用されている。各要素F(i)及びG(i)は、複数個の節点22が設けられる。このような各要素F(i)及びG(i)には、要素番号、節点22の番号、節点22の座標値、及び、材料特性(例えば密度等)などの数値データが定義される。
【0028】
図5に示されるように、本実施形態の基本タイヤモデル21には、コードプライ3(
図2に示す)をモデリングしたコードプライモデル23と、ゴム部分15(
図2に示す)をモデリングしたゴムモデル25とが含まれる。さらに、本実施形態の基本タイヤモデル21には、ビードコア5(
図2に示す)をモデリングしたビードコアモデル28が含まれる。
【0029】
本実施形態のゴムモデル25は、トレッドゴムモデル25a、サイドウォールゴムモデル25b、インナーライナーゴムモデル25c、ビードエーペックスゴムモデル25d及びクリンチゴムモデル25eが含まれる。
【0030】
本実施形態のゴムモデル25及びビードコアモデル28は、要素F(i)でモデリングされる。要素F(i)としては、例えば、基本タイヤモデル21が2次元である場合、複雑な形状を表現するのに適した三角形要素や四辺形要素等が用いられる。なお、基本タイヤモデル21が3次元である場合には、4面体ソリッド要素、5面体ソリッド要素、又は、6面体ソリッド要素などが用いられるのが望ましい。
【0031】
本実施形態のコードプライモデル23には、カーカスプライ6P(
図2に示す)をモデリングしたカーカスプライモデル26と、ベルトプライ7P(
図2に示す)をモデリングしたベルトプライモデル27とが含まれる。
【0032】
図6に示されるように、本実施形態のカーカスプライモデル26は、カーカスコードモデル31と、トッピングゴムモデル32、32とを含んで構成される。
【0033】
カーカスコードモデル31は、カーカスコード(図示省略)の配列体を、有限個の要素G(i)を用いてモデリングしたものである。要素G(i)には、例えば、カーカスコードの長手方向に沿った強度異方性を定義することができる膜要素又はシェル要素を採用することができ、本実施形態では、膜要素が採用される。要素G(i)には、例えば、カーカスコード(図示省略)の物理量(例えば、引張剛性)や、タイヤ赤道Cに対する角度θ1が定義される。これにより、カーカスコードモデル31は、カーカスコードの配列体を再現することができる。
【0034】
トッピングゴムモデル32、32は、カーカスプライ6Pのトッピングゴム(図示省略)を、有限個の要素F(i)でモデリングしたものである。これらのトッピングゴムモデル32、32を、カーカスコードモデル31の両側(内側及び外側)に一体に固定されることで、カーカスプライモデル26が設定される。
【0035】
図7に示されるように、本実施形態のベルトプライモデル27は、ベルトコードモデル33と、トッピングゴムモデル34、34とを含んで構成される。
図7では、
図2に示した4枚のベルトプライ7Pのうち、2枚のベルトプライ7Pをモデリングしたベルトプライモデル27、27が代表して示されている。
【0036】
ベルトコードモデル33は、ベルトコード(図示省略)の配列体を、有限個の要素G(i)を用いてモデリングしたものである。要素G(i)には、例えば、ベルトコードの長手方向に沿った強度異方性を定義することができる膜要素又はシェル要素を採用することができ、本実施形態では、膜要素が採用される。要素G(i)には、例えば、ベルトコードの物理量(例えば、引張剛性)や、タイヤ周方向に対する角度θ2が定義される。これにより、ベルトコードモデル33は、ベルトコードの配列体を再現することができる。
【0037】
トッピングゴムモデル34、34は、ベルトプライ7Pのトッピングゴム(図示省略)を、有限個の要素F(i)でモデリングしたものである。これらのトッピングゴムモデル34、34を、ベルトコードモデル33の両側(内側及び外側)に一体に固定されることで、ベルトプライモデル27が設定される。
【0038】
図5に示されるように、本実施形態のステップa1では、ゴムモデル25と、コードプライモデル23(カーカスプライモデル26及びベルトプライモデル27)と、ビードコアモデル28とがそれぞれモデリングされることで、基本タイヤモデル21が生成される。基本タイヤモデル21は、コンピュータ1(
図1に示す)に記憶される。
【0039】
[目的関数(ステップa2)]
次に、本実施形態のステップaでは、目的関数が設定される(ステップa2)。本実施形態の目的関数は、ステップc(
図3に示す)で計算される候補タイヤモデルの第1性能が、予め定められた条件を満たすか否かの判断に用いられる。
【0040】
本実施形態の第1性能は、例えば、
図2に示したタイヤ2の種類(例えば、カテゴリーやタイヤサイズを含む)等に応じて、適宜設定されうる。本実施形態の第1性能には、台上試験で取得可能なタイヤ性能が含まれる。この台上試験で取得可能なタイヤ性能は、適宜選択されうる。本実施形態では、縦バネ定数及び横ばね定数の少なくとも1つが含まれる。なお、第1性能には、例えば、接地形状に関するパラメータ等が含まれてもよい。
【0041】
目的関数は、適宜設定される。本実施形態では、縦バネ定数の目的関数と、横バネ定数の目的関数とが設定される。
【0042】
縦バネ定数の目的関数は、例えば、後述のステップc(
図3に示す)で取得される候補タイヤモデルの縦バネ定数(第1性能)と、予め定められた目標縦バネ定数との差の絶対値として求められうる。一方、横バネ定数の目的関数は、後述のステップcで取得される候補タイヤモデルの横バネ定数(第1性能)と、予め定められた目標横バネ定数との差の絶対値として求められうる。これらの目的関数は、その値が小さいほど、目標縦バネ定数、及び、目標横バネ定数に近似し、良好であることを示している。目標縦バネ定数及び目標横バネ定数は、例えば、タイヤの種類(カテゴリーやタイヤサイズを含む)に基づいて、適宜定義することができる。
【0043】
上記のような目的関数を満足する候補タイヤモデルが計算されることで、実際のタイヤ2(
図2に示す)を用いた台上試験を行わなくても、タイヤ性能(縦バネ定数及び横バネ定数)を満足するタイヤ2を設計(候補タイヤモデルを生成)することが可能となる。
【0044】
本実施形態の第1性能には、台上試験で取得可能なタイヤ性能が含まれる態様が例示されたが、このような態様に限定されない。例えば、第1性能には、タイヤ2(
図2に示す)の走行試験で取得可能なタイヤ性能(例えば、コーナリングフォース等)が含まれてもよい。これらの第1性能についても、例えば、予め定められた目標コーナリングフォースに基づいて、目的関数が設定されうる。目的関数は、コンピュータ1(
図1に示す)に記憶される。
【0045】
[設計変数を設定(ステップa3)]
次に、本実施形態のステップaでは、設計変数が設定される(ステップa3)。本実施形態において、設計変数は、基本タイヤモデル21(
図5~7に示す)の構造を変化させた候補タイヤモデルを生成するためのものである。
【0046】
設計変数は、例えば、
図2に示したタイヤ2の種類(例えば、カテゴリーやタイヤサイズを含む)等に応じて、適宜設定されうる。本実施形態の設計変数には、例えば、上記特許文献1に記載の設計因子と同様のもの(トレッドゴム15a、サイドウォールゴム15b、カーカスプライ6Pやベルトプライ7Pのそれぞれの寸法等)が含まれる。これらの設計変数について、基本タイヤモデル21(
図5に示す)から変更されることで、基本タイヤモデル21とは異なる構造を有する候補タイヤモデルが容易に生成されうる。設計変数は、コンピュータ1(
図1に示す)に記憶される。
【0047】
[制約条件を設定(ステップa4)]
次に、本実施形態のステップaでは、制約条件が設定される(ステップa4)。本実施形態において、制約条件は、候補タイヤモデルを生成する際に、必ず満たすべき条件(設計基準)である。
【0048】
制約条件は、例えば、
図2に示したタイヤ2の種類(例えば、カテゴリーやタイヤサイズを含む)等に応じて、適宜設定されうる。本実施形態の制約条件には、例えば、上記特許文献1に記載の制約条件と同様のもの(例えば、タイヤ重量、カーカスラインのペリフェリ値、及びベルト層の幅等)が採用されうる。このような制約条件を満たすように、基本タイヤモデル21の設計変数が変更されることで、予め定められた設計基準から乖離した(意図しない)候補タイヤモデルが生成されるのを防ぐことができる。制約条件は、コンピュータ1(
図1に示す)に記憶される。
【0049】
[候補タイヤモデルを生成]
次に、本実施形態のステップaでは、候補タイヤモデルが生成される(ステップa5)。本実施形態のステップa5では、制約条件を満たすように、基本タイヤモデル21(
図5~7に示す)の設計変数が変更される。
【0050】
設計変数の変更は、適宜実施することができ、例えば、乱数に基づいてランダムに設定されうる。また、設計変数の変更は、最適化アルゴリズム(例えば、遺伝的アルゴリズム等)に基づいて実施されてもよい。
【0051】
本実施形態のステップa5では、変更された設計変数に基づいて、
図5~7に示した基本タイヤモデル21が変形(例えば、要素F(i)の節点22の移動やリメッシュ等)される。これにより、制約条件を満たすタイヤ2の有限要素モデルである候補タイヤモデルが生成される。
図8は、候補タイヤモデル41を示す断面図である。
【0052】
本実施形態では、内圧充填前の候補タイヤモデル41が生成される。この候補タイヤモデル41は、内圧充填前において、サイドウォール部21bの一部が、タイヤ軸方向の内側に凹んでおり、平衡形状から大きくかけ離れた歪な形状を有している。なお、候補タイヤモデル41は、このような形状に限定されない。候補タイヤモデル41は、コンピュータ1(
図1に示す)に記憶される。
【0053】
[候補タイヤモデルの平衡形状を計算及び記憶(ステップb)]
次に、本実施形態の設計方法では、コンピュータ1(
図1に示す)が、候補タイヤモデル41の平衡形状を計算して、それを記憶する(ステップb)。
図9は、候補タイヤモデル41の平衡形状の計算及び記憶するステップbの処理手順を示すフローチャートである。
【0054】
[第1パラメータを定義(ステップb1)]
本実施形態のステップbでは、先ず、第1パラメータが定義される(ステップb1)。第1パラメータは、コンピュータ1(
図1に示す)による候補タイヤモデル41の内圧充填計算時(後述の平衡形状を計算するステップb3)において、
図6~
図8に示したコードプライモデル23の膨張変形を抑制するためのものである。本実施形態では、カーカスプライモデル26及びベルトプライモデル27の膨張変形が抑制される。
【0055】
第1パラメータは、コードプライモデル23(
図6~
図8に示す)の膨張変形が抑制されれば、適宜定義されうる。本実施形態の第1パラメータには、コードプライ3(
図2に示す)の引張剛性よりも大きい値に設定されたコードプライモデル23の引張剛性が含まれる。このような引張剛性により、本実施形態では、内圧充填計算時にコードプライモデル23に作用する引張力に対して、実際のコードプライ3よりも大きな引張応力を、コードプライモデル23で計算することができる。したがって、コードプライモデル23の膨張変形が抑制されうる。
【0056】
本実施形態では、
図6に示したカーカスコードモデル31の各要素G(i)に定義されている引張剛性が、実際のカーカスコード(図示省略)の引張剛性よりも大きく(例えば、10~100倍)設定される。さらに、
図7に示したベルトコードモデル33の各要素G(i)に定義されている引張剛性が、実際のベルトコード(図示省略)の引張剛性よりも大きく(例えば、10~100倍)設定される。これにより、カーカスプライモデル26及びベルトプライモデル27の膨張変形(例えば、タイヤ周方向の伸長)が抑制される。
【0057】
本実施形態の第1パラメータには、ベルトコードのタイヤ周方向に対する角度(図示省略)よりも小さく(例えば、0~10度)設定されたベルトコードモデル33のベルトコード13の角度θ2(
図7に示す)が含まれてもよい。このような角度θ2は、実際のベルトプライ7P(
図2に示す)に比べて、ベルトプライモデル27のタガ効果を高めることができ、ベルトプライモデル27(候補タイヤモデル41)の膨張変形が抑制されうる。
【0058】
第1パラメータとして、コードプライモデル23(
図6~8に示す)の引張剛性、及び、
図7に示したベルトコードモデル33の角度θ2のいずれか一方のみが定義されてもよいし、これらの全てが定義されてもよい。本実施形態では、これらの第1パラメータの全てが定義される。さらに、第1パラメータとして、コードプライモデル23の膨張変形を抑制可能な他のパラメータが定義されてもよい。第1パラメータは、コンピュータ1(
図1に示す)に入力される。
【0059】
[内圧条件を入力(ステップb2)]
次に、本実施形態のステップbでは、候補タイヤモデル41(
図8に示す)に充填するための内圧条件が、コンピュータ1(
図1に示す)に記憶される(ステップb2)。内圧条件は、候補タイヤモデル41の平衡形状が計算できれば、特に限定されない。本実施形態の内圧条件は、タイヤが基づいている規格体系において定められている正規内圧(最大内圧)が含まれる。
【0060】
正規内圧(最大内圧)は、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" である。内圧条件(正規内圧)は、コンピュータ1(
図1に示す)に入力される。
【0061】
[平衡形状を計算(ステップb3)]
次に、本実施形態のステップbでは、第1パラメータ及び内圧条件に基づいて、
図8に示した候補タイヤモデル41の平衡形状が計算される(ステップb3)。候補タイヤモデル41の平衡形状は、第1パラメータ及び内圧条件に基づいて、適宜計算されうる。
【0062】
本実施形態のステップb3では、先ず、候補タイヤモデル41のビードコアモデル28、28が移動不能に拘束される。ビードコアモデル28、28の拘束は、適宜設定することができる。本実施形態では、ビードコアモデル28、28を構成する各要素F(i)について、シミュレーションが実施される計算空間(例えば、x軸、y軸及びz軸の直交座標系で定義された空間)での座標値が固定される。これにより、ビードコアモデル28、28が移動不能に拘束される。本実施形態では、ビード部21c、21c間のタイヤ軸方向の距離が、金型のクリップ幅となるように、ビードコアモデル28、28が拘束される。
【0063】
次に、本実施形態のステップb3では、ビードコアモデル28、28が拘束された後に、候補タイヤモデル41の平衡形状が計算される。本実施形態では、先ず、コードプライモデル23に、第1パラメータが定義される。次に、候補タイヤモデル41の内腔面21iの全体に、内圧条件に相当する等分布荷重wが定義される。これにより、内圧条件(等分布荷重w)に基づく候補タイヤモデル41の変形が計算される。
【0064】
候補タイヤモデル41の変形計算は、
図6~
図8に示した各要素F(i)及び各要素G(i)の形状及び材料特性などに基づいて、各要素F(i)及び各要素G(i)の質量マトリックス、剛性マトリックス、及び、減衰マトリックスがそれぞれ作成される。さらに、これらの各マトリックスが組み合わされて、全体の系のマトリックスが作成される。そして、コンピュータ1(
図1に示す)が、前記各種の条件を当てはめて運動方程式を作成し、これらをシミュレーションの単位時間T(x)(x=0、1、…)毎に候補タイヤモデル41の変形計算を行う。
【0065】
変形計算は、例えば、Dassault Systems 社製のABAQUSなどの市販の有限要素解析アプリケーションソフトを用いて計算できる。なお、単位時間T(x)については、求められるシミュレーション精度によって、適宜設定することができる。
【0066】
本実施形態では、内圧条件(等分布荷重w)とつり合いがとれるまで、候補タイヤモデル41の変形計算が実施される。本実施形態では、ビードコアモデル28、28が移動不能に拘束されるため、内圧充填前の候補タイヤモデル41のビード部21c、21cの位置が維持される。これにより、候補タイヤモデル41の平衡形状が計算される。
図10は、候補タイヤモデル41の平衡形状42を示す断面図である。
【0067】
本実施形態では、候補タイヤモデル41の平衡形状42が計算されることにより、
図8に示したサイドウォール部21bにおいて、タイヤ軸方向の内側に凹んだ部分が、タイヤ軸方向外側に押し出される。これにより、候補タイヤモデル41の歪な形状が取り除かれる。さらに、本実施形態では、第1パラメータにより、コードプライモデル23(
図5~7に示す)の膨張変形が抑制(例えば、タイヤ周方向の長さが固定)されるため、内圧充填による候補タイヤモデル41の外径成長が抑制される。
【0068】
このように、本実施形態のステップb3では、内圧充填による外径成長(
図5に示したタイヤ外径D1の増大)を抑制しつつ、歪な形状を取り除いた候補タイヤモデル41の平衡形状42を計算することができる。このような平衡形状42は、コードプライモデル23の膨張変形や、候補タイヤモデル41の外径成長が抑制されているため、内圧充填前の候補タイヤモデル41の形状(理想的な形状)として取得されうる。
【0069】
本実施形態では、ビードコアモデル28、28の拘束により、内圧充填前の候補タイヤモデル41のビード部21c、21cの位置が維持される。これにより、内圧充填によるビード部21c、21cのタイヤ軸方向の移動や、リム(リムモデル)の押圧に起因するクリンチゴムモデル25e、25eの圧縮変形が、平衡形状(リム組みされていない内圧充填前の形状)42に反映されるのを防ぐことができる。候補タイヤモデル41(平衡形状42)は、コンピュータ1(
図1に示す)に記憶される。
【0070】
[平衡形状を判断(ステップf)]
次に、本実施形態の設計方法では、ステップbの後、当該候補タイヤモデル41の平衡形状42が、それよりも先に計算された平衡形状42と同一か否かを、コンピュータ1(
図1に示す)が判断する(ステップf)。なお、ステップbの実施が1回目である場合、それよりも先に計算された平衡形状42が存在しないため、ステップfの結果が否定的となり(ステップfで「No」)、次のステップcが実施される。
【0071】
[第1性能を数値計算(ステップc)]
次に、本実施形態の設計方法では、コンピュータ1(
図1に示す)が、候補タイヤモデル41の第1性能を数値計算する(ステップc)。本実施形態のステップcでは、候補タイヤモデル41を用いたシミュレーションを実施することにより、第1性能が計算される。シミュレーションは、計算される第1性能に応じて適宜実施される。上記のとおり、本実施形態の第1性能は、台上試験で取得可能なタイヤ性能を含んでいる。このため、候補タイヤモデル41と、台上試験装置の路面(図示省略)をモデリングした路面モデルとを用いて、第1性能が計算される。
図11は、候補タイヤモデル41及び路面モデル43を示す斜視図である。
図11では、候補タイヤモデル41が簡略化して示されている。
【0072】
本実施形態のステップcでは、台上試験装置の路面に関する情報に基づいて、その路面が、数値解析法(本実施形態では、有限要素法)により取り扱い可能な有限個の要素H(i)(i=1、2、…)で離散化される。これにより、路面モデル43が設定される。本実施形態の路面モデル43は、平面状にモデリングされているが、例えば、円筒状にモデリングされてもよい。要素H(i)は、変形不能に定義された剛平面要素として定義される。要素H(i)には、複数の節点44が設けられている。さらに、要素H(i)は、要素番号や、節点44の座標値等の数値データが定義される。
【0073】
次に、本実施形態のステップcでは、内圧充填前の候補タイヤモデル41(
図10)について、コードプライモデル23の膨張変形を抑制するための第1パラメータが無効とされる。次に、本実施形態のステップcでは、内圧充填前の候補タイヤモデル41のビード部21cが拘束される。ビード部21cの拘束には、
図2に示したリム9をモデリングしたリムモデル45(
図11に示す)が用いられてもよい。次に、本実施形態のステップcでは、内圧条件に相当する等分布荷重w(
図8に示す)に基づく候補タイヤモデル41(
図10に示す)の変形が計算される。この変形計算には、上記の有限要素解析アプリケーションソフトが用いられる。これにより、平衡形状42を有する内圧充填前の候補タイヤモデル41に、内圧が充填された候補タイヤモデル41(図示省略)が計算される。
【0074】
次に、本実施形態のステップcでは、
図11に示されるように、内圧充填後の候補タイヤモデル41を路面モデル43に接触させて、第1性能が計算される。本実施形態では、予め定められた縦荷重Lに基づいて、路面モデル43に、内圧充填後の候補タイヤモデル41が接触させられる。これにより、第1性能として、縦バネ定数が計算される。さらに、内圧充填後の候補タイヤモデル41に、横荷重(図示省略)が設定されるにより、第1性能として、横バネ定数が計算される。
【0075】
本実施形態のステップcでは、計算された第1性能に基づいて、目的関数が計算される。本実施形態では、ステップcで計算された縦バネ定数と目標縦バネ定数との差の絶対値が、縦バネ定数の目的関数として計算される。また、ステップcで計算された横バネ定数と目標横バネ定数との差の絶対値が、横バネ定数の目的関数として計算される。計算された第1性能、及び、目的関数は、コンピュータ1(
図1に示す)に記憶される。
【0076】
[第1性能を比較(ステップd)]
次に、本実施形態の設計方法では、コンピュータ1(
図1に示す)が、第1性能を予め定められた条件と比較する(ステップd)。第1性能と比較される条件は、例えば、第1性能が良否を評価可能なものが設定されうる。
【0077】
本実施形態の条件には、第1性能に基づいて計算された目的関数(本例では、縦バネ定数の目的関数、及び、横バネ定数の目的関数)の値と比較される閾値が設定される。閾値は、設計されるタイヤ2に求められる性能等に応じて、適宜設定されうる。また、閾値には、縦バネ定数の目的関数、及び、横バネ定数の目的関数のそれぞれについて、同一の値が設定されてもよいし、異なる値が設定されてもよい。
【0078】
本実施形態のステップdでは、目的関数(本例では、縦バネ定数の目的関数、及び、横バネ定数の目的関数)の値と、閾値とが比較される。そして、目的関数の値が閾値以下である場合に、第1性能が条件を満たしていると判断され(ステップdで「Yes」)、次のステップeが実施される。一方、目的関数の値が閾値よりも大きい場合に(ステップdで「No」)、ステップaが再度実施される。
【0079】
[候補タイヤモデルを出力(ステップe)]
次に、本実施形態の設計方法では、第1性能が条件を満たす候補タイヤモデル41が出力される(ステップe)。候補タイヤモデル41は、適宜出力される。例えば、候補タイヤモデル41が、ディスプレイ装置1d(
図1に示す)に表示されてもよいし、プリンタ等に印刷されてもよい。これにより、上記の出力を通じて、第1性能が条件を満たす候補タイヤモデル41が、オペレータ等に認識されうる。
【0080】
[ステップa(再実施)]
再度実施されるステップa(
図3に示す)では、
図4に示した手順に基づいて、制約条件を満たすように、基本タイヤモデル21(
図5に示す)の設計変数が変更される。これにより、先に生成された候補タイヤモデル41(
図8に示す)とは設計変数が異なる新たな候補タイヤモデル41が生成される。なお、再度実施されるステップaにおいて、基本タイヤモデル21、目的関数、設計変数及び制約条件が変更されない場合には、ステップa1~a4を省略して、ステップa5(
図4に示す)のみが実行されてもよい。
【0081】
[ステップb(再実施)]
再度実施されるステップb(
図3に示す)では、
図9に示した手順に基づいて、ステップaで生成された当該(新たな)候補タイヤモデル41の平衡形状42(
図10に示す)が計算される。計算された当該候補タイヤモデル41の平衡形状42は、コンピュータ1(
図1に示す)に記憶される。
【0082】
[ステップf(再実施)]
再度実施されるステップf(
図3に示す)では、ステップbの後、コンピュータ1(
図1に示す)が、当該(新たな)候補タイヤモデル41の平衡形状42が、それよりも先に計算された候補タイヤモデル41の平衡形状42と同一か否かを判断する。本実施形態では、先に計算された全ての候補タイヤモデル41の平衡形状42が、当該候補タイヤモデル41の平衡形状42と同一か否かが判断される。
【0083】
平衡形状42(
図10に示す)が同一か否かの判断は、適宜実施される。本実施形態では、先ず、当該(新たな)候補タイヤモデル41の平衡形状42の輪郭(プロファイル)を構成する要素F(i)及びG(i)の節点22の座標値が取得される。座標値が取得される輪郭(プロファイル)は、例えば、トレッド部21a、サイドウォール部21b、ビード部21c及び内腔面21iの各プロファイルの少なくとも1つ(本例では、全て)が含まれるが、特に限定されない。同様に、先に計算された全ての候補タイヤモデル41の平衡形状42の輪郭(プロファイル)を構成する要素F(i)及びG(i)の節点22の座標値が取得される。
【0084】
次に、本実施形態では、当該(新たな)候補タイヤモデル41の各節点22と、先に計算された候補タイヤモデル41の各節点22とを比較して、互いに隣接する節点22、22が対応付けられる。次に、対応付けられた節点22、22間の距離(図示省略)がそれぞれ計算されて、それらの距離が合計される。そして、距離の合計が予め定められた閾値以下である場合、当該(新たな)候補タイヤモデル41の平衡形状42と、先に計算された候補タイヤモデル41の平衡形状42とが同一(実質的に同一)であると判断される。本実施形態では、先に計算された全ての候補タイヤモデル41の平衡形状42と、当該(新たな)候補タイヤモデル41の平衡形状42とが、同一(実質的に同一)か否かがそれぞれ判断される。
【0085】
ステップfにおいて、先に計算された全ての候補タイヤモデル41のうち、当該(新たな)候補タイヤモデル41の平衡形状42と同一となる候補タイヤモデル41が一つでも存在する場合には、ステップfの結果が肯定的となる(ステップfで「Yes」)。この場合、当該候補タイヤモデル41の第1性能は、その平衡形状42と同一となる先の候補タイヤモデル41の第1性能と同一となる傾向がある。したがって、当該候補タイヤモデル41については、少なくともステップc及びdを実行することなく、ステップaが実行される。
【0086】
このように、本実施形態の設計方法では、当該(新たな)候補タイヤモデル41の平衡形状42が、それよりも先に計算された平衡形状42と同一である場合に、当該候補タイヤモデル41の第1性能の数値計算、及び、第1性能の比較が省略される。平衡形状42が同一の候補タイヤモデル41は、それらの第1性能も同一となることから、当該候補タイヤモデル41の第1性能の数値計算、及び、第1性能の比較が省略されることにより、第1性能の重複した数値計算等を防ぐことができる。したがって、本実施形態の設計方法では、第1性能の重複した数値計算等を防ぐことができるため、タイヤ2を効率よく設計することが可能となる。
【0087】
一方、ステップfにおいて、当該(新たな)候補タイヤモデル41の平衡形状42と同一となる先の候補タイヤモデル41が一つも存在しない場合には、ステップfの結果が否定的となる(ステップfで「No」)。この場合、当該候補タイヤモデル41の第1性能は、先の候補タイヤモデル41の第1性能とは異なる傾向がある。したがって、当該候補タイヤモデル41については、ステップc以降が実施される。
【0088】
[ステップc(再実施)]
再度実施されるステップcでは、上記の手順に基づいて、当該(新たな)候補タイヤモデル41の第1性能が数値計算される。これにより、先の候補タイヤモデル41とは異なる第1性能が計算されうる。
【0089】
[ステップd、e(再実施)]
再度実施されるステップdでは、上記の手順に基づいて、当該(新たな)候補タイヤモデル41の第1性能が予め定められた条件と比較される。そして、ステップdにおいて、条件を満たす場合に、当該候補タイヤモデル41が出力される(ステップe)。
【0090】
[候補タイヤモデルの個数を判断(ステップg)]
次に、本実施形態の設計方法では、コンピュータ1(
図1に示す)が、候補タイヤモデル41の個数が、予め定められた閾値以上であるか否かを判断する(ステップg)。閾値は、適宜設定することができる。閾値が大きいほど、第1性能が互いに異なる多くの候補タイヤモデル41を生成できるため、それらの第1性能を比較して最も良好な候補タイヤモデル41を選択することが可能となる一方、多くの計算時間を要する問題がある。このような観点から、閾値が決定されるのが好ましい。
【0091】
ステップgで、候補タイヤモデル41の個数が閾値以上である場合(ステップgで「Yes」)、次のステップhが実行される。一方、ステップgで、候補タイヤモデル41の個数が閾値未満である場合(ステップgで「No」)、ステップaが実行される。これにより、本実施形態の設計方法では、第1性能が条件を満たす候補タイヤモデル41を、閾値に設定された任意の個数分だけ生成することができる。
【0092】
[最適タイヤモデルを選択(ステップh)]
次に、本実施形態の設計方法では、コンピュータ1(
図1に示す)が、複数の候補タイヤモデル41のうち、第1性能が最も良好な候補タイヤモデル41を選択する(ステップh)。選択された候補タイヤモデル41は、最適タイヤモデルとして、コンピュータ1(
図1に示す)に記憶される。
【0093】
[空気入りタイヤを設計(ステップi)]
次に、本実施形態の設計方法では、最適タイヤモデル(第1性能が最も良好な候補タイヤモデル41)の設計変数及び平衡形状42に基づいて、内圧充填前のタイヤ2(
図2に示す)が設計される(ステップi)。ステップiでは、コンピュータ1(
図1に示す)によってタイヤ2が設計されてもよいし、オペレータによってタイヤ2が設計されてもよい。タイヤ2の設計には、例えば、CAD等のソフトウェアが用いられてもよい。
【0094】
設計されたタイヤ2の形状は、例えば、タイヤ2の加硫金型等の設計に用いられる。これにより、第1性能が良好であり、かつ、インフレート時の歪を低減することができる(耐久性を向上させた)タイヤ2が製造されうる。
【0095】
[空気入りタイヤの設計方法(第2実施形態)]
[平衡形状を計算(ステップb3)]
これまでの実施形態のステップb3では、ビードコアモデル28、28を移動不能に拘束して、候補タイヤモデル41の平衡形状が計算されたが、このような態様に限定されない。
【0096】
この実施形態のステップb3では、
図8に示されるように、候補タイヤモデル41のリム接触領域35、35が移動不能に拘束される。リム接触領域35、35は、
図2に示したタイヤ2のリム組み時において、タイヤ2がリム9との接触が予定されている領域である。このリム接触領域35、35は、候補タイヤモデル41に定義される。
【0097】
リム接触領域35は、適宜定義することができ、例えば、正規リムに基づいて定義されうる。「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムである。したがって、正規リムは、例えば、JATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば "Measuring Rim" である。
【0098】
次に、この実施形態では、候補タイヤモデル41の要素F(i)のうち、リム接触領域35、35に配置されている要素F(i)について、シミュレーションが実施される計算空間(例えば、直交座標系で定義された空間)での座標値が固定される。これにより、リム接触領域35、35が移動不能に拘束される。
【0099】
次に、この実施形態では、リム接触領域35、35が拘束された後に、候補タイヤモデル41の平衡形状42が計算される。平衡形状42の計算は、これまでの実施形態と同様の手順で計算される。
【0100】
この実施形態では、リム接触領域35が移動不能に固定されているため、これまでの実施形態と同様に、リム(リムモデル)の押圧に起因するクリンチゴムモデル25e、25eの圧縮変形が抑制される。これにより、内圧充填によるビード部21c、21cのタイヤ軸方向の移動や、クリンチゴムモデル25e、25eの圧縮変形が、候補タイヤモデル41の平衡形状29に反映されるのが抑制されるため、内圧充填前のタイヤ2を適切に設計することが可能となる。
【0101】
さらに、この実施形態では、リム接触領域35の固定により、例えば、ビードコアモデル28、28が固定されたこれまでの実施形態に比べて、ビード部21c、21cを広い範囲に亘って拘束することができる。これにより、この実施形態では、これまでの実施形態に比べて、内圧充填に伴うビード部21c、21cの部分的な変形(屈曲)が抑制されうる。
【0102】
また、リム接触領域35の固定には、リム9(
図2に示す)をモデリングしたリムモデル(図示省略)が用いられてもよい。この場合、内圧条件(等分布荷重w)に基づく候補タイヤモデル41の変形が計算されたのちに、ビードコアモデル28、28を拘束して、候補タイヤモデル41からリムモデルが取り外されてもよい。これにより、リムモデルの押圧に起因するクリンチゴムモデル25e、25eの圧縮変形が取り除かれた平衡形状29を計算することが可能となる。
【0103】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【0104】
[付記]
本発明は以下の態様を含む。
【0105】
[本発明1]
空気入りタイヤを設計するための方法であって、
a)コンピュータが、予め定められた制約条件を満たす空気入りタイヤの有限要素モデルである候補タイヤモデルを生成するステップ、
b)前記コンピュータが、前記候補タイヤモデルの平衡形状を計算してそれを記憶するステップ、
c)前記コンピュータが、前記候補タイヤモデルの第1性能を数値計算するステップ、
d)前記コンピュータが、前記第1性能を予め定められた条件と比較するステップ、及び、
e)前記ステップdで、前記条件を満たす場合、前記候補タイヤモデルを出力するステップ、
を繰り返しながら複数の候補タイヤモデルを取得するとともに、
前記コンピュータが、前記ステップbの後、当該候補タイヤモデルの平衡形状が、それよりも先に計算された平衡形状と同一か否かを判断するステップfと、
前記ステップfの結果が肯定的である場合に、当該候補タイヤモデルについては、少なくとも前記ステップc及びdを実行することなく、ステップaを実行する、
空気入りタイヤの設計方法。
[本発明2]
前記第1性能は、台上試験で取得可能なタイヤ性能を含む、本発明1に記載の空気入りタイヤの設計方法。
[本発明3]
前記タイヤ性能は、縦バネ定数及び横バネ定数の少なくとも1つを含む、本発明2に記載の空気入りタイヤの設計方法。
【符号の説明】
【0106】
a 候補タイヤモデルの生成するステップ
b 候補タイヤモデルの平衡形状を計算及び記憶するステップ
c 候補タイヤモデルの第1性能を数値計算するステップ
d 第1性能を予め定められた条件と比較するステップ
e 候補タイヤモデルを出力するステップ
f 候補タイヤモデルの平衡形状が、それよりも先に計算された平衡形状と同一か否かを判断するステップ