(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178845
(43)【公開日】2023-12-18
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/00 20060101AFI20231211BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20231211BHJP
B60C 11/03 20060101ALI20231211BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20231211BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20231211BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20231211BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20231211BHJP
C08L 101/00 20060101ALN20231211BHJP
【FI】
B60C11/00 D
B60C1/00 A
B60C11/03 Z
C08L21/00
C08K3/013
C08K3/36
C08K3/04
C08L101/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022091786
(22)【出願日】2022-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 敬祐
【テーマコード(参考)】
3D131
4J002
【Fターム(参考)】
3D131BA01
3D131BA03
3D131BA05
3D131BA20
3D131BB01
3D131BB09
3D131BC13
3D131EB07U
4J002AA002
4J002AC031
4J002AC061
4J002AC081
4J002BC042
4J002BC092
4J002DA036
4J002DE146
4J002DE236
4J002DJ016
4J002DJ036
4J002DJ046
4J002EH097
4J002EK038
4J002EV178
4J002EV268
4J002EW047
4J002FD016
4J002FD027
4J002FD148
4J002GN01
(57)【要約】
【課題】ピークグリップ性能を向上したタイヤを提供すること。
【解決手段】トレッド部を備えたタイヤであって、トレッド部は、ゴム成分およびフィラーを含有するゴム組成物により構成され、ゴム組成物のフィラーの合計含有量がゴム成分100質量部に対し100質量部超であり、ゴム組成物のアセトン抽出後のガラス転移温度Tg2(℃)が-45℃未満であり、トレッド部の接地面におけるランド比をR(%)としたとき、Tg2およびRが(10-1.25Tg2)/R>1.0を満たすタイヤ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部を備えたタイヤであって、
前記トレッド部は、ゴム成分およびフィラーを含有するゴム組成物により構成され、
前記ゴム組成物がゴム成分100質量部に対しフィラーを100質量部超含有し、
前記ゴム組成物のアセトン抽出後のガラス転移温度Tg2(℃)が-45未満であり、
前記トレッド部の接地面におけるランド比をR(%)としたとき、Tg2およびRが下記式(1)を満たすタイヤ。
(10-1.25Tg2)/R>1.00・・・(1)
【請求項2】
前記ゴム組成物のアセトン抽出前のガラス転移温度Tg1(℃)が、-15以下である、請求項1記載のタイヤ。
【請求項3】
前記ゴム組成物のゴム成分中の硫黄量S(質量%)が0.95以下である、請求項1または2記載のタイヤ。
【請求項4】
前記ゴム組成物が、さらに液状ゴムを含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項5】
Tg2(℃)が-60以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項6】
前記ゴム組成物が、ゴム成分100質量部に対して、カーボンブラックを5質量部超150質量部未満含有する、請求項1~5のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項7】
前記ゴム組成物が、平均一次粒子径18nm以下のシリカを含有する、請求項1~6のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項8】
式(1)の右辺が1.10である、請求項1~7のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項9】
前記ゴム組成物のゴム硬度が、62超75未満である、請求項1~8のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項10】
前記ゴム組成物の0℃におけるtanδ(0℃tanδ)が0.40超である、請求項1~9のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項11】
前記ゴム組成物の30℃におけるtanδ(30℃tanδ)が0.20超である、請求項1~10のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項12】
前記ゴム組成物の30℃における複素弾性率(E*30)が30MPa未満である、請求項1~11のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項13】
前記ゴム組成物の100℃tanδとRとの積が5.0以上である、請求項1~12のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項14】
前記ゴム組成物が、平均一次粒子径16nm以下のシリカを含有する、請求項1~13のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項15】
前記ゴム組成物が、ゴム成分100質量部に対して、エステル系可塑剤を5質量部超含有する、請求項1~14のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項16】
前記ゴム組成物が、前記ゴム成分100質量部に対して、有機架橋剤を1質量部超含有する、請求項1~15のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項17】
前記ゴム組成物のTg2とSとの積が-50以下である、請求項1~16のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項18】
前記ゴム組成物が、さらに軟化点90℃以下の樹脂成分を含有する、請求項1~17のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項19】
競技用タイヤである請求項1~18のいずれか一項に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤ、特に、競技用タイヤなどの高性能タイヤには、長期走行後にタイヤが温まった際にも優れたグリップ性能(ピークグリップ性能)を発揮することが求められている。特許文献1には、特定のカーボンブラックを含有し、走行初期からのグリップ性能およびピークグリップ性能に優れたタイヤトレッド用ゴム組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、ピークグリップ性能を向上したタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
鋭意検討した結果、トレッド部を構成するゴム組成物のフィラーの合計含有量がゴム成分100質量部に対し100質量部超であり、ゴム組成物のアセトン抽出後のガラス転移温度Tg2(℃)が-45℃未満であり、トレッド部の接地面におけるランド比をR(%)としたとき、Tg2およびRが所定の関係を満たすタイヤにより、前記課題が解決されることが見出された。
【0006】
すなわち、本開示は、トレッド部を備えたタイヤであって、前記トレッド部は、ゴム成分およびフィラーを含有するゴム組成物により構成され、前記ゴム組成物がゴム成分100質量部に対しフィラーを100質量部超含有し、前記ゴム組成物のアセトン抽出後のガラス転移温度Tg2(℃)が-45℃未満であり、前記トレッド部の接地面におけるランド比をR(%)としたとき、Tg2およびRが下記式(1)を満たすタイヤに関する。
(10-1.25Tg2)/R>1.00・・・(1)
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、ピークグリップ性能を向上したタイヤが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】トレッドを平面に押し付けたときのタイヤの接地面の模式図である。
【
図2】他の実施形態であるタイヤの接地面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示の一実施形態であるタイヤは、トレッド部を備えたタイヤであって、前記トレッド部は、ゴム成分およびフィラーを含有するゴム組成物により構成され、前記ゴム組成物がゴム成分100質量部に対しフィラーを100質量部超含有し、前記ゴム組成物のアセトン抽出後のガラス転移温度Tg2(℃)が-45未満であり、前記トレッド部の接地面におけるランド比をR(%)としたとき、Tg2およびRが下記式(1)を満たすタイヤである。
(10-1.25Tg2)/R>1.00・・・(1)
【0010】
トレッド部の接地面におけるランド比、フィラーの含有量、およびゴム組成物のアセトン抽出後のガラス転移温度Tg2(℃)が上記の要件を満たすことで、得られたタイヤは、ピークグリップ性能が向上する。理論に拘束されることは意図しないが、その理由については、以下のように考えられる。
【0011】
(1)アセトン抽出後のガラス転移温度Tg2(℃)が-45℃未満であることにより、低温下でもポリマーの運動性が高くなるため、ゴムが変形しやすくなり、路面への接地面積が増える。(2)フィラーの合計含有量がゴム成分100質量部に対し100質量部超であることにより、トレッド部を構成するゴム組成物の発熱性が上がるため、走行中期以降の高温走行時も路面への追随性が向上する。さらに、(3)トレッド部の接地面におけるランド比が高くなるにしたがってアセトン抽出後のガラス転移温度Tg2(℃)を下げることで、ゴムの運動性、発熱性とあわせて良好な剛性が得られる。そして、これら(1)~(3)が協働することで、ピークグリップ性能が向上するという、特筆すべき効果が達成されると考えられる。
【0012】
前記ゴム組成物のアセトン抽出前のガラス転移温度Tg1(℃)は、-15℃以下であることが好ましい。
【0013】
アセトン抽出前のガラス転移温度Tg1(℃)を低くすることで、低温下でもポリマーの運動性が高くなるため、ゴムが変形しやすくなり、路面への接地面積が増えると考えられる。
【0014】
前記ゴム組成物のゴム成分中の硫黄量S(質量%)は、0.95以下であることが好ましい。
【0015】
ゴム成分中の硫黄量を低くすることにより、加硫によりポリマー鎖が過度に拘束されることを防ぎ、発熱性を得やすくなり、ピークグリップ性能を向上させやすくすることができると考えられる。
【0016】
前記ゴム組成物は、さらに液状ゴムを含有することが好ましい。
【0017】
液状ゴムを含有することで、ゴム組成物のtanδが上昇し、ゴム表面での粘着性が向上し、ピークグリップ性能をより向上させることができると考えられる。
【0018】
前記ゴム組成物は、ゴム成分100質量部に対して、カーボンブラックを5質量部超150質量部未満含有することが好ましい。
【0019】
ゴム組成物にカーボンブラックを配合し、配合量を上記の範囲とすることにより、トレッド部を構成するゴム組成物の発熱性が向上し、ピークグリップ性能がより向上すると考えられる。
【0020】
前記ゴム組成物は、平均一次粒子径18nm以下のシリカを含有することが好ましい。
【0021】
ゴム組成物に小粒子径のシリカを配合することにより、発熱性が向上し、ピークグリップ性能がより向上すると考えられる。
【0022】
前記ゴム組成物のゴム硬度は、62超75未満であることが好ましい。
【0023】
ゴム組成物のゴム硬度が上記の範囲であることで、良好な剛性が得られ、ピークグリップ性能がさらに向上すると考えられる。
【0024】
前記ゴム組成物の0℃におけるtanδ(0℃tanδ)は0.40超であることが好ましい。
【0025】
0℃におけるtanδを前記の範囲とすることにより、ピークグリップ性能をより向上させることができると考えられる。
【0026】
前記ゴム組成物の30℃におけるtanδ(30℃tanδ)は0.20超であることが好ましい。
【0027】
30℃におけるtanδを前記の範囲とすることにより、ピークグリップ性能をより向上させることができると考えられる。
【0028】
前記ゴム組成物の30℃における複素弾性率(E*30)は30MPa未満であることが好ましい。
【0029】
ゴム組成物の30℃における複素弾性率を前記の範囲とすることにより、トレッド部を構成するゴム組成物の発熱性が高くなり、ピークグリップ性能を向上させることができると考えられる。
【0030】
前記ゴム組成物の100℃tanδとRとの積(100℃tanδ×R)は5.0以上であることが好ましい。
【0031】
100℃tanδとランド比Rとの積が5.0以上であることで、トレッド部表面全体での摩擦性が安定して得られるようになり、良好なピークグリップ性能が得やすくなると考えられる。
【0032】
前記ゴム組成物は、ゴム成分100質量部に対して、エステル系可塑剤を5質量部超含有することが好ましい。
【0033】
ゴム組成物にエステル系可塑剤を配合することにより、ピークグリップ性能をさらに向上させることが可能となると考えられる。
【0034】
前記ゴム組成物は、前記ゴム成分100質量部に対して、有機架橋剤を1質量部超含有することが好ましい。
【0035】
ゴム組成物に有機架橋剤を配合すると、硫黄による架橋に比べて架橋点間距離が長くなり、エネルギーロスを多く発生することが可能となり、良好なピークグリップ性能が得られると考えられる。
【0036】
前記ゴム組成物のアセトン抽出後のガラス転移温度Tg2(℃)とゴム成分中の硫黄量Sとの積は、-50以下であることが好ましい。
【0037】
Tg2およびSが上記式を満たすことで、ゴム成分の運動性を高めることができ、路面への追従性を確保しやすくなると考えられる。
【0038】
前記ゴム組成物は、さらに軟化点90℃以下の樹脂成分を含有することが好ましい。
【0039】
軟化点90℃以下の樹脂成分を含有することで、ピークグリップ性能をさらに向上させることが可能となると考えられる。
【0040】
<定義>
「正規リム」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、JATMAであれば“標準リム”、TRAであれば“Design Rim”、ETRTOであれば“Measuring Rim”である。
【0041】
「正規内圧」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば“最高空気圧”、TRAであれば表“TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“INFLATION PRESSURE”である。
【0042】
「正規状態」は、タイヤが正規リムにリム組みされかつ正規内圧が充填され、しかも、無負荷の状態である。なお、本明細書において、特に断りがない場合、タイヤ各部の寸法は、前記正規状態で測定される。
【0043】
「正規荷重」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば“最大負荷能力”、TRAであれば表“TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“LOAD CAPACITY”である。
【0044】
「ランド比R」とは、トレッド部接地面における、総接地面積に対する実接地面積の比をいう。総接地面積および実接地面積の測定方法は後述する。
【0045】
「アセトン抽出」とは、JIS K 6229に準拠して、加硫ゴム試験片を72時間アセトンに浸漬して可溶成分を抽出することである。アセトン抽出を行う試験片をタイヤから切り出して作製する場合には、タイヤのトレッド部から、タイヤ周方向が長辺、タイヤ半径方向が厚さ方向となるように切り出す。
【0046】
「オイルの含有量」は、油展ゴムに含まれるオイル量も含む。
【0047】
<測定方法>
「トレッド部の接地形状」は、タイヤを正規リムに組み付け、正規内圧を加え、25℃で24時間静置した後、タイヤトレッド表面に墨を塗り、正規荷重を負荷してキャンバー角0°で紙に押しつけ、紙に転写させることで得られる。転写は、タイヤを周方向に72°ずつ回転させ、5か所で行う。よって、接地形状は5回得られる。
【0048】
「総接地面積」は、トレッド部の接地形状において、外輪郭により得られる面積の5か所平均値とする。「実接地面積」は、トレッド部の接地形状において、墨部分の面積の5か所平均値とする。すなわち、ランド比は下記式により求められる。
ランド比R=墨部分の面積の5か所平均値/接地形状の外輪郭により得られる面積の5か所平均値
【0049】
「ゴム組成物のガラス転移温度(Tg)」は、GABO社製のイプレクサーシリーズを用い、周波数10Hz、初期歪10%、振幅±0.5%、および-70℃から40℃までの間で昇温速度3℃/minの条件下で、tanδの温度分布曲線を測定し、得られた温度分布曲線における最も大きいtanδ値に対応する温度(tanδピーク温度)として決定する。Tg測定用サンプルは、後述する30℃tanδの場合と同様にして作製される。なお、本開示においては、アセトン抽出前のゴム組成物のガラス転移温度(℃)をTg1、アセトン抽出前のゴム組成物のガラス転移温度(℃)をTg2とする。
【0050】
「ゴム成分中の硫黄量S」は、JIS K 6233:2016に準拠した酸素燃焼フラスコ法により測定される硫黄量(質量%)である。硫黄量測定用サンプルはタイヤから切り出して作製される。
【0051】
「30℃tanδ」は、温度30℃、周波数10Hz、初期歪5%、動歪1%の条件下で測定する損失正接である。損失正接測定用サンプルは、長さ20mm×幅4mm×厚さ1mmの加硫ゴム組成物である。タイヤから切り出して作製する場合には、タイヤのトレッド部から、タイヤ周方向が長辺、タイヤ半径方向が厚さ方向となるように切り出す。
【0052】
「0℃tanδ」は、温度0℃、周波数10Hz、初期歪10%、動歪2.5%の条件下で測定する損失正接である。本測定用サンプルは、30℃tanδの場合と同様にして作製される。
【0053】
「100℃tanδ」は、温度100℃、周波数10Hz、初期歪10%、動歪2.5%の条件下で測定する損失正接である。本測定用サンプルは、30℃tanδの場合と同様にして作製される。
【0054】
「E*30」は、温度30℃、周波数10Hz、初期歪5%、動歪1%の条件下で測定する複素弾性率(MPa)である。複素弾性率測定用サンプルは、30℃tanδの場合と同様にして作製される。
【0055】
「ゴム硬度」は、JIS K 6253-3:2012に準拠し、デュロメータータイプAを用いて温度23℃の条件下で測定するショア硬度(Hs)である。ショア硬度測定用サンプルは、トレッド部から、タイヤ半径方向が厚さ方向となるように切り出して作製する。また、測定は、硬度測定用サンプルの接地面側から測定器具をサンプルに押し付けて行う。
【0056】
「スチレン含量」は、1H-NMR測定により算出される値であり、例えば、SBR等のスチレンに由来する繰り返し単位を有するゴム成分に適用される。「ビニル含量(1,2-結合ブタジエン単位量)」は、JIS K 6239-2:2017に従い、赤外吸収スペクトル分析により算出される値であり、例えば、SBR、BR等のブタジエンに由来する繰り返し単位を有するゴム成分に適用される。「シス含量(シス-1,4-結合ブタジエン単位量)」は、JIS K 6239-2:2017に従い、赤外吸収スペクトル分析により算出される値であり、例えば、BR等のブタジエンに由来する繰り返し単位を有するゴム成分に適用される。
【0057】
「重量平均分子量(Mw)」は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(例えば、東ソー(株)製のGPC-8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMALTIPORE HZ-M)による測定値を基に、標準ポリスチレン換算により求めることができる。例えば、SBR、BR等に適用される。
【0058】
「カーボンブラックの平均一次粒子径」は、透過型または走査型電子顕微鏡により観察し、視野内に観察されたカーボンブラックの一次粒子を400個以上測定し、その平均により求めることができる。「カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)」は、JIS K 6217-2:2017に準じて測定される。「カーボンブラックのオイル吸収量(DBP吸油量(OAN))」は、JIS K6217-4:2017に準じて測定される。
【0059】
「シリカの平均一次粒子径」は、透過型または走査型電子顕微鏡により観察し、視野内に観察されたシリカの一次粒子を400個以上測定し、その平均により求めることができる。「シリカの窒素吸着比表面積(N2SA)」は、ASTM D3037-93に準じてBET法で測定される。
【0060】
「樹脂成分の軟化点」は、JIS K 6220-1:2015 7.7に規定される軟化点を環球式軟化点測定装置で測定し、球が降下した温度である。
【0061】
本開示の一実施形態であるタイヤの作製手順について、以下に詳細に説明する。ただし、以下の記載は本開示を説明するための例示であり、本開示の技術的範囲をこの記載範囲にのみ限定する趣旨ではない。
【0062】
<タイヤ>
図1は、トレッドの接地面の模式図である。本開示に係るタイヤを構成するトレッド面1には、トレッドパターンが形成されている。
図1の接地面を有するタイヤは、乗用車用タイヤに好適に用いられる。
【0063】
図1において、トレッドは、複数の周方向溝4を有している。周方向溝4は、周方向Cに沿って直線状に延びているが、このような態様に限定されるものではなく、例えば、周方向に沿って波状や正弦波状やジクザク状に延びていてもよい。
図1において、周方向溝4は3つ設けられているが、本開示において、周方向溝の数は特に限定されず、例えば2~5つであってもよい。本明細書において、「周方向溝」とは、タイヤ周方向Cに連続して延びる溝を指す。
【0064】
ショルダー陸部3は、周方向溝4とトレッド端Teとの間に形成された一対の陸部である。センター陸部2は、一対のショルダー陸部3の間に形成された陸部である。
図1においては、センター陸部2は2つ設けられているが、センター陸部の数は特に限定されず、例えば1つ~5つであってもよい。
【0065】
図1において、ショルダー陸部3には、片端が周方向溝4に連通している幅方向溝8と、両端が周方向溝に連通していない幅方向溝5、6が設けられている。また、センター陸部2には、片端が周方向溝4に連通している幅方向溝7と、タイヤ幅方向に延びる溝であって、センター陸部2を横断し、両端が周方向溝に連通している溝9が設けられているが、このような態様に限定されない。
【0066】
図2は、他の実施形態であるタイヤの接地面の模式図である。
図2の接地面を有するタイヤは、競技用タイヤに好適に用いられ、なかでも不整地走行用の競技用タイヤとして好適に用いられる。
【0067】
図2において、トレッド部1は、タイヤ周方向Cに対して斜めに延びる複数の周方向傾斜溝10、周方向Cに沿って直線状に延びる周方向溝4、タイヤ幅方向Wに対して斜めに延びる複数の幅方向傾斜溝11、トレッド端からタイヤ幅方向に延び片端が周方向溝4に連通している幅方向溝7を有しており、これらによって形成された陸部には、複数のブロック12が区画形成されている。前記ブロック12は窪み(以下、リセス13という)を有していてもよい。
【0068】
ブロック12にリセス13を有する場合の前記ブロック12の体積に対するリセス13の容積の比は、0.08以上が好ましく、0.10以上がより好ましく、0.12以上がさらに好ましい。また、前記ブロック12の体積に対するリセス13の容積の比は、0.25以下が好ましく、0.22以下がより好ましく、0.20以下がさらに好ましい。
【0069】
本開示のタイヤは、トレッド部の接地面におけるランド比Rは、50%以上が好ましく、52%以上がより好ましく、55%以上がさらに好ましく、68%以上が特に好ましい。ランド比Rが50%未満であると、トレッド部の変形が大きくなり、グリップ性能の向上効果が低下すると考えられる。一方、ランド比Rは、85%以下が好ましく、80%以下がより好ましく、75%以下がさらに好ましく、72%以下が特に好ましい。ランド比Rが85%超であると、トレッド部のゴムが充分に変形することができず、発熱が発生しにくくなるため、グリップ性能の向上効果が低下する傾向がある。
【0070】
本開示のゴム組成物のアセトン抽出後のガラス転移温度Tg2は、-45℃未満であり、-46℃以下が好ましく、-50℃以下がよりに好ましく、-52℃以下がさらに好ましく、-54℃以下がさらに好ましく、-56℃以下がさらに好ましく、-60℃以下がさらに好ましく、-62℃以下が特に好ましい。一方で、本開示のゴム組成物アセトン抽出後のガラス転移温度Tg2の下限値は、本開示の効果の観点から、-85℃以上が好ましく、-80℃以上がより好ましく、-75℃以上がさらに好ましい。
【0071】
本開示のタイヤは、ゴム組成物のアセトン抽出後のガラス転移温度をTg2(℃)、トレッド部の接地面におけるランド比をR(%)としたとき、Tg2およびRが下記式(1)を満たす。
(10-1.25Tg2)/R>1.00・・・(1)
【0072】
ここで、Rが大きくなると式(1)の値は小さくなり、逆に小さくなれば同値は大きくなる一方、Tg2が小さくなると式(1)の値は大きくなり、逆に大きくなれば同値は小さくなる関係にあるから、この点に着目して、Tg2とRを調節することで、式(1)を満たすように調節することができる。
【0073】
式(1)の値は、1.00超であり、1.10超が好ましく、1.20超がさらに好ましい。式(1)の値を1.00超とすることで、ゴムの運動性、発熱性の高さとあわせて良好な剛性が得られるため、ピークグリップ性能が向上する。また、式(1)の値の上限値は特に制限されないが、本開示の効果の観点から、3.00以下が好ましく、2.50以下がより好ましく、2.00以下がさらに好ましく、1.80以下がさらに好ましく、1.60以下が特に好ましい。
【0074】
本開示のゴム組成物のアセトン抽出前のガラス転移温度Tg1は、-10℃以下が好ましく、-12℃以下がより好ましく、-13℃以下がさらに好ましく、-15℃以下がさらに好ましく、-18℃以下がさらに好ましく、-20℃以下がさらに好ましく、-21℃以下がさらに好ましく、-25℃以下がさらに好ましく、-30℃以下が特に好ましい。一方で、本開示のゴム組成物アセトン抽出後のガラス転移温度Tg1の下限値は、本開示の効果の観点から、-55℃以上が好ましく、-50℃以上がより好ましく、-45℃以上がさらに好ましく、-42℃以上が特に好ましい。
【0075】
本開示のゴム組成物のアセトン抽出前後のガラス転移温度の差、すなわちTg1-Tg2は、本開示の効果の観点から、25℃以上が好ましく、30℃以上がより好ましく、32℃以上がさらに好ましい。また、Tg1-Tg2は、本開示の効果の観点から、55℃以下が好ましく、48℃以下がより好ましく、40℃以下がさらに好ましい。
【0076】
本開示のゴム組成物のゴム成分中の硫黄量Sは、ゴム成分中のポリマー分子鎖が過度に拘束され、運動性が低下することを防ぐ観点から、1.3質量%以下が好ましく、1.2質量%以下がより好ましく、0.95質量%以下がさらに好ましく、0.92質量%以下がさらに好ましく、0.90質量%以下がさらに好ましい。一方、本開示のゴム組成物のゴム成分中の硫黄量Sは、本開示の効果の観点から、0.50質量%以上が好ましく、0.55質量%以上がより好ましく、0.60質量%以上がさらに好ましく、0.65質量%以上が特に好ましい。
【0077】
本開示のゴム組成物のアセトン抽出後のガラス転移温度(Tg2)とゴム成分中の硫黄量Sの積(Tg2×S)は、本開示の効果の観点から、-40以下が好ましく、-45以下がより好ましく、-48以下がさらに好ましく、-50以下が特に好ましい。また、Tg2×Sは、本開示の効果の観点から、-70以上が好ましく、-67以上がより好ましく、-65以上がさらに好ましい。
【0078】
本開示のゴム組成物のゴム硬度は、良好な剛性を得てピークグリップ性能を向上する観点から、62超が好ましく、63超がより好ましく、64超がさらに好ましく、65超が特に好ましい。また、グリップ性能の観点から、75未満が好ましく、74未満がより好ましく、73未満がさらに好ましく、72未満が特に好ましい。
【0079】
本開示のゴム組成物の0℃tanδは、グリップ性能の観点から、0.40超が好ましく0.42超がより好ましく、0.44超がさらに好ましい。一方、耐ブロー性能の観点から、ゴム組成物の0℃tanδは、1.00未満が好ましく、0.85未満がより好ましく、0.75未満がさらに好ましい。
【0080】
本開示のゴム組成物の30℃tanδは、グリップ性能の観点から、0.20超が好ましい。
【0081】
本開示のゴム組成物を競技用タイヤとして用いる場合の30℃tanδは、0.35超がより好ましく、0.40超がさらに好ましく、0.45超が特に好ましい。また、競技用タイヤとして用いる場合の30℃tanδは、耐ブロー性能の観点から、0.55未満が好ましく、0.52未満がより好ましく、0.50未満がさらに好ましい。
【0082】
本開示のゴム組成物を乗用車用タイヤとして用いる場合の30℃tanδは、0.24超がより好ましく、0.25超がさらに好ましく、0.30超が特に好ましい。また、乗用車用タイヤとして用いる場合の30℃tanδは、0.40未満が好ましく、0.38未満がより好ましく、0.35未満がさらに好ましい。
【0083】
本開示のゴム組成物の100℃tanδは、グリップ性能の観点から、0.08超が好ましい。
【0084】
本開示のゴム組成物を競技用タイヤとして用いる場合の100℃tanδは、0.30超が好ましく、0.33超がより好ましい。また、競技用タイヤとして用いる場合の100℃tanδは、耐ブロー性能の観点から、0.45未満が好ましく、0.40未満がより好ましい。
【0085】
本開示のゴム組成物を乗用車タイヤとして用いる場合の100℃tanδは、0.08超が好ましく、0.09超がより好ましい。また、乗用車用タイヤとして用いる場合の100℃tanδは、耐ブロー性能の観点から、0.20未満が好ましく、0.18未満がより好ましい。
【0086】
本開示のタイヤは、100℃tanδとランド比R(%)との積が、5.0以上であることが好ましい。また、100℃tanδとランド比R(%)との積の上限値は特に制限されないが、本開示の効果の観点から、35以下が好ましく、32以下がより好ましく、30以下がさらに好ましい。
【0087】
本開示のゴム組成物を競技用タイヤとして用いる場合の100℃tanδとランド比R(%)との積は、15以上であることが好ましく、20以上がより好ましく、21以上がさらに好ましい。
【0088】
本開示のゴム組成物を乗用車用タイヤとして用いる場合の100℃tanδとランド比R(%)との積は、6.0以上がより好ましく、7.0以上がさらに好ましい。乗用車用タイヤとして用いる場合の100℃tanδとランド比R(%)との積は、15以下が好ましく、12以下がより好ましく、10以下がさらに好ましい。
【0089】
本開示のゴム組成物の30℃における複素弾性率E*30は、グリップ性能の観点から、30MPa未満が好ましい。
【0090】
本開示のゴム組成物を競技用タイヤとして用いる場合には、E*30は、25MPa未満がより好ましく、20MPa未満がさらに好ましい。また、競技用タイヤとして用いる場合のE*30は、7MPa超が好ましく、10MPa超がさらに好ましく、15MPa超がさらに好ましい。
【0091】
本開示のゴム組成物を乗用車用タイヤとして用いる場合には、E*30は、12MPa未満がより好ましく、10MPa未満がさらに好ましい。乗用車用タイヤとして用いる場合のE*30は、2MPa超が好ましく、3MPa超がより好ましく、4MPa超がさらに好ましい。
【0092】
なお、本開示のゴム組成物のTg1、Tg2、ゴム硬度、0℃tanδ、30℃tanδ、および30℃におけるE*30は、後記のゴム成分、フィラー、軟化剤等の種類や配合量により適宜調整することができる。例えば、Tg1は、ゴム成分のガラス転移点を低下させること、ゴム成分中のスチレン含量を低下させること、軟化剤のガラス転移点を低下させることなどにより下げることができる。Tg2は、ゴム成分のガラス転移点を低下させること、ゴム成分中のスチレン含量を低下させることなどにより下げることができる。ゴム硬度は、ゴム組成物中のフィラー量を増やすこと、オイルなどの軟化剤含有量を減らすことにより、高くすることができる。0℃tanδ、30℃tanδおよび100℃tanδは、ゴム組成物中に含まれるフィラー量を多くすること、フィラーの粒子径を小さくすることなどにより、上げることができる。E*30は、ゴム組成物中のフィラー量を増やすこと、軟化剤の含有量を減らすことなどにより、上げることができる。
【0093】
[ゴム組成物]
本開示のトレッド部は、前述したトレッド部の接地面におけるランド比Rとゴム組成物のアセトン抽出後のガラス転移温度Tg2が(10-1.25Tg2)/R>1.00を満たすこと特徴とする。トレッド部を構成するゴム組成物は、以下に説明する原料を用いて、要求されるゴム組成物の前記の物性等に応じて製造することができる。以下に詳細に説明する。
【0094】
<ゴム成分>
本開示のゴム組成物は、ゴム成分を含有する。ゴム成分としては、スチレンブタジエンゴム(SBR)を含有することが好ましく、SBRのみからなるゴム成分としてもよい。また、ゴム成分として、イソプレン系ゴムおよび/またはブタジエンゴム(BR)を含有してもよい。乗用車用タイヤに用いる場合においては、SBRとBRを併用することが好ましく、SBRとBRとイソプレン系ゴムを併用することがより好ましい。
【0095】
(SBR)
SBRとしては特に限定はなく、未変性の溶液重合SBR(S-SBR)や乳化重合SBR(E-SBR)、これらの変性SBR(変性S-SBR、変性E-SBR)等が挙げられる。変性SBRとしては、末端および/または主鎖が変性されたSBR、スズ、ケイ素化合物等でカップリングされた変性SBR(縮合物、分岐構造を有するもの等)等が挙げられる。なかでもS-SBRおよび変性SBRが好ましい。さらに、これらSBRの水素添加物(水素添加SBR)等も使用することができる。SBRとしては油展SBRを用いることもできるし、非油展SBRを用いることもできる。
【0096】
SBRは、ピークグリップ性能と相関の高い領域での粘弾性特性に優れ、フィラーとの馴染みおよび反応性に優れるため、ピークグリップ性能の向上に効果を発揮すると考えられる。
【0097】
前記で列挙されたSBRは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。前記で列挙されたSBRとしては、例えば、旭化成(株)、JSR(株)、住友化学(株)、日本ゼオン(株)、ZSエラストマー(株)等より市販されているものを使用することができる。
【0098】
SBRのスチレン含量は、ピークグリップ性能および耐摩耗性能の観点から、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上がさらに好ましい。また、グリップ性能の温度依存性および耐ブロー性能の観点からは、35質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、25質量%以下がさらに好ましい。なお、SBRのスチレン含有量は、前記測定方法により測定される。
【0099】
SBRのビニル含量は、フィラーとの反応性の担保、ピークグリップ性能、および耐摩耗性能の観点から、10モル%以上が好ましく、12モル%以上がより好ましく、15モル%以上がさらに好ましい。また、SBRのビニル含量は、温度依存性の増大防止、破断伸び、および耐摩耗性能の観点から、70モル%以下が好ましく、60モル%以下がより好ましく、50モル%以下がさらに好ましく、40モル%以下が特に好ましい。なお、SBRのビニル含量は、前記測定方法により測定される。
【0100】
SBRの重量平均分子量(Mw)は、ピークグリップ性能の観点から、15万以上が好ましく、20万以上がより好ましく、25万以上がさらに好ましい。また、架橋均一性の観点から、重量平均分子量は200万以下が好ましく、180万以下がより好ましく、150万以下がさらに好ましい。なお、SBRの重量平均分子量は、前記測定方法により測定される。
【0101】
SBRを含有する場合のゴム成分中の含有量は、本開示の効果の観点から、30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、50質量%以上がさらに好ましく、60質量%以上が特に好ましい。また、SBRの含有量の上限値は特に限定されず、例えば、100質量%、95質量%以下、90質量%以下、85質量%以下、80質量%以下とすることができる。
【0102】
(BR)
BRとしては特に限定されるものではなく、例えば、シス含量が50モル%未満のBR(ローシスBR)、シス含量が90モル%以上のBR(ハイシスBR)、希土類元素系触媒を用いて合成された希土類系ブタジエンゴム(希土類系BR)、シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するBR(SPB含有BR)、変性BR(ハイシス変性BR、ローシス変性BR)等タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。これらのBRは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、BRのシス含量は、前記測定方法により測定される。
【0103】
ハイシスBRとしては、例えば、日本ゼオン(株)、宇部興産(株)、JSR(株)等より市販されているものを使用することができる。ハイシスBRを含有することで低温特性および耐摩耗性能を向上させることができる。ハイシスBRのシス含量は、95モル%以上が好ましく、96モル%以上がより好ましく、97モル%以上がさらに好ましく、98モル%以上が特に好ましい。なお、BRのシス含量は、前記測定方法により測定される。
【0104】
BRの重量平均分子量(Mw)は、耐摩耗性能の観点から、30万以上が好ましく、35万以上がより好ましく、40万以上がさらに好ましい。また、架橋均一性等の観点からは、200万以下が好ましく、150万以下がより好ましく、100万以下がさらに好ましい。なお、BRのMwは、前記測定方法により測定される。
【0105】
BRを含有する場合のゴム成分中の含有量は、本開示の効果の観点から、60質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましい。また、該含有量の下限値は特に制限されないが、ピークグリップ性能の観点から、例えば、1質量%以上、3質量%以上、5質量%以上、10質量%以上とすることができる。
【0106】
(イソプレン系ゴム)
イソプレン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、改質NR、変性NR、変性IR等が挙げられる。NRとしては、例えば、SIR20、RSS♯3、TSR20等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。これらのイソプレン系ゴムは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0107】
イソプレン系ゴムを含有する場合のゴム成分中の含有量は、ピークグリップ性能の観点から、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましく、20質量%以下が特に好ましい。また、該含有量の下限値は特に制限されないが、初期グリップ性能の観点から、例えば、1質量%以上、3質量%以上、5質量%以上、10質量%以上とすることができる。
【0108】
(その他のゴム成分)
ゴム成分は、本開示の効果に影響を与えない範囲で、SBR、BR、およびイソプレン系ゴム以外の他のゴム成分を含有してもよい。他のゴム成分としては、タイヤ工業で一般的に用いられる架橋可能なゴム成分を用いることができ、例えば、スチレンイソプレンゴム(SIR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)等のジエン系ゴム;水素化ニトリルゴム(HNBR)、エチレンプロピレンゴム、ポリノルボルネンゴム、シリコーンゴム、塩化ポリエチレンゴム、フッ素ゴム(FKM)、アクリルゴム(ACM)、ヒドリンゴム等のブチル系ゴム以外の非ジエン系ゴムが挙げられる。これら他のゴム成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。ジエン系ゴムのゴム成分中の含有量は80質量%以上であることが好ましい。また、上記のゴム成分の他に、公知の熱可塑性エラストマーを含有してもよく、含有しなくてもよい。
【0109】
<フィラー>
本開示のゴム組成物は、フィラーを含有する。フィラーとしては、カーボンブラックおよび/またはシリカを含有することが好ましく、カーボンブラックを含有することがより好ましい。また、フィラーは、カーボンブラックおよびシリカのみからなるフィラーとしてもよく、カーボンブラックのみからなるフィラーとしてもよい。
【0110】
(シリカ)
シリカとしては、特に限定されず、例えば、乾式法により調製されたシリカ(無水シリカ)、湿式法により調製されたシリカ(含水シリカ)等、タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。また、上記のシリカ以外にもみ殻等のバイオマス材料を原料として得たシリカを用いても良い。これらのシリカは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0111】
シリカの平均一次粒子径は、ピークグリップ性能の観点から、20nm以下が好ましく、16nm以下がより好ましく、15nm以下がさらに好ましい。また、分散性の観点からは、5nm以上が好ましく、8nm以上がより好ましく、10nm以上がさらに好ましい。なお、シリカの平均一次粒子径は、前記測定方法により測定される。
【0112】
シリカの窒素吸着比表面積(N2SA)は、補強性およびピークグリップ性能の確保の観点から、100m2/g以上が好ましく、120m2/g以上がより好ましく、140m2/g以上がさらに好ましく、150m2/g以上が特に好ましい。また、分散性の観点からは、350m2/g以下が好ましく、300m2/g以下がより好ましく、250m2/g以下がさらに好ましい。なお、シリカのN2SAは、前記測定方法により測定される。
【0113】
シリカを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、本開示のゴム組成物を競技用タイヤに用いる場合には、ゴム組成物に対する補強性の観点から、50質量部以下が好ましく、40質量部以下がより好ましく、30質量部以下がさらに好ましく、10質量部未満が特に好ましい。本開示のゴム組成物を競技用タイヤに用いる場合には、シリカを含有しなくてもよい。
【0114】
シリカを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、本開示のゴム組成物を乗用車用タイヤに用いる場合には、ピークグリップ性能の観点から、80質量部以上が好ましく、100質量部以上がより好ましく、120質量部以上がさらに好ましい。また、上限としては特に限定されないが、300質量部以下が好ましく、250質量部以下がより好ましく、200質量部以下がさらに好ましい。
【0115】
(カーボンブラック)
カーボンブラックとしては特に限定されず、例えば、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAF等タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。これらのカーボンブラックは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、ライフサイクルアセスメントの観点から、上記のカーボンブラックの他、リグニンを原料としたカーボンブラックや、タイヤ等のカーボンブラックを含む製品から熱分解等により得られたリサイクルカーボンブラックを用いても良い。
【0116】
カーボンブラックの平均一次粒子径は、補強性およびピークグリップ性能の観点から、35nm以下が好ましく、30nm以下がより好ましく、28nm以下がさらに好ましく、20nm以下がさらに好ましく、19nm以下が特に好ましい。また、分散性の観点からは、10nm以上が好ましく、12nm以上がより好ましく、15nm以上がさらに好ましい。なお、カーボンブラックの平均一次粒子径は、前記測定方法により測定される。
【0117】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は、補強性およびピークグリップ性能の観点から、50m2/g以上が好ましく、70m2/g以上がより好ましく、100m2/g以上がさらに好ましく、120m2/g以上が特に好ましい。また、分散性の観点からは、250m2/g以下が好ましく、220m2/g以下がより好ましい。なお、カーボンブラックのN2SAは、前記測定方法により測定される。
【0118】
カーボンブラックのオイル吸収量(DBP吸油量(OAN))は、補強性およびピークグリップ性能の観点から、85mL/100g以上が好ましく、90mL/100g以上がより好ましく、100mL/100g以上がさらに好ましい。また、該OANは、グリップ性能の観点から、250mL/100g以下が好ましく、225mL/100g以下がより好ましく、200mL/100g以下がさらに好ましい。なお、カーボンブラックのOANは、前記測定方法により測定される。
【0119】
カーボンブラックを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、本開示のゴム組成物を競技用タイヤに用いる場合には、耐候性や補強性の観点から、40質量部以上が好ましく、50質量部超がより好ましく100質量部以上がさら好ましい。また、上限は特に限定されないが、190質量部以下が好ましく、150質量部以下がより好ましく、140質量部以下がさらに好ましい。
【0120】
カーボンブラックを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、本開示のゴム組成物を乗用車用タイヤに用いる場合には、耐候性や補強性の観点から、1質量部超が好ましく、3質量部以上がより好ましく、5質量部以上がさらに好ましい。低燃費性能の観点からは、150質量部未満が好ましく、135質量部未満がより好ましく、120質量部未満がさらに好ましい。
【0121】
(その他のフィラー)
シリカおよびカーボンブラック以外のフィラーとしては、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、アルミナ、クレー、タルク等、従来からタイヤ工業において一般的に用いられているものを配合することができる。また、バイオ炭(BIO CHAR)を用いても良い。
【0122】
本開示において、ゴム成分100質量部に対するフィラーの合計含有量は、ピークグリップ性能の観点から、100質量部超であり、105質量部超が好ましく、110質量部超がより好ましく、120質量部以上がさらに好ましく、130質量部以上が特に好ましい。また、ゴム成分100質量部に対するフィラーの合計含有量の上限値は、本開示の効果の観点から、200質量部以下が好ましく、180質量部以下がより好ましく、150質量部以下がさらに好ましく、140質量部以下が特に好ましい。
【0123】
(シランカップリング剤)
シリカは、シランカップリング剤と併用することが好ましい。シランカップリング剤としては、特に限定されず、タイヤ工業において、従来からシリカと併用される任意のシランカップリング剤を使用することができるが、例えば、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2-メルカプトエチルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシラン等のメルカプト系シランカップリング剤;ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド等のスルフィド系シランカップリング剤;3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン、3-ヘキサノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン、3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリメトキシシラン等のチオエステル系シランカップリング剤;ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のビニル系シランカップリング剤;3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノ系シランカップリング剤;γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のグリシドキシ系シランカップリング剤;3-ニトロプロピルトリメトキシシラン、3-ニトロプロピルトリエトキシシラン等のニトロ系シランカップリング剤;3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシラン等のクロロ系シランカップリング剤;等が挙げられる。なかでも、スルフィド系シランカップリング剤を含有することが好ましい。シランカップリング剤としては、例えば、エボニックデグサ社等より市販されているものを使用することができる。これらのシランカップリング剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0124】
シランカップリング剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、シリカの分散性を高める観点から、1.0質量部超が好ましく、2.0質量部超がより好ましく、3.0質量部超がより好ましく、5.0質量部超がさらに好ましく、8.0質量部以上が特に好ましい。また、耐摩耗性能の低下を防止する観点からは、20質量部未満が好ましく、15質量部未満がより好ましく、12質量部未満がさらに好ましい。
【0125】
シランカップリング剤のシリカ100質量部に対する含有量は、シリカの分散性を高める観点から、2.0質量部超が好ましく、4.0質量部超がより好ましく、6.0質量部以上がさらに好ましい。また、コストおよび加工性の観点からは、25質量部未満が好ましく、20質量部未満がより好ましく、18質量部未満がさらに好ましい。
【0126】
<軟化剤>
本開示に係るゴム組成物は、軟化剤を含有することが好ましい。軟化剤としては、例えば、樹脂成分、オイル、液状ゴム、エステル系可塑剤等が挙げられる。なお、軟化剤にはオイル伸展、樹脂伸展、液状ゴム伸展を行ったゴム成分の伸展オイル、伸展樹脂、伸展液状ゴム成分なども含まれる。これらの軟化剤は石油由来のものであってもよく、バイオマス由来のものであってもよい。また、使用済みのタイヤや各種成分を含む製品を熱分解、抽出することにより得た、低分子量の炭化水素成分を軟化剤として用いても良い。
【0127】
(樹脂成分)
樹脂成分としては、特に限定されないが、タイヤ工業で慣用される石油樹脂、テルペン系樹脂、ロジン系樹脂、フェノール系樹脂等が挙げられる。これらの樹脂成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0128】
石油樹脂としては、C5系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、C5C9系石油樹脂等が挙げられ、本開示の効果の観点から、芳香族系石油樹脂が好ましい。
【0129】
本明細書において、「C5系石油樹脂」とは、C5留分を重合することにより得られる樹脂をいう。C5留分としては、例えば、シクロペンタジエン、ペンテン、ペンタジエン、イソプレン等の炭素数4~5個相当の石油留分が挙げられる。C5系石油樹脂しては、ジシクロペンタジエン樹脂(DCPD樹脂)が好適に用いられる。
【0130】
本明細書において「芳香族系石油樹脂」とは、C9留分を重合することにより得られる樹脂をいい、それらを水素添加したものや変性したものであってもよい。C9留分としては、例えば、ビニルトルエン、アルキルスチレン、インデン、メチルインデン等の炭素数8~10個相当の石油留分が挙げられる。芳香族系石油樹脂の具体例としては、例えば、
クマロンインデン樹脂、クマロン樹脂、インデン樹脂、および芳香族ビニル系樹脂が好適に用いられる。芳香族ビニル系樹脂としては、経済的で、加工しやすく、発熱性に優れているという理由から、α-メチルスチレンもしくはスチレンの単独重合体またはα-メチルスチレンとスチレンとの共重合体が好ましく、α-メチルスチレンとスチレンとの共重合体がより好ましい。芳香族ビニル系樹脂としては、例えば、クレイトン社、イーストマンケミカル社等より市販されているものを使用することができる。
【0131】
本明細書において「C5C9系石油樹脂」とは、前記C5留分と前記C9留分を共重合することにより得られる樹脂をいい、それらを水素添加したものや変性したものであってもよい。C5留分およびC9留分としては、前記の石油留分が挙げられる。C5C9系石油樹脂としては、例えば、東ソー(株)、LUHUA社等より市販されているものを使用することができる。
【0132】
テルペン系樹脂としては、ポリテルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、テルペンスチレン樹脂等が挙げられ、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、SBRに対して特に相溶性がよく、ゴム成分中に硫黄が分散しやすくなることから、テルペンスチレン樹脂が好ましい。
【0133】
本明細書において「ポリテルペン樹脂」とは、α-ピネン、β-ピネン、リモネン、ジペンテン等のテルペン化合物から選ばれる少なくとも1種を原料とする樹脂をいう。テルペンフェノール樹脂は、前記テルペン化合物およびフェノール系化合物を原料とする樹脂である。テルペンスチレン樹脂は、前記テルペン化合物およびスチレンを原料とする樹脂である。
【0134】
テルペン系樹脂は、水素添加処理を行った樹脂(例えば、水添ポリテルペン樹脂、水添テルペンスチレン樹脂)であってもよい。テルペン系樹脂への水素添加処理は、公知の方法で行うことができ、また市販の水添樹脂を使用することもできる。
【0135】
本開示では、テルペン系樹脂は市販品が用いられてもよい。このような市販品は、ヤスハラケミカル(株)等によって製造販売されるものが例示される。
【0136】
ロジン系樹脂としては、特に限定されないが、例えば天然樹脂ロジン、それを水素添加、不均化、二量化、エステル化等で変性したロジン変性樹脂等が挙げられる。
【0137】
フェノール系樹脂としては、特に限定されないが、フェノールホルムアルデヒド樹脂、アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂、アルキルフェノールアセチレン樹脂、オイル変性フェノールホルムアルデヒド樹脂等が挙げられる。
【0138】
樹脂成分の軟化点は、ピークグリップ性能の観点から、200℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましい。また、加工性の観点からは、70℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましい。なお、樹脂成分の軟化点は、前記測定方法により測定される。また、前記樹脂の軟化点は一般的にDSCにて測定される樹脂のガラス転移点よりも45℃±5℃程度高い値である。
【0139】
樹脂成分を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ピークグリップ性能の観点から、15質量部超が好ましく、20質量部超がより好ましく、25質量部超がさらに好ましく、30質量部超がさらに好ましく、35質量部以上が特に好ましい。また、加工性の観点からは、90質量部未満が好ましく、70質量部未満がより好ましく、60質量部未満がさらに好ましく、50質量部未満が特に好ましい。
【0140】
(オイル)
オイルとしては、例えば、プロセスオイル、植物油脂、動物油脂等が挙げられる。前記プロセスオイルとしてはパラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル等が挙げられる。また、環境対策で多環式芳香族(polycyclic aromatic compound:PCA)化合物の含量の低いプロセスオイルを使用することもできる。前記低PCA含量プロセスオイルとしては、軽度抽出溶媒和物(MES)、処理留出物芳香族系抽出物(TDAE)、重ナフテン系オイル等が挙げられる。前記オイルの他、ライフサイクルアセスメントの観点から、ゴム混合機やエンジンなどに用いられた後の使用済み潤滑油や、調理店で使用済みの廃食用油を適宜精製したものを用いても良い。
【0141】
オイルを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の観点から、5質量部超が好ましく、10質量部超がより好ましく、15質量部超がさらに好ましく、20質量部以上が特に好ましい。また、耐摩耗性能およびゴム硬度の観点からは、100質量部未満が好ましく、80質量部未満がより好ましく、60質量部未満がさらに好ましい。
【0142】
(液状ゴム)
本開示のゴム組成物は、液状ゴムを含有することが好ましい。液状ゴムは、常温(25℃)で液体状態のポリマーであれば特に限定されないが、例えば、液状ブタジエンゴム(液状BR)、液状スチレンブタジエンゴム(液状SBR)、液状イソプレンゴム(液状IR)、液状スチレンイソプレンゴム(液状SIR)、液状ファルネセンゴム等が挙げられる。これらの液状ゴムは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0143】
液状ゴムを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、1質量部超が好ましく、5質量部超がより好ましく、10質量部超がさらに好ましく、15質量部超がさらに好ましく、20質量部以上が特に好ましい。また、液状ゴムの含有量は、60質量部未満が好ましく、50質量部未満がより好ましく、40質量部未満がさらに好ましい。
【0144】
(エステル系可塑剤)
エステル系可塑剤としては、例えば、アジピン酸ジブチル(DBA)、アジピン酸ジイソブチル(DIBA)、アジピン酸ジオクチル(DOA)、アゼライン酸ジ2-エチルヘキシル(DOZ)、セバシン酸ジブチル(DBS)、アジピン酸ジイソノニル(DINA)、フタル酸ジエチル(DEP)、フタル酸ジオクチル(DOP)、フタル酸ジウンデシル(DUP)、フタル酸ジブチル(DBP)、セバシン酸ジオクチル(DOS)、リン酸トリブチル(TBP)、リン酸トリオクチル(TOP)、リン酸トリエチル(TEP)、リン酸トリメチル(TMP)、チミジントリリン酸(TTP)、リン酸トリクレシル(TCP)、リン酸トリキシレニル(TXP)等が挙げられ、なかでもセバシン酸ジオクチル(DOS)が好適に用いられる。これらのエステル系可塑剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0145】
エステル系可塑剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は本開示の効果の観点から、1質量部超が好ましく、3質量部超がより好ましく、5質量部以上がさらに好ましい。また、ピークグリップ性能の観点からは、50質量部未満が好ましく、40質量部未満がより好ましく、30質量部未満がさらに好ましい。
【0146】
樹脂成分およびエステル系可塑剤のゴム成分100質量部に対する合計含有量は、5質量部超が好ましく、10質量部超がより好ましく、14質量部超がさらに好ましく、19質量部超がさらに好ましく、24質量部超が特に好ましい。また、該含有量は、80質量部未満が好ましく、70質量部未満がより好ましく、60質量部未満がさらに好ましく、66質量部未満が特に好ましい。樹脂成分およびエステル系可塑剤の合計含有量を前記の範囲とすることにより、ピークグリップ性能を向上させることができる。
【0147】
軟化剤のゴム成分100質量部に対する含有量(複数の軟化剤を併用する場合は全ての合計量)は、ピークグリップ性能の観点から、40質量部超が好ましく、50質量部超がより好ましく、60質量部超がさらに好ましく、65質量部以上が特に好ましい。また、加工性の観点からは、140質量部未満が好ましく、120質量部未満がより好ましく、101質量部未満がさらに好ましく、91質量部未満が特に好ましい。
【0148】
<その他の配合剤>
本開示に係るゴム組成物には、前記成分以外にも、従来タイヤ工業で一般に使用される配合剤、例えば、ワックス、加工助剤、老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛、架橋剤、加硫促進剤等を適宜含有することができる。
【0149】
ワックスを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ゴムの耐候性の観点から、0.5質量部超が好ましく、1.0質量部超がより好ましく、1.5質量部超がさらに好ましい。また、ブルームによるタイヤの白色化防止の観点からは、10質量部未満が好ましく、7.0質量部未満がより好ましく、5.0質量部未満がさらに好ましい。
【0150】
老化防止剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、アミン系、キノリン系、キノン系、フェノール系、イミダゾール系の各化合物や、カルバミン酸金属塩等の老化防止剤が挙げられ、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N-イソプロピル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン、N-シクロヘキシル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン等のフェニレンジアミン系老化防止剤、および2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体、6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン等のキノリン系老化防止剤が好ましい。これらの老化防止剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0151】
老化防止剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ゴムの耐オゾンクラック性の観点から、0.5質量部超が好ましく、1.0質量部超がより好ましく、1.5質量部超がさらに好ましい。また、耐摩耗性能やウェットグリップ性能の観点からは、10質量部未満が好ましく、8.0質量部未満がより好ましく、5.0質量部未満がさらに好ましい。
【0152】
ステアリン酸を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の観点から、0.5質量部超が好ましく、1.0質量部超がより好ましく、1.5質量部超がさらに好ましい。また、加硫速度の観点からは、10質量部未満が好ましく、8.0質量部未満がより好ましく、5.0質量部未満がさらに好ましい。
【0153】
酸化亜鉛を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の観点から、0.5質量部超が好ましく、1.0質量部超がより好ましく、1.5質量部超がさらに好ましい。また、耐摩耗性能の観点からは、10質量部未満が好ましく、8.0質量部未満がより好ましく、5.0質量部未満がさらに好ましい。
【0154】
架橋剤としては硫黄が好適に用いられる。硫黄としては、粉末硫黄、油処理硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄等を用いることができる。
【0155】
硫黄を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、十分な加硫反応を確保する観点から、0.1質量部超が好ましく、0.3質量部超がより好ましく、0.5質量部以上がさらに好ましく、0.5質量部超が特に好ましい。また、劣化防止の観点からは、5.0質量部未満が好ましく、4.0質量部未満がより好ましく、3.0質量部未満がさらに好ましく、2.6質量部未満が特に好ましい。なお、架橋剤として、オイル含有硫黄を使用する場合の加硫剤の含有量は、オイル含有硫黄に含まれる純硫黄分の合計含有量とする。
【0156】
硫黄以外の架橋剤として、公知の有機架橋剤を用いることもできる。有機架橋剤を配合すると、硫黄による架橋に比べて架橋点間距離が長くなり、エネルギーロスを多く発生することが可能となり、良好なピークグリップ性能が得られる。
【0157】
有機架橋剤としては、ポリスルフィド結合以外の架橋鎖を形成できるものであれば特に限定されないが、例えば、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物、1,6-ヘキサメチレン-ジチオ硫酸ナトリウム・二水和物、1,6-ビス(N,N’-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサン、ジクミルパーオキサイド等が挙げられ、1,6-ビス(N,N’-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサンが好ましい。これらの有機架橋剤は、田岡化学工業(株)、ランクセス(株)、フレクシス社等より市販されているものを使用することができる。
【0158】
有機架橋剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、1質量部超が好ましく、2質量部超がより好ましく、3質量部超がさらに好ましい。また、該含有量は、10質量部未満が好ましく、8質量部未満がより好ましく、6質量部未満がさらに好ましい。
【0159】
加硫促進剤としては、例えば、スルフェンアミド系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤、カプロラクタムジスルフィド等が挙げられる。これら加硫促進剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、所望の効果がより好適に得られる点から、スルフェンアミド系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、およびグアニジン系加硫
ドからなる群から選ばれる1以上の加硫促進剤が好ましい。
【0160】
スルフェンアミド系加硫促進剤としては、例えば、N-t-ブチル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド(TBBS)、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(DCBS)等が挙げられる。なかでも、TBBSおよびCBSが好ましい。
【0161】
チアゾール系加硫促進剤としては、例えば、2-メルカプトベンゾチアゾール(MBT)またはその塩、ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド(MBTS)、2-(2,4-ジニトロフェニル)メルカプトベンゾチアゾール、2-(2,6-ジエチル-4-モルホリノチオ)ベンゾチアゾール等が挙げられる。なかでも、MBTSおよびMBTが好ましく、MBTSがより好ましい。
【0162】
チウラム系加硫促進剤としては、例えば、テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド(TOT-N)、テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド(TMTM)、ジペンタメチレンチウラムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド等が挙げられる。なかでも、TOT-NおよびTMTDが好ましく、TOT-Nがより好ましい。
【0163】
グアニジン系加硫促進剤としては、例えば、1,3-ジフェニルグアニジン(DPG)、1,3-ジ-o-トリルグアニジン、1-o-トリルビグアニド、ジカテコールボレートのジ-o-トリルグアニジン塩、1,3-ジ-o-クメニルグアニジン、1,3-ジ-o-ビフェニルグアニジン、1,3-ジ-o-クメニル-2-プロピオニルグアニジン等が挙げられる。なかでも、DPGが好ましい。
【0164】
ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤としては、例えば、ピペリジニウムペンタメチレンジチオカルバメート(PPDC)、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZnMDC)、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZnEDC)、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZnBDC)、ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛(ZDBzC)、N-エチル-N-フェニルジチオカルバミン酸亜鉛(ZnEPDC)、N-ペンタメチレンジチオカルバミン酸亜鉛(ZnPDC)、ジブチルジチオカルバミン酸ナトリウム(NaBDC)、ジメチルジチオカルバミン酸銅(CuMDC)、ジメチルジチオカルバミン酸鉄(FeMDC)、ジエチルジチオカルバミン酸テルル(TeEDC)等が挙げられる。なかでも、ZnBDCおよびZDBzCが好ましい。
【0165】
カプロラクタムジスルフィドとしては、例えば、N,N’-ジ(δ-カプロラクタム)ジスルフィド、N,N’-ジ(ε-カプロラクタム)ジスルフィド、N,N’-ジ(3-メチル-δ-カプロラクタム)ジスルフィド、N,N’-ジ(3-エチル-ε-カプロラクタム)ジスルフィド、N,N’-ジ(δ-メトキシ-ε-カプロラクタム)ジスルフィド、N,N‘-ジ(3-クロル-ε-カプロラクタム)ジスルフィド、N,N’-ジ(δ-ニトロ-ε-カプロラクタム)ジスルフィド、N,N’-ジ(3-アミノ-ε-カプロラクタム)ジスルフィド等が挙げられる。なかでも、N,N’-ジ(ε-カプロラクタム)ジスルフィドが好ましい。
【0166】
加硫促進剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量(複数の加硫促進剤を併用する場合は全ての合計量)は、2.0質量部超が好ましく、2.5質量部超がより好ましい。また、加硫促進剤のゴム成分100質量部に対する含有量は、10質量部未満が好ましく、7質量部未満がより好ましい。加硫促進剤の含有量を上記範囲内とすることにより、破壊強度および伸びが確保できる傾向がある。
【0167】
<製造>
本開示に係るゴム組成物は、公知の方法により製造することができる。例えば、前記の各成分をオープンロール、密閉式混練機(バンバリーミキサー、ニーダー等)等のゴム混練装置を用いて混練りすることにより製造できる。
【0168】
混練り工程は、例えば、加硫剤および加硫促進剤以外の配合剤および添加剤を混練りするベース練り工程と、ベース練り工程で得られた混練物に加硫剤および加硫促進剤を添加して混練りするファイナル練り(F練り)工程とを含んでなるものである。さらに、前記ベース練り工程は、所望により、複数の工程に分けることもできる。
【0169】
混練条件としては特に限定されるものではないが、例えば、ベース練り工程では、排出温度150~170℃で3~10分間混練りし、ファイナル練り工程では、70~110℃で1~5分間混練りする方法が挙げられる。加硫条件としては、特に限定されるものではなく、例えば、150~200℃で10~30分間加硫する方法が挙げられる。
【0170】
前記ゴム組成物から構成されるトレッドを備えた本開示のタイヤは、通常の方法により製造することができる。すなわち、ゴム成分に対して上記各成分を必要に応じて配合した未加硫のゴム組成物を、トレッドを構成する少なくとも1層のゴム層の形状にあわせて押出し加工し、タイヤ成型機上で他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、通常の方法にて成型することにより、未加硫タイヤを形成し、この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することにより、タイヤを製造することができる。加硫条件としては、特に限定されるものではなく、例えば、150~200℃で10~30分間加硫する方法が挙げられる。
【0171】
<用途>
本開示のタイヤは、乗用車用タイヤ、トラック・バス用タイヤ、二輪車用タイヤ等の汎用タイヤとすることも、競技用タイヤとすることもできる。なお、乗用車用タイヤとは、四輪で走行する自動車に装着されることを前提としたタイヤであり、その最大負荷能力が1000kg以下のものを指す。また、本開示のタイヤは、全シーズン用タイヤ、夏用タイヤ、スタッドレスタイヤ等の冬用タイヤに使用可能である。
【実施例0172】
以下では、実施をする際に好ましいと考えられる例(実施例)を示すが、本開示の範囲は実施例に限られない。
【0173】
以下に示す各種薬品を用いて、表1~4に従って得られるゴム組成物からなるトレッドを有するタイヤを想定し、下記評価方法に基づいて算出した結果を表1~4に示す。
【0174】
以下、実施例および比較例において用いる各種薬品をまとめて示す。
SBR1:旭化成(株)製のHP755(S-SBR、スチレン含量:39.5質量%、ビニル含量:38.2モル%、ゴム成分100重量部に対しオイル分37.5重量部含有)
SBR2:JSR(株)製のJSR1723(E-SBR、スチレン含量:24質量%、ビニル含量:17モル%、Mw:48万、ゴム成分100重量部に対しオイル分37.5重量部含有)
SBR3:JSR(株)製のHPR840(S-SBR、スチレン含量:10質量%、ビニル含量:42モル%、Mw:19万、非油展品)
NR:TSR20
BR:宇部興産(株)製のUBEPOL BR(登録商標)150B(シス含量:97モル%)
カーボンブラック1:東海カーボン(株)製のシースト9(N2SA:142m2/g、DBP吸油量:115mL/100g、平均一次粒子径:19nm)
カーボンブラック2:キャボットジャパン(株)製のショウブラックN330(N2SA:75m2/g、DBP吸油量:102mL/100g、平均一次粒子径:28nm)
シリカ1:シリカ1:エボニックデグサ社製のULTRASIL(登録商標)VN3(N2SA:175m2/g、平均一次粒子径:17nm)
シリカ2:エボニックデグサ社製のウルトラシル9100GR(N2SA:230m2/g、平均一次粒子径:15nm)
シランカップリング剤:エボニックデグサ社製のSi69(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)
樹脂成分1:クレイトン社製のSylvatraxx4401(α-メチルスチレンとスチレンとの共重合体、軟化点:85℃)
樹脂成分2:BASF社製のコレシン(p-t-ブチルフェノールアセチレン樹脂(p-t-ブチルフェノールとアセチレンの縮合樹脂)、軟化点:145℃)
エステル系可塑剤:大八木化学工業(株)製のDOS(ビス(2-エチルヘキシル)セバケート)
液状ゴム1:(株)クラレ製のL-SBR-820(液状SBR)
液状ゴム2:Cray VALLEY社製のRICON 134(液状BR)
オイル:H&R(株)製のVivaTec500(TDAEオイル)
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛2種
ステアリン酸:日油(株)製のビーズステアリン酸つばき
老化防止剤:住友化学(株)製のアンチゲン6C(N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン)
ワックス:大内新興化学工業(株)製のサンノックN
硫黄:軽井沢硫黄(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤1:大内新興化学工業(株)製のノクセラーDM-P(ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド)
加硫促進剤2:三新化学工業(株)のサンセラーNS-G(N-t-ブチル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド)
加硫促進剤3:住友化学(株)製のソクシノールDG(1,3-ジフェニルグアニジン)
【0175】
(実施例および比較例)
表1~表4に示す配合処方にしたがい、1.7Lの密閉型バンバリーミキサーを用いて、硫黄および加硫促進剤以外の薬品を排出温度150~160℃になるまで1~10分間混練りし、混練物を得る。次に、2軸オープンロールを用いて、得られた混練物に硫黄および加硫促進剤を添加し、4分間、105℃になるまで練り込み、未加硫ゴム組成物を得る。得られた未加硫ゴム組成物を、所定の形状の口金を備えた押し出し機で表1~4に示すランド比Rを有するトレッドの形状に合わせて押し出し成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせて未加硫タイヤを作製し、170℃の条件下で12分間プレス加硫することにより、各試験用タイヤ(表1および表2競技用タイヤでは、サイズ:205/65R15、リム:15×7.0JJ、内圧:230kPa、表3および表4乗用車用タイヤでは、サイズ:215/60R16、リム:16×6.5JJ、内圧:230kPa)を得る。
【0176】
表1および表2の競技用タイヤの試験用タイヤトレッド部には、ブロックおよびリセスを設け、ブロック体積とリセスの容積の比は0.14とする。
【0177】
<ゴム組成物のTg1の測定>
加硫後の各ゴム試験片を、各試験用タイヤのトレッド部から、タイヤ周方向が長辺、タイヤ半径方向が厚さ方向となるように、長さ20mm×幅4mm×厚さ1mmで切り出して作製する。GABO社製のイプレクサーシリーズを用い、周波数10Hz、初期歪10%、振幅±0.5%および昇温速度2℃/minの条件下で、tanδの温度分布曲線を測定する。そして、測定した温度分布曲線における最も大きいtanδ値に対応するtanδピーク温度を、アセトン抽出前のガラス転移点(Tg1)とする。
【0178】
<ゴム組成物のTg2の測定>
Tg1を測定した各ゴム試験片を72時間アセトンに浸漬し、可溶成分を抽出する。抽出後のゴム試験片について、GABO社製のイプレクサーシリーズを用い、周波数10Hz、初期歪10%、振幅±0.5%および昇温速度2℃/minの条件下で、tanδの温度分布曲線を測定する。そして、測定した温度分布曲線における最も大きいtanδ値に対応するtanδピーク温度を、アセトン抽出後のガラス転移点(Tg2)とする。
【0179】
<ゴム成分中の硫黄量Sの測定>
加硫後の各ゴム試験片を、各試験用タイヤのトレッド部から、タイヤ周方向が長辺、タイヤ半径方向が厚さ方向となるように、長さ20mm×幅4mm×厚さ1mmで切り出して作製する。JIS K 6233に準拠した酸素燃焼フラスコ法により、試験片中の硫黄量S(質量%)を算出する。
【0180】
<ゴム硬度の測定>
硬度測定用サンプルを、各試験用タイヤのトレッド部から、タイヤ周方向が長辺、タイヤ半径方向が厚さ方向となるように、長さ20mm×幅4mm×厚さ1mmで切り出し、作製する。硬度測定用サンプルについて、JIS K 6253に準拠して、タイプAデュロメータをトレッド部接地面側からサンプルに押し付けて、25℃におけるゴム硬度を測定する。
【0181】
<0℃tanδの測定>
加硫後の各ゴム試験片を、各試験用タイヤのトレッド部の各ゴム層から、タイヤ周方向が長辺、タイヤ半径方向が厚さ方向となるように、長さ20mm×幅4mm×厚さ1mmで切り出して作製する。各ゴム試験片について、GABO社製のイプレクサーシリーズを用いて、温度0℃、周波数10Hz、初期歪10%、動歪2.5%の条件下で、損失正接(tanδ)を測定する。
【0182】
<100℃tanδの測定>
加硫後の各ゴム試験片を、各試験用タイヤのトレッド部の各ゴム層から、タイヤ周方向が長辺、タイヤ半径方向が厚さ方向となるように、長さ20mm×幅4mm×厚さ1mmで切り出して作製する。各ゴム試験片について、GABO社製のイプレクサーシリーズを用いて、温度100℃、周波数10Hz、初期歪10%、動歪2.5%の条件下で、損失正接(tanδ)を測定する。
【0183】
<30℃tanδおよび30℃E*の測定>
加硫後の各ゴム試験片を、各試験用タイヤのトレッド部の各ゴム層から、タイヤ周方向が長辺、タイヤ半径方向が厚さ方向となるように、長さ20mm×幅4mm×厚さ1mmで切り出して作製する。各ゴム試験片について、GABO社製のイプレクサーシリーズを用いて、温度30℃、周波数10Hz、初期歪5%、動歪1%の条件下でtanδおよび複素弾性率(E*30)を測定する。
【0184】
<ピークグリップ性能>
試験用タイヤを国産FR車(2000cc)の全輪に装着し、ドライアスファルト路面のテストコースにて10周の実車走行を行う。その際における、ベストラップ時の操舵時のコントロールの安定性をテストドライバーが官能評価する。評価は1点~5点の整数値で行い、評点が高いほど操舵時のコントロールの安定性に優れる評価基準のもと、テストドライバー20名の合計点を算出する。基準比較例(表1および2では比較例1、表3および4では比較例10)の合計点を基準値(100)に換算し、各試験用タイヤの評価結果を合計点に比例するように指数化して表示する。数値が大きいほど、走行中のグリップ性能が高く、高速走行時のピークグリップ性能が良好に得られることを示す。
【0185】
【0186】
【0187】
【0188】
【0189】
<実施形態>
本開示の実施形態の例を以下に示す。
【0190】
〔1〕トレッド部を備えたタイヤであって、
前記トレッド部は、ゴム成分およびフィラーを含有するゴム組成物により構成され、
前記ゴム組成物がゴム成分100質量部に対しフィラーを100質量部超含有し、
前記ゴム組成物のアセトン抽出後のガラス転移温度Tg2(℃)が-45未満であり、
前記トレッド部の接地面におけるランド比をR(%)としたとき、Tg2およびRが下記式(1)を満たすタイヤ。
(10-1.25Tg2)/R>1.00・・・(1)
〔2〕前記ゴム組成物のアセトン抽出前のガラス転移温度Tg1(℃)が、-15以下である、上記〔1〕記載のタイヤ。
〔3〕前記ゴム組成物のゴム成分中の硫黄量S(質量%)が0.95以下である、上記〔1〕または〔2〕記載のタイヤ。
〔4〕前記ゴム組成物が、さらに液状ゴムを含有する、上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のタイヤ。
〔5〕Tg2(℃)が-60以下である、上記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のタイヤ。
〔6〕前記ゴム組成物が、ゴム成分100質量部に対して、カーボンブラックを5質量部超150質量部未満含有する、上記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のタイヤ。
〔7〕前記ゴム組成物が、平均一次粒子径18nm以下のシリカを含有する、上記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載のタイヤ。
〔8〕式(1)の右辺が1.10である、上記〔1〕~〔7〕のいずれかに記載のタイヤ。
〔9〕前記ゴム組成物のゴム硬度が、62超75未満である、上記〔1〕~〔8〕のいずれかに記載のタイヤ。
〔10〕前記ゴム組成物の0℃におけるtanδ(0℃tanδ)が0.40超である、上記〔1〕~〔9〕のいずれかに記載のタイヤ。
〔11〕前記ゴム組成物の30℃におけるtanδ(30℃tanδ)が0.20超である、上記〔1〕~〔10〕のいずれかに記載のタイヤ。
〔12〕前記ゴム組成物の30℃における複素弾性率(E*30)が30MPa未満である、上記〔1〕~〔11〕のいずれかに記載のタイヤ。
〔13〕前記ゴム組成物の100℃tanδとRとの積が5.0以上である、上記〔1〕~〔12〕のいずれかに記載のタイヤ。
〔14〕前記ゴム組成物が、平均一次粒子径16nm以下のシリカを含有する、上記〔1〕~〔13〕のいずれかに記載のタイヤ。
〔15〕前記ゴム組成物が、ゴム成分100質量部に対して、エステル系可塑剤を5質量部超含有する、上記〔1〕~〔14〕のいずれかに記載のタイヤ。
〔16〕前記ゴム組成物が、前記ゴム成分100質量部に対して、有機架橋剤を1質量部超含有する、上記〔1〕~〔15〕のいずれかに記載のタイヤ。
〔17〕前記ゴム組成物のTg2とSとの積が-50以下である、上記〔1〕~〔16〕のいずれかに記載のタイヤ。
〔18〕前記ゴム組成物が、さらに軟化点90℃以下の樹脂成分を含有する、上記〔1〕~〔17〕のいずれかに記載のタイヤ。
〔19〕競技用タイヤである上記〔1〕~〔18〕のいずれかに記載のタイヤ。