(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178847
(43)【公開日】2023-12-18
(54)【発明の名称】駆動力制御装置
(51)【国際特許分類】
B60L 3/00 20190101AFI20231211BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20231211BHJP
G01C 21/34 20060101ALI20231211BHJP
G08G 1/0968 20060101ALI20231211BHJP
B60W 50/038 20120101ALI20231211BHJP
B60W 30/10 20060101ALI20231211BHJP
B60W 40/06 20120101ALI20231211BHJP
【FI】
B60L3/00 H
B60L15/20 S
G01C21/34
G08G1/0968
B60W50/038
B60W30/10
B60W40/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022091790
(22)【出願日】2022-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】君田 和也
(72)【発明者】
【氏名】今井 正人
(72)【発明者】
【氏名】山崎 勝
【テーマコード(参考)】
2F129
3D241
5H125
5H181
【Fターム(参考)】
2F129AA03
2F129DD13
2F129DD15
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5H125AA01
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5H181CC12
5H181CC14
5H181FF12
5H181FF14
5H181FF22
5H181FF27
5H181FF32
(57)【要約】
【課題】駆動源の一部に異常が生じた場合であっても、確実に車両を目的地に到達させることが可能な駆動力制御装置を提供する。
【解決手段】駆動力制御装置は、複数の駆動源の異常を検出する異常検出部と、車両が一定時間後に走行する道路の状態を推定する外界推定部と、異常検出部により駆動源の異常が検出されている場合、目的地までの経路を構成する複数の道路区間の各々について、外界推定部の推定に基づいて当該道路区間の走行に必要な駆動力を1つの駆動源を除く複数の駆動源の各々について推定し、推定の結果に基づき当該道路区間の走行に必要な総駆動力を推定すると共に当該道路区間の走行時に高負荷が見込まれる高負荷駆動源を特定し、総駆動力が第1閾値より小さい場合には、当該道路区間の走行時における高負荷駆動源の駆動力が高負荷駆動源について推定した駆動力よりも小さくなるように複数の駆動源を制御する駆動力制御部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに独立して駆動力を発生させる複数の駆動源を有する車両の駆動力制御装置であって、
前記複数の駆動源の異常を検出する異常検出部と、
前記車両の現在地から目的地までの経路を通知する経路通知部と、
前記車両が一定時間後に走行する道路の状態を推定する外界推定部と、
前記異常検出部によりいずれか少なくとも1つの駆動源の異常が検出されている場合、前記目的地までの経路を構成する複数の道路区間の各々について、前記外界推定部の推定に基づいて当該道路区間の走行に必要な駆動力を異常が検出された前記駆動源を除く前記複数の駆動源の各々について推定し、前記推定の結果に基づき当該道路区間の走行に必要な総駆動力を推定すると共に異常が検出された前記駆動源を除く前記複数の駆動源から当該道路区間の走行時に高負荷が見込まれる高負荷駆動源を特定し、前記総駆動力が第1閾値より小さい場合には、当該道路区間の走行時における前記高負荷駆動源の駆動力が前記高負荷駆動源について推定した駆動力よりも小さくなるように前記複数の駆動源を制御する駆動力制御部と、
を備える駆動力制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の駆動力制御装置において、
前記駆動力制御部は、前記総駆動力が前記第1閾値より小さい場合には、前記道路区間の走行時における前記高負荷駆動源の駆動力が前記高負荷駆動源について推定した駆動力よりも小さくなるように、かつ、前記異常が検出された前記駆動源でも前記高負荷駆動源でもない他の駆動源の駆動力が当該駆動源について推定した駆動力よりも大きくなるように前記複数の駆動源を制御する駆動力制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の駆動力制御装置において、
前記駆動力制御部は、前記1つの駆動源の異常が検出されている場合、前記複数の駆動源と共に前記車両の転舵を制御する駆動力制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の駆動力制御装置において、
前記駆動力制御部は、前記1つの駆動源の異常が検出されている場合、前記車両における前記1つの駆動源の位置に応じて前記総駆動力を推定する駆動力制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の駆動力制御装置において、
前記駆動力制御部は、前記道路区間の形状に基づき前記総駆動力を推定する駆動力制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載の駆動力制御装置において、
前記経路通知部は、前記1つの駆動源の異常が検出されている場合に、前記複数の道路区間のいずれかにおいて推定された総駆動力が前記第1閾値よりも大きいと前記駆動力制御部により推定された場合には、前記複数の駆動源の各々において必要とされる駆動力がいずれも所定の閾値以下と推定される前記現在地から前記目的地までの新たな経路を通知する駆動力制御装置。
【請求項7】
請求項6に記載の駆動力制御装置において、
前記経路通知部は、前記新たな経路が存在しない場合、前記1つの駆動源を修復可能な場所を新しい目的地として通知する駆動力制御装置。
【請求項8】
請求項6に記載の駆動力制御装置において、
前記経路通知部は、前記新たな経路が存在しない場合、前記複数の駆動源の各々において必要とされる駆動力がいずれも所定の閾値以下と推定される経路で到達可能な、前記車両を安全に停止できる場所を新しい目的地として通知する駆動力制御装置。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の駆動力制御装置において、
前記駆動力制御部は、前記外界推定部により前記道路で渋滞が発生していると推定された場合、前記複数の駆動源を制御すると共に、当該制御による前記車両の旋回が抑止されるように前記車両の操舵を制御する駆動力制御装置。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか一項に記載の駆動力制御装置において、
前記経路通知部は、前記1つの駆動源の異常が検出されているときに前記車両が前記目的地までの経路を逸脱した場合、前記目的地までの新たな経路、前記1つの駆動源を修復可能な場所を目的地とする新たな経路、および、前記車両を安全に停止できる場所を目的地とする新たな経路のいずれかを通知する駆動力制御装置。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか一項に記載の駆動力制御装置において、
前記1つの駆動源の異常が検出されているときに前記車両の運転者によって第2閾値以上の駆動力を前記複数の駆動源のいずれかに発生させる操作が為された場合に、前記異常が検出されていることにより前記駆動力制御部が通常とは異なる制御を行っていることを前記運転者に通知する異常通知部を更に備え、
前記駆動力制御部は、前記操作により前記複数の駆動源において前記第2閾値以上の駆動力が発生することのないように前記複数の駆動源を制御する駆動力制御装置。
【請求項12】
請求項1~8のいずれか一項に記載の駆動力制御装置において、
前記駆動力制御部は、前記1つの駆動源の異常が検出されている場合に前記総駆動力が前記第1閾値より小さい場合には、前記道路区間の走行時における前記高負荷駆動源の駆動力が前記高負荷駆動源について推定した駆動力よりも小さくなるように前記複数の駆動源を制御して、前記車両の運転者の操作によらずに前記車両を前記目的地に到達させる駆動力制御装置。
【請求項13】
請求項1~8のいずれか一項に記載の駆動力制御装置において、
前記1つの駆動源において前記異常が検出された状態において、前記外界推定部により曲率および勾配が一定以下の道路が一定距離以上続くと推定された場合、当該道路の走行時に、前記複数の駆動源で発生させるべき駆動力のうち最大の駆動力を低減させることのできる操舵を行うよう前記車両の運転者に通知すると共に、当該道路の走行が終了する一定時間前に当該操舵を当該道路の走行前に戻すよう前記運転者に通知する操舵通知部を更に備える駆動力制御装置。
【請求項14】
請求項1~8のいずれか一項に記載の駆動力制御装置において、
前記駆動力制御部は、前記1つの駆動源において前記異常が検出された状態において、前記外界推定部により曲率および勾配が一定以下の道路が一定距離以上続くと推定された場合、当該道路の走行時に前記車両の運転者の操作によらず前記複数の駆動源および前記車両の操舵を制御すると共に、前記車両の運転者にその旨を通知する駆動力制御装置。
【請求項15】
請求項1~8のいずれか一項に記載の駆動力制御装置において、
前記車両の運転者による過去の運転操作履歴から前記運転者の運転傾向を抽出する運転傾向抽出部を更に備え、
前記駆動力制御部は、前記運転傾向抽出部により抽出された前記運転者の運転傾向に基づき前記総駆動力を推定する駆動力制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の電気モータのうちの一部に故障などの異常が発生した場合でも、他の正常な電気モータの駆動力を制御して走行を継続する駆動力制御装置が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の駆動力制御装置は、故障した電気モータの分の駆動力を補う他の電気モータに過負荷がかかってしまうと期待通りの駆動力が得られず、目的地に到達できないおそれがある。
【0005】
本発明は、駆動源の一部に異常が生じた場合であっても他の駆動源に過負荷がかかることがなく、より確実に車両を目的地に到達させることが可能な駆動力制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様による駆動力制御装置は、互いに独立して駆動力を発生させる複数の駆動源を有する車両の駆動力制御装置であって、前記複数の駆動源の異常を検出する異常検出部と、前記車両の現在地から目的地までの経路を通知する経路通知部と、前記車両が一定時間後に走行する道路の状態を推定する外界推定部と、前記異常検出部によりいずれか少なくとも1つの駆動源の異常が検出されている場合、前記目的地までの経路を構成する複数の道路区間の各々について、前記外界推定部の推定に基づいて当該道路区間の走行に必要な駆動力を異常が検出された前記駆動源を除く前記複数の駆動源の各々について推定し、前記推定の結果に基づき当該道路区間の走行に必要な総駆動力を推定すると共に異常が検出された前記駆動源を除く前記複数の駆動源から当該道路区間の走行時に高負荷が見込まれる高負荷駆動源を特定し、前記総駆動力が第1閾値より小さい場合には、当該道路区間の走行時における前記高負荷駆動源の駆動力が前記高負荷駆動源について推定した駆動力よりも小さくなるように前記複数の駆動源を制御する駆動力制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、駆動源の一部に異常が生じた場合であっても他の駆動源に過負荷がかかることがなく、より確実に車両を目的地に到達させることが可能な駆動力制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第1の実施の形態に係る駆動力制御装置を搭載した車両の構成を示す模式図である。
【
図2】
図2は、駆動力制御装置の処理全体を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、処理S202における駆動力の推定処理の例を示す模式図である。
【
図4】
図4は、処理S208および処理S209における制御計画の更新処理の例を示す模式図である。
【
図5】
図5は、処理S208および処理S209における制御計画の更新処理の変形例を示す模式図である。
【
図6】
図6は、処理S206における走行予定経路の更新処理の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1の実施の形態)
図1~
図6を参照して、本発明の実施形態に係る駆動力制御装置について説明する。
【0010】
図1は、第1の実施の形態に係る駆動力制御装置20を搭載した車両10の構成を示す模式図である。車両10の車体には、駆動力制御装置20、アクセルペダル40、ブレーキペダル50、ハンドル60A、転舵機構60B、および電気モータ70(左前70FL、右前70Fr、左後70RL、右後70Rr)が設けられている。これらの各部は、コントローラーエリアネットワーク90(以下、CAN90と称する)により相互に接続されている。車両10の車体には以上の各部に加えて、タイヤ80(左前80FL、右前80Fr、左後80RL、右後80Rr)も設けられている。駆動力制御装置20は、異常検出部100(左前100FL、右前100Fr、左後100RL、右後100Rr)、外界推定部110、経路通知部120、および駆動力制御部130を備える。なお、これ以外の構成部品や各機器への電源配線などについては通常の車両と同様であるが、第1の実施の形態の説明には不要であるため、図示および説明を省略する。
【0011】
車両左前のタイヤ80FLには電気モータ70FLが、車両右前のタイヤ80Frには電気モータ70Frが、車両左後のタイヤ80RLには電気モータ70RLが、車両右後のタイヤ80Rrには電気モータ70Rrがそれぞれ接続される。これら4つのタイヤ80FL、80Fr、80RL、80Rrをタイヤ80と総称する。同様に、これら4つの電気モータ70FL、70Fr、70RL、70Rrを電気モータ70と総称する。4つのタイヤ80には、各タイヤ80に設けられる電気モータ70によって、独立して駆動と制動のトルクが発生する。すなわち4つの電気モータ70は、互いに独立して駆動力を発生させる4つの駆動源である。駆動力制御装置20は、アクセルペダル40への入力を参照して各々の車輪の電気モータ70に駆動力を発生させることにより、車両10を駆動する。駆動力制御装置20は、車両10の走行状況等に応じて、電気モータ70が発生させる駆動力を調整することができる。
【0012】
駆動力制御装置20は、ハンドル60Aへの入力を参照して転舵機構60Bにより前輪を転舵することにより、車両10の進行方向を変更する。なお、本実施の形態に示す車両10は、ハンドル60Aと転舵機構60Bとの間を電線で接続する、いわゆるバイワイヤシステムとして構成される。駆動力制御装置20は、ブレーキペダル50への入力を参照して電気モータ70に制動力を発生させることにより、車両10を制動する。なお、電気モータ70だけでは制動力が不足する場合、摩擦ブレーキを使用あるいは併用するが、第1の実施の形態の説明には不要であるため、図示および説明を省略する。
【0013】
車両左前の電気モータ70FLには異常検出部100FLが、車両右前の電気モータ70Frには異常検出部100Frが、車両左後の電気モータ70RLには異常検出部100RLが、車両右後の電気モータ70Rrには異常検出部100Rrがそれぞれ接続される。これら4つの異常検出部100FL、100Fr、100RL、100Rrを異常検出部100と総称する。異常検出部100は、それぞれに接続されている電気モータ70に異常が発生したことを検出する。異常検出部100が検出する異常とは、例えば電気モータ70の故障や失陥であり、電気モータ70を駆動させることが一切できなくなってしまうような異常だけではなく、電気モータ70に本来の駆動力を発揮させることができなくなるような異常も含む。異常検出部100による電気モータ70の異常検出の方法については、周知の技術を用いることができる。例えば、異常検出部100は、電気モータ70の電機子コイルの抵抗値が予め定めた閾値よりも高くなった場合に、電気モータ7の異常の一つであるコイルの断線が発生していると判定する。
【0014】
外界推定部110は、車両10が一定時間後に走行する道路の状態を推定する。道路の状態とは、例えば当該道路の混雑状況や障害物の有無、道路形状や路面状況などである。道路の混雑状況や障害物の有無については、例えばソナーやレーダ、LiDAR等の各種センサによって計測してもよいし、車両10に搭載した車載カメラの画像に対して周知の画像処理手法により検知してもよい。道路形状については、例えばカーナビゲーション装置等で使用されている地図データの勾配や旋回についてのデータを用いたり、LiDAR等の各種センサにより計測してもよいし、車両10に搭載した車載カメラの画像に対して周知の画像処理手法を適用することにより推定してもよい。路面状況については、例えば車両10に搭載した車載カメラの画像に対して周知の画像処理手法を適用することにより推定してもよい。
【0015】
経路通知部120は、車両10の現在地から目的地までの経路を運転者に通知する。経路通知部120は、例えば不図示の記憶媒体に記憶されている道路データ等を用いて車両10の現在地から目的地までの経路を探索することができる。
【0016】
駆動力制御部130は、4つの電気モータ70でそれぞれ発生させるべき駆動力を決定し、電気モータ70を制御して決定した駆動力をそれぞれ電気モータ70で発生させる。駆動力制御部130は、異常検出部100によりいずれか少なくとも1つの電気モータ70の異常が検出されている場合、そのような異常が検出されていない場合とは異なる制御を行う。駆動力制御部130による制御の内容については後述する。
【0017】
なお、第1の実施の形態に係る車両10は、運転者がアクセルペダル40、ブレーキペダル50、およびハンドル60Aを操作することにより走行する車両であってもよいし、駆動力制御部130が予め設定された経路に従って運転者の指示によらず走行するいわゆる自動運転車両であってもよい。以下、車両10は運転者により操縦されるものとして説明を行う。
【0018】
次に、フローチャートを用いて駆動力制御装置20における駆動力の制御処理の流れを説明する。
【0019】
図2は、駆動力制御装置20の処理全体を示すフローチャートである。処理S201では、各異常検出部100が、各電気モータ70の故障や失陥等の異常を検出したか否かを判定する。各異常検出部100が異常を検出していない場合、処理S210に進み、駆動力制御部130は駆動力の制御計画の変更を行わず、車両10の走行を継続させる。いずれかの異常検出部100が故障や失陥等の異常を検出した場合、処理S201から処理S202に進む。
【0020】
処理S202では駆動力制御部130が、車両10の走行予定経路を構成する各道路区間の走行に際し、各電気モータ70で必要とされる駆動力を推定する。ここで走行予定経路とは、経路通知部120により故障や失陥が発生する前に設定されていた目的地までの経路である。つまり処理S202では、駆動力制御部130が、目的地までの経路を構成する複数の道路区間の各々について、当該道路区間の走行に各電気モータ70で必要な駆動力を推定する。駆動力の推定方法については後述する。
【0021】
続く処理S203では駆動力制御部130が、処理S202で推定した電気モータ70ごとの必要駆動力を用いて、各道路区間の走行に必要な総駆動力を推定する。総駆動力の推定方法については後述する。次の処理S204では駆動力制御部130が、処理S202で推定した電気モータ70ごとの必要駆動力を用いて、以後の走行で高負荷が見込まれる電気モータ70を特定する。ここで高負荷とは、負荷量(走行に必要な駆動力)が所定の閾値を超えることを意味する。以下の説明において、処理S203で使用される、高負荷が見込まれる電気モータ70を特定するための所定の閾値を、高負荷閾値と称する。また、処理S204で特定された電気モータ70を、高負荷電気モータ70と称する。高負荷電気モータ70は、異常や失陥等の故障が検出された電気モータ70とは別の電気モータ70である。高負荷電気モータ70について高負荷が見込まれるのは、特定の電気モータ70で故障や失陥等の異常が生じたことに起因するものである。
【0022】
次の処理S205では、駆動力制御部130が、走行予定経路に含まれるいずれかの道路区間において、処理S203で推定した総駆動力が所定の閾値以上になる場合があるか否かを判定する。以下の説明において、処理S205で使用される所定の閾値を、経路更新判定用閾値と称する。総駆動力がいずれかの道路区間において経路更新判定用閾値以上になると判定された場合は処理S206に進み、総駆動力がすべての道路区間において経路更新判定用閾値未満であると判定された場合は処理S208に進む。
【0023】
処理S206では経路通知部120が、いずれの道路区間においても各電気モータの負荷が高負荷閾値を超過しない経路に走行予定経路を更新する。続く処理S207では、駆動力制御部130が、走行予定経路を構成する各道路区間における各電気モータの駆動力の制御を計画する。その後、処理S210に進む。
【0024】
処理S208では駆動力制御部130が、走行予定経路を構成する各道路区間における高負荷電気モータ70の駆動力の制御を計画する。具体的には、駆動力制御部130は、当該道路区間の走行時における高負荷電気モータ70の駆動力が、処理S202で推定した高負荷電気モータ70の必要駆動力よりも小さくなるように駆動力の制御を計画する。処理S209では駆動力制御部130が、走行予定経路を構成する各道路区間における高負荷電気モータ70以外の電気モータ70の駆動力の制御を計画する。駆動力制御部130は、高負荷電気モータ70の駆動力を小さくする代わりに、他の異常が検出されていないいずれかの電気モータ70の駆動力が大きくなるように駆動力の制御を計画する。これにより、当該道路区間の走行時における高負荷電気モータ70の駆動力の減少が補われる。その後、処理S210に進む。処理S208および処理S209における駆動力の制御の計画については後述する。
【0025】
処理S210では駆動力制御部130が、計画した駆動力に従い電気モータ70を制御して車両10を走行させる。
【0026】
図3は、駆動力制御部130による駆動力の推定処理(処理S202)および総駆動力の推定処理(処理S203)の例を示す模式図である。
図3に示した例では、故障や失陥等の異常が検出された電気モータ70の位置と、走行する道路区間における曲線半径および勾配とを考慮して各電気モータ70の必要な駆動力(負荷)および総駆動力を推定している。本実施の形態に係る駆動力制御部130は、まず以下に説明する方法で4つの電気モータ70それぞれの駆動力を推定し、それらの駆動力を加算したものを総駆動力として扱う。すなわち駆動力制御部130は、目的地までの経路を構成する複数の道路区間の各々について、異常が検出された電気モータ70を除く各電気モータ70から外界推定部110の推定に基づいて当該道路区間の走行に必要な各電気モータ70の駆動力を推定し、その後、当該道路区間の走行に必要な総駆動力を推定する。
【0027】
図3には、左前の電気モータ70FLで失陥が発生した状態で、上り勾配のある右カーブの道路区間を走行する場合の例を示している。
図3に記載されている数字は、全ての電気モータ70が正常な場合に、直線かつ無勾配の道路を走行した際の各電気モータ70の駆動力を1として、各条件における各電気モータ70で必要と見込まれる駆動力の比率を表している。
【0028】
まず、左前の電気モータ70FLに失陥が発生した場合に、直線かつ無勾配の道路を走行する際の各電気モータ70の駆動力を検討する。左前の電気モータ70FLに失陥が発生した場合、操舵を伴わずに車両10の直進性を保ちつつ正常時と同様に走行するには、失陥した電気モータ70FLと左右が同じ側、すなわち左後に装着されている電気モータ70RLの駆動力を2に変更すればよい(
図3(a))。
【0029】
次に、全ての電気モータ70が正常な場合に、右カーブかつ無勾配の道路を走行する際の各電気モータ70の駆動力を検討する。この場合、カーブの内側である車両右側の電気モータ70Fr、70Rrに比べ、カーブ外側である車両左側の電気モータ70FL、70RLを多く回転させる必要がある。従って、右カーブを走行する際には車両左側の電気モータ70FL、70RLの駆動力の比率を、車両右側の電気モータ70Fr、70Rrに対して大きく設定する(
図3(b))。左カーブの場合はその逆になる。
【0030】
なお、
図3(b)に示した右カーブにおける必要駆動力の比率の値は一例である。道路区間における必要駆動力は道路区間の曲線半径等に影響されるため、各道路区間における曲線半径に応じた各電気モータ70の必要駆動力の比率は、外界推定部110により推定された道路形状により決定するのが望ましい。例えば、推定された道路形状の曲線半径が小さい(換言すると曲率が大きい、車両10の旋回半径が小さい)ほどカーブ外側の電気モータ70の駆動力の比率を大きく、カーブ内側の電気モータ70の駆動力の比率を小さくすればよい。
【0031】
次に、全ての電気モータ70が正常な場合に、直線かつ上り勾配の道路を走行する際の各電気モータ70の駆動力を検討する。この場合、勾配の下方にあたる後輪の電気モータ70RL、70Rrの方が勾配の上方にあたる前輪の電気モータ70FL、70Frに比べて負荷がかかることが見込まれる。従って、上り勾配の道路を走行する際には車両後側の電気モータ70RL、70Rrの駆動力の比率を、車両前側の電気モータ70RL、70Rrに対して大きく設定する(
図3(c))。下り勾配の場合はその逆になる。
【0032】
なお、
図3(c)に示した勾配による必要駆動力の比率の値は一例である。道路区間における必要駆動力は道路区間の勾配の大きさに影響されるため、各道路区間における勾配に応じた各電気モータ70の必要駆動力の比率は、外界推定部110により推定された道路形状により決定するのが望ましい。例えば、推定された勾配が大きいほど駆動力の比率を大きくすればよい。
【0033】
図3に示すように、駆動力制御部130は、失陥した電気モータ70の位置、道路区間の曲線半径(または道路区間の曲率、車両10の旋回半径など)、および道路区間の勾配のそれぞれに応じて決定された各電気モータ70に必要と見込まれる駆動力の比率を、電気モータ70ごとに乗算した値を当該道路区間における各電気モータの必要駆動力と推定する。具体的には、
図3(d)に示すように、駆動力制御部130は、左前側の電気モータ70Fの必要駆動力Lを0、右前側の電気モータ70Frの必要駆動力を0.9、左後側の電気モータ70RLの必要駆動力を2.64、右後側の電気モータ70Rrの必要駆動力を1.08と推定する。
【0034】
駆動力制御部130は、以上のようにして推定した電気モータ70ごとの必要駆動力を加算して、その道路区間の総駆動力を推定する。例えば
図3(d)に示す例では、推定対象とされる道路区間の総駆動力は、0.9+2.64+1.08=4.62である。
【0035】
駆動力制御部130による高負荷電気モータの特定処理(処理S204)について説明する。駆動力制御部130は、上述のようにして推定した電気モータ70ごとの必要駆動力(
図3(d))と高負荷閾値とを比較し、必要駆動力が高負荷閾値以上となる電気モータ70を、高負荷が見込まれる電気モータ70(すなわち高負荷電気モータ)として特定する。例えば高負荷閾値を2.5とすると、
図3(d)に示した例では左後側の電気モータ70RLの必要駆動力が2.5以上である2.64になっている。この場合、駆動力制御部130は、左後側の電気モータ70RLを高負荷電気モータとして特定する。
【0036】
図4は、駆動力制御部130による電気モータ70の駆動力制御計画の更新処理(処理S208および処理S209)の例を示す模式図である。
図4(a)に、更新前の制御計画における各電気モータ70の駆動力の比率を示す。
図4(a)に示す数値は、電気モータ70FLで異常が検出されていないときに計画したものであるため、実際には適用することができない。駆動制御部130は、高負荷電気モータ70RLの駆動力を、高負荷閾値未満の値になるように設定する。
図4(b)の例では、高負荷閾値の2.5よりも小さい2.4という駆動力の比率が高負荷電気モータ70RLに設定されている。
【0037】
駆動力制御部130は、高負荷電気モータ70RLでも異常が検出された電気モータ70FLでもない他の電気モータ70Fr、70Rrの駆動力を計画する際、まず
図2の処理S202で推定された必要駆動力を候補の値として採用する。次に駆動力制御部130は、処理S202で推定された必要駆動力よりも高負荷電気モータ70RLの計画駆動力を前述のように低下させた分、他の電気モータ70Fr、70Rrの(少なくとも1つの)駆動力を引き上げて、車両10全体で必要な駆動力が達成されるようにする。
図4(b)の例では、電気モータ70Frの駆動力を
図3(d)に示す推定した0.9という駆動力よりも引き上げて1.04に設定している。同様に、電気モータ70Rrの駆動力を
図3(d)に示す推定した1.08という駆動力よりも引き上げて1.18に設定している。
【0038】
経路通知部120による走行予定経路の更新処理(処理S206)について説明する。現在地から目的地への経路は、例えば各道路区間に対して重みを設定し、経路を構成する道路区間の重みの総和が最小となる経路を採用することにより決定できる。経路通知部120は、電気モータ70の一部に異常が発生した状態であっても目的地に到達できるよう、道路区間の重みとして一般的に用いられる道路区間の長さや制限速度、旋回や勾配の大小等の他に、前述の処理S202で推定した必要駆動力を重みに含めて、例えばダイクストラ法のような経路探索アルゴリズムを用いることにより、新たな走行予定経路を探索する。ここで重みに含める必要駆動力とは、例えば各道路区間における高負荷電気モータ70の必要駆動力であってもよいし、各道路区間における総駆動力であってもよい。総駆動力を重みにすることで、車両10全体のエネルギー効率を向上することができ、バッテリー切れ等を防止することができる。また、走行予定経路を構成するすべての道路区間において、すべての電気モータ70の必要駆動力が一定以下(所定の閾値以下)となるように走行予定経路を探索してもよい。なお、走行予定経路が更新されたことを例えばメッセージ表示や音声等により運転者に通知することが望ましい。
【0039】
推定された総駆動力が経路変更判定用閾値よりも小さい場合とはすなわち、すなわちその道路区間をあまり駆動力を発生させずに走行することができるということである。例えば勾配が小さく、かつ曲線半径が大きい(曲率が小さい、車両10の旋回半径が大きい)道路区間では、総駆動力が比較的小さくなるので、総駆動力が経路更新判定用閾値未満である可能性が高くなる。逆に、勾配が大きい、あるいは曲線半径が小さい(曲率が大きい、車両10の旋回半径が小さい)道路区間では、総駆動力が比較的大きくなるので、総駆動力が経路更新判定用閾値以上である可能性が高くなる。
【0040】
推定された総駆動力が経路変更判定用閾値よりも小さい場合、高負荷電気モータ70の駆動力を抑制する分、他の正常な電気モータ70の駆動力を引き上げることで総駆動力を達成することができる。これに対し、推定された総駆動力が経路変更判定用閾値以上である場合、高負荷電気モータ70の駆動力を抑制してしまうと他の正常な電気モータ70だけでは総駆動力を達成することが困難な場合である。つまり、高負荷電気モータ70の駆動力を抑制すると必要な総駆動力を達成するためにその分他の電気モータ70の駆動力を引き上げる必要があるが、引き上げなければならない量が過大になりすぎると、今度は他の電気モータ70の駆動力が高負荷閾値を超えてしまうおそれがある。そこで本実施の形態では、総駆動力が経路変更判定用閾値以上である場合には経路自体を変更することで、すべての電気モータ70の駆動力が高負荷閾値を下回るように制御を行う。
【0041】
なお、勾配が小さく、かつ曲線半径が大きい(曲率が小さい、車両10の旋回半径が大きい)道路区間において、正常な他の電気モータ70の駆動力に余裕があるなら、高負荷電気モータ70の駆動力をより低下させるような制御を行ってもよい。
【0042】
図5は、高負荷電気モータ70の駆動力をより一層低下させる例を示す模式図である。
図5に記載されている数字は、
図3と同様に、各電気モータ70で必要と見込まれる駆動力の比率を表している。
図5(a)は更新前の制御計画における駆動力の最大値を、
図5(b)は更新後の制御計画における駆動力の最大値をそれぞれ例示している。更新前は左後側の高負荷電気モータ70RLの必要駆動力の最大値が2.05であるのに対し、更新後は左後側の高負荷電気モータ70RLの必要駆動力の最大値が1.9に低下していることがわかる。また、右前側の電気モータ70Frおよび右後側の電気モータ70Rrについては逆に必要駆動力の最大値が0.95から1.05に、1.05から1.15にそれぞれ向上していることがわかる。したがって、更新後の制御計画では、高負荷電気モータ70RLの駆動力(負荷)がより低くなり、発熱もより低くなる。その分低下した駆動力は、他の電気モータ70Fr、70Rrの駆動力が上昇することにより補われている。
【0043】
高負荷電気モータ70は、その他の電気モータ70に比較して高駆動力を必要され、かつ稼働時間が長いと見込まれるため、全ての電気モータ70が正常に動作している場合に比べて故障リスクが高い。そのため、上記のように、元々走行するために必要な駆動力が小さい道路区間では、車両10の走行安定性を保った上で駆動力が小さくなるよう制御を計画することで、更に故障リスクの低減を図ることができる。なお、
図5に例示したように制御計画を変更した場合、変更により発生する車両10の旋回をハンドル60Aの操作(転舵機構60Bの動作)により相殺することにより、車両10の直進性を保ったまま、高負荷電気モータ70の駆動力を抑制し、過度な過熱を防ぐことができる。処理S208および処理S209で制御計画を更新した際、駆動力制御部130がそのようなハンドル60Aの制御を行うようにしてもよい。
【0044】
図6は、処理S206における走行予定経路の更新処理の例を示す模式図である。
図6に記載されている数字は、
図3と同様に、各電気モータ70で必要と見込まれる駆動力の比率を表している。
図6(a)は更新前の走行予定経路における必要駆動力の最大値を、
図6(b)は更新後の走行予定経路における必要駆動力の最大値をそれぞれ例示している。更新前は高負荷電気モータ70RLの必要駆動力の最大値が2.75であり、高負荷閾値の2.5を超えている。これに対して、更新後は高負荷電気モータ70RLの必要駆動力の最大値が高負荷閾値を下回る2.45に低下していることがわかる。また、他の電気モータ70についても必要駆動力の最大値が高負荷閾値を下回っている。したがって、新しい走行予定経路であれば、すべての電気モータ70において過大な負荷がかかることなく走行することができ、高温に達して走行に支障をきたす電気モータ70は存在しないことになる。
【0045】
上述した実施形態によれば、次の作用効果を奏する。
【0046】
(1)駆動力制御部130は、異常検出部100によりいずれか少なくとも1つの電気モータ70の異常が検出されている場合、目的地までの経路を構成する複数の道路区間の各々について、外界推定部110の推定に基づいて当該道路区間の走行に必要な駆動力を推定する。その後、駆動力制御部130は、推定した駆動力に基づいて総駆動力を推定すると共に異常が検出された電気モータ70を除く複数の電気モータ70から当該道路区間の走行時に高負荷が見込まれる高負荷電気モータを特定する。そして、総駆動力が経路更新判定用閾値(第1閾値)より小さい場合には、当該道路区間の走行時における高負荷電気モータの駆動力が推定した駆動力よりも小さくなるように複数の電気モータ70を制御する。したがって、電気モータ70の一部に故障や失陥等の異常が発生した場合であっても、高負荷となることが見込まれる電気モータ70の温度を過度に上昇させてしまうことがない。つまり、本実施形態によれば、駆動源の一部に異常が生じた場合であっても他の駆動源に過負荷がかかることがなく走行を継続し、より確実に車両を目的地に到達させることができる。
【0047】
(2)駆動力制御部130は、いずれか少なくとも1つの電気モータ70の異常が検出されている場合、各道路区間の走行時における高負荷電気モータ70の駆動力が推定した駆動力よりも小さくなるように、かつ、異常が検出されている電気モータ70および高負荷電気モータ70を除く他の電気モータ70のうち少なくとも1つの駆動力が推定した駆動力よりも大きくなるように複数の電気モータ70を制御する。このようにしたので、電気モータ70の一部に故障や失陥等の異常が発生した場合であっても、高負荷となることが見込まれる電気モータ70の温度を低下させつつ、走行に必要な総駆動力を達成することができ、より確実に目的地までの走行を継続できる。
【0048】
(3)駆動力制御部130は、いずれか少なくとも1つの電気モータ70の異常が検出されている場合、車両10におけるその電気モータ70の位置に応じて総駆動力を推定する。このようにしたので、総駆動力や電気モータ70ごとの必要駆動力を正確に推定することができる。
【0049】
(4)駆動力制御部130は、道路区間の形状に基づき総駆動力を推定する。このようにしたので、より正確に総駆動力や電気モータ70ごとの必要駆動力を推定することができる。
【0050】
(5)経路通知部120は、いずれか少なくとも1つの電気モータ70の異常が検出されている場合に、複数の道路区間のいずれかにおいて推定された総駆動力が経路更新判定用閾値よりも大きいと駆動力制御部130により推定された場合には、複数の電気モータ70の各々において必要とされる駆動力がいずれも高負荷閾値以下と推定される現在地から目的地までの新たな経路を通知する。このようにしたので、大きな総駆動力が必要とされる道路区間の走行を回避することができ、より確実に目的地までの走行を継続できる。
【0051】
(第2の実施の形態)
本発明の第2実施形態に係る駆動力制御装置20について説明する。なお、第1実施形態で説明した構成と同一もしくは相当する構成には同一の参照記号を付し、相違点を主に説明する。
【0052】
本実施の形態に係る駆動力制御部130は、道路区間の渋滞を考慮した駆動力の制御を行う。これは、
図2の処理S202で推定した各道路区間における各電気モータ70の必要駆動力に対し、各道路区間における混雑状況等により実際に必要な駆動力が異なる場合があるためである。例えば、処理S202で推定した各道路区間における各電気モータ70の必要駆動力に応じて走行中に渋滞が生じていると、道路が混雑していない場合に比べて走行に必要な駆動力が小さくなる。そこで、本実施の形態に係る駆動力制御部130は、外界推定部110によって渋滞が生じていると推定された道路区間の走行時に、処理S203で高負荷が見込まれると特定した高負荷電気モータ70の駆動力を第1の実施の形態に係る駆動力制御部130よりも低下させる。駆動力制御部130は更に、ハンドル60Aによる操舵(または転舵機構60Bによる転舵)をも制御することで、高負荷電気モータ70の駆動力を低下させたことによって車両10の走行が不安定にならないようにする。具体的には、高負荷電気モータ70の駆動力を低下させたことによって車両10が高負荷電気モータ70の位置する方向に旋回しそうになる場合、車両10の旋回が抑止されるよう、逆の旋回方向に向けて車両10の操舵を制御する。
【0053】
上述した第2の実施形態によれば、第1の実施の形態が奏する作用効果に加えて、さらに次の作用効果を奏する。
【0054】
(1)駆動力制御部130は、外界推定部110により道路で渋滞が発生していると推定された場合、複数の電気モータ70を制御すると共に、当該制御による車両10の旋回が抑止されるように車両10の操舵を制御する。このようにしたので、渋滞発生時に高負荷電気モータ70の負荷および発熱を効果的に低減させることができる。
【0055】
(第3の実施の形態)
本発明の第3実施形態に係る駆動力制御装置20について説明する。なお、第2実施形態で説明した構成と同一もしくは相当する構成には同一の参照記号を付し、相違点を主に説明する。
【0056】
本実施の形態に係る駆動力制御部130は、第2の実施の形態に係る駆動力制御部130と同様に、道路区間の渋滞を考慮した駆動力の制御を行う。運転者が車両10を運転している場合、
図2の処理S206で探索した走行予定経路を逸脱して走行する場合がある。この場合、本実施の形態に係る経路通知部120は走行予定経路からの逸脱を検知した地点を新しい出発地として目的地までの走行予定経路を処理S205により探索する。駆動力制御部130は、処理S207により走行予定経路上の各道路区間における各電気モータ70の駆動力を再計画する。
【0057】
また、運転者が車両10を運転している場合、処理S207で計画した各道路区間における各電気モータ70の必要駆動力よりも大きな駆動力を発生させようとすることがある。例えば、走行中の道路区間が混雑していない場合、運転者はアクセルペダル40を駆動力制御部130が想定しているよりも大きく踏み込んで車両10を加速させようとするかもしれない。いずれかの電気モータ70に故障や失陥等の異常が生じているときにそのような加速がなされると、処理S203で高負荷が見込まれると特定した高負荷電気モータに駆動力制御部130の想定よりも大きな負荷がかかってしまう。その結果、高負荷電気モータに大きな発熱が生じ、期待される駆動力を発生できなくなってしまうので、目的地へ到達できなくなるおそれがある。
【0058】
そこで、本実施の形態に係る駆動力制御部130は、異常検出部100により電気モータ70の異常が検出されているときに運転者によって高負荷閾値以上の駆動力を電気モータ70のいずれかに発生させるようなアクセルペダル40の操作が為された場合に、電気モータ70の故障や失陥等の異常が検出されているために駆動力制御部130が通常とは異なる制御を行っていることを運転者に通知する。通知は、例えば不図示のディスプレイ装置に「モータ異常により加速を制限しています」等のメッセージを表示することにより行ってもよいし、不図示のスピーカ装置からメッセージの音声を再生することにより行ってもよい。駆動力制御部130は、そのような運転者への通知を行うと共に、上述したアクセルペダル40の操作により電気モータ70において高負荷閾値以上の駆動力が発生することのないように電気モータ70を制御する。
【0059】
上述した第3の実施形態によれば、第1の実施の形態が奏する作用効果に加えて、さらに次の作用効果を奏する。
【0060】
(1)経路通知部120は、いずれか少なくとも1つの電気モータ70の異常が検出されているときに車両10が目的地までの経路を逸脱した場合、目的地までの新たな経路を通知する。このようにしたので、経路逸脱時にも確実に目的地に到達することができる。
【0061】
(2)駆動力制御部130は、いずれか少なくとも1つの電気モータ70の異常が検出されているときに車両10の運転者によって高負荷閾値(第2閾値)以上の駆動力を複数の電気モータ70のいずれかに発生させる操作が為された場合に、異常が検出されていることにより駆動力制御部130が通常とは異なる制御を行っていることを運転者に通知する異常通知部として機能する。駆動力制御部130は、そのような操作により複数の電気モータ70において高負荷閾値(第2閾値)以上の駆動力が発生することのないように複数の電気モータ70を制御する。このようにしたので、運転者による加速時にも過剰な負荷や発熱が生じず、確実に目的地に到達することができる。
【0062】
(第4の実施の形態)
本発明の第4実施形態に係る駆動力制御装置20について説明する。なお、第1実施形態で説明した構成と同一もしくは相当する構成には同一の参照記号を付し、相違点を主に説明する。
【0063】
本実施の形態に係る駆動力制御部130は、車両10の電気モータ70のいずれかにおいて故障や失陥等の異常が検出されている状態で走行中、曲率と勾配が所定の閾値よりも小さい道路区間が一定距離以上続く場合に、前述の各実施形態とは異なる制御を行う。具体的には、そのような場合にはまず高負荷電気モータ70の冷却のために運転者へ操舵を促す。例えば「ハンドルを右に切ってください」のようなメッセージを不図示のディスプレイ装置に表示したり、不図示のスピーカ装置から音声を再生したりする。運転者がこの通知に従って操舵を行うと、駆動力制御部130はその操舵に合わせて高負荷電気モータ70の冷却が促されるように各電気モータ70の駆動力を下げる制御を行う。駆動力制御部130は当該道路区間の走行が終わる一定時間以上前に、同様に運転者へ操舵を元に戻すよう促す。運転者が通知に従って操舵を元に戻すと、駆動力制御部130は急旋回を回避して各電気モータ70の駆動力の制御を元に戻す。
【0064】
なお、運転者に操舵を促す代わりに、自動で操舵と電気モータ70の駆動力の制御を行うかを運転者に確認するようにしてもよい。運転者がそのような制御の実行を許可すると、駆動力制御部130は車両10の直進性を維持した状態で高負荷電気モータ70の駆動力を低下させ、他の電気モータ70の駆動力と操舵を自動的に制御する。駆動力制御部130は当該道路区間の走行が終わる一定時間以上前に自動制御が終了する旨を運転者へ通知し、運転者による通常の操作に戻すようにしてもよい。
【0065】
上述した第4の実施形態によれば、第1の実施の形態が奏する作用効果に加えて、さらに次の作用効果を奏する。
【0066】
(1)駆動力制御部130は、いずれか少なくとも1つの電気モータ70の異常が検出されている場合、複数の電気モータ70と共に車両10の転舵を制御する。このようにしたので、高負荷電気モータ70の負荷や発熱をより効果的に低減することができ、車両の信頼性を高めることができる。
【0067】
(2)駆動力制御部130は、いずれか少なくとも1つの電気モータ70の異常が検出されている場合に総駆動力が経路更新判定用閾値より小さい場合には、道路区間の走行時における高負荷電気モータ70の駆動力が高負荷電気モータ70について推定した駆動力よりも小さくなるように複数の電気モータ70を制御して、車両10の運転者の操作によらずに車両10を目的地に到達させる。このようにしたので、運転者を煩わせることなく、確実に車両を目的地に到達させることができる。
【0068】
(3)駆動力制御部130は、いずれか少なくとも1つの電気モータ70において異常が検出された状態において、外界推定部110により曲率および勾配が一定以下の道路が一定距離以上続くと推定された場合、当該道路の走行時に、複数の電気モータ70で発生させるべき駆動力のうち最大の駆動力を低減させることのできる操舵を行うよう車両10の運転者に通知すると共に、当該道路の走行が終了する一定時間前に当該操舵を当該道路の走行前に戻すよう運転者に通知する操舵通知部として機能する。このようにしたので、急旋回を回避しつつ高負荷電気モータ70の負荷や発熱をより効果的に低減することができ、車両の信頼性を高めることができる。
【0069】
(4)駆動力制御部130は、いずれか少なくとも1つの電気モータ70において前記異常が検出された状態において、外界推定部110により旋回および勾配が一定以下の道路が一定距離以上続くと推定された場合、当該道路の走行時に車両10の運転者の操作によらず複数の電気モータ70および車両10の操舵を制御すると共に、車両10の運転者にその旨を通知する。このようにしたので、運転者を煩わせることなく、確実に車両を目的地に到達させることができる。
【0070】
次のような変形例も本発明の範囲内であり、変形例に示す構成と上述の実施形態で説明した構成を組み合わせたり、上述の異なる実施形態で説明した構成同士を組み合わせたり、以下の異なる変形例で説明する構成同士を組み合わせることも可能である。
【0071】
<変形例1>
駆動力制御装置20は、運転者の運転傾向を抽出する運転抽出部としての機能を更に備えていてもよい。上記実施形態では、高負荷が見込まれる電気モータ70の特定に、異常が検出された電気モータ70の位置、道路区間の曲率、勾配による各電気モータ70に必要と見込まれる駆動力の比率を用いたが、例えば運転者の過去の運転履歴から急加速、急減速、急旋回等の運転操作の傾向を抽出する運転傾向抽出部を更に設け、運転傾向抽出部により抽出された運転操作の傾向を各道路区間の形状に対応させて設定した、各電気モータ70に必要と見込まれる駆動力の比率を用いてもよい。このようにすることで、運転者の特性に合わせた、より柔軟な制御を行うことができる。
【0072】
<変形例2>
処理S206における走行予定経路上の再探索処理で、走行予定経路上の道路区間において必要と見込まれる駆動力が所定の閾値を超えない経路が見つからない場合、電気モータ70が故障または失陥した状態で目的地へ到達する事が困難であることを運転者へ通知し、経路上の道路区間において複数の電気モータ70の各々に必要と見込まれる駆動力がいずれも所定の閾値(例えば高負荷閾値)以下と推定される経路により到達可能で、かつ最寄りのディーラー等の電気モータ70の異常を修理可能な場所へ目的地を変更するよう促してもよい。さらに、ディーラー等へも経路上の道路区間において複数の電気モータ70の各々に必要と見込まれる駆動力がいずれも所定の閾値を超えない経路により到達困難な場合は、目的地だけでなくディーラー等の修理可能な場所へも到達困難である事を運転者へ通知し、到達可能な安全に停止できる場所へ目的地の変更を促してもよい。安全に停止できる場所とは、例えば十分な道幅を有する路側帯や非常駐車帯、待避所などを含む。安全に停止できる場所は、例えば外界推定部110がカメラ情報等により特定してもよいし、経路通知部120が地図情報等により特定してもよい。このようにすることで、経路が見つからないような状況であっても車両および運転者を確実に安全な状況にすることができる。
【0073】
上記の駆動力制御装置20に係る各構成や当該各構成の機能及び実行処理等は、それらの一部又は全部をハードウェア(例えば各機能を実行するロジックを集積回路で設計する等)で実現しても良い。また、上記の駆動力制御装置20に係る構成は、演算処理装置(例えばCPU)によって読み出し・実行されることで駆動力制御装置20の構成に係る各機能が実現されるプログラム(ソフトウェア)としてもよい。当該プログラムに係る情報は、例えば、半導体メモリ(フラッシュメモリ、SSD等)、磁気記憶装置(ハードディスクドライブ等)及び記録媒体(磁気ディスク、光ディスク等)等に記憶することができる。
【0074】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0075】
10…車両、20…駆動力制御装置(異常検出部、外界推定部、経路通知部、駆動力制御部、異常通知部、運転傾向抽出部)、40…アクセルペダル、50…ブレーキペダル、60…ハンドル、60B…転舵機構、70、70FL、70Fr、70RL、70Rr…電気モータ、80、80FL、80Fr、80RL、80Rr…タイヤ、90…コントローラーエリアネットワーク、100、100FL、100Fr、100RL、100Rr…異常検出部、110…外界推定部、120…経路通知部、130…駆動力制御部