(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178863
(43)【公開日】2023-12-18
(54)【発明の名称】心理状態誘導装置及び心理状態誘導方法
(51)【国際特許分類】
A61M 21/02 20060101AFI20231211BHJP
【FI】
A61M21/02 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022091819
(22)【出願日】2022-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100106149
【弁理士】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】野田 早織
(57)【要約】
【課題】連続的な刺激の変化によって運転者の呼吸のタイミングを誘導する場合に、呼気と吸気との切り替えのタイミングを、運転者がより予測しやすくなる。
【解決手段】運転者の心理状態を目標状態に変化させるための目標呼吸リズムを決定するリズム決定部205と、決定される目標呼吸リズムに合わせて運転者が呼吸を行うように誘導するための刺激の制御を行う呼吸誘導制御部206とを備え、リズム決定部205は、目標呼吸リズムとして、呼気期間と吸気期間とを決定し、呼吸誘導制御部206は、同一の種類の刺激についての、方向性が異なる2パターンの連続的な刺激の変化を、呼気期間と吸気期間とにそれぞれ割り当てて行わせる第1刺激に加え、一定間隔の断続的な刺激である第2刺激も行わせる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の運転者の心理状態を目標とする心理状態に変化させるための目標呼吸リズムを決定するリズム決定部(205)と、
前記リズム決定部で決定される前記目標呼吸リズムに合わせて前記運転者が呼吸を行うように誘導するための刺激の制御を行う呼吸誘導制御部(206,206a,206b,206c)とを備え、
前記リズム決定部は、前記目標呼吸リズムとして、吸気を行う吸気期間と呼気を行う呼気期間とを決定し、
前記呼吸誘導制御部は、同一の種類の刺激についての、方向性が異なる2パターンの連続的な刺激の変化を、前記吸気期間と前記呼気期間とにそれぞれ割り当てて行わせる第1刺激に加え、一定間隔の断続的な刺激である第2刺激も行わせる心理状態誘導装置。
【請求項2】
請求項1に記載の心理状態誘導装置であって、
前記呼吸誘導制御部は、前記吸気期間と前記呼気期間との切り替えのタイミングで、前記第1刺激及び前記第2刺激とは異なる種類の刺激である第3刺激を行わせる心理状態誘導装置。
【請求項3】
請求項1に記載の心理状態誘導装置であって、
前記呼吸誘導制御部は、前記第1刺激として、同一の種類の刺激についての、方向性が互いに逆方向の2パターンの連続的な刺激の変化を、前記吸気期間と前記呼気期間とにそれぞれ割り当てて行わせる心理状態誘導装置。
【請求項4】
請求項1に記載の心理状態誘導装置であって、
前記呼吸誘導制御部は、前記方向性が異なる2パターンの連続的な刺激の変化として、前記運転者に吸気と呼気とをそれぞれ想起させやすいと推定される変化を行わせる心理状態誘導装置。
【請求項5】
請求項1に記載の心理状態誘導装置であって、
前記呼吸誘導制御部は、前記第2刺激での刺激の提示のタイミングを、前記吸気期間と前記呼気期間との切り替えのタイミングに一致させる心理状態誘導装置。
【請求項6】
請求項1に記載の心理状態誘導装置であって、
前記呼吸誘導制御部は、前記第2刺激での一定間隔の断続的な刺激の周期を、1分あたり60回の周期を起点とする所定範囲内の周期である心拍類似周期にさせる心理状態誘導装置。
【請求項7】
請求項1に記載の心理状態誘導装置であって、
前記リズム決定部で決定する前記目標呼吸リズムによって変化させる目標とする心理状態には、少なくとも前記運転者の覚醒状態とリラックス状態とが存在し、
前記呼吸誘導制御部は、前記覚醒状態を目標とする前記目標呼吸リズムの場合には、前記第2刺激での一定間隔の断続的な刺激の周期を、1分あたり60回の周期を起点とする所定範囲内の周期である心拍類似周期よりも短い周期にさせる一方、前記リラックス状態を目標とする前記目標呼吸リズムの場合には、前記第2刺激での一定間隔の断続的な刺激の周期を、前記心拍類似周期よりも長い周期にさせる心理状態誘導装置。
【請求項8】
請求項1に記載の心理状態誘導装置であって、
前記運転者の心拍を特定する心拍特定部(232)を備え、
前記呼吸誘導制御部は、前記心拍特定部で特定した心拍をもとに、前記第2刺激での一定間隔の断続的な刺激の周期を、前記運転者の心拍拍動の周期と同じ周期にさせる心理状態誘導装置。
【請求項9】
請求項1に記載の心理状態誘導装置であって、
前記リズム決定部で決定する前記目標呼吸リズムによって変化させる目標とする心理状態には、前記運転者の覚醒状態とリラックス状態とがあり、
前記運転者の心拍を特定する心拍特定部(232)を備え、
前記呼吸誘導制御部は、前記心拍特定部で特定した心拍をもとに、前記覚醒状態を目標とする前記目標呼吸リズムの場合には、前記第2刺激での一定間隔の断続的な刺激の周期を、前記運転者の心拍拍動の周期よりも短い周期にさせる一方、前記リラックス状態を目標とする前記目標呼吸リズムの場合には、前記第2刺激での一定間隔の断続的な刺激の周期を、前記運転者の心拍拍動の周期よりも長い周期にさせる心理状態誘導装置。
【請求項10】
請求項1に記載の心理状態誘導装置であって、
前記運転者の運転負荷の高低を推定する運転負荷推定部(202)を備え、
前記呼吸誘導制御部は、前記運転負荷推定部で前記運転負荷が高負荷と推定した場合には、前記運転負荷が低負荷と推定した場合に比べ、前記運転者への刺激の強度を弱める心理状態誘導装置。
【請求項11】
請求項1に記載の心理状態誘導装置であって、
前記車両の車内外の環境状態を特定する環境状態特定部(201)と、
前記環境状態特定部で特定する前記環境状態をもとに、前記呼吸誘導制御部で制御する刺激のうち、その環境状態が大きなノイズとなる刺激である対象刺激の有無を判定する対象有無判定部(207)とを備え、
前記呼吸誘導制御部は、前記対象有無判定部で前記対象刺激が有ると判定した場合に、その対象刺激の強度を強めるか、若しくは前記呼吸誘導制御部で制御する刺激のうちのその対象刺激以外の刺激の強度を強める心理状態誘導装置。
【請求項12】
少なくとも1つのプロセッサにより実行される、
車両の運転者の心理状態を目標とする心理状態に変化させるための目標呼吸リズムを決定するリズム決定工程と、
前記リズム決定工程で決定される前記目標呼吸リズムに合わせて前記運転者が呼吸を行うように誘導するための刺激の制御を行う呼吸誘導制御工程とを含み、
前記リズム決定工程では、前記目標呼吸リズムとして、吸気を行う吸気期間と呼気を行う呼気期間とを決定し、
前記呼吸誘導制御工程では、同一の種類の刺激についての、方向性が異なる2パターンの連続的な刺激の変化を、前記吸気期間と前記呼気期間とにそれぞれ割り当てて行わせる第1刺激に加え、一定間隔の断続的な刺激である第2刺激も行わせる心理状態誘導方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、心理状態誘導装置及び心理状態誘導方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
対象者の呼吸のタイミングを誘導することで、対象者の心理状態を誘導する技術が知られている。特許文献1には、発光の輝度,色等の変化といった連続的な刺激の変化によって、呼気期間、吸気期間、及び猶予期間のそれぞれを運転者が区別できるようにする技術が開示されている。猶予期間とは、呼気と吸気とのいずれを行ってもよい切り替え期間である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示の技術は、猶予期間が設けられているように、呼気と吸気との切り替えのタイミングを精度良く合わせるものではなかった。
【0005】
この開示の1つの目的は、連続的な刺激の変化によって運転者の呼吸のタイミングを誘導する場合に、呼気と吸気との切り替えのタイミングを、運転者がより予測しやすくなる心理状態誘導装置及び心理状態誘導方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は独立請求項に記載の特徴の組み合わせにより達成され、また、下位請求項は、開示の更なる有利な具体例を規定する。特許請求の範囲に記載した括弧内の符号は、一つの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであって、本開示の技術的範囲を限定するものではない。
【0007】
上記目的を達成するために、本開示の心理状態誘導装置は、車両の運転者の心理状態を目標とする心理状態に変化させるための目標呼吸リズムを決定するリズム決定部(205)と、リズム決定部で決定される目標呼吸リズムに合わせて運転者が呼吸を行うように誘導するための刺激の制御を行う呼吸誘導制御部(206,206a,206b,206c)とを備え、リズム決定部は、目標呼吸リズムとして、吸気を行う吸気期間と呼気を行う呼気期間とを決定し、呼吸誘導制御部は、同一の種類の刺激についての、方向性が異なる2パターンの連続的な刺激の変化を、吸気期間と呼気期間とにそれぞれ割り当てて行わせる第1刺激に加え、一定間隔の断続的な刺激である第2刺激も行わせる。
【0008】
上記目的を達成するために、本開示の心理状態誘導方法は、少なくとも1つのプロセッサにより実行される、車両の運転者の心理状態を目標とする心理状態に変化させるための目標呼吸リズムを決定するリズム決定工程と、リズム決定工程で決定される目標呼吸リズムに合わせて運転者が呼吸を行うように誘導するための刺激の制御を行う呼吸誘導制御工程とを含み、リズム決定工程では、目標呼吸リズムとして、吸気を行う吸気期間と呼気を行う呼気期間とを決定し、呼吸誘導制御工程では、同一の種類の刺激についての、方向性が異なる2パターンの連続的な刺激の変化を、吸気期間と呼気期間とにそれぞれ割り当てて行わせる第1刺激に加え、一定間隔の断続的な刺激である第2刺激も行わせる。
【0009】
これらによれば、同一の種類の刺激についての、方向性が異なる2パターンの連続的な刺激の変化を、吸気期間と呼気期間とにそれぞれ割り当てて行わせる第1刺激を行う。よって、連続的な刺激の変化のパターンが切り替わることで、吸気期間と呼気期間との切り替えのタイミングがわかりやすくなる。また、第1刺激に加え、一定間隔の断続的な刺激である第2刺激も行わせることで、吸気期間と呼気期間との切り替えのタイミングが予測しやすくなる。その結果、連続的な刺激の変化によって運転者の呼吸のタイミングを誘導する場合に、吸気と呼気との切り替えのタイミングを、運転者がより予測しやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】運転支援システム1の概略的な構成の一例を示す図である。
【
図2】HCU20の概略的な構成の一例を示す図である。
【
図3】HCU20での刺激の制御の一例について説明するための図である。
【
図4】HCU20での刺激の制御の効果について説明するための図である。
【
図5】HCU20での刺激の制御の一例について説明するための図である。
【
図6】HCU20での刺激の制御の一例について説明するための図である。
【
図7】HCU20での刺激の制御の一例について説明するための図である。
【
図8】HCU20での心理状態誘導関連処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図9】HCU20aの概略的な構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図面を参照しながら、開示のための複数の実施形態を説明する。なお、説明の便宜上、複数の実施形態の間において、それまでの説明に用いた図に示した部分と同一の機能を有する部分については、同一の符号を付し、その説明を省略する場合がある。同一の符号を付した部分については、他の実施形態における説明を参照することができる。
【0012】
(実施形態1)
<運転支援システム1の概略構成>
以下、本実施形態について図面を用いて説明する。
図1に示す運転支援システム1は、自動車(以下、単に車両)で用いられる。運転支援システム1は、HMI(Human Machine Interface)システム2、通信機3、ロケータ4、地図データベース(以下、地
図DB)5、周辺監視センサ6、運転支援ECU7、車両状態センサ8、及び車両制御ECU9を含んでいる。HMIシステム2、通信機3、ロケータ4、地
図DB5、運転支援ECU7、車両状態センサ8、及び車両制御ECU9は、例えば車内LANに接続されているものとする。図中では、車内LANをLANと記載している。運転支援システム1を搭載している車両を、以降では自車と呼ぶ。
【0013】
通信機3は、センタとの間で通信を行う。通信機3は、公衆通信網を介してセンタと通信を行う。通信機3は、センタから交通情報,天候情報等を取得する。なお、通信機3は、路側機を介してセンタとの間で通信を行う構成としてもよい。
【0014】
ロケータ4は、GNSS(Global Navigation Satellite System)受信機及び慣性センサを備えている。GNSS受信機は、複数の人工衛星からの測位信号を受信する。慣性センサは、例えばジャイロセンサ及び加速度センサを備える。ロケータ4は、GNSS受信機で受信する測位信号と、慣性センサの計測結果とを組み合わせることにより、自車の車両位置を逐次測位する。車両位置の測位には、自車に搭載された車速センサから逐次出力される信号から求めた走行距離を用いる構成としてもよい。
【0015】
地
図DB5は、不揮発性メモリであって、地図データを格納している。地図データは、例えばリンクデータ、ノードデータ、及び道路属性等のデータとする。なお、センタから配信される地図データを、通信機3を介して受信し、地
図DB5に格納してもよい。この場合、地
図DB5を揮発性メモリとすればよい。
【0016】
周辺監視センサ6は、自車周辺の障害物を検出する。他にも、自車周辺の走行区画線等の路面標示を検出する。周辺監視センサ6は、周辺監視カメラ,ミリ波レーダ,ソナー、LIDAR(Light Detection and Ranging/Laser Imaging Detection and Ranging)等とすればよい。周辺監視カメラは、自車周囲の所定範囲を撮像する。ミリ波レーダ,ソナー,LIDARは、自車周囲の所定範囲に探査波を送信する。以下では、ミリ波レーダ,ソナー,LIDARを探査波センサと呼ぶ。周辺監視カメラは、逐次撮像する撮像画像をセンシング情報として運転支援ECU7へ逐次出力する。探査波センサは、障害物によって反射された反射波を受信した場合に得られる受信信号に基づく走査結果をセンシング情報として運転支援ECU7へ逐次出力する。また、周辺監視センサ6には、日射を検出する日射センサを含んでもよい。
【0017】
運転支援ECU7は、自車の運転支援を行う電子制御装置である。運転支援ECU7は、自車の周辺環境を認識する。周辺環境の認識には、ロケータ4から取得した自車の車両位置を用いる。周辺環境の認識には、地
図DB5から取得した地図データを用いる。周辺環境の認識には、周辺監視センサ6から取得したセンシング情報を用いる。例えば、運転支援ECU7は、周辺監視センサ6から取得したセンシング情報から、自車の周囲の物体の形状及び移動状態を認識する。そして、この認識結果を、自車の車両位置及び地図データと組み合わせることで、実際の走行環境を三次元で再現した仮想空間を生成する。
【0018】
運転支援ECU7は、認識した周辺環境をもとに、自車の加減速制御及び/又は操舵制御を行うことにより、自車の運転支援を行う。運転支援の一例としては、自車を自車線内に維持して走行させる支援、自車を定速走行させる支援、障害物回避のために自動減速する支援等がある。また、運転支援として、自動運転を行わせる構成としてもよい。
【0019】
車両状態センサ8は、自車の状態を検出するためのセンサ群である。自車の状態としては、自車の走行状態,操作状態等がある。車両状態センサ8としては、自車の車速を検出する車速センサがある。車両状態センサ8としては、自車のステアリングの操舵角を検出する操舵センサがある。車両状態センサ8としては、自車のアクセルペダルの開度を検出するアクセルポジションセンサがある。車両状態センサ8としては、自車のブレーキペダルの踏み込み量を検出するブレーキストロークセンサがある。車両状態センサ8は、検出結果を車内LANへ出力する。なお、車両状態センサ8での検出結果は、自車に搭載されるECUを介して車内LANへ出力される構成であってもよい。
【0020】
HMIシステム2は、HCU(Human Machine Interface Control Unit)20、車内環境センサ21、生体センサ22、呼吸誘導装置23、及び操作デバイス24を備えている。HMIシステム2は、運転者からの入力操作を受け付ける。HMIシステム2は、運転者の状態を監視する。HMIシステム2は、運転者に向けて情報,刺激を提示する。
【0021】
車内環境センサ21は、自車の室内環境の状態を検出するためのセンサ群である。車内環境センサ21としては、車室内の音を収集するマイクがある。車内環境センサ21としては、車室内の明るさを検出する照度センサがある。車内環境センサ21としては、車室内の揺れの度合を検出する振動センサがある。
【0022】
生体センサ22は、運転者の生体情報を計測する。生体センサ22は、計測した生体情報をHCU20へ逐次出力する。生体センサ22は、自車に設ける構成とすればよい。この場合、生体センサ22は、ステアリングホイール,運転席シート等に設ければよい。また、生体センサ22は、運転者が装着するウェアラブルデバイスに設けられる構成としてもよい。この場合には、例えば近距離無線通信を介して、生体センサ22での計測結果をHCU20が取得する構成とすればよい。生体センサ22で計測する生体情報の一例としては、呼吸,脈拍,心拍等が挙げられる。
【0023】
生体センサ22としては、測定で得られる脈波の波形から心拍数又は脈拍数を計測する光電式脈波センサ,インピーダンス式脈波センサ等の脈波センサが挙げられる。他にも、Ghz帯のマイクロ波を用いたドップラーセンサによって非接触に呼吸の動きを検知する呼吸センサが挙げられる。呼吸センサとしては、シートベルト,シートバックに設けられる圧力センサであってもよい。また、脈波から呼吸を推定する場合は、脈波センサを呼吸センサとして用いてもよい。なお、生体センサ22は、ここに挙げたものに限らず、他のものを用いる構成としてもよい。また、生体センサ22として、呼吸,脈拍,心拍以外の生体情報を計測するものを用いる構成としてもよい。例えば、脳波,心拍ゆらぎ,発汗,体温,血圧,皮膚コンダクタンスを計測するものが挙げられる。
【0024】
呼吸誘導装置23は、運転者の感覚器を刺激して呼吸を誘導する。呼吸誘導装置23は、運転者の視覚,嗅覚,触覚,聴覚のうちのいずれを刺激して呼吸を誘導するものであってもよい。呼吸誘導装置23は、運転者の視覚,嗅覚,触覚,聴覚のうちのいずれを組み合わせることで呼吸を誘導するものであってもよい。呼吸誘導装置23は、提示する刺激によって、目標とすべき呼吸のタイミングを運転者に認識させ、呼吸を誘導するものとすればよい。他にも、呼吸誘導装置23は、提示する刺激によって、運転者に無意識に呼吸を行わせ、呼吸を誘導するものであってもよい。視覚による刺激を視覚刺激と呼ぶ。嗅覚による刺激を嗅覚刺激と呼ぶ。触覚による刺激を触覚刺激と呼ぶ。聴覚による刺激を聴覚刺激と呼ぶ。
【0025】
視覚刺激の一例としては、LED等の発光装置の発光が挙げられる。他に視覚刺激の一例としては、映像等の表示装置への表示が挙げられる。発光,表示は、運転者が視認可能な位置に行うものとする。嗅覚刺激の一例としては、アロマユニット等からの匂い成分の発生が挙げられる。匂い成分の噴出は、運転者の前方若しくは側方から行うものとすればよい。なお、アロマユニットを空調装置と組み合わせて用いることで、空調装置から送風される風によって匂い成分を噴出する構成としてもよい。触覚刺激の一例としては、運転席のシートバックからの押圧が挙げられる。押圧については、シートバックに埋め込んだ袋を空気圧で膨張収縮させることで生じさせればよい。触覚刺激の他の例としては、空調装置からの風の送風が挙げられる。空調装置からの風の送風は、運転者に向いた吹出口から行うものとすればよい。触覚刺激のさらに他の例としては、振動子による振動の発生,シートベルトでの締め付け等が挙げられる。振動子は、ステアリングホイール,運転席のシートバック,運転席の座面等の運転者に接触する部材に設けるものとすればよい。聴覚刺激の一例としては、音声出力装置からの音楽,環境音の出力が挙げられる。聴覚刺激の他の例としては、ブザーからのビープ音の出力等が挙げられる。
【0026】
操作デバイス24は、運転者が操作するスイッチ群である。例えば、操作デバイス24としては、自車のステアリングのスポーク部に設けられたステアリングスイッチがある。操作デバイス24は、ディスプレイと一体となったタッチスイッチであってもよい。
【0027】
HCU20は、プロセッサ、メモリ、I/O、これらを接続するバスを備えるマイクロコンピュータを主体として構成される。HCU20は、メモリに記憶された制御プログラムを実行することで運転者の心理状態の誘導に関する処理(以下、心理状態誘導関連処理)等の各種の処理を実行する。ここで言うところのメモリは、コンピュータによって読み取り可能なプログラム及びデータを非一時的に格納する非遷移的実体的記憶媒体(non- transitory tangible storage medium)である。また、非遷移的実体的記憶媒体は、半導体メモリ又は磁気ディスクなどによって実現される。なお、HCU20での心理状態誘導関連処理の詳細については後述する。
【0028】
<HCU20の概略構成>
続いて、
図2を用いて、HCU20の概略構成について説明を行う。HCU20は、心理状態誘導関連処理に関して、環境状態特定部201、運転負荷推定部202、運転者状態特定部203、実施判定部204、リズム決定部205、呼吸誘導制御部206、及び対象有無判定部207を機能ブロックとして備える。このHCU20が心理状態誘導装置に相当する。また、コンピュータによってHCU20の各機能ブロックの処理が実行されることが、心理状態誘導方法が実行されることに相当する。なお、HCU20が実行する機能の一部又は全部を、一つ或いは複数のIC等によりハードウェア的に構成してもよい。また、HCU20が備える機能ブロックの一部又は全部は、プロセッサによるソフトウェアの実行とハードウェア部材の組み合わせによって実現されてもよい。
【0029】
環境状態特定部201は、自車の車内外の環境状態を特定する。環境状態特定部201は、運転支援ECU7で認識した周辺環境を、車外の環境状態と特定すればよい。周辺環境には、車外の環境状態の特定の例として、以下も挙げられる。環境状態特定部201は、通信機3で受信する交通情報から、渋滞を特定すればよい。環境状態特定部201は、通信機3で受信する天候情報から、天候を特定すればよい。環境状態特定部201は、日射センサで検出する日射から、車外の明るさを特定すればよい。環境状態特定部201は、車内環境センサ21での検出結果から、車内の環境を特定すればよい。車内の環境状態の特定の例として、以下が挙げられる。環境状態特定部201は、マイクで収集する音から、車内の音の大きさを特定すればよい。環境状態特定部201は、照度センサで検出する照度から、車内の明るさを特定すればよい。環境状態特定部201は、振動センサで検出する揺れの度合から、車内の揺れの度合を特定すればよい。
【0030】
運転負荷推定部202は、自車の運転負荷を推定する。運転負荷推定部202は、環境状態特定部201で特定する車外の環境状態から、自車の運転負荷の高低を推定すればよい。一例として、運転負荷推定部202は、自車周辺の車両台数が閾値以上の場合に、高負荷と推定してもよい。運転負荷推定部202は、自車の進路上に自転車,歩行者が存在する場合に、高負荷と推定してもよい。運転負荷推定部202は、自車が高速道路を走行している場合に、高負荷と推定してもよい。運転負荷推定部202は、自車がカーブ路を走行している場合に、運転負荷が高いと推定してもよい。運転負荷推定部202は、上述したような急な運転操作が要求される可能性が高い状況でない場合を、低負荷と推定すればよい。
【0031】
また、運転負荷推定部202は、車両状態センサ8での検出結果から、自車の運転負荷の高低を推定してもよい。この場合、運転負荷推定部202は、運転者の運転操作の煩雑さをもとに、運転負荷の高低を推定すればよい。運転者の運転操作の煩雑さとしては、自車のアクセルペダル,ブレーキペダル,ステアリングホイールの操作情報の推移を用いればよい。例えば、運転負荷推定部202は、アクセルポジションセンサで検出される値の単位時間あたりの変化量が閾値以上の場合に、高負荷と推定すればよい。運転負荷推定部202は、ブレーキストロークセンサで検出される値の単位時間あたりの変化量が閾値以上の場合に、高負荷と推定してもよい。運転負荷推定部202は、舵角センサで検出される値の単位時間あたりの変化量が閾値以上の場合に、高負荷と推定してもよい。運転負荷推定部202は、車速センサで検出される値の単位時間あたりの変化量が閾値以上の場合に、高負荷と推定してもよい。
【0032】
運転者状態特定部203は、運転者の状態を特定する。運転者状態特定部203は、心理状態特定部231及び心拍特定部232を有する。心理状態特定部231は、運転者の心理状態を特定する。心理状態特定部231は、生体センサ22でのセンシング結果から、運転者の心理状態を特定すればよい。一例として、心理状態特定部231は、「怒り状態」,「緊張状態」,「リラックス状態」,「漫然(飽き)状態」,「集中状態」等の心理状態を特定する。「怒り状態」,「緊張状態」,「集中状態」は、いずれも活性不活性のうちの活性の傾向が強い状態である。「怒り状態」,「緊張状態」は、快不快のうちの不快の傾向が強い状態である。「集中状態」は、快不快のうちの不快の傾向が弱い状態である。「リラックス状態」,「漫然状態」は、いずれも活性不活性のうちの不活性の傾向が強い状態である。「リラックス状態」は、快不快のうちの快の傾向が強い状態である。「漫然状態」は、快不快のうちの不快の傾向が強い状態である。心理状態は、例えばラッセルの円環モデルを参考とすればよい。
【0033】
心理状態特定部231は、心理状態別の生体情報の特徴量をもとに、生体センサ22でのセンシング結果から運転者の心理状態を特定すればよい。この特徴量には、心拍特定部232で特定する心拍を含んでもよい。心理状態別の生体情報の特徴量は、予め実験等で求めてHCU20の不揮発性メモリに格納しておけばよい。心理状態別の生体情報の特徴量は、機械学習して求める構成としてもよい。なお、心理状態特定部231での心理状態の特定に用いる生体情報は、運転者の顔を撮像した画像(以下、顔画像)としてもよい。この場合、生体センサ22はカメラとなる。
【0034】
心理状態特定部231は、操作デバイス24を介して入力される運転者の情報から、運転者の心理状態を特定してもよい。この情報は、心理状態を推定するための問診の回答であってもよいし、心理状態を申告する情報であってもよい。
【0035】
実施判定部204は、呼吸誘導の実施の有無の判定を行う。実施判定部204は、呼吸誘導装置23での呼吸誘導を実施するか否かを判定する。実施判定部204は、心理状態特定部231で特定する運転者の心理状態に応じて、呼吸誘導装置23での呼吸誘導を実施するか否かを判定すればよい。一例として、運転者の心理状態が、目標とする心理状態(以下、目標状態)から乖離している場合に、呼吸誘導を実施すると判定すればよい。一方、目標心理状態に該当する場合には、呼吸誘導を実施しないと判定すればよい。より詳しくは、目標状態から活性不活性の方向に乖離している場合に、呼吸誘導を実施すると判定すればよい。例えば、目標状態が「集中状態」の場合には、「漫然状態」の場合に呼吸誘導を実施すると判定すればよい。一方、運転者の心理状態が「集中状態」の場合には、呼吸誘導を実施しないと判定すればよい。また、目標状態が「リラックス状態」の場合には、「怒り状態」,「緊張状態」の場合に、呼吸誘導を実施すると判定すればよい。一方、運転者の心理状態が「リラックス状態」の場合には、呼吸誘導を実施しないと判定すればよい。これによれば、目標状態から乖離していない場合には、呼吸誘導を実施せずに済ませることが可能になる。
【0036】
目標状態については、デフォルトで予め設定されている構成とすればよい。この場合、運転に適していると推定される心理状態を、目標状態として設定すればよい。目標状態は、運転者の心理状態に応じて設定されてもよい。例えば、運転者の心理状態が「怒り状態」,「緊張状態」である場合には、目標状態を「リラックス状態」とすればよい。また、運転者の心理状態が「漫然状態」である場合には、目標状態を「集中状態」とすればよい。目標状態は、操作デバイス24を介して、運転者から設定を受け付けてもよい。目標状態は、自車のシステムが適宜判断したものを用いる構成としてもよい。
【0037】
実施判定部204は、操作デバイス24を介して運転者から受け付ける入力に応じて、呼吸誘導装置23での呼吸誘導を実施するか否かを判定してもよい。実施判定部204は、操作デバイス24を介して呼吸誘導の実施を指示する旨の入力を受け付ける場合に、呼吸誘導を実施すると判定すればよい。一方、操作デバイス24を介して呼吸誘導の休止を指示する旨の入力を受け付ける場合に、呼吸誘導を実施しないと判定すればよい。これによれば、運転者の望むタイミングで呼吸誘導装置23での呼吸誘導を開始及び休止することが可能になる。
【0038】
リズム決定部205は、目標状態に運転者の心理状態を変化させるための目標呼吸リズムを決定する。このリズム決定部205での処理がリズム決定工程に相当する。リズム決定部205は、目標呼吸リズムとして、吸気期間と呼気期間とを決定する。吸気期間は、運転者が息を吸う期間である。つまり、吸気を行う期間である。呼気期間は、運転者が息を吐く期間である。つまり、呼気を行う期間である。リズム決定部205は、実施判定部204で呼吸誘導を実施すると判定した場合に、処理を行う。
【0039】
リズム決定部205は、目標状態に応じて、目標呼吸リズムを決定すればよい。例えば、目標状態が「リラックス状態」の場合には、吸気期間に対する呼気期間を長くする目標呼吸リズムとすればよい。これにより、副交感神経を優位にして「リラックス状態」に誘導する。「吸気期間に対する呼気期間を長くする」とは、吸気期間よりも呼気期間を長くすることとすればよい。「吸気期間に対する呼気期間を長くする」とは、平常時の運転者の吸気期間に対する呼気期間よりも長くすることであってもよい。また、目標状態が「集中状態」の場合には、吸気期間に対する呼気期間を短くする目標呼吸リズムとすればよい。これにより、交感神経を優位にして「集中状態」に誘導する。「吸気期間に対する呼気期間を短くする」とは、吸気期間よりも呼気期間を短くすることとすればよい。「吸気期間に対する呼気期間を短くする」とは、平常時の運転者の吸気期間に対する呼気期間よりも短くすることであってもよい。これによれば、目標状態ごとに、その目標状態に誘導しやすい目標呼吸リズムを決定することが可能になる。なお、平常時の吸気期間及び呼気期間は、呼吸誘導装置23での呼吸誘導を実施していない場合に計測した運転者の吸気期間及び呼気期間から特定すればよい。吸気期間及び呼気期間の計測は、生体センサ22を利用して行えばよい。
【0040】
呼吸誘導制御部206は、リズム決定部205で決定される目標呼吸リズムに合わせて運転者が呼吸を行うように誘導するための刺激(以下、誘導刺激)を制御する。呼吸誘導制御部206は、呼吸誘導装置23を制御することで、誘導刺激を制御する。この呼吸誘導制御部206での処理が、呼吸誘導制御工程に相当する。
【0041】
呼吸誘導制御部206は、同一の種類の刺激についての、方向性が異なる2パターンの連続的な刺激の変化を、吸気期間と呼気期間とにそれぞれ割り当てて行わせる。この刺激を第1刺激と呼ぶ。第1刺激としては、例えば触覚刺激,聴覚刺激,視覚刺激を用いることができる。第1刺激によれば、連続的な刺激の変化のパターンが切り替わることで、吸気期間と呼気期間との切り替えのタイミングがわかりやすくなる。
【0042】
第1刺激にあたる触覚刺激としては、運転者の背中,腰への押し込みの強弱がある。この触覚刺激は、運転席のシートバックからの押圧によって実現すればよい。この場合、吸気期間は、徐々に腰あたりへの押し込みを強くしていけばよい。これにより、運転者の背筋が伸びて胸郭が広がり、運転者の吸気が促される。呼気期間には、徐々に腰のあたりへの押し込みを弱くしていけばよい。これにより、運転者を脱力させ、運転者の呼気が促される。
【0043】
第1刺激にあたる触覚刺激としては、運転席の座面の押し込みの強弱であってもよい。第1刺激にあたる触覚刺激としては、運転席のシートの振動の強弱であってもよい。シートでの振動を生じさせる部位は、シートバックでも座面でもよい。第1刺激にあたる触覚刺激としては、運転席のシートの振動の位置の変化であってもよい。振動の位置の変化としては、上方向と下方向との2パターンがある。振動の位置の変化としては、右方向と左方向との2パターンがある。振動の位置の変化としては、集中方向と拡散方向との2パターンがある。振動の位置の変化を可能にするためには、振動子を複数用いればよい。第1刺激にあたる触覚刺激としては、運転席のシートの振動の周期の長短の変化であってもよい。振動については、シートの振動以外にも、ステアリングの振動としてもよい。ステアリングの振動についても、シートの振動と同様の2パターンの刺激が考えられる。第1刺激にあたる触覚刺激としては、運転席のシートベルトの巻き上げ及び巻き戻しであってもよい。この触覚刺激は、シートベルトの巻き上げ及び巻き戻しを行うモータによって実現すればよい。第1刺激にあたる触覚刺激は、これらの組み合わせであってもよい。また、第1刺激にあたる触覚刺激は、同一の種類の刺激についての、方向性が異なる2パターンの連続的な刺激の変化であれば、他の刺激であってもよい。方向性が異なる2パターンの連続的な触覚刺激の変化と吸気期間及び呼気期間との対応付けは、任意に設定しても構わない。
【0044】
第1刺激にあたる聴覚刺激としては、音量の増減がある。第1刺激にあたる聴覚刺激としては、音像の遠近がある。聴覚刺激は、音の出力によって実現すればよい。音像の遠近については、複数のスピーカを用いることで実現すればよい。第1刺激にあたる聴覚刺激としては、音量の増減と音像の遠近とを組み合わせることが好ましい。この場合、吸気期間は、徐々に音量を増加させるとともに、音像を運転席側へ近づけていけばよい。これにより、音に包まれるような感覚を運転者に与え、運転者の吸気が促される。呼気期間には、徐々に音量を減少させるとともに、音像を運転席側から遠ざけていけばよい。これにより、音が引いていくような感覚を運転者に与え、運転者の呼気が促される。音としては、音楽,環境音,ビープ音のいずれでもよい。また、音としては、これらを組み合わせてもよい。
【0045】
第1刺激にあたる聴覚刺激としては、音程の上下であってもよい。第1刺激にあたる聴覚刺激としては、音のリズムの緩急であってもよい。第1刺激にあたる聴覚刺激は、これらの組み合わせであってもよい。また、第1刺激にあたる聴覚刺激は、同一の種類の刺激についての、方向性が異なる2パターンの連続的な刺激の変化であれば、他の刺激であってもよい。方向性が異なる2パターンの連続的な聴覚刺激の変化と吸気期間及び呼気期間との対応付けは、任意に設定しても構わない。
【0046】
第1刺激にあたる視覚刺激としては、発光の輝度の増減がある。この場合、吸気期間は、徐々に輝度を増加させていけばよい。これにより、光に包まれるような感覚を運転者に与え、運転者の吸気が促される。呼気期間には、徐々に輝度を減少させていけばよい。これにより、光が引いていくような感覚を運転者に与え、運転者の呼気が促される。第1刺激にあたる視覚刺激としては、映像の輝度の増減を用いてもよい。
【0047】
第1刺激にあたる視覚刺激としては、発光の色味の変化であってもよい。一例としては、暖色系と寒色系との変化とすればよい。他の例としては、有色と無色との変化としてもよい。第1刺激にあたる視覚刺激としては、発光の位置の遠近であってもよい。発光の位置の遠近については、複数の発光装置を用いることで実現すればよい。この場合、吸気期間は、徐々に発光の位置を運転席側へ近づけていけばよい。これにより、光が迫ってくるような感覚を運転者に与え、運転者の吸気が促される。呼気期間には、徐々に発光の位置を運転席側から遠ざけていけばよい。これにより、光が引いていくような感覚を運転者に与え、運転者の呼気が促される。第1刺激にあたる視覚刺激としては、発光の範囲の大小であってもよい。発光の範囲の大小については、複数の発光装置を用いることで実現すればよい。この場合、吸気期間は、徐々に発光の範囲を広げていけばよい。これにより、光に包まれるような感覚を運転者に与え、運転者の吸気が促される。呼気期間には、徐々に発光の範囲を狭めていけばよい。これにより、光が引いていくような感覚を運転者に与え、運転者の呼気が促される。第1刺激にあたる視覚刺激は、これらの組み合わせであってもよい。また、第1刺激にあたる視覚刺激は、同一の種類の刺激についての、方向性が異なる2パターンの連続的な刺激の変化であれば、他の刺激であってもよい。方向性が異なる2パターンの連続的な視覚刺激の変化と吸気期間及び呼気期間との対応付けは、任意に設定しても構わない。
【0048】
第1刺激は、触覚刺激,聴覚刺激,視覚刺激を組み合わせたものであってもよい。本実施形態では、触覚刺激と聴覚刺激と視覚刺激とを組み合わせて用いる場合を例に挙げて説明する。触覚刺激としては、背中への押し込みの強弱を用いる。聴覚刺激としては、音量の増減と音像の遠近とを用いる。視覚刺激としては、発光の範囲の大小を用いる。この例では、聴覚刺激として、音量の増減と音像の遠近との2種類の刺激を用いることになる。以上の構成によれば、音とともに光に包まれるような感覚を運転者に与え、運転者の吸気が促される。また、音とともに光が引いていくような感覚を運転者に与え、運転者の呼気が促される。
【0049】
ここで、
図3を用いて、第1刺激について説明する。
図3では便宜上、第1刺激の例として、背中への押し込みの強弱を用いて説明する。
図3に示すように、吸気期間では、背中への押し込みを徐々に強めるように、触覚刺激を連続的に変化させる。一方、呼気期間では、背中への押し込みを徐々に弱めるように、触覚刺激を連続的に変化させる。呼吸誘導制御部206は、第1刺激として複数種類の刺激を組み合わせる場合、刺激の変化の方向性が切り替わるタイミングを複数種類の刺激で一致させる。
【0050】
呼吸誘導制御部206は、第1刺激として、同一の種類の刺激についての、方向性が互いに逆方向の2パターンの連続的な刺激の変化を、吸気期間と呼気期間とにそれぞれ割り当てて行わせることが好ましい。これによれば、吸気期間と呼気期間とにそれぞれ割り当てられる刺激のパターンの切り替わりが、よりわかりやすくなる。
図3に示す背中への押し込みの強弱の変化は、方向性が互いに逆方向の2パターンの連続的な刺激の変化にあたる。方向性が互いに逆方向の刺激の変化の例としては、強弱,増減,拡大縮小,遠近等がある。
【0051】
呼吸誘導制御部206は、方向性が異なる2パターンの連続的な刺激の変化として、運転者に吸気と呼気とをそれぞれ想起させやすいと推定される変化を行わせることが好ましい。これによれば、運転者の吸気と呼気とをより誘導しやすくなる。その結果、より無理なく、目標呼吸リズムに呼吸をあわせることが可能になる。
図3に示す背中への押し込みの強弱の変化は、運転者に吸気と呼気とをそれぞれ想起させやすいと推定される。音量の増減及び音像の遠近も、運転者に吸気と呼気とをそれぞれ想起させやすいと推定される。発光の輝度の増減及び範囲の拡大縮小も、運転者に吸気と呼気とをそれぞれ想起させやすいと推定される。
【0052】
呼吸誘導制御部206は、第1刺激に加え、一定間隔の断続的な刺激も行わせる。この刺激を第2刺激と呼ぶ。第2刺激としては、例えば触覚刺激,聴覚刺激,視覚刺激を用いることができる。第1刺激と第2刺激とは、それぞれ異なる種類の刺激である。第1刺激に第2刺激を加えることにより、第2刺激を頼りに、運転者が吸気期間と呼気期間との切り替えのタイミングを予測しやすくなる。これは、第2刺激が一定間隔の断続的な刺激であることから、第1刺激と組み合わせることでタイミングが測りやすくなるためである。その結果、連続的な刺激の変化によって運転者の呼吸のタイミングを誘導する場合に、吸気と呼気との切り替えのタイミングを、運転者がより予測しやすくなる。なお、第2刺激の強度は、一定であってもよいし、一定でなくてもよい。
【0053】
第2刺激にあたる触覚刺激としては、運転席のシートの振動がある。シートでの振動を生じさせる部位は、シートバックでも座面でもよい。この触覚刺激は、運転席に設ける振動子によって実現すればよい。第2刺激にあたる触覚刺激としては、ステアリングの振動としてもよい。この触覚刺激は、ステアリングに設ける振動子によって実現すればよい。第2刺激にあたる触覚刺激としては、自車の床面の振動としてもよい。この触覚刺激は、自車の床面に設ける振動子によって実現すればよい。第2刺激にあたる触覚刺激としては、運転席のシートベルトの巻き上げ及び巻き戻しの繰り返しであってもよい。この触覚刺激は、シートベルトの巻き上げ及び巻き戻しを行うモータによって実現すればよい。
【0054】
第2刺激にあたる聴覚刺激としては、一定間隔での音の出力がある。音としては、一定間隔のビープ音,ビート音,一定間隔の環境音等を用いればよい。音としては、心音を模した音を用いてもよい。第2刺激にあたる視覚刺激としては、光の明滅がある。
【0055】
第2刺激は、触覚刺激,聴覚刺激,視覚刺激を組み合わせたものであってもよい。本実施形態では、第2刺激として、ビート音を用いる場合を例に挙げて説明する。ここで、
図3を用いて、第2刺激について説明する。
図3では、第2刺激の例として、ビート音を用いて説明する。
図3に示すように、第2刺激では、一定間隔で音を断続的に出力する。
図3の例では、音を出力する際の音量は一定とする。
【0056】
ここで、
図4を用いて、第1刺激に第2刺激も加えて呼吸誘導を行った場合の実際の効果について説明する。
図4は、第1刺激に第2刺激も加えて呼吸誘導を行った場合の、吸気期間と呼気期間との切り替えのタイミングのあわせやすさの検証結果を示す図である。
図4では、比較対象として、第1刺激のみで呼吸誘導を行った場合のタイミングのあわせやすさの結果を用いている。検証の参加人数は10名である。吸気期間及び呼気期間としては、5種類の組み合わせを用いた。1つ目は、吸気期間2.5秒と呼気期間5秒の組である。2つ目は、吸気期間3秒と呼気期間6秒との組である。3つ目は、吸気期間3.5秒と呼気期間7秒の組である。4つ目は、吸気期間24秒と呼気期間8秒の組である。5つ目は、吸気期間4.5秒と呼気期間8秒の組である。タイミングのあわせやすさは、検証参加者に1~8の7段階で評価されている。
図4に示すように、第1刺激のみの場合に比べ、第1刺激に第2刺激も加えた方が、有意にタイミングがあわせやすくなっている。なお、単発の音声ガイドによる呼吸誘導と比較しても、第1刺激に第2刺激も加えた方が、タイミングがあわせやすくなることも別に検証済みである。単発の音声ガイドとは、「吸って」と「吐いて」との発話である。
【0057】
呼吸誘導制御部206は、第2刺激での刺激の提示のタイミングを、吸気期間と呼気期間との切り替えのタイミングに一致させることが好ましい。一例は、
図3に示す通りである。これによれば、次の吸気と呼気との切り替えタイミングをより予測しやすくなる。その結果、目標呼吸リズムに合わせた呼吸の調整を運転者が行いやすくなる。この場合、呼吸誘導制御部206は、第2刺激の周期を、第2刺激での刺激の提示のタイミングが、吸気期間と呼気期間との切り替えのタイミングに一致するように設定する。
【0058】
呼吸誘導制御部206は、第2刺激での一定間隔の断続的な刺激の周期を、運転者の心拍拍動の周期と同じ周期にさせることが好ましい。呼吸誘導制御部206は、心拍特定部232で特定した心拍をもとに、これを実現すればよい。例えば、心拍の拍動数が1分あたり60回の場合には、刺激の周期も1分あたり60回とすればよい。ここで言うところの同じ周期とは、略同一と言える誤差範囲を含んでもよい。これによれば、第2刺激のリズムが運転者の心拍と同じリズムとなる。よって、運転者にとって第2刺激の受容性が高まる。その結果、第2刺激による運転者のディストラクションが生じにくくなる。以下では、第2刺激での一定間隔の断続的な刺激の周期を、第2刺激周期と呼ぶ。
【0059】
呼吸誘導制御部206は、目標状態が「覚醒状態」の場合には、第2刺激周期を、運転者の心拍拍動の周期よりも短い周期にさせることが好ましい。呼吸誘導制御部206は、心拍特定部232で特定した心拍をもとに、これを実現すればよい。目標状態が「覚醒状態」の場合とは、「覚醒状態」を目標とする目標呼吸リズムの場合と言い換えることができる。運転者の心拍拍動よりも周期が短めの刺激を与えることで、心理状態が活性方向に誘導される。よって、以上の構成によれば、「覚醒状態」への誘導がより容易になる。一方、呼吸誘導制御部206は、目標状態が「リラックス状態」の場合には、第2刺激周期を、運転者の心拍拍動の周期よりも長い周期にさせることが好ましい。呼吸誘導制御部206は、心拍特定部232で特定した心拍をもとに、これを実現すればよい。目標状態が「リラックス状態」の場合とは、「リラックス状態」を目標とする目標呼吸リズムの場合と言い換えることができる。運転者の心拍拍動よりも周期が長めの刺激を与えることで、心理状態が不活性方向に誘導される。よって、以上の構成によれば、「リラックス状態」への誘導がより容易になる。
【0060】
運転者に視覚刺激を提示することは、運転者のディストラクションを生じさせるおそれがある。よって、呼吸誘導制御部206は、自車が走行中の場合には、第1刺激及び第2刺激として、視覚刺激を用いないようにすればよい。一方、呼吸誘導制御部206は、自車が停車中の場合には、第1刺激及び第2刺激として、視覚刺激を用いればよい。検証によって、走行中には視覚刺激を行わない方が、運転者が心地よく呼吸誘導を受けられることが確認されている。一方、検証によって、停車中には視覚刺激を行った方が、運転者が心地よく呼吸誘導を受けられることが確認されている。よって、以上の構成によれば、自車が走行中か停止中かに応じて、運転者が心地よく呼吸誘導を受けられるようにすることが可能になる。
【0061】
また、呼吸誘導制御部206は、自車が走行中の場合に、視覚刺激の強度を、自車が停車中の場合よりも弱める構成としてもよい。以上の構成によっても、走行中に運転者のディストラクションが生じるのを抑えることが可能になる。
【0062】
呼吸誘導制御部206は、吸気期間と呼気期間との切り替えのタイミングで、第1刺激及び第2刺激とは異なる種類の刺激である第3刺激を行わせることが好ましい。これによれば、吸気と呼気との切り替えタイミングがよりわかりやすくなる。第3刺激としては、例えば聴覚刺激,嗅覚刺激を用いることができる。
【0063】
第3刺激にあたる聴覚刺激としては、空気の抜ける音を模した音(以下、抜け音)の出力がある。この音の出力は、吸気期間から呼気期間に切り替わるタイミングで発生させればよい。これによれば、吸気期間から呼気期間に切り替わるタイミングを、運転者が直感的に認識しやすくなる。第3刺激にあたる嗅覚刺激としては、匂い成分の発生がある。匂い成分は、芳香(つまり、良い香り)の匂い成分とすればよい。匂い成分の発生は、呼気期間から吸気期間に切り替わるタイミングで発生させればよい。これによれば、運転者が匂いを嗅ごうとして、吸気期間に切り替わるタイミングで吸気を行うことになる。匂い成分は、目標状態に応じた匂い成分とすることが好ましい。例えば、目標状態が「リラックス状態」の場合には、セドロールといったリラックス効果のある匂い成分を用いればよい。
【0064】
第3刺激は、聴覚刺激,嗅覚刺激を組み合わせたものであってもよい。第3刺激は、聴覚刺激,嗅覚刺激のいずれかのみであってもよい。ここで、
図5を用いて、第3刺激について説明する。
図5では、第3刺激の例として、抜け音の出力を用いて説明する。
図5に示すように、第3刺激としての抜け音を、吸気期間から呼気期間に切り替わるタイミングで出力させる。呼気期間から吸気期間に切り替わるタイミングでは、芳香の匂い成分を出力させればよい。
【0065】
呼吸誘導制御部206は、運転負荷推定部202で運転負荷が高負荷と推定した場合には、運転負荷が低負荷と推定した場合に比べ、運転者への刺激の強度を弱めることが好ましい。運転負荷が高負荷の場合には、呼吸誘導に対する認知の負荷が、運転者の運転へ大きな影響を及ぼすおそれがある。これに対して、以上の構成によれば、運転負荷が高負荷の場合には、呼吸誘導に対する認知の負荷を下げることができる。その結果、運転への影響を抑えて呼吸誘導を行うことが可能になる。強度を弱める刺激は、第1刺激、第2刺激、及び第3刺激の全てであってもよいし、一部であってもよい。第1刺激、第2刺激、及び第3刺激のうちの、強度を弱めることが可能な刺激について弱める構成としてもよい。なお、匂い成分の強度を弱めるとは、匂い成分の濃度を下げることとすればよい。
【0066】
ここで、
図6を用いて、運転負荷が高負荷の場合の刺激について説明する。
図6では、
図3の例を比較対象として説明する。
図6の刺激の強度変化を表す線のうち、破線が低負荷の場合の刺激を示す。この低負荷の場合の刺激の強度変化が、
図3で示した刺激の強度変化にあたる。
図6の刺激の強度変化を表す線のうち、実線が高負荷の場合の刺激の強度変化を示す。
図6に示すように、呼吸誘導制御部206は、高負荷の場合には、第1刺激及び第2刺激のいずれについても、低負荷の場合よりも強度を弱める。
図6では、第3刺激についての記載がないが、第3刺激も行う場合には、第3刺激についても同様とすればよい。
【0067】
対象有無判定部207は、呼吸誘導制御部206で制御する刺激のうち、環境状態が大きなノイズとなる刺激(以下、対象刺激)の有無を判定する。対象有無判定部207は、環境状態特定部201で特定する環境状態をもとに、対象刺激の有無を判定する。一例として、マイクで収集した音の音量が閾値以上の場合に、音にあたる対象刺激が有ると判定すればよい。日射センサ,照度センサで検出した明るさが閾値以上の場合に、光,表示にあたる対象刺激が有ると判定すればよい。振動センサで検出した揺れの度合が閾値以上の場合に、振動にあたる対象刺激が有ると判定すればよい。
【0068】
呼吸誘導制御部206は、対象有無判定部207で対象刺激が有ると判定した場合に、その対象刺激の強度を強めることが好ましい。例えば、音にあたる対象刺激が有ると判定した場合には、音の音量を上げればよい。光,表示にあたる対象刺激が有ると判定した場合には、光,表示の輝度を上げればよい。振動にあたる対象刺激が有ると判定した場合には、振動を強くすればよい。これによれば、誘導刺激が運転者に感じ取りにくくなるのを防ぐことが可能になる。
【0069】
ここで、
図7を用いて、対象刺激の強度を強める場合の刺激について説明する。
図7の刺激の強度変化を表す線のうち、一点鎖線が対象刺激の強度変化を示す。
図7の刺激の強度変化を表す線のうち、実線が対象刺激以外の刺激の強度変化を示す。対象刺激に該当する刺激も、対象刺激に該当しない場合は、実線で示す強度変化を示すものとする。
図7に示すように、呼吸誘導制御部206は、対象刺激の強度を、対象刺激に該当しなかった場合に比べて強める。
【0070】
また、呼吸誘導制御部206は、対象刺激が有ると判定した場合に、呼吸誘導制御部206で制御する刺激のうちのその対象刺激以外の刺激の強度を強めてもよい。例えば、音にあたる対象刺激が有ると判定した場合には、光,表示の輝度を上げたり、振動を強めたりすればよい。光,表示にあたる対象刺激が有ると判定した場合には、音の音量を上げたり、振動を強めたりすればよい。振動にあたる対象刺激が有ると判定した場合には、光,表示の輝度を上げたり、音の音量を上げたりすればよい。これによれば、各刺激が補完しあうことによって、誘導刺激が運転者に感じ取りにくくなるのを防ぐことが可能になる。
【0071】
<HCU20での心理状態誘導関連処理>
続いて、
図8のフローチャートを用いて、HCU20での心理状態誘導関連処理の流れの一例について説明を行う。
図8のフローチャートは、例えば、自車のパワースイッチがオンになった場合に開始する構成とすればよい。パワースイッチとは、自車の内燃機関又はモータジェネレータを始動させるためのスイッチである。パワースイッチがオンになった場合に、HCU20の電源もオンになる構成とすればよい。他にも、操作デバイス24を介して、心理状態誘導関連処理を実行する機能がオンに設定されていることも条件に加えてもよい。
【0072】
まず、ステップS1では、各種状態の特定を開始する。S1では、環境状態特定部201での自車の環境状態の特定を開始する。S1では、運転者状態特定部203での運転者の状態の特定を開始する。この運転者の状態には、心拍も含まれる。ステップS2では、実施判定部204が、呼吸誘導の実施の有無の判定を行う。そして、呼吸誘導を実施すると判定した場合(S2でYES)に、ステップS3に移る。一方、呼吸誘導を実施しないと判定した場合(S2でNO)には、ステップS11に移る。
【0073】
ステップS3では、リズム決定部205が、目標状態に運転者の心理状態を変化させるための目標呼吸リズムを決定する。ステップS4では、呼吸誘導制御部206が、第2刺激周期を、運転者の心拍拍動の周期と同じ周期に設定する。S4では、S1で特定した心拍をもとに、この設定を行えばよい。
【0074】
ステップS5では、呼吸誘導制御部206が、目標状態に応じて、必要であれば第2刺激周期を設定し直す。S5では、目標状態が「覚醒状態」の場合には、第2刺激周期を、運転者の心拍拍動の周期よりも短い周期に設定し直す。S5では、目標状態が「リラックス状態」の場合には、第2刺激周期を、運転者の心拍拍動の周期よりも長い周期に設定し直す。
【0075】
ステップS6では、呼吸誘導制御部206が、自車の走行状態に応じて、誘導刺激の強度を設定する。S6では、自車が走行中の場合に、視覚刺激の強度を、自車が停車中の場合よりも弱める設定を行う。S6では、自車が走行中の場合に、視覚刺激を行わせない設定をしてもよい。リズム決定部205で視覚刺激を含む誘導刺激を決定していない場合には、S6を省略すればよい。なお、呼吸誘導制御部206は、対象有無判定部207で対象刺激が有ると判定した場合に、その対象刺激の強度を強めて設定してもよい。また、呼吸誘導制御部206は、対象刺激が有ると判定した場合に、目標呼吸リズムで制御する刺激のうちのその対象刺激以外の刺激の強度を強めて設定してもよい。
【0076】
ステップS7では、呼吸誘導制御部206が、S3で決定された目標呼吸リズムに合わせて運転者が呼吸を行うように、呼吸誘導装置23の制御を開始する。S7では、誘導刺激について、S3~S6での設定に従って制御する。
【0077】
ステップS8は、呼吸誘導の実施タイミングが終了した場合(S8でYES)には、ステップS10に移る。一例として、心理状態特定部231で特定する運転者の心理状態が、目標状態となった場合に、呼吸誘導の実施タイミングが終了する。一方、呼吸誘導の実施タイミングが終了していない場合(S8でNO)には、ステップS9に移る。
【0078】
ステップS9では、心理状態誘導関連処理の終了タイミングであった場合(S9でYES)には、呼吸誘導制御部206が呼吸の誘導を終了する。そして、心理状態誘導関連処理を終了する。一方、心理状態誘導関連処理の終了タイミングでなかった場合(S9でNO)には、S6に戻って処理を繰り返す。心理状態誘導関連処理の終了タイミングの一例としては、自車のパワースイッチがオフになったことが挙げられる。心理状態誘導関連処理の終了タイミングの一例としては、心理状態誘導関連処理を実行する機能がオフに切り替わったことも挙げられる。
【0079】
ステップS10では、呼吸誘導制御部206が呼吸の誘導を休止する。ステップS11では、心理状態誘導関連処理の終了タイミングであった場合(S11でYES)には、心理状態誘導関連処理を終了する。一方、心理状態誘導関連処理の終了タイミングでなかった場合(S11でNO)には、S2に戻って処理を繰り返す。
【0080】
(実施形態2)
実施形態1の構成に限らず、以下の実施形態2の構成としてもよい。以下では、実施形態2の構成の一例について図を用いて説明する。実施形態2の運転支援システム1は、HCU20の代わりにHCU20aを含む点を除けば、実施形態1の運転支援システム1と同様である。
【0081】
ここで、
図9を用いて、HCU20aの概略構成について説明を行う。HCU20aは、心理状態誘導関連処理に関して、環境状態特定部201、運転負荷推定部202、運転者状態特定部203、実施判定部204、リズム決定部205、呼吸誘導制御部206a、及び対象有無判定部207を機能ブロックとして備える。HCU20aは、呼吸誘導制御部206の代わりに呼吸誘導制御部206aを備える点を除けば、実施形態1のHCU20と同様である。このHCU20aも、心理状態誘導装置に相当する。また、コンピュータによってHCU20aの各機能ブロックの処理が実行されることも、心理状態誘導方法が実行されることに相当する。
【0082】
呼吸誘導制御部206aは、一部の処理が異なる点を除けば、呼吸誘導制御部206と同様である。呼吸誘導制御部206aは、第2刺激周期を、1分あたり60回の周期を起点とする所定範囲内の周期(以下、心拍類似周期)にさせる。呼吸誘導制御部206aでは、第2刺激周期を、心拍特定部232で特定した心拍をもとにして設定しない。ここで言うところの所定範囲は、人の平常時の心拍拍動として平均的な範囲とすればよい。この範囲は、実験等で予め設定すればよい。例えば平常時とは、ラッセルの円環モデルにおける活性不活性及び快不快のいずれもが、中間的な状態とすればよい。心拍類似周期とは、平常時の人の心拍拍動の周期と推定される周期である。例えば、心拍類似周期としては、1分あたり60~80回の周期を設定すればよい。一例として、1分あたり75回の周期とすればよい。
【0083】
呼吸誘導制御部206aは、目標状態が「覚醒状態」の場合には、第2刺激周期を、心拍類似周期よりも短い周期にさせることが好ましい。平常時の人の心拍拍動と推定される心拍拍動よりも周期が短めの刺激を与えることで、運転者の心理状態が活性方向に誘導される可能性が高い。よって、以上の構成によれば、「覚醒状態」への誘導がより容易になる。一方、呼吸誘導制御部206は、目標状態が「リラックス状態」の場合には、第2刺激周期を、心拍類似周期よりも長い周期にさせることが好ましい。平常時の人の心拍拍動と推定される心拍拍動よりも周期が長めの刺激を与えることで、運転者の心理状態が不活性方向に誘導される可能性が高い。よって、以上の構成によれば、「リラックス状態」への誘導がより容易になる。
【0084】
(実施形態3)
前述の実施形態では、心理状態誘導関連処理を、HCU20,20aが担う構成を示したが、必ずしもこれに限らない。例えば、心理状態誘導関連処理を、HCU20,20aと他のECUとで担う構成としてもよい。心理状態誘導関連処理を、HCU20,20aとは別のECUが担う構成としてもよい。
【0085】
なお、本開示は、上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本開示の技術的範囲に含まれる。また、本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサを構成する専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の装置及びその手法は、専用ハードウェア論理回路により、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の装置及びその手法は、コンピュータプログラムを実行するプロセッサと一つ以上のハードウェア論理回路との組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【0086】
(開示されている技術的思想)
この明細書は、以下に列挙された複数の項に記載された複数の技術的思想を開示している。いくつかの項は、後続の項において先行する項を択一的に引用する多項従属形式(a multiple dependent form)により記載されている場合がある。さらに、いくつかの項は、他の多項従属形式の項を引用する多項従属形式(a multiple dependent form referring to another multiple dependent form)により記載されている場合がある。これらの多項従属形式で記載された項は、複数の技術的思想を定義している。
【0087】
技術的思想1
車両の運転者の心理状態を目標とする心理状態に変化させるための目標呼吸リズムを決定するリズム決定部(205)と、
前記リズム決定部で決定される前記目標呼吸リズムに合わせて前記運転者が呼吸を行うように誘導するための刺激の制御を行う呼吸誘導制御部(206,206a,206b,206c)とを備え、
前記リズム決定部は、前記目標呼吸リズムとして、吸気を行う吸気期間と呼気を行う呼気期間とを決定し、
前記呼吸誘導制御部は、同一の種類の刺激についての、方向性が異なる2パターンの連続的な刺激の変化を、前記吸気期間と前記呼気期間とにそれぞれ割り当てて行わせる第1刺激に加え、一定間隔の断続的な刺激である第2刺激も行わせる心理状態誘導装置。
【0088】
技術的思想2
技術的思想1に記載の心理状態誘導装置であって、
前記呼吸誘導制御部は、前記吸気期間と前記呼気期間との切り替えのタイミングで、前記第1刺激及び前記第2刺激とは異なる種類の刺激である第3刺激を行わせる心理状態誘導装置。
【0089】
技術的思想3
技術的思想1又は2に記載の心理状態誘導装置であって、
前記呼吸誘導制御部は、前記第1刺激として、同一の種類の刺激についての、方向性が互いに逆方向の2パターンの連続的な刺激の変化を、前記吸気期間と前記呼気期間とにそれぞれ割り当てて行わせる心理状態誘導装置。
【0090】
技術的思想4
技術的思想1~3のいずれか1項に記載の心理状態誘導装置であって、
前記呼吸誘導制御部は、前記方向性が異なる2パターンの連続的な刺激の変化として、前記運転者に吸気と呼気とをそれぞれ想起させやすいと推定される変化を行わせる心理状態誘導装置。
【0091】
技術的思想5
技術的思想1~4のいずれか1項に記載の心理状態誘導装置であって、
前記呼吸誘導制御部は、前記第2刺激での刺激の提示のタイミングを、前記吸気期間と前記呼気期間との切り替えのタイミングに一致させる心理状態誘導装置。
【0092】
技術的思想6
技術的思想1~5のいずれか1項に記載の心理状態誘導装置であって、
前記呼吸誘導制御部は、前記第2刺激での一定間隔の断続的な刺激の周期を、1分あたり60回の周期を起点とする所定範囲内の周期である心拍類似周期にさせる心理状態誘導装置。
【0093】
技術的思想7
技術的思想1~5のいずれか1項に記載の心理状態誘導装置であって、
前記リズム決定部で決定する前記目標呼吸リズムによって変化させる目標とする心理状態には、少なくとも前記運転者の覚醒状態とリラックス状態とが存在し、
前記呼吸誘導制御部は、前記覚醒状態を目標とする前記目標呼吸リズムの場合には、前記第2刺激での一定間隔の断続的な刺激の周期を、1分あたり60回の周期を起点とする所定範囲内の周期である心拍類似周期よりも短い周期にさせる一方、前記リラックス状態を目標とする前記目標呼吸リズムの場合には、前記第2刺激での一定間隔の断続的な刺激の周期を、前記心拍類似周期よりも長い周期にさせる心理状態誘導装置。
【0094】
技術的思想8
技術的思想1~5のいずれか1項に記載の心理状態誘導装置であって、
前記運転者の心拍を特定する心拍特定部(232)を備え、
前記呼吸誘導制御部は、前記心拍特定部で特定した心拍をもとに、前記第2刺激での一定間隔の断続的な刺激の周期を、前記運転者の心拍拍動の周期と同じ周期にさせる心理状態誘導装置。
【0095】
技術的思想9
技術的思想1~5のいずれか1項に記載の心理状態誘導装置であって、
前記リズム決定部で決定する前記目標呼吸リズムによって変化させる目標とする心理状態には、前記運転者の覚醒状態とリラックス状態とがあり、
前記運転者の心拍を特定する心拍特定部(232)を備え、
前記呼吸誘導制御部は、前記心拍特定部で特定した心拍をもとに、前記覚醒状態を目標とする前記目標呼吸リズムの場合には、前記第2刺激での一定間隔の断続的な刺激の周期を、前記運転者の心拍拍動の周期よりも短い周期にさせる一方、前記リラックス状態を目標とする前記目標呼吸リズムの場合には、前記第2刺激での一定間隔の断続的な刺激の周期を、前記運転者の心拍拍動の周期よりも長い周期にさせる心理状態誘導装置。
【0096】
技術的思想10
技術的思想1~9のいずれか1項に記載の心理状態誘導装置であって、
前記運転者の運転負荷の高低を推定する運転負荷推定部(202)を備え、
前記呼吸誘導制御部は、前記運転負荷推定部で前記運転負荷が高負荷と推定した場合には、前記運転負荷が低負荷と推定した場合に比べ、前記運転者への刺激の強度を弱める心理状態誘導装置。
【0097】
技術的思想11
技術的思想1~10のいずれか1項に記載の心理状態誘導装置であって、
前記車両の車内外の環境状態を特定する環境状態特定部(201)と、
前記環境状態特定部で特定する前記環境状態をもとに、前記呼吸誘導制御部で制御する刺激のうち、その環境状態が大きなノイズとなる刺激である対象刺激の有無を判定する対象有無判定部(207)とを備え、
前記呼吸誘導制御部は、前記対象有無判定部で前記対象刺激が有ると判定した場合に、その対象刺激の強度を強めるか、若しくは前記呼吸誘導制御部で制御する刺激のうちのその対象刺激以外の刺激の強度を強める心理状態誘導装置。
【0098】
技術的思想12
少なくとも1つのプロセッサにより実行される、
車両の運転者の心理状態を目標とする心理状態に変化させるための目標呼吸リズムを決定するリズム決定工程と、
前記リズム決定工程で決定される前記目標呼吸リズムに合わせて前記運転者が呼吸を行うように誘導するための刺激の制御を行う呼吸誘導制御工程とを含み、
前記リズム決定工程では、前記目標呼吸リズムとして、吸気を行う吸気期間と呼気を行う呼気期間とを決定し、
前記呼吸誘導制御工程では、同一の種類の刺激についての、方向性が異なる2パターンの連続的な刺激の変化を、前記吸気期間と前記呼気期間とにそれぞれ割り当てて行わせる第1刺激に加え、一定間隔の断続的な刺激である第2刺激も行わせる心理状態誘導方法。
【符号の説明】
【0099】
1 運転支援システム、2 HMIシステム、20,20a,20b,20c HCU(心理状態誘導装置)、23 呼吸誘導装置、201 環境状態特定部、202 運転負荷推定部、205 リズム決定部、206,206a,206b,206c 呼吸誘導制御部、207 対象有無判定部、232 心拍特定部