(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178882
(43)【公開日】2023-12-18
(54)【発明の名称】負極活物質、負極及び非水電解質蓄電素子
(51)【国際特許分類】
H01M 4/587 20100101AFI20231211BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20231211BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20231211BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20231211BHJP
H01M 10/0525 20100101ALI20231211BHJP
H01M 4/133 20100101ALI20231211BHJP
H01G 11/06 20130101ALI20231211BHJP
H01G 11/42 20130101ALI20231211BHJP
H01G 11/30 20130101ALI20231211BHJP
H01G 11/68 20130101ALI20231211BHJP
H01G 11/60 20130101ALI20231211BHJP
【FI】
H01M4/587
H01M4/36 A
H01M4/66 A
H01M10/0569
H01M10/0525
H01M4/133
H01G11/06
H01G11/42
H01G11/30
H01G11/68
H01G11/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022091843
(22)【出願日】2022-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】澤田 英佑
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 安奈
(72)【発明者】
【氏名】吉川 航暉
(72)【発明者】
【氏名】西井 克弥
【テーマコード(参考)】
5E078
5H017
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5E078AA01
5E078AB02
5E078AB06
5E078DA03
5E078FA13
5H017AA03
5H017EE05
5H029AJ03
5H029AK01
5H029AK02
5H029AK03
5H029AL01
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM05
5H029AM07
5H029AM12
5H029AM16
5H029DJ07
5H029EJ01
5H029HJ01
5H029HJ18
5H050AA08
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA02
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CB01
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA03
5H050DA08
5H050HA01
5H050HA18
(57)【要約】 (修正有)
【課題】閉回路電位0.40V vs.Li/Li
+以上の電位範囲における放電容量が大きく且つクーロン効率が高い負極活物質、並びにこのような負極活物質を用いた負極及び非水電解質蓄電素子を提供する。
【解決手段】本発明の一側面に係る非水電解質蓄電素子用の負極活物質は、元素Mを含有する炭素材料であり、上記元素Mは、第一原理計算に基づく計算結果において、黒鉛の結晶構造を構成する炭素原子の一部を上記元素Mの原子と置換した場合にその黒鉛のリチウムイオンとの反応電位を高める元素であり、800℃超の雰囲気温度下で脱離する酸素元素の含有量が6質量%以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
元素Mを含有する炭素材料であり、
上記元素Mは、第一原理計算に基づく計算結果において、黒鉛の結晶構造を構成する炭素原子の一部を上記元素Mの原子と置換した場合にその黒鉛のリチウムイオンとの反応電位を高める元素であり、
800℃超の雰囲気温度下で脱離する酸素元素の含有量が6質量%以下である、非水電解質蓄電素子用の負極活物質。
【請求項2】
元素Mを含有する炭素材料であり、
上記元素Mが、ベリリウム元素、ホウ素元素、アルミニウム元素、ケイ素元素、リン元素、硫黄元素、チタン元素及びガリウム元素からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
800℃超の雰囲気温度下で脱離する酸素元素の含有量が6質量%以下である、非水電解質蓄電素子用の負極活物質。
【請求項3】
上記元素Mの含有量が0.05質量%以上15質量%以下である、請求項1又は請求項2に記載の負極活物質。
【請求項4】
閉回路電位0.40V vs.Li/Li+の充電状態から、上記負極活物質の質量当たり50mA/gの電流で閉回路電位2.00V vs.Li/Li+まで定電流放電し、その後10分経過時点における開回路電位が、1.33V vs.Li/Li+以上である、請求項1、請求項2又は請求項3に記載の負極活物質。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の負極活物質を備える、非水電解質蓄電素子用の負極。
【請求項6】
アルミニウム元素を主成分とする負極基材をさらに備える、請求項5に記載の負極。
【請求項7】
請求項5又は請求項6に記載の負極を備える、非水電解質蓄電素子。
【請求項8】
プロピレンカーボネートを含む非水電解質をさらに備える、請求項7に記載の非水電解質蓄電素子。
【請求項9】
通常使用時の充電終止電圧における負極電位が0.35V vs.Li/Li+以上である、請求項7又は請求項8に記載の非水電解質蓄電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極活物質、負極及び非水電解質蓄電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池は、エネルギー密度の高さから、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等に多用されている。非水電解質二次電池は、一般的には、セパレータで電気的に隔離された一対の電極と、この電極間に介在する非水電解質とを有し、両電極間で電荷輸送イオンの受け渡しを行うことで充放電するよう構成される。また、非水電解質二次電池以外の非水電解質蓄電素子として、リチウムイオンキャパシタや電気二重層キャパシタ等のキャパシタも広く普及している。
【0003】
非水電解質蓄電素子の負極活物質には、黒鉛、非黒鉛質炭素等の炭素材料が広く用いられている(特許文献1、2参照)。他の負極活物質として、チタン酸リチウムも知られている(特許文献3参照)。一方、非水電解質蓄電素子の負極基材としては銅箔が広く用いられている。例えば、銅箔に黒鉛等を含む負極活物質層を設けることにより、非水電解質蓄電素子用の負極が作製される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2018/043369号
【特許文献2】特開2013-016353号公報
【特許文献3】特開2015-28949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
低コスト化、軽量化、過放電時の基材の成分の溶出抑制等の観点からは、負極基材として銅箔に替えてアルミニウム箔を用いることが望ましい。しかし、電荷輸送イオンとしてリチウムイオン、負極基材としてアルミニウム箔が使用された非水電解質蓄電素子においては、リチウム-アルミニウム合金化反応が生じやすいことから、閉回路電位0.35V vs.Li/Li+程度以上の高い電位範囲で負極を作動させる必要がある。このような電位範囲で負極を作動させることにより、負極における金属リチウムのデンドライト状の析出を抑制できるため、急速充電も可能となる。
【0006】
しかしながら、黒鉛及び難黒鉛化性炭素等の一般的な炭素材料は、閉回路電位0.40V vs.Li/Li+以上の電位範囲における放電容量が小さい。また、発明者らの知見によれば、酸素元素を含有する炭素材料である酸化黒鉛を閉回路電位0.40V vs.Li/Li+以上の電位範囲で使用した場合、放電容量は大きいものの、充電容量に対する放電容量の比、すなわちクーロン効率が低い。また、アルミニウム箔を負極基材として適用可能な負極活物質であるチタン酸リチウムは、放電容量が小さい、コストが高い等の不都合を有する。
【0007】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、閉回路電位0.40V vs.Li/Li+以上の電位範囲における放電容量が大きく且つクーロン効率が高い負極活物質、並びにこのような負極活物質を用いた負極及び非水電解質蓄電素子を提供することである。
【0008】
なお、本明細書においては、非水電解質から負極活物質に電荷輸送イオン(リチウムイオン非水電解質二次電池の場合はリチウムイオン)が吸蔵される還元反応を「充電」、負極活物質から電荷輸送イオンが放出される酸化反応を「放電」という。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面に係る非水電解質蓄電素子用の負極活物質(A)は、元素Mを含有する炭素材料であり、上記元素Mは、第一原理計算に基づく計算結果において、黒鉛の結晶構造を構成する炭素原子の一部を上記元素Mの原子と置換した場合にその黒鉛のリチウムイオンとの反応電位を高める元素であり、800℃超の雰囲気温度下で脱離する酸素元素の含有量が6質量%以下である。
【0010】
本発明の一側面に係る非水電解質蓄電素子用の負極活物質(B)は、元素Mを含有する炭素材料であり、上記元素Mが、ベリリウム元素、ホウ素元素、アルミニウム元素、ケイ素元素、リン元素、硫黄元素、チタン元素及びガリウム元素からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、800℃超の雰囲気温度下で脱離する酸素元素の含有量が6質量%以下である。
【0011】
本発明の一側面に係る非水電解質蓄電素子用の負極は、上記負極活物質(A)又は上記負極活物質(B)を備える。
【0012】
本発明の一側面に係る非水電解質蓄電素子は、上記負極を備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一側面によれば、閉回路電位0.40V vs.Li/Li+以上の電位範囲における放電容量が大きく且つクーロン効率が高い負極活物質、並びにこのような負極活物質を用いた負極及び非水電解質蓄電素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子を示す外観斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子を複数個集合して構成した蓄電装置を示す概略図である。
【
図3】
図3は、実施例4及び比較例1、2の各非水電解質蓄電素子における1サイクル目の充放電曲線である。
【
図4】
図4は、実施例4及び比較例1、2の各非水電解質蓄電素子における3サイクル目の放電曲線(放電後の開回路電圧を含む)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
初めに、本明細書によって開示される負極活物質、負極及び非水電解質蓄電素子の概要について説明する。
【0016】
本発明の一側面に係る非水電解質蓄電素子用の負極活物質(A)は、元素Mを含有する炭素材料であり、上記元素Mは、第一原理計算に基づく計算結果において、黒鉛の結晶構造を構成する炭素原子の一部を上記元素Mの原子と置換した場合にその黒鉛のリチウムイオンとの反応電位を高める元素であり、800℃超の雰囲気温度下で脱離する酸素元素の含有量が6質量%以下である。
【0017】
当該負極活物質(A)は、閉回路電位0.40V vs.Li/Li+以上の電位範囲における放電容量が大きく且つクーロン効率が高い。この理由は定かではないが、以下の理由が推測される。炭素材料が元素Mを含有することにより、電荷輸送イオン(例えばリチウムイオン)との反応電位が高まり、閉回路電位0.40V vs.Li/Li+以上の電位範囲における放電容量が大きくなる。また、800℃超の雰囲気温度下で脱離する酸素元素、すなわち800℃以下の雰囲気温度下では脱離しない酸素元素は、炭素材料中で炭素元素と強く結合している酸素元素であり、このような酸素元素の存在がクーロン効率を低下させる原因の一つであると推測される。そのため、炭素材料である当該負極活物質中の800℃超の雰囲気温度下で脱離する酸素元素の含有量が6質量%以下である場合、閉回路電位0.40V vs.Li/Li+以上の電位範囲におけるクーロン効率が高まる。以上の理由から、当該負極活物質(A)においては上記効果が奏されるものと推測される。
【0018】
元素Mを特定する第一原理計算に基づく計算の方法については、後に詳述する。
【0019】
負極活物質(炭素材料)における酸素元素の含有量の測定は、充放電前の負極活物質に対して行うか、非水電解質蓄電素子の負極に組み込まれている負極活物質に対しては、以下の手順で処理したものに対して行う。まず、非水電解質蓄電素子を0.1Cの電流で通常使用時の放電終止電圧まで定電流放電する。その後、解体し、負極を取り出し、ジメチルカーボネートで洗浄する。洗浄した負極を作用極とし、金属リチウムを対極とした試験電池を組み立てる。この試験電池について、負極活物質の質量当たり50mA/gの電流で、負極の閉回路電位が2.0V vs.Li/Li+となるまで定電流放電を行い、負極活物質(炭素材料)を完全放電状態(充放電反応に関与する電荷輸送イオンが脱離した状態)に調整する。再解体し、負極を取り出す。取り出した負極を、ジメチルカーボネートで洗浄する。その後、負極活物質を含む負極合剤を負極基材から剥離し、負極合剤を水で洗浄する。水で洗浄した負極合剤を酸又はアルカリ溶液に浸漬し、負極基材由来の金属、及びSEI(solid electrolyte interface)被膜等を除去した後、水で洗浄し、減圧乾燥して、負極活物質を得る。非水電解質蓄電素子及び試験電池の解体作業は露点-60℃以下のアルゴン雰囲気中で行う。ここで、通常使用時とは、当該非水電解質蓄電素子について推奨され、又は指定される充放電条件を採用して当該非水電解質蓄電素子を使用する場合をいう。
【0020】
負極活物質(炭素材料)における酸素元素の含有量は、HORIBA社製の酸素・窒素・水素分析装置「EMGA-930」を用いた以下の方法により測定される。
酸素用検出器:不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法(NDIR)
試料質量:20mgから25mg
ガス抽出炉電力:インパルス炉出力 0から8.0kW(前もって出力と温度の関係を調べておき、設定温度ごとに変更する。)
キャリアガス:ヘリウム
校正方法:標準試料を用いた1点校正
積算条件:時間積算
設定温度ごとに積算した時間
(1)0秒から60秒(400℃)
(2)60秒から110秒(600℃)
(3)110秒から160秒(800℃)
(4)160秒から210秒(1000℃)
(5)210秒から260秒(1200℃)
(6)260秒から330秒(2500℃)
測定手順:黒鉛るつぼを抽出炉中に設置し、3231℃で30秒間、次に400℃で20秒間空焼きすることで、るつぼに含まれる酸素元素を除去する。そのるつぼを大気下に取り出し、試料20mgから25mgを中に入れ、再度抽出炉中に設置する。次に、上記(1)から(6)の設定温度及び時間で段階的に昇温、加熱することで、試料から各温度で脱離する酸素元素を定量する。なお、空焼き後に大気に暴露したるつぼに再度酸素元素が吸着していることを考慮して、空焼き後に大気に暴露したるつぼ単体から脱離する酸素元素の量についても測定し、その分を除去する。
「負極活物質(炭素材料)における800℃超の雰囲気温度下で脱離する酸素元素の含有量(質量%)」は、予め測定しておいた抽出炉での加熱前の試料(負極活物質)の質量に対する、1000℃、1200℃及び2500℃の設定温度で測定された酸素元素の質量の合計(積算時間160秒から330秒の間で測定された酸素元素の質量の合計)の百分率として求められる。
【0021】
本発明の一側面に係る非水電解質蓄電素子用の負極活物質(B)は、元素Mを含有する炭素材料であり、上記元素Mが、ベリリウム元素、ホウ素元素、アルミニウム元素、ケイ素元素、リン元素、硫黄元素、チタン元素及びガリウム元素からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、800℃超の雰囲気温度下で脱離する酸素元素の含有量が6質量%以下である。
【0022】
当該負極活物質(B)は、閉回路電位0.40V vs.Li/Li+以上の電位範囲における放電容量が大きく且つクーロン効率が高い。ベリリウム元素、ホウ素元素、アルミニウム元素、ケイ素元素、リン元素、硫黄元素、チタン元素及びガリウム元素は、第一原理計算に基づく計算結果において、黒鉛の結晶構造を構成する炭素原子の一部を上記元素Mの原子と置換した場合にその黒鉛のリチウムイオンとの反応電位を高める元素である。従って、上記した負極活物質(A)と同様の理由から、当該負極活物質(B)も上記効果が奏されると推測される。
【0023】
当該負極活物質(A)及び負極活物質(B)における上記元素Mの含有量は0.05質量%以上15質量%以下であることが好ましい。炭素材料である当該負極活物質(A)及び負極活物質(B)中の元素Mの含有量が上記範囲である場合、閉回路電位0.40V vs.Li/Li+以上の電位範囲における放電容量がより大きくなり、且つクーロン効率もより高まる。
【0024】
負極活物質(炭素材料)における元素Mの含有量は、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)法により測定される。負極活物質(炭素材料)は、マイクロ波分解法を用いた全溶解処理により硝酸水溶液に溶解させ、上記測定に供する。上記測定は、充放電前の負極活物質に対して行うか、非水電解質蓄電素子の負極に組み込まれている負極活物質に対しては、上記した「負極活物質(炭素材料)における酸素元素の含有量」を測定する場合と同様の手順で処理したものに対して行う。
【0025】
当該負極活物質(A)及び負極活物質(B)において、閉回路電位0.40V vs.Li/Li+の充電状態から、上記負極活物質の質量当たり50mA/gの電流で閉回路電位2.00V vs.Li/Li+まで定電流放電し、その後10分経過時点における開回路電位は、1.33V vs.Li/Li+以上であることが好ましい。このような条件で放電後の開回路電位が高い場合、開回路電位0.40V vs.Li/Li+以上の電位範囲における放電容量がより大きくなる。なお、炭素材料が有するグラフェン層中の炭素元素の一部が元素Mに置換されることで、高い電位範囲で電荷輸送イオンがグラフェン層中に挿入される吸蔵サイトが増加して、放電後の開回路電位が高まると推測される。すなわち、上記のように放電後の開回路電位が高いことは、炭素材料のグラフェン層中の炭素元素の一部が元素Mに十分に置換されていることを意味し、これにより、開回路電位0.40V vs.Li/Li+以上の電位範囲における放電容量がより大きくなるという効果が生じると推測される。
【0026】
上記開回路電位の測定は、金属リチウムを対極とした試験電池を組み立てて、25℃の温度下で行う。試験電池の作用極には、充放電前の負極を用いるか、非水電解質蓄電素子に組み込まれている場合は、上記した「負極活物質(炭素材料)における酸素元素の含有量」を測定する場合と同様の手順で、非水電解質蓄電素子を解体し、ジメチルカーボネートで洗浄した負極を用いる。試験電池の電解液には、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネートとが体積比30:35:35で混合された混合溶媒に1mol/dm3の濃度でLiPF6を溶解させた溶液を用いる。試験電池に対して、負極活物質の質量当たり50mA/gの電流で閉回路電位0.40V vs.Li/Li+まで定電流定電圧充電を行う。充電終止条件は、閉回路電位が0.40V vs.Li/Li+に到達してから12時間経過後とする。その後、負極活物質の質量当たり50mA/gの電流で閉回路電位2.00V vs.Li/Li+まで定電流放電し、その後10分経過時点における開回路電位を測定する。なお、対極が金属リチウムの場合、対極における金属リチウムの溶解・析出反応抵抗が極めて低いことから、充放電中の作用極と対極との間の電圧は、金属リチウムの酸化還元電位に対する作用極の電位とほぼ等しいとみなすことができる。
【0027】
本発明の一側面に係る非水電解質蓄電素子用の負極は、本発明の一側面に係る負極活物質(A)又は負極活物質(B)を備える。当該負極は、閉回路電位0.40V vs.Li/Li+以上の電位範囲における放電容量が大きく且つクーロン効率が高い。
【0028】
当該負極は、アルミニウム元素を主成分とする負極基材をさらに備えることが好ましい。アルミニウム元素を主成分とする負極基材を備える当該負極は、例えば閉回路電位0.40V vs.Li/Li+以上の電位範囲で使用した場合でも、放電容量が大きく且つクーロン効率が高く、且つ上記電位範囲で使用することでリチウム-アルミニウム合金化反応等の電荷輸送イオンが還元された金属とアルミニウムとの合金化反応を抑制することができる。また、当該負極は、アルミニウム元素を主成分とする負極基材を備えることで、軽量化、低コスト化等が可能となり、過放電時の負極基材の成分の溶出も抑制することができる。
【0029】
なお、主成分とは、質量基準で50質量%以上の含有量の成分をいう。
【0030】
本発明の一側面に係る非水電解質蓄電素子は、本発明の一側面に係る負極を備える。当該非水電解質蓄電素子は、負極電位が閉回路電位0.40V vs.Li/Li+以上の範囲で使用した場合の放電容量が大きく且つクーロン効率が高い。
【0031】
当該非水電解質蓄電素子は、プロピレンカーボネートを含む非水電解質をさらに備えることが好ましい。このような場合、非水電解質蓄電素子の充電受け入れ性能が向上し、高速での効率的な充電を行うことができる。
【0032】
当該非水電解質蓄電素子において、通常使用時の充電終止電圧における負極電位は0.35V vs.Li/Li+以上であることが好ましい。当該非水電解質蓄電素子は、このような負極電位範囲で使用する場合も放電容量が大きく且つクーロン効率が高い。また、当該非水電解質蓄電素子をこのような負極電位で使用することで、アルミニウム元素を主成分とする負極基材を負極に好適に適用することができる。
【0033】
本発明の一実施形態に係る負極活物質、負極、非水電解質蓄電素子、蓄電装置、非水電解質蓄電素子の製造方法、及びその他の実施形態について詳述する。なお、各実施形態に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称は、背景技術に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称と異なる場合がある。
【0034】
<負極活物質(A)>
本発明の一実施形態に係る負極活物質(A)は、炭素材料である。当該負極活物質は、非水電解質蓄電素子の負極活物質として用いられる。炭素材料とは、質量基準で最も含有量が多い元素が炭素元素である材料をいう。当該負極活物質(A)は、炭素元素以外に元素Mを含み、その他、水素元素、窒素元素、酸素元素等の他の元素をさらに含んでいてもよい。当該負極活物質(A)における炭素元素の含有量としては、70質量%以上99.95質量%以下が好ましく、80質量%以上99.9質量%以下がより好ましい。当該負極活物質(A)における炭素元素の含有量の下限は、90質量%、95質量%、97質量%、98質量%又は99.0質量%がさらに好ましい場合もある。当該負極活物質(A)における炭素元素の含有量の上限は、99.0質量%、97質量%又は95質量%がさらに好ましい場合もある。
【0035】
元素Mは、第一原理計算に基づく計算結果において、黒鉛の結晶構造を構成する炭素原子の一部を上記元素Mの原子と置換した場合にその黒鉛のリチウムイオンとの反応電位を高める元素である。なお、上記「黒鉛の結晶構造」に関し、この黒鉛の結晶構造に基づいて第一原理計算を行うのであって、当該負極活物質(A)は黒鉛の結晶構造を有するものに限定されない。以下、元素Mを特定するための第一原理計算の方法について説明する。
【0036】
第一原理計算とは、非経験的に物性の予測を行う計算方法であり、原子番号と空間座標が既知の原子を含むモデルの全エネルギーと、電子のエネルギーバンド構造を計算することができる手法である。計算方法には、大きく分けると、「波動関数理論」系と「密度汎関数理論」系の二種類が存在する。本明細書において用いた計算方法は、密度汎関数理論に基づくものである。
【0037】
第一原理計算を用い、以下の手順で元素Mを特定する。
(1)元素Mの候補となる任意の元素Aを選択する。LiC6(空間群:P6/mmm)の単位結晶格子(unit cell)をx軸方向及びz軸方向へそれぞれ2倍に伸ばした2×1×2スーパーセル(supercell)を作成する。次いで、炭素原子のうちの1/24を元素Aの原子と置換した「元素A置換黒鉛」C5.75A0.25の全エネルギーE1及びLiC5.75A0.25の全エネルギーE2を第一原理計算により算出する。C5.75A0.25の構造は放電状態(SOC0%)に対応し、LiC5.75A0.25の構造は理論上の充電状態(SOC100%)に対応する。
【0038】
(2)LiC5.75A0.25の構造におけるリチウム原子の配列には膨大な組み合わせが考えられ、全通りの評価が不可能であるため、遺伝的アルゴリズムを組み合わせた第一原理計算を行う。遺伝的アルゴリズムとは生物進化の過程を模倣した最適化アルゴリズムの一種であり、パラメーターを遺伝子で表した複数の個体から、優秀な遺伝子を優先的に組み替える作業を繰り返すことで、最適な個体を短期間で探索することのできる手法である。遺伝的アルゴリズムの計算条件を以下に示す。
1個体あたりの遺伝子の数:1
1世代ごとに生成する個体数:20
1世代ごとに生存させる個体の割合:0.6
2点交叉の割合:0.4
一様交叉の割合:0.4
遺伝子操作せずに無条件で次世代に引き継ぐ上位個体の数:3
一様交叉の発生確率:0.8
突然変異の発生確率:0.02
最大世代数:200
収束判定:最安定個体が10世代連続で更新されなかったとき。
【0039】
上記(2)の遺伝的アルゴリズムにおける第一原理計算にあたっては、計算ソフトウェアVienna Ab-initio Simulation Package(VASP)を用いることができる。計算条件は次のとおりとする。
平面波基底関数のカットオフエネルギー:400eV
交換相関相互作用の近似法:GGA+U
擬ポテンシャル:PAW(PBEsol)
k点:ガンマ点
エネルギーsmearing:ガウシアン法
【0040】
(3)上記(2)の結果における構造安定性の高い上位23構造を対象に、自由エネルギー値、各イオンの電荷等を正確に計算するために再度第一原理計算を行い、最安定だった構造の全エネルギーをE2とする。
【0041】
上記(1)及び(3)における全エネルギーE1及びE2の計算にあたっては、計算ソフトウェアVienna Ab-initio Simulation Package(VASP)を用いることができる。計算条件は次のとおりとする。k点はk-resolutionの値が1000程度となるように設定する。k-resolutionはモデル中の原子数とa、b、c軸方向のk点との積である。
平面波基底関数のカットオフエネルギー:420eV
交換相関相互作用の近似法:GGA+U
擬ポテンシャル:PAW(PBEsol)
k点:k-resolution≒1000
エネルギーsmearing:ガウシアン法
【0042】
上記E2と上記E1との差(E2-E1)を元素A置換黒鉛におけるリチウムイオンとの反応エネルギーEAとして求める。この反応エネルギーEAをリチウムの酸化還元電位を基準とした反応電位VAに換算する。元素Aが炭素元素である場合に同様に求められる反応電位が、黒鉛のリチウムとの反応電位VCである。反応電位VAが反応電位VCより大きくなるときの元素Aが、元素Mである。
【0043】
元素Aとして、炭素元素(C)、ホウ素元素(B)、アルミニウム元素(Al)、ケイ素元素(Si)、リン元素(P)、チタン元素(Ti)、窒素元素(N)、ガリウム元素(Ga)、硫黄元素(S)及びベリリウム元素(Be)を選択し、上記の方法によりそれぞれの反応電位VAを求めた結果を以下の表1に示す。
【0044】
【0045】
第一原理計算を行った上記表1の元素Aの中では、反応電位VAが0.30V vs.Li/Li+よりも高いB、Al、Si、P、Ti、Ga、S及びBeが、元素Mに該当する。反応電位VAが高い元素Mほど、閉回路電位0.40V vs.Li/Li+以上の電位範囲における放電容量をより大きくできることが期待される。一方、反応電位VAが高くなるほど、非水電解質蓄電素子の電圧が低下する。このため、上記第一原理計算により求まる反応電位VAは、例えば0.50V vs.Li/Li+以上1.60V vs.Li/Li+以下であることが好ましく、0.60V vs.Li/Li+以上1.40V vs.Li/Li+以下であることがより好ましい。このような点からは、上記元素Mの中では、B、Al、Si、P、Ga、S及びBeが好ましく、B、Al、Ga及びSがより好ましい。上記元素Mは、第2族から第16族の元素であることが好ましく、第13族から第16族の元素であることがより好ましく、第13族元素であることがさらに好ましい。元素Mは、1種又は2種以上を用いることができる。
【0046】
なお、LixC5.75A0.25に替えて、NaxC5.75A0.25及びKxC5.75A0.25において、同様に元素Aが炭素元素である場合とホウ素元素である場合との反応電位VAを第一原理計算により求めた。結果を以下の表2、3に示す。
【0047】
【0048】
【0049】
表2、3に示されるように、ナトリウムイオン又はカリウムイオンが電荷輸送イオンとして炭素材料中に吸蔵・放出される場合も、同様に炭素元素の一部をホウ素元素に置換することにより反応電位VAが高まる計算結果となった。当該負極活物質(A)をナトリウムイオン蓄電素子及びカリウムイオン蓄電素子に適用した場合も、閉回路電位0.40V vs.Li/Li+以上の電位範囲における放電容量が大きく且つクーロン効率が高いという効果が奏されると推測される。
【0050】
当該負極活物質(A)(炭素材料)における元素Mの含有量は、0.05質量%以上15質量%以下が好ましく、0.1質量%以上10質量%以下がより好ましい。元素Mの含有量の下限は、0.15質量%、0.5質量%、1質量%、3質量%又は5質量%がさらに好ましい場合もある。元素Mの含有量の上限は、5質量%、3質量%、2質量%、1.5質量%又は1.0質量%がさらに好ましい場合もある。当該負極活物質(A)における元素Mの含有量が上記範囲内であることにより、閉回路電位0.40V vs.Li/Li+以上の電位範囲における放電容量がより大きくなり、且つクーロン効率もより高まる。
【0051】
本発明の一実施形態として、炭素材料がグラフェン層を有し、このグラフェン層を構成する炭素元素の一部がアルミニウム元素に置換されていることが好ましい。炭素材料は、少なくとも一部に、層状の結晶構造を有していることが好ましい。
【0052】
当該負極活物質(A)は、CuKα線を用いたエックス線回折(XRD)測定において、(002)面回折ピークが確認される炭素材料であることが好ましい。また、当該負極活物質(A)は、エックス線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.33nm以上0.42nm未満である炭素材料であることが好ましい場合があり、上記平均格子面間隔(d002)が0.34nm以上0.38nm以下である炭素材料であることがより好ましい場合がある。上記XRD測定は、充放電前又は上記した完全放電状態の負極活物質に対して行われる。XRD測定は、以下の方法で行われる。
【0053】
エックス線回折装置(Rigaku社製、型名:MiniFlex II)を用いて試料の粉末エックス線回折パターンを取得する。線源はCuKα線、管電圧は30kV、管電流は15mAとして行う。このとき、回折エックス線は、厚さ30μmのKβフィルターを通り、高速一次元検出器(D/teX Ultra 2)にて検出される。また、サンプリング幅は0.02°、スキャンスピードは5°/min、発散スリット幅は0.625°、受光スリット幅は13mm(OPEN)、散乱スリット幅は8mmとする。得られたパターンについて、統合粉末エックス線解析ソフトウェアPDXLを用いて、最適化によりピーク形状をフィッティングし、各回折ピークの位置、半値幅等が得られる。通常、2θ=24.5°から26.5°に(002)面に帰属可能な回折ピークが観測される。
【0054】
当該負極活物質(A)における800℃超の雰囲気温度下で脱離する酸素元素の含有量の上限は、6質量%であり、3質量%が好ましく、2質量%、1質量%、0.3質量%、0.1質量%又は0.01質量がより好ましい場合もある。当該負極活物質(A)における800℃超の雰囲気温度下で脱離する酸素元素の含有量が上記上限以下である場合、閉回路電位0.40V vs.Li/Li+以上の電位範囲における充放電ヒステリシスが小さくなり、クーロン効率がより高まる傾向にある。当該負極活物質(A)における800℃超の雰囲気温度下で脱離する酸素元素の含有量の下限は、0質量%であってもよく、0.001質量%であってもよく、0.01質量%であってもよい。上記酸素元素の含有量は、上記したいずれかの下限以上且つ上記したいずれかの上限以下とすることができる。
【0055】
当該負極活物質(A)においては、閉回路電位0.40V vs.Li/Li+の充電状態から、上記負極活物質の質量当たり50mA/gの電流で閉回路電位2.00V vs.Li/Li+まで定電流放電し、その後10分経過時点における開回路電位の下限は、1.33V vs.Li/Li+が好ましく、1.35V vs.Li/Li+がより好ましく、1.37V vs.Li/Li+がさらに好ましく、1.40V vs.Li/Li+がよりさらに好ましく、1.50V vs.Li/Li+、1.60V vs.Li/Li+、1.70V vs.Li/Li+、1.80V vs.Li/Li+又は1.90V vs.Li/Li+がよりさらに好ましい場合もある。放電後10分経過時点における開回路電位が上記下限以上である場合、閉回路電位0.40V vs.Li/Li+以上の電位範囲における放電容量がより大きくなる。上記開回路電位の上限は、例えば2.00V vs.Li/Li+であってもよく、1.99V vs.Li/Li+であってもよく、1.90V vs.Li/Li+、1.80V vs.Li/Li+、1.70V vs.Li/Li+、1.60V vs.Li/Li+、1.50V vs.Li/Li+又は1.45V vs.Li/Li+であってもよく、1.43V vs.Li/Li+であってもよい。上記開回路電位が上記上限(好ましくは1.43V vs.Li/Li+)以下である場合、放電容量が大きいことと開回路電圧と平均放電電圧との差が小さいこととの両立を図ることができる。上記開回路電位は、上記したいずれかの下限以上且つ上記したいずれかの上限以下とすることができる。
【0056】
当該負極活物質(A)のエックス線光電子分光法(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)によるC1sスペクトルにおいては、282.5eVから283.5eVの範囲における積分強度が3eV以上80eV以下であることが好ましく、5eV以上60eV以下であることがより好ましい。この積分強度の下限は、7eV、10eV又は20eVがさらに好ましい場合もある。XPSによるC1sスペクトルにおいて、炭素元素と元素Mとの結合に由来するピークは、282.5eVから283.5eVの範囲に現れると推測される。従って、上記C1sスペクトルにおける282.5eVから283.5eVの範囲における積分強度が上記範囲である場合は、元素Mが炭素元素と十分に化学結合していると考えられ、閉回路電位0.40V vs.Li/Li+以上の電位範囲における放電容量がより大きくなり、且つクーロン効率がより高まる。
【0057】
XPS測定は、充放電前の負極活物質に対して、または、非水電解質蓄電素子の負極に組み込まれている負極活物質に対しては、上記した「負極活物質(炭素材料)における酸素元素の含有量」を測定する場合と同様の手順で処理したものに対して、以下の方法により行われる。
試料ホルダー上にカーボンテープを貼り、そこへ試料を載せる。試料ホルダーをXPS装置であるKRATOS ANALYTICAL社製の「AXIS NOVA」の試料室内に導入し、XPSスペクトルを取得する。XPS測定は真空度5×10-5Pa以下の減圧下で行う。C1sスペクトルを測定するため、それぞれ272eVから300eVにて、10回積算でナロースキャンを行う。得られたC1sスペクトルから、C1sピークの最大の強度を示すエネルギー値が284.8eVとなるように、C1sスペクトルのエネルギー値を補正する。
エックス線源としてはAlKαを用い、Emissionを10mA、Anode HTを15kVとする。測定時には、中和銃を用い、そのFilament currentを2A、Charge Balanceを3.5V、Filament Biasを1.2Vとする。ナロースキャン時の条件として、ステップサイズ0.1eV、ドウェル時間を250msとする。また、アナライザの条件として、アナライザモードを「Spectrum」、レンズモードを「Field of View 1: Survey」、エネルギー分解能を「Pass Energy 40」、分析エリアを「slot」とする。
上記方法により、エネルギー値を補正したC1sスペクトルについて、直線法を用いてバックグラウンドを除去する。具体的には、280eVから284eVの範囲で最小値を示す点と、292eVから300eVの範囲で最小値を示す点とを通る一次関数をバックグラウンドとして除去する。バックグラウンドを除去したC1sスペクトルについて、284.8eVにおける強度を100に規格化し、282.5eVから283.5eVの範囲における積分強度を求める。
【0058】
当該負極活物質(A)は、通常、粉末状である。当該負極活物質(A)は、例えば他の負極活物質等と複合化されて用いられてもよいが、好適な形態としては、当該負極活物質(A)のみの粉末として用いられる。
【0059】
当該負極活物質(A)の平均粒径は、例えば、1nm以上100μm以下とすることができ、1μm以上100μm以下が好ましい場合がある。負極活物質の平均粒径を上記下限以上とすることで、製造又は取り扱いが容易になる。負極活物質の平均粒径を上記上限以下とすることで、負極活物質層を形成したときの電子伝導性が向上する。「平均粒径」とは、JIS-Z-8825(2013年)に準拠し、粒子を溶媒で希釈した希釈液に対しレーザ回折・散乱法により測定した粒径分布に基づき、JIS-Z-8819-2(2001年)に準拠し計算される体積基準積算分布が50%となる値を意味する。
【0060】
粉体を所定の粒径で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法として、例えば、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェットミル、旋回気流型ジェットミル又は篩等を用いる方法が挙げられる。粉砕時には水、あるいはヘキサン等の有機溶剤を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。分級方法としては、篩や風力分級機等が、乾式、湿式ともに必要に応じて用いられる。
【0061】
当該負極活物質(A)の製造方法は特に限定されず、例えば化学気相成長(Chemical Vapor Deposition:CVD)法によって合成することができる。具体的には、元素Mを与えるガス(置換元素源ガスともいう。)及び炭素源ガスを含む原料ガスを石英管等の反応容器内に導入し、電気炉等による高温下でCVD法により合成することができる。上記合成における反応温度としては、例えば700℃以上1200℃以下とすることができる。
【0062】
置換元素源ガスとしては、例えばBCl3、AlCl3等の元素Mのハロゲン化物等が挙げられる。置換元素源ガスには、常温で固体の置換元素源化合物を加熱により昇華させたものを用いることもできる。また、炭素源ガスとしては、例えばベンゼン、アセチレン、エチレン、メタン、エタン、プロパン等の炭化水素が挙げられる。また、上記原料ガスに加えて窒素等のキャリアガスを用いることが好ましい。
【0063】
上記の合成により反応容器内に析出した炭素材料について、再熱処理を行うことが好ましい。例えば、析出した炭素材料を回収して真空置換炉にて再熱処理を行う。再熱処理は、例えば窒素雰囲気下又はアルゴン雰囲気下にて行われる。再熱処理の際の処理温度としては、600℃以上1000℃以下とすることができる。再熱処理後の炭素材料は、例えば乳鉢で粉砕後に、負極活物質として用いられる。
【0064】
<負極活物質(B)>
本発明の一実施形態に係る負極活物質(B)は、元素Mを含有する炭素材料であり、上記元素Mが、ベリリウム元素、ホウ素元素、アルミニウム元素、ケイ素元素、リン元素、硫黄元素、チタン元素及びガリウム元素からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、800℃超の雰囲気温度下で脱離する酸素元素の含有量が6質量%以下である。
【0065】
当該負極活物質(B)の具体的形態及び好適形態は、元素Mがベリリウム元素、ホウ素元素、アルミニウム元素、ケイ素元素、リン元素、硫黄元素、チタン元素及びガリウム元素からなる群より選ばれる少なくとも1種であること以外は、上記した負極活物質(A)と同様である。
【0066】
<負極>
本発明の一実施形態に係る負極は、上記した本発明の一実施形態に係る負極活物質(A)又は負極活物質(B)を備える、非水電解質蓄電素子用の負極である。当該負極は、負極基材と、上記負極基材に直接又は中間層を介して配される負極活物質層とを有する。本発明の一実施形態に係る負極活物質(A)及び負極活物質(B)をまとめて「本発明の一実施形態に係る負極活物質」とも称する。
【0067】
負極基材は、導電性を有する。「導電性」を有するか否かは、JIS-H-0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が10-2Ω・cmを閾値として判定する。負極基材の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼、アルミニウム等の金属又はこれらの合金、炭素質材料等が用いられる。負極基材は、アルミニウム元素を主成分とすることが好ましい。このような負極基材を用いることで、低コスト化、軽量化及び過放電時の負極基材の成分の溶出抑制を図ることができる。負極基材としては、箔、蒸着膜、メッシュ、多孔質材料等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、負極基材としてはアルミニウム箔又はアルミニウム合金箔が好ましい。
【0068】
好適な負極基材の材質としては、純アルミニウム又はアルミニウム合金が挙げられる。「純アルミニウム」とは、アルミニウム元素の含有量が99.00質量%以上のものをいい、例えばJIS-H-4000(2014)に規定の1000番台のアルミニウムが挙げられる。また、「アルミニウム合金」とは、最も多く含まれる含有元素がアルミニウム元素である金属であってアルミニウム元素の含有量が99.00質量%未満のものをいい、例えば上記JISに規定の1000番台以外のアルミニウム合金が挙げられる。上記JISに規定の1000番台以外のアルミニウム合金とは、例えば上記JISに規定の2000番台のアルミニウム合金、3000番台のアルミニウム合金、4000番台のアルミニウム合金、5000番台のアルミニウム合金、6000番台のアルミニウム合金、7000番台のアルミニウム合金等が挙げられる。負極基材におけるアルミニウム元素の含有量としては85質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましい。
【0069】
負極基材の平均厚さは、2μm以上35μm以下が好ましく、3μm以上30μm以下がより好ましく、4μm以上25μm以下がさらに好ましく、5μm以上20μm以下が特に好ましい。負極基材の平均厚さを上記の範囲とすることで、負極基材の強度を高めつつ、非水電解質蓄電素子の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。
【0070】
中間層は、負極基材と負極活物質層との間に配される層である。中間層は、炭素粒子等の導電剤を含むことで負極基材と負極活物質層との接触抵抗を低減する。中間層の構成は特に限定されず、例えば、バインダ及び導電剤を含む。
【0071】
負極活物質層は、負極活物質を含む。負極活物質層は、必要に応じて、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。
【0072】
負極活物質層は、上記した本発明の一実施形態に係る負極活物質を含む。負極活物質層は、さらにその他の負極活物質を含んでいてもよい。その他の負極活物質としては、公知の負極活物質の中から適宜選択できる。リチウムイオン二次電池用の負極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。その他の負極活物質としては、例えば、金属リチウム;Si、Sn等の金属又は半金属;Si酸化物、Ti酸化物、Sn酸化物等の金属酸化物又は半金属酸化物;Li4Ti5O12、LiTiO2、TiNb2O7等のチタン含有酸化物;ポリリン酸化合物;炭化ケイ素;本発明の一実施形態に係る負極活物質以外の従来公知の炭素材料(黒鉛、非黒鉛質炭素等)等が挙げられる。
【0073】
負極活物質層中の全ての負極活物質に対する本発明の一実施形態に係る負極活物質の含有量は、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、99質量%以上がさらに好ましく、実質的に100質量%であってよい。このように、負極活物質として本発明の一実施形態に係る負極活物質を主に用いることにより、閉回路電位0.40V vs.Li/Li+以上の電位範囲における放電容量がより大きくなり、且つクーロン効率がより高まる。
【0074】
負極活物質層における全ての負極活物質の含有量は、60質量%以上99質量%以下が好ましく、70質量%以上95質量%以下がより好ましい。負極活物質の含有量を上記の範囲とすることで、負極活物質層の高エネルギー密度化と製造性を両立できる。同様の理由等から、負極活物質層における本発明の一実施形態に係る負極活物質の含有量は、60質量%以上99質量%以下が好ましく、70質量%以上95質量%以下がより好ましい。
【0075】
導電剤は、導電性を有する材料であれば特に限定されない。このような導電剤としては、例えば、炭素質材料、金属、導電性セラミックス等が挙げられる。炭素質材料としては、非黒鉛質炭素、グラフェン系炭素等が挙げられる。非黒鉛質炭素としては、カーボンナノファイバー、ピッチ系炭素繊維、カーボンブラック等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。グラフェン系炭素としては、グラフェン、カーボンナノチューブ(CNT)、フラーレン等が挙げられる。導電剤の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。導電剤としては、これらの材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、これらの材料を複合化して用いてもよい。例えば、カーボンブラックとCNTとを複合化した材料を用いてもよい。これらの中でも、電子伝導性及び塗工性の観点よりカーボンブラックが好ましく、中でもアセチレンブラックが好ましい。
【0076】
負極活物質層に導電剤を含有させる場合、負極活物質層における導電剤の含有量は、0.1質量%以上10質量%以下が好ましい。導電剤の含有量を上記の範囲とすることで、非水電解質蓄電素子のエネルギー密度を高めることができる。本発明の一態様においては、負極活物質層は導電剤を含まないことが好ましい場合もある。
【0077】
バインダとしては、例えば、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子等が挙げられる。
【0078】
負極活物質層におけるバインダの含有量は、1質量%以上30質量%以下が好ましく、3質量%以上20質量%以下がより好ましい。バインダの含有量を上記の範囲とすることで、負極活物質を安定して保持することができる。
【0079】
増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。増粘剤がリチウム等と反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させてもよい。
【0080】
負極活物質層に増粘剤を含有させる場合、負極活物質層における増粘剤の含有量は、0.1質量%以上10質量%以下が好ましい。本発明の一態様においては、負極活物質層は増粘剤を含まないことが好ましい場合もある。
【0081】
フィラーは、特に限定されない。フィラーとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、二酸化ケイ素、アルミナ、二酸化チタン、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の無機酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、炭酸カルシウム等の炭酸塩、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウム等の難溶性のイオン結晶、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物、タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。
【0082】
負極活物質層にフィラーを含有させる場合、負極活物質層におけるフィラーの含有量は、0.1質量%以上10質量%以下が好ましい。本発明の一態様においては、負極活物質層はフィラーを含まないことが好ましい場合もある。
【0083】
負極活物質層は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Sn、Sr、Ba等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Ta、Hf、Nb、W等の遷移金属元素を負極活物質、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー以外の成分として含有してもよい。
【0084】
当該負極は、例えば、負極基材に直接又は中間層を介して負極活物質層を積層することにより得ることができる。上記中間層は、負極基材に、中間層形成材料を塗工することにより得ることができる。
【0085】
上記負極活物質層は、負極活物質層形成用材料(負極合剤ペースト)の塗工により形成することができる。上記負極活物質層形成用材料は、本発明の一実施形態に係る負極活物質、その他の負極活物質層に含まれる各成分、及び分散媒を含む。上記分散媒としては、水やN-メチルピロリドン(NMP)等の有機溶媒を適宜選択して用いればよい。負極活物質層形成用材料の塗工は公知の方法により行うことができる。通常、塗工後、塗膜を乾燥させて、分散媒を揮発させる。その後、塗膜を厚さ方向にプレスすることが好ましい。
【0086】
<非水電解質蓄電素子>
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子(以下、単に「蓄電素子」ともいう。)は、正極、負極及びセパレータを有する電極体と、非水電解質と、上記電極体及び非水電解質を収容する容器と、を備える。電極体は、通常、複数の正極及び複数の負極がセパレータを介して積層された積層型、又は、正極及び負極がセパレータを介して積層された状態で巻回された巻回型である。非水電解質は、正極、負極及びセパレータに含浸した状態で存在する。非水電解質蓄電素子の一例として、非水電解質二次電池(以下、単に「二次電池」ともいう。)について説明する。
【0087】
(正極)
正極は、正極基材と、当該正極基材に直接又は中間層を介して配される正極活物質層とを有する。中間層の構成は特に限定されず、例えば上記負極で例示した構成から選択することができる。
【0088】
正極基材は、導電性を有する。正極基材の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はこれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ、及びコストの観点からアルミニウム又はアルミニウム合金が好ましい。正極基材としては、箔、蒸着膜、メッシュ、多孔質材料等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、正極基材としてはアルミニウム箔又はアルミニウム合金箔が好ましい。
【0089】
正極基材の平均厚さは、3μm以上50μm以下が好ましく、5μm以上40μm以下がより好ましく、8μm以上30μm以下がさらに好ましく、10μm以上25μm以下が特に好ましい。正極基材の平均厚さを上記の範囲とすることで、正極基材の強度を高めつつ、非水電解質蓄電素子の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。
【0090】
正極活物質層は、正極活物質を含む。正極活物質層は、必要に応じて、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分は、上記負極で例示した材料から選択できる。
【0091】
正極活物質としては、公知の正極活物質の中から適宜選択できる。リチウムイオン二次電池用の正極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。正極活物質としては、例えば、α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、ポリアニオン化合物、カルコゲン化合物、硫黄等が挙げられる。α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、例えば、Li[LixNi(1-x)]O2(0≦x<0.5)、Li[LixNiγCo(1-x-γ)]O2(0≦x<0.5、0<γ<1、0<1-x-γ)、Li[LixCo(1-x)]O2(0≦x<0.5)、Li[LixNiγMn(1-x-γ)]O2(0≦x<0.5、0<γ<1、0<1-x-γ)、Li[LixNiγMnβCo(1-x-γ-β)]O2(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1、0<1-x-γ-β)、Li[LixNiγCoβAl(1-x-γ-β)]O2(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1、0<1-x-γ-β)等が挙げられる。スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、LixMn2O4、LixNiγMn(2-γ)O4等が挙げられる。ポリアニオン化合物として、LiFePO4、LiMnPO4、LiNiPO4、LiCoPO4、Li3V2(PO4)3、Li2MnSiO4、Li2CoPO4F等が挙げられる。カルコゲン化合物として、二硫化チタン、二硫化モリブデン、二酸化モリブデン等が挙げられる。これらの材料中の原子又はポリアニオンは、他の元素からなる原子又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。これらの材料は表面が他の材料で被覆されていてもよい。正極活物質層においては、これら材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0092】
正極活物質は、通常、粒子(粉体)である。正極活物質の平均粒径は、例えば、0.1μm以上20μm以下とすることが好ましい。正極活物質の平均粒径を上記下限以上とすることで、正極活物質の製造又は取り扱いが容易になる。正極活物質の平均粒径を上記上限以下とすることで、正極活物質層の電子伝導性が向上する。なお、正極活物質と他の材料との複合体を用いる場合、該複合体の平均粒径を正極活物質の平均粒径とする。
【0093】
粉体を所定の粒径で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法及び粉級方法は、例えば、本発明の一実施形態に係る負極活物質で例示した方法から選択できる。
【0094】
正極活物質層における正極活物質の含有量は、50質量%以上99質量%以下が好ましく、70質量%以上98質量%以下がより好ましく、80質量%以上95質量%以下がさらに好ましい。正極活物質の含有量を上記の範囲とすることで、正極活物質層の高エネルギー密度化と製造性を両立できる。
【0095】
正極活物質層における導電剤の含有量は、1質量%以上10質量%以下が好ましく、3質量%以上9質量%以下がより好ましい。導電剤の含有量を上記の範囲とすることで、非水電解質蓄電素子のエネルギー密度を高めることができる。
【0096】
正極活物質層におけるバインダの含有量は、1質量%以上10質量%以下が好ましく、3質量%以上9質量%以下がより好ましい。バインダの含有量を上記の範囲とすることで、正極活物質を安定して保持することができる。
【0097】
正極活物質層に増粘剤を含有させる場合、正極活物質層における増粘剤の含有量は、0.1質量%以上10質量%以下が好ましい。本発明の一態様においては、正極活物質層は増粘剤を含まないことが好ましい場合もある。
【0098】
正極活物質層にフィラーを含有させる場合、正極活物質層におけるフィラーの含有量は、0.1質量%以上10質量%以下が好ましい。本発明の一態様においては、正極活物質層はフィラーを含まないことが好ましい場合もある。
【0099】
正極活物質層は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Sn、Sr、Ba等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Nb、W等の遷移金属元素を正極活物質、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー以外の成分として含有してもよい。
【0100】
(負極)
負極には、本発明の一実施形態に係る負極が用いられる。当該負極の詳細は上記した通りである。
【0101】
(セパレータ)
セパレータは、公知のセパレータの中から適宜選択できる。セパレータとして、例えば、基材層のみからなるセパレータ、基材層の一方の面又は双方の面に耐熱粒子とバインダとを含む耐熱層が形成されたセパレータ等を使用することができる。セパレータの基材層の形状としては、例えば、織布、不織布、多孔質樹脂フィルム等が挙げられる。これらの形状の中でも、強度の観点から多孔質樹脂フィルムが好ましく、非水電解質の保液性の観点から不織布が好ましい。セパレータの基材層の材料としては、シャットダウン機能の観点から例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましく、耐酸化分解性の観点から例えばポリイミドやアラミド等が好ましい。セパレータの基材層として、これらの樹脂を複合した材料を用いてもよい。
【0102】
耐熱層に含まれる耐熱粒子は、1気圧の空気雰囲気下で室温から500℃まで昇温したときの質量減少が5%以下であるものが好ましく、室温から800℃まで昇温したときの質量減少が5%以下であるものがさらに好ましい。質量減少が所定以下である材料として無機化合物が挙げられる。無機化合物として、例えば、酸化鉄、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の酸化物;窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物;炭酸カルシウム等の炭酸塩;硫酸バリウム等の硫酸塩;フッ化カルシウム、フッ化バリウム、チタン酸バリウム等の難溶性のイオン結晶;シリコン、ダイヤモンド等の共有結合性結晶;タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。無機化合物として、これらの物質の単体又は複合体を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらの無機化合物の中でも、非水電解質蓄電素子の安全性の観点から、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、又はアルミノケイ酸塩が好ましい。
【0103】
セパレータの空孔率は、強度の観点から80体積%以下が好ましく、放電性能の観点から20体積%以上が好ましい。ここで、「空孔率」とは、体積基準の値であり、水銀ポロシメータでの測定値を意味する。
【0104】
セパレータとして、ポリマーと非水電解質とで構成されるポリマーゲルを用いてもよい。ポリマーとして、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリメチルメタアクリレート、ポリビニルアセテート、ポリビニルピロリドン、ポリフッ化ビニリデン等が挙げられる。ポリマーゲルを用いると、漏液を抑制する効果がある。セパレータとして、上述したような多孔質樹脂フィルム又は不織布等とポリマーゲルを併用してもよい。
【0105】
(非水電解質)
非水電解質としては、公知の非水電解質の中から適宜選択できる。非水電解質には、非水電解液を用いてもよい。非水電解液は、非水溶媒と、この非水溶媒に溶解されている電解質塩とを含む。
【0106】
非水溶媒としては、公知の非水溶媒の中から適宜選択できる。非水溶媒としては、環状カーボネート、鎖状カーボネート、カルボン酸エステル、リン酸エステル、スルホン酸エステル、エーテル、アミド、ニトリル等が挙げられる。非水溶媒として、これらの化合物に含まれる水素原子の一部がハロゲンに置換されたものを用いてもよい。
【0107】
環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、クロロエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、スチレンカーボネート、1-フェニルビニレンカーボネート、1,2-ジフェニルビニレンカーボネート等が挙げられる。これらの中でもEC及びPCが好ましく、PCがより好ましい。非水溶媒にPCが含まれている場合、非水電解質蓄電素子の充電受け入れ性が向上する。
【0108】
鎖状カーボネートとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジフェニルカーボネート、トリフルオロエチルメチルカーボネート、ビス(トリフルオロエチル)カーボネート等が挙げられる。これらの中でもDMC及びEMCが好ましい。
【0109】
非水溶媒として、環状カーボネート又は鎖状カーボネートを用いることが好ましく、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用することがより好ましい。環状カーボネートを用いることで、電解質塩の解離を促進して非水電解液のイオン伝導度を向上させることができる。鎖状カーボネートを用いることで、非水電解液の粘度を低く抑えることができる。環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用する場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの体積比率(環状カーボネート:鎖状カーボネート)としては、例えば、5:95から50:50の範囲とすることが好ましい。非水溶媒における環状カーボネート及び鎖状カーボネートの合計含有量としては、70体積%以上が好ましく、90体積%以上がより好ましく、95体積%以上がさらに好ましく、99体積%以上がよりさらに好ましい。非水溶媒は、環状カーボネートと鎖状カーボネートとのみから実質的に構成されていてもよい。
【0110】
電解質塩としては、公知の電解質塩から適宜選択できる。電解質塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、オニウム塩等が挙げられる。これらの中でもリチウム塩が好ましい。
【0111】
リチウム塩としては、LiPF6、LiPO2F2、LiBF4、LiClO4、LiN(SO2F)2等の無機リチウム塩、リチウムビス(オキサレート)ボレート(LiBOB)、リチウムジフルオロオキサレートボレート(LiFOB)、リチウムビス(オキサレート)ジフルオロホスフェート(LiFOP)等のシュウ酸リチウム塩、LiSO3CF3、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2、LiN(SO2CF3)(SO2C4F9)、LiC(SO2CF3)3、LiC(SO2C2F5)3等のハロゲン化炭化水素基を有するリチウム塩等が挙げられる。これらの中でも、無機リチウム塩が好ましく、LiPF6がより好ましい。
【0112】
非水電解液における電解質塩の含有量は、20℃1気圧下において、0.1mol/dm3以上2.5mol/dm3以下であると好ましく、0.3mol/dm3以上2.0mol/dm3以下であるとより好ましく、0.5mol/dm3以上1.7mol/dm3以下であるとさらに好ましく、0.7mol/dm3以上1.5mol/dm3以下であると特に好ましい。電解質塩の含有量を上記の範囲とすることで、非水電解液のイオン伝導度を高めることができる。
【0113】
非水電解液は、非水溶媒と電解質塩以外に、添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えば、ビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t-ブチルベンゼン、t-アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン等の芳香族化合物;2-フルオロビフェニル、o-シクロヘキシルフルオロベンゼン、p-シクロヘキシルフルオロベンゼン等の前記芳香族化合物の部分ハロゲン化物;2,4-ジフルオロアニソール、2,5-ジフルオロアニソール、2,6-ジフルオロアニソール、3,5-ジフルオロアニソール等のハロゲン化アニソール化合物;ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水イタコン酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物;亜硫酸エチレン、亜硫酸プロピレン、亜硫酸ジメチル、メタンスルホン酸メチル、ブスルファン、トルエンスルホン酸メチル、硫酸ジメチル、硫酸エチレン、スルホラン、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、テトラメチレンスルホキシド、ジフェニルスルフィド、4,4’-ビス(2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン)、4-メチルスルホニルオキシメチル-2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン、チオアニソール、ジフェニルジスルフィド、ジピリジニウムジスルフィド、1,3-プロペンスルトン、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、1,4-ブテンスルトン、パーフルオロオクタン、ホウ酸トリストリメチルシリル、リン酸トリストリメチルシリル、チタン酸テトラキストリメチルシリル、モノフルオロリン酸リチウム、ジフルオロリン酸リチウム等が挙げられる。これら添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0114】
非水電解液に含まれる添加剤の含有量は、非水電解液全体の質量に対して0.01質量%以上10質量%以下であると好ましく、0.1質量%以上7質量%以下であるとより好ましく、0.2質量%以上5質量%以下であるとさらに好ましく、0.3質量%以上3質量%以下であると特に好ましい。添加剤の含有量を上記の範囲とすることで、高温保存後の容量維持性能又はサイクル性能を向上させたり、安全性をより向上させたりすることができる。
【0115】
非水電解質には、固体電解質を用いてもよく、非水電解液と固体電解質とを併用してもよい。
【0116】
固体電解質としては、リチウム、ナトリウム、カルシウム等のイオン伝導性を有し、常温(例えば15℃から25℃)において固体である任意の材料から選択できる。固体電解質としては、例えば、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、酸窒化物固体電解質、ポリマー固体電解質等が挙げられる。
【0117】
硫化物固体電解質としては、リチウムイオン二次電池の場合、例えば、Li2S-P2S5、LiI-Li2S-P2S5、Li10Ge-P2S12等が挙げられる。
【0118】
(負極電位、用途等)
当該非水電解質蓄電素子における通常使用時の充電終止電圧における負極電位の下限とは、例えば0.20V vs.Li/Li+又は0.30V vs.Li/Li+であってもよいが、0.35V vs.Li/Li+が好ましく、0.40V vs.Li/Li+がより好ましい。通常使用時の充電終止電圧における負極電位が上記下限以上であることにより、アルミニウム元素を主成分とする負極基材を備える負極を好適に適用することができる。通常使用時の充電終止電圧における負極電位の上限としては、例えば0.80V vs.Li/Li+が好ましく、0.60V vs.Li/Li+がより好ましく、0.50V vs.Li/Li+がさらに好ましく、0.45V vs.Li/Li+がよりさらに好ましい。通常使用時の充電終止電圧における負極電位が上記上限以下であることにより、放電容量を大きくすることができる。通常使用時の充電終止電圧における負極電位は、上記したいずれかの下限以上且つ上記したいずれかの上限以下とすることができる。
【0119】
当該非水電解質蓄電素子は、アルミニウム元素を主成分とする負極基材を用いた場合も、適当な負極電位の範囲内で使用することで、十分な放電容量及び高いクーロン効率を兼ね備え、且つ急速充電も可能となる。また、アルミニウム元素を主成分とする負極基材を用いることで、非水電解質蓄電素子の軽量化を図ることができる。このため、当該非水電解質蓄電素子は、軽量化と急速充電が求められる用途に特に好適に用いることができる。このような用途として、例えば電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源が挙げられる。
【0120】
本実施形態の非水電解質蓄電素子の形状については特に限定されるものではなく、例えば、円筒型電池、角型電池、扁平型電池、コイン型電池、ボタン型電池等が挙げられる。
【0121】
図1に角型電池の一例としての非水電解質蓄電素子1を示す。なお、同図は、容器内部を透視した図としている。セパレータを挟んで巻回された正極及び負極を有する電極体2が角型の容器3に収納される。正極は正極リード41を介して正極端子4と電気的に接続されている。負極は負極リード51を介して負極端子5と電気的に接続されている。
【0122】
<蓄電装置>
本実施形態の非水電解質蓄電素子は、上記した自動車用電源の他、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器用電源、又は電力貯蔵用電源等に、複数の非水電解質蓄電素子1を集合して構成した蓄電ユニット(バッテリーモジュール)として搭載することができる。この場合、蓄電ユニットに含まれる少なくとも一つの非水電解質蓄電素子に対して、本発明の技術が適用されていればよい。
【0123】
図2に、電気的に接続された二つ以上の非水電解質蓄電素子1が集合した蓄電ユニット20をさらに集合した蓄電装置30の一例を示す。蓄電装置30は、二つ以上の非水電解質蓄電素子1を電気的に接続するバスバ(図示せず)、二つ以上の蓄電ユニット20を電気的に接続するバスバ(図示せず)等を備えていてもよい。蓄電ユニット20又は蓄電装置30は、一つ以上の非水電解質蓄電素子の状態を監視する状態監視装置(図示せず)を備えていてもよい。
【0124】
<非水電解質蓄電素子の製造方法>
本実施形態の非水電解質蓄電素子の製造方法は、公知の方法から適宜選択できる。当該製造方法は、例えば、電極体を準備することと、非水電解質を準備することと、電極体及び非水電解質を容器に収容することと、を備える。電極体を準備することは、正極及び負極を準備することと、セパレータを介して正極及び負極を積層又は巻回することにより電極体を形成することとを備える。
【0125】
非水電解質を容器に収容することは、公知の方法から適宜選択できる。例えば、非水電解質に非水電解液を用いる場合、容器に形成された注入口から非水電解液を注入した後、注入口を封止すればよい。
【0126】
<その他の実施形態>
尚、本発明の非水電解質蓄電素子等は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えてもよい。例えば、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することができ、また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成又は周知技術に置き換えることができる。さらに、ある実施形態の構成の一部を削除することができる。また、ある実施形態の構成に対して周知技術を付加することができる。
【0127】
上記実施形態では、非水電解質蓄電素子が充放電可能な非水電解質二次電池(例えばリチウムイオン二次電池)として用いられる場合について説明したが、非水電解質蓄電素子の種類、形状、寸法、容量等は任意である。本発明は、種々の二次電池、電気二重層キャパシタ又はリチウムイオンキャパシタ等のキャパシタにも適用できる。
【0128】
上記実施形態では、正極及び負極がセパレータを介して積層された電極体について説明したが、電極体は、セパレータを備えなくてもよい。例えば、正極又は負極の活物質層上に導電性を有さない層が形成された状態で、正極及び負極が直接接してもよい。
【実施例0129】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0130】
[実施例1]
CVD装置「MPCVD-Powder」(MICROPHASE社製)の石英管(内径45mm)の中に、上流側から順に、アルミナボートに入れたAlCl3、及び黒鉛シート「PF110」を設置した。また、石英管内には、黒鉛シートの下流側及び最下流部分(出口部分)に石英ウールを設置した。
アルゴン気流下、黒鉛シートを設置した付近の石英管を常温から1000℃に昇温した。1000℃に到達してから、キャリアガスであるアルゴン及び炭素源ガスであるエチレンを石英管中に導入した。なお、AlCl3を入れたアルミナボートは、1000℃までの昇温中はほとんど加熱されない石英管内の最上流に配置しておき、1000℃到達後に石英管内の加熱されている部分に少しずつ移動させた。このような操作により、石英管内のアルミナボート中のAlCl3を昇華させ、置換元素源(アルミニウム源)ガスとして、石英管内に導入した。このようにして、化学気相成長(CVD)法により炭素材料を合成し、黒鉛シート上に析出させた。合成時間は5時間とした。キャリアガス及び炭素源ガスの流量は、それぞれ600mL/min及び60mL/minに調整した。また、AlCl3は、合成時間の5時間の平均流量が20mL/minとなるように、アルミナボートに入れる量と加熱条件を調整した。
その後、キャリアガス及び炭素源ガスの導入を止めて、1000℃から常温まで放冷した。石英管から黒鉛シートを取り出し、黒鉛シートに付着した炭素材料を回収した。この炭素材料を容積30mLのアルミナ製るつぼに入れ、卓上真空ガス置換炉KDF75(デンケン・ハイデンタル社製)内に設置した。次いで、アルゴン雰囲気下、常圧にて、昇温速度5℃/minにて常温から900℃に昇温し、1時間保持して、再熱処理を行った。そして、再熱処理後にアルミナ製乳鉢で粉砕し、実施例1の炭素材料(負極活物質)を得た。
【0131】
[実施例2]
石英管内に、黒鉛シートの下流側及び最下流部分(出口部分)に加え、アルミナボートに入れたAlCl3の上流側と下流側とに更に石英ウールを設置したこと以外は実施例1と同様にして、実施例2の炭素材料(負極活物質)を得た。
なお、このように石英ウールを配置することで、ガスの逆流が抑制されたこと等により、実施例1と比べて得られた炭素材料の量が増加した。
【0132】
[実施例3、4]
CVD処理の際のキャリアガスの種類、炭素源ガスの種類及び温度、並びに再熱処理の際の雰囲気及び温度を表4に示す通りとしたこと以外は実施例2と同様にして、実施例3、4の各炭素材料(負極活物質)を得た。
【0133】
[実施例5]
CVD装置「MPCVD-Powder」(MICROPHASE社製)の石英管(内径45mm)の中に、黒鉛シート「PF110」を設置した。窒素気流下、昇温速度10℃/分にて、黒鉛シートを設置した付近の石英管を常温から1000℃に昇温した。1000℃に到達してから、キャリアガスである窒素、炭素源ガスであるエチレン及び置換元素源(ホウ素源)ガスであるBCl3を石英管中に導入した。このようにして、化学気相成長(CVD)法により炭素材料を合成し、黒鉛シート上に析出させた。合成時間は5時間とした。キャリアガス、炭素源ガス及び置換元素源ガスの流量は、それぞれ600mL/min、45mL/min、15mL/minに調整した。
その後、キャリアガス、炭素源ガス及び置換元素源ガスの導入を止めて、1000℃から常温まで放冷した。石英管から黒鉛シートを取り出し、黒鉛シートに付着した炭素材料を回収した。この炭素材料を容積30mLのアルミナ製るつぼに入れ、卓上真空ガス置換炉KDF75(デンケン・ハイデンタル社製)内に設置した。次いで、0.5L/分の窒素気流下、常圧にて、昇温速度5℃/分にて常温から900℃に昇温し、1時間保持して、再熱処理を行った。そして、再熱処理後にアルミナ製乳鉢で粉砕し、実施例5の炭素材料(負極活物質)を得た。
【0134】
[比較例1]
難黒鉛化性炭素をそのまま比較例1の炭素材料(負極活物質)として用いた。
【0135】
[比較例2]
石英管内に、アルミナボートに入れたAlCl3を配置しなかったこと以外は実施例3と同様にして、比較例2の炭素材料(負極活物質)を得た。
【0136】
[比較例3]
鱗片状黒鉛3gを、発煙硝酸(Wako社製)45mL中に浸漬して撹拌し、懸濁させた。その懸濁液を60℃に加熱し、マグネチックスターラーにより300rpmで撹拌しながら塩素酸カリウム(Wako社製)12gを少しずつ加えた後、60℃で3時間反応させた。その後、水750mL中に懸濁液を投入して反応を停止させた。得られた懸濁液から、吸引ろ過により固体を分離し、水で洗浄後に60℃で一晩乾燥し、酸化黒鉛を得た。得られた酸化黒鉛4gを入れたアルミナ製るつぼを卓上真空ガス置換炉KDF75(デンケン・ハイデンタル社製)に設置した。次いで、0.6L/minの窒素気流下、常圧にて、昇温速度1℃/minにて常温から170℃まで昇温し、さらに昇温速度0.1℃/minにて170℃から250℃まで昇温し、昇温速度1℃/minで250℃から800℃まで昇温し、800℃で5時間保持することにより熱処理を行った。その後、アルミナ製乳鉢で粉砕し、比較例3の炭素材料(負極活物質)を得た。
【0137】
(元素Mの含有量の測定)
実施例1から5及び比較例2の各炭素材料(負極活物質)について、上記した方法にて元素M(アルミニウム元素又はホウ素元素)の含有量を測定した。測定結果を表5に示す。
【0138】
(XPS測定)
実施例1から5及び比較例1から3の各炭素材料(負極活物質)について、上記した方法にてXPS測定を行い、C1sスペクトルにおける282.5eVから283.5eVの範囲における積分強度を求めた。測定結果を表5に示す。
【0139】
(XRD測定)
実施例1から4及び比較例1、2の各炭素材料(負極活物質)について、上記した方法にてXRD測定を行い、(002)面の平均格子面間隔(d002)を求めた。測定結果を表5に示す。
【0140】
(酸素元素含有量の測定)
実施例1、5及び比較例1から3の各炭素材料(負極活物質)について上記した方法にて、800℃超の雰囲気温度下で脱離する酸素元素の含有量を求めた。測定結果を表5に示す。
【0141】
(負極の作製)
実施例1から5及び比較例1から3の各炭素材料を負極活物質として用い、次の手順で負極を作製した。バインダとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いた。上記負極活物質及び上記バインダを88:12の質量比で含有し、N-メチルピロリドンを分散媒とする負極合剤ペーストを作製した。負極基材として厚さ20μmの銅箔上に、負極合剤ペーストを塗布、乾燥、プレスし、負極基材上に負極活物質層が配された非水電解質蓄電素子用の負極を作製した。なお、上記負極を作用極とし、金属リチウムを対極として備える非水電解質蓄電素子の後述する充放電条件での電気化学特性は、アルミニウム箔を負極基材に用いた負極を作用極とし、金属リチウムを対極として備える非水電解質蓄電素子の電気化学特性と同等である。
【0142】
(非水電解質蓄電素子の作製)
得られた各負極の性能を評価するため、幅30mm、長さ40mmの矩形状に負極活物質層が配された上記負極を作用極として、評価試験用の非水電解質蓄電素子を作製した。対極には幅32mm、長さ42mmの矩形状の金属リチウムを用いた。セパレータにはポリエチレン製の微多孔膜を用いた。非水電解質には、エチレンカーボネート(EC):ジメチルカーボネート(DMC):エチルメチルカーボネート(EMC)が体積比30:35:35で混合された混合溶媒に1mol/dm3の濃度でLiPF6を溶解させた溶液を用いた。上記セパレータを介して、上記作用極と対極を対向させ、上記の非水電解質を注入したセルを作製した。これにより実施例1から5及び比較例1から3の各非水電解質蓄電素子を得た。
なお、得られた各非水電解質蓄電素子における作用極と対極との間の電圧は、金属リチウムの酸化還元電位に対する作用極の電位とほぼ等しいとみなすことができる。
【0143】
(充放電試験)
得られた実施例1から5及び比較例1から3の各非水電解質蓄電素子について、25℃にて、以下の条件にて3サイクルの充放電試験を行った。充電は、負極活物質1g当たり50mAの充電電流で、充電終止電圧0.400Vの定電流定電圧(CCCV)充電とし、充電終止条件は、定電圧充電が開始してから12時間経過した時点とした。放電は、負極活物質1g当たり50mAの放電電流で、放電終止電圧2.000Vの定電流(CC)放電とした。充電後及び放電後にはそれぞれ10分間の休止期間を設けた。実施例4及び比較例1、2の各非水電解質蓄電素子における1サイクル目の充放電曲線を
図3に示す。
【0144】
(放電容量)
上記充放電試験の1サイクル目の放電容量を負極活物質の質量で除し、「放電容量[mAh/g]」とした。結果を表5に示す。
【0145】
(クーロン効率)
上記充放電試験の1サイクル目の充電容量に対する1サイクル目の放電容量の百分率を「クーロン効率(%)」とした。結果を表5に示す。
【0146】
(開回路電圧)
上記充放電試験の3サイクル目の放電の終了後10分経過時点における開回路電圧を測定した。なお、上記開回路電圧は、金属リチウムの酸化還元電位に対する作用極の開回路電位とほぼ等しいとみなすことができる。結果を表5に示す。実施例4及び比較例1、2の各非水電解質蓄電素子における3サイクル目の放電曲線(放電後の開回路電圧を含む)を
図4に示す。
【0147】
(平均放電電圧)
上記充放電試験の3サイクル目の放電時の平均閉回路電圧を算出し、平均放電電圧とした。結果を表5に示す。
【0148】
(開回路電圧と平均放電電圧との差)
上記充放電試験の3サイクル目の放電の終了後10分経過時点における開回路電圧と、上記充放電試験の3サイクル目の放電時の平均閉回路電圧(平均放電電圧)との差を算出した。結果を表5に示す。
【0149】
(充放電ヒステリシス)
上記充放電試験の3サイクル目の充電時の平均閉回路電圧と放電時の平均閉回路電圧との差を算出し、充放電ヒステリシスとした。結果を表5に示す。
【0150】
【0151】
【0152】
表5に示されるように、元素Mを含有しない難黒鉛化性炭素である比較例1、及び置換元素源ガスを用いなかったこと以外は各実施例と同様の方法で合成した比較例2の各負極活物質が用いられた非水電解質蓄電素子は、0.400Vから2.000Vの電圧(0.400V vs.Li/Li+から2.000V vs.Li/Li+の負極閉回路電位範囲)での充放電における放電容量が小さかった。また、元素Mを含有しない酸化黒鉛である比較例3の負極活物質が用いられた非水電解質蓄電素子は、上記電圧範囲での充放電における放電容量は大きいものの、クーロン効率が低かった。
これらに対し、元素Mであるアルミニウム元素又はホウ素元素を含有する炭素材料である実施例1から5の各負極活物質が用いられた非水電解質蓄電素子は、上記電圧範囲での充放電において、放電容量が大きく且つクーロン効率が高かった。また、実施例1から5の各負極活物質が用いられた非水電解質蓄電素子の放電後の開回路電圧は、比較例1、2の各負極活物質が用いられた非水電解質蓄電素子の放電後の開回路電圧より高くなっていた。元素Mを含有させることにより、高い電位範囲でグラフェン層間に挿入されるリチウムイオンの吸蔵サイトが増加し、その結果、放電後の開回路電圧が高まっているものと考えられる。実施例1から5の各負極活物質は、例えば閉回路電位0.40V vs.Li/Li+以上の電位範囲で使用する非水電解質蓄電素子の負極活物質として有用であることがわかる。また、実施例1から5の中でも放電後の開回路電圧が1.43V以下である実施例1から3の各負極活物質が用いられた非水電解質蓄電素子は、開回路電圧と平均放電電圧との差が小さいことがわかる。
【0153】
[実施例6、7]
表6に記載の組成の非水電解質を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例6、7の各非水電解質蓄電素子を得た。
【0154】
(充放電試験)
得られた実施例6、7の各非水電解質蓄電素子について、25℃にて、以下の条件にて充放電試験を行った。
[1サイクル目の充放電]
充電は、負極活物質1g当たり50mAの充電電流で、充電終止電圧0.400VのCCCV充電とし、充電終止条件は、定電圧充電が開始してから12時間経過した時点とした。放電は、負極活物質1g当たり50mAの放電電流で、放電終止電圧2.000VのCC放電とした。
[充電電流50mA/gでの充放電]
次いで、以下の充放電を行った。充電は、負極活物質1g当たり50mAの充電電流で、充電終止電圧0.400VのCC充電とした。放電は、負極活物質1g当たり50mAの放電電流で、放電終止電圧2.000VのCC放電とした。
[充電電流250mA/gでの充放電]
次いで、以下の充放電を行った。充電は、負極活物質1g当たり250mAの充電電流で、充電終止電圧0.400VのCC充電とした。放電は、負極活物質1g当たり50mAの放電電流で、放電終止電圧2.000VのCC放電とした。
いずれも充電後及び放電後にはそれぞれ10分間の休止期間を設けた。
【0155】
(クーロン効率)
上記充放電試験の「1サイクル目の放電」における充電容量に対する放電容量の百分率を「クーロン効率(%)」とした。結果を表6に示す。
【0156】
(各率充電容量比)
上記充放電試験の「充電電流50mA/gでの充放電」における充電容量に対する「充電電流250mA/gでの充放電」における充電容量の百分率を「各率充電容量比(%)」とした。結果を表6に示す。
【0157】
【0158】
表6に示されるように、PCを含む非水電解質を備える実施例7の非水電解質蓄電素子は、各率充電容量比が高く、充電受け入れ性に優れることがわかる。また、実施例6の非水電解質蓄電素子のクーロン効率と実施例7の非水電解質蓄電素子のクーロン効率とは同等であり、ECに替えてPCを用いたことによる副反応は起きていないと考えられる。