(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178891
(43)【公開日】2023-12-18
(54)【発明の名称】陰極、高速原子ビーム線源、接合基板の製造方法、および、陰極の再生方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/02 20060101AFI20231211BHJP
【FI】
H01L21/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022091877
(22)【出願日】2022-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】313001309
【氏名又は名称】株式会社サイコックス
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100161001
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 篤司
(72)【発明者】
【氏名】岡田 治朗
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高速原子ビーム線源からのパーティクル堆積物の放出を抑制でき、かつ、高速原子ビーム線源内の真空度の低下を抑制する陰極、高速原子ビーム線源等を提供する。
【解決手段】高速原子ビーム線源の陰極100は、6つの内面110~160を有する。内面は、6枚の平板状の陰極部材103から構成され、陰極内に不活性ガスを導入する不活性ガス導入口102と、陰極の外部に高速原子ビームを放出する粒子線放出口101が設けられており、陰極部材の平面に、粘着剤被覆領域を有する。粘着剤被覆領域は、高速原子ビーム線源の使用により発生するスパッタリング現象による陰極部材の除去量よりも、スパッタリング現象により発生したスパッタ塵の再付着量の方が大きい領域であり、粘着剤の体積は、陰極の内部の体積に対して、体積割合1%~15%であり、粘着剤被覆領域の陰極の内部に対する接着面において、粘着材104の貼付面積が25%以上である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高速原子ビーム線源の陰極であって、
前記陰極は、6つの内面を有し、内部が中空の箱状であり、
6つの前記内面として、底面と、前記底面と対向する上面と、前記底面と前記上面とをつなぐ4つの側面と、を備えるとともに、6つの前記内面は、6枚の平板状の陰極部材から構成され、
4つの前記側面は、対向する前記側面同士が互いに平行であり、
4つの前記側面のうち、対向する2組の前記側面の1組において、一方には、前記陰極内に不活性ガスを導入する不活性ガス導入口が設けられ、他方には、前記陰極の外部に高速原子ビームを放出する粒子線放出口が設けられており、
前記陰極部材は、4つの隅角部と、前記隅角部をつなぐ4つの辺で輪郭が構成された形状であり、
前記陰極の前記内面を構成する前記陰極部材の平面において、粘着材により被覆された粘着材被覆領域を有し、
前記粘着材被覆領域は、前記高速原子ビーム線源の使用により発生するスパッタリングによる前記陰極部材の除去量よりも、前記スパッタリングにより発生したスパッタ塵の再付着量の方が大きい領域であり、
前記粘着材被覆領域は、前記内面全体の面積に対して、面積割合5%~80%の領域であり、
前記粘着材の厚さが、500μm以下であり、
前記陰極の内面側に露出した前記粘着材の表面の粘着力が、5N/25mm~15N/25mmである、陰極。
【請求項2】
前記粘着材被覆領域が、前記隅角部を含む、請求項1に記載の陰極。
【請求項3】
前記陰極部材が、グラファイト製、グラッシーカーボン製、シリコン製、炭化ケイ素製のいずれかである、請求項1に記載の陰極。
【請求項4】
請求項1に記載の陰極と、
前記陰極の内部に設けられた陽極と、を備える、高速原子ビーム線源。
【請求項5】
第1の半導体基板と、第2の半導体基板とが積層した接合基板を製造する方法であって、
請求項4に記載の高速原子ビーム線源を用いて、前記第1の半導体基板の接合対象面と、前記第2の半導体基板の接合対象面に、高速原子ビームを真空中で照射する照射工程と、
前記高速原子ビームが照射された、前記第1の半導体基板の接合対象面と前記第2の半導体基板の接合対象面とを接触させて、接合界面を有する積層体を得る接触工程と、
を備える、接合基板の製造方法。
【請求項6】
前記接合工程で得られた前記積層体を熱処理して接合基板を得る熱処理工程をさらに備える、請求項5に記載の接合基板の製造方法。
【請求項7】
前記第1の半導体基板および前記第2の半導体基板が、それぞれ、3C-SiC単結晶基板、4H-SiC単結晶基板、6H-SiC単結晶基板、SiC多結晶基板のうちのいずれかである、請求項5に記載の接合基板の製造方法。
【請求項8】
前記高速原子ビームが、アルゴン、ネオン、キセノンのいずれかを含む、請求項5に記載の接合基板の製造方法。
【請求項9】
請求項1に記載の陰極を再生する方法であって、
高速原子ビーム線源に使用後の陰極を構成する陰極部材の前記粘着材被覆領域から、粘着材を除去する粘着材除去工程と、
前記粘着材を除去した前記陰極部材の前記粘着剤被覆領域を新しい粘着材により被覆する被覆工程と、を含む、陰極の再生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陰極、高速原子ビーム線源、接合基板の製造方法、および、陰極の再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板同士を接合する技術の一つに、高速原子ビーム照射を用いた常温接合技術がある。これは、接合対象の基板の接合対象面に原子ビームを照射して表面汚染や酸化膜を除去するとともに、結合手であるダングリングボンドを露出させて表面活性化したのち、基板の接合対象面同士を重ね合わせて、常温にて圧接することで基板同士を接合する技術である。
【0003】
常温接合に用いられる原子ビーム線源としては、サドルフィールド型の高速原子ビーム線源が用いられている(例えば、特許文献1参照。)サドルフィールド型の高速原子ビーム線源は、内部に陽極を有する陰極筐体内にアルゴン(Ar)ガス等の不活性ガス(以下、アルゴンガスを例示して説明する。)を供給し、陽極‐陰極間の電圧印加により不活性ガス原子をイオン化し、陰極の一部に設けた開口部からAr原子ビームを取り出し、基板へ照射するものである。なお、Arイオンの大部分は陰極に向かう途中で電子と再結合して中性のAr原子ビームとなり照射されるため、Ar原子同士の静電反発が少なく、指向性の高い原子ビームとなって基板に照射される特徴を持つ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の高速原子ビーム線源(FABガン、(Fast Atom Beam))を用いた基板接合技術において、Ar原子ビームとともに、高速原子ビーム線源内で生じたパーティクルの一部がガンから飛び出して基板に付着し、接合の阻害要因となることがある。すなわち、高速原子ビーム線源内において、Arビームの一部が陰極筐体に照射されてスパッタリング現象が生じた結果、陰極筐体の破片に起因する粒子が発生して、これがパーティクルとなる。上述のように、このパーティクルがArガスフローに乗って陰極の開口部から外部に飛び出して基板に付着すると、接合の阻害要因となりうる。
【0006】
さらに、高速原子ビーム線源の陰極の内面では、上述のスパッタリング現象とスパッタリングによって生じたパーティクルの再付着(以下、「リデポ」と称することがある。)が同時に起こっている。このようにスパッタリングによるパーティクルが堆積した堆積層はその厚みが増すほどに陰極の内面から剥離・落下しやすくなり、より大きなパーティクルとして高速原子ビーム線源から飛び出して、基板同士を接合する際に接合阻害が発生する大きな要因となる。また、高速原子ビーム線源を用いて接合対象である基板の表面を処理する場合、高速原子ビーム線源内部の真空度が表面処理の効率に影響する。よって、パーティクルの放出を抑制するとともに、高速原子ビーム線源内部の真空度が低下することを抑制することが求められる。
【0007】
よって、本発明は、高速原子ビーム線源からのパーティクルの放出を抑制することができ、かつ、高速原子ビーム線源内の真空度の低下を抑制することができる陰極、高速原子ビーム線源、接合基板の製造方法、および、陰極の再生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の陰極は、高速原子ビーム線源の陰極であって、前記陰極は、6つの内面を有し、内部が中空の箱状であり、6つの前記内面として、底面と、前記底面と対向する上面と、前記底面と前記上面とをつなぐ4つの側面と、を備えるとともに、6つの前記内面は、6枚の平板状の陰極部材から構成され、4つの前記側面は、対向する前記側面同士が互いに平行であり、4つの前記側面のうち、対向する2組の前記側面の1組において、一方には、前記陰極内に不活性ガスを導入する不活性ガス導入口が設けられ、他方には、前記陰極の外部に高速原子ビームを放出する粒子線放出口が設けられており、前記陰極部材は、4つの隅角部と、前記隅角部をつなぐ4つの辺で輪郭が構成された形状であり、前記陰極の前記内面を構成する前記陰極部材の平面において、粘着材により被覆された粘着材被覆領域を有し、前記粘着材被覆領域は、前記高速原子ビーム線源の使用により発生するスパッタリングによる前記陰極部材の除去量よりも、前記スパッタリングにより発生したスパッタ塵の再付着量の方が大きい領域であり、前記粘着材被覆領域は、前記内面全体の面積に対して、面積割合5%~80%の領域であり、前記粘着材の厚さが、500μm以下であり、前記陰極の内面側に露出した前記粘着材の表面の粘着力が、5N/25mm~15N/25mmである。
【0009】
本発明の陰極において、前記粘着材被覆領域が、前記隅角部を含んでもよい。
【0010】
本発明の陰極において、前記陰極部材が、グラファイト製、グラッシーカーボン製、シリコン製、炭化ケイ素製のいずれかであってもよい。
【0011】
本発明の高速原子ビーム線源は、本発明の陰極と、前記陰極の内部に設けられた陽極と、を備える。
【0012】
本発明の接合基板の製造方法は、第1の半導体基板と、第2の半導体基板とが積層した接合基板を製造する方法であって、本発明の高速原子ビーム線源を用いて、前記第1の半導体基板の接合対象面と、前記第2の半導体基板の接合対象面に、高速原子ビームを真空中で照射する照射工程と、前記高速原子ビームが照射された、前記第1の半導体基板の接合対象面と前記第2の半導体基板の接合対象面とを接触させて、接合界面を有する積層体を得る接触工程と、を備える。
【0013】
本発明の接合基板の製造方法において、前記接合工程で得られた前記積層体を熱処理して接合基板を得る熱処理工程をさらに備えていてもよい。
【0014】
本発明の接合基板の製造方法において、前記第1の半導体基板および前記第2の半導体基板が、それぞれ、3C-SiC単結晶基板、4H-SiC単結晶基板、6H-SiC単結晶基板、SiC多結晶基板のうちのいずれかであってもよい。
【0015】
本発明の接合基板の製造方法において、前記高速原子ビームが、アルゴン、ネオン、キセノンのいずれかを含んでもよい。
【0016】
本発明の陰極の再生方法は、高速原子ビーム線源に使用後の陰極を構成する陰極部材の前記粘着材被覆領域から、粘着材を除去する粘着材除去工程と、前記粘着材を除去した前記陰極部材の前記粘着剤被覆領域を新しい粘着材により被覆する被覆工程と、を含む。
【発明の効果】
【0017】
本発明の陰極であれば、本発明の陰極を高速原子ビーム線源に用いることにより、高速原子ビーム線源からのパーティクルの放出を抑制することができる。これにより、パーティクルが半導体基板の接合対象面に付着することを抑制できる。また、高速原子ビーム線源内部の真空度の低下を抑制できる。これにより、半導体基板同士を接合するときに接合阻害が発生することを抑制するとともに、高速原子ビーム線源内部の真空度が低下して表面処理の効率が低下することを抑制することができることから、接合基板の製造効率を高めることができる。
【0018】
本発明の高速原子ビーム線源であれば、本発明の陰極を備えることから、高速原子ビーム線源からのパーティクルの放出を抑制できる。また、高速原子ビーム線源内部の真空度の低下を抑制できる。これにより、パーティクルが半導体基板の接合対象面に付着することを抑制でき、半導体基板同士を接合するときに接合阻害が発生することを抑制するとともに、高速原子ビーム線源内部の真空度が低下して表面処理の効率が低下することを抑制することができることから、接合基板の製造効率を高めることができる。
【0019】
本発明の接合基板の製造方法であれば、本発明の陰極を備える高速原子ビーム線源を用いて基板の接合対象面を照射することから、高速原子ビーム線源からのパーティクルの放出が抑制され、接合対象面にパーティクルが付着することを抑制することができる。また、高速原子ビーム線源内部の真空度の低下を抑制できる。これにより、基板同士を接合するときに接合阻害が発生することを抑制して歩留まりを改善するとともに、半導体基板の表面処理の効率が低下することを抑制することにより、接合基板の製造効率を高めることができる。
【0020】
本発明の陰極の再生方法であれば、一定時間使用後の陰極を、簡便な工程によって再度パーティクルの放出を抑制し、かつ、高速原子ビーム線源内部の真空度の低下を抑制することができる状態に再生することができる。よって、高速原子ビーム線源からのパーティクルの放出、高速原子ビーム線源内部の真空度の低下を抑制して接合基板の製造効率を高めるとともに、陰極の高寿命化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる高速原子ビーム線源を模式的に示す斜視図である。
【
図2】従来の高速原子ビーム線源を使用後の陰極を構成する陰極部材の内面の状態を模式的に示す平面図である。
【
図3】実施例1において用いる陰極を構成する6枚の陰極部材の内面を模式的に示す平面図である。
【
図4】実施例2において用いる陰極を構成する6枚の陰極部材の内面を模式的に示す平面図である。
【
図5】実施例3において用いる陰極を構成する6枚の陰極部材の内面を模式的に示す平面図である。
【
図6】比較例2において用いる陰極を構成する6枚の陰極部材の内面を模式的に示す平面図である。
【
図7】比較例3において用いる陰極を構成する6枚の陰極部材の内面を模式的に示す平面図である。
【
図8】本発明の一実施形態にかかる接合基板の製造方法を説明する図である。
【
図9】本発明の一実施形態にかかる陰極の再生方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[高速原子ビーム線源、陰極、および、陰極部材]
本発明の一実施形態にかかる高速原子ビーム線源、陰極、および、陰極部材について図面を参照して説明する。
【0023】
本実施形態の高速原子ビーム線源は、サドルフィールド型の高速原子ビーム線源であり、内部に不活性ガスを供給して、イオン化された不活性ガスの原子ビームを粒子線放出口から外部に放出するものである。また、本実施形態の高速原子ビーム線源は、例えば、2枚の半導体基板を貼り合わせた接合基板を製造するときに、接合工程の前に基板の接合対象面の表面処理を行うために用いられる。すなわち、高速原子ビーム線源から放出された高速原子ビームを基板の接合対象面に照射して、接合対象面の表面を活性化する表面処理を行う目的で用いられる。
【0024】
図1に示す、本実施形態の高速原子ビーム線源500は、陰極100と、陰極100の内部に設けられた陽極200と、を備える。なお、本実施形態の高速原子ビーム線源500、陰極100、陽極200において、
図1における矢印X方向、矢印Y方向、矢印Z方向を、それぞれ、幅方向、奥行き方向、高さ方向とする。なお、
図1においては、後述する粘着材が省略して図示されている。
【0025】
本実施形態の陰極100は、6つの内面を有する、内部が中空の箱状である。例えば、陰極100は、内寸が幅(
図1のw)56mm、奥行き(
図1のd)が64mm、高さ(
図1のh)が102mmの直方体状である。また、6つの内面として、底面110と、底面110と対向する上面120と、底面110と上面120とをつなぐ4つの側面130,140,150,160と、を備える。
【0026】
また、底面110と上面120は、XY平面に平行であり、側面130、140は対向しているとともにXZ平面に平行であり、側面150、160は対向しているとともにYZ平面に平行である。また、これらの6つの内面は、6枚の平板状の陰極部材103から構成されている。本実施形態においては、6枚の陰極部材103を箱状に組み立てることで陰極100が形成されている。
【0027】
対向する2組の側面(側面130,140と側面150,160)のうち、側面130,140には、粒子線放出口101、不活性ガス導入口102が設けられている。すなわち、側面130には、陰極100の内部でイオン化された不活性ガスの高速原子ビームが放出される粒子線放出口101が設けられている。また、側面130と矢印Y方向に対向する側面140には、陰極100内に不活性ガスを導入する不活性ガス導入口102が設けられている。本実施形態において、粒子線放出口101は、側面130の中央付近に、直径2mmの円形状の貫通孔が高さ方向に8列、幅方向に8列に、等間隔に並んで合計64個設けられている。また、不活性ガス導入口102は、側面140の中央付近に、直径3mmの円形状の貫通孔が1つ設けられている。粒子線放出口や不活性ガス導入口の形状、個数、場所は本実施形態に限定されず、他の形態でもよい。
【0028】
本実施形態において、陽極200は、陰極100の内部に2本設けられており、陰極100の内部には絶縁部材(不図示)を介して固定されている。また、陽極200の形状は、断面の直径が10mm、高さ寸法は陰極100の高さとほぼ同じ円柱状である。陽極200は、円形の断面がXY平面に平行であり、かつ、円柱の中心軸がZ方向と平行である。また、
図3に示すように、2本の陽極200は、陰極100の奥行き方向の真ん中の位置(側面130,140からそれぞれ32mmの位置)において、2本の陽極200の中心軸間距離が36mmとなるように、互いに離隔して設けられている。
【0029】
また、陽極の材質は、グラファイト、グラッシーカーボン、シリコン、炭化ケイ素などを用いることができる。
【0030】
また、陰極100には直流電流の負極が接続され、陽極200には直流電流の正極が接続されており、例えば、0.5kV~5kV程度の高電圧が印加される。これにより電界が生じて、不活性ガス導入口102から陰極100内部に導入された不活性ガスが電離して2本の陽極200間にプラズマが発生する。さらに、不活性ガスの陽イオンが、陰極100から電子を受け取るともに、粒子線放出口101より高速原子ビーム線源500の外部に高速原子ビーム510(
図8)として放出される。このとき、照射電流は、例えば、10mA~100mA程度となるように、不活性ガスのフローを調整する。
【0031】
次に、陰極部材103について、
図3に示された陰極100の側面130を参照して説明する。
図3は、陰極100を構成する6枚の陰極部材103(底面110、上面120、側面130,140,150,160)を、陰極の内部側の平面が見えるように置いた平面図である。
【0032】
陰極部材103は、板状であり、4つの隅角部103aと、隅角部103aをつなぐ4つの辺103bで輪郭が構成された形状である。厚さは、例えば、1mm~5mm程度とすることができる。また、陰極部材103は、陰極100の内面を構成する陰極部材103の平面において、粘着材104により被覆された粘着材被覆領域を有している。なお、側面130,140に設けられた粒子線放出口101、不活性ガス導入口102の貫通孔は、粘着材104により塞がないようにする。
【0033】
一般的に、高速原子ビーム線源の使用において、陰極の内面(陰極部材103の表面)に高速原子ビームが照射されることによりスパッタリング現象が生じた結果、陰極筐体の破片に起因する粒子が発生して、これがパーティクルとなる。さらに、このパーティクルは、粒子線放出口から放出されたり、陰極部材103の表面に再度付着して堆積したりすることがある。すなわち、陰極を構成する陰極部材103においては、スパッタリング現象とスパッタリング現象により生じたパーティクルの陰極部材103表面への再付着が同時に起こっている。このようにスパッタリング現象によるパーティクルが堆積した堆積層は、その厚みが増すほどに陰極の内面から剥離・落下しやすくなり、より大きなパーティクルとして高速原子ビーム線源から放出され、基板同士を接合するときに接合阻害が発生する大きな要因となる。
【0034】
本実施形態の陰極部材103において、粘着材被覆領域は、高速原子ビーム線源500の使用により発生するスパッタリングによる陰極部材103の除去量よりも、スパッタリングにより発生したスパッタ塵(パーティクル)の再付着量の方が大きい領域である。また、粘着材被覆領域は、陰極100の内面を構成する陰極部材103の平面において、前記内面全体の面積に対して、面積割合5%~80%の領域である。また、粘着材被覆領域の面積割合(%)は、「粘着材で被覆した面積/陰極部材内面全体の面積×100(%)」の式により算出することができる。なお、粘着材被覆領域の面積割合の算出において、側面130,140に設けられた粒子線放出口101および不活性ガス導入口102は穴が開いていないものとして陰極部材103内面の面積に算入するものとする。粘着材被覆領域が小さすぎる場合、高速原子ビーム線源からのパーティクルの放出を十分に抑制することが困難になる。
【0035】
また、粘着材104の厚さは、500μm以下である。このとき、粘着材104の厚さ全体が500μm以下であればよく、500μm以下の粘着材1枚を粘着材被覆領域に貼り付けてもよいし、厚さが500μm以下となるように複数枚の粘着材を重ねて貼り付けてもよい。面積割合5%~80%、かつ、粘着材の厚さを500μm以下とすることにより、このような陰極100を用いた高速原子ビーム線源内部の真空度が低下することを抑制でき、半導体基板の表面処理の効率が低下することを抑制することができる。
【0036】
また、陰極100の内面側に露出した粘着材104の表面の粘着力は、スパッタリング現象によるパーティクルが付着して堆積した場合に剥離や落下しない程度であることが必要であり、5N/25mm~15N/25mmである。
【0037】
また、粘着材104の厚さは、好ましくは150μm~450μmとすることができる。
【0038】
また、本実施形態の陰極部材103としては、例えば、グラファイト製、グラッシーカーボン製、シリコン製、炭化ケイ素製のいずれかとすることができる。また、その他にも、タングステン、モリブデン、チタン、ニッケルやそれらの合金、化合物を用いることができる。
【0039】
以上のような陰極部材103を用いて陰極100を構成することにより、スパッタリング現象により生じたパーティクルが陰極部材103表面に再付着した場合においても、粘着材104にパーティクルが付着すれば、パーティクルが剥離・落下することを抑制することができる。これにより、本実施形態の陰極部材103により構成された陰極100を高速原子ビーム線源500に用いて、接合する半導体基板の接合対象面を活性化することにより、高速原子ビーム線源からの大きなパーティクルの放出を抑制することができる。また、高速原子ビーム線源500内部の真空度が低下することを抑制でき、半導体基板の表面処理の効率が低下することを抑制することができる。以上により、基板同士を接合するときに接合阻害が発生することを抑制するとともに、半導体基板の表面処理の効率が低下することを抑制でき、接合基板の製造効率を高めることができる。
【0040】
ここで、
図2は、従来の高速原子ビーム線源を使用後の陰極を構成する陰極部材の一例である側面830の状態を模式的に示す平面図である。
図2においては、陰極の内面側に位置する面が見えるように置かれている。
図2に示す陰極部材803(側面830)を用いた高速原子ビーム線源は、陰極部材に粘着材被覆領域がないこと以外は、本実施形態の高速原子ビーム線源と500同じ構成である。従来の高速原子ビーム線源を使用すると、陰極の頂点の内側の部分は、高速原子ビームが他の部分よりも照射されにくいことから、スパッタリングレートよりもリデポレートが大きく、リデポによる堆積層が生じやすい。すなわち、
図2に示すように、陰極部材の4点の隅角部803aを含む陰極部材の輪郭に近い領域Sにスパッタリング現象により生じたパーティクルが再付着して堆積しやすい。
【0041】
このことから、
図3に示すように、陰極部材103の粘着材被覆領域(粘着材104で被覆された領域)は、陰極部材の隅角部103aを含むことが好ましい。粘着材被覆領域に隅角部103aを含むことにより、特にリデポレートが大きい領域を被覆することができ、より効果的にパーティクルの放出を抑制することができる。
【0042】
[接合基板の製造方法]
次に、本発明の一実施形態にかかる接合基板の製造方法について
図8を参照して説明する。
図8(A)は、第1の半導体基板710、第2の半導体基板720の接合対象面711,721に高速原子ビーム510を照射する接合装置600の様子を示す模式図である。また、
図8(B)は、照射工程後の、第1の半導体基板710’および第2の半導体基板720’を模式的に示す断面図である。また、
図8(C)は、接触工程後に得られた積層体700を模式的に示す断面図である。
【0043】
本実施形態の接合基板の製造方法は、第1の半導体基板710と、第2の半導体基板720とが積層した接合基板を製造する方法であって、前述した実施形態の高速原子ビーム線源500を用いて、第1の半導体基板710の接合対象面711と、第2の半導体基板720の接合対象面721に、高速原子ビーム510を真空中で照射する照射工程と、高速原子ビーム510が照射された、第1の半導体基板710’の接合対象面711と第2の半導体基板720’の接合対象面721とを接触させて、接合界面730を有する積層体700を得る接触工程と、を備える。また、本実施形態の接合基板の製造方法は、接合工程で得られた積層体700を熱処理して接合基板を得る熱処理工程をさらに備えていてもよい。
【0044】
接合装置600は、筐体と、2つの高速原子ビーム線源500と、筐体内を真空にする真空ポンプ(不図示)と、第1の半導体基板710と第2の半導体基板720を保持するとともに、製造の各工程において第1の半導体基板710と第2の半導体基板720を所定の位置に移動させる保持手段(不図示)と、を備える。2つの高速原子ビーム線源500は、
図8に示すように、第1の半導体基板710の接合対象面711、第2の半導体基板720の接合対象面721に高速原子ビーム510を照射するように設置されている。なお、本実施形態においては、第1の半導体基板710、第2の半導体基板720それぞれに高速原子ビーム510を照射する実施形態を示したが、高速原子ビーム510の照射は第1の半導体基板710、第2の半導体基板720の少なくとも一方に照射すればよい。
【0045】
具体的な手順について、
図8を参照して説明する。第1の半導体基板710の接合対象面711と、第2の半導体基板720の接合対象面721とが相対するように、第1の半導体基板710と第2の半導体基板720を接合装置600内に設置し、筐体の内部を真空引きして、例えば10
-4Pa以下程度の真空状態にしておく。
【0046】
まず、照射工程を行う。照射工程は、
図8(A)に示すように、高速原子ビーム線源500から高速原子ビーム510を第1の半導体基板710の接合対象面711と、第2の半導体基板720の接合対象面721とに照射する工程である。これにより、接合対象面711,721が活性化された、第1の半導体基板710’と第2の半導体基板720’が得られる。
【0047】
接合対象面711,721の活性化とは、第1の半導体基板710、第2の半導体基板720の接合対象面711,721にある酸素、水素、ヒドロキシル基(OH基)等の界面終端成分、酸化膜を除去して、ダングリングボンドを形成することを指す。
【0048】
次に、接触工程を行う。
図8(B)に示すように、接合対象面711,721が近づく方向(
図8(B)の矢印方向)に、接合対象面711,721が接するまで、第1の半導体基板710’、第2の半導体基板720’を移動させる。筐体600内部を所定圧力(例えば、100kgf(0.98kN))、に加圧する。所定時間(例えば、3分間)保持して、第1の半導体基板710’と第2の半導体基板720’とを接合させる。以上により接触工程が終了し、接合界面730を有する、積層体700(
図8(C))が得られる。
【0049】
次に、熱処理工程を行う。接合装置600の筐体内部を例えば、300℃程度として、得られた積層体700を熱処理することにより、第1の半導体基板710と第2の半導体基板720との接合基板が得られる。
【0050】
本実施形態の接合基板の製造方法において、第1の半導体基板710および第2の半導体基板720は、それぞれ、3C-SiC単結晶基板、4H-SiC単結晶基板、6H-SiC単結晶基板、SiC多結晶基板のうちのいずれかとすることができる。
【0051】
また、高速原子ビーム510は、アルゴン、ネオン、キセノンのいずれかを含むものとすることができる。
【0052】
本実施形態の接合基板の製造方法によれば、陰極100を備える高速原子ビーム線源500を用いて第1の半導体基板710、第2の半導体基板720の接合対象面711,721を照射することから、高速原子ビーム線源500からのパーティクルの放出が抑制され、接合対象面711,721にパーティクルが付着することを抑制することができる。また、高速原子ビーム線源500内部の真空度が低下することを抑制でき、半導体基板の表面処理の効率が低下することを抑制することができる。これにより、第1の半導体基板710、第2の半導体基板720同士を接合するときに接合阻害が発生することを抑制して歩留まりを改善するとともに、半導体基板の表面処理の効率が低下することを抑制することにより、接合基板の製造効率を高めることができる。
【0053】
[陰極の再生方法]
次に、本発明の一実施形態にかかる陰極の再生方法について
図9を参照して説明する。
図9においては、陰極100を構成する陰極部材103である側面130を例示して説明する。
【0054】
本実施形態の陰極の再生方法は、前述した実施形態の陰極100を再生する目的に適用されるものである。高速原子ビーム線源500に使用後の陰極100を構成する陰極部材103の粘着材被覆領域から、粘着材104を除去する粘着材除去工程と、粘着材104を除去した陰極部材103の粘着剤被覆領域を新しい粘着材104により被覆する被覆工程と、を含む。
【0055】
具体的な手順について、
図9を参照して説明する。はじめに、一定時間使用後の陰極100を解体して、それぞれ1枚ずつの陰極部材としておく。
図9においては、一定時間使用後の陰極100を構成する側面130’を再生する工程が例示されている。まず、粘着材除去工程(S1)において、陰極部材103(側面130’)から、粘着材104’を除去して、粘着材が除去された陰極部材103を得る。次に、被覆工程(S2)において、所定の形状の新しい粘着材104により陰極部材の粘着材被覆領域を再度被覆して、陰極部材(側面130)が得られる。このようにして、陰極100を構成する他の陰極部材についても、粘着材除去工程と被覆工程により新しい粘着材104により被覆された緩衝部材が得られる。
【0056】
さらに、被覆工程により得られた緩衝部材を用いて、陰極100の形状に組み立てて再生された陰極100を得る。以上のようにして、一定時間使用後の陰極を再生することができる。陰極100には、パーティクルが堆積しやすい箇所に粘着材104が被覆されていることから、本実施形態の陰極の再生方法により、パーティクルが堆積した粘着材104’を取り除いて、未使用の粘着材104に交換するという簡便な方法により、陰極100をパーティクルの堆積が少ない状態に再生することができる。
【0057】
一定時間以上使用した後の陰極100には、粘着材被覆領域にパーティクルが堆積しており、堆積したパーティクルが脱落して高速原子ビーム線源500の外に放出される可能性がある。よって、一定時間使用された陰極100は、未使用の陰極100(または、パーティクルの堆積が少ない陰極100)に交換したほうがよいと考えられる。そこで、本実施形態の陰極の再生方法であれば、一定時間使用後の陰極100にパーティクルが堆積していたとしても、陰極100を簡便な工程によって、パーティクルの堆積が少ない状態とすることができ、再度パーティクルの放出を十分に抑制することができる状態に再生することができる。よって、高速原子ビーム線源500からのパーティクルの放出、高速原子ビーム線源内部の真空度の低下を抑制して接合基板の製造効率を高めるとともに、パーティクルの堆積にともなって陰極部材を丸ごと交換しなくてもよくなり、陰極の高寿命化を図ることができる。
【0058】
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的が達成できる他の工程等を含み、前述した実施形態の変形等も本発明に含まれる。
【0059】
その他、本発明を実施するための最良の構成、方法等は、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に説明されているが、本発明の技術的思想及び目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、形状、材質、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。従って、上記に開示した形状、材質等を限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの形状、材質等の限定の一部、もしくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明に含まれるものである。
【実施例0060】
以下、本発明の実施例および比較例によって、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されることはない。
【0061】
[実施例1]
陰極部材として、前述した実施形態の陰極部材(
図3、底面110,上面120,側面130,140,150,160)を用いた。すなわち、陰極は、幅56mm、高さ102mm、奥行き64mmとし、陰極部材の厚さは3.2mmとした。また、陰極部材は、グラファイト製とし、
図3に記載の寸法の粘着材104で被覆し、粘着剤被覆領域(
図3の斜線で示した領域)を形成した。粘着材は、粘着力が、陰極部材に貼り付ける面、陰極内部に露出する面ともに10N/25mmで、厚さが150μmのものを用いた。実施例1の陰極100においては、粘着材被覆領域の面積割合(粘着材で被覆した面積/陰極部材内面全体の面積×100(%))は66.2%であった。
【0062】
以上のような陰極部材を
図1に示すような直方体状に組み立てて、陰極とした。また、陽極200として、直径10mm、長さ100mmの円柱状でグラファイト製の陽極を2本用いた。
図3に示すように、2本の陽極200は、絶縁部材を介して、陰極100の奥行き方向の真ん中の位置(側面130,140からそれぞれ32mmの位置)において、2本の陽極200の中心軸間距離が36mmとなるように、互いに離隔して底面110と上面120に固定した。
【0063】
不活性ガスは、アルゴン(Ar)ガスを不活性ガス導入口から陰極100内に導入した。高速原子ビーム線源500からの高速原子ビーム照射の加速電圧は1kVとし、照射電流が30mAになるようにArガスフローを調整して、照射を実施した。第1の半導体基板、第2の半導体基板は、直径152mm(6インチ)、厚さ625μmのシリコン基板を用いた。
【0064】
上記照射条件にて、まず高速原子ビーム線源500の設置初期状態にて、シリコン基板上に300秒ビーム照射した後、第1の半導体基板上のパーティクル数を計測した。このパーティクル数を「初期パーティクル数」とした。なお、パーティクル数はパーティクルカウンタ(型式WM-7S、TOPCON社製)を使用し、エッジエクスクルージョン5mm、最小パーティクル検出サイズ0.15μmの条件にて実施した。
【0065】
次に、30分ずつ断続的に照射と休止を繰り返して、積算使用時間(照射時間のみの積算値)が20時間になるまで照射を実施した後、未使用の第1の半導体基板および第2の半導体基板を設置して、高速原子ビームを300秒間照射した。300秒照射後の第1の半導体基板上のパーティクル数を計測し、これを「20時間使用後におけるパーティクル数」とした。そして、初期状態からのパーティクル数の増加比率(初期パーティクル数/20時間使用後におけるパーティクル数)を算出した。この増加比率が10倍以下であった場合に、パーティクルの放出が十分抑制され、接合に大きな不具合の発生が極めて低くなると評価した。実施例1の照射試験の結果、パーティクル数の増加比率は2倍であった。
【0066】
また、パーティクル数の計測とともに、高速原子ビーム線源内部の真空度への影響を評価した。評価は、粘着材を貼り付けた高速原子ビーム線源と貼り付けしていない高速原子ビーム線源(比較例1)の真空度を比較して行った。真空度への影響の評価基準は以下のように設定し、A~Cの場合、真空度の低下が抑制されたと判断した。評価の結果、実施例1において、真空度への影響は評価Cであった。
A:粘着材を貼り付けしない場合と同等であり、真空度の低下がない。
B:粘着材を貼り付けしない場合と比較すると真空度が若干低下したが、製造には影響がない。
C:粘着材を貼り付けしない場合と比較すると真空度が低下したが、真空引きの時間を長くすれば所定の真空度に到達した。
D:粘着材を貼り付けしない場合と比較すると真空度が低下し、真空引きの時間を長くしても所定の真空度に到達することが難しく、製品は得られるものの表面処理の効率が著しく悪く生産性に難があった。
【0067】
さらに、20時間使用後の高速原子ビーム線源を用いて照射工程を行った第1の半導体基板、第2の半導体基板を用いて、接触工程、熱処理工程を行い、接合基板を製造した。その結果、接合阻害は発生せず、正常に接合した接合基板が得られた。
【0068】
[実施例2]
次に、実施例2を行った。陰極は
図4に示した陰極100Aとし、陰極部材として、(底面110A,上面120A,側面130A,140A,150A,160A)を用いた。陰極部材は、図面のように、粘着材104Aで被覆されている。また、粘着材被覆領域の面積割合(粘着材で被覆した面積/陰極部材表面全体の面積)31.7%であった。陰極部材以外は実施例1と同様にして照射試験を行った。初期状態からのパーティクル数の増加比率を算出した結果、増加比率は3倍であった。また、真空度への影響は、評価Bであった。また、接合基板を製造した結果、接合阻害は発生せず、正常に接合した接合基板が得られた。
【0069】
[実施例3]
次に、実施例3を行った。陰極は
図5に示した陰極100Bとし、陰極部材として、(底面110B,上面120B,側面130B,140B,150B,160B)を用いた。陰極部材は、図面のように、粘着材104Bで被覆されている。また、粘着材被覆領域の面積割合(粘着材で被覆した面積/陰極部材表面全体の面積)8.7%であった。陰極部材以外は実施例1と同様にして照射試験を行った。初期状態からのパーティクル数の増加比率を算出した結果、増加比率は5倍であった。また、真空度への影響は、評価Aであった。また、接合基板を製造した結果、接合阻害は発生せず、正常に接合した接合基板が得られた。
【0070】
[実施例4]
次に、実施例4を行った。実施例4は、粘着材を2枚重ねることで粘着剤の厚さを300μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして試験および評価を行った。初期状態からのパーティクル数の増加比率を算出した結果、増加比率は2倍であった。また、真空度への影響は、評価Cであった。また、接合基板を製造した結果、接合阻害は発生せず、正常に接合した接合基板が得られた。
【0071】
[実施例5]
次に、実施例5を行った。実施例5は、粘着材を2枚重ねることで粘着剤の厚さを300μmとしたこと以外は、実施例2と同様にして試験および評価を行った。初期状態からのパーティクル数の増加比率を算出した結果、増加比率は3倍であった。また、真空度への影響は、評価Bであった。また、接合基板を製造した結果、接合阻害は発生せず、正常に接合した接合基板が得られた。
【0072】
[実施例6]
次に、実施例6を行った。実施例6は、粘着材を2枚重ねることで粘着剤の厚さを300μmとしたこと以外は、実施例3と同様にして試験および評価を行った。初期状態からのパーティクル数の増加比率を算出した結果、増加比率は5倍であった。また、真空度への影響は、評価Bであった。また、接合基板を製造した結果、接合阻害は発生せず、正常に接合した接合基板が得られた。
【0073】
[実施例7]
次に、実施例7を行った。実施例7は、粘着材を3枚重ねることで粘着剤の厚さを450μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして試験および評価を行った。初期状態からのパーティクル数の増加比率を算出した結果、増加比率は2倍であった。また、真空度への影響は、評価Cであった。また、接合基板を製造した結果、接合阻害は発生せず、正常に接合した接合基板が得られた。
【0074】
[実施例8]
次に、実施例8を行った。実施例8は、粘着材を3枚重ねることで粘着剤の厚さを450μmとしたこと以外は、実施例2と同様にして試験および評価を行った。初期状態からのパーティクル数の増加比率を算出した結果、増加比率は3倍であった。また、真空度への影響は、評価Cであった。また、接合基板を製造した結果、接合阻害は発生せず、正常に接合した接合基板が得られた。
【0075】
[実施例9]
次に、実施例9を行った。実施例9は、粘着材を3枚重ねることで粘着剤の厚さを450μmとしたこと以外は、実施例3と同様にして試験および評価を行った。初期状態からのパーティクル数の増加比率を算出した結果、増加比率は5倍であった。また、真空度への影響は、評価Bであった。また、接合基板を製造した結果、接合阻害は発生せず、正常に接合した接合基板が得られた。
【0076】
[比較例1]
次に、比較例1を行った。陰極部材として、粘着材により被覆されていない陰極部材を用いたこと以外は、実施例1と同様にして照射試験を行った。初期状態からのパーティクル数の増加比率を算出した結果、増加比率は20倍であった。また、接合基板を製造した結果、接合阻害が発生し、得られた接合基板において破折箇所が確認された。
【0077】
[比較例2]
次に、比較例2を行った。陰極は
図6に示した陰極100Cとし、陰極部材として、(底面110C,上面120C,側面130C,140C,150C,160C)を用いた。陰極部材は、図面のように、粘着材104Cで被覆されている。また、粘着材被覆領域の面積割合(粘着材で被覆した面積/陰極部材表面全体の面積)83.7%であった。陰極部材以外は実施例1と同様にして照射試験を行った。真空度への影響は、評価Dであり、製品は得られるものの表面処理の効率が著しく悪く生産性に難があった。
【0078】
[比較例3]
次に、比較例3を行った。陰極は
図7に示した陰極100Dとし、陰極部材として、(底面110D,上面120D,側面130D,140D,150D,160D)を用いた。陰極部材は、図面のように、粘着材104Dで被覆されている。また、粘着材被覆領域の面積割合(粘着材で被覆した面積/陰極部材表面全体の面積)1.9%であった。陰極部材以外は実施例1と同様にして照射試験を行った。初期状態からのパーティクル数の増加比率を算出した結果、増加比率は18倍であった。また、真空度への影響は、評価Aであった。また、接合基板を製造した結果、接合阻害が発生し、得られた接合基板において破折箇所が確認された。
【0079】
[比較例4]
次に、比較例4を行った。比較例4は、粘着材を4枚重ねることで粘着剤の厚さを600μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして試験および評価を行った。真空度への影響は、評価Dであり、製品は得られるものの表面処理の効率が著しく悪く生産性に難があった。
【0080】
[比較例5]
次に、比較例5を行った。比較例5は、粘着材を4枚重ねることで粘着剤の厚さを600μmとしたこと以外は、実施例3と同様にして試験および評価を行った。真空度への影響は、評価Dであり、製品は得られるものの表面処理の効率が著しく悪く生産性に難があった。
【0081】
【0082】
本発明の例示的態様である実施例1~実施例9において、陰極部材におけるスパッタリング現象により生じたパーティクルが堆積しやすい領域を、粘着性を有する粘着材により被覆することで、比較例1、3と比べてパーティクル数の増加比率が低くなり、パーティクルの放出が抑制できることが示された。また、粘着材の面積割合5%~80%、かつ、厚さを500μm以下とすることにより、高速原子ビーム線源内の真空度が低下して表面処理の効率低下を抑制することができ、接合基板の製造効率を高めることができる。