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  • 特開-タングステン合金線及び金属製品 図1
  • 特開-タングステン合金線及び金属製品 図2A
  • 特開-タングステン合金線及び金属製品 図2B
  • 特開-タングステン合金線及び金属製品 図2C
  • 特開-タングステン合金線及び金属製品 図3
  • 特開-タングステン合金線及び金属製品 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178898
(43)【公開日】2023-12-18
(54)【発明の名称】タングステン合金線及び金属製品
(51)【国際特許分類】
   C22C 27/04 20060101AFI20231211BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20231211BHJP
   C22F 1/18 20060101ALN20231211BHJP
   B22F 5/12 20060101ALN20231211BHJP
【FI】
C22C27/04 101
C22F1/00 624
C22F1/00 625
C22F1/00 628
C22F1/00 630K
C22F1/00 631B
C22F1/00 650A
C22F1/00 675
C22F1/00 685Z
C22F1/00 687
C22F1/18 B
B22F5/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022091886
(22)【出願日】2022-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【弁理士】
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【弁理士】
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】武田 建史郎
(72)【発明者】
【氏名】前川 雄広
(72)【発明者】
【氏名】笠原 昌紀
(72)【発明者】
【氏名】谷脇 達也
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018EA52
4K018HA10
(57)【要約】
【課題】耐屈曲性に優れたタングステン合金線を提供する。
【解決手段】タングステン合金線1は、1100℃以上の熱影響を少なくとも1回受ける環境下で使用されるタングステン合金線である。タングステン合金線1は、レニウムを5wt%以上26%wt以下の含有率で含む。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1100℃以上の熱影響を少なくとも1回受ける環境下で使用されるタングステン合金線であって、
レニウムを5wt%以上26%wt以下の含有量で含む、
タングステン合金線。
【請求項2】
請求項1に係るタングステン合金線を備える金属製品。
【請求項3】
前記金属製品は、棒、電極又は撚り線である、
請求項2に記載の金属製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タングステン合金線及び金属製品に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、引張強度が3900MPa以上のタングステン線が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-001660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、耐屈曲性に優れたタングステン合金線及び当該タングステン合金線を備える金属製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様に係るタングステン合金線は、1100℃以上の熱影響を少なくとも1回受ける環境下で使用されるタングステン合金線であって、レニウムを5wt%以上26%wt以下の含有量で含む。
【0006】
本発明の一態様に係る金属製品は、上記一態様に係るタングステン合金線を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、耐屈曲性に優れたタングステン合金線及び当該タングステン合金線を備える金属製品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施の形態に係るタングステン合金線の模式的な斜視図である。
図2A図2Aは、実施の形態に係るタングステン合金線を備える棒の模式的な斜視図である。
図2B図2Bは、実施の形態に係るタングステン合金線を備える電極の模式的な斜視図である。
図2C図2Cは、実施の形態に係るタングステン合金線を備える撚り線の模式的な斜視図である。
図3図3は、実施の形態に係るタングステン合金線の熱影響を受けた後の耐屈曲性を示す図である。
図4図4は、実施の形態に係るタングステン合金線のコイリング試験の概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下では、本発明の実施の形態に係るタングステン合金線及び金属製品について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、いずれも本発明の一具体例を示すものである。したがって、以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本発明を限定する趣旨ではない。よって、以下の実施の形態における構成要素のうち、独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0010】
また、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。したがって、例えば、各図において縮尺などは必ずしも一致しない。また、各図において、実質的に同一の構成については同一の符号を付しており、重複する説明は省略又は簡略化する。
【0011】
また、本明細書において、円柱又は円形などの要素の形状を示す用語、並びに、数値範囲は、厳格な意味のみを表す表現ではなく、実質的に同等な範囲、例えば数%程度の差異をも含むことを意味する表現である。
【0012】
(実施の形態)
[構成]
まず、本実施の形態に係るタングステン合金線について、図1を用いて説明する。図1は、本実施の形態に係るタングステン合金線1の模式的な斜視図である。
【0013】
図1に示されるように、タングステン合金線1は、巻枠2に巻回されて保管される。巻枠2は、ボビン、リール、スプール又はドラムなどと称される場合がある。タングステン合金線1は、例えば、100m程度のmオーダーの全長からkmオーダーの全長を有するが、特に限定されない。
【0014】
図1に示されるタングステン合金線1は、金属製品の製造に利用される。図2A図2Cはそれぞれ、本実施の形態に係るタングステン合金線1を備える金属製品の一例を示す模式的な斜視図である。
【0015】
図2Aに示される棒11は、金属製品の一例であり、タングステン合金線1を備える。具体的には、棒11は、所定の長さのタングステン合金線1である。棒11の長さは、特に限定されず、用途に応じて適切な長さとすることができる。棒11は、タングステン合金線1を備える様々な金属製品の一部又は中間加工部材として利用されるが、用途は特に限定されない。なお、棒は、ピンと称される場合もある。
【0016】
図2Bに示される電極12は、金属製品の一例であり、タングステン合金線1を備える。具体的には、電極12は、所定の長さのタングステン合金線1の先端部分を細く加工したものである。電極12の先端形状は、例えば円錐形状であるが、これに限定されない。電極12の先端形状は、先端部が丸い円錐形状若しくは円錐台形状、又は、角錐若しくは角錐台形状などであってもよい。電極12は、例えば放電加工に利用されるが、用途は特に限定されない。
【0017】
図2Cに示される撚り線13は、金属製品の一例であり、複数のタングステン合金線1を備える。具体的には、撚り線13は、所定の長さの複数のタングステン合金線1に対して合撚加工を行うことで製造される合撚糸である。なお、撚り線13は、タングステン合金線1を芯糸又は鞘糸として備えるカバーリング糸であってもよい。芯糸及び鞘糸の一方は、タングステン合金線1以外の金属線であってもよく、化学繊維、天然繊維、再生繊維などであってもよい。撚り線13は、さらに束ねられてロープ又は紐などに利用されてもよく、用途は特に限定されない。
【0018】
なお、タングステン合金線1を利用した金属製品の例は、図2A図2Cに示されるものには限定されない。例えば、金属製品は、ソーワイヤ、メッシュ、カテーテル、繊維製品などであってもよい。金属製品は、タングステン合金線1と、金属以外の材料(例えば樹脂)を用いて形成された部材と、を備えてもよい。
【0019】
本実施の形態に係るタングステン合金線1は、1100℃以上の熱影響を少なくとも1回受ける環境下で使用される。具体的には、タングステン合金線1は、金属製品の製造のための加工時、又は、金属製品としての使用時に熱影響を少なくとも1回受ける。熱影響の具体例としては、例えば、タングステン合金線1を鉄などの他の金属部材に溶接する場合、又は、放電電極として使用された場合などであるが、特に限定されない。
【0020】
タングステン合金線1は、1100℃以上の熱影響を受けたとしても、折り曲げに強い。すなわち、タングステン合金線1は、耐屈曲性に優れている。タングステン合金線1を、所定の曲率で曲げたとしても破断又は表面剥離などが生じない。なお、1100℃は、タングステンが一次再結晶する温度の一例である。
【0021】
一般的に、タングステンは、高温に耐えられる特性を有する。しかしながら、タングステンは、結晶粒界が弱い、すなわち、結晶粒界を起点として亀裂が入りやすいという問題がある。具体的には、結晶粒のサイズが変化する程度(具体的には、タングステンが一次再結晶する温度(1100℃)以上)の熱影響を受けた場合には、タングステンの結晶粒が大きくなって結晶粒界が少なくなるだけでなく、結晶粒界に酸素が入り込む。結晶粒界が少なくなることで、結晶粒界に入り込む酸素の量も相対的に多くなるので、タングステンの強度が弱くなる。この結果、熱影響後にタングステンに対する折り又は曲げなどの応力が加わった場合、結晶粒界を起点として亀裂が入りやすくなって耐屈曲性が悪化する。
【0022】
これに対して、本実施の形態に係るタングステン合金線1は、タングステンとレニウム(Re)とを含み、タングステンとレニウムとが固溶体を形成して合金化されている。タングステン合金線1におけるレニウムの含有量は、5wt%以上26wt%以下である。
【0023】
タングステン合金線1では、レニウムの含有量が5wt%以上であることによって、熱影響を受けた場合に入り込む酸素を、結晶粒内に存在するレニウムが取り込むことができる。これにより、結晶粒界に存在する酸素の量を少なくすることができるので、亀裂が入りにくくなって耐屈曲性の悪化を抑制することができる。
【0024】
また、タングステン合金線1では、レニウムの含有量が26wt%以下であることによって、レニウムとタングステンとの固溶体を形成することができる。レニウムの含有量が26wt%を超えると固溶体が形成できなくなり、タングステン合金線1の強度が低下して脆くなるおそれがある。
【0025】
[耐屈曲性]
続いて、本実施の形態に係るタングステン合金線1の耐屈曲性について、図3及び図4を用いて説明する。
【0026】
図3は、本実施の形態に係るタングステン合金線の熱影響を受けた後の耐屈曲性を示す図である。図3に示す実施例1~8は、線径及び成分の少なくとも一方が異なるタングステン合金線である。各実施例に係るタングステン合金線1の線径は、0.02mm以上1.00mm以下の範囲内である。また、各実施例に係るタングステン合金線1におけるレニウムの含有量は、5wt%以上26wt%以下の範囲内である。また、各実施例に係るタングステン合金線1におけるタングステンの含有量は、74wt%以上95wt%以下である。
【0027】
また、図3には、比較例1~7に係るタングステン線の耐屈曲性についても図示している。比較例1~3は、レニウムを含むタングステン合金線である。比較例1~3に係るタングステン合金線におけるレニウムの含有量は、1wt%又は3wt%以下である。比較例1~3に係るタングステン合金線の線径は、0.10mm又は0.50mmである。比較例4~6は、カリウムを含むタングステン線(カリウムドープタングステン線)である。比較例4~6に係るカリウムドープタングステン線におけるカリウムの含有量は、0.007wt%である。比較例4~6に係るカリウムドープタングステン線の線径は、0.04mm、0.10mm又は0.50mmである。比較例7は、添加物を含んでいない純タングステン線である。なお、各実施例及び各比較例では、製造上避けられない不可避的な不純物が微量に含まれている。
【0028】
本願発明者らは、実施例1~8に係るタングステン合金線、並びに、比較例1~7に係るタングステン合金線、カリウムドープタングステン線及び純タングステン線に対して、所定の温度で熱処理を行った。各実施例及び各比較例について5本ずつサンプルを作成し、各サンプルに対して異なる温度(1100℃、1300℃、1500℃、1700℃、2000℃)で熱処理を行った。熱処理時間は、特に影響を与えるものがないが、例えば、1分程度である。
【0029】
熱処理後、各実施例及び各比較例の各サンプルに対して、コイリング試験を行った。図4は、本実施の形態に係るタングステン合金線1のコイリング試験の概要を示す図である。
【0030】
コイリング試験では、断面形状が円形で均一な径の棒状の芯材20に対して、タングステン合金線1を巻き付け、タングステン合金線1の破断又は表面剥離が生じるか否かを確認した。コイリング試験に用いる芯材20の断面の径Rは、対象となるタングステン合金線1の線径φと同じにした。すなわち、タングステン合金線1の線径が小さい程、小さい曲率半径(大きい曲率)で屈曲(コイリング)が行われるようにしている。例えば、実施例1に係る線径1.00mmのタングステン合金線1の場合、線径1.00mmの円柱状の芯材20を利用した。実施例7に係る線径0.04mmのタングステン合金線1の場合、線径0.04mmの円柱状の芯材20を利用した。比較例1~7に係るタングステン合金線、カリウムドープタングステン線及び純タングステン線についても同様である。
【0031】
図3の実施例1~8に係るタングステン合金線1では、いずれの温度においても破断又は表面剥離が生じなかった(図中“OK”で表している)。すなわち、線径によらず、レニウムの含有量が5wt%以上26wt%以下の範囲では、1100℃以上の熱影響を受けたとしても、折り曲げに対して強い(耐屈曲性に優れた)タングステン合金線1が実現できている。
【0032】
これに対して、比較例1~3に示されるように、レニウムの含有量が1wt%又は3wt%である場合、比較例3の1100℃の熱影響を受けた場合を除いて、いずれも破断又は表面剥離が生じた(図中“NG”で表している)。比較例3では、線径が0.10mmであって細いので、低い温度(1100℃)では結晶粒界に取り込まれる酸素が少なく破断にまでは至らなかったと想定される。
【0033】
また、比較例4~6に示されるように、カリウムドープタングステン線の場合、線径が小さく、かつ、熱処理の温度が低い場合(比較例5の1100℃、並びに、比較例6の1100℃及び1300℃)を除いて、いずれも破断又は表面剥離が生じた。なお、カリウムは、レニウムとは異なり、結晶粒界に存在し、酸素を取り込む効果がない。
【0034】
比較例7に示されるように、純タングステン線の場合、熱影響による酸素が結晶粒界に入り込むので、破断又は表面剥離が生じた。
【0035】
[効果など]
以上のように、本実施の形態に係るタングステン合金線1は、1100℃以上の熱影響を少なくとも1回受ける環境下で使用されるタングステン合金線であって、レニウムを5wt%以上26%wt以下の含有量で含む。
【0036】
これにより、タングステン合金線1は、レニウムを5wt%以上含有することによって、熱影響を受けた場合に結晶粒界に入る酸素をレニウムが取り込むことができ、結晶粒界を起点とする亀裂の発生を抑制することができる。よって、熱影響を受けたとしても、断線などが発生しにくく、耐屈曲性に優れたタングステン合金線1を実現することができる。また、レニウムの含有量が26wt%以下であることで、レニウムとタングステンとの合金(固溶体)を形成することができるので、タングステン合金線1の強度を高めることができる。
【0037】
また、本実施の形態に係る金属製品は、タングステン合金線1を備える。例えば、金属製品は、棒11、電極12又は撚り線13である。
【0038】
これにより、金属製品の製造時又は使用時に熱影響を受けたとしても、タングステン合金線1は折り曲げに強い。このため、金属製品の品質の低下を抑制することができる。
【0039】
[製造方法]
本実施の形態に係るタングステン合金線1は、例えば、次のような方法で製造することができる。
【0040】
まず、タングステン粉末とレニウム粉末とを混合し、プレス成型して焼結してインゴット化する。タングステン粉末とレニウム粉末との混合比を調整することで、レニウムの含有量を5wt%以上26wt%以下に調整することができる。
【0041】
次に、インゴット化したタングステン塊に対して、周囲から鍛造圧縮して伸展するスエージング加工を施すことによりワイヤ状にする。その後、伸線ダイスを用いた線引き(伸線)を行う。線引きは、孔径が互いに異なる複数の伸線ダイスを、孔径が漸次小さくなる順番で用いることで行われる。
【0042】
伸線ダイスの孔径を適宜調整することによって、図3に示したような0.02mmから1.00mmの範囲のタングステン合金線1を製造することができる。なお、線引き時には、所定の温度での加熱が行われてもよい。また、線引き後のタングステン合金線1に対して、電解研磨などの表面処理が行われてもよい。
【0043】
(その他)
以上、本発明に係るタングステン合金線及び金属製品について、上記の実施の形態などに基づいて説明したが、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではない。
【0044】
例えば、タングステン合金線は、レニウムの代わりに、ルテニウム(Ru)又はコバルト(Co)を含んでもよい。例えば、タングステン合金線は、タングステンの含有量が99.8wt%であり、ルテニウムの含有量が0.2wt%であり、微量の不純物を含んでもよい。当該タングステン合金線に対して熱処理を行った後、コイリング試験を行った結果、熱処理の温度が1100℃、1300℃、1500℃、1700℃、2000℃のいずれの場合も、耐屈曲性の悪化が見られなかった。
【0045】
その他、各実施の形態に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態や、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で各実施の形態における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0046】
1 タングステン合金線
11 棒
12 電極
13 撚り線
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4