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  • 特開-試験結果の精度向上方法 図1
  • 特開-試験結果の精度向上方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178915
(43)【公開日】2023-12-18
(54)【発明の名称】試験結果の精度向上方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/00 20060101AFI20231211BHJP
【FI】
G01R31/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022091911
(22)【出願日】2022-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】598119588
【氏名又は名称】株式会社コスモス・コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 諭史
(74)【代理人】
【識別番号】100224661
【弁理士】
【氏名又は名称】牧内 直征
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(72)【発明者】
【氏名】濱口 慶一
(72)【発明者】
【氏名】奥田 真由美
【テーマコード(参考)】
2G036
【Fターム(参考)】
2G036AA19
2G036AA27
2G036AA28
2G036BA46
(57)【要約】
【課題】対象機器の性能試験において正確な試験結果を迅速に得られる試験結果の精度向上方法を提供する。
【解決手段】試験結果の精度向上方法は、機器の性能試験結果の精度を向上する方法であって、機器の性能試験を所定の試験方法で行う基本試験工程S01と、試験結果の精度を向上するための精度向上工程S02とを有し、精度向上工程S02において、関連機器で過去に実績のある試験方法に基づく実績方法、および、基本試験工程S01での試験方法もしくは実績方法と異なる別方法から選ばれる少なくとも一つの試験方法による試験結果が取得される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機器の性能試験により得られる試験結果の精度向上方法であって、
前記試験結果の精度向上方法は、前記機器の性能試験を所定の試験方法で行う基本試験工程と、前記試験結果の精度を向上するための精度向上工程とを有し、
前記精度向上工程において、前記機器に関連する関連機器で過去に実績のある試験方法に基づく実績方法、および、前記基本試験工程での試験方法もしくは前記実績方法と異なる別方法から選ばれる少なくとも一つの試験方法による試験結果が取得されることを特徴とする試験結果の精度向上方法。
【請求項2】
前記精度向上工程において、性能試験が2回以上行われる場合、先の性能試験での試験方法と後の性能試験での試験方法が異なることを特徴とする請求項1記載の試験結果の精度向上方法。
【請求項3】
前記基本試験工程での試験結果は、前記基本試験工程および前記精度向上工程での試験結果に基づいて妥当性を判定されることを特徴とする請求項1または請求項2記載の試験結果の精度向上方法。
【請求項4】
前記妥当性の判定は、前記精度向上工程での試験結果の数値が、前記基本試験工程での試験結果の数値を中心とする所定の範囲内であるか否かを妥当性判定基準として行われることを特徴とする請求項3記載の試験結果の精度向上方法。
【請求項5】
前記性能試験が、前記機器に所定範囲の入力電圧印加時に流れる電流を測定する消費電力試験であり、
前記性能試験が試験機関によって行われる場合、別方法による試験結果として、前記試験機関への試験依頼者による試験結果が用いられることを特徴とする請求項1または請求項2記載の試験結果の精度向上方法。
【請求項6】
前記性能試験が、前記機器を所定の条件下で使用した場合の外装表面および内部の温度を測定する温度測定試験であり、
前記別方法として、赤外線カメラを用いて性能試験が行われることを特徴とする請求項1または請求項2記載の試験結果の精度向上方法。
【請求項7】
前記性能試験が、前記機器への電圧の印加を遮断した際の残留電圧の経時変化を測定する残留電圧測定試験であり、
前記別方法による試験結果として、回路図に基づいて算出される理論計算結果が用いられることを特徴とする請求項1または請求項2記載の試験結果の精度向上方法。
【請求項8】
前記性能試験が、前記機器から切り取られた試験片に対しIEC60695-10-2に準拠して加熱条件下で鋼球を介して1時間荷重をかけ、前記試験片の表面に形成される圧痕径を測定するボールプレッシャ試験であり、
前記性能試験が試験機関によって行われる場合、別方法による試験結果として、前記試験機関への試験依頼者による試験結果が用いられることを特徴とする請求項1または請求項2記載の試験結果の精度向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機器等の性能試験により得られる試験結果の精度向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、電気機器等の安全性については、電気用品による危険及び障害の発生の防止を目的とする法律として、電気用品安全法が定められている。この法律では、特定電気用品を製造等する事業者は、登録検査機関において当該電気用品の型式区分ごとに適合性検査を受けることが義務付けられている。
【0003】
一般に、電気機器の開発や販売に際しては、当該電気機器の性能を評価するための評価試験が行われる。当該評価試験は、社内の試験部署または外部の試験機関などで行われる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-41693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電気機器などの性能試験においては、種々の要因により試験結果が基準(規格上の合格基準またはより厳しい内部基準)から外れる場合がある。試験結果に影響を与える要因としては、例えば、測定方法、測定装置(校正方法を含む)、測定試薬、標準物質、試験される機器、測定環境、測定者の熟練度、経験などがあり、いわゆる「4M」と呼ばれる因子である。ここで、4Mとは、人、機械、材料、方法の4要素を意味する。正確な試験結果を得るためには4M管理が重要であるが、4Mを十分に管理することは管理負担の増大に繋がるため、4M管理されていなかったり、一部が管理されているものの十分には管理されていなかったりする場合がある。この場合、正確な試験結果が得られにくいため、正しい結果を得るまでに多くの時間を要するおそれがある。
【0006】
試験機関などにおいては、通常、4Mが十分に管理された条件で試験される(規格に基づいて適切な試験装置を用いて適切な測定環境で、定期的な技能試験を受けた測定者が試験を行う)ため、試験機関内での試験結果のバラつきは比較的小さい。一方、試験機関への試験依頼者(例えば、機器製造者や、機器販売者)側での試験においては、4M管理の程度は不明であり、試験機関とは複数の4Mが異なっている場合も多く、試験機関と試験依頼者の両者での試験結果のバラつきは比較的大きくなりやすい。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、対象機器の性能試験において正確な試験結果を迅速に得られる試験結果の精度向上方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の試験結果の精度向上方法(以下、単に精度向上方法ともいう)は、機器の性能試験により得られる試験結果の精度向上方法であって、上記試験結果の精度向上方法は、上記機器の性能試験を所定の試験方法で行う基本試験工程と、上記試験結果の精度を向上するための精度向上工程とを有し、上記精度向上工程において、上記機器に関連する関連機器で過去に実績のある試験方法に基づく実績方法、および、上記基本試験工程での試験方法もしくは上記実績方法と異なる別方法から選ばれる少なくとも一つの試験方法による試験結果が取得されることを特徴とする。
【0009】
上記精度向上工程において、性能試験が2回以上行われる場合、先の性能試験での試験方法と後の性能試験での試験方法が異なることを特徴とする。
【0010】
上記基本試験工程での試験結果は、上記基本試験工程および上記精度向上工程での試験結果に基づいて妥当性を判定されることを特徴とする。
【0011】
上記妥当性の判定は、上記精度向上工程での試験結果の数値が、上記基本試験工程での試験結果の数値を中心とする所定の範囲内であるか否かを妥当性判定基準として行われることを特徴とする。
【0012】
上記性能試験が、上記機器に所定範囲の入力電圧印加時に流れる電流を測定する消費電力試験であり、上記性能試験が試験機関によって行われる場合、別方法による試験結果として、上記試験機関への試験依頼者による試験結果が用いられることを特徴とする。
【0013】
上記性能試験が、上記機器を所定の条件下で使用した場合の外装表面および内部の温度を測定する温度測定試験であり、上記別方法として、赤外線カメラを用いて性能試験が行われることを特徴とする。
【0014】
上記性能試験が、上記機器への電圧の印加を遮断した際の残留電圧の経時変化を測定する残留電圧測定試験であり、上記別方法による試験結果として、回路図に基づいて算出される理論計算結果が用いられることを特徴とする。
【0015】
上記性能試験が、上記機器から切り取られた試験片に対しIEC60695-10-2に準拠して加熱条件下で鋼球を介して1時間荷重をかけ、上記試験片の表面に形成される圧痕径を測定するボールプレッシャ試験であり、上記性能試験が試験機関によって行われる場合、別方法による試験結果として、上記試験機関への試験依頼者による試験結果が用いられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の試験結果の精度向上方法は、精度向上工程において、関連機器で過去に実績のある試験方法に基づく実績方法、および、基本試験工程での試験方法もしくは実績方法と異なる別方法から選ばれる少なくとも一つの試験方法による試験結果が取得されるので、基本試験工程での試験のみの場合よりも試験結果の精度が向上する。その結果、対象機器の性能試験において正確な試験結果を迅速に得られる。
【0017】
精度向上工程において、性能試験が2回以上行われる場合、先の性能試験での試験方法と後の性能試験での試験方法が異なるので、性能試験が異なる方法で合計3回行われることとなり、試験結果の精度がより向上する。
【0018】
基本試験工程における試験結果の妥当性の判定は、精度向上工程での試験結果の数値が、基本試験工程での試験結果の数値を中心とする所定の範囲内であるか否かを妥当性判定基準として行われるので、精度向上工程での試験結果は、基本試験工程での試験結果の信頼性を判断する指標として、妥当性の迅速な判定に寄与する。
【0019】
性能試験が、機器に所定範囲の入力電圧印加時に流れる電流を測定する消費電力試験であり、性能試験が試験機関によって行われる場合、別方法による試験結果として、試験機関への試験依頼者による試験結果が用いられるので、正確な試験結果をより迅速に得られる。
【0020】
性能試験が、機器を所定の条件下で使用した場合の外装表面および内部の温度を測定する温度測定試験であり、別方法として、赤外線カメラを用いて性能試験が行われるので、異なる検知方式での温度測定が簡易に行われ、正確な試験結果をより迅速に得られる。
【0021】
性能試験が、機器への電圧の印加を遮断した際の残留電圧の経時変化を測定する残留電圧測定試験であり、別方法による試験結果として、回路図に基づいて算出される理論計算結果が用いられるので、試験結果の精度がより向上する。
【0022】
性能試験が、機器から切り取られた試験片に対しIEC60695-10-2に準拠して加熱条件下で鋼球を介して1時間荷重をかけ、試験片の表面に形成される圧痕径を測定するボールプレッシャ試験であり、性能試験が試験機関によって行われる場合、別方法による試験結果として、試験機関への試験依頼者による試験結果が用いられるので、試験結果の精度がより向上する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】第1実施形態の精度向上方法の流れを示すフローチャートである。
図2】第2実施形態の精度向上方法の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の精度向上方法の流れについて図1および図2に基づいて説明する。
【0025】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態の精度向上方法の流れを示すフローチャートである。図1に示すように、本発明の精度向上方法は、電気機器などの対象機器が国際規格や各国の安全規格などに基づいて性能試験が行われる場合に得られる試験結果の精度を向上する方法である。この精度向上方法は、機器の性能試験を所定の試験方法で行う基本試験工程S01と、試験結果の精度を向上するための精度向上工程S02とを有する。ここで、基本試験工程S01での所定の試験方法は、例えば、国際規格や各国の安全規格などに定められた試験方法や条件などであり、試験者が対象機器の最初の試験時に通常行うこととしている基本的な試験方法や条件である。基本試験工程S01では、4M(人、機械、材料、方法)が管理されている。また、試験としては、例えば、電気機器の消費電力試験、温度測定試験、ボールプレッシャ試験、電源プラグの残留電圧試験などが挙げられる。
【0026】
第1実施形態の場合、精度向上工程S02において、上記機器に関連する関連機器で過去に実績のある試験方法に基づく実績方法、または、基本試験工程S01での試験方法もしくは実績方法と異なる別方法のいずれかの試験方法による試験結果が取得される。精度向上工程S02は、実績方法による試験結果が取得される実績方法工程S03と、別方法による試験結果が取得される別方法工程S04とを有する。実績方法工程S03では、試験結果として、例えば、過去の試験結果(実績結果)を取得(利用)できる。また、試験結果として、新たに実績方法で試験を行って得られる試験結果を取得してもよい。ここで、関連機器とは、構成部材の形状、材質、回路構造、大きさなどの少なくとも一部が、試験対象機器と同一または略同一である機器を意味する。また、実績方法とは、測定対象機器や関連機器で過去に試験された際の試験方法と同じ方法、および、該試験方法に基づきつつ一部を変更した試験方法を意味する。
【0027】
精度向上工程において、実績方法および別方法から選ばれる少なくとも一つの試験方法による試験結果が取得されればよい。すなわち、実績方法または別方法のいずれかの試験方法に限らず、両方の試験方法による試験結果が取得されてもよい。精度向上工程において、性能試験は2回以上行われてもよい。精度および簡易性の観点から、性能試験は、基本試験工程で1回、精度向上工程において2回(合計3回)行われることが好ましい。
【0028】
性能試験を合計3回行う場合(スリーメソッド)の試験全体での信頼度(精度)について、以下に説明する。
【0029】
性能試験として、例えば、電気特性測定を行い、3回の測定方法を毎回変えて測定した場合の各測定結果の信頼度を以下に示す。
測定結果1:信頼度R(0≦R≦1)
測定結果2:信頼度R(0≦R≦1)
測定結果3:信頼度R(0≦R≦1)
【0030】
測定結果が、測定結果1と測定結果2の2つである場合の全体の信頼度をQとすると、Qは下記式(1)のように表わされる。
【0031】

=1-{(1-R)(1-R)}
=R+R-R
=Q+R(1-Q)・・・(1)
【0032】
このように、Qは、QよりもR(1-Q)の分だけ全体の信頼度が大きくなり、測定結果が1つの場合よりも2つの場合の方が、精度が向上することがわかる。
【0033】
なお、上記式(1)の計算過程において、Qは測定結果が1つの場合の信頼度であり、Q=1-(1-R)=Rとできることから、RをQに置き換えた。
【0034】
次に、測定結果が、測定結果1、測定結果2、および測定結果3の3つである場合の全体の信頼度をQとすると、Qは下記式(2)のように表わされる。
【0035】

=1-{(1-R)(1-R)(1-R)}
=R+R-R+R-R-R+R
=Q+R{1-(R+R-R)}
=Q+R(1-Q)・・・(2)
【0036】
このように、Qは、QよりもR(1-Q)の分だけ全体の信頼度が大きくなり、測定結果が2つの場合よりも3つの場合の方がさらに精度が向上することがわかる。
【0037】
なお、上記式(2)の計算過程で、R+R-RをQに置き換えた。
【0038】
ここで、3回の測定結果の信頼度を、例えば、R=0.5、R=0.6、R=0.7とした場合のQおよびQについて以下に計算する。
【0039】
測定結果が2つ(R、R)の場合
=0.5+0.6×(1-0.5)=0.8
このように、Qは、Q(=R=0.5)よりも大きくなり、精度が向上している。
【0040】
測定結果が3つ(R、R、R)の場合
=0.8+0.7×(1-0.8)=0.94
このように、Qは、Q(=0.8)よりも大きくなり、さらに精度が向上している。
【0041】
各測定方法は、設備、測定環境、測定者、測定条件、測定位置、算出方法などの1つ以上を変えた方法とすることができる。例えば、電圧測定試験の場合、1回目の試験では電圧を直接測定し、2回目の試験では抵抗と電流を測定してそれらを掛け合せることにより間接的に電圧を算出するなどして測定方法を変えることができる。また、測定環境を変えた場合には、測定が行われる会社や機関が異なる場合を含む。
【0042】
精度向上工程において性能試験が2回以上行われる場合、精度向上工程では、初めに実績方法による試験結果が取得され、続いて別方法による試験結果が取得されることが好ましい。関連機器で過去に試験実績がある場合、実績方法による試験結果として過去の試験結果を用いることで、試験結果の信頼性がより向上する。なお、精度向上工程では、初めに別方法による試験結果が取得され、続いて実績方法による試験結果が取得されてもよい。
【0043】
また、精度向上工程において性能試験が2回以上行われる場合、先の性能試験での試験方法と後の性能試験での試験方法は同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0044】
(第2実施形態)
図2を用いて本発明の精度向上方法の一例について詳細に説明する。図2は、第2実施形態の精度向上方法の流れを示すフローチャートである。図2に示すように、本発明の精度向上方法は、まず、対象機器について基本試験工程で所定の試験方法により試験が行われ、試験結果(基本試験結果)を取得する(ステップS11)。
【0045】
続いて、ステップS12において関連機器での過去の試験実績があるかを確認する。試験実績がある場合(ステップS12:Yes)、実績方法による試験結果の取得が行われる(ステップS13)。一方、ステップS12において過去の試験実績がない場合(ステップS12:No)、ステップS16へ移行する。
【0046】
ステップS14では基本試験工程での試験結果が、基本試験工程および精度向上工程での試験結果(ステップS11で取得した基本試験結果およびステップS13で取得した試験結果)に基づいて妥当性を判定される。ここで、妥当性の判定は、例えば、基本試験工程および精度向上工程での試験結果のバラツキが所定の範囲内であるか否かを妥当性判定基準として行われる。試験結果のバラツキが所定の範囲内とは、例えば、精度向上工程での試験結果の数値が、基本試験結果の数値を中心とする±10%以内の範囲に収まったり、基本試験工程および精度向上工程での試験結果の数値が平均値±1標準偏差以内の範囲に収まったりすることである。
【0047】
ステップS14において基本試験結果が妥当性判定基準を満たして妥当と判定された場合(ステップS14:Yes)、ステップS15へ移行する。一方、ステップS14において基本試験結果が妥当性判定基準を満たさない場合(ステップS14:No)、ステップS16へ移行する。
【0048】
ステップS15では、基本試験結果が合格基準を満たすか否かを合否判定される。合格の判定がされた場合、試験は終了する。一方、ステップS15において試験結果が合格基準を満たさない場合(ステップS15:No)、ステップS16へ移行する。ここで、合格基準は、規格に規定された数値や状態(規格基準)に設定できる。
【0049】
ステップS16では先の試験での試験方法(基本試験工程での試験方法もしくは実績方法)と異なる方法(別方法)による試験結果の取得が行われる。ステップS17では基本試験結果が、基本試験工程および精度向上工程での試験結果(基本試験結果、ステップS13およびステップS16で取得した試験結果)に基づいて妥当性を判定される。妥当性の判定は、例えば、上記妥当性判定基準に基づいて行われる。
【0050】
ステップS17において基本試験結果が妥当性判定基準を満たして妥当と判定された場合(ステップS17:Yes)、ステップS18へ移行する。一方、ステップS17において基本試験結果が妥当性判定基準を満たさない場合(ステップS17:No)、ステップS19へ移行する。
【0051】
ステップS18では、基本試験結果が合格基準を満たすか否かを合否判定される。合格の判定がされた場合、試験は終了する。一方、ステップS18において試験結果が合格基準を満たさない場合(ステップS18:No)、ステップS19へ移行する。
【0052】
ステップS19では再試験(試験結果の再取得)が必要か判定する。再試験の必要性は、合計測定回数、妥当性判定基準や合格基準との乖離の程度などに基づいて判定する。ステップS19において再試験が必要と判定した場合(ステップS19:Yes)、再度ステップS16へ移行し、先の試験と異なる新たな方法で試験を行う。一方、ステップS19において再試験が不要と判定した場合(ステップS19:No)、不合格の判定がされ、試験は終了する。
【0053】
ステップS19において再試験が必要と判断された場合、取得した複数の試験結果のうちこれらの平均値に最も近い試験結果を基本試験結果として、再試験により、妥当性判定や合否判定を行ってもよい。
【0054】
基本試験工程での試験結果は、理論に基づく計算値、各データ間の増減傾向などに基づいて妥当性を判定してもよい。
【0055】
精度向上工程S02での試験回数は複数回でなく、1回の試験で終了としてもよい。また、関連機器で過去の試験実績があっても、実績方法でなく別方法による試験結果の取得が行われてもよい。
【0056】
(第3実施形態)
本発明の精度向上方法の一例として、第3実施形態の精度向上方法について説明する。第3実施形態の精度向上方法は、機器に所定範囲の入力電圧印加時に流れる電流を測定する消費電力試験に用いられる。消費電力試験は、製造者が定義した機器の入力電流、入力電力に対して、機器が定格値内で動作するか否かを確認するための試験であり、電気機器全てが対象となる。ここで、所定範囲の入力電圧とは、定格電圧範囲の両端である。
【0057】
消費電力試験では、具体的には、機器を正常使用状態かつ最大負荷の状態にし、定格電圧範囲の両端で入力電流、電圧を測定する。例えば、機器の定格入力電圧が100-240Vac(電圧公差±10%)、50-60Hzの場合、90V/50Hz、90V/60Hz、100V/50Hz、100V/60Hz、240V/50Hz、240V/60Hz、264V/50Hz、264V/60Hzの8通りの条件で測定する。なお、測定は機器が定常状態に達してから実施する。サイクル動作により入力電流、電圧が変動する機器においては一定期間中の最大値と平均値を測定する。
【0058】
第3実施形態の精度向上方法では、性能試験が試験機関によって行われる場合、別方法による試験結果として、試験機関への試験依頼者による試験結果が用いられてもよい。ここで、試験機関は、認証機関として登録されており、依頼を受けて機器の性能試験や認証試験を行う機関を意味する。また、試験依頼者は、機器を企画、設計、製造、販売、または使用する者を意味する。この場合、試験依頼者による試験は、各試験の規格に準拠した試験方法で行われていればよく、4M管理の程度は問わない。
【0059】
基本試験結果は、例えば、精度向上工程で試験結果として得られる電流値や電圧値が基本試験結果の数値を中心とする±10%以内に収まるか否かを妥当性判定基準として妥当性を判定される。試験依頼者による試験結果を妥当性の判定に用いることで、試験機関での試験条件と複数の条件が異なることとなりやすい。4Mが異なると考えられる試験依頼者側で得られた試験結果が、試験機関で得られた試験結果と所定の誤差範囲で合致すれば、より幅広い条件での試験結果が得られることとなり、その試験結果の信頼性が増すと考えられる。
【0060】
また、試験結果が電流値である場合、精度向上工程で得られる電流値が、上記8通りの条件での基本試験結果から導かれる近似曲線(例えば、最小二乗法により算出)上の所定の入力電圧における電流値を中心とする±30%以内に収まるか否かを妥当性判定基準として、基本試験結果の妥当性が判定されてもよい。
【0061】
第3実施形態の精度向上方法において、妥当な結果と判定された試験結果は、例えば、一定期間測定した電流値、電力値の平均が定格の110%を超えないこと(IEC60950-1)を合格基準として合否判定される。
【0062】
基本試験結果が妥当でないと判定された場合、例えば、試験方法の相違点の確認や、別サンプルでの再測定、試験時の挙動の確認(所定時間内での繰り返し動作が設定どおり再現されているかなど)を行う。
【0063】
(第4実施形態)
本発明の精度向上方法の一例として、第4実施形態の精度向上方法について説明する。第4実施形態の精度向上方法は、機器を所定の条件下で使用した場合の外装(外郭)表面および内部の温度を測定する温度測定試験に用いられる。ここで、所定の条件とは、機器の通常の使用の条件の中で、最も温度が上昇すると考えられる最大負荷状態で連続動作させ、測定箇所の温度上昇がほぼ一定となる条件である(最大負荷状態が複数パターン考えられる場合は全ての条件で測定してもよい)。温度測定試験は、火災の危険、使用者の接触による火傷の危険がないか、機器の外側だけでなく内部の部品が通常の使用状態で過度の温度にならない設計になっているか確認するための試験である。温度測定試験の測定対象部分は、機器を通常使用する条件にて温度が上昇すると考えられる外装(特に使用中に接触できる箇所)、内部の部品(巻線、充電部を保持する材料、内部配線、電源スイッチ、コンデンサなど)などである。基本試験工程では、通常、熱電対を用いて性能試験を行う。
【0064】
第4実施形態の精度向上方法では、別方法として、赤外線カメラ(サーモビューワー)を用いて性能試験を行うことができる。熱電対での温度測定と赤外線カメラでの温度測定は、作業効率化の観点から、同時に行うことが好ましい。熱電対により得られる各部の実測温度と、赤外線カメラにより得られる熱源からの位置と温度分布、材質による熱飽和、通風孔の温度分布などの情報とを比較することにより、エラーが検出されやすくなり、試験精度がさらに向上する。
【0065】
また、別方法として、先の性能試験に対し、熱電対の配置場所を変更して行ってもよいし、妥当性を確認したい場所のみ熱電対の数を減らして行ってもよい。さらに、熱電対の温度測定部以外の場所の固定場所を変更してもよい。
【0066】
基本試験結果は、例えば、精度向上工程で試験結果として得られる各部の温度が基本試験結果の数値を中心とする±10%以内に収まるか否かを妥当性判定基準として妥当性を判定される。また、機器の内部と外部の温度の関係性から基本試験結果の妥当性を判定してもよい。具体的には、外装の内側と外側の温度を測定した場合、機器の外装表面の温度が内部の温度よりも低いことが通常であるため、機器の外装表面の温度が内部の温度よりも低いか否かを妥当性判定基準としてもよい。
【0067】
第4実施形態の精度向上方法において、妥当な結果と判定された試験結果は、例えば、機器の外装表面および内部の温度がそれぞれ規定温度よりも低いことなどを合格基準として合否判定される。ここで、規定温度は、外装など接触可能な部品の場合は火傷の危険性がある温度(例えば、IEC60950-1では通常使用時に連続的に保持する金属部分は55℃等)であり、機器内部の部品や絶縁材料の場合は電気的、機械的その他の特性を劣化させる温度(例えば、IEC60950-1では配線のPVC絶縁は75℃等)である。
【0068】
基本試験結果が妥当でないと判定された場合、例えば、試験方法の相違点の確認や、赤外線カメラによる温度分布と熱源の確認、材質による熱伝導、冷却要素(ファン、通風孔、ヒートシンクなど)の影響を考慮し、検証や再試験を行う。
【0069】
(第5実施形態)
本発明の精度向上方法の一例として、第5実施形態の精度向上方法について説明する。第5実施形態の精度向上方法は、電源プラグを有する機器への電圧の印加を遮断した際の残留電圧の経時変化を測定する残留電圧測定試験に用いられる。残留電圧測定試験は、機器の一次側回路に充電可能なコンデンサがある場合などに、コンデンサに蓄電された電荷からプラグピンに電圧が残って感電することがあるため、このような感電の危険性を確認するための試験である。
【0070】
第5実施形態の精度向上方法では、別方法による試験結果として、回路図に基づいて算出される理論計算結果が用いられてもよい。理論計算結果としては、例えば、機器に添付される回路図に基づいて算出される理論減衰時間や電圧値などである。
【0071】
基本試験結果は、例えば、理論計算から算出される残留電圧の経時変化に関する数値(減衰時間や電圧値)が基本試験結果の数値を中心とする±10%以内に収まるか否かを妥当性判定基準として妥当性を判定される。
【0072】
妥当な結果と判定された試験結果は、例えば、規格基準を満たすことを合格基準として合否判定される。
【0073】
基本試験結果が妥当でないと判定された場合、例えば、回路図の再確認、機器を分解して確認した実際の回路図に基づく理論値の再計算などの検証や再試験を行う。残留電圧は、抵抗、キャパシタ(コンデンサ)、スイッチの位置により影響を受けるため、精度の高い測定を行うには正確な回路の把握が重要である。
【0074】
(第6実施形態)
本発明の精度向上方法の一例として、第6実施形態の精度向上方法について説明する。第6実施形態の精度向上方法は、機器から切り取られた熱可塑性材料などの樹脂製の試験片に対しIEC60695-10-2に準拠して加熱条件下で直径5mmの鋼球を介して1時間荷重をかけ、試験片の表面に形成される圧痕径を測定するボールプレッシャ試験に用いられる。
【0075】
第6実施形態の精度向上方法では、性能試験が試験機関によって行われる場合、別方法による試験結果として、試験機関への試験依頼者による試験結果が用いられてもよい。
【0076】
基本試験結果は、例えば、精度向上工程で試験結果として得られる圧痕径が基本試験結果の数値を中心とする±10%以内に収まるか否かを妥当性判定基準として妥当性を判定される。
【0077】
基本試験結果は、過去に測定された同じ材質、メーカー、型番などでの圧痕径の測定結果に対して、所定のバラツキ範囲内(例えば、1標準偏差)に収まるか否かを妥当性判定基準として妥当性を判定されてもよい。また、基本試験結果は、同一材質の試験片での過去の圧痕径の測定結果が基本試験結果の数値を中心とする±10%以内であることを妥当性判定基準として妥当性を判定されてもよい。
【0078】
妥当な結果と判定された試験結果は、例えば、規格基準を満たすことを合格基準として合否判定される。
【0079】
基本試験結果が妥当でないと判定された場合、例えば、新たな試験片を用いて性能試験を行うことができる。また、圧痕径を顕微鏡で測定する場合、測定者による測定画像の質や解析のバラツキも生じやすい。そのため、別方法として、画像認識機能によって顕微鏡画像の撮影から解析までを自動的に行う自動測定装置を用いて性能試験が行われてもよい。
【0080】
なお、第3実施形態および第6実施形態に限らず、本発明の精度向上方法を用いた性能試験が試験機関によって行われる場合、別方法による試験結果として試験依頼者による試験結果が用いられてもよい。
【0081】
以上、本発明の試験結果の精度向上方法について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の試験結果の精度向上方法は、対象機器の性能試験において正確な試験結果を迅速に得られるので、試験機関などにおける電気機器などの性能試験の際に有用なツールとなる。
図1
図2