(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178917
(43)【公開日】2023-12-18
(54)【発明の名称】廃乾電池に含有されるマンガンの回収方法及び回収設備
(51)【国際特許分類】
C22B 47/00 20060101AFI20231211BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20231211BHJP
C22B 1/02 20060101ALI20231211BHJP
C22B 3/06 20060101ALI20231211BHJP
C22B 3/22 20060101ALI20231211BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20231211BHJP
C22B 3/02 20060101ALI20231211BHJP
H01M 10/54 20060101ALI20231211BHJP
【FI】
C22B47/00
C22B7/00 C
C22B1/02
C22B3/06
C22B3/22
C22B3/44 101B
C22B3/44 101Z
C22B3/44 101A
C22B3/02
H01M10/54
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022091913
(22)【出願日】2022-06-06
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100180655
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】篠田 万里子
(72)【発明者】
【氏名】山口 東洋司
【テーマコード(参考)】
4K001
5H031
【Fターム(参考)】
4K001AA10
4K001AA16
4K001AA30
4K001BA22
4K001CA01
4K001CA02
4K001CA16
4K001DB03
4K001DB04
4K001DB05
4K001DB16
4K001DB22
4K001DB23
4K001DB24
4K001HA12
4K001JA01
5H031EE01
5H031HH06
5H031RR02
(57)【要約】
【課題】廃乾電池から高純度のマンガン含有溶液を高い歩留で回収する。
【解決手段】廃乾電池に含有されるマンガンの回収方法は、廃乾電池からマンガン乾電池及びアルカリマンガン乾電池の一方又は両方を選別する選別工程と、破砕、篩い分けして粉粒体を得る破砕・篩い分け工程と、非酸化性雰囲気中で加熱処理を施す加熱処理工程と、マンガンイオン、亜鉛イオン及び鉄イオンを含有する浸出液を得る酸浸出工程と、浸出液とそれ以外の浸出残渣とを分離する固液分離工程と、マンガンイオンを含有する溶液を得るマンガン抽出工程と、をこの順に施し、マンガン抽出工程が、硫化物沈殿処理工程と亜鉛分離工程とを含む亜鉛除去工程と、酸化処理工程と鉄分離工程とを含む鉄除去工程と、を順不同に含み、亜鉛分離工程で硫化剤添加後のpH変位が+1以下の間だけ硫化剤を作用させる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃乾電池からマンガン乾電池及びアルカリマンガン乾電池の一方又は両方を選別する選別工程と、
前記選別工程で選別された前記マンガン乾電池及びアルカリマンガン乾電池の一方又は両方を破砕、篩い分けして粉粒体を得る破砕・篩い分け工程と、
前記破砕・篩い分け工程で得られた前記粉粒体に、非酸化性雰囲気中で加熱処理を施す加熱処理工程と、
前記加熱処理を施された前記粉粒体に、酸溶液又はさらに還元剤を混合して、前記粉粒体が含有するマンガン、亜鉛及び鉄を前記粉粒体から浸出させて、マンガンイオン、亜鉛イオン及び鉄イオンを含有する浸出液を得る酸浸出工程と、
前記酸浸出工程で得られた前記浸出液とそれ以外の浸出残渣とを分離する固液分離工程と、
前記固液分離工程で分離された前記浸出液から、前記亜鉛イオン及び鉄イオンを除去して、前記マンガンイオンを含有する溶液を得るマンガン抽出工程と、
をこの順に施し、
前記マンガン抽出工程が、
前記亜鉛イオンに硫化剤を作用させて前記亜鉛イオンを沈殿させる硫化物沈殿処理工程と、さらに、得られた亜鉛含有沈殿物を分離する亜鉛分離工程とを含む亜鉛除去工程と、
前記鉄イオンを酸化させて前記鉄イオンを沈殿させる酸化処理工程と、さらに、得られた鉄含有沈殿物を分離する鉄分離工程とを含む鉄除去工程と、
を順不同に含み、
前記亜鉛分離工程で硫化剤添加後のpH変位が+1以下の間だけ硫化剤を作用させる、廃乾電池に含有されるマンガンの回収方法。
【請求項2】
前記マンガン抽出工程が、前記亜鉛除去工程、前記鉄除去工程の順に行われ、
前記亜鉛除去工程では、前記浸出液に硫化剤を作用させて前記浸出液中の亜鉛イオンを沈殿させる硫化物沈殿処理を施した後に、前記硫化物沈殿処理工程で得られた亜鉛含有沈殿物とマンガンイオン及び鉄イオンを含有する第1溶液とを固液分離し、
前記鉄除去工程では、前記亜鉛除去工程で得られた前記第1溶液を酸化させて前記第1溶液中の鉄イオンを沈殿させる酸化処理を施した後に、前記酸化処理工程で得られた鉄含有物とマンガンイオンを含有する第2溶液とを固液分離することを特徴とする、請求項1に記載の廃乾電池に含有されるマンガンの回収方法。
【請求項3】
前記硫化物沈殿処理工程において、前記浸出液をpHが2以上6以下であるように調整する、請求項2に記載の廃乾電池に含有されるマンガンの回収方法。
【請求項4】
前記酸化処理工程において、前記マンガンイオン及び鉄イオンを含有する第1溶液に対して空気曝気を行う又はさらに前記第1溶液に対して酸化剤を添加し、かつ前記第1溶液をpHが3以上7以下であるように調整する、請求項2又は3に記載の廃乾電池に含有されるマンガンの回収方法。
【請求項5】
前記マンガン抽出工程が、前記鉄除去工程、続いて前記亜鉛除去工程の順に行われ、
前記鉄除去工程では、前記浸出液を酸化させて前記浸出液中の鉄イオンを沈殿させる酸化処理工程を施した後に、得られた鉄含有沈澱物とマンガンイオン及び亜鉛イオンを含有する第3溶液とを固液分離する鉄分離工程を施し、
前記亜鉛除去工程では、前記鉄除去工程で得られた前記第3溶液に硫化剤を作用させて前記第3溶液中の亜鉛イオンを沈殿させる硫化物沈殿処理工程を施した後に、得られた亜鉛含有沈澱物とマンガンイオンを含有する第4溶液とを固液分離する亜鉛分離工程を施す、請求項1に記載の廃乾電池に含有されるマンガンの回収方法。
【請求項6】
前記硫化物沈殿処理工程において、前記マンガンイオン及び亜鉛イオンを含有する第3溶液をpHが2以上6以下であるように調整する、請求項5に記載の廃乾電池に含有されるマンガンの回収方法。
【請求項7】
前記硫化物沈殿処理工程において、前記浸出液に対して空気曝気を行い、かつ前記浸出液をpHが3以上7以下であるように調整する、請求項5又は6に記載の廃乾電池に含有されるマンガンの回収方法。
【請求項8】
前記加熱処理は、800℃以上1200℃以下の範囲の温度に加熱する処理であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の廃乾電池に含有されるマンガンの回収方法。
【請求項9】
前記加熱処理工程において、前記粉粒体に、さらに炭素材料が前記粉粒体の全量に対する質量比で、0.5以下の範囲で配合されることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の廃乾電池に含有されるマンガンの回収方法。
【請求項10】
前記酸浸出工程における前記酸溶液が、質量%濃度1.4%以上45%以下の希硫酸又は質量%濃度1%以上14%以下の希塩酸であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の廃乾電池に含有されるマンガンの回収方法。
【請求項11】
前記酸浸出工程における前記粉粒体と前記酸浸出工程との固液比が50g/L以上であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の廃乾電池に含有されるマンガンの回収方法。
【請求項12】
前記酸浸出工程における前記還元剤が、過酸化水素、硫化ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム及び硫酸鉄のいずれかであることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の廃乾電池に含有されるマンガンの回収方法。
【請求項13】
前記硫化物沈殿処理工程おいて使用する硫化剤が、水硫化ナトリウム、硫化ナトリウム、硫化水素のうちのいずれかであることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の廃乾電池に含有されるマンガンの回収方法。
【請求項14】
廃乾電池からマンガン乾電池及びアルカリマンガン乾電池の一方又は両方を選別する選別装置と、
前記選別装置で選別された前記マンガン乾電池及びアルカリマンガン乾電池の一方又は両方を装入して破砕処理を施し、破砕処理物を得る破砕装置と、
前記破砕装置で得られた前記破砕処理物に篩い分け処理を施して粉粒体を得る篩い分け装置と、
前記篩い分け装置で得られた前記粉粒体に、非酸化性雰囲気中で加熱処理を施す加熱装置と、
前記加熱装置で加熱処理された前記粉粒体に、酸溶液又はさらに還元剤を混合して、前記粉粒体が含有するマンガン、亜鉛及び鉄を前記粉粒体から浸出させて、マンガンイオン、亜鉛イオン及び鉄イオンを含有する浸出液を得る酸処理槽と、
前記酸処理槽で得られた前記浸出液と浸出残渣とを分離する固液分離装置と、
前記固液分離装置で分離された前記浸出液から、前記亜鉛イオン及び鉄イオンを除去して、前記マンガンイオンを含有する溶液を得るマンガン抽出装置群と、
をこの順で備え、
前記マンガン抽出装置群が、
前記亜鉛イオンに硫化剤を作用させて前記亜鉛イオンを沈殿させる硫化物沈殿処理槽と、硫化物沈殿処理槽のpH変位に応じて硫化剤処理量を制御する硫化剤添加装置と、得られた亜鉛含有沈殿物を固液分離する亜鉛分離装置とを含む亜鉛除去装置群と、
前記鉄イオンを酸化させて前記鉄イオンを沈殿させる酸化処理槽と、さらに、得られた鉄含有沈殿物を固液分離する鉄分離装置とを含む鉄除去装置群と、
を順不同に含む、廃乾電池に含有されるマンガンの回収設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃乾電池からの有価金属の回収方法及び回収設備に関する。本発明は、特に有価金属として、廃棄されたマンガン乾電池及び/又はアルカリマンガン乾電池を酸及び酸化剤で処理した後に、廃乾電池の主要有価成分であるマンガンを分離し、各種電池用として使用可能な程度の高純度マンガンとして回収できる、廃乾電池に含有されるマンガンの回収方法及び回収設備に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、金属資源の枯渇及び取引価格の上昇等により、低品位の原鉱、精鉱、製鉄所副生成物、産業廃棄物等から有価金属を積極的に回収することが必要になってきた。例えば、有価金属の一つであるマンガンは、産業界の多岐に亘る分野で必須の金属とされており、将来、その需要量が埋蔵量を上回ることが懸念されている。製鉄所では、製鋼原料としてマンガンを大量に消費しており、マンガン源の確保は、製鉄分野において極めて重要な問題である。また近年では、リチウムイオン電池を初めとする二次電池用にマンガンの消費が増大しており、この二次電池分野においても、マンガン源の確保は極めて深刻な問題となっている。
【0003】
一方、日本国内では、莫大な量の乾電池が生産され、消費され、産業廃棄物として処分及び破棄されている。産業廃棄物として破棄されている乾電池(廃乾電池)の一部には、マンガン含有率が高いものが存在する。例えば、1次電池として代表的なマンガン乾電池及びアルカリマンガン乾電池は、正極材料に二酸化マンガンを使用している。
【0004】
したがって、これらの廃乾電池からマンガン成分を高純度に回収することができれば、マンガン源の安定的な確保という面で有望である。
【0005】
しかしながら、廃乾電池にはマンガン以外に亜鉛、鉄といった金属成分が含まれる。亜鉛は負極材料及び電解液に主に含有される。鉄は乾電池外筒部に主に含有される。したがって、廃乾電池からマンガンを回収する際には、亜鉛及び鉄といった金属成分をマンガンから可能な限り分離することが肝要である。
【0006】
発明者らは、廃乾電池から亜鉛及び鉄を分離し、マンガンを高純度に回収する技術を検討し、特許文献1「廃乾電池からのマンガン回収方法及び回収設備」を提案した。特許文献1での提案は、
図1に示すとおり、廃乾電池を破砕・篩い分けして得られた粉粒体に非酸化性雰囲気で加熱処理を施した後、酸溶液及び還元剤を混合する酸浸出を行い、その後亜鉛及び鉄を沈殿除去することにより、高純度なマンガンを得る手法である。
【0007】
しかしながら、特許文献1に示す方法において亜鉛を除去するためには、液中の亜鉛イオンの量よりも過剰の硫化剤を添加する必要がある。そのため、事前に溶液中の亜鉛量を測定する必要があり、操作が煩雑であることが明らかとなった。また、余剰となった硫化剤(亜鉛と反応しなかった硫化剤)が水中のプロトン(H+)と反応し、好ましくない硫化水素ガスを生成することがあり得る。
【0008】
ところで、硫化剤を溶液中の重金属イオンと過不足なく反応させ、硫化水素ガスの発生を抑制する方法としては、例えば特許文献2において、重金属排水処理装置に硫化水素ガスモニタを設置し、排水から硫化水素ガスが発生し始める状態を維持するように硫化剤を添加するとの記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2021/075136号
【特許文献2】国際公開第2003/020647号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1の方法は、硫化水素ガスの無害化設備(スクラバ等)が必要となり、設備投資額大きくなる課題がある。
【0011】
特許文献2の方法は、硫化水素ガス発生からガスモニタで検知するまでの間にタイムラグが生じる。そのため、硫化剤添加量の精密な制御は困難である点が課題であった。また、反応槽又は排気系の配管の形状によっては局所的に硫化水素濃度が高い「ガスだまり」ができる可能性がある。硫化水素濃度により硫化剤の添加量を決定すると、ガスだまりが生成した場合は本来必要な添加量よりも少なく見積もるおそれがあり、金属の除去が十分に行えないリスクがあった。
【0012】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、廃乾電池中に含まれるマンガンを、亜鉛及び鉄の混入が極めて少ない高純度のマンガン含有溶液として歩留良く回収でき、かつ硫化剤を溶液中の亜鉛イオンと過不足なく反応させ、硫化水素ガスの発生を抑制する廃乾電池からのマンガン回収方法及び回収設備を提供することを目的とする。
【0013】
ここで、「高純度のマンガン含有溶液」とは、溶液中に、不純物としての亜鉛(Zn)及び鉄(Fe)が常用のJIS規格に規定される分析法を用いた分析でいずれも分析限界未満、例えば0.1mg/L未満であるマンガン含有溶液をいうものとする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
廃乾電池から、マンガン乾電池及び/又はアルカリマンガン乾電池を選別し、これらを破砕して篩い分けすると、乾電池を構成する材料が篩上の固形物と篩下の粉粒体とに分離される。乾電池を構成する材料のうち、主に鉄皮状包装材、亜鉛缶、真鍮棒、紙材、プラスチック等は、破砕後に箔状又は片状の固形物となり、篩上に分離される。一方、二酸化マンガン、炭素、塩化亜鉛、塩化アンモニウム、水酸化カリウム又は更に放電により生成したMnO(OH)、Zn(OH)2、Mn(OH)2、ZnO等は、粉粒体となり、篩下に分離される。ここで、通常、この粉粒体には、微量の鉄が不可避的に混入する。
【0015】
本発明者らは、上記した目的を達成するために、廃乾電池に含まれるマンガンを、不純物が少ない高純度のマンガン含有溶液として回収するために有効な、不純物の分離手段について、鋭意検討した。特に、本発明者らは、廃乾電池から、マンガン乾電池及びアルカリマンガン乾電池の一方又は両方を選別し、更に破砕、篩い分けすることにより得られた粉粒体から如何にして目的外成分(不純物)を除去するか、またマンガンに次いで多く含まれる亜鉛を除去する際に必要な硫化剤を過不足なく添加する手法について鋭意検討した。
【0016】
その結果、本発明者らは、粉粒体に酸と還元剤とを作用させて、鉄並びに残存するマンガン及び亜鉛を浸出させた浸出液を得たのち、浸出液に、水硫化ナトリウムNaHS等の硫化剤を浸出液のpH変位が+1以下の間だけ添加することにより、浸出液中に残存する亜鉛イオンを硫化物(亜鉛含有硫化物)として選択的に沈殿させつつ硫化剤を過不足なく添加することができることに想到した(硫化物沈殿処理工程)。また、本発明者らは、得られた亜鉛含有沈殿物を分離する亜鉛分離工程を施すことにより、浸出液から亜鉛成分を更に除去できることを知見した。そして、本発明者らは、上記亜鉛除去工程後に残された溶液中の亜鉛イオン濃度を分析限界である0.1mg/L未満に容易に低減できることを見出した。
【0017】
硫化物沈殿処理工程においては次のような反応が起こる。硫化剤がNaHSの場合を例に説明する。
【0018】
ケース1:亜鉛イオンモル当量≧硫化剤モル当量(硫化剤不足~等量)
NaHS→Na+ + HS-・・・・(1)
HS-→H+ + S2-・・・・(2)
Zn2+ + S2-→ZnS↓・・・・(3)
式(2)において、プロトン(H+)が生成することから、浸出液のpHは硫化剤添加により低下する。
【0019】
ケース2:亜鉛イオンモル当量<硫化剤モル当量(硫化剤過剰)
NaHS→Na+ + HS-・・・・(4)
HS-+H2O→H2S↑+OH-・・・(5)
式(5)において、水酸化物イオン(OH-)が生成することから、浸出液のpHは硫化剤添加により上昇し、硫化水素が発生する。
【0020】
さらに発明者らはpHの変化の仕方を慎重に観察することにより、制御pHに合わせるためにアルカリ薬剤を添加した時のpH上昇速度と式(5)の反応におけるpH上昇速度とで違いがあることを見出した。
図5はpH上昇速度の違いを示す。制御pHに合わせるために添加するアルカリ薬剤は強塩基性であることが多いため、ほぼ完全に電離、OH
-を生じた状態で添加される。その結果、制御pHに合わせるためにアルカリ薬剤を添加すると、瞬時にpHが上昇する。
【0021】
それに対して、硫化剤過剰添加時のpH上昇は式(4)及び式(5)の2段階の反応を経る必要がある。その結果、制御pHに合わせるために添加するアルカリ薬剤に比べ、pHの上昇速度が緩やかになる。
【0022】
制御pHに合わせるためにアルカリ薬剤を添加した時のpH上昇速度と式(5)の反応におけるpH上昇速度が異なることから、発明者らはpH変位を見ながら硫化剤を添加することにより、硫化剤の添加量を制御可能なことに想到した。
【0023】
より具体的な一態様である手順A2として、本発明者らは、上記浸出液に、水硫化ナトリウムNaHS等の硫化剤を浸出液のpH変位が+1以下の間だけを作用させることにより、浸出液中に残存する亜鉛イオンを硫化物(亜鉛含有硫化物)として選択的に沈殿させる硫化物沈殿処理工程と、得られた亜鉛含有沈殿物を分離する亜鉛分離工程とを施すことにより、浸出液から亜鉛成分を更に除去し(手順A2における亜鉛除去工程)、亜鉛除去工程後に残された溶液中の亜鉛イオン濃度を分析限界である0.1mg/L未満に容易に低減できること、その後、この溶液に更に酸化処理工程を施し、鉄イオンを鉄含有沈殿物として更に分離(鉄分離工程)すれば、鉄成分の分離後に残された溶液として、高純度のマンガン溶液を簡便かつ高い歩留で得られることを確認した(手順A2における鉄除去工程)。
【0024】
また、具体的な他の態様である手順Bとして、本発明者らは、上記浸出液を、例えば空気で酸化させることにより、浸出液中に含まれる鉄イオンを、例えば水酸化物として選択的に沈殿させて、浸出液から鉄成分のみを優先的に分離しつつ、鉄成分の分離後に残された溶液中の鉄イオン濃度を大幅に低減できること(手順Bにおける鉄除去工程)、その後、この溶液に、水硫化ナトリウムNaHS等の硫化剤を浸出液のpH変位が+1以下の間だけ作用させる硫化物沈殿処理を施して、ここで残存する亜鉛イオンを亜鉛含有沈殿物として更に分離すれば、分離後に残された溶液として、高純度のマンガン溶液を簡便かつ高い歩留で得られることも確認した(手順Bにおける亜鉛除去工程)。
【0025】
本発明者らが上記手順のそれぞれに沿って行った実験(A1)、実験(A2)及び実験(B)の結果について説明する。
【0026】
(実験(A1))
廃乾電池から、マンガン乾電池及びアルカリマンガン乾電池が選別され(選別工程)、更に破砕・篩い分け工程が施されて粉粒体が得られた。
【0027】
得られた粉粒体に、さらに還元剤として黒鉛が、黒鉛配合比率(:黒鉛/粉粒体)として、質量比で0~1の範囲となるように配合された。ついで、各種比率で黒鉛を配合した粉粒体に、非酸化性雰囲気である窒素ガス雰囲気の加熱炉で、加熱温度:1000℃、加熱時間:30分の加熱処理工程が施された。加熱処理前後の粉粒体について、重量及び亜鉛含有量を測定し、加熱処理前と加熱処理後との粉粒体に含まれる亜鉛含有量の差から、次式に従って加熱処理による亜鉛除去率が算出された。
亜鉛除去率[%]=(加熱処理前の粉粒体中のZn含有量[kg]-加熱処理後の粉粒体中のZn含有量[kg])×100/加熱処理前の粉粒体中のZn含有量[kg]
【0028】
図6は、加熱処理工程における還元剤(黒鉛)の配合比率と亜鉛除去率との関係を示すグラフである。
【0029】
図6から、黒鉛配合比率:0の場合(つまり、加熱処理工程において還元剤としての黒鉛を配合しない場合)でも、亜鉛除去率:84%となっていることがわかる。これは、以下のメカニズムによるものと推察される。すなわち、粉粒体中に乾電池由来で含まれていた黒鉛とZnOとの反応で、まず、ZnOがZn(亜鉛)に還元される。亜鉛の沸点は900℃前後である。そのため、加熱温度が1000℃である場合に、生成した亜鉛は亜鉛蒸気として、粉粒体から揮発除去される。
【0030】
さらに
図6からは、黒鉛の配合比率を高めるにつれて亜鉛除去率は上昇し、最大で96%の亜鉛除去率が得られることもわかる。しかし、
図6から判断して、黒鉛配合比率が0.5を超えて高まっても、亜鉛除去率の著しい向上は望めないこともわかる。
【0031】
ここで、粉粒体の加熱処理は、不活性雰囲気又は還元性雰囲気の非酸化性雰囲気中で行う。大気雰囲気等の酸化性雰囲気では、粉粒体中に含まれる又は粉粒体に添加された黒鉛の一部が、ZnOではなく空気中の酸素と反応し燃焼する。そのため、ZnOから亜鉛への還元が阻害される。また、加熱処理により、粉粒体に含まれていた亜鉛の大部分は揮発除去されるが、
図6からもわかるとおり、通常、加熱処理済みの粉粒体中には多少の亜鉛成分が残存する。
【0032】
次に、加熱処理を施された粉粒体に酸溶液と還元剤とを作用させて、粉粒体に含まれるマンガン成分、鉄成分、さらには残存する亜鉛成分を浸出液中に浸出させる酸浸出処理を施した(酸浸出工程)。また、この酸浸出工程における、マンガン成分の浸出率に与える還元剤の添加量の影響について調査が行われた。
【0033】
廃乾電池から、マンガン乾電池及びアルカリマンガン乾電池を選別し、更に破砕・篩い分け工程を施して得られた粉粒体に、黒鉛等の還元剤を添加することなく窒素雰囲気(不活性雰囲気)中で加熱温度:1000℃で30分間の加熱処理が施された。得られた加熱処理済みの粉粒体に、酸溶液と還元剤とを混合する酸浸出工程が実施された。酸浸出処理条件は次のとおりとした。この酸浸出工程によって、少なくともマンガンイオンと、残存する亜鉛イオンと、鉄イオンとを含有する浸出液と、それ以外の浸出残渣との混合物が得られた。
酸溶液:硫酸50mL
硫酸濃度:1.5mol/L(質量%濃度約13.2%)
還元剤:35%過酸化水素水H2O2
還元剤添加量:0g(0g/L)、0.56g(11g/L)、1.1g(22g/L)、1.7g(33g/L)、2.2g(45g/L)
酸浸出処理時間:1時間(攪拌処理)
粉粒体と酸溶液との固液比:100g/L
【0034】
酸浸出処理後、得られた混合物を、孔径1μmのろ紙でろ過し、浸出液と浸出残渣とが固液分離された(固液分離工程)。分離された浸出液中のマンガン濃度が、ICP発光分析法により定量された。次いで、得られた測定値をもとに、浸出液中のマンガン質量が求められて、加熱処理後の粉粒体中に含有されるマンガン質量に対する浸出液中のマンガン質量の割合(マンガン元素換算)が算出されて、マンガン浸出率とされた。
図7は得られた結果を示す。
【0035】
図7から、還元剤(過酸化水素水)の添加量によらず、マンガン浸出率は概ね100%であり、酸浸出工程によって、加熱処理後の粉粒体に含まれていたマンガン成分が浸出液に全量浸出されていることがわかる。加熱処理工程後の粉粒体に含まれるマンガンの形態は、
図8から明らかなように、主にMnOである。MnOは、酸のみで溶解する。したがって、本発明者らは、粉粒体に加熱処理工程を施せば、酸浸出工程において還元剤を添加しなくても、粉粒体に含まれるマンガン成分を概ね全量浸出できることを知見した。
【0036】
ここで、加熱処理前の粉粒体に含まれる又は添加される黒鉛量、加熱温度及び加熱時間といった加熱条件によっては、加熱処理後であってもMnO2、Mn2O3、Mn3O4といったMn形態が残り、酸のみでマンガンが全量浸出しない場合もある。そのような場合は、還元剤(過酸化水素水)を添加すれば、MnO2、Mn2O3、Mn3O4として存在するマンガンもMn2+として浸出させることが可能である。
【0037】
加熱処理により、粉粒体に含まれていた亜鉛の大部分は揮発除去されるが、上述のとおり、加熱処理済みの粉粒体中には多少の亜鉛が残存する。そこで、加熱処理後の粉粒体に、酸及び必要に応じてさらに還元剤を作用させる酸浸出処理を施して残存する亜鉛成分を浸出させたうえで、得られた浸出液にさらに、硫化物沈殿処理を施せば、後に詳述するように残存する亜鉛成分を選択的かつ十分に沈殿させることができる。その結果、亜鉛成分の除去を確実に、容易に、しかも安価に行うことができることに想到した。
【0038】
黒鉛配合なしで加熱処理工程を行った加熱処理済みの粉粒体に、酸溶液のみを作用させる酸浸出処理が施された(酸浸出工程)のち、浸出液と沈殿物とを孔径1μmのろ紙でろ過する固液分離工程を施して、浸出液を得た。ここで、酸溶液の酸濃度を、硫酸濃度:1.5mol/L(質量%濃度約13.2%)とし、酸浸出処理時間を1時間として撹拌処理が行われた。この酸浸出工程及び固液分離工程によって、少なくともマンガンイオン、亜鉛イオン及び鉄イオンを含有する浸出液が得られた。
【0039】
得られた浸出液中のマンガン濃度、亜鉛濃度、鉄濃度を、ICP発光分析法で定量分析したところ、マンガン濃度が66198mg/L、亜鉛濃度が5031mg/L、鉄濃度が1131mg/Lであった。
【0040】
ついで、得られた浸出液に、硫化剤として水硫化ナトリウムNaHSを、種々の条件で添加する硫化物沈殿処理工程が施された。ここで、水硫化ナトリウム(NaHS)は、蒸留水に溶解させ、溶液の状態で添加した。
【0041】
硫化物沈殿処理の条件は次のとおりとした。
浸出液:100mL
硫化剤の種類:水硫化ナトリウム(NaHS)
硫化剤の添加量:溶解亜鉛に対して硫黄として1~3当量
反応中の浸出液のpH:0.5~5
pH調整剤:3M硫酸又は100g/L水酸化ナトリウム
処理時間:水硫化ナトリウム添加後0.5時間の撹拌
【0042】
そして、硫化物沈殿処理後、孔径1μmのろ紙で吸引ろ過して固液分離を行い(亜鉛分離工程)、分離された第2溶液の成分(亜鉛、鉄、マンガン)がICP発光分析法で定量分析された。ここで、得られた分析値は、水硫化ナトリウム溶液とpH調整剤の添加で希釈された影響を補正した。
図9A-
図9Cは得られた結果を示す。
【0043】
図9Aから、硫化剤の添加量が1当量の場合(NaHS:1当量)、亜鉛の沈殿除去は行われているものの、分析限界(0.1mg/L)を上回り不完全である。しかも、浸出液のpHを高めた際の最終的なZnの除去率は安定していないことがわかる。
【0044】
一方、
図9Bに示すように、硫化剤の添加量が2当量(NaHS:2当量)となると、亜鉛の沈殿除去が顕著になっている。特に、浸出液のpHが3以上である条件では、亜鉛除去工程(硫化物沈殿処理工程及び亜鉛分離工程)後の第2溶液中の亜鉛濃度が分析限界(0.1mg/L)未満となるまで除去されていることがわかる。また、
図9Cに示す硫化剤の添加量が3当量(NaHS:3当量)の場合でも、2当量の場合と同様の傾向を示し、特に、浸出液のpHが3以上であるときの亜鉛濃度が分析限界(0.1mg/L)を下回り、亜鉛の沈殿除去が顕著となっている。
【0045】
ここで、
図9A-
図9Cからは、亜鉛除去工程により、鉄の沈殿除去も行われることがわかる。
図9Bに示すように、硫化剤の添加量が2当量(NaHS:2当量)の場合には、浸出液のpHが3以上となる条件で鉄が沈殿除去され、pHが5程度の場合はFe濃度が1mg/L程度にまで低減することがわかる。
図9Bに示すこの条件下では、図示していないものの、マンガン濃度も24000mg/L程度まで低下し始めた。つまり、硫化剤の添加量が2当量かつpH3以上である条件では、亜鉛、鉄と同時に、マンガンも一部沈殿除去されることが分かる。
【0046】
また、
図9Cに示す硫化剤の添加量が3当量(NaHS:3当量)の場合でも、2当量の場合と同様の傾向をもって、鉄が沈殿除去されることがわかる。
図9Cに示すように、浸出液のpHが5の場合に特に鉄の沈殿除去が著しくなり、0.1mg/L未満となるまで除去されていることがわかる。しかし、図示していないが、
図9CにおいてpHが5である場合には、マンガン濃度の低下が著しく、30%以上のマンガンが沈殿除去された。つまり、硫化剤の添加量が3当量かつpHが3を超える条件では、亜鉛の除去に加え、鉄及びマンガンも、硫化剤の添加量が2当量である場合よりも多量に沈殿することが分かる。
【0047】
実験(A1)について上記したように、マンガンイオン、鉄イオン及び亜鉛イオンを含有する浸出液に対する硫化物沈殿処理工程によれば、亜鉛成分を分析限界未満にまで沈殿・分離除去することができる。しかし、本実験中に硫化水素ガスの発生を示唆する腐卵臭が観察された。硫化水素ガス濃度を測定したところ、最大で1.5ppmであった。この濃度は硫化水素の管理濃度(1ppm)を上回っており、改良が求められる。そこで、実験(A2)において硫化剤の添加量と硫化水素濃度の関係を調査し、硫化水素ガス発生量を最小限にしつつ硫化剤の添加量を制御する方法が検討された。
【0048】
(実験(A2))
実験(A1)と同様の手法に従い、固液分離工程によって分離された浸出液中のマンガン濃度、亜鉛濃度、鉄濃度をICP発光分析法により測定したところ、マンガン濃度が66198mg/L、亜鉛濃度が5031mg/L、鉄濃度が1131mg/Lであった。
【0049】
ついで、得られた浸出液に水酸化ナトリウムを加えてpHを4とした後、硫化剤を亜鉛に対して0.1当量ずつ添加し、pHと硫化水素濃度の測定が行われた。制御pHを4とし、制御pHよりpHが下がっていた場合に100g/L水酸化ナトリウム水溶液を、制御pHよりもpHが上がっていた場合に3M硫酸を添加し、pHが4になったことを確認した後に硫化剤を添加した。
【0050】
図10は硫化剤添加量とpH、硫化水素濃度の相関に示す。硫化剤添加量が1当量以下の場合に、硫化剤添加後pHが低下し、硫化水素ガス濃度は0であった。それに対して硫化剤添加量が1当量を超えると、硫化剤添加後pHが上昇し、添加量を増やすにつれて硫化水素ガス濃度が上昇した。すなわち、硫化剤添加後のpH変位を見ることにより、硫化物沈殿反応の終点を把握することが可能であると考えられた。
【0051】
硫化剤添加量が1.1当量の時の第2溶液中の亜鉛濃度を測定した結果、亜鉛は分析限界(0.1mg/L)未満まで低減していることが分かった。この時硫化水素ガス濃度は0.05ppm未満であり、硫化水素の管理濃度(1ppm)を下回っていることが分かった。したがって、実験(A1)に比べ、硫化水素ガス発生量を抑制でき、より安全な処理条件で亜鉛を除去可能なことが分かった。
【0052】
以上、実験(A2)について上記したように、マンガンイオン、鉄イオン及び亜鉛イオンを含有する浸出液に対する硫化物沈殿処理工程によれば、亜鉛成分を分析限界未満にまで沈殿・分離除去することができる。また、亜鉛(Zn)とともに、鉄(Fe)も一部沈殿する場合がある。鉄(Fe)濃度がある程度まで沈殿除去されている場合には、この段階で処理を終えることも考えられる。しかし、鉄を更に高度に除去するため、亜鉛除去工程後に分離された第2溶液中に含まれる鉄イオンを水酸化物等の鉄含有沈澱物として沈澱させる鉄除去工程(酸化処理工程及び鉄分離工程)がさらに施された。
【0053】
(実験(B))
実験(A2)と同様の手法に従い、加熱処理後に酸処理を行い得られた浸出液中のマンガン濃度、亜鉛濃度、鉄濃度をICP発光分析法により測定したところ、マンガン濃度が66198mg/L、亜鉛濃度が5031mg/L、鉄濃度が1131mg/Lであった。
【0054】
ついで、得られた浸出液に、酸化処理として空気曝気が施された(酸化処理工程)。空気曝気の条件は次のとおりとした。
吹込み量:(浸出液量と同体積)/分
曝気時間:30分
反応中の浸出液のpH:4~6
pH調整剤:3M硫酸又は100g/L水酸化ナトリウム
【0055】
ここで、吹込み量及び曝気時間は、通常の実用的な条件(吹込み量:溶液量に対して0.1~1倍量/分、曝気時間:15~60分)の範囲内である。
【0056】
そして、空気曝気後の浸出液全量を孔径:1μmのろ紙で吸引ろ過して固液分離し(鉄分離工程)、分離された第3溶液の成分濃度(亜鉛、鉄、マンガン)がICP発光分析法で測定された。ここで、得られた測定値については、pH調整剤による希釈の影響を補正した。
図11は得られた結果を示す。酸化処理工程によるマンガン及び亜鉛の沈殿はほとんど確認されなかったため、
図11には、鉄除去工程(酸化処理工程及び鉄分離工程)後の溶液中の鉄濃度のみを示す。
【0057】
図11から、浸出液がpH:4~6で、Fe(鉄)が選択的に沈殿除去されることがわかる。ここで、図示していないが、このpH範囲でマンガン、亜鉛がほとんど沈殿せず、pH:6において、亜鉛がわずかに沈殿除去されていたものの、その量は10~20mg/L程度と少なかった。浸出液がpH:5又は6の場合には、鉄の沈殿除去が顕著に進行し、鉄濃度が0.5mg/Lを下回るまでに低減している。このように、浸出液に安価な酸化処理である空気曝気を施すだけで、鉄濃度を大幅に低減することができた。
【0058】
図11のうち、pH:5に調整した浸出液に空気曝気(酸化処理)を施して鉄濃度を0.1mg/L未満に低減し、固液分離による鉄分離工程を施して得られた溶液に対して、さらに種々の条件で硫化物沈殿処理工程が施された。
【0059】
硫化物沈殿処理の条件は次のとおりとした。
第3溶液:100mL
硫化剤の種類:水硫化ナトリウム(NaHS)
硫化剤の添加量:溶解亜鉛に対して硫黄として1.1当量(実験(A2)と同様)
反応中の第3溶液のpH:4
pH調整剤:3M硫酸又は100g/L水酸化ナトリウム
処理時間:水硫化ナトリウム添加後0.5時間の撹拌
【0060】
上記した硫化物沈殿処理工程後、孔径1μmのろ紙で吸引ろ過して固液分離を行い(亜鉛分離工程)、分離された第4溶液について、その成分がICP発光分析法で分析された。
【0061】
第4溶液中の亜鉛濃度を測定した結果、亜鉛は分析限界(0.1mg/L)未満まで低減していることが分かった。この時硫化水素ガス濃度は0.2ppmであり、硫化水素の管理濃度(1ppm)を下回っていることが分かった。したがって、硫化水素ガス発生量を抑制しつつ、亜鉛を分析限界未満まで除去可能なことが分かった。
【0062】
実験(B)について上記したように、廃乾電池の粉粒体に酸溶液、還元剤を混合して得られた、マンガン、亜鉛、鉄が進出した浸出液に、空気曝気という簡便な酸化処理を施すことにより、鉄成分の大部分を沈殿・分離除去した溶液とすることができる(鉄除去工程)。そして、その後に分離された第4溶液に硫化剤を作用させる硫化物沈殿処理工程を施せば、亜鉛含有沈殿物の量が低減されるので、亜鉛成分を分析限界未満までに沈殿・除去できる(亜鉛除去工程)。
【0063】
このように、実験(A2)及び(B)によれば、亜鉛除去工程及び鉄除去工程を経ることにより、その工程順序に関わらず、亜鉛及び鉄をともに確実かつ簡便に沈殿・分離除去でした高純度のマンガン含有溶液を製造できること、また亜鉛除去工程において硫化剤添加の際にpH変位が+1以下の間だけ硫化剤を添加することにより、硫化水素ガス発生量を抑制しつつ亜鉛の除去が可能であることを知見した。
【0064】
本発明は、かかる知見に基づきさらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
【0065】
(1)廃乾電池からマンガン乾電池及びアルカリマンガン乾電池の一方又は両方を選別する選別工程と、
前記選別工程で選別された前記マンガン乾電池及びアルカリマンガン乾電池の一方又は両方を破砕、篩い分けして粉粒体を得る破砕・篩い分け工程と、
前記破砕・篩い分け工程で得られた前記粉粒体に、非酸化性雰囲気中で加熱処理を施す加熱処理工程と、
前記加熱処理を施された前記粉粒体に、酸溶液又はさらに還元剤を混合して、前記粉粒体が含有するマンガン、亜鉛及び鉄を前記粉粒体から浸出させて、マンガンイオン、亜鉛イオン及び鉄イオンを含有する浸出液を得る酸浸出工程と、
前記酸浸出工程で得られた前記浸出液とそれ以外の浸出残渣とを分離する固液分離工程と、
前記固液分離工程で分離された前記浸出液から、前記亜鉛イオン及び鉄イオンを除去して、前記マンガンイオンを含有する溶液を得るマンガン抽出工程と、
をこの順に施し、
前記マンガン抽出工程が、
前記亜鉛イオンに硫化剤を作用させて前記亜鉛イオンを沈殿させる硫化物沈殿処理工程と、さらに、得られた亜鉛含有沈殿物を分離する亜鉛分離工程とを含む亜鉛除去工程と、
前記鉄イオンを酸化させて前記鉄イオンを沈殿させる酸化処理工程と、さらに、得られた鉄含有沈殿物を分離する鉄分離工程とを含む鉄除去工程と、
を順不同に含み、
前記亜鉛分離工程で硫化剤添加後のpH変位が+1以下の間だけ硫化剤を作用させる、廃乾電池に含有されるマンガンの回収方法。
【0066】
(2)(1)において、前記マンガン抽出工程が、前記亜鉛除去工程、前記鉄除去工程の順に行われ、
前記亜鉛除去工程では、前記浸出液に硫化剤を作用させて前記浸出液中の亜鉛イオンを沈殿させる硫化物沈殿処理を施した後に、前記硫化物沈殿処理工程で得られた亜鉛含有沈殿物とマンガンイオン及び鉄イオンを含有する第1溶液とを固液分離し、
前記鉄除去工程では、前記亜鉛除去工程で得られた前記第1溶液を酸化させて前記第1溶液中の鉄イオンを沈殿させる酸化処理を施した後に、前記酸化処理工程で得られた鉄含有物とマンガンイオンを含有する第2溶液とを固液分離することを特徴とする、廃乾電池に含有されるマンガンの回収方法。
【0067】
(3)(2)において、前記硫化物沈殿処理工程において、前記浸出液をpHが2以上6以下であるように調整する、廃乾電池に含有されるマンガンの回収方法。
【0068】
(4)(2)又は(3)において、前記酸化処理工程において、前記マンガンイオン及び鉄イオンを含有する第1溶液に対して空気曝気を行う又はさらに前記第1溶液に対して酸化剤を添加し、かつ前記第1溶液をpHが3以上7以下であるように調整する、廃乾電池に含有されるマンガンの回収方法。
【0069】
(5)(1)において、前記マンガン抽出工程が、前記鉄除去工程、続いて前記亜鉛除去工程の順に行われ、
前記鉄除去工程では、前記浸出液を酸化させて前記浸出液中の鉄イオンを沈殿させる酸化処理工程を施した後に、得られた鉄含有沈澱物とマンガンイオン及び亜鉛イオンを含有する第3溶液とを固液分離する鉄分離工程を施し、
前記亜鉛除去工程では、前記鉄除去工程で得られた前記第3溶液に硫化剤を作用させて前記第3溶液中の亜鉛イオンを沈殿させる硫化物沈殿処理工程を施した後に、得られた亜鉛含有沈澱物とマンガンイオンを含有する第4溶液とを固液分離する亜鉛分離工程を施す、廃乾電池に含有されるマンガンの回収方法。
【0070】
(6)(5)において、前記硫化物沈殿処理工程において、前記マンガンイオン及び亜鉛イオンを含有する第3溶液をpHが2以上6以下であるように調整する、廃乾電池に含有されるマンガンの回収方法。
【0071】
(7)(5)又は(6)において、前記硫化物沈殿処理工程において、前記浸出液に対して空気曝気を行い、かつ前記浸出液をpHが3以上7以下であるように調整する、廃乾電池に含有されるマンガンの回収方法。
【0072】
(8)(1)から(7)のいずれかにおいて、前記加熱処理は、800℃以上1200℃以下の範囲の温度に加熱する処理であることを特徴とする、廃乾電池に含有されるマンガンの回収方法。
【0073】
(9)(1)から(8)のいずれかにおいて、前記加熱処理工程において、前記粉粒体に、さらに炭素材料が前記粉粒体の全量に対する質量比で、0.5以下の範囲で配合されることを特徴とする、廃乾電池に含有されるマンガンの回収方法。
【0074】
(10)(1)から(9)のいずれかにおいて、前記酸浸出工程における前記酸溶液が、質量%濃度1.4%以上45%以下の希硫酸又は質量%濃度1%以上14%以下の希塩酸であることを特徴とする、廃乾電池に含有されるマンガンの回収方法。
【0075】
(11)(1)から(10)のいずれかにおいて、前記酸浸出工程における前記粉粒体と前記酸浸出工程との固液比が50g/L以上であることを特徴とする、廃乾電池に含有されるマンガンの回収方法。
【0076】
(12)(1)から(11)のいずれかにおいて、前記酸浸出工程における前記還元剤が、過酸化水素、硫化ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム及び硫酸鉄のいずれかであることを特徴とする、廃乾電池に含有されるマンガンの回収方法。
【0077】
(13)(1)から(12)のいずれかにおいて、前記硫化物沈殿処理工程おいて使用する硫化剤が、水硫化ナトリウム、硫化ナトリウム、硫化水素のうちのいずれかであることを特徴とする、廃乾電池に含有されるマンガンの回収方法。
【0078】
(14)廃乾電池からマンガン乾電池及びアルカリマンガン乾電池の一方又は両方を選別する選別装置と、
前記選別装置で選別された前記マンガン乾電池及びアルカリマンガン乾電池の一方又は両方を装入して破砕処理を施し、破砕処理物を得る破砕装置と、
前記破砕装置で得られた前記破砕処理物に篩い分け処理を施して粉粒体を得る篩い分け装置と、
前記篩い分け装置で得られた前記粉粒体に、非酸化性雰囲気中で加熱処理を施す加熱装置と、
前記加熱装置で加熱処理された前記粉粒体に、酸溶液又はさらに還元剤を混合して、前記粉粒体が含有するマンガン、亜鉛及び鉄を前記粉粒体から浸出させて、マンガンイオン、亜鉛イオン及び鉄イオンを含有する浸出液を得る酸処理槽と、
前記酸処理槽で得られた前記浸出液と浸出残渣とを分離する固液分離装置と、
前記固液分離装置で分離された前記浸出液から、前記亜鉛イオン及び鉄イオンを除去して、前記マンガンイオンを含有する溶液を得るマンガン抽出装置群と、
をこの順で備え、
前記マンガン抽出装置群が、
前記亜鉛イオンに硫化剤を作用させて前記亜鉛イオンを沈殿させる硫化物沈殿処理槽と、硫化物沈殿処理槽のpH変位に応じて硫化剤処理量を制御する硫化剤添加装置と、得られた亜鉛含有沈殿物を固液分離する亜鉛分離装置とを含む亜鉛除去装置群と、
前記鉄イオンを酸化させて前記鉄イオンを沈殿させる酸化処理槽と、さらに、得られた鉄含有沈殿物を固液分離する鉄分離装置とを含む鉄除去装置群と、
を順不同に含む、廃乾電池に含有されるマンガンの回収設備。
【発明の効果】
【0079】
本発明によれば、廃乾電池に含まれる有価成分であるマンガン成分を、亜鉛成分及び鉄成分から高精度かつ簡便に分離し、二次電池電極材用の原料として利用できる程度の高純度のマンガンを、歩留り高く、安価に回収することができ、産業上格段の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【
図1】
図1は、特許文献1に示すマンガンの回収工程を説明するフローである。
【
図2】
図2は、本発明のマンガンの回収方法の工程を説明するフローである。
【
図3】
図3は、本発明のマンガンの回収方法の一実施形態(手順A2)を説明するフローである。
【
図4】
図4は、本発明のマンガンの回収方法の他の実施形態(手順B)を説明するフローである。
【
図5】
図5は、pH制御用のアルカリ薬剤と硫化剤のpH上昇速度の違いを示す図である。
【
図6】
図6は、加熱処理工程における、粉粒体からの亜鉛除去率に及ぼす、還元剤としての黒鉛配合比率の影響を示すグラフである。
【
図7】
図7は、酸浸出工程における、加熱処理を施した粉粒体から浸出液へのマンガン浸出率に及ぼす、還元剤としてのH
2O
2添加量の影響を示すグラフである。
【
図8】
図8は、加熱処理工程後の粉粒体のX線回折パターンである。
【
図9A】
図9Aは、
図3のフローに従った硫化物沈殿処理工程における、亜鉛、鉄及びマンガンの沈殿除去に及ぼす硫化剤添加量(NaHS:1当量)及びpH条件の影響を示すグラフである。
【
図9B】
図9Bは、
図3のフローに従った硫化物沈殿処理工程における、亜鉛、鉄及びマンガンの沈殿除去に及ぼす硫化剤添加量(NaHS:2当量)及びpH条件の影響を示すグラフである。
【
図9C】
図9Cは、
図3のフローに従った硫化物沈殿処理工程における、亜鉛、鉄及びマンガンの沈殿除去に及ぼす硫化剤添加量(NaHS:3当量)及びpH条件の影響を示すグラフである。
【
図10】
図10は、硫化剤添加量とpH、硫化水素ガス濃度の相関を示すグラフである。
【
図11】
図11は、
図4のフローに従った酸化処理工程における、鉄の沈殿除去に及ぼすpHの影響を示すグラフである。
【
図12】
図12は、本発明のマンガンの回収設備の一実施形態(構成A2)を説明する模式図である。
【
図13】
図13は、本発明のマンガンの回収設備の他の実施形態(構成B)を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0081】
本発明は、廃乾電池を対象とし、廃乾電池に含まれる有価成分であるマンガン成分を、廃乾電池に共に含まれる亜鉛成分及び鉄成分と分離し、高純度のマンガン含有溶液として高い歩留で回収する、マンガンの回収方法及び回収設備である。以下、本発明の実施形態が図を参照しながら具体的に説明される。以下の実施形態は、本発明の好適な一例を示すものであり、これらの例によって本発明が何ら限定されるものではない。
【0082】
(マンガンの回収方法)
本発明のマンガンの回収方法は、
図2に示すように、選別工程、破砕・篩い分け工程、加熱処理工程、酸浸出工程、固液分離工程及びマンガン抽出工程を順に有する。また、マンガン抽出工程は、所定の亜鉛除去工程及び鉄除去工程を順不同で含む。本発明のマンガンの回収方法は、亜鉛除去工程と鉄除去工程の順番に応じて、
図3に示すフローに従ってよいし、
図4に示すフローに従ってよい。
【0083】
本発明の回収方法が上記所定の工程に従うことにより、廃乾電池に含まれるマンガン以外の成分を、順に、確実かつ簡便に除去することができる。その結果、本発明の回収方法に従えば、廃乾電池を利用して、マンガン成分を、二次電池電極材用の原料として利用できる程度の高純度で、高い歩留で容易に回収可能である。本発明の回収方法は、後述するマンガンの回収設備を用いて好適に実施することができる。
【0084】
(選別工程)
廃乾電池は、様々な種類の乾電池が混在した形で回収されるのが一般的である。このため、本発明では、回収された廃乾電池の中から、マンガン乾電池及びアルカリマンガン乾電池の一方又は両方(マンガン乾電池及び/又はアルカリマンガン乾電池)を選別する。後の工程でマンガン成分を効率的に抽出するために、マンガン乾電池のみが選別されてよく、アルカリマンガン乾電池のみが選別されてよく、マンガン乾電池及びアルカリマンガン乾電池の両方が選別されてよい。選別方法としては、手選別、選別装置を利用する機械選別など、いずれの方法を用いてよい。
【0085】
(破砕・篩い分け工程)
次に、選別工程で選別したマンガン乾電池及び/又はアルカリマンガン乾電池の破砕処理が行われる。破砕の目的は、選別工程で選別したマンガン乾電池及び/又はアルカリマンガン乾電池の構成材料から、マンガン、亜鉛、炭素以外の成分を含む材料を可能な限り排除することにある。破砕処理によって破砕処理物が得られる。
【0086】
これらの廃乾電池を破砕すると、包装材(鉄、プラスチック及び紙等)、マンガン乾電池の負極材料である亜鉛缶、アルカリマンガン乾電池の集電体である真鍮棒は、箔状又は片状の固形物となる。一方、正極材料である二酸化マンガン、マンガン乾電池の集電体である炭素棒、アルカリマンガン乾電池の負極材料である亜鉛粉、放電により生成したMnO(OH)、Zn(OH)2、Mn(OH)2、ZnOなどの化合物及び各種電解液は、箔状・片状の固形物よりも更に細かい粉粒体となる。
【0087】
廃乾電池の破砕には通常、破砕装置を使用する。破砕装置の型式については特に限定されず、例えば、破砕後に、乾電池を構成している包装材等の固形物と粉粒体がよく分離される型式のものが好ましい。このような破砕装置としては、例えば、2軸回転式の破砕装置が挙げられる。
【0088】
上記した破砕物の篩い分け(箔状又は片状の固形物と、粉粒体との篩い分け)に使用する篩の目開きは、おおよそ、1mm以上が好ましく、20mm以下が好ましく、10mm以下がより好ましく、3mm以下が更に好ましい。篩の目開きは、1~20mm程度が好ましく、1~10mm程度がより好ましく、1~3mm程度が更に好ましい。篩の目開きが上記下限以上であれば、マンガン成分を含む粉粒体をより多く確保できる。また、篩の目開きが上記上限以下であれば、マンガン以外の目的外成分を含む固形物をより排除でき、後の工程をより効率的に行える。
【0089】
したがって、廃乾電池を破砕したのち、上述した目開きの篩を用いて篩い分けすれば、廃乾電池から包装材等の大きな固形物が除去され、主にマンガン・亜鉛成分とともに炭素を含有する粉粒体を効率的に得ることができる。
【0090】
このように、破砕・篩い分け工程を経て得られた粉粒体は、マンガン乾電池及び/又はアルカリマンガン乾電池の主要構成材料である、二酸化マンガン、炭素、塩化亜鉛又は塩化アンモン、苛性カリ、更には、放電によって生成したMnO(OH)、Zn(OH)2、Mn(OH)2、ZnOなどが混合した粉粒体である。ここで、通常、この粉粒体には、鉄成分が不可避的に混入する。
【0091】
(加熱処理工程)
破砕・篩い分け工程を経て得られた粉粒体に、加熱処理工程として、不活性雰囲気中又は還元性雰囲気中などの非酸化性雰囲気中で加熱処理が施される。粉粒体中の亜鉛(Zn)は主としてZnOとして存在しており、加熱処理を施すことにより、粉粒体中の黒鉛とZnOとが反応し、ZnOから亜鉛(Zn)へと還元される。加熱処理を酸化性雰囲気中で行うと、粉粒体中の黒鉛又は還元剤として混合した黒鉛の一部が、ZnOではなく、雰囲気中の酸素と反応して燃焼するため、ZnOから亜鉛への還元反応が阻害され、粉粒体からの亜鉛の除去率が低下する。このため、加熱処理は非酸化性雰囲気中で行うこととし、例えば不活性雰囲気中で行ってよく、例えば還元性雰囲気中で行ってよい。
【0092】
加熱処理は、粉粒体を800℃以上に加熱することが好ましく、850℃以上に加熱することがより好ましく、900℃以上に加熱することが更に好ましく、1200℃以下に加熱することが好ましく、800℃以上1200℃以下の範囲の温度に加熱することが好ましい。加熱処理の温度が800℃以上であれば、実質的に亜鉛の揮発が始まり、亜鉛蒸気となって粉粒体から除去される。一方、加熱処理の温度が1200℃を超えると、使用できる加熱炉が限定される。このような観点から、加熱処理は上記好適範囲の温度に加熱する処理とすることが好ましい。
【0093】
また、加熱処理においては、粉粒体中の黒鉛のみでZnOから亜鉛への還元反応を生じさせることができる。しかし、亜鉛の還元反応の効率を高めるためには、粉粒体に、還元剤として非金属系の、黒鉛等の炭素材料を配合することが好ましい。炭素材料を配合する場合には、炭素材料を粉粒体の全量に対する質量比(炭素材料配合比率=炭素材料/粉粒体)で、0.5以下、より好ましくは0.01~0.5の範囲で調整して配合することが好ましく、0.1程度で配合することが更に好ましい。炭素材料のかさ密度が粉粒体に比して小さいため、炭素材料配合比率で0.5を超える多量の炭素材料を配合すると、大型の加熱設備を必要とし、経済的に不利となるからである。
【0094】
ここで、金属系の還元剤を使用すると、未反応の還元剤が後続の工程で使用する酸で溶解し、マンガン含有溶液の品位を低下させるおそれがある。そのため、使用する還元剤は非金属系の炭素材料とすることが好ましい。
【0095】
(酸浸出工程)
酸浸出工程では、破砕・篩い分け工程で得られた粉粒体に酸溶液及び還元剤を混合し、粉粒体に酸浸出工程を施す。この酸浸出工程により、粉粒体から、主にマンガン成分、亜鉛成分、さらに鉄成分が酸溶液に浸出された浸出液が得られる。ここで、炭素成分は固体状態の浸出残渣として残存する。
【0096】
酸溶液に使用する酸は、一般的な酸で良く、硫酸、硝酸、塩酸又はその他の酸を用いることができる。価格及び目的に応じて適宜選択できるが、コスト及び調達の容易さ等を考慮すると、酸溶液として硫酸又は塩酸を用いるのが好ましい。
【0097】
硫酸を用いる場合には、硫酸濃度が質量%濃度で1.4%以上45%以下の希硫酸を用いることが好ましい。より具体的には、硫酸濃度は、1.4%以上が好ましく、2%以上がより好ましく、5%以上が更に好ましく、45%以下が好ましく、30%以下がより好ましく、25%以下が更に好ましい。硫酸は、濃度が2%以上30%以下の希硫酸であることがより好ましく、さらに好ましくは、濃度が5%以上25%以下の希硫酸である。
【0098】
塩酸を用いる場合には、塩酸濃度が質量%濃度で1%以上14%以下の希塩酸を用いることが好ましい。より具体的には、塩酸濃度は、1%以上が好ましく、2%以上がより好ましく、14%以下が好ましく、8%以下がより好ましい。塩酸は、濃度が2%以上8%以下の希塩酸であることがより好ましい。
【0099】
使用する硫酸又は塩酸は、市販されているものであればいずれも使用できるが、工業用又は有害金属成分の少ない廃酸を希釈して使用すれば、酸溶液のコストを低減することができる。また、ここでの「質量%濃度」は、酸溶液中の酸の質量を酸溶液全体の質量で除したものに100を乗じた値である。
【0100】
ここで、いずれの酸溶液を用いる場合でも、亜鉛成分の浸出に必要な酸濃度は、粉粒体と酸溶液との固液比、粉粒体の量、粉粒体中の亜鉛の含有量、粉粒体中の亜鉛の形態等によって変動する。そのため、予め実機を想定した予備実験を行うことで、最適な酸濃度を決定することが好ましい。
【0101】
本発明の酸浸出工程においては、加熱処理工程を経た粉粒体に、酸溶液又はさらに還元剤を混合する。酸のみで十分に浸出しない場合に、必要に応じて還元剤をさらに添加して、粉粒体に含まれるマンガン成分をほぼ完全に浸出させることができる。加熱処理工程を経た粉粒体に含まれるマンガンの形態としては、大半がMnOであるが、少量のMnO2、Mn2O3、Mn3O4などが含まれることもある。このうち、酸のみで溶解するのはMnOとMn3O4の一部のみである。マンガンが酸に溶解するのは、2価の価数をとる場合で、3価、4価などの価数をとるマンガンを酸で溶解するためには、2価の価数をとるように、還元する必要がある。したがって、還元のための電子を供給する物質として還元剤が必要となる。ここで、還元剤の添加量は特に限定されないが、粉粒体に含まれるマンガンの形態に依存するため、酸溶液に対して1~500g/L程度あれば十分である。
【0102】
還元剤としては、常用の種々の還元剤がいずれも適用できる。還元剤としては、過酸化水素H2O2、硫化ナトリウムNa2S・9H2O、亜硫酸水素ナトリウムNaHSO3、チオ硫酸ナトリウムNa2S2O3、硫酸鉄FeSO4・7H2Oが例示できる。ここで、硫黄系の還元剤は、亜硫酸ガス、硫化水素ガス等の腐食性ガスを発生する場合があり、安全性等の観点から注意を要する。このような観点から、還元剤は過酸化水素H2O2とすることが好ましい。
【0103】
ここで、粉粒体に含まれる亜鉛成分については、還元剤の有無に関わらず酸の濃度を上昇していけば、ほぼ全量が溶解(浸出)する。
【0104】
また、酸浸出処理の効率化を図る観点からは、酸浸出工程における粉粒体と酸溶液との固液比(粉粒体(g)/酸溶液(L))を50g/L以上とすることが好ましい。一方、固液比が800g/Lを超えると、粘度が上昇してハンドリング上の問題が生じたり、固液分離工程時の歩留まりが悪化したりする可能性がある。このため、固液比は800g/L以下とすることが好ましい。また、酸浸出処理の処理温度(雰囲気温度、酸溶液の温度等)は、室温(15~25℃前後)でも十分な効果が得られるが、加温を行ってよい。加温を行えば、処理溶液が沸騰しない範囲で温度を高めるほど反応効率の向上が期待できる。酸浸出処理の処理時間は、5分以上が好ましく、6時間以下が好ましい。
【0105】
(固液分離工程)
固液分離工程では、酸浸出工程で得られた浸出液と浸出残渣とを固液分離する。分離された浸出液は、マンガンイオン、亜鉛イオン及び鉄イオンを含有する。一方、分離された固体の浸出残渣は、主として炭素が残留した結果である。これにより、粉粒体に含まれていたマンガン成分、亜鉛成分及び鉄成分と、炭素とを分離することができる。
【0106】
固液分離手段は特に限定されない。固液分離工程には、常用の手段である、例えば重力沈降分離、ろ過、遠心分離、フィルタプレス、膜分離などから選ばれる手段を用いることが好ましい。
【0107】
(マンガン抽出工程)
本発明では、固液分離工程で分離された浸出液から、亜鉛イオン及び鉄イオンを除去して、マンガンイオンを含有する溶液(マンガン含有溶液)を高純度で得る、マンガン抽出工程を行う必要がある。具体的には、マンガン抽出工程は、所定の亜鉛除去工程及び鉄除去工程を順不同で含む。より具体的には、マンガン抽出工程が含む亜鉛除去工程は、亜鉛イオンに硫化剤を作用させて亜鉛イオンを沈殿させる硫化物沈殿処理工程と、得られた亜鉛含有沈殿物を分離する亜鉛分離工程とを含む。また、マンガン抽出工程が含む鉄除去工程は、鉄イオンを酸化させて鉄イオンを沈殿させる酸化処理工程と、得られた鉄含有沈殿物を分離する鉄分離工程とを含む。
【0108】
このように、マンガン抽出工程において、亜鉛イオン及び鉄イオンをそれぞれ選択的に沈殿させて、浸出液から亜鉛イオン及び鉄イオンを確実に取り除くことにより、最終的に、目的成分であるマンガン成分を高純度かつ高歩留で簡便に回収することができる。
【0109】
マンガン抽出工程では、亜鉛イオンを優先的に沈殿除去する亜鉛除去工程を先に行ってよいし(手順A2)、鉄イオンを優先的に沈殿除去する鉄除去工程を先に行ってよい(手順B)。工程をより簡素化しやすい観点からは、鉄除去工程を先に行うこと(手順B)が好ましい。
【0110】
手順A2では、まず、浸出液から、亜鉛含有沈澱物と、マンガンイオン及び鉄イオンを含有する第1溶液との混合物を得た後に、これらを分離する。また、手順Bでは、まず、浸出液から、鉄含有沈殿物と、マンガンイオン及び亜鉛イオンを含有する第3溶液との混合物を得た後に、これらを分離する。以下、手順A2及び手順Bの詳細が説明される。
【0111】
(亜鉛除去工程(手順A2))
手順(A2)における亜鉛除去工程では、固液分離された浸出液に、まず硫化物沈殿処理工程を施す。この硫化物沈殿処理工程では、浸出液に硫化剤を作用させ、浸出液中に含まれるイオンのうち主として残存する亜鉛イオンを亜鉛硫化物として沈殿させ、浸出液から除去可能にする。この処理により、浸出液から、マンガンイオン及び鉄イオンを含有する第1溶液と亜鉛含有沈殿物との混合物が得られる。
【0112】
固液分離工程で分離された浸出液には、マンガンイオン、鉄イオン、さらに残存する亜鉛イオンが含まれており、浸出液に硫化剤を作用すると、含まれる2価の金属イオンは、硫化物イオンS2-と反応して、硫化物を生成し沈殿する。この硫化物の沈殿のしやすさは、溶解度積KSPに依存する。マンガン、亜鉛、鉄の硫化物の溶解度積は下記に示されるとおりである。
MnS:KSP=2.5×10-10
ZnS:KSP=1.6×10-24
FeS:KSP=6.3×10-18
(Lange, N.A.:Lange’s Handbook of Chemistry. Thirteenth edition 1985)
【0113】
溶解度積KSPの値が小さいほど、硫化物を形成しやすいことから、マンガン、亜鉛、鉄のうちでは、亜鉛(Zn)が最も硫化物を形成しやすいことになる。したがって、マンガン、亜鉛、鉄のイオンを含む浸出液に硫化剤を作用させた場合には、亜鉛(Zn)を選択的に硫化物として沈殿させることができる。そして、硫化物イオンの濃度、浸出液のpHを調整することにより、浸出液中の亜鉛イオン濃度を分析限界(0.1mg/L)未満に簡便に低減することができる。
【0114】
ここで、上述のとおり、浸出液に亜鉛イオンが多量に含有されていると、硫化物沈殿処理工程によって多量かつ微細な亜鉛含有沈殿物が生成するので、マンガンの共沈を促進して最終的なマンガンの歩留を低めやすい。また、続く固液分離時にろ布等を目詰まりさせやすく、亜鉛分離工程が困難となる。しかしながら、本発明では、硫化物沈殿処理工程に先立つ酸・酸化剤処理工程において、あらかじめ粉粒体中の大部分の亜鉛成分を取り除きつつマンガン成分を留めているため、マンガンの共沈を良好に回避して最終的なマンガンの歩留を高めることができる。また、亜鉛含有沈殿物の量及び質を制御でき、後述の亜鉛分離工程を簡便かつ効率的に行うことができる。
【0115】
作用させる硫化剤としては、水硫化ナトリウムNaHS、硫化ナトリウムNaS、硫化水素H2Sが好適に例示できる。ここで、硫化水素はガスなので、曝気する必要がある。したがって、作用させる硫化剤としては、水硫化ナトリウム及び硫化ナトリウムがより好ましい。
【0116】
作用させる硫化剤は、硫化剤添加後のpH変位が+1以下、より好ましくは+0.5以下の間だけ添加を行う。ここで、pH変位は、(pH変位)=(硫化剤添加後のpH)-(硫化剤添加前のpH)で定義される。pH変位が+1以下の間だけ硫化剤を添加することにより、亜鉛イオンをより良好に沈殿させつつ、意図しないマンガンイオンの沈殿をより抑制しやすいとともに、作用させる硫化剤量が過剰となって硫化水素ガスが多量に発生することを防止できる。
【0117】
また、硫化剤を作用させる際の浸出液のpHは、2未満と低すぎると亜鉛の沈殿が不十分になりやすく、一方、6を超えて高くなるとマンガンの沈殿量が高まり、回収できるマンガン量の低減が著しく、マンガンロスが進行し、マンガン歩留りが低下しやすい。この観点から、硫化物沈殿処理工程における浸出液のpHは、2以上が好ましく、3以上がより好ましく、6以下が好ましく、5以下がより好ましく、5未満が更に好ましい。浸出液のpHは、好ましくはpH2以上6以下、より好ましくはpH2以上5以下、さらに好ましくはpH3以上5以下、一層好ましくはpH3以上5未満である。
【0118】
続いて、手順(A2)における亜鉛除去工程では、上述した硫化物沈殿処理工程で得られた混合物を第1溶液と亜鉛含有沈殿物とに分離して、亜鉛成分を除去する。
【0119】
より具体的には、硫化物沈殿処理工程で得られた、マンガンイオン及び鉄イオンを含有する第1溶液と、主として残存する亜鉛の硫化物が沈殿した亜鉛含有沈殿物とを分離する。これにより、硫化物沈殿処理工程後の混合物から亜鉛成分を容易に分離でき、マンガンイオン及び鉄イオンを含む第1溶液を得ることができる。分離手段は特に限定されることなく、上述した固液分離工程に従えばよい。生成した亜鉛含有沈殿物が多量又は微細であると、マンガンの共沈が生じたり、亜鉛分離時にろ布の目詰まり等のトラブルが起きたりしやすいところ、本発明では、酸・酸化剤処理工程において、あらかじめ粉粒体中の大部分の亜鉛成分を取り除きつつマンガン成分を留めているため、マンガンの共沈を良好に回避して最終的なマンガンの歩留を高めることができる。また、亜鉛含有沈殿物の量及び微細化を抑制し、亜鉛分離工程を簡便かつ効率的に行うことができる。
【0120】
ここで、上記した硫化物沈殿処理では、溶液中から鉄(Fe)分の一部が沈殿除去される場合がある。この場合、予め設定した鉄成分濃度未満に鉄分が除去されていれば、この段階で処理を終えることも考えられる。しかし、手順(A2)では、鉄成分をさらに分離除去して高純度のマンガン成分を得るべく、後述する鉄除去工程を更に行う。
【0121】
(鉄除去工程(手順A2))
手順(A2)では、上述した亜鉛除去工程に続き、鉄除去工程を施す。手順(A2)における鉄除去工程では、まず、先の亜鉛除去工程で得られたマンガンイオン及び鉄イオンを含有する第1溶液に酸化処理工程を施し、第1溶液中の鉄イオンを鉄含有沈殿物として、鉄成分を分離除去可能にする。この処理により、第1溶液からは、マンガンイオンを高純度に含有する第2溶液(マンガン含有溶液)と鉄含有沈殿物との混合物が得られる。
【0122】
酸化処理方法としては、第1溶液の好適なpHを含め、後述する手順(B)での酸化処理方法に従えばよい。ここで、硫化物沈殿処理工程を経て得られた第1溶液に、実用的な条件で空気曝気を施すと、第1溶液中の鉄成分を完全に分離除去しきれない場合がある。というのは、硫化物沈殿処理工程で添加した硫化剤が、この工程では還元剤として作用する。この還元剤によって、空気曝気で供給された酸素が消費され、空気曝気量によっては酸素量が不足し、処理後の溶液中に分離除去できない鉄分が残存するからであると考えられる。ここで、空気曝気を続ければ、硫化剤は硫酸イオンとなり、最終的には溶液が酸化雰囲気になって、鉄成分も沈殿する。しかし、この手法では曝気時間が長くなり、実用的ではない。
【0123】
そこで、手順(A)の酸化処理工程では、空気曝気を施したのち、仕上げ酸化処理として、さらに酸化剤を添加することが好ましい。酸化剤の添加量は、酸化還元電位(vs.SHE)を測定し、酸化還元電位が550mV以上となるように調整することが好ましい。酸化剤としては、過酸化水素、過マンガン酸カリウムが好適に例示できる。
【0124】
ここで、亜鉛除去工程を施したのち、適正期間放置したうえで酸化処理工程を施せば、仕上酸化処理を施すことなく、空気曝気のみの処理で十分に鉄成分を沈殿させることができる。これは、前段の硫化物沈殿処理工程で生じた第1溶液中の、還元性物質である硫化水素が空気中に放散され、第1溶液が酸化されやすくなる、すなわち、酸化還元電位が上がりやすくなることに起因すると考えられる。ここでいう適正期間は、密閉系であるか開放系であるか等の保存状態によって異なるため一概には言えないが、数日から1週間程度と推察される。
【0125】
そして、手順(A2)における鉄除去工程では、上述した酸化処理工程で得られた混合物を第2溶液と鉄含有沈殿物とに分離して、鉄成分を除去する。このようにして、高純度のマンガン含有溶液(第2溶液)を回収することができる。
【0126】
分離手段は特に限定されることなく、上述した固液分離工程に従えばよい。
【0127】
(鉄除去工程(手順B))
次に、手順(B)における鉄除去工程では、固液分離工程で得られた浸出液に、まず酸化処理を施す。この酸化処理では、浸出液を酸化させて浸出液中に含まれるイオンのうち鉄イオンを鉄含有沈殿物として沈殿させ、まず鉄成分を浸出液から除去可能にする。この処理により、浸出液から、マンガンイオン及び亜鉛イオンを含有する第3溶液と鉄含有沈殿物との混合物が得られる。
【0128】
酸化処理方法としては、常用の酸化処理方法が適用できるが、本実施形態では、安価な酸化処理方法である、空気曝気のみで十分である。空気曝気の条件としては、通常の実用的な条件(吹込み量:(浸出液量に対して0.1倍量~1倍量)/分、曝気時間:15~60分)とすることが、経済的な観点から好ましい。ここで、仕上げ酸化として、酸化剤を添加する処理が付加されてよい。
【0129】
ここで、酸化処理は、pH調整剤を用いて、浸出液のpHを調整して行うことが好ましい。浸出液のpHが3未満と低すぎると鉄成分が沈殿し難い。一方、浸出液のpHが7を超えて高すぎるとマンガン成分も同時に沈殿しやすい。このため、浸出液は、pH3~7の範囲に調整することが好ましい。浸出液は、より好ましくはpH5以上であり、より好ましくはpH6以下であり、更に好ましくはpH5~pH6近傍である。これにより、マンガンの沈殿を抑制しつつ、浸出液から鉄成分を沈殿・分離除去可能な状態にでき、ひいては、不純分の少ない高純度マンガン含有溶液を高歩留で得ることができる。
【0130】
続いて、手順(B)における鉄除去工程では、上述した酸化処理工程で得られた混合物を、マンガンイオン及び亜鉛イオンを含有する第3溶液と、主として水酸化鉄を含み得る鉄含有沈殿物とに分離する。これにより、酸化処理工程後の混合物から鉄成分を容易に分離除去し、マンガン成分及び亜鉛成分を含む第3溶液を得ることができる。
【0131】
分離手段は特に限定されることなく、上述した固液分離工程に従えばよい。
【0132】
(亜鉛除去工程(手順B))
手順(B)では、上述した鉄除去工程に続き、亜鉛除去工程を施す。手順(B)における亜鉛除去工程では、先の鉄除去工程で得られた第3溶液に硫化剤を作用させ、第3溶液中のイオンのうち主として亜鉛イオンを亜鉛硫化物として沈殿させ、残存する亜鉛成分を第3溶液から除去可能にする。この処理により、第3溶液からは、マンガンイオンを高純度に含有する第4溶液(マンガン含有溶液)と亜鉛含有沈殿物との混合物が得られる。
【0133】
先の鉄除去工程で分離された第3溶液には、マンガンイオン及び残留する亜鉛イオンが含まれており、第3溶液に硫化剤を作用すると、上述した手順(A2)の硫化物沈殿処理工程と同様のメカニズムに従って、亜鉛成分が選択的に硫化物として沈殿する。そして、添加する硫化剤の量、硫化物イオンの濃度、第3溶液のpHを調整することにより、第3溶液中の亜鉛イオン濃度を分析限界(0.1mg/L)未満に容易に低減することができる。
【0134】
硫化剤の種類及び第3溶液の好適なpHは、上述した手順(A2)の硫化物沈殿処理における好適な硫化剤の種類及び浸出液のpHに従えばよい。第3溶液のpHは、特にpH:4が好ましい。
【0135】
作用させる硫化剤は、硫化剤添加後のpH変位が+1以下、より好ましくは+0.5以下の間だけ添加を行う。ここで、pH変位は、(pH変位)=(硫化剤添加後のpH)-(硫化剤添加前のpH)で定義される。pH変位が+1以下の間だけ硫化剤を添加することにより、亜鉛イオンをより良好に沈殿させつつ、意図しないマンガンイオンの沈殿をより抑制しやすいとともに、作用させる硫化剤量が過剰となって硫化水素ガスが多量に発生することを防止できる。
【0136】
そして、手順(B)における亜鉛除去工程では、上述した硫化物沈殿処理工程で得られた混合物を、第4溶液と、主として亜鉛硫化物が沈殿した亜鉛含有沈殿物とに分離して、亜鉛成分を除去する。このようにして、残存する亜鉛成分をも除去して、マンガン成分のみを含む高純度な溶液を簡便に、しかも高歩留で回収することができる。
【0137】
上述のとおり、第3溶液に亜鉛イオンが多量に含有されていると、硫化物沈殿処理工程によって多量かつ微細な亜鉛含有沈殿物が生成するので、マンガンの共沈を促進して最終的なマンガンの歩留を低めやすい。また、続く固液分離時にろ布等を目詰まりさせやすく、亜鉛分離工程が困難となる。しかしながら、本発明では、硫化物沈殿処理工程に先立つ酸・酸化剤処理工程において、あらかじめ粉粒体中の大部分の亜鉛成分を取り除きつつマンガン成分を留めているため、マンガンの共沈を良好に回避して最終的なマンガンの歩留を高めることができる。また、亜鉛含有沈殿物の量及び質を制御でき、亜鉛分離工程を簡便かつ効率的に行うことができる。
【0138】
分離手段は特に限定されることなく、上述した固液分離工程に従えばよい。
【0139】
上記した各工程を順次経ることにより、廃乾電池に含まれる、マンガン成分以外の炭素成分、亜鉛成分、鉄成分をほぼ完全に分離除去でき、亜鉛成分及び鉄成分を分析限界未満まで低減した、高純度のマンガン含有溶液として高い歩留まりで回収することができる。
【0140】
ここで、得られたマンガン含有溶液は、例えば、アルカリ沈殿させて高純度のマンガン水酸化物として各種用途に用いてよい。また、得られたマンガン含有溶液は、Ni等の他の金属を混合したのち、アルカリ沈殿処理等を施し、二次電池電極材用の材料として利用してよい。
【0141】
(マンガンの回収設備)
次に、本発明のマンガンの回収設備が説明される。本発明の回収設備は、選別装置、破砕装置、篩い分け装置、加熱処理装置、酸処理槽、固液分離装置及びマンガン抽出装置群を順に備え、本発明のマンガンの回収方法と同様の特徴及び効果を有する。また、マンガン抽出装置群は、所定の亜鉛除去装置群及び鉄除去装置群を順不同で含む。
【0142】
そして、本発明のマンガン回収設備は、例えば、本発明のマンガン回収方法を実施する際に好適に利用することができる。
【0143】
(構成A2)
本発明の回収設備の一態様として、
図12は、上述の手順(A2)を好適に実施可能な構成(A2)を示す。
図12に模式的に示すように、回収設備は、選別装置10と、破砕装置20aと、篩い分け装置20bと、加熱処理装置100と、酸処理槽30と、固液分離装置40と、硫化物沈殿処理槽50と、pH計器60と、亜鉛分離装置70と、酸化処理槽80と、鉄分離装置90と、マンガン含有溶液回収槽140とを、上流から下流に向かってこの順で備えることができる。ここで、硫化物沈殿処理槽50とpH計器60と亜鉛分離装置70が亜鉛除去装置群を構成し、酸化処理槽80及び鉄分離装置90が鉄除去装置群を構成する。また、亜鉛除去装置群及び鉄除去装置群はマンガン抽出装置群を構成する。
【0144】
選別装置10では、廃乾電池からマンガン乾電池及びアルカリマンガン乾電池の一方又は両方を選別する。選別装置の種類は特に限定せず、形状又は放射線等を利用して分別する装置が好適に例示できる。ここで、廃乾電池の選別は手選別としてよい。
【0145】
破砕装置20aは、通常の破砕機がいずれも適用できるが、2軸回転式の破砕機とすることが好ましい。
【0146】
篩い分け装置20bは、目開き1mm以上20mm以下の篩を備えたものとすることが好ましい。篩い分け装置20bの目開きは、マンガンの回収方法について上述した理由と同様に、おおよそ、1mm以上が好ましく、20mm以下が好ましく、10mm以下がより好ましく、3mm以下が更に好ましい。
【0147】
加熱処理装置100は、破砕装置20a及び篩い分け装置20bを経て得られた粉粒体に、不活性雰囲気又は還元性雰囲気の非酸化性雰囲気中で、設定した温度に加熱する加熱処理を施せる装置であればよい。加熱処理装置100の構造は特に限定されない。ここで、加熱装置がバッチ式であれば、通常の雰囲気調整が可能な加熱炉が好適である。また、加熱装置が連続式であれば、設定した温度に加熱でき雰囲気調整が可能なロータリーキルン等が好適である。ここで、ここでいう雰囲気調整には、亜鉛蒸気を含む排気ガスの捕集手段を備えることも含む。
【0148】
酸処理槽30は、粉粒体、酸溶液及び酸化剤を、並びに、浸出残渣、酸溶液及び還元剤を混合して、浸出反応を進行させるため、タンクに撹拌機を備えた一般的な撹拌槽とすることが好ましい。還元剤を使用する場合は、還元剤をタンク内に添加するための設備をさらに具備することが好ましい。
【0149】
硫化物沈殿処理槽50は、浸出液に硫化剤を作用させる硫化剤処理を施すため、タンクに撹拌機を備えた一般的な撹拌槽とすることが好ましい。またpH変位を見ながら硫化剤の添加量を制御するためのpH計器60が備えられる。さらに、pH調整剤を添加して浸出液のpHを調整可能なpH調整装置を更に備えることが好ましい。
【0150】
また、酸化処理槽80は、第1溶液に酸化処理を施すため、タンクに撹拌機を備えた一般的な撹拌槽とすることが好ましい。また、pH調整剤を添加して第1溶液のpHを調整可能なpH調整装置を更に備えることが好ましい。
【0151】
固液分離装置40、亜鉛分離装置70、鉄分離装置90はいずれも、例えば、重力沈降分離装置、ろ過装置、遠心分離装置、フィルタプレス装置、膜分離装置などから選ばれる装置を用いることができる。ここで、各分離装置には、固液分離された沈殿物等を回収できる回収槽110、120、130を備えることが好ましい。
【0152】
マンガン含有溶液回収槽140は、鉄分離装置90で固液分離されたマンガン含有溶液を回収して、貯液でき、払い出し自在に構成されたタンクとすることが好ましい。
【0153】
(構成B)
また、本発明の回収設備の他の態様として、
図13は、上述の手順(B)を好適に実施可能な構成(B)を示す。
図13に模式的に示すように、回収設備は、選別装置10と、破砕装置20aと、篩い分け装置20bと、加熱処理装置100と、酸処理槽30と、固液分離装置40と、酸化処理槽51と、鉄分離装置61と、硫化物沈殿処理槽71と、pH計器81と、亜鉛分離装置91と、マンガン含有溶液回収槽140とを、上流から下流に向かってこの順で備えることができる。ここで、酸化処理槽51及び鉄分離装置61が鉄除去装置群を構成し、硫化物沈殿処理槽71、pH計器81及び亜鉛分離装置91が亜鉛除去装置群を構成する。また、鉄除去装置群及び亜鉛除去装置群はマンガン抽出装置群を構成する。
【0154】
ここで、選別装置10、破砕装置20a、篩い分け装置20b、酸処理槽30、固液分離装置40、鉄分離装置61、亜鉛分離装置91、回収槽110、121、131、マンガン含有溶液回収槽140は、いずれも構成A2について上述したとおりである。ここで、鉄分離装置61、亜鉛分離装置91、回収槽121、131は、それぞれ構成A2の鉄分離装置90、亜鉛分離装置70、回収槽130、120に対応する。
【0155】
酸化処理槽51は、浸出液に酸化処理を施すため、タンクに撹拌機を備えた一般的な撹拌槽とすることが好ましい。また、pH調整剤を添加して浸出液のpHを調整可能なpH調整装置を更に備えることが好ましい。
【0156】
また、硫化物沈殿処理槽71は、第3溶液に硫化剤を作用させる硫化物沈殿処理を施すため、タンクに撹拌機を備えた一般的な撹拌槽とすることが好ましい。またpH変位を見ながら硫化剤の添加量を制御するためのpH計器81が備えられる。さらに、pH調整剤を添加して第3溶液のpHを調整可能なpH調整装置を更に備えることが好ましい。
【0157】
ここで、本実施形態において、回収設備を構成する各種装置、反応槽、回収槽は、上記したそれぞれの機能を有する限り、その構造等を問わない。
【実施例0158】
以下、実施例が説明される。ここで、以下の実施例は、本発明の好適な一例を示すものであり、何ら限定するものではない。また、以下の実施例は、本発明の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、そのような態様も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0159】
(実施例1)
(粉粒体の作製)
廃乾電池からマンガン乾電池及びアルカリマンガン乾電池を選別する選別工程と、選別した廃乾電池を破砕し、目開き2.8mmの篩で篩い分けすることにより、廃乾電池の粉粒体が得られた。表1は得られた粉粒体の組成を示す。ここで、得られた粉粒体は、表1に示す元素の他に、酸化物又は水酸化物に由来する酸素と、若干の水素を含む。
【0160】
【0161】
(浸出液の作製)
得られた粉粒体に、黒鉛を配合することなく、加熱処理装置100に装入して加熱処理を施す加熱処理工程が行われた。加熱処理は、不活性雰囲気であるN2雰囲気中で加熱温度を1000℃、加熱時間を1時間とする処理とした。
【0162】
加熱処理工程を経て得られた粉粒体を、酸処理槽30に投入し、酸処理工程が施された。酸浸出工程では、粉粒体10gに、酸溶液100mLを混合し、粉粒体からマンガン、亜鉛及び鉄を浸出させる酸浸出処理が施された。酸溶液の酸濃度は、硫酸濃度:3N(質量%濃度約13.2%)とした。ここで、酸浸出処理時間を1時間とし、酸浸出処理は撹拌処理とした。この場合、粉粒体と酸溶液との比である固液比が100g/Lであり、酸溶液に対する還元剤の添加量は100g/Lとなる。
【0163】
(固液分離工程)
酸処理工程後、得られた浸出液と浸出残渣とを、固液分離装置40に装入し、孔径1μmのろ紙でろ過して固液分離する固液分離工程が施された。得られた浸出液中のマンガン濃度、亜鉛濃度、鉄濃度(mg/L)が、ICP発光分析法により定量された。表2は定量結果を示す。ここで、得られた浸出液のマンガン濃度をもとに、浸出液中のマンガン質量が算出され、別途測定しておいた加熱処理後の粉粒体中のマンガン質量に対する浸出液中のマンガン質量の割合(マンガン元素換算)が算出されて、マンガン浸出率とされた。マンガン浸出率は100%であった。
【0164】
(第1溶液の作製(亜鉛除去工程))
次に、固液分離工程により得られた浸出液が、硫化剤として水硫化ナトリウムNaHSに添加された。硫化剤は、硫化剤添加後のpH変位が+1以内になるように添加した。また、硫化物沈殿処理中の浸出液のpHが4となるようにpH調整液(3M硫酸又は100g/L水酸化ナトリウム)で調整した。また、硫化物沈殿処理の処理時間は30分とし、撹拌処理とした。
【0165】
上記した硫化物沈殿処理工程後の混合物を、孔径1μmのろ紙で吸引ろ過して、第1溶液と亜鉛含有沈殿物とに分離する処理が行われた(亜鉛分離工程)。そして、得られた第1溶液の成分がICP発光分析法により定量分析された。ここで、水硫化ナトリウム溶液及びpH調整剤の添加量が記録され、これら溶液で希釈された影響が分析値から補正された。表2では、得られた結果を「亜鉛除去工程後の第1溶液」として併記する。
【0166】
(第2溶液の作製(鉄除去工程))
ついで、亜鉛除去工程を経て得られた第1溶液に、酸化処理として空気曝気が施された。空気曝気の条件は、吹込み量を(第1溶液量と同体積)/分、曝気時間を30分とした。空気曝気を施した後、孔径1μmのろ紙で吸引ろ過した中間溶液について、含まれる成分が上記手法で定量分析された。表2では、得られた結果を「酸化処理後の中間溶液」として併記する。
【0167】
ついで、更なる酸化処理として、上記空気曝気後の第1溶液に、直ちに酸化剤が添加された。酸化剤の添加では、第1溶液のpHが5となるように、pH調整液(3M硫酸又は100g/L水酸化ナトリウム)を添加して調整したのち、酸化剤として過酸化水素水を、酸化還元電位が550mV以上となるように添加した。このようにして、第1溶液中の鉄成分が水酸化鉄として沈殿し、除去可能な状態となった。ここで、酸化剤による処理時間は30分とした。
【0168】
空気曝気及び酸化剤添加による酸化処理工程後の混合物を、孔径1μmのろ紙で吸引ろ過し、マンガン含有溶液(第2溶液)と鉄含有沈殿物とに固液分離する鉄分離工程が施された。
【0169】
得られた第2溶液について、含まれる成分が上記手法で定量分析された。ここで、過酸化水素水とpH調整剤の添加量を記録し、分析値に対して、これら溶液で希釈された影響の補正が行われた。表2では、得られた結果を「鉄除去工程後の第2溶液」として併記する。
【0170】
【0171】
表2から、本発明のマンガン回収方法の一実施形態である手順A2によれば、廃乾電池に含まれるマンガン成分以外の、亜鉛成分及び鉄成分を分析限界(0.1mg/L)未満にまで簡便に分離除去できることがわかる。このように、本発明によれば、廃乾電池に含まれるマンガン成分を、高純度のマンガンイオン含有溶液として、容易かつ効率的に、しかも高歩留で回収できることがわかる。
【0172】
(実施例2)
実施例1と同様に粉粒体の作製が行われて、表1に示す組成の粉粒体が得られた。また、実施例1と同様に浸出液の作製を行ったところ、固液分離工程後の浸出液中のマンガン、亜鉛、鉄の各成分の含有量(mg/L)は表3のとおりであった。ここで、実施例1と同様に求めたマンガン浸出率は100%であった。
【0173】
次に、実施例1と同様に第1溶液の作製(亜鉛除去工程)を行ったところ、亜鉛除去工程後の第1溶液中の成分は表3のとおりであった。
【0174】
ついで、亜鉛分離工程を経て得られた第1溶液を、室温で1週間放置したのち酸化処理工程が行われた。酸化処理工程では、空気曝気のみを施した。空気曝気の条件は、吹込み量:(第3溶液量と同体積)/分、曝気時間:30分とした。空気曝気を施した後、孔径1μmのろ紙で吸引ろ過したマンガン含有溶液(第2溶液)について、含まれる成分が上記手法で定量分析された。表3では、得られた結果を「鉄除去工程後の第2溶液」として併記する。
【0175】
【0176】
表3から、本発明のマンガン回収方法の一実施形態である手順A2において、硫化物沈殿処理を施して分離された第1溶液に対し、適正な期間静置したのちに酸化処理工程を施せば、空気曝気のみによる酸化処理でも十分に鉄成分を沈殿物として分離除去できることがわかる。その結果、マンガン成分を高歩留で回収することができた。
【0177】
(実施例3)
実施例1と同様に粉粒体の作製が行われて、表1に示す組成の粉粒体が得られた。また、実施例1と同様に酸処理工程を行ったところ、固液分離工程後の浸出液中のマンガン、亜鉛、鉄の各成分の含有量(mg/L)は表4のとおりであった。
【0178】
(第3溶液の作製(鉄除去工程))
次に、固液分離工程で分離された浸出液に酸化処理工程が施された。酸化処理工程では、得られた浸出液に空気曝気を施し、浸出液中に含まれる鉄成分から水酸化鉄を生成し、鉄含有沈殿物として浸出液から鉄成分を分離除去可能な状態とした。空気曝気の条件は、吹込み量:(浸出液量と同体積)mL/分、曝気時間:30分とした。ここで、酸化処理を施すに当たり、pH調整剤(3M硫酸又は100g/L水酸化ナトリウム)を用いて、浸出液がpH:5に調整された。
【0179】
酸化処理後、第3溶液と鉄含有沈殿物とを孔径1μmのろ紙で吸引ろ過し、第3溶液と鉄含有沈殿物とに分離する処理が行われた(鉄分離工程)。そして、鉄除去工程で得られた第3溶液について、含まれる成分(Mn、Zn、Fe)がICP発光分析法により定量分析された。ここで、pH調整剤の添加量を記録し、測定値でのpH調整剤による希釈の影響が補正された。表4では、得られた第1溶液中のマンガン、亜鉛、鉄の各成分の濃度(mg/L)を「鉄除去工程後の第3溶液」として併記する。
【0180】
(第4溶液の作製(亜鉛除去工程))
ついで、鉄分離工程で分離された第3溶液に硫化剤を作用させ、主として、第3溶液中にここで残留する亜鉛イオンを亜鉛硫化物(亜鉛含有沈殿物)として沈殿させ、第3溶液から分離除去可能な状態とする硫化物沈殿処理工程が施された。使用した硫化剤は水硫化ナトリウムNaHSであり、硫化剤添加後のpH変位が+1以内になるように添加した。ここで、水硫化ナトリウムは、蒸留水に溶解させた溶液の状態で添加した。また、硫化物沈殿処理中の第3溶液のpHが4となるようにpH調整液(3M硫酸又は100g/L水酸化ナトリウム)で調整した。また、硫化物沈殿処理の処理時間は30分とし、撹拌処理とした。
【0181】
硫化物沈殿処理後の混合物を、孔径1μmのろ紙で吸引ろ過し、マンガン含有溶液(第2溶液)と亜鉛含有沈殿物とに分離する処理が行われた(亜鉛分離工程)。そして、分離後に得られた第4溶液の成分がICP発光分析法により定量分析された。ここで、水硫化ナトリウム溶液及びpH調整剤の添加量を記録し、測定値に対して、これら溶液で希釈された影響が補正された。表4では、得られた結果を「亜鉛除去工程後の第4溶液」として併記する。得られた第4溶液(マンガンイオン含有溶液)におけるMn浸出率は100%であった。
【0182】
【0183】
表4から、本発明のマンガン回収方法の一実施形態である手順Bによれば、廃乾電池に含まれるマンガン成分以外の亜鉛成分及び鉄成分を分析限界(0.1mg/L)未満にまで簡便に分離除去できることがわかる。このように、本発明によれば、廃乾電池に含まれるマンガン成分を、高純度のマンガンイオン含有溶液として、容易かつ効率的に、しかも高い歩留りで回収できることがわかる。