(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178962
(43)【公開日】2023-12-18
(54)【発明の名称】植物栽培用土壌の調製方法、土壌調製剤、植物生長促進剤、および植物の生産方法
(51)【国際特許分類】
C09K 17/32 20060101AFI20231211BHJP
A01G 7/00 20060101ALI20231211BHJP
C08B 11/12 20060101ALN20231211BHJP
C08B 15/04 20060101ALN20231211BHJP
【FI】
C09K17/32 H
A01G7/00 604Z
C08B11/12
C08B15/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088909
(22)【出願日】2023-05-30
(31)【優先権主張番号】P 2022091631
(32)【優先日】2022-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田村 直之
(72)【発明者】
【氏名】角田 惟緒
(72)【発明者】
【氏名】多田 裕亮
(72)【発明者】
【氏名】渡部 啓吾
(72)【発明者】
【氏名】小野田 武範
(72)【発明者】
【氏名】杉村 裕介
(72)【発明者】
【氏名】村松 利一
(72)【発明者】
【氏名】金野 晴男
【テーマコード(参考)】
4C090
4H026
【Fターム(参考)】
4C090AA08
4C090BA29
4C090BA34
4C090BB65
4C090BB92
4C090BB97
4C090BD36
4C090DA01
4C090DA09
4C090DA31
4H026AA10
4H026AB01
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、水分・養分の保持能が低く乾燥した環境においても水分や栄養分の流出を防ぐことで、植物の生育を可能にする土壌の調製方法、土壌調製剤、植物栽培用土壌調製剤を使用する植物の生産方法、および植物生長促進剤を提供することである。
【解決手段】肥料とセルロースナノファイバーとを土壌に添加することを特徴とする植物栽培用土壌の調製方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
肥料とセルロースナノファイバーとを土壌に添加することを特徴とする植物栽培用土壌の調製方法。
【請求項2】
前記肥料100重量部に対して、前記セルロースナノファイバーの添加重量が0.05~5重量部である、請求項1に記載の植物栽培用土壌の調製方法。
【請求項3】
前記土壌100重量部(乾燥重量)に対して、前記セルロースナノファイバーの添加重量が0.01~5重量部である、請求項1又は2に記載の植物栽培用土壌の調製方法。
【請求項4】
前記セルロースナノファイバーがカルボキシメチル基を含有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の植物栽培用土壌の調製方法。
【請求項5】
前記セルロースナノファイバーにおけるカルボキシメチル基の置換度が0.01~0.50であることを特徴とする、請求項4に記載の植物栽培用土壌の調製方法。
【請求項6】
前記セルロースナノファイバーがカルボキシル基を含有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の植物栽培用土壌の調製方法。
【請求項7】
前記セルロースナノファイバー中のカルボキシル基量が1.0~2.0mol/gであることを特徴とする、請求項6に記載の植物栽培用土壌の調製方法。
【請求項8】
肥料とセルロースナノファイバーとを含むことを特徴とする植物栽培用土壌調製剤。
【請求項9】
肥料とセルロースナノファイバーとを含むことを特徴とする植物栽培用土壌調製剤を使用する植物の生産方法。
【請求項10】
肥料とセルロースナノファイバーとを含むことを特徴とする植物生長促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物栽培用土壌の調製方法に関する。より詳細には、肥料とセルロースナノファイバーとを土壌に添加することを特徴とする植物栽培用土壌の調製方法及び土壌の調製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
植物が育つ良い土壌の条件には、通気性と排水性が良好であることと同時に、水分や肥料を保持するための適度な保水力と保肥力があることがあげられる。近年、食糧危機の観点等から、これまで農作物を生産するのに適していないと考えられていた保水性や保肥性が低い土地等においても、農作物の生産効率を向上する為に土壌を改良する試みが行われている。
【0003】
一方、植物繊維を細かく解すことで得られる微細繊維状セルロースは、ミクロフィブリルセルロース及びセルロースナノファイバーを包含するものであり、約2nm~数10μm程度の繊維径の微細繊維であることが知られている。近年、微細繊維状セルロースは、天然由来の素材であることから、生分解性のある資源としての活用が期待されている。
【0004】
セルロース性物質によって土壌の保水性を向上させる方法としては、カルボキシメチルセルロースのアルミニウム金属塩からなるゲル状物質を土壌中に配置し、土壌中のバクテリアによるゲル状物質の生分解の結果、ゲルの架橋構造が崩壊されることで、ゲル内に包含されていた水を長期間に亘って除々に放出する方法が報告されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らが検討した結果、特許文献1のように、アルミニウム金属塩を土壌に添加した場合、アルミニウムイオンと水が反応して土壌が酸性に傾きやすいことが見出された。特に、一般的な農作物は酸性土壌では生育を害されやすいことが課題であった。
【0007】
本発明は、アルミニウム等の金属塩を土壌に添加することなく、水分・養分の保持能が低く、かつ乾燥した環境においても水分や栄養分の流出を防ぐことで、植物の生育を可能にする土壌の調製方法および土壌調製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、肥料とセルロースナノファイバーを土壌に添加することにより、アルミニウム等の金属塩を土壌に添加することなく、水分・養分の保持能が低い環境でも植物の生育を可能にする土壌の調製方法を見出した。本発明は、これらに限定されないが、以下を含む。
(1)肥料とセルロースナノファイバーとを土壌に添加することを特徴とする植物栽培用土壌の調製方法。
(2)前記肥料100重量部に対して、前記セルロースナノファイバーの添加重量が0.05~5重量部である、(1)に記載の植物栽培用土壌の調製方法。
(3)前記土壌100重量部(乾燥重量)に対して、前記セルロースナノファイバーの添加重量が0.01~5重量部である、(1)又は(2)に記載の植物栽培用土壌の調製方法。
(4)前記セルロースナノファイバーがカルボキシメチル基を含有することを特徴とする、(1)~(3)のいずれか1項に記載の植物栽培用土壌の調製方法。
(5)前記セルロースナノファイバーにおけるカルボキシメチル基の置換度が0.01~0.50であることを特徴とする、(4)に記載の植物栽培用土壌の調製方法。
(6)前記セルロースナノファイバーがカルボキシル基を含有することを特徴とする、(1)~(3)のいずれか1項に記載の植物栽培用土壌の調製方法。
(7)前記セルロースナノファイバー中のカルボキシル基量が1.0~2.0mol/gであることを特徴とする、(6)に記載の植物栽培用土壌の調製方法。
(8)肥料とセルロースナノファイバーとを含むことを特徴とする植物栽培用土壌調製剤。
(9)肥料とセルロースナノファイバーとを含むことを特徴とする植物栽培用土壌調製剤を使用する植物の生産方法。
(10)肥料とセルロースナノファイバーとを含むことを特徴とする植物生長促進剤。
【発明の効果】
【0009】
以上のように構成された本発明の土壌の調製方法および土壌調製剤においては、アルミニウム等の金属塩を土壌に添加することなくそれ自体が高い保水能を有するセルロースナノファイバーは保持する水を土壌に供給し、水分・養分の保持能が低い土壌においても、水分・養分を保持することができる。また、肥料とセルロースナノファイバーとを混入した土壌調整剤を土壌に混入後、セルロースナノファイバー自体は徐々に分解されて土壌に還元されるので、土壌中への残留を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、土壌の調製方法であり、植物栽培用の土壌調製剤および前記土壌調製剤を使用する植物の生産方法を含む。以下に、本発明を詳細に説明する。なお、本明細書中、「AA~BB」という表記(但し、AA及びBBは、それぞれ数字を意味する)は、AA以上BB以下を示す。
【0011】
(土壌)
土壌は土壌粒子の大きさにより、礫(粒径2mm以上)、粗砂(粒径0.2mm~2mm)、細砂(粒径0.02mm~0.2mm)、シルト(粒径0.002mm~0.02mm)、粘土(粒径0.002mm以下)に区分される。本発明が適用される土壌は、特に限定されるものではないが、保水力や保肥力の低い土壌が特に好ましい。保水力や保肥力の低い土壌としては、粘土含量が15%以下である砂土、壌質砂土、砂壌土、壌土、シルト質壌土、人工土壌(籾殻燻炭、ココナッツ繊維、バーミキュライト、パーライト、ピートモス、ガラスビーズなど)等があげられる。
【0012】
(土壌水分)
土は、土粒子(固体)、水(液体)、空気(気体)の3相で構成されており、土壌水分は含水率(%)として、水分重量の湿土重量に対する百分率で表すことができる。本発明が特に好ましく適用できる保水力が低い土壌としては、特に限定されるものではないが、含水率が30%以下である。
【0013】
(対象植物)
本発明は、どのような植物に対しても適用することができ、通常、栽培品種として用いられる品種であれば、一年生の草本植物、多年生の草本植物および木本植物のいずれも特に制限されることなく使用可能であるが、特に農園芸用の植物であることが好ましい。対象植物は、草本植物であることが好ましく、農園芸用の草本植物であることがより好ましい。草本植物には、一年生植物、二年生植物または多年生植物が含まれる。
【0014】
前記草本植物としては、イネ科穀類、野菜類および花き類からなる群より選択される少なくとも一種の植物であることが好ましい。このような植物としては、例えば、イネ科、アブラナ科(例えば、ラディッシュ(ハツカダイコン)、ハクサイ、キャベツ、ダイコン、カブ、コマツナ、ブロッコリー、チンゲンサイ、およびストック等)、ナス科(例えば、トマト、ナス、ピーマン、パプリカ、トウガラシ、ペチュニア、テリミノイヌホオズキ、およびジャガイモ等)、マメ科(例えば、インゲン、ソラマメ、アズキ、ダイズ、ササゲ、およびエンドウ等)、ウリ科(例えば、キュウリ、カボチャ、スイカ、メロン、ヒョウタン、ヘチマ、およびズッキーニ等)、セリ科、ネギ科、ユリ科、キク科(例えば、マリーゴールド、ゴボウ、シュンギク、レタス、キク、ガーベラ、およびシネラリア等)、バラ科(例えば、バラ、イチゴ、リンゴ、ナシ、洋ナシ、モモ、およびネクタリン等)、ヒルガオ科、アヤメ科などが例示される。また、本発明は、植物の生育過程のどの段階でも利用でき、種子からの栽培でもよいし、苗からの栽培でもよい。
【0015】
(施肥)
本発明に用いることができる肥料は特に限定されず、速効性肥料もしくは緩効性肥料でも構わないが、無機肥料又は有機肥料がより好ましく、化成肥料が更に好ましい。
【0016】
肥料に含まれる成分は特に限定されないが、例えば、無機成分、銀イオン、抗酸化剤、炭素源、ビタミン類、アミノ酸類、植物ホルモン類等の植物の栄養素の供給源となり得る成分が挙げられる。肥料の形態は特に限定されず、固形物(例、粉剤、粒剤)、又は液体(例、液肥)のいずれでもよい。
【0017】
無機成分としては、窒素、リン、カリウム、硫黄、カルシウム、マグネシウム、鉄、マンガン、亜鉛、ホウ素、モリブデン、塩素、ヨウ素、コバルト等の元素や、これらを含む無機塩が例示される。該無機塩としては例えば、硝酸カリウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸ナトリウム、リン酸1水素カリウム、リン酸2水素ナトリウム、塩化カリウム、硫酸カリウム、硫酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、硫酸第1鉄、硫酸第2鉄、硫酸マンガン、硫酸亜鉛、硫酸銅、硫酸ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、ホウ酸、三酸化モリブデン、モリブデン酸ナトリウム、ヨウ化カリウム、塩化コバルト等やこれらの水和物が挙げられる。
【0018】
抗酸化剤としては、例えば、アスコルビン酸、亜硫酸塩が挙げられ、アスコルビン酸が好ましい。アスコルビン酸は、培地への残留性が低いため、環境汚染を抑制できる。
【0019】
炭素源としては、例えば、ショ糖等の炭水化物とその誘導体;脂肪酸等の有機酸;エタノール等の1級アルコール、などの化合物が挙げられる。
【0020】
ビタミン類としては、例えば、ビオチン、チアミン(ビタミンB1)、ピリドキシン(ビタミンB4)、ピリドキサール、ピリドキサミン、パントテン酸カルシウム、イノシトール、ニコチン酸、ニコチン酸アミド及びリボフラビン(ビタミンB2)が挙げられる。
【0021】
アミノ酸類としては、例えば、グリシン、アラニン、グルタミン酸、システイン、フェニルアラニン及びリジン等が挙げられる。
【0022】
本発明に用いることができる肥料は、肥料の中でも、特に液体肥料が好ましい、前記液体肥料は、市販の液体肥料を用いてもよい。市販の液体肥料の具体例としては、尿素複合液肥、ホウ素・マンガン・苦土入り尿素複合液肥、硝安系複合液肥、硝酸石灰系液肥、有機入り液肥、リン安液肥、粉末液肥、無チッソ液肥、液体微量要素複合肥料などを挙げることができる。
【0023】
前記液体肥料中の肥料成分の含有率の下限は、特には制限されないが、0.001質量%以上が好ましく、0.005質量%以上がより好ましい。肥料成分が上記の範囲であることにより、液体肥料の効果が良好に発揮できる。また、前記液体肥料中の肥料成分の含有率の上限は、特には制限されないが、25質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。
【0024】
(セルロースナノファイバー)
「セルロースナノファイバー」とは、セルロース繊維を、ナノスケールの繊維幅となるまで解繊して得た微細繊維である。以下、「セルロースナノファイバー」を「CNF」と略すことがある。
【0025】
CNFの原料となるセルロースの種類は特に限定されず、例えば、植物(例えば、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、農地残廃物、布、パルプ(針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹未漂白サルファイトパルプ(NUSP)、針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)サーモメカニカルパルプ(TMP)、再生パルプ、古紙等)、動物(例えばホヤ類)、藻類、微生物(例えば酢酸菌(アセトバクター))、微生物産生物等を起源とするセルロースを使用することができる。好ましくは植物又は微生物由来のセルロース繊維であり、より好ましくは植物由来のセルロース繊維である。CNFは化学的に変性してもよいし、しなくてもよい。化学変性したほうがより繊維の微細化が進みやすい点で好ましい。
【0026】
上述のセルロース原料に対し、変性基を導入することで、変性セルロース繊維とすることができる。変性基の導入方法は特に限定されないが、例えば、酸化または置換反応によってセルロースのピラノース環にアニオン性基を導入することが挙げられる。具体的には、ピラノース環の水酸基を酸化してカルボキシル基へと変換する反応や、ピラノース環に対して置換反応により、カルボキシメチル基、リン酸エステル基、または亜リン酸エステル基を導入する反応を挙げることができる。これらのうち、ピラノース環の水酸基を酸化してカルボキシル基へと変換する反応(酸化)、ピラノース環に対して置換反応により、カルボキシメチル基を導入する反応(カルボキシメチル化)が好ましい。
【0027】
(カルボキシメチル化)
化学変性の一例として、カルボキシメチル化を挙げることができる。アニオン変性セルロース繊維の一例であるカルボキシメチル化セルロース繊維は、上記のセルロース原料を公知の方法でカルボキシメチル化することにより得てもよく、また、市販品であってもよい。いずれの場合も、セルロースの無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が0.01~0.50となるものが好ましく、0.02~0.40がさらに好ましく、0.10~0.30がさらに好ましい。カルボキシメチル置換度が0.50を超えると、水などの媒体に溶解するようになり、繊維状の形状を維持することができなくなる。繊維状の形態を保つことによって、雨などが降っても系外へ流出し難く、高い保水能・保肥能を有することができる。
【0028】
カルボキシメチル化セルロース繊維のカルボキシメチル置換度は、以下の方法で測定することができる:
【0029】
カルボキシメチル化セルロース繊維(絶乾)約2.0gを精秤して、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。硝酸メタノール(メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えた液)100mLを加え、3時間振とうして、塩の形態のカルボキシメチル化セルロース(CM化セルロース)を水素型CM化セルロースに変換する。水素型CM化セルロース(絶乾)を1.5g~2.0g精秤し、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。80質量%メタノール15mLで水素型CM化セルロースを湿潤し、0.1NのNaOHを100mL加え、室温で3時間振とうする。指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1NのH2SO4で過剰のNaOHを逆滴定する。カルボキシメチル置換度(DS)を、次式によって算出する:
A=[(100×F’-(0.1NのH2SO4)(mL)×F)×0.1]/(水素型CM化セルロースの絶乾質量(g))
DS=0.162×A/(1-0.058×A)
A:水素型CM化セルロースの1gの中和に要する1NのNaOH量(mL)
F:0.1NのH2SO4のファクター
F’:0.1NのNaOHのファクター。
【0030】
カルボキシメチル化セルロース繊維を製造する方法の一例として次のような方法を挙げることができる:
セルロース原料に、溶媒として3~20重量倍の水及び/又は低級アルコール、具体的には水、メタノール、エタノール、N-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、N-ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノール等の単独、又は2種以上の混合媒体を加える。なお、溶媒に低級アルコールを混合する場合の低級アルコールの混合割合は、60~95質量%であることが好ましい。ここに、マーセル化剤として、セルロース原料の無水グルコース残基当たり0.5~20倍モルの水酸化アルカリ金属、具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを添加する。セルロース原料と溶媒、マーセル化剤を混合し、反応温度0~70℃、好ましくは10~60℃、かつ反応時間15分~8時間、好ましくは30分~7時間、マーセル化処理を行う。その後、カルボキシメチル化剤、例えばモノクロロ酢酸またはその塩などをグルコース残基当たり0.05~10.0倍モル添加し、反応温度30~90℃、好ましくは40~80℃、かつ反応時間30分~10時間、好ましくは1時間~4時間、エーテル化反応を行う。
【0031】
(酸化(カルボキシル化))
化学変性の他の例として、酸化(カルボキシル化)を挙げることができる。酸化処理により、通常、セルロースが本来有するヒドロキシル基の少なくとも1つがカルボキシル基に変性され、好ましくは、グルコピラノース環の6位の炭素原子に結合するヒドロキシル基の少なくとも1つがカルボキシル基に変性される。
【0032】
酸化処理における酸化方法は特に限定されないが、例えば、N-オキシル化合物と、臭化物、およびヨウ化物の少なくともいずれかとの存在下で、酸化剤を用いて水中でセルロース系原料を酸化する方法が挙げられる。この方法によれば、セルロース表面のグルコピラノース環の6位の炭素原子に結合する1級ヒドロキシル基を有する炭素原子が選択的に酸化され、アルデヒド基、カルボキシル基、およびカルボキシレート基からなる群より選ばれる基が生じる。反応時のセルロース系原料の濃度は5質量%以下が好ましいが、特に限定されない。
【0033】
N-オキシル化合物とは、ニトロキシラジカルを発生し得る化合物をいう。ニトロキシルラジカルとしては、例えば、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル(TEMPO)及びその誘導体(例えば、4-ヒドロキシTEMPO)が挙げられる。N-オキシル化合物としては、目的の酸化反応を促進する化合物であれば、いずれの化合物も使用できる。
【0034】
N-オキシル化合物の使用量は、原料となるセルロースの酸化反応を触媒する量であればよい。例えば、絶乾1gのセルロースに対し、0.001mmol以上が好ましく、0.01mmol以上がより好ましい。上限は、10mmol以下が好ましく、1mmol以下がより好ましく、0.1mmol以下がさらに好ましい。従って、N-オキシル化合物の使用量は、絶乾1gのセルロースに対し、0.001~10mmolが好ましく、0.01~1mmolがより好ましく、0.01~0.1mmolがさらに好ましい。反応系に対するN-オキシル化合物の使用量は、通常、0.1~4mmol/L程度である。
【0035】
臭化物とは臭素を含む化合物であり、例えば、水中で解離してイオン化可能な臭化アルカリ金属が挙げられる。ヨウ化物とはヨウ素を含む化合物であり、例えば、ヨウ化アルカリ金属が挙げられる。臭化物またはヨウ化物の使用量は、特に限定されず、酸化反応を促進できる範囲で選択できる。臭化物およびヨウ化物の合計量は絶乾1gのセルロースに対し0.1mmol以上が好ましく、0.5mmol以上がより好ましい。当該量の上限は、100mmol以下が好ましく、10mmol以下がより好ましく、5mmol以下がさらに好ましい。従って、臭化物およびヨウ化物の合計量は、絶乾1gのセルロースに対し0.1~100mmolが好ましく、0.1~10mmolがより好ましく、0.5~5mmolがさらに好ましい。
【0036】
酸化剤は、特に限定されないが、例えば、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸、これらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物が挙げられる。中でも、安価で環境負荷が少ないことから、次亜ハロゲン酸またはその塩が好ましく、次亜塩素酸またはその塩がより好ましく、次亜塩素酸ナトリウムがさらに好ましい。酸化剤の使用量は、絶乾1gのセルロースに対し0.5mmol以上が好ましく、1mmol以上がより好ましく、3mmol以上がさらに好ましい。当該量の上限は、500mmol以下が好ましく、50mmol以下がより好ましく、25mmol以下がさらに好ましく、10mmol以下がさらにより好ましい。従って、酸化剤の使用量は絶乾1gのセルロースに対し、0.5~500mmolが好ましく、0.5~50mmolがより好ましく、1~25mmolがさらに好ましく、3~10mmolがさらにより好ましい。N-オキシル化合物を用いる場合、酸化剤の使用量はN-オキシル化合物1molに対し1mol以上が好ましく、上限は400mol以下が好ましい。従って、N-オキシル化合物1molに対する酸化剤の使用量は、1~400molが好ましい。
【0037】
酸化反応時のpH、温度等の条件は、特に限定されない。一般に、酸化反応は、比較的温和な条件であっても効率よく進行する。反応温度は、4℃以上が好ましく、15℃以上がより好ましい。当該温度の上限は40℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましい。従って、反応温度は4~40℃が好ましく、15~30℃程度、すなわち室温でもよい。反応液のpHは、8以上が好ましく、9以上、又は10以上がより好ましい。pHの上限は、12以下が好ましく、11以下がより好ましい。従って、反応液のpHは、好ましくは8~12、より好ましくは9~11、又は10~11程度である。通常、酸化反応の進行に伴ってセルロース中にカルボキシル基が生成するため、反応液のpHは低下する傾向にある。そのため、酸化反応を効率よく進行させるためには、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ性溶液を添加して、反応液のpHを上記の範囲に維持することが好ましい。酸化の際の反応媒体は、取扱いの容易さや、副反応が生じにくいこと等の理由から、水が好ましい。酸化における反応時間は、酸化の進行程度に従って適宜設定でき、通常は0.5時間以上であり、その上限は通常は6時間以下、好ましくは4時間以下である。従って、酸化における反応時間は通常0.5~6時間、好ましくは0.5~4時間程度である。
【0038】
酸化は、2段階以上の反応に分けて実施してもよい。例えば、1段目の反応終了後に濾別して得られた酸化セルロースを、再度、同一または異なる反応条件で酸化させることにより、1段目の反応で副生する食塩による反応阻害を受けることなく、効率よく酸化させることができる。
【0039】
酸化の別の例として、オゾン酸化が挙げられる。この酸化反応により、セルロースを構成するグルコピラノース環の少なくとも2位および6位の水酸基が酸化されると共に、セルロース鎖の分解が起こる。
【0040】
オゾン処理は、通常、オゾンを含む気体とセルロース系原料とを接触させることにより行われる。気体中のオゾン濃度は、50g/m3以上が好ましい。上限は、250g/m3以下が好ましく、220g/m3以下がより好ましい。従って、気体中のオゾン濃度は、50~250g/m3が好ましく、50~220g/m3がより好ましい。オゾン添加量は、セルロース系原料の固形分100質量部に対し、0.1質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましい。オゾン添加量の上限は、通常30質量部以下である。従って、オゾン添加量は、セルロース系原料の固形分100質量部に対し、0.1~30質量部が好ましく、5~30質量部がより好ましい。オゾン処理温度は、通常0℃以上であり、好ましくは20℃以上であり、上限は通常50℃以下である。従って、オゾン処理温度は、0~50℃が好ましく、20~50℃がより好ましい。オゾン処理時間は、通常は1分以上であり、好ましくは30分以上であり、上限は通常360分以下である。従って、オゾン処理時間は、通常は1~360分程度であり、30~360分程度が好ましい。オゾン処理の条件が上述の範囲内であると、セルロースが過度に酸化および分解されることを防ぐことができ、酸化セルロースの収率が良好となり得る。
【0041】
オゾン処理されたセルロースに対しさらに、酸化剤を用いた追酸化処理を行ってもよい。追酸化処理に用いる酸化剤は、特に限定されないが、例えば、二酸化塩素、亜塩素酸ナトリウム等の塩素系化合物、酸素、過酸化水素、過硫酸、過酢酸が挙げられる。追酸化処理の方法としては、例えば、酸化剤を水またはアルコール等の極性有機溶媒中に溶解して酸化剤溶液を調製し、酸化剤溶液中にセルロース系原料を浸漬させる方法が挙げられる。酸化セルロースに含まれるカルボキシル基、カルボキシレート基、アルデヒド基の量は、酸化剤の添加量、反応時間等の酸化条件をコントロールすることで調整できる。
【0042】
酸化CNFにおけるカルボキシル基量(カルボキシル基及びカルボキシレート基の合計量)は、酸化CNFの絶乾質量に対して、通常、1.0mmol/g以上、好ましくは1.1mmol/g以上、より好ましくは1.2mmol/g以上、更に好ましくは1.3mmol/g以上である。上限は、通常、2.0mmol/g以下、好ましくは1.8mmol/g以下、より好ましくは1.6mmol/g以下、更に好ましくは1.5mmol/g以下である。従って、通常、1.0~2.0mmol/g、好ましくは1.1~1.8mmol/g、より好ましくは1.2~1.6mmol/g、更に好ましくは1.3~1.5mmol/gである。酸化CNFのカルボキシル基量は、酸化剤の添加量や反応時間等の反応条件をコントロールすることで調整することができる。カルボキシル基量は、以下の方法で測定することができる:
酸化CNFの0.5質量%スラリー(水分散液)60mlを調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.4とした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下式を用いて算出する:
カルボキシル基量〔mmol/g酸化CNF〕=a〔ml〕×0.05/酸化CNF質量〔g〕。
【0043】
(セルロース繊維)
CNFの原料である上記で得られるようなセルロース繊維としては、水に分散した際にも繊維状の形状の少なくとも一部が維持されるものを用いる。繊維状の形状が維持されないもの(すなわち、分散媒に溶解するもの)を用いると、ナノファイバーを得ることができない。繊維状の形態が維持されていることにより、土壌中においても物理的な強固なネットワークを保持し、雨などの水分の流入においても、溶解した形態のセルロース系高分子と異なり、系外へ流出しにくい。分散した際に繊維状の形状の少なくとも一部が維持されるとは、セルロース繊維の分散体を電子顕微鏡で観察すると、繊維状の物質を観察することができるものである。また、X線回折で測定した際にセルロースI型結晶のピークを観測することができるセルロース繊維が好ましい。
【0044】
セルロース繊維におけるセルロースの結晶化度は、結晶I型が50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましい。結晶性を上記範囲に調整することにより、解繊により繊維を微細化した後も溶解することのない結晶性セルロース繊維を充分に得ることができる。CNFのセルロースI型の結晶化度は、50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましい。セルロースの結晶性は、原料であるセルロースの結晶化度、及び化学変性の度合によって制御できる。セルロース繊維及びCNFの結晶化度の測定方法は、以下の通りである:
試料をガラスセルに乗せ、X線回折測定装置(LabX XRD-6000、株式会社島津製作所製)を用いて測定する。結晶化度の算出はSegal等の手法を用いて行い、X線回折図の2θ=10゜~30゜の回折強度をベースラインとして、2θ=22.6゜の002面の回折強度と2θ=18.5゜のアモルファス部分の回折強度から次式により算出する。
Xc=(I002c-Ia)/I002c×100
Xc:セルロースのI型の結晶化度(%)
I002c:2θ=22.6゜、002面の回折強度
Ia:2θ=18.5゜、アモルファス部分の回折強度
【0045】
(解繊)
得られたセルロース繊維を解繊することにより、CNFとすることができる。解繊に用いる装置は、特に限定されず、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式、キャビテーション噴流装置、精製装置(リファイナー、例えば、ディスク型、コニカル型、シリンダー型リファイナー)、高速解繊機、せん断型撹拌機、コロイドミル、高圧噴射分散機、ビーター、PFIミル、ニーダー、ディスパーザー、高速離解機(トップファイナー)、高圧または超高圧ホモジナイザー、キャビテーション噴流装置、グラインダー(石臼型粉砕機)、ボールミル、振動ミル、ビーズミル、1軸、2軸又は多軸の混錬機・押出機、高速回転下でのホモミキサー、デフィブレーター(defibrator)、摩擦グラインダー、高せん断デフィブレーター(defibrator)、ディスパージャー(disperger)、ホモゲナイザー(例えば、微細流動化機(microfluidizer))、離解機(トップファイナー)、ホモミックラインミル、ヘンシェルミキサーなどの装置を用いることができる。特に、7MPa程度の圧力で効率よく解繊できるキャビテーション噴流装置や、セルロース繊維の水分散体に強力な剪断力を印加できる湿式の高圧または超高圧ホモジナイザーを用いることは好ましい。効率よく解繊するためには、高圧ホモジナイザーの圧力は、50MPa以上であることが好ましく、100MPa以上であることがさらに好ましく、140MPa以上であることがさらに好ましい。高圧ホモジナイザーでの解繊に先立って、必要に応じて、高速剪断ミキサーなどの公知の混合、撹拌、乳化、分散装置を用いて、セルロース繊維の水分散体に予備処理を施してもよい。解繊装置での処理(パス)回数は、1回でもよいし2回以上でもよく、2回以上が好ましい。
【0046】
(CNF)
上述のセルロース繊維の解繊により、CNFを得ることができる。本明細書において、「CNF」(セルロースナノファイバー)とは、ナノメートルレベルの繊維幅まで微細化されたセルロース由来の繊維であり、繊維幅が約2~数百nm程度、例えば、2~500nm程度であるセルロース由来の微細繊維をいう。CNFの平均繊維径は、好ましくは2~500nm程度であり、より好ましくは3~150nm程度であり、さらに好ましくは3~90nm程度であり、さらに好ましくは3~20nm程度である。平均繊維長を平均繊維径で除すことによりアスペクト比を算出することができる。アスペクト比は好ましくは10以上、より好ましくは30以上である。アスペクト比の上限は限定されないが、500以下程度となる。
【0047】
CNFの平均繊維径及び平均繊維長は、径が20nm未満の場合は原子間力顕微鏡(AFM)、20nm以上の場合は電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて、ランダムに選んだ200本の繊維について解析し、平均を算出することにより、測定することができる。
【0048】
前記肥料100重量部に対する、前記セルロースナノファイバーの添加重量(固形)は、0.05~5重量部が好ましく、0.1~2重量部がより好ましく、0.1~0.5重量部がさらに好ましい。セルロースナノファイバーの添加重量が上記の範囲であることにより、セルロースナノファイバーによる保水効果が良好に発揮できる。
【0049】
前記土壌100重量部に対する、前記セルロースナノファイバーの添加重量(固形)は特に制限されることなく使用することができるが、0.01~5重量部が好ましく、0.01~1重量部がより好ましく、0.05~0.1重量部がより好ましい。セルロースナノファイバーの添加重量が上記の範囲であることにより、セルロースナノファイバーによる保水効果が良好に発揮できる。
【0050】
(任意成分)
土壌改良剤は、必要に応じて、肥料およびセルロースナノファイバー以外の成分(任意成分)を含んでもよい。任意成分としては、例えば、賦形剤、着色剤、防腐剤、pH調節剤、安定剤、崩壊剤、担体、結合剤、pH調整剤、消泡剤、非イオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤等の任意成分(製剤用助剤)が挙げられる。任意成分の使用量は、セルロースナノファイバー又は組成物に対し通常、0~30重量%である。
【0051】
(剤型・製法)
土壌改良剤の剤型としては、例えば、顆粒状、粒状、液体状が挙げられ、特に限定されない。顆粒状、粒状であることにより、散布が容易となり得る。また、液体状であることにより、機能成分との混合が容易となり、混合後にスラリーを安定化させることができる。土壌改良剤は、機能成分とともに製剤化してもよいし、別途製剤化してもよい。土壌改良剤の製造方法は、剤型に従って適切な方法を適宜選択できる。
【0052】
(土壌への施肥方法)
土壌への施肥方法としては特に限定されないが、肥料とCNFを混合したものを土壌に施肥してもよいし、CNFをあらかじめ土壌とよく混合したものに対して肥料を施肥してもよい。このとき、CNFの形状としては水に分散した状態であってもよいし、乾燥した粉末状でもよい。
【0053】
本発明においては、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーを分散体の状態で用いても良いし、乾燥(分散媒の除去)、粉砕、分級を行い、粉末として用いても良い。
【0054】
本発明に用いるカルボキシメチル化セルロースナノファイバーを粉末として用いる場合は、必要に応じて、他の成分を含んでいても良い。例えば、粉末を製造する際、乾燥前に、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの分散体に水溶性高分子を共存させると、再分散性が向上するので、好ましい。水溶性高分子により再分散性が向上する理由は、明らかではないが、水溶性高分子がカルボキシメチル化セルロースナノファイバー表面の電荷密度の低い部分をカバーし、水素結合の形成を抑制して乾燥時のナノファイバー同士の凝集を防止するためであると推測される。
【0055】
(水溶性高分子)
カルボキシメチル化セルロースナノファイバーを粉末として用いる場合に、粉末の製造時に共存させることができる水溶性高分子としては、例えば、セルロース誘導体(カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース)、キサンタンガム、キシログルカン、デキストリン、デキストラン、カラギーナン、ローカストビーンガム、アルギン酸、アルギン酸塩、プルラン、澱粉、かたくり粉、クズ粉、加工澱粉(カチオン化澱粉、燐酸化澱粉、燐酸架橋澱粉、燐酸モノエステル化燐酸架橋澱粉、ヒドロキシプロピル澱粉、ヒドロキシプロピル化燐酸架橋澱粉、アセチル化アジピン酸架橋澱粉、アセチル化燐酸架橋澱粉、アセチル化酸化澱粉、オクテニルコハク酸澱粉ナトリウム、酢酸澱粉、酸化澱粉)、コーンスターチ、アラビアガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、ポリデキストロース、ペクチン、キチン、水溶性キチン、キトサン、カゼイン、アルブミン、大豆蛋白溶解物、ペプトン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸ソーダ、ポリビニルピロリドン、ポリ酢酸ビニル、ポリアミノ酸、ポリ乳酸、ポリリンゴ酸、ポリグリセリン、ラテックス、ロジン系サイズ剤、石油樹脂系サイズ剤、尿素樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミド・ポリアミン樹脂、ポリエチレンイミン、ポリアミン、植物ガム、ポリエチレンオキサイド、親水性架橋ポリマー、ポリアクリル酸塩、でんぷんポリアクリル酸共重合体、タマリンドガム、グァーガム及びコロイダルシリカ並びにそれら1つ以上の混合物が挙げられる。この中でも、セルロース誘導体は、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーとの親和性の点から好ましく、カルボキシメチルセルロース及びその塩は特に好ましい。カルボキシメチルセルロース及びその塩のような水溶性高分子は、カルボキシメチル化セルロースナノファイバー同士の間に入りこみ、ナノファイバー間の距離を広げることで、再分散性を向上させると考えられる。
【0056】
水溶性高分子として、カルボキシメチルセルロース又はその塩を用いる場合には、無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル基置換度が0.55~1.6のカルボキシメチルセルロースを用いることが好ましく、0.55~1.1のものがより好ましく、0.65~1.1のものがさらに好ましい。また、分子が長い(粘度が高い)ものの方が、ナノファイバー間の距離を広げる効果が高いので好ましい。また、カルボキシメチルセルロースの1質量%水溶液における25℃、60rpmでのB型粘度は、3mPa・s~14000mPa・sが好ましく、7mPa・s~14000mPa・sがより好ましく、1000mPa・s~8000mPa・sがさらに好ましい。なお、ここでいう水溶性高分子としての「カルボキシメチルセルロース又はその塩」とは、水に完全に溶解するものであることから、上述の水中で繊維形状を確認することができるカルボキシメチル化セルロースナノファイバーとは区別される。
【0057】
水溶性高分子の配合量は、カルボキシメチル化セルロースナノファイバー(絶乾固形分)と水溶性高分子の合計100質量%に対して、5質量%~300質量%であることが好ましく、20質量%~300質量%がさらに好ましく、25質量%~200質量%がさらに好ましく、25質量%~60質量%がさらに好ましい。水溶性高分子を5質量%以上配合すると再分散性の向上効果が得られるようになる。一方、水溶性高分子の配合量が300質量%を超えるとカルボキシメチル化セルロースナノファイバーの特徴であるチキソトロピー性などの粘度特性や、分散安定性の低下などの問題が生じることがある。水溶性高分子の配合量が、25質量%以上であると、特に優れた再分散性を得ることができるので好ましい。また、チキソトロピー性を考慮すると200質量%以下であることが好ましく、60質量%以下が特に好ましい。
【0058】
(乾燥)
カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの分散体、または、場合により水溶性高分子を混合したカルボキシメチル化セルロースナノファイバーの分散体を乾燥(分散媒の除去)させることで、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーを含む乾燥固形物を得る。この際、分散体のpHを9~11に調整した後に、乾燥させると、再分散性がさらに良好となるので好ましい。
【0059】
乾燥方法としては、公知のものを用いることができ、特に限定されない。例えば、スプレードライ、圧搾、風乾、熱風乾燥、及び真空乾燥を挙げることができる。乾燥装置は、特に限定されないが、連続式のトンネル乾燥装置、バンド乾燥装置、縦型乾燥装置、垂直ターボ乾燥装置、多重段円板乾燥装置、通気乾燥装置、回転乾燥装置、気流乾燥装置、スプレードライヤ乾燥装置、噴霧乾燥装置、円筒乾燥装置、ドラム乾燥装置、ベルト乾燥装置、スクリューコンベア乾燥装置、加熱管付回転乾燥装置、振動輸送乾燥装置、回分式の箱型乾燥装置、通気乾燥装置、真空箱型乾燥装置、及び撹拌乾燥装置等を単独で又は2つ以上組み合わせて用いることができる。
【0060】
これらの中でも、薄膜を形成させて乾燥を行う装置を用いることが、均一に被乾燥物に熱エネルギーを直接供給でき、乾燥処理をより効率的に、短時間で行うことができるためエネルギー効率の点から好ましい。また、薄膜を形成させて乾燥を行う装置は、薄膜を掻き取る等の簡便な手段で直ちに乾燥物を回収できる点からも好ましい。さらに、薄膜を形成させてから乾燥させた場合には、再分散性がさらに向上することも見出された。薄膜を形成させて乾燥を行う装置としては、例えば、ドラムやベルトにブレードやダイ等により薄膜を形成させて乾燥させるドラム乾燥装置やベルト乾燥装置が挙げられる。薄膜を形成させて乾燥させる際の薄膜の膜厚としては、50μm~1000μmが好ましく、100μm~300μmがさらに好ましい。50μm以上であると、乾燥後の掻き取りが容易であり、また、1000μm以下であると再分散性のさらなる向上効果がみられる。
【0061】
乾燥後の残留水分量は、乾燥物全体に対して2質量%~15質量%が好ましい。
【0062】
(粉砕)
粉砕方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができ、粉体の状態で処理する乾式粉砕法と、液体に分散あるいは溶解させた状態で処理する湿式粉砕法を例示することができる。湿式粉砕を行う場合には、上記の乾燥の前に行ってもよい。
【0063】
乾式粉砕法で用いる装置としては、これらに限定されないが、カッティング式ミル、衝撃式ミル、気流式ミル、媒体ミルを例示することができる。これらは単独あるいは併用して、さらには同機種で数段処理することができる。これらの中で、気流式ミルは好ましい。カッティング式ミルとしては、メッシュミル((株)ホーライ製)、アトムズ((株)山本百馬製作所製)、ナイフミル(パルマン社製)、グラニュレータ(ヘルボルト製)、ロータリーカッターミル((株)奈良機械製作所製)、等が例示される。衝撃式ミルとしては、パルペライザ(ホソカワミクロン(株)製)、ファインイパクトミル(ホソカワミクロン(株)製)、スーパーミクロンミル(ホソカワミクロン(株)製)、サンプルミル((株)セイシン製)、バンタムミル((株)セイシン製)、アトマイザー((株)セイシン製)、トルネードミル(日機装(株))、ターボミル(ターボ工業(株))、ベベルインパクター(相川鉄工(株))等が例示される。気流式ミルとしては、CGS型ジェットミル(三井鉱山(株)製)、ジェットミル(三庄インダストリー(株)製)、エバラジェットマイクロナイザ((株)荏原製作所製)、セレンミラー(増幸産業(株)製)、超音速ジェットミル(日本ニューマチック工業(株)製)等が例示される。媒体ミルとしては、振動ボールミル等が例示される。湿式粉砕法で用いる装置としては、マスコロイダー(増幸産業(株)製)、高圧ホモジナイザー(三丸機械工業(株)製)、媒体ミルが例示される。媒体ミルとしては、ビーズミル(アイメックス(株)製)等を例示することができる。
【0064】
(分級)
カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの粉砕後に、分級を行い、特定の粒度となるように調整する。分級の方法は特に限定されないが、例えば、所定の目開きを有するメッシュ(篩)を通過させることにより行うことができる。メッシュとしては、好ましくは20~400メッシュ、さらに好ましくは40~300メッシュ、さらに好ましくは60~200メッシュを用いることができ、これらを多段式で使用してもよい。最終的に得られる粉末のメディアン径を、10.0μm~150.0μm、好ましくは、30.0μm~130.0μm、さらに好ましくは50.0μm~120.0μmとする。
【実施例0065】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、「部」は、特に断りがない場合、「質量部」を表す。
【0066】
(製造例1 カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの製造)
回転数を100rpmに調節した5L容の二軸ニーダーに、イソプロパノール(IPA)1089部と、水酸化ナトリウム31部を水121部に溶解したものとを加え、広葉樹パルプ(日本製紙(株)製、LBKP)を100℃で60分間乾燥した際の乾燥質量で200部仕込んだ。30℃で60分間撹拌、混合しマーセル化セルロースを調製した。更に撹拌しつつモノクロロ酢酸ナトリウム117部を添加し、30℃で30分間撹拌した後、30分かけて70℃に昇温し、70℃で60分間カルボキシメチル化反応をさせた。マーセル化反応時及びカルボキシメチル化反応時の反応媒中の水の割合は、10質量%である。反応終了後、中和し、65%含水メタノールで洗浄し、脱液、乾燥、粉砕して、カルボキシメチル置換度0.27、セルロースI型の結晶化度64%のカルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩を得た。なお、実施例におけるカルボキシメチル置換度及びセルロースI型の結晶化度の測定方法は、先述の通りである。
【0067】
得られたカルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩を水に分散し、1.00%(w/v)水分散体とした。これを、150MPaの高圧ホモジナイザーで3回処理し、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの分散体を得た。得られたカルボキシメチル化セルロースナノファイバーは、平均繊維径が3.2nm、アスペクト比が40であった。実施例における平均繊維径、アスペクト比の測定方法も、先述の通りである。
【0068】
(CNF粉体1の製造)
得られたカルボキシメチル化セルロースナノファイバーを水で固形分0.7質量%の分散体とし、カルボキシメチルセルロース(日本製紙(株)製、商品名:F350HC-4、粘度(1質量%、25℃、60rpm)約3000mPa・s、カルボキシメチル置換度約0.90)(CMC)を、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの固形分を70質量部としたときにカルボキシメチルセルロースの固形分が30質量部となるように添加し、TKホモミキサー(12,000rpm)で60分間撹拌した。
【0069】
この分散体に、水酸化ナトリウム水溶液0.5質量%を加え、pHを9に調整した後、ドラム乾燥機D0405(カツラギ工業社製)のドラム表面に塗布し、140℃で1分間乾燥した。得られた乾燥物を掻き取り、次いで、衝撃式ミルを用いて乾燥物を粉砕し、水分量5質量%の乾燥粉砕物を得た。得られた粉砕物を、30メッシュのふるいを用いて分級し、カルボキシメチル化セルロースナノファイバー(CM化CNF)及びカルボキシメチルセルロース(CMC)を含む粉体(CNF粉体1)を得た。
【0070】
(製造例2 酸化セルロースナノファイバーの製造)
針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(白色度85%)500g(絶乾)を、TEMPO(Sigma Aldrich社)1.95gと臭化ナトリウム51.4gとを溶解した水溶液500mlに加え、パルプが均一に分散されるまで撹拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を6.0mmol/gになるように添加し、酸化反応を開始した。反応中は系内のpHが低下するが、3M水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。次亜塩素酸ナトリウムを消費し、系内のpHが変化しなくなった時点で反応を終了した。反応後の混合物をガラスフィルターで濾過してパルプ分離し、パルプを十分に水洗することで、酸化されたパルプを得た。この時のパルプ収率は90%であり、酸化反応に要した時間は90分であった。
【0071】
上記の工程で得られた酸化パルプを、濃度1.00%(w/v)に調整し、製造例1と同様の条件で解繊処理を行い、酸化CNFの分散液を得た。得られた酸化CNFのカルボキシル基量は、1.41mmol/g、セルロースI型の結晶化度64%、平均繊維径は3.1nm、アスペクト比220であった。実施例におけるカルボキシル基量の測定方法も、先述の通りである。
【0072】
(製造例3 酸化セルロースナノファイバーの製造)
製造例2で得られた酸化パルプを濃度1.00%(w/v)に調整し、7MPaのキャビテーション噴流装置で10回処理し、酸化CNFの分散液を得た。得られた酸化CNFのカルボキシル基量は、1.41mmol/g、セルロースI型の結晶化度64%、平均繊維径は15nm、アスペクト比262であった。
【0073】
(実施例1)
<施肥液の調製>
製造例1で得たCNF粉体1を用いて、固形分濃度3.00%(w/v)のCM化CNF水分散液50gを作製した。水道水で500倍に希釈した液体肥料(株式会社ハイポネックスジャパン製、HYPONeX(登録商標))400mLに、前記3.00%(w/v)濃度のCM化CNF水分散液を全量加え、ホモディスパー(商品名「高速分散機ホモディスパー」、PRIMIX社製)を用いて1000rpmで1分間攪拌混合し、CM化CNF混合施肥液を得た。
【0074】
<土壌への施肥>
直径21cmの7号サイズのプランターに川砂(刀川平和農園社製)を2kg入れ、コマツナの種を16粒播種した。その後、上記CM化CNF混合施肥液を全量与えた。ラディッシュの種についても同様に播種した。
【0075】
<栽培条件>
上記方法にて静岡県富士市において11月15日に播種した植物を、播種後1週間水を与えずに室外にて常温で栽培した。コマツナとラディッシュとそれぞれについて、同じ条件で試験をした。
【0076】
(実施例2)
土壌への施肥方法として、実施例1で調製したCM化CNFの固形分濃度3.00%(w/v)のCM化CNF水分散液50gを、前記川砂2kgとよく混合してから播種し、その後、500倍希釈の液体肥料400mL液体肥料を施肥したこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0077】
(実施例3)
土壌への施肥方法として、実施例1のCM化CNFの固形分濃度3.00%(w/v)の水分散液の代わりに、製造例1で得たCNF粉体1 1.5gを、川砂に配合してよく混合した後に播種し、その後、500倍希釈の液体肥料400mLを施肥したこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0078】
(実施例4)
製造例2で得た1.00%(w/v)酸化CNF分散体150gを、水道水で375倍に希釈した液体肥料(株式会社ハイポネックスジャパン製、HYPONeX(登録商標))300mLに全量加え、ホモディスパー(商品名「高速分散機ホモディスパー」、PRIMIX社製)を用いて1000rpmで1分間攪拌混合し、酸化CNF混合施肥液を得た。この酸化CNF水分散液をCM化CNF水分散液の代わりに用いたこと以外は実施例1と同様に実施した。
【0079】
(実施例5)
土壌への施肥方法として、製造例2で調製した1.00%(w/v)酸化CNF分散体150gを、前記川砂2kgとよく混合してから播種し、その後、375倍希釈の液体肥料300mLを施肥したこと以外は、実施例2と同様に実施した。
【0080】
(実施例6)
製造例3で得た1.00%(w/v)酸化CNF分散体150gを、水道水で375倍に希釈した液体肥料(株式会社ハイポネックスジャパン製、HYPONeX(登録商標))300mLに全量加え、ホモディスパー(商品名「高速分散機ホモディスパー」、PRIMIX社製)を用いて1000rpmで1分間攪拌混合し、酸化CNF混合施肥液を得た。この酸化CNF水分散液をCM化CNF水分散液の代わりに用いたこと以外は実施例1と同様に実施した。
【0081】
(比較例1)
CNF混合施肥液を土壌に添加せず、同量の水を添加したこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0082】
(比較例2)
CNF水分散液の代わりに同量の水を、同量の希釈済み液体肥料に添加して、CNF無配合の施肥液を調製し、これを用いたこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0083】
<評価方法>
(植物の生育状態)
1週間後の各植物の生育状態を下記評価基準で評価した。
・評価基準
〇:播種したうち50%以上の種子が発芽し、生長が良好である
△:播種したうち10%以上50%未満の種子が発芽し、生長している
×:発芽が見られないか、発芽した種子は播種したうち10%未満である
【0084】
(土壌の保水性)
前記川砂を乾燥機で一晩乾燥させた絶乾土壌300gを用いて、実施例1~6,比較例1~2の方法でそれぞれ土壌を調製した。直径約1cmの穴が5箇所開いた500mL容積のプラスチック容器の底にキムワイプ(日本製紙クレシア製)を敷き入れ、その上から調製後の各土壌を入れた。その後、容器上部から水200gを添加し、室温で4週間静置した。4週間後の各重量から絶乾土壌重量300gを引いた値を保持水分量として評価を行った。
【0085】
【0086】
表1から分かるように、肥料とセルロースナノファイバーを土壌に添加した実施例1~6は、セルロースナノファイバーを添加しなかった比較例に対して良好な生育状態を示し、土壌の保水性にも優れるものであった。