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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178985
(43)【公開日】2023-12-19
(54)【発明の名称】インバータの制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20231212BHJP
【FI】
H02M7/48 F
H02M7/48 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022091942
(22)【出願日】2022-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】小熊 功太
(72)【発明者】
【氏名】濱田 鎮教
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770DA01
5H770DA03
5H770DA41
5H770EA02
5H770LB02
(57)【要約】
【課題】PWM制御を適用したインバータの制御装置において、デッドタイムの影響が顕著に発生する過変調領域近辺における電圧誤差を改善する。
【解決手段】デッドタイム補償部3はPWM電圧指令に対してデッドタイム補償を行いデッドタイム補償後PWM電圧指令として出力する。電圧指令補正処理部4はデッドタイム補償後PWM電圧指令を電流極性およびデッドタイム長に基づいて補正し補正後PWM電圧指令として出力する。キャリア比較部1は補正後PWM電圧指令と三角波キャリアとの比較結果に基づいてゲート指令を出力する。デッドタイム挿入部2はゲート指令にデッドタイムを挿入してゲート信号を出力する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直列接続された2つのスイッチング素子を備えたインバータの制御装置であって、
PWM電圧指令に対してデッドタイム補償を行い、デッドタイム補償後PWM電圧指令として出力するデッドタイム補償部と、
前記デッドタイム補償後PWM電圧指令を電流極性およびデッドタイム長に基づいて補正し、補正後PWM電圧指令として出力する電圧指令補正処理部と、
前記補正後PWM電圧指令と三角波キャリアとの比較結果に基づいてゲート指令を出力するキャリア比較部と、
前記ゲート指令にデッドタイムを挿入してゲート信号を出力するデッドタイム挿入部と、を備え、
前記電圧指令補正処理部は、
インバータ出力電圧周期を基準周期として前記基準周期のN倍の周期を補正周期と定め、
補正周期中の基準周期1~N周期目は、
0≦前記デッドタイム補償後PWM電圧指令≦2D、かつ、電流が流入方向の場合、(1)式に従って前記補正後PWM電圧指令を生成し、
1-2D≦前記デッドタイム補償後PWM電圧指令≦1、かつ、電流が流出方向の場合、(2)式に従って前記補正後PWM電圧指令を生成し、
上記以外の条件時には、前記補正後PWM電圧指令=前記デッドタイム補償後PWM電圧指令とすることを特徴とするインバータの制御装置。
【数1】

【数2】

D:キャリア周期に対するデッドタイム期間の比率
N:自然数
M:1≦M≦Nの自然数
【請求項2】
直列接続された2つのスイッチング素子を備えたインバータの制御装置であって、
PWM電圧指令に対してデッドタイム補償を行い、デッドタイム補償後PWM電圧指令として出力するデッドタイム補償部と、
前記デッドタイム補償後PWM電圧指令を電流極性およびデッドタイム長に基づいて補正し、補正後PWM電圧指令として出力する電圧指令補正処理部と、
前記補正後PWM電圧指令と三角波キャリアとの比較結果に基づいてゲート指令を出力するキャリア比較部と、
前記ゲート指令にデッドタイムを挿入してゲート信号を出力するデッドタイム挿入部と、を備え、
前記電圧指令補正処理部は、
三角波キャリア周期を基準周期として前記基準周期のN倍の周期を補正周期と定め、
補正周期中の基準周期1~N周期目は、
0≦前記デッドタイム補償後PWM電圧指令≦2D、かつ、電流が流入方向の場合、(1)式に従って前記補正後PWM電圧指令を生成し、
1-2D≦前記デッドタイム補償後PWM電圧指令≦1、かつ、電流が流出方向の場合、(2)式に従って前記補正後PWM電圧指令を生成し、
上記以外の条件時には、前記補正後PWM電圧指令=前記デッドタイム補償後PWM電圧指令とすることを特徴とするインバータの制御装置。
【数1】

【数2】

D:キャリア周期に対するデッドタイム期間の比率
N:自然数
M:1≦M≦Nの自然数
【請求項3】
前記電圧指令補正処理部は、
0≦デッドタイム補償後電圧指令≦2D、かつ、電流が流入方向の場合、前記補正後PWM電圧指令の最小値を0、最大値を2Dにリミットし、
1-2D≦デッドタイム補償後電圧指令≦1、かつ、電流が流出方向の場合、前記補正後PWM電圧指令の最小値を1-2D、最大値を1にリミットすることを特徴とする請求項1または2記載のインバータの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PWM(パルス幅変調)制御を適用した電力変換装置の出力電圧制御精度向上に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な2レベルインバータを例に、従来技術について解説する。図3に2レベルインバータの一相分の回路図を示す。インバータは直列接続された2つのスイッチング素子を備え、正側を上アーム、負側を下アームと呼ぶ。上下アームの中点は負荷に接続され、電圧・電流を出力する。電流極性は、図3に示すように上下アームの中点から流出する方向を流出方向、上下アームの中点に流入する方向を流入方向と呼称する。
【0003】
図4に、後述のデッドタイム補償を適用しない場合のゲート指令生成のための制御装置を示す。キャリア比較部1では、三角波キャリアとPWM電圧指令との比較によるPWM制御を行うことでパルス電圧指令を生成し、この電圧を出力するようゲート指令を生成する。
【0004】
デッドタイム挿入部2は、ゲート指令の生成段階において上下アームがともにオン状態となり短絡することを防ぐためにデッドタイムを挿入する。デッドタイム期間中は、上下アームともゲートオフ状態のため、電流極性に応じてスイッチング素子の還流ダイオードがオンする。その結果、図5および図6のように出力電圧はパルス電圧指令と不一致になる領域がある。図5はデッドタイム補償を適用しない場合の各波形のタイムチャート、図6はデッドタイム補償を適用しない場合のPWM電圧指令と出力電圧dutyの関係を示す。
【0005】
上記のパルス電圧指令と出力電圧との不一致を解消するために、PWM電圧指令を補正する制御であるデッドタイム補償を用いる。図7に、デッドタイム補償を適用した場合のゲート指令生成のための制御装置を示す。一般的には、デッドタイム補償部3では電流極性に応じて補償量を決定し、デッドタイム補償後PWM電圧指令を出力する。
【0006】
デッドタイム補償では、三角波比較前のPWM電圧指令を補償することで、パルス電圧指令と出力電圧を一致させる。図8はデッドタイム補償を適用した場合の各波形のタイムチャート、図9はデッドタイム補償を適用した場合のPWM電圧指令と出力電圧dutyの関係を示す。
【0007】
ここで、デッドタイム補償後PWM電圧指令が0または1付近の場合を考える。キャリア周期に対するデッドタイム期間の比率をDとする。例えば、キャリア周期100usでデッドタイム期間が10usの場合、D=10us/100us=0.1となる。デッドタイム補償後PWM電圧指令が2Dから1-2Dの区間であれば、デッドタイム補償により出力電圧をパルス電圧指令に一致させることができる。一方、デッドタイム補償後のPWM電圧指令が0から2Dまたは1-2Dから1までの場合、デッドタイムの影響により図9のように、PWM電圧指令値に対して出力電圧が一致しない。
【0008】
上記の電圧誤差の解決方法として、同期PWM制御においてインバータ出力周期に対するパルス数を減らしてデッドタイムの影響を減らす方法が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2020-137234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1の方法は同期PWM制御に適用でき、周波数が一定である系統連系用途や速度を大まかに制御できればいい可変速駆動に適用できる。一方、シームレスな可変速駆動には非同期PWM制御が必要となる。また、同期PWMを適用する場合、キャリア周波数はインバータ出力周波数に依存し、サンプリングタイミングやキャリア周期に依存した制御(フィルタ処理やPI制御)などに課題が生じる。
【0011】
以上示したようなことから、PWM制御を適用したインバータの制御装置において、デッドタイムの影響が顕著に発生する過変調領域近辺における電圧誤差を改善することが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、前記従来の問題に鑑み、案出されたもので、その一態様は、直列接続された2つのスイッチング素子を備えたインバータの制御装置であって、PWM電圧指令に対してデッドタイム補償を行い、デッドタイム補償後PWM電圧指令として出力するデッドタイム補償部と、前記デッドタイム補償後PWM電圧指令を電流極性およびデッドタイム長に基づいて補正し、補正後PWM電圧指令として出力する電圧指令補正処理部と、前記補正後PWM電圧指令と三角波キャリアとの比較結果に基づいてゲート指令を出力するキャリア比較部と、前記ゲート指令にデッドタイムを挿入してゲート信号を出力するデッドタイム挿入部と、を備え、前記電圧指令補正処理部は、インバータ出力電圧周期を基準周期として前記基準周期のN倍の周期を補正周期と定め、補正周期中の基準周期1~N周期目は、0≦前記デッドタイム補償後PWM電圧指令≦2D、かつ、電流が流入方向の場合、(1)式に従って前記補正後PWM電圧指令を生成し、1-2D≦前記デッドタイム補償後PWM電圧指令≦1、かつ、電流が流出方向の場合、(2)式に従って前記補正後PWM電圧指令を生成し、上記以外の条件時には、前記補正後PWM電圧指令=前記デッドタイム補償後PWM電圧指令とすることを特徴とする。
【0013】
【数1】
【0014】
【数2】
【0015】
D:キャリア周期に対するデッドタイム期間の比率
N:自然数
M:1≦M≦Nの自然数。
【0016】
また、他の態様として、直列接続された2つのスイッチング素子を備えたインバータの制御装置であって、PWM電圧指令に対してデッドタイム補償を行い、デッドタイム補償後PWM電圧指令として出力するデッドタイム補償部と、前記デッドタイム補償後PWM電圧指令を電流極性およびデッドタイム長に基づいて補正し、補正後PWM電圧指令として出力する電圧指令補正処理部と、前記補正後PWM電圧指令と三角波キャリアとの比較結果に基づいてゲート指令を出力するキャリア比較部と、前記ゲート指令にデッドタイムを挿入してゲート信号を出力するデッドタイム挿入部と、を備え、前記電圧指令補正処理部は、三角波キャリア周期を基準周期として前記基準周期のN倍の周期を補正周期と定め、補正周期中の基準周期1~N周期目は、0≦前記デッドタイム補償後PWM電圧指令≦2D、かつ、電流が流入方向の場合、(1)式に従って前記補正後PWM電圧指令を生成し、1-2D≦前記デッドタイム補償後PWM電圧指令≦1、かつ、電流が流出方向の場合、(2)式に従って前記補正後PWM電圧指令を生成し、上記以外の条件時には、前記補正後PWM電圧指令=前記デッドタイム補償後PWM電圧指令とすることを特徴とする。
【0017】
【数1】
【0018】
【数2】
【0019】
D:キャリア周期に対するデッドタイム期間の比率
N:自然数
M:1≦M≦Nの自然数。
【0020】
また、その一態様として、前記電圧指令補正処理部は、0≦デッドタイム補償後電圧指令≦2D、かつ、電流が流入方向の場合、前記補正後PWM電圧指令の最小値を0、最大値を2Dにリミットし、1-2D≦デッドタイム補償後電圧指令≦1、かつ、電流が流出方向の場合、前記補正後PWM電圧指令の最小値を1-2D、最大値を1にリミットすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、PWM制御を適用したインバータの制御装置において、デッドタイムの影響が顕著に発生する過変調領域近辺における電圧誤差を改善することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施形態1,2におけるインバータの制御装置を示すブロック図。
図2】実施形態1の場合のPWM電圧指令と出力電圧dutyの関係を示す図。
図3】インバータの一相分を示す回路図。
図4】デッドタイム補償を適用しない場合のインバータの制御装置を示すブロック図。
図5】デッドタイム補償を適用しない場合のPWM制御の概要を示す図(電流流出の場合)。
図6】デッドタイム補償を適用しない場合のPWM電圧指令と出力電圧dutyの関係を示す図。
図7】一般的なデッドタイム補償を適用した場合のインバータの制御装置を示すブロック図。
図8】デッドタイム補償を適用した場合のPWM制御の概要を示す図(電流流出の場合)。
図9】デッドタイム補償を適用した場合のPWM電圧指令と出力電圧dutyの関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本願発明におけるインバータの制御装置の実施形態1,2を図1図3に基づいて詳述する。
【0024】
[実施形態1]
本実施形態1は、図3に示すような直列接続された2つのスイッチング素子を備えたインバータの主回路に適用する。図3ではインバータ一相分を示しているが、複数相の回路にも適用可能である。また、本実施形態1で説明する技術は、同期PWMおよび非同期PWMに適用可能であり、前述の2レベルインバータに限定されない。すなわち、直列接続された2つのスイッチング素子を備えたインバータであれば適用可能である。
【0025】
図1に、本実施形態1における電圧指令補正処理を適用した場合のインバータの制御装置(ゲート指令生成手法)を示す。図7に示す一般的なデッドタイム補償を適用した場合のゲート指令生成手法と比較し、デッドタイム補償部3の出力部に電圧指令補正処理部4を追加している。
【0026】
デッドタイム補償部3は、PWM電圧指令に対してデッドタイム補償を行い、デッドタイム補償後PWM電圧指令として出力する。電圧指令補正処理部4は、デッドタイム補償後PWM電圧指令を電流極性およびデッドタイム長に基づいて補正し、補正後PWM電圧指令として出力する。キャリア比較部1は、補正後PWM電圧指令と三角波キャリアとの比較によるPWM制御に基づいてゲート指令を出力する。デッドタイム挿入部2は、ゲート指令にデッドタイムを挿入してゲート信号を出力する。
【0027】
電圧指令補正処理部4では、電流極性、デッドタイム長に応じてデッドタイム補償後PWM電圧指令に対して補正を行うことで、デッドタイム補償後PWM電圧指令が0から2Dまたは1-2Dから1までの場合であっても、後述の基準周期のN倍周期平均で出力電圧をPWM電圧指令値と一致させることできる(Nは自然数)。
【0028】
上記構成は、インバータ出力電圧が交流の場合と直流の場合の両方に適用可能である。本実施形態1ではインバータ出力電圧が交流の場合について説明し、後述する実施形態2ではインバータ出力電圧が直流の場合について説明する。
【0029】
インバータ出力電圧が交流の場合、デッドタイムにより出力電圧に与える影響もインバータ出力である交流電圧周期で生じる。本実施形態1では、上記交流電圧周期を基準周期として、そのN倍(Nは自然数)の周期で平均的にデッドタイムの影響を打ち消し、平均出力電圧をPWM電圧指令に一致させる。
【0030】
以降では、基準周期のN倍周期を補正周期と呼称し、補正周期中の基準周期1周期目からN周期目までのPWM電圧指令の補正を下記に示す。なお、補正前のPWM電圧指令は三角波キャリアの山谷で更新、補正タイミングはPWM電圧指令が三角波キャリアと交差するタイミングとしている。
【0031】
[1.交流電圧周期で「0≦デッドタイム補償後PWM電圧指令≦2D、かつ、電流が流入方向」を満たす場合]
基準周期M周期目(M:1≦M≦Nの自然数)
【0032】
【数1】
【0033】
なお、(1)式のDはキャリア周期に対するデッドタイム期間の比率を示す。
【0034】
(1)式を基準周期1~N周期目で展開すると、下記となる。
【0035】
基準周期1周期目:補正後PWM電圧指令=デッドタイム補償後PWM電圧指令+D/N×0
基準周期2周期目:補正後PWM電圧指令=デッドタイム補償後PWM電圧指令+D/N×1
基準周期N周期目:補正後PWM電圧指令=デッドタイム補償後PWM電圧指令+D/N×(N-1)
なお、基準周期のカウントは交流電圧周期単位で最大1カウントだけカウントアップする。交流電圧周期1周期中に「0≦デッドタイム補償後PWM電圧指令≦2D、かつ、電流が流入方向」の条件を満たした最初のタイミングでカウントアップを行い、交流電圧周期1周期中に複数回条件を満たす場合であってもカウントアップは1度のみとする。また、N+1周期目はカウントを1に戻し、1周期目からカウントを再開する。
【0036】
例えば、N=5の場合、補正後PWM電圧指令は表1のようになる。
【0037】
【表1】
【0038】
電圧指令補正処理部4は、補正後PWM電圧指令の最小値を0、最大値を2Dにリミットする。0≦補正後PWM電圧指令<Dの場合、固定のデッドタイム期間の影響により、図9(b)のようにPWM電圧指令に依らずPWM電圧指令=0の場合と同出力電圧となる。同様に、D≦補正後PWM電圧指令<2Dの場合、PWM電圧指令に依らずPWM電圧指令=Dの場合と同出力電圧となる。補正後PWM電圧指令=2Dの場合、PWM電圧指令通りの出力電圧が出力可能である。以上を考慮すると、表2のようにN=5周期でのPWM電圧指令値平均が補正前のPWM電圧指令値に一致する。
【0039】
表2は表1にリミットおよびデッドタイムを考慮した際の出力電圧を示す。
【0040】
【表2】
【0041】
[2.交流電圧周期で「1-2D≦デッドタイム補償後PWM電圧指令≦1、かつ、電流が流出方向」を満たす場合]
基準周期M周期目(M:1≦M≦Nの自然数)
【0042】
【数2】
【0043】
なお、(2)式のDはキャリア周期に対するデッドタイム期間の比率を示す。
【0044】
(2)式を基準周期1~N周期目で展開すると、下記となる。
【0045】
基準周期1周期目:補正後PWM電圧指令=デッドタイム補償後PWM電圧指令-D×(N-1)/N+D/N*0
基準周期2周期目:補正後PWM電圧指令=デッドタイム補償後PWM電圧指令-D×(N-1)/N+D/N*1
基準周期N周期目:補正後PWM電圧指令=デッドタイム補償後PWM電圧指令-D×(N-1)/N+D/N*(N-1)
なお、基準周期のカウントは交流電圧周期単位で最大1カウントだけカウントアップする。交流電圧周期1周期中に「1-2D≦デッドタイム補償後PWM電圧指令≦1、かつ、電流が流出方向」の条件を満たした最初のタイミングでカウントアップを行い、交流電圧周期1周期中に複数回条件を満たす場合であってもカウントアップは1度のみとする。また、N+1周期目はカウントを1に戻し、1周期目からカウントを再開する。
【0046】
例えば、N=5の場合、補正後PWM電圧指令は表3のようになる。
【0047】
【表3】
【0048】
電圧指令補正処理部4は、補正後PWM電圧指令の最小値を1-2D、最大値を1にリミットする。1-D<補正後PWM電圧指令≦1の場合、固定のデッドタイム期間の影響により、図9(a)のようにPWM電圧指令に依らずPWM電圧指令=1の場合と同出力電圧となる。同様に、1-2D<補正後PWM電圧指令≦1-Dの場合、PWM電圧指令に依らずPWM電圧指令=1-Dの場合と同出力電圧となる。補正後PWM電圧指令=1-2Dの場合、PWM電圧指令通りの出力電圧が出力可能である。以上を考慮すると、表4のようにN=5周期でのPWM電圧指令値平均が補正前のPWM電圧指令値に一致する。
【0049】
表4は表3にリミットおよびデッドタイムを考慮した際の出力電圧を示す。
【0050】
【表4】
【0051】
上記2つの条件での処理は独立しており、交流電圧周期1周期中に片方だけもしくは両方とも適用することができる。すなわち、インバータ各相のPWM電圧指令に対して、上記[1.交流電圧周期で「0≦デッドタイム補償後PWM電圧指令≦2D、かつ、電流が流入方向」を満たす場合]および[2.交流電圧周期で「1-2D≦デッドタイム補償後PWM電圧指令≦1、かつ、電流が流出方向」を満たす場合]の2つの処理をそれぞれ適用することで、基準周期である交流電圧周期のN倍周期(補正周期)平均で、図2のように出力電圧をPWM電圧指令に一致させることができる。
【0052】
[効果]
一般的に、デッドタイムの影響により、図9のようにデッドタイム補償後もPWM電圧指令の変化に対して出力電圧が不連続に変化する領域があり、出力電圧をPWM電圧指令に一致させることができない場合がある。
【0053】
図1に示す構成により本実施形態1を適用することで、デッドタイムの影響が顕著に発生する過変調領域近辺の上記不連続変化領域においても図2に示すように、基準周期のN倍周期(Nは自然数)平均での出力電圧をPWM電圧指令に一致させることができ、電圧制御精度を向上することができる。
【0054】
本実施形態1では上記基準周期は交流電圧周期とする。
【0055】
また、特許文献1と比較して本実施形態1が優れている点は、非同期PWM制御にも適用可能なところである。非同期PWM制御では、出力電圧周期ごとにPWM制御出力であるパルス電圧が変動するが、本実施形態1の方式では上記不連続領域の影響発生回数をカウントして補正できる。
【0056】
なお、本実施形態1は、N倍周期(Nは自然数)平均での出力電圧を指令値に一致させることができるが、1周期毎でみると出力電圧は指令値に対して脈動することになる。しかし、電圧制御精度においてこの脈動は大きな問題とはならない。その理由は、脈動周期を任意に設定することで、抑制しなければいけない周波数での脈動を回避することができるためである。
【0057】
[実施形態2]
インバータ出力電圧が直流の場合、デッドタイムにより出力電圧に与える影響はキャリア周期で生じる。本実施形態2では、上記キャリア周期を基準周期として、そのN倍(Nは自然数)の周期で平均的にデッドタイムの影響を打ち消し、平均出力電圧をPWM電圧指令に一致させる。以降では、基準周期のN倍周期を補正周期と呼称し、補正周期中の基準周期1周期目からN周期目までのPWM電圧指令の補正を下記に示す。なお、補正前のPWM電圧指令値は三角波キャリアの山谷で更新、補正タイミングはPWM電圧指令値が三角波キャリアと交差するタイミングとしている。
【0058】
[1.キャリア周期で「0≦デッドタイム補償後PWM電圧指令≦2D、かつ、電流が流入方向」を満たす場合]
実施形態1と同様の処理を行うことで、インバータ出力電圧を基準周期(キャリア周期)のN倍周期(補正周期)の平均でPWM電圧に一致させることができる。なお、周期カウント方法は、次のように置き換える。
【0059】
基準周期のカウントはキャリア周期単位で最大1カウントだけカウントアップする。キャリア周期1周期中に「0≦デッドタイム補償後PWM電圧指令≦2D、かつ、電流が流入方向」の条件を満たした最初のタイミングでカウントアップを行い、キャリア周期1周期中に複数回条件を満たす場合であってもカウントアップは1度のみとする。また、N+1周期目はカウントを1に戻し、1周期目からカウントを再開する。
【0060】
[2.キャリア周期で「1-2D≦デッドタイム補償後PWM電圧指令≦1、かつ、電流が流出方向」を満たす場合]
実施形態1と同様の処理を行うことで、インバータ出力電圧を基準周期(キャリア周期)のN倍周期(補正周期)の平均でPWM電圧に一致させることができる。なお、周期カウント方法は、次のように置き換える。
【0061】
基準周期のカウントはキャリア周期単位で最大1カウントだけカウントアップする。キャリア周期1周期中に「1-2D≦デッドタイム補償後PWM電圧指令≦1、かつ、電流が流出方向」の条件を満たした最初のタイミングでカウントアップを行い、キャリア周期1周期中に複数回条件を満たす場合であってもカウントアップは1度のみとする。また、N+1周期目はカウントを1に戻し、1周期目からカウントを再開する。
【0062】
上記2つの条件での処理は独立しており、キャリア周期1周期中に片方だけもしくは両方とも適用することができる。すなわち、インバータ各相のPWM電圧指令に対して、上記[1.キャリア周期で「0≦デッドタイム補償後PWM電圧指令≦2D、かつ、電流が流入方向」を満たす場合]および[2.キャリア周期で「1-2D≦デッドタイム補償後PWM電圧指令≦1、かつ、電流が流出方向」を満たす場合]の2つの処理をそれぞれ適用することで、基準周期であるキャリア周期のN倍周期(補正周期)平均で、図9のように出力電圧をPWM電圧指令に一致させることができる。
【0063】
以上示したように、本実施形態2はインバータ出力電圧が直流の場合でも、実施形態1と同様の作用効果を奏する。また、前述の特許文献1は、同期PWMを使用するためインバータ出力が交流である必要があるが、本実施形態2で説明したように、交流に限定されず直流であっても適用可能である。
【0064】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変形および修正が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変形および修正が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【符号の説明】
【0065】
1…キャリア比較部
2…デッドタイム挿入部
3…デッドタイム補償部
4…電圧指令補正処理部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9