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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023179000
(43)【公開日】2023-12-19
(54)【発明の名称】ボロメータの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01J 1/02 20060101AFI20231212BHJP
   C01B 32/174 20170101ALI20231212BHJP
【FI】
G01J1/02 C
C01B32/174 ZNM
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022091974
(22)【出願日】2022-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 克博
(72)【発明者】
【氏名】小坂 眞由美
【テーマコード(参考)】
2G065
4G146
【Fターム(参考)】
2G065AA04
2G065AB02
2G065BA12
4G146AA11
4G146AA12
4G146AB06
4G146AB07
4G146AC03B
4G146AD40
4G146CB09
4G146CB10
4G146CB11
4G146CB17
(57)【要約】      (修正有)
【課題】抵抗値が低いボロメータの製造方法を提供する。
【解決手段】(A)基板上に、1つ以上の電極対を形成する工程と、(B)前記基板上の前記電極対間に、中間層を形成する工程と、(C)下記工程(c1)~(c3):(c1)前記電極対間の前記中間層上にカーボンナノチューブ分散液を塗布して静置し、カーボンナノチューブ予備層を形成する工程、(c2)前記カーボンナノチューブ予備層を洗浄溶媒で洗浄する工程、及び(c3)遠心力をかけながら前記洗浄溶媒を乾燥する工程であって、前記電極対の向かい合う第1の電極壁及び第2の電極壁の少なくとも一方に対する相対遠心加速度の垂直成分が50×g~900×gの範囲である工程、を含む、カーボンナノチューブ層を形成する工程と、
を含む、ボロメータの製造方法。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)基板上に、1つ以上の電極対を形成する工程と、
(B)前記基板上の前記電極対間に、中間層を形成する工程と、
(C)下記工程(c1)~(c3):
(c1)前記電極対間の前記中間層上にカーボンナノチューブ分散液を塗布して静置し、カーボンナノチューブ予備層を形成する工程、
(c2)前記カーボンナノチューブ予備層を洗浄溶媒で洗浄する工程、及び
(c3)遠心力をかけながら前記洗浄溶媒を乾燥する工程であって、前記電極対の向かい合う第1の電極壁及び第2の電極壁の少なくとも一方に対する相対遠心加速度の垂直成分が50×g~900×gの範囲である工程、
を含む、カーボンナノチューブ層を形成する工程と、
を含む、ボロメータの製造方法。
【請求項2】
前記洗浄溶媒の乾燥が、前記第1の電極壁に対して垂直成分を持つ向きの遠心力をかけること、及び前記第2の電極壁に対して垂直成分を持つ向きの遠心力をかけることにより行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の電極壁及び/又は第2の電極壁に対する相対遠心加速度の垂直成分(×g)/前記電極対の高さ(nm)が4未満である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記カーボンナノチューブ層を複数層形成する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記中間層を形成する工程が、シランカップリング剤を塗布する工程である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記シランカップリング剤が3-アミノプロピルトリエトキシシランである、請求項5に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブを使用したボロメータの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
赤外線センサーは、内蔵する検出器により、冷却型(量子型)と非冷却型(熱型)に分類される。冷却型赤外線センサーは、冷却装置を必要とするため、装置の小型化が困難であるとともに製造コストも高い。これに対し、非冷却型赤外線センサーは、常温での動作が可能なため、冷却器が不要であり、装置の小型化が容易であるとともに製造コストも低いという利点があり、セキュリティやサーモグラフィといった応用分野での用途拡大が図られている。
【0003】
非冷却型赤外線センサーとしては、ボロメータが広く用いられている。ボロメータを高感度化するためには、ボロメータ材料の抵抗温度係数(TCR)の絶対値を向上し、抵抗値を低減することが必要である。
【0004】
現在、ボロメータの素子材料としては、バナジウム酸化物やアモルファスシリコン等が使用されている。しかしながら、酸化バナジウムはTCRが低いことにより、性能が律速されるという課題がある。またアモルファスシリコンは抵抗値が高く、酸化バナジウムを上回る性能が得られるには至っていない。
【0005】
このような技術的背景の中、TCRの絶対値が高いカーボンナノチューブ(CNT)をボロメータ部分に利用することが検討されている。例えば、特許文献1では、半導体型単層CNTをボロメータ部分に適用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-49207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、カーボンナノチューブを用いた赤外線センサ(CNT非冷却型赤外線センサ)の実用化には、TCR向上以外に低抵抗化等の特性向上も必要である。CNTボロメータの抵抗は、ボロメータ膜のバルク抵抗と、ボロメータ膜と電極の接続抵抗とを加算したものである。従って、CNTボロメータの抵抗値を低減するためには、ボロメータ膜のバルク抵抗を下げることに加えて、電極との接続抵抗を低減することが重要である。
【0008】
本発明は、抵抗値が低いボロメータの製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するため、本発明のボロメータの製造方法は、
(A)基板上に、1つ以上の電極対を形成する工程と、
(B)前記基板上の前記電極対間に、中間層を形成する工程と、
(C)下記工程(c1)~(c3):
(c1)前記電極対間の前記中間層上にカーボンナノチューブ分散液を塗布して静置し、カーボンナノチューブ予備層を形成する工程、
(c2)前記カーボンナノチューブ予備層を洗浄溶媒で洗浄する工程、及び
(c3)遠心力をかけながら前記洗浄溶媒を乾燥する工程であって、前記電極対の向かい合う第1の電極壁及び第2の電極壁の少なくとも一方に対する相対遠心加速度の垂直成分が50×g~900×gの範囲である工程、
を含む、カーボンナノチューブ層を形成する工程と、
を含む、ボロメータの製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本出願に係る発明は、以上説明したとおり、抵抗値が低いボロメータの製造方法を提供することができる。
という効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1の左図は、本発明のボロメータの一実施形態を示す上面図であり、図1の右図は、図1の左図中のI-I’線に沿った断面図である。
図2図2は、本発明のボロメータの製造工程の一実施形態を示す断面図である。
図3図3は、ボロメータセルがアレイ状に並べられたボロメータアレイを示す上面図である。
図4図4は、遠心力に対するボロメータアレイの向きを示す図である。
図5図5は、遠心力に対する電極壁の向きが平行であることを示す図である。
図6図6は、遠心力に対する電極壁の向きが垂直であることを示す図である。
図7図7は、遠心力に対する電極壁の向きが45°であることを示す図である。
図8図8は、遠心力に対する電極壁の向きが垂直2方向であることを示す図である。
図9図9は、特開2018-148138号公報に記載の方法で製造されたボロメータの断面図である。
図10図10は、カーボンナノチューブ膜と電極壁との接合部のSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[ボロメータ]
図1は、後述の製造方法によって製造された本発明のボロメータの一実施形態の構造であり、基板100上に設けられた電極対110と、前記基板100上の前記電極対110間に設けられた中間層120と、前記中間層120上に設けられたカーボンナノチューブ層140とを備えるボロメータである。カーボンナノチューブ層140は、電極対110の間に存在し、且つ電極対の向かい合う側壁と接触することで電気的に接続されている。
【0013】
本発明のボロメータでは、電極対間に形成されたカーボンナノチューブ層は、2つの電極(電極対)にまたがるように形成されておらず、電極対間に設けられているのみなので(図10)、ボロメータの抵抗値を低くするためには、電極対の向かい合う側壁とCNT膜との接触状態が重要である。本発明者は、本発明に従う製造方法によれば、CNT膜が電極壁に良好に接触し、それによって抵抗値が低いボロメータが製造できたと推定している。例えば、本発明のボロメータは、電圧3Vにおける抵抗値が1.0×1010Ω以下、好ましくは1.0×10Ω以下である。
【0014】
[ボロメータの製造方法]
図2に本発明のボロメータの製造工程の一実施形態を示す。
本発明の一実施形態によるボロメータ10の製造方法は、
(A)基板100上に、1つ以上の電極対110を形成する工程と、
(B)前記基板100上の前記電極対110間に、中間層120を形成する工程と、
(C)下記工程(c1)~(c3):
(c1)前記電極対110間の前記中間層120上にカーボンナノチューブ分散液を塗布して静置し、カーボンナノチューブ予備層を形成する工程、
(c2)前記カーボンナノチューブ予備層を洗浄溶媒で洗浄する工程、及び
(c3)遠心力をかけながら前記洗浄溶媒を乾燥する工程であって、前記電極対110の向かい合う第1の電極壁113a及び第2の電極壁113bの少なくとも一方に対する相対遠心加速度の垂直成分が50×g~900×gの範囲である工程、
を含む、カーボンナノチューブ層140を形成する工程と、
を含む、ボロメータの製造方法である。
【0015】
(A)電極対の形成工程
基板100上に互いに間隔をあけて2つの電極(電極対110)を形成する。電極対110の作製方法は特に限定されないが、蒸着、スパッタリング、印刷法、プレス法等で形成することができる。また、フォトマスク、メタルマスク等を用いて所望の形状に形成してもよい。また、予め形成した金属薄膜等を用いてもよい。電極対110は、一対でもよいが、基板上に縦横方向に複数の電極対を並べて形成し、アレイ状としてもよい。
【0016】
基板を構成する材料は、無機材料であっても有機材料であってもよく、当技術分野で使用されるものを特に制限なく使用できる。無機材料としては、限定されるものではないが、例えば、ガラス、Si、SiO、SiN等が挙げられる。有機材料としては、限定されるものではないが、例えば、プラスチック、ゴム等、例えば、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、アクリロニトリルスチレン樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、フッ素樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネート等が挙げられる。基板は、フレキシブル基板及びリジッド基板のいずれであってもよいが、フレキシブル基板であることが好ましい。
【0017】
電極としては、導電性のものであれば限定されるものではないが、例えば、金、白金、チタン等を使用することができる。電極対の高さは、適宜調整できるが、10nm~1mmが好ましく、50nm~1μmがより好ましく、50nm~200nmが特に好ましい。電極対110の間の距離は、1μm~500μmが好ましく、小型化のためには5~200μmがより好ましい。
【0018】
(B)中間層の形成工程
基板100上の電極対110間に、中間層120を形成する。本発明におけるボロメータ10においては、中間層120は、基板100とカーボンナノチューブ層140との結合性を高める機能を有する。中間層は、中間層材料の溶液を、基板上に塗布し、必要により、水洗、乾燥することにより形成することができる。中間層材料の溶液中の塗布は、溶液中に基板を浸漬することで行ってもよいし、基板上に溶液を噴霧してもよい。溶液を塗布する前に、中間層を形成しようとする領域以外の領域を各種マスク材料で保護してもよい。
【0019】
中間層120の材料は、特に限定されないが、基板表面に結合又は付着する部分構造と、カーボンナノチューブに結合又は付着する部分構造との両方を有する化合物であることが好ましい。これにより、中間層は、基板とカーボンナノチューブ層を結合させる仲介役として機能する。ここで、基板と中間層との間の結合、及び中間層とカーボンナノチューブ層との間の結合は、化学結合だけでなく、静電相互作用、表面吸着、疎水性相互作用、ファンデルワールス力、水素結合など、各種分子間相互作用を利用することができる。
【0020】
中間層の材料における基板表面に結合又は付着する部分構造としては、アルコキシシリル基(SiOR)、SiOH、疎水性部分又は疎水性基等が挙げられる。疎水性部分又は疎水性基としては、炭素数が1以上、好ましくは2以上、及び好ましくは20以下、より好ましくは10以下のメチレン基(メチレン鎖)、アルキル基等が挙げられる。
【0021】
中間層の材料におけるカーボンナノチューブ層に結合又は付着する部分構造としては、例えば、第一級アミノ基(-NH)、第二級アミノ基(-NHR)、第三級アミノ基(-NR)等のアミノ基、アンモニウム基(-NH)、イミノ基(=NH)、イミド基(-C(=O)-NH-C(=O)-)、アミド基(-C(=O)NH-)、エポキシ基、イソシアヌレート基、イソシアネート基、ウレイド基、スルフィド基、メルカプト基等が挙げられる。
【0022】
このような中間層の材料としては、例えば、シランカップリング剤が挙げられる。シランカップリング剤は、無機材料に結合又は相互作用する反応基と有機材料に結合又は相互作用する反応基の両方を分子内に有し、有機材料と無機材料とを結合する働きを有する。本実施形態においては、例えば、Si基板等の基板に結合する反応基と、カーボンナノチューブに結合する反応基とを併せ持つシランカップリング剤を用いて、基板上にカーボンナノチューブと結合する反応基を提示する単層の多分子膜を形成することにより、カーボンナノチューブを基板上に固定することができる。
【0023】
シランカップリング剤の例としては、
3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルメチルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルメチルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン等のアミノ基とアルコキシシリル基を有するシランカップリング剤(アミノシラン化合物);
3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルジエトキシシラン、トリエトキシ(3-グリシジルオキシプロピル)シラン等のエポキシ基とアルコキシシリル基を有するシランカップリング剤;
トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート等のイソシアヌレート系シランカップリング剤;
3-ウレイドプロピルトリアルコキシシラン等のウレイド系シランカップリング剤;
3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のメルカプト系シランカップリング剤;
ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド等のスルフィド系シランカップリング剤;及び
3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等のイソシアネート系シランカップリング剤;
等が挙げられる。
【0024】
上述の中間層の材料は、用いる基板の材料を考慮して、適宜選択することができるが、カーボンナノチューブとの結合性が良いことから、アミノ基を有するシランカップリング剤(アミノシラン化合物)が好ましく、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)が特に好ましい。
【0025】
中間層材料の溶液中の中間層材料の濃度は、特に限定されず、用いる化合物に応じて適宜変更してもよいが、例えば、0.001体積%~30体積%が好ましく、0.01体積%~10体積%がより好ましく、0.05体積%~5体積%以下が特に好ましい。また、中間層材料の溶液の溶媒としては、水、あるいは中間層材料を溶解し得、かつ基板に塗布後に容易に除去し得るものであれば特に限定されない。
【0026】
中間層の厚さは、特に限定されるものではないが、均一に付着させるためという観点から、5nm~10μm、好ましくは10nm~1μmとすることができる。
【0027】
(C)カーボンナノチューブ層の形成工程
カーボンナノチューブ分散液を中間層120上に適用後に静置して、カーボンナノチューブ予備層を形成し(c1)、カーボンナノチューブ予備層を溶媒で洗浄し(c2)、前記洗浄溶媒を乾燥する(c3)ことにより、カーボンナノチューブ層140(「カーボンナノチューブ膜」又は「CNT膜」とも記載する)を形成する。
【0028】
カーボンナノチューブ層は、電極間を電気的に接続する導電パスを形成する複数のカーボンナノチューブから構成される、好ましくは均一性の高いネットワーク状の構造を有する。
【0029】
カーボンナノチューブ層の厚みは特に限定されないが、例えば、1nm~100μm、好ましくは10nm~10μm、より好ましくは50nm~10μmの範囲である。カーボンナノチューブ層は、1層であっても複数層であってもよい。本発明のボロメータにおいて、カーボンナノチューブ層は、電極対間に加えて電極上面上に形成されてもよいが、電極上面のカーボンナノチューブ層と電極間のカーボンナノチューブ層は繋がっていないため、電極上面のカーボンナノチューブは、ボロメータ膜の成分として寄与しない。
【0030】
(c1)カーボンナノチューブ予備層の形成工程、
中間層120上にカーボンナノチューブ分散液を滴下し、カーボンナノチューブ分散液の液滴を載せた状態で静置することにより、カーボンナノチューブ予備層を形成する。
【0031】
カーボンナノチューブ分散液に用いるカーボンナノチューブは、不活性雰囲気下、又は真空中において熱処理を行うことで、表面官能基やアモルファスカーボン等の不純物、触媒等を除去してもよい。熱処理温度は、適宜選択できるが、800~2000℃が好ましく、800~1200℃がより好ましい。
【0032】
カーボンナノチューブとしては、単層、二層、及び多層のカーボンナノチューブを用いることができるが、カーボンナノチューブ中、単層カーボンナノチューブが80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上(100質量%を含む)であることがさらに好ましい。
【0033】
カーボンナノチューブの直径は、特に限定されないが、0.6~1.5nmの間が好ましく、0.6nm~1.2nmがより好ましく、0.7~1.1nmがさらに好ましい。0.6nm以上であれば、カーボンナノチューブの製造がより容易であり、1.5nm以下であれば、バンドギャップを適切な範囲に維持し易く、高いTCRを得ることができる。
【0034】
カーボンナノチューブの長さは、特に限定されないが、100nm~5μmであると、分散しやすく、塗布性も優れているため好ましい。またカーボンナノチューブの導電性の観点でも、長さが100nm以上であることが好ましい。また、5μm以下であれば基板上での凝集を抑制し易い。カーボンナノチューブの長さは、より好ましくは500nm~3μm、さらに好ましくは700nm~1.5μmである。
【0035】
カーボンナノチューブとしては、大きなバンドギャップとキャリア移動度を持つ半導体型カーボンナノチューブを用いることが好ましい。カーボンナノチューブ中、半導体型カーボンナノチューブの比率が、一般に67質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上であり、特に90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上(100質量%を含む)である。
【0036】
カーボンナノチューブ分散液中のカーボンナノチューブの濃度は、特に限定されるものではないが、例えば、0.0003質量%以上、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.003質量%以上、及び10質量%以下、好ましくは3質量%以下、より好ましくは0.3質量%以下とすることができる。
【0037】
カーボンナノチューブ分散液は、カーボンナノチューブに加えて、界面活性剤を含むことが好ましい。カーボンナノチューブ分散液に含まれる界面活性剤は、非イオン性界面活性剤であるのが好ましい。非イオン性界面活性剤は、イオン性界面活性剤と異なり、カーボンナノチューブとの相互作用が弱く、分散液を基板上に提供した後に容易に除去することができる。そのため、安定したカーボンナノチューブ導電パスを形成でき、優れたTCR値を得ることができる。また、分子長が長い非イオン性界面活性剤は、分散液を基板上に提供する際にカーボンナノチューブ間の距離が大きくなり、水の蒸発後に再凝集しにくいため、ネットワーク状態を維持することができ好ましい。
【0038】
非イオン性界面活性剤は、適宜選択できるが、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系に代表されるポリエチレングリコール構造を有する非イオン性界面活性剤や、アルキルグルコシド系非イオン性界面活性剤など、イオン化しない親水性部位とアルキル鎖など疎水性部位で構成されている非イオン性界面活性剤を1種類もしくは複数組み合わせて用いることが好ましい。このような非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテルが好適に用いられる。また、アルキル部が1又は複数の不飽和結合を含んでもよい。特に、ポリオキシエチレン(23)ラウリルエーテル、ポリオキシエチレン(20)セチルエーテル、ポリオキシエチレン(20)ステアリルエーテル、ポリオキシエチレン(10)オレイルエーテル、ポリオキシエチレン(10)セチルエーテル、ポリオキシエチレン(10)ステアリルエーテル、ポリオキシエチレン(20)オレイルエーテル、ポリオキシエチレン(100)ステアリルエーテル等がより好ましい。また、N,N-ビス[3-(D-グルコンアミド)プロピル]デオキシコールアミド、n-ドデシルβ-D-マルトシド、オクチルβ-D-グルコピラノシド、ジギトニンも使用することができる。
【0039】
非イオン性界面活性剤として、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアラート(分子式:C6412626、商品名:Tween 60、シグマアルドリッチ社製等)、ポリオキシエチレンソルビタントリオレアート(分子式:C2444、商品名:Tween 85、シグマアルドリッチ社製等)、オクチルフェノールエトキシレート(分子式:C1422O(CO)、n=1~10、商品名:Triton X-100、シグマアルドリッチ社製等)、ポリオキシエチレン(40)イソオクチルフェニルエーテル(分子式:C170(CHCH0)40H、商品名:Triton X-405、シグマアルドリッチ社製等)、ポロキサマー(分子式:C10、商品名:Pluronic、シグマアルドリッチ社製等)、ポリビニルピロリドン(分子式:(CNO)n、n=5~100、シグマアルドリッチ社製等)等を用いることもできる。
【0040】
カーボンナノチューブ分散液中の界面活性剤の濃度は適宜制御することができ、臨界ミセル濃度~5質量%程度が好ましく、より好ましくは、0.001質量%~3質量%、塗布後の再凝集等を抑えるために、0.01~1質量%が特に好ましい。臨界ミセル濃度未満であると分散できないため好ましくない。本明細書において、臨界ミセル濃度とは、大気圧下、25℃で、Wilhelmy式表面張力計等の表面張力計を用い、界面活性剤水溶液の濃度を変えて表面張力を測定し、その変極点となる濃度のことを言う。
【0041】
カーボンナノチューブ分散液の分散媒としては、好ましくはカーボンナノチューブを分散浮遊できるものであれば特に限定されないが、例えば、水、重水、有機溶媒、又はこれらの混合物等が挙げられ、水が好ましい。
【0042】
カーボンナノチューブ分散液を得る方法は特に制限されず、従来公知の方法を適用できる。例えば、カーボンナノチューブ混合物、分散媒、及び非イオン性界面活性剤を混合してカーボンナノチューブを含む溶液を調製し、この溶液を超音波処理することでカーボンナノチューブを分散させ、カーボンナノチューブ分散液(ミセル分散溶液)を調製する。前記超音波処理に加えて、又は代えて、機械的な剪断力によるカーボンナノチューブ分散手法を用いてもよい。機械的な剪断は気相中で行ってもよい。カーボンナノチューブと非イオン性界面活性剤によるミセル分散水溶液においてカーボンナノチューブは孤立した状態であることが好ましい。そのため、必要に応じて、超遠心分離処理を用いてバンドル、アモルファスカーボン、不純物触媒等の除去を行ってもよい。分散処理の際、カーボンナノチューブを切断することができ、カーボンナノチューブの粉砕条件、超音波出力、超音波処理時間等を変えることで、長さを制御することができる。例えば、未処理のカーボンナノチューブをピンセット、ボールミル等で粉砕し、凝集体サイズを制御できる。これらの処理後、超音波ホモジナイザーにより、出力40~600W、場合により100~550W、20~100KHz、処理時間1~5時間、好ましくは1~3時間にすることで、長さを100nm~5μmに制御することができる。1時間より短いと、条件によってはほとんど分散せず、ほとんど元の長さのままである場合がある。また、分散処理時間の短縮及びコスト減の観点では3時間以下が好ましい。
【0043】
カーボンナノチューブの分散及び切断により、表面官能基がカーボンナノチューブの表面あるいは端に生成される。生成される官能基は、カルボキシル基、カルボニル基、水酸基等である。液相での処理であれば、カルボキシル基、水酸基が生成され、気相での処理であれば、カルボニル基が生成される。
【0044】
カーボンナノチューブ分散液を適用する方法としては、特に限定されないが、印刷技術を用いて形成することが好ましい。印刷法としては、塗布(ディスペンサー、インクジェット)や転写(マイクロコンタクトプリント、グラビア印刷)が挙げられる。カーボンナノチューブ分散液の適用量は、形成するカーボンナノチューブ層の密度や厚み等に応じて適宜選択できる。
【0045】
カーボンナノチューブ分散液の適用後の静置時間としては、特に限定されないが、例えば、1分間~24時間、好ましくは5分間~18時間、より好ましくは30分間~12時間である。静置時間によりカーボンナノチューブの付着量を制御することもできる。
【0046】
(c2)洗浄工程
形成されたカーボンナノチューブ予備層を洗浄溶媒で洗浄する。洗浄溶媒は、エタノールやイソプロピルアルコール等のアルコールや水であることが好ましく、洗浄は複数回行うことが好ましい。
【0047】
(c3)乾燥工程
本発明における洗浄溶媒の乾燥は、遠心乾燥により行われる。遠心乾燥装置としては、例えば、スピンコーター等、水平面に沿って回転軸回りに回転するターンテーブルを有するものが挙げられる。遠心乾燥は、電極対110の向かい合う第1の電極壁113a及び第2の電極壁113bの少なくとも一方に対する相対遠心加速度の垂直成分が50×g~900×g、好ましくは100×g~900×g、特に好ましくは100×g~800×gの範囲である条件で行われる。電極壁に対する相対遠心加速度の垂直成分が50×g未満又は900×g超過であると、ボロメータの抵抗値が高くなり好ましくない。なお、本発明において「相対遠心加速度の垂直成分」とは、電極壁の向きが遠心力に対して垂直である場合には、相対遠心加速度と同一であり、電極壁の向きが遠心力に対して45°である場合には、相対遠心加速度の1/1.414であり、電極壁の向きが遠心力に対して平行である場合には0である。
【0048】
相対遠心加速度(RCF)は、下記式により計算され、通常、「×g」又は「G」を付けて表される(1.0×g=9.8m/s)。
RCF=1.118×10-5×N×r
(式中、Nは1分間当たりの回転数(rpm)であり、rは回転半径(cm)である。)
【0049】
前記洗浄溶媒の乾燥は、電極対110の向かい合う第1の電極壁113a及び第2の電極壁113bの少なくとも一方に対して、相対遠心加速度の垂直成分を有する向きの遠心力をかければよいが、第1の電極壁に対して垂直成分を持つ向きの遠心力をかけることと、第2の電極壁に対して垂直成分を持つ向きの遠心力をかけることの両方を行うことが好ましい。特に、遠心力の向きを交互に反転させて、複数回乾燥を行うことが好ましい。図4に、遠心力に対するボロメータアレイの向き(平行、45°、垂直二方向)を示す。
【0050】
洗浄溶媒の乾燥工程において、相対遠心加速度の垂直成分(×g)/電極対の高さ(nm)は、4未満であることが好ましく、0.5~3.5であることがより好ましく、1~3であることが特に好ましい。相対遠心加速度の垂直成分(×g)/電極対の高さ(nm)が4を超過すると、ボロメータの抵抗値が高くなることがある。
【0051】
なお、特開2018-148138号公報のようにカーボンナノチューブ分散液をスピンコート等の遠心力で塗布してカーボンナノチューブ膜を形成する方法では、特開2018-148138号公報の図3に示すように、カーボンナノチューブ膜21が電極11を乗り越えて電極対にまたがるように形成されるため、本発明とは異なる構造のボロメータが形成される(図9)。
【0052】
カーボンナノチューブ層を熱処理して、界面活性剤や溶媒を除去してもよい。熱処理の温度は界面活性剤の分解温度以上で適宜設定できるが、150~400℃が好ましく、200~400℃がより好ましい。150℃以上であれば界面活性剤の分解物の残留を抑制しやすく、400℃以下であれば基板の変質、カーボンナノチューブの分解やサイズ変化、官能基の離脱等を抑制しやすいため好ましい。
【0053】
カーボンナノチューブ層上には、保護層を設けてもよい。保護層は、絶縁保護層として機能することができ、また、カーボンナノチューブ層の上側に存在する保護層は、酸素等の吸着によるカーボンナノチューブへのドーピングの抑制効果等を有し得る。保護層としては、ボロメータにおいて保護層として用いられる材料を制限なく用いることができ、例えば、窒化シリコン、酸化シリコン(SiO)、樹脂、例えばパリレン、PMMA、PMMAアニソール等のアクリル樹脂、エポキシ樹脂、テフロン(登録商標)の膜等が挙げられる。
【0054】
本発明のボロメータでは、ボロメータ膜として光吸収率の高い所定のカーボンナノチューブ層を用いているため、赤外線吸収層(光吸収層)は必ずしも必要ではないが、所望により、赤外線吸収層を設けてもよい。赤外線吸収層は、カーボンナノチューブ層上に直接設けてもよいし、保護層の上に設けてもよい。
【0055】
カーボンナノチューブ層上に直接赤外線吸収層を設ける場合は、限定されるものではないが、例えばポリイミドの塗布膜等が挙げられる。保護層の上に設ける赤外線吸収層としては、限定されるものではないが、例えば窒化チタン薄膜等が挙げられる。赤外線吸収層の厚みは、材料によって適宜設定できるが、例えば、50nm~1μmとすることができる。
【0056】
本発明のボロメータでは、ボロメータ膜を透過した赤外線を反射するための光反射層は必ずしも必要ではないが、所望により、カーボンナノチューブ層と基板の間、例えば基板上に光反射層を設けてもよい。ただし、素子構造の簡素化の観点では、光反射層を設けないことが好ましい。
【0057】
上記ではボロメータの一セル(単素子)を示したが、ボロメータに用いることができる素子構造及びアレイ構造を特に制限なく適用することができる。例えば、ボロメータ素子をアレイ状に並べて、ボロメータアレイとすることもできる(図3)。イメージセンサに用いられるような複数素子を二次元に配列したアレイでもよい。
また、本実施形態のボロメータは図1に示した構造だけでなく、ダイヤフラム構造を有する素子、ダイヤフラム構造に代えて、断熱性樹脂からなる断熱層等の所望の断熱構造を有する素子など、通常ボロメータに用いられる素子構造に特に制限なく適用することができる。
【0058】
また、本実施形態に係るボロメータは、赤外光の他、例えば、0.7μm~1mmの波長を有する電磁波、例えば、テラヘルツ波の検知にも用いることができる。
【実施例0059】
以下、実施例によりさらに詳しく本発明について例示説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0060】
[実施例1]
(1)SiOを被覆したSi基板上をアセトン、イソプロピルアルコール、水により順に洗浄し、その基板上に、高さ200nmで、電極間が100μmになるようにチタン5nmと金195nmを蒸着して電極対を形成した。
(2)上記の電極形成した基板をアセトン、イソプロピルアルコールにより順に洗浄し、酸素プラズマ処理で表面の有機物を除去した。
(3)上記電極対間に、0.1体積%のAPTES水溶液を塗布し、中間層を形成した。
(4)単層カーボンナノチューブ((株)名城ナノカーボン、EC1.0(直径:1.1~1.5nm程度、平均直径1.2nm)100mgを石英ボートに入れ、真空雰囲気下で電気炉を使った熱処理を行った(900℃、2時間)。熱処理後、ピンセットで破砕し、12mgを1質量%の界面活性剤(ポリオキシエチレン(100)ステアリルエーテル)水溶液40mlに浸漬させ、十分に沈めた後、超音波分散処理(BRANSON ADVANCED-DIGITAL SONIFIER装置、出力50W)を3時間行い、カーボンナノチューブ分散液を得た。
(5)上記中間層上に、上記カーボンナノチューブ分散液を滴下し、2時間静置し、水とエタノールとイソプロピルアルコールで洗浄した。
(6)電極対の向かい合う電極壁の第1の電極壁の向きが、遠心力に対して平行(図5)、垂直(図6)、又は45°(図7)となるように、相対遠心加速度200×gをかけて乾燥を行った。
(7)上記カーボンナノチューブ膜を水とエタノールとイソプロピルアルコールで再度洗浄し、(6)と同じ方向の遠心力をかけて乾燥を行い、ボロメータを得た。
【0061】
(抵抗値の測定方法)
カスケードマイクロテック社製プローブ(商品名SUMMIT 12000B-Series)を使用し、印過電圧3V、300K、乾燥空気流下(約5%RH以下)の測定雰囲気でボロメータの抵抗値を測定した。
【0062】
3Vにおける抵抗値は1.0×1010Ω以下であることが望ましく、抵抗値が低いほど、カーボンナノチューブが電極壁に良好に接合しているといえる。
表1に、乾燥時の遠心力に対する電極壁の向きと得られたボロメータの抵抗値を示す。
【0063】
【表1】
【0064】
CNT膜洗浄後の乾燥工程において、電極壁の向きがスピンコートの遠心力方向に対して平行である場合(図5)には、抵抗値が高かった(4.9×1010Ω)。これに対し、電極壁の向きが遠心力方向に対して垂直である場合(図6)には、抵抗値が著しく低減する(2.5×10Ω)ことがわかった。これは、遠心力方向が電極壁に対して平行である場合には、電極間のCNT膜が遠心力によって電極と平行にずれるような動きが生じ、CNT膜端が電極壁に接合する力が弱められるのに対し、遠心力方向が電極壁に対して垂直である場合には、CNT膜端のCNTが遠心力によって電極壁に強固に密着したためであると考えられる。さらに、電極壁に対して垂直に遠心力がかかると、カーボンナノチューブ分散液中の界面活性剤の除去効果が強まることも考えられる。
【0065】
また、遠心力方向が電極壁に対して45°である場合(図7)にも、平行である場合と比べて抵抗値が大きく低減した(8.5×10Ω)。これは、45°の場合にも電極壁に対して遠心力の垂直成分がかかるためであると考えられる。
【0066】
[実施例2]
実施例1の(6)の乾燥工程において、遠心力方向に対して電極壁が垂直になるよう設置して乾燥を行った後、(7)の乾燥工程において(6)の遠心力方向とは遠心力の向きを反転させて、垂直二方向の乾燥を行った(図8)。表2に、乾燥時の遠心力に対する電極壁の向きと抵抗値を示す。
【0067】
【表2】
【0068】
CNT膜洗浄後の乾燥工程において、1回目の乾燥と2回目の乾燥の遠心力の向きを反転させると(図8)、更に抵抗値が低くなることを発見した(5.7×10Ω)。これはCNT膜端が第1の電極壁だけでなく、反対の第2の電極壁にもより密接に接合したためであると考えられる。なお、二方向に遠心力をかける方法は、CNT膜を複数層形成した場合にも効果が確認された(2.2×10Ω)。このように、電極壁に対して両方向の遠心力で乾燥を行う(第1の電極壁に対して垂直成分を持つ向きの遠心力、及び第2の電極壁に対して垂直成分を持つ向きの遠心力を両方かける)ことにより、更に抵抗値を低下できることがわかった。
【0069】
[実施例3]
実施例1の(6)の乾燥工程において、遠心力方向に対して電極壁が垂直になるよう設置して、相対遠心加速度を50×g~1000×gで変化させて乾燥を行った。表3に、乾燥時の相対遠心加速度とボロメータ抵抗値を示す。
【0070】
【表3】
【0071】
CNT膜洗浄後の乾燥工程において、電極壁にかかる相対遠心加速度が100×g、150×g、200×g、500×g、700×gである場合には、抵抗値が1.0×1010以下となった。乾燥工程において電極壁にかかる相対遠心加速度の垂直成分が50×g~900×gの範囲である場合に、抵抗値の低減効果が得られることができることが分かった。
【0072】
[実施例4]
実施例1の(2)において形成される電極対の高さを50nm~200nmに変化させ、且つ、(6)の乾燥工程において、遠心力方向に対して電極壁が垂直になるように設置して、相対遠心加速度を50×g~1000×gで変化させて、乾燥を行った。表4に、各電極の高さにおける相対遠心加速度とボロメータの抵抗値を示す。
【0073】
【表4】
【0074】
抵抗値の低減効果が得られる相対遠心加速度の垂直成分の範囲は50×g~900×gであるものの、効果的な相対遠心加速度の範囲(特に、好ましい相対遠心加速度の上限値)は、電極の高さに依存することがわかった。この理由としては、乾燥時の遠心力が強いと、水分を含んだCNTが電極厚を越えてしまうことにより電極に強固に接合できなくなってしまうこと、もしくは乾燥初期時に水分が電極上を越えて除去されてしまうとCNT端の界面活性剤除去効果が減少することが考えられる。これらの結果から、相対遠心加速度の垂直成分(×g)/前記電極対の高さ(nm)が4未満であることが好ましいことがわかった。
【0075】
以上、実施形態及び実施例を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態及び実施例に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明の範囲内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【0076】
(付記1)
(A)基板上に、1つ以上の電極対を形成する工程と、
(B)前記基板上の前記電極対間に、中間層を形成する工程と、
(C)下記工程(c1)~(c3):
(c1)前記電極対間の前記中間層上にカーボンナノチューブ分散液を塗布して静置し、カーボンナノチューブ予備層を形成する工程、
(c2)前記カーボンナノチューブ予備層を洗浄溶媒で洗浄する工程、及び
(c3)遠心力をかけながら前記洗浄溶媒を乾燥する工程であって、前記電極対の向かい合う第1の電極壁及び第2の電極壁の少なくとも一方に対する相対遠心加速度の垂直成分が50×g~900×gの範囲である工程、
を含む、カーボンナノチューブ層を形成する工程と、
を含む、ボロメータの製造方法。
(付記2)
前記洗浄溶媒の乾燥が、前記第1の電極壁に対して垂直成分を持つ向きの遠心力をかけること、及び前記第2の電極壁に対して垂直成分を持つ向きの遠心力をかけることにより行われる、付記(1)に記載の方法。
(付記3)
前記第1の電極壁及び/又は第2の電極壁に対する相対遠心加速度の垂直成分(×g)/前記電極対の高さ(nm)が4未満である、先行する付記のいずれかに記載の方法。
(付記4)
前記カーボンナノチューブ層を複数層形成する、先行する付記のいずれかに記載の方法。
(付記5)
前記中間層を形成する工程が、シランカップリング剤を塗布する工程である先行する付記のいずれかに記載の方法。
(付記6)
前記シランカップリング剤が3-アミノプロピルトリエトキシシランである、付記5に記載の方法。
【符号の説明】
【0077】
10 ボロメータ
20 ボロメータアレイ
100 基板
110 電極対
113a 第1の電極壁
113b 第2の電極壁
120 中間層
140 カーボンナノチューブ層
150 遠心力の向き
152 1回目の遠心力の向き
154 2回目の遠心力の向き

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10