IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-駆動力制御装置 図1
  • 特開-駆動力制御装置 図2
  • 特開-駆動力制御装置 図3
  • 特開-駆動力制御装置 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023179004
(43)【公開日】2023-12-19
(54)【発明の名称】駆動力制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/02 20120101AFI20231212BHJP
【FI】
B60W30/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022091982
(22)【出願日】2022-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】古橋 雄介
(72)【発明者】
【氏名】姫野 寛
(72)【発明者】
【氏名】吉川 隼人
(72)【発明者】
【氏名】山本 剛史
【テーマコード(参考)】
3D241
【Fターム(参考)】
3D241BA18
3D241BA51
3D241BC01
3D241BC04
3D241BC06
3D241CA03
3D241CC01
3D241CC15
3D241DB12Z
3D241DB14Z
3D241DB16Z
(57)【要約】
【課題】車両の旋回動作時にドライバーに生じる違和感を低減する。
【解決手段】フロントと、リアと、に独立してトルク要求を行うことができる4輪駆動車に適用される駆動力制御装置であって、車両の旋回挙動制御時において、車両のヨーレートを、その目標値である目標ヨーレートに制御するための操作量としての駆動力を補正する駆動トルク補正手段11と、駆動トルク補正手段11によるトルク補正を、フロントで優先的に実行させる制御手段12と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントと、リアと、に独立してトルク要求を行うことができる4輪駆動車に適用される駆動力制御装置であって、
車両の旋回挙動制御時において、前記車両のヨーレートを、その目標値である目標ヨーレートに制御するための操作量としての駆動力を補正する駆動トルク補正手段と、
前記駆動トルク補正手段によるトルク補正を、前記フロントで優先的に実行させる制御手段と、を備える、
駆動力制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の駆動力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、走行中の車両の操舵角が変化を開始する旋回初期において、ヨーレートの目標値を設定し、このヨーレートの目標値に制御するための操作量としてヨーモーメントを算出することが行われている。ヨーモーメントに応じた内燃機関に対するトルク指令値の補正量を算出し、算出された補正量に応じて補正されたトルク指令値となるように、内燃機関を操作する。
【0003】
ここで、旋回時にロール間や旋回間隔が良いとされる車両の特徴として、車両のロール挙動に対してピッチの時間差が小さいことが挙げられる。旋回初期のロール挙動に対してピッチの時間差を小さくすることで、車両姿勢の余分なふらつきを低減し、ハンドル操作と一体感のある旋回を実施できる。
【0004】
なお、ショックアブゾーバの伸縮さの前後差が適正であるように設定することで、ロールとピッチの位相差を少なくすることができる。さらに、旋回開始時にピッチの位相進み保証をトルクダウンで行うライントレース制御により旋回フィーリングを向上できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-133811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された制御装置では、旋回フィーリング向上のためにトルク補正により旋回時のピッチ挙動の補正を行う。しかしながら、制御実施時にアクセル操作を伴わないトルクの変化により、ドライバーに違和感を生じさせる場合がある。
【0007】
本開示は、車両の旋回動作時にドライバーに生じる違和感を低減する車両の駆動力制御装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかる駆動力制御装置は、フロントと、リアと、に独立してトルク要求を行うことができる4輪駆動車に適用される駆動力制御装置であって、車両の旋回挙動制御時において、前記車両のヨーレートを、その目標値である目標ヨーレートに制御するための操作量としての駆動力を補正する駆動トルク補正手段と、前記駆動トルク補正手段によるトルク補正を、前記フロントで優先的に実行させる制御手段と、を備える。
これにより、ピッチ角の補正に対して感度の大きいフロント側をトルクダウンすることにより、少ないトルク補正でピッチ補正を実現することができる。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、車両の旋回動作時にドライバーに生じる違和感を低減する駆動力制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】駆動力制御装置の構成の一例を示した図である。
図2】駆動力制御装置の動作の一例を示したフロー図である。
図3】トルクダウンをフロントとリアのそれぞれに行った場合のピッチ角への感度の一例を示す図である。
図4】ロールとピッチの時間差が変わった状態を示している図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1
以下、図面を参照して本実施の形態に係る駆動力制御装置について説明する。図1は、車両に設けられた駆動力制御装置の構成の一例を示した図である。駆動力制御装置1は、車両に発生させる総トルクを算出させる駆動トルク補正手段11と、車両の前方と後方へのトルクの分散を制御する制御手段12と、制御手段12によるトルクの分散を実行させるか否かを判定する判定手段13と、を備える。
【0012】
ここで、車両とは4輪駆動車であって、前輪であるフロントと、後輪であるリアに対して独立してトルク要求が可能である。言い換えると、車両では、フロントで発生させるトルクの大きさと、リアで発生させるトルクの大きさを、それぞれ自在に変更可能である。
【0013】
さらに以下では、ロール方向とは、車両の前後方向に延びる軸を中心とする軸周りの回転方向であり、ピッチ方向とは、車両の左右方向に延びる軸を中心とする軸周りの回転方向であり、ヨー方向とは、車両の上下方向に延びる軸を中心とする軸周りの回転方向として説明する。
【0014】
駆動トルク補正手段11は、車両の旋回挙動の制御時において車両のヨー方向の角度での変化を割合で示した量であるヨーレートについて、その目標値である目標ヨーレートの値にするための操作量としての駆動力の補正を行う。
【0015】
具体的には、駆動トルク補正手段11は、トルクダウン要求にしたがった補正後の駆動力を算出する。ここで駆動トルク補正手段11により算出される駆動力にかかるトルクの値とは、4輪駆動の車両全体にかかる総トルクの値であり、すなわちフロントとリアにかけるトルクの合計値である。
【0016】
制御手段12は、駆動トルク補正手段11により算出された総トルクとなるように、フロント側で発生させるトルクと、リア側で発生させるトルクを制御することができる。ここで典型的には、制御手段12では、駆動トルク補正手段11による補正分のトルクを、フロント側で優先的に行うように制御する。
【0017】
例えば、4輪駆動車である車両では所定の走行を行うために、フロントで通常発生させるトルクと、リアで通常発生させるトルクと、フロントとリアの少なくとも一方に駆動トルク補正手段11により算出した補正トルクと、を発生させる。このとき制御手段12では、フロント側において、フロントで通常発生させるトルクと、駆動トルク補正手段11により算出した補正トルクと、を加算したトルクを発生させることができる。
【0018】
この場合、制御手段12では、リアで通常発生させるトルクには、駆動トルク補正手段11により算出された補正分のトルクを加算しないように制御し、フロントを優先的にトルク補正することができる。
【0019】
なお例えば、制御手段12では、駆動トルク補正手段11により算出した補正トルクをフロントとリアの両方に加算するように制御するとともに、リアにかかる補正分のトルクの値が、フロントにかかる補正分のトルクの値に比べて小さくなるように制御することで、フロントのトルクの補正を優先的に行う状態とすることも可能である。
【0020】
判定手段13は、駆動力制御装置1を搭載している車両が4輪駆動車であり、フロントで発生させるトルクの大きさと、リアで発生させるトルクの大きさを、それぞれ自在に変更可能であるか否かを判定する。例えば、駆動力制御装置1では、この判定手段13の判定結果に応じて、制御手段12によりフロントに優先的にトルク補正を行うことを実行するか否かを変更できる。
【0021】
図2は、駆動力制御装置1の動作の一例を示したフロー図であり、以下では、典型的な駆動力制御装置1の動作の流れについて説明する。
【0022】
判定手段13は、車両が4輪駆動車であり、フロントで発生させるトルクの大きさと、リアで発生させるトルクの大きさを、それぞれ自在に変更可能であるか否かを判定する(ステップS1)。車両がフロントとリアで独立にトルク要求できる4輪駆動車である場合には(ステップS1でYes)、ステップS2に進む。車両がフロントとリアで独立にトルク要求できる4輪駆動車でない場合には(ステップS1でNo)、ステップS3に進む。
【0023】
制御手段12は、フロントのトルクにライントレース制御トルクを加算する(ステップS2)。すなわち、駆動トルク補正手段11では、車両の旋回操作の際に、トルクダウン要求にしたがった補正後の駆動力にかかるトルクの補正量を算出しておく。そして、制御手段12では、走行においてフロントで発生させるトルクに、駆動トルク補正手段11で算出したトルクの補正量を加算した値となるように、フロントにおけるトルクの発生を制御する。
【0024】
ここで図3は、車両のトルクダウンを行う際に、フロントにトルクの補正を行う場合のピッチ角の変化と、リアにトルクの補正を行う場合のピッチ角の変化の感度の一例を示した図である。図3によると、リアでトルクダウンを行う場合に比べて、フロントでトルクダウンを行う方が、ピッチ方向の変化への感度が高いことが示されている。
【0025】
言い換えると、制御手段12では、リアでトルクダウンをするように制御すると車両のピッチ方向の姿勢変化が少ないことに対し、フロントでトルクダウンするように制御すると、車両のピッチ方向の姿勢変化、すなわち前傾するピッチ方向の力が大きく発生する。なおこのとき、フロントで減速を行う方が、少ないトルクの変化で大きなピッチの変化を発生させることができる。
【0026】
車両が4輪駆動車でない場合や、フロントとリアのそれぞれに独立してトルク要求できない場合には、総トルクとライントレース制御トルクを加算する(ステップS3)。
【0027】
より具体的には、車両が4輪駆動であって、フロントとリアのそれぞれに独立してトルク要求できない場合には、制御手段12は、フロントとリアのそれぞれについて、トルクダウンを行うようにトルクを補正する。典型的には、制御手段12では、フロントとリアの両方に対し、駆動トルク補正手段11で算出された総トルクをバランスよく分配してトルクダウンさせるように、トルクの補正を行う。
【0028】
また、車両が4輪駆動ではなく前輪駆動である場合には、制御手段12は、駆動トルク補正手段11で算出された総トルクに従ってトルクダウンするように、フロントのトルクの補正を行う。
【0029】
また、車両が4輪駆動ではなく後輪駆動である場合には、制御手段12は、駆動トルク補正手段11で算出された総トルクに従ってトルクダウンするように、リアのトルクの補正を行う。
【0030】
なお、駆動トルク補正手段11により算出されるトルクは、トルクダウンを行う際に車両に発生させる総トルクであるものとして説明したが、この総トルクには、上述したライントレース制御にかかる補正と、路面の凹凸に合わせて駆動用モーターのトルクを変動させることにより車体の揺れを低減させる制御ばね上制御にかかる補正と、短時間での大きなトルクの変動を緩和させるなまし処理の分を含めることができる。
【0031】
車両が旋回動作する際に、駆動力制御にかかるトルクダウンによるピッチングが発生するが、図4(a)は、上述の制御手段12の制御によって車両のロール角とピッチ角が揃う状態を示している。一方、図4(b)は、同様の状況において制御手段12による制御を行わず、車両のロール角とピッチ角が揃っていない状態を示している。
【0032】
より具体的には、制御手段12により制御を行わない場合には、図4(b)に示すように、ロール挙動とピッチ挙動の位相のピーク同士の時間差が大きい。この場合、操舵の初期にヨー挙動が出ず、途中から急にヨー挙動が発生することから、搭乗者にとっては、ハンドル操作と旋回の感覚にずれが生じる場合がある。
【0033】
一方で、制御手段12により制御を行うことによって、図4(a)に示すように、車両のロール挙動に対してピッチの時間差が小さい状態とすることができる。これにより、旋回時における車体と路面間のふらつきを抑えることができる。
【0034】
以上のことから、ピッチ角の補正に対して感度の大きいフロント側をトルクダウンすることにより、少ないトルク補正でピッチ補正を実現することができる。そのため、車両のドライバーには、トルクダウンに起因した違和感の発生を低減した状態で、ピッチ補正を行うことができる。
【0035】
また、車両が旋回動作を行う際に、路面の環境に応じて発生する車両のピッチングやバウンジング、旋回時のピッチ方向の変化を調整することが可能である。これにより、車両のドライバーには、ハンドル操作と車両の挙動の間に一体感を得られる状態で、旋回を実現することができる。
【0036】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。すなわち上記の記載は、説明の明確化のため、適宜、省略及び簡略化がなされており、当業者であれば、実施形態の各要素を、本発明の範囲において容易に変更、追加、変換することが可能である。
【符号の説明】
【0037】
1 駆動力制御装置
11 駆動トルク補正手段
12 制御手段
13 判定手段
図1
図2
図3
図4