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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023179016
(43)【公開日】2023-12-19
(54)【発明の名称】点火装置
(51)【国際特許分類】
   F02P 3/04 20060101AFI20231212BHJP
   F02P 11/00 20060101ALI20231212BHJP
   F02P 15/00 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
F02P3/04 304F
F02P3/04 301G
F02P3/04 301F
F02P11/00 Z
F02P15/00 302B
F02P15/00 302C
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022092006
(22)【出願日】2022-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000217491
【氏名又は名称】ダイヤゼブラ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】楠原 功
(72)【発明者】
【氏名】泉 光宏
(72)【発明者】
【氏名】木村 裕幸
【テーマコード(参考)】
3G019
【Fターム(参考)】
3G019BA01
3G019CA02
3G019EB04
3G019FA04
3G019FA05
3G019FA06
3G019KC07
(57)【要約】      (修正有)
【課題】点火プラグにおける異常タイミングでの放電を抑制できる技術を提供する。
【解決手段】水素を含む燃料を用いた内燃機関用の点火装置1であって、1次コイルL1と2次コイルL2を含む点火コイル103、電源装置102、スイッチング素子70、点火プラグ113、第1逆流防止ダイオード111、および第1抵抗112を有する。スイッチング素子70は、1次コイルL1へ流れる1次電流の通電または遮断を切り替える。点火プラグ113は、2次コイルL2の一端822に誘起される高電圧に基づいて放電する。2次コイルL2の他端821と電源装置102との間に、2本の第1接続線122a,122bが並列に配線される。第1逆流防止ダイオード111は、第1接続線122aに介挿され、2次コイルL2の一端822から他端821へ向かって順方向となる。第1抵抗112は、第1接続線122bに介挿され、抵抗値は1MΩ以上である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも水素を含む燃料を用いた内燃機関用の点火装置であって、
1次コイルと2次コイルとが互いに電磁結合されることによって形成された点火コイルと、
前記1次コイルの一端へ電源線を介して直流電圧を印加する電源装置と、
前記1次コイルの他端と接地点との間に介挿され、前記電源装置から前記1次コイルへ流れる1次電流の通電または遮断を切り替え可能なスイッチング素子と、
前記2次コイルの一端に誘起される高電圧に基づいてギャップにおいて放電することによって前記燃料に点火する点火プラグと、
前記2次コイルの他端と前記電源装置または接地点との間で並列に配線された2本の第1接続線のうちの一方において介挿され、前記2次コイルの一端から他端へ向かう方向において順方向となるダイオードである第1逆流防止ダイオードと、
前記2本の第1接続線のうちの他方において介挿される第1抵抗と、
を有し、
前記第1抵抗の抵抗値は、1MΩ以上である、点火装置。
【請求項2】
請求項1に記載の点火装置であって、
前記2本の第1接続線のうちの他方において、前記第1抵抗と直列に介挿され、前記2次コイルの一端から他端へ向かう方向において順方向となる、ツェナーダイオードまたはアバランシェダイオードである第1制限ダイオード
をさらに有し、
前記第1制限ダイオードの降伏電圧は、前記点火プラグの前記ギャップにおける絶縁破壊電圧よりも小さい、点火装置。
【請求項3】
請求項1に記載の点火装置であって、
前記第1抵抗の抵抗値は、10MΩ以下である、点火装置。
【請求項4】
少なくとも水素を含む燃料を用いた内燃機関用の点火装置であって、
1次コイルと2次コイルとが互いに電磁結合されることによって形成された点火コイルと、
前記1次コイルの一端へ電源線を介して直流電圧を印加する電源装置と、
前記1次コイルの他端と接地点との間に介挿され、前記電源装置から前記1次コイルへ流れる1次電流の通電または遮断を切り替え可能なスイッチング素子と、
前記2次コイルの一端に誘起される高電圧に基づいてギャップにおいて放電することによって前記燃料に点火する点火プラグと、
前記2次コイルの一端と前記点火プラグとの間で並列に配線された2本の第2接続線のうちの一方において介挿され、前記2次コイルの一端から他端へ向かう方向において順方向となるダイオードである第2逆流防止ダイオードと、
前記2本の第2接続線のうちの他方において介挿される第2抵抗と、
を有し、
前記第2抵抗の抵抗値は、1MΩ以上である、点火装置。
【請求項5】
請求項4に記載の点火装置であって、
前記2本の第2接続線のうちの他方において、前記第2抵抗と直列に介挿され、前記2次コイルの一端から他端へ向かう方向において順方向となる、ツェナーダイオードまたはアバランシェダイオードである第2制限ダイオード
をさらに有し、
前記第2制限ダイオードの降伏電圧は、前記点火プラグの前記ギャップにおける絶縁破壊電圧よりも小さい、点火装置。
【請求項6】
請求項4に記載の点火装置であって、
前記第2抵抗の抵抗値は、10MΩ以下である、点火装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の点火装置であって、
前記スイッチング素子の切り替えを制御する制御部
をさらに有し、
前記制御部は、
前記スイッチング素子を閉状態にすることによって、前記1次コイルに1次電流を流して充電する充電制御と、
前記充電制御を行った後、前記スイッチング素子を開状態に切り替えて、前記2次コイルの一端に高電圧を誘起させることによって、前記点火プラグの前記ギャップにおいて放電させる放電制御と、
を行う、点火装置。
【請求項8】
請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の点火装置であって、
前記2次コイルの一端から前記点火プラグまでの間に形成される浮遊容量
を有する、点火装置。
【請求項9】
請求項2または請求項5に記載の点火装置であって、
前記降伏電圧は、2kV以下である、点火装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用の点火装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等に用いられるSI(火花点火)レシプロエンジンを含む内燃機関には、点火装置が搭載される。点火装置の点火コイルは、ECU(Engine Control Unit)の制御により、バッテリから供給される直流の低電圧を数千V~数万Vにまで昇圧して、点火プラグヘ供給し、電気火花を発生させて燃料を点火させる。従来の点火装置の例については、例えば、特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6517088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、以下の構成を有する内燃機関用点火装置(1)が開示されている。まず、点火コイル(2)の一次コイル(21)は、車載バッテリー等の直流電源(VB+)に接続され、メインスイッチング素子(4)のオン・オフの制御によって、一次コイル(21)を流れる一次電流(I1)の通電・遮断が切り替えられる(段落0015,図1)。また、一次コイル(21)と鉄心を介して磁気的に結合している二次コイル(22)の一方端は点火プラグ(3)に接続され、他方端はON電圧防止用ダイオード(23)を介して直流電源供給ラインに接続される。これにより、点火コイル(2)の一次電流(I1)遮断時に二次側に高電圧が発生し、点火プラグ(3)の放電ギャップに絶縁破壊が生じるとともに、ON電圧防止用ダイオード(23)の順方向へ二次電流(I2)が流れる。(段落0016,0029)。一方、一次コイル(21)への通電開始時に二次コイル(22)に生ずる逆極性のON電圧は、ON電圧防止用ダイオード(23)によって抑制される(段落0017)。
【0005】
近年、SI(火花点火)レシプロエンジンにおいて、水素を含む燃料が多く用いられている。水素を含む燃料を用いることによって、所謂、低炭素社会の実現に寄与すると考えられる。しかし一方で、水素は比較的低温でも燃焼し易く、かつ燃焼速度が速い特性を有する。このため、例えば、点火プラグにおいて予期しないタイミングで僅かに放電が起こると、燃料に引火して燃焼し得る。この場合、エンジンの燃焼室から吸気装置側へ炎が吹き返すバックファイヤー、エンジンの排気ガス中に残留する燃料が排気流路等において燃焼するアフターファイヤー、または着火のタイミングが制御できないプレイグニッション等の異常燃焼を引き起こす虞がある。
【0006】
本発明の目的は、点火プラグにおいて予期しないタイミング(異常タイミング)で放電が起こることを抑制できる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本願の第1発明は、少なくとも水素を含む燃料を用いた内燃機関用の点火装置であって、点火コイルと、電源装置と、スイッチング素子と、点火プラグと、第1逆流防止ダイオードと、第1抵抗とを有する。前記点火コイルは、1次コイルと2次コイルとが互いに電磁結合されることによって形成される。前記電源装置は、前記1次コイルの一端へ電源線を介して直流電圧を印加する。前記スイッチング素子は、前記1次コイルの他端と接地点との間に介挿され、前記電源装置から前記1次コイルへ流れる1次電流の通電または遮断を切り替え可能である。前記点火プラグは、前記2次コイルの一端に誘起される高電圧に基づいてギャップにおいて放電することによって前記燃料に点火する。前記第1逆流防止ダイオードは、前記2次コイルの他端と前記電源装置または接地点との間で並列に配線された2本の第1接続線のうちの一方において介挿され、前記2次コイルの一端から他端へ向かう方向において順方向となるダイオードである。前記第1抵抗は、前記2本の第1接続線のうちの他方において介挿される。前記第1抵抗の抵抗値は、1MΩ以上である。
【0008】
本願の第2発明は、第1発明の点火装置であって、前記2本の第1接続線のうちの他方において、前記第1抵抗と直列に介挿され、前記2次コイルの一端から他端へ向かう方向において順方向となる、ツェナーダイオードまたはアバランシェダイオードである第1制限ダイオードをさらに有し、前記第1制限ダイオードの降伏電圧は、前記点火プラグの前記ギャップにおける絶縁破壊電圧よりも小さい。
【0009】
本願の第3発明は、第1発明の点火装置であって、前記第1抵抗の抵抗値は、10MΩ以下である。
【0010】
本願の第4発明は、少なくとも水素を含む燃料を用いた内燃機関用の点火装置であって、点火コイルと、電源装置と、スイッチング素子と、点火プラグと、第2逆流防止ダイオードと、第2抵抗とを有する。前記点火コイルは、1次コイルと2次コイルとが互いに電磁結合されることによって形成される。前記電源装置は、前記1次コイルの一端へ電源線を介して直流電圧を印加する。前記スイッチング素子は、前記1次コイルの他端と接地点との間に介挿され、前記電源装置から前記1次コイルへ流れる1次電流の通電または遮断を切り替え可能である。前記点火プラグは、前記2次コイルの一端に誘起される高電圧に基づいてギャップにおいて放電することによって前記燃料に点火する。前記第2逆流防止ダイオードは、前記2次コイルの一端と前記点火プラグとの間で並列に配線された2本の第2接続線のうちの一方において介挿され、前記2次コイルの一端から他端へ向かう方向において順方向となるダイオードである。前記第2抵抗は、前記2本の第2接続線のうちの他方において介挿される。前記第2抵抗の抵抗値は、1MΩ以上である。
【0011】
本願の第5発明は、第4発明の点火装置であって、前記2本の第2接続線のうちの他方において、前記第2抵抗と直列に介挿され、前記2次コイルの一端から他端へ向かう方向において順方向となる、ツェナーダイオードまたはアバランシェダイオードである第2制限ダイオードをさらに有し、前記第2制限ダイオードの降伏電圧は、前記点火プラグの前記ギャップにおける絶縁破壊電圧よりも小さい。
【0012】
本願の第6発明は、第4発明の点火装置であって、前記第2抵抗の抵抗値は、10MΩ以下である。
【0013】
本願の第7発明は、第1発明から第6発明までのいずれか1発明の点火装置であって、前記スイッチング素子の切り替えを制御する制御部をさらに有し、前記制御部は、前記スイッチング素子を閉状態にすることによって、前記1次コイルに1次電流を流して充電する充電制御と、前記充電制御を行った後、前記スイッチング素子を開状態に切り替えて、前記2次コイルの一端に高電圧を誘起させることによって、前記点火プラグの前記ギャップにおいて放電させる放電制御と、を行う。
【0014】
本願の第8発明は、第1発明から第6発明までのいずれか1発明の点火装置であって、前記2次コイルの一端から前記点火プラグまでの間に形成される浮遊容量を有する。
【0015】
本願の第9発明は、第2発明または第5発明の点火装置であって、前記降伏電圧は、2kV以下である。
【発明の効果】
【0016】
本願の第1発明~第9発明によれば、1次コイルに1次電流を流した際(ON時)に、抵抗に電流が流れて電圧が掛かることによって、2次コイルL2に生じるON時電圧を低減することができる。これにより、点火プラグにおいてON時にて放電が起こることを抑制できる。また、放電終了後、2次コイルの一端付近や点火プラグの付近等に残留する残留エネルギーを低減することができる。この結果、点火プラグにおいて、その後に異常タイミングで放電が起こることをさらに抑制できる。
【0017】
特に、本願の第2発明によれば、放電終了後に、点火プラグにおいて再び放電が起こることなく、電流が、第1制限ダイオードにおける逆方向に、2次コイルの側へ向かって流れる。これにより、2次コイルの一端付近や点火プラグの付近等に残留する電荷を打ち消し、これらの箇所に残留する残留エネルギーを低減することができる。この結果、点火プラグにおいて、その後に異常タイミングで放電が起こることをさらに抑制できる。
【0018】
特に、本願の第3発明によれば、第1抵抗の抵抗値をある程度小さくすることによって、放電終了後に、第1抵抗を介して2次コイルの側へ向かう電流を一定以上維持することができる。これにより、2次コイルの一端付近や点火プラグの付近等に残留する電荷を打ち消し、これらの箇所に残留する残留エネルギーをより低減することができる。
【0019】
特に、本願の第5発明によれば、放電終了後に、点火プラグにおいて再び放電が起こることなく、電流が、第2制限ダイオードにおける逆方向に、点火プラグの付近へ向かって流れる。これにより、2次コイルの一端付近や点火プラグの付近等に残留する電荷を打ち消し、これらの箇所に残留する残留エネルギーを低減することができる。この結果、点火プラグにおいて、その後に異常タイミングで放電が起こることをさらに抑制できる。
【0020】
特に、本願の第6発明によれば、第2抵抗の抵抗値をある程度小さくすることによって、放電終了後に、第2抵抗を介して点火プラグの付近へ向かう電流を一定以上維持することができる。これにより、2次コイルの一端付近や点火プラグの付近等に残留する電荷を打ち消し、これらの箇所に残留する残留エネルギーをより低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】第1実施形態に係る内燃機関用の点火装置の動作環境を模式的に示すブロック図である。
図2】第1実施形態に係る点火コイルの縦断面図である。
図3】第1実施形態に係る点火装置を動作させる際の、EST信号の波形と、2次コイルに流れる電流(2次電流)の波形と、2次コイルの一端に生じる電圧(2次電圧)とを、それぞれ時系列で示したグラフである。
図4】第1変形例に係る内燃機関用の点火装置の動作環境を模式的に示すブロック図である。
図5】第2実施形態に係る内燃機関用の点火装置の動作環境を模式的に示すブロック図である。
図6】第2変形例に係る内燃機関用の点火装置の動作環境を模式的に示すブロック図である。
図7】第3変形例に係る内燃機関用の点火装置の動作環境を模式的に示すブロック図である。
図8】第4変形例に係る内燃機関用の点火装置の動作環境を模式的に示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の例示的な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0023】
<1.第1実施形態>
<1-1.点火装置の構成>
まず、本発明の第1実施形態となる内燃機関用の点火装置1の構成について、図面を参照しつつ説明する。図1は、第1実施形態に係る点火装置1の動作環境を模式的に示すブロック図である。なお、後述のとおり、点火装置1に含まれる点火コイル103の1次コイルL1と2次コイルL2とは、互いに積層される方向に配置されるが、図1では、理解容易のため、これらを隣接させて図示している。
【0024】
本実施形態の点火装置1は、例えば、自動車等の車体100に用いられるSI(火花点火)レシプロエンジン等の内燃機関に搭載され、点火プラグ113に火花放電を発生させるための高電圧を印加する装置である。また、図1に示すように、車体100には、当該点火装置1に加え、当該点火プラグ113と、電源装置102(バッテリ)と、ECU105(Engine Control Unit)とが、備えられている。なお、広義の意味において、点火プラグ113と、電源装置102と、ECU105とは、点火装置1に含まれると見ることもできる。
【0025】
点火プラグ113は、内燃機関の燃焼室で着火動作を実現するための装置である。点火プラグ113は、後述する点火コイル103の2次コイルL2の一端822に、導線(以下、「第2接続線121」と称する)を介して電気的に接続される。点火プラグ113は、2次コイルL2の一端822と接地点(グランド)との間に介挿される。点火コイル103の2次コイルL2に高電圧が誘起され、この高電圧が点火プラグ113の中心電極141と接地電極142との間のギャップd(図1参照)における絶縁破壊電圧を超えると、ギャップdにおいて放電が起こり、火花が発生する。これにより、内燃機関に充填された燃料に点火される。すなわち、点火プラグ113は、2次コイルL2の一端822に誘起される高電圧に基づいて、ギャップdにおいて放電することによって、燃料に点火する。
【0026】
なお、本実施形態では、燃料として、水素や、水素と他の物質との混合物が用いられる。すなわち、内燃機関用の点火装置1には、少なくとも水素を含む燃料が用いられる。
【0027】
また、第2接続線121や点火プラグ113には、15~20pF程度の静電容量成分が存在する。すなわち、2次コイルL2の一端822から点火プラグ113までの間には、静電容量成分が形成される。以下では、この静電容量成分を、仮想的に定義される「浮遊容量Cs」と称する。図1に示すように、浮遊容量Csは、ブロック図において模式的に点火プラグ113と並列に表すことができる。
【0028】
電源装置102は、直流電力を充放電可能な電源装置(蓄電池)である。本実施形態では、電源装置102は、後述する点火コイル103の1次コイルL1と、導線(以下、「電源線150」と称する)を介して電気的に接続される。電源装置102は、点火コイル103の1次コイルL1の一端811へ、電源線150を介して直流電圧を印加する。
【0029】
ECU105は、車体100のトランスミッションやエアバックの作動等を総合的に制御する既存のコンピュータである。
【0030】
点火装置1は、点火コイル103、イグナイタ104、第1逆流防止ダイオード111、第1抵抗112、および第1制限ダイオード114を有する。
【0031】
図2は、点火コイル103の縦断面図である。図2に示すように、点火コイル103は、ボビン40と、1次コイルL1と、2次コイルL2と、鉄心60とを有する。なお、図2では、1次コイルL1および2次コイルL2を、一部簡略化して図示している。また、以下の点火コイル103の説明においては、ボビン40の中心軸Bcと平行な方向を「軸方向」、ボビン40の中心軸Bcに直交する方向を「径方向」、ボビン40の中心軸Bcを中心とする円弧に沿う方向を「周方向」、とそれぞれ称する。また、当該「平行な方向」とは、略平行な方向も含むものとし、当該「直交する方向」とは、略直交する方向も含むものとする。
【0032】
ボビン40は、互いに連結可能な1次ボビン41および2次ボビン42を含む。1次ボビン41および2次ボビン42はそれぞれ、中心軸Bcに沿って筒状に延びる。また、1次ボビン41の径方向の外側に、2次ボビン42が配置される。1次ボビン41および2次ボビン42の材料には、例えば、樹脂が用いられる。
【0033】
1次コイルL1は、1次ボビン41の外周面に導線(以下「1次導線81」と称する)が、中心軸Bcを中心とする周方向に巻回されることによって形成される。1次コイルL1の形成が完了した後、1次コイルL1の外周面を覆うように、2次ボビン42が配置され、1次ボビン41に連結される。そして、2次ボビン42の外周面に、1次導線81とは別の導線(以下「2次導線82」と称する)が、中心軸Bcを中心とする周方向に巻回されることによって、2次コイルL2が形成される。このように、1次コイルL1と2次コイルL2とを互いに積層するように配置することによって、これらを含む点火コイル103全体を小型化できる。ただし、1次コイルL1と2次コイルL2は、このように互いに積層されつつ巻回される場合のみでなく、図1のように互いに隣接しつつ配置されてもよい。
【0034】
鉄心60は、中心鉄心601と外周鉄心602とが組み合わさった構造を有する。鉄心60の中心鉄心601および外周鉄心602はそれぞれ、例えば、珪素鋼板が積層された積層鋼板により形成される。中心鉄心601は、ボビン40の中心軸Bcに沿って延びる。また、中心鉄心601は、1次ボビン41の径方向の内側の空間410に挿通される。外周鉄心602は、2次ボビン42および2次導線82よりも径方向の外側を通り、中心鉄心601の軸方向の両端部を繋ぐ。これにより、鉄心60は、1次コイルL1と2次コイルL2とを電磁結合させる閉磁路構造を形成する。すなわち、点火コイル103は、1次コイルL1と2次コイルL2とが互いに電磁結合されることによって形成される。
【0035】
図1に示すように、1次コイルL1の一端811には、上記の電源装置102から延びる導線である電源線150が接続される。1次コイルL1の他端812は、後述するイグナイタ104に接続される。イグナイタ104に制御されることによって、1次コイルL1の一端811に、電源装置102からの直流の低電圧が印加され、1次コイルL1に次第に増加する1次電流が流れ始める。
【0036】
2次コイルL2の一端822は、点火プラグ113に接続される。2次導線82の線径は、1次導線81の線径よりも小さい。また、2次コイルL2における2次導線82の巻き数(例えば、8000回)は、1次コイルL1における1次導線81の巻き数(例えば、100回)の80倍程度以上である。これにより、詳細を後述するとおり、点火コイル103は、1次電流の遮断時に、電源装置102から供給される直流の低電圧の電力を、数千V~数万Vにまで昇圧する。すなわち、2次コイルL2には高電圧が誘起される。そして、2次コイルL2は、誘起された高電圧の電力を、点火プラグ113ヘと供給する。これにより、点火プラグ113において電気火花を発生させて燃料を点火させる。
【0037】
なお、図1に示すように、2次コイルL2のうち、点火プラグ113が接続される一端822とは反対側の他端821は、2本の導線(以下、「第1接続線122a」および「第1接続線122b」と称する)を介して電源装置102と直接的または間接的かつ電気的に接続される。第1接続線122a,122bは、2次コイルL2の他端821と、電源装置102との間で、並列に配線される。本実施形態では、2次コイルL2の他端821は、第1接続線122aまたは第1接続線122bを介して、電源線150と電気的に接続される。
【0038】
また、本実施形態では、2本の第1接続線122a,122bのうちの一方である第1接続線122aにおいて、第1逆流防止ダイオード111が介挿される。第1逆流防止ダイオード111は、2次コイルL2と直列に接続される。本実施形態の第1逆流防止ダイオード111には、電流を一方向にしか流さない機能を持った通常のダイオードが用いられる。また、第1逆流防止ダイオード111は、2次コイルL2の一端822から他端821へ向かう方向において、順方向となる。
【0039】
また、本実施形態では、2本の第1接続線122a,122bのうちの他方である第1接続線122bにおいて、第1抵抗112が介挿される。第1抵抗112は、2次コイルL2と直列に接続される。また、本実施形態の第1抵抗112の抵抗値は、1MΩ以上、かつ、10MΩ以下である。
【0040】
また、本実施形態では、2本の第1接続線122a,122bのうちの他方である第1接続線122bにおいて、さらに第1制限ダイオード114が介挿される。第1制限ダイオード114は、2次コイルL2および第1抵抗112と、それぞれ直列に接続される。本実施形態の第1制限ダイオード114には、ツェナーダイオードが用いられる。ただし、第1制限ダイオード114には、アバランシェダイオードが用いられてもよい。また、第1制限ダイオード114は、2次コイルL2の一端822から他端821へ向かう方向において、順方向となる。
【0041】
また、本発明では、第1制限ダイオード114として、降伏電圧が点火プラグ113のギャップdにおける絶縁破壊電圧よりも小さいものが用いられる。本実施形態において用いられる第1制限ダイオード114の降伏電圧は、2kV以下である。第1制限ダイオード114の降伏電圧を2kV以下とすることによる効果については、詳細を後述する。
【0042】
詳細を後述するとおり、イグナイタ104のスイッチング素子70を閉状態にし、1次コイルL1に1次電流を流して充電すると(ON時)、2次コイルL2の両端821,822に電位差が生じる。本実施形態では、ON時において、2次コイルL2の一端822は、他端821よりも高電圧となる。以下では、2次コイルL2の一端822と他端821との電位差を、「ON時電圧」と称することとする。ON時電圧の最大値は、電源装置102から電源線150を介して1次コイルL1の一端811へ印加される直流電圧の電圧値に、1次コイルL1の巻き数に対する2次コイルL2の巻き数の比率を掛けることによって、算出される。
【0043】
例えば、1次コイルL1の一端811へ印加される直流電圧の電圧値を12Vとし、1次コイルL1の巻き数を100回とし、2次コイルL2の巻き数を8000回とすると、1次コイルL1の巻き数に対する2次コイルL2の巻き数の比率は80となるため、ON時電圧の最大値は、12×80=960Vと算出される。このため、2次コイルL2の一端822に掛かる電圧の最大値は、例えば、プラス480V程度となり、2次コイルL2の他端821に掛かる電圧の最小値は、例えば、マイナス480V程度となる。また、場合により、2次コイルL2の一端822に掛かる電圧の最大値が0V程度となり、2次コイルL2の他端821に掛かる電圧の最小値がマイナス960V程度となることも想定され得る。一方、このとき、電源線150に掛かる電圧は12Vである。
【0044】
ここで、上記のとおり、第1制限ダイオード114の降伏電圧は、2kV以下(例えば、490V)である。このため、1次コイルL1に1次電流を流した際(ON時)に、2次コイルL2の他端821(第1制限ダイオード114のアノード側)に掛かる電圧の最小値(例えば、マイナス480V)に対して、電源線150(第1制限ダイオード114のカソード側)に掛かる電圧値(例えば、プラス12V)が、第1制限ダイオード114の降伏電圧(例えば、490V)を超える差分以上に大きくなる場合には、第1制限ダイオード114における逆方向に電流が流れる。すなわち、電流が、電源装置102の側から、第1接続線122bを介して2次コイルL2の側へ向かって流れる。なお、第1逆流防止ダイオード111が介挿された第1接続線122aには、電流は流れない。
【0045】
しかしながら、第1接続線122bには、第1制限ダイオード114と直列に、第1抵抗112が介挿されている。第1抵抗112の抵抗値は、1MΩ以上である。これにより、第1接続線122bを介して電流が流れる際に、第1抵抗112にて電圧が掛かるため、結果として、2次コイルL2において生じるON時電圧を低減することができる。この結果、点火プラグ113において、ON時、すなわち、異常タイミングにて、放電が起こることを抑制できる。
【0046】
一方、1次コイルL1に1次電流を流した際(ON時)に、2次コイルL2の他端821(第1制限ダイオード114のアノード側)に掛かる電圧の最小値(例えば、マイナス480V)に対して、電源線150(第1制限ダイオード114のカソード側)に掛かる電圧値(例えば、プラス12V)が、第1制限ダイオード114の降伏電圧(例えば、5500V)を超える差分以上に大きくならない場合には、第1制限ダイオード114における逆方向に、すなわち、第1接続線122bを介して電流が2次コイルL2側に流れてしまうことを抑制できる。すなわち、この場合でも、点火プラグ113において、ON時、すなわち、異常タイミングにて、放電が起こることを抑制できる。
【0047】
イグナイタ104は、1次コイルL1に接続され、1次コイルL1に流れる電流を制御する半導体デバイスである。また、イグナイタ104は、ECU105と電気的に接続され、ECU105から信号(以下「EST信号」と称する)を受信する。イグナイタ104は、スイッチング素子70と、駆動IC71とを有する。なお、イグナイタ104は、ECU105の電子回路と一体化されていてもよい。
【0048】
スイッチング素子70には、例えば、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)が用いられる。スイッチング素子70は、1次コイルL1の他端812と、接地点(グランド)との間に介挿される。スイッチング素子70のC(コレクタ)は、1次コイルL1の他端812に接続される。スイッチング素子70のE(エミッタ)は、グランドに接続される。スイッチング素子70のG(ゲート)は、駆動IC71に接続される。
【0049】
これにより、スイッチング素子70は、電源装置102から1次コイルL1へ流れる1次電流の通電または遮断の切り替えが可能となる。スイッチング素子70が閉状態になると、電源装置102から1次コイルL1に1次電流が流れる。スイッチング素子70が開状態となると、1次コイルL1に流れる1次電流が遮断される。ただし、スイッチング素子70には、他の種類のトランジスタが用いられてもよい。
【0050】
駆動IC71は、ECU105から受信するEST信号に基づき、スイッチング素子70の切り替えを制御する制御部である。駆動IC71は、スイッチング素子70に接続された論理デバイスを有する。論理デバイスには、例えば、論理回路、プロセッサ、CPLD(complex programmablelogic device)、FPGA(field-programmable gate array)、またはASIC(application-specific integrated circuit)等が含まれる。論理デバイスは、点火装置1を動作させて点火プラグ113に点火するための演算処理を行う。
【0051】
<1-2.点火装置の動作>
続いて、点火装置1の動作について説明する。図3は、点火装置1を動作させる際の、EST信号の波形と、2次コイルL2に流れる電流(2次電流)の波形と、2次コイルL2の一端822に生じる電圧(2次電圧)とを、それぞれ時系列で示したグラフである。なお、図3の2次電流については、2次コイルL2の一端822から他端821へ向かう方向は負、2次コイルL2の他端821から一端822へ向かう方向は正として、図示している。また、図3の2次電圧については、接地点(グランド)に対する2次コイルL2の一端822に掛かる電圧の値を図示している。
【0052】
上記のとおり、1次コイルL1の一端811には、電源装置102から直流電圧(例えば、12V)が電源線150を介して印加される。また、1次コイルL1の他端812は、スイッチング素子70に接続される。また、駆動IC71は、ECU105から受信するEST信号に基づき、スイッチング素子70の切り替えを制御する。図3に示すように、点火装置1を動作させる際は、まず時刻t0にて、ECU105から駆動IC71へ送信されるEST信号の信号レベルをLからHにする。すると、駆動IC71は、EST信号に基づき、スイッチング素子70を開状態から閉状態に切り替える。これにより、1次コイルL1を形成する1次導線81に1次電流が流れ、1次コイルL1に電荷が充電される(以下、このような、1次コイルL1に1次電流を流して充電する工程を「充電制御」と称する)。また、1次コイルL1に通電磁束が生じ、通電磁束に応じた磁界が鉄心60へ作用する。
【0053】
また、鉄心60を介して1次コイルL1と電磁結合された2次コイルL2の両端821,822において、相互誘導作用により、電位差、すなわち、ON時電圧(例えば、960V)が生じる。これにより、2次コイルL2の一端822に掛かる電圧の最大値は正の値(例えば、プラス480V程度)となり、2次コイルL2の他端821に掛かる電圧の最小値は負の値(例えば、マイナス480V程度)となる。このとき、電源線150に掛かる電圧は、例えば12Vである。
【0054】
ここで、2次コイルL2の他端821と電源線150とを繋ぐ第1接続線122bには、第1抵抗112と、第1制限ダイオード114とが、介挿されている。第1制限ダイオード114は、2次コイルL2の一端822から他端821へ向かう方向において順方向となり、かつ、第1制限ダイオード114の降伏電圧は、2kV以下(例えば、490V)である。このため、1次コイルL1に1次電流を流した際(ON時)に、2次コイルL2の他端821(第1制限ダイオード114のアノード側)に掛かる電圧の最小値(例えば、マイナス480V)に対して、電源線150(第1制限ダイオード114のカソード側)に掛かる電圧値(例えば、プラス12V)が、第1制限ダイオード114の降伏電圧(例えば、490V)を超える差分以上に大きくなる場合には、第1制限ダイオード114における逆方向に電流が流れる。すなわち、電流(2次電流)が、電源装置102の側から、第1接続線122bを介して2次コイルL2の側へ向かって流れる。なお、第1接続線122aには、2次コイルL2の一端822から他端821へ向かう方向において順方向となる第1逆流防止ダイオード111が介挿されているため、電流は流れない。
【0055】
しかしながら、第1接続線122bには、第1制限ダイオード114と直列に、第1抵抗112が介挿されている。第1抵抗112の抵抗値は、1MΩ以上である。これにより、第1接続線122bを介して電流が流れる際に、第1抵抗112にて十分な大きさの電圧が掛かるため、結果として、2次コイルL2において生じるON時電圧や2次電圧を低減することができる。この結果、点火プラグ113において、ON時、すなわち、異常タイミングにて、放電が起こることを抑制できる。
【0056】
一方、1次コイルL1に1次電流を流した際(ON時)に、2次コイルL2の他端821(第1制限ダイオード114のアノード側)に掛かる電圧の最小値(例えば、マイナス480V)に対して、電源線150(第1制限ダイオード114のカソード側)に掛かる電圧値(例えば、プラス12V)が、第1制限ダイオード114の降伏電圧(例えば、5500V)を超える差分以上に大きくならない場合には、第1制限ダイオード114における逆方向に、すなわち、第1接続線122bを介して電流(2次電流)が2次コイルL2側に流れてしまうことを抑制できる。すなわち、この場合でも、点火プラグ113において、ON時、すなわち、異常タイミングにて、放電が起こることを抑制できる。
【0057】
充電制御を行った後、時刻t1にて、ECU105から駆動IC71へ送信されるEST信号の信号レベルをHからLにする。すると、駆動IC71は、スイッチング素子70を閉状態から開状態に切り替えて、電源装置102から1次コイルL1へ流れる1次電流を遮断する。これにより、鉄心60を介して1次コイルL1と電磁結合された2次コイルL2において、相互誘導作用により、誘導起電力が誘起される。本実施形態では、2次コイルL2の一端822に、負の高電圧が誘起される。このとき、2次コイルL2の一端822に掛かる電圧値(2次電圧の値)は、接地点(グランド)に対して、マイナス数千V~数万Vに及ぶ。
【0058】
また、2次コイルL2の一端822に誘起される負の高電圧の絶対値は、点火プラグ113のギャップdにおける絶縁破壊電圧を超える。これにより、点火プラグ113のギャップdにおいて絶縁破壊が生じる。そして、接地点(グランド)から、点火プラグ113の接地電極142を介して点火プラグ113の中心電極141へ向かい(図1参照)、さらに2次コイルL2を流れ、かつ、第1逆流防止ダイオード111および第1制限ダイオード114を順方向に流れる電流が生じる。本実施形態では、電流の大半が第1逆流防止ダイオード111を順方向に流れ、一部が第1制限ダイオード114を順方向に流れ、電源装置102を介して接地点(グランド)へ流れる。
【0059】
この結果、点火プラグ113のギャップdにおいて放電が起こることによって、火花が発生し、内燃機関に充填された燃料に点火される。なお、本発明では、このようにスイッチング素子70を開状態に切り替えて、1次コイルL1へ流れる1次電流を遮断し、2次コイルL2の一端822に高電圧を誘起させることによって、点火プラグ113のギャップdにおいて放電させる工程を「放電制御」と称する。なお、2次コイルL2の一端822に誘起される負の高電圧の絶対値が、点火プラグ113のギャップdにおける絶縁破壊電圧を下回ると(時刻t2)、点火プラグ113のギャップdにおける放電が一旦終了する。
【0060】
ここで、上記のとおり、2次コイルL2の一端822から点火プラグ113までの間には、15~20pH程度の静電容量成分からなる浮遊容量Csが形成されている。このため、点火プラグ113のギャップdにおける放電が一旦終了した時点(時刻t2)においても、依然として、2次コイルL2の一端822付近、第2接続線121、または点火プラグ113の中心電極141の付近等において、電荷が残留する場合がある。本実施形態では、これらの箇所に、負の電荷が残留する。これにより、時刻t2において、2次コイルL2の一端822における電圧値(以下、「残留電圧値Rv」と称する)は、接地点(グランド)に対して、負の値(例えば、マイナス3kV)となる。なお、残留電圧値Rvの絶対値は、点火プラグ113のギャップdにおける絶縁破壊電圧よりも小さい。しかしながら、この状況を放置すれば、その後に内燃機関内の圧力変化が生じたとき等に、予期しないタイミングで、点火プラグ113のギャップdにおいて再び放電が起こる虞がある。
【0061】
そこで、本発明では、第1制限ダイオード114として、降伏電圧が、点火プラグ113のギャップdにおける絶縁破壊電圧および残留電圧値Rvの絶対値よりも小さいものが用いられる。本実施形態において用いられる第1制限ダイオード114の降伏電圧は、2kV以下である。上記の例では、2次コイルL2の一端822(第1制限ダイオード114のアノード側)における残留電圧値Rvは、負の値(例えば、マイナス3kV)である。一方、電源線150(第1制限ダイオード114のカソード側)に掛かる電圧は、正の値(例えば、プラス12V)であり、残留電圧値Rvに対して、第1制限ダイオード114の降伏電圧を超える差分以上に大きくなる。
【0062】
これにより、放電終了後に、点火プラグ113において再び放電が起こることなく、短時間に、電源装置102の側から、第1制限ダイオード114における逆方向に電流が流れる。すなわち、電流(2次電流)が、電源装置102の側から、第1接続線122bを介して2次コイルL2の側へ向かって流れる。なお、第1接続線122aには、2次コイルL2の一端822から他端821へ向かう方向において順方向となる第1逆流防止ダイオード111が介挿されているため、電流は流れない。
【0063】
これにより、2次コイルL2の一端822付近、第2接続線121、または点火プラグ113の中心電極141の付近等に残留する電荷を打ち消し、2次コイルL2の一端822に掛かる電圧(2次電圧)の絶対値を低減し、これらの箇所に残留する残留エネルギーを低減することができる。この結果、その後に内燃機関内の圧力変化が生じた場合でも、異常タイミングで、点火プラグ113のギャップdにおいて放電が起こることをさらに抑制できる。
【0064】
また、上記のとおり、第1抵抗112の抵抗値は、10MΩ以下である。このように、第1抵抗112の抵抗値をある程度小さくすることによって、放電終了後に、電源装置102の側から、第1接続線122bを介して2次コイルL2の側へ向かう電流を一定以上維持することができる。これにより、2次コイルL2の一端822付近、第2接続線121、または点火プラグ113の中心電極141の付近等に残留する残留エネルギーをより低減させることができる。
【0065】
なお、放電終了後のこの現象は、第1制限ダイオード114のアノード側に在る2次コイルL2の一端822に掛かる電圧(2次電圧)と、第1制限ダイオード114のカソード側に在る電源線150に掛かる電圧との電位差が、第1制限ダイオード114の降伏電圧と等しくなるまで継続される。ここで、2次コイルL2の一端822に掛かる電圧(2次電圧)の絶対値は、電源線150に掛かる電圧の絶対値に比べて、大幅に大きいことから、この現象は、2次電圧(図3において「Vz」と図示される)の絶対値が、第1制限ダイオード114の降伏電圧と略等しくなるまで継続されるとみなすことができる。なお、2次コイルL2の一端822の電圧(2次電圧)の絶対値は、その後、点火プラグ113の中心電極141と接地電極142との間のギャップdを介してイオン電流が流れたり、第1制限ダイオード114を漏れ電流が流れたりすることによって、さらに低減される。
【0066】
以上のとおり、本実施形態では、まず、充電制御として、1次コイルL1に1次電流を流した際(ON時)に、電流が、電源装置102の側から、第1接続線122bを介して2次コイルL2の側へ流れ、このとき第1抵抗112に電流が流れて電圧が掛かることによって、2次コイルL2において生じるON時電圧を低減することができる。
【0067】
また、放電終了後に、電流(2次電流)が、電源装置102の側から、第1接続線122bを介して、かつ、第1制限ダイオード114を逆方向に、2次コイルL2の側へ向かって流れる。これにより、2次コイルL2の一端822付近、第2接続線121、または点火プラグ113の中心電極141の付近等に残留する電荷を打ち消し、2次コイルL2の一端822に掛かる電圧(2次電圧)の絶対値を低減し、これらの箇所に残留する残留エネルギーを低減することができる。すなわち、点火プラグ113において再び放電が起こることなく、短時間に、2次電圧の絶対値を、第1制限ダイオード114の降伏電圧と略等しくなるまで、低減することができる。この結果、その後に内燃機関内の圧力変化が生じた場合でも、異常タイミングで、点火プラグ113のギャップdにおいて放電が起こることを抑制できる。この結果、比較的低温でも燃焼し易く、かつ燃焼速度が速い特性を有する水素を含む燃料を用いる内燃機関においても、異常タイミングで燃料に引火することを抑制し、エンジン等の破損の抑制に繋がる。
【0068】
なお、第1制限ダイオード114は、必ずしも設けられなくてもよい。図4は、第1変形例に係る点火装置1の動作環境を模式的に示すブロック図である。図4の第1変形例では、2次コイルL2の他端821と電源装置102との間で並列に配線された2本の第1接続線122a,122bのうちの一方である第1接続線122aにおいて、第1逆流防止ダイオード111が介挿される。第1逆流防止ダイオード111は、2次コイルL2の一端822から他端821へ向かう方向において順方向となるダイオードである。また、2本の第1接続線122a,122bのうちの他方である第1接続線122bにおいて、第1抵抗112のみが介挿される。
【0069】
第1変形例において、まず、充電制御として、1次コイルL1に1次電流を流した際(ON時)に、電流が、電源装置102の側から、第1接続線122bを介して2次コイルL2の側へ流れ、第1抵抗112に電流が流れて電圧が掛かることによって、2次コイルL2において生じるON時電圧を低減することができる。この結果、点火プラグ113において、ON時、すなわち、異常タイミングにて、放電が起こることを抑制できる。
【0070】
また、放電制御として、スイッチング素子70を閉状態から開状態に切り替えて、電源装置102から1次コイルL1へ流れる1次電流を遮断すると、2次コイルL2の一端822に、マイナス数千V~数万Vに及ぶ負の高電圧が誘起される。これにより、点火プラグ113のギャップdにおいて絶縁破壊が生じる。そして、接地点(グランド)から、点火プラグ113の接地電極142を介して点火プラグ113の中心電極141へ向かい(図4参照)、さらに2次コイルL2を流れ、かつ、第1逆流防止ダイオード111が介挿された第1接続線122aを順方向に流れ、または第1抵抗112が介挿された第1接続線122bを流れる電流が生じる。この結果、点火プラグ113のギャップdにおいて放電が起こることによって、火花が発生し、内燃機関に充填された燃料に点火される。
【0071】
また、放電終了後に、点火プラグ113において再び放電が起こることなく、短時間に、電流が、電源装置102の側から、第1抵抗112が介挿された第1接続線122bを介して2次コイルL2の側へ向かって流れる。これにより、2次コイルL2の一端822付近、第2接続線121、または点火プラグ113の中心電極141の付近等に残留する電荷を打ち消し、2次コイルL2の一端822に掛かる電圧(2次電圧)の絶対値を低減し、これらの箇所に残留する残留エネルギーを低減することができる。この結果、その後に内燃機関内の圧力変化が生じた場合でも、点火プラグ113のギャップdにおいて異常タイミングで放電が起こることをさらに抑制できる。
【0072】
<2.第2実施形態>
続いて、本発明の第2実施形態について説明する。なお、以下では、第1実施形態との相違点を中心に説明し、第1実施形態と同等の部分については、重複説明を省略する。
【0073】
図5は、第2実施形態に係る点火装置1の動作環境を模式的に示すブロック図である。図5に示すように、第2実施形態では、2次コイルL2の一端822は、2本の導線(以下、「第2接続線121a」および「第2接続線121b」と称する)を介して点火プラグ113と直接的または間接的かつ電気的に接続される。第2接続線121a,121bは、2次コイルL2の一端822と、点火プラグ113との間で、並列に配線される。なお、2次コイルL2の他端821は、第1接続線122を介して電源線150に接続される。
【0074】
また、本実施形態では、2本の第2接続線121a,121bのうちの一方である第2接続線121aにおいて、第2逆流防止ダイオード131が介挿される。第2逆流防止ダイオード131は、2次コイルL2と直列に接続される。本実施形態の第2逆流防止ダイオード131には、電流を一方向にしか流さない機能を持った通常のダイオードが用いられる。また、第2逆流防止ダイオード131は、2次コイルL2の一端822から他端821へ向かう方向において、順方向となる。
【0075】
また、本実施形態では、2本の第2接続線121a,121bのうちの他方である第2接続線121bにおいて、第2抵抗132が介挿される。第2抵抗132は、2次コイルL2と直列に接続される。また、本実施形態の第2抵抗132の抵抗値は、1MΩ以上、かつ、10MΩ以下である。
【0076】
また、本実施形態では、2本の第2接続線121a,121bのうちの他方である第2接続線121bにおいて、さらに第2制限ダイオード134が介挿される。第2制限ダイオード134は、2次コイルL2および第2抵抗132と、それぞれ直列に接続される。本実施形態の第2制限ダイオード134には、ツェナーダイオードが用いられる。ただし、第2制限ダイオード134には、アバランシェダイオードが用いられてもよい。また、第2制限ダイオード134は、2次コイルL2の一端822から他端821へ向かう方向において、順方向となる。第2制限ダイオード134は、第1実施形態の第1制限ダイオード114と同等の構成を有する。
【0077】
また、本発明では、第2制限ダイオード134として、降伏電圧が点火プラグ113のギャップdにおける絶縁破壊電圧よりも小さいものが用いられる。本実施形態において用いられる第2制限ダイオード134の降伏電圧は、2kV以下である。また、2次コイルL2の一端822から点火プラグ113までの間には、15~20pH程度の静電容量成分からなる浮遊容量Csが形成されている。
【0078】
第2実施形態において、まず、充電制御として、1次コイルL1に1次電流を流した際(ON時)には、2次コイルL2の両端821,822において、ON時電圧(例えば、960V)が生じる。2次コイルL2の一端822に掛かる電圧の最大値は正の値(例えば、プラス480V程度)となり、2次コイルL2の他端821に掛かる電圧の最小値は負の値(例えば、マイナス480V程度)となる。一方、このとき、電源線150に掛かる電圧は、例えば12Vである。
【0079】
このため、電源装置102の側から、電源線150および第1接続線122を介して、2次コイルL2の側へ向かう電流が流れる。ここで、2次コイルL2の一端822と点火プラグ113とを繋ぐ第2接続線121bには、第2抵抗132が、介挿されている。第2抵抗132の抵抗値は、1MΩ以上である。これにより、第2接続線121bを介して電流が流れる際に、第2抵抗132にて電圧が掛かるため、結果として、2次コイルL2において生じるON時電圧や2次電圧を低減することができる。この結果、点火プラグ113において、ON時、すなわち、異常タイミングにて、放電が起こることを抑制できる。
【0080】
また、放電制御として、スイッチング素子70を閉状態から開状態に切り替えて、電源装置102から1次コイルL1へ流れる1次電流を遮断すると、2次コイルL2の一端822に、マイナス数千V~数万Vに及ぶ負の高電圧が誘起される。これにより、点火プラグ113のギャップdにおいて絶縁破壊が生じる。そして、接地点(グランド)から、点火プラグ113の接地電極142を介して点火プラグ113の中心電極141へ向かい(図5参照)、かつ、第2逆流防止ダイオード131が介挿された第2接続線121aを順方向に流れ、または第2抵抗132が介挿された第2接続線121bを流れ、さらに2次コイルL2へ向かって流れる電流が生じる。この結果、点火プラグ113のギャップdにおいて放電が起こることによって、火花が発生し、内燃機関に充填された燃料に点火される。
【0081】
また、放電終了後に、電流(2次電流)が、電源装置102の側から、電源線150および第1接続線122を介して、2次コイルL2の一端822付近、第2接続線121b、および点火プラグ113の中心電極141の付近等へ向かって流れる。これにより、2次コイルL2の一端822付近、第2接続線121b、または点火プラグ113の中心電極141の付近等に残留する電荷を打ち消し、2次コイルL2の一端822に掛かる電圧(2次電圧)の絶対値を低減し、これらの箇所に残留する残留エネルギーを低減することができる。すなわち、点火プラグ113において再び放電が起こることなく、短時間に、2次電圧の絶対値を低減することができる。この結果、その後に内燃機関内の圧力変化が生じた場合でも、異常タイミングで、点火プラグ113のギャップdにおいて放電が起こることを抑制できる。これにより、比較的低温でも燃焼し易く、かつ燃焼速度が速い特性を有する水素を含む燃料を用いる内燃機関においても、異常タイミングで燃料に引火することを抑制し、エンジン等の破損の抑制に繋がる。
【0082】
また、上記のとおり、第2抵抗132の抵抗値は、10MΩ以下である。このように、第2抵抗132の抵抗値をある程度小さくすることによって、放電終了後に、電源装置102の側から、第2接続線121bを介して点火プラグ113の中心電極141の付近等へ向かう電流を一定以上維持することができる。これにより、点火プラグ113の中心電極141の付近等に残留する残留エネルギーをより低減させることができる。
【0083】
なお、第2制限ダイオード134は、必ずしも設けられなくてもよい。図6は、第2変形例に係る点火装置1の動作環境を模式的に示すブロック図である。図6の第2変形例では、2次コイルL2の一端822と点火プラグ113との間で並列に配線された2本の第2接続線121a,121bのうちの一方である第2接続線121aにおいて、第2逆流防止ダイオード131が介挿される。第2逆流防止ダイオード131は、2次コイルL2の一端822から他端821へ向かう方向において順方向となるダイオードである。また、2本の第2接続線121a,121bのうちの他方である第2接続線121bにおいて、第2抵抗132のみが介挿される。
【0084】
第2変形例において、まず、充電制御として、1次コイルL1に1次電流を流した際(ON時)に、電流(2次電流)が、電源装置102の側から、電源線150および第1接続線122を介して、2次コイルL2の側へ流れる。このとき、第2抵抗132に電流が流れて電圧が掛かることによって、2次コイルL2において生じるON時電圧を低減することができる。この結果、点火プラグ113において、ON時、すなわち、異常タイミングにて、放電が起こることを抑制できる。
【0085】
また、放電制御として、スイッチング素子70を閉状態から開状態に切り替えて、電源装置102から1次コイルL1へ流れる1次電流を遮断すると、2次コイルL2の一端822に、マイナス数千V~数万Vに及ぶ負の高電圧が誘起される。これにより、点火プラグ113のギャップdにおいて絶縁破壊が生じる。そして、接地点(グランド)から、点火プラグ113の接地電極142を介して点火プラグ113の中心電極141へ向かい(図6参照)、かつ、第2逆流防止ダイオード131が介挿された第2接続線121aを順方向に流れ、または第2抵抗132が介挿された第2接続線121bを流れ、さらに2次コイルL2へ向かって流れる電流が生じる。この結果、点火プラグ113のギャップdにおいて放電が起こることによって、火花が発生し、内燃機関に充填された燃料に点火される。
【0086】
また、放電終了後に、点火プラグ113において再び放電が起こることなく、短時間に、電流(2次電流)が、電源装置102の側から、電源線150および第1接続線122を介して、2次コイルL2の一端822付近、第2接続線121b、および点火プラグ113の中心電極141の付近等へ向かって流れる。これにより、2次コイルL2の一端822付近、第2接続線121b、または点火プラグ113の中心電極141の付近等に残留する電荷を打ち消し、2次コイルL2の一端822に掛かる電圧(2次電圧)の絶対値を低減し、これらの箇所に残留する残留エネルギーを低減することができる。この結果、その後に内燃機関内の圧力変化が生じた場合でも、点火プラグ113のギャップdにおいて異常タイミングで放電が起こることをさらに抑制できる。
【0087】
<3.変形例>
以上、本発明の例示的な実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態には限定されない。
【0088】
上記の実施形態および変形例では、充電制御において、2次コイルL2の一端822に掛かる電圧は正の値となり、2次コイルL2の他端821に掛かる電圧は負の値となるように構成されていた。また、放電制御において、2次コイルL2の一端822に、マイナス数千V~数万Vに及ぶ負の高電圧が誘起されるように構成されていた。しかしながら、1次コイルL1における1次導線81の巻回の方向や、2次コイルL2における2次導線82の巻回の方向を変更することによって、2次コイルL2の両端821,822に現れる電圧値の正負が逆になるようにしてもよい。この場合、第1実施形態における第1接続線122aに介挿される第1逆流防止ダイオード111,第1接続線122bに介挿される第1制限ダイオード114,第2実施形態における第2接続線121aに介挿される第2逆流防止ダイオード131,および第2接続線121bに介挿される第2制限ダイオード134の、順方向と逆方向とを、それぞれ逆にすればよい。
【0089】
上記の第1実施形態では、第1逆流防止ダイオード111のカソード側および第1制限ダイオード114のカソード側と、2次コイルL2の他端821は、それぞれ電源装置102のプラス側に接続されていた。しかしながら、図7の第3変形例に示すように、これらは、接地点(グランド)に接続されてもよい。すなわち、第1逆流防止ダイオード111は、2次コイルL2の他端821と接地点(グランド)との間で並列に配線された2本の第1接続線122a,122bのうちの一方において介挿され、第1制限ダイオード114は、第1接続線122a,122bのうちの他方において介挿され、それぞれ、2次コイルL2の一端822から他端821へ向かう方向において順方向となるダイオードであってもよい。また、上記の第2実施形態では、第2逆流防止ダイオード131のカソード側および第2制限ダイオード134のカソード側は、それぞれ電源装置102のプラス側に接続されていた。しかしながら、図8の第4変形例に示すように、これらは、接地点(グランド)に接続されてもよい。
【0090】
第3変形例および第4変形例において、まず、充電制御として、1次コイルL1に1次電流を流した際(ON時)には、2次コイルL2の両端821,822において、ON時電圧(例えば、960V)が生じる。2次コイルL2の一端822に掛かる電圧の最大値は正の値(例えば、プラス480V程度)となり、2次コイルL2の他端821に掛かる電圧の最小値は負の値(例えば、マイナス480V程度)となる。
【0091】
ここで、第3変形例では、第1接続線122a,122bにおいて、第1逆流防止ダイオード111および第1制限ダイオード114が介挿されている。また、第4変形例では、第2接続線121a,121bにおいて、第2逆流防止ダイオード131および第2制限ダイオード134が介挿されている。これらはそれぞれ、2次コイルL2の一端822から他端821へ向かう方向において、順方向となる。このため、電流が、2次コイルL2の一端822から他端821へ向かい、さらに接地点(グランド)へ流れることによって、2次コイルL2において生じるON時電圧や2次電圧を低減することができる。この結果、点火プラグ113において、ON時、すなわち、異常タイミングにて、放電が起こることを抑制できる。
【0092】
また、放電制御として、スイッチング素子70を閉状態から開状態に切り替えて、電源装置102から1次コイルL1へ流れる1次電流を遮断すると、2次コイルL2の一端822に、マイナス数千V~数万Vに及ぶ負の高電圧が誘起される。これにより、点火プラグ113のギャップdにおいて絶縁破壊が生じる。そして、第3変形例では、接地点(グランド)から、点火プラグ113の接地電極142を介して点火プラグ113の中心電極141へ向かい(図7参照)、2次コイルL2の一端822から他端821へ流れ、かつ、第1逆流防止ダイオード111が介挿された第1接続線122aを順方向に流れ、または第1制限ダイオード114が介挿された第1接続線122bを順方向に流れ、さらに接地点(グランド)へ向かって流れる電流(2次電流)が生じる。
【0093】
また、第4変形例では、接地点(グランド)から、点火プラグ113の接地電極142を介して点火プラグ113の中心電極141へ向かい(図8参照)、かつ、第2逆流防止ダイオード131が介挿された第2接続線121aを順方向に流れ、または第2制限ダイオード134が介挿された第2接続線121bを順方向に流れ、2次コイルL2の一端822から他端821へ向かい、さらに接地点(グランド)へ向かって流れる電流(2次電流)が生じる。この結果、点火プラグ113のギャップdにおいて放電が起こることによって、火花が発生し、内燃機関に充填された燃料に点火される。
【0094】
また、放電終了後に、第3変形例では、電流(2次電流)が、接地点(グランド)から、第1接続線122a,122bを介して、2次コイルL2の一端822付近、第2接続線121、および点火プラグ113の中心電極141の付近等へ向かって流れる。また、第4変形例では、電流(2次電流)が、接地点(グランド)から、第1接続線122を介して、2次コイルL2の一端822付近、第2接続線121a,121b、および点火プラグ113の中心電極141の付近等へ向かって流れる。
【0095】
これにより、これらの箇所に残留する残留エネルギーを低減することができる。すなわち、点火プラグ113において再び放電が起こることなく、短時間に、2次コイルL2の一端822に掛かる電圧(2次電圧)の絶対値を低減することができる。この結果、その後に内燃機関内の圧力変化が生じた場合でも、異常タイミングで、点火プラグ113のギャップdにおいて放電が起こることを抑制できる。この結果、比較的低温でも燃焼し易く、かつ燃焼速度が速い特性を有する水素を含む燃料を用いる内燃機関においても、異常タイミングで燃料に引火することを抑制し、エンジン等の破損の抑制に繋がる。
【0096】
本発明の点火装置は、自動車等の車両のみならず、発電機等の様々な装置や産業機械に搭載されて、内燃機関の点火プラグに電気火花を発生させて燃料を点火させるために使用されるものであればよい。
【0097】
上記の点火装置の細部の形状や構造は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜に変更してもよい。また、上記の実施形態や変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0098】
1 点火装置
60 鉄心
70 スイッチング素子
81 1次導線
82 2次導線
102 電源装置
103 点火コイル
104 イグナイタ
105 ECU
111 第1逆流防止ダイオード
112 第1抵抗
113 点火プラグ
114 第1制限ダイオード
121,121a,121b 第2接続線
122,122a,122b 第1接続線
131 第2逆流防止ダイオード
132 第2抵抗
134 第2制限ダイオード
150 電源線
811 1次コイルの一端
812 1次コイルの他端
821 2次コイルの他端
822 2次コイルの一端
Cs 浮遊容量
71 駆動IC(制御部)
L1 1次コイル
L2 2次コイル
Rv 残留電圧値
d (点火プラグの)ギャップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8