(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023179038
(43)【公開日】2023-12-19
(54)【発明の名称】膜形成用組成物及び半導体基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/266 20060101AFI20231212BHJP
H01L 21/265 20060101ALI20231212BHJP
C08G 8/00 20060101ALI20231212BHJP
C08G 8/28 20060101ALI20231212BHJP
C07D 487/04 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
H01L21/265 M
H01L21/265 Z
H01L21/265 602A
C08G8/00
C08G8/28
C07D487/04 136
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022092076
(22)【出願日】2022-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 優弥
(72)【発明者】
【氏名】山田 修平
(72)【発明者】
【氏名】米田 英司
【テーマコード(参考)】
4C050
4J033
【Fターム(参考)】
4C050AA01
4C050BB05
4C050CC05
4C050EE04
4C050FF01
4C050GG03
4C050HH01
4J033CA05
4J033CA22
4J033CA42
4J033CA46
4J033CC08
4J033CD05
4J033CD06
4J033HA02
4J033HA22
(57)【要約】
【課題】高温アニーリングの際に高平坦性を基板表面に付与し得るキャッピング膜を形成可能な膜形成用組成物及びこれを用いる半導体基板の製造方法を提供する。
【解決手段】半導体基板の製造において、基板へのイオン注入工程後のアニーリング工程におけるキャッピング膜を形成するための膜形成用組成物であって、芳香環を有する化合物と、溶媒とを含み、上記芳香環を有する化合物が、主鎖に芳香環を有する重合体、分子量が600以上3000以下の芳香環含有化合物又はこれらの組み合わせである、膜形成用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板の製造において、基板へのイオン注入工程後のアニーリング工程におけるキャッピング膜を形成するための膜形成用組成物であって、
芳香環を有する化合物と、
溶媒と
を含み、
上記芳香環を有する化合物が、主鎖に芳香環を有する重合体、分子量が600以上3000以下の芳香環含有化合物又はこれらの組み合わせである、膜形成用組成物。
【請求項2】
上記主鎖に芳香環を有する重合体が、下記式(1)で表される繰り返し単位を有する重合体である、請求項1に記載の膜形成用組成物。
【化1】
(式(1)中、Ar
1は、環員数5~40の芳香環を有する2価の基である。R
0は、水素原子又は炭素数1~40の1価の有機基である。R
1は、炭素数1~40の1価の有機基である。)
【請求項3】
上記分子量が600以上3000以下の芳香環含有化合物の炭素含有割合が80質量%以上である、請求項1又は2に記載の膜形成用組成物。
【請求項4】
上記芳香環が、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナレン環、フェナントレン環、ピレン環、フルオレン環及びペリレン環からなる群より選ばれる少なくとも1つの芳香族炭化水素環である、請求項1~3のいずれか1項に記載の膜形成用組成物。
【請求項5】
上記芳香環を有する化合物は、ヒドロキシ基、下記式(2-1)で表される基及び下記式(2-2)で表される基からなる群より選ばれる少なくとも1つの基を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の膜形成用組成物。
【化2】
(式(2-1)及び(2-2)中、R
7は、それぞれ独立して、炭素数1~20の2価の有機基又は単結合である。*は芳香環における炭素原子との結合手である。)
【請求項6】
上記芳香環を有する化合物はドーパントを含まない、請求項1~5のいずれか1項に記載の膜形成用組成物。
【請求項7】
基板にイオン注入する工程と、
上記イオン注入工程後の上記基板の少なくともイオン注入領域に膜形成用組成物を塗工する工程と、
上記膜形成用組成物塗工工程により形成されたキャッピング膜を有する基板を1000℃以上でアニーリングする工程と
を備え、
上記膜形成用組成物が、
芳香環を有する化合物と、
溶媒と
を含み、
上記芳香環を有する化合物が、主鎖に芳香環を有する樹脂、分子量が600以上3000以下の芳香環含有化合物又はこれらの組み合わせである、半導体基板の製造方法。
【請求項8】
上記アニーリング工程前に、上記膜形成用組成物塗工工程により形成されたキャッピング膜を100℃以上600℃以下で加熱する工程を備える、請求項7に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項9】
上記基板が、炭化ケイ素、窒化ガリウム及びダイヤモンドからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項7又は8に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項10】
上記主鎖に芳香環を有する重合体が、下記式(1)で表される繰り返し単位を有する重合体である、請求項7~9のいずれか1項に記載の半導体基板の製造方法。
【化3】
(式(1)中、Ar
1は、環員数5~40の芳香環を有する2価の基である。R
0は、水素原子又は炭素数1~40の1価の有機基である。R
1は、炭素数1~40の1価の有機基である。)
【請求項11】
上記分子量が600以上3000以下の芳香環含有化合物の炭素含有割合が80質量%以上である、請求項7~10のいずれか1項に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項12】
上記芳香環が、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナレン環、フェナントレン環、ピレン環、フルオレン環及びペリレン環からなる群より選ばれる少なくとも1つの芳香族炭化水素環である、請求項7~11のいずれか1項に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項13】
上記芳香環を有する化合物は、ヒドロキシ基、下記式(2-1)で表される基及び下記式(2-2)で表される基からなる群より選ばれる少なくとも1つの基を有する、請求項7~12のいずれか1項に記載の半導体基板の製造方法。
【化4】
(式(2-1)及び(2-2)中、R
7は、それぞれ独立して、炭素数1~20の2価の有機基又は単結合である。*は芳香環における炭素原子との結合手である。)
【請求項14】
上記膜形成用組成物中の上記芳香環を有する化合物の含有割合は、5質量%以上30質量%以下である、請求項7~13のいずれか1項に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項15】
上記芳香環を有する化合物はドーパントを含まない、請求項7~14のいずれか1項に記載の半導体基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜形成用組成物及び半導体基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
次世代の小型、低損失、かつ、高出力のパワー半導体材料として、炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)などのワイドバンドギャップ半導体が注目されている。SiC等に対する不純物の拡散係数は極めて小さいことから、一般的にイオン注入とこれに続いて不純物を活性化するための高温アニーリングとを行う。
【0003】
高温アニーリングの際、SiC表面からSiが脱離したり、表面原子を再配列したりして基板表面に数nm程度の荒れが生じ、半導体デバイスのゲート絶縁膜の信頼性やチャネル移動度が低下する場合がある。そこで、表面に保護膜を設けて高温処理するキャップアニーリング技術が提案されている(特許第6348801号公報)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
半導体材料の高品質化には、キャップアニーリングの際の表面の荒れをサブナノメートルオーダーで抑制して高平坦性の基板表面とすることが要求される。
【0006】
本発明は以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、高温アニーリングの際に高平坦性を基板表面に付与し得るキャッピング膜を形成可能な膜形成用組成物及びこれを用いる半導体基板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、一実施形態において、
半導体基板の製造において、基板へのイオン注入工程後のアニーリング工程におけるキャッピング膜を形成するための膜形成用組成物であって、
芳香環を有する化合物(以下、「[A]化合物」ともいう。)と、
溶媒(以下、「[B]溶媒」ともいう。)と
を含み、
上記芳香環を有する化合物が、主鎖に芳香環を有する重合体(以下、「[A1]重合体」ともいう。)、分子量が600以上3000以下の芳香環含有化合物(以下、「[A2]芳香環含有化合物」ともいう。)又はこれらの組み合わせである、膜形成用組成物に関する。
【0008】
本発明は、他の実施形態において、
基板にイオン注入する工程と、
上記イオン注入工程後の上記基板の少なくともイオン注入領域に膜形成用組成物を塗工する工程と、
上記膜形成用組成物塗工工程により形成されたキャッピング膜を有する基板を1000℃以上でアニーリングする工程と
を備え、
上記膜形成用組成物が、
芳香環を有する化合物と、
溶媒と
を含み、
上記芳香環を有する化合物が、主鎖に芳香環を有する樹脂、分子量が600以上3000以下の芳香環含有化合物又はこれらの組み合わせである、半導体基板の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
当該膜形成用組成物によれば、高温アニーリングの際に高平坦性を基板表面に付与し得るキャッピング膜を効率的に形成することができる。当該半導体基板の製造方法によれば、高温アニーリングの際に高平坦性を基板表面に付与し得るキャッピング膜を形成するため、高品質の半導体基板を提供することができる。従って、これらは、今後さらに高機能化が進行すると予想される半導体デバイスの製造等に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の各実施形態に係る膜形成用組成物及び半導体基板の製造方法について詳説する。実施形態における好適な態様の組み合わせもまた好ましい。
【0011】
《膜形成用組成物》
当該膜形成用組成物(以下、単に「組成物」ともいう。)は、半導体基板の製造において、基板へのイオン注入工程後のアニーリング工程におけるキャッピング膜を形成するために用いられ、[A]化合物と[B]溶媒とを含有する。当該組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、任意成分を含有していてもよい。
【0012】
以下、当該組成物が含有する各成分について説明する。
【0013】
<[A]化合物>
[A]化合物は、芳香環を有する化合物であり、[A1]重合体、[A2]芳香環含有化合物(ただし、[A1]重合体に該当する化合物を除く。)又はこれらの組み合わせである。[A1]重合体及び[A2]芳香環含有化合物はそれぞれ1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0014】
上記芳香環としては、環員数5~40の芳香環が好ましく、環員数9~40の多環縮合芳香環が好ましい。上記芳香環としては、例えばベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナレン環、フェナントレン環、ピレン環、フルオレン環、ペリレン環、コロネン環等の芳香族炭化水素環、フラン環、ピロール環、チオフェン環、ホスホール環、ピラゾール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、トリアジン環等の複素芳香環、又はこれらの組み合わせ等が挙げられる。上記芳香環は、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナレン環、フェナントレン環、ピレン環、フルオレン環及びペリレン環からなる群より選ばれる少なくとも1つの芳香族炭化水素環であることが好ましい。
【0015】
本明細書において、「環員数」とは、環を構成する原子の数をいう。例えば、ビフェニル環の環員数は12であり、ナフタレン環の環員数は10であり、フルオレン環の環員数は13である。「多環縮合芳香環」とは、複数の芳香環が辺(隣接する2つの炭素原子間の結合)を共有する形で構成された多環性の芳香族炭化水素をいう。
【0016】
[A]化合物は、耐熱性の点で、ドーパントを含まないことが好ましい。
【0017】
([A1]重合体)
[A1]重合体は、主鎖に芳香環を有する重合体である。主鎖に含まれる芳香環としては、上記環員数5~40の芳香環を好適に採用することができる。上記主鎖に芳香環を有する樹脂としては、耐熱性の観点から、重縮合化合物が好ましい。
【0018】
[A]化合物としての[A1]重合体は、下記式(1)で表される繰り返し単位を有する重合体(以下、「[A11]重合体」ともいう。)であることが好ましい。[A11]重合体は、下記式(1)で表される繰り返し単位を2種以上有していてもよい。
【化1】
(式(1)中、Ar
1は、環員数5~40の芳香環を有する2価の基である。R
0は、水素原子又は炭素数1~40の1価の有機基である。R
1は、炭素数1~40の1価の有機基である。)
【0019】
上記式(1)中、Ar1における環員数5~40の芳香環としては、上記環員数5~40の芳香環を好適に採用することができる。中でも、Ar1の芳香環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、ピレン環、フルオレン環又はこれらの組み合わせであることが好ましい。
【0020】
上記式(1)中、Ar1で表される環員数5~40の芳香環を有する2価の基としては、上記Ar1における環員数5~40の芳香環又は当該芳香環と鎖状構造との組み合わせから2個の水素原子を除いた基等が好適に挙げられる。芳香環を組み合わせる場合、芳香環同士は縮合環構造のほか、単結合で結合していてもよい。
【0021】
鎖状構造としては、炭素数1~20の鎖状炭化水素を好適に採用することができる。炭素数1~20の2価の鎖状炭化水素としては、例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ヘキサン、オクタン等が挙げられる。これらは直鎖状又は分岐状のいずれであってもよい。中でも、炭素数1~8の直鎖状又は分岐状のアルカンが好ましい。
【0022】
上記式(1)中、R0及びR1で表される炭素数1~40の1価の有機基としては、例えば、炭素数1~20の1価の炭化水素基、この炭化水素基の炭素-炭素間若しくは炭素鎖末端に2価のヘテロ原子含有基を有する基、上記炭化水素基が有する水素原子の一部又は全部を1価のヘテロ原子含有基で置換した基又はこれらの組み合わせ等があげられる。
【0023】
炭素数1~20の1価の炭化水素基としては、例えば、炭素数1~20の1価の鎖状炭化水素基、炭素数3~20の1価の脂環式炭化水素基、炭素数6~20の1価の芳香族炭化水素基又はこれらの組み合わせ等があげられる。
【0024】
本明細書において、「炭化水素基」には、鎖状炭化水素基、脂環式炭化水素基及び芳香族炭化水素基が含まれる。この「炭化水素基」には、飽和炭化水素基及び不飽和炭化水素基が含まれる。「鎖状炭化水素基」とは、環構造を含まず、鎖状構造のみで構成された炭化水素基を意味し、直鎖状炭化水素基及び分岐鎖状炭化水素基の両方を含む。「脂環式炭化水素基」とは、環構造としては脂環構造のみを含み、芳香環構造を含まない炭化水素基を意味し、単環の脂環式炭化水素基及び多環の脂環式炭化水素基の両方を含む(ただし、脂環構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造を含んでいてもよい)。「芳香族炭化水素基」とは、環構造として芳香環構造を含む炭化水素基を意味する(ただし、芳香環構造のみで構成されている必要はなく、その一部に脂環構造や鎖状構造を含んでいてもよい)。
【0025】
炭素数1~20の1価の鎖状炭化水素基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等のアルキル基;エテニル基、プロペニル基、ブテニル基等のアルケニル基;エチニル基、プロピニル基、ブチニル基等のアルキニル基などが挙げられる。
【0026】
炭素数3~20の1価の脂環式炭化水素基としては、例えばシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;シクロプロペニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等のシクロアルケニル基;ノルボルニル基、アダマンチル基、トリシクロデシル基等の橋かけ環飽和炭化水素基;ノルボルネニル基、トリシクロデセニル基等の橋かけ環不飽和炭化水素基などが挙げられる。
【0027】
炭素数6~20の1価の芳香族炭化水素基としては、フェニル基、トリル基、ナフチル基、アントラセニル基、ピレニル基等が挙げられる。
【0028】
2価又は1価のヘテロ原子含有基を構成するヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子、ケイ素原子、ハロゲン原子等があげられる。ハロゲン原子としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子があげられる。
【0029】
2価のヘテロ原子含有基としては、例えば、-CO-、-CS-、-NH-、-O-、-S-、-SO-、-SO2-、又はこれらを組み合わせた基等があげられる。
【0030】
1価のヘテロ原子含有基としては、例えば、ヒドロキシ基、スルファニル基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子等があげられる。
【0031】
上記R0は水素原子であることが好ましい。
【0032】
[A]化合物としての[A1]重合体は、ヒドロキシ基、下記式(2-1)で表される基及び下記式(2-2)で表される基からなる群より選ばれる少なくとも1つの基(以下、下記式(2-1)で表される基又は下記式(2-2)で表される基を「基(α)」ともいう。)を有することが好ましい。
【化2】
(式(2-1)及び(2-2)中、R
7は、それぞれ独立して、炭素数1~20の2価の有機基又は単結合である。*は芳香環における炭素原子との結合手である。)
【0033】
上記式(2-1)及び(2-2)中、R7で表される炭素数1~20の2価の有機基としては、上記式(1)のR0及びR1で表される炭素数1~40の1価の有機基のうち炭素数1~20に対応する構造から水素原子を1個除いた基を好適に採用することができる。
【0034】
R7としてはメタンジイル基、エタンジイル基、フェニレン基等の炭素数1~10の2価の炭化水素基、-O-又はこれらの組み合わせが好ましく、メタンジイル基、又はメタンジイル基と-O-との組み合わせがより好ましい。
【0035】
[A]化合物としての[A1]重合体は、上記式(2-1)で表される基を有し、該基は下記式(2-1-1)で表されることが好ましい。
【化3】
【0036】
上記式(1)のAr1、R0及びR1のうちの少なくとも1つは、ヒドロキシ基又は上記基(α)を有することが好ましい。少なくともAr1がヒドロキシ基又は基(α)を有することが好ましい。
【0037】
Ar1、R0及びR1は、ヒドロキシ基及び上記基(α)以外の置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば炭素数1~10の1価の鎖状炭化水素基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等のアルコキシ基、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等のアリールオキシ基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基、メトキシカルボニルオキシ基、エトキシカルボニルオキシ基等のアルコキシカルボニルオキシ基、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基等のアシル基、シアノ基、ニトロ基などが挙げられる。
【0038】
上記式(1)で表される繰り返し単位としては、例えば下記式(1-1)~(1-28)で表される繰り返し単位等が挙げられる。
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
中でも、上記式(1-5)~(1-7)、(1-11)~(1-12)、(1-21)~(1-24)で表される繰り返し単位が好ましい。
【0044】
([A11]重合体の製造方法)
[A11]重合体は、代表的に、上記式(1)のAr1を与えるフェノール性水酸基を有する前駆体としての芳香環化合物と、上記式(1)のR0を与える前駆体としてのアルデヒド誘導体との酸付加縮合により製造することができる。さらに、上記式(2-1)又は(2-2)で表される基(α)に対応するハロゲン化炭化水素へのフェノール性水酸基による求核置換反応により、置換基として基(α)を導入した[A11]重合体を製造することができる。酸触媒としては特に限定されず、公知の無機酸及び有機酸を用いることができる。反応後、分離、精製、乾燥等を経て[A11]重合体を得ることができる。反応溶媒としては、後述の[B]溶媒を好適に採用することができる。
【0045】
(その他の[A1]重合体)
[A1]重合体として、[A11]重合体以外に、レゾール系樹脂、ポリアリーレン系樹脂、トリアジン系樹脂、カリックスアレーン系樹脂等を用いることができる。これらの樹脂は公知の方法により製造することができる。
【0046】
(レゾール系樹脂)
レゾール系樹脂は、フェノール性化合物と、アルデヒド類とをアルカリ性触媒を用いて反応させて得られる樹脂である。
【0047】
フェノール性化合物としては、例えば、
フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシノール、ビスフェノールA等のフェノール類;
1-ナフトール、2-ナフトール、1,5-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン、9,9-ビス(6-ヒドロキシナフチル)フルオレン等のナフトール類;
9-アントロール等のアントロール類;
1-ヒドロキシピレン、2-ヒドロキシピレン等のヒドロキシピレン類などが挙げられる。
【0048】
アルデヒド類としては、例えば
ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、1-ピレンカルボキシアルデヒド等のアルデヒド;
パラホルムアルデヒド、トリオキサン、パラアルデヒド等のアルデヒド源などが挙げられる。
【0049】
(ポリアリーレン系樹脂)
ポリアリーレン系樹脂は、アリーレン骨格を含む化合物に由来する構造単位を有する樹脂である。アリーレン骨格としては、例えばフェニレン骨格、ナフチレン骨格、ビフェニレン骨格等が挙げられる。
【0050】
ポリアリーレン系樹脂としては、例えばポリアリーレンエーテル、ポリアリーレンスルフィド、ポリアリーレンエーテルスルホン、ポリアリーレンエーテルケトン、ビフェニレン骨格を含む構造単位とアセナフチレン骨格を含む化合物に由来する構造単位とを有する樹脂等が挙げられる。
【0051】
(トリアジン系樹脂)
トリアジン系樹脂は、トリアジン骨格を有する化合物に由来する構造単位を有する樹脂である。トリアジン骨格を有する化合物としては、例えばメラミン化合物、シアヌル酸化合物等が挙げられる。
【0052】
(カリックスアレーン系樹脂)
カリックスアレーン系樹脂は、ヒドロキシ基が結合する芳香環が炭化水素基を介して複数個環状に結合した環状オリゴマー又はこのヒドロキシ基、芳香環及び炭化水素基が有する水素原子の一部若しくは全部が置換された化合物である。
【0053】
[A1]重合体が、[A11]重合体、レゾール系樹脂、ポリアリーレン系樹脂又はトリアジン系樹脂である場合、主鎖の芳香環として多環縮合芳香環を有する[A1]重合体の重量平均分子量の下限としては、500が好ましく、1000がより好ましく、1500がさらに好ましい。上記分子量の上限としては、10000が好ましく、7000がより好ましく、5000がさらに好ましい。主鎖の芳香環として単環芳香環を有する[A1]重合体の重量平均分子量の下限としては、1000が好ましく、3000がより好ましく、5000がさらに好ましい。上記分子量の上限としては、30000が好ましく、20000がより好ましく、15000がさらに好ましい。なお、重量平均分子量の測定方法は、実施例の記載による。
【0054】
[A1]重合体がカリックスアレーン系樹脂である場合、[A1]重合体の分子量の下限としては、500が好ましく、700がより好ましく、1,000がさらに好ましい。上記分子量の上限としては、5,000が好ましく、3,000がより好ましく、1,500がさらに好ましい。
【0055】
([A2]芳香環含有化合物)
[A2]芳香環含有化合物は、芳香環を有し、かつ分子量が600以上3000以下の化合物である限り特に限定されない(ただし、[A1]重合体に該当する化合物を除く。)。
【0056】
[A2]芳香環含有化合物の炭素含有割合は、耐熱性の点で、80質量%以上であることが好ましい。上記炭素含有割合の下限は、82質量%がより好ましく、85質量%がさらに好ましい。上記炭素含有割合の上限は、98質量%が好ましく、96質量%がさらに好ましい。
【0057】
[A2]芳香環含有化合物は、下記式(3)で表される化合物(以下、「[A21]芳香環含有化合物」ともいう。)であることが好ましい。
【化8】
(上記式(3)中、
Wは、置換又は非置換の環員数5~60の芳香環を含むq価の基である。
R
aは、環員数5~40の芳香環を含む1価の基である。
qは1~10の整数である。qが2以上である場合、複数のR
aは、互いに同一又は異なる。)
【0058】
上記Wにおける環員数5~60の芳香環としては、[A]化合物が有し得るとする上記環員数5~40の芳香環を環員数60まで拡張した芳香環を好適に採用することができる。Wで表される置換又は非置換の環員数5~60の芳香環を含むq価の基としては、上記環員数5~60の芳香環からq個の水素原子を除いた基が挙げられる。Wが置換基を有する場合の置換基としては、ヒドロキシ基、上記基(α)及びこれら以外の置換基として挙げた上記置換基を好適に採用することができる。
【0059】
上記Wの芳香環は、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナレン環、フェナントレン環、ピレン環、フルオレン環、ペリレン環及びコロネン環からなる群より選ばれる少なくとも1つの芳香族炭化水素環であることが好ましい。
【0060】
上記Raにおける環員数5~40の芳香環としては、[A]化合物が有し得るとする上記環員数5~40の芳香環を好適に採用することができる。Raで表される環員数5~40の芳香環を含む1価の基としては、上記環員数5~40の芳香環から1個の水素原子を除いた基が挙げられる。上記R4の芳香環は、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナレン環、フェナントレン環、ピレン環、フルオレン環、ペリレン環及びコロネン環からなる群より選ばれる少なくとも1つの芳香族炭化水素環であることが好ましい。Raが置換基を有する場合の置換基としては、ヒドロキシ基、上記基(α)及びこれら以外の置換基として挙げた上記置換基を好適に採用することができる。
【0061】
上記R
aは、下記式(3-1)又は(3-2)で表される基であることが好ましい。
【化9】
(式(3-1)及び(3-2)中、X
1及びX
2は、それぞれ独立して、下記式(i)、(ii)、(iii)又は(iv)で表される基である。Ar
5、Ar
6及びAr
7は、それぞれ独立して、上記式(3-1)及び(3-2)における隣接する2つの炭素原子とともに縮合環構造を形成する置換又は非置換の環員数6~20の芳香環である。L
1及びL
2は、それぞれ独立して、単結合又は芳香環を有する2価の有機基である。*は、上記式(3)のWにおける炭素原子との結合手である。)
【化10】
(式(i)中、R
11及びR
12は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~20の1価の有機基である。
式(ii)中、R
13は、水素原子又は炭素数1~20の1価の有機基である。R
14は、炭素数1~20の1価の有機基である。
式(iii)中、R
15は、炭素数1~20の1価の有機基である。
式(iv)中、R
16は、水素原子又は炭素数1~20の1価の有機基である。)
【0062】
上記式(i)、(ii)、(iii)及び(iv)において、R11、R12、R13、R14、R15及びR16(以下、「R11~R16」と表記することもある。)で表される炭素数1~20の1価の有機基としては、上記式(1)のR0及びR1で表される炭素数1~40の1価の有機基のうち炭素数1~20に対応する基が挙げられる。
【0063】
上記式(3-1)及び(3-2)中、Ar5、Ar6及びAr7(以下、「Ar5~Ar7」と表記することもある。)は、それぞれ独立して、上記式(3-1)及び(3-2)における隣接する2つの炭素原子とともに縮合環構造を形成する置換又は非置換の環員数6~20の芳香環である。Ar5~Ar7における環員数6~20の芳香環としては、[A]化合物が有し得るとする上記環員数5~40の芳香環のうち環員数6~20に対応する芳香環を好適に採用することができる。
【0064】
Ar5~Ar7が置換基を有する場合の置換基としては、ヒドロキシ基、上記基(α)及びこれら以外の置換基として挙げた上記置換基を好適に採用することができる。
【0065】
上記式(3-1)及び(3-2)中、L1及びL2における芳香環を有する2価の有機基としては、[A]化合物が有し得るとする上記環員数5~40の芳香環から2個の水素原子を除いた置換又は非置換の基(以下、「基(β)」ともいう。)が好適に挙げられる。L1及びL2で表される芳香環を有する2価の有機基としては、当該基(β)と上記R11~R16で表される炭素数1~20の1価の有機基から1個の水素原子を除いた基とを組み合わせた基であってもよい。L1及びL2で表される芳香環を有する2価の有機基としては、置換又は非置換の環員数6~12のアレーンジイル基、置換又は非置換の炭素数2~10のアルケンジイル基、炭素数2~10のアルキンジイル基又はこれらの組み合わせが好ましく、ベンゼンジイル基、ナフタレンジイル基、エチレンジイル基、エチンジイル基又はこれらの組み合わせがより好ましく、ベンゼンジイル基又はベンゼンジイル基とエチンジイル基との組み合わせがさらに好ましい。
【0066】
上記式(3-1)及び(3-2)中、L1及びL2は単結合であることが好ましい。
【0067】
[A21]芳香環含有化合物としては、例えば下記式(3-1)~(3-12)で表される化合物等が挙げられる。
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
[A21]芳香環含有化合物の合成方法としては、代表的には、出発原料として例えばフルオレンのケトンやアルキン置換体を準備し、触媒等の存在下でケトン部分やアルキン部分の環化反応を進行させることで合成することができる。その他の構造についても、出発原料やケトン体の構造等を適宜選択することで合成することができる。
【0072】
当該膜形成用組成物における[A]化合物の含有割合の下限としては、[A]化合物及び[B]溶媒の合計質量中、0.01質量%が好ましく、0.02質量%がより好ましく、0.1質量%がさらに好ましく、0.5質量%が特に好ましい。上記含有割合の上限としては、[A]重合体及び[B]溶媒の合計質量中、50質量%が好ましく、40質量%がより好ましく、30質量%がさらに好ましく、20質量%が特に好ましい。
【0073】
<[B]溶媒>
[B]溶媒は、[A]化合物及び必要に応じて含有する任意成分を溶解又は分散することができれば特に限定されない。
【0074】
[B]溶媒としては、例えば炭化水素系溶媒、エステル系溶媒、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、含窒素系溶媒などが挙げられる。[B]溶媒は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0075】
炭化水素系溶媒としては、例えばn-ペンタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒などが挙げられる。
【0076】
エステル系溶媒としては、例えばジエチルカーボネート等のカーボネート系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル等の酢酸モノエステル系溶媒、γ-ブチロラクトン等のラクトン系溶媒、酢酸ジエチレングリコールモノメチルエーテル、酢酸プロピレングリコールモノメチルエーテル等の多価アルコール部分エーテルカルボキシレート系溶媒、乳酸メチル、乳酸エチル等の乳酸エステル系溶媒などが挙げられる。
【0077】
アルコール系溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、n-プロパノール等のモノアルコール系溶媒、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール等の多価アルコール系溶媒などが挙げられる。
【0078】
ケトン系溶媒としては、例えばメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等の鎖状ケトン系溶媒、シクロヘキサノン等の環状ケトン系溶媒などが挙げられる。
【0079】
エーテル系溶媒としては、例えばn-ブチルエーテル等の鎖状エーテル系溶媒、テトラヒドロフラン等の環状エーテル系溶媒等の多価アルコールエーテル系溶媒、ジエチレングリコールモノメチルエーテル等の多価アルコール部分エーテル系溶媒などが挙げられる。
【0080】
含窒素系溶媒としては、例えばN,N-ジメチルアセトアミド等の鎖状含窒素系溶媒、N-メチルピロリドン等の環状含窒素系溶媒などが挙げられる。
【0081】
[B]溶媒としては、エステル系溶媒又はケトン系溶媒が好ましく、多価アルコール部分エーテルカルボキシレート系溶媒又は環状ケトン系溶媒がより好ましく、酢酸プロピレングリコールモノメチルエーテル又はシクロヘキサノンがさらに好ましい。
【0082】
当該組成物における[B]溶媒の含有割合の下限としては、50質量%が好ましく、60質量%がより好ましく、70質量%がさらに好まく、80質量%が特に好ましい。上記含有割合の上限としては、99.99質量%が好ましく、99.98質量%がより好ましく、99.9質量%がさらに好ましく、99.5質量%が特に好ましい。
【0083】
[任意成分]
当該膜形成用組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において任意成分を含有していてもよい。任意成分としては、例えば酸発生剤、架橋剤、界面活性剤、増感剤等が挙げられる。任意成分は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0084】
[膜形成用組成物の調製方法]
当該組成物は、[A]化合物、[B]溶媒、及び必要に応じて任意成分を所定の割合で混合し、好ましくは得られた混合物を孔径0.5μm以下のメンブランフィルター等でろ過することにより調製できる。
【0085】
《半導体基板の製造方法》
当該半導体基板の製造方法は、基板にイオン注入する工程(以下、「イオン注入工程」ともいう。)と、上記イオン注入工程後の上記基板の少なくともイオン注入領域に膜形成用組成物を塗工する工程(以下、「塗工工程」ともいう。)と、上記膜形成用組成物塗工工程により形成されたキャッピング膜を有する基板を1000℃以上でアニーリングする工程(以下、「アニーリング工程」ともいう。)とを備える。
【0086】
当該半導体基板の製造方法は、上記アニーリング工程前に、上記膜形成用組成物塗工工程により形成されたキャッピング膜を100℃以上600℃以下で加熱する工程(以下、「膜加熱工程」ともいう。)を備えていてもよい。
【0087】
当該半導体基板の製造方法によれば、上記塗工工程において当該膜形成用組成物を用いることにより、高温アニーリングの際に高平坦性を基板表面に付与し得るキャッピング膜を形成するため、高品質の半導体基板を提供することができる。
【0088】
以下、当該半導体基板の製造方法に用いる組成物及び各工程について説明する。
【0089】
[イオン注入工程]
イオン注入工程では、基板にイオン注入する。イオン注入領域以外の部分をマスク層で被覆した上でイオン注入を行うことが好ましい。マスク層としては有機膜や無機膜等の公知のマスク層を用いることができる。
【0090】
基板としては、炭化ケイ素、窒化ガリウム、ダイヤモンド、酸化ガリウム、窒化アルミニウム、ケイ素等のウェハが挙げられる。上記基板は、炭化ケイ素、窒化ガリウム及びダイヤモンドからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。基板表面には、銅、金、チタンなどの金属電極あるいは金属配線が形成されていてもよい。
【0091】
ドーパントとして注入されるイオンは公知の元素を用いることができ、p型半導体領域の形成には、ホウ素、アルミニウム、ガリウム等が挙げられ、n型半導体領域の形成には、窒素、リン、ヒ素等が挙げられる。
【0092】
イオン注入温度の下限は、200℃が好ましく、250℃がより好ましく、300℃がさらに好ましい。イオン注入温度の上限は800℃が好ましく、700℃がより好ましく、600℃がさらに好ましい。これにより、注入層の高温アニールによる再結晶化を促進して低抵抗層を形成することができ、また、SiCの熱酸化やステップバンチングを防止することができる。
【0093】
イオン注入エネルギーの下限は、10keVが好ましく、50keVがより好ましく、100keVがさらに好ましい。イオン注入エネルギーの上限は1500keVが好ましく、1000keVがより好ましく、500keVがさらに好ましい。
【0094】
イオン注入時の真空度の下限は、1.0×10-5Paが好ましく、1.0×10-4Paがより好ましく、2.0×10-4Paがさらに好ましい。上記真空度の上限は、1.0×10-3Paが好ましく、8.0×10-4Paがより好ましく、5.0×10-4Paがさらに好ましい。
【0095】
[マスク除去工程]
次に、必要に応じて、マスク層を除去する工程を行ってもよい。マスク層の除去は、アッシングやエッチング等により行うことができる。除去方法としてはアッシングが好ましい。アッシング温度は特に限定されないものの、25℃以上200℃以下の範囲にて好適に行うことができる。
【0096】
[塗工工程]
本工程では、上記イオン注入工程後の上記基板の少なくともイオン注入領域に膜形成用組成物を塗工する。本工程では膜形成用組成物として、上述の当該膜形成用組成物を用いる。膜形成用組成物は、少なくともイオン注入領域に塗工すればよいものの、イオン注入領域外の領域を含めた所定領域にも塗工してもよく、基板表面全体に塗工してもよい。
【0097】
膜形成用組成物の塗工方法としては特に限定されず、例えば回転塗工、流延塗工、ロール塗工などの適宜の方法で実施することができる。これにより塗工膜が形成され、[B]溶媒の揮発などが起こることによりキャッピング膜が形成される。
【0098】
[膜加熱工程]
次に、アニーリング工程前に、上記膜形成用組成物塗工工程により形成されたキャッピング膜を100℃以上600℃以下で加熱する膜加熱工程を行ってもよい。加熱によりキャッピング膜の形成が促進される。より詳細には、塗工膜の加熱により[B]溶媒の揮発等が促進される。また、[A]化合物の硬化反応をより促進してキャッピング膜の耐熱性を向上させることができる。
【0099】
上記塗工膜の加熱は、大気雰囲気下で行ってもよいし、窒素雰囲気下で行ってもよい。加熱温度の下限としては、80℃が好ましく、120℃がより好ましく、160℃がさらに好ましい。上記加熱温度の上限としては、600℃が好ましく、550℃がより好ましく、500℃がさらに好ましい。加熱における時間の下限としては、15秒が好ましく、30秒がより好ましい。上記時間の上限としては、500秒が好ましく、300秒がより好ましい。
【0100】
形成されるキャッピング膜の平均厚みとの下限としては、1nmが好ましく、3nmがより好ましく、5nmがさらに好ましく、10nmが特に好ましい。上記平均厚みの上限としては、200μmが好ましく、150μmがより好ましく、100μmがさらに好ましく、80μmが特に好ましい。なお、平均厚みの測定方法は実施例の記載による。
【0101】
[アニーリング工程]
上記膜形成用組成物塗工工程により形成されたキャッピング膜を有する基板を1000℃以上でアニーリングする。これにより、イオン注入により損傷したSiC等の結晶を再結晶化させたり、イオンを効率的に拡散させて活性化させたりすることができる。アニーリング雰囲気は、大気雰囲気下でもよいものの、不活性ガス雰囲気下または水素添加不活性ガス雰囲気下であることが好ましい。アニーリング温度の下限は、1100℃が好ましく、1300℃がより好ましく、1500℃がさらに好ましい。アニーリング温度の上限は、2300℃が好ましく、2000℃がより好ましく、1800℃がさらに好ましい。
【0102】
その後、酸素プラズマアッシング等によりキャッピング膜を除去し、基板表面に各種素子を公知の方法により形成していくことで、半導体基板を製造するとことができる。
【実施例0103】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0104】
[重量平均分子量(Mw)]
重合体のMwは、東ソー(株)のGPCカラム(「G2000HXL」2本、「G3000HXL」1本、及び「G4000HXL」1本)を用い、流量:1.0mL/分、溶出溶媒:テトラヒドロフラン、カラム温度:40℃の分析条件で、単分散ポリスチレンを標準とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(検出器:示差屈折計)により測定した。
【0105】
[キャッピング膜の平均厚み]
キャッピング膜の平均厚みは、分光エリプソメータ(J.A.WOOLLAM社の「M2000D」)を用いて、キャッピング膜の中心を含む5cm間隔の任意の9点の位置で膜厚を測定し、それらの膜厚の平均値を算出した値として求めた。
【0106】
[合成例1](重合体(A-1)の合成)
反応容器に、窒素雰囲気下、1-ヒドロキシピレン61.2g、ベンズアルデヒド30.0gおよび1-ブタノール180.0gを仕込み、攪拌させて化合物を溶解させた。p-トルエンスルホン酸1水和物5.3gの1-ブタノール溶液10.0gを反応容器に添加した後、100℃に加熱して8時間反応させた。反応終了後、反応溶液を分液ロートに移し、メチルイソブチルケトン200gと水400gを加えて有機相を洗浄した。水相を分離した後、得られた有機相を数回、水で洗浄した。その後、エバポレーターで濃縮し,残渣をメタノール500g中に滴下させて沈殿物を得た。沈殿物を吸引濾過により回収し、メタノール100gで数回洗浄した。その後、真空乾燥機内にて60℃で12時間乾燥することにより、下記式(A-1)で表される重合体(A-1)を得た。重合体(A-1)のMwは2,300であった。
【0107】
【0108】
[合成例2](重合体(A-2)の合成)
ベンズアルデヒド30.0gの代わりに、ビフェニル-4-カルボキシアルデヒド51.0gに変えたこと以外は[合成例1]と同様の条件で反応させることにより、下記式(A-2)で表される重合体(A-2)を得た。重合体(A-2)のMwは2,800であった。
【0109】
【0110】
[合成例3](重合体(A-3)の合成)
ベンズアルデヒド30.0gの代わりに、1-ナフトアルデヒド44.0gに変えたこと以外は[合成例1]と同様の条件で反応させることにより、下記式(A-3)で表される重合体(A-3)を得た。重合体(A-3)のMwは2,400であった。
【0111】
【0112】
[合成例4](重合体(A-4)の合成)
反応容器に、窒素雰囲気下、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン30.0g、1-ナフトアルデヒド13.3gおよび1-ブタノール86.7gを仕込み、攪拌させて化合物を溶解させた。p-トルエンスルホン酸1水和物1.62gの1-ブタノール溶液5.0gを反応容器に添加した後、90℃に加熱して12時間反応させた。反応終了後、反応溶液を分液ロートに移し、メチルイソブチルケトン200gと水400gを加えて有機相を洗浄した。水相を分離した後、得られた有機相を数回、水で洗浄した。その後、エバポレーターで濃縮し,残渣をメタノール500g中に滴下させて沈殿物を得た。沈殿物を吸引濾過により回収し、メタノール100gで数回洗浄した。その後、真空乾燥機内にて60℃で12時間乾燥することにより、下記式(A-4)で表される重合体(A-4)を得た。重合体(A-4)のMwは4,000であった。
【0113】
【0114】
[合成例5](重合体(A-5)の合成)
1-ナフトアルデヒド13.3gの代わりに1-ピレンカルボキシアルデヒド19.7gに変えたこと以外は[合成例4]と同様の条件で反応させることにより、下記式(A-5)で表される重合体(A-5)を得た。重合体(A-5)のMwは3,500であった。
【0115】
【0116】
[合成例6](重合体(A-6)の合成)
反応容器に、窒素雰囲気下、1-ヒドロキシピレン10.8g、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン9.5g、1-ナフトール37.12gおよびパラホルムアルデヒド10.0gを仕込み、続いてp-トルエンスルホン酸一水和物0.7gの1-ブタノール(200g)溶液を反応容器に添加した後、室温で攪拌させて化合物を溶解させた。その後、100℃に加熱して10時間反応させた。反応終了後、反応溶液を分液ロートに移し、メチルイソブチルケトン200gと水400gを加えて有機相を洗浄した。水相を分離した後、得られた有機相を数回、水で洗浄した。その後、エバポレーターで濃縮し,残渣をメタノール500g中に滴下させて沈殿物を得た。沈殿物を吸引濾過により回収し、メタノール100gで数回洗浄した。その後、真空乾燥機内にて60℃で12時間乾燥することにより、重合体を得た(Mw=2,800)。さらに,得られた重合体5.0gをメチルイソブチルケトン25.0g、メタノール12.0g、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(25%水溶液)18.6gを加えて、室温で数分間攪拌させることで溶解させた。臭化プロパルギル6.0gを添加し、室温から60℃に加熱して4時間反応させた。反応終了後、反応溶液を分液ロートに移し、メチルイソブチルケトン200gと水200gを加えて有機相を分離した。有機相を数回水で洗浄した後、得られた有機相をエバポレーターで濃縮し、メタノール200g中に滴下させて沈殿物を得た。沈殿物を吸引濾過により回収し、メタノール50gで数回洗浄した。その後、真空乾燥機内にて60℃で12時間乾燥することにより、下記式(A-6)で表される重合体(A-6)を得た。重合体(A-6)のMwは3,200であった。下記式中、繰り返し単位の横に添えられている数字は各繰り返し単位の含有割合(モル%)を表す。以降の式中の数字も同様である。
【0117】
【0118】
[合成例7](重合体(A-7)の合成)
反応容器に、窒素雰囲気下、2,7-ジヒドロキシナフタレン107.2g、パラホルムアルデヒド50.7gおよび1-ブタノール300.0gを仕込み、攪拌させて化合物を溶解させた。p-トルエンスルホン酸1水和物3.2gの1-ブタノール溶液20.0gを反応容器に添加した後、100℃に加熱して8時間反応させた。反応終了後、反応溶液を分液ロートに移し、メチルイソブチルケトン200gと水400gを加えて有機相を洗浄した。水相を分離した後、得られた有機相を数回、水で洗浄した。その後、エバポレーターで濃縮し,残渣をメタノール500g中に滴下させて沈殿物を得た。沈殿物を吸引濾過により回収し、メタノール100gで数回洗浄した。その後、真空乾燥機内にて60℃で12時間乾燥することにより、重合体(Mw=2,000)を得た。さらに,得られた重合体5.0gをメチルイソブチルケトン25.0g、メタノール12.0g、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(25%水溶液)18.6gを加えて、室温で数分間攪拌させることで溶解させた。臭化プロパルギル6.0gを添加し、室温から60℃に加熱して4時間反応させた。反応終了後、反応溶液を分液ロートに移し、メチルイソブチルケトン200gと水200gを加えて有機相を分離した。有機相を数回水で洗浄した後、得られた有機相をエバポレーターで濃縮し、メタノール200g中に滴下させて沈殿物を得た。沈殿物を吸引濾過により回収し、メタノール50gで数回洗浄した。その後、真空乾燥機内にて60℃で12時間乾燥することにより、下記式(A-7)で表される重合体(A-7)を得た。重合体(A-7)のMwは2,200であった。
【0119】
【0120】
[合成例8](化合物(A-8)の合成)
反応容器に、窒素雰囲気下、1,3,5-ベンゼントリイルトリス-9H-フルオレン10.0g、シクロペンチルメチルエーテル80.0g、テトラメチルアンモニウムブロミド1.2g、50%水酸化ナトリウム水溶液11.2gを加えて室温で数分間攪拌させた。臭化プロパルギル16.5を添加して、80℃で6時間反応させた。反応終了後、反応溶液を分液ロートに移し、メチルイソブチルケトンと1%シュウ酸水溶液を加えて有機相を分離した。得られた有機相を得られた有機相をエバポレーターで濃縮し、メタノール300g中に滴下させて沈殿物を得た。。沈殿物を吸引濾過により回収し、メタノール100gで数回洗浄した。その後、真空乾燥機内にて60℃で12時間乾燥することにより、下記式(A-8)で表される化合物(A-8)を得た。
【0121】
【0122】
[合成例9](化合物(A-9)の合成)
反応容器に、窒素雰囲気下、1,3,5-ベンゼントリイルトリス-9H-フルオレン10.0g、m―エチニルベンズアルデヒド7.5gおよびテトラヒドロフラン90.0gを加えて懸濁させた。25%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド46.0gおよびテトラブチルアンモニウムブロミド1.1gを加え、60℃で4時間反応させた。反応終了後、メチルイソブチルケトン200.0gと5%シュウ酸水溶液200.0gを加えて有機相を分離した。有機相を数回水で洗浄した後、得られた有機相をエバポレーターで濃縮し、メタノール200g中に滴下させて沈殿物を得た。沈殿物を吸引濾過により回収し、メタノール50.0gで数回洗浄した。その後、真空乾燥機内にて60℃で12時間乾燥することにより、下記式(A-9)で表される化合物(A-9)を得た
【0123】
【0124】
[合成例10](化合物(A-10)の合成)
m―エチニルベンズアルデヒド7.5gの代わりに、1-ナフトアルデヒド9.0gに変えたこと以外は[合成例9]と同様の条件で反応させることにより、下記式(A-10)で表される化合物(A-10)を得た。
【0125】
【0126】
[合成例11](化合物(A-11)の合成)
m―エチニルベンズアルデヒド7.5gの代わりに、1-ピレンカルボキシアルデヒド13.3gに変えたこと以外は[合成例9]と同様の条件で反応させることにより、下記式(A-11)で表される化合物(A-11)を得た。
【0127】
【0128】
[合成例12](重合体(A-12)の合成)
反応容器に、窒素雰囲気下、m-クレゾール250.0g、37質量%ホルマリン125.0gおよび無水シュウ酸2.0gを加え、100℃で3時間、180℃で1時間反応させた後、減圧下にて未反応モノマーを除去し、下記式(A-12)で表される重合体(A-12)を得た。得られた重合体(A-12)のMwは11,000であった。
【0129】
【0130】
[比較例1](重合体(X-1)の合成)
反応容器に、窒素雰囲気下、4-アセトキシスチレン8.6g、スチレン1.4gおよびアゾビス(イソ酪酸)ジメチル3.1g、メチルイソブチルケトン30.0gを加えて室温で攪拌させた。その後、80℃に昇温後6時間反応させた。重合後の反応溶液を室温まで冷却後、トリエチルアミン30.0gおよびメタノール54.0を添加して、さらに90℃で6時間反応させることでアセトキシ基を脱保護させた。1%シュウ酸水溶液100.0gを加えて有機相を分離した。有機相を数回水で洗浄した後、得られた有機相をエバポレーターで濃縮し、ヘキサン200g中に滴下させて沈殿物を得た。沈殿物を吸引濾過により回収し、ヘキサン50.0gで数回洗浄した。その後、真空乾燥機内にて溶媒留去することにより、下記式(X-1)で表される重合体(X-1)を得た。
【0131】
【0132】
<組成物の調製>
組成物の調製に用いた[A]化合物、[B]溶媒、[C]酸発生剤及び[D]架橋剤について以下に示す。
【0133】
[[A]化合物]
実施例:上記合成した重合体(A-1)~(A-7)、(A-12)、化合物(A-8)~(A-11)
比較例:上記合成した重合体(X-1)
【0134】
[[B]溶媒]
B-1:酢酸プロピレングリコールモノメチルエーテル
B-2:シクロヘキサノン
【0135】
[[C]酸発生剤]
C-1:下記式(C-1)で表される化合物)
【0136】
【0137】
[[D]架橋剤]
D-1:下記式(D-1)で表される化合物
【0138】
【0139】
D-2:下記式(D-2)で表される化合物
【0140】
【0141】
[実施例1]
[A]化合物としての(A-1)14質量部を[B]溶媒としての(B-1)86質量部に溶解した。得られた溶液を孔径0.45μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)メンブランフィルターでろ過して、組成物(J-1)を調製した。
【0142】
[実施例2~27及び比較例1]
下記表1に示す種類及び含有量の各成分を使用したこと以外は、実施例1と同様にして組成物(J-2)~(J-27)及び(CJ-1)を調製した。表1中の「[C]酸発生剤」及び「[D]架橋剤」の列における「-」は、該当する成分を使用しなかったことを示す。
【0143】
【0144】
<評価>
上記得られた組成物を用い、平坦性について下記方法により評価を行った。評価結果を下記表2に合わせて示す。
【0145】
[平坦性]
上記調製した組成物を、SiC(基板)上に、スピンコーターで回転塗工法により塗工した。次に、大気雰囲気下にて200℃で60秒間加熱した後、23℃で60秒間冷却することにより、平均厚み50nmの膜を形成し、基板上にキャッピング膜が形成された膜付き基板を得た。基板を窒素雰囲気下にて1700℃まで加熱して3分間保持したのち、キャッピング膜を酸素プラズマアッシングにより除去し、SiC(基板)の表面の粗さを原子間力顕微鏡(日立ハイテクサイエンス社製)によって測定した。SiC(基板)の中央部の100nm幅の直線上を10nmの等間隔で10点測定し、それらの平均の深さと最大の深さの差をSiC(基板)の表面の粗さとした。SiC(基板)の表面の粗さが0.5nm未満の場合は「A」(良好)とし、0.5nm以上の場合は「B」(不良)と評価した。
【0146】
【0147】
表2の結果から分かるように、実施例の組成物から形成されたキャッピング膜は、比較例の組成物から形成されたキャッピングと比較して、平坦性に優れていた。
本発明の膜形成用組成物によれば、高温アニーリングの際に高平坦性を基板表面に付与し得るキャッピング膜を効率的に形成することができる。本発明の半導体基板の製造方法によれば、高温アニーリングの際に高平坦性を基板表面に付与し得るキャッピング膜を形成するため、高品質の半導体基板を提供することができる。従って、これらは、今後さらに高機能化が進行すると予想される半導体デバイスの製造等に好適に用いることができる。