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特開2023-179079コンベヤベルトの稼働管理システムおよび方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023179079
(43)【公開日】2023-12-19
(54)【発明の名称】コンベヤベルトの稼働管理システムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   B65G 43/02 20060101AFI20231212BHJP
   B65G 15/30 20060101ALN20231212BHJP
【FI】
B65G43/02 Z
B65G15/30 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022092139
(22)【出願日】2022-06-07
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 掲載日:令和4年5月13日、掲載場所:横浜ゴム株式会社のウェブサイト https://www.y-yokohama.com/release/?id=3804
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】石橋 裕輔
【テーマコード(参考)】
3F024
3F027
【Fターム(参考)】
3F024AA11
3F027AA02
3F027DA32
3F027EA01
3F027FA03
(57)【要約】
【課題】簡便な構成でありながら精度よくコンベヤベルトの稼働状態を把握できるコンベヤベルトの稼働管理システムおよび方法を提供する。
【解決手段】コンベヤ装置10の所定の検知位置Pに配置された検知器7から、コンベヤベルト13に設置されたパッシブ型のICタグ2に向かって発信電波R1を発信し、発信電波R1に応じてICタグ2から返信される返信電波R2を検知器7によって受信した受信時刻tに基づいて、コンベヤベルト13の走行速度Vを演算装置8により算出して、走行速度Vの経時変化に基づいてコンベヤベルト13の稼働状態を把握し、演算装置8は通信網を通じて、走行速度Vの経時変化のデータDVをコンベヤ装置10の設置現場とは離れた位置にある端末機器9に対して送信する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンベヤベルトに設置されるパッシブ型のICタグと、前記コンベヤベルトに非接触で前記ICタグと無線通信する検知器と、この検知器に通信可能に接続された演算装置とを備えて、コンベヤ装置に装着された前記コンベヤベルトに設置された前記ICタグに向かって前記検知器から発信された発信電波に応じて前記ICタグから返信される返信電波が前記検知器によって受信されるコンベヤベルトの稼働管理システムであって、
前記コンベヤ装置の少なくとも1箇所の検知位置に配置された前記検知器による前記返信電波の受信時刻に基づいて前記コンベヤベルトの走行速度が前記演算装置により算出され、この算出された前記走行速度の経時変化に基づいて前記コンベヤベルトの稼働状態が把握されるコンベヤベルトの稼働管理システム。
【請求項2】
前記コンベヤベルトの長手方向に間隔をあけた少なくとも2箇所の前記検知位置に配置されたそれぞれの前記検知器により、同じ前記ICタグからの前記返信電波を受信し、それぞれの前記検知器による前記受信時刻とそれぞれの前記検知位置の前記コンベヤベルトの長手方向の離間距離とに基づいて前記走行速度が算出される請求項1に記載のコンベヤベルトの稼働管理システム。
【請求項3】
同一の前記検知位置に配置された前記検知器により、前記コンベヤベルトの長手方向に間隔をあけた位置に設置されたそれぞれの前記ICタグからの前記返信電波を受信し、前記検知器によるそれぞれの前記ICタグからの前記返信電波の前記受信時刻とそれぞれの前記ICタグの前記コンベヤベルトの長手方向の離間距離とに基づいて前記走行速度が算出される請求項1に記載のコンベヤベルトの稼働管理システム。
【請求項4】
同一の前記検知位置に配置された前記検知器により、前記コンベヤベルトが1周回する毎に同じ前記ICタグからの前記返信電波を順次受信し、前記検知器により順次受信された前記返信電波の前記受信時刻と前記コンベヤベルトのベルト長とに基づいて前記走行速度が算出される請求項1に記載のコンベヤベルトの稼働管理システム。
【請求項5】
前記検知位置を同じ前記ICタグが通過する際に、前記検知位置に配置された前記検知器が同じ前記ICタグからの前記返信電波を、その1回の通過の間に複数回受信する場合は、複数回受信した前記返信電波のうち受信信号強度が最も高い前記返信電波を受信した時刻が、前記検知位置に配置された前記検知器による前記受信時刻として採用される構成にした請求項2~4のいずれかに記載のコンベヤベルトの稼働管理システム。
【請求項6】
前記走行速度の経時変化のデータが、通信網を通じて、前記コンベヤ装置の設置現場とは離れた位置にある端末機器に対して送信される構成にした請求項2~4のいずれかに記載のコンベヤベルトの稼働管理システム。
【請求項7】
前記走行速度の経時変化のデータが、通信網を通じて、前記コンベヤ装置の設置現場とは離れた位置にある端末機器に対して送信される構成にした請求項5に記載のコンベヤベルトの稼働管理システム。
【請求項8】
コンベヤベルトにパッシブ型のICタグを設置し、コンベヤ装置に装着された前記コンベヤベルトに設置された前記ICタグに向かって前記コンベヤベルトに非接触で検知器から発信電波を発信し、この発信電波に応じて前記ICタグから返信される返信電波の前記検知器による受信結果を演算装置に入力するコンベヤベルトの稼働管理方法であって、
前記コンベヤ装置の少なくとも1箇所の検知位置に前記検知器を配置し、前記検知器による前記返信電波の受信時刻に基づいて前記コンベヤベルトの走行速度を前記演算装置により算出し、この算出した前記走行速度の経時変化に基づいて前記コンベヤベルトの稼働状態を把握するコンベヤベルトの稼働管理方法。
【請求項9】
前記ICタグを前記コンベヤベルトの製造時に前記コンベヤベルトに埋設しておく請求項8に記載のコンベヤベルトの稼働管理方法。
【請求項10】
前記ICタグを前記コンベヤベルトの製造後に、前記コンベヤベルトに設置する請求項8に記載のコンベヤベルトの稼働管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンベヤベルトの稼働管理システムおよび方法に関し、さらに詳しくは、簡便な構成でありながら精度よくコンベヤベルトの稼働状態を把握できるコンベヤベルトの稼働管理システムおよび方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンベヤ装置のプーリ間に張設されて走行するコンベヤベルトを管理するシステムが種々提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1で提案されている管理システムは、コンベヤベルトに埋設されたRFID用タグを利用して、そのコンベヤベルトの仕様情報やメンテナンス情報などを取得してトレーサビリティを向上させることを目的としている。この管理システムを適用することで、コンベヤベルトの使用開始日も明確に把握できるので、コンベヤベルトの交換時期が明確になり、計画的に交換を行うことができる(段落0098~0103)。
【0003】
ところで、コンベヤベルトの稼働状況は使用現場によってバラつきがある。即ち、コンベヤベルトが想定を超えて長時間または/および速い走行速度で使用される現場もあれば、想定よりも短時間または/および遅い走行速度で使用される現場もある。そのため、同じ仕様のコンベヤベルトの寿命(耐用期間)を一律に設定すると、それぞれのコンベヤベルトの使用現場に適した時期にコンベヤベルトが交換されないという問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-23840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
即ち、従来の管理システムでは、使用現場での実際のコンベヤベルトの稼働状況を十分に把握することができない。また、様々な使用現場でのコンベヤベルトの稼働状況を把握するには簡便な構成にして汎用性を高くする必要がある。それ故、簡便な構成でありながら精度よくコンベヤベルトの稼働状態を把握するには改善の余地がある。
【0006】
本発明の目的は、簡便な構成でありながら精度よくコンベヤベルトの稼働状態を把握できるコンベヤベルトの稼働管理システムおよび方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明のコンベヤベルトの稼働管理システムは、コンベヤベルトに設置されるパッシブ型のICタグと、前記コンベヤベルトに非接触で前記ICタグと無線通信する検知器と、この検知器に通信可能に接続された演算装置とを備えて、コンベヤ装置に装着された前記コンベヤベルトに設置された前記ICタグに向かって前記検知器から発信された発信電波に応じて前記ICタグから返信される返信電波が前記検知器によって受信されるコンベヤベルトの稼働管理システムであって、前記コンベヤ装置の少なくとも1箇所の検知位置に配置された前記検知器による前記返信電波の受信時刻に基づいて前記コンベヤベルトの走行速度が前記演算装置により算出され、この算出された前記走行速度の経時変化に基づいて前記コンベヤベルトの稼働状態が把握されることを特徴とする。
【0008】
本発明のコンベヤベルトの稼働管理方法は、コンベヤベルトにパッシブ型のICタグを設置し、コンベヤ装置に装着された前記コンベヤベルトに設置された前記ICタグに向かって前記コンベヤベルトに非接触で検知器から発信電波を発信し、この発信電波に応じて前記ICタグから返信される返信電波の前記検知器による受信結果を演算装置に入力するコンベヤベルトの稼働管理方法であって、前記コンベヤ装置の少なくとも1箇所の検知位置に前記検知器を配置し、前記検知器による前記返信電波の受信時刻に基づいて前記コンベヤベルトの走行速度を前記演算装置により算出し、この算出した前記走行速度の経時変化に基づいて前記コンベヤベルトの稼働状態を把握することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、コンベヤベルトに設置されるパッシブ型のICタグと、コンベヤベルトに非接触でICタグと無線通信する検知器と、この検知器により検知された情報が入力される演算装置を利用し、ICタグは検知器から発信された発信電波に応じて返信電波を検知器に返信できる汎用品でよい。そのため、発明品の全体構成を簡素にできる。そして、前記コンベヤ装置の少なくとも1箇所の検知位置に配置された前記検知器による前記返信電波の受信時刻に基づいて前記コンベヤベルトの走行速度が前記演算装置により算出される。この走行速度は前記コンベヤベルトの実際の稼働状況を反映しているので、前記走行速度の経時変化に基づいて前記コンベヤベルトの稼働状態を高精度で把握するには有利になる。これに伴い、それぞれの使用現場でのコンベヤベルトの寿命をより精度よく推定できるので、それぞれの使用現場に適した時期にコンベヤベルトを交換するには有利になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】コンベヤベルトの稼働管理システムの実施形態の全体概要を例示する説明図である。
図2図1のシステムが適用されたコンベヤ装置を側面視で例示する説明図である。
図3図2のA-A断面図である。
図4図3のB-B矢視図である。
図5】ICタグを平面視で例示する説明図である。
図6図5のICタグを断面視で例示する説明図である。
図7】ICタグと検知器とが無線通信している状態をコンベヤベルトの断面視で例示する説明図である。
図8】コンベヤベルトの走行速度の経時変化を模式的に例示するグラフ図である。
図9】検知位置に対するICタグの位置と返信電波の受信信号強度との関係を模式的に例示するグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のコンベヤベルトの稼働管理システムおよび方法を、図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0012】
図1図4に例示するコンベヤベルトの稼働管理システム1(以下、システム1という)の実施形態は、コンベヤ装置10に装着されたコンベヤベルト13の稼働状況を把握するために使用される。このシステム1は、コンベヤベルト13に設置されるパッシブ型のICタグ2と、検知器7(7A、7B、7C)と、検知器7に無線または有線を通じて通信可能に接続された演算装置8とを備えている。この実施形態では演算装置8は、コンベヤ装置10の設置現場とは離れた位置(遠隔地)にあるコンピュータやスマートフォンなどの端末機器9(9a、9b、9c、9d)に対してインターネットなどの通信網を介して接続される構成になっている。
【0013】
コンベヤ装置10は、一対のプーリ11a、11bと、プーリ11a、11b間に配置された多数の支持ローラ12とを有している。コンベヤベルト13は、プーリ11a、11b間に張設され、プーリ11a、11b間では多数の支持ローラ12によって支持される。駆動プーリ11aを回転駆動することでコンベヤベルト13は走行する。図中の矢印Lはコンベヤベルト13の長手方向、矢印Wはコンベヤベルト13の幅方向を示している。
【0014】
コンベヤベルト13は、上カバーゴム16と、下カバーゴム17と、両者の間に配置された心体層14とが加硫接着によって一体化されて構成されている。この実施形態では、心体層14は幅方向Wに横並びされた多数のスチールコード15で構成されている。コンベヤベルト13には必要に応じて他の部材が備わる。心体層14はスチールコード15に限らず、帆布により構成される場合もある。帆布により心体層14を構成する場合は、コンベヤベルト13に対する要求性能によって例えば4層~8層程度の帆布が積層される。
【0015】
コンベヤ装置10のキャリア側では、コンベヤベルト13の下カバーゴム17が支持ローラ12によって支持されることで、コンベヤベルト13は幅方向Wの中央部が下方に突出したトラフ状になる。搬送物Cは上カバーゴム16の上面に投入、載置されて搬送される。コンベヤ装置10のリターン側では、コンベヤベルト13の上カバーゴム16が支持ローラ12によってフラットな状態で支持される。
【0016】
図5図6に例示するように、ICタグ2は、ICチップ3と、ICチップ3に接続されたアンテナ部4とを有している。ICチップ3およびアンテナ部4は基板5上に配置されていて、絶縁層6によって覆われている。この実施形態では図3に例示するように、ICタグ2は下カバーゴム17に埋設されている。ICタグ2は、コンベヤベルト13の別に位置に設置されてもよく、例えば、上カバーゴム16や、複数の帆布が積層された心体層14の場合には心体層14に埋設された仕様にすることもできる。ICタグ2を搬送物Cなどから保護するには、上カバーゴム16に埋設されるよりも、下カバーゴム17や心体層14に埋設されることが望ましい。
【0017】
ICタグ2は一般に流通している仕様でよく、例えばRFIDタグ(汎用品)を用いればよい。ICタグ2のサイズは例えば、面積は200mm2以上6000mm2以下、より好ましくは300mm2以上2700mm2以下であり、厚さは例えば0.01mm以上0.4mm以下、より好ましくは0.03mm以上0.15mm以下である。ICタグ2の耐熱温度は例えば250℃程度である。
【0018】
ICチップ3には、そのICタグ2を他のICタグ2と識別する固有情報が記憶されている。ICチップ3にはその他の情報を記憶できるが、このシステム1では、ICタグ2の固有情報だけがICチップ3に記憶されていればよい。
【0019】
コンベヤベルト13を製造する際には、成形工程において未加硫の下カバーゴム17または未加硫の上カバーゴム16、或いは、帆布で構成される心体層14の中にICタグ2を配置して成形品を成形する。その後、この成形品を加硫することで、心体層14と上カバーゴム16と下カバーゴム17と一体化させたコンベヤベルト13にICタグ2が埋設される。ICタグ2を、埋設する下カバーゴム17または上カバーゴム16、或いは心体層14と強固に接着させるために、コンベヤベルト13の成形工程では、ディッピング液を浸漬させた繊維層などでICタグ2を覆って接着対象との間に介在させるとよい。
【0020】
ICタグ2をコンベヤベルト13に設置するには、上述のように、コンベヤベルト13の製造時にコンベヤベルト13に埋設しておく方法に限定されず、製造後のコンベヤベルト13に設置することもできる。即ち、ICタグ2をコンベヤベルト13に後付けすることもできる。例えば、製造したコンベヤベルト13の所望位置(下カバーゴム17または上カバーゴム16の表面)にICタグ2を配置する。その後、そのICタグ2をゴム材により覆って、そのゴム材とともにICタグ2をコンベヤベルト13に接合する。この接合には公知の接着剤や加硫接着を用いることができる。加硫接着を用いる場合は例えば、コンベヤベルト13の所定位置をバフ処理などの公知の表面処理をした後、ICタグ2をその所定位置に配置して未加硫のゴム材により覆う。その後、その未加硫のゴム材を加熱および加圧して加硫するとともに、そのゴム材とともにICタグ2をコンベヤベルト13に加硫接着する。
【0021】
ICタグ2をコンベヤベルト13に後付けする方法を採用すると、既存のコンベヤベルト13に本発明を適用することが可能になる。したがって、コンベヤ装置10に装着されているコンベヤベルト13にもICタグ2を設置することができる。ICタグ2をコンベヤベルト13に後付けする作業は、コンベヤ装置10の設置現場でも行うことができる。
【0022】
コンベヤベルト13には少なくとも1個のICタグ2が設置されていればよいが、長手方向Lに間隔をあけて複数のICタグ2が設置されていることが好ましい。それぞれのICタグ2は、例えば長手方向Lに5m以上20m以下の間隔TLをあけてコンベヤベルト13に埋設される。即ち、ICタグ2の設置ピッチTLは、5m以上20m以下の範囲にすることが好ましく、さらに等ピッチにするとよい。ICタグ2の設置ピッチTLは10m程度が適切である。
【0023】
検知器7は、コンベヤベルト13に設置されたICタグ2とは、コンベヤベルト13に非接触で無線通信する。検知器7は、発信部7sと受信部7rとを有している。発信部7sは、ICタグ2に向かって発信電波R1を発信する。受信部7rは、発信電波R1に応じてICタグ2(アンテナ部4)から返信された返信電波R2を受信して、返信電波R2とともに送信されるICチップ3に記憶されているそのICタグ2の識別情報を取得する。
【0024】
検知器7としては、パッシブ型のRFIDタグ等との間で無線通信を行うことができる一般に流通している仕様が採用される。これにより、ICタグ2と検知器7とがRFID(RadioFrequencyIDentification)システムを構成する。ICタグ2と検知器7との間での無線通信に用いる電波の周波数は主にUHF帯(国によって異なるが860MHz以上930MHz以下の範囲、日本では915MHz以上930MHz)であり、HF帯(13.56MHz)が用いられることもある。
【0025】
検知器7は、コンベヤ装置10において、コンベヤベルト13に近接した検知位置Pに配置される。検知器7は、少なくとも1箇所の検知位置Pに配置される。検知器7は、1箇所の検知位置Pだけに配置されるよりも長手方向Lに間隔をあけた複数箇所の検知位置Pに配置されることが好ましい。
【0026】
この実施形態では、検知器7が、プーリ11a、11b間に張設されているコンベヤベルト13の長手方向Lに間隔をあけた複数箇所の検知位置Pに配置されている。例えば、長手方向Lに10m~30mの間隔をあけた検知位置Pにそれぞれの検知器7が配置される。それぞれの検知位置Pは、コンベヤベルト13の所定の区間または全周に対して実質的に等間隔の配置にするとよい。
【0027】
検知器7はこの実施形態のように、コンベヤ装置10のキャリア側に配置される仕様に限定されず、リターン側に配置される仕様にすることも、キャリア側およびリターン側に配置される仕様にすることもできる。検知器7とアンテナ部4とが最も近づいた時の両者の離間距離は例えば1m以内に設定される。即ち、アンテナ部4が検知器7の近傍を通過した時に、検知器7とアンテナ部4との離間距離が1m以下になる検知位置Pに検知器7が設置される。
【0028】
この実施形態ではそれぞれの検知器7は、図4に例示するようにコンベヤベルト13の幅方向W一端部に配置されている。検知器7の幅方向位置は、ICタグ2のコンベヤベルト13での幅方向位置に合わせることが好ましい。
【0029】
演算装置8は、検知器7と有線または無線によって接続されている。演算装置8としては、コンピュータやコンピュータサーバが用いられる。演算装置8には、検知器7により検知、取得された情報が入力される。演算装置8は、入力された種々の情報に基づいて様々な演算処理をする。後述するように、演算装置8には、検知器7から返信電波R2の受信結果が入力され、検知器7による返信電波R2の受信時刻tに基づいてコンベヤベルト13の走行速度Vが演算装置8により算出される。そして、算出された走行速度Vの経時変化に基づいてコンベヤベルト13の稼働状態が把握される。また、演算装置8は、所望の端末機器9(9a~9d)とインターネットなどの通信網を介して接続されていて、様々な情報(データ)を端末機器9に送信する送信機能も有している。
【0030】
次に、システム1を用いてコンベヤベルト13の稼働状態を把握する方法の手順の一例を説明する。
【0031】
図7に例示するように、それぞれの検知器7(発信部7s)からICタグ2に向かって発信電波R1を発信する。それぞれのICタグ2は、コンベヤベルト13の走行によってそれぞれの検知器7に近接した際に発信電波R1をアンテナ部4で受信し、この発信電波R1によってICタグ2には電力が発生してICタグ2が起動する。
【0032】
起動したICタグ2は、発信電波R1に応じて返信電波R2を検知器7に逐次返信する。この返信電波R2はアンテナ部4を通じて、ICタグ2から検知器7に返信される。検知器7(受信部7r)はこの返信電波R2を受信することで、受信結果として、返信電波R2とともにICチップ3に記憶されているそのICタグ2の識別情報を逐次取得する。
【0033】
ここで、演算装置8によりコンベヤベルト13の走行速度Vが算出される方法を説明する。
【0034】
この実施形態では、長手方向Lに間隔をあけた複数の検知位置Pに検知器7が配置されているので、コンベヤベルト13が走行していると、それぞれの検知器7はICタグ2が近傍を通過した際に、そのICタグ2と無線通信をしてそのICタグ2の識別情報を取得する。取得されたそのICタグ2の識別情報は、その検知器7がそのICタグ2からの返信電波R2を受信した受信時刻tとともに演算装置8に記憶される。それぞれの検知器7は配置されている検知位置Pの長手方向Lの離間距離PLは予め判明しているので、この離間距離PLは演算装置8に入力されている。
【0035】
そこで、演算装置8は、長手方向Lに間隔をあけた少なくとも2箇所の検知位置Pに配置されたそれぞれの検知器7による同じICタグ2からの返信電波R2の受信時刻tとそれぞれの検知位置Pの離間距離PLとに基づいて走行速度Vを算出する。例えば、検知器7A、7Bの離間距離がPLであり、同じICタグ2からの返信電波R2の検知器7A、7Bによる受信時刻tがそれぞれt1、t2の場合は、そのICタグ2が検知器7Aから検知器7Bまで移動するために要した時間は(t2―t1)になるので、走行速度V=PL/(t2-t1)として算出される。
【0036】
走行速度Vの算出には、長手方向Lに隣り合う検知位置Pに配置された検知器7のデータ(検知器7Aと7Bのデータ、検知器7Bと7Cのデータ、検知器7Cと7Aのデータ)を用いることに限定されず、それぞれの検知位置Pから選択された2箇所の検知位置Pに配置されたそれぞれの検知器7のデータを用いることができる。したがって、検知器7Aと7Cのデータを用いてもよい。コンベヤベルト13は連続しているので、基本的には、任意の1区間(任意の2箇所の検知位置Pどうしの離間距離PL)での走行速度Vを算出すればよい。ただし、例えば、搬送物Cが投入される直前の区間と、搬送物Cが投入された直後の区間とでは、搬送物Cの重量や投入衝撃などに起因して走行速度Vが若干異なる場合があるので、複数区間での走行速度Vを算出するとよい。この算出方法では、離間距離PLが判明していればよく、コンベヤベルト13でのICタグ2の位置情報は不要なので、あらゆるコンベヤベルト13に容易に適用できる。
【0037】
また、走行速度Vの算出には、少なくとも1個のICタグ2を使用すればよいが、1個のICタグ2だけを使用すると、コンベヤベルト13のベルト長BLが過大な場合は、走行速度Vの算出頻度が小さくなる。また、ICタグ2が故障することもあるので、コンベヤベルト13に設置されている複数のICタグ2(それぞれのICタグ2)を使用して走行速度Vを算出することが好ましい。
【0038】
複数のICタグ2がコンベヤベルト13に設置されている場合は、他の方法によって走行速度Vを算出することもできる。この算出方法では、同一の検知位置Pに配置されている1個の検知器7を使用し、使用するそれぞれのICタグ2の設置ピッチTLを演算装置8に入力しておく。そして、この検知位置Pに配置された1個の検知器7により、設置ピッチTLで設置されたそれぞれのICタグ2からの返信電波R2を受信する。この検知器7によるそれぞれのICタグ2からの返信電波R2の受信時刻tと設置ピッチTLとに基づいて走行速度Vを算出する。
【0039】
例えば、2つのICタグ2が設置ピッチTLで設置されていて、同一の検知位置Pに配置されている1個の検知器7によるそれぞれのICタグ2からの返信電波R2の受信時刻tがそれぞれt1、t2の場合は、コンベヤベルト13が設置ピッチTLの長さを移動するために要した時間は(t2―t1)になるので、走行速度V=TL/(t2-t1)として算出される。この算出方法では、使用する2つのICタグ2の設置ピッチTLが判明している必要がある。検知器7が故障することもあるので、特定の1箇所の検知位置Pに配置されている検知器7を用いることに限定されず、複数の検知位置P(それぞれの検知位置P)に配置されている検知器7を使用して走行速度Vを算出することが好ましい。
【0040】
さらに、他の方法によって走行速度Vを算出することもできる。この算出方法では、同一の検知位置Pに配置されている1個の検知器7により、同じICタグからの返信電波R2をコンベヤベルト13の1周回毎に順次受信する。コンベヤベルト13の1周回毎にその検知器7により順次受信された返信電波R2の受信時刻tとコンベヤベルト13のベルト長BLとに基づいて走行速度Vを算出する。検知器7が1箇所の検知位置Pだけに配置されていて、コンベヤベルト13に設置されたICタグ2が1個だけの場合は、必然的にこの算出方法を用いることになる。
【0041】
例えば、ベルト長BLであって、コンベヤベルト13の1周回毎に、同一の検知位置Pに配置されている検知器7により順次受信される同じICタグ2からの返信電波R2の受信時刻がそれぞれt1、t2の場合は、コンベヤベルト13の1周回(ベルト長BLの移動)に要する時間は(t2―t1)になるので、走行速度V=BL/(t2-t1)として算出される。この算出方法では、コンベヤベルト13のベルト長BLが判明している必要がある。ICタグ2が故障することもあるので、複数のICタグ2がコンベヤベルト13に設置されている場合は、複数のICタグ2(それぞれのICタグ2)を使用して走行速度Vを算出することが好ましい。
【0042】
演算装置8により算出された走行速度Vは、コンベヤベルト13の実際の稼働状況を反映している。即ち、走行速度Vがゼロの場合(限りなくゼロの場合も含む)は、コンベヤベルト13は稼働していない(走行していない)と判断できる。非常に稀ではあるが、或るICタグ2が或る検知位置P(検知器7)に近接した位置にある状態でコンベヤベルト13が停止した場合は、その検知器7はそのICタグ2からの返信電波R2を絶え間なく受信し続けることになる。そこで、同一の検知位置Pに配置されている検知器7が同じICタグ2から絶え間なく返信電波R2を受信し続ける場合もコンベヤベルト13は稼働してないと判断される。
【0043】
走行速度Vが概ね一定の場合は、コンベヤベルト13が定常稼働されていると判断できる。走行速度Vが一様に上昇している時はコンベヤベルト13が始動状態であり、一様に低下している時は稼働を停止する状態であると判断できる。
【0044】
そこで、図8に例示するように、演算装置8により走行速度Vの経時変化のデータDVを出力し、データDVに基づいてコンベヤベルト13の累積稼働時間を算出する。図8のデータDVを参照することで、コンベヤベルト13の実際の稼働状況(稼働の有無および走行速度Vの変化)を精度よく把握できる。コンベヤベルト13の実際の寿命Xは、コンベヤ装置10に装着してからの経過時間よりも累積稼働時間が大きく影響する。そのため、このデータDVを用いてコンベヤベルト13の実際の稼働時間(累積稼働時間)を把握することで、コンベヤベルト13の実際の寿命Xを精度よく把握するには有利になる。
【0045】
同じ仕様の多数のコンベヤベルト13のデータDVを用いて、それぞれの累積稼働時間と実際の寿命Xとの相関関係を把握すれば、その仕様のコンベヤベルト13の実際の寿命Xを精度よく推定することが可能になる。そこで、使用現場で使用されている同じ仕様のコンベヤベルト13のデータDVを把握して、現状の累積稼働時間を演算装置8により算出する。そして、上述のようにして予め推定した寿命Xから現状の累積稼働時間を差し引くことで、そのコンベヤベルト13の残存寿命を演算装置8によって精度よく算出できる。残存寿命が精度よく算出できるので、それぞれの使用現場に適した過不足ない時期にコンベヤベルト13を交換するには有利になる。
【0046】
コンベヤベルト13の累積走行距離もコンベヤベルト13の実際の寿命Xに大きく影響する。そこで、この累積走行距離を実際の寿命Xを推定するための指標として用いることもできる。この累積走行距離は、演算装置8によってデータDVを時間積分することで算出できる。同じ仕様の多数のコンベヤベルト13のデータDVを用いて、それぞれの累積走行距離と実際の寿命Xになった時点の累積走行距離との相関関係を把握すれば、その仕様のコンベヤベルト13の実際の寿命Xに相当する累積走行距離を精度よく推定することが可能になる。そこで、使用現場で使用されている同じ仕様のコンベヤベルト13のデータDVを把握して、現状の累積走行距離を演算装置8により算出する。そして、上述のように予め推定した寿命Xに相当する累積走行距離から現状の累積走行距離を差し引くことで、そのコンベヤベルト13の残存寿命に相当する残存累積走行距離を演算装置8によって精度よく算出できる。
【0047】
データDVを利用してコンベヤベルト13の稼働状態について、その他に様々な分析を行うことができる。例えば、コンベヤベルト13の走行駆動力(プーリ11aの回転駆動トルク)が同一の場合、搬送物Cの積載量が多くなる程、走行速度Vは低下する。したがって、演算装置8にはプーリ11aの回転駆動トルクのデータを入力するとよい。これにより、プーリ11aの回転駆動トルクのデータと走行速度Vのデータとに基づいて、搬送物Cの積載量の適正度を演算装置8によって判断することができる。例えば、プーリ11aの回転駆動トルクのデータが正常値であるにも拘わらず、走行速度Vが許容範囲よりも遅い場合は過大積載であり、許容範囲よりも速い場合は過小積載であると判断することができる。
【0048】
このシステム1では、特定のICタグ2だけからの返信電波R2が検知器7によって受信されない場合は、そのICタグ2は故障している可能性があるので、適時点検を行って故障の有無を確認する。また、ICタグ2からの返信電波R2が特定の検知器7だけに受信されない場合は、その検知器7は故障している可能性があるので、適時点検を行って故障の有無を確認する。ICタグ2、検知器7の故障を発見する観点から、ICタグ2、検知器7をそれぞれ複数備えたシステム1にすることが好ましい。
【0049】
このシステム1は、上述したICタグ2と、検知器7と、演算装置8を利用し、ICタグ2は検知器7から発信された発信電波R1に応じて返信電波R2を検知器7に返信できる汎用品でよい。そのため、システム1の全体構成が簡素で汎用性が高くなり、設備コストを低減するにも有利である。それ故、このシステム1によれば、様々な使用現場でのコンベヤベルト13の稼働状況を把握するには有利になる。
【0050】
この実施形態では、演算装置8は、通信網を通じてデータDVをコンベヤ装置10の設置現場に対して離れた位置にある端末機器9に対して送信する。例えば、コンベヤ装置10の設置現場に対して遠隔地にあるコンベヤベルト13の運用会社(ユーザ)の管理室、コンベヤベルト13の販売会社、製造会社などの関係者の端末機器9にデータDVや算出された累積稼働時間を送信する。これにより、これら関係者はコンベヤゲルト13の使用場所に対して遠隔地に居ながらコンベヤベルト13の稼働状況を実質的にリアルタイムで把握することも可能になる。
【0051】
端末機器9には、その他に、算出されたコンベヤベルト13の残存寿命や推定された交換時期を送信するとよく、上述した種々のデータや情報を端末機器9に送信することもできる。尚、それぞれの端末機器9に送信するデータ、情報は端末機器9毎に設定できるようにして、それぞれの端末機器9に対して送信するデータや情報の種類を任意に制限する構成にしてもよい。
【0052】
ICタグ2と検知器7とは、両者間の通信漏れを防止するために、通信頻度を高くする必要がある。例えば、ICタグ2と検知器7との通信頻度は3回~10回/秒に設定することで、走行速度Vが速くても検知器7がICタグ2からの返信電波R2を受信できないという不具合(通信漏れ)を回避する。一方で、この通信頻度を大きくすると、ICタグ2が検知位置Pを通過する際に、その1回の通過の間にその検知位置Pに配置されている検知器7とICタグ2とは複数回の無線通信を行う。即ち、それぞれの検知位置Pを同じICタグ2が通過する際に、その1回の通過の間に、その検知位置Pに配置された検知器7は、同じICタグ2からの返信電波R2を複数回受信する。
【0053】
コンベヤベルト13が走行することで、検知器7が配置されている検知位置Pに対してICタグ2が移動すると、図9に例示するデータDRのように、検知位置Pにより近い位置で、ICタグ2とその検知位置Pに配置された検知器7とが無線通信する程、その検知器7が受信した返信電波R2の受信信号強度RSSIが高くなる。即ち、返信電波R2の受信信号強度RSSIが最も高い時にICタグ2は、その検知位置Pに対して最も近い位置に存在していると考えられる。
【0054】
そこで、検知位置Pを同じICタグ2が通過する際に、その検知位置Pに配置された検知器7がそのICタグ2からの返信電波R2を、その1回の通過の間に複数回受信する場合は、複数回受信した返信電波R2のうち受信信号強度RSSIが最も高い返信電波R2を受信した時刻を、その検知位置Pに配置された検知器7による受信時刻tとして採用する。このように採用した受信時刻tを用いることで、走行速度Vをより高精度で算出するには有利になる。
【符号の説明】
【0055】
1 稼働管理システム
2 ICタグ
3 ICチップ
4 アンテナ部
5 基板
6 絶縁層
7(7A、7B、7C) 検知器
7s 発信部
7r 受信部
8 演算装置
9(9a、9b、9c、9d) 端末機器
10 コンベヤ装置
11a、11b プーリ
12 支持ローラ
13 コンベヤベルト
14 心体層
15 スチールコード
16 上カバーゴム
17 下カバーゴム
C 搬送物
図1
図2
図3
図4
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図9