(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023179080
(43)【公開日】2023-12-19
(54)【発明の名称】可変利得増幅器
(51)【国際特許分類】
H03F 3/45 20060101AFI20231212BHJP
H03F 3/68 20060101ALI20231212BHJP
H03H 11/24 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
H03F3/45
H03F3/68
H03H11/24 B
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022092140
(22)【出願日】2022-06-07
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100206081
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 央
(74)【代理人】
【識別番号】100188891
【弁理士】
【氏名又は名称】丹野 拓人
(72)【発明者】
【氏名】上滝 千尋
(72)【発明者】
【氏名】山口 陽
(72)【発明者】
【氏名】久保 達夫
【テーマコード(参考)】
5J098
5J500
【Fターム(参考)】
5J098AA03
5J098AA11
5J098AA14
5J098AA16
5J098AB03
5J098AB10
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5J500AH02
5J500AH10
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5J500AH29
5J500AH35
5J500AH37
5J500AH39
5J500AK02
5J500AK12
5J500AK23
5J500AK29
5J500AM08
5J500AS13
5J500AT01
5J500AT02
5J500AT03
5J500DN01
5J500DN22
5J500DP02
(57)【要約】
【課題】小型化及びインピーダンスの不整合による損失を抑えることが可能な可変利得増幅器を提供する。
【解決手段】可変利得増幅器1は、一対の入力端a1,a2と、一対の出力端b1,b2とを有する差動増幅回路13と、差動増幅回路13の一対の入力端a1,a2及び一対の出力端b1,b2の少なくとも一方の間に接続され、外部から入力される制御信号に基づいて、抵抗値を切り替え可能な可変減衰回路14と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の入力端と、一対の出力端とを有する差動増幅回路と、
前記差動増幅回路の前記一対の入力端及び前記一対の出力端の少なくとも一方の間に接続され、外部から入力される制御信号に基づいて、抵抗値を切り替え可能な第1可変減衰回路と、
を備える可変利得増幅器。
【請求項2】
高周波信号の伝搬方向に沿って縦続接続されたN(Nは2以上の整数)個の前記差動増幅回路と、
前記一対の入力端から数えて、第2番目から第N番目の前記差動増幅回路のうち少なくとも1つの前記一対の入力端の間に接続された前記第1可変減衰回路と、
を備える請求項1記載の可変利得増幅器。
【請求項3】
前記第1可変減衰回路が接続された前記一対の入力端を備える前記差動増幅回路の前段の前記差動増幅回路の前記一対の出力端の間に接続され、外部から入力される制御信号に基づいて、前記一対の出力端の間における抵抗値を切り替え可能な第2可変減衰回路を更に備える、請求項2記載の可変利得増幅器。
【請求項4】
前記第1可変減衰回路は、前記一対の入力端の間に接続されたトランジスタを備える請求項1から請求項3の何れか一項に記載の可変利得増幅器。
【請求項5】
前記第1可変減衰回路は、前記トランジスタに対して直列又は並列に接続された抵抗器を備える請求項4記載の可変利得増幅器。
【請求項6】
前記トランジスタは、前記制御信号に基づいて、オン状態又はオフ状態に制御される請求項4記載の可変利得増幅器。
【請求項7】
前記第1可変減衰回路は、前記トランジスタを複数備えており、
複数の前記トランジスタは、複数の前記制御信号に基づいて、オン状態又はオフ状態が個別に制御される請求項4記載の可変利得増幅器。
【請求項8】
前記第1可変減衰回路は、外部から入力される複数の制御信号に基づいて、前記トランジスタに与えるバイアス電圧を変えることにより前記トランジスタの抵抗値を調整するバイアス回路を更に備える、請求項4記載の可変利得増幅器。
【請求項9】
前記第2可変減衰回路は、前記一対の出力端の間に接続されたトランジスタを備える請求項3記載の可変利得増幅器。
【請求項10】
前記第2可変減衰回路は、前記トランジスタに対して直列又は並列に接続された抵抗器を備える請求項9記載の可変利得増幅器。
【請求項11】
前記トランジスタは、前記制御信号に基づいて、オン状態又はオフ状態に制御される請求項9又は請求項10記載の可変利得増幅器。
【請求項12】
前記第2可変減衰回路は、前記トランジスタを複数備えており、
複数の前記トランジスタは、複数の前記制御信号に基づいて、オン状態又はオフ状態が個別に制御される請求項9又は請求項10記載の可変利得増幅器。
【請求項13】
前記第2可変減衰回路は、外部から入力される複数の制御信号に基づいて、前記トランジスタに与えるバイアス電圧を変えることにより前記トランジスタの抵抗値を調整するバイアス回路を更に備える、請求項9又は請求項10記載の可変利得増幅器。
【請求項14】
前記第1可変減衰回路は、前記一対の入力端の間に接続された複数のトランジスタを備え、
前記第2可変減衰回路は、前記一対の出力端の間に接続された複数のトランジスタを備え、
前記第1可変減衰回路の各トランジスタのゲート幅は異なり、
前記第2可変減衰回路の各トランジスタのゲート幅は異なり、
前記第1可変減衰回路の各トランジスタをゲート幅が短い順に並べ、前記第2可変減衰回路の各トランジスタをゲート幅が短い順に並べた場合、順番が同じトランジスタのゲート幅の比は同じである、請求項3記載の可変利得増幅器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変利得増幅器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロ波、ミリ波等の高周波信号を用いた無線通信が脚光を浴びている。このような高周波信号の送受信を行う無線通信装置では、送信信号又は受信信号の信号レベルの調整が必要になることがある。可変利得増幅器は、例えば、このような電力調整を行うために、無線通信装置に設けられる。
【0003】
以下の非特許文献1には、トランジスタ及びバイアス回路によって構成される増幅回路が、入力整合回路と段間整合回路との間、及び、段間整合回路と出力整合回路との間に設けられた2段構成の電力増幅器が開示されている。また、以下の特許文献1には、インピーダンスの整合を保ちつつ、高周波信号を適切な信号レベルに減衰させるT型又はπ型の減衰器が開示されている。可変利得増幅器は、例えば、非特許文献1に開示された電力増幅器と特許文献1に開示された減衰器とを組み合わせることによって実現される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Satoshi Tanaka, “Progress of the linear RF power amplifier for mobile phones”, IEICE Trans. Fundamentals, vol. E101-A, No. 2 pp. 385-395, 2018
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、非特許文献1の電力増幅器と特許文献1の減衰器との何れか一方を、高周波信号の経路に対して切り替え可能に接続する構成では、複数の経路が必要になるため小型化が困難になる。また、かかる構成では、高周波信号の経路に対して、FET(電界効果トランジスタ)等を備える切り替え回路を直列接続する必要があることから、インピーダンスの不整合が生じて損失が増大する。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、小型化及びインピーダンスの不整合による損失を抑えることが可能な可変利得増幅器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様による可変利得増幅器(1~3)は、一対の入力端(a1、a2)と、一対の出力端(b1、b2)とを有する差動増幅回路(13、13-1~13-4)と、前記差動増幅回路の前記一対の入力端及び前記一対の出力端の少なくとも一方の間に接続され、外部から入力される制御信号に基づいて、抵抗値を切り替え可能な第1可変減衰回路(14、14-1~14-3)と、を備える。
【0009】
本発明の第1の態様による可変利得増幅器では、高周波信号を増幅する差動増幅回路の一対の入力端の間に第1可変減衰回路が接続されており、外部から入力される制御信号に基づいて、一対の入力端の間における抵抗値が切り替え可能である。これにより、従来のように、減衰器を高周波信号の経路に対して切り替え可能に接続する必要がなくなるため、小型化が可能になる。また、高周波信号の経路に対して、FET(電界効果トランジスタ)等を備える切り替え回路を直列接続する必要がないので、インピーダンスの不整合による損失を抑えることが可能である。
【0010】
本発明の第2の態様による可変利得増幅器は、本発明の第1の態様による可変利得増幅器において、高周波信号の伝搬方向に沿って縦続接続されたN(Nは2以上の整数)個の前記差動増幅回路と、前記一対の入力端から数えて、第2番目から第N番目の前記差動増幅回路のうち少なくとも1つの前記一対の入力端の間に接続された前記第1可変減衰回路と、を備える。
【0011】
本発明の第3の態様による可変利得増幅器は、本発明の第2の態様による可変利得増幅器において、前記第1可変減衰回路が接続された前記一対の入力端を備える前記差動増幅回路の前段の前記差動増幅回路の前記一対の出力端の間に接続され、外部から入力される制御信号に基づいて、前記一対の出力端の間における抵抗値を切り替え可能な第2可変減衰回路(15、15-1~15-3)を更に備える。
【0012】
本発明の第4の態様による可変利得増幅器は、本発明の第1から第3の態様の何れかの態様による可変利得増幅器において、前記第1可変減衰回路が、前記一対の入力端の間に接続されたトランジスタ(31、31-1~31-n)を備える。
【0013】
本発明の第5の態様による可変利得増幅器は、本発明の第4の態様による可変利得増幅器において、前記第1可変減衰回路が、前記トランジスタに対して直列又は並列に接続された抵抗器(32)を備える。
【0014】
本発明の第6の態様による可変利得増幅器は、本発明の第4又は第5の態様による可変利得増幅器において、前記トランジスタが、前記制御信号に基づいて、オン状態又はオフ状態に制御される。
【0015】
本発明の第7の態様による可変利得増幅器は、本発明の第4又は第5の態様による可変利得増幅器において、前記第1可変減衰回路が、前記トランジスタを複数備えており、複数の前記トランジスタが、複数の前記制御信号に基づいて、オン状態又はオフ状態が個別に制御される。
【0016】
本発明の第8の態様による可変利得増幅器は、本発明の第4又は第5の態様による可変利得増幅器において、前記第1可変減衰回路が、外部から入力される複数の制御信号に基づいて、前記トランジスタに与えるバイアス電圧を変えることにより前記トランジスタの抵抗値を調整するバイアス回路(33)を更に備える。
【0017】
本発明の第9の態様による可変利得増幅器は、本発明の第3の態様による可変利得増幅器において、前記第2可変減衰回路が、前記一対の出力端の間に接続されたトランジスタを備える。
【0018】
本発明の第10の態様による可変利得増幅器は、本発明の第9の態様による可変利得増幅器において、前記第2可変減衰回路が、前記トランジスタに対して直列又は並列に接続された抵抗器(32)を備える。
【0019】
本発明の第11の態様による可変利得増幅器は、本発明の第9又は第10の態様による可変利得増幅器において、前記トランジスタが、前記制御信号に基づいて、オン状態又はオフ状態に制御される。
【0020】
本発明の第12の態様による可変利得増幅器は、本発明の第9又は第10の態様による可変利得増幅器において、前記第2可変減衰回路が、前記トランジスタを複数備えており、複数の前記トランジスタが、複数の前記制御信号に基づいて、オン状態又はオフ状態が個別に制御される。
【0021】
本発明の第13の態様による可変利得増幅器は、本発明の第9又は第10の態様による可変利得増幅器において、前記第2可変減衰回路が、外部から入力される複数の制御信号に基づいて、前記トランジスタに与えるバイアス電圧を変えることにより前記トランジスタの抵抗値を調整するバイアス回路(33)を更に備える。
【0022】
本発明の第14の態様による可変利得増幅器は、本発明の第3の態様による可変利得増幅器において、前記第1可変減衰回路が、前記一対の入力端の間に接続された複数のトランジスタを備え、前記第2可変減衰回路が、前記一対の出力端の間に接続された複数のトランジスタを備え、前記第1可変減衰回路の各トランジスタのゲート幅は異なり、前記第2可変減衰回路の各トランジスタのゲート幅は異なり、前記第1可変減衰回路の各トランジスタをゲート幅が短い順に並べ、前記第2可変減衰回路の各トランジスタをゲート幅が短い順に並べた場合、順番が同じトランジスタのゲート幅の比は同じである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、小型化及びインピーダンスの不整合による損失を抑えることが可能である、という効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の第1実施形態による可変利得増幅器の要部構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の第1実施形態における差動増幅回路の構成例を示す回路図である。
【
図3】本発明の第1実施形態における可変減衰回路の構成例を示す回路図である。
【
図4】本発明の第2実施形態による可変利得増幅器の要部構成を示すブロック図である。
【
図5】本発明の第2実施形態における段間整合回路の構成例を示す回路図である。
【
図6】本発明の第2実施形態による可変利得増幅器の等価半回路である。
【
図7】
図6に示す等価半回路の通過特性を示す図である。
【
図8】
図6に示す等価半回路において、合成抵抗R
2を変化させた場合の通過特性を示す図である。
【
図9】本発明の第2実施形態による可変利得増幅器の変形例を示すブロック図である。
【
図10】第1実施例に係る可変利得増幅器を示す図である。
【
図11】第1実施例に係る可変利得増幅器の電力利得を示す図である。
【
図12】第2実施例に係る可変利得増幅器を示す図である。
【
図13】第2実施例に係る可変利得増幅器の通過特性の周波数特性を示す図である。
【
図14】第3実施例に係る可変利得増幅器を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の実施形態による可変利得増幅器について詳細に説明する。
【0026】
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1実施形態による可変利得増幅器の要部構成を示すブロック図である。
図1に示す通り、本実施形態による可変利得増幅器1は、入力整合回路11、出力整合回路12、差動増幅回路13、及び可変減衰回路14(第1可変減衰回路)を備える。このような可変利得増幅器1は、一対の入力端T11,T12から入力される高周波信号を増幅して、一対の出力端T21,T22から出力する。詳細は後述するが、可変利得増幅器1の増幅率は、外部から入力される制御信号によって変えることができる。
【0027】
以下では、説明の便宜上、
図1中の上側の線路(入力端T11、出力端T21等が接続される線路)及びその線路に接続される要素を「p側」ということがある。また、
図1中の下側の線路(入力端T12、出力端T22等が接続される線路)及びその線路に接続される要素を「n側」ということがある。尚、可変利得増幅器1に入力される高周波信号は、例えば、マイクロ波(3~30[GHz])又はミリ波(30~300[GHz])の信号である。
【0028】
入力整合回路11は、可変利得増幅器1の入力側(一対の入力端T11,T12側)のインピーダンス整合を行う回路である。出力整合回路12は、可変利得増幅器1の出力側(一対の出力端T21,T22側)のインピーダンス整合を行う回路である。本実施形態では、可変利得増幅器1で入出力される信号が平衡信号である場合を例に挙げて説明するが、可変利得増幅器1で入出力される信号は、不平衡信号であってもよい。
【0029】
可変利得増幅器1で入出力される信号が不平衡信号である場合には、入力整合回路11に不平衡信号を平衡信号に変換する変換回路(バラン)を設け、出力整合回路12に平衡信号を不平衡信号に変換する変換回路(バラン)を設ければよい。尚、この場合には、p側とn側との何れか一方がグランドに接続されることになる。
【0030】
差動増幅回路13は、一対の入力端a1,a2と一対の出力端b1,b2とを備えており、一対の入力端a1,a2から入力される高周波信号を、所定の増幅率で増幅して、一対の出力端b1,b2から出力する。差動増幅回路13の一対の入力端a1,a2は入力整合回路11の出力側に接続されており、一対の出力端b1,b2は出力整合回路12の入力側に接続されている。尚、差動増幅回路13の増幅率は、可変利得増幅器1が用いられる用途に応じて任意に設定することができる。
【0031】
図2は、本発明の第1実施形態における差動増幅回路の構成例を示す回路図である。
図2に示す通り、差動増幅回路13は、p側のトランジスタ21と、n側のトランジスタ22とを備える。尚、
図2では、説明を簡単にするために、トランジスタ21,22のみを図示しており、トランジスタ21,22に付随する回路素子の図示は省略している。
【0032】
図2に示す通り、トランジスタ21,22は、ベース端子、エミッタ端子、及びコレクタ端子を備えるバイポーラトランジスタである。トランジスタ21のベース端子は差動増幅回路13の入力端a1に接続され、コレクタ端子は差動増幅回路13の出力端b1に接続され、エミッタ端子はグランドに接続されている。トランジスタ22のベース端子は差動増幅回路13の入力端a2に接続され、コレクタ端子は差動増幅回路13の出力端b1に接続され、エミッタ端子はグランドに接続されている。
【0033】
尚、トランジスタ21のベース端子とトランジスタ22のコレクタ端子との間、及び、トランジスタ22のベース端子とトランジスタ21のコレクタ端子との間に、中性化コンデンサが設けられていてもよい。このような中性化コンデンサを設けることで、差動増幅回路13の入力側と出力側とのアイソレーションを改善することができる。尚、
図2では、トランジスタ21,22がバイポーラトランジスタである例を図示しているが、トランジスタ21,22はFET(電界効果トランジスタ)であってもよい。
【0034】
可変減衰回路14は、差動増幅回路13の一対の入力端a1,a2の間に接続され、外部から入力される制御信号(図示省略)に基づいて、差動増幅回路13の一対の入力端a1,a2の間における抵抗値を切り替える回路である。可変減衰回路14は、2つのポートP1,P2を備える。ポートP1は、差動増幅回路13の入力端a1に接続され、ポートP2は、差動増幅回路13の入力端a2に接続される。
【0035】
可変減衰回路14は、差動増幅回路13に入力される高周波信号の減衰量を制御するために設けられる。例えば、可変減衰回路14の抵抗値が相対的に大きい場合には、差動増幅回路13に入力される高周波信号の減衰量を相対的に小さくすることができる。反対に、可変減衰回路14の抵抗値が相対的に小さい場合には、差動増幅回路13に入力される高周波信号の減衰量を相対的に大きくすることができる。
【0036】
但し、可変減衰回路14は、差動増幅回路13の一対の出力端b1,b2の間に接続されてもよい。即ち、ポートP1が、差動増幅回路13の出力端b1に接続され、ポートP2が、差動増幅回路13の出力端b2に接続されてもよい。
【0037】
図3は、本発明の第1実施形態における可変減衰回路の構成例を示す回路図である。
図3(a)に例示する可変減衰回路14は、トランジスタ31を備える。トランジスタ31は、ゲート端子、ソース端子、及びドレイン端子を有するN型MOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)である。トランジスタ31のドレイン端子はポートP1に接続され、ソース端子はポートP2に接続される。また、トランジスタ31のゲート端子は外部からの制御信号が入力される制御ポートCに接続される。
【0038】
トランジスタ31は、制御ポートCに入力される制御信号に基づいて、オン状態(導通状態)又はオフ状態(絶縁状態)に制御される。トランジスタ31がオフ状態である場合には、ポートP1とポートP2との間(差動増幅回路13の一対の入力端a1,a2の間)が電気的に絶縁された状態になるため、可変減衰回路14に入力される高周波信号は減衰しない。これに対し、トランジスタ31がオン状態になると、トランジスタ31のオン抵抗によってポートP1とポートP2との間(差動増幅回路13の一対の入力端a1,a2の間)が抵抗接続され、これにより可変減衰回路14に入力される高周波信号が減衰する。このように、制御ポートCに入力される制御信号に基づいて、可変減衰回路14に入力される高周波信号の減衰量を制御することができる。
【0039】
図3(a)に例示する可変減衰回路14を設けることで、従来のように、減衰器を高周波信号の経路に対して切り替え可能に接続する必要がなくなるため、小型化が可能になる。また、高周波信号の経路に対して、FET(電界効果トランジスタ)等を備える切り替え回路を直列接続する必要がないので、インピーダンスの不整合が生じて損失が増大することを抑制できる。更に、温度変化によってトランジスタ31の特性が変化した場合には、差動増幅回路13の増幅率の温度勾配の極性と、可変減衰回路14に含まれるトランジスタ31のオン抵抗の温度勾配の極性とが一致する。これにより、差動増幅回路13の増幅率の増大(又は、減少)と可変減衰回路14による信号減衰率の増大(又は、減少)とが同時に起こり、差動増幅回路13の増幅率の温度変化が抑制される。即ち、可変利得増幅器1の温度特性を改善することができる。
【0040】
図3(b)に例示する可変減衰回路14は、トランジスタ31に加えて、抵抗器32を備える。抵抗器32は、トランジスタ31のドレイン端子とポートP1との間に接続される。抵抗器32は、トランジスタ31がオン状態になったときの、ポートP1とポートP2との間(差動増幅回路13の一対の入力端a1,a2の間)における抵抗値を調整し、可変減衰回路14に入力される高周波信号の減衰量を調整するために設けられる。
【0041】
尚、抵抗器32は、トランジスタ31のソース端子とポートP2との間に接続されていてもよい。或いは、抵抗器32は、トランジスタ31に対して並列に接続されていてもよい。つまり、抵抗器32は、トランジスタ31のソース端子とドレイン端子との間に接続されていてもよい。
【0042】
図3(c)に例示する可変減衰回路14は、並列接続された複数のトランジスタ31-1~31-n(nは、2以上の整数)を備える。トランジスタ31-1~31-nは、
図3(a),(b)に示すトランジスタ31と同様のN型MOSFETである。トランジスタ31-1~31-nのドレイン端子はポートP1に接続され、ソース端子はポートP2に接続される。トランジスタ31-1~31-nのゲート端子は、制御ポートC1~Cnにそれぞれ接続される。尚、制御ポートC1~Cnには、トランジスタ31-1~31-nのオン状態又はオフ状態を個別に制御する制御信号が入力される。
【0043】
制御ポートC1~Cnに入力される制御信号によって、トランジスタ31-1~31-nのオン状態又はオフ状態を個別に制御することで、ポートP1とポートP2との間(差動増幅回路13の一対の入力端a1,a2の間)における抵抗値を段階的に切り替えることができる。つまり、制御ポートC1~Cnに入力される制御信号によって、可変減衰回路14に入力される高周波信号の減衰量を動的且つ段階的に調整することができる。
【0044】
ここで、トランジスタ31-1~31-nの大きさを互いに異ならせると、減衰量の水準を効率的に増やすことができる。典型的には、トランジスタ31-1~31-nの大きさがこの順で大きくなるとすると、トランジスタ31-x(xは1≦x≦nを満たす整数)の大きさを、大きさが最も小さいトランジスタ31-1の大きさの2(x-1)倍とするのが好ましい。このようにすることで、可変減衰回路14の減衰量が2進数で増減するように変化させることができる。
【0045】
図3(c)に例示する可変減衰回路14において、トランジスタ31-1~31-nの各々は、
図3(b)に示すトランジスタ31のように抵抗器32と接続されてもよい。つまり、トランジスタ31-1~31-nのドレイン端子の各々とポートP1との間にn個の抵抗器32が接続されてもよい。尚、n個の抵抗器32は、トランジスタ31のソース端子の各々とポートP2との間に接続されていてもよい。或いは、n個の抵抗器32は、n個のトランジスタ31-1~31-nに対してそれぞれ並列に接続されていてもよい。つまり、n個の抵抗器32は、トランジスタ31-1~31-nのソース端子とドレイン端子との間にそれぞれ接続されていてもよい。
【0046】
図3(d)に例示する可変減衰回路14は、トランジスタ31とバイアス回路33とを備える。トランジスタ31は、
図3(a),(b)に示すトランジスタ31と同様のN型MOSFETである。バイアス回路33は、制御ポートC1~Cnに接続された入力端(nビットの入力端)とトランジスタ31のゲート端子に接続された出力端とを備える。バイアス回路33は、制御ポートC1~Cnから入力される制御信号(nビットの制御信号)に基づいて、トランジスタ31に与えるバイアス電圧を変えることによりトランジスタ31の抵抗値を段階的に切り替える。これにより、可変減衰回路14に入力される高周波信号の減衰量を動的且つ段階的に調整することができる。
【0047】
図3(d)に例示する可変減衰回路14において、トランジスタ31は、
図3(b)に示すトランジスタ31のように抵抗器32と接続されてもよい。つまり、トランジスタ31のドレイン端子とポートP1との間に抵抗器32が接続されていても良い。尚、抵抗器32は、トランジスタ31のソース端子とポートP2との間に接続されていてもよい。或いは、抵抗器32は、トランジスタ31に対して並列に接続されていてもよい。つまり、抵抗器32は、トランジスタ31のソース端子とドレイン端子との間に接続されていてもよい。
【0048】
尚、
図3では、トランジスタ31及びトランジスタ31-1~31-nがN型MOSFETである例を図示しているが、トランジスタ31及びトランジスタ31-1~31-nはP型MOSFETであってもよい。或いは、トランジスタ31及びトランジスタ31-1~31-nは、バイポーラトランジスタであってもよい。更には、トランジスタ31及びトランジスタ31-1~31-nは、HEMT(高電子移動度トランジスタ)等の化合物トランジスタであってもよい。
【0049】
以上の通り、本実施形態では、入力整合回路11と出力整合回路12との間に差動増幅回路13を設け、差動増幅回路13の一対の入力端a1,a2の間に可変減衰回路14を接続している。そして、外部から入力される制御信号に基づいて、可変減衰回路14の抵抗値(差動増幅回路13の一対の入力端a1,a2における抵抗値)を切り替えるようにしている。これにより、小型化が可能であるとともに、インピーダンスの不整合による損失を抑えることができる。
【0050】
〔第2実施形態〕
図4は、本発明の第2実施形態による可変利得増幅器の要部構成を示すブロック図である。尚、
図4においては、
図1に示す構成に対応する構成については、同一の符号を付してある。
図4に示す通り、本実施形態による可変利得増幅器2は、入力整合回路11、出力整合回路12、差動増幅回路13-1,13-2、可変減衰回路14(第1可変減衰回路)、可変減衰回路15(第2可変減衰回路)、及び段間整合回路16を備える。
【0051】
第1実施形態の可変利得増幅器1は、高周波信号の伝搬方向に沿って、差動増幅回路が1つのみ設けられた1段構成のものであった。これに対し、本実施形態の可変利得増幅器2は、高周波信号の伝搬方向に沿って、差動増幅回路が2つ設けられた2段構成のものである。可変利得増幅器2は、可変利得増幅器1と同様に、一対の入力端T11,T12から入力される高周波信号を増幅して、一対の出力端T21,T22から出力する。また、その増幅率は、外部から入力される制御信号によって変えることができる。
【0052】
入力整合回路11及び出力整合回路12は、
図1に示すものと同様の構成である。差動増幅回路13-1,13-2は、
図1に示す差動増幅回路13と同様の構成であり、一対の入力端a1,a2から入力される高周波信号を、所定の増幅率で増幅して、一対の出力端b1,b2から出力する。差動増幅回路13-1,13-2としては、例えば、
図2に示す構成のものを用いることができる。尚、差動増幅回路13-1,13-2の増幅率は、可変利得増幅器2が用いられる用途に応じて任意に設定することができる。差動増幅回路13-1,13-2の増幅率は同じであっても、異なっていてもよい。
【0053】
差動増幅回路13-1,13-2は、段間整合回路16を介して、高周波信号の伝搬方向に沿って縦続接続されている。具体的に、差動増幅回路13-1の一対の入力端a1,a2は入力整合回路11の出力側に接続されており、一対の出力端b1,b2は段間整合回路16の入力側に接続されている。差動増幅回路13-2の一対の入力端a1,a2は段間整合回路16の出力側に接続されており、一対の出力端b1,b2は出力整合回路12の入力側に接続されている。
【0054】
可変減衰回路14と差動増幅回路13-2との位置関係は、
図1に示すものと同様である。可変減衰回路15は、差動増幅回路13-1の一対の出力端b1,b2の間に接続され、外部から入力される制御信号(図示省略)に基づいて、差動増幅回路13-1の一対の出力端b1,b2の間における抵抗値を切り替える回路である。可変減衰回路15は、可変減衰回路14と同様に、2つのポートP1,P2を備える。ポートP1は、差動増幅回路13-1の出力端b1に接続され、ポートP2は、差動増幅回路13-1の出力端b2に接続される。
【0055】
可変減衰回路15は、差動増幅回路13-1の出力端b1,b2の間における抵抗値を調整することで、可変利得増幅器2の周波数特性を改善するために設けられる。可変減衰回路15は、可変減衰回路14と同様の構成であっても、異なる構成であってもよい。可変減衰回路15としては、例えば、
図3(a)~(d)に示す構成のものを用いることができる。
【0056】
段間整合回路16は、差動増幅回路13-1を含む1段目の増幅回路と、差動増幅回路13-2を含む2段目の増幅回路との間のインピーダンス整合を行う回路である。段間整合回路16は、1段目の増幅回路と2段目の増幅回路との間のインピーダンス整合を行うことができれば、任意の回路を用いることができる。
【0057】
図5は、本発明の第2実施形態における段間整合回路の構成例を示す回路図である。
図5に示す通り、段間整合回路16は、変圧器40とコンデンサ41~44とを備えており、変圧器結合型の複同調回路を構成する。変圧器40は、一次巻線40a及び二次巻線40bを備える。変圧器40の一次巻線40aは、段間整合回路16の入力端T31,T32間に接続されており、変圧器40の二次巻線40bは、段間整合回路16の出力端T41,T42間に接続されている。
【0058】
コンデンサ41は、一次巻線40aの一端及び入力端T31とグランドとの間に接続されており、コンデンサ42は、一次巻線40aの他端及び入力端T32とグランドとの間に接続されている。コンデンサ43は、二次巻線40bの一端及び出力端T41とグランドとの間に接続されており、コンデンサ44は、二次巻線40bの他端及び出力端T42とグランドとの間に接続されている。
【0059】
図6は、本発明の第2実施形態による可変利得増幅器の等価半回路である。具体的には、
図4に示す差動増幅回路13-1の出力インピーダンス、可変減衰回路15、段間整合回路16、可変減衰回路14、及び差動増幅回路13-2の入力インピーダンスを含む半回路である。以下、
図6に示す等価半回路を参照して、可変減衰回路15を設けることで、可変利得増幅器2の周波数特性が改善される理由について説明する。
【0060】
図6に示す等価半回路において、L
1は、段間整合回路16に含まれる変圧器40の一次側のインダクタンスであり、L
2は、段間整合回路16に含まれる変圧器40の二次側のインダクタンスである。Mは、変圧器40の励磁インダクタンスである。C
1は、段間整合回路16に含まれる一次側のコンデンサ(例えば、コンデンサ41)の容量と、差動増幅回路13-1に含まれるトランジスタ(図示省略)の寄生容量との合成容量である。C
2は、段間整合回路16に含まれる二次側のコンデンサ(例えば、コンデンサ43)の容量と、差動増幅回路13-2に含まれるトランジスタ(図示省略)の寄生容量との合成容量である。
【0061】
R1は、差動増幅回路13-1に含まれるトランジスタ(図示省略)の出力インピーダンスと可変減衰回路15の等価抵抗との合成抵抗である。R2は、差動増幅回路13-2に含まれるトランジスタ(図示省略)の入力インピーダンスと可変減衰回路14の等価抵抗との合成抵抗である。ここで、上記の励磁インダクタンスMは、結合係数kを用いて以下の(1)式で表される。
【0062】
【0063】
図4に示す可変利得増幅器2において、可変減衰回路15のオン状態とオフ状態とを切り替えることは、合成抵抗R
1を動的に変化させることと等価である。また、可変減衰回路14のオン状態とオフ状態とを切り替えることは、合成抵抗R
2を動的に変化させることと等価である。
【0064】
ここで、上述した通り、合成抵抗R1は、差動増幅回路13-1に含まれるトランジスタ(図示省略)の出力インピーダンスと可変減衰回路15の等価抵抗との合成抵抗である。また、合成抵抗R2は、差動増幅回路13-2に含まれるトランジスタ(図示省略)の入力インピーダンスと可変減衰回路14の等価抵抗との合成抵抗である。このため、実際に各トランジスタに作用する高周波信号の大きさは、各トランジスタのインピーダンスと各等価抵抗との大きさの比で分配された値になる。以下では、その分配比は周波数特性をもたないと仮定し、以後の議論に影響しないようにして、合成抵抗R1を等価半回路の電源インピーダンスとし、合成抵抗R2を負荷インピーダンスとして扱う。
【0065】
一般的に、複同調回路は、2つの共振回路を結合させて構成される回路である。
図6に示す変圧器結合型の複同調回路を構成する段間整合回路16は、容量C
1及びインダクタンスL
1による共振回路と、容量C
2及びインダクタンスL
2による共振回路とを、励磁インダクタンスMを用いて結合させている。尚、
図6では、変圧器結合型の複同調回路を示しているが、容量結合型の複同調回路であってもよい。また、
図6に示す共振回路は、並列共振回路であるが、直列共振回路であってもよい。
【0066】
図7は、
図6に示す等価半回路の通過特性を示す図である。尚、
図7に示す通過特性は、
図6に示す等価半回路において、合成抵抗R
1,R
2を50[Ω]とし、容量C
1,C
2を400[fF]とし、インダクタンスL
1,L
2を80[pH]として計算している。また、
図6では、結合係数kを0.1としたときの通過特性、0.28としたときの通過特性、0.5としたときの通過特性を図示している。
【0067】
結合係数kが0.28の場合に、複同調回路は臨界結合状態にあり、通過特性はバンドパス特性を示している。このバンドパス特性の中心周波数f0は、各共振回路の共振周波数であり、以下の(2)式で表される。
【0068】
【0069】
また、このとき、各共振回路における負荷Qの値Q
Lと結合係数kとがkQ
1=1なる関係を満たすことが知られている。
図6に示す等価半回路において、各共振回路の負荷Qは、以下の(3)式で表される。尚、以下の(3)式のxは、1又は2をとる変数である。つまり、以下の(3)式中のL
xは、L
1又はL
2であり、R
xは、R
1又はR
2である。バンドパス特性を利用するため、一般に、中心周波数f
0は可変利得増幅器2の駆動周波数に合わせるように設計される。
【0070】
【0071】
図6に示す等価半回路において、図中の点A,B,Cから高周波信号の伝搬方向に沿って等価半回路をみたときのインピーダンスをそれぞれZ
1,Z
2,Z
3とする。尚、インピーダンスZ
3は、合成抵抗R
1から差動増幅回路13-2をみたときのインピーダンスである。これらインピーダンスZ
1,Z
2,Z
3はそれぞれ、以下の(4)~(6)式で表される。
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
上記の(4)~(6)式を参照すると、合成抵抗R2がα倍になったとき(αは定数)、XC2、XL2が同時にα倍になれば(即ち、L2がα倍になり、C2が1/α倍になれば)、インピーダンスZ2が変化しない。このため、インピーダンスZ3も変化せず、整合状態に変化がないことから通過特性も変化しないことが分かる。つまり、バンドパス特性を維持するためには、各共振回路における負荷Qの値QLが不変であればよい。
【0077】
一般に、トランジスタの出力インピーダンスは入力インピーダンスよりも大きいため、一次側と二次側の共振回路における負荷Qの値QLをそろえるために、インダクタンスL1はインダクタンスL2よりも大きく設計される。このため、可変減衰回路15の等価抵抗は、可変減衰回路14の等価抵抗よりも大きいことが望ましい。また、可変減衰回路15,14の等価抵抗が複数の水準を持つ場合には、それらの複数の水準は、同じ比率で変化することが望ましい。また、それらの各水準における可変減衰回路15,14の等価抵抗比は、一次側のインダクタンスと二次側のインダクタンスとの比に等しいことが望ましい。
【0078】
一方で、可変減衰回路15,14のオン状態とオフ状態とを切り替えた場合には、合成抵抗R1,R2がそれぞれ動的に変化するため、各共振回路における負荷Qの値QLも動的に変化する。そこで、数値的に計算を行って、各共振回路における負荷Qの値QLの変化の様態によって通過特性がどのように変化するかを確認した。
【0079】
図8は、
図6に示す等価半回路において、合成抵抗R
2を変化させた場合の通過特性を示す図である。尚、
図8に示す通過特性は、
図7に示す通過特性を計算した場合と同様に、合成抵抗R
1,R
2を50[Ω]とし、容量C
1,C
2を400[fF]とし、インダクタンスL
1,L
2を80[pH]とし、結合係数を0.28にして計算している。
【0080】
図8(a)は、合成抵抗R
1の値を50[Ω]に固定し、合成抵抗R
2を50[Ω]から20[Ω]まで変化させた場合の等価半回路の通過特性を示す図である。
図8(b)は、合成抵抗R
2を50[Ω]から20[Ω]まで変化させつつ、合成抵抗R
1の値を合成抵抗R
2に追従させた場合の等価半回路の通過特性を示す図である。
図8を参照すると、合成抵抗R
1の値を合成抵抗R
2に追従させた場合には、合成抵抗R
1の値を50[Ω]に固定した場合よりもブロードな特性となり、且つ合成抵抗R
2の値が等しい(例えば、
図8(a)のR
2=20[Ω]の場合と
図8(b)のR
2=20[Ω]の場合)ときの減衰量が大きくなっていることが分かる。
【0081】
このように、可変減衰回路14のみを動作させた場合よりも、可変減衰回路15と可変減衰回路14とを同時に動作させた場合の方が、周波数特性が良好で、且つ減衰量が大きくなるため、減衰回路として良好な特性を示すということができる。つまり、本実施形態の可変利得増幅器2のように、高周波信号の伝搬方向に沿って、差動増幅回路が2つ設けられた2段構成とする場合は、可変減衰回路14に加えて、可変減衰回路15を備えることが望ましい。
【0082】
以上の通り、本実施形態では、入力整合回路11と段間整合回路16との間に差動増幅回路13-1を設けるとともに、段間整合回路16と出力整合回路12との間に差動増幅回路13-2を設けている。また、差動増幅回路13-2の一対の入力端a1,a2の間に可変減衰回路14を接続し、差動増幅回路13-1の一対の出力端b1,b2の間に可変減衰回路15を接続している。そして、外部から入力される制御信号に基づいて、可変減衰回路14,15の抵抗値を切り替えるようにしている。これにより、小型化が可能であるとともに、インピーダンスの不整合による損失を抑えることができる。加えて、周波数特性が良好で、且つ減衰量を大きくすることができるため、減衰回路として良好な特性を実現することができる。
【0083】
図9は、本発明の第2実施形態による可変利得増幅器の変形例を示すブロック図である。尚、
図9においては、入力整合回路11及び出力整合回路12の図示を省略している。
図9(a)に示す可変利得増幅器2Aは、縦続接続された4個の差動増幅回路13-1~13-4と、差動増幅回路13-2~13-4の入力端の間に接続された3個の可変減衰回路14-1~14-3(第1可変減衰回路)とを備える。
図9(b)に示す可変利得増幅器2Bは、
図9(a)に示す可変利得増幅器2Aに対し、差動増幅回路13-1~13-3の出力端の間に接続された3個の可変減衰回路15-1~15-3(第2可変減衰回路)を追加したものである。
【0084】
つまり、
図9(a),(b)示す可変利得増幅器2A,2Bは、差動増幅回路が4つ設けられた4段構成のものであり、第2~4段の差動増幅回路の入力端の間に可変減衰回路が接続された構成である。
図9(a)に示す可変利得増幅器2Aでは、差動増幅回路の出力端の間に接続される可変減衰回路が省略されているが、
図9(b)に示す可変利得増幅器2Bでは、第1~3段の差動増幅回路の出力端の間に可変減衰回路が接続されている。
【0085】
尚、
図9(a)に示す可変利得増幅器2Aでは、可変減衰回路14-1~14-3の前段に段間整合回路16-1~16-3がそれぞれ設けられている。
図9(b)に示す可変利得増幅器2Bでは、可変減衰回路14-1,15-1の間、可変減衰回路14-2,15-2の間、及び可変減衰回路14-3,15-3の間に、段間整合回路16-1~16-3がそれぞれ設けられている。
【0086】
可変利得増幅器が、縦続接続されたN(Nは2以上の整数)個の差動増幅回路を備える場合には、高周波信号の伝搬方向に沿って、第2番目から第N番目の差動増幅回路の入力端の間に可変減衰回路が接続された構成にすることができる(
図9(a)参照)。加えて、第1番目から第N-1番目の差動増幅回路の出力端の間に可変減衰回路が接続された構成にすることもできる(
図9(b)参照)。
【実施例0087】
〔第1実施例〕
図10は、第1実施例に係る可変利得増幅器を示す図である。本実施例は、第1実施形態による可変利得増幅器1の実施例である。尚、
図10においては、
図1~3に示す構成に対応する構成については同一の符号を付してある。
図10に示す通り、可変利得増幅器1は、入力整合回路11、出力整合回路12、差動増幅回路13、及び可変減衰回路14に加えて、バイアス回路51及び制御回路52を備える。
【0088】
差動増幅回路13は、
図2に示す2つのトランジスタ21,22と、2つの中性化コンデンサ23,24とを備える。中性化コンデンサ23は、トランジスタ21のベース端子とトランジスタ22のコレクタ端子との間に接続されており、中性化コンデンサ24は、トランジスタ22のベース端子とトランジスタ21のコレクタ端子との間に接続されている。
【0089】
可変減衰回路14は、
図3(c)に示す並列接続された2つのトランジスタ31-1,31-2を備える。尚、トランジスタ31-1,31-2は、N型MOSFETである。ここで、トランジスタ31-1(第2のFET)及びトランジスタ31-2(第1のFET)の大きさは、以下の表1に示す通りである。
【0090】
【0091】
出力整合回路12には、電源電圧Vccが供給される。電源電圧Vccは、出力整合回路12を介して、差動増幅回路13に設けられたトランジスタ21,22のコレクタ端子に印加される。入力整合回路11には、バイアス回路51が接続されている。バイアス回路51は、差動増幅回路13に設けられたトランジスタ21,22のベース端子に供給するバイアス電流を出力する。尚、バイアス回路51から出力されるバイアス電流は、入力整合回路11を介してトランジスタ21,22のベース端子に供給される。制御回路52は、可変減衰回路14に設けられた2つのトランジスタ31-1,31-2のオン状態又はオフ状態を個別に制御する。
【0092】
可変利得増幅器1の入力端T11,T12の間には、高周波信号源SGと抵抗R11との直列回路が接続されており、出力端T21,T22の間には、抵抗R12が接続されている。尚、出力端T22は、グランドに接続されている。抵抗R11の抵抗値は、例えば100[Ω]であり、抵抗R12の抵抗値は、例えば50[Ω]である。
【0093】
図11は、第1実施例に係る可変利得増幅器の電力利得を示す図である。具体的には、バイアス回路51から出力されるバイアス電流を、22,31,42,54,61[μA]にそれぞれ設定し、入力端T11,T12への入力電力を変化させたときの周波数28[GHz]における電力利得を示す図である。
【0094】
ここで、
図11(a)は、可変減衰回路14のトランジスタ31-2(第1のFET)及びトランジスタ31-1(第2のFET)を共にオフ状態にした場合のものである。
図11(b)は、可変減衰回路14のトランジスタ31-2(第1のFET)をオン状態にし、トランジスタ31-1(第2のFET)をオフ状態にした場合のものである。
図11(c)は、可変減衰回路14のトランジスタ31-2(第1のFET)をオフ状態にし、トランジスタ31-1(第2のFET)をオン状態にした場合のものである。
図11(d)は、可変減衰回路14のトランジスタ31-2(第1のFET)及びトランジスタ31-1(第2のFET)を共にオン状態にした場合のものである。
【0095】
図11(a)を参照すると、バイアス電流を減らすと電力利得を下げることができるものの、入力電力が大きい場合には利得が大きくなって線形性が悪化することが分かる。
図11(b)~(d)を参照すると、可変減衰回路14に設けられたトランジスタ31-2(第1のFET)及びトランジスタ31-1(第2のFET)の少なくとも1つをオン状態にすることで、線形性を悪化させることなく電力利得を下げられることが分かる(例えば、
図11(a)に示すグラフの電力利得3.0dB(バイアス電流31μA)と、
図11(b)のグラフの電力利得3.0dB(バイアス電流64μA)とを比較すると明確である)。また、トランジスタ31-2(第1のFET)及びトランジスタ31-1(第2のFET)のオン状態とオフ状態との組み合わせを変えることで、電力利得を段階的に下げられることが分かる。
【0096】
〔第2実施例〕
図12は、第2実施例に係る可変利得増幅器を示す図である。本実施例は、第2実施形態による可変利得増幅器2の実施例である。尚、
図12においては、
図2~5に示す構成に対応する構成については同一の符号を付してある。
図12に示す通り、可変利得増幅器2は、入力整合回路11、出力整合回路12、差動増幅回路13-1,13-2、可変減衰回路14,15、及び段間整合回路16に加えて、バイアス回路51,53及び制御回路54を備える。
【0097】
差動増幅回路13-1,13-2は、
図10に示す差動増幅回路13と同様に、2つのトランジスタ21,22と、2つの中性化コンデンサ23,24とを備える。可変減衰回路14,15は、
図10に示す可変減衰回路14と同様に、並列接続された2つのトランジスタ31-1,31-2を備える。尚、トランジスタ31-1,31-2は、N型MOSFETである。ここで、可変減衰回路15に設けられたトランジスタ31-1(第2のFET)及びトランジスタ31-2(第1のFET)、並びに、可変減衰回路14に設けられたトランジスタ31-1(第4のFET)及びトランジスタ31-2(第3のFET)の大きさは、以下の表2に示す通りである。
【0098】
【0099】
上記表2に示す通り、可変減衰回路15の各トランジスタ(第1,第2のFET)のゲート幅は異なり、可変減衰回路14の各トランジスタ(第3,第4のFET)のゲート幅は異なっている。可変減衰回路15の各トランジスタをゲート幅が短い順に並べ(7.5μm,15μm)、可変減衰回路14の各トランジスタをゲート幅が短い順に並べた(45μm,90μm)場合、順番が同じトランジスタのゲート幅の比は同じである。具体的には、第1のFETのゲート幅と第3のFETのゲート幅との比(45/7.5=6)が、第2のFETのゲート幅と第4のFETのゲート幅との比(90/15=6)に等しい。
【0100】
出力整合回路12及び段間整合回路16には、電源電圧Vccが供給される。電源電圧Vccは、出力整合回路12を介して、差動増幅回路13-2に設けられたトランジスタ21,22のコレクタ端子に印加される。また、電源電圧Vccは、段間整合回路16に設けられた変圧器40の一次巻線40aの中点を介して、差動増幅回路13-1に設けられたトランジスタ21,22のコレクタ端子に印加される。
【0101】
入力整合回路11には、バイアス回路51が接続されており、段間整合回路16には、バイアス回路53が接続されている。バイアス回路51は、差動増幅回路13-1に設けられたトランジスタ21,22のベース端子に供給するバイアス電流を出力する。バイアス回路53は、差動増幅回路13-2に設けられたトランジスタ21,22のベース端子に供給するバイアス電流を出力する。
【0102】
尚、バイアス回路51から出力されるバイアス電流は、入力整合回路11を介して差動増幅回路13-1に設けられたトランジスタ21,22のベース端子に供給される。バイアス回路53から出力されるバイアス電流は、段間整合回路16に設けられた変圧器40の二次巻線40bの中点を介して、差動増幅回路13-2に設けられたトランジスタ21,22のベース端子に供給される。制御回路54は、可変減衰回路14,15に設けられたトランジスタ31-1,31-2のオン状態又はオフ状態を個別に制御する。
【0103】
可変利得増幅器2の入力端T11,T12の間には、高周波信号源SGと抵抗R11との直列回路が接続されており、出力端T21,T22の間には、抵抗R12が接続されている。尚、出力端T22は、グランドに接続されている。抵抗R11の抵抗値は、例えば100[Ω]であり、抵抗R12の抵抗値は、例えば50[Ω]である。これは、第1実施例と同様である。
【0104】
図13は、第2実施例に係る可変利得増幅器の通過特性の周波数特性を示す図である。
図13(a)は、可変減衰回路14,15に設けられたトランジスタ31-1,31-2のオン状態及びオフ状態の組み合わせを変えた場合における可変利得増幅器2の通過特性の周波数特性を示す図である。
図13(b)は、可変減衰回路15除いて、可変減衰回路14に設けられたトランジスタ31-1,31-2のオン状態及びオフ状態の組み合わせを変えた場合における可変利得増幅器2の通過特性の周波数特性を示す図である。
【0105】
尚、
図13中に示された第1のFETは、可変減衰回路15に設けられたトランジスタ31-2であり、第2のFETは、可変減衰回路15に設けられたトランジスタ31-1である。また、第3のFETは、可変減衰回路14に設けられたトランジスタ31-2であり、第4のFETは、可変減衰回路14に設けられたトランジスタ31-1である。
【0106】
図13(a),(b)を参照すると、
図13(a)に示されたグラフの方が、
図13(b)に示されたグラフよりも減衰量が大きく、傾きが小さいことが分かる。つまり、可変利得増幅器2に可変減衰回路15が設けられていない場合よりも、可変減衰回路15が設けられている場合の方が周波数特性を改善できることが分かる。
【0107】
〔第3実施例〕
図14は、第3実施例に係る可変利得増幅器を示す図である。本実施例に係る可変利得増幅器3は、
図12に示す可変利得増幅器2の可変減衰回路14の構成を簡略化し、可変減衰回路15を省略するとともに、
図12に示す制御回路54に代えて制御回路55を設けた構成である。尚、
図14においては、
図12及び
図3(a)に示す構成に対応する構成については同一の符号を付してある。また、
図12に示す構成と同じ構成については説明を省略する。
【0108】
可変減衰回路14は、
図3(a)に示すトランジスタ31を備える。尚、トランジスタ31は、N型MOSFETである。ここで、トランジスタ31(FET)の大きさ、及び等価抵抗は、以下の表3に示す通りである。
【0109】
【0110】
制御回路55は、可変減衰回路14に設けられたトランジスタ31のオン状態又はオフ状態を制御する。尚、可変利得増幅器3の入力端T11,T12の間には、高周波信号源SGと抵抗R11との直列回路が接続されており、出力端T21,T22の間には、抵抗R12が接続されている。尚、出力端T22は、グランドに接続されている。抵抗R11の抵抗値は、例えば100[Ω]であり、抵抗R12の抵抗値は、例えば50[Ω]である。これは、第1,第2実施例と同様である。
【0111】
以下の表4は、第3実施例に係る可変利得増幅器の電力利得を示す表である。具体的には、温度を、-40,65,125[℃]にそれぞれ設定したときの周波数28[GHz]における電力利得を示す表である。表4においては、可変利得増幅器3のトランジスタ31(FET)をオン状態にした場合、可変利得増幅器3のトランジスタ31(FET)を理想抵抗に置き換えた場合、及び可変利得増幅器3から可変減衰回路14を除いた場合の電力利得が示されている。尚、上記の理想抵抗の抵抗値は、表3に示されている等価抵抗の抵抗値(7.62[Ω])である。
【0112】
【0113】
表4を参照すると、温度が-40[℃]から125[℃]に変化したときの電力利得の変動は、それぞれの場合で以下の通りである。可変利得増幅器3のトランジスタ31(FET)をオン状態にした場合には4.9[dB]である。可変利得増幅器3のトランジスタ31(FET)を等価抵抗に置き換えた場合には7.5[dB]である。可変利得増幅器3から可変減衰回路14を除いた場合には、7.1[dB]である。これにより、FETを有する可変減衰回路14を用いることで、温度特性が改善することが分かる。
【0114】
以上、本発明の実施形態及び実施例について説明したが、本発明は上記実施形態及び実施例に制限されることなく、本発明の範囲内で自由に変更が可能である。例えば、上述した実施例では、周波数28[GHz]における電力利得について言及したが、本発明は、例えば、マイクロ波帯又はミリ波帯の任意の周波数を有する高周波信号に対応可能である。
1~3…可変利得増幅器、a1,a2…入力端、b1,b2…出力端、13,13-1~13-4…差動増幅回路、14,14-1~14-3…可変減衰回路、15,15-1~15-3…可変減衰回路、31,31-1~31-n…トランジスタ、32…抵抗器、33…バイアス回路
前記第1可変減衰回路が接続された前記一対の入力端を備える前記増幅回路の前段の前記差動増幅回路の前記一対の出力端の間に接続され、外部から入力される制御信号に基づいて、前記一対の出力端の間における抵抗値を切り替え可能な第2可変減衰回路を更に備える、請求項2記載の可変利得増幅器。
前記第1可変減衰回路は、外部から入力される複数の制御信号に基づいて、前記トランジスタに与えるバイアス電圧を変えることにより前記トランジスタの抵抗値を調整するバイアス回路を更に備える、請求項1記載の可変利得増幅器。
前記第2可変減衰回路は、外部から入力される複数の制御信号に基づいて、前記トランジスタに与えるバイアス電圧を変えることにより前記トランジスタの抵抗値を調整するバイアス回路を更に備える、請求項6又は請求項7記載の可変利得増幅器。