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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023179083
(43)【公開日】2023-12-19
(54)【発明の名称】コーティング錠
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/32 20060101AFI20231212BHJP
   A61K 9/36 20060101ALI20231212BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20231212BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20231212BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20231212BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20231212BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20231212BHJP
   A61K 47/28 20060101ALI20231212BHJP
   A61K 47/46 20060101ALI20231212BHJP
   A61K 31/167 20060101ALI20231212BHJP
   A61K 31/4402 20060101ALI20231212BHJP
   A61K 31/485 20060101ALI20231212BHJP
   A61K 31/137 20060101ALI20231212BHJP
   A61K 31/185 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
A61K9/32
A61K9/36
A61K47/38
A61K47/32
A61K47/22
A61K47/26
A61K47/42
A61K47/28
A61K47/46
A61K31/167
A61K31/4402
A61K31/485
A61K31/137
A61K31/185
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022092143
(22)【出願日】2022-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000006769
【氏名又は名称】ライオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】寺本 勘二
(72)【発明者】
【氏名】木津 典生
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA44
4C076BB01
4C076DD29U
4C076DD41C
4C076DD61T
4C076DD67T
4C076DD70T
4C076EE06H
4C076EE16H
4C076EE23H
4C076EE31A
4C076EE32A
4C076EE32H
4C076EE41T
4C076EE58T
4C076FF52
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC17
4C086BC27
4C086GA13
4C086GA14
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA35
4C086MA52
4C086NA09
4C206AA01
4C206AA02
4C206FA10
4C206GA02
4C206GA31
4C206JA04
4C206KA14
4C206MA03
4C206MA05
4C206MA55
4C206MA72
4C206NA09
(57)【要約】
【課題】薬物成分等に起因する苦味に対するマスキング効果に優れ、生産性の高いコーティング錠の提供。
【解決手段】苦味を有する薬物(A)を含有する素錠(X)と、前記素錠(X)の表面を被覆するフィルムコーティング層(Y)とを含有し、前記素錠(X)100質量部に対して、前記フィルムコーティング層(Y)の割合が3質量部以上であり、前記フィルムコーティング層(Y)は、ヒプロメロース及びポリビニルアルコール(部分けん化物)から選ばれる1種以上の水溶性高分子(B)を含有する、コーティング錠。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
苦味を有する薬物(A)を含有する素錠(X)と、前記素錠(X)の表面を被覆するフィルムコーティング層(Y)とを含有し、
前記素錠(X)100質量部に対して、前記フィルムコーティング層(Y)の割合が3質量部以上であり、
前記フィルムコーティング層(Y)は、ヒプロメロース及びポリビニルアルコール(部分けん化物)から選ばれる1種以上の水溶性高分子(B)を含有する、コーティング錠。
【請求項2】
前記フィルムコーティング層(Y)中の前記水溶性高分子(B)の含有割合が、前記フィルムコーティング層(Y)の総質量に対して40質量%以上である、請求項1に記載のコーティング錠。
【請求項3】
前記フィルムコーティング層(Y)は、甘味剤(C)をさらに含有し、
前記フィルムコーティング層(Y)中の前記甘味剤(C)の含有割合が、前記フィルムコーティング層(Y)の総質量に対して0.1~5質量%である、請求項1又は2に記載のコーティング錠。
【請求項4】
前記甘味剤(C)が、サッカリンナトリウム、アスパルテーム、ステビア、グリチルリチン酸二カリウム、アセスルファムカリウム、ソーマチン及びスクラロースから選ばれる1種以上である、請求項3に記載のコーティング錠。
【請求項5】
前記薬物(A)が、アセトアミノフェン、クロルフェニラミンマレイン酸塩、デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物、dl-メチルエフェドリン塩酸塩、グアヤコールスルホン酸カリウム及びカフェインから選ばれる1種以上である、請求項1又は2に記載のコーティング錠。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング錠に関する。
【背景技術】
【0002】
一般用医薬品の風邪薬には、かぜの諸症状を鎮めるため、解熱鎮痛成分、抗ヒスタミン成分、鎮咳去痰成分等の薬物成分(有効成分)が配合されている。例えばデキストロメトルファン臭化水素酸塩は鎮咳去痰成分であり、風邪薬において解熱鎮痛成分や抗ヒスタミン成分等と共配合される。これら薬物成分は苦みを有する場合があるため、服用性の観点から薬物成分を含有する素錠の表面を糖衣層で被覆して苦みをマスキングすることがある。特に、小児用の風邪薬は子供が飲み込むまでに時間を要するため、より長い時間のマスキング効果が求められる。
【0003】
しかし、素錠の表面を糖衣層で被覆した糖衣錠は、苦みに対するマスキング効果に優れるものの、保存後に糖衣層のひび割れが生じることがあり、外観不良やマスキング効果の低下を招くことがある。糖衣層のひび割れは、素錠が保存中に吸湿して膨潤したときに、糖衣層がその膨らみに追従しにくいことが要因であると考えられる。
また、糖衣錠は、通常、糖類及び溶剤を含有する糖衣液を素錠の表面に噴霧し、乾燥する工程を所望の厚さの糖衣層が形成されるまで繰り返し行うことで得られる。また、素錠の表面をフィルムコーティング層で被覆した後に、フィルムコーティング層の表面に糖衣層を形成する場合もある。このように、糖衣錠は製造工程数が多く、生産性の面で課題がある。
【0004】
そこで、糖衣錠と同程度のマスキング効果を有するフィルムコーティング錠が望まれている。フィルムコーティング錠は素錠の表面をフィルムコーティング層で被覆した錠剤である。フィルムコーティング層は被膜形成剤(基剤)としてポリビニルアルコール等の水溶性高分子を含有しており、素錠が吸湿により膨潤しても追従しやすく、ひび割れが生じにくい。また、糖衣錠に比べて製造工程数が少ないため、生産性が高い。
例えば特許文献1には、口腔内崩壊錠が、甘味剤、ポリビニルアルコール系樹脂及び着色剤を含有する被覆層により被覆された、被覆層を有する口腔内崩壊錠が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-134217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の被覆層を有する口腔内崩壊錠は、口腔内での速崩壊性と硬度という口腔内崩壊錠に必要とされる錠剤物性確保に重きが置かれており、必ずしもマスキング効果が十分ではない。
本発明は、薬物成分等に起因する苦味に対するマスキング効果に優れ、生産性の高いコーティング錠を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の態様を有する。
[1] 苦味を有する薬物(A)を含有する素錠(X)と、前記素錠(X)の表面を被覆するフィルムコーティング層(Y)とを含有し、
前記素錠(X)100質量部に対して、前記フィルムコーティング層(Y)の割合が3質量部以上であり、
前記フィルムコーティング層(Y)は、ヒプロメロース及びポリビニルアルコール(部分けん化物)から選ばれる1種以上の水溶性高分子(B)を含有する、コーティング錠。
[2] 前記フィルムコーティング層(Y)中の前記水溶性高分子(B)の含有割合が、前記フィルムコーティング層(Y)の総質量に対して40質量%以上である、前記[1]のコーティング錠。
[3] 前記フィルムコーティング層(Y)は、甘味剤(C)をさらに含有し、
前記フィルムコーティング層(Y)中の前記甘味剤(C)の含有割合が、前記フィルムコーティング層(Y)の総質量に対して0.1~5質量%である、前記[1]又は[2]のコーティング錠。
[4] 前記甘味剤(C)が、サッカリンナトリウム、アスパルテーム、ステビア、グリチルリチン酸二カリウム、アセスルファムカリウム、ソーマチン及びスクラロースから選ばれる1種以上である、前記[3]のコーティング錠。
[5] 前記薬物(A)が、アセトアミノフェン、クロルフェニラミンマレイン酸塩、デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物、dl-メチルエフェドリン塩酸塩、グアヤコールスルホン酸カリウム及びカフェインから選ばれる1種以上である、前記[1]~[4]のいずれかのコーティング錠。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、薬物成分等に起因する苦味に対するマスキング効果に優れ、生産性の高いコーティング錠を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[コーティング錠]
本発明のコーティング錠は、素錠(X)と、素錠(X)の表面を被覆するフィルムコーティング層(Y)とを含有する。
本発明のコーティング錠は、フィルムコーティング錠であり、糖衣層は含有しない。
【0010】
<素錠(X)>
素錠(X)は、苦味を有する薬物(A)(以下、「(A)成分」ともいう。)を含有する。
素錠(X)は、少なくとも(A)成分を含有するが、本発明の効果等を損なわない範囲内であれば、必要に応じて、(A)成分以外の成分(以下、「任意成分(x)」ともいう。)をさらに含有してもよい。
【0011】
((A)成分)
(A)成分は、苦味を有する薬物(A)である。
本発明において「苦味を有する薬物」とは、原薬((A)成分)約10mgを口に含み吐き出した後、苦味を呈する薬物をいう。苦みを呈すれば(A)成分は特に限定されないが、例えば、第十四改正日本薬局方の性状の項に「味は極めて苦い」「味は苦い」「味は始め苦く」「味は徐々に苦く」「味はやや苦い」「味は僅かに苦い」「味はえぐい」「味は舌をやくよう」「味は極めて渋い」と記載されている薬物をいう。
【0012】
(A)成分としては、例えばアセトアミノフェン、ロキソプロフェンナトリウム水和物、イブプロフェン、アセチルサリチル酸(アスピリン)、ピロキシカム、メロキシカム、アンピロキシカム、セロコキシブ、ロフェコキシブ、チアラミド、エテンザミド、スルピリン等の解熱鎮痛成分;アリルイソプロピルアセチル尿素、ブロムワレリル尿素等の鎮静催眠成分;塩酸イソチペンジル、塩酸ジフェニルピラリン、塩酸ジフェンヒドラミン、塩酸ジフェテロール、塩酸トリプロリジン、塩酸トリペレナミン、塩酸トンジルアミン、塩酸フェネタジン、塩酸メトジラジン、サリチル酸ジフェンヒドラミン、ジフェニルジスルホン酸カルビノキサミン、酒石酸アリメマジン、タンニン酸ジフェンヒドラミン、テオクル酸ジフェニルピラリン、ナパジシル酸メブヒドロリン、プロメタジンメチレン二サリチル酸塩、マレイン酸カルビノキサミン、クロルフェニラミンマレイン酸塩等の抗ヒスタミン成分;コデインリン酸塩、デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物、ジメモルファンリン酸塩、チペピジンヒベンズ酸塩、メトキシフェナミン塩酸塩、トリメトキノール塩酸塩、カルボシステイン、アセチルシステイン、エチルシステイン、L-システイン、dl-メチルエフェドリン塩酸塩、グアヤコールスルホン酸カリウム、ブロムヘキシン塩酸塩、セラペプターゼ、塩化リゾチーム、アンブロキソール、テオフィリン、アミノフィリン等の鎮咳去痰成分;安息香酸ナトリウムカフェイン、カフェイン等の中枢興奮成分;ビタミンB1及びその誘導体並びにそれらの塩類、ビタミンB2及びその誘導体並びにそれらの塩類、ビタミンC及びその誘導体並びにそれらの塩類、ヘスペリジン及びその誘導体並びにそれらの塩類等のビタミン成分;ケイヒ末、ブクリョウ末、ボタンピ末、トウニン末、シャクヤク末等の生薬及びその抽出物などが挙げられる。これらの中でも、解熱鎮痛成分、抗ヒスタミン成分、鎮咳去痰成分、中枢興奮成分は特に苦味を有する薬物であり、本発明の効果が発揮されやすい点で好適である。その中でも特に、アセトアミノフェン、クロルフェニラミンマレイン酸塩、デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物、dl-メチルエフェドリン塩酸塩、グアヤコールスルホン酸カリウム、カフェインがより好適である。
(A)成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
なお、本発明において、カフェインは無水物(無水カフェイン)であってもよいし、水和物(カフェイン水和物)であってもよいし、無水カフェインとカフェイン水和物の混合物であってもよい。
【0013】
(A)成分の含有量は、コーティング錠1錠中に0.20~250mgが好ましく、0.25~200mgがより好ましく、0.30~100mgがさらに好ましい。
(A)成分の含有割合は、コーティング錠の総質量に対して0.04~98質量%が好ましく、10~90質量%がより好ましく、30~74.7質量%がさらに好ましい。
(A)成分の1回当たりの服用量は、0.40~500mgが好ましく、0.50~400mgがより好ましく、0.60~200mgがさらに好ましい。
(A)成分の1日当たりの服用量は、1.2~1500mgが好ましく、1.5~1200mgがより好ましく、1.8~600mgがさらに好ましい。
(A)成分の含有量、含有割合、及び服用量が、それぞれ上記下限値以上であれば薬物の効果が十分に得られ、上記上限値以下であれば副作用が抑えられ小児でも服用でき、また、苦味が生じにくくなる。
【0014】
素錠(X)がアセトアミノフェンを含有する場合、アセトアミノフェンの含有量は、コーティング錠1錠中に25~150mgが好ましく、35~100mgがより好ましく、40~50mgがさらに好ましい。
アセトアミノフェンの含有割合は、コーティング錠の総質量に対して5~98質量%が好ましく、8.7~67質量%がより好ましく、20~50質量%がさらに好ましい。
アセトアミノフェンの1回当たりの服用量は、50~300mgが好ましく、70~200mgがより好ましく、80~100mgがさらに好ましい。
アセトアミノフェンの1日当たりの服用量は、150~900mgが好ましく、210~600mgがより好ましく、240~300mgがさらに好ましい。
アセトアミノフェンの含有量、含有割合、及び服用量が、それぞれ上記下限値以上であれば解熱鎮痛効果が十分に得られ、上記上限値以下であれば副作用が抑えられ小児でも服用でき、また、苦味が生じにくくなる。
【0015】
素錠(X)がクロルフェニラミンマレイン酸塩を含有する場合、クロルフェニラミンマレイン酸塩の含有量は、コーティング錠1錠中に0.20~1.30mgが好ましく、0.25~0.83mgがより好ましく、0.30~0.42mgがさらに好ましい。
クロルフェニラミンマレイン酸塩の含有割合は、コーティング錠の総質量に対して0.04~2.2質量%が好ましく、0.06~1.1質量%がより好ましく、0.15~0.42質量%がさらに好ましい。
クロルフェニラミンマレイン酸塩の1回当たりの服用量は、0.4~2.6mgが好ましく、0.5~1.7mgがより好ましく、0.6~0.9mgがさらに好ましい。
クロルフェニラミンマレイン酸塩の1日当たりの服用量は、1.2~7.8mgが好ましく、1.5~5.1mgがより好ましく、1.8~2.7mgがさらに好ましい。
クロルフェニラミンマレイン酸塩の含有量、含有割合、及び服用量が、それぞれ上記下限値以上であれば抗ヒスタミン効果が十分に得られ、上記上限値以下であれば副作用が抑えられ小児でも服用でき、また、苦味が生じにくくなる。
【0016】
素錠(X)がデキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物を含有する場合、デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物の含有量は、コーティング錠1錠中に1.3~8mgが好ましく、2~5.4mgがより好ましく、2.5~2.7mgがさらに好ましい。
デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物の含有割合は、コーティング錠の総質量に対して0.26~13.4質量%が好ましく、0.5~6.8質量%がより好ましく、1.2~2.7質量%がさらに好ましい。
デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物の1回当たりの服用量は、2.6~16mgが好ましく、4~10.7mgがより好ましく、5~5.4mgがさらに好ましい。
デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物の1日当たりの服用量は、7.8~48mgが好ましく、12~32.1mgがより好ましく、15~16.2mgがさらに好ましい。
デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物の含有量、含有割合、及び服用量が、それぞれ上記下限値以上であれば鎮咳効果が十分に得られ、上記上限値以下であれば副作用が抑えられ小児でも服用でき、また、苦味が生じにくくなる。
【0017】
素錠(X)がdl-メチルエフェドリン塩酸塩を含有する場合、dl-メチルエフェドリン塩酸塩の含有量は、コーティング錠1錠中に1.6~10mgが好ましく、2.5~6.7mgがより好ましく、3~3.4mgがさらに好ましい。
dl-メチルエフェドリン塩酸塩の含有割合は、コーティング錠の総質量に対して0.3~16.7質量%が好ましく、0.6~8.4質量%がより好ましく、1.5~3.4質量%がさらに好ましい。
dl-メチルエフェドリン塩酸塩の1回当たりの服用量は、3.2~20mgが好ましく、5~13.3mgがより好ましく、6~6.8mgがさらに好ましい。
dl-メチルエフェドリン塩酸塩の1日当たりの服用量は、9.6~60mgが好ましく、15~39.9mgがより好ましく、18~20.4mgがさらに好ましい。
dl-メチルエフェドリン塩酸塩の含有量、含有割合、及び服用量が、それぞれ上記下限値以上であれば気管支拡張効果が十分に得られ、上記上限値以下であれば副作用が抑えられ小児でも服用でき、また、苦味が生じにくくなる。
【0018】
素錠(X)がグアヤコールスルホン酸カリウムを含有する場合、グアヤコールスルホン酸カリウムの含有量は、コーティング錠1錠中に6.9~41.7mgが好ましく、10~27.8mgがより好ましく、12.5~13.9mgがさらに好ましい。
グアヤコールスルホン酸カリウムの含有割合は、コーティング錠の総質量に対して1.3~69.5質量%が好ましく、2.5~34.8質量%がより好ましく、6.2~13.9質量%がさらに好ましい。
グアヤコールスルホン酸カリウムの1回当たりの服用量は、13.8~83.4mgが好ましく、20~55.6mgがより好ましく、25~27.8mgがさらに好ましい。
グアヤコールスルホン酸カリウムの1日当たりの服用量は、41.4~250.2mgが好ましく、60~166.8mgがより好ましく、75~83.4mgがさらに好ましい。
グアヤコールスルホン酸カリウムの含有量、含有割合、及び服用量が、それぞれ上記下限値以上であれば去痰効果が十分に得られ、上記上限値以下であれば副作用が抑えられ小児でも服用でき、また、苦味が生じにくくなる。
【0019】
素錠(X)がカフェインを含有する場合、カフェインの含有量は、コーティング錠1錠中に1.6~25mgが好ましく、1.6~16.7mgがより好ましく、2~4.2mgがさらに好ましい。
カフェインの含有割合は、コーティング錠の総質量に対して0.3~41.7質量%が好ましく、0.4~20.9質量%がより好ましく、1~4.2質量%がさらに好ましい。
カフェインの1回当たりの服用量は、3.2~50mgが好ましく、3.2~33.4mgがより好ましく、4~8.4mgがさらに好ましい。
カフェインの1日当たりの服用量は、9.6~150mgが好ましく、9.6~100.2mgがより好ましく、12~25.2mgがさらに好ましい。
カフェインの含有量、含有割合、及び服用量が、それぞれ上記下限値以上であれば鎮痛補助効果が十分に得られ、上記上限値以下であれば副作用が抑えられ小児でも服用でき、また、苦味が生じにくくなる。
なお、カフェインの含有量、含有割合、及び服用量は、それぞれ無水物換算した値である。
【0020】
(任意成分(x))
任意成分(x)は、素錠(X)に含有される、(A)成分以外の成分である。
任意成分(x)としては、錠剤に含有可能な成分が挙げられ、例えば(A)成分以外の薬物(以下、「他の薬物」ともいう。)、結合剤、賦形剤、崩壊剤、香料、滑沢剤、甘味剤、酸味剤等の添加剤などが挙げられる。
任意成分(x)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
他の薬物としては、例えば制酸剤などが挙げられる。制酸剤としては、例えばケイ酸アルミン酸マグネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化アルミナマグネシウム、合成ヒドロタルサイト、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸水素ナトリウム、沈降炭酸カルシウム、乾燥水酸化アルミニウムゲルなどが挙げられる。
結合剤としては、例えば澱粉、ショ糖、α化デンプン、ゼラチン、アラビアゴム末、ポリビニルピロリドン、プルラン、デキストリン、シクロデキストリン、ヒプロメロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。
賦形剤としては、例えば結晶セルロース、マンニトール、コーンスターチ、L-システイン、キシリトール、エリスリトール、トレハロース、マルチトール、ラクチトール、ソルビトールなどが挙げられる。
崩壊剤としては、例えば低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスポビドン、カルメロース、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルスターチ、部分α化デンプンなどが挙げられる。
香料としては、例えばメントール、リモネン、植物精油(ハッカ油、ミント油、ライチ油、オレンジ油、レモン油等)などが挙げられる。
滑沢剤としては、例えばステアリン酸マグネシウム、フマル酸ステアリルナトリウム、ショ糖脂肪酸エステルなどが挙げられる。
甘味剤としては、例えばサッカリンナトリウム、アスパルテーム、ステビア、グリチルリチン酸二カリウム、アセスルファムカリウム、ソーマチン、スクラロース等の非糖質系甘味剤;単糖類、二糖類以上の多糖類、糖アルコール、水飴、異性化糖類、オリゴ糖、スクロース、トレハロース等の糖質系甘味剤などが挙げられる。
酸味剤としては、例えばクエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、フマル酸、乳酸及びこれらの塩などが挙げられる。
他の薬物、結合剤、賦形剤、崩壊剤、香料、滑沢剤、甘味剤及び酸味剤は、それぞれ1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
(素錠(X)の形態)
素錠(X)の寸法は特に限定されないが、コーティング錠の取り扱いやすさと嚥下性の観点から素錠(X)の直径φとして3~10mmが好ましく、4~10mmがより好ましく、5~8mmがさらに好ましい。また、コーティング錠1錠当たりの素錠(X)質量は、55~450mgが好ましく、75~360mgより好ましい。
また、素錠(X)の形状としては特に限定されないが、スミ角平錠、スミ丸平錠、丸みを帯びたR錠もしくは2段階R錠が好ましく、丸みを帯びたR錠もしくは2段階R錠がより好ましい。
【0023】
素錠(X)は、単層構造(単層錠)であってもよいし、積層構造(積層錠)であってもよい。
素錠(X)が単層錠の場合、素錠(X)は、上述した(A)成分と、必要に応じて任意成分(x)の1つ以上とを含有する薬物層で構成される。一方、素錠(X)が積層錠の場合、素錠は、前記薬物層と、薬物層以外の層(任意層)とで構成される。
なお、素錠(X)が積層錠の場合、層の数は2層であってもよいし、3層以上であってもよい。
また、(A)成分を2種以上組み合わせる場合、前記薬物層は複数あってもよい。例えば、薬物層が2層ある場合は、薬物層及び薬物層が積層した2層錠としてもよいし、前記任意層を含む3層錠としてもよい。
【0024】
<フィルムコーティング層(Y)>
フィルムコーティング層(Y)は、素錠(X)上に形成された、素錠(X)の表面を被覆する層である。
フィルムコーティング層(Y)は、以下に示す水溶性高分子(B)(以下、「(B)成分」ともいう。)を含有する。
フィルムコーティング層(Y)は、少なくとも(B)成分を含有するが、本発明の効果等を損なわない範囲内であれば、必要に応じて、(B)成分以外の成分(以下、「任意成分(y)」ともいう。)をさらに含有してもよい。例えば、フィルムコーティング層(Y)は、(B)成分に加えて、甘味剤(C)(以下、「(C)成分」ともいう。)を含有することが好ましい。また、フィルムコーティング層(Y)は、本発明の効果等を損なわない範囲内であれば、必要に応じて、(C)成分以外の任意成分(以下、「任意成分(y’)」ともいう。)をさらに含有してもよい。
【0025】
((B)成分)
(B)成分は、ヒプロメロース及びポリビニルアルコール(部分けん化物)から選ばれる1種以上の水溶性高分子(B)である。
(B)成分は被膜形成剤(基剤)であり、フィルムコーティング層(Y)が(B)成分を含有することで、素錠(X)の表面にフィルムコーティング層(Y)が均一に形成され、苦味に対するマスキング効果が得られる。
なお、本発明において「水溶性」とは、20℃の水に対する溶解度が1.0g/100mL以上をいう。20℃の水に対する溶解度は1.3g/100mL以上が好ましく、10g/100mL以上がより好ましく、20g/100mL以上がさらに好ましい。溶解度が高い水溶性高分子(B)を用いるほど、(A)成分の溶出性が向上し、溶解度が低い水溶性高分子(B)を用いるほど、苦味に対するマスキング効果が向上する。また、製造性を考慮し、適切な粘度を設定することが好ましい。
また、本発明において「高分子」とは、重量平均分子量が1,000以上のものをいう。水溶性高分子(B)の重量平均分子量は5,000~200,000が好ましく、10,000~150,000がより好ましく、15,000~100,000がさらに好ましい。平均分子量が低い水溶性高分子(B)を用いるほど、(A)成分の溶出性が向上し、平均分子量が高い水溶性高分子(B)を用いるほど、苦味に対するマスキング効果が向上する。また、製造性を考慮し、適切な粘度を設定することが好ましい。
なお、重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミネーションクロマトグラフィー)により測定できる。
【0026】
ヒプロメロースは、通常、パルプを原料とし、クロロメタン又はプロピレンオキサイドの混合物と反応することにより製造される非イオン性のセルロース誘導体で、粘度、置換度が異なる各種グレードが存在する。
例えば、ヒプロメロースの粘度としては3.6~18.0mPa・sが好ましく、4~12.0mPa・sがより好ましく、メトキシ基の置換度としては16.5~30.0%が好ましく、28.0~30.0%がより好ましく、ヒドロキシプロポキシ基の置換度としては4.0~32.0%が好ましく、7.0~12.0%がより好ましい。前記置換度は、日局ヒプロメロースの置換度タイプ1828、2208、2906、2910に合致し、2910が好ましい。
ヒプロメロースは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
なお、ヒプロメロースの粘度は、ヒプロメロースの2質量%水溶液の20℃における粘度である。
ヒプロメロースの粘度は、第十八改正日本薬局方に記載された粘度測定法第1法<2.53>に準じた試験により測定される値である。
【0028】
ヒプロメロースとしては市販品を用いることができ、例えば信越化学工業株式会社製の商品名「TC-5R」(表示粘度:6mPa・s、置換度タイプ2910)、DuPont社製の商品名「METHOCEL E3LV」(表示粘度:3mPa・s、置換度タイプ2910)、「METHOCEL E5LV」(表示粘度:5mPa・s、置換度タイプ2910)、「METHOCEL E6LV」(表示粘度:6mPa・s、置換度タイプ2910)、「METHOCEL E15LV」(表示粘度:15mPa・s、置換度タイプ2910)、「METHOCEL VLV」(表示粘度:2.8mPa・s、置換度タイプ2906)、「METHOCEL F4LV」(表示粘度:4mPa・s、置換度タイプ2906)、「METHOCEL F5LV」(表示粘度:5mPa・s、置換度タイプ2906)、「METHOCEL K3LV」(表示粘度:3mPa・s、置換度タイプ2208)などが挙げられる。
【0029】
ポリビニルアルコール(部分けん化物)は、通常、ポリ酢酸ビニルを部分的にけん化することにより製造される。
ポリビニルアルコール(部分けん化物)のけん化度は78~96mol%が好ましく、86~90mol%がより好ましい。
ポリビニルアルコール(部分けん化物)の粘度は、2~30mPa・sが好ましく、4.8~19.0mPa・sがより好ましい。
ポリビニルアルコール(部分けん化物)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
なお、ポリビニルアルコール(部分けん化物)の粘度は、ポリビニルアルコール(部分けん化物)の4質量%水溶液の20℃における粘度であり、具体的な測定方法は、ヒプロメロースの粘度の測定方法と同様である。
【0030】
ポリビニルアルコール(部分けん化物)としては市販品を用いることができ、例えば三菱ケミカル株式会社製の商品名「ゴーセノールEG」(けん化度:86.5~89.0mol%、粘度:4.8~5.8mPa・s)、日本酢ビ・ポバール株式会社製の商品名「Jポバール」(けん化度:86.0~90.0mol%、粘度:2.8~19.0mPa・s)などが挙げられる。
【0031】
(B)成分は、ヒプロメロース及びポリビニルアルコール(部分けん化物)のいずれか一方でもよいし、両方でもよい。苦味に対するマスキング効果に特に優れることから、(B)成分は少なくともヒプロメロースを含有することが好ましい。
【0032】
フィルムコーティング層(Y)中の(B)成分の含有割合は、フィルムコーティング層(Y)の総質量に対して40質量%以上が好ましく、40~100質量%がより好ましく、50~95質量%がさらに好ましく、70~90質量%が特に好ましい。(B)成分の含有割合が上記下限値以上であれば、任意成分(y)がフィルムコーティング層(Y)に含有されてもフィルムコーティング層(Y)を容易に形成でき、苦味に対するマスキング効果が十分に得られる。(B)成分の含有割合が上記上限値以下であれば、高いフィルム強度のフィルムコーティング層(Y)を形成できるため、苦味に対するマスキング効果が向上する。
【0033】
(任意成分(y))
任意成分(y)は、フィルムコーティング層(Y)に含有される、(B)成分以外の成分である。
任意成分(y)としては、(C)成分、(C)成分以外の添加剤(以下、「他の添加剤」ともいう。)などが挙げられる。
なお、本明細書において、(C)成分以外の任意成分(y)を特に「任意成分(y’)」ともいう。
【0034】
<<(C)成分>>
(C)成分は、甘味剤(C)である。
フィルムコーティング層(Y)が(C)成分を含有することで、コーティング錠服用時の苦味や特異な臭い(特に、(B)成分等の被膜形成剤に由来する特異な臭い)をマスキングできる。
(C)成分としては、例えばサッカリンナトリウム、アスパルテーム、ステビア、グリチルリチン酸二カリウム、アセスルファムカリウム、ソーマチン、スクラロース等の非糖質系甘味剤;単糖類、二糖類以上の多糖類、糖アルコール、水飴、異性化糖類、オリゴ糖、スクロース、トレハロース等の糖質系甘味剤などが挙げられる。これらの中でも、少量で高いマスキング効果が得られることから、サッカリンナトリウム、アスパルテーム、ステビア、グリチルリチン酸二カリウム、アセスルファムカリウム、ソーマチン、スクラロース等の非糖質系甘味剤が好ましく、その中でも特に、保存安定性定性(風味及び色調)及び苦味に対するマスキング効果に優れる観点で、スクラロースがより好ましい。
(C)成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
フィルムコーティング層(Y)中の(C)成分の含有割合は、フィルムコーティング層(Y)の総質量に対して0.1~5質量%が好ましい。(C)成分の含有割合が上記下限値以上であれば、苦味に対するマスキング効果がより向上する。(C)成分の含有割合が上記上限値以下であれば、経時に伴うフィルムコーティング層(Y)のひび割れを抑制できる。
【0036】
<<任意成分(y’)>>
任意成分(y’)は、可塑剤、着色剤、(C)成分以外の矯味剤、(B)成分以外の水溶性高分子(以下、「他の水溶性高分子」ともいう。)などが挙げられる。
任意成分(y’)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
フィルムコーティング層(Y)が可塑剤を含有することで、コーティング障害(ピンホール、傷、ピーリング、ひび割れ)が起こりにくく、経時に伴うフィルムコーティング層(Y)のひび割れをより抑制できる。
可塑剤としては、例えばマクロゴール(「ポリエチレングリコール」ともいう。)、グリセリン、クエン酸トリエチル、トリアセチン、ショ糖脂肪酸エステルなどが挙げられる。これらの中でも水溶性であり、製造性に優れる観点で、マクロゴールが好ましい。マクロゴールとしては、マクロゴール6000、マクロゴール4000、マクロゴール400などが挙げられる。
可塑剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
フィルムコーティング層(Y)中の可塑剤の含有割合は、フィルムコーティング層(Y)の総質量に対して5~30質量%が好ましい。可塑剤の含有割合が上記範囲内であれば、経時に伴うフィルムコーティング層(Y)のひび割れの抑制効果が十分に得られる。
【0039】
フィルムコーティング層(Y)が着色剤を含有することで、コーティング錠の変色をマスキングすることができる。
着色剤としては、例えば酸化チタン、タルク、沈降炭酸カルシウム、軽質無水ケイ酸、含水二酸化ケイ素、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、黄色5号、黄色4号(又はアルミニウムレーキ)などが挙げられる。
着色剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
フィルムコーティング層(Y)中の着色剤の含有割合は、フィルムコーティング層(Y)の総質量に対して3~20質量%が好ましい。着色剤の含有割合が上記範囲内であれば、変色のマスキング効果が十分に得られる。
【0041】
矯味剤としては、例えばクエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、フマル酸、乳酸及びこれらの塩などが挙げられる。
他の水溶性高分子としては、例えばカルメロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース等のセルロース類;アラビアゴム、カルボキシビニルポリマー、ポビドン、クロスポビドン、ポリアクリル酸などが挙げられる。
矯味剤及び他の水溶性高分子は、それぞれ1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
(フィルムコーティング層(Y)の割合)
フィルムコーティング層(Y)は単層構造であってもよいし、積層構造であってもよい。
フィルムコーティング層(Y)の割合は、素錠(X)100質量部に対して3質量部以上であり、3~10質量部が好ましく、4~7質量部がより好ましく、4.5~6質量部がさらに好ましい。フィルムコーティング層(Y)の割合が上記下限値以上であれば、苦味に対するマスキング効果が得られる。
フィルムコーティング層(Y)は、後述のコーティング工程において、(B)成分と溶剤とを含有するコーティング液を素錠(X)に噴霧し、乾燥することで得られる。通常、コーティング液は液垂れしないように素錠(X)の表面に噴霧されるため、フィルムコーティング層(Y)の割合が増えると噴霧量も増えることとなり、噴霧に時間がかかる。フィルムコーティング層(Y)の割合が上記上限値以下であれば、コーティング工程の時間を短くでき、生産効率を上げることができる。
【0043】
また、コーティング錠中のフィルムコーティング層(Y)の含有割合は、コーティング錠の総質量に対して2.9~9.1質量%が好ましく、3.8~6.5質量%がより好ましく、4.3~5.7質量%がさらに好ましい。
【0044】
<コーティング錠の形態>
コーティング錠の寸法は特に限定されないが、コーティング錠の取り扱いやすさと嚥下性の観点からコーティング錠の直径φとして4~11mmが好ましく、5~11mmがより好ましく、6~9mmがさらに好ましい。また1錠当たりのコーティング錠質量は、60~500mgが好ましい。
また、コーティング錠の形状は、素錠(X)の形状が反映され、スミ角平錠、スミ丸平錠、丸みを帯びたR錠もしくは2段階R錠が好ましく、丸みを帯びたR錠もしくは2段階R錠がより好ましい。
【0045】
<コーティング錠の製造方法>
本発明のコーティング錠は、素錠(X)の表面にフィルムコーティング層(Y)を形成することで得られる。
すなわち、コーティング錠の製造方法は、素錠(X)を製造する工程と、素錠(X)の表面にフィルムコーティング層(Y)を形成する工程(コーティング工程)を有する。
【0046】
(素錠(X)の製造)
素錠(X)は、(A)成分と、必要に応じて任意成分(x)とを含有する薬物含有粉体を打錠成形することで得られる。
素錠(X)の製造方法としては、例えば、臼と杵とを備えた打錠機を用いて、薬物含有粉体を打錠成形して素錠を得る工程(打錠工程)を有するものが挙げられる。
【0047】
薬物含有粉体は、例えば原末の(A)成分と、必要に応じて粉体の任意成分(x)とを混合した粉体混合物でもよいし、(A)成分の少なくとも一部を含有する造粒物と、残りの成分とを混合した混合物でもよい。
薬物含有粉体に含有される各成分は、公知の製造方法により得られたものでもよく、市販のものを用いてもよい。各成分は、原末がそのまま用いられてもよく、造粒されたものでもよい。(A)成分として少なくともアセトアミノフェン及びグアヤコールスルホン酸カリウムを含有する素錠(X)を製造する場合、アセトアミノフェン及びグアヤコールスルホン酸カリウムとしては、造粒されたものを用いることが好ましい。
造粒したものを用いる場合、造粒方法は公知の造粒方法を採用でき、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース等の結合剤を含む溶液を用いる流動層造粒(湿式造粒)等が挙げられる。
また、各成分の混合方法としては特に限定されず、従来公知の粉体混合方法が挙げられ、例えば、容器回転型混合機であるボーレコンテナミキサー、V型混合機、W型混合機等が挙げられる。
【0048】
打錠工程で用いられる打錠機としては、例えばロータリー式打錠機などが挙げられる。ロータリー式打錠機としては、例えば株式会社菊水製作所製の「リブラ2」、「アクエリアスG」などが挙げられる。
打錠圧、回転盤の回転速度等の打錠条件は適宜設定される。
【0049】
単層錠の素錠(X)を製造する場合、上述した薬物含有粉体を打錠することで単層錠を製造できる。
積層錠の素錠(X)を製造する場合、上述した薬物含有粉体と、この薬物含有粉体とは組成の異なる粉体のうち、一方を第1層とし、他方を第2層とし、第1層と第2層とを順次、臼に充填して打錠成形することで積層錠を製造できる。
また、(A)成分を2種以上組み合わせ、組成の異なる薬物含有粉体が2種類ある場合、一方を第1層とし、他方を第2層とし、上記と同様に打錠成形することで積層錠を製造できる。さらに、前記2種の薬物含有粉体とは組成が異なる粉体がある場合、これを第3層とし、上記と同様に打錠成形することで積層錠(3層錠)を製造できる。
打錠を行う際は、予圧で打錠した後に、本圧で打錠してもよい。積層錠の場合、第1層を構成する成分を臼に充填し、その上に第2層を構成する成分を充填した後に予圧工程及び本圧工程を順次行ってもよい。また、第1層を構成する成分を臼に充填した後に1度目の予圧工程を行い、次いで第2層を構成する成分を臼に充填した後に必要に応じて2度目の予圧工程を行い、さらに本圧工程を行ってもよい。
【0050】
(コーティング工程)
フィルムコーティング層(Y)を形成する方法としては特に制限されず、公知の方法を採用できる。例えば、(B)成分と溶剤とを含有するコーティング液を素錠(X)に噴霧し、加温により乾燥させることで、素錠(X)の表面にフィルム化させる方法が挙げられる。
【0051】
コーティング液は、(B)成分に加えて任意成分(y)を含んでもよく、特に、任意成分(y)として上述した(C)成分、可塑剤、着色剤を含有することが好ましい。
コーティング液の溶剤としては、例えば水、エタノールなどが挙げられる。溶剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
コーティング液中の溶剤の含有割合は、コーティング液の総質量に対して80~98質量%が好ましく、85~96質量%がより好ましい。
【0052】
コーティング液の噴霧には、コーティング機を用いればよい。コーティング機としては、例えばパンコーティング機などが挙げられる。パンコーティング機としては、例えば、フロイント産業株式会社製の「ハイコーター」、株式会社パウレック製の「パウレックコーター」などが挙げられる。
コーティング液の噴霧及び乾燥は、1回のみでもよく、繰り返し行ってもよい。噴霧及び乾燥を1回のみ行う場合は、所定量のコーティング液を噴霧及び乾燥すればよい。噴霧及び乾燥を繰り返し行う場合は、所定量のコーティング液を所定回数に分けて噴霧し、噴霧と乾燥を繰り返せばよい。
【0053】
<作用効果>
本発明のコーティング錠は、(A)成分を含有する素錠(X)の表面に、(B)成分を含有するフィルムコーティング層(Y)が特定の割合で形成され、素錠(X)が被覆されているので、服用時に(A)成分由来の苦味をマスキングでき、服用性に優れる。
特に、フィルムコーティング層(Y)がヒプロメロースを含有していれば、より優れたマスキング効果が得られる。また、フィルムコーティング層(Y)が(B)成分に加えて(C)成分をさらに含有していれば、コーティング錠服用時の苦味や(B)成分等の被膜形成剤に由来する特異な臭いを抑制でき、服用性がより向上する。
【0054】
また、素錠(X)を被覆するフィルムコーティング層(Y)は、水溶性高分子である(B)成分を含有しているため、素錠(X)が吸湿により膨潤しても追従しやすく、ひび割れが生じにくい。しかも、糖衣錠に比べて製造工程数が少ないため、生産性が高い。
このように、本発明のコーティング錠は、苦味に対するマスキング効果に優れ、生産性にも優れる。
なお、小児用の風邪薬は子供が飲み込むまでに時間を要するが、本発明のコーティング錠であれば長い時間のマスキング効果を発現できる。
【0055】
<使用方法>
本発明のコーティング錠は、小児用(具体的には5歳以上15歳未満)の総合感冒薬として好適である。また、速効性が求められる疾患(頭痛、生理痛等)に対する小児用の鎮痛剤、ビタミン主薬製剤や漢方製剤としても有用である。さらに例えばインフルエンザやワクチン投与時の熱を一時的に下げる目的で服用してもよい。
本発明のコーティング錠は、噛み砕かず、水又は37℃以下のぬるま湯で服用することが好ましい。
本発明のコーティング錠の1回当たり服用量は、小児用薬として服用する場合、例えば、5歳以上7歳未満で2錠、7歳以上11歳未満で3錠、11歳以上15歳未満で4錠が好ましい。また、1日の服用回数は3回が好ましい。ビタミン主薬製剤として服用する場合、例えば、15歳以上で1回当たりの服用量は2錠が好ましく、1日の服用回数は2回が好ましい。漢方製剤として服用する場合は、例えば、15歳以上で1回当たりの服用量は4錠が好ましく、1日の服用回数は2回が好ましい。なお、上記に記載の素錠(X)に含有される各成分の「1回当たりの服用量」及び「1日当たりの服用量」は、コーティング錠を1日3回、1回当たり2錠服用する場合を想定した値である。よって、例えば1回当たり4錠服用する場合は、各成分の「1回当たりの服用量」及び「1日当たりの服用量」は上述した範囲の倍量となる量が好ましい。
本発明のコーティング錠は、咳止めシロップと併用してもよいが、2~3時間ずらして服用することが好ましい。また、一般用医薬品であれば、乗物酔い薬、鼻炎薬等と併用してもよい。
【実施例0056】
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によって限定されるものではない。
実施例及び比較例における使用原料及び評価方法は、以下の通りである。
【0057】
「使用原料」
使用原料として、以下に示す化合物を用いた。以下の「日局」、「薬添規」との記載は、それぞれ日本薬局方規格、医薬品添加物規格に適合した原料であることを意味する。
・アセトアミノフェン:スペラネクサス株式会社製、商品名「アセトアミノフェン」、日局。
・クロルフェニラミンマレイン酸塩:金剛化学株式会社製、商品名「クロルフェニラミンマレイン酸塩」、日局。
・デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物:アルプス薬品工業株式会社製、商品名「デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物」、日局。
・dl-メチルエフェドリン塩酸塩:アルプス薬品工業株式会社製、商品名「dl-メチルエフェドリン塩酸塩」、日局。
・グアヤコールスルホン酸カリウム:スペラネクサス株式会社製、商品名「グアヤコールスルホン酸カリウム」、日局。
・無水カフェイン:株式会社静岡カフェイン工業所製、商品名「無水カフェイン」、日局。
・結晶セルロース:旭化成株式会社製、商品名「セオラス PH-102」、日局。
・ヒドロキシプロピルセルロース:日本曹達株式会社製、商品名「NISSO HPC L」、日局。
・ステアリン酸マグネシウム:太平化学産業株式会社製、商品名「ステアリン酸マグネシウム」、日局。
・ヒプロメロース:信越化学工業株式会社製、商品名「TC-5R」(規格:日局ヒプロメロースの置換度タイプ2910)、日局。
・ポリビニルアルコール(部分けん化物):三菱ケミカル株式会社製、商品名「ゴーセノールEG-05」(けん化度:86.5~89.0%、粘度:4.8~5.8mPa・s)、薬添規。
・ポビドン:BASFジャパン株式会社製、商品名「Kollidon 12PF」、日局。
・マクロゴール6000:三洋化成工場株式会社製、商品名「マクロゴール6000」、日局。
・酸化チタン:堺化学工業株式会社製、商品名「酸化チタン」、日局。
・スクラロース:三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製、商品名「スクラロース(P)」、薬添規。
【0058】
[評価方法]
<苦味マスキング試験>
健常な成人の専門パネラー2人がコーティング錠1錠を口に含み、5秒後に感じた苦味の強さについて、以下に示す評価基準に従い点数をつけ、専門パネラー2人の平均点を算出した。平均点が高いほど、苦味に対するマスキング効果に優れることを意味する。
(評価点)
5点:苦味を感じない。
4点:苦味をやや感じる。
3点:苦味を少し感じる。
2点:苦味をかなり感じる。
1点:苦味を非常に感じる。
【0059】
[実施例1~8、比較例2、3]
<素錠(X)の製造>
アセトアミノフェン2400g、グアヤコールスルホン酸カリウム640gを量り、流動層造粒装置(フロイント産業株式会社製、「SFC-5型」)に仕込んだ後、バインダー液として濃度6質量%のヒドロキシプロピルセルロース水溶液を噴霧しながら給気温度80℃、給気風量2.5m/分にて流動層造粒を行った。ヒドロキシプロピルセルロース液の噴霧量は、流動層造粒装置に仕込んだ粉体の総量100質量部に対してヒドロキシプロピルセルロースの割合が4質量部となる量とした。造粒後、目開き500μmの篩を用いて造粒物を篩過し、造粒物を得た。
得られた造粒物2134.1g、クロルフェニラミンマレイン酸塩12.96g、デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物86.4g、dl-メチルエフェドリン塩酸塩108g、無水カフェイン135gに、結晶セルロース及びステアリン酸マグネシウムを加え、全体を均一に混合し、約4.5kgの薬物含有粉体を得た。
素錠(X)1錠が140mgとなるように、得られた薬物含有粉体を打錠機(株式会社菊水製作所製、「リブラ2」)にて打錠し、素錠(X)を得た。杵臼は、直径7.0mm、曲率半径5.5mmの糖衣R形状を用いた。
素錠(X)に含有される各成分の1錠当たりの含有量を表1、2に記載する。
【0060】
<フィルムコーティング層の形成>
表1、2に示す配合組成に基づき、(B)成分又はポビドンと、(C)成分と、可塑剤と、着色剤とを水に溶解又は分散させ、コーティング液を調製した。
なお、実施例1~3及び比較例2、3についてはコーティング液の固形分濃度が10質量部になるように溶剤(水)の量を調整し、実施例4~8についてはコーティング液の固形分濃度が12質量部になるように溶剤(水)の量を調整した。
表中の空欄はその成分が配合されていないことを示す。
【0061】
<コーティン錠の製造>
素錠(X)約1000gを計量し、コーティング機(フロイント産業株式会社製、「ハイコーターFZ-LABO、30型」)に投入し、給気温度80℃に設定し、素錠(X)100質量部に対するフィルムコーティング層(Y)の割合が表1、2に示す値となるようにコーティング液を噴霧し、素錠(X)の表面にフィルムコーティング層(Y)が形成されたコーティング錠を得た。
得られたコーティング錠について苦味マスキング試験を行い、苦味に対するマスキング効果を評価した。結果を表1、2に示す。
【0062】
[比較例1]
実施例1~8、比較例2、3と同様にして素錠(X)を製造した。
得られた素錠(X)について、苦味マスキング試験を行い、苦味に対するマスキング効果を評価した。結果を表2に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
各実施例で得られたコーティング錠は、苦味に対するマスキング効果に優れていた。
一方、素錠(X)をフィルムコーティング層(Y)で被覆していない比較例1、フィルムコーティング層(Y)の割合が2.9質量部である比較例2、及びフィルムコーティング層(Y)が(B)成分の代わりにポビドンを被膜形成剤(基剤)として含有する比較例3の場合、苦味に対するマスキング効果に劣っていた。